渋谷区神南あたりで、鶯の聲が聞こえた。
「おや?」と空を見上げると、
つづけて、
二聲、
三聲。
私の住む町でも、鶯の聲をよく聞く。
今年に入ってから、どこやらの土方が朝から侵(はひ)り込んで近隣の樹木を伐り倒し、更地にして行ったので、毎年囀る鶯たちやいかに、と心配になったが、今年も朝方に聲が聞こえて、やれ嬉しや、と安心したものだ。
野鳥とは無縁さうな街でその聲が聞けると、まだまだ捨てたもんじゃないぞ、と暖かい気持ちになる。
手猿楽に使へさうなものを見つけに時折のぞくお店で、学生らしき若い男女が、ケラケラと楽しさうに、古着の着物を探してゐた。
やがて二人は袴を二枚持って、会計に向かった。
お店の女性は珍しい年代のお客に、踊りの衣裳にするのかと訊ねた。
若い二人は相変わらずケラケラと楽しさうに、時代劇の衣裳です、と答へた。
小田急沿線の町で場所を借りて、仲間と時代劇の素人芝居をやるらしかった。
ああいふ年頃で芝居をやらうといふ人種は、たいていが無駄な気負ひからくる作り物(うそ)臭さがプンプンしてゐるものだが、彼らにはさうした悪臭が感じられなかった。
だういふ団体なのか知らぬが、純真に“時代劇”を演じることを、楽しみにしてゐるやうだった。
まだ俗世ズレしてゐない若者ならではの燦めきが、そこにあった。
手猿楽を舞ふのに相応しい物を見つけられたら、と覗ひたお店で、
いいものを見た。
「おや?」と空を見上げると、
つづけて、
二聲、
三聲。
私の住む町でも、鶯の聲をよく聞く。
今年に入ってから、どこやらの土方が朝から侵(はひ)り込んで近隣の樹木を伐り倒し、更地にして行ったので、毎年囀る鶯たちやいかに、と心配になったが、今年も朝方に聲が聞こえて、やれ嬉しや、と安心したものだ。
野鳥とは無縁さうな街でその聲が聞けると、まだまだ捨てたもんじゃないぞ、と暖かい気持ちになる。
手猿楽に使へさうなものを見つけに時折のぞくお店で、学生らしき若い男女が、ケラケラと楽しさうに、古着の着物を探してゐた。
やがて二人は袴を二枚持って、会計に向かった。
お店の女性は珍しい年代のお客に、踊りの衣裳にするのかと訊ねた。
若い二人は相変わらずケラケラと楽しさうに、時代劇の衣裳です、と答へた。
小田急沿線の町で場所を借りて、仲間と時代劇の素人芝居をやるらしかった。
ああいふ年頃で芝居をやらうといふ人種は、たいていが無駄な気負ひからくる作り物(うそ)臭さがプンプンしてゐるものだが、彼らにはさうした悪臭が感じられなかった。
だういふ団体なのか知らぬが、純真に“時代劇”を演じることを、楽しみにしてゐるやうだった。
まだ俗世ズレしてゐない若者ならではの燦めきが、そこにあった。
手猿楽を舞ふのに相応しい物を見つけられたら、と覗ひたお店で、
いいものを見た。