原題:『海峡』 英題:『The Longest Tunnel』
監督:森谷司郎
脚本:森谷司郎/井手俊郎
撮影:木村大作
出演:高倉健/三浦友和/森繁久彌/吉永小百合/大谷直子/伊佐山ひろ子
1982年/日本
赤いマフラーの謎
本作は1961年(昭和36年)から着工された北海道函館市と青森県青森市を結ぶ青函トンネル建設に関わった人々を巡る物語であり、主人公である鉄道員の阿久津剛を演じる高倉健と、陰ながら阿久津を慕う牧村多恵を演じた吉永小百合の共演も話題になったのであるが、物語はあくまでも青函トンネル建設がメインである。しかし赤いマフラーを巡る奇妙な恋愛の物語は指摘しておきたいと思う。
岸壁から身を投げようとしていた牧村多恵は偶然に現場に通りかかった阿久津剛に助けられ、近所の飲み屋の女将おれんの手伝いをするようになる。ある日、多恵は赤い手編みのマフラーを阿久津にプレゼントする(写真左)。それは昭和32年2月頃だと思われる。
物語は進み、昭和46年4月頃に、阿久津の妻の佳代子が単身赴任先の夫の住居を訪れた際に、掃除をしている多恵と遭遇する。佳代子はカバンからおもむろに箱を取り出すと、お土産として多恵に渡すのであるが、家に戻って箱を開けてみると何と赤いマフラーだったのである(写真右)。「高そうなマフラーだね」と言っているおれんはともかく、赤いマフラーを見て驚く様子を見せない多恵に私は驚いた。もちろんマフラーそのものは違うであろうし、14年という年月が経っているとはいえ、かつて自分が阿久津に渡した「赤いマフラー」が彼の妻を経由して自分の手元に戻ってきたことに何故驚きを見せないのか不思議でならない。少なくとも佳代子を演じている大谷直子には何らかの企みがあるように見えるし、脚本を担っている井手俊郎にも何らかの考えがあったと思うのだが、演出に反映されることはなく、本作のサブストーリーが盛り上がらない原因がここにあるような気がするのである。