小説家の内田康夫氏が亡くなってから久しい。
彼の書いた浅見光彦シリーズは、たぶん全巻読んだと思う。
もう内田氏の作品は読めない。
残念だ。
そう思っていたところ、図書館で、内田氏のまだ読んだことがない本に出合った。
その書名は、『妖しい詩韻』。2007年に角川春樹事務所から出版されていた本であった。
(後で調べてみたら、文庫本でも2010年にハルキ文庫から出されていた。)
あと先考えずに、借りてきた。
あとがきには、こんなことが書かれてあった。
いったい人は、死という絶対的な事実に直面したり、どのように思ったり感じたりするものなのだろうか。
この本の特徴は、そこに焦点を当てた作品である。
さらに、次のようなこともあとがきに書いている。
「死者の独白」を書きたいと思っていた時に、辺見じゅん氏の歌集を贈っていただいた。何気なく鑑賞していて、ふいに触発されるものがあった。かつて萩原朔太郎の「死」という詩を見て、瞬時に巨大なストーリーの心象風景を展望した『「萩原朔太郎」の亡霊』を書いた時と、ほとんど同じような天啓であった。『妖しい詩韻』というタイトルはその瞬間に思いついたものだ。
ちなみにタイトルの『妖しい詩韻』は『妖しいシーン』であり『妖しい死因』でもある。
内田氏は、自分が浅見光彦シリーズなどでたくさん殺人事件を描いている。
その多くの殺人あるいは命がなくなるシーン、登場人物たちがどんな思いで死んでいったかを想像して書かれた短編集であった。
20のシーンが出てくるが、構成はどの話も同じ。
まずは見開き2ページ分の門坂流氏のイラスト。
次のページに辺見じゅん氏の短歌が一首。
そして、5~9ページで1つのシーンの物語が描かれている。
その殺人シーンとなったミステリー作品たちは、
「『熊野古道』殺人事件」「佐渡伝説殺人事件」「朝日殺人事件」「死者の木霊」「平家伝説殺人事件」「風葬の城」「『横山大観』殺人事件」「十三の冥府」「箸墓幻想」「鏡の女」「鳥取雛送り殺人事件」「戸隠伝説殺人事件」「喪われた道」「ユタが愛した探偵」「北国街道殺人事件」「鯨の哭く海」
だとのこと。
数が20に合わないのは、1つのミステリーから2つのシーンを書いたものもあるからだという。
その作品たちは、すべて読んだことがあるが、大半は一度しか読んでいないのであらすじも忘れてしまったから、各シーンがどの殺人事件のシーンなのかなどは、とても考えつかなかった。
だけど、熱烈な内田康夫ファン、浅見光彦ファンなら、
「シーン1は、『ユタが愛した探偵』のシーンだ」
などと当てることができるのかもしれない。
ただねえ、私には、やはり殺人シーンや人が死ぬシーンの話ばかりだから、おどろおどろしくて、あまり気持ちのいい作品ではなかったな。
まあ、男女の話だと多少エロスもからんだりしていたけど、薄気味悪くて、もう一度読みたいとは思わなかったなあ。
ほかの人にはお勧めしようとは思わない作品であった。(ここで紹介しているくせに…。)
でも、内田氏には、冒険的な凝った作品だったのだろうな、これは。