ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「下町ロケット」(池井戸潤著;小学館)を読む

2021-01-14 21:33:56 | 読む


池井戸潤氏の小説は、どれも主人公がピンチに陥るのだが、「思い」をもった主人公が、苦難に負けずに乗り越えていくというものが多い。
その生き様は、いつも痛快だ。
第145回直木賞の受賞作となったこの「下町ロケット」も、まさにそういうものだった。
映像化もされているし、シリーズ化もされているのだが、少々ひねくれたところのある私、話題になっているときはすぐに飛びつかないで、時間をおいてから近づいていく、ということが結構多い。
そんなわけで、同書を今回初めてまともに読んでみた。

中小企業である町工場の社長を引き継いだ主人公が、様々な困難に遭遇する。
取引していた上場企業から突然の取引中止を申し渡されて困る。
そんなときに、競合する企業から特許権を巡って訴えられてしまう。
そして、ロケットの部品をめぐって、大手企業から特許権の売却を求められる。
こんな様々な問題に、思いのある主人公の言動に共鳴する人々と共に立ち向かい、乗り越えていく。

主人公には、過去にロケット開発研究で失敗した責任をとらされてその仕事をやめ、父親の経営していた町工場を継ぐことになった、という経歴があった。
しかし、心の中で宇宙にかける夢をあきらめないで技術開発に取り組んでいた。
そのことが、大手企業に先んじてロケットのエンジンに使う部品の特許を取ることにつながっていた。

主人公の会社に対して訴訟を起こしたライバル企業も、訴訟に特許権の売却を求める大手企業も、あの手この手で、揺るがそうとする。
主人公も悩んだり反省したり自信がもてなかったりする。
家庭的にもバツイチだし、娘からはそっけなくされている仕事人間だった。
だが、基本的に誠実で、完全に自分の夢を追うことだけでなく、他者のよいところや痛みにも目を向けているから、人がついてくる。

彼が、大手企業の提案をけると、自分の生活を安定させたい社員たちの反感を買って、窮地にも追い込まれ場面もある。
だが、大手企業の人間たちや自分の会社の若い人たちの思いまで丁寧に書かれてある。
だから、邪悪な思いを抱いて行動しているように見える人たちも多く登場する。

ストーリーが進むうちに、大切なのは、やはり人の思いなのだ、と思う。
その思いが一緒になったときに、すばらしい力が発揮されて、窮地を脱することにつながる。人々が求め期待する筋書きが展開される。
しかも、読み手が考えていたよりも現実的で深みのある話が展開するから、面白い。

夢は捨てない。
希望を持ち続ける。
人を信じる。

…そんなことを大事にして生きていきたいものだと思わせる小説であった。
いつも痛快な池井戸氏の本。
この本も、やはり読んでたっぷり元気をいただいた。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする