「シャングリラ」という言葉やその意味を初めて知ったのは、私が社会人になった年。
1985年に出された吉田拓郎のアルバム名「Shangri-La」からだった。
「理想郷」という意味だったが、購入したそのアルバムには「あの娘といい気分」とか「いつか夜の雨が」とかの曲があった。
だけど、「シャングリラ」の意味するものが伝わってこないなあ、と思ったのを覚えている。
このたびは、その「シャングリラ」の言葉を含む本を、図書館から借りて読んでみた。
凪良ゆうの「滅びの前のシャングリラ」だ。
2020年の本屋大賞を「流浪の月」で獲得した翌年に発行され、この作品は、2021年本屋大賞第7位となっている。
今回この凪良ゆう氏の作品を借りてみようと思ったのは、図書館で本棚を見たら、その名札の本棚に、彼の作品が置いてなかったからだ。
凪良ゆう氏の本は、図書館に9冊おいてあるはずなのに、棚が空っぽ。
つまり、その著書は、すべて借りられていたということ。
そんなにたくさんの人が氏の本を求めているのか、と思い、機会があれば読んでみたいな、と思った。
そして、なにげなく返却本のコーナーの前を通ったら、この「滅びの前のシャングリラ」を見つけたので、借りて読んでみようと思ったのだった。
中央公論社の本書の紹介では、次のような紹介があった。
「一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する」
突然宣言された「人類滅亡」。
学校でいじめを受ける友樹(ゆうき)、人を殺したヤクザの信士(しんじ)、
恋人から逃げ出した静香(しずか)、そして――
荒廃していく世界の中で、「人生をうまく生きられなかった」四人は、最期の時までをどう過ごすのか。
滅びゆく運命の中で、凪良ゆうが「幸せ」を問う。
『流浪の月』『汝、星のごとく』で
二度の本屋大賞を受賞した著者による 心震わす感動作
読み始めてみると、本書は4つの章に分かれていた。
初めは4つの短編かと思ったが、違っていた。
1か月後、小惑星が地球に衝突する、という滅びのパニックの状況下で、章ごとに中心人物を変えて、ストーリーが進んで行った。
3章目までの3人には、家族というつながりが見つかって話が進んだ。
だが、最後の4章目の山田路子だけはちょっと違っていたが、やはり家族や友人とのつながりが描かれていた。
この作品は、前半を中心に、ちょっと暴力シーンが多かったのだが、置かれている状況を描くためには仕方がないのかな。
ひと月後に小惑星が地球にぶつかって世界が終わる、そう分かって、人々がパニックになる絶望的な状況下で、殺人や暴力が横行する。
そんな中で、高校でいじめられている人物が、好きな子のために身を投げ出しても守ろうとする。
母は、生まれ来る子どものために、暴力を振るう相手から逃げ、何をしても子どもを守ろうと育ててきた。
殺人を犯してしまった人物が、家族とのつながりに心が許せることを見出したり、愛おしさを抱いたりして、荒れて油断のできない日々を、家族を守ろうとする。
「自分は独りではない」と分かることが、どれだけ人間にとって心の支えになることか。
ストーリー全体に流れているのが、「愛」。
それに包まれていることが、登場人物たちにとって「シャングリラ」となっているのだろうなあ。
地球が滅ぶという、どうしようもない直前のことではあるけれども…。
それでも、この作品からは、「シャングリラ」の意味が伝わってきた。
凪良ゆうの小説、他の作品はどんななのだろう?
2020年に本屋大賞を取った「流浪の月」にも関心がわいてきた。
機会があれば、読んでみたいな。