孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド前大統領の大統領選出馬自粛を要請、しかし・・・

2016-09-27 22:54:50 | イラン

(2009年8月、アフマディネジャド大統領の2期目就任を正式に承認した式典の最中に、ハメネイ師が大統領の敬意の手へのキスを拒み、大統領はハメネイ師の肩にキス 宗教的にはノン・エリートで、最高指導者の権威を利用しようとする大統領とハメネイ師の関係は当時から微妙でした。【2009年8月3日 AFP】)

女性が自転車に乗ることを禁じる宗教令 保守強硬派の巻き返し?】
イラン社会に関する最近の話題を2件

****女性に自転車禁止の宗教令・・・・イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は、女性が自転車に乗ることを禁じる宗教令(ファトワ)を出した。
同師の事務所が18日、ウェブサイトで明らかにした。
 
イスラム教シーア派の最高位法学者として、信徒の質問に答えた。女性が公の場で自転車に乗れば家族以外の男性の目に触れるため「ハラーム」(イスラム教上の禁止行為)にあたるとの見解を示した。
 
イスラム法学者は信仰生活上の指針を示す役割を担う。複数いる最高位法学者の中でハメネイ師を権威として仰ぐ女性信徒は、自転車禁止令に従う義務がある。他の法学者を権威として仰ぐ信徒が従うかどうかは個人の判断に委ねられる。だがハメネイ師の影響力は大きく、自粛の動きが広がるとみられる。【9月19日 読売】
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どういう経緯で出された宗教令(ファトワ)かはわかりませんが、“女性が公の場で自転車に乗れば家族以外の男性の目に触れるため「ハラーム」にあたる”というのは、下記のように一定に女性の社会参加も進んでいるイランの現状からすると、まるでアフガニスタンの旧タリバン政権時代のような感じで、やや奇異にも思えます。

****イランにおける選挙制度と女性の政治参加****
―伝統的制度と価値観に挑戦するイランの女性たち―
1979年のイラン革命後、政治制度から、社会、文化、日常生活までイスラーム化政策が推進され、家族関係、結婚、離婚、服装など女性に係わる法律に、イスラーム法が色濃く反映されるようになった。

その結果、女性からの離婚や養育権の請求が困難となり、肌や髪の毛を見せない厳格な服装規定が適用されるようになった。

その一方で、政府は、イスラームの枠内での女性の政治や経済、社会活動への参加を奨励したため、女性の進学率や就業率は革命前から大きく前進した。

例えば、女子大学生の割合は、革命前の1978年には31.8%であったが、2006年には63.7%に拡大し、女子の進学率が男子を凌駕した。

女性の就業率も1978年の13.6%から、2006年に18.5%に上昇し、1971年に2.5%にすぎなかった女性ジャーナリストの割合は、2006年には22%に拡大した。

そして、2016年2月26日の第10期国会選挙と4月29日の第2回投票の結果、17名の女性が選出され、イラン・イスラーム共和国史上最大の女性議員が誕生した。(後略)【貫井万里氏 http://www.sridonline.org/j/doc/j201607s03a03.pdf
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改革派・穏健派と保守強硬派のバランスをとる関係で出された政治的産物でしょうか。
先の議会選挙で改革派・穏健派が躍進したイランですが、保守強硬派とのせめぎあいが続いています。

****当選女性「失格」、イラン政界混乱 保守強硬派が巻き返し策か****
イランで2月に行われた国会議員選挙(定数290)で当選した女性が失格を通告された。スカーフ未着用など宗教モラルに反する行為があったと報じられたが本人は否定。ロハニ大統領も失格を認めない。

選挙は国際協調を進めるロハニ氏の支持勢力が圧勝。快く思わない保守強硬派が、宗教を口実に巻き返しに出た形だ。混乱の中、新議員による国会は28日に始まる。(中略)

混乱の背景には政治勢力の対立がある。ロハニ氏を支持し、自由を好む保守穏健派・改革派と、反欧米で宗教の規律を重んじる保守強硬派だ。護憲評議会は保守強硬派の影響下にある。
 
選挙では保守穏健派・改革派が保守強硬派の議席を上回った。保守強硬派はアフマディネジャド前大統領時代に政権を担ったが、核開発を強行して国民を失望させた。

だがテヘランの警察は4月、女性の服装など風紀を取り締まる覆面警官7千人の導入を表明。保守強硬派が影響力を行使したとの観測が広がっている。
 
同志社大の中西久枝教授(中東地域研究)は「制裁解除を受け次期国会では外資導入に向けた法整備で争いが起こり得る。保守強硬派は、前政権時代に拡大した利権を手放すまいという動きに出ると予想される」と話す。【5月28日 朝日】
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もうひとつは、イランでもクレジットカードが使えるようになったという話題ですが、これまでカードが使えなかったということが驚きです。

****イラン、クレジットカードを初導****
イランで25日、クレジットカードが初めて導入された。イラン学生通信(ISNA)が報じた。

イランは、欧米などとの核合意を受けて1月に経済制裁が解除されて以来、石油生産や経済の強化を図っている。

ただ、イラン中央銀行のセイフ総裁は、銀行がクレジットカードシステムに慣れるまで時間がかかる可能性があるとの懸念も表明。ISNAによると、「こうしたカードが、銀行ネットワークの中で、すぐに利用されると考えるのは正しくないだろう」と述べたという。

クレジットカードの利用限度額は、約3000、1万、1万5000ドルの3種類。店舗やオンラインでの買い物に利用できる。【9月26日 ロイター】
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アフマディネジャド前大統領に立候補しないように求めた・・・・ただ、「出馬するなとは言っていない」】
制裁措置に苦しんできたイランでは、欧米との核合意で国民に経済回復への期待が一気に高まったものの、現実にはなかなか制裁解除が進まず、期待がロウハニ政権への不満・失望に変わりつつある・・・ということは、8月12日ブログ“イラン 実効を伴わない制裁解除でイラン経済の困難続く 政権・核合意への期待は失望に”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160812でも取り上げました。

そこでも触れたように、対欧米強硬派のアフマディネジャド前大統領がそうした国民の不満・失望の受け皿ともなって支持を拡大しています。

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米メリーランド大などが6月、イランの約1千人に行った世論調査では、核合意で暮らしが改善したと答えた人は26%。ロハニ氏の好感度も、「非常に良い」が昨年8月の61%から38%まで下がった。
 
台頭するのが、アフマディネジャド前大統領だ。次の大統領を尋ねる質問で、1年前はロハニ氏と27ポイント差があったが、今回は8ポイント差に詰めた。7月から各地のモスクで演説を始め、「時が来れば私は戻る」と発言している。今月8日にはオバマ米大統領に資産凍結の解除などを求める書簡を送り、イランメディアの話題をさらっている。【8月12日 朝日】
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アフマディネジャド前大統領は、2013年に大統領を退任した後、大学教授をしていたそうですが、昨年夏頃から政治活動に復帰していました。(アフマディネジャド前大統領は工学博士の学位を有していますが、大学で何を教えていたかは知りません)

このままいくと、来年5月19日実施の大統領選で2期目に挑むとみられる穏健派ロウハニ大統領にとって、厳しい戦いも予想されていましたが、最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド前大統領に大統領選挙出馬自粛を求める発言をしたそうです。

****イラン最高指導者、前大統領に不出馬勧告「国が割れる****
来年5月のイラン大統領選をめぐり、同国の最高指導者ハメネイ師は26日、アフマディネジャド前大統領に不出馬を勧告したと明らかにした。

現職のロハニ大統領の有力な対抗馬とみられていたが、立候補は難しくなる。国際社会からの孤立を招いた前大統領の強硬路線を否定した形だ。
 
ハメネイ師の公式サイトに、神学校での講義録として「彼自身と国の利益を考え、かの行事に参加しない方が良いと言った」「彼が特定の問題に当たれば国は二つに割れる。二極分化は国益に害だと助言した」との発言が公開された。名指しはしていないが、イランメディアは相手が前大統領で、行事とは大統領選のことだと一斉に報じた。
 
イランには現在、融和外交を支持する保守穏健派・改革派と、反欧米でイスラム教に厳格な保守強硬派という大きく二つの政治潮流があり、ロハニ大統領は前者の支持を受ける。前大統領は後者で、核開発を制限したのに欧米から十分な見返りがないとする国民の不満を背景に、支持を広げていた。
 
保守強硬派では他に、精鋭部隊・革命防衛隊のソレイマニ司令官を推す動きもあるが、同司令官は「軍人として生を全うする」と固辞する構え。

同派の候補者選びは難航し、ロハニ氏に有利な情勢だ。ただ、ハメネイ師は「出馬するなとは言っていない」とも述べ、アフマディネジャド氏への対応に含みも残した。【9月27日 朝日】
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穏健派ロウハニ大統領の核合意・対欧米協調路線を基本的には支持したと思われる最高指導者ハメネイ師としては、アフマディネジャド前大統領の復活でそうした路線がご破算になることは望んでいない・・・ということでしょうか。

****最高指導者の前大統領の立候補阻止(イラン****
日本のメディアも報道しているようですが、al arabiya net は、イランの最高指導者がアハマディ・ネジャード前大統領に、2017年の大統領選挙に出馬しないようにアドバイスしたと報じています。

それによると、最高指導者のネットが、ハメネイが数日前に有力者のひとり(アハマディ・ネジャード)と会って、彼の立候補は彼のためにも、イラン国家のためにもならない、として、来年の大統領選へ立候補しないように求めたと報じているとのことです。

また強硬派の前イラン通信事務局長が、アハマディ・ネジャードがハメネイと会談すべく努力してきたが、実現した会談では最高指導者は明確に彼の立候補に反対したと語った由。

いずれにしても、前大統領は数か月前から、イランお方々の町を回って、選挙運動をしてきたが、その中でかれは現大統領ロウハニが米国等と合意した、イランの核開発停止に関する合意を非難し、ロウハニ大統領は「一期だけの大統領になろう」と語ってきた由。

これに対して、最高指導者は、今後さらに米国がイランに対する制裁緩和を進めることを期待していて、特に米大統領選のこの時期における発言が、核合意の今後について与える悪影響を懸念した由。

ハメネイの核合意に対する立場については種々の見方があったかと思いますが、少なくとも彼の支持がなければロウハニが核合意に署名することはできなかったはずで、かれが(思惑はともかく)核合意を支持したことは間違いなく、その意味ではそのような彼の政策に真っ向から反対した前大統領の立候補を、好ましく思わないことは十分考えられます。

なお、記事は、その他前大統領の時期が、イラン正解が腐敗、汚職等の最も蔓延した時期であったとしており、そのことと最高指導者の反対を直接結びつけてはいないが、これも最高指導者がアハマディ・ネジャードに反対して理由の一つである可能性も強いかと思います。【9月27日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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最高指導者の権威にもひるまないアフマディネジャド前大統領
核合意をめぐる基本路線の問題もありますが、アフマディネジャド前大統領と最高指導者ハメネイ師の個人的関係も影響しているのではないでしょうか。

アフマディネジャド前大統領は良くも悪くも強烈な個性の持ち主です。

“米大統領選で共和党の候補者指名を争うドナルド・トランプ氏は、イランでは「アフマディネジャド前大統領のようだ」と言われている。周囲が抑えきれない絶大な権力を得たアフマディネジャド氏は倫理観や法令に縛られず、強硬路線を貫いた。両氏はまさに似たもの同士だ。”(イランのシャヒド・ベヘシティ大、アリ・ビグデリ教授)【4月23日 毎日】

イランでは最終決定権は最高指導者にあって、大統領は行政府の長に過ぎない・・・と言われていますが、アフマディネジャド前大統領はそうした立場を超えて実権を握ろうとしてハメネイ師とも争い、不興を買った経緯もあります。

****プーチンをめざすアハマディネジャド****
中東のイランは、1979年のイスラム革命でイスラム聖職者のホメイニ師が権力を取って以来、聖職者集団がすべての権力を握る「イスラム共和体制」だ。

聖職者集団(専門家会議)が選出する「最高指導者」が最高権力者で、大統領はその下の行政の責任者でしかない。

しかし、外交面で米国と敵対する戦略が成功し、内政面で補助金縮小による財政立て直しに成功しているアハマディネジャド大統領は、自分を任命したハメネイ最高指導者から権力を奪取することをもくろみ、イランの上層部で権力闘争を引き起こしている。 (Ahmadinejad fights to stay relevant)
 
イラン大統領の任期は、2期8年が限度と憲法で決められている。アハマディネジャドの任期は2013年までだ。しかしアハマディネジャドは、自分の娘の夫で官房長官のイスファンディアル・マシャイエを、次期大統領選挙に当選させ、マシャイエに1期4年の大統領をやらせた後、17年から再び自分が大統領に返り咲こうと目論んでいる。(Analysis: Deep echoes of Iran political tremors)
 
このやり方は、ロシアのプーチン首相から学んだことだ。ロシアの大統領も任期の上限は2期8年だが、プーチンは大統領を8年やった後、子分のメドベージェフに1期4年の大統領をやらせ、来年の選挙で再び大統領に返り咲こうとしている。メドベージェフは最近、嫌々ながら、次期大統領選挙に出ないことを認めた。(Putin eclipses Medvedev in run-up to 2012 election)
 
ロシアの聖職者は、百年前の革命で権威を剥奪された。敵のいない権力者であるプーチンは、自分の権力の設計図を自由に描いて実行できる。

対照的に、イランは30年前の革命で聖職者独裁の国になった。アハマディネジャドがプーチンになるには、聖職者独裁を壊さねばならない。

聖職者集団は、アハマディネジャドの意図を早くから見抜き、09年に再選を果たした彼がマシャイエを副大統領の一人として据えようとした時、その人事を拒否している。アハマディネジャドはしかたなく、マシャイエを官房長官(政策顧問)にした。(Inside Iran's Fight for Supremacy)
 
アハマディネジャドは4月中旬、マシャイエを諜報大臣に就任させようとして、それまで諜報大臣をしていたモスレヒ(Heidar Moslehi)を罷免した。

多民族で多様なイランのような国では、国家を統治する際に諜報が非常に重要な部門だ。アハマディネジャドは、マシャイエを次期大統領に据える前に諜報大臣を経験させ、諜報分野の権限を、聖職者集団の傘下組織である革命防衛隊から奪取しようとしたのだろう。(Reports: Iran intelligence chief in political vise)
 
ハメネイはモスレヒの罷免を認めないと宣告した。だがアハマディネジャドはハメネイの指示を無視し、モスレヒを呼ばずに閣議を開いた。

ハメネイは怒り、モスレヒを出席させて閣議を開くよう、アハマディネジャドに強く求めた。モスレヒが出席して閣議が開かれたが、こんどはアハマディネジャドが欠席していた。4月後半、アハマディネジャドは閣議を2回欠席し、ハメネイに抗議の意志を示した。(Iran's Ahmadinejad in growing rift with top cleric)
 
聖職者独裁のイランで、ハメネイに逆らう者は国賊だ。有力な聖職者たちが相次いでアハマディネジャドを非難し、軍より強い力を持つ革命防衛隊もハメネイを支持した。アハマディネジャドは四面楚歌状態となったが、国際社会で孤立するほど声高に反米主義を唱え続けた彼は、かなりの頑固者らしく、大してひるまなかった。 (Power Struggle in Iran Enters the Mosque)(後略)【2011年6月12日  田中宇氏】
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最高指導者の権威すら侵しかねないアハマディネジャド前大統領の復活をハメネイ師は望んでいない・・・とも推察されます。

もっとも、2011年当時の上記のような確執を考えると、アハマディネジャド前大統領がハメネイ師の勧告を無視して出馬する可能性もあります。

イランでは最高指導者ハメネイ師の影響下にある護憲評議会が候補者の適格審査を行い、適格と判断された者のみが大統領選挙に出馬することを許されますが、ハメネイ師がアハマディネジャド前大統領の出馬を止めるような強権を行使するかどうかはわかりません。

かつての絶対的権威を有していたホメイニ師とは異なり、ハメネイ師は“最高指導者”とは言いつつも、政治状況を無視できない立場にあります。保守強硬派の主流派とは対立しているアハマディネジャド前大統領ですが、有力候補者がいない強硬派がまとまって前大統領出馬を求めた場合は・・・。

今回も「出馬するなとは言っていない」といったあたりに、そうした政治バランスに乗っかる立場が窺えます。
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イラン  実効を伴わない制裁解除でイラン経済の困難続く 政権・核合意への期待は失望に

2016-08-12 22:42:02 | イラン

(“イラン政府は世界中で流行中のスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」を他の多くのインターネット規制同様、即座に禁止したが、テクノロジーに精通した若者たちは禁止令などお構いなしで夢中でプレーしているようだ”【8月6日 AFP】)

核開発の野心を持ち続けるイラン
イラン・ロウハニ大統領は2013年8月に就任後、「対話外交」を実践し、昨年7月に核問題で欧米などと最終合意し、制裁は今年1月に解除されました。

「核合意」でイラン経済が改善し、「対話路線」「改革路線」のロウハニ政権の政治基盤が強化され、核以外の問題においても、イランと欧米の協調体制が強化される・・・というのが期待された「筋書」でした。

実際、制裁解除による景気回復の期待を追い風に、2月及び4月(決選投票)の国会議員選で支持勢力の改革、穏健両派が躍進し、ロウハニ大統領は事実上2期目の信任を得たとも見られていました。

しかし、どうもこうの「筋書」も怪しくなってきています。

ひとつは、イランが合意内容は遵守しているものの、核開発への取り組み自体は依然として続けているのではないかとの疑念が深まっていることです。

****イラン「核開発継続」の証拠続出 オバマ「外交遺産」は早やご破算****
イランと米欧など六カ国が結んだ核合意から一年を経て、イランが核開発のみならず、大量破壊兵器開発の野心を持ち続けていることが明らかになった。

イランが期待した経済交流も停滞気味で、イラン国内では保守派から、「合意に縛られる必要はない」との強硬論も強まる。オバマ政権下の唯一の中東での外交成果は、空中分解の危険が高まっている。
 
七月初旬、ドイツの情報機関「憲法擁護庁」が爆弾報告を発表した。イランが核合意後も、核開発に必要な物資調達を、国際市場で画策しているというのだ。
 
憲法擁護庁は昨年一年間の動向を分析した中で、「イランは極秘の手法により、ドイツから武器技術を違法に獲得しようとしている」と結論づけ、国際的な標準から見て「(調達の試みは)かなり量的に高水準である」と評価した。(中略)
 
ドイツは国連安全保障理事会の五常任理事国に加わり、イラン核合意をまとめた。それだけに、ふだんは慎重な独外務省も、「イラン国内の核合意に反対する勢力が、核合意を骨抜きにしようと試みている」(報道官)とイラン側の暗躍を厳しく批判した。

国益むき出しで地域覇権を目指す
さらにAP通信は七月中旬、イランの核開発に関する規制が、当初想定よりずっと早く解除される見通しであることを特報した。

昨年の核合意は、「規制は十五年で解除」としたが、未公表の付随文書では、「十年後には、ウラン濃縮計画を拡大する」旨が明記されていた。この報道について、米、イラン両国政府が直後に事実であることを認めた。
 
米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のジェームズ・フィリップス上級研究員は、「そのころになれば、ずっと高性能の遠心分離機を堂々と使える。濃縮ウランは二倍の効率で生産できるから、核武装化を止められない」と言う。同上級研究員は元来、核合意に反対の立場だが、「状況は一年前より悪くなっている」と指摘する。(後略)【選択8月号】
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イランが核開発を完全に放棄した訳ではなく、“イランは核の野心を延期しただけで、次の15年を高度な遠心分離機やミサイルの開発に使うつもりだ”というのは中東湾岸諸国などイランと対峙する国の見方でしたので、上記のような話はある程度“想定内”のことではあります。

制裁解除への失望が保守強硬派台頭を招く
それより冒頭「筋書」を怪しくしているもうひとつの要因は、制裁解除が実質的には進んでおらず、イラン経済は相変わらず疲弊したままで、国民にロウハニ政権への失望感が広がっていることでしょう。

****核合意を脅かすイランの失望****
・・・・イランが核合意を忠実に履行していることは確かなようです。IAEAは、イランの行動は「文句無し」と言っています。

問題は、核合意の結果、イランが期待したような経済効果を上げていないことです。大規模な航空機購入の契約は結ばれましたが、それ以外にイランに対する投資は停滞したままです。

我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない
この状態に対し、ハメネイ最高指導者は今月初め、「米国は信用できない。核協議は、我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない」と述べました。これは政治的発言ではありますが、イラン人の感覚を代弁している面もあります。
 
なぜ、欧米諸国が制裁を解除したのに、このような状態なのでしょうか。

それは、米国が、核開発がらみの制裁の他にも、イランの人権、ハマス、ヒズボラなど米国がテロ組織と指定したものへの支援、それに長距離ミサイル開発に関しても制裁を課しており、これらの制裁は核合意の対象ではなく、合意後も継続しているからです。
 
特に、制裁の対象組織に指定されている革命防衛隊は、広範なビジネスに関与しており、革命防衛隊の関与している企業と取引すると制裁の対象となります。

そのため、欧州の銀行はイランとの取引に躊躇しています。2014年、仏大手銀行のBNPパリバが、米国の制裁に違反してイランとスーダンと取引をしたとして90億ドルの罰金を払わされました。この前例がある以上、欧州の銀行が躊躇するのも無理はありません。(後略)【8月1日 WEDGE】
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イラン側が特に問題視するのは、喫緊の課題である航空機購入がブロックされたことです。

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制裁下では部品さえ輸入できなかったため、イランの航空会社は毎年のように大惨事を起こしていた。

ロウハニ大統領は今年一月、フランスを訪問した際、「エアバス百十八機を買う」という超大型契約を結んだ。三兆円を超す買い物だが、それだけイラン側は困っていた。
 
しかし、エアバスは部品の一〇%以上が米国産で、引き渡しには米側の承認が必要。半年たっても米国はその兆候さえ見せない。米ボーイング社に発注した八十機購入(百七十六億ドル)の計画は、米下院が圧倒的多数で「認められない」と決議してしまった。【選択8月号】
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経済全般の数字も一向に改善されていません。
一年前の「核合意」のとき街頭に繰り出して合意を熱狂的に歓迎した国民の期待は失望に変わり、ロウハニ大統領の好感度は急落しています。

代って台頭しているのが、政権を追われたはずの保守強硬派アフマディネジャド前大統領です。

****イラン経済、続く停滞 残る米の制裁、外資戻らず 欧州の銀行も及び腰****
昨夏のイラン核合意=キーワード=を受けた今年1月の制裁解除から半年あまりが過ぎたが、イランでは経済の回復に足踏みが続く。

米国が核関連以外の制裁を続け、欧州が取引に及び腰になっているからだ。強まる不満を背景に、反米色の強いアフマディネジャド前大統領が復権を狙う。来年5月の大統領選で再選を目指すロハニ大統領は厳しい立場に置かれている。
 
「核合意後も景気は変わらない。むしろ悪くなったよ。客足は伸びず、財布のひもは固いままだ」。首都テヘラン中心部のバザール(市場)でカバン店を営むアフマド・アリラシカリさん(70)はぼやいた。
 
制裁が終われば外資は戻り、経済も回復――そんな国民の期待はしぼみつつある。3月の失業率は11%で前年同期より0・4ポイント悪化。物価の高騰も続き、3月の消費者物価指数は前年より7・4%上がった。
 
経済評論家のプヤ・ジュベルアメリ氏は「制裁で失われたイランと外国企業の取引は、5%しか回復していない」と指摘する。
 
主な原因は、米国による制裁の継続だ。1月に解除されたのは核問題に絡む制裁だけ。米国は1984年からイランをテロ支援国家に指定し、ほとんどの米企業が今なおイランと取引できない。銀行も対象で、送金に米ドルは使えない。
 
そこでイランはもう一つの国際通貨、ユーロに頼ろうとしたが、欧州の大手銀行はそろって慎重だ。米国がかつてイランとの取引などへの罰金として、14年にフランスのBNPパリバに計89億ドル(約9千億円)、15年にドイツのコメルツに計14・5億ドルを科したことが尾を引いているとされる。
 
ロハニ大統領が1月の訪欧で署名したエアバス118機、総額250億ドルの巨額契約も決済をめぐって紛糾。イランは制裁下で機体を更新できずに老朽化したため大量調達を試みるが、まだ1機も届いていない。
 
米国は大統領選を11月に控え、対イラン政策がさらに強硬になる可能性もあり、「模様眺めの空気が広がっている」(日本外交筋)という。(中略)
 
 ■反米の前大統領、台頭
イランの最高指導者ハメネイ師は今月1日、「制裁解除後、生活に目に見える変化は皆無だ。米国は信用できないと改めて証明された」と憤りを示した。
 
ロハニ大統領はひたすら核合意の実現に努め、インフレや失業問題は「制裁解除で解決する」と答えてきた。今は「核合意は無意味だった」と批判を浴びる。
 
米メリーランド大などが6月、イランの約1千人に行った世論調査では、核合意で暮らしが改善したと答えた人は26%。ロハニ氏の好感度も、「非常に良い」が昨年8月の61%から38%まで下がった。
 
台頭するのが、アフマディネジャド前大統領だ。次の大統領を尋ねる質問で、1年前はロハニ氏と27ポイント差があったが、今回は8ポイント差に詰めた。7月から各地のモスクで演説を始め、「時が来れば私は戻る」と発言している。今月8日にはオバマ米大統領に資産凍結の解除などを求める書簡を送り、イランメディアの話題をさらっている。
 
また、イラン司法府は7日、原子力科学者のシャハラム・アミリ氏を「国家機密を米国に渡した」として死刑に処したと発表した。司法府と前大統領は政治的に近い。
 
アフマディネジャド氏が政権にあった05年からの8年間、イランは核開発を強行し続けた。返り咲けば、核合意を破棄しかねない。【8月12日 朝日】
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イラン国民の対米不信も強まっています。
“在カナダの調査会社が今年六月、イラン人約一千人に電話で聞き取りをしたところ、「米国はやがて全制裁を解除する」と信じる人は、二三%しかいなかった。一年前には同じ問いに、六二%が「そう信じる」と答えていた。
「米国は義務を守らない」と思う人は七二%、「米国は他国が関係改善をしようとするのを邪魔している」と思う人は七五%と、大多数が対米不信を強めていた。”【選択8月号】

原子力科学者のシャハラム・アミリ氏の処刑については、下記のように報じられていますが、真相はよくわかりません。

****イラン、核科学者を処刑「米国のスパイ****
イランの司法府報道官は7日、米国に「機密かつ極めて重要な」情報を提供したとして有罪になったイラン人核科学者シャハラム・アミリ氏(39)を処刑したと発表した。
 
同報道官はテヘランで記者団に対し、「シャハラム・アミリは敵に国家の最高機密を漏えいしたため絞首刑となった」と述べた。
 
アミリ氏は2009年にサウジアラビアでその行方が分からなくなり、一年後に米国で生存が確認された。イランの核開発計画をめぐる国際的な緊張がピークに達していた当時、アミリ氏の失踪については、拉致と亡命との間で見解が分かれていた。
 
その後、アミリ氏は2010年7月にイランに帰国。テヘランの空港では英雄として歓迎を受け、自分はサウジアラビアのメディナで、ペルシア語を話す米中央情報局(CIA)員に銃を突き付けられ拉致されたと説明していた。
 
また、米国当局からは、「自ら亡命し、イラン核開発計画の機密を含む重要な書類とラップトップを携行した」とメディアに話すよう圧力をかけられたと述べ、「だが、神の御意思により抵抗した」と話していた。
 
イラン当局は、この説明を受け入れなかったとされ、その直後にアミリ氏は再び公の場から姿を消した。同氏の逮捕に関する公式な情報はなかった。
 
司法府報道官は、イランの情報機関は米情報機関の裏をかき、アミリ氏の行動をすべて監視していたと述べ、「国家の機密、高度な機密情報を入手することができたこの人物は、わが国第一の敵である米国と結託し、イランの決定的な機密情報を敵に渡した」と記者団に説明した。
 
米国務省は7日、同件についてのコメントを拒否している。【8月8日 AFP】
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アメリカ側では大統領選挙ただなかにあって、「当選したら、核合意を破り捨てる」といった有権者受けするイランへの厳しい姿勢がトランプ氏からアピールされています。

これに対し、イランの最高指導者ハメネイ師は「それならこっちは焼き捨ててやる」と応じたそうで、“「歴史的合意」を軌道に乗せようという熱意は、双方の側ですっかりしぼんでしまった。”【選択8月号】という状況です。

アメリカ側がイランに「身代金」を支払ったのではないか・・・という件も報じられており、アメリカ世論のイラン及び「核合意」への見方を厳しくしそうです。

****米、イランに「身代金」400億円・・・・米紙報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは3日、イランが今年1月、スパイ容疑で拘束していた米国人5人を釈放した時期に、米政府がイラン側に4億ドル(約400億円)を支払ったと報じた。
 
米政府は「釈放と資金の支払いは無関係だ」と説明しているが、共和党は「秘密裏の身代金」と批判しており、米大統領選の新たな争点になりそうだ。
 
釈放は今年1月、米英などとの核合意に基づく制裁解除に合わせて行われ、同紙によると米政府は、現金4億ドルを輸送機でイランに運んだ。
 
米ホワイトハウスのアーネスト報道官は記者会見で資金について、「イランが1979年の革命前に武器調達費として米国に支払った金額の一部を返金した」と説明したが、共和党全国委員会は「巨額の資金がテロ組織の懐に入りかねない」とする声明を発表。同党の大統領候補ドナルド・トランプ氏もツイッターで「スキャンダルだ」と批判した。【8月4日 読売】
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イランが周辺地域のシーア派勢力を支援して、その影響力拡大を狙っているのは事実ですが、それを言うなら、アメリカの「同盟国」であるサウジアラビアのイスラム過激派支援や、パキスタンのタリバン支援の方がもっと深刻な結果をもたらしています。

イラン以上に非民主的・人道軽視の国は山ほどあります。

79年のテヘランでおきたアメリカ大使館占拠・人質事件のトラウマでしょうか、アメリカ議会のイランへの厳しい姿勢は合理性に欠けるように思われます。

かつての民主派ハタミ大統領のときも、アメリカはイランとの関係改善を進めず、結局民主派政権を見殺しにし、保守強硬派アフマディネジャド大統領への道を開き、対立と核開発を促すことになりました。

アメリカは再び同じような道を歩もうとしているように見えます。

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現状の打開のために何がなされるべきでしょうか。米国がテロ組織支援、長距離ミサイル開発などを対象にした制裁を緩和、解除することは考えられません。

そうとすれば、欧州の銀行の対イラン投資を促すためには、米国政府が、外国の銀行がどうすれば制裁違反にならないかについての明確なガイドラインを示すことが必要でしょう。
 
オバマ政権にとって、イランとの核合意は、功績として残るような成果です。オバマ政権がその成果が無にならないようにするのは当然です。【8月1日 WEDGE】
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イラン国会議員選挙  改革・穏健保守派躍進の勢い ロウハニ政権の対外協調路線を国民が支持

2016-02-28 22:14:55 | イラン

(白い紙で覆われた絵をのぞこうとする少女。中にはイスラム風に顔などを隠していない女性の絵が描かれている【2月15日 Newsweek】)

改革・穏健派躍進 テヘランでは全30議席独占
欧米諸国との間で核開発問題で合意を取り付け、市民生活を疲弊させてきた経済制裁解除を実現した保守穏健派ロンハニ大統領の進める協調・改革路線が基盤を固めるのか、あるいは保守強硬派の巻き返しで政治的求心力を失う形になるのか・・・注目されていたイランの国会議員選挙が、専門家会議選挙と併せて26日に行われました。

専門家会議は、執行機関たる行政府の長である大統領を超える存在として、行政・司法・立法の三権の上に立ち、また、軍の最高司令官として国政の最終決定権を有する最高指導者の選出と罷免の権限があり、76歳と高齢の現最高指導者ハメネイ師の後継体制を決める可能性があります。

ロウハニ大統領は「経済的、政治的尊厳への第一歩が核合意だった。次の一歩はこの選挙だ」と、改革・穏健保守派への支持を訴えてきました。

改革・穏健保守派が議会での多数派を握れば、ロウハニ政権の求心力が高まり、外資がイランへ進出しやすくするための法整備などが加速し、経済も活性化するものとみられています。

一方、米国を「敵」とみなし、イスラム教シーア派聖職者や保守的な商人層を支持基盤とする強硬保守派は、ロウハニ大統領が掲げる外国からの投資増大が進めば、国内の産業や商業が大きな打撃を受けるなどと主張し抵抗を強めていました。

投票率については、“投票率(速報値)は約60%だが、同国内務省は開票が進むにしたがって「増えるだろう」としており、最終的には2012年の前回議会選の約64%を上回る可能性がある。”【2月27日 産経】とのことです。

保守強硬派は組織票に依存しており、投票率が上がれば、浮動票が改革・穏健保守派に流れると言われています。

“その改革派は、投票率を上げることに力を注ぐ。20日の集会で、アレフ元第1副大統領は「投票所に行き、候補者全員の名前を書こう」と繰り返した。合間にポップ音楽を生演奏し、親しみやすさをアピール。ロハニ氏も24日、国民全員の携帯電話に「投票に行こう」とメッセージを送った。”【2月26日 朝日】

まだ開票が続いている段階ですが、ロウハニ大統領を支持する改革・穏健保守派が躍進する形勢にあるようです。

****<イラン国会議員選>改革・穏健派躍進 核合意を評価****
イラン内務省は28日、26日に実施されたイランの国会(定数290)議員選の途中経過を発表した。

首都テヘランでは、ロウハニ大統領支持派の改革・穏健派連合が全30議席を独占。地方の選挙区でも議席を大きく伸ばす見通しで、核合意の実績を評価された大統領支持派が躍進する情勢となっている。

全国レベルでは現段階で、反大統領派の強硬派が過半数を維持しているが、改革派が影響力を強めるのは確実だ。最終結果は29日朝に発表される見通し。

また、最高指導者の選出権限を持つ「専門家会議」(定数88)でも、テヘラン地区では改革・穏健派連合が躍進。連合の主導的立場のラフサンジャニ元大統領がトップで、ロウハニ師が3位に続く。

内務省の発表では、投票率は約60%(暫定値)。強硬派系ニュースサイト「タスニム通信」によると、国会議員選は141人の当選が確実となり、強硬派79人▽改革派38人▽独立系18人▽穏健派5人▽不明1人。

一定得票に届かない候補は決選投票に進むため、現段階で勢力の断定はできないが、改革派は現有16議席から議席を伸ばす。

ロウハニ師は昨年7月、核開発を巡って欧米など6カ国と合意し、経済制裁の解除を引き出した。
また、2013年8月の就任以来、暴力と過激主義に対抗する取り組みの必要性を訴えてきた。27日にも、スイスのシュナイダー大統領との共同記者会見で、過激派対策への「世界的な協力」が必要と強調した。

議会で支持基盤を固め、核合意同様、強硬派が消極的な対外融和路線を促進したい考えだ。

イランは人口約8000万人のうち約6割が、1979年の革命を知らない30歳以下の若者。抑圧的な慣習に違和感を感じ、表現の自由や女性の地位の拡大などを掲げるロウハニ政権に同調する層が広がり、大統領派躍進の一因となっている。【2月28日 毎日】
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前回2012年の国会議員選では改革派は選挙不正への不信から多くが選挙をボイコットしており、選挙戦はもっぱら大統領(当時のアフマディネジャド大統領)派と反大統領派の保守派内の争いとなりました。

“改選前の勢力は改革派が1割、保守強硬派が4割程度。他に中道の保守穏健派や独立派がある”【2月27日 朝日】

国会は昨年10月、最終的に賛成多数で核合意を承認しましたが、議員290人中、賛成が161人、反対が59人、棄権・欠席が70人でした。

前回選挙の事情から、今回は改革・穏健保守派が増加するのは当然予想されていたところですが、首都テヘラン選挙区で全30議席を獲得するというのは、やはりロウハニ大統領の進める協調・改革路線への国民の期待が強いことが窺われます。

なお、定数290議席のうち、5議席が非ムスリムの宗教的少数派に割り当てられているそうです。

また、定数290に対して4844人が立候補していますが、投票は記名式で複数の候補者を書くことができる方式です。従って定数30を1111人が競う首都テヘランでは、最大30人の氏名を書けるそうです。【2月26日 朝日より】
集計はさぞかし大変でしょう。その割には早い段階で数字が出ているようです。

核合意・制裁解除で追い風に乗る改革・穏健保守派ですが、大きな壁は選挙の前の立候補段階にありました。

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国会議員への立候補申請者は過去最多の約1万2000人。

最高指導者ハメネイ師の影響下にある「護憲評議会」は事前審査で6229人の立候補を認めたが、1次審査で改革派約3000人のうち99%を「最高指導者への忠誠がない」などの理由で不適格と判断。最終審査でも認定されたのは少数だった。

一方、専門家会議の選挙では、イラン革命(1979年)を主導した初代最高指導者ホメイニ師の孫、ハッサン・ホメイニ師(43)が事前審査で失格とされた。同師は改革・穏健派連合に近い立場。連合勢力は祖父のカリスマ性を継ぐ人気にあやかり、国会議員選挙で追い風が吹くことを期待したが、勢いをそがれた。

ただ、事前審査に国民の不信が高まり、連合勢力には逆に好材料となっている。【2月26日 毎日】
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これまでも何度も取り上げてきたように、この不透明な資格審査が恣意的に運用され、改革・穏健保守派は選挙に参加することも難しい情勢にあります。

ただ今回は、ロウハニ大統領らの強い抗議で、ようやく一部が復活したことで、一定に選挙戦に臨むことが可能となっています。

【“弱腰”オバマ外交がもたらした世界の緊張緩和とイランの国内改革
核問題の合意に関しては立場によって評価も分かれますが、個人的には、イランの暴走を抑え、世界の危険を緩和するものとして、また、イラン国内の民主化・改革を後押しするものとして評価しています。

****硬軟両様か蜜月化か 米・イラン関係****
ニューヨーク・タイムズ紙は1月17日付で「イランとの取引ゆえに、世界はより安全になった」との社説を掲載し、核合意の実施、制裁解除などを歓迎しています。社説の要旨は、次の通り。

外交で達成された歴史的進歩
多くの人が決して来ないと言ってきた時が来た。イランは2015年の米などとの核合意を履行した。その結果、世界はより安全になった。

国際原子力機関(IAEA)は1月16日、イランが8.5トン以上の濃縮ウランをロシアに搬出し、1万2千以上の遠心分離機を廃棄し、プルトニウム製造用のアラクの原子炉にコンクリートを注ぎこんだことを確認した。

1月17日、オバマ大統領は「イランが爆弾を作るすべての道を閉ざした」、イランとの関与が「重要問題の解決への窓」を開けた、中東での戦争によらず、外交でこの歴史的進歩が達成された、と述べた。

今後も取引が厳格に守られることを確保するという難しい問題はある。その確保は米、ロ、中、欧州の義務である。イランは核施設について継続的なIAEA査察を受けるので、だますのは難しくなる。それに爆弾のための核物質を作ろうとしても1年以上かかる。合意の前には2〜3か月でできた。

この合意は忍耐強い外交、オバマ大統領の核問題を交渉により解決するとの先見の明ある決意の有効性の証明である。また、ロウハニ大統領とザリフ外相は核合意と履行を建設的態度で追求した。

恩赦が示す将来的な両国協力の可能性
またWP紙のレザイアン特派員と他3人の釈放を祝うときでもある。米は制裁違反で逮捕されたイラン人7名を恩赦した。別に米国人1名も自由になった。紛争の解決には妥協がいる。これらは将来、米国とイランが協力する可能性を示す。

イランは10名の米水兵(誤ってイラン領海にはいった2隻の乗組員)を釈放した。イランの強硬派の軍が2隻に乗り込み、捕らえられた水兵の写真を公開(たぶんジュネーブ条約違反)した。

通常ならば、これは危機になっただろう。米国の強硬派はオバマとイランを非難しただろう。しかしケリー国務長官とザリフ外相の数回の電話の後、ハメネイは事件を解決しようとするロウハニとザリフを支持した。対決が核取引を危険にさらすと双方とも知っていた。

もちろん、核合意の順守も米人の釈放も、イランがその他の国連決議や米国法違反で批判されないことを意味しない。拘束された米国人がイランを出た後、オバマはミサイル実験に関与した11のイラン企業と個人に制裁を課した。

イラン批判者は、制裁解除でイランが1000億ドルの資金を得、地域の不安定化のために使うことを恐れている。しかしロウハニは来月の議会選挙を前に国民の生活改善を図ることに重点を置くだろう。

このイランとの取引は北朝鮮交渉へのモデルでもありうる。【2月18日 WEDGE】
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今回選挙の結果はまだ定かではありませんが、改革・穏健保守派が議会主導権を握る形になれば、“弱腰”との悪評高いオバマ外交による核合意は、イラン民主化を後押しし、世界の緊張緩和に資するものとなったと評価できると考えます。

もちろん、イラン国内の改革は平坦な道のりではなく、“今回の選挙結果にかかわらず、強硬保守派は、護憲評議会や最高指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊などを通じて政治・社会に強い影響力を持つだけに、今後も両者のせめぎ合いが続きそうだ。”【2月25日 産経】とも。

特に、経済制裁解除の変化がすぐにはあらわれない場合、国民の強い期待が失望に変わることでロウハニ政権への強い逆風となることが危惧されます。


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イラン  経済制裁解除で各国との経済関係強化 強い国民の期待に国内変化が間に合うか?

2016-02-07 20:14:36 | イラン

(現在のイランの対外経済関係においては中国の存在が圧倒的です。欧米の経済制裁を耐え抜いたのも中国との関係が大きかったと思われます。【2月6日 ニュースィッチ】)

【「新しいページを開く」】
イランは、欧米など6カ国との昨年7月の最終合意に従って核開発の制限を履行し、国際原子力機関(IAEA)が1月16日に確認、これを受けて欧米と国連がイランに科してきた制裁の解除を宣言し、日本政府も1月22日に経済制裁を解除しました。

イランに対する経済制裁解除を受けて、当然ながらイランとの経済取引(イランへの輸出、イランからの原油輸入)が脚光を浴びています。

****イラン、欧州と巨額契約 計5兆円超 対IS、仏と協力****
イランのロハニ大統領が28日、核開発をめぐる経済制裁の解除を経て臨んだ初外遊を終えた。イタリアに続いて訪れたフランスでは、航空機大手エアバスに巨額の発注を決定。

長く敵対してきた米国への牽制(けんせい)もにじむ。ビジネスでの大盤振る舞いは、外交の布石ともいえる。

パリ中心部の仏大統領府(エリゼ宮)。官民の協定や契約の署名式を経て、ロハニ氏は、おだやかな笑顔で記者会見場に姿を見せた。

オランド仏大統領が「新しいページを開く」と持ち上げた首脳会談の成果は、まずビジネスにあらわれた。

AFP通信によると、エアバスが受注する航空機118機は約250億ドル(3兆円)超。ライバルの米ボーイングに先手を打つ形になった。

自動車のプジョー・シトロエングループ(PSA)はイラン大手との合弁会社を設立、石油の仏トタルはイランが増産に動く原油の調達を決めた。先だって訪れたイタリアの企業との契約も合わせると、5兆円を上回る契約額になったとみられる。

イランから見て欧州は、収入源である原油の有力な輸出先だ。逆に欧州から見れば、約7850万の人口を擁する大国イランは有望な市場だ。

イランへの期待は経済にとどまらない。過激組織「イスラム国」(IS)などによるテロとの戦いや、欧州へと向かう大量の難民を生むシリア情勢の安定への貢献だ。

ロハニ氏はこの日、「情報交換を重ねて、テロとの戦いを強める必要がある」と表明。ISは、イランの国教であるイスラム教シーア派を敵視しており、対ISでの協力を確認した。

シリアの将来については、イランは、いったんアサド大統領を退陣させて移行政権をつくり、その後の選挙でアサド氏の立候補を認めるという展開を描いているという。

ロハニ氏は「シリアの問題は『人』ではなく、テロ行為だ」とも話した。米国ほどアサド氏に対して厳しくない欧州諸国に向けた「協力が可能だ」とのメッセージともいえる。【1月30日 朝日】
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出遅れ気味の日本も
日本企業も、イランへの進出を狙っています。
今後、原油や天然ガスの輸出増加が見込まれており、また資源関連の他、自動車大手を含む幅広い業界で有望市場として事業拡大が期待されています。

*****千代田化工 制裁解除イランで改修工事 初受注へ検討****
プラント建設大手の千代田化工建設が、イランにある製油所の改修工事に関し、事業化に向けて検討していることが3日分かった。

受注が実現すれば、日本政府などが経済制裁を解除してから、日本企業がイランでインフラ事業を手掛ける初めての案件になるとみられる。(後略)【2月3日 毎日】
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ただ、イランとの関係においては、すでに中国が輸出入それぞれの約4分の1を占める存在となっていること、イランへの傾斜は、イランを敵視するサウジアラビアなどを刺激することなど問題もあ指摘されています。

****欧米に続き経済制裁解除。イラン進出「はやる心」と「懸念」と****
・・・ただ、課題もある。日米欧が経済制裁を科している間に中国の存在感が高まっていることだ。輸出入ともに最大の相手国は中国で、14年度で輸出の25・6%、輸入の23・9%を占める。だめ押しするように習近平国家主席は1月22日にイランを訪れ、経済関係の強化を打ち出した。

地政学的リスクもある。特に1月に入ってサウジアラビアと断交したことは不安の種だ。(中略)「断交しても、イラン経済には影響は少ない」(中村志信日本貿易振興機構テヘラン事務所長)とされるが、両国関係が一段と悪化し、中東情勢が不安定化する懸念はぬぐえない。

さらに今回、欧米と日本は一部制裁を解除したものの、すべての制裁を解除したわけではない。経済産業省は1月22日、大量破壊兵器の開発への関与が懸念される企業リストの中から、イラン企業73社を除外したが、現在も222社が残る。(中略)

日本企業の動向は?
制裁解除を受けてイランでは、日本向けの原油輸出拡大への期待が高まっている。イランからの輸入拡大は日本にも、原油調達先の分散化という利点をもたらす。

ただイラン産の原油は性状がかなり特殊で、処理できる製油所が限られる。イランとサウジアラビアの国交断絶で、中東情勢の緊迫感が高まっていることなどから、早期の輸入拡大には慎重な声もある。(中略)

さらに問題を複雑にしているのが、イランとサウジの国交断絶。エンジ会社は両国の国営石油会社と取引するケースが多く、「どちらかに肩入れしている心証を与えるのは得策ではない」(関係者)といった見方も出ている。(後略)【2月6日 ニュースィッチ】
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イラン原油の増産で原油価格は
世界経済の大きな関心事であるイランの原油輸出については、2段階で100万バレル増産が予定されているとか。

原油価格は1バレル=30ドル付近にまで低迷して、世界経済だけでなく、ロシアやサウジアラビアの動向など、国際政治へも大きな影響を与えていますが、今後イランから供給増加によって、更に価格押し下げの圧力が働くことが予想されています。

****イラン経財相「原油増産、2段階で100万バレル ****
来日したイランのアリ・タイエブニア経済財務相は4日、都内で日本経済新聞のインタビューに応じた。原油生産について米欧などの制裁解除を受け、今後日量50万バレルずつ2回に分け、計100万バレルを増産する方針を示した。

自動車など製造業への外資導入を進める考えも強調。フランスの自動車大手ルノーがイランの同業大手サイパとの提携で近く合意する見通しだと明らかにした。

タイエブニア氏は原油の増産規模について、すぐにでも100万バレルに達する能力があると指摘した。2段階で増やす理由は石油価格の下落に対応するためだと説明。

後半の50万バレルの増産については2016年の年央以降に「市況を見ながら」判断すると述べた。油価が低迷すれば、増産の規模を縮小したり、タイミングを遅らせたりする可能性を示した格好だ。

イランの原油生産量は現在、日量280万バレル前後とみられている。イランの増産にはサウジアラビアなどが警戒しているといわれるが、タイエブニア氏は「(サウジやイランも加わる)石油輸出国機構(OPEC)の加盟国の基本的な理解を得ている」と語った。

タイエブニア氏は、産業の裾野が広い自動車をはじめとする製造業への外資導入を進める意向を強調した。国内で多くの雇用を創出し、生産性を高めるためだ。

1月には仏自動車大手のプジョーシトロエングループ(PSA)が、同業のイラン・ホドロと折半出資で合弁会社を立ち上げることで合意した。5年間で4億ユーロ(約520億円)を投資する。

イランの核開発抑制が確認されたことで、米欧などは1月、イランへの経済制裁の解除を決定した。その後、中国の習近平国家主席がイランを訪れ、イランのロウハニ大統領がイタリア、フランスなどを歴訪。イランと主要国の間で経済関係の強化を探る動きが相次いでいる。【2月5日 日経】
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もっとも、原油価格は国際情勢の変化などで大きく動きますので、予想されるような価格低迷が続くのかどうかは定かではありません。

あまりの価格低下でサウジアラビアの国内が混乱し、王制が揺らげば、一気に跳ね上がることもあります。
ただ、以前と異なるのは、アメリカのシェールオイル生産がありますので、市場価格を調整する形でシェールオイル生産が拡大し、やがて価格は落ち着くことも考えられます。

原油など資源価格が低い水準で推移することは、日本経済にとって基本的には追い風でしょう。この追い風を生かせないようなら・・・・。

それにしても、1年半前の1バレルが100ドルを超えるような原油価格は何だったのか?
産油国は「濡れ手に粟」のぼろ儲けだったことでしょう。しかし、そのことが逆に資源依存体質からの脱却を遅らせることにもなり、石油など資源産出は「麻薬」のようなものにも思われます。

また、日本などの資源輸入国の立場で考えると、現在の3倍以上の価格でもなんとかやってきた訳で、経済というのは思った以上に、弾力性・対応力があるもののようです。その過程でどういう変化が生じたのかは、別途精査する必要はあるでしょうが。

国民の期待が失望に変われば保守強硬派の揺り戻しも
イランの経済制裁解除がイラン国内に及ぼす影響としては、制裁で苦しんできた経済が好転することで、欧米との交渉を主導してきた現在の穏健派ロウハニ大統領の政治基盤にプラスとなり、ひいてはイラン国内の民主化にも・・・という流れが期待される訳ですが、話はそう簡単ではないようです。

*****イランに経済復興ブーム 漁夫の利を得る強硬派****
核合意によりイランの経済制裁が解除され、8000万人の市場を狙って欧州や中国の企業などが殺到、同国に経済復興ブームが起きている。

制裁に苦しんできた国民の期待も大きいが、制裁解除の効果が末端まで及ぶには数年かかるとされ、漁夫の利を得るのは結局、実権を握る革命防衛隊など保守・強硬派だとの見方も強まっている。

まずは1000億ドル
制裁解除を見越した各国のイラン詣では昨年から始まり、特にフランス、英国、ドイツなど欧州各国当局者や企業の代表らが続々イラン入り、今年に入ってイラン詣ではさらに加速した。

例えば、制裁が解除された1月16日前後にはドイツのシュレーダー元首相やチェコの貿易相などもテヘランに滞在していた。

イラン政府は原油の生産を日量50万バレル増やすことを決定し、凍結されていた海外預金のうち1000億ドル(10兆円)が自由に使えるようになったことも発表した。

銀行9行が国際送金ネットワークに復帰し、貿易の決済ができるようになった。これに伴い使用できなかったクレジット・カードも利用可能になる見通しだ。

制裁解除の立役者である改革派のロウハニ大統領は先月末、イタリア、フランスを相次いで訪問し、両国との間で5兆円を超える巨額の商契約や企業の業務提携などに合意、経済制裁が解除されて自由の身になったイランをこれ見よがしに誇示した。

大統領は政治面でも、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いや欧州に殺到する難民問題などについて、オランド仏大統領らと突っ込んだ協議を行った。(中略)

ロシアも武器や防衛システム、原子炉建設などをイランに売りこむことに躍起になっており、トルコとの関係悪化で輸入ができなくなった農産物や食肉をイラン産に切り換えたり、観光ビザの撤廃を検討中とされる。

イラン・ビジネスを狙っているのは欧州だけではない。中国や韓国も多数の企業がテヘランに入っている。中国の習近平国家主席自ら1月にはイランを訪問してロウハニ大統領と会談、中国がイラン国内で高速鉄道を整備することで合意した。習主席は最高指導者のハメネイ師とも会談した。

これに対して日本企業は出遅れ気味だが、商社やメーカー、プラント企業などがイラン当局者や企業幹部との接触を図っている。弾道ミサイル発射実験で新たな制裁を発動した米国の企業もイランとの取引には慎重だ。

誰が甘い汁を吸うのか
イランの海外凍結資産はなお2000億ドル(20兆円)は下らないと見られており、石油の増産とも相まってイランの経済復興ブームが今後もしばらく続く見通しだ。

しかし経済専門家らによると、一般国民が制裁解除の恩恵を受けるようになるまでには少なくとも1年以上かかる、という。

このため、イランの権力バランスは制裁が解除されてしばらくは、ロウハニ大統領ら改革派や現実主義者らに有利に傾くものの、制裁解除の効果を身近に感じられないとなると、国民の期待が一気に失望に変わる可能性もある。

「失望は容易に批判に変わり、追い込まれているかに見えていた保守・強硬派がそこに乗じて揺り戻しに動く懸念が強い」(ベイルート筋)。

ロウハニ大統領は、革命防衛隊など保守・強硬派のこうした動きとも戦わなければならず、石油価格の下落の中でいかに国民の生活を向上させていくかがカギとなる。

専門家らによると、保守・強硬派が解除された資金の一部をすぐに入手することになるのは確実。復興がうまくいっても、いかなくても、どちらに転んでも同勢力が最終的には漁夫の利を得ることになる、という。

1月にイランと断交したサウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国は、イランが巨額の解除資金をシリアのアサド政権支援やイエメンを支配するシーア派のフーシ派に対する援助に活用するのは間違いないと見て、不信感と警戒感を強めている。【2月5日 佐々木伸氏 WEDGE】
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革命防衛隊などは経済制裁下にあっても権益を独占する形で巨利を得てきたとも言われています。
こうした既得権益層を経済から排除して、成長の恩恵を広く国民に行きわたらせるのは至難の事業です。場合によっては血を見るような。

国民の変化・生活向上への期待という大きなプレッシャーを受けながら、ロウハニ政権が結果を出せるのか・・・これからの話です。
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イラン  念願の経済制裁解除も間近 今は事を荒立てない抑制的対応

2016-01-13 22:43:57 | イラン

(イランに拿捕されたと報じられたものと同型の米海軍小艦艇=米国防総省提供 【1月13日 毎日】)

経済制裁解除を前に冷静な対応
中東においてシーア派イランと影響力を争うスンニ派盟主を自任するサウジアラビアが、シーア派宗教指導者の死刑を執行し、イランとの緊張が高まっている件については、1月5日ブログ“サウジアラビア・イランの対立で拡大する宗派対立 「相手の反発を計算した行動」? 判断ミス?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160105で取り上げたところです。

サウジアラビアがイランの反発をどこまで計算していたのか、最初からイランとの対決を狙ったものだったのかどうか、核合意で欧米との協調が進むイランを刺激して、事態の転換を狙ったものだったのか等については、よくわかりません。

もともと、王政を批判するスンニ派過激派の処刑という国内対策が主眼で、バランスをとる都合でシーア派指導者も処刑したにすぎない・・・といった見方もあるようです。
(1月8日 Newsweek 川上泰徳氏 「シーア派指導者処刑はサウジの「国内対策」だった」http://www.newsweekjapan.jp/kawakami/

どこまで「計算づく」だったのか・・・そのあたりはさだかではありませんが、イラン・テヘランにおけるサウジアラビア大使館襲撃を受けて、サウジアラビアはイランとの国交を断絶、他の中東諸国への対イラン包囲網を呼びかけています。

ただ、サウジアラビアの呼びかけはさほど広がっていないようにも見えます。

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・・・・今回の対立では、サウジの断交に追随したのは7日現在で、バーレーン、スーダン、ジプチの3カ国にすぎない。

サウジが同じシーア派の脅威にさらされているとして、同調行動を取ると見ていた湾岸協力会議のアラブ首長国連邦(UAE)、クウエート、カタールは大使引き上げなどイランとの外交関係引き下げという軽い対応を取っただけだ。オマーンにいたっては非難したにとどまった。

サウジはスンニ派アラブ諸国の支援がもっとあると読んでいたようだが、その思惑は大きく外れた格好だ。

莫大な財政支援をしてきたパキスタンやエジプトから具体的な支援行動はなく、さらにはシリアのアサド政権への反対でスクラムを組んできたトルコもサウジを応援する措置は取らなかった。【1月8日 WEDGE】
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そうした状況にあって、欧米との核合意で経済制裁も間近なイランの方は“ここは、おとなしくした方が得策”と判断したようです。
更に、イエメン・サヌアのイラン大使館がサウジアラビアの空爆を受けた・・・との事件も。

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米欧を含め国際的には、今回の宗派対立のきっかけになったサウジによるシーア派の宗教指導者ニムル師の処刑に対し、人権軽視との批判が強い。こうした空気を読んだイランはサウジの断交を挑発としながら、冷静な対応に切り換え始めていた。

特にロウハニ大統領はテヘランのサウジ大使館に乱入するなどして拘束された群衆を「犯罪者」と呼び、対立をこれ以上激化させないというメッセージを送っていた。

というのも、イランは米欧との核交渉がやっと合意に達して苦しんできた経済制裁の解除が始まりつつあり、今回のサウジとの関係悪化で新生イランの再出発が頓挫することを危惧しているからだ。

スンニ派諸国の同調が少ないこと、国際的な批判にさらされていること、そしてイランが冷静に対応し始めて外交的な得点を上げていることにサウジのサルマン体制が焦燥感を深めているのは想像に難くない。こうした焦燥感がサヌアのイラン大使館空爆につながったとの見方が出るのは当然だろう。(後略)【同上】
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サウジアラビアが主導する連合軍は声明で「イエメン・サヌアのイラン大使館周辺で軍事行動はしていない。大使館の建物に損傷はない」とイランの主張を虚偽と断じています。

真相はよくわかりませんが、イラン側としては、これでテヘランのサウジアラビア大使館襲撃をチャラにできる・・・との狙いがあるようです。

****サウジ・イラン断交】イラン、サウジへ反攻 イエメンの大使館「襲撃」はより悪質と国際世論にアピール****
イランは、内戦状態にあるイエメンのイラン大使館周辺がサウジアラビアの空爆を受けたという主張を、サウジへの“反攻”の材料としたい考えだとみられる。

断交のきっかけとなったイランの首都テヘランのサウジ大使館襲撃の際には、サウジから「国際法違反」だという非難を浴びてきたが、今回の「事件」により、サウジの方がより悪質だとアピールできるとの計算がちらついている。

イラン国営メディアによると、同国外務省のアンサリ報道官は7日、空爆は計画的な行動だとした上で、「外交団を保護する国際合意に違反する」と述べ、サウジの責任を強調した。

この論法は今月初め、イランのサウジ大使館などが襲撃されたことを受け、サウジがイランへ向けてきた非難と同様のものだ。

イランは、大使館襲撃はサウジによるシーア派高位聖職者処刑に抗議する群衆の一部が暴徒化したものだとして、「遺憾の意」を示してきた。

しかし、今回のサウジへの非難からは、それを相殺するだけでなく、軍事行動の中でのことだけにサウジはいっそう悪質だ−と印象付けようとの意図も見え隠れする。

これに対しサウジは、敵対するイエメンのイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が、館員らが退避した各国大使館の敷地などをゲリラ攻撃に利用していると主張。両国は今後も、国際世論を味方につけるために非難合戦を繰り返すものと予想される。

一方、イラン国内では、サウジ大使館襲撃は過剰反応だったとする論調も目立つ。イランのロウハニ大統領は事件直後、ツイッター上で処刑と大使館襲撃の両方を批判。同国では一般国民によるツイッターなどソーシャルメディアの利用は制限されていることから、主に国外向けに政権としての立場を示した格好だ。

イランのメディアでも、サウジによる聖職者処刑は不当だとしつつも、大使館に危害を加えることを戒める論説が多い。米欧などとの核合意に基づく経済制裁の解除を控え、深刻な外交問題を抱えたくないという心理もうかがえる。【1月8日 産経】
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サウジアラビアの呼びかけは広がらず
サウジアラビアは10日に開催されたアラブ連盟の外相級緊急会合でイラン批判を主導しましたが、具体的なイランへの対抗措置は盛り込まれていません。

****<アラブ連盟>対イラン措置盛らず 非難声明のみ発表****
イランにあるサウジアラビア大使館が襲撃された事件などを受け、アラブ連盟(21カ国・1機構)は10日、エジプトの首都カイロで外相級の緊急会合を開き、大使館襲撃について「(大使館の保護を定めた)国際法に違反する」と、イランを非難する声明を発表した。

しかし、加盟国の足並みは乱れ、具体的な対抗措置は盛り込まれなかった。

イランと同じイスラム教シーア派が影響力を持つレバノンは、声明への賛同を拒否。イラク外務省は大使館襲撃に対する非難についてのみ賛同した。サウジは、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの4カ国で委員会を設置し、今月25日にUAEで今後の対処を検討する。

サウジのジュベイル外相は10日、「イランとの断交などは第一歩に過ぎない。アラブ諸国に(イランが)内政干渉を続けるなら、さらなる対処を取る」と述べた。

国営サウジ通信によると、会合では「大使館保護のための必要な措置を怠った」とイランの不作為に非難が上がった。

また、シーア派指導者処刑を決めたサウジの司法判断に対する「イランの露骨な内政干渉」や、UAEと領有権を争うペルシャ湾の三つの島を「イランが占有している」ことについて「湾岸諸国の安定をむしばむ」との批判が出た。

イランのヌール地域戦略研究所のサアドラ・ザレイ所長(54)は「こうした声明はイランとサウジの緊張悪化を招くだけだ。サウジは緊張を高める手段に声明を利用するだろうが、同国やアラブ連盟の影響力は経済的介入には及ばず、イランの中東での立場や周辺国との関係には影響しない」と話している。

一方、イラン内務省は9日、大使館襲撃事件で「適切な対応を怠った」としてテヘラン州の治安担当幹部1人を更迭したと発表した。逮捕者は約60人に増えたとしている。【1月11日 毎日】
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その後、この空爆問題でイラン側が何か報復行動をしたという話も聞きません。

制裁解除は早ければ週内にも
事態は、事を荒立てないイラン側のペースで進んでいるように思われます。
念願の欧米の経済制裁解除も、今週中、あるいは週明けにも解除される見通しとなっています。

****米欧の対イラン経済制裁、週内にも解除へ 日取りは不明***
イランの核開発に対する米欧などの経済制裁の解除が、早ければ週内にも始まる見通しになった。イラン政府関係者が12日、解除の前提となる核開発の縮小に関し、国際原子力機関(IAEA)との最終協議を終えたと明らかにした。具体的な解除の日取りは不明。

イランは昨年10月、米欧など6カ国と、イランが核開発を大幅に制限し、見返りに制裁を解除することを正式に決めた。イランはその後、濃縮ウランの大半をロシアへ運び出し、ウラン濃縮に使う遠心分離器の約3分の2を撤去。さらにプルトニウムを抽出できる重水炉の解体も始まり、解除の条件が整った。

解除はIAEAが現場を確認し、6カ国を代表する欧州連合(EU)がイランと共同声明を出した後に手続きが始まる。

イランのロハニ大統領は11日、制裁が「数日以内に解除される」と発言。米国のケリー国務長官も7日、「順調にいけば履行まであと数日だ」と述べていた。ただ、IAEAの確認に時間がかかり、「週明けにずれ込む」(日本外交筋)との見方もある。

解除される制裁は、EUによるイラン産原油の禁輸や各国による輸入の制限、原油の売上金の支払い凍結、国際的な銀行取引からの排除など。具体的な形で動き出すには、決定からさらに数週間〜数カ月がかかるとみられる。【1月12日 朝日】
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イランでは来月、議会選挙が行われますので、ロウハニ大統領としては早期の制裁解除を実現させ、政権の支持層である穏健派への追い風にしたいところです。

と言うか、ロウハニ政権の誕生を含めて、ここ2~3年のイランは経済制裁解除の1点に向けて動いてきたと言ってもよく、ようやくその願いに手の届くところまで来た・・・というところで、もし早期の経済制裁解除が実現しなければ、国民の期待は失望に変わり、ロウハニ政権の求心力は大きく低下します。

イラン革命防衛隊:米海軍船舶拿捕も、翌日には解放
その念願成就を目前にして、クウェートからバーレーンに向かってペルシャ湾を航行中の米海軍の小型船2隻がイラン当局に 拿捕され、乗っていた米海軍兵士10人が拘束されるという事件が。

数年前なら大事件に発展し、にわかにイラン・アメリカ関係が緊張するところですが、今回は即決で解放されています。

****イラン、米海軍船舶の乗組員10人を解放****
イラン革命防衛隊は13日、ペルシャ湾(Persian Gulf)のイラン領海で拿捕(だほ)した米海軍の小型船舶と乗組員10人を解放したと声明で発表した。

イランの国営テレビによると、イラン革命防衛隊は声明で「米船員のイラン領海侵入は故意ではなかったと結論付けられた。謝罪を受け、(船員と船舶は)ペルシャ湾の公海上へ解放された」と述べた。

同日、先立って、イラン革命防衛隊海上部隊のアリ・ファダビ(Ali Fadavi)司令官が同国の国営テレビに対し、米海軍船舶の乗組員計10人の身柄釈放に「長い時間はかからない」だろうと述べていた。

ファダビ司令官は、「領海への侵入は敵対行動や情報収集目的ではなかった」「取り調べにより、米海軍船員がイラン領海に侵入したのは(米軍船舶の)航行システムの故障が原因だと分かり、事態は解決に向かっている」と述べ、「船員たちの釈放ということになるであろう指令」を待っていると語っていた。【1月13日 AFP】
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拘束翌日には解放と、まるで欧米協調をアピールするパフォーマンスのようにも見えます。

イラン革命防衛隊は、ロウハニ大統領とる欧米との協調姿勢には同調しない強硬派のように思いましたが、ここでも“ここは、おとなしくした方が得策”という方針のようです。

経済制裁解除のもたらす種々の利害も絡んで、イラン国内にもいろんな思惑があるのでしょう。

もし、イラン側が期待するように早期の経済制裁解除が実現しない場合は、サウジアラビアとの関係でも、アメリカとの関係でも抑制的な対応をしてきただけに、保守強硬派から反動が出ることも考えられます。
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イラン米大使館占拠事件の元人質へ36年経て補償金 来年1月にも対イラン制裁の段階的解除開始か

2015-12-25 22:20:00 | イラン

【12月25日 AFP】

イラン米大使館占拠事件
イランでは1979年、ホメイニ師を中心とするイスラム法学者などが実権を握る「イラン革命」が起き、それまで親欧米・世俗的な統治を行ってきたパーレビ国王は国外に脱出。
各国を転々とした元国王は、「がん治療」の名目でアメリカへの入国を求めました。

“アメリカのジミー・カーター大統領は、この要請を受けることでイランの新政権との間で軋轢が起きることを憂慮し、この要請を退けようとしたが、パフラヴィーの友人のヘンリー・キッシンジャー元国務長官らの働きかけを受け、最終的に「人道的見地」からその入国を認め、元国王とその一行は10月22日にニューヨークに到着し、アメリカに入国した。”【ウィキペディア】

アメリカが元国王を受け入れたことにイスラム法学校の学生らが反発し、11月4日にテヘランにあるアメリカ大使館を占拠し、アメリカ人外交官や警備のために駐留していた海兵隊員とその家族の計52人を人質に、元国王のイラン政府への身柄引き渡しを要求しました。これが444日に及ぶイラン米大使館占拠事件と呼ばれるものです。

“1979年11月に起きたイラン米大使館人質事件では、当初66人が人質となった。うち13人は同月中に解放され、1人が翌80年7月に健康悪化のため解放されたが、米国人52人が444日間拘束されていた。”【12月25日 AFP】

学生らによる行動は、シーア派の原理主義者が実権を握ったイラン政府が裏でコントロールしていました。

事件発生後、カーダー米大統領は元国王を出国させ、更に人質救出作戦も行いましたが失敗。占拠は長期化しました。

“カーター大統領は、1980年4月24日から4月25日にかけて人質を救出しようと、ペルシャ湾に展開した空母と艦載機による「イーグルクロー作戦」を発令し、軍事力による人質の奪還を試みた。
しかし、作戦開始後に作戦に使用していたヘリコプター、シコルスキー・エアクラフトRH-53D シースタリオンが故障した上に、ロッキードC-130輸送機とヘリコプターが接触し、砂漠上で炎上するという事故が起き作戦は失敗した。これによってイラン政府はさらに態度を硬化し、事態は長期化する傾向を見せた。”【ウィキペディア】

パーレビ元国王は亡命先エジプトで死去。事件を解決できなかったカーター大統領は再選を目指す大統領選挙でレーガン氏に敗北。レーガンが就任しカーターが退任する1981年1月20日に人質は444日ぶりに解放され、アメリカ政府が用意した特別機でテヘランを後にしました。

元人質に36年経て補償金
占拠期間も444日と長期にわたりましたが、元人質への補償金問題にも36年を要しました。

****イラン米大使館占拠、元人質に36年経て補償金 日額120万円****
イランの首都テヘランで1979年に起きた米大使館占拠事件で、444日にわたって武装学生グループの人質となった米国人53人に、ついに補償金が支払われることになった。

このほど米議会を通過した来年度予算案に盛り込まれた条項に基づき、元人質は拘束1日当たり1万ドル(約120万円)、最大440万ドル(約5億3000万円)を受け取れる。

1981年に結ばれた人質解放をめぐる合意により、元人質たちはイラン政府に賠償金を請求できず、これまで36年にわたり何の補償も得られずにいた。

しかし、米国で今年、米金融制裁下のイランと経済取引を行ったとして仏銀行最大手BNPパリバに罰金89億ドル(約1兆700億円)を科す判決が下ったことで、テロ被害者への補償金の財源が確保できた。
 
償金はイラン、北朝鮮、シリアなどの米制裁対象国と違法に取引をした企業に科せられた罰金が財源となるという。
 
ラク・オバマ米大統領が先週署名した予算案によれば、補償金の対象には、1983年のレバノン米大使館爆破事件や1998年にケニアとタンザニアで起きた米大使館爆破事件など、他の国家支援テロ攻撃の被害者も含まれている。【12月25日 AFP】
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補償金問題が前進した背景として、“過去にも元人質への経済的支援を求める法案が提出されたことがあったが成立には至らなかった。だが今回は、事件に題材を採った映画『アルゴ』が2012年に公開されたことや、今年のイランとの核合意などが追い風となった。”【12月25日 CNN】とも。

映画『アルゴ』は、“占拠事件発生の際、6名のアメリカ人外交官達が大使館からテヘラン市街に脱出し、カナダ大使公邸に匿われた。この6名に対しカナダ政府はカナダのパスポートを発給、更にCIAが彼らをカナダ人の映画撮影スタッフに変装させて脱出させる作戦を実行に移した”【ウィキペディア】ことを題材とした映画です。

拘束1日当たり1万ドル(約120万円)、最大440万ドル(約5億3000万円)・・・・結構な金額の“クリスマス・プレゼント”も思えますが、“人質になった外交官とその家族らは大使館の敷地内に軟禁状態に置かれ、行動の自由を奪われただけでなく、占拠当初は興奮した学生らから暴力を受けるなどした。”【ウィキペディア】という状況下で、命さえどうなるかわからない444日をすごしたことへの補償です。

また、事件後36年が経過し、元人質の多くが高齢になっています。
なお、“元人質の配偶者や子どもにも、60万ドルの一時金が支払われる。支払いの対象となるのは150人近いという。”【12月25日 CNN】とのこと。

イラン 制裁解除を求めるも、国内保守強硬派への配慮も必要
イラン核問題合意を受けて、アメリカとイランの関係は改善の方向にありますが、イラン最高指導者ハメネイ師は、アメリカ大使館占拠事件が起こった11月4日を前にした11月3日、イランの数千人の大学生と会談し、原則的な立場を強調しています。

****イラン国民がアメリカに友好の手を差し伸べることはない****
イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師が、「イラン国民は、イランを消滅させるためにあらゆる陰謀を駆使するアメリカに、友好の手を差し伸べることはないだろう」と強調しました。

ハーメネイー師は、3日火曜、1979年に在テヘラン・アメリカ大使館占拠事件が起こった日にあたる11月4日を前に、イランの数千人の大学生と会談し、イラン国民の覇権主義との戦いを、“歴史的な経験を支えにした、賢明で合理的な戦い”と呼び、「イランの国民とイスラム体制の覇権主義との戦いは、一部の人々の主張に反し、感情的で理にかなわない動きなどではなく、学術的な支えを持ち、経験と理性から生まれたものだ」と語りました。

また、1979年のイスラム革命勝利当初から、アメリカがイラン国民に敵対してきたことに触れ、「革命後、アメリカはしばらくの間、テヘランに大使館を置いていたが、1日たりとも陰謀を休めることはなかった。これは歴史的な経験であり、関係の確立によって、アメリカの敵対や陰謀が終わることはない」と語りました。

さらに、イラン人の大学生がアメリカ大使館を占拠したのは、アメリカ政府の陰謀の継続に対する反応だったとし、「アメリカ大使館から得られた証拠は、この大使館がスパイの巣窟、イラン国民と、誕生したばかりのイスラム革命に対する陰謀継続の拠点だったことを示していた」と語りました。

ハーメネイー師は、「アメリカは、過去37年の間ずっと、イランの現実を分析することができず、革命を根本から打ち倒そうとしてきたが、それに失敗した。今後も彼らが成功することはないだろう」と強調しました。

さらに、「アメリカは、可能であったなら、一瞬たりとも、イランのイスラム体制の打倒をためらうことはない。だが、イラン国民の洞察力により、彼らはこの目的を実現できずにいる」としました。

ハーメネイー師は、イラン国民の発展と力により、敵が核協議に参加することになったとし、「敵はこの協議の中でさえ、イラン国民の動きを止めることできるかもしれないと考え、敵対的な行動に出た」と述べました。

また、「アメリカは少しずつ、イラン国民の抵抗の理由が宗教的な信条にあることを悟った。そのため、今日、新たな手段を用い、こうした信条や価値観を攻撃してきたが、イランの若者、学生や生徒の知識が、このような策略の影響を退けるだろう」と強調しました。【11月3日 Iran Japanes Radio】
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そうは言うものの、経済制裁で疲弊したイランとしては、アメリカとの関係改善、制裁解除をなんとか急ぎたいのが本音でもあります。
ただ、アメリカを敵視する強硬派が存在し、また、制裁によって独占的利益を享受してきた勢力などもあって、そうした国内保守強硬派へ配慮しながらバランスをとった対応が求められているのも現実です。

****イラン 経済制裁解除後も米製品の輸入禁止****
核開発問題を巡って、アメリカなどと最終合意に達したイランは経済制裁が解除されても、アメリカ製品の輸入を禁止することを発表し、アメリカとの関係改善によって影響力を失いかねない国内の保守強硬派による巻き返しの動きが背景にあるとみられています。

イランでは核開発問題を巡って、アメリカなど関係6か国と最終合意に達したあと、穏健派の政権のもとでアメリカとの関係改善が進むことを強く警戒する保守強硬派が反米路線の徹底を図っていて、国政の実権を握る最高指導者のハメネイ師も「アメリカの侵入を許してはならない」などと呼びかけています。

こうしたなか、イランのメディアが14日伝えたところによりますと、イラン政府は227品目に上るアメリカ製品を輸入禁止の対象にすることを決め、そのリストを国内すべての州当局に配布したということです。イラン政府としては最終合意に基づいて経済制裁が解除され、各国との貿易が活発化しても、アメリカ製品の流入だけは拒む構えです。

また保守強硬派の一部からはアメリカのみならず外国企業の参入は必要ないという意見も出ていて、今回の決定の背景にはアメリカとの関係改善によって影響力を失いかねない国内の保守強硬派による巻き返しの動きがあるものとみられています。【12月15日 NHK】
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来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除開始か
一方、制裁解除へ向けた動きは概ね順調に推移しているようです。
国際原子力機関(IAEA)は過去のイラン核疑惑の解明プロセスに終止符を打つ決議を全会一致で採択、来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除が始まる公算が大きくなっています。

****過去の核疑惑解明に終止符=イラン問題でIAEA理事会****
国際原子力機関(IAEA)の特別理事会が15日、ウィーンの本部で開かれた。

理事会は、イランが2003年末まで核爆発装置開発に関する組織的活動を行ったが、現在そうした情報はないとした事務局の報告書を踏まえ、過去のイラン核疑惑の解明プロセスに終止符を打つ決議を全会一致で採択した。

02年に発覚した秘密裏のイラン核計画に対する検証作業は大きな区切りを迎えた。欧米など6カ国とイランは今年7月、イラン核問題解決に向けた最終合意に達しており、今後、イラン核活動の制限が順調に進めば、来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除が始まる公算が大きくなっている。

7月の最終合意に際し、IAEAとイランは核疑惑解消に向けた行程表で一致。IAEAは今月初めにまとめた報告書で、全容解明には至らなかったとの立場を取りつつ、「(核爆発装置開発が)研究や技術獲得という水準を超えて行われることはなかった」と指摘した。

6カ国が作成した決議は「行程表の全活動は計画に沿って履行された」と評価し、「この件の検討を終了する」と明記した。

一方で、IAEA事務局長に対し、イラン核活動について年4回理事会に書面で報告するよう要請。「懸念事項」が見つかった場合の通知も求めており、理事会が「適切な行動」を起こせる余地を残した。

西側外交筋は「今後の力点はイランの現在の核活動と将来に向けた核計画のチェックに移る。だが、必要が出てくれば、過去の疑惑に再び目を向けることになる」と述べた。【12月16日 時事】 
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イラン、アメリカ双方の国内保守強硬派や、イランを敵視するイスラエルなどには不満も多い合意でしょうが、いたずらに対立を続け、武力衝突の危険を高めるよりは賢明な選択に思えます。

「アメリカに死を!」「悪の枢軸」と罵りあう両国関係が改善に向かうのであれば、日本周辺の硬直した関係も、一部にようやく修復へ向けた環境もできつつあり、今後を期待したいところです。
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イラン  制裁解除に向けた動き イラン国内では国産品買い控えも

2015-10-13 23:04:56 | イラン

(12日、テヘランで記者会見を終え、イランのザリフ外相(右)と握手する岸田外相=AP 【10月13日 読売】)

イラン国会もクリア 概ね順調に進む手続き
欧米など6カ国とイランによる核問題の「最終合意」に関して、アメリカ国内では「合意」破棄を目指して野党共和党が不承認決議案を提出し、その行方が注目されていました。

オバマ大統領は「拒否権」行使で乗り切る意向を示していましたが、結局、不承認決議案は9月中に廃案となり、「合意」実現に向けて一歩前進しました。

一方、イラン国内でも、これまで核交渉を支持してきた最高指導者ハメネイ師が「国会に関与させないのは適切でない」と述べ、保守派が主導する国会が合意について徹底審議するよう求めていました。

「合意」に不満を持つ保守派の“ガス抜き”とも思われますが、こちらもハードルをクリアしたことが報じられています。

****イラン国会、核合意を承認=履行へ大きな一歩****
イラン国会は13日、同国政府と欧米など6カ国によるイラン核問題の最終合意をめぐる決議案を賛成多数で承認した。国営イラン通信が伝えた。国会承認は合意履行への大きな一歩となる。

国会決議を審査する護憲評議会が承認を覆さなければ、7月の最終合意に盛り込まれた核開発の大幅な制限や、欧米の対イラン経済制裁解除といった措置が実現に向け動きだす。

採決では、賛成が161票だったのに対し、反対59票、棄権13票だった。国会では合意に懐疑的な保守強硬派が反対し続けたものの、賛成票が大きく上回った。

国際社会との関係改善を進めるロウハニ政権の外交姿勢に対する支持の強さが浮き彫りとなった形だ。

最終合意をめぐっては、米議会でも反対論が根強く、履行が危ぶまれた。ただ、米国では最終的に不承認決議案が採決されず、イラン側の対応が焦点となっていた。【10月13日 時事】 
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制裁解除の条件とされている国際原子力機関(IAEA)による調査も、その実効性への疑問も示されてはいますが、一応進展しているようです。

****IAEA、イランのウラン濃縮の有無など調査へ****
国際原子力機関(IAEA)は21日、核兵器の起爆実験が行われた疑いがあるテヘラン郊外のパルチン軍事施設で採取された試料の提供を受けたことを明らかにした。

20日に天野之弥事務局長が同施設を訪問。今後、放射性物質の有無などを調べる。

国営イラン通信によると、試料採取はイラン側が先週、IAEAの立ち会いなしで実施したが、天野氏は発表文で「試料の信頼性は確証できる」と説明した。

7月の核合意では、イランによる過去の核兵器開発疑惑の解明が、欧米の対イラン制裁解除の条件だった。IAEAは12月15日までに調査の最終報告をまとめる。【9月22日 読売】
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制裁解除については、国際原子力機関(IAEA)がイランの合意履行を確かめ、安保理に報告書を提出し次第、一部を除き解除されることになっています。

具体的な手順についても協議が行われていますが、“制裁は来春以降に解除される見通し”とのことです。

****イラン制裁解除の手順協議 核問題で外相会合****
欧米など6カ国とイランは28日、ニューヨークでイラン核問題をめぐる外相会合を開いた。7月の最終合意後、初めての会合で、合意に基づいて対イラン制裁を解除する詳しい手順などを協議。

最終合意では、イランがウラン濃縮などの核開発を大幅に制限するのを条件に、欧米が制裁を解除すると規定された。

遅くとも10月中旬に発効する予定で、双方が履行に向けた手続きを急いでおり、制裁は来春以降に解除される見通しだ。【9月29日 共同】
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日本も制裁解除後のビジネスチャンスを狙って・・・
制裁解除後のイランとの経済取引については、各国が強い関心を示しており、「合意」直後から欧州各国のアプローチが行われています。
(7月19日ブログ“イラン核協議合意後の商機を狙う素早い動き 米・イランは原則論は維持しつつも「変化は可能だ」とも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150719

日本も、そうした欧州勢に比べるとスロースタートの感もありますが、アメリカを気にしながらもイランへのアプローチを強めています。

****<イラン>産業機械の見本市・・・日本企業、高い技術力アピール****
各国の産業機械を宣伝する第15回国際見本市が5日からテヘランで開かれている。

イランの核問題の最終合意を受けた制裁解除を見据え、海外企業は昨年比約1.5倍の315社が出展、このうち日本企業は3倍以上の18社が参加し、高い技術力をアピールした。

一方、米国でのビジネスへの影響などを懸念し、出展を控える日本の大手企業の慎重姿勢は依然続いている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国、韓国、ドイツなど計7カ国が国別のブースを用意。企業ごとの展示では、米国、フランス、英国など11の国と地域が参加している。日本ブースはジェトロが主催し、自動車部品やプリンターなどを扱う企業が売り込みを図った。

世界40カ国以上で即席麺の製麺プラントの納入実績がある「冨士製作所」(本社・群馬県藤岡市)は市場調査などの目的で初出展した。桜澤誠社長は「過去に取引の打診はあったが、(送金ができないなど)制裁の影響で見送ってきた。人口8000万人と市場の潜在力は高く、これからだ」と期待を語った。

ジェトロの石毛博行理事長は6日、企業幹部らを前に「制裁緩和を見込み、準備する必要がある。関係強化につながれば幸い」とあいさつ。その後、ネマトザデ鉱工業相らと会談し、日本との商取引をアピールした。【10月6日 毎日】
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岸田文雄外相もイランを訪問し、投資協定を結ぶことで合意しました。

****<日イラン外相会談>投資協定で合意 核合意履行へ協力****
岸田文雄外相は12日、イランの首都テヘランで同国のザリフ外相と会談し、両国間で投資協定を結ぶことで合意、早期の発効を目指すことで一致した。

また、イラン核交渉の最終合意を受けた措置の着実な履行を促す目的で、原子力部門の専門家を派遣するなどの協力も表明した。

核交渉の合意後、日本の閣僚として初めてイランを訪問した岸田氏は、ザリフ氏と約1時間半にわたり会談。13日には、ロウハニ大統領を表敬訪問する方向で調整している。

岸田氏は、会談後の共同記者会見で「核交渉合意後の新しい状況を踏まえ、2国間関係について有意義な意見交換ができた。関係が飛躍的に拡大することを望む」と述べた。ザリフ氏は「両国の協力関係には非常に明るい展望がある」と期待を語った。(後略)【10月13日 毎日】
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速やかな結果を求める国民の“過剰な期待”への警戒も
概ね順調に進んでいるようにも見える制裁解除へ向けた流れですが、今朝のNHK・BS「キャッチ 世界の視点」で非常に興味深いリポートがなされていました。

イラン国内では、制裁解除を見込んで、品質・サービスが劣り、価格も高い国産品への深刻な「買い控え」が起きており、経済全体の足を引っ張っているそうです。

国産品に対しては「ゴミを売りつけられた」との批判も。
経済はこの買い控えにより、マイナス成長の予想も出ているとか。

イラン国民の経済制裁解除への強い期待の表れですが、制裁解除の遅れなどで期待が裏切られると、政権批判に転じる恐れもあります。

もとより、制裁解除が順調に進んでも、その効果がすぐに表れるものでもありませんので、それを国民が待ってくれるか・・・という不安もあります。

この点は以前から懸念されているところで、ロウハニ大統領も8月時点で「植えたばかりの若木が実をつけるまでには時間がかかるものだ」と、冷静な対応を国民へ呼びかけています。

****イラン大統領「制裁解除の効果時間かかる****
イランのロウハニ大統領は、核開発問題を巡る欧米など6か国との最終合意に基づいて経済制裁が解除されても、効果はすぐには実感できないという認識を示し、国民に過剰な期待はせずに冷静に対応するよう、呼びかけるねらいがあると見られます。

イランのロウハニ大統領は2日、就任から2年がたつのに合わせて国営テレビに出演しました。
このなかで、欧米など関係6か国との間で核開発問題の解決に向けた最終合意に達したことについて、「協議を始めた2年前の期待を大きく上回るものだ」などと述べ、対立ではなく対話を重視するロウハニ政権にとっても大きな成果だと強調しました。

その一方で、「植えたばかりの若木が実をつけるまでには時間がかかるものだ」と述べ、最終合意に基づいて制裁が解除されても効果を実感するまでにはしばらく時間がかかるという認識を示しました。(後略)【8月6日 NHK】
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制裁解除で国民生活が改善すれば、国内・国際政治にプラスも
なお、「買い控え」による足元の減速はともかく、制裁解除後のイラン経済については、世界銀行は「経済成長率は5%、原油価格は1バレル10ドル下落」といった予測を報告しています。

****世界銀行、「イランの経済成長率は5%****
世界銀行が報告の中で、制裁解除により、来年のイランの経済成長率は5%に達し、外国の直接投資も2倍に増えるだろうとしました。

世界銀行の報告によりますと、制裁解除により、原油価格は1バレル10ドル下落するだろうとしました。

また、制裁解除によって、イランの石油・非石油製品の輸出が増加し、インド、中国、イギリスが、将来、イランの主な貿易相手国になるだろうと予想しています。

世界銀行は、イランの輸出額は170億ドル増加するとしました。

またイランへの直接外国投資も、現在の2倍の、年間およそ30億ドルに増加するとしています。【8月13日 Iran Japanese Radio】
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制裁解除でイラン経済が回復することについては、シリア・イラク・イエメンなどにおけるイランの関与が更に強まり、イラン主導で中東情勢が推移することを懸念する向きがありますが、基本的にはイラン国民の利益を考えれば歓迎すべきことです。

また、穏健なロウハニ政権の基盤が強化されることで、国内の民主化にとっても、対外政策に関する国際協調にとってもプラスとなるでしょう。

最高指導者が支配する宗教国家のイメージが強いイランですが、選挙による民意が政治に一定に反映する体制にもある国家でもあります。

対外関係が強化されることで国民が生活向上を実感できるようになれば、国際社会との軋轢を生むような過激な政治はそうそう支持されなくなるとも言えるのでは。
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イラン核開発問題の「合意」 実現に向けて前進 期待したいイランの変化

2015-09-05 23:20:09 | イラン

(8月23日、テヘランで握手するハモンド英外相(左)とイランのザリフ外相 【8月23日 時事】
イランとイギリスは23日、テヘランとロンドンで閉鎖していたそれぞれの大使館を約4年ぶりに再開しました。 イランの国際社会復帰の流れが強まっています。)

曖昧な合意内容 「抜け道」の存在
7月14日に合意されたイランと米欧など6カ国の「包括的共同行動計画」は、イランにウラン濃縮を含む平和的な核開発の権利を認める一方、それを一定の範囲内に収め、国際的な監視下に置くというのが基本的な枠組みです。

イランはウラン濃縮に使う遠心分離器の数を3分の1に減らし、1万2千キロある低濃縮ウランを300キロに削減するなど、今後10年以上はすぐに核兵器を作れないレベルに核開発を制限。

そうした一連の措置により、イランが原子爆弾1個分の核分裂物質を製造するのに必要な時間は、これまでの2〜3カ月から1年以上に延長され。仮にイランが合意を守らず、秘密裏にウラン濃縮能力などを拡大しようとしても、早期発見が可能になる・・・・というのが6カ国側の立場です。

ただ、監視体制の在り方、特に懸案となっていた核兵器開発疑惑を持たれている軍事施設への査察については、曖昧な形になっており、今後問題化することが懸念されていました。

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オバマ米大統領は14日の演説で「IAEAはいつでもどこでも必要な場所に立ち入れる」と述べ、合意は「確かな検証」に基づくと強調した。
しかしイランが核施設ではなく軍事施設でひそかに核開発をしていないか査察する権限は明記できなかった。

行動計画は、IAEAが軍事施設を含む査察を要求できるとしたが「軍事、治安活動を妨げない」とも規定。イランは要求に異議を申し立てて時間を稼ぐことが可能だ。【7月18日 日経】
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AP通信は8月19日、この軍事施設の査察は国際原子力機関(IAEA)が直接行うのではなく、イランの担当者が提供したデータなどに基づいて実施する取り決めになっていると報じており、その実効性を疑う声も上がっています。

****イラン核査察は抜け道だらけ*****
4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで記者会見したオバマ米大統領は大きな成果に胸を張った。イランの核兵器開発をめぐる協議が枠組み合意に達したと発表したのだ。
協議は7月に最終合意に達し、オバマは歴史に名を残す偉大な業績を上げた……はずだった。

核合意の土台を成すのは、国際原子力機関(IAEA)による徹底した査察だ。イランの核関連施設は厳しく監視され、もしイランが合意を破れば「世界の知るところとなる」と、オバマは言い切った。

しかし、査察の実効性には疑問がある。元-AEA査察官たちによれば、査察担当者たちは、通常のサンプル調査なら簡単にできるが、軍事転用を示唆する機器やプロセスを見分ける専門知識は持つていないという。
「査察を終えた後で、(査察官に)施設で何を見たかと尋ねても、答えられないだろう」と、92年と01年にIAEAのイラク核査察の責任者を務めたロバート・ケリーは言う。

ケリーは同じく元査察官のタリフーラウフと共同で執筆した報告書で、イランでの査察任務は通常の査察の「範囲を超えている」と指摘。イラクでの査察時と同様に、外部の専門家を加えるべきだと主張した。

問題はほかにもある。AP通信の報道によれば、核兵器開発疑惑を持たれているテヘラン郊外の施設について、IAEAが直接査察を行わず、イラン側の提供するデータに基づいて査察を行うことで、IAEAとイランが合意したというのだ。査察の抜け道を認めることになると、米共和党は反発している。

「IAEAが核査察の権限をイランに委ねたとの指摘に当惑している」と、IAEAの天野之弥事務局長は先週、声明を発表した。「合意は、いかなる面でも(査察の)基準を損なうものではない」

もしかすると、イラン側のサンプル収集を監督する要員をIAEAが派遣するのかもしれないが、専門知識を欠く人物を送り込んでもあまり意味はないと、元IAEA職員たちは言う。

歴史的な合意とオバマが退任後に残す政治的「遺産」の雲行きが怪しくなってきた。【9月8日号 Newsweek日本版】
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【「他の選択肢」を考えれば、不完全でも歓迎すべき「合意」】
想像するに、長時間にわたり行われた交渉の実質的中身は、こうした「抜け道」をどこまで許すか、それを表面上はどのように覆うか・・・というあたりの話であり、「抜け道」が存在し、それが表面化したとき批判が出ることは“織り込み済み”でもあり、そうした諸々のことを含めた「合意」だったのではないでしょうか。

交渉による「合意」では、イランに核開発を完全に放棄させるような形で、100%自分の言い分を押しとおすことはできませんので、そうした「妥協」は不可欠でしょう。
(イスラエルが核武装している状況を一方で黙認しながら、イランにそこまで求めることの妥当性にも疑問があります。)

「合意」がなされなければ、イランは核開発を加速させるでしょうし、北朝鮮の事例を見てもわかるように、イランが国民生活を犠牲にしても核開発を進めるという気になれば、制裁強化でもそれを押しとどめることはできません。制裁強化に関して、ロシア・中国の協力をどこまで得られるかもわかりません。

制裁強化でも無理なら、残る選択肢は「戦争」だけです。

そうした「他の選択肢」を考えれば、曖昧・不完全な形ではあっても「合意」によってイラン核開発に一定の制約が課されたこと、また、「合意」によってイランが世界経済の一員に復帰するとともに保守穏健派と言われるロウハニ大統領の力が増し、イランがより現実的な外交路線に向かう可能性が増すことは、歓迎すべきことと考えます。

アメリカ・オバマ大統領の国内外反対派への対応
アメリカは合意内容に関して議会承認を必要としています。議会多数派の野党・共和党が徹底反対していますので、オバマ大統領は力で押し切るしかありませんが、大統領拒否権で乗り切ることが可能となったようです。

****イラン核合意、実現に前進 オバマ政権が議員を説得****
米オバマ政権が、イラン核問題の最終合意を実現できる見通しとなった。

2日、合意に反対する野党・共和党が多数を占める議会に不承認とされても、大統領が拒否権で履行するだけの賛成票を得る見通しがついた。議員への説得工作が奏功したもので、最終合意の実現に大きく前進した。

米議会はイラン核合意を検証し、承認するかどうかを判断できる。上下両院は合意を承認しない見通しで、オバマ氏が拒否権を発動する構えだ。さらに議会が3分の2以上を得て再決議すれば拒否権が覆されることになり、「合意が台無しになる」(アーネスト大統領報道官)と危機感を募らせていた。

共和党議員だけでは3分の2に達しないため、民主党議員の動向が鍵を握る。上院(定数100)で少なくとも34議員が支持する意向を固めた。

これまで態度を明らかにしてこなかったミクルスキ上院議員(民主)が支持に回ったことで3分の2には満たなくなった。同氏は2日、「今回の合意は最良の選択肢だ」とする声明を出した。

下院(定数435)でも十分な支持を得られる見通しだ。【9月3日 朝日】
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オバマ大統領にとっては、対応すべき反対派は国内だけでなく国外にも存在します。

そのひとつイスラエルは、どのように説得しても無理です。

****国際的孤立、辞さず」・・・イスラエル外務副大臣****
(8月)17日から日本を訪問しているイスラエルのツィピ・ホトベリ外務副大臣(36)が、訪日前に読売新聞の単独会見に応じ、イラン核合意を巡るイスラエルの政策について語った。
     ◇
イラン政権は、イスラエルの壊滅を呼びかけており、これはイスラエルの存続に関わる問題だ。最初に影響を受けるだけに、イスラエルには合意の危険性を世界に警告する義務がある。孤立しようとも、外交的手段を通じて欧米などに反対の働きかけを続ける。

イランはテロ組織を支援している。穏健になったというのは幻想だ。欧米が経済関係を強化するために安全保障を犠牲にするのは間違っている。イランは決して核兵器開発を諦めることはない。

もう一つの北朝鮮を生み出すわけにはいかない。経済制裁により核兵器開発を遅らせることが可能であり、制裁を維持すべきだ。【8月18日 読売】
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イスラエルと並んでイランの核開発を警戒しているアメリカの同盟国が、シーア派イランと敵対するスンニ派の盟主を自任するサウジアラビアですが、こちらは「一応」オバマ大統領の「合意」を支持する形になっています。
もちろん、内実はわかりませんが。

****<サウジ国王>7月の合意支持 イラン核、米大統領と会談****
オバマ米大統領は4日、ホワイトハウスでサウジアラビアのサルマン国王と会談した。

大統領は欧米など6カ国とイランの核問題を巡る7月の最終合意がイランの核兵器保有を防ぐものだと力説。国王も合意に支持を表明した。

また両首脳は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦やシーレーン(海上交通路)保護などでの協力継続も確認した。

両国関係は、オバマ政権が2013年にシリアのアサド政権に対する空爆を中止したことや、イランとの核協議を本格化させたことにサウジ側が不満を募らせて悪化。

今年1月に即位した国王は、米国で5月に開かれた大統領と湾岸協力会議(GCC)の首脳会議を欠席した。米側は今回の会談で「アラブ諸国とイスラム圏のリーダー」(大統領)であるサウジとの関係修復を狙った。

大統領は会談冒頭、「中東が困難な時期にあるのは明白だ」とし、サウジも軍事介入しているイエメン情勢やシリア内戦について「懸念を共有している」と指摘。IS掃討作戦を含む対テロ作戦でサウジとの緊密な協力を続けると語った。

イラン核問題については「核兵器の保持を阻止するため、今回の合意を効果的に実行することの重要性について話し合う」と述べた。

終了後に出た共同声明によると、会談で両氏が「中東地域を不安定化するイランの活動に対抗するため引き続き努力する必要性を再確認した」と指摘。

そのうえで、核問題を巡る最終合意は「完全に履行されればイランの核兵器保持を防ぐことで地域の安全保障を高めるものだ」として、国王が支持を表明した。

また、シリアについてはアサド大統領が辞職して政権移行が行われなければならないとの認識を強調した。【9月5日 毎日】
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オバマ大統領は、国内反対を拒否権で乗り切る目途が立ち、国外ではサウジアラビアの支持をを得たことで、合意実現を手繰り寄せた形となっています。

ロウハニ政権下のソフトなアプローチ
一方、イラン・ロウハニ政権について、興味深い記事が。

****社会運動の容認に傾くイラン政府、NGOが活発化****
市民社会の発展が政権安定につながるとの期待

今から数カ月前、何百人もの動物愛好家がイラン政府の環境政策を担う部署の前に集まり、南部の都市シラーズの自治体職員による野良犬の殺処分に抗議した。

殺処分の様子はビデオに撮られ、ソーシャルメディアを介して広まっていた。もっとも、要求を聞いてもらえると思っていた人はほとんどいなかった。

ところが、このデモの参加者は取り締まりを受けるどころか、外に出てきたイラン環境保護庁(IEPO)の幹部職員数人から話しかけられた。(中略)

幹部職員は一通り話を聞くと、早速、都市部の野放しの犬の扱い方に関する通達を出した。(中略)

法的保護を享受するようになったNGO
過去には珍しかったこのようなアプローチが見られることは、非政府組織(NGO)や市民社会全般に対する体制側の態度が変わりつつあることを反映している。

改革派のモハマド・ハタミ大統領の政権は、民主主義強化の取り組みの一環としてNGOを奨励した。
しかし、政治活動への関与を深めたことが裏目に出て、ハタミ氏の後を継いだ抑圧的なマフムード・アハマディネジャド大統領の時代には多くのNGOが消えていった。

そして2年前に当選した穏健派のハサン・ロウハニ氏の政権下では、かつて政治の干渉に弱かったNGOがこれまでよりも強力な法的保護を享受している。

イラン政府は今後数カ月以内に、NGOに関する新しい法案を議会に提出する。
政府の意志決定におけるNGOの発言力を高めたり、登録に要する期間を現在の6カ月から1カ月に短縮したり、解散を今よりも難しくしたりするのがその狙いだ。

また、今年施行された別の法律では、環境保護や子供もの権利に関する法律の違反についてNGOが訴えを起こすことが認められている。それ以前は、検事総長しか訴えることができなかった。

イラン政府による、この以前よりもソフトなスタンスは、すでに違いを生み出している。イランで登録しているNGOの数はこの1年間で30%増加し、7000団体に達した。

新しいNGOは、そのほとんどが健康、環境、起業などに的を絞っており、人権のような物議を醸すテーマは避けている。政府は、来年3月までに1万団体に増えるだろうと期待している。

市民の社会参加が政権安定化につながる理由
市民の社会参加を拡大させることはロウハニ氏のためになる、と政府高官やアナリストたちは述べている。
IEPOのムハンマド・ダルビッシュ教育・国民参加局長は「ロウハニ政権は、国民に信頼されて仲間だと思ってもらえる政権は(より)安定すると考えている」と言う。

ダルビッシュ氏によれば、2013年以降、NGOの数は環境関連のものだけでも400から778に増えている。「このシフトは政府だけではなく体制全体で見受けられ、特に司法府でその傾向が強い。干ばつや渇水、若者の高失業といった社会的危機は、より大きな信頼を国民から得ているNGOの助力なしには解決できないことを国の支配者層が理解したからだ」。ある専門家は匿名を条件にこう語った。

「公機関によるこうした協力が社会の発展につながっていく。そして今度はそれが、経済などほかの分野での発展の土台になる」。イラン内務省のアドバイザーでNGO問題担当の代表代行も務めるバーマン・メシュキニ氏はそう指摘する。

この点はNGOも認めている。市民社会への参加が盛んになれば発展を促すことができると語るのは、シンクタンクとして活動するNGO「法律立法研究所」のマネジングディレクター、タフムーレ・バシリイェフ氏だ。

「国の役所のオフィスで座っている人と・・・一般国民とでは問題の感じ方が違う」と同氏は言う。「政府機関よりも国民に信頼されており歓迎されてもいるNGOは、人々のニーズをより的確に理解している」(中略)

それでも、政府がアプローチを和らげている中でも、なすべきことがまだある。原理主義者たちが支配する司法と議会はこれまで協力してきた。だが、NGOはまだ、活動する分野を慎重に選ばなければならない。人権などの分野はいまだに物議を醸す。

人権状況はなお悪化
国連は今年、ジャーナリストや活動家の処刑と投獄の急増を引き合いに出し、2013年にロウハニ氏が大統領に選出されて以来、イランの全体的な人権状況が悪化したと述べた。

国連のイラン担当特別報告者、アフメド・シャヒード氏は今年、「イランは引き続き、人口比で世界中のどの国よりも多くの人を処刑している」と述べた。

一方、前出のメシュキニ氏は、NGOに門戸を開く政府の政策を追求する決意を固めており、「すべての政府機関の方針は、微笑み、すべての社会活動家を尊重することだ」と語っている。【8月29/30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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“「合意」によってイランが世界経済の一員に復帰するとともに保守穏健派と言われるロウハニ大統領の力が増し、イランがより現実的な外交路線に向かう可能性”に加えて、イラン国内政治においても柔軟な対応が増えることも期待されます。敢えて楽観的に言えばの話ですが。

「合意」によるイランの中東地域での影響力拡大がもたらす混乱への懸念もありますが、「合意」が破綻した場合の混乱に比べれば、まだましではないか・・・とも思っています。
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イラン核協議合意後の商機を狙う素早い動き 米・イランは原則論は維持しつつも「変化は可能だ」とも

2015-07-19 21:50:40 | イラン

(7月14日 合意を喜ぶテヘラン市民 手には「ありがとうザリフ外相」とのメッセージ この喜びが失望に変わることがないように・・・・ 【7月16日 The Huffington Post】)

【「宝の山」】
イラン核開発問題に関する合意は、7月15日ブログ「イラン核開発問題、13年越しの合意 軍事施設査察など不透明な部分も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150715)で取り上げたように14日夜でしたが、翌15日には制裁解除・関係改善を見越した各国の反応が報じられており、その速さには驚きました。

****イランと旅客機供給交渉へ=ロシア****
ロシアのソコロフ運輸相は15日、核協議で最終合意に達したイランに対し、新型中距離旅客機スホイ・スーパージェット(SSJ)100の供給交渉を行う方針を明らかにした。インタファクス通信が伝えた。

イランの航空各社は欧米の経済制裁が続いた影響で、機材の老朽化が深刻な問題となっている。【7月15日 時事】
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****年内に大使館再開希望=イラン核合意受け英外相****
ハモンド英外相は15日、議会下院でイラン核協議の最終合意に関し説明、この中で、年内にイランと相互に大使館を設置できることを希望していると表明した。【7月15日 時事】
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****副首相ら代表団イラン訪問へ=制裁解除見据え経済関係強化―ドイツ****
ドイツのガブリエル副首相兼経済相が19日から21日まで財界代表らとイランを訪問する見通しになった。DPA通信などが15日までに報じた。欧米の対イラン制裁解除を見据え、イランとの経済関係を強化したい考えだ。【7月16日 時事】 
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反応が早いと言うか、制裁解除後の経済的メリットが関係国にあるので、合意に向けた交渉にも熱が入った・・・と言うべきでしょうか。もちろんそれだけではないですが。

例えば、ロシアが早速動いている航空機などは、制裁下のイランでは機材の老朽化で“過去25年間イランでは200回以上の航空事故が発生し、2000人以上が死亡している”ような状況にあるとか。

****イラン経済制裁が生んだ「命がけの」老朽旅客機****
長年、機体の更新ができず正規の部品も手に入らなかった旅客機市場には巨大なビジネスチャンスも

イランに対する経済制裁の解除が決まり、各国で高まっていた対イランビジネスへの関心が一気に噴き出した。その一例が、制裁下で極端に老朽化し、過去30年間で数千人が事故の犠牲になった航空機市場。

ロシアは他国を出し抜き、早くも航空機の売り込みを始めている。売ろうとしているのは91年のソ連崩壊以降、ロシアが初めて開発したジェット旅客機「スホーイ・スーパージェット100」。ロシアのマクシム・ソコロフ運輸大臣は、記者団に対して両国間で販売交渉が進んでいることを認めた。

世界の航空機メーカーにとっても無視できないチャンスだ。イランは400機の旅客機を買うために200億ドルの予算を用意しているという最近の報告もある。「特に大手のエアバスやボーイングにとっては、まとまった数の旅客機を販売できるチャンスだ」と、航空コンサルタントのアダム・ピラースキはブルームバーグに語った。

ただ欧米の航空大手は乗り遅れ気味。「イランに対する制裁解除はまだ決まっただけで実施段階ではない。ルールに則ってどうビジネスを展開できるか見極めていく」と、エアバスは声明を出した。ロシアのフライングには苦々しい思いだろう。

部品も、闇市場で「海賊版」を入手
経済制裁のおかげで、イランの航空機事情は惨憺たるもの。新型旅客機の導入は急務だ。

ドイツの航空情報サイト「プレインスポッターズ・ネット」によると、イランの旅客機の平均年齢は27年で、70年代に製造されたモデルも残っている。

その後の経済制裁で、新型機を購入するのが困難になったからだ。部品も、闇市場で「海賊版」を買ってくる有様だった。

旅客機の老朽化は、重大事故にもつながっている。BBCによれば、過去25年間イランでは200回以上の航空事故が発生し、2000人以上が死亡している。
昨年首都テヘラン近郊で発生した航空機事故でも、乗客40人が死亡した。

「イランでは、『運を天に任せて』飛行機に乗るしかなかった」と、世界でも著名な航空安全コンサルタントのクリス・イエーツは言う。「新型機の購入はイランの最優先事項になるはずだ」【7月17日 Newsweek】
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以前は東南アジアを旅行していて相当に古そうな旧ソ連製旅客機などに乗る機会もあり、「大丈夫だろうか?」と心配するようなこともありました。

イランの『運を天に任せて』飛行機に乗るような状況が改善されるのであれば、結構なことです。

市場としても巨大ですし、当然ながら原油輸入に関しても日本としても大きな関心があるところです。
その他、石油精製プラントなやインフラ整備など「宝の山」とも。

****イラン制裁解除に「商機」 製油・インフラ・・・狙う各国****
イランが核開発を制限する合意を米欧などと結んだことを受けて、各国で経済制裁の解除をにらんで商機を狙う動きが見え始めた。19日にはドイツの経済代表団がイランを訪問する。だが、物価高などに苦しんできたイラン国民には、懐疑的な見方もあるようだ。
 
地元報道によると、ドイツはガブリエル副首相を団長に企業トップら約60人を送り込む。ドイツのイラン向け輸出額は10年前の半分以下に減っており、イラン政財界の代表と関係の拡大を話し合う。

経済団を派遣する動きはフランスにもあるほか、英国は2011年に閉鎖した大使館の年内再開を目指す。ロシアメディアは、ロシアが旅客機「スホイ・スーパージェット100」のイラン輸出に向けた交渉を始めると報じた。

核開発を進めたイランに、国連安全保障理事会は06年から計4回、制裁を決議。これに基づいて日本を含む各国が銀行との取引停止や資産凍結、投資の制限などをしている。米国と欧州は、さらに厳しい制裁を独自に科してきた。

今後、濃縮ウランの削減や査察受け入れなど、最終合意を実行していけば、早ければ年末から年明けにも制裁は解除される。

各国が先を争うのは、人口が約7850万人と中東屈指で、新興国に数えられるトルコと同じ規模の市場だからだ。このうち購買意欲の高い30歳未満の若者が6割を占め、有望に映る。

原油の埋蔵量が世界4位の資源大国でもある。制裁で欧州連合(EU)が12年に原油輸入を禁止、日本も昨年までの3年間で輸入量を半減させた。現在の原油輸出量は日量100万バレルほどでサウジアラビアの7分の1程度だが、「制裁解除後の5~6カ月で200万バレルに増やす」(ザンガネ石油相)と自信を見せる。

ただ、原油施設は老朽化が進み、制裁の強化で撤退した外国企業の再参入が増産のカギを握る。日本勢も10年、制裁を強めていた米国の求めで、国際石油開発帝石がアザデガン油田の開発事業から撤退した経緯があるが、商機をうかがう機運が高まっている。

「制裁解除で石油精製プラントの建設計画などが出てくる可能性がある」。プラント建設大手、日揮の広報はそう話す。イランでは1990年代にプラント建設をてがけた実績がある。

島津製作所は、医療用の画像診断機器を売り込みたい考え。日本の自動車や家電なども売り込みの期待が高まりそうだ。日本のイラン向けの輸出は近年、制裁の影響で停滞してきた。財務省の貿易統計によると、14年は265億円でピークだった08年のわずか14%。取り戻せる余地は大きそうだ。

インフラ整備にも活路がある。イランは下水道が十分に整備されず、歩道のない道路も目立つ。大手商社のテヘラン駐在員は「宝の山だ」と期待する。

 ■国民は高揚感なし
ただ、当のイラン国民に高揚感が乏しい。最終合意の発表から一夜明けた15日のテヘラン証券取引所はご祝儀ムードもなく、株価は前日より値を下げた。

「合意の実感がわかない。本当に制裁が解除されて仕事が増えるといいけど」と無職のナスタランさん(29)は浮かない顔だ。背景にあるのは政府への不信感。過去の国際社会との核協議でも合意を守らず、制裁が科されたことがある。

イラン中央銀行によると、4月のインフレ率は15・5%。前年同期の30・3%に比べれば改善したが、なお高い。物価はこの3年で2~3倍に。パンやガソリンなど生活必需品の価格を抑えていた補助金のカットが進み、生活苦に追い打ちをかける。

テヘラン証券取引所のエグバルニア上席研究員は「株価や為替が実際に上向くのは、制裁の解除後になるだろう」と話す。【7月19日 朝日】
******************

合意直後は冒頭写真のような喜びに沸くイラン市民の様子なども報じられていましたが、実際問題としては制裁解除はまだ先の話ですので、ビジネス機会にいち早く取り組む企業・国家はともかく、一般市民レベルでは懐疑的な見方もあるぐらいの冷静な対応の方がいいでしょう。
過度の、あるいは早急な期待は失望と反動を生むだけですので。

【「変化は可能だ」】
アメリカ・オバマ大統領は、困難な歴史はあり、合意後もイランとの間で「顕著な相違」が残るとしつつも、両国関係の「変化は可能だ」とも語っています。
経済面だけでなく、IS対策などでのイランとの協調に期待しています。

****米・イラン、改善探る オバマ氏、IS対策協力期待****
敵対してきた米国とイランの関係が、長期にわたった核協議のなかで変化も現れている。国交のない両国外相が頻繁に接触。

オバマ大統領は15日、過激派組織「イスラム国」(IS)対策などでの協力の可能性にも触れた。ただ、両国の相互不信は根深く、関係改善は容易ではない。

 ■なお根深い相互不信
「変化は可能だ」
オバマ氏は14日、核協議合意後の演説が終わりにさしかかる前、この一言にひときわ力を込めた。両国の立場の違い、35年前に国交を断絶した困難な歴史はあるとしつつ、イラン国民に対し、「(米国のイランに対する)関与の扉は開いている」と語った。

さらにイラン政府に対しても、イスラエルなどの脅威となるのではなく、忍耐を持って国際社会に関与していくべきだと強調。「合意は新たな方向へ進む契機を与えた。我々はその機会をつかまなければならない」とも踏み込んだ。

これは、敵対する国であっても、相手国に関与することで体制の変化を促す、オバマ政権の「関与政策」に基づいている。

オバマ政権は対立していたミャンマーやキューバとも関係改善に踏み切った。イランに対しても、オバマ氏は大統領就任直後から関与を試みてきた。13年9月には、80年の断交後初めてイラン大統領と電話で会談した。

ただ、米国では核合意賛成派ですら「両国の不信感はあまりに深刻」(対イラン制裁の元担当官のアインホーン氏)と口をそろえる。

最大の障害の一つが、イランによる「テロ組織」支援だ。イランは、米国がテロ組織とみなすレバノンのシーア派組織ヒズボラなど、米国の事実上の同盟国イスラエルとの闘争を続ける勢力を支援している。シリアのアサド政権も支えている。

オバマ氏は15日、早期の国交回復には慎重な姿勢を示した。

一方で「私の願いは、核問題の合意後もイランと対話を続け、イランが国際社会が期待するような対応をとるよう促すことだ」と述べ、シリアやイラクで勢力を広げるIS対策など、核問題以外での協力にも期待を示した。(後略)【7月17日 朝日】
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イスラエル・サウジアラビアの懸念を払拭
一方で、イランの“平和利用”を前提にした核開発継続、アメリカとの関係強化には、イスラエル・サウジラビアは強く反発しますので、アメリカも両国をなだめるのに躍起になっています。

****イラン核協議】オバマ政権は「親米国」懸念払拭に躍起 イスラエル・サウジ首脳と電話会談****
イラン核問題で欧米など6カ国とイランが最終合意に達したのを受け、オバマ米大統領はイスラエルとサウジアラビアの首脳と電話で会談した。

両国は中東の親米国で、安全保障上の脅威であるイランが核武装する事態を強く警戒しており、懸念の払拭に努めた形だ。

オバマ大統領は14日、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、核協議の最終合意について「行動計画は、米国とイスラエルの国家安全保障上の利益にかなう成果だ」と理解を求め、カーター国防長官を来週、イスラエルに派遣する意向を伝えた。

大統領は「イランによるテロ支援や、イスラエルに対する脅威への懸念が合意により和らぐことはない」とし、イスラエルの安全保障に「断固として取り組む」と強調。カーター長官の派遣は、イスラエルへの「比類のない安全保障協力」の反映だと説明した。

ネタニヤフ首相は、最終合意によってもイランの核武装は可能で、制裁解除はイランを利することになるとの懸念を伝えた。

一方、オバマ大統領はサウジアラビアのサルマン国王に対しては、「地域の安定を損なうイランの行動に対し、湾岸諸国とともに取り組む」と述べ、懸念の払拭に努めた。このほか、大統領は英仏独の首脳らとも個別に電話で会談し、緊密に連携することを確認した。【7月15日 産経】
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オバマ米大統領は17日、ホワイトハウスでサウジアラビアのジュベイル外相と会談し、イラン核合意などについて意見交換しましたが、アメリカ大統領が外相級と単独会談を行うのは異例こととされています。

イラン・アメリカとも原則論・強硬論は維持
イラン側は、表向きはアメリカに対する強硬な方針に変わりはないことを強調しています。

****傲慢な米国」に方針不変=シリアへの支援継続―イラン最高指導者****
イランの最高指導者ハメネイ師は18日、首都テヘランで、イスラム教のラマダン(断食月)明けの演説を行い、14日に最終合意に達した米欧など6カ国との核協議について、「この合意の後も、傲慢(ごうまん)な米国に対する私たちの方針は変わらない」と宣言した。ロイター通信などが伝えた。

この演説を受け、その場にいた市民は「米国に死を」と繰り返し唱えた。

ハメネイ師は、今回の核協議について、イランの国益を守るために例外的に米国と交渉したと強調。合意内容を精査する必要性を改めて訴えた。

また、「パレスチナ、イエメン、シリア、イラク、バーレーン、レバノンの人々への支援を決してやめない」と言明。イスラエルやサウジアラビアなどを念頭に、イランの中東での影響力拡大を懸念する国々をけん制した格好だ。【7月18日 時事】
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制裁解除は喉から手が出るほど欲しいものの、国内に根強い保守強硬派への配慮も必要になります。
保守強硬派も、国民の制裁解除への期待もあって、今のところは事を荒立てず模様眺めの様相のようです。

保守派やイスラエル等への配慮もあって、表向きの原則論・強硬姿勢の強調はアメリカも同様です。

****<米国>攻撃の選択肢維持「イランが核武装図れば****
イラン核問題の解決に向け同国と米欧など主要6カ国が合意した「包括的共同行動計画」について、アーネスト米大統領報道官は17日、対イラン攻撃に踏み切らざるを得なくなった場合、標的情報の入手に役立つと述べた。

イランが合意に反して核武装を図った場合に限定した説明だが、イランに対し軍事対応を含む「全ての選択肢」を維持するオバマ米政権の立場を改めて示した。

アーネスト氏は、合意に基づく査察の強化で、イランの核活動についてより詳細な情報が得られるようになると指摘。「イスラエルや米国の軍関係者が標的に関し、確かな情報に基づいて決定できるようになる」と述べた。

この発言には、イランと敵対する米国の同盟国イスラエルが、今回の合意を厳しく批判し、軍事行動も辞さない姿勢を示唆していることへのけん制の意図もあると見られる。また、イランに対しても、ウラン濃縮能力の大幅な制限など合意内容の履行を迫る狙いがありそうだ。(後略)【7月18日 毎日】
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今後、合意内容の履行確認でおそらく何度かギクシャクする場面もあると思われますが、表向きの強硬姿勢はともかく、流れとしては関係改善に向けて大きく動き出す・・・ということを期待します。
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イラン核開発問題、13年越しの合意  軍事施設査察など不透明な部分も

2015-07-15 22:43:22 | イラン

(テヘラン郊外の軍事施設パルチンの衛星写真 かつて核軍事転用の為に起爆実験が行われた疑いが指摘されています。【2014 年 10 月 7 日 WSJ】)

ザリフ外相「これで不必要な危機を防ぐことが出来る」】
イラン核開発問題については13年にわたる交渉が続けられ、最終合意に向けた先月来の交渉についても期限を3回延期するという難産の末、14日夜、ようやく最終合意に達しました。

この13年の経緯を簡単にまとめると、以下のようになります。
**** <イラン核開発問題>****
2002年、イラン国内で核施設の建設が進んでいることが発覚。国際社会は核兵器製造を狙った動きだと疑った。

イランは03年、英独仏とウラン濃縮の一時停止で合意したが、05年に強硬派のアフマディネジャド大統領が就任し、06年に濃縮を再開。国連安全保障理事会の制裁決議を無視し、「民生用」を口実に核開発を続けた。

13年に穏健派のロハニ大統領が就任すると融和路線に転じ、15年4月、米英独仏中ロとの間で核開発制限を盛り込んだ「枠組み」に合意した。【7月15日 朝日】
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経済制裁に苦しむイランで、制裁解除に向けた交渉を行える穏健派ロハニ大統領の誕生が、交渉を軌道に乗せることにもなりました。

しかし当然ながら、合意に至るまでには激しいやり取りもあったようです。

****核疑惑13年、外交決着 イラン核武装阻止へ、最終合意****
13年にわたって国際社会の懸案だったイランの核開発問題で、関係国が最終合意にこぎつけた。

中東情勢も絡み、米イランの外相らが異例の長期間ウィーンにとどまるなど、最終局面まで交渉は難航した。現行の核不拡散条約(NPT)体制のもと、制裁を受けた国が姿勢を変え、外交努力が実を結んだ。
 
「歴史的な時だ」
14日午前、イランと6カ国の外相による最後の全体会合が開かれた国連施設に現れたイランのザリフ外相は、記者団にこう語った。

2002年から続いたイランの核問題を解決するため、包括的合意を目指す6カ国とイランの「第1段階の合意」が結ばれたのは13年11月。1年8カ月に及んだ協議の最終場面では、相互の不信が噴き出した。

イラン関係者によると、核問題そのものは4日ごろには大筋で合意していたが、協議の主題が中東情勢全般へ転じ、米欧がイランにシリアのアサド政権への支援から手を引くべきだなどと言及し、イランが反発。ザリフ外相が声を荒らげ、ケリー米国務長官が反論する場面もあったという。

米欧に不信感を強めたイランは、棚上げにすることで一致していた武器禁輸の解除を求め、協議が長引く一因になった。イランに武器を売りたいロシアがイラン側に回り、中国も加勢。6カ国間に亀裂が走った。

「合意を結ぶ気がないなら今すぐこの場を立ち去りなさい」「イランは決して脅しには屈しない」
欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表も6日夜、ザリフ氏と口論になったという。

イランが核開発を続ければ、イスラエルによる軍事攻撃の可能性があったうえ、サウジアラビアなどの周辺国も核武装を目指し、NPT体制そのものを揺るがす危険をはらんでいた。

「これで不必要な危機を防ぐことが出来る」。ザリフ氏はこう語り、モゲリーニ氏も「合意は地域と世界の平和と安定に貢献する」と、外交交渉で一応の決着をみたことを自賛した。【7月15日 朝日】
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合意内容骨子については以下のとおり。
****最終合意の骨子*****
(カッコ内は期間)
・イランは高濃縮ウラン、兵器級プルトニウムを製造しない(15年間)
・イランは約1万2千キロある低濃縮ウランを300キロに減らす(15年間)
・IAEAはあらゆる施設に査察をする
・合意の履行が確認されれば、欧州連合(EU)は核関連の制裁を解除、米国は制裁を緩和、核問題に関する国連安保理決議は解除
・合意違反があれば制裁を再び科す
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今回の合意は、イランにウラン濃縮を含む平和的な核開発の権利を認める一方、それを一定の範囲内に収め、国際的な監視下に置くというもので、仮にイランが約束を破って核兵器開発を始めても、核爆弾1発の原料ができるまで最低1年はかかるよう核能力を縮小させる仕組みをつくった・・・とされています。

【「やっと世界の仲間に戻れる」】
イランが強く求めていた経済制裁解除のプロセスについては、以下のように報じられています。

****制裁解除に向けたプロセス****
イランが強く求めていた経済制裁の解除についてはIAEAがイランによる核開発の制限を確認した段階で、まとめて解除されます。

その一方で、イランが合意内容に違反した場合は、65日以内に制裁を元に戻すことができます。

また、イランやイランと関係の深いロシアが解除を求めていたイランへの武器輸出を禁じる国連の制裁措置については、協議の結果、防衛を目的とする武器については輸出入ができるよう制裁措置が緩和され、5年後には完全に解除されるとしています。

今回の合意を受けて、国連の安全保障理事会でも近く合意を支持する決議が採択され、国連でイランに対する制裁の解除に向けたプロセスが始まります。

安保理では2006年以降、イランに対するさまざまな制裁を盛り込んだ4つの決議が採択されてきましたが、今後はIAEA=国際原子力機関がイラン側の対応を検証したうえで、安保理で一連の制裁決議を無効にする手続きがとられることになります。【7月15日 NHK】
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イラン国内は、すぐにでも経済制裁が解除されるような祝賀ムードのようです。
最高指導者ハメネイ師も、交渉団を支持する姿勢を表明しています。

****<イラン>国内祝賀ムード、ハメネイ師も交渉団評価・・・・核合意****
イラン核問題を巡る同国と欧米など6カ国(米英仏独露中)の交渉が最終的な合意に達した14日、イラン各地では市民が街に繰り出し、お祭り騒ぎで合意を歓迎した。

一方で、核交渉での妥協を警戒してきた保守強硬派の反発も出始めたが、最高指導者ハメネイ師は交渉団を支持する姿勢を表明した。

「プッ、プッ、プププー」。毎日新聞助手によると、首都テヘランでは14日夜に最大の目抜き通り「バリアスル」などで車のクラクションがひっきりなしに響き、市民らが喜びを表した。最終合意は昼間だったが、イスラム教のラマダン(断食月)の影響もあり、街は日が暮れてから人々であふれた。

通りには交渉関係国の国旗を掲げた車などが列をなし、深夜まで大渋滞が続いた。交差点では若者らが踊ったり、花火を打ち上げたりして「歴史的合意」を祝福した。

中年の男性は「やっと世界の仲間に戻れる」と語り、ロウハニ大統領の写真を掲げたという。こうした様子はテレビで繰り返し放映され、15日付の主要各紙も1面トップで合意を好意的に報じている。(中略)

ハメネイ師の事務所によると、同師は14日、ロウハニ大統領との会談で「核交渉団による実直で不屈の努力、試み」に感謝の気持ちを示した。ツイッターでも同様に交渉団の努力をたたえた。(後略)【7月15日 毎日】
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軍事施設パルチンへの査察は?】
北朝鮮のように秘密裡に核開発を続けて核兵器を手にした事例の再現とならないか?・・・という根本的な疑問に加え、イラン、アメリカ双方とも合意に批判的な強硬派を抱えており、合意が国内的に了承させるのか? イランの核兵器開発を強く疑う(確信している)イスラエルやサウジアラビアが今後どのような対応をみせるのか? 原油輸出など日本への影響は? 更にはホルムズ海峡の危機が遠のくことでの安全保障関連法案審議への影響は?・・・等々、様々な問題があります。

そうした様々な問題はともかく、最後までもめた軍事施設への査察問題の扱いが、合意内容で不透明なことが気になります。

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イランが核開発を制限していることを確認するため、IAEA=国際原子力機関の権限が拡大されます。

イランは未申告の核関連施設の調査や抜き打ちの査察を可能にするIAEAの「追加議定書」を批准し、すべての核関連施設にIAEAが定期的に立ち入ることができるようになります。

協議の大きな争点となっていた、核兵器の開発疑惑があるイランの首都テヘランの郊外にあるパルチンの軍事施設については査察の対象となっているかどうか明記されていません。

しかし、未申告の核物質の存在や核開発が懸念される施設には、IAEAは検証のための立ち入りを求めることができるとされています。

イランとIAEAの意見が対立し、懸念が解消されない場合は、関係6か国側とイランで作る委員会が仲裁の役割を担い、必要な手段についての助言を行い、イランは3日以内に必要な手段をとることになっています。【7月15日 NHK】
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IAEAは協議でも焦点になっていた核兵器の開発疑惑について、イランとの間で、疑惑を解明するための行動計画で合意しました。

行動計画では来月15日までにイランが書面で疑惑について説明し、IAEAは不明な点について問い合わせるといったやり取りが行われます。

らに必要に応じて専門家による会合などを開き、天野事務局長はことし12月15日までに核兵器の開発疑惑についての報告書をまとめる方針です。

ただ、行動計画では関係6か国とイランの間で大きな争点となった核兵器開発との関連が疑われる軍事施設の査察については「別途調整する」などとして、具体的にどういった対応を取るのかは明らかになっておらず、査察が着実に行われるのかが今後の焦点になります。【7月15日 NHK】
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IAEAの天野之弥事務局長は、今後、パルチンに査察に入る可能性については「詳細には言及できない」と述べるにとどめています。【7月15日 日経より】

一方で、イランのザリフ外相は、軍事関連施設は査察対象外と改めて主張しています。

****<イラン>「軍事施設は査察対象外」外相が強調…核合意****
イランのザリフ外相は14日夕(日本時間15日未明)、ウィーンで毎日新聞など一部外国メディアと会見した。

核問題の解決に向け6カ国(米英仏独露中)と「包括的共同行動計画」で最終合意したイランだが、最大の焦点の一つである国際原子力機関(IAEA)の査察範囲についてザリフ氏は、過去の核兵器開発疑惑に絡む軍事関連施設は対象外と改めて主張。疑惑解明の行方が依然として不透明であることを印象付けた。

行動計画は、イランのウラン濃縮活動などを大幅に制限し、強力な監視体制下に置く一方、見返りとして欧米や国連のイラン制裁を解除すると明記した。

IAEAは行動計画に定められたイランの履行状況を監視・検証するが、これとは別に過去の核兵器開発疑惑の解明も行う。このため、核兵器の起爆用爆薬を開発していた疑いのある首都テヘラン郊外のパルチン軍事施設の査察を求めている。

ザリフ氏は「過去の問題を解決し、イランの(核)活動が平和目的に限られていることを確認するため(IAEAに)協力する」と言明。

未申告施設への抜き打ち査察などを可能にするIAEAの追加議定書などに沿って協力する考えを示しながらも、これらの取り決めは「イランの軍事施設に向けられたものではない」と述べた。

軍事施設の査察については、イラン最高指導者のハメネイ師が「問題外だ」などと明確に拒否してきた。軍事施設の扱いは行動計画に明記されず、IAEAとイランの間で別途協議されることになっている。(後略)【7月15日 毎日】
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“焦点だった軍事施設への国際原子力機関(IAEA)による査察にも制限付きで合意。AP通信によると、イランが異議を唱えた場合は6カ国とイランで査察の可否を協議するとしている。”【7月14日 産経】といった報道もありますが、結局、軍事施設パルチンへの査察を認めたの?認めていないの?・・・と、よくわかりません。
仮にIAEAが査察を求めても、イランがこれに応じないこともある・・・ということでしょうか?

なお、ケリー米国務長官は6月16日、イランの核開発に関する「軍事的側面の可能性(PMD)」について「過去は問わない」とも発言しています。

外交交渉では、どうしても折り合いがつかない部分は玉虫色にして、お互いが都合のいい解釈をすることで一応“合意”する・・・ということがしばしば行われますが、軍事施設パルチンへの査察もその類でしょうか?

イランの保守強硬紙ケイハンは「二つの解釈、180度の違い」の見出しで、交渉結果に懐疑的な記事を掲載しています。

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公式発表された合意文書とイラン外務省が合意の要旨をまとめた文書に「解釈の違いがある」と報じた。

ハメネイ師は、核開発制限は10年未満▽軍事施設への査察は認めない−−などを「譲れない一線」としていたが、同紙は「譲れない一線が守られていないのでは」と指摘している。【7月15日 毎日】
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敢えて玉虫色にしたのであれば、“解釈の違い”による今後起こる問題についても、一定にその扱いの方向性は協議されているということでしょうか。

「合意の履行で(国際社会との間の)不信感は徐々に消えていく」(ロウハニ大統領)なかでは、大きな問題とはならないということでしょうか。

もっとも、すでにパルチンでの証拠隠滅が行われており、今さら査察を行っても特段のものは出ない、イラン側はあえてパルチン査察を拒むことで、相手から譲歩を引き出すための手段に使っている・・・という見方もあるようです。

****歴史的だが不完全なイラン核合意****
・・・・とはいえ、ウィーンで交わされた最終合意は不完全な内容だ。米国と同盟国は今後も警戒を緩めてはならない。イランの核開発は今後10年にわたり制限されることになったが、核兵器の開発能力を断つには程遠く、イラン政府が核兵器開発に向かった場合に時間がかかるようになるだけだ。(中略)

しかし、他の選択肢が戦争か制裁強化という状況において、合意は最善の結果だった。しかも中東が混乱にある現在、根深い敵対関係にある二国でも合意に達することができるという重要なメッセージにもなっている。(中略)
それでも、この合意による広い政治的成果を見失わないことが大事だ。最も重要なのは今後の米国とイランの緊張緩和だ。(後略)【7月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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“歴史的だが不完全なイラン核合意”と言うべきか、“不完全だが歴史的合意”と言うべかは、もう少し様子をみる必要がありそうです。
いずれにしても、制裁強化のあげくの軍事的衝突といった選択肢に比べたらましでしょう。制裁が解除されれば、穏健派の基盤が強化され、イラン国内の民主化にもつながります。
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