社殿を出るとき、いくつかの折鶴を手渡された。
「祝福のシャワーに使ってください。」
外は青空。
穏やかな秋日和。
社の前には赤い絨毯。
その上に立つ和の装いの二人。
一人は、羽織・袴の男性。
もう一人は、白無垢の衣装に身をくるんだ女性。
微笑みながら、寄り添いながら。
若い二人が赤い絨毯の上を歩き出す。
その歩みは、今日から始まる人生を示す。
両側に並んだ人々は、歩く二人の幸福を願い、頭上の青空に折鶴を飛ばす。
美しい和紙でていねいに折られた折鶴のシャワーを降らす。
「おめでとう。」「おめでとう。」
祝いの言葉と共に…。
折鶴。
そのもつ意味の大きな違いに、思わずほろりと涙がこぼれた。
折鶴は、毎日見ている。
娘の病室で。
―千羽鶴。
毎日娘の目にふれているはずだが、何度説明したことだろう。
大きな束は、たくさんの人が折ってくれた鶴たち。
娘が前の職場で一緒に勤めていた人たちが折ってくれたもの。
その人たちの家族までが協力してくれた折鶴もある。
もう一つの束がある。
それよりは小さな束だが、やはり前の職場で一緒だった人が、丹念に一つ一つきっちりと折ってくれたもの。
…少し前までは、繰り返し説明しても、その翌日にはそれを忘れてしまっていた娘だった。
病室の折鶴たちは、一つ一つがつながれてたくさん集まって、娘の病状の回復を願って作られたもの。
神社で用意された折鶴たちは、一つ一つが解き放たれてまかれ、祝福の気持ちを高めるために作られたもの。
どちらも、幸福への願いを込めて折られたものであるけれど、その持つ意味合いの明るさの違いが、私の気持ちを少し切なくさせていた。
「縁起物の折鶴ですから、皆さん、どうぞお持ちください。」
境内に放送の声が流れた。
でも、私はまかれた折鶴を、すぐ素直に拾う気にはなれなかった。
つながれた病室から、いつか青空のもとへ―。
そう思い直した私は、2羽の折鶴を拾った。
一つは、娘の好きな紫色でできている折鶴を。
これは、娘の回復を願って。
もう一つは、そのすぐ側で支えるように落ちていた折鶴を。
これは、いつも姉を支えようとしてくれている息子の安寧を願って。
「祝福のシャワーに使ってください。」
外は青空。
穏やかな秋日和。
社の前には赤い絨毯。
その上に立つ和の装いの二人。
一人は、羽織・袴の男性。
もう一人は、白無垢の衣装に身をくるんだ女性。
微笑みながら、寄り添いながら。
若い二人が赤い絨毯の上を歩き出す。
その歩みは、今日から始まる人生を示す。
両側に並んだ人々は、歩く二人の幸福を願い、頭上の青空に折鶴を飛ばす。
美しい和紙でていねいに折られた折鶴のシャワーを降らす。
「おめでとう。」「おめでとう。」
祝いの言葉と共に…。
折鶴。
そのもつ意味の大きな違いに、思わずほろりと涙がこぼれた。
折鶴は、毎日見ている。
娘の病室で。
―千羽鶴。
毎日娘の目にふれているはずだが、何度説明したことだろう。
大きな束は、たくさんの人が折ってくれた鶴たち。
娘が前の職場で一緒に勤めていた人たちが折ってくれたもの。
その人たちの家族までが協力してくれた折鶴もある。
もう一つの束がある。
それよりは小さな束だが、やはり前の職場で一緒だった人が、丹念に一つ一つきっちりと折ってくれたもの。
…少し前までは、繰り返し説明しても、その翌日にはそれを忘れてしまっていた娘だった。
病室の折鶴たちは、一つ一つがつながれてたくさん集まって、娘の病状の回復を願って作られたもの。
神社で用意された折鶴たちは、一つ一つが解き放たれてまかれ、祝福の気持ちを高めるために作られたもの。
どちらも、幸福への願いを込めて折られたものであるけれど、その持つ意味合いの明るさの違いが、私の気持ちを少し切なくさせていた。
「縁起物の折鶴ですから、皆さん、どうぞお持ちください。」
境内に放送の声が流れた。
でも、私はまかれた折鶴を、すぐ素直に拾う気にはなれなかった。
つながれた病室から、いつか青空のもとへ―。
そう思い直した私は、2羽の折鶴を拾った。
一つは、娘の好きな紫色でできている折鶴を。
これは、娘の回復を願って。
もう一つは、そのすぐ側で支えるように落ちていた折鶴を。
これは、いつも姉を支えようとしてくれている息子の安寧を願って。