孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  中国の南シナ海進出へ強まる反発 アメリカとの協力関係強化

2023-09-24 23:27:48 | 東南アジア

(【9月8日 ロイター】フィリピンがアユンギン礁付近に座礁させて軍事拠点として使用している軍艦「シエラマドレ号」 この画像は2014年3月撮影ですので、現在は更に老朽化が進んでいると思われます。嵐でも来たら、いつ崩壊しても不思議ではないようにも見えます。)

【アユンギン礁で軍事拠点として機能している軍艦に関して、圧力を強める中国】
南シナ海における中国とフィリピンの対立・衝突が激しくなっていることは、8月8日ブログ“フィリピン 南シナ海で相次ぐ中国とのトラブル 今回は“違法”放水”でも取り上げましたが、その後も中国側は手を緩めることもなく、フィリピンとの軋轢が激しさを増しています。

8月6日に起きた放水事件の背景になっている、アユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)にフィリピン側が意図的に座礁させ軍事拠点としている古い軍艦については、中国側は「撤去するとの約束があった」と主張、フィリピン側は否定しています。

****フィリピン、南シナ海の軍事拠点撤去を中国に約束せず=大統領****
フィリピンのマルコス大統領は9日、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)で軍事拠点として機能している軍艦について、撤去を中国に約束していないとし、そのような約束があったとしても取り消すべきだと述べた。

フィリピンは南沙(英語名スプラトリー)諸島の一部であるセカンド・トーマス礁の領有権を主張するため、1999年に意図的に軍艦を座礁させた。中国は7日、フィリピンがこの軍艦を撤去するという約束を「明確に」反故にしたと非難している。

これについてマルコス大統領は「フィリピンが自国の水域からこの軍艦を撤去するという取り決めや合意は承知していない」とし、「そうした合意が存在する場合は直ちに破棄する」と述べた。

フィリピン国家安全保障会議の高官、ジョナサン・マラヤ氏はこれに先立ち、軍艦の撤去をフィリピンが約束したとする中国の主張は「どう考えても中国の想像の産物だ」と述べ、約束の証拠を示すよう中国に求めた。

在マニラの中国大使館はこの件に関してコメントしていない。

フィリピン大学の海洋専門家、ジェイ・バトンバカル氏は、セカンド・トーマス礁は中国にとって軍事基地を建設するための理想的な場所になる可能性があるとの見方を示している。【8月10日 ロイター】
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「約束」・・・中国側がまったくの“妄想”で主張するとも思えませんので、ドゥテルテ前大統領時代に何らかの発言があったのかも・・・。当時はドゥテルテ前大統領がアメリカを嫌い、中国に接近していましたので。

なお、中国側は「比側は何度も撤去を約束したが、24年過ぎても撤去せず、大規模な補修をし、仁愛礁(アユンギン礁)を恒久的に占領しようとしている」という言い方をしていますので、ドゥテルテ前大統領だけではないのかも。

中国側は行動で圧力をかけます。

****南シナ海に中国船300隻超集結、準軍事組織「海上民兵」が乗船か****
フィリピン軍は10日、中国と領有権を争う南シナ海で前日に300隻を超える中国船を確認したと明らかにした。中国側が支配を強めるため、展開する船舶の数を増やしている可能性がある。

比軍高官は10日の記者会見で、「9日に400隻以上の外国船が確認されており、そのうち85%が中国船だった」と述べた。340隻以上が中国船だった計算になる。中国の退役軍人や漁民らで構成する準軍事組織「海上民兵」が乗っているとみられる。(後略)【8月12日 読売】
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****また南シナ海で中国艦船がフィリピンに「危険な妨害行為」*****
フィリピン沿岸警備隊は8日、中国との間で領有権をめぐり対立している南シナ海で、中国海警局の艦船などから「危険な嫌がらせを受けた」と非難する声明を出しました。

これは、フィリピン沿岸警備隊が公開した南シナ海での映像です。中国海警局の船と、フィリピン軍が手配した輸送船などが至近距離まで接近しています。

フィリピン側は、中国との領有権争いが続く南シナ海のアユンギン礁付近で8日、中国側の艦船など8隻から「危険な嫌がらせを受けた」と非難しました。

フィリピン側の船は、海軍が実効支配の拠点にするため座礁させた古い軍艦に物資を補給する任務にあたっていたということです。

一方、中国海警局はフィリピン船が「中国政府の許可なく礁の隣接海域に侵入した」と主張したうえで、「厳重な警告を与え、全過程を追跡し、効果的に規制した」としています。

中国側は、この軍艦を撤去するよう求めていて、南シナ海では先月にも中国の艦船が補給に向かっていたフィリピンの巡視船や輸送船に放水するなど、対立がエスカレートしています。

こうした事態などを受け、6日に開かれたASEAN=東南アジア諸国連合と中国を交えた首脳会議では、紛争を回避するための「行動規範」の策定を加速させることで合意していました。【9月8日 TBS NEWSDIG】
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中国艦船によるフィリピン漁船への妨害も。

****「漁業者の操業を妨害」フィリピン沿岸警備隊が中国非難 南シナ海で中国海警局が「浮遊式の障害物」を海面に設置****
フィリピン沿岸警備隊などは24日、領有権をめぐり中国と対立している南シナ海で中国側の船が障害物を設置し、フィリピンの漁業活動を妨害したと非難する声明を発表しました。

フィリピン側の発表によりますと、南シナ海のスカボロー礁付近で中国海警局などの船舶4隻が300メートルに渡ってブイとみられる「浮遊式の障害物」を海面に設置したことが確認されました。

また、中国海警局は無線を使って「フィリピンの漁業者は国際法と中国の国内法に違反している」と主張し、何度も追い払おうとしてきたということです。

フィリピン沿岸警備隊などは24日、中国側が「フィリピンの漁業者の操業を妨害した」として非難する声明を出し、「漁業者の安全を確保するため、自国の領有権を守り続ける」と強調しました。【9月24日 TBS NEWS DIG】
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****中国海警局、スカボロー礁でフィリピン漁船を追跡****
フィリピンの漁師、アーネル・サタムさんは22日、係争海域である南シナ海のスカボロー礁に向けて小型ボートを走らせると、中国海警局の高速艇に激しく追跡された。

追跡は数分間続いた。サタムさんは豊かな漁場である同域に高速艇を振り切って進入しようとしたが、その試みは失敗に終わった。

フィリピン漁業水産資源局の船舶に乗船していたAFP取材班は、この時の追跡劇を目撃した。同局の船は、最大数週間にわたり係争海域を航行する漁師らに食料や水、燃料を補給している。

漁師らは、スカボロー礁における中国の行動について、収入源となる漁場と悪天候の緊急時に避難できる場所を奪っていると訴える。

サタムさんはAFPに「そこ(スカボロー礁)で漁をしたい」と話し、「このようなことは普段からやっている。今日は早い時間にすでに追い回された」と付け加えた。 高速艇はサタムさんのボートに体当たりしたこともあるという。

中国は南シナ海のほぼ全域で領有権を主張しており、2012年にスカボロー礁を実効支配した。以降、海警局や船舶を配備し、フィリピンが歴史的に利用してきた漁場への立ち入りを妨害・制限している。 【9月24日 AFP】*****************

【中国への反発を強めるフィリピン・マルコス政権】
こうした中国の対応に、フィリピン側の反発も高まっています。

3月に行われたフィリピン人の外国や地域連合に対する信頼度を調べた世論調査(何故か、公表は8月)によると、日本を「信頼する」と答えた人は92%でトップだったのに対し、79%が中国を「最大の脅威」に挙げており、南シナ海で海洋進出を強める中国への不信感が浮き彫りとなっています。

また、南シナ海問題で中国への強硬な姿勢を貫き、アメリカとの安全保障協力を強めているマルコス政権の姿勢に6割以上が賛成を示しています。

調査後の対立激化を考えると、現時点では更にフィリピン世論の中国警戒感は強まっていることが想像されます。

マルコス政権もこうした世論を背景に強気姿勢です。言い換えれば、中国に対し弱腰姿勢は見せられない・・・とも。

南シナ海の領有権をめぐっては、2016年に国際仲裁裁判所が中国側の主張を認めない判決を出していますが、フィリピンは更に「サンゴ礁が破壊され、海洋環境が悪化した」として、中国側に対し法的措置を検討していることを明らかにしています。

****「中国がサンゴ礁を破壊」フィリピン政府が国際仲裁裁判所への提訴を検討****
フィリピン政府は20日、中国との領有権争いが続いている南シナ海で「サンゴ礁が破壊され、海洋環境が悪化した」として、中国側に対し法的措置を検討していることを明らかにしました。

南シナ海のロズル礁付近などでは、11日までに実施されたフィリピン沿岸警備隊による調査で、サンゴ礁の破壊や海底の変色が確認されました。

フィリピン側は、周辺の海域で中国の海上民兵の船およそ50隻が確認されたとして、「意図的な活動が行われた可能性を強く示している」と主張。

フィリピン司法省は20日、「サンゴ礁が破壊され、海洋環境が悪化した」として、中国側を相手取り国際仲裁裁判所に提訴することを検討していると明らかにしました。

中国は南シナ海で軍事拠点化を進めていて、サンゴ礁を埋め立てることで人工島を造ろうとしているとの見方も出ています。(後略)【9月20日 TBS NEWS DIG】
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仮に国際仲裁裁判所でフィリピンに有利な判断がなされても、中国は前回と同じく「紙屑である」との対応を取ると思われますが、不適切な行動が常に国際社会によってチェックされることを中国に認識させる点では有意義でしょう。

ただ、スカボロー礁に座礁させた軍艦は老朽化が著しく進んでおり、沈没・崩壊しフィリピン軍の詰め所としての役割を果たせなくなれば、この海域における環境は一気に変化することが懸念されています。

【アメリカとの協力体制強化】
フィリピン・マルコス政権は、中国への対抗を強めるアメリカへの協力姿勢も強めています。そうした構図に日本もアメリカ側で関与を強めています。

****比、日米豪共同訓練に参加 大型艦派遣、世論は歓迎****
海上自衛隊は25日、最大の護衛艦「いずも」をフィリピンに派遣し、フィリピン軍、米軍、オーストラリア軍と24日に4カ国共同訓練を実施したと発表した。中国が南シナ海でフィリピン軍拠点への補給を妨害し続ける中、日米豪3カ国で計画していた訓練にフィリピンが加わった形。計画が大きく報じられ、歓迎する国内世論が高まっていた。

複数の関係筋によると、訓練は当初、フィリピンが参加を見送り、日米豪が南シナ海で23日に行う計画だった。だがフィリピン海軍の揚陸艦も参加する形で1日遅れてマニラ周辺で実施。米軍は予定していた強襲揚陸艦「アメリカ」ではなく沿海域戦闘艦が加わった。【8月25日 時事】
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アメリカとの間では、今年2月、米軍が使用可能な拠点の5カ所から9カ所への増設が決まったばかりですが、更に台湾から200kmほどしかないフィリピン最北端の離島・バタネス州バタン島で、米軍と地元自治体が商業港の開発を計画しています。中国を牽制するためのレーダーの設置も検討されています。

****南シナ海に打たれた「布石」...アメリカがフィリピンの離島で建設する「港」がもたらす効果とは****
領有権をめぐって中国と周辺諸国の対立が続く南シナ海に新たな火種が浮上した。フィリピン最北部のバタネス州バタン島で、アメリカ軍と地元政府が商業港の開発計画を進めていることが明らかになったのだ。

地元政府は荒天時に物資輸送できる代替港が必要だと説明するが、商用か軍用かにかかわらず戦略的な意味は極めて大きい。

バタン島と台湾南端との距離はわずか200キロ足らず。両者の間に位置するバシー海峡は多くの船舶が通過する海上交通の要衝で、中国が台湾に侵攻する際の主要ルートと目される。 

中国が南シナ海で軍事拠点の増設を進めるなか、アメリカはフィリピンなど周辺国との連携を強化しており、港湾建設も中国への牽制の一環とみられる。

また、港が完成すれば米軍は台湾へのアクセスに優れた位置に戦略的拠点を得られる。 それだけに中国側の反発は必至で、フィリピンに経済面で圧力をかけて対抗する可能性も指摘されている。【9月13日 Newsweek】
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****米 フィリピン空軍に新たな偵察機供与 南シナ海の監視活動強化****
中国が海洋進出を強める南シナ海での監視活動を強化するため、アメリカはフィリピン空軍に新たな偵察機を供与しました。

アメリカからフィリピン空軍に供与されたのは、セスナ社の小型偵察機、208B型機で、センサーや通信設備を搭載し、南シナ海の広い範囲で監視活動が行えます。

19日、ルソン島中部にあるクラーク空軍基地では機体の受け渡し式が行われ、フィリピンのテオドロ国防相は「フィリピンが強い国で強力な装備があれば、地域の安定と安全に貢献できる重要な国になれる」と述べ、供与に感謝しました。

これに対して、アメリカ国防総省の関係者は「フィリピンはインド太平洋地域でアメリカから最大の支援を受け取っている国だ。引き続きフィリピン軍の近代化の目標に向けて支援を継続する」と述べて、自由で開かれたインド太平洋の実現のため、今後も支援を強化する姿勢を示しました。

フィリピン空軍がアメリカから偵察機を供与されるのは、2017年の2機以来で、南シナ海への進出を活発化させる中国を念頭に、領海やEEZ=排他的経済水域での監視や、災害対応に活用するとしています。

南シナ海では9月もフィリピン軍の補給活動が中国公船に妨害されたほか、EEZ内で中国の複数の漁船が確認されたと報告されています。【9月19日 NHK】
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****進むアメリカとフィリピンの接近 対中国で結束****
南シナ海で覇権的な動きを加速させる中国に対抗するため、フィリピンが米国との関係強化を進めている。

現地情報によると、「防衛協力強化協定(EDCA)」に基づき、米軍が使用するフィリピン国内の軍事施設の追加を協議。南シナ海で日本やオーストラリアなど7カ国と共同パトロールをすることも検討する。

米比両国は2014年にEDCAを締結。米軍は指定された施設の利用が認められており、フィリピンは4月、米軍の使用を新たに認める軍事施設4カ所を公表した。これにより米軍が使用できる拠点は5カ所から9カ所に増えた。(後略)【9月23日 中日】
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ベトナム  バイデン大領訪問で米越関係強化 中国に対抗して、ベトナムを半導体制裁拠点に育成

2023-09-10 23:09:11 | 東南アジア

(バイデン米大統領(左)とベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長=10日、ベトナム・ハノイ【9月10日 産経】)

【インドネシアでのASEAN関連首脳会議を欠席したバイデン大統領 インドネシアで広がる波紋】
バイデン大統領はインドネシアで開催されたASEAN関連首脳会議を欠席してハリス副大統領が出席、ASEAN側には「軽視」された失望も広がっています。

特に、開催国インドネシア側には面子を潰された思いもあるようです。

バイデン大統領のASEAN「軽視」の背景には、ASEANには中国の影響力が強い加盟国もあって、結局中国対応で明確な姿勢を打ち出せないということもあるように推測します。

それ以外に、インドネシアのジョコ大統領の中国重視姿勢が影響しているとの指摘も。

****アジアの視線 インドネシアを待つ「外交的屈辱」 森浩****
(中略)
インドネシアはASEANが1967年に5カ国で発足した際の創設メンバーだ。東南アジア最大の2億7千万人超の人口を抱え、ASEANの盟主としてのプライドがある。奏功しているとは言い難いが、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマー問題の解決に向けてリーダーシップを見せている。

ただ、これまでもバイデン政権のインドネシアを巡る対応は物議を醸したことがある。2021年7〜8月にかけ、オースティン米国防長官とハリス氏が東南アジア各国を歴訪した際、インドネシア訪問はなかった。「米国はインドネシアに不信感がある」という疑念は近年、インドネシアのメディア関係者らの間で強まっていた。

14年発足のジョコ政権は米国との関係を重く見る姿勢は示しつつも、外交関係の軸に据えたのは中国だ。インドネシアメディアによると、ジョコ氏は大統領就任以降、訪米3回に対し、訪中は6回。今年7月には中国・四川省で習近平国家主席と会談し、新首都建設への支援を要請した。

それにも関わらず、中国の覇権的な海洋進出は止まらず、インドネシア北西部ナトゥナ諸島周辺での中国船の活動は常態化している。

インドネシアにとり安全保障面での米国との連携強化は焦眉の急だが、ジャカルタ・ポストは、親中姿勢が米国との緊密化を妨げていると指摘し、「ジョコ氏は米国との関係を強固なものにできなかった自分自身を責めるべきだ」と苦言を呈した。(後略)【8月22日 産経】
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上記のインドネシア側の受け止め方が的を射たものかどうかはわかりませんが、やはりインドネシアはASEAN中心国であり、今後グローバルサウスをリードする国のひとつでもありますので、そのインドネシアとの関係がギクシャクするのはアメリカにとってマイナス面もあるかも。逆に、今後に向けてアメリカとして敢えて厳しい姿勢を見せたということでしょうか。

【バイデン大統領 中国に対抗すべく、ベトナム訪問で米越関係のグレードアップ図る】
一方、アメリカ・バイデン大統領が重視しているのがベトナムとの関係。

バイデン米大統領はインドで開催されていたG20を終えて、10日にベトナム訪問し、最高権力者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談します。

アメリカ政府によると、両国関係を新たに「包括的な戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意する段取りになっています。

****米越「戦略関係」に格上げへ 対中国、半導体で連携強化****
バイデン米大統領は10日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談する。

バイデン政権はインド太平洋を重視しており、米高官はベトナムに向かう大統領専用機内で、首脳会談で両国関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすると明らかにした。

バイデン政権はアジアで影響力を強める中国に対抗し、半導体などの供給網再構築の一環としてベトナムとの戦略的連携を強化したい考えだ。

両国関係は「包括的パートナーシップ」だった。専門家らによると「戦略的パートナーシップ」を飛ばして格上げするのは異例の措置となる。

ベトナムは米中間でバランス外交を展開しつつも、南シナ海の領有権問題で中国とのあつれきは強まっている。ベトナムは半導体生産や人工知能(AI)分野に力を入れており、米国は同盟国や友好国と供給網を構築する「フレンド・ショアリング」で協力を目指す。

ベトナム戦争を経て両国は1995年に国交正常化し、武器関連の禁輸措置を段階的に緩和してきた。【9月10日 共同】
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「包括的パートナーシップ」「戦略的パートナーシップ」「包括的戦略パートナーシップ」の違いはよくわかりませんが、両国関係のレベルが更にグレードアップされたということでしょう。

岸田首相が出席して9月6日に開催された日本とASEANの首脳会議においても、日ASEAN包括的戦略的パートナーシップ(CSP)を立ち上げる共同声明が採択されています。

なお、ベトナムはこれまでロシアや中国を「包括的戦略的パートナーシップ」に位置づけ、アメリカとの関係はこれより劣後していました。中国への対抗を念頭に、アメリカはかねてよりベトナム側に、関係の格上げを働きかけていました。

ベトナムは経済面での中国との関係は深いものの、南シナ海領有権をめぐって中国と厳しく対峙する関係にあり、アメリカとの関係強化は中国を牽制するものともなります。

【訪問直前に、ベトナムとロシアの関係の強さを示す秘密裏の武器取引計画ニュースも】
ただ、これまでも度々触れてきたように、現実重視のベトナム外交はしたたかな側面があり、必ずしもアメリカとの関係にのめり込んでいる訳でもありません。

そのあたりの“したたかさ”はロシアとの関係でもあきらかになっています。

****ベトナムがロシアと秘密裏に武器取引計画 シベリアの合弁会社経由で 米紙報道****
アメリカのバイデン政権が対中国を念頭に関係強化を目指すベトナムが、秘密裏にロシアから武器輸入を計画していたとアメリカメディアが報じました。

ニューヨーク・タイムズによりますと、入手したベトナム政府の内部文書に、ロシアから秘密裏に武器を購入する計画が記されていたということです。

文書は今年3月付けで、計画はアメリカの監視を逃れるためにシベリアにあるベトナムとロシアの合弁会社を経由して支払いを行い、ベトナムの軍装備を近代化させるという内容だったとしています。

また、文書には武器の取引が両国間の「戦略上の信頼関係を強化する」と記されていたとも伝えていますが、実際に取引が行われたかは分かっていません。

バイデン大統領は中国に対抗するために10日にベトナムを訪問し関係強化を図ろうとしていますが、ベトナムとロシアの結び付きの強さが明るみになったことで、アメリカ側への取り込みが一筋縄ではいかないことが浮き彫りになった形と言えそうです。【9月10日 テレ朝news】
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バイデン大統領訪問直前にこういう情報が公開されるというのは、たまたまでしょうか、何か裏の動きがあるのでしょうか・・・わかりません。ドラマならいろんなシナリオが考えられるところですが。

ベトナムとしては南シナ海への中国進出に対抗するためにはアメリカを利用したいけど、アメリカと中ロの対立構図には巻き込まれたくない・・・というのが本音でしょう。

アメリカとしてもそれは承知の上で、更にそのベトナムを自陣に引っ張りこめるか・・・というところ。

【アメリカはベトナムを半導体生産拠点に成長させる狙い ただし、深刻な技術者不足も】
その関係強化の中心に位置づけられているのが“半導体生産”。

アメリカは中国に絡む供給リスクへの備えとして、ベトナムを半導体の生産拠点として急成長させる計画のようです。しかし、このプランを進める上でベトナムの慢性的な技術者不足が重い課題に浮上しています。

****米が狙うベトナム半導体拠点化、技術者不足が重い課題*****
バイデン米大統領は9月10日からベトナムの首都ハノイを訪問する。両国関係の本格的な強化が狙いで、半導体が議論の焦点になる見込み。米政権関係者によると、バイデン氏はベトナムの半導体生産強化に向けた支援策を提示する予定だ。

友好国で供給網を完結させる「フレンドショアリング」構想に戦略的な半導体産業が組み込まれていることは、米国がベトナムの共産主義指導者を説得し、正式な関係強化への同意を求める重要な動機の1つとなっている。ベトナム政府は当初、中国の反発を恐れ、米国の求めに応じることに消極的だった。

両国の本格的な関係強化により、ベトナムの半導体産業には数十億ドル規模の新規民間投資のほか、一部の公的資金も流れ込む可能性がある。

しかし関係者によると、ベトナムの半導体産業は熟練した技術者が少ないことが急速な発展にとって大きな障害になりそうだ。

米国・ASEANビジネス評議会ベトナム事務所のVu Tu Thanh代表は、「実働可能なハードウエア技術者の数は、数十億ドル規模の投資を支えるのに必要な数をはるかに下回っており、今後10年間で必要とされる水準の10分の1程度に過ぎない」と述べた。

1億人の人口を抱えるベトナムは、半導体セクターで必要な熟練技術者の数が5年後に2万人、10年後には5万人に膨らむと見込まれるが、今は5000人ないし6000人しか育っていないという。

またRMIT大学ベトナム校でサプライチェーン(供給網)に関するシニア・プログラム・マネージャーを務めるフン・グエン氏は、熟練した半導体ソフトウェア技術者の供給が不足するリスクもあると指摘した。

<中国の優位>
ベトナム政府の統計によると、同国の半導体業界の対米輸出額は年間5億ドル余り。現状ではサプライチェーンの後工程、つまり組み立て、パッケージング、試験に重点が置かれているものの、設計などの分野も徐々に拡大している。

米政府はベトナムの半導体産業のどの分野に優先的に取り組むかを明らかにしていないが、米国の業界幹部は後工程が重要な成長分野だと指摘した。

計画を練る上では中国の存在感が大きい。ボストン・コンサルティング・グループの分析では、2019年には世界の半導体後工程の40%近くが中国にあり、米国の割合はわずか2%だった。中国が軍事活動を活発化させ、紛争への懸念をあおっている台湾は27%。

つまり半導体セクターにおいて組立部門は製造部門に次ぎ業界で最も地域的な集中度合いの高いセクターのひとつで、中国がこれほど支配的な地位を占めている分野は他にない。

米半導体大手インテルはベトナム南部で15年ほど前から半導体の組み立て、パッケージング、試験を行う世界最大級の工場を運営してきたにもかかわらず、ここまで中国への集中が進んだ。

ただ、米半導体大手アムコーがハノイ近郊に半導体の組み立てと試験を行う最新鋭の巨大工場を建設する、と先月ハノイを訪問したイエレン米財務長官が明らかにするなど、ベトナムへの関心は高まっている。

とりわけ米国が自国の半導体生産を強化する狙いで導入したCHIPS法に盛り込まれた5億ドルの資金のかなりの部分がベトナムに向かえば民間投資はさらに増えるだろう。

RMIT大学ベトナムのフン氏は、米国はベトナムの半導体原料、特に中国に次いで世界第2位の埋蔵量を持つと推定されるレアアースの供給を強化することにも関心があるかもしれないとみている。

ベトナムは小規模な半導体設計分野にも企業が進出している。米半導体設計ソフトのシノプシスが事業展開しているほか、同業のマーベルが世界トップクラスの拠点建設を計画している。またベトナムは半導体製造装置メーカーからの関心も集めている。

<求人>
しかし、熟練技術者の不足に適切に対応しなければ半導体産業の野望は夢物語に終わり、ベトナムはマレーシアやインドといったアジア地域の競争相手に対してより弱い立場に置かれるかもしれない。

関係者に話を聞くと、インテルは熟練技術者の数を増やすよう当局に繰り返し要請している。

消息筋によると、インテルは今年に入り、ベトナムでの事業規模を現在の15億ドルから2倍近くに拡大することを検討した。ただ、6月に同社は欧州での大規模な投資を発表しており、その後もこの計画が継続しているかどうかは不明だ。インテルはコメントの求めに応じなかった。

アムコーはベトナムのウェブサイトで約60件の求人をかけており、そのほとんどが技術者とマネジャーだ。

米国・ASEANビジネス評議会のThanh氏によると、技術者不足対策として国内の熟練技術者が十分に増えるまで、外国人技術者の労働許可証の発行規則を緩和することが考えられる。しかしそのためには法改正と行政手続きの迅速化が必要で、ベトナムではこれは容易なことではないというのが関係者の見方だ。

ホワイトハウスは声明で、バイデン氏はベトナムの指導者と既存の訓練イニシアティブを拡大するような労働力開発プログラムについて話し合うつもりだと説明した。【9月2日 ロイター】
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カンボジア  首相職・有力ポストの世襲化・私物化 期待できない“昨日よりも寛容で民主的な社会”

2023-09-08 23:12:52 | 東南アジア

(言葉を交わす岸田文雄首相(右)とカンボジアのフン・マネット首相=7日、ジャカルタ【9月8日 時事】)

【ミャンマー・カンボジアなど東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働】
「ルフィ」と名乗る今村容疑者などが関与してフィリピンを拠点に60億円以上の被害を出した特殊詐欺事件が話題になりましたが、東南アジアにおけるこうした犯罪行為の最大勢力はミャンマーやカンボジアを拠点とする中国人犯罪組織のようです。

単に詐欺行為・違法なオンライン賭博を行っているだけでなく、現地で数十万人規模の人々に強制労働を強いているということで、その悪質さは半端ないものがあります。

****東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働か、犯罪組織下で=国連****
国連人権高等弁務官事務所は29日、東南アジア地域で近年見られる詐欺拠点や違法なオンライン事業に数十万人規模の人々が犯罪組織の手で移送され、強制労働を強いられているとする報告書を発表した。

複数の信頼できる情報筋に基づく推計として、ミャンマーで少なくとも12万人、カンボジアで約10万人が詐欺拠点に収容されている可能性があると指摘。ほかにも、ラオスやフィリピン、タイなどに、暗号資産詐欺やオンライン賭博などの犯罪組織が所有する企業があるとしている。

ターク国連人権高等弁務官は「こうした詐欺行為に強制的に加担させられている人々は、非人道的な扱いを受けながら犯罪行為を強いられている。被害者であって犯罪者ではない」と述べた。

カンボジア警察の広報は報告を見ていないとした上で、「(10万人という)数字をどこから得たのか。外国人がとやかく言っているだけだ」などと述べ、ミャンマー軍政はコメント要請に応じていない。

こうした状況は新型コロナウイルス禍以降に見られ、カジノ閉鎖で規制の緩い東南アジア各地に拡大している。

報告書は、詐欺拠点は急速に拡大し、毎年数十億米ドル規模の収入を生み出していると分析している。【8月30日 ロイター】
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「外国人がとやかく言っているだけだ」(カンボジア警察広報)・・・これだけの規模で犯罪行為を行う場合、警察などに察知されずに行うというのは考えにくく、現地警察・地方政府などとの「癒着」があるのでは・・・というのは容易に想像されるところです。

強制的に詐欺行為に加担させられている者には中国人若者が多いということで、中国公安が摘発に乗り出しています。

****中国当局269人逮捕 ミャンマー拠点の“振り込め詐欺G”摘発****
ミャンマーを拠点に中国に対して“振り込め詐欺”を行なっていたグループが摘発され、269人が一斉に逮捕されました。中国の公安当局は、海外に潜む詐欺グループの摘発を強化しています。

中国国営の中央テレビによりますと、中国の公安当局はミャンマー当局と合同でミャンマー北部にある“振り込め詐欺”グループの拠点を摘発し、269人を逮捕したということです。このうち186人は中国人だったということです。

ミャンマーでは詐欺グループに騙され渡航した中国人の若者が、監禁や拷問により犯罪に加担させられるケースが相次いでいますが、こうした「人身売買」の問題は今、インドネシアで行われているASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議でも大きな議題のひとつとなっています。【9月5日 TBS NEWS DIG】
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****中国へ1207人送還=ミャンマーから越境詐欺****
ミャンマーで中国国内を標的にした電話・インターネット詐欺に関わったとして、容疑者1207人が6日、国境を接する中国南部雲南省に移送された。中国国営中央テレビが8日、中国人とみられる集団の送還の様子を伝えた。

中国では、電話やネットを悪用した詐欺が社会問題化。2022年には被害額が2兆元(約40兆円)に達したとされる。習近平政権が社会の統制を強め、犯罪の取り締まりも強化していることから、中国人詐欺グループは東南アジアなど近隣に移って中国人相手に犯行を続けている。【9月8日 時事】 
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詐欺グループの摘発は結構な話ですが、“中国の公安当局はミャンマー当局と合同で”というのは、中国公安がミャンマーに大挙乗り込んで犯罪者逮捕などの実際の警察行為を行っているということでしょうか?

日本では考えにくい話ですが、中国との関係が強いミャンマーやカンボジアならそういうこともあるかも・・・これは想像です。

【フン・マネット新首相の外交デビュー】
でもって、今日はカンボジアの話。
カンボジアでは(仕組まれた)7月の総選挙“圧勝”を受けて、40年近くカンボジアを統治してきたフン・セン首相から長男のフン・マネット氏に首相職が禅譲されました。

(フン・セン氏の「院政」が敷かれているとは言え)欧米での教育も受けているフン・マネット新首相がどのような政治姿勢を見せるのか注目され、今月の一連のASEAN関連会議は新首相の外交デビューとなりました。

****カンボジア新首相、国際会議で演説 50年までの高所得国入り目指す****
カンボジアのフン・マネット新首相は4日、就任後初めて国際会議で演説し、2050年までに高所得国入りを目指す構想を明らかにした。(中略)

フン・マネット氏はインドネシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)のビジネスフォーラムで演説し、カンボジアは「50年までの高所得国入りを実現するため、苦労して勝ち取った平和を守り、国の開発を加速する」総合的な国家経済ビジョンでを打ち出したと説明。

「五角形戦略」と呼ぶこのビジョンでは、人的資本の開発、デジタル経済、包摂性、持続可能性を重視していると述べた。

カンボジアは長年の内戦で経済が疲弊したが、現在では経済成長率7%の低中所得国に発展しているとも指摘した。
大国間の地政学的な競争が激しくなり「ASEAN全体の平和、安全保障、繁栄」を圧迫しているとも発言。

「戦争を戦争によって終わらせることはできない」とし、主権国家を武力で脅すことに反対するようASEANと国際社会に呼びかけた。「(ASEANと国連は)独立、主権、領土の一体性、不干渉の精神を貫くべきだ」と主張した。【9月5日 ロイター】
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“不干渉の精神”・・・要するに“人権”とか“民主主義”に関して外国が余計な口出しするな・・ということでしょうか。

このあたりは“形式的なお題目”に近い話で、あまり中身がありませんが、中国・李強首相との会談などで、父親の親中路線を継続する姿勢を見せています。

****カンボジア新首相が外交デビュー=親中路線を踏襲―ASEAN会議****
カンボジアのフン・マネット新首相(45)がインドネシアで開催中の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席し、国際舞台にデビューした。加盟各国や中国の首脳らとも個別に会談するなど積極的な外交を展開した。

フン・マネット氏は8月、38年間首相を務めた父親のフン・セン氏(71)から首相の座を引き継いだ。欧米への留学経験があり英語は堪能で、ASEAN各国の首脳では最年少となる。

フン・マネット氏は4日に夫人と共にインドネシア入り。新政権の発足直後で新首相が参加していないタイと、クーデターで排除されているミャンマー以外の加盟国首脳と個別に会談したり、朝食を共にしたりした。

6日のASEANと中国との首脳会議では「中国の『一帯一路』構想はカンボジアに多くの恩恵をもたらした」と強調。李強首相とは個別会談も行い、フン・セン氏の親中路線を踏襲した。

一方、米国のハリス副大統領とは立ち話であいさつを交わすなどした。英国で経済学博士号を取得した経歴などから、世界経済フォーラム(WEF)のシュワブ会長とも会談した。【9月7日 時事】 
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【国家を私物化する世襲システム】
“親中路線を踏襲”を含めて、まだスタートしたばかりでその中身を云々するには早すぎます。すべてはこれからですが、これまでも取り上げてきたように首相だけでなく、有力閣僚ポストの多くが世襲されるというカンボジア政治の特殊性を考えると、あまり期待しないほうがいいようにも思えます。

****高級官僚のポストを「倍増」し、与党幹部の親族に「ばら撒き」...世襲大国カンボジアの罪****
<長男を後継の首相とするために、フン・セン前首相は権力の大安売りで省庁の次官・次官補級ポストを倍増したが...>

アジアの国には世襲が似合う──のだろうか。
(中略)8月22日には新議会が粛々とフン・マネットの首相就任を承認した。さて、この世代交代は何を意味するのか。あの国は昨日よりも寛容で民主的な社会になるのだろうか。

予断は禁物だが、同国のジャーナリスト協会(JA)が運営する英文ニュースサイト「カンボJAニュース」が8月23日付で興味深い情報を載せていた。なんと、新内閣では各省庁の大臣より下の長官(次官)、副長官(次官補)級ポストが2倍以上に増えるという。その数は計1422、父の時代には641だったから、まさに激増である。

カンボJAによれば、「新設ポストの多くは与党幹部の親族に加え、今回の選挙前に与党側に転じた野党有力者や活動家、労働組合の幹部などに振り分けられた」らしい。

とんでもない「高級官僚の超インフレ」だが、実は今に始まった話ではない。93年に国連の監視下で総選挙が行われて以来、ずっと続いてきた慣行なのだ(あのときは日本も国連のPKO選挙監視団に加わっていた)。

選挙の結果、王制が復活したが、CPPのフン・センは「第2首相」の座を確保。以来、CPPはひたすら反対勢力を排除し、力ずくで黙らせる一方、与党側に寝返れば政府の要職を与え厚遇するという手法を取ってきた。だから選挙のたびに政府組織が肥大化し、高級官僚の数が増えた。

カンボJAの報道によると、今回はフン・センの盟友で2017年に死去したソック・アンの息子4人が要職に起用された。「ソック・サングバーは公共事業省の次官、ソック・プティブットは郵政省の次官、ソック・ソカンは国土整備省の次官、そしてソック・ソケーンは観光相」だ。

どうやら、これがカンボジア流の現代版世襲制らしい。そこでは権力の継承が法律や規則ではなく個人的な関係によって行われる。公務員は国民にではなく、その上司に奉仕する。公務員の給料は微々たるものだが、その地位と権力を利用すれば十二分に稼げるから困らない。

とめどなく増えるポスト
当然のことながら、このCPPを核とする権力ネットワークは選挙のたびに肥大せざるを得ない。
政府高官の地位に一旦就けば、政権に忠実である限り、まず追放されることはない。一方で、新人を受け入れるために新しいポストが設けられる。現職は昇進ないし横滑りするのみだから、その数はどんどん増えていく。

それにしても、今回の高級官僚インフレの規模は異例と言うしかない。そこには父から子への権力継承を円滑に進めるための入念な準備があったとみるべきだろう。

カンボJAによると、官僚インフレが特に顕著なのは内務省だ。前政権では22人だった次官・次官補が、今回は104人に増えた。また国防省でも、38人だった次官級が86人に増えた。

増員の理由は明かされていないが、実を言うと両省のトップは以前から、首相職の世襲に批判的だと指摘されてきた。内務相のサル・ケンと、国防相のティア・バン。共にフン・センの長きにわたる盟友である。

もちろん真相は闇の中だ。CPPの党内政治に関しては事実と噂の区別がつかない。しかし、フン・センの狙いどおり息子を後継者に据えるためには、長年にわたって彼の統治を支えてきた政界有力者や治安組織の賛同が必要だったことは明らかだ。そのためには有力者を金と名誉で釣る必要があった。

結果として、内務省でも国防省でも首相府と同じ世代交代が行われた。サル・ケンとティア・バンは退任し、それぞれの息子(サル・ソカとティア・セイハ)が後を継いだ。これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった。

それで次官・次官補級のポストが激増した。退任した2人の親族や手下を追い出すわけにはいかず、新任の2人の親族や仲間には新たな席を用意しなければならない。かくして政府は肥大化する。それはフン・センが首相職を息子に渡すに当たり、支持を確保するために支払わねばならぬ代償だったと言える。

これら全てが、フン・セン政権下で発展してきたカンボジアの独特な政治システムと、その今後の展開について重要なことを物語っている。

新政権の次官・次官補級1422人のうち、その地位にふさわしい具体的職務をこなしてきた人物は皆無に等しい。しかし全員がその地位を利用して稼ぎ、親類縁者の暮らしを支え、自分を補佐し、あるいは自分の手足となる者たちのネットワークを維持する資金を必要としている。

少なくとも過去には、役人が昇進のために金を払い、昇進によって増えた稼ぎの一部を「上の者」に献上するしきたりがあった。

経済縮小で崩壊のリスク
そういう事情があれば、公務員(正規の給料はたかが知れている)は自らの地位を利用して最大限に稼ごうとする。だから賄賂が横行する。結果、国民への奉仕は二の次になる。これがフン・セン政権下のカンボジアで汚職が蔓延した根本原因だ。

この現実を踏まえて、本稿の冒頭で提起した問い(この世代交代でカンボジアは今よりも寛容で民主的な社会になるか)に戻るなら、多くを望めないことは明らかだ。仮にフン・マネットに改革意欲があっても、できることは限られている。【9月7日 Newsweek】
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“これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった”・・・首相職はフン・セン一族の私物なら、有力ポストも・・・。

まあ、日本でも特定ポストがある派閥や政党に引き継がれるというのはよくある話ですから、そう珍しい話でもないのかも。 当然にそうした世襲で利権構造が出来上がりますし、何より国民のための政治が行われることは期待できません。

冒頭に取り上げた詐欺等の犯罪組織も悪質ですが、国民のための政治を空洞化させる国家の私物化は更に大規模な犯罪行為のように思えます。

なお、フン・マネット首相は岸田首相とも会談

****日カンボジア首脳が会談 岸田氏「民主的発展を後押し」****
岸田文雄首相は7日、訪問先のインドネシアで、カンボジアのフン・マネット首相と会談した。先月就任した同氏との会談は初めてで、法の支配に基づく国際秩序の維持に向け「連携したい」と伝えた。

岸田氏は、海上自衛隊の訪問などを通じ安全保障協力の強化を図る意向も強調。「国民が多様な意見を表明し得る環境が重要だ。カンボジアの民主的発展を後押しする」と語った。(後略)【9月8日 時事】
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「民主的発展」・・・カンボジアにその気があれば“後押し”の仕様もありますが・・・
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東南アジア諸国をめぐる米中の綱引き 新たな地図で中国への反発 米は越・比との関係強化へ

2023-09-03 22:49:17 | 東南アジア

(中国が新たに発表した地図 【9月1日 産経】 従来の「九段線」が明確に台湾を囲い込む「十段線」に拡大されています。もっとも、台湾に関しては「今更」の話ではありますが)

【中国の“新たな地図”をめぐって、ASEAN関連会議で問題となる事態も】
中国政府が発表した新しい地図が、国境問題を抱えるインドや南シナ海で領有権を争う東南アジア諸国の反発を惹起しています。

****中国発表の新地図、係争地や南シナ海まで「領土」「領海」表記…アジア各国相次ぎ反発****
中国政府が8月28日に発表した新しい地図を巡り、アジアの周辺国から反発の声が上がっている。南シナ海やインド北東部などの係争地が「領海」や「領土」として示されたためだ。今月アジアで開かれる一連の国際会議では、領土問題で対立する事態も想定される。

ロイター通信によると、地図では南シナ海の90%を中国の「領海」とした。中国が南シナ海の領有権問題に関して一方的に主張する「九段線」は、台湾の東側に引かれた1本の線とともに計10本で構成され、「十段線」となっている。

フィリピンが領有権を主張するスプラトリー諸島(南沙諸島)が「中国領」とされたことについて、比外務省は「中国当局から出された地図を拒否する」と批判した。声明では、「九段線」の法的根拠をオランダ・ハーグの仲裁裁判所が否定した2016年の判決に従うよう求めた。

インドネシアの地元メディアによると、ルトノ・マルスディ外相は「いかなる主張も国連海洋法条約に従ったものでなければならない」と述べた。同国のナトゥナ諸島は南シナ海の南端に位置し、周辺の排他的経済水域(EEZ)は中国が設定した境界線と重なる。付近では近年、中国船の操業が目立っている。


中国との国境問題を抱えるインドも反発した。係争地のインド北東部アルナチャルプラデシュ州の一部と中国が実効支配するカシミール地方のアクサイチンが「領土」とされたからだ。ジャイシャンカル印外相は8月29日の民放インタビューで「こんな筋の通らない主張によって、他人の領土が自分のものになることはない」と反発した。

5日から始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、中国と各国が南シナ海の紛争防止に向けて策定を目指す「行動規範」について議論する見通しだが、対立が先鋭化する可能性が出てきた。【9月2日 読売】
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東南アジア諸国では、上記のフィリピン・インドネシアの他、ベトナム・マレーシアも。

“マレーシア政府は、地図について外交的な抗議文書を提出したと表明。同国は新たな地図に何ら拘束されるものではないと述べた。(中略)

ベトナム外務省は、地図に基づく中国側の主張には何の価値もなく、ベトナムの主権と国際法に違反しているとの見解を示した。”【9月1日 ロイター】

中国外務省は、「中国の南シナ海問題での立場は一貫して明確だ」「各方面には客観的で理性的な対応を希望する」としています。

【ASEAN関連首脳会談には習近平氏・バイデン氏ともに欠席】
なお、習近平国家主席はG20(9月9日~10日 インド・ニューデリーで開催)などには出席しないことが報じられています。

****習中国主席、G20サミット欠席 李強首相が代理出席へ=関係筋****
中国の習近平国家主席はインドで来週開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)への出席を見送る見通しだと、インドと中国の関係筋がロイターに語った。李強首相が代理で出席するという。

G20首脳会議は9月9─10日にニューデリーで開催される。

関係筋は、出席見送りの理由は把握していないとしている。インドと中国の外務省はコメント要請に応じなかった。

首脳会議にはバイデン米大統領も出席する予定で、習氏がバイデン氏と会う可能性が取り沙汰されていた。習氏は昨年11月にインドネシアのバリ島で開かれたG20首脳会議の合間にバイデン大統領と会談している。【8月31日 ロイター】
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G20に先だって5日~7日にインドネシアで開催されるASEANプラス3(日中韓)首脳会議や東アジア首脳会議(EAS)にも李強首相が出席の予定です。

地図問題で中国への反発が強まる状況で開催されるASEAN関連首脳会議に習近平国家主席が出席しないということで、アメリカが会議をリードするチャンスでもありましたが、そのアメリカもバイデン大統領はG20には出席するものの、ASEAN関連首脳会議は欠席とのこと。

****米政府 バイデン氏のG20出席を正式発表 ASEAN関連会合にはハリス副大統領が出席****
アメリカ政府は、バイデン大統領が9月、インドで開かれるG20首脳会議に出席すると正式に発表しました。

ホワイトハウスは22日、バイデン大統領が9月9日から10日にかけてインドで開かれるG20首脳会議に出席し、気候変動対策やウクライナ侵攻による影響の緩和策などについて各国首脳と協議すると発表しました。(中略)

9月5日から7日にインドネシア・ジャカルタで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)の関連会合には、ハリス副大統領が出席するということです。

バイデン氏は、台頭する中国を念頭にASEAN重視の姿勢を打ち出しているだけに、その姿勢に疑念が生じると指摘する声が上がっています。

バイデン氏はその一方で、具体的な時期は示していないものの、対中国を見据えてベトナムを訪問し関係強化を進めると表明しています。【8月23日 テレ朝news】
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トランプ前大統領もEASを4年連続欠席して「アジア軽視」とも言われましたが、“バイデン大統領がASEANとの会議に出席しないことについて、サリバン補佐官は「政権のこの地域への取り組みは信じられないような実績をあげている」と強調し、地域軽視にはあたらないとの考えを示しました。”【8月23日 TBS NEWS DIG】

【アメリカ ベトナム・フィリピンとの関係強化へ】
ASEAN内部にはカンボジアやラオスといった中国の代弁者的な親中国の国、最近中国との関係を強めているタイなどもあって、中国に関する議題では結局明確な対応を示せないのはいつものことですから、あまりこの種の会議に出席しても成果は期待できないとの判断でしょうか。

それよりは、直接に二国間協議で関係を強めた方が・・・といった考えかも。
その二国間協議としては、バイデン大統領はG20出席後に南シナ海問題で中国と厳しく対立するベトナムを訪問します。

****バイデン大統領 9月のベトナム訪問発表 対中国で関係強化へ****
アメリカのホワイトハウスは、バイデン大統領が来月ベトナムを訪問し、最高指導者と会談すると発表しました。アメリカとしては最大の競合国と位置づける中国に対抗する上でベトナムとの関係を強化したい考えです。

ホワイトハウスは28日、バイデン大統領が9月10日にベトナムの首都ハノイを訪問し、最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長などと会談すると発表しました。

バイデン大統領はインドで開かれるG20=主要20か国の首脳会議に出席したあと訪問するということです。

発表によりますと両者は「アメリカとベトナムの協力関係をさらに深めるための方法を協議する」としていて、ベトナムの経済成長の促進や気候変動問題、それに地域の繁栄や安定などが議題になるとしています。

ベトナムは中国との間で強い経済的な結びつきがありますが、南シナ海の島々の領有権をめぐっては対立を抱えています。

一方、アメリカとしては最大の競合国と位置づける中国に対抗する上でベトナムとの関係強化をはかりたい考えです。

アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」は両国が関係を格上げし、外交や経済、テクノロジーの分野で協力を深めることで合意する見通しだと伝えていて、どこまで関係強化を打ち出すのか注目されています。【8月29日 NHK】
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アメリカが中国を念頭に二国間関係の強化を図っているのが上記ベトナムとフィリピン。
南シナ海をめぐって中国との関係が悪化するフィリピンでは今年、米軍が使用可能な拠点の増設が決まったばかりですが、今度は台湾から200kmほどのフィリピン最北端の離島で、米軍と地元自治体が商業港の開発を計画しています。

****米軍、台湾に面したフィリピンの港湾開発で協議中****
フィリピン最北部に位置するバタネス州バタン諸島で、米軍が商業港開発支援を巡って地元政府と話し合いを進めている。同州知事や複数のフィリピン政府高官がロイターに明かした。

米国が取り組んでいるフィリピンとの地政学的な関係強化の一環とみられ、中国側の反発を招く可能性もある。

バタン諸島は、バシー海峡を挟んで200キロ北方に台湾がある。同海峡は西太平洋と南シナ海を結ぶ航路において「チョークポイント」と呼ばれる重要な場所の1つで、特に中国が台湾に侵攻した場合には戦略的に大きな意味を持つ。台湾国防部によると、中国は同海峡に艦艇や軍用機を定期的に派遣している。

バタネス州のカイコ知事はロイターに、海が荒れた際に首都マニラからの物資を揚陸するために必要な「代替港」の建設について、米国側に資金提供を求めたと述べた。

バタン島のバスコという町にある現在の港は、高波発生時に使用できなくなるケースが頻繁にあり、昨年10月に別の港を建設することを決めたという。

フィリピン政府関係者は、米軍の部隊がこの港建設に関する協議のために最近バタネス州を訪れたと述べた。カイコ氏も、代替港建設案の検討を目的として米軍が現地にやってきたと認めた。

在フィリピン米大使館の広報担当者は、大使館と米太平洋軍の専門家がカイコ氏や地元政府の要請に基づき、建設や医療、農業分野での開発プロジェクトの支援について話し合いを行っていると説明したが、この港の問題には言及しなかった。【8月31日 ロイター】
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フィリピン・マルコス政権と中国は南シナ海領有権をめぐって対立を深めています。
2月には南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺でフィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー照射を受けました。

8月にはフィリピンが実効支配するアユンギン礁の軍事拠点に補給物資を輸送していたフィリピンの船に対し、中国海警局の船が放水銃を発射して、進路を妨害する事案も起きています。

この放水銃発射について、アメリカ国務省は「フィリピンの公船や航空機、国軍が武力攻撃を受けた場合、米国との相互防衛条約が発動することを再確認する」と警告しています。

【中国 タイとの関係強化 今後は不透明】
一方、中国はタイとの関係を強化しています。

****タイ海軍が中国と合同演習、過去最大2500人参加…クーデターで米国との関係冷え込み***
中国とタイ海軍の合同軍事演習「ブルー・ストライク」の開幕式が3日、タイ中部サッタヒープの海軍基地で行われた。10日までに過去最大となる約2500人が参加する。

演習は2010年に始まり、19年以来となる今回は5回目。中国軍は揚陸艦や潜水艦などを派遣し、災害救助や潜水艦の操作訓練などを行う。潜水艦の参加は今回が初めてとなる。

タイ海軍のチャーンチャイ司令官は式典で「演習は我々の良好な関係を反映したものだ」と述べた。韓志強・駐タイ中国大使は「タイと中国は他人ではなく兄弟だ。演習で両海軍の協力強化を期待する」と語った。

タイは14年の軍事クーデター以降、米国との関係が冷え込み、中国との軍事協力を深めている。17年には中国の潜水艦の購入契約を結び、19年に中国製揚陸艦を購入した。【9月3日 読売】
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もっとも、周知のようにタイではタクシン派政党のタイ貢献党を軸とした連立政権が成立しています。連立には従来与党の親軍政党も参加していますが、その外交方針がどのようなものになるのか、アメリカとの関係が修復されるのか・・・そのあたりはこれからの話です。

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カンボジア  フン・セン氏長男が新首相に 政権丸ごと世襲でフン・セン院政 世代交代の側面も

2023-08-22 22:10:35 | 東南アジア

(新首相に就任したフン・マネット氏=プノンペンで2023年8月22日【8月22日 毎日】)

【「世襲」新政権はフン・セン氏ら「親世代」の監視下に 新首相は欧米留学経験も】
既定路線に沿った動きで特段の意外性もありませんが、カンボジアでは先の総選挙での圧勝を受けて(有力野党を排除しての選挙ですから当然の結果です)、38年間首相を勤め強権支配の色を濃くしているフン・セン首相(71)から長男フン・マネット氏(45)への政権引継ぎが行われました。

単に首相職だけでなく、閣僚についても有力者の世襲が行われるという、権力機構全体がまるごと世襲される形です。

****カンボジアで前首相長男の新政権が発足 内相ら主要閣僚も「世襲」****
カンボジア下院は22日、40年近く実権を握ってきたフン・セン前首相(71)の長男、フン・マネット氏(45)の首相就任を承認し、新政権が発足した。

7月23日に行われた下院総選挙で与党「人民党」から出馬し初当選。同党を率いるフン・セン氏は、総選挙前からフン・マネット氏を後継指名し、新内閣の人選にも強く関与したとされる。フン・セン氏は来年には上院議長に就くとみられており、今後も「院政」を敷いて影響力を維持する見通しだ。

新内閣の顔ぶれは40〜50代が中心で若返りが図られたが、首相だけでなく内相や国防相といった主要閣僚も「世襲」で選ばれた。新政権はフン・セン氏ら「親世代」の監視下に置かれることになり、前政権の方針を踏襲することになる。また、外交面でもこれまでの親中路線から大きく変わらないとみられる。

中国の王毅外相は13日にプノンペンで、首相就任前のフン・マネット氏といち早く会談した。中国はカンボジアを海洋戦略の重要拠点と位置づけており、経済支援と引き換えにフン・セン氏の親中政策の継承を確認したとみられる。

 ◇欧米諸国は関係改善を期待
一方、欧米諸国は米英両国に留学経験があるフン・マネット氏に関係改善を期待する。これまで強権的なフン・セン氏を非難し、厳しい制裁を科してきたが、今回の下院選をめぐっては、態度を少し軟化させた。

フン・マネット氏は9月以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議や国連総会への出席が予定されており、欧米諸国を意識してバランスを考慮するのかが注目される。

今後の政権運営について、新潟国際情報大の山田裕史准教授(カンボジア政治)は「閣僚ポストは親世代の間の権力関係で決まり、内戦とその後の国家再建といった共通の経験もない。子世代が親世代のように長期にわたって結束を維持できるかわからない」と指摘している。【8月22日 毎日】
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フン・セン首相は、ポルポトの恐怖政治・内戦というカンボジアの未曽有の悲劇を国民とともに経験してきた人物であり、その点では国民との一体感もあったのかも。

そういう国民との、そして有力政治家との共通体験を持たない「子世代」政権がどのように機能するのか注目されます。

10年ほどはフン・セン氏が上院議長職などにとどまり院政を敷くとされていますから、世代が変わると、おのずから政治姿勢にも変化が・・・・あって欲しいものですが、どうでしょうか?

“フン・マネット氏は45歳で、欧米で学んだ後は軍に入隊して陸軍司令官を務めましたが、政治経験はありません。”【8月22日 日テレNEWS】ということで、欧米的価値観も一定に認識しているのでは・・・という期待もあります。

もっとも、北朝鮮の金正恩氏もスイスで学んでいましたが・・・
ただ、米国の陸軍士官学校をカンボジア人として初めて卒業、さらに、米ニューヨーク大学で経済学の修士号、英ブリストル大学で博士号を取得と、軍務でも学問でもなかなかの才能のようです。

【親中国路線は継承】
当面は、前政権方針を引き継ぐ形でしょう。
【毎日】記事にもあるように、13日には“後ろ盾”中国の王毅共産党政治局員兼外相がカンボジアに乗り込んで、フン・マネット氏との会談を済ませています。

****カンボジア世襲後も中国と連携 次期首相が王毅氏と会談****
カンボジアの次期首相に指名されたフン・マネット氏(45)は13日、首都プノンペンで中国の王毅共産党政治局員兼外相と会談した。カンボジアの国営通信社などが伝えた。世襲による新内閣発足前に両国連携の維持と発展を確認したとみられる。

中国は巨大経済圏構想「一帯一路」の下、高速道路や空港といったインフラ整備で巨額の支援を実施してきた。王毅氏は父親のフン・セン首相(71)とも13日会談し、カンボジアへの「継続的な支援と援助」を表明、新内閣への支持を示した。

40年近く権力の座を維持してきたカンボジアのフン・セン氏は近年、強権姿勢を強めており中国への傾斜を進める。【8月13日 共同】
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【閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子ども】
それにしても、“閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子ども”という“政権丸ごと世襲”というのも、「そこまでやるか?」という感じも。

****フン・マネット内閣を承認 私物化批判、カンボジア****
カンボジア下院は22日、40年近く首相を務めたフン・セン氏(71)の後継として長男フン・マネット氏(45)を選任し、世襲による新内閣を承認した。フン・セン氏一族らによる政権の私物化への批判は必至だ。22日午後にも王宮で宣誓就任し、新内閣が正式に発足する。

7月の下院選で有力野党が排除され、与党カンボジア人民党がほぼ全議席を独占した。人民党関係者によると、閣僚のうち10人超がフン・セン氏や側近といった人民党有力者の子どもだ。

フン・セン氏の三男フン・マニー氏(40)や、サイ・チュム上院議長の息子サイ・ソムオル氏(43)が入閣。内相や国防相ポストはそれぞれ世襲となり、世代交代は進んだ。フン・セン政権の閣僚は60代や70代が中心だった。

2006年に下院議長に就任したヘン・サムリン氏(89)の後任は、フン・セン氏一族に近いクオン・ソダリー氏(70)。初の女性議長だという。

閣僚を選んだのはフン・セン氏で、1年以上前から名簿作成に着手していた。【8月22日 共同】
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7月25日ブログ“カンボジア 静かに終わったフン・セン独裁・世襲を正当化するための「総選挙」 後退する民主主義”にも書いたように、“政権の私物化との批判は必至・・・・誰が批判するのか? 議会には野党勢力は実質的になく、社会全体にフン・セン首相の強権支配が及んでいます。 国内では批判が表面化しないところが一番の問題です。”といったところ。

とにもかくにも、フン・マネット新首相がどういう政治を行うのか・・・注目です。
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ベトナム  海外需要減少で外需依存度が高いベトナム経済が後退 進むアメリカの「中国包囲網」構築

2023-08-21 23:18:59 | 東南アジア

(【8月18日 産経】に一部追加)

【米欧中の景気低迷 外需依存度が高いベトナムの景気後退】
不動産大手「中国恒大集団」が17日、アメリカの裁判所に破産法の適用を申請したことなど、中国不動産市場の低迷・混乱、更に若者の失業率の高さ、巨額債務を抱える地方政府の財政問題など、中国経済の後退は連日報じられています。

中国のような大きな経済圏の景気動向は、日本を含めた経済関係を有する多くの国々へ影響が及びます。

中国だけでなく、欧米の需要も停滞しており、途上国からの輸出が減少しています。とりわけ、外需依存の高いベトナムのような国には大きな影響があります。

****輸出減少で新興国景気が減速****
─ 背景にある世界的な在庫調整は当面続く見通し ─

新興国では、主要な需要地である米国、欧州、中国向けの輸出が減少。背景には世界的な在庫調整による財需要の減少があり、当面は輸出の下振れが続く見通し

そのため、新興国では外需依存の高い国を中心に景気は減速へ。なかでもベトナムへの影響は大きく、輸出の減少が関連産業の雇用・所得を通じ、内需にも波及しやすい試算結果

足元で内需が堅調なメキシコや、インバウンド需要の回復に沸くタイも、在庫調整の影響が当面続くと予想されることから、今後は輸出減少が内需に波及するリスクに要注意【7月24日 井上 淳氏 みずほリサーチ&テクノロジーズ】
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“米欧中向け消費財輸出のGDP比率をみると、ベトナムでは2割に達する。したがって、足元の米欧中で進行する在庫調整と、それに伴う財需要の減少は、特にベトナム経済にとって大きな下押し圧力になっていると考えられる”【同上】とのこと。

ベトナムに関しては、4月20日ブログ“ベトナム 成長が期待される経済 反汚職キャンぺーンの国内政治 外交では米中間で微妙なバランス”で、“ベトナム経済は成長著しく、「人口が間もなく1億人を突破して、世界で15番目の人口1億超えの国となり、昨年のGDP成長率は8%超だ」(中国メディアの毎日経済新聞)と、「明るい未来」が期待されています。”と経済面の「明るい未来」を取り上げたのですが、目下の状況は話が違うようです。

****ベトナム経済失速、5000人余りの中国人投資家がインドネシアへ―中国メディア****
2023年5月23日、騰訊新聞は、今年に入ってベトナムの経済成長にブレーキがかかり、中国人がベトナムから離れ始めていると報じた。

記事は、21年夏ごろに「次の世界になるのはベトナムだ」との議論が活発に繰り広げられ、22年のベトナムの経済成長率も8%に達したとする一方で、今年1〜3月期の成長率は3.3%にとどまり、同国政府が定めていた6.5%の目標を大きく下回ったと紹介。

同国経済の急減速は米国市場への過度の依存が背景にあり、米国経済の成長鈍化とインフレによる消費の冷え込みで、ベトナムの輸出が大きく減少したと伝えている。
一方、東南アジア経済への熱視線は相変わらずで、今年に入って中国企業は主にインドネシアにターゲットを定めるようになったと指摘。(後略)【5月25日 レコードチャイナ】
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【ベトナムに多い「一発逆転」の再起を狙う韓国人 その夢もベトナムの不動産バブル崩壊で萎む】
意外だったのは、ベトナムには一発逆転を狙ってやってくる韓国人が多いということ。
ベトナムと韓国の間にはベトナム戦争への韓国参戦による問題が今も尾を引いている・・・という微妙な関係にあるだけに。(5月26日ブログ“韓国 ベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺の賠償責任を初めて認定する判決 政権は「調査せず」”)

ベトナムの景気後退で、そうした韓国人の“一発逆転”の夢が萎んでいるとのことです。

****夢に終わった「一発逆転」、ベトナムでバブル崩壊に巻き込まれた韓国人たち****
ベトナムに滞在していると不思議に思うことがある。それはベトナムに多くの韓国人が暮らしていることだ。日本人は約2万人だが、韓国人は20万人以上がベトナムに住む。ハノイやホーチミン市にはコリアンタウンがある。

韓国の人口は日本の4割程度でしかないのに、なぜ日本人の10倍以上もの韓国人がベトナムに住んでいるのであろうか。

「負け組」が一発逆転を狙ってベトナムに
歴史の中でベトナムと韓国の仲が特に良かったと言うわけでもない。むしろその逆で、ベトナム人は韓国人に対して複雑な感情を抱いている。それはベトナム戦争の時に韓国が米国の要請に従って多くの兵士をベトナムに送ったためだ。ベトナム人は韓国軍兵士が行った数々の残虐行為を今も記憶している。

ベトナム人は日本人と韓国人を識別することができないので、レストランなどで韓国人と間違われることがある。私が自分は日本人だと言うと、おしなべて好意的な態度を示してくれる。おぼつかない英語で「日本人は好きだが、韓国人は嫌いだ」という人までいる。

韓国人は広く東南アジア全体に住んでいるわけではない。特に多く住んでいるのがベトナムだ。私はベトナムに華僑が少ないことが、その理由ではないかと考えている。南北統一後にベトナム政府が南ベトナムにいた華僑を排斥したために、東南アジアの中でベトナムは例外的に華僑が少ない国になっている。

朝鮮半島に住む人々は長い歴史の中で、中国人と付き合うことの難しさを知り抜いている。中国人は朝鮮半島に住む人々の上に立とうとする。中国に進出した韓国企業は日本企業以上にさまざまな嫌がらせを受けてきた。そんな韓国人は、華僑が少ないベトナムを選んで進出したのだろう。

ベトナムにやってくる多くの韓国人はエリートではない。ごく普通の韓国人がベトナムにやって来て、焼肉屋やカフェなどを経営している。

韓国は熾烈な競争社会であり、かつ学歴社会。ソウル大学など一流大学を出て財閥系企業に就職できなかった者は、医者や弁護士を除けば「負け組」とされる。そんな社会なので、「負け組」が一発逆転を狙ってベトナムにやって来るとも言われる。

韓国人は日本人よりもビジネスに積極的だ。ベトナムで何度もそのような話を聞かされた。一発逆転のチャンスがあると聞けば、ベトナムにまでやって来て自分で焼肉店を開業する。そのチャレンジ精神はバブル崩壊後に、何事につけても消極的になってしまった日本人とは大きく異なる。

逆回転し始めた不動産投資
しかしそんな韓国に逆風が吹き始めた。それはベトナムで不動産バブルの崩壊が始まったからだ。ベトナムにも住宅の価格は絶対に下がらないとする神話が存在した。だが、昨年(2022年)の秋から不動産価格の下落が始まった。ベトナムの不動産バブルは中国ほど膨らんではいないものの、それでもその崩壊は経済に大きな影響を与え始めた。今年になって倒産件数が急増している。

ベトナムに進出した韓国人もバブル崩壊の影響を受けている。ベトナムでは新築マンションが販売される際に、総戸数の30%までは外国人が購入できる。韓国人が値上がりを期待して不動産を購入しているとの噂をよく耳にした。「なぜ日本人は買わないのか?」「日本人は消極的だ」昨年夏頃までベトナム人からそんな非難がましい言葉を聞いたものだ。

だが、その不動産投資が逆回転し始めた。そして景気が低迷する中で売り上げが急減し、廃業に追い込まれる飲食店も増えている。

こんな噂を聞いた。韓国人は信用できない。事業が上手く行かなくなると夜逃げして韓国に帰ってしまう。確かに個人が営業する焼肉店やカフェの経営がうまくいかなくなった時には、そのようなことも起きるのだろう。それに比べて日本人は信用できると言っていた。

だが、そもそも個人でベトナムに来て飲食店などを経営する日本人は少ない。多くは日本に本社がある会社の駐在員であり、バブル崩壊が始まったからと言って夜逃げするような立場に追い込まれる人は稀であろう。

中国だけでなくベトナムでもバブルの崩壊が始まった。少し焦点を引いてみれば、これは東アジアにおいて、橋や道路を造り港湾や学校などを整備することによって経済を発展させる時代が終わったことを示している。

日本ではハコモノへの無駄な投資をなくすことは小泉改革や民主党政権の重要な課題であったが、中国やベトナムは今まさにそのような時代を迎えようとしている。(後略)【8月21日 川島 博之氏 JBpress】
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【南シナ海領有権での中国との対立を背景にアメリカとの関係強化】
外交的には米中間でバランスをとるベトナムですが、南シナ海での領有権をめぐる中国との対立が続いています。

****中国、南シナ海で新たに滑走路建設…ベトナム沿岸に最も近いトリトン島****
香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは18日、南シナ海のパラセル(西沙)諸島のトリトン(中建)島で、中国が新たに滑走路を建設していると報じた。

トリトン島は中国が実効支配し、ベトナムなどが領有権を主張している。輸送能力を高め、実効支配を強める狙いがあるとみられる。

同紙が報じた衛星写真の分析によると、建設中の滑走路は東西約630メートルと比較的短く、利用できる軍用機の大きさには制限があるとみられる。

トリトン島はパラセル諸島の中でベトナム沿岸に最も近く、島には既にヘリポートやレーダー施設があるという。中国軍はトリトン島で軍事訓練を行うなど軍事拠点化を進めている。【8月19日 読売】
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そうした中国との緊張を背景に、アメリカとの関係強化の動きが見られます。

****バイデン米大統領、ベトナムと戦略パートナーシップ協定署名へ=報道****
バイデン米大統領は9月中旬に予定されているベトナム訪問で、同国と戦略パートナーシップ協定に署名する方針だ。米政治専門サイトのポリティコが関係者3人の話として報じた。

ポリティコは、協定締結によりベトナムの半導体生産や人口知能(AI)などのハイテク産業の発展に向けた新たな両国間の協力が可能になるとしている。【8月19日 ロイター】
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【進むアメリカの「中国包囲網」構築 反発を強める中国】
周知のように、18日にアメリカ・キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談で、3か国の首脳は中国や北朝鮮の動きに対応するため、安全保障面を中心に連携の強化を確認しました。

3首脳は「日米韓パートナーシップの新時代」を宣言し、3か国の協力を北朝鮮対応だけでなく、インド太平洋地域全体の平和と安定を強化する枠組みとして打ち出しました。

南シナ海をめぐる問題では、アメリカはフィリピンとの関係も強化しています。

高齢に伴う問題が指摘されるバイデン大統領ですが、外交面での「中国包囲網」構築は着々と成果をあげているようです。

****日米韓で中国対処へ バイデン米政権が構築する多層ネットワークの一環****
バイデン米大統領は18日にキャンプデービッドで開く日米韓首脳会談で、防衛や経済安全保障における3カ国の協力強化を目指す。米国は「唯一の競争相手」と位置付ける中国への対処のため、インド太平洋地域でさまざまな多国間枠組みを構築している。日米韓も対北朝鮮にとどまらず、中国をにらんだ多層なネットワークの一環としたい考えだ。

フィリピンも取り込み
ブリンケン国務長官は15日の記者会見で、日米韓首脳会談に関して「われわれの地域と世界が地政学的競争により試されている瞬間に開かれる」と述べた。念頭にあるのは中国やロシア、北朝鮮の脅威であり、その対処のためにも日米韓連携の重要性が増しているとの認識をにじませた。

インド太平洋での中国への対抗のため、バイデン政権はすでに英国、オーストラリアとの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を立ち上げ、日豪のほかインドも加わる協力枠組み「クアッド」を通じた取り組みを重視してきた。

最近ではさらに南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンの取り込みも急ぐ。同国で昨年、マルコス大統領が誕生して前政権の対中融和から対米重視に転換したのを好機として、日米比の安保担当高官による新たな協議の枠組みを6月に設置。豪州も交えた4カ国防衛相の初の会談も開いた。

台湾有事への対処能力引き上げ
中国が経済力を背景に浸透を図る南太平洋地域では、日英豪やニュージーランドなどと、太平洋島嶼(とうしょ)国を支援する枠組み「ブルーパシフィックにおけるパートナー」も構築している。

米国が首脳会談の定例化など「制度化」を目指す日本と韓国は中国の隣国であり、中国対応の最前線に位置する。両国には米軍基地があり、3カ国が緊密な連携をとれれば、台湾有事への対処能力を引き上げることになり、対中抑止力を高めることにもなる。

バイデン政権は多彩な枠組みを通じて、軍事分野のみならず、中国との競争に打ち勝つため、新興技術の開発やサプライチェーン(供給網)の強靱化など非軍事分野での対処も重視する。半導体産業に強い韓国との協力強化は経済安全保障にとっても重要となる。【8月18日 産経】
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中国はこうした「包囲網」形成に警戒感を強めています。

****習政権は「包囲網」と警戒 頼氏訪米では軍事演習****
日米韓3カ国が安全保障面で協力強化に動いていることを、中国の習近平政権は「中国包囲網」の強化につながるとして警戒している。習政権は、台湾の頼清徳副総統の立ち寄りを許したとして米国に反発し、19日に台湾周辺で軍事演習を行った。

中国外務省の汪文斌報道官は18日の記者会見で、日米韓首脳会談について「陣営対立や軍事グループをアジア太平洋地域に引き入れるくわだては人心を得ず、地域国の警戒と反対を引き起こす」と非難した。

習政権は、米国が同盟国などとアジア太平洋地域で協力を進めていることを「アジア太平洋版NATO(北大西洋条約機構)」などと呼んで警戒をあらわにしている。硬軟両様の手法で3カ国の連携にくさびを打つ構えを見せている。

一方、中国人民解放軍で台湾方面を管轄する東部戦区の報道官は19日、台湾周辺で軍事演習やパトロールを同日行ったと発表した。報道官は談話で「これは『台湾独立』分裂勢力と外部勢力が結託した挑発に対する重大な警告だ」と強調。頼氏が南米パラグアイ訪問に際して米国に立ち寄ったことへの対抗措置との事実上表明した。

演習は艦船と航空機の連携に重点を置いており、「実戦能力」の検証を行ったと説明した。中国国営中央テレビによると、海軍の多数の駆逐艦や護衛艦、空軍の戦闘機、ロケット軍などの部隊が加わった。

中国軍は今年4月、台湾の蔡英文総統が訪米してマッカーシー米下院議長と会談した後、台湾周辺で軍事演習を実施。その際の演習期間は3日間で、国産空母「山東」も参加した。【8月19日 産経】
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戦前、日本の台頭・アジア進出に対してABCD包囲網といったものがあり、石油などの資源調達が困難になる日本は包囲網の軍事的突破を試み、太平洋戦争突入、そして敗戦の道を進むことになりましたが・・・・。
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フィリピン  南シナ海で相次ぐ中国とのトラブル 今回は“違法”放水

2023-08-08 23:42:59 | 東南アジア

(【8月6日 TBS NEWS DIG】)

【アメリカとの防衛協力を強化するマルコス政権 南シナ海をめぐり中国との間で高まる緊張】
南シナ海における中国とフィリピンの領有権をめぐる争いは以前からのもので、2014年には中国がその範囲内の南シナ海の領有権を主張するいわゆる「九段線」について、フィリピンは国際海洋法条約の違反や法的な根拠がないことを確認すべく常設仲裁裁判所に提訴、2016年7月には、中国が主張する九段線内の歴史的権利について「国際法上の法的根拠がなく、国際法に反する」との判決が示されました。

ただ、ドゥテルテ前政権は実質的に上記判決を棚上げする形で、中国との経済関係を重視してきました。同時にアメリカとの関係も悪化。

マルコス政権は中国との経済関係は重視しつつも、安全保障面についてはアメリカとの関係を強化。今年に入ると、南シナ海における中国との緊張が高まっています。

2月にはレーザー照射事件が発生。

****フィリピン、中国に自制呼びかけ 海警局船の妨害行為受け****
フィリピン国防省は(2月)13日、中国は強引な行為を慎み、「挑発行為」を冒さないようにすべきだと指摘した。フィリピン沿岸警備隊はこの日、南シナ海で中国海警局の船が妨害行為をしたと非難している。

国防省の報道官は記者団に「人命を危険にさらすような挑発行為を中国政府は慎むべき時だ」と述べた。ガルベス国防相は中国海警局の行為は「攻撃的で危険」と指摘したという。

フィリピン沿岸警備隊によると、今月6日に南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁にある海軍拠点への補給活動を行う船に対し、中国海警局の船が「軍事級のレーザー」を照射して妨害した。ブリッジにいた乗組員がレーザー照射を受け、一時的に前が見えなくなるなど危険な状況を招いたという。

「フィリピン政府船によるが軍兵士への食料・物資の補給を意図的に妨害したことは、西フィリピン海(南シナ海)におけるフィリピンの主権をあからさまに無視し、明確に侵害している」とした。

中国外務省は、フィリピン政府の非難に関する質問に、海警局は法にのっとって行動していると説明した。(後略)【2月13日 ロイター】
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フィリピン大統領府は4月3日、アメリカとの「防衛協力強化協定」(EDCA)に基づき、新たに米軍が使用できるフィリピン国内の拠点4カ所を公表しました。南シナ海や台湾における中国を念頭に置いた拠点で、中国側は反発を強めています。

****米軍、台湾近くに3拠点…中国念頭にフィリピンが追加候補発表****
フィリピン大統領府は(4月)3日、比国内で米軍が使用できる追加の4拠点の候補地を発表した。台湾に近い比北部や南シナ海に面したパラワン島近くの拠点が含まれ、海洋進出を強める中国への抑止力強化が念頭にあるとみられる。中国側の反発は必至だ。(中略)

米比は2016年、「防衛協力強化協定(EDCA)」に基づき、米軍が使用できる拠点5か所を指定。今年2月には米国のオースティン国防長官とカリート・ガルベス比国防相が拠点を4か所追加することで合意した。

両国は拠点の整備を本格化させており、3月にはマニラ郊外のバサ空軍基地で滑走路の改修工事が始まった。拠点が整備されれば、米軍はフィリピン各地で装備の備蓄などができ、機動的な部隊展開が可能になる【4月4日 読売】
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なお、マルコス大統領は、「わが国の基地については、攻撃行動への使用は一切認めない。フィリピンが助けを必要とする時に、支援のためだけに使用される」と述べています。

この時期、100隻を超える中国船が集結する事態も。

****南シナ海に「海上民兵」か、中国船100隻以上が集結…退役軍人・漁民で構成****
フィリピン沿岸警備隊は28日、南シナ海の排他的経済水域(EEZ)などで行ったパトロールで、中国軍や中国海警局などを含む中国船計100隻以上を確認したと発表した。

パトロールは18〜24日に行われた。2021年3月に中国船200隻以上が集結したウィットスン礁付近では、100隻以上が確認された。比当局は、中国の退役軍人や漁民らで構成する「海上民兵」が乗っているとみている。(後略)【4月29日 読売】
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4月23日には中比両国が領有権を争うアユンギン礁近くで、中国海警局の船がフィリピン沿岸警備隊の巡視船に約50メートルの距離まで接近し、進路を妨害する“ニアミス”も発生。フィリピンの巡視船が停止し、衝突は寸前で避けられました。

5月に訪米したマルコス大統領はバイデン大統領と会談し、防衛協力を定めたガイドライン(指針)を策定、米比両国の防衛協力体制が強化されました。

****米フィリピン首脳が会談、台湾有事念頭に防衛協力のガイドライン策定****
米国のバイデン大統領とフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は1日、ホワイトハウスで会談した。台湾有事を念頭に米比両軍の相互運用性を向上させるため、両国の防衛協力を定めたガイドライン(指針)を策定した。

共同声明では、太平洋でフィリピン軍の艦艇や航空機などへの攻撃があった場合、「米比の相互防衛条約に基づき防衛義務を発動する」と明記し、南シナ海などで挑発的な行動を続ける中国を強くけん制した。日本を含めた3か国間の協力態勢の構築にも言及した。

バイデン氏は会談で「米国のフィリピン防衛への責任は揺るぎなく、軍の近代化を引き続き支援する」と強調した。米国がC130輸送機3機や巡視船4隻を供与することも表明した。

マルコス氏は「南シナ海やインド太平洋で緊張が高まる中、唯一の条約同盟国との関係を強化し、我々が果たす役割を再定義するのは当然のことだ」と応じた。

指針では両国の優先事項を再確認し、有事の協力枠組みを規定している。指針に沿って今後、防衛力の強化や情報共有を進める構えだ。

米比両国の接近に中国は警戒を強め、経済支援をテコに巻き返しを図ろうとしている。こうした動きを念頭に、エネルギーや食料安全保障分野などで米国がフィリピンへの投資を拡大するため、交渉団を派遣するなど経済協力を進めることも確認した。【5月2日 読売】
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【フィリピンが量級軍艦を座礁させて実効支配の拠点とするアユンギン礁】
なお、中国・フィリピンの“衝突”の海域となているのが南沙(英語名スプラトリー)諸島のアユンギン礁周辺。

フィリピンは1999年、シエラマドレ号と名付けた老朽戦車揚陸艦をアユンギン礁に座礁させ実効支配の拠点としています。中国がフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるミスチーフ礁に建造物を構築したことへの対抗措置です。

船倉は巨大なゴミ屋敷、ネズミやゴキブリが這いまわる、梁を踏んで歩かないと踏み抜いてしまう・・・といった廃船状態ですが、フィリピン国軍は海兵隊員らを約10人ずつ交代で常駐させています。(修理・改造は中国を刺激するので出来ないのでしょう) 中国側は当時から撤去を強く求めています。

【アユンギン礁で今度は中国艦船による“違法”放水】
“衝突”はこの常駐兵士への食糧・水などの補給活動のための船と中国側の警備船との間で起きていますが、今回もまた・・・。

****南シナ海で中国艦船がフィリピン船に“違法”放水 「国際法違反の危険な行為」とフィリピンは非難 「排他的経済水域での全ての違法行為を中止せよ」と要求 ****
フィリピン沿岸警備隊は6日、南シナ海を航行中の沿岸警備隊の船に対し、中国海警局の船が「違法な放水を行なった」として強く非難しました。

画面右側の船に対し、勢いよく放水を行う巨大な艦船。この映像は、フィリピンの沿岸警備隊が6日、公開したものです。

フィリピン沿岸警備隊によりますと、南シナ海で5日、フィリピン軍が駐留するアユギン礁へ水や食料などを輸送する船が向かっていたところ、先導していた沿岸警備隊の船に対し、中国海警局の艦船が放水を行ったということです。

この放水についてフィリピンの沿岸警備隊は「国際法に違反した危険な行動だ」と強く非難。中国側に「フィリピンの排他的経済水域における全ての違法行為を中止せよ」と要求しました。

南シナ海では、中国とフィリピンが領有権をめぐり対立していて、これまでにも両国の船が異常接近したり、100隻を超える中国船が集結したりする事態が起きています。【8月6日 TBS NEWS DIG】
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****「衝突避けるため」中国側がフィリピン側の非難に反論 南シナ海で中国公船が放水****
(中略)これに対し、中国海警局は7日、声明を発表し、「フィリピン側が再三の警告にもかかわらず無理矢理、2隻の船をアユンギン礁に進入させようとした。衝突を避けるために放水を行ったが、専門的で抑制的な行為で非難を受けるいわれはない」と反論しました。

アユンギン礁を巡っては中国とフィリピンが領有権を巡って争っています。【8月7日 テレ朝news】
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フィリピン側は2016年の仲裁裁判所による判決を改めて主張していますが、中国側は「仲裁裁判決は違法で無効だ」と反論。

****中国海警局の船、南シナ海でフィリピン船に放水…比のEEZ認めた「仲裁裁の判決は無効」****
(中略)フィリピンは1999年以降、同礁を座礁船を使って実効支配している。2016年の仲裁裁判所による判決ではフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認められた。

比側は「仲裁裁判決を含む国際法に違反している」と非難し、中国大使を呼び出して抗議した。8日には比外務省による声明で「我々の海域での違法行為をただちにやめる」よう求めた。

米国務省は報道官による5日の声明で「中国の行為は地域の平和と安全を脅かす」としてフィリピンへの支持を表明。越川和彦・駐比日本大使もSNSに「(中国の行為は)全く受け入れられない」と投稿した。

中国外務省は8日、比側の対応に抗議したことを明らかにし、「仲裁裁判決は違法で無効だ。判決に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と反発した。(後略)【8月8日 読売】
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中国は、フィリピンがアユンギン礁に座礁させた軍艦の撤去を改めて求めています。

****中国、フィリピンに南シナ海の軍艦撤去を改めて要求****
中国外務省は8日、フィリピンに対し、南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)に座礁させてある軍艦を撤去するよう求めた。

外交ルートを通じて「何度も」セカンド・トーマス礁の問題についてフィリピンに伝えてきたが、フィリピン側はその善意と誠意を「無視」していると指摘。中国は依然として、協議を通じてフィリピンとの海洋問題に対応していくことに前向きだとした。中国は前日にも、この軍艦の撤去を求めていた。(後略)【8月8日 ロイター】
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【常設仲裁裁判所判決から7年】
南シナ海、九段線をめぐっては、映画『バービー』も問題となりました。

****フィリピンは映画バービーの九段線はフィクションと、日本での対応は不明****
フィリピン外務省は、2023年7月21日に公開予定である映画『バービー』に中国政府が他国の了承を得ずに一方的に主張している九段線が登場していることに関して、単なるフィクションであり特段の問題はないとの認識を示した。

新作映画『バービー』は、配給はアメリカ合衆国のワーナー・ブラザース、監督はグレタ・ガーウィグ氏、主演はマーゴット・ロビー主演が務めている映画となる。この映画は、世界的にヒットした着せ替え人形バービーの実写化したものとなる。

ベトナム政府では、『バービー』が7月21日に公開される予定であったため、事前に映画内容の確認をした結果、ベトナム国内における上映を許可しなかった。その理由は、作中において、中国がベトナムの了承を得ずに一方的に主張している境界線である「九段線」を示した地図が登場するシーンがあるためであった。

配給元であるアメリカのワーナー・ブラザースは、中国に進出をすることを目的として、2015年に中国の投資ファンドのチャイナ・メディア・キャピタルと合弁会社を設立しており、中国当局の意向に従わざるをえない状況となっていた。そのためか、今回の「九段線」の問題に関しては、特に何かの主張をしたいわけではないとの旨の見解を示していた。

フィリピン政府では、この問題を調査した結果、「九段線」は架空の世界における架空の線であるだろうとして、深い意味はないだろうとの見解を示した。しかしながら、誤解を防ぐためにも、国内の映画テレビ審査分類委員会に対して、適切な対応を行うように指示をした。フィリピン国内メディアによると、地図にぼかしを入れるよう要請したとしている。

なお、日本国内でも映画『バービー』は8月11日に公開される予定であるが、日本版では「九段線」に関しては、どのような対応が取られるかは、現時点では不明である。【7月13日 ASEAN PORTAL】
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ワーナー・ブラザースの広報は米娯楽誌バラエティに対し、この地図は「子どもがクレヨンで描いたような絵」で、「何らかの主張を意図したわけではない」とコメント。

“審査担当者が問題とされた地図について「子どものような描き方で、欧州、北米、南米、アフリカ、アジア周辺の陸地の多くの場所に破線が書かれていた。アジア大陸の周囲に見える破線は8本しかなかった。そして、地図上ではフィリピン、マレーシア、インドネシアも見られなかった」と語り、あくまでも虚構のストーリーにおける虚構の地図であるとの認識を示した”【7月13日 レコードチャイナ】

フィリピンの審査機関の判断が示された7月12日は、「九段線」をめぐる中国の主張に対してオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が「国際法上の法的根拠がなく、国際法に反する」との判断を下してからちょうど7年に当たる日。

ことさらに政治問題化させることを避けたい配慮もあったのか、なかったのか・・・。

****中国大使館前で抗議行動=南シナ海仲裁判決から7年―フィリピン****
オランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海での中国の領有権主張を退けた判決から7年となった12日、フィリピンのマニラ首都圏マカティ市にある中国大使館前で、活動家らが中国船の南シナ海への不法侵入の中止を訴えた。

中国とフィリピンは南シナ海の領有権を巡り争っている。活動家の団体は、12日を「西フィリピン海(南シナ海)の日」として抗議した。団体代表者は「われわれはハーグでの勝利を誇りに思うとともに、漁業関係者や海軍、沿岸警備隊の勇気ある行動に敬意を表する」などと述べた。

中国外務省の汪文斌副報道局長は12日の記者会見で、判決は「無効」とする従来の主張を繰り返し、「当該判決に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と述べた。南シナ海における中国の主権は「歴史的な根拠があり、判決の影響を受けない」と強弁した。【7月12日 時事】 
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ラオス  「一帯一路」の目玉プロジェクト、中国ラオス鉄道 進行する「中国化」

2023-07-28 23:28:25 | 東南アジア

(【7月25日 WSJ】)

【中国ラオス鉄道、「一帯一路」の目玉プロジェクト 将来的にはタイ・マレーシアまで延伸】
東南アジアの国々の現在の政治状況などについては、ニュース等である程度は見聞きするのですが、そうしたなかでほとんど情報に接することがないのがラオス。北朝鮮のように別に情報を遮断している訳ではありませんが、ちょっと“謎の国”ようなところも。政治的にも、経済的にも国際的に関心を引くようなものがあまりないため・・・というのが正直なところ。

面積は日本の6割強ほどですが、国土の約70%は高原や山岳地帯で、人口は733万人と小規模。
政治的にはラオス人民革命党による一党独裁で、経済的には中国・ベトナムのような市場経済を導入しています。

外交面では、後述のように中国の影響力が非常に強く、ASEAN内にあって、カンボジアと並んで中国の代弁者的な役割を果たしてもいます。

そんなラオスが国際的に取り上げられる機会が多いのは、中国支援による中国ラオス鉄道の話題でしょう。

中国ラオス鉄道は、中国雲南省昆明とラオス首都ビエンチャンを結ぶ高速鉄道で、中国側の発表によれば、コロナ禍の影響は受けたものの、利用者数は順調に回復・増加しいるとのこと。

****中国ラオス鉄道 累計乗客数が900万人突破****
中国鉄路昆明局集団が(1月)5日に明らかにしたところによりますと、中国ラオス鉄道は開通から1年余りを経て、沿線の人々の移動を大変便利にし、幅広く好評を得ています。

新型コロナウイルスの感染対策が新たな段階に入り、観光や帰省などのニーズの増加と共に中国ラオス鉄道の利用客数も徐々に回復しつつあり、1月5日現在、同鉄道の利用客数は延べ900万人を突破し、うち、中国国内区間が754万人、国外区間が146万人となっているということです。

中国鉄路昆明局昆明駅の袁佳当直駅長は、年明けから客足が徐々に回復しており、1日当たりの平均乗客数は約2万9千人、旅客輸送量は前年同期比で約2倍に達し、旅客のニーズに合わせて国内区間の高速列車を1日平均20本にまで増便したと話しました。

国外区間でも乗客数は安定的な伸びを見せており、当初の2往復からピーク時の5往復に増便されています。(後略)【1月8日 レコードチャイナ】
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今年4月には昆明とビエンチャンを結ぶおよそ1000キロの区間で直通の旅客運行も開始されました。

****中国=ラオスを結ぶ高速鉄道 直通の旅客運行始まる****
中国が掲げる経済圏構想「一帯一路」の目玉プロジェクトである中国ラオス鉄道について、両国を直通で結ぶ高速鉄道の旅客運行が始まりました。

中国ラオス鉄道は13日、中国南部の雲南省・昆明とラオスの首都ビエンチャンを結ぶおよそ1000キロの区間で直通の旅客運行を開始しました。

2021年に開通した中国ラオス鉄道はこれまで、国境での乗り換えが必要でしたが、コロナ禍でもすでにおよそ1400万人が利用しています。

輸送された貨物量も300万トンを超えるなど経済効果も大きく、ラオスの中国依存が強まる可能性もあります。

中国ラオス鉄道を巡っては、将来的にさらに南下してタイやマレーシアを通りシンガポールまで延伸する構想も示されています。【4月13日 テレ朝news】
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個人的にはこれまで2回観光でラオスを訪れていますが、中国雲南省・ラオス、更にはタイ・マレーシアを結ぶ観光路線として非常に関心があります。国際的にこの中国ラオス鉄道が注目されるのは、上記記事でも触れているように、中国が掲げる経済圏構想「一帯一路」の目玉プロジェクトであること、将来的にはタイ・マレーシアまで南下して、中国の東南アジア進出を象徴する鉄道になると予想されていることによります。

【「債務の罠」をめぐる議論】
また、「一帯一路」の目玉プロジェクトということで、いわゆる「債務の罠」の問題が常に論じられています。
こうした批判に中国側は、「関係国の救済に力を尽くしている」(ここ数日、失脚したと話題になっている秦剛外相)とのこと。

****一帯一路構想10年 中国とラオスを結ぶ鉄道 「債務の罠」批判に中国は…****
(中略)この鉄道は、中国が推し進める巨大経済圏構想「一帯一路」の一環で作られたものです。このような中国が展開する巨大プロジェクトをめぐっては、中国の影響力が強まることや巨額の貸し付け資金が返済できなくなり、中国にインフラを奪われる「債務の罠」に陥ることが懸念されています。

実際、ラオス区間の建設費、60億ドル=およそ6780億円の7割が中国からの貸し付けになります。

中国に対する債務などで国家財政が危機に陥った国があります、スリランカです。中国からの融資に頼って港を建設。返済に行き詰まり、中国企業に港の運営権をゆだねることになってしまいました。

中国 秦剛外相 「中国ラオス鉄道は陸の孤島だったラオスに外とのつながりをもたらした。『債務の罠』というレッテルを中国に貼ることは絶対にできない」

「一帯一路」構想が始まって今年で10年。鉄道建設の成果を強調した秦剛外相でしたが、「債務の罠」批判に対しては「関係国の救済に力を尽くしている」と述べるにとどまり、正面から答えることはありませんでした。【3月8日 TBS NEWS DIG】
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もっとも、債務が滞って一番困るのは中国側であり、インフラを差し押さえるために意図的に無理な融資を使わせている・・・といったイメージの「債務の罠」云々は、やや為にする議論のようにも思えます。 
実際、中国側は当初の政治重視の「大盤振る舞い」的な姿勢から、近年はより経済合理性を重視した投資を行うように方針転換しています。

【拡大する中国鉄道網による近隣諸国囲い込み 進行する「中国化」】
そんなこんなの中国ラオス鉄道に関する最新の記事。

****ラオス中国鉄道が快走、「一帯一路」なお健在 人や投資がラオスに流入し、「中国化」が進行****
中国との国境に位置するこの小さな町(ラオス・ボーテン)は数年前まで、熱帯雨林の中をほこりっぽい道が数本走る土地に過ぎなかった。今では、約60億ドル(約8400億円)かけて中国が建設した鉄道が通り抜け、都市が形成されつつある。

建設途中のオフィスビルや倉庫が何十棟もそびえ立っている。中国の開発業者、雲南海誠実業集団は、この16平方キロメートルの経済特区を中国と東南アジアを結ぶ玄関口として売り込んでいる。労働力は安く、新たな鉄道のおかげで輸出もしやすい。(中略)

中国の広域経済圏構想「一帯一路」は提唱から10年たつが、世界各地で後退しており、多くのプロジェクトが行き詰まるか、途上国に手に負えない債務を負わせている可能性などを巡って物議を醸している。しかし、東南アジアのこの地域では構想はまだ健在だ。

拡大する中国鉄道網
中国は、2021年終盤に開業した全長約422キロメートルのボーテンの鉄道路線を、地域一帯を鉄道で接続する壮大な構想が各地の経済をいかに変貌させ得るかを示す好例と位置づけている。自国の支援で建設された東南アジアの農業・工業の中心地を貫く鉄道網によって、近隣諸国を囲い込み、向こう数十年にわたって各国の経済を自国の経済と結びつけることを中国は思い描いている。

シンガポール国立大学東アジア研究所の上級リサーチフェロー、余虹氏は「中国にとって、これは重要なメガプロジェクトだ。この鉄道が完成すれば、『一帯一路』が今も順調に進んでいることを実証できる」とし、「それがまさに中国が世界に伝えたいメッセージだ」と述べた。

ラオス中国鉄道は、中国が計画している区間の最初の部分に過ぎず、中国の商業都市・昆明とタイとの国境に近いラオスの首都ビエンチャンを結んでいる。中国はさらに南に延長し、タイとマレーシアそれぞれの首都バンコクとクアラルンプールまでつなげることを目指している。

また、カンボジアを東に走る鉄道の改良や、昆明からミャンマー沿岸まで西に走る鉄道の建設も計画している。

ラオスでの勢いが他の地域の進展に弾みをつけることを中国は期待している。タイとマレーシアでも建設が進められているが、現地の懐疑論や計画の遅れに直面している。

世界銀行の試算によると、ラオス中国鉄道の運営がうまくいけば、ラオスの総所得は長期的に最大21%増加する可能性がある。しかし、その財務的根拠を巡ってエコノミストの意見は依然、割れている。

(開発業者はラオスのボーテン経済特区を「中国と東南アジアを結ぶ新たな玄関口」とうたっている)

ラオスは、鉄道建設資金の一部を調達するために中国輸出入銀行から15億4000万ドルを借り入れた際、既に借金の返済に苦しんでいた。鉄道自体からもさほど多くの収入は得られそうにない。

ラオスの出資比率は30%に過ぎず、残りの株式は中国企業3社が保有している。世界銀行によると、同国の総債務は2021年に約145億ドルという「危機的水準」に達しており、対外債務の約半分を中国が占めている。

豪シンクタンク、ローウィー研究所インド太平洋開発センターのシニアエコノミスト、マリーザ・クーレイ氏は「これ(鉄道)を本当に成功させるためには、他の多くの投資が必要だ」と指摘。道路などの補完的なインフラや観光収入を得るための容量拡大には、さらに借金が必要になるとし、「彼らは一種の債務スパイラルに陥っている」と述べた。

しかしラオスでは、中国はほとんど抵抗に直面していない。その一因は、ラオスが中国と同様、権威主義的な共産主義政権に統治されており、政権がさほど反対を受けずに迅速に行動できることにある。

また、同国の開発ニーズが巨大で、中国以外に頼れる選択肢がないためでもある。人口740万人で労働人口が少なく、天然資源もほとんどないため、中国のように戦略的な必要性を感じていない欧米や日本の投資家はほとんど関心を示してこなかった。

ラオスで鉄道が人気なことも、中国に有利に働いている。以前はバスで危険な山道を通って12時間かけていた移動が、今は鉄道を使用してほぼ同じ料金で4時間足らずでできる。学生や出稼ぎ労働者は帰省がしやすくなった。また、赤ちゃんを首都の病院に連れて行き、小児科の専門医に診てもらっていると話す夫婦もいる。彼らが住む農村部にはそのような専門医がいないという。

ラオス中国鉄道会社によると、現在2000品目以上が貨物ルートでの輸出を許可されている。ラオスから中国にはスイカやドリアンなどの果物、キャッサバ粉、ゴム、鉄などが輸出され、中国からラオスには機械設備や化学肥料、家電製品、太陽光パネルが輸入されている。

鉄道が開業した際、中国の習近平国家主席とラオスのトンルン・シースリット国家主席は、このプロジェクトが双方に繁栄をもたらすと述べた。北米初の大陸横断鉄道が田園地方に新興都市を生み出したように、ラオス中国鉄道が「ゴールデンルート」となって開発が促されることを習氏は約束した。都市を拡張できるよう各町から数キロ外れた場所に駅が建設され、貨物を処理する倉庫が路線に沿って建設された。

中国企業は近隣の土地を次々に買い上げ、農場や工場をつくっている。主要駅の一つ、ムアンサイから車で30分ほどの場所にある丘陵地では、輸出用の作物が育てられている。中国企業は何十年も前から周辺の土地で大規模なプランテーションを借りて、バナナやゴムの木、大豆、キャッサバを栽培してきたが、現在さらに拡大している。

桑農場では女性たちがカイコの餌となる葉を収穫しており、カイコが紡いだ糸は中国製の高級生地に織り上げられる。昨年、ハトムギを処理するための工場も新設された。ハトムギは、スープ状のデザートや漢方薬に使用される穀物だ。

地元住民は伝統的に自給自足の生活をしており、家族を養うのに十分なだけの米と野菜を栽培している。サイイ・ソウリボンさん(32)は、以前は小遣い稼ぎのために建設現場で仕事を探すのに苦労していたという。現在は、駅の近くに新設された企業向けの貸倉庫で日雇い労働者として働いている。「選択肢が増えた」とソウリボンさんは話す。

4月に国境をまたぐ旅客列車が開通して以来、ラオスでは中国からの旅行者が急増している。華麗な寺院や滝などの美しい自然で人気のある、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産に登録されたルアンプラバンでは先日の朝、観光客が中国紙幣の新札を仏教僧に施しとして渡していた。

さらに北のボーテンでは、中国紙幣はラオス通貨のキップと同じくらい日常的に使用されており、看板はラオス語と北京語の両方で書かれている。

「ラオスというよりも中国のようになってきているが、彼らはいろいろなものをつくってくれるのだから、いいことだ」。近くの村から通い、屋台でラオス人労働者に焼き肉やリスのスープを売っているノイ・ケオマンチャンさん(43)はこう話す。 「それが現実だ。ラオス人は貧乏で、中国人は金持ちだ」【7月25日 WSJ】
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中国ラオス鉄道がラオス経済・社会に与えるインパクトは非常に大きなものがあるでしょう。そして中国以外にラオスに手を差し出す国もなかったのも事実。

世界各地での「一帯一路」の現況については、また別機会に。

【政治体質をうかがわせる「強制失踪」 「事実上の中国の植民地」での「出稼ぎ風俗」】
中国ラオス鉄道以外ではほとんどラオス関連記事は目にしませんが、ラオス政治体質をうかがわせる昨年末の記事と、最近の中国とのつながりも背景にある記事ふたつを。

****社会活動家の「失踪」、東南アジアで相次ぐ 当局関与疑う家族の訴え****
ラオスの首都ビエンチャンで10年前に失踪した同国の社会活動家、ソムバット・ソムポーンさん(70)について、当局が事件に関与したとみる家族らが真相究明を求め続けている。

ソムバットさんは「アジアのノーベル賞」と言われるマグサイサイ賞の受賞者で、国際的にも著名。米国務省も失踪から10年となった15日、ラオス政府に対して問題解決に向けた行動を取るよう求めたが、ラオス側は応じていない。

「この10年間、何度もラオス政府に調査を訴えたが『知らない』と言われるばかりだった」。ソムバットさんの妻ウン・シュイメンさんは13日、タイの首都バンコクで開いた記者会見でこう訴えた。

ソムバットさんはラオスの農業普及活動や開発教育に長く携わり2005年にマグサイサイ賞を受賞。12年12月15日、帰宅途中に失踪した。家族が入手した防犯カメラ映像には、ソムバットさんの乗った車が警官に止められた後、何者かに別の車で連れ去られる様子が映っていた。

人民革命党による一党体制のラオスの政権は体制批判につながる言動に神経をとがらせる。ソムバットさんは失踪の2カ月前に開かれた国際会議の運営に携わった。当時は政府による土地収用への批判が高まり会議でも話題になった。このため当局がソムバットさんを敵視したとの見方がある。だが当局は関与を否定し、17年に家族に「調査を続けている」と説明して以降、情報を提供していない。(中略)

ウンさんの会見に同席したタイの人権活動家、アンカナ・ニーラパイジットさんによると、人権活動家らが当局に拉致されたとみられる事件はラオスと周辺国で絶えず、こうした事案は「強制失踪」と呼ばれる。

弁護士だったアンカナさんの夫も04年3月、バンコクで車で連れ去られた。アンカナさんは「強制失踪は東南アジアで日常的に起きており、社会全体に恐怖を植え付けている」と訴える。

国際社会からも問題解決を求める声が相次ぐ。人権問題に取り組む世界各国の66団体は13日の共同声明でラオス当局の対応を非難し、すべての強制失踪事件を調査するよう求めた。(後略)「【2022年12月18日 毎日】
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****ラオス「出稼ぎ風俗」求人にSNSで気軽に応募、その知られざる裏側****
ラオス北西部にある経済特区が、大規模なオンライン詐欺や人身売買などの犯罪の温床になっている。日本でもラオスへの「出稼ぎ風俗」を呼びかけるツイートが物議を醸した。好条件につられて応募すると、不法入国の上、多額の賄賂を払わされる恐れがあるなど危険と隣り合わせの日々が待っている。

東南アジアのラオスでの出稼ぎ風俗に関する求人が、インターネット上で物議を醸している。実際にラオスに出稼ぎに出た女性からは、ラオスへの不法入国や賄賂請求などのトラブルが発生した事例も報告されている。ラオス北西部では近年、外国人を狙った人身売買や強制労働の被害が多発。日本の外務省は事件に巻き込まれないよう、注意を呼び掛けている。

6月、ツイッターではラオスでの出稼ぎ風俗の求人に関する投稿が相次ぎ、話題を呼んだ。
投稿された求人には「60分30000円〜 、15万保証(日保証)」「客層 中国の富裕層」「合法ソープの為、リスク無し」などの条件が並び(実際はラオスでの売春は違法)、出稼ぎ風俗に関心を持つ女性たちからのリプライも散見された。

一方で、同時にラオスでの出稼ぎ風俗の危険性を指摘する投稿も確認された。2022年に出稼ぎ風俗に行ったAさんによると、日本からラオスに行くためにまずタイへ渡航。夜間にタイの国境沿いにある川を船でわたり、非正規ルートでラオスへ不法入国したという。当初はブローカーから、そうした不法な手段で入国することは知らされていなかった。

Aさんは「現地には誰も味方なんていなくて、(不法入国時などの)賄賂の請求額も何百万だったし、これがトラウマで海外出稼ぎをやめました」と投稿している。(中略)

ラオスにある「事実上の中国の植民地」
法整備が未発達なラオスの状況も、こうした違法な出稼ぎ風俗を呼び寄せる原因となっている。中でもタイと国境を接しているボケオ県で、中国資本により開発されたゴールデン・トライアングル経済特区(SEZ)は、中国人を中心とした犯罪の温床となっているとして懸念が高まっている。

米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、同SEZを「事実上の中国の植民地」と表現し、売春斡旋やオンライン詐欺、マネーロンダリング、麻薬の密輸などのさまざまな犯罪が日常的に行われていると指摘する。SEZが設立された07年から22年8月までに、人身売買の被害者が1700人近く救出されたとしている。(中略)

米国務省の人身売買に関する報告書(23年版)によると、そのような状況下で生活苦に陥った女性らが、SNSで見た「高給、食事代、住宅家賃無料」といった好条件の求人に飛びつき、結果として人身売買や強制労働の被害に遭っているという。

同報告書によると、被害者はラオス人にとどまらず、タイやミャンマー、ベトナムなど東南アジアを中心とする外国籍にまで及んでいる。米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカの報道(22年10月10日)では、こうした強制労働の現場から逃げようとすると暴力を振るわれたり、電気ショックに晒されたりし、被害者は身体的、精神的に追い詰められ、逃げ出せないように厳重な監視下に置かれていることが分かっている。(後略)【7月27日 新潮社Foresight】
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タイ  空白が長引く首相指名 前進党ピター氏排除で貢献党が主導権 更にタクシン氏帰国も

2023-07-26 23:13:35 | 東南アジア

(【7月20日 FNNプライムオンライン】 19日の憲法裁による前進党ピター党首の議員資格停止に国会前で抗議する支持者)

【司法も巻き込んで進むピター氏排除 第1回投票では過半数得られず】
タイでは首相指名をめぐって目まぐるしく事態が動いていますが、首相が決まらない政治空白が長引いています。

5月14日に行われた総選挙では、王制改革や徴兵制廃止を掲げる前進党(ピター党首)が選挙直前に若者らを中心に急速に支持を伸ばし、それまで勝利が確信されていたタクシン元首相系の貢献党を抑えて下院(500議席)の第1党の座を獲得しました。

もしピター氏の首相就任が実現すれば、軍部主導のタイ政治、あるいは、従来のタクシンvs.反タクシンという構図からタイが抜け出す可能性が膨らみます。

しかし、下院第1党となった前進党・ピター党首が首相に指名されるにはかなり高いハードルがあることは、7月3日ブログ“タイ 総選挙に勝利した前進党・ピタ党首は首相になれるのか? その前途は多難”でも取り上げました。

“前途多難”の理由は、貢献党を含めた反軍部勢力を合わせても、軍部の意向で選任された上院を含めると過半数に足りないこと、前進党・ピター氏の王制改革や徴兵制廃止といった主張に軍部などの拒否感が強いこと、ピター氏のメディア株保有問題というその拒否感を実現するための恰好の攻撃材料があることなどです。

そうした事情から予想はされたことですが、ピター氏排除の流れが現実のものとなりました。

7月13日に行われる第1回の首相指名投票直前の12日に、軍の意向を受ける選挙管理委員会は憲法裁判所にピター氏の議員資格停止の検討などを要求。

****タイ憲法裁が判断へ=首相候補のメディア株問題****
タイの選挙管理委員会は12日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首のメディア株保有問題について、憲法違反の疑いがあるとして、憲法裁判所に資料を提出して判断を求めた。議員資格停止の検討も要求しており、13日の首相選出投票に影響を与えそうだ。

憲法裁は今後判断を示す。前進党が公約に掲げた王室への不敬罪改正は、国家転覆を図るもので違法という訴えについても受理した。

ピター党首は5月、現在は放送事業を停止している放送局「iTV」の株式4万2000株を巡る問題が浮上。立候補者も含めた政治家のメディア株保有を禁じた憲法に違反するなどとして、親軍の政治活動家から選管に告発された。【7月12日 時事】
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下院議員選挙法の第42条は、メディア企業の株式を持つ候補者の立候補を禁止。第151条は、選挙に立候補する資格がないことを知りながら出馬した場合、10年以下の禁錮と20万バーツ(約82万円)以下の罰金が科せられ、選挙権を20年間剝奪すると規定しています。なおピター氏は総選挙後に親族に株式を譲渡しています。

活動休止中の放送局「iTV」の株式は父親から相続したもので、ピター氏は“「iTV」は長い間マスメディアとして活動していないため、規則違反にはならない”と主張しています。

こういう問題になることはわかっていたところで、選挙前に処分しておけば・・・と思いますが、今回選挙だけでなく2019年の前回総選挙への立候補も問題になるため、ピター氏としては対処しようもなかった・・・というところでしょうか。

こうした揺さぶりもあってピター氏は票の上積みが出来ず、1回目の投票では過半数を得ることができませんでした。

****タイ第1党党首のピター氏、首相指名選挙で過半数届かず 再投票へ****
タイ国会は13日、首相指名選挙を行ったが、5月の下院選で第1党になった革新系野党「前進党」のピター党首(42)は指名に必要な過半数の票を得られなかった。

ピター氏は連立政権を目指す野党8党の統一候補として指名選に臨み、他に候補者はいなかった。19日にも再投票が行われる見通し。ピター氏は2014年のクーデター以降続く親軍政権からの交代を目指している。

投票は上院(定数250)と下院(同500)の合同で行われ、ピター氏は324票を獲得したが、両院を合わせた議員数の過半数には届かなかった。

8党の下院での保有議席数は計312で、事実上軍政が任命した上院で票を上積みする必要があった。ピター氏は選挙結果という民意を尊重して投票するよう上院議員に呼びかけていたが、多くの議員が棄権や欠席により投票を避けた。

野党8党は次の投票に向けて、ピター氏を引き続き候補とするのかも含めて対応を協議するとみられる。

一方、親軍派はクーデターから9年にわたり政権を率いてきたプラユット首相が指名選の直前に政界引退を表明した。プラユット氏は下院選前に与党を分裂させて新党を結成していたが、政界引退により与党側の再編が進む可能性もある。次回投票で過半数を獲得する候補者がいなければ、政治空白はさらに長引くことになる。

指名選を翌日に控えた12日、選挙管理委員会はピター氏がメディア企業の株式を保有したまま下院選に立候補したのは憲法違反にあたる疑いがあるとして憲法裁判所に判断を委ねた。ピター氏は議員資格を停止される可能性がある。国会議員でなくても首相になれるが、混乱は避けられず投票にも影響した。

前進党の支持者らは親軍派からの妨害ともとれる動きに反発し、投票が行われていた国会議事堂の周辺に集まり抗議の声を上げた。【7月13日 毎日】
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【憲法裁、ピター氏の議員資格停止 更に、国会は第2回投票への立候補認めず】
そして第2回目の投票が行われる当日に・・・

****ピター氏の議員資格停止=タイ憲法裁、首相投票直前に****
タイの憲法裁判所は19日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首のメディア株保有問題を巡り、最終的な判断を下すまで同氏の議員資格を停止すると発表した。

同氏が立候補する2回目の首相選出投票は同日午後に予定されているが、実施されるか不透明となった。首相に議員資格は必須ではないものの、ピター氏が選ばれるのは極めて厳しい情勢だ。(後略)【7月19日 時事】
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司法機関も軍部の影響下にあるとされるタイにあっては予想された憲法裁判断で、前進党の前身、新未来党の党首だったタナトーン氏も2019年の総選挙で当選したものの、翌20年に憲法裁に議員資格を剝奪され、さらに党そのものも解党命令を受けています。

議員でなくても首相にはなれますが、国会はピター氏の立候補自体を認めませんでした。理由は、同じ会期に同じ議案を審議しない原則から「各議会会期で1度しか候補になれない」(ピシェート副議長)というものです。

【主導権はタクシン派のタイ貢献党に 親軍政党との「大連立」も】
これにより2回目の首相選出投票は27日に延期されました。

****「ピター首相」実現せず=タイ国会が再立候補拒否―政権樹立、主導権は貢献党に****
タイの国会は19日、5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首について、2回目の首相選出投票への立候補を認めないと決めた。これにより、ピター氏の首相就任が実現しないことが確定。

政権樹立の主導権は、第2党で旧野党のタクシン元首相派、タイ貢献党に移り、同党の不動産開発会社元社長、セター氏が首相候補となる。次回の首相選出投票は27日にも行われる見通しだ。

また、憲法裁判所は19日、保有株の問題に関連してピター氏の議員資格停止を決定した。国会審議中に議員資格停止を伝えられたピター氏は「5月の総選挙でタイ社会は変わった。ただ、(首相就任のための)戦いはまだ続く」と述べ、議場を出た。

19日の審議には上下両院の議員が出席。首相選出投票にピター氏が再立候補できるかどうかが議論され、715人による投票の結果、「立候補できない」が過半数となった。

今後の焦点は、貢献党が前進党との連携を維持するかどうか。旧与党の親軍政党などとの「大連立」を組むという臆測も広がっている。【7月19日 時事】 
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タクシン派のタイ貢献党が主導権を握ったことで、以前から取り沙汰されてきた貢献党と親軍勢力の「大連立」の可能性も現実味を帯てきました。

****「大連立」に現実味=保守派、前進党の政権入り拒否―タイ****
タイの首相選出を巡り、保守派の上院議員や旧与党議員らは21日、相次いで「連立政権に不敬罪改正を掲げる(第1党の)前進党が入るならば支持しない」と表明した。

次回の首相選出投票は27日に行われる予定だが、候補を出す旧野党のタイ貢献党と旧与党側との「大連立」が現実味を帯びてきた。

貢献党は2006年以降、クーデターで2回政権を倒されたタクシン元首相派。親軍政党と連携することになれば、支持者らの反発を招きそうだ。【7月21日 時事】 
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以前のブログでも触れたように、既成政治の枠を壊そうとする前進党に対し、旧敵同士とは言え、貢献党も親軍政党も既成政治の枠内にあるという点では共通の土俵上にあって、その意味では“手を結びやすい”関係にあるのかも。

貢献党の首相候補は不動産開発会社元社長、セター氏の他に、選挙戦で党の顔ともなったタクシン氏の次女ペートンタン氏(36)もいます。ペートンタン氏がセター氏立候補に同意しているのか・・・など、両者の関係についてはよく知りません。ペートンタン氏ではタクシン色が強すぎるという判断でしょうか。

いずれにしても、国民の多くは前進党ピター氏を望んでいます。

****国民の43%「ピター氏は選出まで立候補を」****
タイの国家開発管理研究所(NIDA)が16日発表した首相選出に関する調査結果で、国民の4割以上が「下院総選挙で最多議席を獲得した前進党のピター党首が上下院で首相に選出されるまで、何度でも候補にするべきだ」と考えていることが明らかになった。

「上下院による第1回の首相指名でピター党首が首相に選出されなかった場合、どうするべきか」との質問で、43.2%が「ピター氏が首相に選出されるまで何度でも候補にするべきだ」、20.69%が「あと1~2回はピター氏を候補にするべきだ」、13.0%が「前進党は、大半の上院議員が反対している政策を取り下げるべきだ」、7.9%が「8党連立の主導権を、議席数第2位のタイ貢献党に譲るべきだ」(中略)と回答した。

「ピター氏の首相選出が失敗した場合、誰にチャンスが回ってくると思うか」では、38.6%が「タクシン・チナワット元首相の末娘(次女)でタイ貢献党の首相候補であるペートンタン氏」、35.0%が「宅開発大手サンシリの前社長兼最高経営責任者(CEO)で、タイ貢献党の首相候補であるセター氏」、6.8%が「プラユット首相」、5.7%が「分からない」「関心がない」「回答しない」だった。

調査は11~12日、全国の18歳以上を対象に実施。1,310人が回答した。【7月17日 NNA ASIA】
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【27日に予定されていた第2回目、再延期】
しかし、(裏事情はよく知りませんが)ピター氏の首相指名選挙の候補資格を認めないとした議会の19日の決定を巡り、見直しを求める申し立てがなされたことなどを理由に、27日に予定されていた首相選出投票は再度延期されることに。

****タイ首相選出投票が延期、ピター氏の資格無効の見直し申請受け****
タイの国会のワンムハマドノー下院議長は27日に予定されていた首相選出投票を延期した。地元メディアが25日報じた。

5月の総選挙で第1党となった前進党のピター党首の首相選出が保守派議員らによって阻まれたため、第2党の貢献党が首相候補を指名するとみられていた。

ワンムハマドノー氏はニュースサイト、リポーターズのインタビューで「27日は会議を開かない。次回の投票の日程は追って知らせる」と述べた。

ピター氏の首相指名選挙の候補資格を認めないとした議会の19日の決定を巡り、見直しを求める申し立てがなされたことが延期の理由の一つと説明した。

前進党の要請を受けてオンブズマンは議会の決定を見直すよう憲法裁判所に申し立てた。議会の規則が首相指名に関する憲法上の規定に優先することはできないと訴えている。

ワンムハマドノー氏は憲法裁がオンブズマンの要請を退ければ、次回の投票は8月3日になるだろうと述べた。

25日に予定されていた野党8党の会合は取りやめとなった。ただ貢献党の議員は、打開策を見出すための協議は続いていると述べた。【7月25日 ロイター】
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オンブズマンの要請とのことですが、憲法裁がその主張を受け入れるとは思えません。おそらくピター氏排除で進むのでしょう。

ただ、“2回目はピター氏に代わって貢献党から候補者が出るとみられていたが、保守派も含めた党派間の駆け引きが続いている。”【7月25日 毎日】と、状況は不透明です。

【8月10日にタクシン氏が帰国 恩赦の裏取引か】
更に、“新たな混乱要素”が。あの亡命中のタクシン氏が帰国するとのこと。かねてより、孫(ペートンタン氏が選挙直前に出産した子供)の世話をしたい・・・とは言っていましたが。

****タクシン氏「8月10日に帰国」=次女が公表、恩赦期待か―タイ****
タイのタクシン元首相の次女ペートンタン氏は26日、フェイスブックに「父は8月10日に帰国する」と投稿した。タクシン氏は7月中に帰国する意向を示していたが、首相選出を巡る政治的混乱が続く中、慎重に日程を決めたとみられる。

ペートンタン氏によると、タクシン氏はバンコクのドンムアン空港に到着予定。26日はタクシン氏の74歳の誕生日で「父は家に帰る決断をした」と投稿した。

タクシン氏は2006年の軍事クーデターで失脚し国外逃亡中。公権力乱用罪などで計10年の実刑判決が確定しており、帰国すれば通常なら収監される。

先の総選挙を受けた次期政権樹立では、第1党となった前進党からの首相選出が保守派に阻まれ、第2党でタクシン派のタイ貢献党が主導権を握っている。

貢献党が前進党との連携を解消して親軍政党などと「大連立」を組むとの観測が広がる中、タクシン氏には貢献党主導の政権ができれば自身が恩赦の対象になるという思惑もあるもようだ。【8月26日 時事】 
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タクシン氏も10年間収監されるということなら帰国しないでしょう。何らかの恩赦の目途が立ったということでしょうか。

タクシン派の貢献党が前進党との連携を解消して親軍政党などと「大連立」、その条件としてタクシン氏の恩赦・・・というのはわかりやすいシナリオですが、そういう動きになるのか・・・。そのためには、首相は娘のペートンタン氏では露骨すぎる、他の人間の方がやりやすい・・・ということでしょうか。ただ、それでタイ世論がおさまるのか。
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カンボジア  静かに終わったフン・セン独裁・世襲を正当化するための「総選挙」 後退する民主主義

2023-07-25 22:47:27 | 東南アジア

(投票したことを示す黒いインク(現地の提供者撮影)【7月25日 デイリー新潮】) 政権の圧力のもとで思いどおりの投票行動ができなかった有権者は「この指を切り落としたくなる」とも。)

【独裁・世襲正当化のための選挙 与党圧勝、投票率84%のからくり】
23日に行われたカンボジアの総選挙は、予想されていたようにフン・セン首相率いる与党が圧勝しました。
これによって、首相の長男フン・マネット陸軍司令官への世襲が進むことになりそうです。

もっとも、支持を一定に集めそうな有力野党キャンドルライト党を事前に排除して行う選挙ですから、結果は「予想」するまでもないことですし、そもそも「選挙」の名に値するものかどうかも疑わしい、フン・セン独裁・世襲化を正当化するためのパフォーマンスみたいなものです。

****進む強権化、政権「世襲」へ カンボジア総選挙で与党大勝****
カンボジア選挙管理委員会は23日夜、同日投開票の下院(定数125)総選挙の暫定結果を発表し、親中派フン・セン首相(70)率いる与党カンボジア人民党が120議席を獲得したと明らかにした。

国政選挙で有力野党を排除した上での大勝は2回連続。欧米は民主主義の形骸化を憂慮するが、強権姿勢を一段と鮮明にした人民党政権は親中路線を維持しそうだ。

選管によると、投票率は84%で、正式結果は8月上旬に公表される見通し。人民党報道官は23日、ロイター通信に「われわれは大勝した」と宣言した。

フン・セン氏は総選挙での人民党大勝を目指し、有力野党キャンドルライト党の政党登録を「書類の不備」を理由に認めないなど締め付けを強めた。2018年の前回総選挙でも当時の最大野党を解党に追い込み、人民党が全議席を独占している。

継続する野党弾圧を受け、米国務省のミラー報道官は23日、カンボジアでの選挙は「自由でも公正でもなかった」と批判。カンボジアへの援助プログラムの一部を一時停止し、「民主主義を弱体化させた人物」への査証(ビザ)発給を制限すると発表した。フランスも選挙前にカンボジアでの民主主義の後退に苦言を呈している。

欧米の反発をよそに選挙大勝で権力基盤を盤石なものとしたフン・セン氏は今後、政権「世襲」に向けた動きを進めそうだ。投票から1カ月前後で長男のフン・マネット陸軍司令官(45)に首相職を譲る可能性を示している。

フン・マネット氏は米陸軍士官学校を卒業した経歴があり、〝知米派〟と目されている。ただ、近年のカンボジアの中国接近は顕著で、22年には中国の支援で国内初の高速道路が開通し、南部のリアム海軍基地では中国による拡張工事が進んでいる。

カンボジアは経済面でも中国への依存が強まっており、地元政策研究機関は、フン・マネット氏が首相を継承したとしても、「西側への接近は限定的なものになる」と分析している。【7月24日 産経】
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有力野党キャンドルライト党を排除するだけでなく、「棄権」という形でフン・セン体制への批判票がでないように有権者への圧力もかけられました。

****投票の棄権呼び掛け、罰金へ カンボジア下院選、法改正****
カンボジアのフン・セン政権は23日の下院選を前に、投票の棄権を呼びかけた人物に罰金を科すなど締め付けを強める法改正を断行した。上下両院を6月下旬に通過、今週にも発効の見通しだ。主要野党キャンドルライト党の排除後、下院選棄権の動きが拡大したのに対抗、スピード成立させた。

フン・セン首相(70)は長男フン・マネット氏(45)への首相世襲を目指し、野党弾圧を強化。低投票率では欧米から選挙の正当性が疑問視されかねず、批判をかわすために法改正に踏み切った形だ。

罰金は3千万リエル(約100万円)から500万リエル。投票権を行使しない人は次回選挙で被選挙権を失う。【7月2日 共同】
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更に選挙前に与党スタッフが各家庭を戸別訪問し、投票に必要な身分証の期限切れがないかをチェックして回るという形で「棄権は許さない」という雰囲気を醸成。

また、「棄権」だけでなく「白票」なども許さないと、投票用紙に記入する際に監視員が“記載台をのぞく”といった行為もあったようです。

こうして政権批判が封じ込まれたなかで“達成”された、投票率84%、125議席中120議席獲得でした。
政権に批判的な有権者からすれば、投票を奪われた選挙でした。

****「指先の黒インク」が無言の圧力になるカンボジア選挙事情 “投票率84%”に5つのカラクリ****
7月23日、カンボジアの下院(定数125)の総選挙が行われた。その日の夕方、与党・人民党を率いるフン・セン首相(70)は、早々と勝利宣言。「投票率は前回の83%を上まわる84%」と胸を張った。

しかしフン・セン氏(70)は、この84%の投票率を得るために、国民に5つの投票圧力をかけていた。

ひとつ目は5月、最大野党のキャンドルライト党の選挙参加資格をはく奪した。理由は書類の不備だった。
フン・セン氏に批判的な人々は投票先を失うことになる。そこで野党側は投票の棄権を呼びかけはじめる。

これに対してふたつ目の圧力をかける。投票の棄権を扇動した人に対する罰金制度をスピード成立させた。罰金は500万リエルから3,000万リエル(約17万円から約102万円)。同時に投票を棄権した人は、次回の選挙で立候補できない法案も可決した。

有権者への個別訪問
3つ目は選挙日程。投票は住民票を置いている土地に限られる。プノンペンや工業団地で働く若者の多くは田舎に住民票がある。投票日の前後を休日にした。

4つ目は投票に誘導する空気づくりだった。投票権の確認を名目に個別訪問をはじめる。コンポンチュナン州で農業を営むKさん(58)はこういう。
「人民党の人が3人でやってきて、説明を受けました。選挙に行かないと罰金だっていわれました」
罰金は投票の棄権を呼びかけた人たちが対象だったが、Kさんは投票に行かないと罰金と理解していた。

“指先”が無言の圧力に
この空気は、指に塗るインクにまで波及する。カンボジアでは二重投票を防ぐために、投票した人は人差し指に黒いインクを塗る。これはいくら洗っても10日間ぐらいは消えない特殊なもの。村のなかでは、投票後、指のインクのチェックがあるという噂が流れたという。これまでの選挙でも、この指に残るインクは無言の圧力になったという。

プノンペンで働く30歳代のFさんはこういう。
「選挙が終わって会社に行く。人差し指の先が黒くないと周りからなにかいわれそうな雰囲気がありました。打ち合わせのときは、無理と人差し指を見せる人もいる。ファイスブックに顔の前に指を差しだす写真をアップする人も多い」

白紙投票を警戒
そして5つ目は投票所。投票した人によると、選挙を管理するスタッフがそれとなく記入しているところに視線を向けることが多かったという。これまでの選挙ではあまり気にならなかったが、今回は……。

フン・セン氏を批判する勢力は、白紙投票を呼びかけてもいた。名乗りをあげている政党はフン・セン氏率いる人民党以外もあるが、選挙の態をなすための立候補の色合いも強いという。前回も全議席を人民党が独占していた。

強い圧力のなかで投票所に向かっても投票する先がない。白紙投票はそのなかでの抗議の意志でもあったが、フン・セン氏はそれさえ警戒していたようにもとれる。こうして獲得した84%という投票率だった。

「ポル・ポトを知っている身としたら…」の声
国際社会のフン・セン氏への批判は多い。40年近く実権を握り、強引に一党独裁をつづけるからだ。しかしカンボジアの人々に訊くと、フン・セン氏への批判はあまり聞こえてこない。とくに高齢者はフン・セン氏を評価する人も少なくない。

「ポル・ポト時代を知っている身としたら、あの時代からいまのカンボジアに導いたフン・セン氏の功績は大きい。中国との関係などいろいろ問題はあるけどね」と、シェムリアップに住むTさん(78)は語る。

反発は若い世代から起きてきてはいるが、前出のFさんはこういう。
「若い世代は本来の選挙を知らないんです。私だって。なにしろフン・セン氏は40年も首相の座にいるんですから」

選挙は波風ひとつたたずに静かに終わった。前回以上にシステム化され、有権者確認や開票もスムーズだったという。歓声は人民党関係者から響くだけだ。

フン・セン氏が今回の選挙にここまでこだわったのは、長男のフン・マネット氏(45)が出馬しているからだともいわれる。息子への花道選挙ということだろうか。3、4週間後にはフン・マネット氏が首相に就任する噂も流れている。【7月25日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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【無効票44万票 有権者のせめてもの意思表示】
与党・人民党以外では、王党派・フンシンペック党が5議席程度を獲得しました。

****王党派、議席獲得の公算=前回はゼロ―カンボジア総選挙****
23日に投開票が行われたカンボジアの総選挙(下院定数125)で、王室関係者が党首の王党派・フンシンペック党が5議席程度を獲得する見通しとなった。複数の地元メディアが24日報じた。2018年の前回総選挙では、同党の議席はゼロで、フン・セン首相率いる与党・カンボジア人民党が全議席を獲得していた。
 
フンシンペック党は、シハヌーク元国王の孫が党首を務める。1993年の第1回総選挙では第1党となるなど歴史は古いが、近年は内部分裂もあり弱体化が指摘されていた。

今回の選挙では、有力野党・キャンドルライト党が排除されており、政権批判の受け皿となった可能性がある。【7月24日 時事】 
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政権批判の受け皿となった・・・とのことですが、フンシンペック党はシアヌーク国王の第二王子ラナリット全盛の頃は、フン・セン氏の人民党と政権を争った政党ですが、今では凋落し、“連続して議席をすべて独占することは欧米からの批判を招くとの判断から、人民党がフンシンペックが議席を獲得することを容認したとされる。”【ウィキペディア】との“裏事情”もあるようです。フンシンペック党は、現在は人民党の「衛星政党」で、そのコントロール下にあるとも言われています。

ということで、実質的に野党勢力がなく、フン・セン氏及び人民党の「独裁体制」が今後も続くことになります。

政権に批判的な有権者にとって、(監視員の目を気にしながらも)かろうじて意思表示が許される方法が無効票を投じることでした。

****無効票は44万票=反政権「受け皿」―カンボジア総選挙****
23日投開票のカンボジアの総選挙(下院定数125)で、「×」などが書かれた無効票が約44万票に上ることが25日、分かった。複数の地元メディアが国家選挙委員会幹部の話として報じた。

無効票は、有力野党キャンドルライト党(CP)が選挙から排除される中、独裁的なフン・セン政権に対する批判の「受け皿」として注目されていた。

選挙委によると、有権者は約971万人で、投票者は約821万人、投票率は約84%だった。
無効票は全体の約5%となる。

今回と同様に、有力野党の救国党が解党処分で参加しなかった2018年選挙の約8%より低下しており、政権側が無効票を促すことに対する罰則を強化するなど対策を強めたことが影響したもようだ。

ただ、CPが参加した22年の地方選挙の約2%よりは上昇した。カンボジア政治の専門家は「無効票が批判の受け皿となることが改めて示された」と指摘した。【7月25日 時事】
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アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官は23日、「選挙は自由でも公正でもなかったと憂慮している」とする声明を発表し、「民主主義を弱体化させた人物」にビザ制限を課し、一部の対外援助を一時停止する措置をとったと明らかにしています。

中国との関係を強めるフン・セン首相にとっては痛くも痒くもない措置でしょう。

【すでに世襲政権の名簿も】
フン・セン首相の頭にあるのは長男への権力世襲のこと。後継首相候補の長男フン・マネット氏(45)を中心にした次世代閣僚名簿をすでに作成しているとも報じられています。

****カンボジア、世襲政権の名簿作成 長男ら10人超、私物化に批判****
カンボジアのフン・セン首相(70)が、後継首相候補の長男フン・マネット氏(45)を中心にした次世代閣僚名簿を作成していることが24日、分かった。共同通信が与党関係者から名簿を入手した。

約40人の閣僚のうち10人超が与党幹部や現政権の閣僚の子どもで、一部閣僚も記載されている。政権の私物化との批判は必至だ。

与党カンボジア人民党は23日の下院選で圧勝し、125議席のうち120議席前後を獲得する見通し。40年近く首相の座を維持してきたフン・セン氏は首相職世襲へ環境を整えたが、交代時期は未定のまま。同氏は首相退任後も人民党党首を続けるとされ、人事権を握る狙いだ。【7月24日 共同】
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10人超が与党幹部や現政権の閣僚の子ども・・・・首相だけでなく、支配体制をそっくり世襲していこうということでしょうか。

政権の私物化との批判は必至・・・・誰が批判するのか? 議会には野党勢力は実質的になく、社会全体にフン・セン首相の強権支配が及んでいます。 国内では批判が表面化しないところが一番の問題です。

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