孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領

2017-12-30 22:14:30 | イラン

(保守強硬派の牙城、イスラム聖職者の街コムでもデモが【12月30日 BBC】)

ロウハニ大統領 国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかける
このところあまりイラン発のニュースは多くなかったのですが(サウジアラビアなどによるイラン包囲網の話は多々ありますが)、先日“奇妙”と言うか、何を意図してしているのかよくわからない穏健派ロウハニ大統領の発言が報じられました。

****イラン大統領、国民に権利主張するよう訴え 治安組織の締め付け批判?****
イランのハッサン・ロウハニ統領は19日、市民の権利憲章を発表してから1年がたったのを機に演説を行い、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた。
 
ロウハニ大統領は「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、「国民の権利を文化に変えなければならない」と述べ、若者やソーシャルメディアの利用者らに、権利が侵害されていると感じたらその不満を広く主張するべきだと訴えた。
 
また、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」と指摘し、国内の強力な治安組織を念頭に、市民生活への介入を減らし、干渉しないよう求めた。
 
ロウハニ氏が発表した画期的な権利憲章は、言論・抗議の自由、公正な裁判、プライバシーなどを保障するとしているが、改革派のメディアは、より自由な社会が実現していないと批判している。
 
イラン国内では司法界や革命防衛隊を含め多くの組織で保守強硬派が支配している状況で、ロウハニ氏の主張についても未だに沈黙を守ったままだ。【12月20日 AFP】
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イランでは、改革派からの支持も集める穏健派ロウハニ大統領の政権と、ハメネイ最高指導者周辺を固める保守強硬派の間で厳しいせめぎあいが続いていることは周知のところです。

自らの権利を主張するよう呼びかけ、「国民は政府に放っておいてほしいと思っている」・・・・文字どおり解釈すると、政治・社会を支配する議会・治安当局・革命防衛隊などの保守強硬派への国民決起を促すような、随分と過激な発言にも思えます。

「権利は政府にではなく、国民にある」・・・・現在の最高指導者を頂点とするイスラム主義イラン政治システムへの反旗ともとれる発言ですが、その真意は・・・。

単に、“市民の権利憲章を発表してから1年”という節目にあたっての啓蒙的な国民向けアピールなのか、保守強硬派との権力闘争があるなかで国民支持を引き寄せようという差し迫った事情があるのか・・・知りません。

異例の抗議デモ “物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”】
このロウハニ発言と関連があるのかどうかは知りませんが、発言から日を置かず、イランでは異例の反政府デモが行われ、治安当局との衝突も起きています。

****大統領に死を」 イラン各地、禁令破り反政府デモ****
イラン各地で28~29日、物価高や政府の経済政策に抗議するデモがあった。

地元メディアによると、第2の都市・北東部マシュハドでは52人が逮捕され、他都市でも警官隊と衝突した。デモが事実上禁じられているイランでは極めて異例の事態だ。

10%を超える高い失業率や、遅々として進まない経済発展に市民がしびれを切らした形だ。
 
地元メディアによると、中部イスファハンや北西部タブリーズなど、少なくとも11都市で数百人規模のデモがあった。警官隊が催涙ガスや放水車で対応したという。

イランでは今月、卵の価格が約2倍に高騰したほか、通貨リアルの価値が下落傾向で、日常品の価格も上昇。市民の不満が高まっていた。
 
英BBCなどによると、参加者は「ロハニ大統領に死を」「パレスチナやシリアは放っておけ。国民のことを考えろ」などのスローガンを叫んだ。最高指導者ハメネイ師を示唆して「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」との声も上がったという。
 
デモ参加者の多くは、インターネットのSNSを通じて集まったとみられる。2009年には、大統領選挙の結果などに不満を持った市民が大規模な反体制デモを行い、多数の逮捕者や負傷者が出た。首都テヘランでは30日、ネットを通じてデモが呼びかけられており、警察などが警戒している。
 
イランでは、核開発疑惑で原油禁輸を含む制裁を受け、経済が冷え込んだ。15年7月、イランが核開発を大幅に制限する見返りに国際社会が制裁を解除することで欧米などと合意。

16年の経済成長率は国際通貨基金(IMF)の調べでは12・5%だが、イラン統計局などによると、若年層の失業率は25%以上だという。ロハニ師は雇用拡大などを掲げて5月に再選されたが、国民は経済成長を実感できない状況が続いている。
 
イランと敵対する米国は素早く反応した。トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった。

国務省も「平和的なデモ参加者の逮捕を非難する」との声明を出した。国内での自由が抑圧されているとして、イランが「ならず者国家」であるとのイメージを、国際社会に強く植え付けるという狙いがあるとみられる。【12月30日 朝日】
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「ロハニ大統領に死を」と「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」では、その矛先・影響が全く異なります。

不満の核心が「ロハニ大統領に死を」ということであれば、約束してきた制裁解除による経済浮揚を実現できない穏健派政権への批判にとどまり、結果、保守強硬派の力が強化されることになります。

国民不満が「独裁者に死を」「イスラム体制はこりごりだ」というレベルに達しているのなら、ハメネイ最高指導者を頂点とするイスラム主義現行体制への批判となり、ロウハニ大統領などの穏健派や改革派はその不満の受け皿になります。

“報道によると、28日に北東部マシャドで始まったデモは、29日に首都テヘランなどに拡大。西部ケルマンシャーでは約300人が「イラン革命に反対」「政治犯を釈放せよ」などと訴えた。
物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わり、イスラム教シーア派の聖地コムではハメネイ師を名指しして「国を去るべきだ」と抗議する市民もいたという。シリアやイラクなど中東各地の紛争に介入する政府の姿勢を批判し「シリアを離れ、私たちのことを考えて」との訴えもあった。”【12月30日 毎日】

一方、“イランのエリート集団、革命防衛隊に近いファルス通信は、経済的苦境に不満を唱えていたデモ参加者の多くは、政治スローガンが繰り返されるようになると、その場を離れたと伝えている。”【12月30日 BBC】とも。あくまでも革命防衛隊に近いメディアの報道です。

今回デモの性格については“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】とも。

保守強硬派は、先日のロウハニ大統領の発言を逆手にとって反政ロウハニ集会を開いたものの、イラン統治体制への不満にまで一気に拡大した・・・というところでしょうか?

“物価上昇への抗議が徐々に政治的スローガンに変わる”状況を、保守強硬派は座視しないでしょう。
徹底した治安当局により鎮圧が行われるとおもわれます。

そのとき、“国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけた”ロウハニ大統領はどのように行動するのか?
自由な空気を求めている多くの国民は、どのように行動するのか?

イラン国民の権利を危機にさらすトランプ大統領が「イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ」】
“トランプ大統領はツイッターに「体制の腐敗と、国の財産をテロ支援に使う無駄遣いにうんざりした市民が、平和的なデモをしたとの多くの報道があった。イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!」とつづった”【前出 朝日】

しかし、核合意による制裁解除の効果が十分に発揮されず、物価高・失業に国民が苦しむ困難な現状の元凶は、ミサイル開発などを理由に独自のイラン制裁を続け、欧州・日本の対イラン投資を手控えさせているトランプ政権自身です。

トランプ大統領は更に核合意そのものをも覆すような動きを見せており、その結果は、比較的国民の権利に寛容な現行ロウハニ政権を潰し、国民の権利をないがしろにする保守強硬派支配を強化するものと思われます。

自分自身がイランの経済を追い込み、イラン国民の権利を危機にさらしていながら“イラン政府は国民の権利を尊重すべきだ。世界が注視しているぞ!”というのは、はなはだ笑止・滑稽ですが、これが政治の現実でもあります。

****米イスラエルが対イランで秘密工作を検討**** 
米ニュースサイト「アクシオス」は28日、米国とイスラエルの政府高官が12日、イランによる核兵器開発の再開を阻止するための秘密工作検討などを含む「共同戦略作業計画」に合意したと報じた。

ホワイトハウス当局者は取材に対し、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が12日にイスラエルと安全保障協力を協議したとし、報道を大筋で認めた。
 
トランプ米政権はエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米大使館を移転する方針を決めて同国との同盟関係の強化に取り組み、同時にアラブ諸国とも連携して対イラン包囲網を形成しようとしている。
 
同サイトによると、米国とイスラエルは複数の作業部会を設置し、イランの弾道ミサイル開発、同国によるレバノンのシーア派組織ヒズボラやパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの支援に対抗する方策を協議する。イランの核合意順守を監視、検証するための外交措置も話し合う。
 
ただ、トランプ大統領は10月、イランによる核合意の順守を認定せず、欠陥が解消されなければ合意を破棄できると強調し、合意の先行き自体が不透明だ。
 
米政府は90日ごとに議会に順守状況を通告するよう義務付けられている。次の期限は1月中旬で、大統領による制裁適用の免除期間120日の期限も同時期に訪れる。そのため、米メディアからはトランプ氏が合意破棄に踏み切る可能性があるとの指摘も出ている。
 
これに関連し、ティラーソン国務長官は28日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「米国のイラン政策の焦点は欠陥のある核合意ではなくイランの脅威全体に立ち向かうことにあり、同盟関係の再構築が必要となる」と強調した。【12月29日 産経】
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イラン国内の抗議デモが、来年にかけて、これ以上の広がりをみせるのか?
トランプ大統領が1月中旬に核合意破棄に踏み込むのか?(ここまで、イスラエルやサウジアラビアなどとも対イラン包囲網を画策してきていますので、なんらかのアクションを起こすのではないでしょうか)

年明け早々、世界は新たな混乱の火種を抱えることになるかも。
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イラン核合意  離脱か修正か・・・トランプ大統領「決断した」

2017-09-23 21:47:43 | イラン

(19日の国連総会での演説で、イラン核合意は「米国にとって恥」「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」と、イランに対する敵意をむき出しにするトランプ大統領【9月22日 産経】)

注目される来月中旬までのトランプ氏の判断 「決断した」「そのうち教える」】
北朝鮮核・ミサイル問題については周知のように、「ちびのロケットマン」「老いぼれ」、「完全破壊」「史上最高の超強硬対応措置」・・・・といった、激しい言葉の応酬と言うか、「幼稚園の子供同士のけんか」(ロシア・ラブロフ外相)のような状況です。

通常、こうした冷静さを欠くようにも見えるやり取りは、相手を挑発するため、相手の注意をそらすため、相手との交渉に関心がなく、国内支持基盤しか眼中にないとき・・・・等々に見られますが、トランプ大統領と金正恩委員長の“奇妙”な頭の中に何があるのかは誰もわかりません。

そのトランプ大統領、北朝鮮・金正恩委員長だけでは相手不足なのか、勢いが止められなくなっているのか、もうひとつの核問題、それも“一応は”沈静化した問題を敢えて蒸し返すつもりのようで、イランとも核合意をめぐる激しい非難の応酬になっています。

****イラン核合意、牽制 トランプ氏、離脱示唆し修正迫る戦略****
米欧などとイランが2015年に結んだ核合意を巡り、トランプ米大統領が国連総会などで合意離脱も示唆して牽制(けんせい)している。

ただ、米国が一方的に合意を破棄すればイランの核問題再燃は確実なだけに、国際社会は強く反発している。トランプ氏は「脅し」を通じ、核合意の期間延長や査察強化などの修正を迫る戦略とみられる。
 
「決断した」。トランプ氏は20日、ニューヨークで記者団に核合意から離脱するか問われ、3度繰り返した。そして「そのうち教える」と笑顔を見せた。
 
トランプ氏は核合意を「米国史上最悪の取引」として合意離脱を選挙公約にし、包括的な見直しを政府内で進めてきた。19日の国連演説でも合意批判を繰り返し、イランへの敵意をむき出しにして「(イランの)主要輸出品は暴力と流血、混乱だ」とこき下ろした。
 
イラン核合意は、イランが10年以上は核兵器をすぐに作れないレベルまで核能力を大幅に縮小し、その見返りに欧米が経済制裁を解除するもの。外交的な話し合いでイランの核開発を押しとどめたオバマ前大統領の最大の『レガシー(政治的遺産)』の一つだ。トランプ氏には、オバマ氏の成果を否定する政治的な意図もある。
 
注目されるのは、来月中旬までのトランプ氏の判断だ。米政府はイランが合意を順守しているかを90日ごとに判断し、議会に報告。トランプ政権は過去2回、イランの合意順守を認めたが、次回が10月15日に迫っている。合意違反を報告すれば、議会が60日以内に制裁を再びイランに科すかどうかを決定する。

米メディアには、当局者の話として、トランプ氏が合意を無効にする方向に傾いているとの報道もある。また、米国が査察強化やイランによるミサイル開発停止などを含む合意の修正を求める可能性など、様々な臆測を呼んでいる。
 
最悪のシナリオは、米国が合意を破棄し、イランが対抗措置として核兵器の材料になる高濃縮ウランの生産を再び開始することだ。

イランのサレヒ原子力庁長官は8月下旬、「米国が合意を破棄すれば、イランは5日以内に(兵器転用の元になる)濃度20%のウラン濃縮再開が可能だ」と強調。

イランが核開発を再開すれば、敵対するサウジアラビアなどで核武装論が強まる恐れがあり、中東で「核ドミノ」が起きる可能性が高まる。

 ■国際社会は反発
マクロン仏大統領は19日の国連総会の演説で「合意を拒否するのは重大な間違い。無責任だ」と牽制。メイ英首相も「核合意の継続が必要だ」としている。核合意に強硬に反対する米国とイスラエルの態度が際だっている。
 
20日のイランと関係国による外相級会合では、イランが核合意を順守していることが確認された。

だが、米国のティラーソン国務長官は協議後の会見で「技術的な観点」では合意違反がないと認めつつ、イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視。「合意以降、平和で安定した地域が達成されていない」と指摘し、「明らかに合意の『期待』が満たされていない」とイランを批判した。
 
最大15年というイランの核開発の制限期間も、米国は問題視する。ティラーソン氏は「(期限が過ぎれば)イランが核兵器計画を再開できる。大統領はこれを受け入れられない」と強調。離脱ではなく、期限の変更や国際原子力機関(IAEA)の査察権限の強化など合意の修正を図っていく可能性を示唆した。
 
イラン政府関係者は「米国がシリアやミサイル開発問題など(前回の合意には含まれない)政治的争点を要求してくる可能性がある」とみる。だが、イランのロハニ大統領は20日の会見で「合意にほかの条件はない。現在の形で履行されなくてはならない。変更はない」と再交渉に応じない姿勢を強調した。

 ■イラン核合意とは
イランで2002年にウラン濃縮施設が見つかって以降、国連安保理は対イラン制裁決議を4回採択し、米国もイラン産原油輸出に関係する独自の金融制裁を科した。イランは13年のロハニ大統領就任で融和路線に転じる。
 
その後の交渉を経て15年7月、イランと米英独仏中ロ・欧州連合(EU)が最終合意した。イランは15年間は核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを製造せず、10トンあった貯蔵濃縮ウランは300キロに削減。

もし秘密裏に核開発を再開しても、核爆弾1発の原料をつくるのに最低1年はかかるレベルまで核能力を縮小し、軍事行動や外交で動きを止める時間的猶予を確保した。

その見返りとして、米欧などは金融制裁やイラン産の原油や貴金属の取引制限などを解除することに合意した。【9月22日 朝日】
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ヘイリー米国連大使は、国連総会でのトランプ大統領の発言は「破棄を検討しているとの明確なシグナルではない。大統領が満足していないことを明示するシグナルだ」と語っていますが・・・・。

合意内容にトランプ大統領が不満を持っているのはわかりますが、外交交渉を含めてすべての交渉は、まず100%満足のいく形では得られません。なにはしらかの妥協、あるいは双方が都合のいいように解釈する玉虫色の決着を認めないのであれば、あとは相手がひれ伏すまで追い詰めるか、その過程で暴発するかのいずれかになります。

何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意
イラン核合意も関係国の長期にわたる困難な交渉の末にまとまり、国際的な核の危険性を一定に落ち着かせ、また、イラン国内の強硬論台頭を抑え込む効果が期待されましたが、トランプ大統領にはお気に召さないようです。

****世界が抱えるもう1つの核危機****
<国連演説でもイランを「殺戮国家」と批判し、核合意の再交渉を試みたトランプ政権は何にこだわっているのか。その危険な反作用とは>

欧米など主要6カ国とイランが2015年に取り交わした核合意の再交渉を画策する米トランプ政権の試みは完全に頓挫した。欧州主要国はアメリカが離脱しても合意を維持すると明言、イランの大統領は再交渉に応じる考えはないと突っぱねた。

9月20日夜、イランと主要5カ国の外相、EU代表、レックス・ティラーソン米国務長官、ニッキー・ヘイリー米国連大使が非公開の協議を行い、その結果、米側もイランが合意内容を遵守していることを認めざるをえなかった。(中略)

(モEUの外交安全保障上級代表)ゲリーニはさらにクギを刺した。「国際社会には今、正常に機能しつつある核合意を引っ繰り返す余裕などない。われわれはもう1つの潜在的な核危機を抱えており、これ以上危機は要らない」

「ウラン濃縮を好きにやるぞ
イランのハサン・ロウハニ大統領は同日午後、ミレニアム・ホテルで記者会見を開き、トランプ政権が核合意を破棄するなら、現在合意によって制限されているウラン濃縮についてイランは「フリーハンド」にさせてもらうと警告した。

ロウハニは、アメリカが合意を破棄しても、核開発を再開する考えはないと断言し、国際社会に広く支持されている合意から離脱すればアメリカは信用を失うが、「イランは世界においてより強固でより良い地位に就ける」と自信を示した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「核合意の破棄は過ち」だとの立場を鮮明にしている。トランプが「アメリカの恥」とまで言った核合意を、マクロンは「良い」内容だと評価。

ただし、弾道ミサイル開発の禁止が盛り込まれていないなど不十分な点があることは認め、アメリカの懸念には一定の理解を示した。

アメリカが核合意から離脱する可能性について、あるEUの外交トップは「この合意は国際社会のものだ」と息巻いた。トランプ政権はイランの合意順守状況について90日ごとに議会に通告することになっており、次の期限は10月15日に迫っている。

欧州寄りの米政府関係者や、イランの核合意順守状況の監視役であるIAEA(国際原子力機関)も、イランはきっちりと合意を順守していると言っているのに、報道によれば、トランプはどこからかイランは合意を順守していないと結論づけたという。

トランプは昨年の米大統領選挙の最中から、オバマ前政権下で結ばれた核合意を悪しざまに言ってきた。同合意はイランの弾道ミサイル開発を禁じておらず、ウラン濃縮活動などの制限にも最大25年の期限があって、それ以降核開発が再開されかねないことなどを問題視している。

国連総会での初演説でも、イランを「暴力、殺戮、混沌を主な輸出品とする困窮したならず者国家」と呼んだ。核合意のことは「アメリカがこれまで合意したなかで最も一方的で最悪の取引」と呼び、破棄する可能性を匂わせた。

イラン国民へ謝罪を
(中略)ロウハニは、再交渉は「現実的ではない」と言った。何年にも及ぶ国家間の厳しい交渉の末、ようやく国連安保理の支持を得て成立した合意なのだ。

「今後期待するのは」と、ロウハニは言った。「トランプ氏からイラン国民に対する謝罪だ」

だがトランプは、また正反対のことをするかもしれない。【9月21日 Newsweek】
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合意の不十分な点をあげつらえばいくらでも可能ですが、それは“ないものねだり”でもあります。
先述のように、交渉というのはそういう不満足をのみ込んで成立するもので、それが嫌なら後は喧嘩しかありません。

“イランが続けるミサイル実験やシリアのアサド政権を支援していることなどを問題視”・・・・ミサイル開発は合意範囲外の問題ですし、シリア云々は“核合意”とは別問題です。

また、合意内容に不満だから・・・と蒸し返す対応は、慰安婦問題での韓国のようでもあり、関係国を苛立たせるところがあります。

トランプ大統領の言動は、要するに“イランは嫌いだ!”“オバマ前大統領のやったことは壊してやる!”という執念にすぎないようにも思えます。

トランプ大領の妄念でアメリカがどうなろうが勝手ですが、国際社会を混乱に巻き込むのは勘弁してほしい・・・との感じも。

アメリカの対応に、イラン側も言動をエスカレート
アメリカ以外の合意各国はアメリカ・トランプ大統領の言動に強く反発していますが、当然ながら当事者イランは“売り言葉に買い言葉”的に態度を硬化させています。

トランプ大統領の国連でのイランへの敵意をむき出しにした発言に、イラン側も応戦しています。

****イラン大統領、トランプ氏を「新入りのならず者」と非難 イラン核合意破棄なら「断固とした措置取る**** 
イランのロウハニ大統領は20日、国連総会の一般討論演説で2015年に締結されたイラン核合意について、「他の国が合意に違反した際には、断固とした措置を取る」と述べ、核合意見直しを示唆したトランプ米大統領を強く牽制(けんせい)した。
 
ロウハニ師は、核合意は国際社会全体の支持を得たとして、「1つや2つの国」の判断によるものではないと強調。イラン側から核合意を破棄することはないとしたうえで、トランプ氏を念頭に「世界政治の新入りの『ならず者』によって合意が破壊されたとしたら、非常に残念なことだ」と述べた。
 
また、イランへの批判を繰り返したトランプ氏の19日の一般討論演説の内容について、「ばかばかしいほど事実無根な主張に満ちた無知で不条理、憎むべき発言」と非難。トランプ氏の攻撃に激しく反論した。
 
トランプ氏は19日の演説で、核合意を「米国にとって最悪な取引の一つ」と明言。20日にはロウハニ師の演説に先立ち、核合意への対応について「決断した」と述べ、方針転換をほのめかした。
 
核合意は、イランが制裁解除と引き換えに核開発を制限する内容。イランと米欧など6カ国が締結した。【9月21日 産経】
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イランは国内的には強硬派とロウハニ大統領らの穏健派の微妙なバランス・対立関係にあり、アメリカの挑発には強い姿勢を見せないと、“弱腰”との批判を受けて強硬派によって足元をすくわれるリスクがります。

****イラン大統領、ミサイルシステム強化明言 トランプ氏の批判一蹴****
イランのロウハニ大統領は22日、ミサイルシステムを強化していくと述べ、トランプ米大統領による批判を一蹴した。

ロウハニ氏はテヘランで行われた軍事パレードで演説し「われわれは抑止力として軍事力を強化し、ミサイルシステムを増強する。自国を防衛することに誰からの許可も求めない」と主張した。

タスニム通信によると、複数の弾頭を搭載可能で射程が2000キロに及ぶ新たな弾道ミサイルについて、イランの革命防衛隊幹部が明らかにした。

トランプ氏は19日に行った国連演説で、「危険な」ミサイルを開発しイエメンやシリアなどに暴力を輸出しているとしてイランを非難している。【9月22日 ロイター】
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実際に、イランはミサイルを飛ばしています。

****新型弾道ミサイル試射成功=米の圧力に反発―イラン****
イランは、国産の新型弾道ミサイル「ホラムシャハル」の発射実験に成功した。国営メディアが22日、発射の映像を公開した。実験の日付や場所は明らかにしていない。米国がイランとの核合意破棄も辞さない対決姿勢を強める中、イランが反発を示したとみられる。
 
「ホラムシャハル」は射程2000キロで、複数の弾頭が搭載可能。首都テヘランで22日行われた軍事パレードで公開されたばかりで、ロウハニ大統領は「抑止力のために必要なら、防衛力、軍事力を強化する」と述べていた。
 
トランプ米政権は、イランの弾道ミサイル開発に対して繰り返し追加制裁を科している。今回の発射実験に態度を硬化させるのは必至だ。【9月23日 時事】 
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緊張はエスカレートする一方のようです。

北朝鮮の問題にしても、イランの問題にしても、(北朝鮮が日本語越しにミサイルを発射したり、洋上核実験に言及したりと、常軌を逸しているようなところはありますが)、“どうして北朝鮮やイランはだめで、アメリカなどは保有が正当化されるのか?”という基本的な問題がつきまといます。

要するに、自国の安全を脅かす存在は認めないという話であり、どちらかに“正義がある”という話ではありません。“力の信奉者”たちの横暴なふるまいのとばっちりを受ける周辺国はいい迷惑です。

また、国際緊張が高まることで、国内の自由化が遅れるイラン国民も犠牲者です。
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イラン  周辺国に影響力を拡大する行動の背景に、イラン・イラク戦争の悲惨な記憶が

2017-08-21 23:26:02 | イラン

(イラン・イラク戦争当時のイラン側兵士 【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】)

不安定な核合意 2期目のロウハニ政権は対話重視型を維持
イランと制裁強化を続けるアメリカ・トランプ政権の関係は、イラン嫌いのトランプ大統領の暴発の危険性もあって、両者間の核合意は不安定なものがあります。

なお、“イラン嫌い”はアメリカ全体でもありますが、イランの方は、どこのレストランにもコカ・コーラが置いてあるなど、一般民衆レベルの話で言えば、「アメリカに死を!」なんて叫ぶ連中もいますが、むしろアメリカに対する憧れのようなものもあるのかも・・・・先月末にイランを旅行(単なる物見遊山です)した際に、そんな印象も。

ただ、政治レベルの話では、強硬な姿勢を崩さないトランプ政権に対し、イラン側も“売り言葉に、買い言葉”状態です。

****イラン、「数時間で」核合意破棄も 大統領が米制裁強化に警告****
イランのロウハニ大統領は15日、米国がさらなる制裁を科すなら、主要6カ国との核合意を「数時間以内に」破棄する可能性があるとの考えを示した。

ロウハニ師は国営テレビが放映した議会発言で、米国が制裁に戻るなら「イランは必ず、交渉開始前よりもさらに進化した状況に短期間で戻るだろう」と語った。

イランは米国が新たに科した制裁について、米国のほかロシア、中国、英国、フランス、ドイツと2015年に締結した核合意に反すると非難している。

米財務省は7月下旬、弾道ミサイル開発に関わったとしてイラン企業6社を制裁対象に指定。トランプ米大統領は今月、議会が可決したイランとロシア、北朝鮮に対する制裁強化法案に署名した。【8月15日 ロイター】
***************

「数時間以内に」とは穏やかでありませんが、一応2期目のロウハニ政権は、これまで同様対話重視型にはなっています。

****イランのロウハニ政権 2期目も国際社会との対話重視****
今月2期目の任期に入ったイランのロウハニ政権の新しい閣僚が議会で承認され、核開発をめぐる交渉で欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相が留任するなど、引き続き国際社会との対話を重視した布陣となりました。

イランのロウハニ大統領は、今月2期目の任期に入り、議会では20日、ロウハニ大統領が指名した新しい閣僚17人を承認するかを決める投票が行われました。

その結果、元国連大使で、核開発をめぐる交渉でおととし欧米との合意に道筋をつけたザリーフ外相や、国の重要産業となっているエネルギー分野で外資の受け入れを担ってきたザンギャネ石油相など、多くの重要閣僚の留任が決まりました。

引き続き国際社会との対話を重視した布陣となり、ロウハニ大統領としては1期目と同様に各国との関係改善を図りながら経済の立て直しに力を入れていくものと見られます。

ただ、イランが続けているミサイル開発をめぐり、アメリカのトランプ政権が制裁を科すなど、アメリカとの対立が外資を呼び込むうえで足かせとなっていて、2期目のロウハニ政権がトランプ政権とどのように向き合っていくかが大きな焦点となります。【8月21日 NHK】
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中東の不安定要素、イランとサウジアラビアの対立
現在の中東における最大の不安定要素、混乱の原因のひとつが、イランとサウジアラビアの対立であることは周知のところです。

お互いスンニ派とシーア派の盟主という立場にあって、枕詞のようにそのことがついてまわりますが、別に両国は神学論争で争っているわけではなく、様々な理由から中東における影響力を競っているのでしょう。

最近、サウジアラビア側からイランへ関係修復のボールが投げられたとの情報があって、期待もしたのですが、サウジアラビア側が情報を否定する形になっています。

****サウディのイランとの関係修復の仲介依頼の否定****
・・・・サウディがイランとの関係修復の仲介を求めているという話は、イラクの内務大臣の話として、イバーディ・イラク首相のサウディ訪問の際にサウディ政府が、イラクに対して仲介を要請したとのうわさが流れたが、その後同内相自身が15日サウディは仲介を要請していないと発言して、この噂を打ち消したとのことです。【8月16日 「中東の窓」】
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本当にそういう仲介要請があったのかどうかを含めて、事の真相はわかりません。

シリア介入による多大な犠牲 イラン国内には批判も
そのことはともかく、一般的には、イランは自国の影響力拡大のため、イラク、シリア、イエメンなどに深く介入している・・・と理解されています。

どの程度の軍事支援・民兵派遣を行っているかは明らかにされていませんが、シリアにおけるイラン側の犠牲者も相当数にのぼっています。

それに対する国内的な批判もおきているとか。

****イランでのシリア等での損失に対する不満****
先ほどサウディのイエメン国境方面での死者が50名になったという報道を紹介しましたが、イランの革命防衛隊等のシリア、イラクに於ける損失は比較にならないほど大きいと思います。

この点に関して、al arabiya net は最近、イラン内で活動家の手になる政権に対する批判が出回っていると報じています。

その内容としては、それほどシリア等における活動が重要ならば、政権の指導者、マスコミの指導者は自らシリアやイラクに行って戦えばよい、もし自らが老齢等で戦闘ができないのであれば、自分たちの子供を送るべきであるというものの由(要するに自分たちは何の犠牲も払わずに、国民を犠牲にする指導者に対する不満)

また活動家によれば、これまでシリア等で死亡した革命防衛隊員等は4000名に上る由。
また死者の多い都市はテヘランを先頭に、コム、カルマンシャー、マザンドラン、キーラーン等の由
https://www.alarabiya.net/ar/iran/2017/08/18/الإيرانيون-يهاجمون-قياداتهم-أرسلوا-أبنائكم-إلى-سوريا.html

このような不満の表明が、仮に事実としても、どの程度の広がりを有しているのか不明です。

また、これを伝えているal arabiya net はサウディ系ですから、当然宣伝的要素も強いかと思いますが、革命防衛隊等に多くの犠牲者が出ていることを考えてみれば、ありうる話かと思うので、取り敢えずご参考まで【8月19日 「中東の窓」】
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イランを周辺国介入に駆り立てるイラン・イラク戦争の記憶
そこまでの犠牲を出して、どうしてイランは周辺国に介入するのか・・・?
ひとつ想像できるのは、ロシアと似たような不安感・不信感(立場が異なれば“被害妄想”とも)を抱えているのではないか・・・ということです。

ロシア・プーチン大統領が周辺地域に自らの影響力を拡大しようとする、あるいは、NATOなどの勢力に激しく反発するのは、ロシア革命から冷戦期に至るまで、ソ連・ロシアは絶えず自国を敵視する勢力によって囲まれてきた、そして現在も“だまし討ちのような”(ロシア側の理解です)NATOの東方拡大で脅威にさらされているという不安・不信感に駆られてのことです。

イランにも似たような心理があるのでは・・・と思ったのは、先月のイラン旅行で、イラン国内におけるイラン・イラク戦争の消えない記憶を感じたからです。

世界遺産ペルセポリス遺跡の観光を終えてヤズドに向かう道路脇に、若者(子供のように見える者も)の顔写真を掲げた道路標識のようなものが延々と並んでいます。

訊くと、イラン・イラク戦争の犠牲者とのこと。今のイランがあるのは、彼らの流した血のおかげであるとも。

また、現地の方からイラン・イラク戦争の人生に及ぼした影響などを聞く機会もありました。
1980年から1988年までの長きに渡った戦闘に参加した若者は、今、イラン各分野を担う中枢となっています。

国際社会においては、イラン・イラク戦争というのは掃いて捨てるほど起きている戦争のひとつにすぎず、話題にのぼることもほとんどありませんが、イランにとっては革命混乱期に仕掛けられた、忘れがたい“国難”でもあるようです。

そのことへ思いは、宗教色が強く、硬直的な現在のハメネイ体制を支持する・支持しないにかかわらず、共通した思いでもあるようです。

イラン革命の混乱で防衛体制が崩壊していたイランは、西側からも、東側からも支援を受けられない孤立状態にあって、武器もなく、一時はイラクに大きく攻め込まれました。

“東西諸国共に対イラン制裁処置を発動した為、物資、兵器の補給などが滞り、また革命による混乱も重なって人海戦術などで応じるしかなかったため、イラン側は大量の犠牲者を出す。兵力は1000人規模で戦死者が共同墓地に埋葬されている。(中略)全般的には劣勢であり、時にはイラン兵の死体が石垣のように積み重なることもあった。完全に孤立したイランはイラクへの降伏を検討しなければならなくなっていた。”【ウィキペディア】

その後、イスラエル、シリア、リビアがイランを支援(イスラエルはイラクを空爆、シリアはイラクからの石油パイプラインを遮断)することになったこと、何より、多大な犠牲を伴った義勇兵の人海戦術による祖国防衛の戦いによって形成は逆転し、イランはイラク・バグダッドに迫ります。

しかし、イラク・フセイン政権は化学兵器を使用してイラン側に甚大な被害を与えます・・・・

こうした熾烈な戦争をイランが何とか乗り切ったのは、まさに国民の流した血によるところが大です。
イラン・イラク戦争におけるイラン側戦死者は75~100万人とも言われています。

“(化学兵器による)こうした攻撃により、数万人のイラン国民が殉教、およそ10万人が化学兵器により負傷し、今なお多くの人々がその後遺症に苦しんでいるのです。”【2013年10月5日 Iran Japanese Radio】

また、東西両陣営ともイランを助けてくれなかったこと、そうした状況で化学兵器の犠牲となったことは、イラン国民に大きな傷を残したと思われます。

現在イランは、シーア派が主導するイラクと良好な関係にあります。
“良好”と言うよりは、フセイン後の混乱したイラクにイランが強固な影響力を築いていると言った方がいいかも。

そうしたイランの行動の背景には、イラン・イラク戦争の記憶、二度とあのような悲惨な状況が生まれないようにしたいという強烈な思いがあるように思えます。

****イラクにおけるイランの圧倒的な影響力****
ニューヨーク・タイムズ紙のTim Arangoバグダッド支局長が、7月15日付け同紙解説記事で、米国のイラク軍事進攻以来、イランはイラクにおける影響力を増やし、今や、軍事、政治、経済、社会のあらゆる面で圧倒的な影響力を持つに至っている、と述べています。解説記事の要旨は以下の通りです。
 
米国が14年前、サダム・フセインを倒すためにイラクに侵攻したとき、米国はイラクを中東における民主主義と親西欧体制の要になり得ると考えていた。
そのため米国は4,500名の人命と1兆ドル以上の犠牲を払った。
 
イランは米国のイラク侵攻を、イラクを従属国とする機会と見た。イラクは1980年代にイランに対し、化学兵器を使ったり、塹壕戦をしかけたり、第一次大戦を彷彿とさせるような残忍な戦いをした。

イランの思惑は、イラクが二度と脅威とならないようにするとともに、イラクを地域における影響力の拡大の踏み台とすることであった。
 
この争いでイランは勝ち、米国は負けた。この3年間、米国はイラクでのISとの戦いに専念していたが、イランは上記の思惑を見失わなかった。
 
米国との関係が近過ぎるということでイランから睨まれ失脚したイラクのゼバリ前大蔵大臣は、「イランの影響は絶対的である」と述べた。
 
イラクにおけるイランの影響力は、軍事、政治、経済、文化のあらゆる面に及ぶ。
 
イラク議会は昨年、シーア派の民兵組織をイラクの治安維持勢力の一部とした。
 
マスメディアの分野では、イランの資金で新しいテレビチャネルが作られ、イランがイラクの守護者で米国が悪の侵入者であると宣伝している。
 
イラク東部のディアラ県は、2014年ISに占領されたが、イランはディアラ県をイラクからシリア、レバノンに至る回廊として重視した。

イランで訓練されたシーア派民兵組織が中心となってISを追放すると、県内のスンニ少数派を追いやり、ディアラ県の支配を固め、シリアの手先と、レバノンのヒズボラへの支援ルートを確保した。
 
ディアラは、イランが地政学的目的のためシーア派の台頭、強化を重視しているショーケースといえる。
 
イラン革命防衛隊の特殊部隊クッズフォースの指揮者のスレイマニ将軍をはじめ、イランの多くの指導者は1980年代のイラン・イラク戦争が生んだ。イラン・イラク戦争は彼らの心に癒えない傷を残した。
イラクを支配しようとのイランの野心は、この傷の遺産である。
 
人口の大半がシーア派であるイラク南部で、イランの影響がいたるところでみられる。
 
イランは何十年にもわたり、イラク南部の湿地帯を通して砲や爆弾の原料を密取引してきた。湿地帯を通して、イラクの若者がイランに渡って訓練を受け、イラクに戻って戦った。戦う相手は、最初はサダム・フセインで、のちに米国であった。
 
イランは軍事力を政治力に転換しようとしており、民兵の指導者は来年の議会選挙を控え、政治組織作りを始めている。
 
アバディ首相は困難な立場にいる。イランに対決的と見られる動きや、米国に近寄る動きを示せば、首相の政治的将来が陰りうる。
 
クロッカー米元駐イラク大使は、ISを敗北させた後米国がイラクを去れば、イランに行動の自由を与えることになると言った。しかし多くのイラク人は、イランはすでに行動の自由を得ていると述べている。(後略)【8月21日 WEDGE】
*********************

もちろん、イラン側の一方的思惑だけが先行すれば、イラク国民の反発を買います。

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他方、イランによるイラクの支配は、必ずしもイラクのシーア派に歓迎されているとは限らないとのことです。

同じシーア派といっても、イラクのシーア派は、同時にイラク人、アラブ人としての自覚を持っているといいます。

イランによるイラク支配があまり目につくようになると、イラクのシーア派との軋轢が生まれる恐れがあります。従属国化は、管理上いろいろな問題を生むものです。【同上】
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イラン・テヘラン  イラン高原・ペルシャの悠久の歴史・文化 侵略・破壊 大バザールの活気

2017-07-31 10:35:27 | イラン

(イラン考古学博物館展示の土器 紀元前4800年頃のもののようですが、約7000年前の土器がこの薄さです。
当時の文化・技術水準の高さが窺えます)

7月30日 イラン旅行7日目

今夜のフライトで帰国します。
とは言っても羽田着が明日の夜。もう乗継便がないので東京で宿泊、鹿児島の自宅に帰るのは明後日昼過ぎになります。これから長い帰国フライトが始まります。

今日はテヘランに戻り、考古学博物館、ガラス&陶器博物館、そしてバザールを回ってきました。

イラン高原の文化開花は非常に古く、紀元前8000年頃には十分に文化の名に値する活動が営まれており、紀元前4000年ぐらいになると巨大な神殿を擁する文化がすでに出現しています。

時期的には、むしろメソポタミアのシュメール文化よりも古く、シュメール人はイラン高原から移動したとの学者報告もあるようです。更には、インダス文明のモヘンジョダロのとの関連も指摘されているとか。

昨日イスファハンからの移動途中、カシャーン郊外にある紀元前4000年頃の遺跡も見てきましたが、イランには国中にそうした遺跡がゴロゴロしているものの、国の保護が行き届かず、国民の多くが盗掘で生計を立てている現実もあるとか。

ペルセポリスに代表されるアケメネス朝の絢爛たるペルシャ文化は突然に出現したものではなく、紀元前8000年頃以来の脈々たる文化の一つとして花開いたものです。

イランの文化はそうした人類最古のレベルに遡る古い歴史を誇る一方で、紀元前3世紀のアレクサンダー、イスラム掲げるアラブ勢力、蒙古のチンギスハンなど度重なる侵略・破壊を受けてもきました。

イランにとってはアレクサンダーはペルセポリスを焼き払うなど、単なる破壊者です。
アラブ・イスラムとの関係は、現在に至るまでイランにとって微妙な問題です。
蒙古勢力は最初は破壊者でしたが、その後、蒙古指導層がイラン文化に傾倒したこともあって、イランにとっては、まだましな存在だったようです。

ガラス&陶器博物館は展示物も優美・繊細ですが、展示室自体がペルセポリスの列柱と神殿をイメージした形になっていたり、真珠を育む大きな貝をイメージしていたりと、なかなかにオシャレです。


展示物の中では、「歩き方」にも紹介されているのが「涙壺」
優美な曲線で首が長いガラス壺ですが、口がラッパのように開いています。

夫が戦地に赴いた妻が、夫の安否を心配し、この壺の口を目にあてて流れる涙を壺にためた・・・・とか。
時期的には18世紀と、展示物のなかでは非常に新しいものです。

愛情あふれる説明ではありますが、もちろん実際に使用した訳でもなく、愛情というよりユーモアを感じる作品です。

そこらの水をいれて、帰宅した夫に愛情をアピールする妻、ウソとはわかっていても否定しずらく苦虫をかみつぶした夫

あるいは、ウソでもいいから涙壺に水を貯めてほしい夫、そんなことに一切興味がない妻

コメディドラマのワンシーンを彷彿とさせる作品です。

日本人として興味があるのが、奈良・正倉院につたわるガラス器と同じ様式の器。
時期的にも5~7世紀ということですから、正倉院と重なります。

当然、ペルシャで作られた品物はシルクロードに乗って交易されましす、先述のような他国の進攻の際にも多くのイラン人が避難民として東西に逃れ、中国などにその文化を伝えます。

そしてシルクロード交易の繁栄を今に伝えるのがテヘランのバザールです。(テヘラン自体はサファヴィー朝に砦が築かれたのが街のはじめということですから、16世紀以降の比較的新しい都市です。ですから、本当を言えば、テヘランの大バザールはシルクロードの繁栄というより、イラン庶民のエネルギッシュな生活を支える場所と言うべきでしょう)

テヘランの大バザールは地図で見ても、東西・南北ともに1.5kmほどはある広さです。
バザールは風のとおりを計算して涼しくなるように作られているとは言え、40℃近い暑さのなかで人ごみのバザール内を歩くのは正直疲れます。(バザール入り口近い付近は非常に涼しく、冷房されているのか、店舗から冷たい空気が流れ出てくるのか・・・よくわかりませんでした。工夫を凝らしたバザールの構造のせい・・・ではないように思えました)

夕方近くまで散策できる時間的余裕はあったのですが、暑い中を歩くのも大変になり、早々に切り上げてホテルへ。しばし休憩後、これまた早々と空港に・・・ということで、このブログを書いています。

ただ、空港のフリーWiFiサイトがペルシャ語でアクセス方法がわかりません。
テヘランはあきらめて、乗換地のタイ・バンコクでアップすることになりそうです。


(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国フライトの乗継地バンコクでようやく更新できるようになりました)
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イラン  力による制約を超えて緩やかな改革に向かう流れ

2017-07-28 10:52:43 | イラン
(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国フライトの乗継地バンコクでようやく更新できるようになりましたので、遡ってアップしています)


(「エスファハーンは世界の半分」と、その繁栄・美しさが賞賛されたイスファハーンを代表する「エマーム広場」 

日中の40℃にも達する暑さが峠を越して、やや過ごしやすくなった夕刻、大勢の市民が広場に集まり、家族・友人らと芝生の上で食事を取ったり、噴水の涼を楽しんだり、思い思いの時間を過ごします。


「宗教国家」といった類のイメージとは無縁の、穏やかな市民生活です。)


トイレ、水タバコ・・・生活に介入する宗教主導の支配体制

7月27日 イラン観光4日目 

ゾロアスター教の街(だった)ヤズドからイスファハーンに移動


****イスファハーン****

古くからの政治・文化・交通の拠点であり、16世紀 末にサファヴィー朝 の首都 に定められ発展した。

当時の繁栄は「エスファハーンは世界の半分」と賞賛され、この街を訪れたヨーロッパの商人も繁栄の記録を残している。

イラン人にとってエスファハーンは歴史的・文化的に重要な町であり、町の美しさは「イランの真珠」と例えられる。【ウィキペディア】

********************

世界遺産でもある優美・壮麗なモスク・広場などの観光については、別途旅行記サイトにアップするとして、今回旅行中、ちょっと気になっていたことがあります。

男性用トイレに、小便用の便器(いわゆるアサガオ)がなく、個室だけしかないことです。

確認したところ、「イラン革命」以降、立って用をたすのはイスラムの教えに反するということで、和式のしゃがみ込む形のトイレだけになったとか。

イスラム原理主義的な制約で何かと生活が窮屈になるのはアフガニスタンの旧タリバン政権でもよく見られることですが、トイレの様式まで及ぶとは驚きでした。

いろんな国を観光する際、美しい民族衣装の女性らによる伝統舞踊を楽しむことが多いのですが、イランはそういうショーはやっていないのか尋ねたところ「今の体制ではあまり音楽・舞踊は推奨されていないので・・・」とのこと。

たしかに・・・・うっかりしていました。

しかし、そういう抑圧的な政治状況にあっても、そうした圧力をはねのける形で、イランの音楽水準は世界的にみても非常に高いレベルを達成しているとも。

イランではお茶やコーヒーを楽しむ「茶店」をチャイハーネと呼びます。

イスラム圏のそうした「茶店」では、多くの男性が水タバコをのんびりくゆらしている光景を目にします。

そんなことで、何気なくチャイハーネで水タバコを吸いたい・・・と要望すると、ちょっと困った様子も。

地元の人に確認して「2,3か所吸えるところがある」とのことで、事前に連絡して用意してもらうことに。

たかが水タバコなのに、どうしてそんな大げさな話になるのか・・・ここ数年政府が水タバコへの圧力を強め、ほとんどのチャイハーネでは水タバコを出さなくなったとか。(健康志向なのか、イスラムの教えの問題なのかは知りませんが)

紹介されたチャイハーネに向かいお茶を飲んでいても、一向に水タバコが出てきません。

確認すると、水タバコは店内ではなく、別の場所で吸ってもらうとのこと。

そこで隣の倉庫みたいな場所へ移動すると、奥に水タバコを楽しめるスペースが。

それにしても、隠れた奥まった場所で密かに・・・・なんて、まるで戦前の上海のアヘン窟みたい・・・といった感も。

私ら以外にも客がやってきますので、そんなに秘密めいたものでもないのでしょうが、やはり大っぴらに営業するのは差し障りがあるようです。

私らが出た後、その倉庫かガレージみたいな場所は戸が閉められ、外から南京錠がかけられました。まだ中に客がいたように思うのですが。


増大する人々の不満は力では抑えきれない域に

息苦しさが増す生活に対する人々の不満が爆発したのが、2009年のアフマディネジャド氏の大統領再選のときでした。

1期目の選挙のときは人々の政治への関心はあまり高くなく、非常に低い投票率の選挙でアフマディネジャド氏が当選(その選挙への疑惑もありますが)。

しかし、同氏のトランプ大統領並の言動に人々もあきれ、再選を目指した選挙では多くの人々が投票を行い、同氏への抗議を示したそうです。

しかし、通常なら深夜まで延長される投票時間もすぐに打ち切られ、いつになく早く発表された開票途中経過では事前の予想に反して同氏がリード。そして、そのまま再選確定という結果発表に、選挙の不正を訴える人々が抗議のデモを起こしました。

これに対し治安当局は水平実弾射撃で鎮圧、死者を出す混乱状態になります。

結果的に抗議デモは力で抑え込まれ、イラン民主化運動は潰された・・・・というのが、日本を含めた欧米の一般的理解ですが、イラン国内にはやや異なる評価もあるようです。

確かに、抗議行動が力で封じ込まれたのは事実ですが、体制側もこれ以上人々の不満を力で封じ込めることへの危機感・限界を強く感じ、その後は、緩やかな改革へ向かう流れも生じたとのことです。

改革に向かう流れは、現在の穏健派ロウハニ体制の形で続いており、未だ抵抗勢力(宗教保守層、革命防衛隊などの勢力)の力は強いものの、後戻りを許さない社会の流れとなっている・・・・今後、イランは更に自由な社会を実現できるだろう・・・・という観測(期待?)も。

【依然として続くアメリカとの対立 危機を歓迎する勢力も】

ただ、後戻りしないかどうか、今後順調に改革へ向かうのかそうかは、外部環境、特にアメリカとの関係にもよります。

イランにしても、アメリカにしても、平和な関係よりも、衝突の危機を演出した方が、その存在感をアピールできる勢力、自らへの疑惑の目をそらすことができる勢力が存在します。

対立が激化し、敵対勢力に対抗することが最優先課題となれば、改革へ向けた緩やかな流れも頓挫します。

****米哨戒艇、ペルシャ湾でイラン艦艇に警告射撃****

中東のペルシャ湾で25日、米海軍の沿岸哨戒艇が接近してきたイラン革命防衛隊の艦艇に警告射撃を行った。当局が明らかにした。

米海軍の声明によると、米哨戒艇「サンダーボルト」はイランの艦艇に繰り返し無線で交信を試みたものの、応答がなく、照明弾や警笛も無視された。その後137メートル以内に接近してきたため、警告射撃を実施したという。

声明ではイラン艦艇の行動を「国際的に認められている交通規則にも海上の慣例にも従っておらず、衝突の危険を生み出している」と批判。「不用意で職業規範に背く」と警告している。

米海軍は当時の状況を映した動画の一部を公開。マシンガンでの2度の射撃音も聞こえる。

一方、イラン革命防衛隊は米哨戒艇がイランの艦艇に接近してきたと主張し、米国による「挑発と脅し」を非難している。

両国の間では今年1月にも、ペルシャ湾につながるホルムズ海峡で、米海軍の駆逐艦「マハン」が高速で異常接近してきたイラン革命防衛隊の艦艇4隻に警告射撃を行っている。【7月26日 AFP】

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****イラン、新型ロケット試射成功****

イランは27日、国産新型ロケットの発射実験に成功した。タスニム通信が伝えた。人工衛星の輸送が目的としているが、弾道ミサイルへの技術転用の懸念もあり、イランに強硬な米国の反発を招く可能性がある。



ロケットは名称「シモルグ」。ロケットの開発・打ち上げなどを一元管理するために27日開設された「イマーム・ホメイニ国立宇宙センター」で実験が行われた。最大250キログラムの衛星を上空500キロメートルの軌道まで輸送できるという。



米政府は18日に弾道ミサイル開発などを理由に対イラン追加制裁を科したばかり。一方、デフガン国防軍需相は22日、戦闘機や巡航ミサイルを標的にできる新型ミサイルの生産開始を発表していた。【7月28日 時事通信社】

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イラン  民族のアイデンティティーとしてのペルシャの歴史 イラン発祥のゾロアスター教

2017-07-27 19:10:48 | イラン
(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国後、遡ってアップしています)


(ナグシェ・ロスタムの有名なへレリーフ「騎馬戦勝図」 捕虜となったローマ皇帝と馬上のササン朝ペルシャのシャープール1世)


中央集権的専制国家アケメネス朝ペルシアの評価
7月26日 イラン観光三日目 今日はタフな1日でした。


朝7時過ぎにシラーズのホテルを出発、近郊に位置するアケメネス朝ペルシアの栄華を今に伝えるペルセポリスの遺跡を観光、その後、アケメネス朝の王の墳墓でもあるナグシェ・ロスタム、アケネス朝最初の都パサルガタエを回ります。


その後、ザクロス山脈及び砂漠地帯を超えてヤズドへ。

ヤズドではゾロアスター教の鳥葬施設であった「沈黙の塔」を観光したのち、市内に点在するゾロアスター関連施設、イスラム関連施設、ササン朝ペルシア当時の街並みを残す旧市街散策、更ににはイラン伝統の身体鍛錬術でもあるズールハーネも見学・・・・食事を終えてヤズドのホテルに入ったのが9時半頃。


詳しい観光内容は帰国後に旅行記サイトにアップするとして、今日見聞きした話などをアトランダムに。

もちろん“独断と偏見”であり、一般的考えではないかも。事実とは反するものもあるかも。

ただ、そうした考えの一部に着目すべきものもあるようにも思えます。


紀元前6世紀頃~同4世紀のオリエント世界統一王朝でもあるアケメネス朝ペルシアの壮大さは、祭礼都市ペルセポリスの威容、特に階段レリーフに描かれたペルシャ王に贈り物を献上するイラン、中央アジア、インド、イラク、トルコ、エジプト、リビア、エチオピアなどに至る多くの属国使者などを見れば明らかです。

しかし、同時期に西欧文明の基盤を築いたギリシャ文明が栄えたこと、そのギリシャがはぐくんだ民主主義に対し、アケメネス朝ペルシャはオリエントの中央集権の専制国家であったということから、どうしてもペルシャは歴史において“脇役”的な立場にあります。


高校教育の世界史にあっても、アケメネス朝ペルシャが登場するのはギリシャに進攻して「ペルシャ戦争」で敗れたとか、アケクサンダー大王の東征で崩壊した・・・・という文脈が多く、ペルシャの統治がどのようなものであったkについては、あまり多くは触れられません。


「王の道」と呼ばれる道路整備、「王の目、王の耳」と呼ばれた監察官制度を確立したことで世界規模の中央集権国家を実現したことぐらいは「世界史」教育でも出てくるかとは思いますが、例えば「王の道」ひとつにしても、そのスピード感から世界初の銀行制度や郵便制度を可能にしたことなどは、あまり触れられることもないように思えます。


また、専制国家というと一般国民を虫けらのように扱うイメージがありますが、キュロス2世やダリウス1世の統治はかなりの“善政”であったとも。


ペルセポリスの女性奴隷は、出産時には3か月分の給与を与えられたとか・・・・給与がある時点で“奴隷”とは異なりますが、国会議員の産休取得がバッシングを受ける国と比べても・・・


「バビロン捕囚」で強制移住を強いられていたユダヤ人を解放したのもキュロス2世ですし、バビロニアの有力者は、みずから進んでキュロス2世の統治を受け入れたとか。


版図を拡大したダリウス1世も被征服民族に対する寛容政策をとり、固有の言語・文化・慣習などを認めたとか。


技術・文化水準の高さはペルセポリスの遺跡を見ればよくわかりますが、列柱建設には“滑車”を使用していたようです。


上下水道が整備されたペルセポリスには美しい庭園がつくられ、その庭園「パルディス」(? 正確な発音は忘れました。)が、その後のインド・アーリア語族における天国「パラダイス」の語源となったように、多くの言葉の語源が当時のペルシャ語にあるとか。


王権強化だけが突出した冷酷な政治体制としの専制政治イメージとは大きく異なるものがあるようです。


そうした古代より世界文明の中心に位置していた・・・という民族的誇りが、前回ブログでも取り上げた「イランはイスラムではない」という発想の源流にあるようです。


アケメネス朝ペルシャからさらに遡れば、メソポタミア文明を築いたシュメール人も、イランからイラクの地域に移住した人々であるとかで、イランのペルシャ文化との共通性もあるようです。


柔軟なゾロアスター教
ヤズドはかつてはゾロアスター教徒の街でしたが、アラブ進攻以降の長年のイスラム化政策で、現在はゾロアスター教徒はごくわずかにヤズド旧市街付近やテヘランに暮らすだけとか。


キリスト教やイスラムなど多くの宗教の源流ともなったゾロアスター教の教えは非常にシンプルで、この世は善と悪との戦いであるが、やがては善が勝利する。それまで人々は悪を断ち切るため、良いことを考え、良い言葉を使い、良い行いをしないといけない。何が“良い”かは自分が決める・・・・といった考えとか。


戒律や原理的な思考で固まったイスラムなどその後の宗教にくらべフレキシブルとも言え、現在イランではイスラムを嫌い、イラン固有で柔軟な宗教ゾロアスターへ改宗する若者も多いとか。(もちろん、イスラムにあって“改宗”は公には認められませんが)


なお、ゾロアスターの神が手にしているリングは約束・誓いを示すもので、“指輪”の習慣の起源ともなった・・・・とか。


イラン・イラク戦争の記憶
シラーズからヤズドへ移動する道路脇に、若い男性の顔写真が交通標識のような感じでたくさん並んでいます。

イラン・イラク戦争の犠牲者で、この若者ら犠牲があったから今のイランがあるとか。


イラン革命の混乱期にサダム・フセインのイラクの進攻に直面したイランは、ミサイルなど武器もなく、アメリカなど世界はみなイラクを支援するなかで孤立無援の戦いを強いられ、それでも血の犠牲でバグダッドに迫るまでにもなったが、フセイン・イラクは化学兵器を使用してイラン側に多大な犠牲が出た・・・・。


このときのミサイルも何もなかった口惜しさが、その後のミサイル(核?)開発のもとになっているとも。
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イランはイスラムではない・・・・とは?

2017-07-25 17:56:21 | イラン
(イランではgooはアクセスできませんでした。帰国後、遡ってアップしています)


(イラン・シラーズの「ナスィーロル・モスク」、通称「ローズモスク」 その名のとおり、壁面全体にあでやかなピンクのバラの絵が描かれた、イスラムモスクとしては異例の装飾美のモスクですが、ステンドグラスの美しさが非常に有名なモスクでもあります。早朝の日差しが奥まで差し込む時間帯は、特にステンドグラスの織りなす万華鏡のような色彩が鮮やかだそうです。私が訪れた時間帯では、差し込む日差しは短くなっていましたが、それでも足を止めるのに十分な美しさでした。)


【イラン観光二日目】

首都テヘランから飛行機で「バラと詩人の街」シラーズに移動。

シラーズは美しい庭園や世界的に有名な詩人の廟などで有名な街ですが、古代ペルシャ帝国の都ペルセポリスの遺跡観光の基地でもあります。

今日はシラーズ市内の「ローズモスク」や「コーラン門」などを観光し、昼食後にいったんホテルに入り休憩しています。夕方からバザールやいくつかのスポットなどを観光予定です。

お昼前でも気温は39℃、午後には40℃を超える暑さ。日本のように湿気がないので幾分過ごしやすいとは言え、日差しは強烈です。

テヘランもそうですが、シラーズも標高は1500m前後の高地にありますので、紫外線も山頂のように半端ないものがあるでしょう。

そんな訳で午後はホテルで休憩し、夕方、気温が下がり始めた頃に再度観光に出かける予定です。

ペルセポリスは明日早朝に観光して、そのままゾロアスター教遺跡もあるヤズドへ車移動します。

シラーズは強い日差しが育てるブドウからつくるワインが有名とか。

でも、イスラムではアルコールは禁止されているのでは?

そうした疑問に対する答えが「イランはイスラムではない!」というもの。

アラブ世界との戦いに敗れたため、イスラム教を信仰するようにはなっているが、イスラムはイランの本質ではなく、イランをつくっているのは、明日行くぺルセポリスに象徴されるようなペルシャの歴史・文化である・・・・という話のようです。

確かに、民族的にもイランはアラブ系ではありません。

そんなことで、イラン社会・文化はアラブ・イスラム国のようにイスラムに強く縛られてはいない、4割ほど人はお酒も飲むし、結婚式などでは必ずワインがふるまわれる・・・・とのこと。

イスラム教徒の特徴とされるメッカの方向を向いてのお祈りも、行っているのは1割ぐらいではないか、ラマダンの断食も8~9割は実行していないのでは・・・とも。

アラブではモスクが近い住宅は価格が高いが、イランではアザーンがうるさいので逆に安くなるとも。

それでも、昨日取り上げた「イラン革命」の頃はまだ信仰心もそれなりに強かったが、イスラム主義の息苦しさ・問題に人々が気づくにつれて、イスラム信仰もかつてのような規制力を持たない状況にもなっているとのこと。

もちろん、最高指導者ハメネイ師を頂点とする体制は、宗教を基軸とした社会形成に努めてはいるが、イラン国民の望むものとは異なっている。

体制側としても、もはや人々のそうした気持ちを力づくで抑えることはできない。

選挙前ひと月ほどは選挙への関心をたかめるためTVでの議論が比較的オープンになるが、今年行われた大統領選挙では、これまでになく体制維持を図る保守強硬派への批判がTV上で飛び交うことにもなった。

ただ、体制批判デモのような示威行動はまだイランではできない。

こうした見方・考えがどこまで一般的かは知る由もありませんが、宗教国家とも評されるイランにあって、「イランはイスラムではない」というのは非常に印象的でした。






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イラン大統領選挙、ロウハニ再選で国際緊張は“とりあえず”回避 今後はトランプ政権の対応次第

2017-05-20 22:21:35 | イラン

(笑顔で1票を投じる有権者=テヘランの投票所で2017年5月19日、AP【5月20日 毎日】 前髪を大きく出したスカーフの被り方からして、ロウハニ支持者と思われます。)


(投票の順番を待つイラン人女性ら=イラン中部コムで19日、AP【5月20日 毎日】 保守強硬派の牙城コムの様相は首都テヘランとは全く異なります。)

ロウハニ再選で、国際協調路線が“当面”継続
注目されたイラン大統領選挙は周知のように、19日の第1回投票で保守穏健派で現職のロハニ大統領が過半数を制して、保守強硬派の一本化候補ライシ前検事総長を退ける結果となりました。

****現職のロハニ師が当選 イラン大統領選****
イラン大統領選は20日、開票が行われ、対外融和路線を掲げる保守穏健派で現職のロハニ大統領(68)の当選が決まった。

反米を基調とする保守強硬派のライシ前検事総長(56)との事実上の一騎打ちだったが、イランが核兵器開発を制限し、国際社会は制裁を解除する核合意を堅持し、外資を呼び込んで経済発展を目指すロハニ師の基本政策が信任された形だ。
 
今回の大統領選には4人が立候補。イラン内務省の同日午後2時(日本時間同6時半時)の最終発表によると、ロハニ師は約2355万票で得票率約57%。ライシ師は約1579万票で得票率約39%。ロハニ師の得票は有効投票の過半数となった。投票率は73・1で、前回2013年の72・7%より高かった。
 
再選を目指すロハニ師は、2015年7月にイランが欧米などと結んだ核合意に基づく制裁解除と、インフレ率低下などの経済成長を実績として強調し、当初は優勢とみられていた。
 
ところが、保守強硬派のもう1人の有力候補だったガリバフ・テヘラン市長(55)が15日に撤退し、ライシ師への一本化に成功。ライシ師は「核合意は現金を受け取ることのできない小切手」などと市民が景気回復を実感できないことに焦点を絞ってロハニ政権を批判して追い上げたが、ロハニ師が振り切った。

ロハニ師は、欧米と対決姿勢を強め国際社会から孤立し、欧米からの制裁で経済が疲弊したアフマディネジャド前政権からの決別を訴え、13年に初当選した。【5月20日 朝日】
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“ライシ師が勝利すれば、イランと米国や周辺の中東諸国との対立が激化すると懸念されていたが、ロウハニ師の勝利で、国際協調路線が当面継続することになる。”【5月20日 毎日】
“ロウハニ政権は2015年、欧米など6カ国と核合意を締結するなど対外融和路線を取っており、イラン外交は当面、従来の方針を継続する公算が大きくなった。”【5月20日 産経】

今回選挙結果は、ロウハニ大統領の対外協調路線への支持という側面のほか、保守強硬派につきまとう社会規制強化への反発、ようやく手にしかかっている“自由”が再び奪われることへの不安もあったと思われます。(そのあたりの分析はこれから報じられると思われます。)

ロウハニ政権の今後については内外ともに問題は多々ありますが、イランに反米的な強硬派政権が誕生し、イラン嫌いのアメリカ・トランプ政権が互いにけん制・挑発しあう形で、核合意破棄・中東情勢緊張といったところへ突き進むシナリオは“当面はひとまず”回避されたということで、個人的には安堵しています。(決選投票となると、サウジアラビア訪問中のトランプ大統領の言動にも左右されることになります)

国内には現状不満層も
グローバリズムの流れに乗れず生活が困窮し、“自分たちの声が政治に反映されていない”と既存政治への不満を強める階層は各国に存在し、イギリスEU離脱、アメリカトランプ政権誕生、欧州極右・ポピュリズムの台頭・・・といった最近の政治現象の背景となっていますが、イランも同様で、核合意による制裁解除、それによる経済成長とは言いつつも、そうした流れに取り残された人々の不満は小さくありません。

****<イラン大統領選>黒いチャドル姿も ライシ師支持者集会****
◇保守強硬派の事実上の統一候補、ハメネイ師後継者とも
・・・・・「国を開いたロウハニよ、恥を知れ」「ロウハニは今週でサヨナラだ」。16日夕、テヘラン中心部で開かれたライシ師の演説会場のモスク(イスラム礼拝所)前で、「反ロウハニ」を訴える市民の声が響いた。

欧米など主要6カ国と、核開発を制限する代わりに経済制裁を解除させる核合意を結び対外融和路線を歩むロウハニ師は、国内では「制裁解除後も経済が好転しない」との批判を受ける。
 
会場には女性の姿も目立つ。首都テヘランでは頭部のみを覆うヘジャブをかぶるだけの女性も多いが、集会で目にした女性は大半が全身を覆う黒いチャドル姿。

イスラムの伝統に忠実な支持者が多い印象だ。チャドル姿の大学生の女性(21)は「この数年間、男女が公然と路上で体を寄せ合う姿が増えた。おかしくなったイラン社会を元の厳格な姿に戻してくれるライシ師を選ぶ」と話した。
 
演説が始まった。保守強硬派の一本化のため15日に選挙戦撤退を表明し、ライシ師支持に回ったガリバフ・テヘラン市長が「現状を変えよう」と声を張り上げた。

その後のライシ師の演説は対照的だった。「この数年で1万7000の店舗が閉鎖に追い込まれた。今こそ、毎年100万人の雇用増が必要だ」。聴衆に静かに語りかけるように話を始め、安全保障に話題を移した際にボルテージを上げ、抑揚をつける。「今、軍事力を弱める国はない。誰もがミサイルを作る時代だ。国防力の強化を約束する!」
 
歓声が最高潮に達した時、携帯電話の待ち受け画面をライシ師にしていた近くの中年男性が肩を震わせて泣いていた。「日本や欧米はどうせロウハニに好意的なんだろう。でも現状は違う。外資導入が進み、多くの工場がつぶれた。国を開いたらこうなるんだ」。男性はそう話した。(後略)【5月17日 毎日】
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“おかしくなったイラン社会”云々の女子大学生の話は、流入する移民による自国文化の変容を危惧する欧米社会の移民受入れに批判的な層の意見ともダブりますが、最後の中年男性の訴えなどは、トランプ大統領を支持した“ラストベルト”の労働者や、ルペン氏を支持したフランス労働者の声とそっくり同じものに思えます。

“厳格なイラン社会”には賛同しませんが、経済制裁効果がいまだ不十分で生活が好転せず、外資導入によっても生活が圧迫される階層の声にも配慮していく必要があります。

もっとも、多くの工場がつぶれるほど外資導入が進んだのかは疑問もあります。工場がつぶれた原因は外資だけではないのかも・・・。

外資導入はむしろ十分には進んでおらず、その原因はアメリカの制裁堅持姿勢もありますが、国内的には経済各分野で大きな利権を有している革命防衛隊のような“既得権益層”の抵抗があるように思われます。

核合意による経済効果を確実なものにしていくうえでは、そうした既得権益層との政治闘争が大きなポイントになるでしょう。そのうえで、経済構造の転換で不可避的に生じる不利益層をすみやかに吸収・救済できるような産業対策が必要になります。

選挙最終盤になってロウハニ大統領は、補助金支給が停止されていた中間層への補助金支給を再開して、その支持を得る作戦に出たようですが、そうした“バラマキ”は財政悪化を深刻化させるだけでしょう。

ミサイル開発追加制裁や対イラン包囲網形成でイランを追い込むアメリカ
対外関係はアメリカ・トランプ政権の出方に大きく影響されます。

選挙直前にトランプ政権は、2015年の「イラン核合意」に基づき効力を停止した対イラン経済制裁について「引き続き制裁を差し控える」と発表し、制裁を再開しないことを明らかにしましたが、ミサイル開発計画に関与したとして追加制裁も発表して圧力を緩めていません。

****トランプ政権、イラン制裁解除を維持 ミサイル開発では追加制裁****
米政府は17日、2015年の核合意に基づく対イラン経済制裁の解除を維持する方針を発表した。イラン大統領選の投票日を2日後に控え、ドナルド・トランプ政権は国際的な合意を順守する姿勢を示した。

対イラン経済制裁は、2015年に欧米など6か国との間で最終合意に達した「イラン核合意」に基づき、イランが核開発を厳しく制限する見返りにバラク・オバマ前政権下で解除された。

しかし、トランプ大統領は合意条件の見直しを要求。今週、政権発足後初となる一部制裁の解除見直し期限が迫る中、米国が一方的に核合意を離脱する懸念が高まっていた。
 
国務省は17日、制裁停止を継続すると決定した。ただ、イランに対する厳しい姿勢は崩しておらず、禁止されているミサイル開発計画に関与したとして複数のイラン国防当局者と中国企業などに対する新たな追加制裁を同時に発表した。
 
米当局者らはまた、イランの人権侵害には引き続き圧力をかけ、悪名高いイラン国内の刑務所に収監されている米国人の釈放も求めていくと言明した。【5月18日 AFP】
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また、トランプ大統領が現在訪問中のサウジアラビアを主軸とするイラン包囲網の形成を図っています。

****<米国>サウジと55兆円取引へ 対イラン包囲網を形成****
トランプ米政権は17日、弾道ミサイル開発を続けるイランに追加制裁措置を科すと発表する一方、サウジアラビアが米国と総額5000億ドル(約55兆円)の巨額取引を結ぶことを明らかにした。

今年1月の大統領就任後、初めての海外歴訪となるサウジ訪問を前に、中東湾岸諸国との対イラン包囲網形成を鮮明に打ち出し、19日に投票を控えるイラン大統領選を揺さぶる狙いがある。
 
ホワイトハウス高官は17日の外国特派員向けの記者会見で、オバマ前政権が「伝統的な友好国との関係を後退させていた」と批判したうえで、今回のサウジ訪問を機に、イランの勢力拡大を警戒するサウジなど湾岸中東諸国をはじめとする親米国との関係修復に努めると強調した。サウジはこれに呼応して米国の雇用創出のため2000億ドルを投資するほか、米国製武器購入に3000億ドルを投じる。(後略)【5月18日 毎日】
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対イラン包囲網形成やミサイル開発追加制裁で“イラン大統領選を揺さぶる”というのは、要するにアメリカ議会・トランプ政権としてはイランに反米政権が成立して、両国関係が緊張し、制裁解除を破棄しやすい環境が整うことを願っているという話にもなります。

対決を望み、対立状態にあって存在価値が発揮される、真逆の敵対する強硬派同士の利害が一致するというのはよくあるケースです。

“米議会強硬派の狙いはイランを追い込み、イラン側から合意を破棄するような状況を作ろうとしているのでしょう。”【5月19日 WEDGE】 こうした対立・緊張を煽る勢力の存在には困ったものです。

イラン包囲網については、サウジアラビアを軸とした“中東版NATO”の構想もあるように報じられています。

****トランプ政権】サウジで「中東版NATO」構想を発表へ トランプ大統領、サウジ主導の地域秩序を後押し****
米ホワイトハウス高官は17日、トランプ大統領が初外遊先のサウジアラビアで21日、「北大西洋条約機構(NATO)の中東版」となる、地域の多国間安全保障の枠組みを構築していく構想を発表すると明らかにした。
 
トランプ氏はサウジのサルマン国王との共催で、同国の首都リヤドにイスラム人口の多い54カ国の代表を招いて国際会合を開き、構想について説明する。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の掃討が完了し次第、実現に向け動き出すとしている。
 
同高官は「サウジは地域の盟主となり、ISとの戦いを率い、イランの脅威への対処で各国を束ねることを望んでいる」と述べ、将来の「中東版NATO」構想がサウジ主導で進められる見通しを示唆した。
 
トランプ氏が初外遊先としてサウジを選んだのは、サウジが敵視するイランとの関係構築に動いたオバマ前政権の中東政策との決別を打ち出す狙いがある。
 
トランプ政権は特に、イランが2015年に米欧と核開発の制限で合意したにも関わらず核武装の意思を捨てていないとみる。実際、米政府は17日、イラン核合意に基づく対イラン制裁の解除を当面維持する方針を明らかにする一方、イランの弾道ミサイル開発に関する追加制裁を発表し、対イラン圧力を緩めない立場を改めて鮮明にした。
 
トランプ政権のサウジ重視は、サウジを軸とするイスラム教スンニ派国家連合によるシーア派国家イランの封じ込めと、サウジ主導の地域秩序の構築を後押しすることに他ならない。

イラン包囲網の構築はまた、同国の弾道ミサイルを警戒する米国の枢要な同盟国、イスラエルの懸念を和らげることにもつながる。
 
しかし、イランなどのシーア派勢力が一連の動きに反発するのは必至だ。イランで大統領選などを経て保守強硬派が台頭する事態となれば、域内の宗派対立の先鋭化を招き、両派が混在するイラクなどで治安が一層不安定化する恐れも否定できない。【5月18日 産経】
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「サインすべきではなかった」、「イランは合意の精神に従っていない」(4月20日に行われたイタリア首相との共同記者会見でのトランプ大統領発言)というトランプ大統領がイランとの合意を今後どうするのか・・・・その言動にしばらく振り回されそうです。

ただ、相手を追い込んで、相手の方から破棄につながる行動に出るように仕向けるというのは、いかにも陰険です。
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イラン  19日の大統領選挙投票日を控えた情勢 ふたを開けてみないと・・・

2017-05-15 23:00:56 | イラン

(イランの首都テヘランで12日、大統領選のテレビ討論会を見るロハニ大統領の支持者たち=AP【5月13日 朝日】)

イランの選挙風景
先日の韓国大統領選挙では、選挙集会でのダンスチームのパフォーマンスが話題にもなりましたが、それぞれの国で独特の選挙風景があります。日本の名前をひたすら連呼する、うるさいだけの選挙カーなどもそのひとつでしょう。馬鹿々々しさでは韓国に負けていません。

日本の場合、選挙ポスターの掲示は場所、枚数等は厳しく制約されていますが、(規則があるのか、ないのかは知りませんが)町中いたるところに膨大な枚数が貼られる選挙風景が見られる国はあちこちにあります。

イランも、そうした国のひとつのようです。

****挙ポスターの「無法地帯」 イラン、標識や銅像にも*****
19日に大統領選挙が行われるイランで、同時に行われる市議会選挙の候補者ポスターであふれかえる街がある。激戦区で、昔から候補者らがルールを顧みずにあらゆるところに貼りまくっているという。

市民は「街をきれいにする市政と言っているが、選挙でやっていることは逆」(タクシー運転手のムハンマド・オリヤイーさん)とあきれている。
 
首都テヘランから南に車で約1時間半。人口約22万人のバラミン市はいま候補者のポスター一色だ。電線にのれんのようにつるされたり、ポストや交通標識にも貼られたり。クリスマスツリーの飾りのようなものもあり、イスラム教聖職者の銅像までも「犠牲」になっている。
 
取材中には、通りがかった人から「車を止めたままだと、戻ったときには貼られまくっているぞ」と忠告された。
 
住民によると、市議会議員選挙のたびに街中がポスターだらけになる。同市議会は、164人が9議席を争う激戦で、アピールのために様々な場所に貼り付けるのだという。
 
地元メディアによると、同市選挙本部は「許可なく壁や公共の場所に貼るのは違法」としているが、昔からの「悪習」が改まる気配はない。「こんな無法地帯は他にない」と住民は声をそろえる。

たまりかねた一部の市民がネット上で「選挙運動に反対する運動」という住民運動まで始まったが、陣営はお構いなしだ。【5月15日 朝日】
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“イスラム教聖職者の銅像までも「犠牲」になっている”・・・宗教的な制約が大きいというイメージもあるイランでそんなことして大丈夫なのか・・・と、他人事ながら心配にもなりますが、宗教による社会的制約というのは、よそ者にはなかなかわかりにくいものでもあります。(前大統領が最高指導者の警告を無視して立候補申請したりもしています)

それにしても、“同市議会は、164人が9議席を争う激戦”とのことですが、大統領選挙の方も“定員1”に対し1636人が届け出ています。(「護憲評議会」の資格審査で6名に絞り込まれてはいますが)

以前のブログでも触れたように、イラン国民は選挙が大好きなのでしょうか?
あるいは、普段は政治的制約が厳しいため、その分、選挙になると一気に溜まったエネルギーが噴き出す・・・といったことでしょうか?
あるいは、当局も“ガス抜き”のために、そうした選挙のお祭り騒ぎを黙認しているということでしょうか?

核合意でも「経済は好転していない」】
それはともかく、注目されるのは19日の大統領選挙の行方です。

選挙戦の概況、保守強硬派の有力候補ライシ師の問題などについては、5月1日ブログ“イラン大統領選挙 争点は核合意評価と「自由」 対抗馬ライシ前検事総長の深い「闇」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170501でも取り上げました。

*****核合意で経済好転したか? イラン大統領選で最大の争点****
19日投票のイラン大統領選まで1週間となった12日、候補者6人による最後のテレビ討論会がテヘランで行われた。

国際社会の対イラン経済制裁を解除させた2015年7月の核合意をめぐり、「雇用増につなげた」とアピールする現職のロハニ大統領(68)に対し、他候補は「経済は好転していない」と反論。核合意が経済的な利益をもたらしたかどうかが最大の争点となっている。
 
今回の大統領選は、国際協調路線を志向する保守穏健派のロハニ師に対し、反米を基調とする保守強硬派の最高指導者ハメネイ師に近い前検事総長のライシ師(56)、同派のガリバフ・テヘラン市長(55)が挑む構図が軸となっている。
 
討論会でロハニ師は、1期目の成果として「核合意で輸出増へ道を切り開いた」とし、「雇用増のためには新たな(外国からの)投資が必要だ」と強調。イラン経済の発展のため、国際協調路線を堅持すべきだと訴えた。
 
これに対し、ライシ師は「現政権は不況などの経済問題を解決できていない。この4年で貧困層の比率は23%から33%に増えた」とし、核合意は経済の好転につながっていないと批判した。

ガリバフ氏も「国内の企業家は外国からの過剰な輸入という圧力にさらされている」とし、外国からの投資に頼らず雇用増を達成すべきだと主張した。
 
大統領選のテレビ討論会はイラン国内で数千万人が視聴し、勝敗を左右するとされる。13年の前回大統領選では、ほぼ無名だったロハニ師が「私は自由の体現者だ」と発言して注目を集め、初当選につなげた。イランメディアは今回の討論会について、「どの候補も浮動票を引きつける発言はできなかった」と評した。

今回の大統領選は当初、ロハニ師が優勢で、現政権への信任投票の色合いが濃いとみられていた。だが、対立候補から「核合意後も経済は好転していない」と繰り返し批判され、ロハニ師に逆風が吹き始めた様子だ。直近の世論調査によると、ロハニ師は41・6%でトップだが、ライシ師が26・7%、ガリバフ氏が24・6%で追い上げている。
 
イラン大統領選は18歳以上の有権者による直接選挙で、過半数の投票を得た候補が当選。1回目の投票で過半数を得た候補が出なければ、上位2人の決選投票で決める。他にも保守強硬派のミルサリム元文化イスラム指導相、保守穏健派のハシェミタバ元副大統領らが立候補している。【5月13日 朝日】
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核開発というイランの主権を大きく制約しながらまとめた核合意であったにもかかわらず、「経済は好転していない」ではないか・・・という、ロウハニ大統領の対立候補の言い分はもっともでもあります。

****海外勢はイラン投資に及び腰、再選目指すロウハニ師は誘致に躍起****
19日のイラン大統領選で再選を目指す現職の保守穏健派ロウハニ師は、核合意を受けた経済制裁の一部解除と、それに伴う海外からの投資増を有権者に訴えたいところだが、海外投資家たちは今のところ口約束をするのみで、実際の投資にはほとんどつながっていないのが現状だ。(中略)

対イラン制裁の解除を受けて、海外のエネルギー会社は昨年、10件以上の石油・ガス田の探査に関する契約をイランと締結。ただ、今のところ、実際の投資につながる契約にこぎつけたものは1件もない。

油田サービスのシュルンベルジェは先月、油田探査の合意の終了を発表。取引で得られる恩恵はリスクに見合わない、と判断したためだ。

こうした状況の中、イラン政府は、海外からの投資を思うように誘致できない原因は「宿敵の」米国にあるとして、苛立ちを強めている。

米政府は、イランが核合意を守っているかどうか90日ごとに確認することを議会に義務付けられている。米国はまた金融制裁の一部を残しており、このためイランの銀行は国際金融システムに参加できない。

さらに、トランプ米大統領は核合意について「これまでに調印された合意の中でも最悪のもの」と宣言。外国企業は、トランプ大統領が突然、核合意を破棄することもあり得るとして、及び腰になっている。

イランのザンギャネ石油相は、欧州の石油メジャーからの投資がまだない主な理由として「米国での政治的要因と圧力」と指摘した。

<イランの投資環境にも問題>
海外投資家はイランでの投資をためらう理由として、イラン自身が抱える問題も挙げる。例えば、透明性の欠如、ぜい弱な銀行システム、官僚主義などだ。

また、ロウハニ師が今回の大統領選で、ロウハニ師の対外開放政策に懐疑的な保守強硬派に敗北する可能性も警戒している。【5月12日 ロイター】
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“ロウハニ師の対外開放政策に懐疑的な保守強硬派に敗北する可能性”を警戒して海外からの投資が進まない、その結果、経済は好転せず、国際協調路線を志向する保守穏健派のロハニ師の立場は悪化する・・・という悪循環でもあります。

トランプリスク
再選を目指すロウハニ大統領にとって、その足を引っ張る形になっているのがイランに厳しい姿勢をとるアメリカ・トランプ大統領の存在です。

そのあたりの話は、4月16日ブログ“イラン大統領選挙 再選を目指す穏健派ロウハニ大統領 核合意を嫌うトランプ大統領は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170416でも触れたところです。

そのトランプ大統領は、今月後半、イランの宿敵サウジアラビア、更にイスラエルを訪問します。

****<イラン大統領選>米の強硬姿勢、ロウハニ師再選に影響も****
トランプ米大統領は今月下旬に行う就任後初の外遊で、イスラム教スンニ派の大国サウジアラビアを最初に訪問する。

サウジと敵対し、訪問時期の19日に大統領選を控えるシーア派国家イランでは、選挙戦への影響が注視されている。トランプ氏が親米アラブ諸国の結束を強調し、「反イラン」姿勢を明確にした場合、再選が有力視されるロウハニ大統領の対外融和路線を批判する保守強硬派が勢いづく可能性もある。
 
サウジは昨年1月にイランと断交。シリアやイエメンの内戦でもそれぞれ別の勢力を支援し、敵対する。

サウジのジュベイル外相はトランプ氏来訪について「米国がアラブ・イスラム諸国と協力関係を結べるという明確なメッセージ」と歓迎。イスラム教の聖地メッカを擁するスンニ派の盟主として、米国や周辺諸国と過激派組織「イスラム国」(IS)などに対抗する姿勢を強調し、イランへの圧力も示す考えだ。
 
サウジではイラン非難が熱を帯びる。中東メディアによると、2日には国防相も務めるムハンマド副皇太子が「イランはイスラム世界を乗っ取ろうとしている」と主張した。
 
投票まで1週間となったイランでは、主要争点は雇用や所得格差など経済問題だが、トランプ氏がイランを露骨に刺激すれば、ロウハニ師が優勢とされる選挙戦に影響が出る可能性もある。

中東政治に詳しいカイロ大学のアマル・ハマーダ助教は「米国による過度な強硬姿勢は、ロウハニ師に対外融和路線の変更を強いかねない」と指摘。選挙戦でライシ前検事総長ら反米強硬派の候補が勢いづき、緊張が高まる可能性もあると見ている。【5月11日 毎日】
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“イラン憎し”のサウジアラビアの思惑は上記のとおりですが、国内でFBI長官“クビ”問題で大きな騒動を抱えて苛立っているトランプ大統領が、外遊先で対イランで何か騒ぎを起こすということは十分に考えられます。

もともとトランプ氏自身がイランとの合意を非常に不満に思っていますし、国内の騒動を鎮めるためにも、注目される対外的な問題を提起した方が得策・・・という判断もあります。(北朝鮮問題を抱えて、更に中東・イランでも問題を起こすか?ということはありますが)

イランにおける世論調査の信頼性
ロウハニ大統領にとっての救いは、トランプ大統領のサウジアラビア訪問は5月21日とされていますので、第1回投票の19日で決めてしまえば“トランプリスク”を避けられることです。

もし、第1回で過半数を取れなければ、1週間後(ということは26日でしょうか)に決選投票となります。

そうなると、保守強硬派が一人に絞られてロウハニ批判票が集中するうえに、ひょっとしたら“トランプリスク”が・・・という話にもなります。

そうしたことからも、現在の支持率が注目されます。
前出【朝日】には“直近の世論調査によると、ロハニ師は41・6%でトップだが、ライシ師が26・7%、ガリバフ氏が24・6%で追い上げている。”とあります。

ただ、イランでは信頼に足る世論調査などないとも言われていますので、上記数字がどこまで信用できるのか?
そんな関心から、前回(2013年6月14日投票)選挙時の事前世論調査による支持率と結果を見てみると・・・

下記は前回大統領選挙の投票日前日の記事です。

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iPOSは5月31日から毎日、約1000人のイラン在住の有権者(18歳以上の男女)に電話で「今日投票するなら誰か」と質問。最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派ガリバフ氏が10日まで首位だったが、11日に保守穏健派ロウハニ師が26.6%の支持を受け、ガリバフ氏を1.8ポイントリードした。
 
唯一の改革派候補だったアレフ元副大統領(61)が10日夜に出馬を辞退し、改革派や保守穏健派ラフサンジャニ元大統領がロウハニ師支持を正式表明したことで、勢いが増したとみられる。
 
調査では、独立系候補とされるレザイ元革命防衛隊最高司令官(58)が16.3%、有力視されていた保守強硬派ジャリリ最高安全保障委員会事務局長(47)は13.7%と厳しい情勢。
 
一方、イランの保守系ウェブサイト「アレフ」は12日、アレフ氏が離脱した後の世論調査結果を掲載。ガリバフ氏(21.5%)をロウハニ師(19.1%)が猛追し、ジャリリ氏(12.5%)とレザイ氏(12.1%)が続く情勢を伝えている。【2013年6月13日 毎日】
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投票結果は、“ロウハニ師は有効投票3546万票の52.5%に当たる1861万票を獲得。2位の保守強硬派、ガリバフ・テヘラン市長(51)が獲得した608万票の3倍以上の得票で、圧勝した。選挙戦開始当初、有力視されていた保守強硬派のジャリリ最高安全保障委員会事務局長(47)は3位で、419万票にとどまった。”

唯一の改革派候補だったアレフ元副大統領が10日夜、選挙戦からの離脱を表明して保守穏健派ロウハニ師との“一本化”をはかったという変動要素があるものの、19~26%でガリバフ氏と競り合っているとされたロウハニ師が3倍以上の得票で過半数を制するという具合に、事前の支持率と結果は全く異なっています。

そうした“実績”からすると、前出【朝日】に紹介されている数字はほとんど信用できない・・・とも思われ、「ふたを開けてみないとわからない」と言えます。
(前回選挙では、ふたを開けてもロウハニ師が過半数を制したかどうかがわかるまで、しばらく時間を要しました)

先述のように、ロウハニ師は第1回投票で決めないと、決選投票では苦しい戦いが待っています。

なお、トランプ大統領は22~23日にはイスラエルを訪問しますが、こちらも在イスラエル米大使館のエルサレム移転問題など、何が飛び出すか・・・。

追加
****保守強硬派候補が撤退=現職ロウハニ師に逆風―イラン大統領選****
イラン国営メディアによると、19日投票の大統領選で有力候補の一人だった保守強硬派ガリバフ・テヘラン市長が15日、選挙戦から撤退した。ガリバフ氏は、同じ保守強硬派で最高指導者ハメネイ師に近いライシ前検事総長への支持を表明。現職の保守穏健派ロウハニ大統領と事実上の一騎打ちとなる。

ガリバフ氏は声明で「国民と国の利益を守るには、現状を変えることが必要だ」と訴えた。再選を目指すロウハニ大統領は、2015年に欧米など主要6カ国と結んだ核合意に伴う制裁解除の恩恵が国民に行き届いていないとの批判にさらされている。強硬派の候補が一本化されたことで、一層厳しい戦いを迫られそうだ。【5月15日 時事】
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前回選挙では、改革派・保守穏健派が投票日直前に一本化して成功しましたが、今回は保守強硬派が同様の戦略のようです。
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イラン  次期大統領はロウハニ再選の流れ、そして次期最高指導者は「死の委員会」メンバー?

2016-10-30 23:07:32 | イラン

(イラン在住のみきハヌーンさんのブログ「特派員ママ!@イラン」http://ameblo.jp/iranmama/entry-11928303259.htmlより
テヘラン市内に3か所ある女性専用公園の入り口 中に入ると、ほとんどの女性がスカーフや身体のラインを隠すマーント(コート)を脱ぎ去るそうです。)

来年5月の大統領選に向けて強硬派と穏健派のせめぎ合い
イランでは、制裁解除を目指して欧米との核開発問題合意を進めた穏健派のロウハニ大統領と、これに反発する保守強硬派との間で厳しい対立があるとされています。

そうした政治対立を反映したものでしょうか、今月、ロウハニ政権の3閣僚が辞任したと報じられています。

****イランの3閣僚が辞任、ロハニ政権に痛手****
イラン大統領府は19日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3人の閣僚が辞任したと発表した。
 
穏健派のロハニ大統領と対立する強硬派は3閣僚を批判しており、路線対立が背景にあるとみられる。ロハニ政権が2013年に発足して以来、閣僚の辞任は初めてで政権には痛手だ。
 
ジャンナティ氏は9月に国内で開かれた音楽会の開催を許可した。音楽会で演奏者と聴衆の男女が握手をしたことなどが「イスラムの教えに反する」とやり玉に挙げられ、同氏の責任を追及する声が宗教界で強まっていた。
 
他に辞任したのはファニ教育相、グダルジ・スポーツ・青少年相。来年5月の大統領選に向けて強硬派が政権批判を強め、強硬派と穏健派の間で対立が深まりそうだ。【10月21日 読売】
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路線対立があるのは事実ですが、辞任の経緯などはよくわかりません。

ジャンナティ文化相についても、上記記事では、音楽会での“不祥事”を保守強硬派に責められて・・・・という話になっていますが、下記記事では、保守派の圧力に屈して音楽ライブを中止したことが穏健派ロウハニ大統領の不興を買って・・・という説明がなされています。

****イラン文化相が突然辞任 音楽ライブ中止が原因か ****
イランで10月中旬、ジャンナティ文化・イスラム指導相が突然辞任したことが23日までに明らかになった。

厳格なイスラム体制下、欧米文化の流入を嫌う保守強硬派の圧力に屈する形で音楽ライブが相次ぎ中止に追い込まれており、穏健派ロウハニ大統領の方針に反したとして不興を買ったことが原因とみられている。
 
昨年7月に欧米などと核合意を結んだロウハニ政権は、社会の自由拡大を掲げてきたが、保守強硬派の頑強な抵抗にさらされ、一向に進んでいない。ライブで公演予定だった著名歌手らが「音楽への侮辱だ」と批判するなど、不満が広がっている。
 
前後して、グダルジ・スポーツ・青少年相とファニ教育相も辞任。2013年8月のロウハニ現政権の発足以来、閣僚の辞任は初めて。来年5月の大統領選を見据えた動きとの見方もある。
 
ライブは今年5~8月、イラン北東部のイスラム教シーア派の聖地マシャドなどで実施予定だった。地元の有力聖職者らが「この街にふさわしくない」と猛反対したことで直前に中止が決定。ジャンナティ氏はこれを追認した。
 
ロウハニ師は8月下旬、「閣僚は法律に従って任務を全うすべきだ。いかなる圧力にも屈すべきではなかった」と不快感を表明。地元メディアはライブ中止と辞任に関連があると示唆している。【10月23日 共同】
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いずれにしても、来年5月の大統領選を控えて、強硬派・穏健派のせめぎあいがあるのは間違いないでしょう。

強硬派アフマディネジャド前大統領出馬自粛で、穏健派ロウハニ再選の流れ
ロウハニ大統領はアメリカ大統領選挙について、「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と酷評したそうです。

****さげすみ合っている」米大統領選を酷評****
イランのロウハニ大統領は23日、米大統領選の民主党クリントン、共和党トランプ両候補について「お互いを責め、さげすみ合っている。そんな民主主義は必要なのだろうか」と述べ、これまでの選挙戦を酷評した。西部アラクでの演説内容をイランメディアが伝えた。
 
AP通信によると、ロウハニ師が公の場で米大統領選に言及したのは初。昨年7月に欧米などとイラン核合意を果たすなど、同師は国際社会との融和路線も進めており、国内で反米の保守強硬派が強める反発に配慮を示した可能性もある。
 
今月19日にはイランの最高指導者ハメネイ師も、米大統領選の選挙戦を非難していた。【10月24日 毎日】
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ロウハニ大統領のご指摘はごもっともです。アメリカ大統領選挙の低次元ぶりにあきれているのはロウハニ大統領だけではありません。

ただ、皆が見えるところで争っている・・・というのは、“民主主義”のよいところとも言えます。
選挙などの政治的争いで“さげすみ合い”やドロドロしたものがあるのは、アメリカも日本もイランも同じです。そして、イランの場合は、それが見えないところで進行し、国民に多くが語られないという面があります。

次期大統領選挙での復権を目指して強硬派アフマディネジャド前大統領が選挙活動を始めたものの、最高指導者ハメネイ師から「国が二つに割れる」と不出馬勧告をされた・・・という話は、9月27日ブログ“イラン 最高指導者ハメネイ師がアフマディネジャド前大統領の大統領選出馬自粛を要請、しかし・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160927で取り上げました。

そのときは、最高指導者ハメネイ師との確執もあったアフマディネジャド前大統領が素直に従うだろうか・・・、政治バランに乗っかるハメネイ師に前大統領を抑え込むことができるのだろうか・・・・との疑問をあげたのですが、その後、アフマディネジャド前大統領は実にあっさりと身を引くことを表明しています。

****イラン前大統領、出馬辞退表明「国家のしもべでいます****
イランのアフマディネジャド前大統領は、来年5月の大統領選に出馬しないとする書簡を最高指導者ハメネイ師に送り、27日に公開した。同師は、前大統領に「国が二つに割れる」として辞退を勧告していた。

前大統領は「勧告に従い出馬しません。謙虚な革命の戦士、イラン国家のしもべでいます」とした。【9月28日 朝日】
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“イラン国家のしもべ”などという歯の浮くような言葉は皮肉にも聞こえます。
水面下のドロドロはわかりませんが、一応これでアフマディネジャド前大統領が引き下がり、次期大統領選挙については、ロウハニ大統領の再選も視野に入ってきました。

****<イラン大統領選>ロウハニ師、再選出馬へ 強硬派は反発****
来年5月19日投票のイラン大統領選に、保守穏健派ロウハニ大統領が再選を目指して立候補する見通しとなった。大統領選を統括するラハマリファズリ内相が25日、出馬を明言した。

現段階では保守強硬派の対抗馬は不在で、再選が有力だが、既得権益の打破を試みる政権に強硬派は圧力を強める。約半年後の選挙を見据え、両陣営の綱引きは激しさを増している。
 
「核合意の目標は世界に扉を開き、経済を促進させること。無用な論争をせず、国の発展に努めるべきだ」。昨年7月に米欧との核合意にこぎつけたロウハニ師は23日、政権批判を強める強硬派をけん制した。

政権は、関連ビジネスが国内総生産の最高4割を占めるとも言われ、聖域視されてきた革命防衛隊の経済活動にメスを入れる姿勢を示している。
 
9月初旬、防衛隊が経営する大手建設会社と同社関連企業の取引を大手銀行2行が拒否したことが表面化した。マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の規制に携わる国際機関「金融活動作業部会(FATF)」に協調する政権の姿勢の表れだ。
 
だが、こうした動きに対し、最強硬派紙ケイハンは「国益に反する」と批判。FATFとの協調を続けるかは防衛隊出身者が幹部の国家安全保障最高評議会にゆだねられた。
 
強硬派の圧力は、公的機関の幹部らが不当に高給を得ていた問題でも表れた。
強硬派系メディアが、1カ月で20億リヤル(約640万円)を得ていた銀行頭取の給与明細書を5月に公開後、相次いで高給問題が発覚。批判の矛先は政権に向けられた。
だが、政権は今月初旬に公的機関の幹部ら約400人の訴追見通しを発表して批判をかわした。
 
さらに、ロウハニ師は23日、ジャンナティ文化・イスラム指導相ら3閣僚の交代を発表。ジャンナティ氏は8月に強硬派の圧力で聖地マシュハドなどでの音楽コンサートを中止したことで、ロウハニ師との不一致が顕在化していた。
 
評論家のダリユシュ・ガンバリ元国会議員は「(今春の)総選挙で支持勢力が拡大し、コンサート問題が噴出したタイミングを選んで行動に出た」と分析。大統領選を見据え、国民の支持を高める措置だと指摘した。
 
最高指導者ハメネイ師は9月下旬の演説で、保守強硬派のアフマディネジャド前大統領に大統領選出馬を断念するよう伝えたと示唆。「君が出れば、社会が二極化する」と述べたとした。

「二極化を望まない姿勢はロウハニ師の穏健路線を追認したも同然」(外交筋)ともみられている。改革派は独自候補の擁立を見送り、ロウハニ師支援を明確にしている。【10月26日 毎日】
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イランの穏健化は幻想か?】
アメリカ・オバマ政権など欧米側がイランとの核開発問題合意を進めた背景には、イランにおける“穏健派”政権を後押しして、人権・民主化での改善への期待があります。

その後、イラン側には、欧米側の経済制裁解除が一向に進まないという不満が、欧米側には、イランが合意を十分には守っていないという不満がありますが、イランに対し厳しい立場をとる向きには、そもそも、“穏健派”とは言いつつも、その本質はかつての弾圧政権と変わらず、“穏健派”への期待は幻想にすぎないとの指摘もあります。

****オバマ政権が期待したイランの穏健化は幻想だ****
<イラン・ロウハニ大統領の本質は3万人の反体制派を大量処刑した革命初期の指導者と変わらない>
(中略)
法相は大量処刑の責任者
エスカレートするイラン側の挑発は、国際社会に決断を迫っている。今こそ危険な行動を止めようとしないイランの「穏健派」と本気で対峙すべきだ。
 
ロウハニ政権に対する国際社会の対応が後手に回っている問題はほかにもある。ロウハニ政権には「穏健派」のイメージがあるが、イラン国内の人権状況は一貫してその評判を裏切るものだった。
 
だからこそオバマ政権と同盟国は、核合意と1月の人質交換(米政府も7人のイラン人を釈放)の「成功」を優先させ、人権問題をあえて積極的に取り上げようとしなかったのかもしれない。
だが現在、イランの穏健化が進行していないことは火を見るよりも明らかだ。
 
ロウハニについて、イスラム革命初期の指導者とは違うと考える根拠は何もない。88年、反体制派の政治犯3万人を処刑した当時の体制と現政権との間に本質的な違いはない。

最近になって明らかになった情報によれば、このとき反体制派の処刑やその他の人権侵害に反対した当局者は、例外なく権力の座を追われた。一方、積極的に加担した当局者は高く評価され、現在まで権力の中枢にとどまっている例も少なくない。
 
ロウハニ政権のプルモハンマディ法相もその1人だ。88年当時、プルモハンマディは情報省の代表として、処刑する政治犯を選ぶ「死の委員会」のメンバーに加わっていた。このような人物が現政権で大きな力を持っていること自体、「穏健派」への期待が幻想にすぎないことを雄弁に物語る。
 
イランの対外的な侵略姿勢と国内での暴虐に立ち向かう勢力が、現体制の内部から生まれることは期待できない。対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ないのだ。【10月4日号 Newsweek日本版】
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欧米的価値観からすれば“穏健派”の本質については上記のような話にもなるのでしょうが、現実問題としては、国民の自由な活動への理解・対応については、強硬派との間に差もあるのも事実でしょう。

“対抗勢力の芽は、勇気あるイランの活動家と国際社会の中にしか存在し得ない”と言っても、それこそ“幻想”にしか過ぎません。

制裁措置でもっと強力に締め付けろ・・・ということであれば、イラン国内を反欧米の方向に追いやるだけのように思えます。

【“次期最高指導者候補”は「死の委員会」メンバー
イランの次期大統領をめぐるっては、先述のようにロウハニ再選の方向の流れがありますが、高齢の最高指導者ハメネイ師についても、“次期”が取り沙汰されています。

下記記事によれば、次期最高指導者には、上記記事にある「死の委員会」のメンバーでもあった、強硬派イブラヒム・ライシなる人物が有力視されているそうです。

****イランの次期大統領候補も仲間とは言えない****
(筆者注:内容的に“次期最高指導者候補”の間違いではないかと思われますが、原文のまま)

米外交問題評議会のレイ・タキー上席研究員が、9月26日付ワシントン・ポスト紙に、「イランの次の最高指導者になりそうな人は西側の友人ではない」との論説を書き、イランの次の指導者と目されているイブラヒム・ライシの経歴などを紹介しています。論旨、次の通り。

最も反動的な人物
イランが実利的になることへの最大の障害は最高指導者ハメネイであると言われてきた。(中略)
しかし、ハメネイと革命防衛隊が最高指導者になるように育てている人イブラヒム・ライシは、イランの支配エリートの中でも最も反動的な人物の一人である。
 
ライシは56歳で、ハメネイ同様、マシュハード市出身である。神学校に行った後、彼は検事総長、一般監察当局の長、聖職者特別法廷(聖職者を公式見解から逸脱しないようにする機関)の検事など、法執行部門で働いた。彼は1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった。
 
最高指導者は尊敬される聖職者がなるものと考えられてきたが、ハメネイは宗教面では冴えない経歴しかなかった。それで、そうでもない人が最高指導者になる道を開いた。
 
ライシの経歴は、反政府派弾圧を使命とする革命防衛隊の好みに合う。革命防衛隊の司令官は最近、イランの政権への脅威は外部の圧力より国内での反乱にあると述べた。ハメネイの理想的な後継者は革命防衛隊と同じ見方を持ち、治安・司法当局と緊密な関係を持つ人ということになる。革命防衛隊はそういう人としてライシを支持している。(中略)

ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である。彼らはイランを中国――イデオロギーを捨て、商業利益を重視した――にしないと決心している。

2009年春の反乱は、いまや米では忘れられているが、イランの神政政治擁護者にとり分水嶺的出来事であった。ハメネイの下、イランは警察国家になった。その論理的帰結として、イランの抑圧機関からの人が最高指導者になろうとしている。
 
正式には専門家会議が次の指導者を選ぶが、現実には決定は今裏で行われている。

ロウハニ大統領は穏健政権への希望であるが、この権力劇には関係がない。ハメネイなどは、次の指導者は不安な時期に権力の座につくと考えている。この指導者は西側への軽蔑心を持ち、政権のために流血もいとわない人であるべきである。神政政治の抑圧を信じるとともに、その機構の一部であったライシほどそういう属性を持つ人はいない。(後略)【10月28日 WEDGE】
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ハメネイ師は1939年生まれで77歳、健康状態が悪いという話は時にはありませんので、まだまだ・・・という感じもありますが、専門家会議の選挙でも“次期最高指導者の決定に関与する”という点が注目されていました。

【「神政政治」と異質視することの弊害
イブラヒム・ライシなる人物については全く知りませんし、次期最高指導者に関する動きも知りません。
ただ、“ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である”として、イランの「神政政治」の面を強調する上記論調には違和感もあります。

イラン政治は国民の“民意”に左右され、穏健派・強硬派ともに“民意”を自分の側に引き寄せようと争っているという点で、欧米のそれと似通っているとも言え、「神政政治」というほどの仰々しいものではもはやないように思えます。

ハメネイ師の最重要問題は政治的バランスであり、強硬派と言われる革命防衛隊の最重要問題はイラン経済の中核をなす経済的既得権益ではないでしょうか?「革命の価値」も、そうした既得権益を守るために都合よく利用される面があるようにも思えます。

「神政政治」という異質なものとしてとらえると、話し合いの余地もなくなりますが、穏健派にしろ強硬派にしろ現実的利害を重視しているという観点から見れば、そこには交渉の余地が生じてきます。
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