迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

陽光のこゑ。

2018-03-26 18:28:30 | 浮世見聞記
渋谷区神南あたりで、鶯の聲が聞こえた。

「おや?」と空を見上げると、

つづけて、

二聲、

三聲。



私の住む町でも、鶯の聲をよく聞く。

今年に入ってから、どこやらの土方が朝から侵(はひ)り込んで近隣の樹木を伐り倒し、更地にして行ったので、毎年囀る鶯たちやいかに、と心配になったが、今年も朝方に聲が聞こえて、やれ嬉しや、と安心したものだ。


野鳥とは無縁さうな街でその聲が聞けると、まだまだ捨てたもんじゃないぞ、と暖かい気持ちになる。





手猿楽に使へさうなものを見つけに時折のぞくお店で、学生らしき若い男女が、ケラケラと楽しさうに、古着の着物を探してゐた。

やがて二人は袴を二枚持って、会計に向かった。

お店の女性は珍しい年代のお客に、踊りの衣裳にするのかと訊ねた。

若い二人は相変わらずケラケラと楽しさうに、時代劇の衣裳です、と答へた。

小田急沿線の町で場所を借りて、仲間と時代劇の素人芝居をやるらしかった。

ああいふ年頃で芝居をやらうといふ人種は、たいていが無駄な気負ひからくる作り物(うそ)臭さがプンプンしてゐるものだが、彼らにはさうした悪臭が感じられなかった。

だういふ団体なのか知らぬが、純真に“時代劇”を演じることを、楽しみにしてゐるやうだった。

まだ俗世ズレしてゐない若者ならではの燦めきが、そこにあった。


手猿楽を舞ふのに相応しい物を見つけられたら、と覗ひたお店で、

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