MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ファントム・スレッド』

2018-06-09 20:49:08 | goo映画レビュー

原題:『Phantom Thread』
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ポール・トーマス・アンダーソン/マイケル・バウマン
出演:ダニエル・デイ=ルイス/ヴィッキー・クリープス/レスリー・マンヴィル/ブライアン・グリーソン
2017年/アメリカ

タイトルの解釈の仕方について

 最初にタイトルの意味について以下の文章を引用してみる。

「もとより、本作の題名である『ファントム・スレッド phantom thread』とは、映画のプレス資料によれば、ヴィクトリア時代、王侯貴族の服を作るために過酷な長時間労働を強いられていたお針子たちが就業後も『幻の糸(ファントム・スレッド)』を縫い続けていたことに由来し、転じて本作では『見えない力』という含意もこめられているという。この『見えない力』にはレイノルズを惑わすアルマの性的魅力や、彼女が用いるキノコの毒など、多義的な意味を読みこむことが可能だろう。しかし、本作の物語をたどっていけば、『亡霊の糸』とも読めるこの言葉は、むしろ『レイノルズの母』の隠喩として理解するほうがはるかに適切だ。レイノルズは物語をつうじてこの母という糸で紡がれた想像的な繭のなかでナルシシスティックに丸まっている。」(『新潮』2018年7月号 渡邉大輔 「享楽せよ、と仕立て屋はいう 『ファントム・スレッド』小論」 p.186-p.187)

 上記の小論に文句を言うつもりはないのだが、「ファントム・スレッド」を「レイノルズの母」の隠喩と解釈するならば、小論にあるようにラカン派精神分析や『レベッカ』『断崖』『めまい』『汚名』などのヒッチコック作品を持ち出さなければならなくなり、とかく文芸誌にありがちないつもの面倒くさい分析に終始してしまいがちである。だから結局、本作で観客が観ていたものとはオートクチュールのファッションデザイナーである主人公のレイノルズ・ウッドコックと彼がレストランで見初めたウェイトレスのアルマの痴話喧嘩で、まさに「ファントム・スレッド」というタイトル通り(「錯覚の人間の寿命」という意味)にレイノルズに死を意識させることで痴話喧嘩をスリリングに描くポール・トーマス・アンダーソン監督の手腕を見るべきだと思うのである。
 本作にも文句を言うつもりはないのではあるが、レイノルズ・ウッドコックを演じたダニエル・デイ=ルイスは監督の直々の指名とあって貫禄を見せるものの、アルマを演じたヴィッキー・クリープスが一流のファッションデザイナーが夢中になるほどの美人とは個人的にはどうしても思えない。


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