孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  国際支援に二つの懸念 スロバキア新政権とアメリカ新下院議長

2023-10-28 23:23:54 | 欧州情勢

(スロバキア・スラビンには第2次世界大戦においてスロバキア首都ブラチスラバ解放で倒れた6,278人のソビエト兵士が埋葬されています【英語版ウィキペディアより】)

【膠着状態のウクライナ戦局】
連日圧倒的な量の情報が報じられているパレスチナ情勢の一方で、先日までメディアの中心的な関心事であったウクライナ情勢に関しては目立った情報をめにしなくなりました。

それはメディアの関心がパレスチナに向いているということに加えて、東部でのロシア、南部でのウクライナ双方の攻勢が相手側の抵抗にあい、戦況が膠着状態にあるためでしょう。

****露軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州****
ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデエフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。

シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデエフカへの攻勢を強化。露軍は同州バフムトの制圧後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。

ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデエフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)の度を増している。【10月26日 産経】
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【スロバキア新政権はウクライナへの武器供与停止を発表】
戦況は膠着状態ですが、ウクライナにとって生命線である国際支援については懸念すべき材料も生じています。

ひとつは欧州にあって、スロバキアにおいてロシア寄りの主張を掲げて9月の総選挙を制した政権が誕生したこと。

****ウクライナ支援疲れ、浮き彫りに 東欧で足並み乱れ拡大も****
ウクライナの隣国スロバキアで9月30日実施の国民議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えた左派スメルが第1党になり、物価高騰などに直面する有権者の支援疲れが浮き彫りとなった。ポーランドでも10月、総選挙が予定され、東欧で支援を巡る足並みの乱れが拡大する可能性がある。

スロバキアはウクライナ支援では、旧ソ連製の戦闘機や旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムを供与するなど積極的だった。

一方、近年はコロナ感染拡大などの難局に直面。「ウクライナ人が優先されている」との不満が高まった可能性がある。スメルはこうした声を取り込んだとみられる。

ポーランドでは侵攻後、東欧経由の陸送拡大で通過する安価なウクライナ産穀物が自国内に流入。市場価格は侵攻前の3分の1に下落したとされ、農家が強く反発する。

総選挙を控え、政権を率いる保守与党は支持基盤である農家の保護優先を強調。モラウィエツキ首相は「自国の利益が最も重要だ」との主張を繰り返し、ウクライナへの武器供与停止にも言及している。【10月2日 共同】
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上記記事にあるポーランドに関しては、10月24日 ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、EUと歩調を合わせる野党による政権ができる流れですが、スロバキアの方は早くもフィツォ新首相が「もうウクライナに武器は送らない」と明言しています。

****ウクライナへの武器供与停止=スロバキアが正式表明、人道支援は継続****
東欧スロバキアのフィツォ新首相は26日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止すると正式に表明した。AFP通信が伝えた。人道支援や財政的な援助は継続する方針。

フィツォ氏は国民議会の議員らに「もうウクライナに武器は送らない」と明言した。ロシア寄りの左派政党「スメル(道標)」を率いる同氏は、軍事支援の停止やウクライナ和平推進を訴えて9月の総選挙に勝利。今月25日に首相に就任した。【10月26日 時事】
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ポーランドは最近のウクライナ産穀物をめぐる問題、そこから派生するウクライナ支援に関する不協和音は別として、欧州でも最もロシアに対する警戒感が強い国で、従来からウクライナ支援では先頭に立つ国でした。
そのウクライナ支援・ロシア批判という点では、現政権も今後成立する新政権も基本的には同じでしょう。

ということは、ウクライナ支援に関して言えば、欧州はこれまでのハンガリーに加えてスロバキアという反対勢力が増えた形になります。そのあたりは早速表面化しています。

EU首脳会議は27日、ウクライナに対する「強力な財政的、経済的、人道的、軍事的、外交的支援を提供し続ける」ことで大筋合意しましたが、詳細を決定していくうえではハンガリー・スロバキアの抵抗が予想されます。

****EU、ウクライナ支援で亀裂 ハンガリーとスロバキアが難色****
欧州連合(EU)はウクライナに向こう4年間で500億ユーロ(530億ドル)を支援する案を大筋で支持したが、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じていることが明らかになった。

EUはブリュッセルで開催された首脳会議2日目に「ウクライナとその国民に必要な限り、強力な財政・経済・人道・軍事・外交支援を提供し続ける」と明記する声明を採択した。EU欧州委員会は6月、2024─27年にウクライナに500億ユーロを支援することを提案している。

ドイツのショルツ首相は首脳会議後「ウクライナの財政安定のために必要なことが決定されると予想している」とし、「部分的に異なるアセスメントが決定に影響するとは考えていない」と述べた。

アイルランドのバラッカー首相は2日目の協議前「ウクライナに追加の資金が必要だという強い意見があり、その点はほぼ一致している」とした上で「ただ、資金をどこから捻出するかについては、効率性を除いてほとんど意見が一致していない。12月までに合意できると思う」と述べていた。【10月27日 ロイター】
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【スロバキアの親ロシア感情】
スロバキアの親ロシア感情については、“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”という歴史の一面(もちろん、チェンバレン、ヒトラー、スターリンにはそれぞれの思惑があっての「結果」ではありますが)が影響しているとの指摘も。

****共産党支配に苦しんだ国のはずなのに...スロバキアで体感した「親ロシア」の謎****
<旅行中に偶然居合わせたスロバキア総選挙では、親ロシアを掲げる政党が第1党に。旧ソ連兵を大事にまつり、欧米に反発するスロバキアの背後にある複雑な事情とは>

(中略)さらに偶然に、僕はブラチスラバ最初の朝を、大いに意味のある場所から始めていた。良い天気だったし外で朝食を取りたいと思った僕は、ホテル近くの丘の上に大きな緑地があることを地図で知った。スラビンというところだ。ここが1945年にブラチスラバを解放したソビエト赤軍の戦死者を称えた記念碑であることは、着いてから初めて知った。

その場所が完璧に維持管理されていて、街を一望できる目立つ場所にあり、そして「赤軍の犠牲への敬意」がそこかしこに記されている点に僕は驚いた。旧ソ連圏の国々のほとんどでは、ソ連時代の記念碑は破壊されるか軽視されるかしていた。あるいは少なくとも、共産主義支配の「罪」のほうも忘れないために、という狙いで残されていた。

でもスラビンの記念碑は汚れ一つないだけでなく、スターリンが事実上ヒトラーに代わって新たな占領者になっただけだという意味合いは全く匂わせず、2015年に改良工事まで行われていた。もちろん解放70周年記念の年ではあったのだが、ロシアがクリミア半島に侵攻した翌年でもあった。ロシア軍をあえて記念しようとするには奇妙なタイミングだ。(中略)

ヒトラーを倒すために多くの戦いを担い、多くの犠牲を生んだのはソ連軍兵士であったことは、西側にとってもきまりの悪い公然の秘密だ。人類の自由と国家の主権にとって、ソ連は恐ろしい敵だったという僕自身の考えはそのままに、彼らの犠牲には敬意を払うべきだと僕は感じた。

それでも、スロバキアの市民が彼ら「解放者」に感謝よりも怒りを感じないでいられるのは、理解し難かった。チェコスロバキア(当時)の発展は数十年も停滞した。スロバキアの共産党指導者アレクサンデル・ドゥプチェクが自由化を図ろうと「プラハの春」を進めると、ソ連はただもう単純に侵攻して自由化を阻止し、あらゆる反対派をつぶした(1968年)。

イギリスによって「売り渡された」歴史
(中略)僕はオーストリア国境に向かって、ブラチスラバ郊外の森の中へと足を踏み入れた。奥深くには、第1次大戦後にチェコスロバキアが成立した当時に建てられたバンカーが数多く残されていた。(中略)

重要なのは、これらが重大な要塞の数々だったのに、イギリス史上最も恥ずべき瞬間の一つである1938年のミュンヘン協定によって、その重要性が失われてしまったことだ。ヒトラーのドイツ(既にオーストリアを併合していた)はチェコスロバキアのいわゆる「ズデーテン地方」をドイツに割譲するよう求めていた。多くのドイツ系が居住していた地域だ。

戦争を回避するために、イギリスのネビル・チェンバレン首相は「協定」を交渉し、そのなかでチェコスロバキアはこの領土を割譲するよう強いられ、そのうえ戦わずして国境地帯の要塞を全て放棄しなければならなくなった。

その翌年、当然ながらヒトラーは無防備になったチェコスロバキアの残りの地域に軍を向かわせ、征服した。事実上イギリスは、ドイツとの戦争を回避しようとの無駄な努力によってチェコスロバキアの主権を売り渡したことになる。

明らかに、今のスロバキアにおける親ロシア政治には、歴史的背景以上の理由がある(LGBTの権利や移民問題など、ある種の「リベラルな価値観」への反発もあるだろう)。

でも僕は、イギリスが自らの保身のためチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ロシアが大きな犠牲を払ってヒトラーを追い出したと考えるのは理にかなっていると思う。だから「西側は善、東側は悪」という単純な物語は、スロバキア市民にとっては必ずしもそう単純ではないのだ。【10月12日 Newsweek】
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“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”といった認識を是とするかどうかは議論があるところでしょうが、西欧と中東欧では歴史も認識も異なるものがあるということは留意すべきことでしょう。

私のような年代の者にはチェコスロバキアと言えば東京オリンピック(1964年)で活躍した女子体操のチャスラフスカ、彼女も関与した「プラハの春」(1968年)が想起されますが、このソ連への抵抗と弾圧の「プラハの春」にしても、欧米的な理解とスロバキア国内での理解・評価にはズレもあるのかも・・・。

【アメリカ下院新議長 ウクライナへの追加支援に難色か】
ウクライナにとって、今後の支援に関し懸念すべきもうひとつの材料は、死活的に重要な最大の支援国アメリカの動向です。

周知のようにアメリカでは異例の大混乱の末、ようやく下院議長が決まりましたが、マイク・ジョンソン新議長はtトランプ前大統領に近く、これまでロシアの侵攻を受けるウクライナへの追加支援に反対するなどバイデン政権と対立してきた人物です。

“トランプ前大統領の周辺の人たちは、ウクライナ支援を続けることに反対の立場です。11月半ばにつなぎ予算が切れたあと、アメリカがどんな姿勢を示すかは、ウクライナ戦争の結果に大きな影響をもたらします。”【10月27日 ニッポン放送NEWS ONLINE】

****ウクライナとイスラエルの支援策を分割すべき=米下院新議長****
ジョンソン米下院新議長は26日、ウクライナとイスラエルへの支援策は別々に扱うべきだと述べ、バイデン大統領が要請している両国支援を盛り込んだ1060億ドル規模の予算案を支持しないことを示唆した。

議長はFOXニュースのインタビューで、大統領とこの日会談し、ホワイトハウス側に両国の問題を分ける必要があるというのが下院共和党のコンセンサスだと伝えたと語った。

ジョンソン氏は「ウクライナ(支援)での最終目的は何かを知りたい」とし、「ホワイトハウスはそれを示していない」と述べた。

バイデン氏は、予算案にイスラエルと移民への支援を含めることでウクライナへの追加支援に慎重な共和党下院議員を説得したい考えだ。

予算案にはイスラエル向け支援が143億ドル、ウクライナ向けが610億ドル盛り込まれている。【10月27日 ロイター】
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次期大統領選挙でバイデン大統領が敗れてトランプ前大統領が復活する事態になれば、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の命運も尽きる可能性が濃くなりますが、それ以前にジョンソン新下院議長という厄介を抱えることにもなっています。

ゼレンスキー大統領としては、欧州・アメリカの“ウクライナ支援疲れ”的な動きが表面化する前に戦況において大きな成果を得て、支援継続を確固たるものにしたかったところですが・・・思いどおりには行っていないようです。
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ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か

2023-10-24 22:30:34 | 欧州情勢

(ポーランドの野党連合「市民連立」を率いるドナルト・トゥスク氏【10月16日 BBC】 極右勢力、ポピュリズムの台頭に悩むEUにとっては、ポーランドでの親EU政権樹立は(まだ確定ではありませんが)珍しく明るい話題になりそうです)

【西欧的価値観に抗うEUの“異端児”ポーランドとハンガリー】
EUないにあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

****EU内部での価値をめぐる戦い****
(中略)冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。

EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。

例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。

実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた2022年4月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。

オルバーン派は、影響力のある独立系メディアの経営権を掌握する動きも同時に進めており、選挙が定期的に行われていると言うことはできても公平な選挙が行われているとは言えない状況である。

また、EU基金の不正利用や利益相反といった組織的な汚職疑惑が多いにもかかわらず、起訴率はほかのEU諸国と比べて低い水準にとどまっており、オルバーン首相とその周辺による公的資金の私物化が進められていると言える。

ポーランドも、政府にとって都合の悪い裁判官に対して定年引き下げや懲罰制度などを通じた介入を試みており、法の支配と司法の独立性が脅かされつつある。

EU内の現実を目にして、期待は失望に
民主主義と法の支配はともにEU憲法条約の第2条においてEUの基本的な価値と記されている。EU加盟の際には「コペンハーゲン基準」をクリアする必要があり、その条件の中には民主主義や法の支配も含まれているため、ポーランドやハンガリーでも導入が進められた。

しかし、加盟後はそうしたテコが使えず、代わりにEU憲法第7条を根拠としたEU基金の停止を新たなテコとして両国の状況改善を求めている。

それにもかかわらず、両国はEUの基本的な価値の書き換えに向けた試みを続けている。

EU加盟当初、ポーランドとハンガリーはEUのメンバーとなることで西欧諸国や中欧のオーストリアと同レベルの豊かさを享受できると期待していた。そうした期待は厳しい市場競争や経済格差というEU内の現実を目の当たりにして、EUへの失望に変わってしまった。

この失望は両国の保守派の間で、冷戦終結以後に推し進めてきた民主主義や法の支配の確立といった取り組みへの反発をもたらした。

さらには、両国はEUからの政治的な抑圧を受けており自律的な意思決定が妨げられているという、ドイツをはじめとした欧州の大国およびEUに対する不満も増大させた。

こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。(後略)
【2022年11月21日 石川雄介氏 東洋経済オンライン「ポーランドとハンガリーの反発に映るEUの揺らぎ」】
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【ポーランド総選挙の結果、親EU野党への政権交代となる見込み】
そうした“異端児”の一画、ポーランドで政権交代が実現しそうです。(実際の政権確定は今後の議会内手続き後になりますが)

****ポーランドで総選挙、与党は過半数確保できず、政権交代の公算大****
ポーランド議会の総選挙(上院100議席、下院460議席)が10月15日に行われた。8年ぶりに政権交代する可能性がある。上下両院の投票率はそれぞれ74.31%と74.4%となり、ポーランドが民主主義へ体制転換した1989年以降、初めて70%を超えた。

国民選挙管理委員会(PKW)が10月17日に発表した最終集計結果によると、政権3期目を狙っていた保守与党「法と正義(PiS)」は下院で194議席を獲得した。

PiSが第1党となったが、欧州理事会(EU首脳会議)の前常任議長であるドナルド・トゥスク元ポーランド首相率いる「市民連立(KO)」が、中道の「第3の道」および「新左派」と合わせて248議席となり、野党勢力が多数派を形成できる見込み。

仮にPiSが18議席を獲得した極右野党「同盟」(注1)と連立を組んだとしても、過半数には届かない。

10月24~25日に、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が、国民議会入りした各党の代表と個別に協議を行う予定だ。同大統領は選挙期間中にも、勝利した政党が支持する候補者に政権樹立の使命を託すことを示唆していたことから、地元メディアは、同大統領が(現与党)PiSのマテウシュ・モラビエツキ現首相に政権樹立を一任する予定だ、と非公式に報じている。

新首相は、任命の日から14日以内に活動計画を国民議会に提出し、信任投票を得る。現地メディアは、この投票はおそらく否決され、現野党が政権を樹立することになる、と予測している。

PiSは2015年に政権の座に就いて以来、「法の支配」や、移民、LGBTなど性的少数者の権利を巡ってEUと対立してきた。国内の経済専門家は、政権交代すれば、EUとの関係が改善し、「法の支配」などを巡って凍結されているEUの復興基金の拠出が開始されるという見通しを示している。

上院では、PiSは34議席しか獲得できず、野党が2023年2月に結んだ上院議員選挙協力協定、いわゆる「上院協定」(注2)「に圧倒的に敗北した。

国民投票の結果は拘束力を持たず
今回の議会選挙と同日に、国民投票も実施された。その内容は、(1)国家資産の外国企業への売却、(2)定年の年齢引き上げ、(3)ベラルーシ国境の壁の撤去、(4)不法移民の受け入れ、の4点の是非を問うものだった。

国民投票に参加した国民の大多数は、各議題に反対票を投じた。ただし、今回の投票率は40.9%で、ポーランドの憲法で定められている50%に達しなかったことから、拘束力を持たない結果となった。

議会選挙の投票率は過去最高を記録したものの、国民投票の投票率が低かったのは、野党が国民投票を「与党の政治ゲーム」とし、ボイコットを呼びかけた結果とみられる。

(注1)正式名称は「自由と独立同盟」。
(注2)「上院協定」とは、2023年2月に野党により締結された、2023年10月15日の議会選挙において上院議員統一候補を立てる協力協定のこと。(後略)【10月23日 JETRO】
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【対ハンガリー制裁決議に拒否権を発動してきたポーランドの政権交代はハンガリーやEU結束にも影響】
この政権交代は単にポーランドだけでなく、ポーランドと並んでEU方針に抵抗してきたハンガリーにも影響が及びます。そして当然にEUの結束にも。

****EUの未来を左右するポーランド総選挙 ~反EU政権が倒れ、親EU政権が誕生へ~****
(中略)
政権続投を目指した(現与党)PiSは、(野党指導者)トゥスク氏をベルリン(ドイツ政府)やブリュッセル(EU)の操り人形で、ポーランドの独立を脅かし、イスラム諸国からの大量の移民流入を招くと批判、影響力を持つ国有メディアを使って選挙戦を有利に進めようとした。

また、PiSの支持基盤が強固な地方の投票所や投票所に向かうバス路線を増やしたほか、総選挙と合わせて、退職年齢、ベラルーシとの国境管理、EUの移民受け入れ割り当て、国有企業の民営化を巡る4つの国民投票を実施し、与党支持者の投票率を高めようとした。

対する野党勢は、与党が司法やメディアを支配していると批判、与党政権の続投がポーランドのリベラル民主主義を脅かすと主張、今回の選挙が共産党体制崩壊後のポーランドにとって最も重要で、EUの未来を左右すると訴えた。与党のスキャンダル発覚や野党の主張がEU再接近を求める若者の投票率上昇につながり、逆転勝利につながった。(中略)

(野党指導者)トゥスク氏はEUとの関係改善、司法介入などを巡って凍結されている欧州復興基金の拠出開始を目指すとしている。また、現政権が進めた中絶反対を撤回する可能性も示唆している。

経済政策面では、個人所得の非課税枠の倍増、住宅の新規購入や改修時の補助金、3歳未満の子育て中の母親の職場復帰時の補助金、公共部門の20%の賃上げなどを主張しており、現政権以上に拡張的な財政運営を計画している。

なお、近年、ポーランドとともにEUとの対立を繰り返してきたハンガリーは、これまでポーランドの拒否権発動で重要な制裁決議などを免れてきた。ポーランドで親EU政権が誕生することで、ハンガリーとEUとの対立がどう展開するかにも注目が集まる。【10月16日 田中理氏 第一生命経済研究所】
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【ハンガリー・オルバン首相 「EUは旧ソ連のパロディ」】
一方、ハンガリー・オルバン政権には、多くの事案で全員一致を必要とするEUも手を焼いています。
ウクライナ支援に反対するハンガリーをなだめるべく補助金凍結の解除を検討しています。

****EU、対ハンガリー補助金凍結の解除を検討 ウクライナ支援模索****
欧州連合(EU)は、ウクライナのEU加盟協議開始を含むウクライナ支援に関してハンガリーの同意を得るため、ハンガリーへの補助金の凍結を解除することを検討している。複数のEU高官が明らかにした。

ハンガリーは他のEU諸国よりもロシアと緊密な関係を築いており、EU加盟27カ国の全会一致を必要とするウクライナの加盟協議を開始するかどうかの決定に関して反対する可能性が高いとみられている。

また、EUの行政執行機関である欧州委員会は、ウクライナ支援を拡大するため加盟国にEUへの拠出を増やすよう求めている。この決定にも全会一致が必要だ。

EU高官の1人はロイターに対し、ハンガリーの同意を得るために、EUはハンガリーの補助金の状況について検討するだろうと語った。ハンガリーへの補助金は現在、オルバン首相が裁判所の独立性を制限したとして、法の支配への懸念から凍結されている。この高官は「まず凍結された補助金に対する解決なしに、ハンガリーが同意するとは考えられない」と述べた。

もう1人の高官も、ハンガリーへの補助金交付と、加盟国拡大や予算協議など全会一致を必要とするEUの計画との間に関連性があることを認めた。

3人目のEU高官は、約130億ユーロ(136億ドル)が検討されていると述べた。

ただ関係者らは、結論は既定ではなく、国内の景気停滞と財政赤字の拡大に直面しているオルバン氏によるところがかなり大きいことも強調した。【10月4日 ロイター】
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こうしたハンガリー・オルバン政権の対応が、「パートナー」ポーランドの政権交代・親EU路線への変更で、どのように影響を受けるかは今後の話です。

そのハンガリー・オルバン首相のロシア接近にはNATOも懸念を示しています。

****NATO、ハンガリー・ロシア首脳会談に懸念****
北大西洋条約機構加盟国とスウェーデンの在ハンガリー大使は19日、同国の首都ブダペストでハンガリーがロシアとの関係を深めていることへの懸念が高まっていることについて協議した。在ハンガリー米大使館がAFPに明かした。

NATO加盟国であるハンガリーのオルバン・ビクトル首相は同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国・北京で会談した。両首脳の対面での会談は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて。オルバン首相は、ウクライナ侵攻後もロシアとの緊密な関係を維持している。

米大使館の報道官によれば、協議の主要議題はこの首脳会談だった。
米国のデービッド・プレスマン駐ハンガリー大使は米国が出資するラジオ・フリー・ヨーロッパに対し、「ハンガリーがこのような形でプーチン氏と関わるのを選択したことは、憂慮すべきだ」と語った。

また「プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争を表現する際に、オルバン首相が使った言葉も同様だ。どちらも議論に値する」と批判。

「ロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛けているさなかに、ハンガリーの首相がプーチン大統領と会談したことをわれわれ全員が懸念している」と強調し、「安全保障上の正当な懸念があれば、同盟国に伝え、真剣に受け止めてもらうことを期待する」と付け加えた。

一方、ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は放送局ATVに対し、「米大使にハンガリーの外交政策を決定する権限はない。それはハンガリー政府の仕事だからだ」と語った。 【10月20日 AFP】
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なお、オルバン首相はEUを旧ソ連の「パロディー」だと批判しています。

****EUはソ連の「パロディー」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は23日、旧ソ連軍の撤退を求めてハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日に合わせて行った演説で、欧州連合を旧ソ連の「パロディー」だと批判した。

ハンガリーはEU加盟国だが、オルバン氏は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持している。

西部べスプレームで演説したオルバン氏は「歴史は時に繰り返す。幸いなのは、1度目は悲劇だったものが、2度目はせいぜい茶番に終わることだ」と発言。

その上で、「モスクワ(ソ連)は悲劇だったが、ブリュッセルはまずい現代版パロディーだ。モスクワが口笛を吹けば、われわれは踊らないわけにいかなかった。ブリュッセルも口笛を吹くが、われわれは好きなように踊ればいいし、躍りたくなければ踊らなくても済む」と述べた。

ただしオルバン氏は、EUは「まだ絶望的ではない」と補足。「モスクワは修復不能だったが、ブリュッセルとEUは修復が可能だ。欧州にはまだ選挙がある」と述べ、来年6月に予定されている欧州議会選挙に言及した。

オルバン氏は司法や報道の独立性、移民問題、性的少数者(LGBTなど)の権利をはじめ、さまざまな課題をめぐってEUと頻繁に対立しており、以前から欧州議会でポピュリスト政党が躍進し、EUに方針転換を迫ることを望むと語っている。 【10月24日 AFP】
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面白い批判ではありますが・・・旧ソ連とEUの決定的違いは、旧ソ連から勝手に抜けることはできませんが(反抗すればハンガリー動乱のようなことにもなります)、EUはイギリスのように抜けることができます。

「そんなにEUが嫌いなら、EUから出ていけばいいのに・・・」と思うのですが、出ていきません。
これまでハンガリーなど東欧諸国はEUから巨額の補助金を受け取っています。そのあたりの話でしょうか。

なお、多くの権威主義政治家がそうであるように、オルバン首相も、かつては“民主化の旗手”でした。

“1989年6月、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた。”【ウィキペディア】
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コソボ  セルビア系住民の武装集団が警察官を襲撃 繰り返す衝突

2023-09-27 22:33:54 | 欧州情勢

(【9月26日 FNNプライムオンライン】 記事に画像説明がないので定かではありませんが、今回のセルビア系武装集団による警官襲撃事件で押収された武器でしょうか。 もし、そうだとしたら警官襲撃といったレベルではないですね・・・画像左端は指向性対人地雷)

【コソボ北部セルビア人居住地域で繰り返される衝突】
欧州にあって対立・衝突を繰り返しているのが、一昨日ブログでも取り上げた南カフカス地方のアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフをめぐる争い、もうひとつがバルカン半島のセルビアとコソボの問題。

後者では、コソボ領内北部にセルビア人居住地域があって、コソボ政府との衝突を繰り返しています。
ユーゴスラビア解体、コソボのセルビアからの分離独立をめぐる戦争に起因する対立です。

セルビアの自治州だったコソボでは90年代、多数派のアルバニア系住民がセルビアによる自治権の縮小に反発。独立を目指すコソボ側の武装組織と、セルビア側の治安部隊との紛争が激化しました。

ユーゴスラビア解体の過程で、アルバニア系住民を主体とするコソボは2008年にセルビアからの分離独立を宣言。
激しい戦闘となりましたが、NATOがコソボを軍事支援したこともあって、コソボは実質的に独立。しかし、(欧米から“悪者”扱いされ、NATOによって激しい空爆までされて敗戦に追い込まれた)セルビアはこれを承認していません。

世界約110カ国がコソボの独立を認めているものの、セルビアのほか、ロシアや中国、EU加盟国ではスペイン、ギリシャ、ルーマニア、スロバキア、キプロスが独立を認めておらず、コソボは国連にも加盟していません。
(国内に分離独立運動を抱えている国は、コソボの独立を容認できないという問題があります)

仇敵の関係にあるセルビアとコソボですが、ともにEU加盟を目指しており、加盟実現のためには関係正常化が条件となるということで、国家間の対立については一応は矛を収めた形にはなっています。

****関係正常化へEU計画履行に合意 対立続くセルビアとコソボ****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は18日、対立が続くセルビアとコソボの関係正常化に向けたEUの計画をどのように履行するかについて、両国が暫定合意したと発表した。AP通信が伝えた。

北マケドニア(旧マケドニア)のオフリドで、セルビアのブチッチ大統領、コソボのクルティ首相と協議したボレル氏が、記者会見して明らかにした。セルビアの自治州だったコソボは、紛争を経て2008年に独立を宣言。セルビアは認めておらず、両国の対立は続いている。
 
ロイター通信によると、ブチッチ氏は「いくつかの点で合意したが、全てではない。最終合意ではない」と述べた。【3月19日 共同】
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しかし、実際には冒頭にも書いたように、コソボ(国民の90%を占めるアルバニア系に対し5%がセルビア系住民)領内北部のセルビア人居住地域で衝突が絶えず、このセルビア人の抵抗をセルビアが支援(とコソボ側が主張)、これにコソボが反発するという形で、両国の関係も改善しません。

2022年8月には、自動車のナンバープレートの扱いから騒動に。
“コソボは今年(2022年)、北部のセルビア系住民に対し、コソボがセルビアの一部だった1999年以前の古いナンバープレートを付け替えるよう要求。これに反発した住民が暴力的な行動を取るなどしていた。また、判事や検察官、警官などの公職に就く人が抗議のため今月一斉に辞職する事態に発展していた。”【2022年11月24日 ロイター】

この問題はEU仲介で“セルビアはコソボの都市名を冠したナンバープレートの発行をやめ、コソボは車両の再登録に関するさらなる措置を停止する。”【同上】という形で一応合意。

しかし、合意直後の2022年12月、セルビア系の元警官が他の警官に暴行したとして逮捕されたことがセルビア系住民の抗議行動を惹起。

釈放を求めるセルビア系住民が警察と銃撃戦を繰り広げ、逮捕された元警官の首都移送を防ぐために道路に10カ所以上のバリケードを築く事態に。

緊張緩和を求めるアメリカとEUの仲介で、“元警官が検察当局の要請により拘束を解かれ、自宅軟禁状態に置かれた”【2022年12月29日 ロイター】とのことで22年年末に道路封鎖は解除されました。

このあたりの経緯は2022年12月29日ブログ“繰り返す対立  コソボとセルビア アルメニアとアゼルバイジャン”で取り上げました。

しかし、上記ブログ記事で“今回の緊張状態はいったん収まったとしても、今後何らかの問題で再び緊張が高まる事態になりうることは容易に想像できます。”と書いたように、基本的な対立が緩和された訳ではなく、火種が残ったままですから何度でも同じような衝突が起きます。

今年5月には、北部のセルビア系が多数派の地域でセルビア系住民が市長選をボイコットし、アルバニア系の市長が誕生したことから、緊迫した状況になりました。

****コソボで治安部隊とデモ隊が衝突 アルバニア系市長の誕生で民族対立が激化****
旧ユーゴスラビアのコソボで、少数派のセルビア系住民のデモ隊と治安維持部隊が激しく衝突し、少なくとも25人が負傷した。

群衆が治安部隊に激しく殴りかかり、辺りでは催涙弾や閃光弾が飛び交っている。

ロイター通信によるとコソボ北部の街で29日、セルビア系住民と治安維持部隊が衝突し、治安部隊側だけで少なくとも25人が負傷、うち3人が重傷した。

コソボは2008年に独立を宣言したものの、国民の90%を占めるアルバニア系に対し5%のセルビア系住民が、独立を認めず対立が続いている。

こうしたなか、4月、北部の市長選挙で、アルバニア系市長が誕生したことをきっかけに両民族の対立が激化し、NATO=北大西洋条約機構の治安維持部隊が鎮圧に乗り出す事態となっている。【5月30日 FNNプライムオンライン】
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****NATO、コソボに700人追加派遣=衝突で隊員30人負傷****
北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は30日、ノルウェーの首都オスロで記者会見し、コソボ平和履行部隊(KFOR)に新たに700人を派遣すると明らかにした。コソボ北部でセルビア系住民のデモ隊と警察が衝突するなど緊張が高まり、KFORの隊員30人が負傷していた。【5月31日 時事】
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“フランスのマクロン大統領とドイツのショルツ首相は今月1日、欧州政治共同体(EPC)の首脳会合に参加するため訪問したモルドバで、コソボとセルビアの両大統領との4者会談を行い、セルビア系住民も参加して選挙をやり直すよう求めた。”【6月4日 毎日】

6月22日には、EUの外相にあたるボレル外交安全保障上級代表がEU本部のあるブリュッセルで、コソボのクルティ首相、セルビアのブチッチ大統領とそれぞれ数時間にわたる緊急協議(両氏が対面協議を拒んだため、ボレル氏が別々に会談)を行いました。

その後どうなったのか・・・情報を目にしていませんのでよくわかりませんが、少なくとも暴力的衝突の報道もないので、“それなりに”収まったのでしょうか。

【セルビア系住民の武装集団が警察官を襲撃】
そして今度は・・・

****コソボ北部でセルビア武装集団が警官殺害、反首相派の犯行か****
コソボとセルビア当局によると、コソボ北部で24日、セルビア系住民の武装集団が警察官1人を狙撃して殺害し、逃走した。武装集団側も3人が死亡した。

コソボ北部ではセルビア系住民が自治組織設立を要求し、コソボのクルティ首相がこれを拒否している。セルビアのブチッチ大統領は今回の犯行をクルティ氏に対する反乱だと評しつつ、コソボのセルビア系住民には冷静な対応を呼びかけた。

襲撃があったのはセルビア人が多数派を占める地域。バニスカという村の入り口にかかる橋上に十数人とみられるセルビア人武装集団がトラック数台で乗り付け、近づいてきた警察官を銃撃。1人を殺害した。その後、近くのセルビア正教会修道院に夜間まで立てこもった後、姿を消した。

セルビアとコソボは対立を続けており、欧州連合(EU)は双方との協議を行っていたが、前週に行き詰まった。

コソボ側は自治組織を認めれば国が民族ごとに分割されるとみる。セルビア側は公式にはコソボを領土の一部と見なすものの、争いを激化させるとの見方を否定。ただ、少数派セルビア系の人権が抑圧されているとコソボ側を批判している。【9月25日 ロイター】
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“襲撃には少なくとも30人が関与していて、手りゅう弾や対戦車兵器などが使われたという。警察が制圧に乗り出し、襲撃グループのメンバー6人を拘束したほか、3人が死亡した。”【9月26日 FNNプライムオンライン】


コソボのクルティ首相は襲撃者について「コソボに戦いに来た組織されたプロの一団」だと指摘しセルビアが支援したと主張しています。【9月25日 共同より】

一方、セルビアのブチッチ大統領は24日の会見で、「コソボ北部で起きることの全ての責任はクルティ(コソボ首相)にある。襲撃犯はコソボのセルビア人である。」として、セルビアの責任を否定しています。【9月26日 FNNプライムオンラインより】

部外者の私などは正直なところ、「どうしてそんなに憎しみあうのか・・・いいかげん別の道、和解の道を探ったらいいのに・・・」とも思いますが、おそらく今後も同じような衝突を繰り返すのでしょう。
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アルメニア・アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ紛争の経緯 今後アルメニア人住民12万人が脱出

2023-09-25 23:47:35 | 欧州情勢

(9月25日午前5時(日本時間午前10時)時点で、アルメニア政府によると、アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフから脱出しアルメニアに到着した避難民が2900人超に達した。写真はステパナケルトから車で避難する人々。24日撮影【9月25日 ロイター】)

【ナゴルノ・カラバフとは?】
黒海とカスピ海に挟まれた南カフカス地方に位置する旧ソ連のアゼルバイジャン(トルコ人に近いテュルク系民族 イスラム教)とアルメニア(多くの民族の混血の結果としてのアルメニア人 キリスト教系のアルメニア使徒教会)は、アゼルバイジャン領内に存在するアルメニア人居住地域ナゴルノ・カラバフをめぐって長年争ってきましたが、周知のように先日アゼルバイジャン側の軍事的勝利で一応の区切りがつきました。

話に先だって、下記は「ナゴルノ・カラバフ」の概略について整理した記事。

****ナゴルノ・カラバフとは? 紛争の理由が分かる5つのポイント*****
国際的にはアゼルバイジャン領だが、1991年から30年近く「ナゴルノ・カラバフ共和国」を自称するアルメニア人勢力が実効支配している。(中略)

01.どこにあるの?
(中略)ナゴルノ・カラバフがあるのは、黒海とカスピ海に挟まれた「コーカサス」と呼ばれる地域だ。全体的に山がちな地域で、多種多様な民族が入り組んで暮らしている。

歴史的にロシア、トルコ、イランなどの大国に囲まれており、国境線が絶えず入れ替わってきた。ナゴルノ・カラバフは、アルメニア共和国があるアルメニア高原の東端に位置し、標高1000~2000メートルの高地となっている。

02.どの国の領土なの?
国際的にはアゼルバイジャンの領土として認められている。しかし、1991年から30年近くに渡ってアゼルバイジャンの支配権は及んでおらず、「ナゴルノ・カラバフ共和国」を称するアルメニア人勢力が実効支配している。今のところ、「ナゴルノ・カラバフ共和国」を承認している国家は存在しない。

03.広さと人口は?
旧ナゴルノ・カラバフ自治州の面積は4400平方キロで、日本の山梨県と同規模だ。山がちな地域のため、面積の割には人口は少なく推定15万人程度となる。東京都東村山市と同じくらいだ。現在の住民のほとんどはアルメニア人と見られている。(中略)

05.なぜアゼルバイジャンとアルメニアで紛争になっているの?
アゼルバイジャンが旧ソ連の構成国だった1923年から1991年まで、「ナゴルノ・カラバフ自治州」が設置されていた。この地は、隣国の「アルメニア」と同じくアルメニア人が多く、旧ソ連末期の時点で人口の約8割を占めていたが、旧ソ連の意向でアゼルバイジャン領とされていた。

そこでアルメニア人は「ナゴルノ・カラバフ自治州」のアルメニアへの帰属替えを求める運動を開始し、それが独立を求める紛争へと発展した。

アルメニア人勢力は1991年9月2日に「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言。アルメニア人勢力を支援するアルメニアと、独立を認めないアゼルバイジャンの間で激しい戦争になったが、1994年にロシアの仲介で停戦した。1万7000人の死者を出し、100万人以上が難民になったとされる。

アルメニア側が優勢な状態で停戦したため「ナゴルノ・カラバフ共和国」は、旧ナゴルノ・カラバフ自治州だけでなく、その周辺も実効支配している。元々の「領土」を超えてアルメニアと陸続きになった。その面積はアゼルバイジャン全土の約16%を占めると言われる。

アルメニアは「ナゴルノ・カラバフ共和国」を国家承認しないものの、支援を続けている。一方、アゼルバイジャンは「ナゴルノ・カラバフ共和国」は存在せず、「アルメニアによって占領されている」として失地回復を目指している。【2020年10月06日 安藤健二氏 HUFFPOST】
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【アルメニアが勝利した1990年代のナゴルノ・カラバフ戦争】
“1万7000人の死者を出し、100万人以上が難民になった”と記されているソ連崩壊に伴う形で1988年から1994年にかけて戦われた「ナゴルノ・カラバフ戦争」については、“およそ30万人が犠牲となり、100万人以上が住む場所を失った”【9月25日 ロイター】とも。

【ウィキペディア】では、アルメニア側死者は4592~6000人、アゼルバイジャン側は2万~3万人とも。

いずれにしても、アルメニア側の勝利によって、アルメニア側が旧ナゴルノ・カラバフ自治州に加えて広い地域を支配下に置くことになりました。

****ナゴルノ・カラバフ戦争 「結果」****
「アルツァフ共和国」(「ナゴルノ・カラバフ共和国」の別名)は国際社会からの承認を得られないまま事実上独立し、アルメニア側はナゴルノ・カラバフとアルメニア本国を連結する形でアゼルバイジャン領の約14パーセント(ナゴルノ・カラバフ自体を除外すると9パーセント)を占領下に置いた。

アゼルバイジャン側では72万4千人、アルメニア側では30万人から50万人が難民として住処を追われた。停戦後にアルメニア人の多くはナゴルノ・カラバフへ帰還することができたが、アゼルバイジャン人の難民はアゼルバイジャン国内で難民キャンプ暮らしを余儀なくされており、深刻な社会問題となっている。(中略)

「アゼルバイジャンは情報戦でアルメニアに負けた」との意識が共有されているアゼルバイジャンでは、戦争後も日常的にテレビでナゴルノ・カラバフに関する特別番組が組まれており、これは国内で和平への妥協を許さない空気を醸成している。

一方のアルメニアではナゴルノ・カラバフに関する報道はほとんど行われず、ナゴルノ・カラバフをアルメニアの一部とする既成事実化が図られているという。【ウィキペディア】
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【領土奪還を目指すアゼルバイジャン 2020年の紛争で勝利 ナゴルノ・カラバフの帰属は先送り】
こうした領土奪還の心情に動かされたアゼルバイジャン側の攻勢とアルメニア「ナゴルノ・カラバフ共和国」の防衛が、記憶に新しい2020年9月~11月の「第2次ナゴルノ・カラバフ戦争」とも称された紛争であり、そして今回の衝突です。

2020年の紛争についてはブログでも再三取り上げましたので、説明は省略します。トルコの支援を受けるアゼルバイジャンが戦術的にはドローンを駆使してアルメニア側を圧倒し、「ナゴルノ・カラバフ共和国」が旧ナゴルノ・カラバフ自治州に加えて支配していた地域の3分の2を奪還する形で、ロシア仲介で停戦しました。

ロシアはアルメニアと同盟関係にありますが、2020年のときも積極的な介入はしませんでした。

「両国(ロシアとアルメニア)は集団安全保障条約(CSTO)を結んでいるので、今回の紛争でロシアが参戦してもいいくらいでしたが、ロシアはかたくなに『アルメニア領で戦闘にならない限りは関与しない』と明言していました。ロシアは(アルメニアの)パシニャン首相を『いつかジョージアみたいに親欧米になるんじゃないか?』と疑いの目で見ていたからです。パシニャン首相になってから、逆にアゼルバイジャンとロシアの関係が深まっていました」【2020年11月21日 廣瀬陽子氏 HUFFPOST】

ロシアは、アルメニア・パシニャン首相への不信感に加え、国内政治情勢などでベラルーシやナゴルノ・カラバフなどの旧ソ連の混乱に深入りしたくない、アゼルバイジャンを支援するトルコとも衝突したくない・・・という事情もあったのでしょう。そこらを見越してのアゼルバイジャン側の攻勢だったと思われます。

アルメニア側からすれば、ロシアは助けてくれなかった、裏切られた、頼りにならない・・・という怨念も強まり、その後の両国首脳の確執が更に深まりました。

ただ、ナゴルノ・カラバフ自体の帰属は2020年紛争では“先送り”されました。

****ナゴルノの帰属、確定を先送り 紛争仲介のロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は17日、係争地ナゴルノカラバフを巡るアゼルバイジャンとアルメニアの停戦合意に絡み、ナゴルノカラバフの帰属を巡る最終的な地位を確定するのは将来の指導者だとし、現時点では「現状維持」で合意したと語った。国営ニュース専門テレビ「ロシア24」のインタビューで述べた。

プーチン氏は9日にロシアを交えた3カ国合意を仲介した。合意では停戦のほか、一部アルメニア占領地のアゼルバイジャンへの引き渡しや、ロシア軍の平和維持部隊派遣が盛り込まれたが、ナゴルノカラバフの帰属には触れていなかった。【2020年11月18日 共同】
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ナゴルノ・カラバフを自国領とするアゼルバイジャンとしては、2020年紛争で勝利し、多くの地域を取り戻したとは言え、「領土奪還」は終わっていないことになります。

そもそも、2020年紛争においては、アゼルバイジャンが軍事的には圧倒的に有利な戦局でしたので、その気になればナゴルノ・カラバフ全域をも攻略できる状況にもありました。

なぜアゼルバイジャンがそうしなかったのか・・・よくわかりませんが、そこまでやると話が更に大ごとになって、ロシアの介入を招いたり、アルメニアとの全面戦争になりかねない・・・という判断でしょうか。
あるいは、“道半ば”の緊張状態を持続した方が、アゼルバイジャン国内での求心力を維持できるという政治的思惑でしょうか。

【問題の最終解決を目指すアゼルバイジャン ラチン回廊封鎖から、更に軍事行動へ】
いずれにしても、アゼルバイジャンに包囲されたナゴルノ・カラバフはわずかにラチン回廊でアルメニアとつながる孤島状態となり、アゼルバイジャンとしては、いつでも潰せる状況にもなっていました。

そして、昨年末からはナゴルノ・カラバフの生命線であるラチン回廊も封鎖され、ナゴルノ・カラバフではスーパーから商品が消え、医薬品も不足し、市民生活も困難な状態に追い込まれる事態に。

****ナゴルノ係争地、緊張再燃 アゼルバイジャン活動家が道路封鎖****
(中略)
アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノは、ラチン回廊でアルメニアと結ばれている。しかし、アゼルバイジャンの活動家が今月12日、回廊を封鎖。ナゴルノの鉱山で「違法採掘」が行われており、環境が汚染されているというのがその理由だった。

「家族は皆、ステパナケルトにいるのに」と、ホバニシャンさんはナゴルノの主要都市名を挙げた。今月、仕事でアルメニアの首都エレバンに出張したが、道路封鎖のため帰宅できなくなったという。

同じくステパナケルトに住むアショット・グリゴリャンさん(62)は、「店の棚はほぼ空だ。パンがあるのが救い」だと話した。ナゴルノの住人は約12万人。食料、医薬品、燃料不足に直面している。

アゼルバイジャンの活動家は「違法採掘」への抗議行動を続けている。同国政府は、抗議は住民が自発的に行っていると主張しているが、アルメニア政府は、アルメニア系住民に土地を放棄させることを狙ったものだと反発している。

同国のニコル・パシニャン首相は、ラチン回廊に配備されているロシアの平和維持軍が「違法な封鎖」を阻止しなかったと抗議している。

26日、現場に集まっていたアゼルバイジャンの活動家グループは、封鎖を否定した。取材に応じた一人は「われわれの要求は天然資源の違法利用をやめさせることだけだ」と強調。人道支援物資の輸送を阻止しているわけではないと語った。ただ、抗議開始以降、アルメニアとの間の物流が途絶えていることを認めた。

AFP記者は、ロシア軍車両が回廊を自由に移動しているのを目撃した。一方で、ステパナケルトから約15キロの地点にあるロシアが設けた検問所付近の道路は封鎖されていた。

道路封鎖を受け、ナゴルノには人道支援団体が物資を届けている。アルメニアの赤十字(Red Cross)の広報担当者は同日、これまでに同国政府から支給された物資10トン分を送り届けたと話した。

アルメニア、アゼルバイジャン両国の間では、ナゴルノをめぐり1990年代と2020年に2度にわたって紛争が起きた。今年9月にも衝突があり、双方合わせて280人以上が死亡した【2022年12月27日 AFP】
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****安保理会合の開催要請 「回廊封鎖で人道危機」―アルメニア****
アルメニア政府は12日、国連安保理に書簡を送り、アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフでの「人道状況の悪化」について話し合う会合を開くよう要請した。

アルメニア本土と、ナゴルノカラバフのアルメニア人居住地区を結ぶラチン回廊をアゼルバイジャンが封鎖しているため、現地では食料、医薬品、燃料の「深刻な不足」が起きていると訴えた。【8月13日 時事】
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こうした事態のなかで19日、アゼルバイシャン軍が軍事行動を開始、軍事的にナゴルノカラバフのアルメニア側を圧倒し、20日は停戦・・・・という早い展開になりました。同地域に駐留するアルメニア軍が撤退し、アルメニア系住民組織も独自の武装部隊を解散するなど、事実上の「降伏」となりました。

このあたりの話は多く報道されているところですから省略します。

【今後アルメニア系住民12万人がナゴルノカラバフからアルメニア本土へ】
この結果を受けてナゴルノカラバフから、アルメニア系住民12万人が退去する見通しとなっています。総人口わずか280万人のアルメニアにとっては難題です。(日本の人口規模に換算すると、日本に500万人が流入するといった事態)

****アゼルが掌握したカラバフ、アルメニア系住民が大挙脱出する理由****
アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフから、アルメニア系住民12万人が退去する見通しとなっている。

アゼルバイジャンに統合される流れになったナゴルノカラバフで暮らしたくないと思っている上に、そのまま住んでいれば迫害されると懸念しているためだ。ナゴルノカラバフのアルメニア系住民の行政府、アルツァフ共和国の指導部が24日ロイターに明かした。

ナゴルノカラバフを巡る現状は以下の通り。

◎アルメニア系住民が逃げ出す理由
ナゴルノカラバフは国際的にはアゼルバイジャンの一部とみなされてきたが、これまでは人口の大半を占めるアルメニア系住民が実効支配してきた。ただ今月19−20日にかけて、圧倒的に優勢なアゼルバイジャンが軍事行動に出ると、アルツァフ共和国側は停戦と武装解除を受け入れざるを得なくなった。

アルツァフ共和国のシャフラマニャン大統領の顧問を務めるデービッド・ババヤン氏は「わが国民はアゼルバイジャン国民として生活したくない。99.9%がナゴルノカラバフを去ることを望んでいる」と語った。(中略)

アゼルバイジャンは、アルメニア系住民にも権利を保障しつつ、ナゴルノカラバフを統合すると表明。しかしアルメニア系住民は迫害や民族浄化を恐れている。

ソ連崩壊に伴って起きた「第1次ナゴルノカラバフ紛争」では。およそ30万人が犠牲となり、100万人以上が住む場所を失った。

アルツァフ共和国指導部は、今回のアゼルバイジャンの軍事行動で家をなくし、ナゴルノカラバフからの避難を希望する全てのアルメニア系住民はロシアの平和維持部隊の護衛でアルメニアに向かうことになると述べた。

◎受け入れ側が抱える問題
いわゆる「ラチン回廊」経由で12万人がアルメニアに移動するとなれば、アルメニアは人道上の危機に直面してもおかしくない。

アルメニアのパシニャン首相は22日、少なくとも4万人に割り当てる生活スペースは確保していると発言した。

パシニャン氏は「ナゴルノカラバフでアルメニア系住民が自宅で生活していくための適切な環境が整えられず、民族浄化を防止する実効的な措置が講じられないとすれば、彼らが自分たちの命とアイデンティティーを守る唯一の方法は脱出だとみなす可能性が高まり続ける」と強調した。

現時点では避難してくる12万人が、冬を控えているにもかかわらず、総人口わずか280万人のアルメニアのどこに住むのかは明確になっていない。

赤十字国際委員会は、はぐれた子供を探していたり、配偶者や恋人と連絡がつかなくなったりした人に登録してもらう作業を始めたとしている。

◎アゼルバイジャンの主張
アゼルバイジャンにとって、ナゴルノカラバフからのアルメニア系住民退去は、この場所を巡る長年の紛争を大きな勝利で終わらせる事態に近づくことを意味するのは間違いない。

アリエフ大統領は、自らの「鉄拳」でアルメニア系住民による独立的なナゴルノカラバフという考えは葬り去られ、ナゴルノカラバフはアゼルバイジャンの一部として「楽園」に変わると言い切った。

◎地域全体への影響
アルメニア系住民の「大移動」は、石油や天然ガスのパイプラインが張り巡らされ、さまざまな民族が混在するカフカス山脈の南側に当たるこの地域の勢力図に変化をもたらしてもおかしくない。

アルメニアのパシニャン首相は、今度の危機で同国が国益を守る際にもはやロシアを頼りにできないと分かったと語った。ただロシアは、アルメニアはロシア以外に友好国がほとんどないと反論している。

多くのアルメニア国民の間では、2020年のナゴルノカラバフを巡る軍事衝突でアゼルバイジャンに敗れた上に、今回も有効な対応ができなかったパシニャン氏の責任を追及する動きが広がり、首都エレバンで辞任要求デモが発生した。

パシニャン氏は、正体不明の勢力がクーデターを企んでおり、ロシアのメディアは情報戦争を仕掛けていると訴えている。ロシアはアルメニアに軍事基地がある。

一方アルメニアは今月、米軍を招いて合同軍事演習を実施。米国はアゼルバイジャンの軍事行動を批判している。これに対してトルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるものの、アゼルバイジャンを支持する立場だ。【9月25日 ロイター】
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結果的に「領土問題を戦争で解決する」という事例がまたひとつ積み重ねられたことにもなりました。

話は、アルメニアとロシアの確執、アメリカの動き、トルコの影響力拡大などに繋がっていきますが、長くなるのでそこらは別機会に。
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領への逆風の兆しも

2023-09-21 23:27:54 | 欧州情勢

(国連総会で演説するウクライナのゼレンスキー大統領=米ニューヨークの国連本部で2023年9月19日【9月20日 毎日】 「侵略者を打ち負かすための団結した行動」が必要だと訴え、ウクライナへの支持と連帯を促しました)

【ウクライナの反転攻勢 「失敗はしていないが、今後には高いハードル」(米軍トップ)】
反転攻勢をかけるウクライナの戦局は、いつも言うようにウクライナ・ロシア双方が自国に都合のいい情報を流していますので、本当のところどうなのかはよくわかりません。

ウクライナ軍がロシア軍防衛線を一部突破し、南部などでジワジワと進軍はしているようですが、期待されていたような大きな成果が出ていないのも事実です。

ざっくり言って、南部方面でロシアのクリミアへの補給路を遮断する目立った成果を年内にあげられるのかどうかがひとつのポイントでしょう。

****ウクライナ 冬までにクリミア“陸上補給路”遮断か****
ウクライナ軍の情報機関のトップは、今年冬までにロシアとロシアが実効支配するクリミア半島を結ぶ陸上の補給路を遮断できる可能性があると明かしました。

ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長はイギリスの「エコノミスト」誌のインタビューで、ロシアとクリミア半島をつなぐ陸上の補給路を遮断する作戦が冬の前に実現するかもしれないと語りました。(後略)【9月19日 テレ朝news】
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ウクライナ軍の情報機関のトップが“可能性がある”といった言い方をしているということは、裏を返せば、一般的には厳しい見方がなされているということでもあります。米軍サイドからも厳しい見方が。

****ウクライナ軍の領土奪還「高いハードル」 米軍制服組トップ****
米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は17日、ウクライナ軍はロシア軍に対する反転攻勢で「失敗」はしていないものの、領土奪還という大きな目標については「非常に高いハードル」に直面しているとの見方を示した。

ミリー氏は、ウクライナ軍の反攻について「計画よりは遅いが着実に進展している」と指摘。「失敗しているとの批判は承知しているが、失敗はしていない」とするとともに、ウクライナ軍には「かなりの戦闘力が残っている。消耗していない」と述べた。

南部海岸までの進軍やマリウポリ奪還などより野心的な目標達成の公算については予測を避け、「被占領地から20万人以上のロシア兵を軍事的に排除するには相当な時間がかかる。非常に高いハードルだ」との認識を示した。

一方、武器供与のペースが遅いとウクライナ側からも批判が出ていることに関しては、兵たんにも左右される問題だとし、「魔法の粉をまけば物資が直ちに現れるというわけにはいかない」と強調した。 【9月18日 AFP】
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反転攻勢の戦略についても、ウクライナ側とアメリカなど支援国の間での意見の不一致もあったようです。

****NATOとウクライナ軍 戦局打開の「特別作戦」で衝突…秘密協議5時間の内幕とは【報道1930】****
先月15日、ウクライナとポーランドの国境のとある場所で、NATOとウクライナ軍の秘密協議が行われました。そこで決まったのは、反転攻勢の戦局を打開する特別な作戦。将軍達の議論は5時間に及びましたが、元NATOの高官は、互いに不満をぶつけあう激しい攻防があったと証言しています。NATOとウクライナ軍は、なぜ衝突したのでしょうか。秘密協議の内幕です。(中略)

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「ウクライナ側は、『武器の供給が遅すぎる、控えめすぎる。もっと早く、もっと必要だ。武器には、より攻撃的な無人偵察機や、特に長距離砲、地上・空中の巡航ミサイルも含まれるが、これらを手に入れない限り、我々ができることは限られる』とNATO側に訴えたのです。

しかし、これを聞いたイギリスやアメリカの将軍たちやNATOの欧州連合軍最高司令官・カボリ将軍らは、『ウクライナは戦術に関して我々の忠告を聞いているのだろうか』という気持ちがあったでしょう。

何故なら、反転攻勢に際し、NATOからウクライナ側へのアドバイスは、『敵の最大の弱点である地点を選び、そこに攻撃を集中させる。そして防御に穴を開け、その穴を突く』というものでした。しかし、ウクライナはそれをやっていなかったからです」 

反転攻勢の開始後、ウクライナ軍はザポリージャやバフムトなど全長およそ1200キロにも及ぶ前線に広く展開。ロシア軍の弱点を見つけようと規模の小さなピンポイント攻撃を繰り返していたと言います。

これに対しNATO側は、ピンポイント攻撃は多くの労力と弾薬を無駄にしていて、時間もかかりすぎていると、批判的に見ていたと言うのです。

元NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「西側が常に言ってきたのは、『南部に兵力を集めて進軍する』という作戦でした。しかしウクライナはまだ明らかに東部のバフムトを取り戻そうとしていました。アメリカの助言は、『バフムトは重要ではない』というものでした。ウクライナ軍はそこであまりにも大きな損害を被っていました。

ウクライナにとってバフムトは象徴的な存在になっていますが、アメリカは『頼むから、そこから一線を引いてくれ』と言っていたのです。しかしウクライナ人は誇り高い。自分のやり方でやりたいのです」
誇り高いウクライナ人とNATOの議論は、5時間に及びました。そして…

NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「NATO側は、『このようなピンポイント攻撃をさらに続ければ、ロシア軍に反攻を開始する準備の機会を与えてしまう。そうなると、あらゆる場所でその反攻を防ぐために多くの戦力を費やすことになる。だから、どうか集中して、一点を選び、そこを突破するために大きな戦力で挑んでほしい』とウクライナを説得したのです」(中略)

元NATO高官 ジェイミー・シェイ氏
「ウクライナは、兵器が欲しければ、戦術に従わなければなりません。それは明らかで、ウクライナはそれを理解したようです」

ウクライナ側は、最終的にNATOのアドバイスを受け入れました。兵力を南部戦線に集中し、一点突破を狙った攻撃に戦略を転換したのです。(後略)【9月19日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ軍の情報機関のトップの“可能性がある”発言は、上記のような戦略転換の成果によるものでしょうか・・・・それにしても厳しい情勢は大きくは変わっていません。

【ゼレンスキー大統領の苦しい立場:支援国の「支援疲れ」 早期停戦を求めるグローバルサウス 一方で領土解放を求める国内世論】
戦局が膠着すると、ウクライナ国内にも厭戦的雰囲気が広がりますし、これまでウクライナを支援してきた国にも「支援疲れ」が表面化します。特に、最大支援国アメリカが問題です。 更に、グローバルサウスのような国際世論も食糧・エネルギーに影響する戦争に対し「いい加減してくれ」といった方向に向かいます。、

そうした事情があるからこそ、ゼレンスキー大統領も「成果」を求めているのでしょうが・・・。

一方で、ウクライナ国内には領土解放を求める声が強く、中途半端な妥協にによる停戦も難しいところで、ゼレンスキー大統領も苦しい立場です。

****G20首脳宣言でウクライナにとって最大の誤算は? ゼレンスキー大統領の引くに引けない苦しい事情****
G20首脳宣言について「誇るべきものは何もない」
(中略)インドのニューデリーで開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は9月9日に首脳宣言を採択したが、ウクライナ戦争に関する記述は昨年よりも後退した内容だった。

ロシアの侵略を強く非難し、ロシア政府に軍の撤退を求めた昨年の首脳宣言とは異なり、ロシアへの非難には言及されず、領土獲得を目的とした武力による威嚇や行使を控えることを求める内容に留まった。

「ロシアの侵略から世界を守っている」と主張するウクライナ政府はG20宣言について「誇るべきものは何もない」と切り捨てた。日本を始め西側メデイアも同じ論調だが、筆者は「この宣言こそが国際社会の総意なのではないか」との思いを禁じ得ないでいる。

西側色が強いG7とは異なり、G20は「グローバルサウス」と呼ばれる発展途上国の国々が多く参加している。彼らが求めているのはロシア打倒ではなく、自国に多大な打撃を及ぼしているウクライナ戦争の一刻も早い停戦だからだ。

ゼレンスキー氏が停戦に踏み切れない事情
ウクライナにとってのさらなる誤算は、同国に対する最大の支援者である米国がこの宣言を容認したことだ。

ウクライナ問題でG20の議論を膠着させるよりも、中国を封じ込めるためにインド太平洋地域との結びつきを強化したい米国は、このサミットを外交的な成功としたいインドのナレンドラ・モディ首相に花をもたせたとの指摘がある(9月12日付クーリエ・ジャポン)。

「中国への対抗」という点で米国とインドの利害が一致したわけで、米国は戦略の軸足をロシアから中国に移行させようとしているのかもしれない。

ウクライナが望んでいる「戦場での勝利」が得られず、国際社会での支持が得られなくなれば、「そろそろ停戦の潮時だ」という声が高まるのは当然の流れだ。ゼレンスキー氏にとって望ましくない展開であるのは言うまでもない。

ゼレンスキー氏には停戦に踏み切れない事情がある。
独日曜紙「ビルド・アム・ゾンターク」(日刊紙「ビルド」の姉妹紙)は9月10日、ウクライナ世論調査機関「民主計画財団」に依頼した調査の結果を報じた。それによると、ウクライナ市民の90%が「ロシアが占領している地域をすべて奪還できる」と確信している。ロシアとの交渉についても63%が拒否し、賛成したのは30%に過ぎなかった。

ウクライナ政府は国民の期待に反するロシアとの停戦交渉を口にできないことから、この戦争は来年以降も続く可能性が高まっている。(中略)

ウクライナ支援国の間でも悲観的な見方が
ウクライナ政府は反転攻勢の成果を強調しているが、はたしてそうだろうか。 欧州で最もウクライナ支援を明確にしている英国でも、「反転攻勢は失敗しつつある」との見方が増えている。

英国立防衛安全保障研究所は9月4日に発表した報告書で、「ウクライナ軍は装備に大きな損失を被っている。欧米諸国が提供する訓練も彼らの戦闘に適していない。反転攻勢を急いだせいで持続不可能なレベルに達している」と悲観的な見方を示した。

英BBCも8月30日、ウクライナ東部前線の状況について「米当局は『ウクライナの戦死者が大幅に増加している』と推定している」と報じた。

兵役を逃れて多くのロシア人が国外に脱出する現象を西側メディアがたびたび報じているが、ウクライナでも同様の事態が発生している。

(中略)徴兵逃れに関する組織的な汚職も蔓延しており、ウクライナ検察は8月下旬、200以上の徴兵事務所を一斉捜索した。 軍で相次ぐ汚職事件の監督責任を問われ、戦時中にレズニコフ国防相が解任されるという異常事態も発生しており、ウクライナ軍の士気が下がっているのは間違いないだろう。

一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権基盤は揺らいでいないようだ。

戦時経済体制を確立しつつあるロシア
(中略)ロシアが西側諸国の制裁を回避する形で兵器の生産を拡大していることも明らかになっている。9月13日付の米紙「ニューヨークタイムズ」は、「ロシアの砲弾の年間生産能力は欧米の7倍に匹敵する200万発に上り、戦車の生産能力も侵攻前の2倍に達しており、冬に向けてウクライナへの攻撃が激化することが懸念される」と報じた。

西側の軍事支援頼みが続くウクライナに対し、戦時経済体制を確立しつつあるロシア。 戦争が長期化すればするほどウクライナは国力を毀損し、国の統一すら危うくなるのではないかとの不安が頭をよぎる。G20宣言が求める早期停戦は、ウクライナの将来にとっても必要なことなのだ。

西側諸国もこれまでの方針を転換し、ウクライナ政府にロシアとの停戦交渉の再開を強く求めるべきではないだろうか。【9月20日 藤和彦 デイリー新潮】
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ロシアが今後、なりふりかまわず「戦争」を本格化させれば、その体力差はいかんともし難いものがあります。

国際世論の微妙な変化は、19日に行われた国連総会でのゼレンスキー大統領演説への反応にも見られました。

****“熱気欠いた?”ウクライナの国連演説 バイデン大統領の“表と裏"…「支援疲れ」指摘されるなか****
(中略)
■バイデン大統領の本音は"ロシアとの和平交渉"?
有働由美子キャスター 「NNNがゼレンスキー大統領に国連出席初日の感想を聞いたところ、『Very good!』と言っていたんですが、今年の国連総会には、去年のような熱気はなかったということなんです」

「去年、ゼレンスキー大統領はリモートで参加し、演説が終わると各国の代表からはスタンディングオベーションが起こりました。それが今年は直接対面で訴えたにもかかわらず、演説終了後の拍手の時に立ち上がっていた人は見当たりませんでした。“支援疲れ”という問題も指摘されていますが…」

小栗泉・日本テレビ解説委員長 「鍵を握るのが、アメリカのバイデン大統領です。今回、どうやら"表向き"と、“裏テーマ”があるようなんです。まず表向きは『ウクライナとともにロシアの侵略に立ち向かおう!』と強い言葉で各国に支援を呼びかけていました」

「本音では、ゼレンスキー大統領に『早くロシアと和平交渉をしてほしい』と思っているというんです。そのため、今回の裏テーマは、ゼレンスキー大統領にアメリカ国内政治の現状をよく見て、戦争が長引いてしまうことについて考えてもらうことだと、アメリカ政治に詳しい明海大学・小谷哲男教授は話します」

■「追加支援」共和党下院の強硬派が反対
(中略)
小栗解説委員長
「ポイントは2つあります。まずは、アメリカ議会の動きを見ていきます。まさに今、バイデン大統領はウクライナへの240億ドル(約3.5兆円)もの追加支援を議会に要求しているんですが、共和党下院の強硬派は反対しています。議会で予算がまとまらず、政府機関の閉鎖にまで追い込まれる可能性がちらついているんです」(中略)

■来年秋に大統領選 トランプ氏が…?!
小栗解説委員長 「そしてもう1つが、来年秋のアメリカ大統領選挙です。共和党はトランプ前大統領が候補になる可能性が高く、(日本の)ある外務省幹部は『トランプ氏は選挙キャンペーンで、“ウクライナ支援にいくら使うんだ。大事なのはアメリカ国民の生活だ”などと必ずバイデン大統領を批判してくるだろう』と指摘しています」

「小谷教授は『もしトランプ氏が返り咲けばウクライナ支援の継続は基本的に考えないだろうし、ロシアに有利な交渉をするのは間違いない』とみています」

「それだけにバイデン政権としては、来年夏までに一定の戦果をウクライナがあげて、ロシアとの和平交渉が始まるのが望ましいというのが本音だというんです」(後略)(9月20日放送『news zero』より)【9月21日 日テレNEWS】
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アメリカ世論がウクライナ支援に厳しい見方をしていることは、これまでも取り上げてきました。

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CNNニュースの8月の世論調査では、「議会はウクライナ支援のための追加資金を承認すべきではない」と55%の人が回答した。 さらに、51%が「ウクライナに十分な支援をした」と答え、「もっと支援すべきだ」の48%を上回った。

野党・共和党の支持者では、「追加の資金援助を控えるべきだ」との回答が71%にのぼる。
世論を背景に、共和党の大統領候補の1人で過激な発言で支持を集めているラマスワミ氏は、ウクライナ支援の取りやめを公言している。

さらに、ゼレンスキー氏が自国の選挙を実施するためにアメリカに追加資金を要求したことを「選挙ゆすり野郎」とこき下ろし、「アメリカに対する新たなレベルの恐喝だ」と痛烈に批判した。【9月21日 FNNプライムオンライン】
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支援国内部でも不協和音が。ポーランドはこれまで対ロシア強硬論急先鋒の立場でウクライナへの支援を行ってきましたが、ウクライナ産穀物の陸上輸送をめぐり、ウクライナと揉めていることは一昨日ブログでも取り上げたとおり。

今回の国連総会でのゼレンスキー演説での「連帯を示しているように見えるが、実際にはロシアを間接的に手助けしている」といったポーランド批判に、ポーランド首相が「ウクライナへの武器供与は行わない」と反発する事態にもなっています。

戦局の停滞、国際世論の風向き・・・ウクライナ・ゼレンスキー大統領への“逆風”の兆しが強まっているように見えます。

【「戦場での勝利」以上に難しいロシアの“やり得”を許さない停戦協議】
ただ、ものごとは全て“退くとき”“事態を収拾するとき”が一番難しい。
仮に、停戦交渉にゼレンスキー大統領がしぶしぶ向かうような事態になった場合、ロシアの軍事進攻が“やり得”のような形にならないように収める必要があります。 ロシアの「成功体験」になってしまうと、次は中国が・・・という話にも。

停戦交渉でロシアにそういうポジションを取らせるのは、「戦場での勝利」以上に難しいかも。そのためにはやはり戦場での成果が必要。そのためには支援する国々も今が正念場ということにも。
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ロシア アフリカ諸国にトルコ経由で穀物供給 陸上輸送ではウクライナと中東欧でバトル再燃、WTO提訴

2023-09-19 23:19:39 | 欧州情勢

(ロシア・ソチで会談に臨むプーチン大統領(右)とトルコのエルドアン大統領(2023年9月4日公開)【9月5日 AFP】)

【ロシア 黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)に復帰せず】
ロシアは、トルコと国連が仲介した黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)について、西側諸国がロシア産の穀物と肥料の輸出が阻害される要因を取り除いていないとして、7月に履行を停止。

これにより世界有数の穀物輸出国ウクライナからの穀物輸出のメインルートが止まっています。

注目されたトルコ・エルドアン大統領とプーチン大統領との会談でも、進展はありませんでした。

****ウクライナ穀物輸出問題で進展なし ロシア・トルコ首脳会談****
ロシアのプーチン、トルコのエルドアン両大統領は4日、ロシア南部ソチで会談し、ロシアが7月に離脱したウクライナ産穀物の黒海経由の輸出合意に復帰できるのかについて協議したが、進展はなかった。ただし、両国はこの問題を引き続き協議していくと説明している。

プーチン氏は会談後の記者会見で、ウクライナが黒海経由の穀物輸送ルートを悪用し、ロシアを攻撃しているなどと主張。また、食糧不足に見舞われているアフリカの国々に向け、ロシア産穀物を無料で提供すると改めて説明するなど、輸出合意への復帰に後ろ向きな姿勢を崩さなかった。

一方、輸出合意の仲介役を務めてきたエルドアン氏は「短期間で期待に沿えるような解決策を得られると信じている」と述べ、協議を継続する姿勢を示した。その上で、ロシアが満足できる解決法を探り、同じく仲介役である国連とも協議していくことを明らかにした。【9月5日 毎日】
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ロシアは合意履行停止と並行して、ドナウ川を利用した代替ルート施設を含むウクライナの港湾施設や穀物倉庫などを繰り返し攻撃しており、ウクライナと西側諸国はロシアが食料を戦争の武器として使用していると非難しています。

****露、穀物輸出港への攻撃激化 食料危機あおる狙いか****
ウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する「穀物合意」の失効後、主要な代替輸送ルートを担ってきた同国南部オデッサ州のドナウ川流域への露軍の攻撃が激化している。

3、4日には港湾施設が相次いで攻撃され、農耕機械や倉庫が被害を受けた。条件付きで合意復帰をちらつかせるロシアは、ウクライナの穀物輸出を妨害して世界の食料危機をあおり、自身の要求を国際社会に聞き入れさせる思惑だとみられている。
4、
ウクライナ軍によると、露軍は3日未明、オデッサ州をイラン製の自爆無人機(ドローン)25機で攻撃。4日未明にも17機以上のドローンで攻撃した。ウクライナ軍が大半を撃墜したが、攻撃でドナウ川流域の港湾施設が損傷。露国防省は「燃料貯蔵施設を攻撃した」などと主張した。

ロシアの離脱で穀物合意が7月に失効した後、ウクライナは代替輸送ルートの構築に着手。8月に黒海に独自の「代替回廊」を設定したが、運搬船が露軍に攻撃される恐れもあり、これまでに4隻の利用にとどまっている。

一方、露軍の支配下にないドナウ川流域の港の役割が拡大している。

しかし、ロシアは合意離脱後、オデッサ港やドナウ川流域のイズマイル港、レニ港などへのミサイルやドローンによる攻撃を激化。ウクライナ当局の8月末の発表によると、同月だけで港湾インフラが少なくとも8回の露軍の攻撃を受け、計27万トンの穀物が失われた。港湾施設の損傷で港の搬出能力も低下している。

ロシアは港湾施設への攻撃を続ける一方、「条件が満たされれば合意に復帰する」とし、国際社会を揺さぶる構えだ。ロシアは合意復帰の条件として、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」への露農業銀行の再接続などを提示。ロシアは合意復帰をてこに対露制裁を緩和させ、自国産穀物の輸出を拡大して食料価格高騰に苦しむ貧困国などへの影響力を強める思惑だ。

ロシアの揺さぶりは一定の結果を出しつつある。合意を仲介した国連のグテレス事務総長は8月末、ロシアの合意復帰に向けて「一連の具体的な提案」をロシア側に提示したと発表。ロシアに一定の譲歩を示す内容である可能性がある。

同じく合意を仲介したトルコも、ロシアの合意復帰に向け、露産穀物の輸出拡大を支援する案をロシアと協議する方針を表明。4日の両国首脳会談でもこの案が協議された。

ただ、ウクライナはロシアに安易な譲歩をしないようトルコや国連に求めており、合意再開を巡る先行きは曲折が続く見通しだ。【9月5日 産経】
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上記記事にある“国連グテレス事務総長が8月末にロシアに提示した「一連の具体的な提案」”の中身と思われますが、国連がロシアに対し、ロシア農業銀行がルクセンブルクにある子会社を通じて国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網に30日以内に「実質的に接続できるようにする」と伝えたことが明らかになっています。

「国際銀行間通信協会(SWIFT)」へのロシア農業銀行の再接続はロシア側が求めていたものですが、詳細はわかりませんが、ロシア側は合意復帰には不十分としています。

****国連、ロシアにSWIFT決済網への30日以内の接続可能と伝達****
国連がロシアに対し、ロシア農業銀行がルクセンブルクにある子会社を通じて国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網に30日以内に「実質的に接続できるようにする」と伝えたことが8日、分かった。ロイターが書簡を確認した。

国連のグテレス事務総長は8月28日、ロシアのラブロフ外相に「SWIFTは、RSHBキャピタルが現在の債券発行者としての地位に基づいて加盟を申請し、SWIFTの食品・肥料取引にアクセスする要件を満たしていることを確認した」と伝えた。

ロシアは今年7月に黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意を離脱しており、グテレス氏はロシアに復帰するよう説得するためにロシアの穀物・肥料輸出の改善を促進させる4つの措置を説明した。

グテレス氏はラブロフ氏に対し、国連は「ロシア連邦の黒海イニシアティブへの復帰と全面的な運営再開につながるという明確な理解に基づいて」あらゆる措置を直ちに進める用意があると語った。

ロシア外務省は今月6日の声明でグテレス氏の提案に懐疑的な見方を示し「ロシアが得たのは実際の制裁の適用除外ではなく、国連事務局からの新たな約束だけだった」と表明。「これらの最近の提案に新しい要素は含まれておらず、わが国の農産物輸出を正常な状態に戻すという点で具体的な進展をもたらす基盤にはなり得ない」と主張した。【9月9日 ロイター】
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【ロシアとトルコ アフリカ向けロシア産穀物輸出で合意 中東カタールが財政支援 ウクライナ問題で独自の対場をとる中東湾岸諸国】
一方、ロシアとしても単にウクライナ産穀物輸出を止めるだけでは世界の食糧危機をつくりだす“悪役”となってしまいます。

昨今の国際情勢においては、アメリカや欧州、あるいはそれに対抗するロシアや中国の意向だけでなく、それがどれだけ多くの国々の支持を得られるか、いわゆるグローバルサウスの存在が強く意識されるようになっています。(大国の考えだけでなく、その他大勢の国々の考えが意識されるという点では“民主的”になったのか? その実態は精査する必要がありますが)

ロシアも、冒頭【毎日】に“食糧不足に見舞われているアフリカの国々に向け、ロシア産穀物を無料で提供する”とあるように、そうしたグローバルサウスの支持を得るための動きも見せています。

トルコでロシア産穀物を小麦粉に加工してからアフリカ諸国へ提供する・・・とも報じられていますが、その具体的内容や“無料”の仕組み、更にその効果・影響についてはよくわかりません。

****ロシア、トルコがアフリカ向け穀物輸出で合意と発表 カタールが支援****
ロシアは6日、トルコがカタールの財政支援を受けて、ロシアがアフリカに輸出する予定の100万トンの穀物を割引価格で取り扱うことに基本的に合意したと発表した。

インタファクス通信によると、ロシアのグルシコ外務次官は記者団に対し「全ての原則合意が得られた。近く全ての当事者と実務的な折衝に入る」と述べた。

トルコがロシア産穀物の輸出を取り扱うとしているが、トルコが果たす役割の詳細は明らかにされていない。(後略)【9月7日 ロイター】
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アラブメディアは、今回のカタールなど、ウクライナ問題における中東湾岸諸国の役割を高く評価する向きもあるようです。

****湾岸諸国による調停が、黒海の穀物合意を救うかもしれない****
(中略)この(プーチン・エルドアン両氏の)会談でプーチン氏は、ロシアが1カ月につき最大で100万トンの穀物をトルコに供給し、それをトルコが特に必要性の高い国々に輸出するという提案を行ったと報じられている。さらに、カタールがこうした活動の財務面において中心的役割を担うことが予想された。

最近カタール政府はウクライナ戦争関連の人道支援への関与を深めており、ウクライナにおける健康、地雷除去、教育の支援に1億ドルの拠出を行うなどしている。

この支援に関しては、7月に行われたカタールの首相と外相を兼任するシェイク・ムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニー氏と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談で話し合いが行われた。ゼレンスキー氏の10点平和計画に関する話し合いに加え、両氏はウクライナの将来的な再建と黒海の穀物回廊へのカタールの投資についても話し合った。

カタールは平和調停の取り組みにあたって、この問題を中立の調停国として扱うという意思を示したサウジアラビアおよびUAEと同じ道筋を辿っている。

2022年9月、サウジアラビアとトルコの支援により、ロシアとウクライナは英国、米国、モロッコからの国外ボランティアを含めた約300人の捕虜交換を行った。

そしてつい先月には、サウジアラビアがジェッダで首脳会談を開催し、ウクライナの領土保全に関するさらなる対話を呼びかけた。サウジアラビアは2月にもウクライナへの4億ドルの人道支援をとりまとめた。この支援の内訳は、1億ドル分の人道支援、3億ドル分のエネルギー資源という形となっている。

UAEも人道支援の提供や、さらなる捕虜交換の支援に対して積極的な関心を示している。昨年10月にサンクトペテルブルクを訪問したUAEの大統領を務めるシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下は、ウクライナとロシアの調停を申し出たと報じられている。

今回の戦争期間中、UAE政府はウクライナに対して常に人道支援の提供を行ってきた。まさに先週も、UAEはウクライナの医療セクター支援を目的として救急車23台を積んだ船を送っている。UAEは支援プログラムの一環として、2022年10月に行った1億ドルの人道支援に加え、ウクライナに合計50台の救急車を提供することを目標に掲げている。

穀物合意の更新を想像することは不可能ではないが、まずは複数の明確な障害を克服しなければならない。この合意はトルコ、そして潜在的には国連も関与して実現する可能性はあるが、両陣営が関与しない解決策は想像し難い。

しかしながら、ロシアは自国からの穀物輸出を促すため、この合意に自ら条件を付け足そうとする可能性が高い。さらに、この合意への資金援助や実行支援のため、新たに外部のアクターが引き入れられる可能性もある。そうなった場合、その役割を担うのは湾岸諸国になる可能性が最も高い。

穀物合意はこの戦争における唯一の厄介な問題というわけではなく、再交渉がその他の障害への解決策を見出すための並行的な外交努力に繋がる可能性はある。

ウクライナの人々(と西側諸国)が外交によってウクライナ再建への明確なプランがもたらされることを願っているのは明らかであり、ウクライナ政府にとっては湾岸諸国のパートナーたちによる統一戦略によりインフラ再建への資金援助が実現する可能性もある。

こういった取り組みは、湾岸諸国が協力することで成功の可能性が大きく高まるだろう。彼らは既に、他の世界のアクターに比べて優れた結果を出せることを示しているのだから。【9月14日 ダイアナ・ガリーヴァ博士(オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの元アカデミック・ビジター) ARAB NEWS】
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【ウクライナ産穀物輸出の陸上ルートでは、中東欧諸国とウクライナでバトル再燃】
黒海ルート、その代替ルートが機能しないウクライナにとっては、中東欧を通過しての陸上輸送が(量的には大きく制約されるものの)当面の重要な穀物輸出ルートになります。

しかし、このルートに関しては通過国である中東欧諸国の国内市場に安価なウクライナ産穀物が流出し、国内農業部門に大きな打撃を与えるとの批判が中東欧諸国からあり、調停にあたったEUは中東欧諸国国内での販売禁止を認める期間限定措置をとっていました。

EUが、その期間限定措置(今月15日が期限)の延長をしない決定をしたことで、この問題が再び表面化。ポーランドなど中東欧諸国がウクライナ農産物に対し独自の輸入規制を発表し、ウクライナと中東欧諸国間のバトルとなっています。

****東欧5カ国のウクライナ産穀物輸入規制 EU、延長を認めず****
欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は15日、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国に認めていたウクライナ産穀物の輸入規制を、期限の15日以降、延長しないことを決めた。ポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国は独自に規制を継続する方針を表明した。

ポーランドなど5カ国は、ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナ産穀物の主要な輸出ルートとなっており、比較的安価なウクライナ産穀物が国内市場に流入し、農業に打撃を与えているとしてEUに対応を求めていた。このため欧州委員会は5月、9月15日までの期間限定措置として、ウクライナ産の小麦やトウモロコシなどの5カ国内での販売禁止を認めた。

欧州委員会は15日の声明で、こうした措置の効果で「5カ国での市場のゆがみはすでに解消した」と結論付け、今後、穀物の過剰供給を避けるため、ウクライナが輸出許可制度などの措置を30日以内に導入することで合意したと発表した。ウクライナは18日までに行動計画を提出する。

一方、既に独自の輸入規制継続を表明していたポーランド政府に続き、ハンガリー政府も15日、ウクライナの農産物24品目について独自の輸入禁止措置を発表。スロバキア政府もウクライナ産穀物の輸入禁止措置を発表した。
ルーマニア政府はウクライナの行動計画の発表を待ち、対応を決める。

4カ国とも、ウクライナ産穀物の国内通過は引き続き、認める方針。ブルガリア議会は14日、輸入規制の撤廃を議決している。

EUのドムブロウスキス欧州委員は15日、加盟国の独自の輸入規制について「ウクライナ産穀物に対する一方的な措置は控えるべきだ」と述べた。

欧州委員会の今回の決定についてウクライナのゼレンスキー大統領は15日、通信アプリ「テレグラム」で「ウクライナとEUの真の結束と信頼の模範だ」と歓迎する一方、独自の輸入規制については「近隣国の決定が、それにふさわしいものでなければ、ウクライナは文明的な方法で対応をする」と警告した。

シュミハリ首相は、「テレグラム」に「EUの加盟国には、ウクライナの農産物に対する違法で一方的な規制を控えるよう求める。そのような規制は世界貿易機関(WTO)の仲裁対象となり得る」と投稿した。【9月16日 毎日】
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上記記事にあるように、中東欧諸国はウクライナ産穀物の「通過」は認めていますが、ハンガリーは国内市場での販売禁止を野菜など24品目に大幅に広げています。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領は“文明的な方法で対応”と述べていましたが、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの3ヶ国をWTOに提訴しました。更に、改善されなければ報復も辞さない構えです。

****東欧3カ国をWTO提訴 穀物輸入規制、報復措置も****
ウクライナ経済省は18日、安価なウクライナ産穀物の流入を警戒して独自の輸入規制措置を決めたポーランド、ハンガリー、スロバキアの東欧3カ国を世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表した。

ウクライナのカチカ通商代表は米ニュースサイト、ポリティコのインタビューで、3カ国の措置が「法的に誤っていることを証明することが重要だ」と指摘した。特に影響が大きいポーランドの措置が撤廃されなければ「報復を余儀なくされる」と述べ、ポーランド産の果物や野菜のウクライナへの輸入を規制する可能性を示唆した。【9月19日 共同】
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ハンガリー・オルバン首相はもともとロシア寄りでウクライナには冷淡ですが、ハンガリー同様にEU内では西欧的価値観への異論を示すポーランドはロシアの脅威を最も強く意識する国で、武器供与などでウクライナを積極的に支援しています。

ただ、話が国内農業などに及ぶとまた別の対応・・・ということでしょう。特にポーランドは来月に下院選挙を控えて与野党が接戦を繰り広げていますので、国内農業にマイナスの影響を与える措置は絶対に認められないところでしょう。

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欧州にとっての中国  パートナーであると同時にライバル デリスキング重視

2023-09-14 22:49:04 | 欧州情勢

(EUのフォンデアライエン欧州委員長(左)と握手する中国の李強首相=9日【9月10日 共同】)

【パートナーであると同時にライバル デカップリングではなくデリスキング】
欧州が中国との関係をどのように見ているのか・・・
一番の関心事は経済的関係でしょう。 人権問題や民主主義に関していろいろ問題はあっても、やはり巨大市場としての中国、欧州への投資国としての中国は大きな存在です。 一方、公正な競争が行われているのかという点にも関心があるところでしょう。

安全保障面は、中国は距離的に遠いこともあってウクライナ侵攻で示されたロシアの脅威のような緊迫したものはないものの、そのロシアに対し中国が軍事支援することへの警戒は強くあります。

また、台湾問題に関しても、産業が台湾製半導体に依存していることから、中国が台湾に侵攻すればロシアのウクライナ侵攻以上に深刻な世界経済の動揺を招くのではないかという不安もあります。

****ロシアは敵国・中国は協力国?ヨーロッパは中国をどう見る(油井’s VIEW)****
ドイツは、国家安全保障戦略で「ロシアを最大の脅威」とする一方で、中国については強い警戒感を示しながらもロシアとは異なる見方を示しました。 この違いは、世論をある程度、反映しているのかもしれません。

“中国はヨーロッパにとって必要なパートナー”
ヨーロッパのシンクタンク「欧州外交評議会」が先日発表した、 ドイツを含むヨーロッパ11か国を対象に行った世論調査では、ロシアを「敵国」と答えた人がドイツでは62%、11か国の平均では55%でした。

「欧州外交評議会」は、「軍事侵攻以降、ヨーロッパの人達のロシアに対する見方は大きく変わった。ロシアを敵国・競合国とみなす人が、全体の3分の1からほほ3分の2に急増した」と説明しています。

一方、中国については、敵国と答えた人はドイツで18%。11か国の平均でも11%と低い。「協力国」とみなす割合がドイツ(33%)でも11か国平均(43%)でも最も高くなっています。

「欧州外交評議会」は「ヨーロッパの人達の中国に対する見方は驚くほど変わっていない。中国はヨーロッパにとって必要なパートナーという見方が主流だ」と分析しているのです。

この世論調査の結果を、中国政府は歓迎しているようです。
「世論調査の通り、中国と欧州は協力のパートナーだ。競争相手ではない。首脳間の共通認識を実現するために欧州と協力する用意がある」(中国外務省報道官)

ヨーロッパの対中政策は2つの勢力にわかれる
アメリカからもこんな見方が出ています。アメリカの新聞ワシントンポストで、外交コラムニストのザカリア氏は「世界の他の国々は私たちと同じ目で中国を見ていない」と題したコラムで、ヨーロッパや東南アジアではアメリカの対中国政策が強硬すぎるとして懸念や警戒が強まっていると報じたのです。

ただ、一方で、ヨーロッパの中国に対する見方は揺れているとされています。

欧州外交評議会は、「ヨーロッパの対中国政策は、アメリカに近いEUのフォンデアライエン委員長と中国により融和的で関係改善を主張するフランスのマクロン大統領の2つの勢力にわかれる」としています。

その上で、世論は、現時点でマクロン氏を支持している一方で、中国がロシアに対する兵器の供与などに踏み切れば大きく変わる可能性があると分析しています。

ヨーロッパの中国に対する世論がロシアのように変わるかどうか。中国の今後の行動次第と言えそうです。【6月16日 NHK 油井秀樹キャスター】
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EUは中国との関係について、パートナーであると同時に競争相手かつ体制的ライバルであり、デカップリング(切り離し)ではなくデリスキング(リスク軽減)に向けて取り組むとしています。

****EU首脳、対中関係におけるデリスキングの方針を確認****
EUは6月29~30日、ブリュッセルで欧州理事会(EU首脳会議)を開催し、ロシアによるウクライナ侵攻に関連した今後の支援策、安全保障と防衛、域外政策のほか、対中政策や経済政安全保障に関する総括を採択した。

対中関係に関しては、EUのパートナーであると同時に、競争相手かつ体制的ライバルであるとする中国の位置づけを再確認。

気候変動などの世界的な課題においては協調し、経済面では公平な競争環境の確保と互恵的な関係を目指すとしつつ、重要分野での中国依存の軽減など、デカップリングではなくデリスキング(リスク軽減)に向けて取り組むとした。(中略)

このほか対中関係では総括で、緊張が高まっている台湾海峡に関して懸念を表明し、武力による一方的な現状の変更には反対するとした。EUの一貫した立場として、「一つの中国」政策もあらためて確認した。新疆ウイグル自治区や香港などの人権問題にも言及した。【7月4日 JETRO】
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中国はEUに対し、より明確な関係強化を求めています。

****中国、戦略的パートナーシップで立場明確にするようEUに要請****
中国の外交担当トップ、王毅・共産党政治局員は欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表に対して、中国との戦略的パートナーシップについてEUは立場を「明確化」する必要があると伝えた。

EUと中国は2003年に立ち上げた包括的戦略的パートナーシップで貿易や投資を超えた関係強化を表明した。

ただ、EUは19年以降中国を「経済的競争相手」、「システミック・ライバル」と見なし、ウクライナに侵攻したロシアと中国が緊密な関係を維持していることを警戒している。

中国外務省の(7月)15日の発表によると、王氏とボレル氏は14日、インドネシアのジャカルタで地域会合に参加した際に会談した。王氏はボレル氏に対して、中国とEUはコミュニケーションを強化し、相互信頼を高め、協力関係をさらに強めるべきだと指摘、EUは「揺れ動く」べきではなく、言動により関係後退を促すようなことがあってはならないと伝えた。【7月15日 ロイター】
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中国としては、米中対立を踏まえ、EUとの関係強化を図りたいところ。

****中国、EU首脳会談に意欲 李首相、関係安定を強調****
中国の李強首相は9日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長とインドの首都ニューデリーで会談し「共に努力し、年内に中国EU首脳会談を成功裏に実施したい」と表明した。中国外務省が10日発表した。中国は米中対立を踏まえ、EUとの関係強化に動いている。

李氏は「中EUの安定した関係をもって、世界情勢の不確実性に備えるべきだ」と強調。バイデン米政権が対中経済関係で提唱する「デリスク(リスク回避)」を念頭に「中国の発展と開放は世界と欧州のチャンスであり、リスクではない」と訴えた。クリーンエネルギーや気候変動対策で協力を進めたいとした。【9月10日 共同】
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【個別案件では摩擦・トラブルも】
EUは「揺れ動く」べきではなく・・・・とは言いつつも、個別の案件で見ると、欧州と中国の間の摩擦・トラブルも目立ちます。

****欧州委、中国製EV調査を公表 市場競争阻害を懸念****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は13日、フランス・ストラスブールの欧州議会で今後1年の施政方針について演説し、中国製の電気自動車(EV)への補助金が市場の公平な競争を阻害していないかを調査すると公表した。中国の補助金支援により安価な中国製EVが市場に広く流通しており、欧州の自動車メーカーが警戒感を強めていた。

公平な競争をゆがめるような不当な補助金が調査で正式に確認されれば、欧州委が中国製EVに追加関税を課す可能性がある。

フォンデアライエン氏は13日の演説で「EVは極めて重要な産業で欧州で大きな可能性を秘めている」とした上で「世界市場は今や安い中国のEVであふれているが、その価格は巨額の政府補助で人為的に低く抑えられている」と非難。「欧州市場をゆがめており容認できない」とした。

フォンデアライエン氏は先駆的な欧州の太陽光発電企業が過去に多額の補助金を受ける中国企業との競争にさらされ、倒産を強いられたと指摘。「中国の不公正な貿易慣行が(欧州の)太陽光発電産業に与えた影響を忘れてはいない」と訴えた。

一方、対中戦略について「『デカップリング((経済切り離し)』ではなく『デリスク(リスク回避)』だ」と強調。サプライチェーン(供給網)などの依存リスクを低減しつつ、経済関係を維持していく考えを示した。

EV普及を図る中国は近年、EVの輸出を拡大。欧州メディアによると、欧州の電気自動車市場における中国のシェアは過去約2年で倍以上に拡大した。

中国メーカーのEVは欧州勢に比べて価格が安く、ドイツ自動車大手のBMWのオリバー・ツィプセ最高経営責任者(CEO)は中国の自動車メーカーは欧州産業に「差し迫ったリスクをもたらす」と危機感を示した。(後略)【9月13日 産経】
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EVに関しては、日本も中国、東南アジアで中国企業に市場を奪われつつありますが、その件はまた別機会に。

今回のEU対応について、中国は「EUが予定している調査は『公正な競争』という名のもと、自らの産業を守ろうとする目的で、あからさまな保護主義的行動だ」(中国商務省 何亜東 報道官)と反発しています。

国別で見ていくと、ドイツでは戦略的分野の企業への中国の影響力拡大に警戒する動きがあります。

****ドイツ、中国企業による衛星新興企業の完全買収を阻止=政府筋****
ドイツ政府が13日、中国企業による衛星スタートアップ企業クレオ・コネクトの完全買収を禁じたことが分かった。政府筋2人がロイターに明らかにした。

同筋によると、経済省は、すでに53%株を保有している上海垣信衛星科技に独企業エイティレオが保有する45%株を取得させないと決定。内閣も同意したという。

クレオ・コネクトはスペースXの衛星通信サービス「スターリンク」のように、2028年までに300基以上の小型低軌道衛星と地上インフラからなるネットワークを構築し、グローバルな通信サービスを提供したいと考えている。

最近、ロシアの侵攻に対するウクライナ軍の防衛にスターリンクが使用される可能性が取り沙汰されたこともあり、この分野は戦略的に重要視されている。

ドイツは対中姿勢を厳しくしており、昨年11月には国内半導体メーカー2社への中国からの投資を阻止。ショルツ首相は中国への依存を減らす必要性を訴えている。【9月14日 ロイター】
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ドイツ経済は最近「欧州の病人」ともまた言われ始めたように、他の欧州諸国より悪い状況にありますが、高齢化による労働力不足、緊縮財政による公共インフラの老朽化、新たな成長産業への投資不足に加え、中国経済依存の体質も構造的弱さのひとつとされています。

中国経済依存体質のため、最近の中国経済不振の影響でドイツ経済が悪化している側面もあります。

イタリアが「一帯一路」からの離脱の方針であることは、以前のブログでも取り上げました。

****伊首相、一帯一路の離脱を中国首相に伝達 米報道****
米ブルームバーグ通信は10日、イタリアのメローニ首相がインドの首都ニューデリーで中国の李強(り・きょう)首相と9日に会談した際、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する意向を伝えたと報じた。

イタリアは2019年に主要7カ国(G7)加盟国で唯一、一帯一路に協力するとの覚書を結んだが、イタリア政府内では「(同国への)経済的な恩恵が乏しい」として一帯一路に否定的な声があがっていた。

ブルームバーグによると、メローニ氏は10日のニューデリーでの記者会見で離脱の是非について明言しなかったが「(李氏との会談で)一帯一路について話した」と認めた。メローニ氏は離脱について年内に結論を出すとみられる。(後略)【9月11日 産経】
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【スパイ行為を問題視するイギリス】
“英メディアによると、イタリアは離脱に伴う中国側の反発を警戒しているという。”【同上】とも。

経済ではなく安全保障面で中国と揉めているのがイギリス。

****英議会調査担当者、中国のスパイ容疑で逮捕 英報道****
英紙タイムズ(電子版)は10日までに、ロンドン警視庁が3月に中国のためにスパイ活動をした疑いで英議会の調査担当者ら2人の男を逮捕していたと報じた。

英メディアによると、20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席したスナク英首相は中国の李強首相と10日に会談し、「英国の議会制民主主義に対する中国の干渉に重大な懸念を抱いている」と伝えた。

タイムズ紙などによると、2人の男のうち1人は20代の英国人で、公務秘密法違反の疑いで逮捕された。逮捕当時、議会の調査担当者を務めていた。

この男は数年にわたり中国問題を調査し、対中政策に関わる与党・保守党議員に情報を提供したり政府の行動について提言したりする役割を担っていた。対中強硬派のトゥゲンハート安全保障担当閣外相やカーンズ下院外交委員長ら保守党の機密情報を扱う政治家とつながりがあったとされる。男は過去に中国に滞在していたときに工作員として勧誘された可能性があるとみられている。

逮捕されたもう一人の男については、30代との情報以外はほぼ不明。2人は保釈されたが、ロンドン警視庁は捜査を続けており、英メディアは「英議会を標的にした最悪なスパイ行為の一つだ」と指摘した。

近年、英議会では中国によるスパイ行為や中国と密接な関係にある人物が関与する事態が懸念されている。英紙ガーディアンによると、英議会のスパイ監視機関である情報・安全保障委員会は7月、中国が英国を積極的に標的にしているとの見解を示した。

昨年1月には、英情報局保安部(MI5)が、中国共産党の外国でのプロパガンダ工作を担う中央統一戦線工作部(統戦部)と連携して活動する女性が英議員らに対し、献金を通じて英国の政治に干渉しているとの警告を発した。

中国による人権侵害などを監視する英人権団体「香港ウオッチ」の最高責任者、ベネディクト・ロジャーズ氏は10日のツイッターで「われわれは(中国の)スパイ網に対抗する努力を強化し、常に警戒を怠らないようにしなければならない」と訴えた。【9月11日 産経】
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中国は、イギリス側が「スパイ行為」としていることに対し、「完全に根も葉もないことだ。断固反対する」と強く反発、「イギリス側が政治的に騒ぎ立てることを止め、相互に尊重し、平等に付き合う精神に照らして、建設的な姿勢で両国関係の発展を推進するよう希望する」(中国外務省 毛寧 報道官)とも。

こうした案件を並べると対立の面が目立ちますが、一方で、特にトラブルもなく(ニュースになることもなく)拡大する経済関係という側面も。
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ウクライナ  戦争の新しい形も 段ボール製ドローン 衛星通信システム「スターリンク」

2023-09-06 23:02:46 | 欧州情勢

(段ボール製ドローン【9月2日 Newsweek】)

【ウクライナ「南部戦線で防衛線突破」 ロシア「反攻は失敗」】
ウクライナの戦況は、(双方とも大本営発表的な作為もある前提の)ウクライナとロシアの発表が大きく異なっており、はっきりしません。少なくとも、ウクライナ・欧米が期待したほど迅速・明確な成果は出ていないのは事実でしょう。

ロシア側は、ウクライナは多くの兵員・兵器を失い、反攻は失敗していると指摘しています。

****ロシア「ウクライナ反攻は失敗」 国防相、兵員6万人損害と主張****
ロシアのショイグ国防相は5日、ウクライナ軍は6月の大規模反転攻勢開始以来「6万6千人以上の兵員と7600の兵器を失った」と述べ、反攻は失敗していると指摘した。インタファクス通信が伝えた。

ショイグ氏は国防省幹部との会議で「反攻開始から3カ月間、ウクライナ軍は目的を全く達成できていないが、欧米から軍事支援を受け続けるため成功を誇示している」と主張した。

現段階で最も激しい戦闘が行われているのはウクライナが欧米で訓練を受けた予備的兵力を投入している南部ザポロジエ方面だと説明。東部ハリコフ州クピャンスクの攻略を視野に入れた戦闘でもロシア軍が前進していると強調した。【9月5日 共同】
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ウクライナ側は、南部ザポリージャ州でロシアの「第1防衛線」を突破したとアピールしています。この方面で更に前進できれば、クリミアへのロシア側の陸上補給路を分断できる重要な成果となります。

****ウクライナ軍「ザポリージャ戦線」に注力、「顕著な進展」…露軍は他地域から投入迫られる****
ウクライナ軍が南部ザポリージャ州で攻勢を強めている。ロイター通信によると、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は1日のテレビ番組で、同州の数か所でロシア軍の最前線の防御陣地となる「第1防衛線」を突破したと述べた。南下を図る「ザポリージャ戦線」に兵力を集中させた効果が出ている模様だ。

一方、マリャル氏は「前進には多くの障害を乗り越えなければならない」とも述べ、地雷原などが敷かれた露軍の防衛線への対策が困難であることを示唆した。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は1日、最近3日間のウクライナ軍の戦いについて「顕著な進展があった。(ウクライナ軍は)第2防衛線に対しても一定の成果を上げた」と指摘した。

エストニア公共放送は1日、エストニア軍関係者の見方として、露軍はザポリージャ方面を防衛するために他地域から部隊を投入する必要に迫られ、予備戦力も限られていると伝えた。

一方、ロシア国防省は2日、ロシア本土とウクライナ南部のクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」への攻撃を試みたウクライナの水上無人艇を黒海で破壊したとSNSで発表した。【9月2日 読売】
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【ウクライナの生命線であるアメリカの支援 そのアメリカ世論はウクライナ支援に消極的】
ウクライナ外相は、反転攻勢の進展の遅さを批判する声が西側当局者から出ていることに不快感を露わにしています。

****ウクライナ外相、反転攻勢の遅れ批判に不快感「文句言うなら自分で1cm四方でも解放してみろ」****
ウクライナは31日、3カ月に及ぶロシア軍への反転攻勢の進展の遅さを批判する声が西側当局者から出ていることに不快感を表明した。

米紙ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどは先週、米欧の当局者が反攻の進展状況について期待を下回っているとの見方を示唆していると報道。部隊の配置ミスなどウクライナの戦略を非難する声もあるとしていた。

ウクライナのクレバ外相は31日、欧州連合(EU)外相会議で記者団に「反攻のペースが遅いと批判することは、日々犠牲を払いながら前進し、ウクライナの領土を1キロずつ解放しているウクライナ兵の顔に唾を吐くことに等しい」と述べた。
「批判する者全員が黙り、ウクライナに来て1平方センチメートルを自ら解放してみることを勧める」と強調した。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長はCNNに対し、西側諸国がウクライナを支援しているものの、決定を下すのはウクライナだとし、信頼することが重要だと訴えた。(後略)【9月1日 Newsweek】
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このあたりのウクライナ側の「不快感」は、「焦り」と表裏一体かも。
ジョイグ露国防相が「欧米から軍事支援を受け続けるため成功を誇示している」と言っているように、ウクライナを支えているのは欧米からの支援であり、その支援を繋ぎとめるには成果を示す必要があります。

さもないと、「支援疲れ」が云々される欧米、特に頼みとするアメリカからの支援にかげりが出て、領土解放が果たせないまま、意に沿わない停戦を強いられることにもなります。

****ウクライナ支援に反対が過半数 揺れるアメリカの“潮目”*****
既に2年半に及んでいるウクライナ戦争。ウクライナが大国ロシアと互角以上に戦っている理由は欧米からの軍事的且つ経済的な支援に他ならない。その欧米による支援の多くを占めるのは言うまでもなくアメリカだ。

ところがこのほどウクライナにとって衝撃的な調査結果が出た。
“ウクライナを支援する予算を承認すべきでない” これにアメリカ国民の55%が賛成したのだ。(中略)

「私が就任したら24時間以内に戦争を辞めさせる」
戦争が始まって以来ウクライナへの支援額の合計は日本円換算で約26兆円。そのうち支援に積極的なイギリスが約1.7兆円。EUが約5.5兆円。日本は約1兆円。どれも小さな数字ではないが、アメリカは桁が違う。約11.2兆円で全体のおよそ3分の1を占めた。

そのアメリカでCNNが出した調査結果。それによると”ウクライナへの支援のための追加資金を承認すべきか”という問いに対し、全体の55%が“すべきではない”とした。民主党支持者でも38%。共和党支持者では実に71%がウクライナ支援に消極的だった。

民主党支持者でも4割弱がいわゆる“支援疲れ”なのか支援に消極的だ。支援に積極的なバイデン大統領も大統領選を来年に控え、世論は無視できないだろう。

上智大学 前嶋和弘教授
「(支援に反対する共和党大統領候補の支持率)これを足すと7割を越えます。調査によっては85%を超えるものもあります。トランプ氏が言っているのは『私が就任したら24時間以内にウクライナ戦争は止めさせる』と。どうやってやめさせるのかみんな首を傾けるんですが、支援を止めるんです。

つまりウクライナに徹底して不利な妥協をさせるということ…。この調査結果で私自身はこう思います。“潮目が変わった”と…。共和党が(大統領選で)優位になったらウクライナ支援は止める…。かなりの確率でそうなると見えてます」

アメリカの潮目を変えた存在の一人がトランプ氏であることは間違いないだろうが、トランプ氏とまさに2人3脚でウクライナ支援を止めるべきだと訴え続ける人物がいる・・・。

「“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない”と・・・」
タッカー・カールソン氏。59歳。元FOXニュースの人気番組司会者で“過激な司会者”と呼ばれてきた。現在は自らのSNS番組で陰謀論的な話題やウクライナ支援に否定的なコメントなどを発信している。例えば…。

タッカー・カールソン氏 「なぜ我々はロシアと戦争をしているのか。我々のとる外交政策によって重大な悪影響がもたらされている。経済の崩壊はもちろん、人類が絶滅する可能性すらある。多くに罪のない若者たちが殺され何千億ドルのも金が浪費された…」(SNS番組より)(中略)

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「(タッカー・カールソンは)トランプ氏の政策を明確に表現している。トランプ氏は24時間以内に戦争を終わらせられると主張しますが、それを信じる人は殆どいません。しかし、“ウクライナは我々には関係ない”と考えている共和党支持者にとっては響くメッセージです。彼らはロシアやプーチンの支持者ではないかもしれないが、“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と考えているからです」

確かにインフレで生活が苦しい人々にしてみれば、“他国を助ける前に自国民を何とかしてくれ”と考えるだろう。しかし、世の趨勢から思っても口に出せなかった…。タッカー・カールソン氏はそれを代弁したのだろうとピットニー教授は言う。

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「タッカー・カールソンは公然とロシアを応援していたし、公然とロシアの味方だと言った。そして、冷戦時代とは違い現在アメリカの政治的右派にはロシアを支持する人がかなり多くいます。(中略)トランプやタッカー・カールトンは共和党の暗部に訴えています。共和党の政治に携わったことのある私くらいの年の人間なら“移民に対する憤り”“非白人に対する憤り”貿易保護主義や孤立主義の系統が常に根底にあったことを知っています」(中略)

ロシア的な法を一切無視した行動を・・・、アメリカの民主主義が結果的に認めてしまう
上智大学 前嶋和弘教授
「アメリカって世論の国でありますが、気が短い国で…。勝ち馬に乗ってないといけないんです。戦争は勝っている国を応援する。判官びいきで負けてる方に頑張れって言うんじゃなくって、負けてたら“そんなところにアメリカのお金使ってどうするの”ってなる…」

反転攻勢が膠着状態であることもアメリカの支援離れの風潮を後押ししているという。このままだと、共和党政権になる前に支援の先細りは十分に考えられるが、番組のニュース解説、堤氏は懸念を語った。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「万が一アメリカが支援を減らす、あるいはやめるとなった場合、ヨーロッパだけでは支えきれない。結果的に非常に不利な停戦案を受け入れなきゃならない。極端な場合、敗戦…。

そうなった時、ロシア的な法を一切無視した行動が是認され、それを支持した北朝鮮、あるいは支援してきた中国、そういうところが結果的に勝利に終わってしまう。

せっかく冷戦が終結して、これから冷戦終結後の恩恵を世界が受けるという時から30年余りで全く違う世界なってしまう。残念ながらそれを世界一の軍事力経済力を持ったアメリカの民主主義が結果的に認めてしまう。それを考えると、背筋が寒くなった…」(BS-TBS 『報道1930』 9月4日放送より)【9月5日 TBS NEWS DIG】
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米国務省高官が6日に明らかにしたところでは、ブリンケン国務長官がウクライナ滞在中に10億ドル(約1470億円)超の新たなウクライナ支援策を打ち出したそうです。

【汚職・腐敗の蔓延というウクライナ政治・社会の不都合な事実】
ウクライナ・ゼレンスキー大統領にとって、国内外での求心力を維持して戦争を遂行していくうえで、非常に不都合な事実があります。それはウクライナの政治が汚職・腐敗にまみれているということ。これはロシア軍侵攻以前から指摘されていたことです。

この現実を是正しないと、少なくとも、是正する姿勢を見せないと国内外の支持を維持できなくなります。

****ウクライナの富豪、詐欺や資金洗浄の疑いで勾留 ゼレンスキー氏の元後援者****
ウクライナ有数の大富豪イーホル・コロモイスキー氏が2日、首都キーウの裁判所で、詐欺と資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いのため、2カ月の勾留を命じられた。コロモイスキー被告はかつて、ウォロディミル・ゼレンスキー氏の支援者だった。

ウクライナ保安局(SBU)は、コロモイスキー被告が「2013年から2020年にかけて、支配下にある複数の金融機関を通じて、5億フリヴナ(約20億円)以上の違法資金を国外に送金し、合法化した」と起訴内容を発表した。(後略)【9月3日 BBC】
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ゼレンスキー大統領がコメディアン時代に大統領役で主演した人気ドラマ「国民のしもべ」はコロモイスキー氏所有のテレビ局で放送され、ゼレンスキー氏の大統領就任につながるきっかけとなりました。そうしたことから、ゼレンスキー氏が大統領就任した当時は、同氏の背後にコロモイスキー氏がいると言われていました。

****ゼレンスキー大統領、国防相の交代を発表 汚職疑惑受け事実上の更迭か****
ウクライナのゼレンスキー大統領はレズニコフ国防相を交代させると明らかにしました。ウクライナ国防省では汚職疑惑が相次いで指摘されていて、事実上の更迭とみられます。 ゼレンスキー大統領は3日夜のビデオ演説で、レズニコフ国防相の交代を発表しました。

ウクライナ国防省では、装備品や物資の調達を巡って不正や汚職疑惑が相次いで指摘されていて、国防相の交代で綱紀粛正を図る狙いがあると見られます。

レズニコフ氏はおととしから国防相を務め、ロシア侵攻後、欧米からの軍事支援を取り付ける中心的な役割を担ってきました。(後略)【9月4日 テレ朝news】
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8月には全州の徴兵責任者が解任され、司法当局は徴兵逃れに関する汚職捜査の一環として、徴兵事務所200か所以上を一斉捜索したと発表しています。ウクライナでは「担当者が賄賂の見返りとして、障害者認定書や、一時的な兵役免除認定を取得する手助けをする」という形で徴兵逃れが蔓延していると言われています。

戦地に行きたくないというのは当然の思いではありますが、一方で、上から下まで賄賂・汚職がはびこるウクライナ社会の現実をも示しています。

【戦争の新しい形 段ボール製ドローンと衛星通信システム「スターリンク」】
上記のような戦局停滞、アメリカのウクライナ離れ、汚職の問題はこれまでも取り上げてきた話で、特に目新しい話ではありませんが、最近のウクライナ関連報道で一番印象的だったのは「段ボール製ドローン」の話題。

****「ロシアにとって深刻な脅威」...ウクライナの「段ボール製」ドローン、その驚きの攻撃力を示す動画****
<8月27日にロシア国内の基地で戦闘機などを破壊したのは、ウクライナが導入した段ボール製ドローンだったとされている>

長距離兵器を使った攻撃を強化しているウクライナ軍は、ロシア国内の標的を攻撃するのに、新型の「段ボール製」ドローン(無人機)を使用したという。従来のもの以上に安価で製造できる段ボール製ドローンだが、攻撃力の高さはたしかなようで、その性能が見て取れる「攻撃」の様子を捉えた動画も拡散されている。

ウクライナ人ジャーナリストのユーリイ・ブトゥソフが8月31日に自身のYouTubeチャンネルに投稿した動画には、ドローン1機(おそらく機密情報や構造を隠すためにボカシが入っている)が野原に置かれたダミーの標的の上で爆発する様子が映っている。撮影場所は分かっていない。

動画には、標的の上空に到達したドローンの視点から撮影されたショットが含まれ、その後ドローンが爆発し、大量の発射物をあたり一帯に撒き散らす様子が映っている。このドローンは「今やロシアの航空機にとって、深刻な脅威だ」とブトゥソフは書き添えている。

このドローン「Corvo(コルボ)」はオーストラリアの軍需企業SYPAQが製造したもので、8月27日にロシア西部クルスク州への攻撃に使われたとされている。段ボールが主体の構造のため、ロシアのレーダーに発見されにくいという強みもある。

スホーイ戦闘機やミグ戦闘機に命中
(中略)ロシア西部のクルスク州は、ウクライナ北西の国境から約105キロメートルのところに位置している。ブトゥソフはドローンのデモ飛行動画の説明の中で、段ボール製のこれらのドローンがクルスクへの攻撃に使われたと述べている。

ウクライナ保安局(SBU)はこの攻撃作戦を称賛したが、どのような種類の無人機が使われたのかは明かさなかった。SBUの匿名の関係者はウクライナの英字紙キーウ・ポストに対して、無人機はクルスクのロシア軍基地にある「スホーイSu30戦闘機4機と、ミグ29戦闘機1機」に命中し、パーンツィリS1対空ミサイルシステムとS300地対空システムを損傷させたと述べた。本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。(中略)

SYPAQは3月にオーストラリア政府と70万ドルの契約を結び、ウクライナに供与する「コルボ」ドローンの製造を引き受けた。同社は「コルボ」について「段ボール製の航空機」だと説明しているが、過去の報道資料には、この航空機は「ほぼ全体がワックス加工されたフォームボード」で作られていると書かれている。

ドローンはフラットパック(開封後に組み立てる平箱包装)の状態で引き渡される。「コルボ」の最大積載量は約3キログラムで、飛行距離は約120キロメートル。偵察用ドローンとして設計されており、最近の複数の報道は、ウクライナがこのプラットフォームを自爆攻撃用ドローンに作り変えたことを示唆している。【9月2日 Newsweek】
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実際のところは定かではありませんが、段ボール製ドローン(1機3500ドル 約50万円)が高価なスホーイ戦闘やミグ29戦闘機を破壊できるとしたら・・・戦争の全く新しい形です。

少なくとも、よほどの事がない限りは使えないロシアが盛んに牽制する核兵器や、パイロット育成を考えるといつになったら実戦配備できるかわからない欧米供与のF16戦闘機よりは、はるかに現実的かも。

もうひとつ、戦争の新しい形の話題。

****イーロンが戦争を左右?スターリンクが580億要求****
ウクライナに提供されている衛星通信システム「スターリンク」を巡り、イーロン・マスク氏が激戦地の通信を突然、遮断し、4億ドルをアメリカ政府に要求していたことが報じられました。

いまだ続く争い。この1年半、多くの国がウクライナに支援を続け、その行方を固唾をのんで見守ってきました。しかし、その戦況を左右するのは政治家でも外交官でもない、たった1人の民間人の判断なのかもしれません。

注目されているのはイーロン・マスク氏。宇宙関連企業「スペースX社」のCEO(最高経営責任者)です。侵攻直後から衛星によるネット接続サービス「スターリンク」をウクライナに無償提供したことで“英雄視”された彼。しかし、去年10月。

マスク氏の投稿(去年10月):「スペースX社がウクライナへ無償で提供している費用はすでに8000万ドルに上り、年内には1億ドルを超える見通し」無償での提供に難色を示し始めたのでした。

そして今月、アメリカの雑誌「The・NewYorker」が当時、マスク氏がアメリカ政府に対して4億ドル、日本円で約580億円の費用を請求していたと報道。

また、その交渉のなかで「ネットを遮断する」可能性を示唆。記事では戦闘地域でウクライナ軍が通信不能に陥り、指揮系統が大混乱したことを挙げ、スペースX社による“接続遮断”が行われたとしています。(中略)

今や戦争もサイバー戦。衛星を制するものがたとえ個人であっても、戦況を左右できてしまう時代なのか。【8月29日 テレ朝news】
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フランス  「政教分離の原則」が重視されるなかで問題視されてきた「アバヤ」 公立学校で禁止

2023-09-04 22:52:32 | 欧州情勢

(フランス・パリ市内を歩くアバヤ着用の女性(2023年8月28日撮影)【8月28日 AFP】
一口に「アバヤ」と言っても、その印象は様々。

アラブ世界で見かけるような黒一色の「アバヤ」に目だけを残して顔を覆う「ニカブ」という服装は日本人的にはさすがに「異様」ですが、上記のようなものならファッションのひとつと言えば、言えなくもない・・・
宗教ではなく伝統的な服装と言えばそうかも・・・。
でも、多くのイスラム教徒が同じような恰好をしているとなると、それはそれでまた・・・・)

【「ライシテ」(政教分離の原則)が重視されるフランス社会 「アバヤ」は「これ見よがしな宗教的標章」か否か?】
フランスでは、フランス革命以来の歴史的経過を踏まえて、「ライシテ」という概念が重視されます。一言で言えば、政教分離の原則でしょうか。

****ライシテ*****
ライシテ(形容詞 ライック)とは、フランスにおける教会と国家の分離の原則(政教分離原則)、すなわち、(国家の)宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由の保障を表わす。(中略)

フランスは「自由、平等、友愛」を標語に掲げる共和国であることはよく知られているが、加えて、フランス共和国憲法第1条に「フランスは不可分で、ライックで、民主的で、社会的な共和国である」と書かれており、ライシテはフランス共和国の基本原則の一つである。【ウィキペディア】
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この考えに基づいて、2004年3月に施行された法律では、校内でキリスト教の大きな十字架やユダヤ教徒のキッパ(帽子)、イスラム教のヘッドスカーフなど、「児童・生徒が自身の宗教を表立って示すシンボルや衣服の着用」が禁じられています。

「ライシテ」は歴史的にはカトリック教会との関係を規定するものでしたが、中東からの移民増加に伴って、イスラムとの関係で論じられることが多くなり、一部には「反イスラム主義」的な色彩を帯びることもあります。

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中東からの移民増加とその文化的軋轢が表面化した1990年代以降はイスラムとの関係で論じられることが多いが、ライシテに関する歴史・社会学者のジャン・ボベロ(フランス語版)によれば、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後、「政治的イスラム」という新たな脅威が生まれ、一部のイスラムに対する恐怖が支配的な趨勢となっていったことがフランスではライシテ法本来の精神からの逸脱、世俗化 ―「ライシテの右傾化」― につながった。【同上】
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イスラムに特徴的な衣装として(特に欧州各国で)いつも問題になるのがムスリム女性が髪を隠すスカーフですが、フランスではすでに上記のように2004年の法律で公立学校では禁止されています。

顔全体を覆う「ブルカ」や、目だけを出す「ニカブ」も公共空間では禁止されています。

最近フランス社会で問題になっていたのが、やはりムスリム女性が頻用する「アバヤ」というスタイルの服。胸元からかかとまで、体形を隠すように緩くすっぽり覆う衣装です。

****「アバヤ」と「カミス」 再燃する宗教的衣装の問題****
12月9日は、ライシテの基本法である1905年の政教分離が制定された日である。近年のフランスはこの日を記念日にして大切にするようになっている。

そうしたなかで、この1年ほど公立中学や高校でのライシテ違反が増加中と報告されている。教育省によれば、9月で313件、10月で720件の違反があった。その多くが、ムスリムが着用するアラブの伝統的民族衣装アバヤとカミスに関するものだという。アバヤは女性用、カミスは男性用の長衣である。

フランスでは、2004年の法律で公立校における「これ見よがしな宗教的標章」の着用を禁じており、キリスト教徒の大きな十字架、ユダヤ教徒のキッパ、ムスリムのヴェールが該当する。その後、公共空間全般でのブルカやニカブの着用が禁じられ、浜辺やプールでのブルキニの着用の可否が論争になってきた。今回再び学校を舞台に特定の衣服が問題化している。

内務大臣のG・ダルマナンと市民権担当副大臣のS・べケスは、ライシテ違反の報告件数急増はイスラーム主義者が攻勢を強めているためだと強調する。教育大臣のP・ンディアイも04年の法律を厳格に適用すべきだと主張している。

ヴェールはそれ自体で「これ見よがしな宗教的標章」を構成するとされているが、アバヤやカミスは現状ではそのリストに入っていない。

しかし、宗教的祭礼などで着用される伝統的衣装をつねにまとい、外す要請を拒否し続けるなど、生徒の態度によっては、これ見よがしな宗教的標章のカテゴリーに入りうる。

アバヤやカミスを着用する生徒やその親たちは、衣装の宗教的側面を否定して文化的側面や伝統的側面を前面に打ち出し、学校での着用を正当化しようとする。

思春期の子どもたちは、アラブ・イスラーム文化圏に由来する服を着てティックトックなどのSNSでネット空間に流すが、背景に流れている音楽はラップなどで、その歌詞はイスラームという宗教の敬虔さを感じさせるものではない。

校長らは判断に迷っている。同じ地域でも、こうした挑発は由々しき問題だと考える校長も、長衣は問題ではないと考える校長もいるようだ。それでも、ケースバイケースの解釈の余地を求める声は少ない。教育省には明確な統一見解を出すことが期待されている。

ムスリムであるなしを問わず、高校生の過半数がヴェールを含む宗教的標章の着用に賛成という数字も出ており、世代間の差も浮き彫りになっている。

教員のなかにも、思春期は自分のアイデンティティーを求める時期と理解を示す者もいる。アバヤに身を包む一方で髪を赤く染める女子生徒もいるようで、その格好は過激的なイスラームとはひとまず無縁である。

宗教批判で知られるヴォルテールは『寛容論』で、「今日の課題は、穏健なひとびとに生きる権利をあたえ、そして、かつては必要だったかもしれないがいまでは必要性がないような厳しい法令の適用をゆるめることである」と書いた。

だが、現代フランスの世論は学校でのヴェール禁止を大前提としており、アバヤやカミスを認めるくらいなら制服にしてはどうかという意見まで出てきている。【2022年12月14日 伊達聖伸氏(東京大教授) 中外日報】
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【アバヤを着用して登校することは「宗教的行為だ」(アタル国民教育相) 公立学校出の着用禁止】
上記のような議論、統一見解を求める声を受けて、フランスのガブリエル・アタル国民教育相は8月27日、イスラム教徒の一部の女性が着用する、全身を覆うゆったりとした服「アバヤ」について、教育現場における厳格な「ライシテ」を定めた法律に違反するとして、今後公立学校での着用が禁止されると発表しました。

****フランス公立学校 イスラム教徒の長衣を禁止 宗教色を服装規制で封じ込め 摩擦の懸念も****
フランス政府は9月の新学期から、公立学校でイスラム教徒の女性用長衣アバヤの着用を禁止した。マクロン大統領は「わが国の公教育は政教分離が原則。宗教を示すものがあってはならない」と訴えた。

服装規制には、イスラム移民2世や3世が宗教で自己主張しようとするのを封じる狙いがあるが、新たな摩擦を招くとの懸念も出ている。

フランスは2004年、公立学校で「宗教シンボル」を排除する法律を施行し、イスラム女性が髪をスカーフで覆うことを禁じている。政府は8月31日の通達で、アバヤを禁止対象に追加。さらに、イスラム男性が着る長衣カミスも禁止した。説得しても生徒が着用をやめない場合、学校は処罰できるとしている。

アバヤやカミスは胸元からかかとまで覆う服装。主にアラブ圏で着用されており、「仏イスラム教評議会」(CFCM)は「宗教シンボルとみなすのは誤り」と抗議した。

移民社会で着用は一般化しており、パリ郊外のイスラム教徒の会社員マリヤムさん(23)は「服装を口実にした差別」と憤りを示す。インターネット上では「長衣をアバヤではなく、ロングスカートだと言って規制をかわす方法」を生徒に伝授する動画も広がる。

フランスでイスラム教徒への服装規制は強まるばかり。11年には、公共の場で女性がベールで顔を隠すことを禁止された。

最近はスポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動きが広がる。

背景には、イスラム人口の増加に伴い、国是である政教分離が脅かされているという不安がある。世論調査では77%が「イスラム主義は国の脅威」と答えた。

特に学校現場の危機感は強い。20年には、中学で預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せた教員がイスラム過激派に惨殺されるテロが起きたためだ。宗教をめぐる校内トラブルは年々増加し、今年1〜5月には2000件以上報告された。長衣を着て登校するイスラム教徒が増え、学校に戸惑いが広がっていた。

仏ナンテール大のイスマイル・フェラト教授は「中東でアバヤやカミスは単なる伝統衣装とみなされるが、フランスでは若いイスラム教徒が教員を挑発する手段になった。彼らは社会で差別に直面し、宗教を通じて自分の尊厳を保とうとしている」と指摘。規制で封じ込めれば、反発を強めるだけだと警告する。

フランスは政教分離を憲法で定める。原点は19世紀、義務教育からカトリック教会の影響を排除した法律にあり、いまも学校の脱宗教化は共和国の基盤とみなされている。

今回の長衣禁止に急進左派は「宗教狩り」と反発したが、共産党から極右まで保革野党の多くは支持を表明している。【9月4日 産経】
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今後、訴訟にも発展し、司法の場で争われる可能性があるようです。

****フランス、アバヤ禁止で波紋拡大 アラブ女性の伝統衣装、訴訟も****
フランス政府がアラブ女性の伝統衣装「アバヤ」を宗教的だとして学校での着用を禁止する方針を表明したことに波紋が広がっている。政教分離(世俗主義)の原則を重視するフランスでは、右派や左派の多くが賛同する一方、左派の一部はアバヤは宗教的ではないと批判。訴訟も辞さない構えだ。

アバヤは顔や手を除く女性の全身を覆う長い丈の衣服で、イスラム諸国で伝統的に着用されている。「アバヤはもう学校に着て行けない」。アタル国民教育相は27日のフランスのテレビ番組で、アバヤを着用して登校することを「宗教的行為だ」と明言。9月の新学期から禁止する方針だ。【8月31日 共同】
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【スポーツなど様々な場面で問題となるイスラム教徒女性の服装】
前出記事にもあるように、フランスでは“スポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動き”などが広がっています。

スカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則も裁判で争われましたが、フランスの行政裁判所はこの禁止措置を支持しています。

****「ヒジャブ」着用禁止を支持 フランス裁判所、サッカー試合中****
フランスの行政裁判所、国務院は29日、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則を支持する決定を下した。

フランスメディアによると、イスラム教徒の女子サッカー選手のグループが規則に反対していた。グループの弁護士は「表現の自由を揺るがす」と決定に反発した。

キリスト教会と結び付いた王政を革命で倒したフランスは憲法に政教分離(世俗主義)の原則を明記しており、長年論争のテーマとなっている。
 
同連盟のこの規則が来年のパリ五輪・パラリンピックでも適用されるかどうかは不明だ。【6月30日 共同】
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一方で、フランスではシャルリー・エブド襲撃事件(2015年1月7日 ムハンマドを風刺した週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』の本社にイスラム過激派テロリストが乱入し、編集長、風刺漫画家、コラムニスト、警察官ら合わせて12人を殺害した事件)に対して、世論が「表現の自由」を高く掲げて反発したように、「自由」を重視する社会です。

イスラム風刺を認める「表現の自由」とイスラムに特徴的な服装を禁じる「ライシテ」の解釈・・・思想としては一貫しているのか・・・

ただ、現実面ではイスラム教徒は抑圧されているような息苦しさを感じるかも。
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ウクライナ  難航する反転攻勢 蔓延する徴兵逃れと汚職 冷めるアメリカ世論の支援熱

2023-08-15 23:09:56 | 欧州情勢

(【8月2日 UKRINFORM】 徴兵逃れ関係者摘発の様子)

【難航する反転攻勢】
ウクライナの反転攻勢が進展しているのかどうか・・・よくわかりませんが、6月段階でゼレンスキー大統領が「ハリウッド映画とは違う」と過度の期待を戒めているように【6月22日 読売】、その後もロシア軍の強い抵抗にあってウクライナ及び支援国が期待していたよりは難航しているのは間違いないようです。

****反転攻勢「非常に困難」 ゼレンスキー氏「後退はしない」****
ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は8日、領土奪還に向けた反転攻勢について「望んでいたよりも遅く、全てが非常に難しい」との見解を示した。その上で「後退はしない。主導権はウクライナが握っている」とも述べた。地元メディアが報じた。

米CNNテレビは8日、今後数週間でウクライナ軍が劇的に局面を好転させる可能性は非常に低いとの欧米高官の見立てを伝えた。外交官の一人は「ロシア軍は多くの防衛線を築いている。(ウクライナ軍は)第1防衛線を突破していない」とした。

ウクライナ軍高官は地元メディアに対し、南部ザポロジエ州の拠点メリトポリ方面とアゾフ海に面するベルジャンスク方面で攻撃を続け、既に第1防衛線に到達したと主張。前進を続けているものの地雷の影響や戦闘機不足により、進軍が遅れていると説明した。(後略)【8月9日 共同】
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****ウクライナ軍、反転攻勢は「一定の成功」…ロシア軍精鋭部隊の一部は撤退か****
ウクライナの国防次官は14日、ロシア軍への大規模な反転攻勢を展開しているウクライナ軍が南部ザポリージャ州一帯の戦線で「一定の成功を収めている」と述べ、進展を強調した。米紙ニューヨーク・タイムズも12日、ウクライナ軍が南部の二つの戦線で「戦術的に重要な前進を果たした」と評した。

ウクライナの国防次官は記者会見で、アゾフ海に面した港湾都市マリウポリやベルジャンシク奪還への足がかりとなるドネツク州南西部ウロジャイネ周辺での戦果に触れた。

ウロジャイネは、反攻の起点ベリカノボシルカから約10キロ・メートル南方にあり、露軍が地雷原や塹壕ざんごうなどで強固な防御陣地を構築している。露側幹部は13日、集落の北側を奪還されたことを認めた。

露軍の補給拠点メリトポリを目的地とするザポリージャ州西部の戦線でも起点のオリヒウから約13キロ・メートル南にあるロボティネから露軍精鋭部隊の一部が撤退したとの情報がある。

ウクライナ軍南部方面部隊の報道官は13日、地元テレビで、露軍が占領している南部ヘルソン州ドニプロ川東岸コザチラヘリ一帯で拠点確保に向けた作戦を実施したことを明らかにした。

ただ、ウクライナ軍が奪還を目指す拠点都市に年内到達するのは困難との見方が出ている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、ウクライナ軍の進軍ペースが遅いため、米欧諸国が来年春の反攻に向けた支援策の検討を開始したと報じた。

ニューヨーク・タイムズは最近、ウクライナ軍兵士の死傷者数が15万人を超えたとの推計を伝えており、ウクライナ側の人的犠牲も膨らんでいる。【8月14日 読売】
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なかなか厳しい状況が感じられます。

【蔓延する徴兵逃れと汚職】
そうしたなかで膨らみ続けるのが兵士の損耗。上記記事では“ウクライナ軍兵士の死傷者数が15万人を超えた”とありますが、ウクライナにしても、ロシアにしても“士気”にかかわるこういう数字はあまり発表しないので、正確なところはわかりません。

多く見積もる数字では“退役米陸軍大佐のダグラス・マグレガー氏は、ウクライナ軍の累積戦死者数を約30万~35万人、戦傷者等を合わせた損耗は約60万~80万人に達したと見積もっている。”【8月3日 矢野 義昭氏 JBpress】といった数字も。少し多すぎるような気もしますが・・・。

いずれにしても多大な犠牲者が出ているのは間違いありません。
ウクライナ国民については「祖国防衛」「領土奪還」に向けた強い意思がよく報じられていますが、これだけ死傷者が増えれば、自分の命について真剣に考え、戦争へのためらいが出ても何ら不思議ではありません。(出ない方が不思議でしょう)

****偽装離婚や子供の水増し…ウクライナ“徴兵逃れ”の実態 前線の女性兵士が語る決意【報道1930】****
第2次世界大戦後、最大の戦争となったウクライナ戦争。ロシア、ウクライナ両国の死傷者の合計は35万人を超えたとも伝えられる。そんな中、両国内で徴兵逃れが後を絶たない。大義の無い戦争に強制動員されるロシア国民が海外へ脱出するなど徴兵を逃れようとする動きは去年からあった。だが今急増しているのはウクライナの徴兵逃れだ。1年経った現実を見た。

「父子家庭も動員の対象外なので、偽装離婚して…」
去年2月24日、ロシアの侵攻を受けてウクライナでは総動員令が発せられ18歳から60歳までの男性の出国を禁じた。この時、ウクライナの男性の多くが自ら入隊を志願した。一方的に攻め込まれた国の男たちは“祖国を守る”という大義に燃え、士気は大いに高かった。去年3月の映像を遡ってみると、リビウで志願する男性たちで先が見えないほどの行列ができていた。

ところが、1年が過ぎ状況はずいぶん変わったようだ。
ウクライナの民間シンクタンク、戦争研究所の所長に実態を聞いた。現在志願兵は殆どいない。この半年の動員は事実上強制的な動員。一方で“徴兵逃れ”は後を絶たず、召喚状を出した内およそ1割が何らかの方法で徴兵を逃れようとしているという。

ウクライナ戦争研究所 ルスラン・ボルトニク所長
「(徴兵逃れのため)軍務に従事できないという偽の証明書を手に入れようとするケースが非常に多い。健康診断の結果“不良”という偽証明書、身体障碍者の証明書の作成などがある。18歳未満の子育て中の父子家庭も動員の対象外なので、偽装離婚して子供を一人で育てているふりをする場合も…」

他にも子供が3人以上いれば動員されないので、それを証明する書類を偽造するやり方もある。
これら書類を偽造したり国外逃亡を手助けしたりするブローカーにも番組は直接接触した。話によると徴兵免除の証明書の作成で約80万円というケースもあった。また、モルドバ経由でヨーロッパへ逃亡するのを手配して約67万円という例もあるという。

「前線ではなく後方で死ぬんだ」
徴兵逃れが増えた要因の一つに今年になって変更された給与体系がある。前線の兵士の給料を上げた代わりに後方支援の軍務担当者の給与が半減したという。しかし…。

ウクライナ戦争研究所 ルスラン・ボルトニク所長
「ウクライナに“後方”はない。すべての地域が攻撃される。訓練センターやインフラ施設警備中に死亡した人も多い。前線ではなく後方で死ぬんだ。それなのに給与半減では軍に入るモチベーションに影響が出る」

しかし、徴兵逃れが増えているのは給料の問題ではないというのが大方の見方だ。
神戸学院大学経済学部 岡部芳彦教授
「戦争が1年以上続いて、意識の変化というのは男性だけでなく、国民全体にある。世論調査で“ウクライナが勝つと信じているか”を問えばいまだに9割を超える人が“そうだ”と答えるんですが実際に戦争に行くってなるとプレッシャーであることは間違いない」

防衛研究所 兵頭慎治研究幹事
「戦争の長期化に加えて死傷者の数が増えてる。ロシア側は20万人以上、ウクライナ側も10万人以上が死傷していますから、やはり動員されて戦場に送られた場合は自分の命もなくなるんじゃないかって心配する。当然ですけど…」

ボルトニク所長によれば徴兵逃れは50万人にのぼるとも言われる。取り締まりを厳しくしても無理に動員された兵士の士気は上がらないだろう。これはロシア同様だろうが、その一方でウクライナには急増している兵士もいた…。

「明日生きていられるのかわからない」
男性の志願兵は姿を消したウクライナで急増しているのが、女性の兵士だ。ロシアの軍事侵攻前、ウクライナには3万2000人の女性兵士(21年12月)がいたが、今年3月時点で4万3000人に増えている。34%増だ。(中略)

キーウ市会議員 イリナ・ニコラク氏
「ウクライナの女性たちは固定観念を壊したのです。軍で女性が男性と同様に有能であることを証明したのです。(中略)こうした女性たち(軍に志願した)の選択を尊敬しています。他のウクライナ人のために自分の命を懸けて軍で働く彼女たちを誇りに思っています」

戦争まで女性活躍の場が広がることの虚無。プーチン氏が侵攻を止める決断を早くすることを祈るしかない。(BS-TBS『報道1930』4月13日放送より)【4月18日 TBS NEWS DIG】
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弾が飛んでこない所に身を置く者としては、こうした“徴兵逃れ”の是非を云々するつもりはありませんが、当局としてはこの事態を放置しては戦争遂行ができませんので、対策に乗り出しています。

****ウクライナ全国で徴兵逃れを支援した関係者を摘発****
ウクライナの法執行機関は、総動員期間中に動員対象者の金銭授受による徴兵逃れを支援するキーウ市や他10州の汚職スキームを摘発していると発表した。検事総局広報室が公表した。

発表には、徴兵逃れの組織により、刑事捜査が行われているとし、捜査の一環でキーウ市、オデーサ州、ザカルパッチャ州、キーウ州、ポルタヴァ州、ヴィンニツャ州、チェルカーシ州、チェルニヒウ州、リヴィウ州、ジトーミル州、イヴァノ=フランキウシク州にて約100件の家宅捜索が行われたと書かれている。

法執行機関は、捜査の際に医療関係の文書を摘発・押収しているとし、捜査班が、徴兵を行う地域雇用社会支援センターの職員が軍・医療委員会の委員とともに、第三者の仲介を通じて、動員対象の男性を健康状態により軍役に適さないと判断する証明書を発行し、それら男性を動員対象者登録から除外していたことを判明させたと伝えた。

そのような「サービス」は、平均で6000米ドルかかっていたという。そして、徴兵を逃れようとする男性たちは、その軍役不適切の証明書を出国のために利用していたという。

また、ウクライナ保安庁(SBU)広報室は、本件につき、ビルホロド=ドニストロウシキー軍事委員会と地元軍・医療委員会の幹部が、犯罪集団の中で活動し、同違法行為の組織に関与していたと伝えた。

これらの人物は、兵役逃れを希望する人物を探すために、「仲介者」ネットワークを組織し、その仲介者が前述の地域で関連「サービス」を提案していたという。

偽の「証明書」が発行された後は、これら容疑者が兵役逃れ希望者に対して国外脱出ルートを提示していたという。オデーサ州では、国境検問地点「スタロコザチェ」を通じて出国が行われていたと報告された。

本件の捜査は継続中とのこと。【8月2日 UKRINFORM】
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****ウクライナ、徴兵逃れほう助で軍関係者拘束****
ウクライナの汚職対策当局は3日、金銭を受け取った見返りに徴兵年齢の男性の国外逃亡をほう助した疑いで、軍関係者を拘束したと発表した。

ウクライナは昨年、ロシアの新興を受けて戒厳令を発令。18〜60歳の男性についてはいつでも徴兵される可能性があるとして、出国を禁止した。

国家捜査局によると、キーウ市当局の陸軍部門トップだった容疑者は、依頼者を兵役不適格とする虚偽の書類を発行していた。この書類を携行する男性は例外的に出国することができる。

虚偽書類の発行は1通1万ドル(約140万円)で請け負っていたという。容疑者は3人に書類を渡していたところを現行犯逮捕された。

侵攻が2年目に突入する中、ウクライナは損耗した兵力の穴埋めを徴兵に頼りながら反転攻勢を続けている。

ウクライナ、ロシアの両国では侵攻開始前から徴兵逃れが横行していた。
ウクライナ当局は今年1月、徴兵年齢の男性の国外流出を阻止するため、公務員や重要部門で働く民間労働者の兵役を免除する措置を導入した。 【8月4日 AFP】AFPBB News
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こうした事態に、ゼレンスキー大統領はすべての州の軍事委員会のトップを解任するという“大ナタ”をふるうことに。それだけ事態は深刻で全国に拡散しているということでしょう。

****ウクライナで全州の徴兵責任者を解任 徴兵逃れに絡む 汚職が相次ぐ****
ウクライナでは徴兵逃れに絡んだ汚職が相次ぎ、すべての州の軍事委員会のトップが解任されました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、国家安全保障国防会議を開き、徴兵の責任者である軍事委員会のトップをすべての州で解任したと発表しました。

ウクライナでは軍事委員会の幹部らが徴兵逃れに絡んで賄賂を受け取る汚職が相次ぎ、112件の刑事手続きが進められているということです。

ゼレンスキー大統領は後任について「最前線で負傷しながらも尊厳を保っている勇敢な兵士」を据えたとしています。(後略)【8月12日 テレ朝news】
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解任には疑惑と関係のない軍事委員会トップも含まれていますが、招集を担う軍の地方機関の汚職疑惑に国民の反発は強く、汚職対策を重視するゼレンスキー大統領は国民にアピールできる強い措置を選択せざるを得なかったとみられます。

【アメリカで冷めるウクライナ支援熱】
ウクライナにとって国内に蔓延する徴兵逃れや厭戦気分も重大ですが、支援国、特にアメリカの世論動向は気になるところでしょう。

****ウクライナ追加支援、米国55%「反対」 世論調査、共和党で強まる孤立主義****
ロシアに対する反攻作戦を進めるウクライナへの支援に関する米国内の世論調査で「議会は追加支援を認めるべきではない」との回答が55%に上ることが今月、明らかになり、衝撃を広げている。

特に共和党支持者は71%が追加支援に「反対」しており、「賛成」が62%だった民主党支持者との意識の差が鮮明となった。

調査はCNNテレビなどが実施し4日に公表した。ロシアの軍事行動を阻止するために「米国はもっとするべきことがあると思うか」との問いでは、民主支持者の61%が「そう思う」としたのに対し、共和支持者の59%が「もう十分だ」と回答。より積極的な役割を支持する人は全体で48%にとどまった。

ウクライナ侵攻が始まった直後の昨年2月に行われた調査では、同じ質問に全体の62%が「そう思う」と答えており、この約1年半で世論に大きな変化が生じたことが示された。

ロシアの侵略が国際秩序の原則を大きく揺るがす中、民主党のバイデン政権はウクライナに「必要な限りの支援を行う」として国際社会をリード。米議会もその方針をおおむね超党派で支持してきた。

しかし共和党では、2024年大統領選に向けた候補者指名争いで首位を独走するトランプ前大統領が、プーチン露大統領を「天才」「頭がいい」などと称賛してきたほか、最近ではロシアによるウクライナ東・南部の占領固定化につながりかねない「即時停戦」を主張。これを受けてトランプ氏に近い同党の保守強硬派が勢いづき、ウクライナ追加支援への反対論を強めている。

同党で反トランプ派のキンジンガー前下院議員はCNN(電子版)への寄稿で、反攻作戦が難航していることへのいらだちに加え、ウクライナの主権や国際秩序を軽視する「トランプ効果」が支持者の心情に影響していると分析した。

20年大統領選の敗北を覆すために公的手続きを妨害したなどとして今月1日に3度目の起訴を受けたトランプ氏は、自身を「政治迫害」の被害者と主張し、民主党との全面対決を演出することに終始している。南部フロリダ州のデサンティス知事ら他の候補も同様の傾向が強い。

指名争いでは今後、党派的な論争が先行し、外交・安全保障面では孤立主義的な議論が優勢となる懸念が高まっている。【8月9日 産経】
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ゼレンスキー大統領としても、アメリカのこうした動向が気がかりなだけに反転攻勢を急ぎ、その成果を出そうとしているところですが、現実は冒頭のように難航しています。

反転攻勢が大きな成果を出せず、国内で徴兵逃れのような事態が無視できない状況となり、頼みの綱であるアメリカの支援にもかげりが・・・となると、何らかの「出口」を探さない訳にもいかない・・・ということにもなります。

難しい立場のゼレンスキー大統領です。

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