その昔ベンヤミンというオッサンが『複製技術時代の芸術』という本を書いて「複製技術が発達した今日、もはやオリジナル(アウラ)は失われつつある」と喝破したが、今となってはそれも当たり前のことになっていて、音楽や小説、映画などを含めいかに既存のものをサンプリングするかが問われる時代となっている(もちろん、新たな技術の開発により新しい表現方法が生まれることもあるし、またCG技術の発達などによって「レヴェナント」のようにCGを徹底的に使わないことで受け手にとってのアウラの醸成、すなわち強度を獲得する動きが出てきたり、それが無痛文明的なるものの反作用として効果を持ったりすることも付言しておかねばならない)。歴史的に見れば、シェイクスピアの時代などは様々な歴史モノ(自国につけ他国につけ)の引用や改変は普通に行われていて人気役者の演技を揶揄するなどいわゆる「楽屋オチ」も多かったわけで、サンプリングが今日だけの特権的行為ではないのはもちろんだ。しかし、現在が特異なのは情報社会化による利用可能で膨大なアーカイブの存在とサンプリングが技術的に容易になったため敷居が下がってほとんど誰でもできるようになった、という点に違いがある。
ところで漫画のサンプリングに関して言うと、最も容易で効果的なのは「絶対に・・・がしそうにないこと」を書いてギャップを生み出すことである(前段の内容とこの段落の内容に関しても同じことが言えるw)。これによって成功しているのは『北斗の拳 イチゴ味』・『中間管理職 トネガワ』など枚挙に暇がない。もっとも、昔のmad videoや同人作品の隆盛、あるいはニコニコ動画を見れば明らかなように草の根レベルではこのようなサンプリング的感性と作品物は広まっていたのだが、昨今では商業レベルでもそのような需要環境を積極的に利用し始めたということである(まあパチンコとかで元を知らない人がプレイして原作を購入するというシナジーもあったりするわけだから当然か)。その中には著作権の絡むものも散見され、たとえばメジャーどころでは『銀魂』・『浦安鉄筋家族』などの作中ネタが挙げられるが、押切連作の『ハイスコアガール』の休載もあったりとこちらはデリケートな問題を含んでいる(最近ではレッドツェッペリンの盗作問題があったりと、もちろん日本に限った問題ではない。この著作権問題についてはクリエイターの生活にもかかわってくる部分があるので単に心の広い・狭いに還元するのは論外としても、どこまで「コモンズ」として考えるのかが難しいところである)。
そんな中で覇道を驀進中なのが、『ポプテピピック』である。そもそもかわいらしいキャラ(個人の感想です)の脈絡なきキレ芸でもギャップのおもしろさがあるのだが、ここにネタ元のわからないギャグとそれを自明と言わんばかりの共犯関係(これは前者がポプ子、後者がピピ美であることが多い)が加わり、不可思議さと謎のハイテンションが維持される構造となっている(ただし、ご当地三点倒立やリンカーンネタのように却下されるケースもなくはない)。以下二つの例を挙げておこう。
1.セルの敗北ボイス
私は今でもトランクスの「トルネードブレイカー」やベジータの「プラネットバースト」といった各キャラのメテオスマッシュ名がスラスラ出てくるぐらいにハマっていた世代のため瞬時に理解したが、それにしても無言で悟飯のパーフェクト勝利ポーズをぶっ込んでくる所がすごい。
(a)共通前提に基づいたコミュニケーションを誘発する(ことで盛り上がる)
(b)ある程度のワードを入れておくとその気になれば調べられる(ことで知識のアーカイブが拡張される)
(c)二人の奇妙なやり取り(共犯関係)が笑える
(d)(c)があるために、ネタがわからなくても何となく「お、おう」と何か受け入れてしまう
といった効果が想定される。
2.「わからない」が大半のグラフ
最初のグラフは漫画太郎の傑作『超獣ギーガー』と同じで中身は適当だろうが、ここで開き直るor形だけ謝る流れを予測していたら、まさかの「ナワバリバトル」=スプラトゥーンネタを入れてくる始末。完全に斜め上をいくぶっ込ミングだが、まあ冒頭の四コマとも合わせてスタイリッシュ(?)なメタ的開き直りとみるのが妥当であろう。
まあ、分かるが故にニヤリとしてしまったが(笑)
余談になるが、「学怖S」(PS版)を先日発見、一時間悩んだあげく買ってしもうた(^_^;)