江州で、園児二人の命を奪った中年の女ドライバー曰く、
ここにも時々、逆方向から侵入する車がある。
「前をよく見ていなかった」
私は運転免許証を持っていないので、道では運転者を傍観する立場だが、実際に上の言葉そのままの輩を、よく見かける。
よく、といふことは、つまりそれだけナニも考へていないでハンドルを握ってゐる者が多い、といふことだ。
もっとはっきり言へば、前回の記事と同じ表現だが、
『アタマを使っていない』
といふことだ。
免許を返上しなければならないのは、なにも高齢ドライバーだけではない。
私がよく使ふ道に、一方通行の箇所がある。
ここにも時々、逆方向から侵入する車がある。
私もたまに注意するのだが、さうすると相手は決まって、「え……?」と初めて知ったやうな表情(かほ)をする。
トボケてゐるのかもしれないが、もし本当に知らなかったとしたら、まさに「前」の標識を「よく見ていなかった」、つまりその者はいかに普段なにもアタマを使はずにハンドルを握ってゐるか、といふことだ。
なかには、一旦停止をしてから侵入する、明らかな確信犯もゐる。
しかしその道は、抜け道の役割も果たしてゐる。
七割ほどが、そのすぐ先で順行のクルマと鉢合はせになり、一瞬にらめっこした末に、延々と後退することになる。
私はそれを笑顔で見送りながら、決まってため息をつく。
浮世には、明き盲人が多すぎる。