「杉森くんを殺すには」だって。
なんと物騒なタイトルの本だろう。
図書館で陳列された本書は、表紙絵が少し子ども向けの感じがしたが、そのタイトルに引きつけられ、思わず手に取ったのだった。
杉森くんを殺すことにしたわたしは、とりあえずミトさんに報告の電話を入れた。
という文章で話が始まる。
やけにルビがふってあるなと思ったら、これは児童文学だった。
裏表紙の小さい字を見たら、「くもんの児童文学」と書いてあった
しかも、第62回野間児童文芸賞受賞作だったと後で知った。
2023年9月初版の本。
書名から、ちょっとしたミステリーっぽい内容なのかなと思いながら、読み進めていくことにした。
ところが、想像したのと全然違う内容の本だった。
最初、主人公のヒロの電話相手はお姉さんで、杉森くんも男友達で…等々と思っていたのに、その想像は、読み進むほどにどんどん裏切られていった。
話が細かく進んでいくたびに、「杉森くんを殺す理由」がその1からその15まで語られていく。
主人公と杉森くんは、中学まで親友だった。
なのに、それが「よくない方向」に向かっていったから、杉森くんを殺すという穏やかではない方向に流れて行ってしまった。
タイトルからは、まるでいじめにあった子が反撃する話かと思っていたのだが、違っていた。
いなくなってしまった友だちの、残された方の子の話だった。
ネタバレになってしまうので、あまり多くは語らないが、人の死があり、それまでの自分が相手とどんなふうに付き合っていいたのか、どうすればよかったのかなど、考えさせる。
周りが気づいてあげるということがないと助けられないこともある。
多感な時代、悩んだり苦しんだりする人が多いだろうけど、そういう人が近くにいたら、どう助けたらいいのか、ヒントや助言になる内容といえた。
自分が依存してもよい先をたくさん作っておくことが大事だということ。
悩みや不安を分散できるように吐き口をたくさん作っておくこと。
それは、他者への依存ではなく、自立なのだという話には納得できるものがあった。
この話は、子どものことだけでなく、生きづらい現代の大人の社会でも当てはまるだろう。
悩みや不安に耐えきれずに精神的な病気になってしまったり、自傷してしまったりする大人もいるから、当てはめて考えてもよいだろう。
そして、残された人は、相手の自殺を止められず、ある意味自分が殺してしまったのと同然だと考えて悩む場合も多い。
それもすごくよく分かるが、相談される側も負担を大きく持ちすぎず、適切に分散することが大切だということが、この物語から学ぶこともできる。
物騒なタイトルだったが、主人公が救われるようなエンディングでよかったよ。
なお、児童書らしく、本書の巻末には「こまったときの相談先リスト」があり、それらの電話番号等が載っていたことも付記しておく。