我社には10匹近い猫が出入りしている。俺がエサをあげている内に居ついてしまったのだ。
中でも最も古株のアルポリ。コイツは指一本触らせてくれないクセに、最も我社に居る時間が長く、また過去に3回も社内で子供を産んでいる。
俺がいくらネコ好きとは言え、会社が野良猫の巣窟と化してしまうのは宜しくない。ここのところヤツらの行動は目に余る物があり、ニャーニャーと啼いてメシを強請り、食い散らかした挙句に(3kgのキャットフードを、下手すりゃ3日で平らげてしまう)、社内にマーキングしてから立ち去りやがる。
これだけの数のネコがいると、必然的にカップルが誕生してしまう。流石に身の危険を感じた俺は、数ヶ月前からエサの量をセーブしていた。
それにしてもアルポリの腹がヤケにデカい様な・・・? 加えて行動パターンがオカシイ。
数日前から幻聴か? か細い声でミャーミャー言っているのが聞こえる気がする。聞こえる度に声のする方へ行って確かめるのだが、特に変わった事も無い。
アルポリの腹がスッキリと萎んでいる。イヤ、腹がデカく見えたのは幻だったのか・・・?
今日、用足しにトイレに入ると、ミャーミャーと確かに聞こえる。
何処から????
耳を澄ますと、その声は有り得ない所から聞こえてきているのであった。
壁の中。
もしや・・・?とトイレの天井裏を確認すると、ウワアッ!!!、目付きの悪いアルポリがチビを抱えつつ、俺を睨んで唸ってやがる。4回目の出産だ。
そして壁の中からの声、スレート蕗の社屋の壁の僅か5cmほどの隙間へ転落してしまい、SOSを送る一匹のチビの悲痛の叫びなのであった。
当のアルポリ、救出は不可能と判断してか転落した子猫の声に動じる様子も無い。以前も彼女の子供が我社の壁の隙間から転落し、6時間も掛けて救出した事があった。
仕方ない、また助けてやるか・・・。
プラスターボードを引き剥がしてみると、もう一枚ボードがある。ドリル等の電動工具を駆使して貫通、懐中電灯で照らしつつ覗き込むと・・・いた。
未だ目が見えない程のチビ。1mほど入った位置なので手も届かない。棒を突っ込んだり腕を入れてみたりしたが、チビは一番奥の方に行ってしまい、何ともならない。ロープを突っ込んでみた。
産まれたばかりの子猫は爪を引っ込める事が出来ないので、ロープに爪を立ててくれないかと思ったのだ。
粘る事一時間・・・。遂に彼はロープに爪を掛けてくれた。ズルズルと引っ張り出す事に成功!
片手に乗ってしまう程に小さい彼は、アルポリの元へ返してやった。アルポリは先ほどにも増して酷い目つきで俺を睨みやがる。オイ、助けてやったんだぞ。それなのにその目付きは無いだろう?
誰か子猫いりませんかー?