10月28日正午、北京・天安門前に車両が突っ込み炎上した。当初日本のTV報道では、「事故か事件かは定かではない」といつものように「中国筋」に遠慮するかのような報道をしていたが、天安門に登ったことのある人ならば、あのような場所で交通事故が起きて車両が炎上することなどおよそ考えられないだろう。
Mixiには直ちに「その車は新彊(ウイグル)か西蔵(チベット)ナンバーではないか」という書き込みが見受けられた。
時間が経つにつれて、新彊ウイグル自治区における東トルキスタン(ウイグル)独立運動に関わる事件であることが明らかになった。
そもそも、中国当局が喧伝する「ひとつの中国」とは、歴史的に見ればごく最近つくりあげられた概念に過ぎない。清朝の「大清帝国」は、漢族ではなく満洲族の王朝だった。その支配原理は「華夷秩序」であり「朝貢体制」とよばれるものであった。そこには皇帝による「天下」の支配があるだけで、「中国」という概念さえ形成されていなかった。1912年、辛亥革命に伴うナショナリズムの昂揚によって「中華民族」「ひとつの中国」という概念が作られ、「大清帝国」における最大版図を「中華民国」が引き継いだのだという、歴史上最大の詐欺行為=歴史認識の改竄が行われた。
このことについては、平野聡氏(東京大学準教授・アジア政治外交史)が『清帝国とチベット問題――多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会, 2004年)で詳しく触れられている。
また、平野氏は、「中国が中国ある限り真の民主化はありえない」(「Wedge」2012年2月)という論文で、中国における漢族と少数民族の問題について言及している。
『そもそも漢字文化を共有しない少数民族にとって「中国」という文字が発する価値自体が不明である以上、「漢字文明の偉大さや先進性」なるものとともに立ち現れ自らを圧迫する「中国」に従う理由などない。モンゴルやチベットが清に従っていたのは、満州人皇帝が草原世界共通の信仰であるチベット仏教のパトロンであったからであり、東トルキスタンのトルコ系ムスリムが清の領域に組み込まれたのは、この地を支配していたモンゴル系の王国ジュンガルが清に滅ぼされ、満州人皇帝はイスラーム信仰を認めたからである。だからこそ辛亥革命による清の崩壊以後モンゴルは独立に走り、チベットや東トルキスタンも独立しようとして失敗したのである。辛亥革命が近現代中国の一大慶事であるなどという議論は、清から受け継いだ領域の安定的維持という立場からすれば著しい誤謬であり、むしろ昨年の辛亥革命100周年は清の崩壊による領域不安定化100周年として記憶されるべきである。』
平野氏が東京大学法学部の「アジア政治外交史」でこのように講じられているのは、心強い限りである。何故なら、東大法学部の講義は、日本の学界のスタンダードとされていて、政府や政治家にも大きな影響力を有するからである。
「ひとつの中国」に何ら疑問を呈さない日本のマスメディアを見るにつけ、マスメディアや経済界の「エリート」達は、次の結語をかみしめるべきだと思うのだが…。
『…諸外国の経済的な対中国関与、そしてそれを加速させた「チャイナ・ファンタジー」、すなわち「経済発展による社会の開放こそ、中国が西側と同じ価値観を共有するに至る最良の道である」という、中国ナショナリズムの過激な信念を正面から捉えようとしない甘美な思いこみこそ、過去20年来の中国の経済発展を加速させ、中共が動かしうる政治資源を圧倒的なものにし、人々を抑圧する構造を固定化したからである。』
つまるところ、われわれの中国に対する幻想が中共(=中国共産党)の少数民族弾圧政策を助長してきた。このことこそが天安門車両炎上事件の真因なのだ。
「漢字文化を共有」する日本人は、今こそ中国の本質とは何か考えるべきなのだろう。
ウイグル族の関与浮上 中国外務省は「調査中」 天安門の車両突入事件
2013.10.29 22:01 [中国]
29日、北京市内の天安門近くを警備する武装警察隊員ら(AP)
【北京=川越一】5人が死亡、38人が負傷した天安門前の車両突入事件で、北京の公安当局は少なくとも2人のウイグル族の男性が事件に関与したとみて捜査している。中国メディアによると、公安当局は事件が起きた28日夜に通達を発し、北京市内の宿泊施設を今月1日以降に訪れた「不審な客」や「不審な車両」に関する情報提供を求めた。
通達は、民族対立を抱える新疆ウイグル自治区のグマ県とピチャン県に戸籍をもつウイグル族2人を、事件の「容疑者」として名指ししている。また、淡い色の四駆車と4種類の新疆ナンバーについて、事件に関与したとの見方を示している。
在米の情報サイトによれば、この2人は現場の車内で死亡しており、公安当局は車内で死亡した残る1人の身元確認を進めているもようだ。車に乗っていた人物が「旗のような物を振っていた」とも伝えられており、何らかの政治的要求を示すための計画的犯行だった可能性も否定できない。
中国外務省の華春瑩報道官は29日の定例会見で、事件について「調査中」と述べる一方、新疆ウイグル自治区で頻発している暴力事件には「断固反対し、打撃を加える」と強調した。
また、中国国営新華社通信によると、中国共産党は29日、中央政治局会議を開き、第18期中央委員会第3回総会(3中総会)を北京で11月9~12日の4日間の日程で開催することを決めた。車両突入事件をふまえ、公安当局は3中総会に向けて警備を一段と強化する可能性がある。
中国当局、NHK国際放送の視聴を制限 突然真っ黒に
2013.10.29 13:04 [中国]
車両が炎上し、封鎖された天安門前で警戒する警察官=28日、北京(共同)
【北京=川越一】北京市内で受信しているNHK国際放送が、29日午前11時(日本時間正午)のニュースで、28日に天安門前で起きた車両炎上事件をトップニュースで報じようとしたところ、突然、テレビ画面が真っ黒になり、視聴が制限された。
中国当局は人権問題など敏感な問題に関する報道について、時折、同様の措置を取ることで知られている。ウイグル族の事件への関与が取り沙汰される中、当局が中国国内で情報が広がることに神経を尖らせていることがうかがえる。
Mixiには直ちに「その車は新彊(ウイグル)か西蔵(チベット)ナンバーではないか」という書き込みが見受けられた。
時間が経つにつれて、新彊ウイグル自治区における東トルキスタン(ウイグル)独立運動に関わる事件であることが明らかになった。
そもそも、中国当局が喧伝する「ひとつの中国」とは、歴史的に見ればごく最近つくりあげられた概念に過ぎない。清朝の「大清帝国」は、漢族ではなく満洲族の王朝だった。その支配原理は「華夷秩序」であり「朝貢体制」とよばれるものであった。そこには皇帝による「天下」の支配があるだけで、「中国」という概念さえ形成されていなかった。1912年、辛亥革命に伴うナショナリズムの昂揚によって「中華民族」「ひとつの中国」という概念が作られ、「大清帝国」における最大版図を「中華民国」が引き継いだのだという、歴史上最大の詐欺行為=歴史認識の改竄が行われた。
このことについては、平野聡氏(東京大学準教授・アジア政治外交史)が『清帝国とチベット問題――多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会, 2004年)で詳しく触れられている。
また、平野氏は、「中国が中国ある限り真の民主化はありえない」(「Wedge」2012年2月)という論文で、中国における漢族と少数民族の問題について言及している。
『そもそも漢字文化を共有しない少数民族にとって「中国」という文字が発する価値自体が不明である以上、「漢字文明の偉大さや先進性」なるものとともに立ち現れ自らを圧迫する「中国」に従う理由などない。モンゴルやチベットが清に従っていたのは、満州人皇帝が草原世界共通の信仰であるチベット仏教のパトロンであったからであり、東トルキスタンのトルコ系ムスリムが清の領域に組み込まれたのは、この地を支配していたモンゴル系の王国ジュンガルが清に滅ぼされ、満州人皇帝はイスラーム信仰を認めたからである。だからこそ辛亥革命による清の崩壊以後モンゴルは独立に走り、チベットや東トルキスタンも独立しようとして失敗したのである。辛亥革命が近現代中国の一大慶事であるなどという議論は、清から受け継いだ領域の安定的維持という立場からすれば著しい誤謬であり、むしろ昨年の辛亥革命100周年は清の崩壊による領域不安定化100周年として記憶されるべきである。』
平野氏が東京大学法学部の「アジア政治外交史」でこのように講じられているのは、心強い限りである。何故なら、東大法学部の講義は、日本の学界のスタンダードとされていて、政府や政治家にも大きな影響力を有するからである。
「ひとつの中国」に何ら疑問を呈さない日本のマスメディアを見るにつけ、マスメディアや経済界の「エリート」達は、次の結語をかみしめるべきだと思うのだが…。
『…諸外国の経済的な対中国関与、そしてそれを加速させた「チャイナ・ファンタジー」、すなわち「経済発展による社会の開放こそ、中国が西側と同じ価値観を共有するに至る最良の道である」という、中国ナショナリズムの過激な信念を正面から捉えようとしない甘美な思いこみこそ、過去20年来の中国の経済発展を加速させ、中共が動かしうる政治資源を圧倒的なものにし、人々を抑圧する構造を固定化したからである。』
つまるところ、われわれの中国に対する幻想が中共(=中国共産党)の少数民族弾圧政策を助長してきた。このことこそが天安門車両炎上事件の真因なのだ。
「漢字文化を共有」する日本人は、今こそ中国の本質とは何か考えるべきなのだろう。
ウイグル族の関与浮上 中国外務省は「調査中」 天安門の車両突入事件
2013.10.29 22:01 [中国]
29日、北京市内の天安門近くを警備する武装警察隊員ら(AP)
【北京=川越一】5人が死亡、38人が負傷した天安門前の車両突入事件で、北京の公安当局は少なくとも2人のウイグル族の男性が事件に関与したとみて捜査している。中国メディアによると、公安当局は事件が起きた28日夜に通達を発し、北京市内の宿泊施設を今月1日以降に訪れた「不審な客」や「不審な車両」に関する情報提供を求めた。
通達は、民族対立を抱える新疆ウイグル自治区のグマ県とピチャン県に戸籍をもつウイグル族2人を、事件の「容疑者」として名指ししている。また、淡い色の四駆車と4種類の新疆ナンバーについて、事件に関与したとの見方を示している。
在米の情報サイトによれば、この2人は現場の車内で死亡しており、公安当局は車内で死亡した残る1人の身元確認を進めているもようだ。車に乗っていた人物が「旗のような物を振っていた」とも伝えられており、何らかの政治的要求を示すための計画的犯行だった可能性も否定できない。
中国外務省の華春瑩報道官は29日の定例会見で、事件について「調査中」と述べる一方、新疆ウイグル自治区で頻発している暴力事件には「断固反対し、打撃を加える」と強調した。
また、中国国営新華社通信によると、中国共産党は29日、中央政治局会議を開き、第18期中央委員会第3回総会(3中総会)を北京で11月9~12日の4日間の日程で開催することを決めた。車両突入事件をふまえ、公安当局は3中総会に向けて警備を一段と強化する可能性がある。
中国当局、NHK国際放送の視聴を制限 突然真っ黒に
2013.10.29 13:04 [中国]
車両が炎上し、封鎖された天安門前で警戒する警察官=28日、北京(共同)
【北京=川越一】北京市内で受信しているNHK国際放送が、29日午前11時(日本時間正午)のニュースで、28日に天安門前で起きた車両炎上事件をトップニュースで報じようとしたところ、突然、テレビ画面が真っ黒になり、視聴が制限された。
中国当局は人権問題など敏感な問題に関する報道について、時折、同様の措置を取ることで知られている。ウイグル族の事件への関与が取り沙汰される中、当局が中国国内で情報が広がることに神経を尖らせていることがうかがえる。