図書館で、特になんということもなく本棚を見て回っていた。
ずらりとならんだ背表紙を見ていたら、1冊の本が目に留まった。
手書きのような、あまり上手ではない文字で書名が書いてあった。
「万引き家族 是枝裕和」とある。
「万引き家族」は、2018年カンヌ映画祭で、最高賞のパルム・ドールを受賞した映画の題名だ。
本書は、同年ほとんど同じ時期に出版されていた。
あまりうまくはない題字。
そして、6個の丸いものがデザインされた表紙。
カンヌ映画祭最高賞受賞作品の小説化。
そんなことに目を引かれて、借りてきて読んだ。
話題になった映画だが、私はその映画をまだ見たことがない。
だから、まっさらな心で、本書を読んだ。
血のつながりのない6人が家族として暮らす。
家に入る収入も少なく、「祖母」の年金が最も安定した収入だった。
「父」と「息子」の2人は、スーパーや駄菓子屋で万引きをして生計を立てていた。
その2人がそこに、家庭内DVで家から閉め出されている少女を連れて帰り、物語が進んでいく。
「母」は驚くが、少女の家庭事情を案じ、一緒に「家族」として暮らすことにする。
6人家族として幸せに暮らすようになるが、その幸せは長くは続かなかった。
ある出来事によって、彼らの抱える「秘密」が明らかになっていく。
血がつながっている家族と暮らすことこそが幸せと疑わない、警察関係者たちの取り調べシーンが出てくる。
その考えに対する違和感がわき起こって来る。
血のつながらない家族だけれど、家族の成員の誰もが安心して暮らせることが、本当の一人一人の幸せなのではないか、と。
映画監督であり、著者である是枝氏は、映画と小説があることについて、
「映画→小説→そして再び映画を観る、がベストだと思います。」
「本当はね、たぶん一度目で観ただけでは気づかないことに(小説で)気づいてもらって、2度目を観ていただくのがいいんじゃないかと思います。」
と述べていたようだ。
すでに小説を先に読んでしまった私には、それはできないけれども、ぜひ映画も見てみたいと思わせてくれた。
表紙や背表紙の題字は、著者である映画監督の是枝氏が書いたものだと思ったら、違っていた。
画家で絵本作家のミロコマチコ氏によるものだった。
読後、表紙の6つの丸は、万引き家族の成員6名を意味するのだろうと思うようになったが、正解だった。
さらに、6個は、それが本の中に出てくるビー玉のことだと気付いたのはずいぶん後のことだ。
しかも、よく見てみると、この話は第6章まであるのだが、各章の扉ページにもビー玉の絵は描いてあった。
第1章6個、第2章2個、第3章2個、第4章6個、第5章5個、第6章2個。
これは、話の展開にそって、登場する主な人物の数に合わせてのものだったのだ。
凝っている。
最終章の展開は、いかにも映画だと思わせるようなシーンだと思いながら、読み終えたのだった。