昨秋に亡くなった十代目柳家小三治が得意にしてゐたと云ふ、「小言念佛」の収録されたCDが手に入る。
「小言念佛」は、かつて故人四代目三遊亭小圓朝師が三鷹で定期的に行なってゐた独演會で初めて聴いて好きになった噺で、
その後三代目三遊亭金馬や上方の三代目桂文我──上方では「所帯念佛」──の口演を古い録音で耳にしてゐるが、やはり初めて聴いた小圓朝師の口演のはうが好きだ。
ところが、このたび手に入れた小三治の録音を聴いてゐて、雰囲氣がなんとなく小圓朝師に似てゐる……、と感じたも道理なれ。
三代目小圓朝一門だった三遊亭圓之助の子息にあたる小圓朝師は、始めは柳家小三治一門の前座だったのだ。
その後一度は噺家修行から離れるが、父の弟弟子だった三遊亭圓橘に再入門して一から修行をやり直し、大看板三遊亭小圓朝の四代目となる。
ふとしたきっかけで、ある催しにゲスト出演した小圓朝師の「王子の狐」を聴いていっぺんにファンになり、その頃先行きのぼんやりとした生活に陥ってゐた私に、やうやくひとつの樂しみが出来たものだった。
「小言念佛」について、小圓朝師の脳裏にこの噺を得意にしてゐたと云ふ小三治のことがあったかどうかは、いまや確かめやうもない。
が、あまりに早い逝去もあって市販録音が無い四代目三遊亭小圓朝師の藝を偲ぶよすがを手に入れたことは、いまも早逝を惜しむ者として、嬉しい御縁だ。