MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『サウルの息子』

2016-07-14 00:40:02 | goo映画レビュー

原題:『Saul fia』英題:『Son of Saul
監督:ネメシュ・ラースロー
脚本:ネメシュ・ラースロー/クララ・ロワイエ
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
出演:ルーリグ・ゲーザ/モルナール・レヴェンテ/ウルス・レヒン/クリスティアン・ハルティンク
2015年/ハンガリー

 「息子」の意義について

 冒頭のシーンからいきなりピンボケで、映写技師に文句を言うために立ち上がろうとしたところ向うからやって来た男がカメラ前に立った瞬間にその男の顔にピントが合い、何だそういうことなのかと思ったのも束の間で、そこから、どこからともなく運ばれてくるユダヤ人の屍体処理に従事する特殊部隊であるゾンダーコマンドとして働いている主人公のサウルのアップ画面から漏れてくる背景の怒涛のおぞましいシーンが展開されていく。
 サウルはたまたまガス室で生き残った少年を見かける。間もなくして少年は亡くなるのであるが、まるで自分の息子を扱うようにサウルは解剖される寸前にユダヤ人の囚人医師ミクローシュからその少年の遺体を譲り受け、同胞たちが収容所からの脱出を綿密に企てていることをよそに少年をユダヤ式の礼拝で手厚く埋葬しようとユダヤ教の聖職者であるラビ探しを始める。
 ラビ探しに熱心なあまり、脱出計画の方がおざなりになってしまい、女性収容所でサウルと昵懇の女性であるエラから密かに入手した火薬を自分の着ている服に隠して持って帰るところまではよかったが、ラビと思われる男性に自分の服を着せて収容所に連れ込んだ際に火薬が入った布袋を失くしてしまうのである。
 それでも時間切れとなって囚人たちが反乱を起こすと、サウルも少年の遺体を抱えてラビと自称していたブラウンと一緒に収容所から逃げ出す。追っ手から逃れて、遺体を埋葬しようと川岸で墓穴を掘ろうとするのであるが、ブラウンはユダヤ教の礼拝であるカッディーシュを暗唱できなかった。そのうち仲間たちと共に追っ手が近づいてきたため、ブラウンが逃げ出し、サウルも遺体を抱えて河に飛び込むのであるが、サウルが抱える遺体は流されてしまい、サウル自身も溺れかけたところをブラウンに救われる。河を渉り切った者たちが森の中の納屋に隠れるのであるが、そこでサウルは見知らぬ少年を見かける。少年が走り去った後に、その納屋は追って来た親衛隊によって襲撃されるのである。
 サウルが何を目指していたのか勘案するならば、もはや殺されることが分かっている者たちが自分たちがいかにして生き残るか考える中、サウルはそれでも「疑似家族」を装い、最後までユダヤ人としての「父親」の義務を果たすことで、生きる意味を見いだしのである。だからサウルが「ラビ」のブラウンに救われたことも、ガス室で死んだはずの「少年」が生きていて自分の目の前に現れたこともサウルにとっては恩恵だったはずで、サウル一人は最後に笑顔で殺されるのである。


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