孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スペイン総選挙は極右政権参加を阻止するも、「生活より環境」の気候変動対策を標的に台頭する欧州極右

2023-08-05 23:11:49 | 欧州情勢

(極右に惹かれる若者たち、移民を不安視する労働者たち、敵視される団塊世代、高まるEUへの不信感…。欧州で広がる「反リベラリズム」感情 【津阪直樹氏著】)

【開票結果を受け、サンチェス首相と国民党フェイホー党首は、それぞれ勝利宣言 政局は混迷】
2週間前の7月22ブログ“スペイン 台頭する極右政党  リベラルな政策への反感や経済的苦境 欧州に共通する右傾化”でスペイン総選挙について取り上げました。

極右政党「ボックス」は、中道左派サンチェス政権が進める女性やLGBTなどに関するリベラルな社会政策への反発を前面に出して「文化戦争」をしかけ、内戦・フランコ総統独裁を経験したスペインで極右も参加する右派政権が誕生するのでは・・・という予測もありました。

一方、“サンチェス氏は18年に首相に就任し、20年に左派連立少数内閣を発足させた。政権運営などを批判され、今年5月の地方選で社労党が大敗。解散・総選挙の勝負に出ると「国民党と(極右政党)ボックスによりスペインは古い時代(フランコ独裁体制)に連れ戻される」と訴え、浮動票の取り込みに力を入れた。”【7月24日 時事】

結果は、予想されたよりはサンチェス首相率いる与党の穏健左派・社会労働党が善戦し、極右政党「ボックス」は後退、中道右派の国民党は第1党にはなったもののボックスと連立した右派政権樹立は困難な情勢です。

ただ、左派勢力も過半数を獲得できず、地域政党の取り込みや再選挙の可能性を含め政局は混迷しています。

****スペイン右派、第1党に 過半数届かず、再選挙も****
スペイン下院(定数350)総選挙の投開票が23日行われ、中道右派の野党、国民党が136議席で第1党となった。ただ議席獲得数は当初の予想より少なく、反移民の極右政党ボックス(VOX)と連立を組んでも過半数には届かない。ボックスは2019年の前回総選挙の52議席から33議席へ大幅に後退した。

サンチェス首相が率いる穏健左派の与党、社会労働党は122議席。31議席の左派連合スマールなど他の左派政党と連立を組んでも過半数獲得は厳しい情勢。今後は各党の連立協議が焦点となるが、少なくとも数週間はかかる見通しで難航は必至。まとまらなければ再選挙の可能性もある。(後略)【7月24日 共同】
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****スペイン総選挙 与野党とも過半数に届かず 政局は「迷路入り」****
23日投開票のスペイン総選挙(下院・定数350)は与野党とも過半数に届かず、左右両陣営による小政党の取り込みが焦点となっている。

こうした中、スペインからの北東部カタルーニャ自治州の独立を求めてきた小政党などが決定権を握る可能性も急浮上。政局は「迷路に入った」(スペイン紙エルパイス)状況が続くとみられる。

「すべての政党と交渉する」。136議席を獲得して第1党となった中道右派・国民党のフェイホー党首は選挙後の演説でそう語り、連立政権樹立に意欲を示した。連立交渉が行き詰まれば再選挙の可能性もある。最近では2019年の総選挙の際に「出直し総選挙」が実施された。

過半数確保には176議席が必要だが、国民党と極右ボックス(VOX)の右派陣営は合計169議席で、わずかに及ばない。一方、サンチェス首相率いる与党の穏健左派・社会労働党と左派連合スマールの合計も153議席で、左派も多数派を形成できていない。

この選挙結果を受け、注目されているのが小政党だ。地元メディアによると、カタルーニャ独立を訴え、7議席を獲得した「カタルーニャ共和左派」の幹部は24日、極右の政権入りを阻止するため「サンチェス氏に協力する」と語った。その他の小政党も合わせれば左派が過半数に達する可能性もある。

だが同じく7議席を取った独立派の「カタルーニャのための連合」の議員は選挙後、「サンチェス氏を首相にはしない」と述べた。この党の創設者は、17年にカタルーニャ独立の是非を問う住民投票を強行し、スペイン当局の訴追を逃れて国外にいるプチデモン元同州首相で、ロイター通信は「逃亡中の人物がカギを握る」と伝えた。

一方、国民党やボックスはもともとカタルーニャや北部バスク地方などの分離独立運動や地域主義に否定的で、これらの小政党の右派政権参加は困難とみられる。

英紙ガーディアンなどによると、左右両陣営による本格的な連立交渉は8月17日の新議会招集後に始まる。国王フェリペ6世は最初に第1党の国民党に政権樹立を要請し、失敗した場合は第2党の社会労働党に同様の要請をするとみられる。連立交渉が不調に終われば、再選挙の可能性が高くなる。【7月25日 毎日】
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今後の政権樹立について言えば、右派連立政権をとりあえず阻止したサンチェス首相も難しい状況にあります。
過半数確保のために民族主義的地域政党と手を組むと、それはそれで新たな問題を惹起します。国民党との大連立を勧める声もあるようですが・・・。

***欧州に台頭する「右派ポピュリズム」に、なぜか無縁のスペイン人...「スペイン精神の底力」とは?****
(中略)
民族主義地域政党とよりよい関係にあるサンチェスのスペイン社会労働党が、より政権獲得の可能性が高くなっているのは重要な点だ。

とはいえ地域政党にとって、見返りなしの連立合意はあり得ない。しかしカタルーニャ独立を問う住民投票実施の権利といった地域政党の要求は、右派には受け入れ難く、右派の怒りを買うのはほぼ確実だ。
 
スペイン社会労働党が地域政党と手を組めば大きな論争を招き、スペイン政治が危険な新局面を迎える可能性がある。

むしろ、スペインはスペイン社会労働党と国民党の大連立の道を探るべきだ。こうした形の連立は、民主化当初の特徴だった和解や合意、責任ある政治家精神を体現することになるだろう。(後略)【8月2日 Newsweek】
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【欧州極右化は行き過ぎた懸念・・・か? 今なら勝てるフランスのルペン氏】
今回の選挙結果は、極右勢力が政権参加することへの「壁」が一定に存在することを示したようにも見えます。

****スペイン極右政党、予想外の苦戦 欧州右傾化の限界****
23日のスペイン総選挙で極右政党ボックス(VOX)は議席を減らし、フランコ独裁体制以来となる強硬右派政党の政権入りがひとまず回避された。欧州の極右勢力が主流派を目指すことの限界を示す結果となった。(中略)

反移民や反フェミニズムを主張するボックスは選挙戦で、イタリアのメローニ首相やハンガリーのオルバン首相など右派の外国首脳の支持を受けた。しかし結果は、議席数を52から33に減らした。

ユーラシア・グループの欧州担当マネジングディレクター、ムジタバ・ラーマン氏は「スペイン国民全員にとって最重要な問題は生活コスト関連だったが、ボックスの戦略はアイデンティティーの問題に焦点を置いた」と指摘。

「LGBT(性的少数者)の権利や移民、カタルーニャ州独立に反対する立場はボックスが予想したような好結果をもたらさなかった」とした。

<欧州極右化は行き過ぎた懸念>
ユーロ圏の4大経済大国(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)では生活費高騰の危機で既成政治への不満が募り、グリーン化のコスト上昇にも反発が強まる中、右派ポピュリズムの人気が上昇している。

ただ、イタリアで第2次世界大戦後最も右派的な連立政権を昨年発足させたメローニ首相は、反移民の強硬な発言を軟化させている。

フランスの極右政党、国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏も同性婚禁止の公約を撤回するなど、幾つかの社会問題に対する姿勢を軟化させている。

ラーマン氏は「欧州極右化というシナリオは行き過ぎた懸念だ」と指摘した。
それでもなお、欧州の複数の国で極右勢力は根強い人気がある。

ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は先月、初めて地区レベルの首長選挙で勝利し、同国東部で今後行われる3つの州選挙で勝利する勢いだ。

スペインの選挙ではボックスが一部の有権者を取り込み政権入りする可能性が浮上したことで、その他の一部有権者が左派の主流派に固執する結果となった。

ある有権者は「私はフランコ体制を経験したし、父は当時刑務所に入れられた。PPを支持することも考えたが、ボックスがいるのでそれはできない」と話した。【7月25日 ロイター】
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欧州極右勢力の動向について言えば、今回のスペイン総選挙では極右政党「ボックス」は後退しましたが、上記記事にあるように“欧州の複数の国で極右勢力は根強い人気がある”状況は続いています。

イタリアではすでに政権を手中にしています。
フランスではマリーヌ・ルペン氏がソフトイメージへの転換を進めて、マクロン大統領の年金制度改革が不人気なこともあって支持を伸ばしています。

****仏大統領選、今ならルペン氏がマクロン氏に勝利 世論調査****
仏BFMテレビの委託で調査会社エラブが行った世論調査で、昨年と同じく決選投票になった場合、得票率はルペン氏が55%、マクロン氏が45%となることが示された。

昨年の決選投票ではマクロン氏(得票率58.5%)が、ルペン氏(同41.5%)に勝利し再選を決めた。現職大統領の再選は、20年ぶり。

エラブのベルナール・サナネス社長はBFMに対し、大統領選が今やり直された場合、「マクロン氏は支持者をつなぎ止めるのに苦労するだろう。彼に再び投票するのは10人中7人だけだろう」と述べた。

さらに、ルペン氏の当選を阻止するための投票も大きく減少するため、ルペン氏は「すべての選挙区」で得票数を伸ばすだろうと指摘した。

ただし、次の仏大統領選は4年後で、大統領の任期が連続2期までとされておりマクロン氏が出馬できないことから、今回の世論調査はあくまで仮定の話であり、結果を過大評価すべきではないという。

とはいえ今回の結果は、フランスの政治力学に変化が起きていることを示すものだ。年金支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げに抗議する全国的なデモは、ルペン氏を最も利するとの見方が強い。

エラブの調査では、年金制度改革に抗議するデモやストライキを支持してきた急進左派のジャンリュック・メランション氏の支持率低下も示された。

仏世論研究所とコンサルティング会社フィデュシアルが行った別の調査でも、メランション氏の支持率は低下し、2027年に4度目の大統領選に挑戦する意向を示しているルペン氏の支持率は急上昇している。【4月6日 AFP】
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上記記事の後、パリ郊外で6月27日、17歳のアルジェリア系少年が検問中の警察官に射殺され、各地で広がった警察への抗議デモが一部暴徒化する事態にもなったことで、社会の安定・秩序を求める動きが更にルペン氏の追い風になっていると推測されます。

****少年を射殺した警官に「2億3000万円超」の寄付が集まる...遺族も困惑する「フランスの分断」とは?****
<極右の政治評論家の呼びかけで警察官への寄付が殺到。この事件に便乗する暴徒たちに収集つかなくなっている>
フランスで17歳の北アフリカ系少年が検問中の警察官に射殺され、各地で抗議デモが暴動に発展するなか、「射殺した警察官」支援のために高額な寄付が集まっている。

クラウドファンディングサイトを通じた寄付金は150万ユーロを超え、少年の遺族を支援する寄付金の4倍近くに上る。

警官は6月末に殺人罪で起訴されたが、極右の政治評論家ジャン・メシアらの呼びかけで支援が殺到。
メシアは寄付サイトで、「自らの職務を果たし、高い代償を払うことになったこの警官の家族のために」と寄付を募っている。

一部の政治家はこの動きを非難。欧州議会議員で左派政党所属のマノン・オブリは、「アラブ系の若者を殺すと儲かる、というメッセージになりかねない」とツイートした。

各地の暴動では数千人が逮捕される一方、暴動に対する平和的な抗議デモも発生。少年の遺族は、暴徒たちが事件を「口実」にしていると非難する。分断は広がる一方だ。【7月10日 Newsweek】
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“今なら勝てる”ルペン氏にとって残念なのは、次期大統領選挙までまだ4年もあるということでしょう。
ただ、今のところ有力なマクロン後継者もいませんので、いよいよ4年後は・・・。

【極右政党 費用がかさむ気候変動対策を槍玉に挙げていることが奏功】
ドイツにおける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」台頭はこれまでも取り上げてきました。

****揺らぐ「過去の反省」 生徒がナチス式敬礼*****
過去への反省が揺らいでいるように見えることも起きています。

2023年5月、ドイツ東部ブルクの生徒らが、法律で禁じられている右手を高く掲げるナチス式の敬礼をした写真が流出し、連日、ドイツメディアに報じられました。取材した地元テレビには放送後、他の学校でも起きているとの情報が多数寄せられたといいます。

地元ジャーナリスト 「『私たちの所でも同じことが起きています』と、ブルクでは右翼の存在が受け入れられています」

ブルクがある旧東ドイツ地域では、極右政党「ドイツのための選択肢」の勢力が急伸。
2023年6月には中部の自治体で候補者が初めて首長選挙で勝利するなど、ドイツのための選択肢はさらに勢いづき、全国的な世論調査でも、支持率が上昇しています。

問題のブルクの学校で勤務していた元教師は…
ブルクの学校で勤務していた元教師 「もっと早く右傾化の問題に取り組むべきでした。反応するのが遅すぎました。今はもう危険な状況です」(後略)【8月5日 TBS NEWS DIG】
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欧州極右勢力の最近の傾向として、攻撃の標的を従来の移民から気候変動対策に変えていることが指摘されています。

****ドイツが再び「欧州の病人」に、極右勢力の標的は移民から気候変動対策に変化****
ロシア産ガスへの依存がアキレス腱

欧州経済の牽引役を果たしてきたドイツが、再び「欧州の病人」となるリスクが高まっている。景気悪化は極右勢力の台頭を招き、「反移民」に加えてコストがかかる気候変動対策を槍玉にあげる声が広がっている。
ドイツ以外の欧州各国でも極右は勢いを増しており、欧州全体で気候変動対策が後退しかねない事態になってきた。

欧州経済の雄であるドイツの不調が続いている。
7月28日に発表された今年第2四半期の実質国内総生産(GDP、速報値)の成長率は前期比でゼロだった。GDP成長率は昨年第4四半期に同0.4%減、今年第1四半期に同0.1%減と2四半期連続のマイナスとなり、ドイツ経済はリセッション(景気後退)入りしていた。第2四半期のGDPが3四半期ぶりにマイナス成長を回避したことでかろうじてリセッションから脱することができた。

だが、ドイツ経済の今後は楽観できない。ドイツの企業活動が低迷しているからだ。(中略)

振り返れば1990年の再統一後のドイツは、旧東ドイツに対する巨額の支援が重荷となり、深刻な経済不況に見舞われた。当時「欧州の病人」と揶揄されたドイツだったが、ロシアからパイプラインで供給される安価な天然ガスを大量に調達することで苦境から脱することができた。

だが、ウクライナ戦争の勃発によりこの「武器」を使えなくなったドイツは、再び「欧州の病人」となってしまうリスクが生じている。ドイツはロシア産天然ガスの代替として、カタールやノルウェーなどの天然ガスを確保することに成功したが、ガス価格の高騰は避けられない状況だ。その悪影響を最も受けているのはドイツのお家芸とされてきた化学産業だ。

ドイツで進む産業の空洞化
(中略)

極右勢力が「反移民」の主張を弱め始めた
AfDはこれまで「反移民」を掲げて一定の支持を得てきたが、今回の躍進はそれだけではない。ウクライナからの記録的な難民受け入れ(100万人超)を批判しているのはもちろんだが、費用がかさむ気候変動対策を槍玉に挙げていることが功を奏している。

化石燃料からの脱却を要求する緑の党の政策が国を滅ぼす、とのAfDの主張がドイツ国内で着実に広がっており、旧東独地域ではこの傾向が顕著だ。来年秋に州議会選挙が行われるドイツ東部の3州でAfDは第一党になる勢いだ(6月7日付ロイター)。

ドイツでは2025年に連邦議会選挙で予定されている。AfDの支持率が好調を維持し続ければ、気候変動対策が選挙の最大の争点になる可能性がある。

極右政党の台頭はドイツに限った現象ではない。フランスやイタリアなどでも起きている。注目すべきは各国の極右政党が得意としてきたアイデンテイティー・ポリティクスの主張を弱めていることだ。

イタリアでは第2次世界大戦後最も右派的な連立政権を昨年発足させたメローニ首相は反移民の強硬な発言を控えるようになっている。フランスの国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏も同性婚の公約を撤回するなどいくつかの社会問題に対する姿勢を軟化させている。

その代わりに彼らが声高に叫ぶようになったのは、性急な気候変動対策がもたらす生活費高騰への批判だ。この戦略のおかげで極右政党の人気は高まっており、主要政党でも気候変動対策の修正で得点を稼ごうとする動きが出ている。

英国がガソリン・ディーゼル禁止を転換?
英国のスナク首相は7月24日、2030年にガソリン・ディーゼル式の新車販売の禁止する目標を、物価高にあえぐ国民に負担をかけないよう「妥当で現実的な方法」に変える可能性を示唆した。スナク氏はこうした姿勢を示すことにより、最大野党・労働党の積極的なグリーン政策への不満層を取り込む狙いがあると見られている。

英国で有効となれば、この戦略は欧州全体に広がってしまうかもしれない。そうなれば、欧州の気候変動対策は後退を余儀なくされてしまうのではないだろうか。【8月2日 藤和彦氏 JBpress】
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経済が停滞し、自分の生活が苦しくなれば、弱者等の人権や環境政策などを主張するリベラルへの反感が募り、移民や気候変動対策などを敵視するポピュリズムが台頭する・・・・。
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ジョージア  政権にちらつくロシアの影 大量のロシア人流入で反ロシア感情が高まる国内世論

2023-07-30 22:49:55 | 欧州情勢

(ジョージア首都トビリシ 街中には「ロシア人お断り」の文字が【7月30日 テレ朝news】)

【15年前ロシアと戦ったグルジアに大量流入するロシア人】
ジョージア(旧グルジア)は、旧ソ連の国々の一つで、北はロシア、南はアルメニアとトルコと接し、西は黒海に面する南コーカサス(カフカス)にある共和制国家です。

ジョージアが世界の注目を集めたのは、2008年のロシアとのグルジア戦争。
ウクライナ東部同様に、ジョージア領内にはジョージアからの分離独立・ロシアとの併合を主張する南オセチア、アブハジアという二つの地域が存在しています。

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2008年8月7日の午後、グルジア軍は南オセチア地区の首都ツヒンヴァリに陸軍、空軍を投入して大規模な軍事攻撃を行った。ロシアはグルジア軍の動きを受けて南オセチアに軍を差し向け、グルジア領内への爆撃を開始した。【ウィキペディア】
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「待ってました」と言わんばかりのロシア軍の侵攻で、“五日間戦争”との別称があるようにロシア軍の圧勝に終わりました。(ウクライナに侵攻したプーチン大統領の頭には、このグルジア戦争圧勝のイメージがあったのではないでしょうか)

あのグルジア戦争から15年ほどが経過し、今はグルジアに徴兵などを嫌うロシア人が大勢押し寄せているという状況。

陸続きで、ノービザで入れるということで、文字通り“列をなす”状態でした。

****ジョージア国境、渋滞20キロ 徴兵逃れ、自転車買って越境も****
ロシアのプーチン大統領が部分動員令を出した後、陸路で出国を試みる国民の車がジョージア(グルジア)国境に殺到している。報道によると、26日時点で20キロ以上の渋滞が発生。かつての交戦相手国に逃げ込む形になる上、ウクライナ侵攻を支持する「Z」マーク付きの車もあったという。

車が立ち往生する中、自転車などでの越境も許可された。独立系放送局「ドシチ」の取材では、ロシア側住民が出国希望者に自転車を5万ルーブル(約12万4000円)で販売。使用後にジョージア側住民が5000ルーブル(約1万2400円)で買い取り、再びロシア側に運び込む「ビジネス」が見られたという。

インターネットには、混乱収拾のため連邦保安局(FSB)の装甲車や国家親衛隊(旧内務省軍)のトラックが続々と現場に到着する物々しい映像が投稿された。警察は国境検問所に臨時の「徴兵事務所」を設置する方針を明らかにしており、動員の対象者らに招集令状を交付し、徴兵逃れの波を食い止めたい考えとみられる。(後略)【2022年9月28日 時事】
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上記記事の昨年9月時点では、“1日に1万人のロシア人が入国している”【2022年9月30日 TBS NEWS DIG】とも。

ジョージアに流入したロシア人の数は、計算の仕方・時期で様々な数字があります。

“ジョージア政府が発表した統計によれば、2022年に11万人以上のロシア人がジョージアへ避難した。こうした動きはジョージアに好景気をもたらす一方、反ロシア感情の強い同国内での反発も招いている。”【2022年12月5日 Newsweek】

“日本経済新聞がロシア連邦観光局のデータをもとに分析すると、侵攻後に約60万人以上が隣国ジョージアへと向かったことが分かった。”【7月19日 日経】

“ウクライナ侵攻後、人口わずか370万人のジョージアに、140万人以上のロシア人がやってきた(去年3月〜12月/一時滞在を含む)。”【7月30日 テレ朝news】

いずれにしても、戦争の記憶で対ロシア感情がよくないジョージアに大量のロシア人が流入したことで、大きな軋轢が生じました。

****ジョージア国境にロシア人殺到 ジョージア人「国土の20%をロシアに不当に占領されているのに…」****
(中略)一方、受け入れるジョージア側にとっては複雑な思いを抱く人が多くいました。実際に話を聞いた複数のジョージア人は「自分たちはロシアに国土の20%を不当に占領されている状況なのに、なぜロシア人を受け入れる必要があるのか」と否定的に話していました。

ロシア人の流入が急増したジョージアでは、首都トビリシをはじめ、不動産の価格が急激に上がったことで賃貸契約の更新を断られる人が増えていて、こうした実際の生活での影響もあってか、国境の閉鎖まで求める声が一部では上がっています。【2022年9月30日 TBS NEWS DIG】
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一方で、マクロ経済的には、ロシア人大量流入によって好景気になったようです。

****徴兵逃れのロ技術者がジョージア流入、経済2桁成長へ****
戦火の影響で欧州経済が苦境に陥る一方で、ロシアの南西に国境を接する小国が、予想外の好景気に沸いている。ジョージアだ。

ジョージアは今年、世界で最も成長率の高い国の1つになろうとしている。ロシアによるウクライナ侵攻、さらには戦力補充のためプーチン大統領が発した部分動員令から逃れるため、10万人以上のロシア人が一気に流入したためだ。

世界の大半の国が危うい足取りでリセッションに向かう中で、複数の国際機関は、黒海に面した人口370万人のジョージアが、消費主導の好景気のもと、2022年に10%という非常に大きな経済成長を記録すると予想している。(後略)【2022年11月12日 ロイター】
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【民主主義が後退するジョージア現政権にちらつくロシアの影】
強権支配的な傾向を強めるジョージアの現政権とロシアとの関係は微妙。グルジア戦争のイメージがあるので、反ロシア・親欧米路線かと思っていましたが、必ずしもそうでもないようです。

****デモ隊に放水銃の攻撃、ジョージア「ロシアそっくり法案」はなぜ今だったのか****
<NGO弾圧法案が議会に提出され、市民が大規模デモで抗議。法案は取り下げられたが、国民の大多数がEU・NATO加盟を求めるこの国で、民主主義の空洞化が進んでいる>

焦点になっていたのは、活動資金の20%以上を外国から得ている団体を「外国の代理人」として登録することを義務付ける法案だ。

10年前にロシアでそっくりの法律が導入され、NGOや独立系メディアの弾圧に使われた。それが7日、ジョージア議会でも審議が進んだ(編集部注:その後9日に取り下げられた)。

かつてソ連の一部だったジョージアは、ロシアと国境を接しながらも、一時は強力な親欧米路線を取っていた。ところが近年の政治には、ロシアの影がちらつく。

それでも国民の大多数はEU・NATO加盟を希望している。最近の世論調査では、EU加盟支持が75%、NATO加盟支持が69%に達した。それだけに一般市民の間では、ロシアに対する警戒感が強い。

2012年にロシアで外国代理人法が施行されたときは、多くの市民団体が活動休止に追い込まれた。(中略)ジョージアでも同じことが起こるのではという危機感が、トビリシでの大規模デモにつながった。

「(外国代理人法を)葬り去るために、社会全体が結束した。皆ロシアで起きたことを知っているからだ」と、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ジョージアのエグゼクティブディレクターを務めるエカ・ギガウリは語る。 「ウクライナでは戦争が起きているが、ジョージアでもロシア的統治との戦いが起きている」

ちらつくロシアの影
近年、ジョージアの民主主義は、空洞化が目立つようになった。国家権力の抑制と均衡が乏しくなり、与党「ジョージアの夢」が異例の存在感を示すようになった。

その設立者である大富豪ビジナ・イワニシビリは現在、公職には就いていないが、舞台裏から政府に大きな影響を及ぼしていると広くみられている。

そんななかで外国代理人法が採択されれば、ジョージアの民主主義は大きく後退していただろう。当局は、市民団体や独立系メディアに嫌がらせをしたり、ひょっとすると黙らせたりする強力な権限を手にすることになるからだ。(中略)

この法案が提出されたタイミングについては、いくつかの解釈がある。
選挙監視団体「公正な選挙と民主主義のための国際社会(ISFED)」のドリゼは、与党「ジョージアの夢」が権力基盤を固め、反対意見を抹殺しようとしている可能性を指摘する。ジョージアでは来年の議会選挙で、比例代表制が導入される。そうなれば、いずれかの党が単独過半数を獲得するのは難しくなる。

一方、「ジョージアの夢」は、ロシアの息がかかっており、実のところジョージアのEU加盟を阻止しようとしているのではないかと、TIジョージアのギガウリは推定する(同党は表向きはEU加盟推進を掲げている)。

EUは2022年、ウクライナとモルドバについては加盟候補国の地位を与えたが、ジョージアは法の支配やメディアの独立、司法の独立についてさらなる改革が必要だとして、認定を見送った。

今回の法案についても、EUの外相に当たるジョセップ・ボレル上級代表は7日、「EUの価値観や基準と相いれない」と改めて強調した。米国務省のネッド・プライス報道官も、言論の自由と民主主義にダメージを与える恐れがあるとの見方を示していた。

ジョージアの市民団体のリーダーたちも同じ考えだ。
「この国と、この国の民主主義の質が懸かっている」とギガウリは語る。「この国の今後の行方にも影響を与える。現時点で、正しい方向に向かっていないことは確かだ」【3月13日 Newsweek】
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上記「外国の代理人(スパイ)」法案に対する大規模な抗議デモについては、ウクライナのゼレンスキー大統領が「民主主義の成功」を願うとしてジョージアのデモにエールを送ったこともあって、ジョージア側はウクライナが内政干渉的に関与したと非難、これにウクライナが「ジョージア当局はロシアのプロパガンダをほぼ一字一句繰り返している」と反発するという展開にもなっています。

“ロシアの影がちらつく”現政権ということもあってか、ウクライナを支援する各国がロシアと関係を断っているなかで、ジョージアはロシアとの直行便を再開。この件でもウクライナはジョージアを激しく非難しています。

****ロシア便再開のジョージアを非難 ウクライナ****
ウクライナは17日、ジョージアがロシア行き直行便の再開を許可したことを非難した。

ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ報道官はソーシャルメディアで、「世界がこの戦争を止めようとロシアの孤立化を図っているにもかかわらず、ジョージアはロシアからの航空便を受け入れ、モスクワ行きの便を運航しようとしている」と批判した。(中略)

ジョージアで2019年に反ロシア集会が開かれたのを受け、ロシアはジョージアとの直行便を停止していたが、ウラジーミル・プーチン大統領は先週、これを解除。また、ジョージア市民を対象に、90日以内の短期滞在の場合はビザを免除する措置も導入した。(後略)【5月17日 AFP】
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ジョージア現政権が再開を望んだのか、ロシア側の要請をことわりきれなかったのか・・・わかりません。

当然、ジョージア国内にはロシアとの接近に反対する声もありますが、これに対しプーチン大統領は「皆に『ありがとう、いいね』と言われると思っていた」「頭がおかしい」とも。

****プーチン氏、ジョージアでの反ロデモに「頭がおかしい」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は26日、同国とジョージア間の直行便の再開を受けてジョージアで反ロシアデモが起きたことに驚かされたと述べた。

ジョージアの首都トビリシの空港には先週、2019年以来初めてロシアからの直行便が着陸した。しかし、空港前では数十人が抗議デモを実施。「お呼びでない」「ロシアはテロ国家」と書かれたプラカードを掲げた。

プーチン氏はテレビ中継された財界人との会合で、「正直に言って、この反応には非常に驚かされた」「皆に『ありがとう、いいね』と言われると思っていたが、この件をめぐる騒ぎは理解し難い」「ここから見ると、彼らは頭がおかしいとしか思えない」と語った。

ロシアは2008年、ジョージアに軍事介入し、親ロシア派地域の南オセチアとアブハジアの「独立」を承認した。このためジョージアでは反ロシア感情が今も根強い。 【5月27日 AFP】AFPBB News
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ひょっとしたら、プーチン大統領は本気で「皆に『ありがとう、いいね』と言われる」と思っていたのかも。ウクライナでも歓迎されると思っていたように。だとしたら、その思い込みが一番怖いかも。

【反ロシア感情が高まる国内世論 矢面に立つロシアからの避難民】
政権にロシアの影がちらつくのに対し、ジョージア国内世論は、冒頭の大量ロシア人流入によって反ロシア感情が高まり、ロシアからの避難者はその矢面に立たされています。

****「ロシア人は帰れ」国を捨てた先で待っていた“拒絶” 若者たちの苦悩【現地ルポ】****
『「ロシア人は家に帰れ」。でも私に帰る家はありません』
ロシアの隣国ジョージア(グルジア)の首都・トビリシ。観光客でにぎわう旧市街の一角で、ロシア人のナターシャさん(24)は表情を曇らせた。

ロシアがウクライナに侵攻を始めてから、1年5カ月。祖国を捨てた多くのロシア人が流入したジョージアでは、今、反ロシア感情が最高潮に達している。現地取材から見えたのは、さまよい続ける若者たちの苦悩だった。 (7月29日放送 「サタデーステーション」より)

■街中にあふれる“拒絶”『ロシア人お断り』
(中略)首都トビリシの、旧市街と現代の建築物が共存する美しい街を歩いていると、取材スタッフの目にあるメッセージが飛び込んできた。 『RUZZKI NOT WELCOME』…その意味は、『ロシア人お断り』。
真っ白な建物の外壁に、真っ赤な文字で、そう書き殴られていた。

実はいま、ジョージア国内で最高潮に達しているのが「反ロシア感情」だ。『ロシア製品は買うな!!!』 『ロシアはテロ国家!』…こうしたメッセージは、バス停や地下道、アパートや飲食店の外壁などに、文字通り“所構わず”書かれている。

矛先が向けられているのは、流入し続けるロシア人だ。ウクライナ侵攻後、人口わずか370万人のジョージアに、140万人以上のロシア人がやってきた(去年3月〜12月/一時滞在を含む)。

その中の一人がナターシャさん、24歳だ。(中略)
ユーチューバーとして活動する中でロシア政府を批判してきた。侵攻開始以降、ロシア国内で言論弾圧が強まるなか、「逮捕されるのではないか」という恐怖から、去年9月、家族をロシアに残し、ジョージアへと逃げ込んだ。しかし、そこで待っていたのは、自分たちロシア人を拒絶するジョージアの本音だった。(中略)

『「ロシア人は家に帰れ」。でも私に帰る家はありません。ロシア人がビザ無しで行ける国は、ジョージア以外、ほとんど無いんです』 ナターシャさんはメッセージを指差し、そう嘆いた。(中略)

■国民の69%「悪影響を及ぼす」 背景に15年前の侵攻も
しかしそれでも、ジョージア国民のロシア人に対する警戒心は消えない。ロシア人の流入について街で尋ねると、厳しい意見がジョージア国民から相次いだ。

『善良なロシア人でもジョージアへの移住そのものが、問題を引き起こすことを理解すべきです』(バー経営者)
『プーチンとロシア政府は「多くのロシア人がジョージアにいる」という事実を、自分たちの利益のために使おうとする可能性が高いと思います』(大学生・24歳)

その原因は、15年前に起きた、ロシアによるジョージアへの軍事侵攻だ。国土のおよそ2割が、今なお、ロシアによって占領され続けている。

この侵攻を指揮したとされる人物。それは、当時、首相だったプーチン大統領。現在のウクライナ侵攻の口実は、ウクライナにいる、“ロシア人”の保護だった。そのため、今年2月に行われたジョージアの世論調査では、ロシア人の流入に対し、69%の国民が「悪影響を及ぼす」と回答している。(中略)

こうした中、ロシア人の流入に拍車をかけるような動きが。今年5月から、ジョージアとロシアを結ぶ直行便が4年ぶりに再開したのだ。これを提案したのはプーチン大統領だったという。

これに対し、ジョージア国民は、『ジョージア政府は恐れていると思います。「プーチン大統領に従わなければ、ロシアはまたジョージアに戦争を仕掛けてくる」と思っているんです。何とか生き残るためにジョージア政府は戦っているようですが、国民はロシア人が移り住んでくることには、とにかく反対です』(大学生・20歳)と憤る。

反ロシア感情が最高潮に達したジョージア。孤独と生活苦に耐えながら、夢を追うロシア人の青年もいた。

■『母はプロパガンダに…』 徴兵拒否し、渡米志すロシア人の青年
取材スタッフを自宅に迎え入れてくれたのは、ロシア人のザックさん、21歳。部屋の中には、ウクライナ国旗が掲げられていた。侵攻が始まった当日、モスクワで反戦の声を上げたザックさん。

大学を辞めて、去年3月、ひとりジョージアへと逃れると、ロシアで徴兵される際に必要な証明書を焼き捨て、祖国を捨てる覚悟を固めた。(中略)

しかし、生活に余裕はない。(中略)ジョージアでは物価が高騰しており、平均家賃は侵攻前の約2.3倍になっている。しかしこれも、ロシア人の急増が原因だ。ザックさんは自炊で節約しながら、アメリカの大学で学ぶことを夢見ているという。

■さまようロシアの若者 探し続ける「安住の地」
ロシアの隣国ジョージアで出会った、2人の若きロシア人たち。母国以外の居場所を求め、さまよい続けている。ウクライナ避難民のための支援活動に取り組むロシア人のナターシャさんは、「自身のこれからをどう考えているのか」という問いに、こう答えた。

『次の行き先のことを考えると、不安です。怯えることなく、自由な表現ができ、自分の人生を歩むことができる、そんな国に住みたいです』(後略)【7月30日 テレ朝news】
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上記記事が紹介するような、「母国以外の居場所を求め、さまよい続けている善良なロシア人」だけでなく、「ほとぼりが冷めるまで大金を使って毎日遊び暮らすロシア人」もまたいるのでしょう。
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スペイン  台頭する極右政党  リベラルな政策への反感や経済的苦境 欧州に共通する右傾化

2023-07-22 22:06:49 | 欧州情勢

(【7月21日 日経】)

【フランコ総統支配を経験したスペインで拡大する極右政党支持】
スペインでは第2次大戦直前の1936年から1939年、左派の共和国人民戦線政府とフランコ将軍率いる反乱軍の間で「スペイン内戦」が戦われました。

ナチス・ドイツやイタリアなどファシズム陣営の支援を受けるフランコ反乱軍に対し、反ファシズムの立場から多くの文化人・著名人も左派政府軍を支援して参戦しました。そのひとりがヘミングウェイであり、そのときの経験をもとに書かれたのが「誰がために鐘は鳴る」です。

結果は、フランコ反乱軍の勝利。スペインはファシズム支配下に置かれました。

そうした内戦、フランコ支配の経験を有するスペインでは、極右勢力に対する強い抵抗感がありますが、そのスペインで、明日23日投票の総選挙を控える今、極右政党ボックス(VOX)への支持が拡大しています。

****「フランコだ」「当たり前」 スペイン総選挙、極右台頭に賛否交錯****
23日に投開票されるスペイン総選挙は、最新の世論調査でも右派陣営がリードを保ったまま最終盤を迎えた。首都マドリードでは政権入りの可能性が出てきた極右への警戒と期待が交錯する中、物価高による生活苦への不満も聞かれた。大勢判明は24日未明(日本時間24日朝)の見通し。

「日本の記者? ぜひ書いてほしい。スペインをフランコ時代に戻すな、と」。乗車したタクシーの運転手、フアン・カルロスさん(62)に選挙について聞くと、真っ先に名を出した人物は現在の候補者ではなく、1939〜75年に長期の軍事独裁体制を敷いたフランコ総統だった。

選挙結果次第では、世論調査で支持率3位の勢いの極右政党ボックス(VOX)が1位の中道右派・国民党と連立政権を組む可能性も浮上している。極右が政権に入ればフランコ時代以来となる。

カルロスさんは、「私が10代の時はまだフランコ独裁政権で、子供すら自由に発言できなかった。スペイン人はあの雰囲気を忘れたのか」と話す。ボックスのアバスカル党首の選挙ポスターが運転席の外に見えた時は、「あの男を信じるな」と語気を強めた。

一方、市内では極右への支持も聞かれた。サンチェス首相が率いる穏健左派・社会労働党を中心とした左派連立政権は今年2月、16歳以上は自己申告で性別を変更できると定めた法律を成立させた。

だがアバスカル氏はこうしたLGBTQなど性的少数者の権利保護に否定的で、法の廃止を訴える。飲食店従業員の男性(30)は、「アバスカル氏は極右と言われるが、単に当たり前のことを言っているだけ。男は男、女は女だ。性別を簡単に変える方が異常だ」と話した。

英調査会社ユーガブの17日発表の世論調査によると、支持率は国民党が32%、社会労働党が28%で、ボックスとスマール(旧ポデモスなどを含む左派連合)がともに14%と続く。ボックスが仮に小差で4位になっても、国民党と組めば過半数の議席を獲得する可能性がある。その場合、次期首相には国民党のフェイホー党首が有力視されている。

18年から続くサンチェス政権は、新型コロナウイルス流行期を除けば比較的経済運営も安定。欧州債務危機が深刻化した2010年代前半に20%台だった失業率は、22〜23年は12〜13%台に落ち着いた。だが物価高への国民の不満は根強く、市内の公園にいた無職の男性ペドロさん(40)は「生活がよくなるなら、(政権は)右でも左でもいい」と話した。

スペインは立憲君主制。選挙後は各党による連立交渉を経て、国王フェリペ6世が首相候補を指名し、下院の投票を経て正式に新首相が選出される。連立交渉が難航した場合、再選挙になる可能性もある。【7月22日 毎日】
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【極右政党は、中道左派サンチェス政権が進めるリベラルな社会政策への反発を前面に出して「文化戦争」の様相】
中道左派社会労働党のサンチェス首相が率いる現政府は閣僚23人のうち、3人の副首相や財務省、国防相など14人が女性で、ジェンダーバランスに配慮した組閣を続けてきました。更にジェンダーの平等を求める閣議決定も。

****閣僚や役員、最低4割女性 スペイン政府、新法案決定****
スペイン政府は7日、政治や企業経営などの場で男女の割合を均等に近づけるため新たな法案を8日の国際女性デーを前に閣議決定した。閣僚や上場企業の取締役会で女性の割合が40%を下回らないことなどを義務付ける。

社会労働党のサンチェス首相率いる左派連立政権は女性の権利向上策を積極的に推進しており、閣僚数は既に女性が男性を上回っている。(後略)【3月8日 共同】
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また、サンチェス政権はLGBTの権利拡大を目指す「トランスジェンダー法」を成立させましたが、こうしたリベラルな社会政策は極右勢力を刺激し、その勢力拡大に資する恰好の標的ともなっています。

****スペイン総選挙「LGBT法」が争点 優勢の右派、左派政権に攻勢****
スペインで23日、上下両院の総選挙が行われる。中道右派の野党「国民党」が支持率で首位に立ち、サンチェス首相の中道左派与党「社会労働党」が追う展開。選挙戦では、LGBT(性的少数者)政策が大きな争点になっている。

国民党のフェイホー党首は6月、サンチェス政権の看板である通称「トランスジェンダー法」の改正を公約とし、「この法は性別の変更を運転免許の取得より簡単にした」と批判した。

同法は2月、左派連立与党が国会で成立させた。16歳以上なら自己申告で性別変更できると定める。従来はホルモン治療証明の提出などが必要だった。

LGBTの人たちの差別禁止を明記。親が子供の性的指向を変えさせるため「セラピー(転向療法)」を受けさせることも禁じた。違反者には最高15万ユーロ(約2300万円)の罰金を科す。欧州でも「性の自己決定権」を強く打ち出した法となった。

この法に注目が集まるのは、右派が勝利濃厚となり、サンチェス政権が進めたリベラルな社会政策を標的にしたためだ。特に極右野党「VOX」は「法が犯罪に使われる恐れがある。親の役割も軽視した」と目の敵にし、法の廃止を公約にしてきた。東部バレンシア州ではVOXの町長が国民党と協力し、LGBTの権利擁護運動の象徴「虹色の旗」を役所で掲揚することを禁じたケースもある。

国民党はこれまでの総選挙で減税や財政再建など経済政策を主に訴えてきた。次期政権の樹立には、VOXの協力がカギを握るとみられるため、配慮せざるを得ない。17日の支持率調査で、国民党は34%。2位の社会労働党は28%、3位のVOXが14%と続く。国民党は首位に立っても、単独政権の樹立は難しい。

スペイン経済は新型コロナウイルス流行後、安定成長が続く。インフレも収束しつつあり、おのずと社会政策に関心が集まる。財政危機にあえいだ10年前は失業率が26%に達したが、今は12%台になった。

スペインの社会労働党は西欧カトリック圏で特にリベラル志向が強い。背景には1975年まで約40年間、右派のフランコ独裁政権下で弾圧された歴史がある。フランコの死後、政界に復帰すると、右派独裁の象徴だった中央集権、家父長制に対抗することが旗印となった。

サンチェス政権は性暴力廃絶を目指し、「同意のない性交」をすべてレイプと定める刑法改正を実現。上場企業の女性役員比率を「最低4割」と定める方針も決めた。

トランス法への支持は29歳以下で7割に上る一方、60歳以上では4割にとどまり、世代で差がある。今回の総選挙は5月の地方選で社会労働党が敗北したのを受け、サンチェス氏が前倒し実施を決めた。【7月21日 産経】
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【独仏伊にも共通した極右勢力台頭 背景には欧州の経済的苦境も】
経済は比較的落ち着いてきましたが、それでも物価高などへの不満が強いせいか【上記 共同】、あるいは、経済が安定してきたので社会政策に国民の目が行くのか【上記 産経】・・・いずれにしても、中道左派サンチェス政権への逆風が強い状況にあります。それを顕著に示すのが極右政党VOXの台頭です。

こうした極右勢力の台頭は、スペインだけでなくドイツ・フランス・イタリアなど欧州各国で見られる現象でもあります。

また、“極右政党は性自認や気候変動といった文化戦争の問題にますます照準を合わせるようになっている”という状況は、7月16日ブログ“アメリカ  「安全保障」をも「政争の具」とする「文化戦争」 多様化を受け入れられない白人の怒り”でも取り上げたアメリカの状況にも通じるものがあります。

****極右政党が台頭する西欧、注目のスペイン総選挙****
経済的困窮や難民危機、ウクライナ「支援疲れ」背景に支持集める

スペインは独裁者のフランシスコ・フランコ総統が亡くなってから数十年間、極右勢力が台頭する可能性の低い国とみられていた。それはもはや事実ではない。長年野党に甘んじてきた極右政党Vox(ボックス)が、23日投票の議会総選挙後の政権発足に大きな影響力を発揮し得る存在として浮上している。

西欧各地で今、わずか数年前には泡沫(ほうまつ)政党と考えられていた国家主義的志向の強い政党が、犯罪追放や伝統的価値観への回帰、福祉の充実、現実に疎いエリート層の権限を奪うことなどを公約に掲げ、政治の舞台の中心へ踊り出つつある。

こうした政党が人気を集める背景には、政府が労働者階級の経済的苦境への対処や難民危機の解決に失敗していることがある。一部の国ではロシアの侵攻を受けたウクライナへの「支援疲れ」も極右政党の追い風になっている。

「白人労働者階級による右派ポピュリスト的な反発は不可避だった」と指摘するのは、ベルリン自由大学政治学教授のトマス・グレーベン氏だ。同氏は「中道左派の社会民主主義政党が、グローバル競争の激化を社会的に受け入れられる形で管理することに失敗した」のが発端だとみている。

スペインはこの傾向を映し出す新たな例になりそうだ。23日の投票を前に、世論調査では野党で中道保守の国民党がリードしているものの、単独過半数に達する公算は小さい。

そのため同党指導部はボックスとの連立の可能性を渋々検討している。ボックスについて国民党の有力メンバーらは、過激、外国人排斥主義、女性蔑視の党などと表現してきた経緯がある。

急進右派は「普通になりつつある」と話すのはボックスの政治ストラテジスト、ラファエル・バルダジ氏だ。「(イタリアのジョルジャ・)メローニのような政権が誕生すれば、人々はもはや異臭を感じなくなる」

これは欧州全体でみられる現象だ。イタリアではメローニ首相が、ここ数十年の西欧で最も右派色の強い政権を率いている。北欧ではスウェーデン民主党が連立与党を外部から支え、フランスでは極右のマリーヌ・ルペン氏の人気が高まり、世論調査ではエマニュエル・マクロン大統領との差が縮まっている。

ドイツでは反移民を掲げるAfD(ドイツのための選択肢)の候補者が最近、初めて地方自治体の首長に選出された。AfDの人気は過去最高に近く、世論調査によれば政党支持率では国内2位となっている。

欧州の極右政党のメッセージは国により異なるが、その人気は概して、主に白人のキリスト教徒で、経済的に取り残されたと感じ社会的変化に反発する、下位中間層や労働者階級の有権者によって支えられている。

政治学者によれば、極右政党はそこで生まれた人々の利益を守ることに重点を置き、社会における多様性の高まりに抵抗するという点で、既存の保守勢力とは一線を画す。外国の強権的な指導者への憧れや、裁判所や報道機関などを「偏向的で左寄り」とみなし軽蔑する姿勢に表れる権威主義的傾向もそうだ。

極右政党は性自認や気候変動といった文化戦争の問題にますます照準を合わせるようになっている。選挙で勝たずとも主流政党を中道から引き離し、国の運営に影響を与えている。移民問題から気候変動、LGBTQコミュニティーの権利に至るまでの幅広い問題に関する欧州の政治的展望は、極右勢力の台頭によって一変する可能性がある。

スペインの選挙結果の予測は難しく、社会労働党のペドロ・サンチェス首相が続投する可能性も残る。しかし最新の世論調査によれば、野党・国民党のほうがはるかに優勢となる見通しだ。有権者の約35%は国民党に投票予定だと回答している。またボックスは前回選挙とほぼ同じ13%の票を獲得すると予想されている。

国民党党首で次期首相の最有力候補であるアルベルト・ヌニェス・フェイホー氏は、党員や支持者に独裁者フランコ総統の崇拝者もいるボックスとの協力は望んでいないと述べている。しかし、国民党が議会で安定多数を得るための手段として最も手っ取り早いのが、まさにボックスとの協力だ。

5月の統一地方選挙後、両党はスペインの中でも最も豊かで人口の多い地域の一つであるバレンシア州の中道左派政権を交代させるため、権限を分担する協定を結ぶことですぐに合意した。

ボックスにとって、これはクーデターともいえる出来事だった。数カ月前まで連邦政治システム内での存在感は薄く、スペイン17州のうちカスティーリャ・イ・レオン州で政権入りしているだけで、一部の州では1議席も持っていなかった。今では全州の議会で議席を持ち、4州で国民党と連立政権を形成している。この数はさらに増えるかもしれない。

ボックスの有力政治家カルロス・フローレス氏は「われわれは端にいることに慣れている」とし「バレンシアや他の地域、さらには全国レベルでも政権入りするならば、極めて大きな躍進だ」と語っている。【7月21日 WSJ】
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こうしたリベラルな社会政策に反発する極右勢力を支持する層は、グローバル経済を支持する社会民主主義政権のもとで経済的に苦境に置かれている層と大きく重なると思われます。そして、移民やLGBTが標的となっています。

****ジリ貧の欧州、中間層にも痛み****
稼ぐよりも自由時間を重視する高齢社会、コロナとウクライナ侵攻が追い打ち

欧州の人々は新たな経済的現実に直面している。それは何十年もの間、経験してこなかったものだ。彼らはより貧しくなりつつある。

市民の購買力が徐々に低下するにつれ、「アール・ド・ビーブル(生活そのものが芸術)」として長らく羨望(せんぼう)の的だった欧州での暮らしは、急速に輝きを失っている。

フランス人が食べるフォアグラは前より減っており、飲む赤ワインも減っている。スペイン人はオリーブオイルを使うのにけちけちしている。フィンランド人はエネルギーが割安な風の強い日にサウナを利用することを奨励されている。ドイツ全土では肉と牛乳の消費が30年ぶりの低水準に落ち込み、かつて盛んだったオーガニック食品の市場は急激に落ち込んでいる。イタリアでは、国民食パスタの値上がり率がインフレ率の2倍超になったことを受けて、アドルフォ・ウルソ経済開発相が5月に危機対応会議を開いた。

消費支出の急減で、欧州は今年初めにリセッション(景気後退)へと傾き、21世紀初めに始まった経済、政治、軍事の各分野での相対的な衰退感が強まった。

欧州の今の窮状は、長い時間をかけて生じたものだ。人口が高齢化したほか、稼ぐことよりも自由時間と雇用の安定を望む傾向が強かったことで、経済成長と生産性が伸び悩む時期が続いた。

そこに、新型コロナウイルス流行と、ロシアが長引かせているウクライナでの戦争というワンツーパンチを受けた。世界のサプライチェーン(供給網)が混乱し、エネルギーと食料品の価格が急騰する中、これらの危機によって何十年もかけて進んできた病が悪化した。

各国政府の対応は、事態を悪化させる一方だ。政府は雇用を守るため、補助金を主として雇用主に支払った。これにより、消費者は物価上昇の衝撃を受けても、現金による緩衝材で守られない結果となった。

これと対照的に、米国人は安価なエネルギーと政府による支援金から恩恵を受けた。消費者の支出を維持する狙いから、米国の支援金は主に一般市民を対象とした。

以前なら、欧州の力強い輸出産業が救いの手を差し伸べていたかもしれない。しかし、欧州にとって重要な市場である中国の景気回復が鈍いことで、そうした成長の柱が弱体化している。

高いエネルギーコストと、1970年代以降見られなかった激しいインフレは、国際市場における製造業者の価格優位性を鈍らせ、かつて円満だった欧州の労使関係を破壊した。世界貿易が冷え込む中、輸出依存度が極めて高い欧州のモデルは弱点になりつつある。輸出が国内総生産(GDP)に占める比率は、米国の場合10%だが、ユーロ圏では約50%に上る。

経済協力開発機構(OECD)によると、ユーロ圏20カ国の個人消費支出は2019年末以降、インフレ調整後で約1%減少した。労働市場が力強く、所得が増えている米国では、同時期の個人消費が9%近く増加した。

世界の消費支出に占める欧州連合(EU)の比率は現在約18%と、米国の28%を下回っている。15年前には、EUと米国はいずれも約25%だった。

インフレと購買力を調整後の賃金は2019年以降、ドイツで約3%、イタリアとスペインで3.5%、ギリシャで6%減少した。OECDのデータによれば、米国の実質賃金はこの間に約6%上昇した。

こうした欧州の状況に伴う痛みは、中間所得層にも広く及んでいる。欧州で最も裕福な都市の一つであるブリュッセルでは、最近のある日の夕刻、教師や看護師などの職を持つ人々が、半額の食料品を求めてトラックの後ろに並んでいた。(中略)

箱詰めされた食料品を手渡していたピエール・バン・ヘーデさんは「あなたのおかげで週に2、3回肉を食べられると客から言われることもある」と語った。

妻と2人の子どものために肉と魚を半額でまとめ買いしていた看護師のカリム・ブアッザさん(33)は、インフレの影響で「すべての費用を賄うには、ほぼ確実に二つ目の仕事が必要になっている」と不満を述べた。

同様のサービスが、食品廃棄物の削減と節約を兼ねる手段との宣伝文句を掲げ、欧州で次々に生まれている。(中略)

高級食品への支出は減少している。ドイツ人の2022年の食肉消費量は1人当たり52キログラムと、前年より約8%減少し、1989年の統計開始以来で最低水準だった。

健康的な食生活や動物福祉に対する社会的な関心を反映している面もあるが、ここ数カ月で食肉価格が30%も上昇していることがこの傾向に拍車をかけていると専門家はみている。また、連邦農業情報センターによると、ドイツ人は牛肉や子牛肉などから鶏肉などの安価な食肉に切り替えているという。(中略)

ハンブルク在住のコンサルタントで執筆業のロニヤ・エベリングさん(26)は、収入の4分の1ほどを貯金している。老後資金に不安を感じていることが理由の一つだ。衣服や化粧品にはほとんど出費せず、車はパートナーの父親と共有している。(中略)

国際通貨基金(IMF)のデータによると、過去15年間の経済成長率(ドルベース)は、ユーロ圏では約6%だが、米国では82%となっている。

ブリュッセルに本部を置く独立系シンクタンク、欧州国際政治経済研究所(ECIPE)が今月公表した報告書によれば、EU加盟国平均の国民1人当たりGDPは、アイダホ州とミシシッピ州を除く米国の全ての州よりも低くなっている。この報告書では、現在の傾向が続けば、2035年までに、米国とEUの1人当たりGDPの差は、現在の日本とエクアドルの差と同程度まで拡大すると指摘されている。【7月19日 WSJ】
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経済的に苦境にあり、政治から十分に救済されていないと感じる層が、移民やLGBT、あるいは環境に光を当てるリベラルな社会政策を重視する政府に反感を募らせて、極右勢力支持に向かっている・・・そうした構図に見えます。

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イギリス  悪化する経済 背景にEU離脱 TPP加盟でも穴埋めにならず

2023-07-18 22:25:23 | 欧州情勢

(【1月31日 日経】 最新の数字では「間違いだった」が57%で過去最高 「正しかった」は32%)

【インフレによる生活困窮 “英国民の7人に1人が昨年に貧困のため飢えに直面”】
いろんなものが値上がりしている、あるいは、値段は同じだけど中身が減っている・・・というのは、毎日のように実感しているところですが、先ほどのNHK・クローズアップ現代では、そうした物価上昇への対策として食費を節約した結果、健康を害するような事例が多く出ているという内容を放送していました。

****ルポ 食料品の値上がり 忍び寄る健康への影響****
相次ぐ物価高騰が家計を圧迫しています。ことし5月の消費者物価指数は、去年の同じ月より4.3%上昇し、約42年ぶりの高水準となり、1月から値上げが決まった品目は3万品目を超える見込みです。

一方で、その“しわ寄せ”を大きく受けている人たちがいます。生活困窮者や介護事業者、そして、持病のある人たちです。なんとか食費や電気代を節約しようとする中で、健康に影響が出たり、事業継続に支障が出たりしているのです。 物価高の陰で、いま起きている現実とは-。

活に困る人たちに忍び寄る“健康への影響”
山梨県南アルプス市にあるフードバンク山梨は、寄付で募った食料を生活に困る人たちに無償で提供しています。配るのはレトルトカレーや缶詰などの食料品、マスクや洗剤などの日用品です。

フードバンク山梨では、急速な物価高騰を受けて、ことし3月に「緊急食料支援」を実施し、その影響についてアンケートを行いました。すると、95%が「節約のために食費を削っている」(回答数97のうち)と答え、49%が「食事の回数を減らすことはある」(回答数98のうち)と回答したのです。

さらに、63%が「食事の内容に変化がある」(回答数98のうち)と答え、68世帯が「おかずが減った」、31世帯が「炭水化物だけの食事が増えた」と答えました。

食費にかけられる金額は33%が「月3万円未満」(回答数87のうち)とし、回答者の平均世帯人数の3人にあてはめると1人あたりの食費は1日333円以下でした。

理事長の米山けい子さんは「食事が、量的にも質的にも、非常に悪い状況の方が増えている。食べるものがないという方もかなりいる。健康に影響が出る人も増えてくるのではないか」といいます。

実際、どれだけ健康への影響が広がっているのか。先月、米山さんは「緊急食料支援」の現場で、利用者に聞き取り調査を行いました。すると、食費の節約で栄養が偏り、すでに健康への弊害が出ている人が少なくありませんでした。特に、深刻な影響が出ていたのはシングルマザーたちでした。

1人の子を育てる女性  「カレーの肉を減らしたり、じゃがいもでかさ増しをしたりしている。肉は、これまで1パックを2回使っていたのを3回にしている」

3人の子を育てる女性  「おなかを満たすことを重視して、量は減らさず、質を落としている。肉なしの麻婆豆腐、ご飯と肉を混ぜたハンバーグなどを作っている」
さらに、実際に体調を崩している人もいました。

4人の子を育てる女性  「子どもたちの食事を確保するため、昼ご飯などを減らしていて、かなり体重が落ちた。偏頭痛があったり、栄養不足で爪が欠けてしまったりする」

2人の子どもを育てる女性  「子どもがスポーツをしていてよく食べるので、自分の食事は簡単に済ませてしまう。貧血になり、医師に相談したら“食べないとだめだ”といわれた」

物価高が直撃することしの夏休み。米山さんは「学校給食で栄養バランスのとれた食事をとっていた子どもにとって、非常に厳しい夏になる。おなかを満たすための食事で、偏った栄養バランスになり、子どもたちの発達にも影響を及ぼすのではないかと危惧している」といいます。(後略)【7月18日 NHK】
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5月の物価上昇率が4.3%、それまではより低い数字の日本ですらこういう状況ですから、二桁の物価上昇が続いたイギリスで生活困窮者が出ても不思議ではないでしょう。

最近はようやく一桁にはなったようですが、“食料品や飲料を含む項目の伸び率が18.3%”と、依然として“高止まり”が続いています。

****イギリス消費者物価指数 前年同月比8.7%上昇 高止まり続く****
イギリスの先月の消費者物価指数の伸び率は、前の年の同じ月と比べて8.7%の上昇で前の月と変わらず、高止まりが続いています。

伸び率は2か月連続で10%を下回りました。
イギリス統計局の21日の発表によりますと、自動車燃料などの価格は下落したものの、サービス部門などでの値上がりが続いています。

このため、食料品や飲料を含む項目の伸び率が18.3%となるなど、生活に身近な品目で物価の高止まりが依然として続いています。

また、価格の変動が大きいエネルギーや食品などを除いた物価指数は7.1%の上昇と、1992年3月以来の高い水準となりました。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行は12か月連続で利上げしていますが、物価目標の2%を大きく上回るインフレが続いていることから、さらなる利上げを検討することになりそうです。【6月21日 NHK】
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こうした状況で、“英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年に貧困のため飢えに直面した”という、“先進国”としてはかなりショッキングな報告もなされています。

****飢え直面の英国民、昨年は7人に1人 脆弱な社会保障で=慈善団体****
英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年に貧困のため飢えに直面したとする調査を、英フードバンク慈善団体トラッセル・トラストが28日公表した。社会保障制度の機能不全と、緩和の兆しが見えない生活費危機が原因とした。

英国の経済規模は世界6位だが、ほぼ全労働者の賃上げ幅がインフレ上昇に追いついておらず、1年以上にわたり圧力にさらされている。

トラッセル・トラストは全英1300カ所でフードバンクを運営し、3月までの1年間に過去最多の300万食を提供。これは前年から37%増加し、5年前の2倍を超える水準だという。

貧困による飢えが増加している背景について、同団体は「新型コロナウイルス禍や生活費危機にとどまらず、社会保障制度の脆弱性を露呈している」と指摘した。

英人口のうちフードバンクなどの配食支援を受けているのは7%だが、飢えに直面している人の71%は配食支援にアクセスした経験を持たないという。【6月28日 ロイター】
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【悪化するイギリス経済 高インフレで不動産バブル崩壊の危機も】
イギリス経済全般も高インフレのもとで、金利引上げからの景気後退という悪化が進行しています。

****イギリスは高インフレで不動産バブル崩壊の危機 国民の7人に1人が飢えに直面したという指摘も****
「英国経済はリセッション入りする」との警戒感
イングランド銀行(英国中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁は7月9日、「インフレ目標を2%から引き上げる必要性はない」と述べた。

イングランド銀行は、英国のインフレを抑制する取り組みに苦戦している。6月の消費者物価指数(CPI)は8.7%と目標(2%)の4倍を超えており、主要7カ国(G7)で最も高い。

このため、イングランド銀行は6月、予想外の0.5ポイントの利上げを実施し、政策金利を5%に引き上げた。市場関係者の間では「政策金利が6.5%と25年ぶりの高水準にまで引き上げられ、これにより英国経済はリセッション(景気後退)入りする」との警戒感が広がっている。

リセッションを回避する観点から「インフレ目標を3%に変更し、政策金利の引き上げを小幅にとどめる」との提案が出ていた。だが、ベイリー総裁の発言は「目標を変更した場合は中央銀行の信頼性が損なわれる」ことを理由に、それを拒否した形だ。

「強欲インフレ」は政治問題化
ベイリー総裁が6日「一部の小売業者が顧客に対して過剰請求している証拠がある」と述べたように、英国では「強欲インフレ」も問題になっている。資源や穀物などの市況に関係なく、企業がインフレを口実に利益を求めて値上げに走る行為のことだ。

英フードバンク慈善団体「トラッセル・トラスト」が6月28日に公表した調査結果によれば、英国民の7人に1人に当たる約1130万人が昨年、生活費の高騰などが原因で飢えに直面したという。

強欲インフレで槍玉に挙がっている食品企業は「エネルギー高が続く状況下で価格転嫁が十分に出来なかったため、失った利ざやを補うために価格を引き上げている。適正な価格見直しだ」と主張している。しかし、「便乗値上げが横行している」との批判は高まるばかりだ。

すでに強欲インフレは政治問題化しており、競争・市場庁は5月中旬から、食品企業などが価格高騰により不当な利益を享受していないかの調査を実施している。

住宅ローン金利の高騰で、市場も借り手も厳しい状況に
賃上げ幅がインフレ上昇に追いつかず、英国民の生活は危機にさらされている。英国政府が6月30日に発表した統計によれば、インフレ調整後の1人あたり実質可処分所得は第1四半期に0.9%減少した。

さらに貯蓄も、統計を開始した1987年以降で初めて減少した。金利上昇に伴い、家計が住宅ローンの返済を加速したことが主な要因だ。第1四半期の住宅ローンの返済額は52億ポンド(約9500億円)と、四半期ベースで最多となった。

イングランド銀行の利上げによる住宅ローン金利の高騰で、多くの借り手が厳しい状況に追い込まれている。イングランド銀行によれば、今年5月の2年固定の住宅ローン金利は1年前に比べ2.1%上昇して4.73%だった。借り換えを迎える住宅所有者の負担は極めて重い。

利払い負担の増加が足枷となって住宅購入需要が冷え込んだせいで、英国の住宅市場はスランプに陥っている。英住宅金融企業ネーションワイドが6月30日に発表した6月の住宅価格は、前年に比べて3.5%下落。2009年以来の大幅な落ち込みだ。

S&Pグローバルが7月6日に発表した6月の英建設業購買担当者景気指数(PMI)は48.9と5カ月ぶりの低水準となった。中でも住宅建設は極度の不振に陥っており、過去14年余り(新型コロナの流行初期の2カ月間を除く)で最大の落ち込みを記録した。

住宅市場の不調は金融機関の経営にも悪影響を及ぼしている。住宅ローン需要が減少する中、金融機関は少ないパイを奪い合う状況だ。預金金利が上昇しているにもかかわらず、顧客に対して競争力のある低い金利を提供せざるを得ない。

商業用不動産市場の大幅な悪化…住宅市場以上の問題か
業績悪化につながる可能性が懸念されている英金融機関にとって、政府の介入も頭痛の種になっている。英国政府が6月23日に発表した、住宅ローンの返済支援策 だ。

最初の支払い滞納から1年間は担保物件の差し押さえを猶予したり、固定金利の契約期間が終わっても最大6カ月間は同じ条件で継続できたりする内容だが、金融機関の業績に下押し圧力がかかることは間違いない。

住宅市場以上に問題を抱えているのは、商業用不動産市場だろう。住宅に比べて借入比率が高い商業用不動産市場は、金利上昇によって大幅な悪化にあえいでいる。新型コロナのパンデミック以降、在宅勤務が定着したことも災いした。

「欧州の商業用不動産の価値は今後40%下落するリスクがある」という恐ろしい予測(5月11日付ZeroHedge)が出ている現在、筆者は「英国の商業用不動産が最も大きな打撃を受けるのではないか」と危惧している。(中略)英国の大都市のオフィス需要が急速に冷え込んでいるからだ。

過去を振り返れば、不動産バブル崩壊後に金融危機が起きたケースが多い。インフレに苦しむ英国が金融危機を起こさないことを祈るばかりだ。【7月14日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【英経済悪化をもたらしたEU離脱 「EU離脱は間違いだった」57%で過去最高】
こうした経済不調の理由としてあげられているのがEU離脱の悪影響です。

****英国、EU離脱が失敗 欧州の病人に****
【経済着眼】保守党政権の支持率低迷 来年の総選挙で政権交代が濃厚

英国ではスナク政権の支持率は一時、13%まで落ち込んだが、足許でも2割台に低迷している。保守党の支持率も野党労働党に25ポイントの大幅リードを許している。  言うまでもなく、景気の低迷、記録的なインフレの高進などの経済悪化から一般国民が「生計費危機」(Cost of Living Crisis)に陥っているためだ。(中略)

欧米諸国の中でも英国のインフレがもっとも高水準に達してその後も高止まりするとみられる理由は諸説あるようだ。もっとも一般的なのは、先行きの不透明性が強くて新規設備投資が沈滞しているため、いわゆる生産性が低下を続けていることだ。  そのうえ公共部門やサービス業を中心に労働需給が逼迫していて、その生産性を上回る賃金上昇が続き物価を押し上げている、との見立てだ。  

この根本的な原因は2016年に国民投票でEU離脱を決めて2020年2月に正式に離脱したことに求められる。  シェアが5割を越える最大の貿易相手であるEUとの貿易は、有識者が懸念したように減少をたどった。

もちろん、英国はEUと離脱後も自由貿易協定(FTA)を締結してEUの一員であったときと同じく関税はかからない。  しかし、原産地規則で日本の自動車メーカーが日本から輸入した自動車部品を使って英国の工場で組み立てた場合、日本からの部品輸入比率が大きければ場合によっては10%程度の関税がかかる。  ホンダ、フォードなど日本や米国の自動車メーカーが英国を去っていったのもやむなしであろう。

ブレグジット後の先行き不安から製造業、非製造業を問わず、大胆な新規投資意欲もしぼんでしまい、生産性の低下に拍車をかけた。  また関税を逃れられたとしても通関手続きに多くの手間と時間を掛けねばならない。EUから新鮮な果物、野菜を輸入するような場合、鮮度が落ちて輸入が事実上止まってしまうことも起きている。  

金融街シティーの競争力はEU離脱後も大きく落ちないと楽観する声が当初は多かった。しかし、証券取引ではパリ、アムステルダム証券取引所の急成長でロンドンの地盤低下は明らかになっている。  

ブレグジット求める人々がもっとも大きく主張したのは、ポーランド、ハンガリーなど東欧諸国を中心とした移民が増え続けてイギリス人の雇用機会を奪ってしまう、だから労働力の自由な移動を前提とするEUから抜け出して移民をシャットアウトしてしまえ、との声であった。  

確かにその通りになって、多くの東欧諸国の移民は帰国してしまい、母国で就労機会を得た。  その代わりに東欧からの移民が務めていたNHS(国民健康保険サービス)の看護士やケアマネージャーなどの穴が埋まらなくなった。移民が多かったトラックの運転手など輸送部門の人員不足も埋まらない。  ロンドンのホテルのフロントで数多く見かけた勤勉なコンシェルジュやボーイなども多くは東欧から来た移民であった。  

人手不足で公共部門やサービス業の賃金が上昇して、それがさらに物価を押し上げるという悪循環に陥っている。イングランド銀行が心配しているのはこのような賃金=物価の悪循環がさらに強まることである。FRBと違ってイングランド銀行に利下げ観測が全く出てこない。 (後略)【6月5日 俵一郎氏 (国際金融専門家) NewsSocra】
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“2016年の国民投票で「離脱」賛成を投じた人たちもその行動を悔いるようになった、ということだ。経済の低迷、物価の上昇を目のあたりにして「ブレグジットを通じて英国が貧しくなってしまった」と体感するようになった人が増えたためだ。【同上】

****「ブレグジットは間違い」の割合57%、過去最高を更新=ユーガブ****
英調査会社ユーガブが今月実施した調査によると、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は「間違いだった」と考えている人の割合が57%となり過去最高を更新した。「正しかった」は32%だった。ユーガブが18日に調査結果を発表した。

EU再加盟の是非を問う国民投票が今、実施された場合にどうするかを尋ねたところ、再加盟を「支持する」としたのは55%と半数を超え、「支持しない」は31%だった。2021年1月に行った調査は「支持する」が49%、「支持しない」が37%で、今回は再加盟支持がやや増えた。

ブレグジットの現時点での受け止め方については、「どちらかと言えば失敗だった」と捉えている人は63%、「どちらかと言えば成功だった」は12%、「どちらでもない」は18%だった。

調査は2000人余りを対象に実施した。【7月18日 ロイター】
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【TPP加盟でも、EU離脱の穴埋めならず】
イギリスは16日、環太平洋経済連携協定(TPP)に正式加盟しました。スナク政権はEU離脱後の外交構想「グローバル・ブリテン」の中でインド太平洋地域への関与拡大を掲げてきた成果と強調していますが、EU離脱による経済的な損失を埋め合わせるには不十分との見方がもっぱらです。

****英、EU離脱の成果誇示 TPP加入、経済効果に疑問も*****
(中略)「EU離脱後の自由がもたらす真の経済的利益だ」。TPP参加国による3月31日の合意後、スナク英首相は声明を発表し、EU離脱が無ければTPP加入は実現しなかったと訴えた。

2年弱の交渉を経て巨大経済圏に加わることで「英国は今や世界経済において新たな雇用や成長、革新のチャンスをつかむ絶好の位置に就けた」と強調した。

英政府によると、世界6位の経済規模を持つ英国がTPPに入れば、参加国の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の12%から15%に高まる

英国にとっては食品や自動車など物品の輸出関税が減免されるほか、金融関連などサービス部門の市場拡大にもつながると期待されている。

ただ、TPP加入が英国経済に与える効果は限定的との見方もある。英国はブルネイとマレーシアを除く全てのTPP参加国と自由貿易協定を締結済みで、英政府の試算では10年後のGDP押し上げ効果はわずか0.08%にすぎない。

一方、予算責任局(OBR)によると、EU離脱は英国のGDPを長期的に4%程度押し下げる見通しだ。欧州国際政治経済研究所のデビッド・ヘニグ氏は「政府の宣伝は過剰だ」とし、EUとの関係改善の方が「はるかにメリットが大きい」と指摘している。【4月3日 時事】
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スウェーデンNATO加盟  11日からのNATO首脳会議での結着に「期待」 水差すコーラン焼却

2023-07-10 23:41:28 | 欧州情勢

(ストックホルムで発生した反トルコデモ(2023.1.21)。NATO加盟問題を機にスウェーデンでは急速に反トルコ感情が高まっているが、その背景には反移民の機運の高まりもある。【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】)

【スウェーデンのNATO加盟 協議のヤマ場に 注目されるトルコ・エルドアン大統領の対応】
周知のように、スウェーデンのNATO入りには全加盟国の批准が必要ですが、トルコとハンガリーがまだ手続きを終えていません。トルコは、テロ組織と見なす非合法組織クルド労働者党をスウェーデンが支援していると非難し、テロ対策への協力を加盟の条件としています。

この問題で取り上げられるのはもっぱらトルコ・エルドアン大統領の対応で、ハンガリーについてはあまり取り上げられることがありません。トルコにのように明確な反対理由があるようにも思えませんが、EU・NATOの異端児オルバン首相は乗り気でないよう。そのあたりは、トルコの話が長くならなければ最後に触れたいと思います。

いずれにしても、トルコとの話がまとまれば、オルバン首相一人が抵抗するということはなさそうにも思えます。
そこで、トルコの話。

11〜12日に行われるNATO首脳会議を控えて、トルコの対応がどうなるのか・・・一つのヤマ場にさしかかっています。(この記事をアップする頃には、何らかの方向性が出ているかも・・・)

****スウェーデンとトルコ首脳会談へ NATO加盟を協議、ヤマ場に****
トルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相は10日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれるリトアニア・ビリニュスで会談する。

トルコがスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げ、容認に転じるかどうかが焦点。注目の加盟協議はトップ会談という最大のヤマ場を迎えた。

NATOのストルテンベルグ事務総長も会談に参加。トルコが容認すれば、スウェーデンの加盟が事実上決まる。NATOの防衛力が強化され、ロシアに対する強力なメッセージとして11〜12日に行われる首脳会議への弾みとなる。一方で先送りとなれば、NATOの結束に打撃となる。【7月10日 共同】
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両国は6日にも外相レベルで会談していますが、トルコの合意を得られず、上記10日の首脳会談に持ちこしています。

****スウェーデン、トルコ説得できず NATO加盟 10日首脳会談に持ち越し****
スウェーデンは6日、北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り反対姿勢を貫くトルコを説得できずに終わった。11─12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会議までの合意が期待されており、結果は両国が週明け10日に行う首脳会談に持ち越されることになった。

NATOのストルテンベルグ事務総長はNATO本部で両国の外相と会談後、スウェーデンの加盟は「手の届くところにある」という認識を示した。(後略)【7月7日 ロイター】
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トルコ・ハンガリーを除くNATO加盟国は、この7月のNATO首脳会議でスウェーデン加盟への合意を取り付けたいという期待があります。

****スウェーデン加盟実現に期待 NATO首脳会議で****
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はスウェーデンについて、来週開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

ストルテンベルグ事務総長 「いよいよスウェーデンがNATOに加盟する時が来た。来週の首脳会議で前向きな決定が下される可能性がある」

ストルテンベルグ事務総長は6日、スウェーデンの外相と加盟に難色を示すトルコの外相と協議しました。

その後の記者会見で、ストルテンベルグ氏は「協議で良い進展があった」としたうえで、来週、リトアニアで開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

トルコはスウェーデンに対し、加盟承認の条件としてテロ対策への協力を求めていますが、トルコのフィダン外相は「スウェーデンは対テロ法をすぐに実行に移すべきだ」と話すなど、慎重姿勢を崩しませんでした。(後略)【7月7日 TBS NEWS DIG】
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アメリカも「期待」では同様で、トルコ・エルドアン大統領への働きかけを行っています。

****バイデン氏、スウェーデンのNATO加盟「できるだけ早く」とトルコ大統領に意向伝える****
米国のバイデン大統領とトルコのタイップ・エルドアン大統領は9日、電話で会談し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題について協議した。米ホワイトハウスによると、バイデン氏は「スウェーデンをできるだけ早くNATOに迎え入れたい」との意向を伝えた。

スウェーデンの加盟はトルコが議会批准を保留しているため実現していない。トルコ側の発表によると、エルドアン氏は、トルコがテロ組織とみなすクルド勢力が「デモを自由に続けている」ことを理由にスウェーデンへの不満を示した。両氏は11、12日にNATO首脳会議が開かれるリトアニアの首都ビリニュスで会談することで合意した。

米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は記者団に、電話会談が約45分間に及び、バイデン氏はトルコにF16戦闘機を売却する方針に変更はないと伝えたことを明らかにした。米議会ではトルコへのF16売却に反対論が出ている。【7月10日 読売】
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もちろん、表向きはスウェーデンのNATO加盟問題とアメリカのF16売却問題は別個の問題です。
「2カ国のNATO加盟とF-16の購入という2つの独立した問題を、それぞれ条件にすることは適切ではないしフェアではないでしょう」(トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣)【2月21日 ARAB NEWS】

しかし、実際はトルコ側としては、スウェーデンのNATO加盟に同意するときは“見返り”を最大化し、「なるべく高く売りつけよう」としているのは間違いないでしょう。

一方、エルドアン大統領からは、スウェーデンのNATO加盟問題とトルコのEU加盟問題を絡める発言も。

****トルコ大統領、EU加盟を要求 スウェーデンNATO加盟巡り****
トルコのエルドアン大統領は10日、同国の議会がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する前に、欧州連合(EU)はトルコのEU加盟に道を開くべきだと述べた。

リトアニアで開催されるNATO首脳会議への出発を控えた大統領は、スウェーデンの加盟は昨夏の首脳会議で合意した内容の履行にかかっているとし、トルコの譲歩を期待すべきでないと述べた。

ウクライナとロシアの戦争が終結すれば、ウクライナのNATO加盟プロセスも容易になるだろうと指摘した。

エルドアン大統領は、17日に失効するウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意について、延長についてロシアのプーチン大統領と協議する方針を示した。またプーチン大統領は8月にもトルコを訪問するとの見通しを示した。【7月10日 ロイター】
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トルコの長年の悲願にもかかわらず、トルコの人権状況などを問題視するEU側によって後回しにされ、後から加盟を申請した国に追い越されることにもなっています。

EU側の本音としては、難民問題で防波堤となるトルコとの決裂は避けたいものの、イスラム主義を強めるトルコ加盟を認める意思はまったくないでしょう。

エルドアン大統領もそうしたEU側対応に憤慨し、2017年当時にすでに「EU加盟はもはや必要ない」と開き直る事態にもなっており、現実的交渉議題からは外されています。

*****難航するEU加盟 トルコ大統領「もはや必要ない」*****
トルコのエルドアン大統領は(2017年10月)1日、難航するEUへの加盟交渉について「我々から交渉を打ち切るつもりはない」としたうえで、「もはやEUの一員になる必要はない」と述べ、加盟断念もやむなしとの考えを示しました。

トルコはEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)の時代から加盟を希望し、EUへの加盟交渉は2005年から続いています。しかし、人権問題などを理由にEU側は難色を示していて、交渉は遅々として進んでいません。

近年、トルコはEU側と距離を置く一方で、ロシアやイランとの関係を強化しています。

難民流入問題で防波堤としての役割を担うトルコと、それに依存するEU側とで関係が悪化すれば地域の安全保障にも悪影響を及ぼす恐れがあります。【2017年10月1日 テレ朝news】
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エルドアン大統領としてもEU加盟問題が今前進するとは思っていないでしょう。そうした因縁の問題を改めて持ちだしたのは、“ハードルを高くするため”あるいは“嫌がらせ”でしょう。

【「期待」に水を差すコーラン焼却問題】
スウェーデン、ストルテンベルグNATO事務総長やバイデン大統領の「7月のNATO首脳会議で・・・」という期待に水を差す形になったのが、スウェーデンでのコーラン焼却問題。

****スウェーデン、NATO加盟へ視界不良 トルコが聖典焼却で硬化****
北欧スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟がなお難航している。同国の「対テロ協力」を承認の条件にする加盟国トルコが、スウェーデンで最近起きたトルコへの抗議デモを受け態度を硬化させたためだ。スウェーデンやNATOは11日のNATO首脳会議開幕までの加盟合意を目指すが先行きは不透明だ。(中略)

トルコがスウェーデンの加盟を拒むのは、トルコの非合法組織「クルド労働者党」(PKK)やそれに連なる「テロリスト」を支援しているとみるためだ。スウェーデンにはクルド系住民が多く暮らし、トルコのエルドアン大統領への抗議デモも頻発。そのためトルコ側はテロ対策の強化を求めていた。

スウェーデンはトルコの要望を受け6月1日、新たな反テロ法を施行した。過激派組織を支援などした個人に最高禁錮8年、テロ組織の指導者に終身刑を科す内容で、ビルストロム外相は「トルコの懸念を和らげるだろう」と歩み寄りを期待した。

エルドアン氏も5月末に大統領再選を果たし、態度を軟化させやすくなったとの見方もあった。

だが、法施行後もスウェーデンの首都ストックホルムではエルドアン氏への抗議デモが発生し、6月28日にはモスク(イスラム教礼拝所)前で男がイスラム教の聖典コーランを焼却。エルドアン氏は「テロリストのデモを許すなら、友好関係は決して築けない」と反発を強めた。(中略)

一方、東欧の加盟国ハンガリーもスウェーデン加盟の批准を保留中。欧州連合(EU)内で強権政治を批判されるハンガリーのオルバン首相は、スウェーデンがハンガリーの民主主義の健全性に関し「噓」を広めていると批判。

ハンガリーは経済的なつながりが強いトルコを重視しているともされ、ハンガリーのシーヤールトー外相は「トルコの姿勢に変化があれば(加盟の)手続きを遅らせない」と述べている。【7月5日 産経】
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ハンガリー・オルバン首相が重視しているのは、トルコというより、ロシアのプーチン大統領との関係ではないでしょうか。

それはともかく、コーランに火を付けたのはイラクから数年前に逃れてきた難民の男性。

****モスク前でのコーラン焼却デモを許可 スウェーデン警察****
スウェーデン警察はイスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の3連休初日に当たる28日、首都ストックホルムの主要モスク(礼拝所)の前でイスラム教の聖典コーランを燃やすデモを許可したと発表した。

焼却に伴う治安上のリスクが懸念されるものの「現行法下で(デモ)申請の却下を正当化できる性質のものではない」としている。

スウェーデンでは今年1月にトルコ大使館の前でコーランが焼かれたことをきっかけに、数週間にわたる抗議デモが発生。スウェーデン製品のボイコットが呼び掛けられたり、トルコ政府の態度硬化で北大西洋条約機構加盟プロセスのさらなる停滞が生じたりした。

警察はその後の2月、治安上のリスクを理由に、トルコ大使館とイラク大使館の前で計画されていた個人と団体による二つのコーラン焼却デモを禁止した。しかし控訴裁判所は2週間前、この決定を退けた。

28日のデモを申請したのは、2月に個人によるデモを却下されたサルワン・モミカ氏で、申請書には「ストックホルムの大モスクの前で抗議し、コーランに関する自分の意見を表明したい。コーランを破って燃やす」と記している。

警察は28日、全国から警官を動員し、警備を強化すると発表。AFP特派員によると未明にはすでに数台のパトカーがモスク付近に駐車していた。

スウェーデンの政治家たちはコーラン焼却を批判はしているが、表現の自由の権利も断固擁護している。 【6月28日 AFP】
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「表現の自由」ということでは、禁止することもできない・・・悩ましいところ。
コーラン焼却事件に対するスウェーデン首相の姿勢は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」というもの。

****スウェーデン首相「他者侮辱する必要ない」 コーラン焼却デモ受け****
スウェーデンのウルフ・クリステション首相は6月30日、首都ストックホルムの主要モスク(イスラム礼拝所)前で行われたイスラム教の聖典コーランを燃やす抗議活動から距離を置く見解を示した。この抗議活動はイスラム世界の一部から反発を受けている。

中道右派のクリステション氏は「どんな結果を招くのか予測は難しいが、反省すべき人は大勢いると思う」「これは重大な安全保障上の問題だ。他者を侮辱する必要はない」と述べた。

イラク出身のサルワン・モミカ氏は6月28日、警察から事前に抗議活動の許可を得た上で、ストックホルム最大のモスク前でコーランを踏み付け、火を付けた。

警察が抗議活動を許可していたことについて、クリステション氏は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」と主張した。(後略)【7月1日 AFP】
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もっとも、控訴裁判所判断は政府の意向を受けたもので、こうしたコーラン焼却を認めたスウェーデン側の状況の背景には、スウェーデン政府・社会の右傾化があるとの指摘も。

“トルコ政府の神経をあえて逆なでするようなスウェーデンの対応は、昨年9月の選挙で保守派政権が発足したことに起因する。その中心にあるスウェーデン民主党は大戦期のナチスに起源をもち、移民排斥や同性婚反対を主張する、いわゆる極右政党だ。”【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

“スウェーデンで今年1月に行われた世論調査では、約8割の回答者が「たとえNATO加盟が遅れても安易にトルコと妥協すべきでない」と応えた。つまり、スウェーデンでは党派を超えて反トルコ感情が強くなっているとみてよい。”【同上】

当然ながら、エルドアン大統領は態度を硬化させています。

****スウェーデンのNATO加盟努力、抗議活動で台無し=トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は、同国がテロリストとみなす組織の支持者による抗議活動がスウェーデンで続いていることが、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた取り組みを台無しにしているという認識を示した。

トルコ大統領府によると、エルドアン大統領はオランダのルッテ首相との電話会談で「スウェーデンは反テロ法の改革など、正しい方向に向けた措置を講じている」と指摘しつつも、トルコがテロリスト組織とみなすクルド労働者党(PKK)の支持者が引き続き「テロ行為を称賛するデモを自由に組織しており、スウェーデンが講じた措置を無効にしている」と述べた。

11━12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会談までにスウェーデンのNATO加盟に向けた道筋をつけることが期待されていたものの、トルコが首脳会議前に反対を取り下げるかどうかについてはなお不透明感が漂う。【7月6日 ロイター】
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上記のような“不透明感が漂う”中で行われる、10日のスウェーデンとトルコ首脳会談、11日からのNATO首脳会議・・・・どういう結論になるでしょうか。

【NATO首脳会議ではウクライナ加盟問題、日本連絡事務所開設問題も議題に】
なお、NATOに関しては、ウクライナがロシアとの戦争終了後の加盟を希望しており、今回の首脳会議で加盟時期に関する道筋を示すように求めています。

このウクライナ加盟に関しては、トルコ・エルドアン大統領はゼレンスキー大統領との会談で支持を表明しています。
一方、バイデン大統領は「まだNATO加盟の準備ができていないと思う」と「時期尚早」との考えを示しています。

NATO首脳会議では、フランス・マクロン大統領が反対しているNATOの日本連絡事務所開設問題も議題になる予定です。

****仏、NATO日本事務所に反対 マクロン氏、事務総長に伝達****
フランス大統領府は7日、北大西洋条約機構(NATO)が検討している日本連絡事務所の開設について、マクロン大統領がNATOのストルテンベルグ事務総長に反対の意向を伝えたと明らかにした。フランスが反対し続ければ開設が難しくなる。

日本事務所開設については、リトアニア・ビリニュスで11日から開かれるNATO首脳会議でも議論されるとみられる。

フランス大統領府当局者は7日、首脳会議を前に記者団に対し「NATOは『北大西洋』条約機構の略だ。条約の条文には北大西洋という地理的範囲が明記されており、こうした原則的な理由から賛成していない」と指摘した。【7月8日 共同】
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日本連絡事務所の開設には、中国の軍事的な台頭を念頭に、NATOと日本などアジア太平洋地域との連携を強める狙いがありますが、マクロン大統領は中国を過度に刺激し、緊張が高まるのを懸念しているとみらています。
実現には加盟国全部の賛成が必要ですので、フランスが反対する限り実現しません。

ということで、スウェーデン加盟問題を始め、注目される議題が多いNATO首脳会議です。
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ウクライナ  進度が遅い反転攻勢 より強力な武器を・・・クラスター爆弾、劣化ウラン弾など

2023-07-07 22:29:59 | 欧州情勢

(ウクライナ東部ハリコフ郊外の地面に刺さった、空になったクラスター弾の容器=2022年6月(ロイター=共同)【7月6日 共同】)

【「ハリウッド映画とは違う」反転攻勢】
日々報じられているウクライナの戦況については、ウクライナ軍の反転攻勢が行われているものの、ロシア軍の抵抗も厳しく、ゼレンスキー大統領が「ハリウッド映画とは違う」と言うような状況です。

****ウクライナ軍、東部でロ軍の攻撃に直面 南部に進展=国防次官****
ウクライナのマリャル国防次官は2日、ウクライナ軍が前線の東部地域でロシア軍の攻撃に抵抗し、北東部では厳しい戦況になっているが、東部ドネツク州の激戦地バフムトの周辺や南部では、攻勢が進展していると述べた。

ロシア側は前線地域について、バフムトを取り囲む集落やそれより南部の地域でウクライナの攻撃を撃退し、北東部でウクライナ軍を抑え込むのに成功したと報告していた。

ロイターは、どちらの報告も確認できていない。(後略)【7月3日 ロイター】
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ロシア軍については、ひと頃言われていた装備不足や士気の低さに関する記事を最近はほとんど目にしなくなりましたので、それなりに防御に向けて力が入っているのでしょう。

そうなると、準備を整え待ち構えるロシア軍の防衛線をウクライナ軍が突破し一気に進攻というのは難しくなります。

****ウクライナ反攻作戦、遅い進度 強固な防御線、弱点探る 侵略500日へ****

ロシアによるウクライナ侵略戦争は8日で500日目を迎える。ウクライナ軍は6月上旬、国土奪還を目指す反攻作戦を本格的に始めたが、露軍の強固な防御線や航空戦力に阻まれ、期待されたペースでは進めていない。

他方のロシア側では、民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏が6月下旬に起こした武装反乱の余波が注視される。

ウクライナは、東部国境から南部クリミア半島に至る露占領地を分断し、クリミアを孤立させる戦略を描く。このため南部戦線を特に重視し、要衝メリトポリの奪還やアゾフ海への進出を狙っているとされる。

ただ、約1カ月間の反攻で解放できた国土は南部戦線で約160平方キロ。これは東京23区の約4分の1にあたるが、国土の約2割を占める全占領地の奪還にはほど遠い。ウクライナ高官は、東部戦線も含めて露軍の補給拠点をたたきつつ、防御線の弱点を探っている状況だとしている。

米シンクタンクの戦争研究所はウクライナ軍の進軍を阻んでいるものとして、①塹壕(ざんごう)、地雷原などで固められた防御線②対戦車ヘリなどの航空戦力③無人機やミサイル攻撃を妨害する電子戦−を挙げている。【7月7日 産経】
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「ウクライナは必要な軍事力が整わないまま、反転攻勢を開始した」(元北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍副最高司令官のリチャード・シレフ氏)【7月4日 読売】との指摘も。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領としては、欧米諸国の“支援疲れ”が表面化しないように、何としても「成果」を早く示す必要に迫られ、反転攻勢をせかされていた面があります。

一方で、欧米諸国からの武器支援が思うように進んでいないことへの“恨み”も。

****反転攻勢「早く始めたかった」=武器提供の遅れに苦言―ウクライナ大統領*****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻に対する反転攻勢について「もっと早い時期に開始したかった」と述べ、欧米諸国の武器供与が遅れたために苦戦を余儀なくされているとの見解を示した。5日放映された米CNNテレビのインタビューで語った。

オデッサで取材に応じたゼレンスキー氏は、複数の地域でウクライナ軍が「必要な武器」を入手できないため、攻撃開始を「考えることすらできずにいる」と強調した。

また、米国の支援に謝意を示しながらも、欧米の指導者に「もっと早期の反攻開始を望んでおり、そのための武器と物資が必要だと伝えていた」と指摘。

「開始が遅れれば、敵(ロシア軍)に地雷敷設や守備態勢構築の時間を与えると、誰もが分かっている」と訴え、ロシア側が防御を固めたことで、ウクライナの進軍ペースが落ちたとの認識を示した。【7月7日 時事】 
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【勝つためにはクラスター爆弾、劣化ウラン弾、更に対人地雷も】
戦局を動かずためには、一にも二にも「武器」がもっと必要、もっと強力な武器が必要・・・ということで、ウクライナや支援するアメリカもなりふり構わない状況にも。

*****米、ウクライナにクラスター弾供与を計画 7日発表も=高****
米国が殺傷力の高いクラスター弾をウクライナに供与する計画と、米高官が6日明らかにした。ウクライナ軍の反転攻勢後押しが狙い。しかし、クラスター弾が無差別に人を殺傷する兵器であることから、人権団体からは反対の声が上がっている。

米政府高官3人によると、クラスター弾を含む軍事支援パッケージが7日にも発表される見通し。
ホワイトハウスは、ウクライナへのクラスター弾供与を「積極的に検討している」としつつも、現時点で発表することはないとした。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは6日公表の報告書で、ウクライナ国内でロシア、ウクライナ双方の軍がクラスター爆弾を使用し、民間人の死者を出していると指摘。両国に使用の中止を訴え、米国にはクラスター爆弾を供与しないよう求めた。

クラスター弾は通常、1発の爆弾から多数の子爆弾をまき散らすため、広い範囲で無差別に殺傷する可能性があり、民間人を危険にさらす。また、不発弾は紛争終結後も何年にもわたり人々を脅かす。

国際条約で製造や使用、保有が禁止され、約120カ国で採択されているが、米、ロシア、ウクライナは署名してない。

政府高官らによると、発表予定の支援パッケージは最大8億ドル規模で、高機動ロケット砲システム「ハイマース」の弾薬、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、装甲車「ストライカー」なども含まれる見通し。

最終決定されておらず、変更される可能性もあるという。緊急時に大統領が議会の承認なしに備蓄から物資などを移転できる大統領引き出し権限(PDA)を活用する。

米国による対ウクライナ軍事支援策の承認はロシアの侵攻開始以降42件目となり、総額は400億ドルを超える。【7月7日 ロイター】
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上記記事にもあるように、クラスター爆弾についてはロシア軍は昨年2月の侵攻当初から多用し、ウクライナ軍も使用しているとされています。

「ロシア軍の塹壕に対して特に有効だ」(米国防総省のクーパー副次官補)【7月6日 共同】とのことのようです。

開発、製造、貯蔵などを全面禁止したオスロ条約のウクライナ・アメリカ・ロシアは加盟していないということもありますが、人道上の問題云々とり、とにかく強力な武器が必要ということでしょう。

使用について賛否がある武器としては対戦車貫通力が大きい劣化ウラン弾も。

****米、ウクライナに劣化ウラン弾提供へ 戦車での使用想定 WSJ報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、複数の米政府関係者の話として、米国がウクライナに対して劣化ウラン弾を供与する見通しだと報じた。秋までに引き渡される米軍の主力戦車「M1エーブラムス」による使用が想定されている。

劣化ウラン弾は貫通力は強いが、ウランの微粒子が人体に入り込んだ場合は「体内被ばく」を引き起こす危険性も指摘されている。

劣化ウラン弾は、核兵器製造や原子力発電のためのウラン濃縮過程で生じる廃棄物「劣化ウラン」を使った砲弾。鉄や鉛の弾頭に比べて貫通力が強く、遠距離からでもロシア軍の戦車の厚い正面の装甲を貫通できるという。

米政府は今年1月に31両のM1エーブラムスを提供すると決定。現在はウクライナ兵がドイツで操縦訓練を受けている。国防総省はM1エーブラムスの装備として劣化ウラン弾の供与を要請しており、米政府高官は承認の手続きに大きな障壁はないと見ているという。

劣化ウラン弾を巡っては、英国が3月にウクライナに提供した主力戦車「チャレンジャー2」の装備に含まれていることを発表した。ロシア側は「核の成分を備えた兵器」の提供と反発している。【6月14日 毎日】
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更に、対人地雷も。こちらはウクライナも禁止条約を批准していますが・・・

****ウクライナの対人地雷使用巡り新たな証拠、国際人権団体が報告****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は30日、ウクライナ軍が2022年に侵攻したロシア軍に対し、禁止されている対人地雷を使用した新たな証拠を発見したと発表した。

HRWはウクライナ政府に対し、対人地雷を使用しないという約束や軍の使用疑惑を調査し責任を追及するという方針を履行するよう求めた。

在ワシントンのウクライナ大使館は現時点でロイターのコメント要請に応じていない。
ウクライナは05年、対人地雷を禁止し在庫破棄を義務付ける1997年の国際条約を批准した。【6月30日 ロイター】
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戦争は勝ってなんぼのもの、クラスター爆弾だろうが、劣化ウラン弾だろうが、対人地雷だろうが・・・といったところでしょう。それが戦争の現実です。賛否は別にして。

【捕虜交換の現実】
そうした厳しい戦争の中にあっても捕虜交換は行われています。

****ロシアとウクライナが捕虜交換、それぞれ45人解放****
ウクライナとロシアは6日、45人ずつの捕虜を交換したと発表した。

ロシア通信(RIA)によると、ロシア国防省は45人の軍関係者がウクライナから帰国したと明らかにした。

一方、ウクライナ大統領府のイエルマク長官は、45人の軍関係者と2人の民間人が帰国したとテレグラムに投稿、「一人一人が英雄だ」と称賛した。

ウクライナ議会の人権オンブズマン、ドミトロ・ルビネツィ氏は、解放された捕虜の大半が重傷で、全員がリハビリ治療を受けると説明した。【7月7日 ロイター】
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最初、人道的配慮か・・・と思ったのですが、“解放された捕虜の大半が重傷”ということで、要するに「自軍兵士の治療で手一杯なのに、敵兵士の治療などできるか!」という話でしょう。

放置して死なせると国際批判を浴びて面倒、帰してしまうのが一番・・・対人地雷同様に相手に治療の負荷をかけることも出来るし・・・という、これまた戦争の現実の一面のように思えます。
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フランス  警官による17歳少年射殺事件からの暴動 背景にフランス社会の移民対応、警官の差別体質も

2023-07-04 22:55:52 | 欧州情勢

(1日、パリのシャンゼリゼ通りで警官隊に追われ逃げる人たち(ロイター=共同)【7月2日 産経】)

【北アフリカ系の17歳の少年が警察官に射殺された事件への抗議行動が暴動へと激化】
フランスでは、6月27日朝、北アフリカ系の17歳の少年が停車命令に従わなかったとして警察官に射殺された事件への抗議行動が暴動へと激化する状況が続いています。

事態の方は、ようやく沈静化に向かっていますが、パリやリヨンなどの都市や郊外で警察署や役所が打ち上げ花火で攻撃されたり、商店が略奪したりなどの被害が広がり、多くの若者(その多くが10代)が逮捕されています。

きっかけとなった事件については、下記のとおり

****フランスで大規模な暴動が起きた理由は? 17歳少年を警察官が射殺したことへの怒りが発端だった****
(中略)
17歳のナエル・Mさんの死
ナエルさんは27日朝、パリ北西に位置するナンテールで、検問中の警察から車で逃走しようとして、至近距離から撃たれた。

事件の様子を撮影した映像によれば、2人の警察官が黄色い車を停止させ、そのうち1人が運転手に銃を向けて、走り去ろうとする車の中に銃を発砲した。

車はその後、ナンテールにあるネルソン・マンデラ広場の近くの歩道に衝突し、運転していたナエルさんが死亡した。車には他にも2人の人物が乗っていたが、そのうち1人は警察に逮捕され、もう1人は逃走した。

映像の前に何があったのか、ナエルさんと警察官の間でどのような会話を交わされたかは明らかになっていないものの、17歳の少年の死は多くの人々の怒りに火をつけ、フランス全土に抗議活動が広がった。

警察側の主張
警察によると、警察官はポーランドナンバーのメルセデスベンツの車両がバス優先車線を走っており、運転手が非常に若かったために停車させたとしている。車は停車するまでの間、信号を無視して走ったという。
さらに警察は、運転手は警察官に危害を加えようとして車を発進させたと主張している。

しかし映像には、警察官が運転手に向かって窓越しに武器を向け、走り去ろうとする車に発砲する様子が映っていた。

AFP通信によると、映像では誰かが「頭を撃つぞ」と言っているのが聞こえるが、それが誰の発言なのかは明らかになっていない。

フランス全土で抗議活動
フランスでは2023年、警察の銃撃でナエルさんを含めて3人が死亡している。2022年の死者数は13人だった。
2017年の法改正で、フランスでは警察官がより幅広い状況での銃使用が可能になった。ル・モンドによると、この改正以降、走行している車両に対する警察の発砲件数が増加している。

また、ロイター通信によると、2017年以降に警察の銃撃で死亡した人のほとんどが黒人やアラブ系だった。今回亡くなったナエルさんは、北アフリカにルーツがあった。(後略)【7月1日 HUFFPOST】
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【背景に移民系若者に対する人種差別が】
背景には北アフリカからの移民が多いフランスにおける人種差別をめぐる対立があって、問題は根深いものがあります。

****揺れるフランス 各地で若者ら暴動、人種差別の分断浮き彫りに****
フランスが各地で続く若者らの暴動に揺れている。パリ西郊ナンテールで警察官が車の停止命令を拒んだ北アフリカ系の17歳の少年を射殺し、これに反発した人々が暴徒化したためだ。暴動は沈静化しつつあるが、人種差別を巡るこの国の分断が改めて浮き彫りになり、社会不安が広がっている。

6月27日に射殺事件が起きて以降、仏各地では警察署や役所、学校などの破壊・放火や商店の略奪などが相次いでいる。3日までに3000人以上が逮捕された。多くが10代の若者だった。

複数の自治体は先週末、夜間の外出禁止令を発令した。パリ近郊ライレローズでは7月2日、市長の自宅が襲撃された。仏紙ルモンドによると、市長宅に車が突入。市長本人は不在だったが、妻や子供が逃げる際に負傷した。
マクロン大統領は2〜4日に予定されていたドイツへの国賓訪問を中止し、外交への影響も出ている。

仏内務省によると、2日に逮捕されたのは160人弱で、前日の約720人から大きく減少し、暴動は収束に向かっている模様だ。ただ、一連の混乱は、仏社会に根深い人種差別を巡る対立を再燃させている。

射殺された少年はアルジェリアとモロッコにルーツを持つ移民系のフランス人だった。仏警察はこれまでも、移民系住民らへの過剰な取り締まりなどが問題視されてきた。2005年にはパリ東郊で警官に追われた移民系の少年2人が変電所に逃げ込み感電死し、この時も全土で警察への抗議、暴動が広がった。

仏社会学者のエマニュエル・ブランシャール氏はルモンドに「フランスは(北アフリカなどに)植民地を保有していた時代から、警察が人種差別的な(手法で社会の)統制をしてきた歴史がある」と指摘。今回の暴動では、そうした仏社会に対する移民系や貧困層の若者らの怒りが噴出したとみられる。

SNS(ネット交流サービス)では放火や略奪の動画が投稿、拡散されている。マクロン氏はSNSが若者に暴動を促していると訴えるが、一方で、こうしたマクロン氏の主張を「問題のすり替えだ」と非難する声も多い。

サッカーのフランス代表で、両親がアフリカ出身のエムバペ選手は、ツイッターで「この受け入れがたい死が起きた状況に無関心でいることはできない」と少年の射殺に対する憤りを示しつつ、「暴力は何も解決しない」と強調した。【7月4日 毎日】
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フランスでは、今回のような移民系若者と警察の対立を繰り返しきました。
よく取り上げられるのが2005年の事件です。

****2005年パリ郊外暴動事件****
2005年パリ郊外暴動事件とは、2005年10月27日にフランス・パリ郊外で北アフリカ出身の3人の若者が警察に追われ逃げ込んだ変電所で感電し、死傷したことをきっかけにフランスの若者たちが起こした暴動。最終的にフランス全土の都市郊外へ拡大した。

事件の発端
10月27日夜にパリの東に位置するセーヌ=サン=ドニ県クリシー=ス=ボワにおいて、強盗事件を捜査していた警官が北アフリカ出身の若者3人を追跡したところ、逃げ込んだ変電所において若者2人が感電死し、1人が重傷を負った。

この事件をきっかけに、同夜、数十人の若者が消防や警察に投石したり、車に放火するなどして暴動へと拡大した。警官隊の撃った催涙弾がモスクに転がり込んだことも火に油を注ぎ、大騒動となった。

背景
発端となる事件の起きたクリシー=ス=ボワなどフランス語で「バンリュー」と呼ばれる郊外部は貧困層の住む団地が多くスラム化しており、失業、差別、将来への絶望など積もり積もった不満が一気に噴出したものとみられている。

これらの地域では犯罪が多発しており、機動隊の導入など強硬な治安対策がとられていたが、これによって若者たちとの緊張も高まっていた。

当時フランスの若年層(18~24歳)の失業率は23.1%、移民人口は431万人(1999年国勢調査)。移民の多い地区では、失業率は全国平均よりも高く、40%に達する地区もあった。
(中略)
移民
フランスは、1960年代ころ高度経済成長を支える労働力として、100万人を超える移民を導入した。 彼らは、都市郊外にある中・低所得者向け公営集合住宅(HLM)などに多く住む。その2世・3世にあたる若者が、この暴動へ多数加わったとされる。 

フランスの国籍法は変遷を経て出生地主義的になっており、移民の子孫はフランス国籍をもつ。しかし、貧困、高等教育の機会、就職差別などをめぐって不満が鬱積している。(後略)
**********************

問題の背景は、上記2005年当時と変わっていません。
2005年以降もパリの車に火がつけられるなどの暴力行為が絶えず、車への放火は若者らの鬱積した不満によって年越しの「年中行事」化しているような面もあります。

2005年の暴動時、当時のサルコジ内相はこのような移民若者を“クズ”と罵り、それは一部世間の喝采を浴びたとか。下記は2007年12月8日ブログからの抜粋です。

****フランス なお残る植民地問題と移民問題*****
(中略)
植民地の痕跡が移民問題に姿を変えてフランス社会に大きな負担を課しています。
もともとフランスは、人種、民族、血統というもので国家・国民が自動的に形成されるのではなく、「自由・平等・博愛」の理念を共有する国民の共同体として国家があるという考え方で、これまで難民や亡命者を含め、多くの外国人をフランスは受け入れてきました。

しかし、アルジェリアなど北アフリカ諸国からの大量のアラブ・イスラム移民については、これを社会的に十分に消化できなかったようです。
特に9.11以降のテロリズムに対する不信感、経済不況・失業問題がイスラム移民に対する厳しい視線を招いています。

移民の問題は二世の段階で本格化します。
フランスで生まれ、フランス的価値観を受け入れた、フランスでしか生活したことのない二世にとって、自分たちに向けられる不信感・差別の目は耐えがたく、就職・住宅環境などの面での格差は理不尽なものに移ります。

結果、アウトローの世界に走る者も多くなります。
治安悪化の問題は、移民を排除したい側にとっては好都合な理由になりえます。
05年の暴動時、当時のサルコジ内相はこのような移民若者を“クズ”と罵り、それは一部世間の喝采を浴びたようです。

サルコジ大統領は自分自身がハンガリー移民2世であり、そのような環境でも現在の地位を得たことに対する強烈な自負があるのでしょう。逆に、“境遇を理由にして努力が足りない”思われる者は“クズ”ということになるのでしょう。

サルコジ大統領は“自分が移民や少数派に偏見を持っていないことを示す”がごとく、新内閣にも何人かの"minorite visible"(黒人、アラブ人あるいは東洋人といった、欧州人種とは明らかに外見が異なる人たち)を投入しています。(後略)【
2007年12月8日ブログからの抜粋】
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【移民に「開放的」であると同時に「閉鎖的」なフランス社会】
フランスは民族的血統に拘らずに移民を受け入れる「開放的」側面と、フランス的価値観を求める「閉鎖的」側面の両方があります。

下記は2005年暴動に関する論説ですが、現在にもそのままあてはまります。

****フランスの暴動 ―欧州の移民社会とフランスのジレンマ―****
(中略)
■「普遍性の共和国」フランス:開放性と閉鎖性
この一連の暴動自体は突発的な契機で始まったものだが、この事件の背景には「普遍性の共和国」フランスの根深い社会問題がある。

元々ガリアとローマの混淆の歴史に始まるフランスは、革命を経て国民国家の嚆矢となってからも、フランス国民の定義を民族的血統に求めたことは一度もない。フランス語を話し、フランス共和国市民たる意思を示せば基本的にフランス人たりうる。

その点ではアメリカと同様、フランスのナショナリティーは開放されており、人種・民族を問わずフランスで出生した人はフランス国籍の取得が可能である。

したがって移民の二世・三世も容易にフランス国民となりうる。近年では、フランスの旧植民地であるアフリカ地域、特にマグレブと呼ばれるアルジェリアやモロッコなどの北アフリカ地域からの移民が急増しており、とりわけ今回の暴動の発端となったパリ郊外やマルセイユなどでは、移民が住民の多数を占めてコミュニティを形成している地区が点在している。

その一方で、フランスには国是としての政教分離(ライシテ)の原則が厳然と存在する。フランスで政教分離を徹底する法律が制定され、公共の場でスカーフを被ることが禁じられたことは内外で大きな議論を引き起こした。

政教分離の原則を徹底することは、(中略)元々個人の信仰と社会的行為が不可分であるイスラム教を信仰する人々にとっては、ともすれば強制的な同化主義のように映ってしまい、信仰を否定されたように感じ国家に対して疎外感を抱くイスラム系移民が増えるという現象がある。

また、フランスの社会は、門戸は開かれているとはいえ、芸術やスポーツなどの特定の分野を除けば、移民にとって社会的な上昇の経路は少ない。

フランスはある意味では日本よりも遥かに明確な学歴社会である。学歴によって就業の機会や昇進の度合いは全く異なる。

高校卒業・大学入学資格のための試験(バカロレア)で哲学の小論文が課されるようなフランスの教育にあっては、知識の詰め込みだけで大学に入れるという仕組みではなく、高等教育を受けられる機会は経済事情によっては左右されないものの初等・中等教育段階の学習環境によって大きく左右される。

そして初等・中等教育の環境は居住地区によってある程度決まってしまう。その点でフランスにおける社会階層の再生産、固定化の傾向は否定できず、特に移民のコミュニティに暮らす若者にとってフランスの社会は将来に希望が持ちにくい社会であるかもしれない。

そしてフランスの景気の低迷によって最も影響を蒙っているのも彼らである。フランスの失業率は約10%であるが、移民の多い地域では倍の20%近くに及ぶ。若者だけで統計を取ればその率はさらに高くなるであろう。

社会に疎外感を抱き、将来に希望の持てないそうした若者たちの鬱積した不満は、既に治安の悪化などに表れており、移民のコミュニティがパリの郊外に多いことから「郊外問題」という現象が指摘されていた。今回の暴動も、こうした若者たちの鬱積した不満が暴発してしまった結果であると言えよう。(後略)【2005年11月9日 小窪千早氏 日本国際問題研究所】
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【極右勢力の反発を惹起】
近年、フランスではルペン氏に代表される極右勢力が大統領の座をうかがうほどに台頭していますが(ルペン氏自身は極右色を薄めていますが)、移民系若者の暴動は、これに対する激しい反発を惹起し、両者は激しく対立することにもなります。

****発砲警官に支援2億円=極右呼び掛けで物議―フランス暴動****
フランス全土に拡大した暴動の発端となったパリ郊外での北アフリカ系少年(17)射殺事件を巡り、発砲した警官の家族を支援する動きが極右主義者の提唱で広がり、物議を醸している。クラウドファンディングで集まった資金は3日、計129万ユーロ(約2億円)に達した。事件に対する抗議は放火、略奪といった破壊行為に変質しており、治安強化を求める人々が賛同しているとみられる。

支援を呼び掛けたのはジャン・メシア氏。昨年の仏大統領選で「反イスラム」を掲げ落選した極右候補陣営の報道官を務めた。発砲した警官について「自分の仕事をして高い代償を払う」ことになったと同情。「警察を支えよう」と訴えた。(後略)【7月4日 時事】 
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【警察官の差別的「体質」への指摘も】
また、移民系若者の暴力が多いことやテロの脅威もあって、警官側の対応にも問題がある面も。国連人権高等弁務官事務所が治安当局による人種差別を指摘する事態にもなっています、

****「従わなければ逮捕だ!」警察から受けた不条理な脅しの実体験 暴動に揺れるフランスは本当に自由・平等・友愛の国?****
(中略)果たしてフランスは自由・平等・友愛の国なのか。筆者がフランスで取材中に体験した、治安当局とのエピソードを紹介する。

ロックダウン下での出来事
新型コロナの蔓延を受けて、フランスが初めてのロックダウンに踏み切った2020年3月。外出禁止令が発出されていたものの、外出の理由を記載した「外出証明書」を携帯している場合、問題なく通行できるとされていた。(中略)

フランスはジャーナリズムの国である。ジャーナリストに税制上の優遇措置を講じるほど、国民の「知る権利」に応えるこの仕事を重視している。以下は、そのフランスで起きたことだ。

同僚の記者がシャンゼリゼ通りで日本と中継をつないでリポートをしようとした時のこと。直前に数人の警察官が近寄ってきた。「ここからすぐに立ち去れ!」

日本メディアであることを説明し、外出証明書も提示したが、「立ち去らなければ逮捕する」とまで言われた。仕方なく、屋外でのリポートを断念した。この際の警察官による恫喝が原因で、この記者は後までトラウマを抱えることになった。

翌日、今度は筆者が取材のためカメラマンと共にシャンゼリゼ通りを歩いていたところ、数人の警察官らに呼び止められた。歩いていただけで、威圧的な言葉で立ち退くよう言われた。

日本のメディアであり、取材中であることを話してもその姿勢は変わらなかった。我々が理由について説明を求めたところ、彼らが発したのは「これ以上従わなければ逮捕する」という言葉だった。

カメラマンはすぐに、「あなたたちが言うことが本当かどうかパリ警視庁に確認する」と電話を取り出した。すると突然、「もういいから、もう分かったからどうぞ行って!」と、手のひらを返したように態度を変えたのだ。一連のやりとりから見て、ある種の嫌がらせのようなものであることが分かった。

カメラマンは、「差別だ」とつぶやいた。フランスで育った彼は、警察官による人種差別をよく知っている。

これは取材中の一幕にすぎない。この他、生活必需品を買いに行くために外出した際にも、他にも歩いているフランス人がいるにも関わらず、呼び止められるのはなぜかアジア系の筆者。一度や二度ではない。こうした声は、パリ在住の日本人の知人たちからも多く聞かれた。

「フランスは人種差別に真剣に対処を」
2023年6月27日、パリ近郊ナンテールで、交通取り締まりの検問を逃れようとした17歳の少年を警察官が射殺した事件をきっかけに、フランス全土で暴動が起きている。少年はアルジェリア系の移民2世だった。

事態を受けて国連人権高等弁務官事務所は6月30日、「フランスは人種差別主義や治安当局による人種差別の根深い問題に真剣に対処する時だ」と指摘した。フランスは、「自由・平等・友愛」を掲げる国。人種差別を指摘されるなど、大変な不名誉である。

フランス政府はすぐに、「根拠がない。フランスとフランスの治安当局は人種差別やあらゆる差別と断固として闘っている」と反論した。(後略)【7月4日 FNNプライムオンライン】
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ハンガリーとウクライナの確執の背景にあるウクライナに暮らすハンガリー系少数民族の存在

2023-06-20 23:11:55 | 欧州情勢


(【2019年12月25日 毎日】 黄色の丸印で示した、現在ウクライナ領となっている一帯がハンガリー系住民が暮らすザカルパチア州です。)

【オルバン政権 ロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢】
ハンガリー・オルバン首相がEU内にありながら、西欧的民主主義価値観と一線を画し、メディアへの介入を強化し、“反移民・難民”の姿勢をとっており、“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

内容的には上記4月30日ブログと重複しますが、今回は特にハンガリーとウクライナの確執に絞って取り上げます。

4月30日ブログでも触れたように、ハンガリー・オルバン首相は一貫してロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対し、ロシア寄りの姿勢をとっています。

“対ロシア制裁は「戦争への一歩」 ハンガリー首相”【2022年11月18日 AFP】
“ハンガリー、プーチン氏逮捕せず 入国の場合で当局者、報道”【3月23日 共同】
“ハンガリー、米国を三大敵の一つと名指し 流出文書で判明”【4月12日 WSJ】

最近でも・・・

****ハンガリー、EUのウクライナ軍事支援基金阻止も OTP銀巡り****
ハンガリーのシーヤールトー外相は(5月)17日、ウクライナ政府が戦争支援者リストからハンガリーのOTP銀行を削除しない限り、欧州連合(EU)による次回の対ウクライナ軍事支援資金や対ロシア制裁を阻止する考えを示した。

ハンガリーは今週、EUが運営する基金「欧州平和ファシリティー(EPF)」からウクライナ軍事支援に追加で5億ユーロ(5億5040万ドル)を充てる案に反対した。

EU加盟国政府がウクライナに供与した武器や弾薬の費用を請求できるようにするものだが、ハンガリーは承認の条件として、バルカン半島や北アフリカなど他地域にも資金を充てるよう保証を求めた。

だがEU外交官によると、非公開の場では、ウクライナがOTP銀行をブラックリストに指定していることが反対の主な理由であることを明確にしたという。

EU当局者は、ブラックリストの対象がOTP全体かロシア支店のみか確認を進めるなど問題解決に取り組んでいると述べた。【5月18日 ロイター】
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****「ウクライナに勝ち目なし」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は(5月)23日、ウクライナに戦場での勝ち目はないと語り、ロシアとの紛争を終わらせるには米国の介入が必須だとの持論を展開した。

オルバン氏は中東カタールで開かれた会合で、ロシアの侵攻は「外交の失敗」の帰結だと主張した。右派の同氏はウクライナ紛争について、これまでロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難したことはない。

オルバン氏は「戦場での解決の試みが奏功していないのは明らかだ」「現実と数字、周囲の情勢、さらに北大西洋条約機構に派兵の意思がないことを見れば、戦力で劣るウクライナが戦場で勝てないのは明白だ」と述べた。

「われわれの心はウクライナの人々と共にある」「その苦しみも理解している」としながらも、「エスカレーションに歯止めを掛け、和平交渉に向けた議論をすべきだ」と語った。

その上で、停戦が実現した暁には、欧州はロシアとの間で新たな安全保障協定を結ぶ必要があると述べた。

オルバン氏は「国家としてウクライナはもちろん非常に重要だが、長期的・戦略的に考えれば、問題は将来の欧州の安全保障をどうするかだ」と強調。「米国抜きに欧州の安全保障の枠組みが成立しないのは明白だ。ただし、ロシア、米国間で何らかの合意が達成されない限り、この戦争は止められない」「欧州人の一人としては不本意だが、それが唯一の解決の道だ」と話した。

一方、自国と欧州連合との関係については、他の加盟国首脳を「理知的」過ぎると批判しながら、ハンガリーの全輸出の85%が域内向けであるため、離脱はできないと語った。 【5月24日 AFP】AFPBB News
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【ハンガリー系少数民族約14万人が暮らすウクライナ・ザカルパチア州】
オルバン首相が表向き「われわれの心はウクライナの人々と共にある」とは言いつつも、実質的にウクライナを突き放すような行動をとる背景に、ウクライナ・ザカルパチア州にハンガリー系少数民族約14万人が暮らしており、オルバン首相はこのハンガリー系住民を支援してきたという経緯があります。

ハンガリーは、“ハンガリー人は、西暦1000年にキリスト教を受容し、ハンガリー王国を成立させた。だが、16世紀にオスマン・トルコ帝国、17世紀にはウィーンを首都とするハプスブルク帝国の支配を受けた。民族主義の高まりを受け、帝国内で自治権を獲得すると、第一次大戦後にハンガリー王国を復活させた”という歴史を有しています。

一方で、ウクライナ側でもクリミア併合以降、民族主義の高まりがあり、ザカルパチア州ハンガリー系住民の自治権を求める動きへの厳しい対応につながっています。

****ウクライナとは絶対に手を組まない…「ハンガリーのトランプ」がロシアに同調する"したたかな理由"「親ロシア」を掲げるオルバン首相の狙い*****
(中略)オルバン氏は政権奪取後、真っ先に他国に住むハンガリー系住民の支援に取り組んだ。ハンガリーは、オスマン・トルコなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持してきたが、第一次大戦後に独立する際、1920年のトリアノン条約で、領土の3分の2を失っている。

ハプスブルク帝国の崩壊後、ハンガリーが強国になることを恐れた西欧諸国による決定だった。国境線が引き直され、当時のハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、ルーマニア、セルビア、スロバキアなどの隣国に所属することを余儀なくされた。

隣国との摩擦を生むため、ハンガリー政府が隣国のハンガリー系住民に関与することは、これまでタブーだった。だが、オルバン氏はこの問題に果敢に切り込んだ。

オルバン氏は2011年に憲法改正を実施し、新憲法にこう書き込んだ。「ハンガリー政府は国境を越えてハンガリー系住民の運命に責任を持たなければならない」。

ウクライナ・ザカルパチア州に事務所を構えるハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のラースロー・ブレンゾビッチ党首(55)は、声に力を込める。「他国のハンガリー系住民は初めて、母国から法的に身分を認められたのです」

ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家
ハンガリーは1989年の民主化後、自らの国を立て直すことに精いっぱいで、隣国に住む同胞に目を向ける余裕はなかった。だがオルバン氏は政権を取る前から、ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家だった。(中略)

政権奪取後、オルバン氏の動きは早かった。祖先が1920年以前にハンガリー王国内に住んでおり、一定程度のハンガリー語を話せる住民に対し、市民権を与える法律を制定したのだ。他国のハンガリー系住民はハンガリー政府に税金を支払っていないにもかかわらず、選挙権などを得られるようになった。

さらに、オルバン氏はハンガリー系住民の居住地域に財政支援を始めた。幼稚園、小学校などに資金援助して現地のハンガリー語教育を充実させ、ハンガリー語のメディアにも補助金を支出した。中小企業や工場、レストランにも出資し、現地の雇用確保に貢献した。

ウクライナでは他国政府による政党への支援が禁止されているが、オルバン政権は「(裏で)ハンガリー民族政党も手厚く支援している」(ベレホベのペトルシュカ市長)という。隣国のハンガリー系住民への支援額は、2019年で計1300億フォリント(約480億円)に上る。ハンガリー国内のスポーツ予算(1200億フォリント)、高等教育への予算(1600億フォリント)に匹敵する額だ。

権力維持のための票田
なぜ、オルバン氏はハンガリー系住民の支援に、こだわるのだろうか。

「目的は大きく分けて二つある」。ハンガリー社会科学センターのバールディ・ナーンドル主任研究員は語る。
一つは、国民の民族意識を高揚させることだ。

ハンガリーは民主化以降、欧米からの投資を受け、経済を発展させてきた。2004年に念願だったEU加盟を実現し、より多くの企業がハンガリーに進出した。だが、米国で起きたリーマン・ショックが2009年、欧州に波及。海外債務が大きかったハンガリー経済は大打撃を受け、ハンガリーから投資を引き上げる欧州企業が続出した。危機の際にハンガリーを見捨てた西欧を、ハンガリー人は容易に信頼できなくなったのだ。

「オルバン氏は、『ハンガリー人の連帯』を訴えることで、『西欧化』という目標を失った国民のアイデンティティーを刺激し、政権の求心力を高めようとした」(ナーンドル氏)という。

もう一つは、他国のハンガリー系住民を自らの「票田」にすることだった。先述したカタリン・バルナさんのように、選挙権を得た他国のハンガリー系住民はオルバン氏を救世主とあがめる。2018年の選挙では、ハンガリー系住民の96%がオルバン氏率いる与党に投票した。

特にオルバン氏に喝采を送ったのが、EUに未加盟で、1人あたりの国民総所得(GNI)が、隣国で最も低いウクライナのハンガリー系住民だった。

ウクライナに取り残された自国民
ザカルパチア州では、約14万人のハンガリー系住民が国境沿いに集中する。同州は元々ハンガリー領だったが、第一次大戦後にチェコスロバキア領になった後、一時自治権を持った。

1939年にハンガリーが奪い返したものの、第二次大戦後に旧ソ連が占領。最終的に旧ソ連の一部だったウクライナに組み込まれたという複雑な歴史を持つ。(中略)

オルバン氏は2014年5月10日、議会でこう発言している。「ウクライナに住むハンガリー人には自治権を持つ資格がある。我々は国際政治の場で、彼らの権利を追求し続ける」。オルバン氏は、ハンガリー人が自治権を獲得することを後押しし、事実上ハンガリーの支配下に置く意欲を示したのだ。

ウクライナの親米政権成立の余波
ザカルパチア州に投資する余裕がないこともあり、オルバン政権の行動を黙認していたウクライナ政府だが、2014年、状況が大きく変わった。反政府デモでウクライナの親露政権が倒れたのだ。親米政権ができることを嫌ったロシアは、軍事的な要衝であるウクライナのクリミア半島を一方的に編入。親露派武装勢力は同国東部の支配を目指し、ウクライナ軍と衝突した。

同年6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領はロシア側との紛争に危機感を強め、国民の連帯を促した。だが、その呼びかけはハンガリー系住民にも意外な形で波及する。ハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のブレンゾビッチ党首は言う。

「2014年以降、ポロシェンコ氏はメディアを使い、外国人を敵とするプロパガンダを流し始めた。最初は国内にいるロシア系住民だけが対象だったが、続いてハンガリー系住民も攻撃対象になった」。

極右団体は「ロシアだけでなく、ハンガリーもウクライナの領土を奪おうとしている」と主張。ザカルパチア州では、ハンガリー人の「処刑」を訴えるデモが繰り返されるようになった。2018年、ハンガリー文化同盟が入る建物は2度も放火された。

さらにウクライナ政府は2017年、小学5年生以上の子供に対し、ウクライナ語の学習を義務づける法律を制定した。多くのハンガリー系住民はハンガリー語の学校に通っていたため、オルバン氏は強く反発した。

ウクライナ政府に対抗するため、クリミアの編入を理由にEUから制裁を受けているロシアのプーチン大統領と手を組んだのだ。

ロシアに同調する歴史問題の根深さ
ウクライナは欧州諸国の一員となるため、NATO、EUへの加盟を宿願としている。だが、両組織への加盟は全加盟国の同意が必要だ。

NATO、EUの加盟国であるハンガリーは、ウクライナの加盟に強く反対し始めた。ウクライナが両組織に入った場合、自国への脅威が高まると考えていたロシアに同調したのだ。(中略)

ウクライナのハンガリー系住民は、オルバン氏の意向に従い、本気で自治権を獲得しようとしているのだろうか。筆者の質問に、ハンガリー文化同盟のブレンゾビッチ氏はこう答えた。

「ウクライナ政府はもう信用できない。我々は自分たちのことを自分たちで決める」。オルバン氏の「反ウクライナ」の姿勢は、大ハンガリー主義を巡って既に明確になっていたのだ。【2022年12月13日 三木 幸治毎日新聞記者 PRESIDENT Online】
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ウクライナからすれば、上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民に自治権を・・・・といったことを認めると、「じゃ、クリミアはロシアに」といった話もなってきますので、受け入れがたいところでしょう。

(個人的感想を言えば、領土なんて歴史的に取ったり取られたりして常に変化しており、現在の帰属を決めるのは最終的には住民の意思でしょう。)

【ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人をめぐるハンガリー・ウクライナの対立】
上記のようなザカルパチア州ハンガリー系住民の存在、その自治権や支配をめぐるハンガリー・ウクライナ間の確執が存在することを前提にすると、非常にわかりにくい下記報道の意味合いも少し見えてきます。

****ハンガリーが捕虜との連絡妨害 ウクライナ主張****
ウクライナ外務省は19日、ロシアからハンガリーに引き渡されたハンガリー系ウクライナ人捕虜11人との連絡を、ハンガリー政府が妨害していると非難した。ハンガリーは、ウクライナ侵攻開始後もロシアとの関係を維持している。

ロシア正教会は今月、ハンガリー系少数民族が住むウクライナ西部ザカルパッチャ州出身の捕虜の一行をハンガリーの首都ブダペストに移送したと明かした。同州には、ハンガリー系少数民族約10万人が暮らしている。

ウクライナ外務省のオレグ・ニコレンコ 報道官はフェイスブックへの投稿で、捕虜は隔離されており、「ウクライナの外交官はここ数日、自国民と直接連絡を取るためにあらゆることを試みたがかなわなかった」と主張した。

ニコレンコ氏によると、捕虜が親族と会話する際には第三者の立ち合いが求められ、ウクライナ大使館に連絡することは許されていないという。同氏は、連絡を取ろうとするウクライナ政府の試みをハンガリーが「無視」していると非難した。

ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は捕虜について、「ロシアで解放された後、ロシア正教会が(ハンガリーの)マルタ騎士団の慈善団体との協力でハンガリーに移送したため、法的には捕虜と見なされていない」と説明。

一行は「自由意思でここに来たという特別な状況に置かれている」とした上で、「自由意思に基づきいつでもこの国を離れられる。われわれは足止めも監視もしない。完全に自由だ」と述べた。

グヤーシュ氏によると、11人の中にはハンガリー国籍を持たない人もいたが、そうした人には難民資格が与えられたという。

ザカルパッチャ州の少数民族の権利問題をめぐり、両国政府は長年反目し合っている。ハンガリー側は問題が解消するまで、ウクライナの欧州連合と北大西洋条約機構加盟を承認しないと公言している。 【6月20日 AFP】
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ハンガリー系ウクライナ人捕虜11人について、どういう意思でロシアとの戦争に参加していたのか、捕虜となった後、どういう処遇を求めているのか(ウクライナに戻ることを希望しているのか、ハンガリーで暮らすことを求めているのか))・・・そのあたりが明らかにされていませんので、話の半分は依然としてわかりませんが、ウクライナとハンガリーが、11人の処遇を決めるのは自分たちだと主張していがみ合っている事情は、上述のような背景があってのことです。

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ドイツ  人事・資金スキャンダルで揺れる緑の党 そのエネルギー政策に批判も 支持を広げる極右

2023-06-12 22:41:59 | 欧州情勢

(【6月8日 日経】)

【緑の党 縁故主義人事、資金の流れに関する疑惑で人気低迷】
ドイツのショルツ政権は、ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党の緑の党、中道リベラルの自由民主党(FDP)の3党による連立政権ですが、最近「緑の党」の評判はよろしくないようです。

****ショルツ与党が第1党=緑の党低迷―独ブレーメン州議選****
ドイツ北部ブレーメン州で14日、州議会選挙が行われた。ショルツ首相率いる中道左派・社会民主党(SPD)が、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)から第1党を奪還する見通しとなった。

一方、連立与党の緑の党は議席を減らす方向。暖房に関する新たな環境規制などが反発を呼んでおり、支持率が低迷している。

同日深夜の開票速報によると、SPDは3割弱の得票を固めた。大敗した2019年の前回選挙からは持ち直したものの、戦後2番目の低い水準にとどまっている。CDUは約26%とほぼ横ばい。緑の党は12%弱で、5ポイント超下げた。【5月15日 時事エクイティ】
********************

緑の党が低迷しているのは、ひとつは党のボスであるハーベック副首相兼経済・気候保護相とその右腕だったグライヒェン事務次官周辺の縁故主事的人事や環境政策に流れ込む巨額の資金に関する疑惑のためです。

****ドイツ経済・気候保護省スキャンダルで注目される「環境ロビーネットワーク」の闇の実態****
目に余る縁故採用の実態
ドイツで人気絶頂だったロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)の人気が、真っ逆さまに墜落している。長らく政治家の人気ランキングでは1位だったのに、5月初めには13位。

5月17日、ようやく自分の右腕だったパトリック・グライヒェン事務次官(51歳)を更迭したが、これもいささか遅すぎた。グライヒェン氏というのは、今回、経済・気候保護省を襲っているスキャンダルの“主役”である。  

日本ではまだあまり報道されていないが、ここ数週間、このグライヒェン氏の目に余る縁故採用の実態が大問題となっている。  

たとえば、経済・気候保護省の管轄下にある連邦エネルギー庁の長官に彼が推薦したのが、自分の結婚の時の証人であるミヒャエル・シェーファー氏。それも、この重要な人事は公募ではなく、最終的に候補者はシェーファー氏一人だけで、しかもグライヒェン氏が選考に加わったという。 (中略)

これがまもなくさらに大スキャンダルに発展していったのは、他にもおかしな縁故人事がたくさん報道され始めたからだ。  やはり経済・気候保護省の事務次官の一人であるミヒァエル・ケルナー氏は、グライヒェン氏の妹の夫で、しかも、妹、ヴェレーナ・グライヒェン氏自身は、BUNDという環境NGOの最高幹部の一人だった。  

BUNDはベルリンに本部を持つ会員58万人の巨大な環境NGOで、2014年から19年の6年間に公金から受けた補助金の総額は2100万ユーロ(現在のレートで約29.4億円)に上る。  

また、グライヒェン氏の兄弟のヤコブ・グライヒェン氏は、エコ研究所の幹部。こちらはフライブルクに本部を持つ強力な環境シンクタンクで、環境省に政策提言をしている。(中略)

「アゴラ・エネルギー転換」の闇
ドイツの主要メディアには緑の党のシンパが非常に多いと言われる。だから、これまでほとんどのメディアは、緑の党、および社民党が主導する過激で、時には無意味な環境政策も、抜本的に検証するような記事は書かなかった。 

そんな彼らが今、一番、気にしているのは、このスキャンダルのとばっちりが、環境シンクタンク「アゴラ・エネルギー転換」に行くかどうかということだろう。  

現在のNGOは、巨悪に立ち向かう弱小な組織などではなく、世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、巨大な権力と潤沢な資金で政治を動かしている強大な組織だ。そして、ドイツでその中枢にいるのが、“アゴラ・エネルギー転換”である。  

“アゴラ・エネルギー転換”は、2012年の創立の時から、当時の経済・エネルギー省と密接な関係を持っており、人材の行き来も盛んだった。シンクタンクというよりも、まさに巨大なロビー組織だ。 問題のグライヒェン氏も、経済・気候保護省に抜擢される前は、“アゴラ・エネルギー転換”の局長だった。  

今では、アゴラは、“アゴラ・交通転換”、“アゴラ・農業”、“アゴラ・インダストリー”、“アゴラ・デジタル・トランスフォーメーション”と、全ての部門でCO2削減を掲げつつ、政策を牛耳っている。  

35年からのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止も、今後、農地が縮小されることも、もちろん、風車が倍増されることも、こういうロビー組織の活動の賜物だ。

掌を返すメディアの露骨な印象操作
それにしてもすごいのは、今や、経済・気候保護省、外務省、環境省、農林省などが全て緑の党の手に落ち、その政策を進言している組織が、やはり緑の党の支配するロビー団体となってしまっているという事実だ。  

しかも、政府はそれらに助成金を出しており、いわば、持ちつ持たれつの関係でもある。(後略)【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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今や環境政策には巨額の資金が投入されています。

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環境政策と言えばクリーンなイメージがあるが、G7各国ではどこでも環境利権がすでに経済の各分野に根を張っている。緑の党が連立政権に加わるドイツでは、その金額も桁外れだ。

昨年、オラフ・ショルツ首相(社会民主党)の三党連立政権は、「気候変革基金」の創設を決めた。予算規模は今年から二〇二八年までの四年間で、約一千八百億ユーロ(約二十七兆円)という莫大なものになる。

この全額は、岸田文雄首相が大規模軍拡に踏み切る前の、日本の防衛費の五年分(二十七兆円)とほぼ同じだ。【「選択」6月号 “ドイツ緑の党の「黒い真実」”】
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“市民運動のプロ集団が、巨額の予算を差配する立場になり、右往左往しているのだ”【同上】とも。

縁故主義人事にしても、最も信頼できる者で巨額予算官庁トップを固めたかった・・・ということの結果なのでしょう。

【自然エネルギー重視政策のひずみ 「脱原発」維持の一方で、化石燃料に頼りCO2排出は増加】
緑の党が低迷しているのは、もうひとつの理由は、その存在意義でもある環境政策・エネルギー政策の中身に関する疑問です。

ドイツを長く率いてきたメルケル前首相の「脱原発」については、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からは疑問の声が出ていますが、政敵である緑の党は「他に類をみない」と擁護している・・・という状況。

****メルケル前首相に最高勲章=対ロシア・脱原発で批判も―ドイツ****
ドイツのメルケル前首相に17日、任期中の功績をたたえ、首相経験者に対する最高位の功労勲章が授与された。

独メディアによると、これまでの受章者は戦後ドイツの立役者であるアデナウアー、コール両首相のみ。世界史に名を残す偉人と肩を並べたが、国内ではロシア依存や脱原発が「負の遺産」として語られるなど評価が揺れている。

メルケル氏は2005〜21年の首相在任中、欧州の債務危機への対応や移民受け入れなどで指導力を発揮。国際社会で存在感を示した。受章演説では「意見の違いがあっても、常にうまく協力しようとしてきた」と振り返った。

しかし最近では、メルケル氏が主導したロシア産天然ガスの調達事業や脱原発への回帰がエネルギー危機をもたらしたとして、出身政党のキリスト教民主同盟(CDU)からも、当時の政策は「間違いだった」と非難の声が上がる。一方、政敵である緑の党から「他に類をみない」と擁護論も。評価が定まるまで時間がかかりそうだ。【4月18日 時事】 
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緑の党は「脱原発」を維持するために、自然相手で調整が難し風力・太陽光エネルギー調整を化石燃料で行い、結果、CO2が増えるということにもなっています。

****ドイツ「風車大増設計画」の危うすぎる中身…ハーベック経済・気候保護相はどんな風景を夢見ているのか****
経費は国民が電気代で負担
5月23日、ロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)が「陸上風力戦略」なるものを発表した。
ドイツでは、風力は再エネの中では比較的頼りになる電源として、政府の期待を一身に背負っており、すでに陸海合わせて3万本近い風車が立っている。

しかし、実は、風車の新設は、2017年のピークを境に年々減っていた。
そこでハーベック氏は、新政府の経済担当の大臣に就任してまもない22年初頭、風車建設のピッチを上げることを宣言。

今回の新目標はそのダメ押しのようで、陸上風力の設備容量を30年に115GWに、35年には160GWに増やすという。現在の風力発電の設備容量は58GW弱なので、今年から毎年10GW近くの新設が必要になる。(中略)

つまりドイツでは、風車が3万本近く立っている現在でも、全発電量における風力電気の割合は9%ほど。というか、風車はたとえ10万本あっても、そもそも風がなければ発電はゼロだ。

しかし、その反対に、全国的に適度な風が吹いた場合には、3万本近い風車が突然、能力をフルに発揮するため、何十基もの原発にスイッチが入ったような状態になる。その場合、送電線を保護するため、過剰な電気は急遽、どこかに流さなければならない。

そこで、安価で、時にはマイナス価格で外国に出すことになるが、それでも捌けない場合は、発電事業者に補償を払って風車を止めてもらう。どちらの経費も最終的に国民が電気代で負担する。(中略)

緑の党の目的は「CO2削減」ではなかった
ただ、風車をどんどん増やせば心置きなく火力を停止できて、緑の党の思い描いているような再エネ100%の理想社会に近づけるのかというと、そうはいかない。一番のネックは、当たり前のことだが、風を人間がコントロールできないこと。

直近では21年、風が非常に弱く、折りしもドイツは、原発、石炭、褐炭による発電を軒並み減らしていた最中だったので、必然的にガスに需要が集中した。

その後のウクライナ戦争で、ガスの逼迫、および高騰が顕著になったが、実は、それらはもっと前から始まっていたのだ。かといって、将来の有望な電源と目される水素は、掛け声だけは勇ましいが、まだ商業ベースには程遠い。

そこで、ハーベック氏の「陸上風力戦略」なるものが出てきたわけだが、何のことはない、風のない時は褐炭や石炭を焚き増すのだから、今や、ドイツはポーランドと並んで、EUで一番CO2排出の多い国になってしまった。しかも、ポーランドは現在、原発の建設に前向きなので、そのうち、ドイツだけが置いてきぼりになる可能性は高い。

原発を再エネで代替することが無理だというのは、皆がわかっていたことだ。だから今、化石燃料で代替しているのだが、これでCO2が増えることも、もちろん皆がわかっていた。

CO2の削減が目的なら、先に石炭から止めていき、原発と再エネで釣り合いを取りつつ、本当に原発を代替できるクリーンな電源や技術を、時間をかけて開発していくべきだった。結論として、緑の党の目的は、CO2の削減ではなかったということだ。(後略)【6月2日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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冒頭記事にもある“暖房に関する新たな環境規制”も不評。

****ヒートポンプ式暖房を巡る謎の法案****
なお、人気絶頂だったハーベック氏が急に落ち目になっている背景には、実は、もう一つ、大きな理由がある。ハーベック氏が夏までに強引に通そうとしている法案(建造物エネルギー法)、通称「暖房法案」のせいだ。  

これは、来年2024年よりガスと灯油の暖房器具の販売を禁止し、徐々に電気のヒートポンプ式の暖房に切り替えることを国民に強制する法律で、従わない場合は年間5000ユーロ(約70万円)の罰金という項目まで入っているというので、ドイツ国民は驚愕した。  

ヒートポンプは日本のエアコンに使われている技術(筆者注:電力を使って大気中の熱を集めて移動させる技術)で、最近は給湯器や床暖房にも普及している。ただ、ドイツの家庭の暖房設備は家全体を暖める大掛かりなもののため、これをヒートポンプでやろうとすると、床暖房となるらしい。  

ヒートポンプはまだ、ドイツでは普及しておらず、そうでなくても高価な上、床暖房となると当然、床を剥がすため、工事費が膨大だ。

ようやく家のローンを払い終えて年金生活に入った人たちが、高価な暖房設備を購入し、大規模リフォームをするなど非現実的だし、年金生活者でなくても負担が大きすぎて、最悪の場合、家を手放さなければならなくなるかもしれない。  

また、家主にとってもすごい出費で、それが家賃に反映されれば借家人も困窮する。  将来、暖房がだんだん電化されていくことはわかる。

しかし、なぜ、今、国民に多大な負担をかけてまで、これほど急激にヒートポンプに取り替えなければならないのかの説明が全くない。全て惑星を救うためと言われても、国民の財力には限度がある。  

しかも、まだ、電気を作るのに石炭やガスを燃やしているのだから、CO2の削減にも役立たない。それどころか、これは、政府による自由市場への介入であり、ひいては国民の自由の制限である。そして興味深いことに、この法案の生みの親もやはりグライヒェン氏だ。【5月19日 川口 マーン 惠美氏 現代ビジネス】
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【反移民・反グリーンで勢力伸ばす極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」】
低迷する緑の党と対照的に支持を拡大しているのが、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で、緑の党の環境政策への不満の受け皿にもなっています。

****ドイツ極右政党、反移民・反グリーンで勢力伸ばす****
ドイツで反移民を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が世論調査で支持を伸ばし、主要政党が警戒を高めている。移民の阻止を訴え、環境保護(グリーン)政策にはコストがかかると批判することで、ドイツ東部3州の選挙で勝利を収める勢いだ。

全国世論調査では、AfDの支持率は17−19%と過去最高に近い数字で、調査によってはショルツ首相の社会民主党と2位を争う位置にある。10.3%の得票を確保した2021年の選挙の時点では第5位だった。

AfDがこれほどの支持率を記録したのは、欧州移民危機発生後の2018年以来となる。今回、ナショナリズムと反移民を掲げるAfDとしては、ショルツ首相率いる3党連立政権の内輪揉めにも乗じた格好だ。

極右政党は欧州各国で勢力を広げつつある。フランスでは選挙での対立候補として以前より強力になり、イタリアとスウェーデンでは連立与党として政権に加わっている。

とはいえ、ナチスという過去を持つドイツにとって、AfDの台頭は特に神経を使う問題だ。同党は移民流入の多さやインフレの高進、費用のかかる「グリーン移行」政策をめぐって現政権を激しく批判している。

ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は、AfDの青年組織を「過激派」と認定し、「人種差別的な社会概念」を広めているとしている。また同庁トップは、対ロシア制裁に反対するAfDが、ウクライナ情勢に関するロシア側のプロパガンダを流布することに協力したと批判している。

ドイツの主要政党はAfDとの協力を拒否して同党を政権から締め出してきたが、AfDの批判者は、AfDがドイツの政界主流をさらに右寄りに引きずるのではないかと懸念している。

デュッセルドルフ大学で政治学を研究するステファン・マーシャル氏は、「移民などの課題をめぐる論調がとげとげしいものになっている」と語る。

移民問題はドイツの政治課題の中で比重を高めつつある。東部ザクセン州のミヒャエル・クレッチマー州首相は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)出身だが、先週、移民の数が「多すぎる」と述べ、難民受け入れ数の制限と、給付の削減を訴えた。

<グリーン移行のコストは>
(中略)またAfDは人類の活動が気候変動の原因になっているとすることに異議を唱えており、化石燃料からの脱却に伴うコストに関する一部有権者の懸念も利用してきた。

AfDのティノ・クルパラ共同党首によれば、ショルツ政権の連立パートナーであり、化石燃料からの移行の加速を要求している緑の党の政策が、「経済戦争やインフレ、脱工業化」をもたらすと評価する有権者が増加しているという。 「緑の党のような危険な党と連立を組むことのない政党は、私たちAfDだけだ」とクルパラ氏は言う。

2024年に州議会選挙が行われるドイツ東部のチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州では、AfDが初めて第1党になろうとしており、世論調査では23−28%の支持を集めている。

アナリストによれば、旧東独地域では有権者の支持政党があまり固まっておらず、AfDを受け入れる余地がある。統一から30年経った現在も旧東独地域の低所得傾向は続いており、その責任は長年にわたって政権交代を繰り返してきた主要政党にあると有権者が考えていることも理由の一端だという。

連立政権から排除されているとはいえ、AfDの台頭は他党の票を奪っており、州と国政双方のレベルで連立がより不安定にならざるをえない。AfDの支持が最も高い旧東独地域では、それが顕著だ。

<不満のうねり>
マンハイム大学で政治学を研究するマルク・デブス氏によると、一部の有権者たちのあいだでは、特に保守政党は左派と協調するのではなく、正式な連立には至らないまでも、もっとAfDとの連携を強めるべきだという声が強まる可能性があるという。(中略)

他方で、AfDは複数の危機が一時的に重なったことに伴う不満の高まりに便乗しているだけだという見方もある。インフレもすでに峠を越え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い冬季に急騰したエネルギー価格も落ち着いてきた。

ショルツ政権のウォルフガング・ビューヒナー報道官は、同政権はAfDへの支持を徐々に抑え込んでいけると確信していると語る。 「ショルツ首相は、私たちが良い仕事をしてドイツの問題を解決していけば、この件について心配する必要がなくなる日もそう遠くないと楽観している」と、同報道官は話した。【6月10日 ロイター】
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ウクライナ・カホフカ水力発電所ダムの決壊  原因については不明 確かなことは甚大な被害

2023-06-08 22:27:23 | 欧州情勢

(カホフカダムが決壊し、水浸しとなった住宅街=ウクライナ南部ヘルソン州で7日、AP【6月8日 毎日】)

【ダム決壊に諸説】
連日大きく報じられているウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊については、その被害の大きさに加えて、ウクライナ側の反転攻勢が始まろうとしていた(あるいは、始まった)ちょうどそのタイミングで起きただけに、一体誰が?という犯人・原因について周知のようにいろんな憶測がなされています。

****ダム決壊に諸説も、ロシア関与の見方広がる…発電所のSNS「機関室が内部から爆破された」****
ロシアが侵略するウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所ダムの決壊原因を巡り、様々な可能性が指摘されている。

米政策研究機関「戦争研究所」が6日、断定は避けながらも、「ロシアが意図的にダムを損傷した」ことが決壊につながったと分析するなど、ロシアによる関与が原因との見方が広がっている。

ウクライナ軍南部方面部隊は、ダム決壊後の6日午前7時30分過ぎにSNSに「露軍がカホフカ水力発電所を爆破した」と投稿した。

これに続き、ウクライナ国営の水力発電所企業はSNSで「発電所の機関室が内部から爆破された結果、発電所は完全に破壊された」と発表し、ダムを占拠する露軍が意図的に爆破したとの見方を補強した。

ウクライナ大統領府は露軍が6日午前2時50分頃に、発電所を爆破したと発表しているが、直接的な証拠は示していない。

ダムの強度が損なわれた結果、決壊したとの指摘もある。米CNNは6日、衛星写真の比較に基づき、ドニプロ川をまたぐように並ぶ発電所やダム水門と陸地を結ぶ橋の一部が、今月1日から2日の間に消失していた可能性があると報じた。

一部の軍事専門家からは、露軍が1日に橋の一部を爆破したことが原因との分析が示されている。
露軍は昨年11月、ヘルソン州の州都ヘルソンを含むドニプロ川西岸地域から撤退した際に、橋の一部を爆破している。

こうした分析以外では、発電所を管理する露軍が意図的にダムの水量を増やした結果、貯水量がダムの許容範囲を超え、6日未明に決壊した説も浮上している。

米紙ニューヨーク・タイムズは5月中旬、ダム上流部の貯水池の水位が過去30年間で最も高くなり、洪水が発生する恐れがあると報じていた。米国メディアの科学記者らは6日、SNSで、貯水量の記録的な増加や、ダムの既存の損傷を根拠として、決壊はある程度の時間をかけて進んだとの見解を発表した。

一方、タス通信によると、露大統領報道官は6日、「ウクライナの破壊工作だ」と主張した。背景として、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの水源にしているダム下流の運河を使用不能に追い込む狙いがあることなどを挙げた。

米NBCは6日、決壊の原因について、複数の米当局者の話として米情報機関が「ロシアが背後にいるとの見方に傾いている」と報じた。【6月7日 読売】
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ロシア、あるいはウクライナによる意図的な破壊、あるいは貯水量がダムの許容範囲を超えて決壊に至った・・・今の段階では何とも言い難い状況です。

ダム決壊がロシア・ウクライナどちらにどれだけのメリット・デメリットがあるかの議論もなされていますが、だからと言ってどちらの犯行とも決めかねます。

ロシア・ウクライナは当然のように相手の犯行と非難していますが、アメリカ・ホワイトハウスは6日、何が起きたのか現時点で決定的に言うことはできないとして、情報の精査を続ける考えを示しています。

【真相がわからないこの種の事件 「ノルドストリーム」爆破についても今になってウクライナ軍犯行の情報も】
この種の議論は慎重に行う必要があります。

昨年9月に起きたロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」の爆発について、当時はロシア側の犯行も強く疑われていましたが、欧米情報機関がウクライナ軍の爆破計画を3か月前には情報共有していたことが今になって報じられている・・・というように、水面下の真相は正直なところよくわからない面が多いからです。

****パイプライン爆破、3カ月前に察知か=ウクライナ軍が計画―米紙****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6日、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」で昨年9月に起きた爆発に関し、欧州の情報機関が事件の3カ月前にウクライナ軍による秘密攻撃計画を察知し、米中央情報局(CIA)と情報を共有していたと報じた。

同紙は、米空軍州兵(4月に逮捕・起訴)が通信アプリ「ディスコード」のグループ内で共有していた機密文書のコピーを入手。それによると、昨年6月にウクライナ特殊部隊のメンバー6人が潜水艇でバルト海に潜り、パイプラインを破壊する計画を立てていた。

ドイツ当局のこれまでの捜査によると、偽造パスポートを用いた6人が9月にヨットを借り、パイプラインを切断するために爆発物を仕掛けたとみられている。

パイプライン爆破を巡り、欧米メディアは「ロシア犯行説」などを伝えていたが、ロシア側は関与を否定している。ワシントン・ポスト紙の報道が事実であれば、欧米陣営は当初からウクライナ軍の工作を疑う根拠を持っていたことになる。【6月7日 時事】 
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“ウクライナ軍トップのザルジニー総司令官の下で計画は立案され、ゼレンスキー大統領は知らされていなかったということです。

パイプラインが実際に破壊されたのは去年9月ですが、計画と実際の状況には違いもあり、事前に情報が漏れたことで、ウクライナ軍が計画を見直した可能性があります。”【6月7日 テレ朝news】

ゼレンスキー大統領は自身及びウクライナの関与を否定しています。

****パイプライン爆破、関与を否定 ゼレンスキー氏****
天然ガスをロシアからドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」で昨年起きた爆発について、欧州の情報機関がウクライナ特殊部隊による爆破計画を事前に察知していたと報じられたのを受け、ウォロディミル・ゼレンスキー同国大統領は7日、そうした計画は関知していなかったと述べた。(中略)

ゼレンスキー氏は独紙ビルトのインタビューに通訳を介して応じ、大統領として命令権限があるが、「そうしたこと(命令)は一切していないし、絶対にしない」と語った。

さらに「わが国の軍も情報機関も実行していないと信じている」「われわれは100%、何も知らない」と訴えた。 【6月8日 AFP】
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まあ、この種の破壊工作は密かに行われますので、真相は部外者にはわかりません。
今回のダム決壊にしても、どちらに有利云々で軽々に判断すべきものではないでしょう。

再選を果たしたトルコ・エルドアン大統領がさっそく国際的な調査委員会を立ち上げることを提案していますが・・・・仮に調査委員会ができたとしても、あまり明確な結論は期待できません。

****トルコのエルドアン大統領 ウクライナ南部のダム破壊で国際調査委の創設提案****
トルコのエルドアン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ダムの破壊を巡り、国際的な調査委員会を立ち上げることを提案しました。

タス通信などによりますと、トルコのエルドアン大統領は7日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談し、ウクライナ南部ヘルソン州にある水力発電所のダムの破壊を受けて、国連とロシア、ウクライナ、トルコが参加する国際的な調査委員会の立ち上げを提案したということです。

ゼレンスキー氏の対応についてはまだ明らかになっていません。(後略)【6月7日 テレ朝news】
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【甚大な被害 飲料水確保への影響も】
誰の犯行か? あるいは意図しない事故だったのか・・・そこらはわかりませんが、甚大な被害をもたらしているのは事実です。

****ウクライナのダム決壊、4.2万人に洪水被害リスク 国連「生計失う」*****
ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所に設置された巨大ダムの決壊について、同国の当局者らはドニエプル川沿いのロシアとウクライナの支配地域でおよそ4万2000人が洪水被害に遭う危険性があると予想した。国連の支援責任者は重大な影響が広範囲に及ぶと警告した。

ウクライナとロシアは互いにダム決壊の責任が相手側にあると非難。ウクライナはロシアが意図的に旧ソ連時代のダムを爆破するという戦争犯罪を犯したと批判し、ロシア側はウクライナがこのほど開始した反転攻勢のつまづきから注意をそらす狙いがあると主張した。

国連の人道支援責任者であるマーティン・グリフィス事務次長は安全保障理事会で、ウクライナ南部の何千人もの人々が住宅や食料、安全な水を失い、生計を立てられなくなるなどの重大な影響を受けると警告。「数日中にこの大惨事の重大さについて全容を知ることになるだろう」と述べた。

死者は報告されていないが、米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は多くの死者が出た公算が大きいと指摘した。

ダムから60キロメートル下流のヘルソン市では6日に水位が3.5メートル上昇し、住民は膝まで水につかりながら避難を余儀なくされた。

冠水する危険性がある約80の集落には住民を避難させるためにバスや列車、民間車両が動員された。ロイターの記者は6日夜に市内の住宅地域の近くで、住民が避難しようとする中で砲撃の音が4回鳴り響くのを聞いた。

ドニエプル川沿いのロシア占領地域にある動物園は水没し、300匹の動物が全て死んだという。関係者がフェイスブックの公式アカウントに投稿した。

米国はダム決壊の責任の所在は明らかではないとしているが、ロバート・ウッド国連代理大使は、ウクライナが自国の領土と国民に対してこのようなことをするのは理にかなわないと指摘した。

ジュネーブ条約では、民間人に危険が及ぶためダムは紛争時の標的にしてはならないと定められている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は定例のビデオ演説で、同国の検察当局が既にダム破壊の捜査に国際司法を関与させるよう国際刑事裁判所(ICC)の検察官に打診していると明らかにした。

一方、国際原子力機関(IAEA)はダムの貯水池から原子炉の冷却水を取水していたザポロジエ原子力発電所について、貯水池の上にある池から「数カ月」は冷却水を取水できるとの見通しを示した。【6月7日 ロイター】
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洪水による直接の被害もさることながら、飲料水への影響も懸念されます。

****ウクライナ南部のダム破壊、数十万人が飲料水入手困難に=大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は7日、南部にあるカホフカダムの破壊により、数十万人が通常通りに飲料水を手に入れることができなくなったと述べた。

メッセージアプリ「テレグラム」に「ウクライナ最大の貯水池の一つが破壊されたのは絶対に意図的なものだ」と投稿し、ロシアを非難。一方、ロシア側は破壊の責任はウクライナにあるとしている。

ウクライナ当局によると、南部と南東部のドニプロペトロウシク、ザポロジエ、ミコライウ、ヘルソンの各州一部で水の供給に支障がでている。

クブラコフ副首相は「現在の最優先事項はロシアのテロ攻撃で影響を受けた地域に水を供給することだ」とツイートした。【3月7日 ロイター】
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結果として、ウクライナ側は反転攻勢だけでなく被害対策にも力点を置かざるをえず、その点では勢いをそがれる可能性もあります。

【クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになるとの見方も】
一方、飲料水への影響で注目されるのは、プーチン大統領が誇る「成果」でもあるクリミアへの影響が甚大で、しかも数年の長期に及びそうだということ。

クリミアは、ウクライナ側としてはなんとか奪還する形で戦争を終えたいところですが、ロシア・プーチン大統領は、もしクリミアが危うくなればいよいよ核兵器の使用に手をかけるのでは・・・との不安も増す、そういう敏感な地域です。

****ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦土作戦」****
<環境を汚染し、飲料水も農地も奪ったダム決壊をウクライナはダム破壊による「焦土作戦」と呼ぶ。それも「焼かれた」のは、昨日まで自国領だと言っていた土地だ>

ウクライナ政府はカホフカ・ダムの決壊で、南部の何万人もの住民が飲料水を利用できなくなると警告した。ウクライナ南部は今後何年も深刻な水不足に陥り、農業生産も大打撃を受けるとの懸念が広がっている。(中略)

米シンクタンク・ジェームズタウン財団のアナリスト、アラ・フルスカによると、カホフカ貯水池の水位は1時間に15センチのペースで低下し続けており、深刻な水不足が予想されるという。
「今後数日様子を見ないと水の動きは読めないが、非常に深刻な影響が出ることは間違いない」

ロシア軍は北クリミア運河の利用を断念
「ヘルソン州の南部とクリミア、特にクリミア半島北部では飲料水が入手できなくなる恐れがある」と、フルスカは述べている。

カホフカ貯水池はウクライナのドニプロペトロウシク州の都市クリビー・リフで使用される水の70%前後を供給しており、市当局は市民に飲料水を貯めておくよう呼びかけた。ミコライウ州とザポリッジャ州、さらに南の地域の水供給にも影響が及ぶ恐れがある。

フルスカによれば、クリミアに駐留するロシア軍も、カホフカ貯水池から取水した水をクリミア半島に供給している「北クリミア運河」がもはや頼りにならないことを認めたという。

2014年のロシアによるクリミア併合で、ウクライナはこの運河経由のクリミアへの給水を制限したが、ロシアは昨年2月のウクライナ侵攻後、カホフカ・ダム周辺地域を支配下に置き、運河を経由してクリミア半島に淡水が豊富に供給されるようにした。

しかし「カホフカ海」と呼ばれるほど広大な貯水池が決壊した今、「クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになると、多くの専門家がみている」と、フルスカは言う。

ウクライナ環境連盟の代表で、環境問題でウクライナ政府の顧問を務めるテチャナ・ティモツコはウクライナの国営通信社ウクルインフォルムにダム決壊は「この地域全体の農業に甚大な打撃を及ぼすだろう」と語った。

「クリミア半島は今後10年か15年、ことによると永久に淡水を確保できなくなる恐れがある」と、ティモツは述べた。

浸水地域の水が引けば、被害状況が明らかになるだろうが、ダム破壊が環境に与える影響について、本誌がウクライナのアントン・ヘラシチェンコ内相顧問にコメントを求めると、自身のツイッターの7日付けの投稿を見てほしいと言われた。

ヘラシチェンコはこの投稿で「カホフカ水力発電所の破壊は環境に壊滅的な被害を与える」と警告し、後2〜4日でカホフカ貯水池の膨大な水は全て流出すると予測。一帯の国立公園や広大な土地の破壊など、環境に与える打撃を列挙している。

ヘラシチェンコはまた、ヘルソン州とミコライウ州の一部地域では何百種もの動植物が姿を消し、灌漑用水が使えなくなるためヘルソン州とザポリッジャ州のざっと150万ヘクタールの土地が穀物栽培など農業生産に利用できなくなると予測している。

ウクライナ内務省の顧問であるアントン・ゲラシュチェンコはツイートで、ドニプロ川から溢れた水は、有害物質やゴミを呑み込んで有毒かもしれないだけでなく、土壌から流出した地雷も紛れて近づくのは危険だと書いている。

ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は、この「攻撃」は、退却する軍隊が敵に利用されそうなものはすべて焼き尽くしていく軍事戦略「焦土作戦」そのものだと言った。

この場合恐ろしいのは、クリミア北部も含め被害に遭った土地の大半が、ロシアが「自分のもの」だとして統治してきた土地だということだ。「大地を焼き尽くす代わりに水浸しにすることで、この土地はもはやロシアのものではないと認めたようなものだ」【6月8日 Newsweek】
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クリミアの飲料水が確保できなくなれば、この地域の統治もできなくなります。

上記記事はロシアの犯行を前提にしているようにも見えますが、逆に、ロシアが「自分のもの」とするクリミアに甚大な影響を与えるようなことをロシアが行うはずがないという主張も成り立ちます。

何べんも言うように、現段階ではダム決壊の理由はわかりません。おそらくしばらくは“わからない”状況が続くのではないでしょうか。被害状況の方は今後明らかになってくると思いますが。
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