『松下幸之助さんは、どんな人の話でも心から「ほう、そうですか」とうなずいて耳を傾ける方でしたが、年を重ねた豊かな経験の上に、心の伸びやかさ、柔らかさを具えた人を見ると、惚れぼれとさせられます。
お釈迦さまが托鉢の途中、ある農耕バラモンの家の前に立つと、主のバラモンが「私は田を耕し、種をまいて食を得ている。あなたも田を耕し種をまいて、食を得たらどうか」と言います。すると、お釈迦さまは「私も耕し、種をまいて食を得ている」と答えられます。バラモンは、「だが、わしらはあなたが田を耕し、種をまいているのを見たことがない」と、さらに言いつのりますが、それに対してお釈迦さまは、「私は人の心を耕し、信という種をまいている」と答えられるのです。
私たちにとっていちばん大事なのは、いつも心を耕し続けていることなのですね。すると、いつも柔らかな心で、まわりを受け入れることができます。人の話に素直に耳を傾けられるようになります。それで自然に人が集まってきてくれるのです。
聞き上手こそ人間関係づくりの決め手といいますが、とりわけ熟年を迎えた人にとって、心の柔らかさは宝物です。』
庭野日敬著『開祖随感』より