孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー・ロヒンギャ問題 “ノーベル平和賞受賞者”スー・チー氏へ強まる批判・圧力

2016-12-31 22:05:44 | ミャンマー

(バングラデシュ東部テクナフで、ミャンマーからナフ川を渡ってバングラデシュ側に逃れようとしたイスラム系少数民族ロヒンギャの人たちを監視するバングラデシュの治安部隊員(2016年12月25日撮影)【12月30日 AFP】 ミャンマーからは虐殺・放火・レイプで追われ、逃れたバングラデシュでは銃で監視・・・行き場がないロヒンギャです)

ASEAN非公式外相会議でスー・チー氏「時間と裁量の余地を与えてほしい」】
ミャンマー西部のラカイン州で続くロヒンギャの問題については、12月13日ブログ“ミャンマー  ロヒンギャ問題で国軍の“民族浄化”も スー・チー氏はASEAN外相会議開催” http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161213など、今年も何回か取り上げてきましたが、未だ改善の兆しは見えません。

イスラム教徒でもあるロヒンギャはミャンマー政府から国民として認められておらず、彼らを嫌悪する多数派仏教徒の圧倒的世論を背景とする国軍の暴力的対応は、ロヒンギャを国外に追い出すための“民族浄化”ではないかとの批判が国際的に高まっています。

****虐殺、暴行、放火と深刻な人権侵害****
隣国バングラデシュと国境を接するミャンマー西部ラカイン州で10月9日、国境に近い地域の警察施設など3か所が武装集団に襲撃され、警察官9人が死亡する事件が発生した。

武装集団の正体は不明だが、国軍は同州に多く居住するロヒンギャの反政府組織による犯行と一方的に断定、ロヒンギャの人々が暮らす集落への攻撃を開始したのだ。

タイに本拠を置く人権団体などによると、ロヒンギャ族が生活する住居は略奪の後放火され、男性は虐殺され、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているという。

越境してバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は2万人以上に達している。

人権団体は「現在の状況は治安維持を超えた軍事作戦レベルであり、このままではロヒンギャ族が絶滅しかねない民族浄化が続いている」と国際社会に「ロヒンギャ問題への介入」を強く訴えている。【12月26日 Newsweek】
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ミャンマー民主化が期待されたスー・チー国家顧問ですが、国民世論の反発を恐れてか、この問題には口を閉ざしており、事態改善を求める国連・人権団体などからの批判が強まっています。

国連や人権団体だけでなく、イスラム国家のマレーシア・ナジブ首相も「事態を静観、放置しているスー・チーは一体何のためにノーベル平和賞を受賞したのか」とスー・チー氏を強く批判するなど(ナジブ首相の狙いは、自信への汚職疑惑への国民批判をそらすことにあると思われますが・・・)、ASEAN内においても圧力が高まり、12月19日、スー・チー氏はミャンマー・ヤンゴンでASEAN非公式外相会議を開催し、事態鎮静化を図っています。

****ロヒンギャ問題「解決に時間を」 ASEAN会議でスーチー氏****
仏教徒が大半を占めるミャンマーでイスラム教徒ロヒンギャに対する人権侵害への懸念が高まっている問題をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)の非公式外相会議が19日、ヤンゴンで開かれた。

アウンサンスーチー国家顧問兼外相は問題解決に向けて「時間と裁量の余地」を与えてほしいと各国外相に訴えた。(中略)
 
ミャンマー政府は人権侵害を否定する一方、国際機関による人道援助やメディアの現地への立ち入りを制限している。

国際社会から懸念の声が上がり、ASEAN内でもイスラム教徒が多いマレーシアやインドネシアを中心にミャンマー批判が高まっている。
 
今回の会議はミャンマー政府が主催した。出席者によると、スーチー氏が現状を説明し、各国に理解を求めたという。ただマレーシア外務省によると、同国のアニファ外相はこの問題が「地域全体の懸念材料になっている」と訴えた。
 
マレーシアが特に強い懸念を抱く背景には、ロヒンギャの人々が難民として同国に脱出している事実がある。昨年には、数千人が同国をめざし、海上を船で漂流している事態が表面化した。迫害が続けば、さらに大量の難民が生まれるおそれがある。

また、イスラム過激派の動きが活発になるとの懸念も出ている。アニファ氏は会議で、現在の状況を過激派組織「イスラム国」(IS)が利用しかねないと警告。ASEANとして人道支援の調整などを行うべきだと提案した。
 
出席者によると、スーチー氏は人道支援の受け入れや加盟国への定期的な報告を約束。

ミャンマー政府は問題解決に向けてアナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設置しており、各国はこの諮問委員会が来年2月ごろまでに提出する中間報告書の内容を見た上で対応を再検討することで一致した。【12月20日 朝日】
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「野にあって反軍政の立場の時は何事も恐れず果敢に理想に邁進したスー・チーだが、権力者の立場になるとあちらを立て、こちらに配慮、とまさに政治家に変質してしまった」(ミャンマーウォッチャー)【12月26日 Newsweek】とも批判されるスー・チー氏ですが、世論や国軍との関係を配慮せざるを得ない現実政治家としてはやむを得ないところはあります。

しかし、彼女が動かない限り事態が改善しないのも事実です。

ASEAN内部からも強まる圧力に対し、「ロヒンギャ問題は純粋な国内問題である」】
マレーシア・ナジブ首相に加え、やはりイスラム教徒が多数を占めるインドネシアのジョコ大統領も仲介に動いているようです。

****ロヒンギャ問題でスー・チー苦境 ASEAN内部からも強まる圧力****
インドネシア主導で仲介工作
ナジブ首相に次いでインドネシアのジョコ・ウィドド大統領がロヒンギャ問題で積極的に動いている。

12月6日、レトノ・マルスディ外相をミャンマーに派遣してスー・チーとロヒンギャ問題で直接協議をさせた。会談でインドネシア側は「ロヒンギャ問題は人権問題であり、イスラム教徒でもある彼らをインドネシア政府は支援する方針である」と伝えた。

ジョコ大統領はミャンマーがインドネシアと同様の多民族国家であり、多様性を許容することが重要であるとの姿勢を強調することで問題解決の糸口を見出そうとしている。

ジョコ大統領は同月8日にはバリ島でロヒンギャ問題特使を務めるコフィ・アナン前国連事務総長とも会談し、インドネシアの立場を説明、協力する方針を伝えた。

インドネシア国内ではイスラム教団体がロヒンギャへの人権侵害に抗議してジャカルタ市内のミャンマー大使館前でデモや集会を行うなど世論もミャンマーに厳しくなっており、ジョコ政権の仲介を後押ししている。

内政不干渉の原則とのせめぎあい
一方でミャンマー国内には「ロヒンギャ問題は純粋な国内問題である」として内政不干渉が原則のASEANによる内政干渉、口出し、批判に対する反発が強まっている。

ナジブ首相がスー・チーを直接批判したマレーシアに対して、ミャンマー政府はミャンマー人出稼ぎ労働者の派遣停止を即座に発表している。

これに対しインドネシアやマレーシアは「ロヒンギャの人々が難民として国境を越えて流出している現実」を指摘して「これはもはや国内問題ではなく国際問題である」として重ねてミャンマー政府に「圧力」をかけ続けている。

「ノーベル平和賞」が枕詞あるいは代名詞だったスー・チーにとっては少数民族や国際社会、ASEAN加盟国に広がりつつある「失望感」をどう取り返すか、大きな岐路に立たされている。【12月26日 Newsweek】
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多くが難民化しバングラデシュへ、更にインドへ
「時間と裁量の余地」を与えてほしいとのスー・チー氏ですが、ロヒンギャの弾圧からの避難は今も続いています。その多くは隣国バングラデシュへ向かっていますが、バングラデシュ政府はロヒンギャの大量流入は阻止する姿勢です。

ミャンマー政府が「バングラデシュからやってきたベンガル人不法侵入者だ」とロヒンギャを自国民と認めず抑圧するのに対し、そのバングラデシュも、現在問題改善に声を上げているマレーシアやインドネシア・タイなど周辺国も、どこもロヒンギャを受け入れず、“行き場がない”状態にあるところにロヒンギャの問題はがあります。

****ミャンマーからロヒンギャ5万人流入、バングラデシュ「深い懸念****
バングラデシュ外務省は29日、10月以降にイスラム系少数民族ロヒンギャ5万人がミャンマー軍の迫害を逃れてバングラデシュに流入したと明らかにした。
 
バングラデシュ政府は、ミャンマー西部ラカイン州で武装集団と軍との衝突が発生した10月初頭以来、ロヒンギャの大量流入を防ぐべくミャンマー国境での巡回を強化している。
 
バングラデシュ外務省は29日の声明で、ミャンマー大使を呼んで無国籍状態にあるロヒンギャ数万人の流入が継続していることへの「深い懸念」を表明し、「2016年10月9日以降にバングラデシュに逃れてきたミャンマー市民は約5万人に上る」と伝えたことを明らかにした。
 
さらに、ロヒンギャ30万人を含めてほとんどがバングラデシュ国内に不法滞在しているミャンマー人を早期に本国へ送還させるよう求めたという。【12月30日 AFP】
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こうした事態に、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんら23人はが国連安全保障理事会に公開書簡を送り、人道支援や現地調査の実現を働きかけるよう求めています。

マララさんらが提出した公開書簡は「ミャンマーで民族浄化に等しい悲劇が広がっている」と指摘。平和賞受賞者でもあるミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が問題解決に向けて指導力を発揮しておらず、「不満を感じている」と表明しています。【12月31日 毎日より】

ミャンマーとバングラデシュなど周辺国との間で“押し付け合い”状態のロヒンギャですが、対応が厳しいバングラデシュから、比較的暮らしやすいインドへ密入国する事例が多くみられるとも報じられています。

****<ロヒンギャ>インドへ密入国、続々 警察の拘束恐れ****
ミャンマーで迫害を受けた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」はインドにも相次いで入国している。

ミャンマーの隣国バングラデシュでは十分な支援が受けられなかったり、警察に拘束されたりする恐れがあるためだ。

インドとバングラの国境には密入国業者のネットワークも存在しており、インドへのロヒンギャ難民は今後も増える可能性がある。
 
ミャンマー西部ラカイン州マウンドー近郊に住んでいたヌール・アラムさん(40)は11月、国軍とみられる集団に村が放火され、自宅を追われた。

妻子らを含めた計11人で2日間歩き通し、闇夜に紛れてバングラとの国境の川を小舟で渡った。バングラ南東部で10日間ほど日雇いで働いたが、「いつ警察に見つかるか分からず、不安だった」と振り返る。
 
インド行きを決めたのは、数年前にニューデリーに逃れていた弟に勧められたからだ。紹介された密入国業者の指示で2晩かけて4台のバスを乗り継ぎ、インドとの国境に着いた。夜を待ち、業者に教わった道を進むとインド側で別の業者が出迎えてくれたという。

アラムさんは12月下旬にニューデリーで難民申請を済ませ、滞在許可を得た。今は同郷のロヒンギャの小屋に身を寄せる。「早く仕事を見つけて生活を安定させたい」と語る。
 
取材に応じたインド側の密入国業者によると、国境を抜けるだけなら1人当たりの「手数料」は数千円程度。夜中にフェンスの穴などの抜け道を通るケースが多い。

「最近は毎日2〜3人の密入国者を手引きしているが、中にはロヒンギャもいる」という。インド側では隠れ家に1泊させ、食事やインド製の服を与えたり、手持ちの現金をインド通貨に両替させたりする。目的地まで業者が同行することもある。バングラ側の同業者と連絡を取り、受け入れ態勢を整えるという。
 
インドには少なくとも1万4000人のロヒンギャがいるとされ、各地に居住区が形成されている。インドで同郷人を支援するロヒンギャ難民のアブドラさん(25)は「インドはバングラと比べ同情的で働きやすい。資金さえあればインドに来たいと願うロヒンギャは多い」と話す。【12月31日 毎日】
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ただ、こうした密入国者が増加すれば、インド当局もやがて厳しい措置に転じるのでは・・・とも思われます。

【「歴史上、ミャンマー国民として位置付けられたことは一度としてない」との「歴史書」刊行方針
早急に、きちんとした対応をミャンマー政府が責任を持ってつくる必要がありますが、あまり期待できないような情報もあります。

****ロヒンギャ族」を政府が公式に否定 スーチー氏への失望広がる****
ミャンマー政府は「少数民族ロヒンギャ族はミャンマーの正式な国民ではない」との立場を改めて明確にするための「歴史書」の発行に踏み切る方針を示した。

この政府の発表を受けて、アウンサンスーチー国家顧問兼外相への失望感が人権団体などの問で急速に広がっている。
  
ロヒンギャ族を取り巻く現状について国際社会から威しい指摘が出ていることに対しミャンマー政府は、近く開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議で説明する。その後にミャンマー史の公式書籍を出版すると説明している。
  
書籍の中では「そもそもロヒンギャという名称は正しくなく、ベンガル人であり、彼らは隣国バングラデシュからの不法移民に過ぎない」「歴史上、ミャンマー国民として位置付けられたことは一度としてない」との主張を強調して理解を求めようとしている。
 
こうした動きの背景に国内多数派である仏教徒の反発を危惧するスーチー氏の思惑があるのは確実とみられている。

既に「ミャンマー国民の指導者でなく、単なる仏教徒の指導者に過ぎない」「ノーベル平和賞受賞者とは思えない」(人権団体)と、批判の矛先がスーチー氏に向かう事態となっている。【1月号「選択」】
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この「歴史書」発行の方針は、ASEAN非公式外相会議後も変わっていないのでしょうか?
これでは、事態改善の道は閉ざされてしまいます。

【ウィキペディア】によれば、この地に移住したムスリムには下記のように4種の移民が存在しており、実際には他のグループと複雑に混じり合っているため弁別は困難であるとされています。
・(バングラデシュ)チッタゴンからの移住者で、特に英領植民地になって以後に流入した人々。
・ミャウー朝時代(1430-1784年)の従者の末裔。
・「カマン(Kammaan)」と呼ばれた傭兵の末裔。
・1784年のコンバウン朝ビルマ王国による併合後、強制移住させられた人々。

バングラデシュからの移住者にしても19世紀イギリス植民地時代にさかのぼる話ですし、それ以前のミャウー朝アラカン王国に至っては15世紀にさかのぼります。

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先述のミャウー朝アラカン王国は15世紀前半から18世紀後半まで、現在のラカイン州にあたる地域で栄えていた。

この時代、多数を占める仏教徒が少数のムスリムと共存していた。折しもムスリム商人全盛の時代であり、仏教徒の王もイスラーム教に対して融和的であった。

王の臣下には従者や傭兵となったムスリムも含まれ、仏教徒とムスリムの間に宗教的対立は見られなかった。【ウィキペディア】
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また、日本も現在の民族対立とは無関係ではないようです。

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第二次世界大戦中、日本軍が英軍を放逐しビルマを占領すると、日本軍はラカイン人仏教徒の一部に対する武装化を行い、仏教徒の一部がラカイン奪還を目指す英軍との戦いに参加することになった。

これに対して英軍もベンガルに避難したムスリムの一部を武装化するとラカインに侵入させ、日本軍との戦闘に利用しようとした。

しかし、現実の戦闘はムスリムと仏教徒が血で血を洗う宗教戦争の状態となり、ラカインにおける両教徒の対立は取り返しのつかない地点にまで至る。【ウィキペディア】
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どこの地域・国でも歴史を遡れば人々の移動の歴史であり、その結果として現在があります。
現在の国家体制の思惑から、長く現地に暮らす一部住民を排除するような考えは、狭量な民族主義・不寛容と言わざるをえません。

スー・チー氏に関しては、中国が進めるダム建設の再開をめぐり、反対する住民と、少数民族武装勢力への影響力を盾に再開を迫る中国の“板挟み”状態にあるとの話もあります。

現実政治家としては、対立する利害の調整が求められます。

来年は、“ノーベル平和賞も受賞した現実政治家”スー・チー氏の指導のもとで事態が改善の方向に向かうことを強く希望します。
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ミャンマー  ロヒンギャ問題で国軍の“民族浄化”も スー・チー氏はASEAN外相会議開催

2016-12-13 21:57:59 | ミャンマー

(ラカイン州で生活するロヒンギャ族の人々=2012年【12月13日 CNN】)

ミャンマー・周辺国から厄介者扱いされ行き場のないロヒンギャ
かねてより懸念されているミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャめぐる状況が厳しさを増しています。

彼らを不法入国者とするミャンマー政府は“ミャンマー国民”とも“少数民族”とも認めておらず、10月に起きたロヒンギャとされる武装集団の軍への襲撃を契機に、ロヒンギャ掃討作戦を進めています。

こうした軍の対応に、ロヒンギャをミャンマーから追い出すための“民族浄化”ではないかとの批判が国際的に高まっています。

****ロヒンギャ2万1000人、ミャンマーからバングラデシュへ脱出****
国際移住機関(IOM)は6日、イスラム系少数民族ロヒンギャおよそ2万1000人が、ミャンマーでの暴力から逃れるためにここ数週間で隣国バングラデシュへ脱出したと発表した。

10月初旬以降、ミャンマー軍による弾圧が続く同国西部ラカイン州から逃れるロヒンギャたちが押し寄せているバングラデシュでは、国境付近での警備が強化されている。
 
ラカイン州と国境を接するバングラデシュ南東の都市コックスバザールにあるIOMコックスバザール事務所のサンジュッタ・サハニー所長によると、バングラデシュに逃れたロヒンギャの大半は、仮設の集落や公式の難民キャンプなどに避難しているという。

2万1000人という数字は、複数の国連組織と国際NGOが集計した10月9日から12月2日までにバングラデシュに到着した人数だとしている。
 
ミャンマー政府はロヒンギャに対する弾圧や虐待を否定しているが、同時にロヒンギャの居住地区への外国人ジャーナリストや独立調査組織の立ち入りも禁止している。【12月6日 AFP】
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(ロヒンギャ族の人々は西部ラカイン州に多く住む【12月13日 CNN】)

上記記事によれば、バングラデシュ側に“仮設の集落や公式の難民キャンプ”があるようですが、別にバングラデシュ政府が逃げてくるロヒンギャを自国民として温かく迎え入れている訳ではありません。

ロヒンギャはバングラデシュ政府にとっても厄介者です。その点ではミャンマー政府と同じ対応であり、ロヒンギャは行き場がない状態です。海に逃れても、タイやインドネシアの対応も“追い返す”といったものです。

****バングラデシュでも門前払****
バングラデシュ政府は国境警備を強化しているほか、沿岸警備艇を配置して、ロヒンギャ族の避難民で満載の船を追い返している。ミャンマー軍がラカイン州に住むロヒンギャ族に対して弾圧を始めて以来、バングラデシュ側が追い返した船の数は数百隻にも上っている。(中略)

バングラデシュの首都ダッカでは12月6日、ロヒンギャ族迫害に抗議するイスラム教徒たちが、ミャンマー大使館前を目指す数千人規模のデモ行進を行ったが、バングラデシュ警察はこれを阻止した。

ダッカ警察のシブリー・ノマン副本部長はAFPの取材に対し、参加者は1万人ほどだったが、「平和的な姿勢」だったと話している。【12月7日 Newsweek】
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****ロヒンギャ問題には周辺国も及び腰だ*****
(東南アジアの難民支援活動家)ファンさんの拠点はインドネシア北部アチェ州のNGO「グタニヨ基金」だが、アチェには昨年5月、ロヒンギャの人々が乗った船が次々漂着した。

同月、人身売買の犠牲者とみられるロヒンギャらの集団墓地が国境を挟んだタイとマレーシアの山中で相次ぎ見つかり、両国でミャンマーから逃れてくる船の取り締まりが強化された。

接岸できない船がインドネシアへ向かった。
インドネシア海軍も接岸を拒否したが、アチェの漁民が漂流船を救った。

ファンさんによると「海上で命を危うくする生き物は全て助けろ」と説く古来のおきてに漁民が従った。救助された人々は最終的に米国に行くことが決まった。【12月3日 時事】
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沈黙するスー・チー国家顧問
これまでも再三取り上げてきたように、仏教徒を中心とするミャンマー世論は圧倒的にロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャに対する国軍の強硬な対応を支持しています。

そうした国民世論があるなかで、人権を重視するスー・チー国家顧問も国民世論を刺激するようなことは現実政治家としてはとりにくく、身動きがとれない状況とも思えます。

しかし、国軍の弾圧に沈黙するスー・チー氏への批判が人権団体などから高まっています。

****スー・チーにも見捨てられた?ミャンマーのロヒンギャ族****
<少数民族ロヒンギャ族に対するミャンマーの民族浄化は止まず、10月以降2万1000人がバングラデシュに逃れた。ミャンマー国家顧問でノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チーも救援に動く気配はない>

・・・・ロヒンギャ族は、ミャンマーのイスラム教少数民族であり、その総数は100万人を超える。ミャンマーでは一般的にバングラデシュからやってきた不法移住者だとみなされており、事実上無国籍だ。選挙権はなく、子どもが生まれても出生証明書は発行されない。バングラデシュと国境を接するミャンマー南東部ラカイン州にまとまって暮らしている。

ミャンマーの事実上の最高指導者であり、ノーベル平和賞受賞者でもあるアウン・サン・スー・チーに対し、同国内で迫害を受けているロヒンギャ族を窮状から救うようアメリカ政府は呼びかけてきたが、スー・チーはこの問題に関する態度を留保したままだ。(中略)

この弾圧は今年10月、ロヒンギャとされる武装集団による攻撃を鎮圧する目的で始まったものだ(この攻撃では、国境を警備する警察官9名が殺害された)。

国連高官はBBCに対し、ミャンマーはロヒンギャ族の民族浄化を進めていると述べた。人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが衛星画像を分析したところ、ラカイン州北部では1250を超える建造物が破壊されていることが明らかになった。原因はほとんどが放火だ。

ミャンマー政府は、ロヒンギャ族を迫害しているという疑惑を否定している。(後略)【12月7日 Newsweek】
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国軍による“放火・焼き討ち”】
スー・チー氏が沈黙する間にも、国軍はロヒンギャの暮らす集落を“放火・焼き討ち”しているとの批判が出ています。ミャンマー政府は国軍による“放火・焼き討ち”を否定しています。

****ロヒンギャ族の村、軍が焼き討ちか ミャンマー****
ミャンマー西部のラカイン州で武装勢力の掃討作戦を展開している治安部隊が最近、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族の村を次々に焼き払っているとして、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」が懸念を示した。

治安部隊の作戦は、10月に同州で国境警備隊員9人が殺害された事件をきかっけに始まった。治安部隊は襲撃犯の掃討を理由にロヒンギャ族の村を捜索。これまでに100人以上を殺害、約600人を逮捕したとされる。

HRWのフィル・ロバートソン氏によると、焼き払われた建物は東から西へ移っていることが、衛星画像から確認できる。同氏は「タイミングと場所の傾向から、住民が自ら火を付けたのではなく軍の作戦だということが分かる」「常識で考えれば軍の仕業だ」と主張した。HRWはこれまでに、複数の村が焼ける前後を比較した衛星画像を公開している。

CNNがミャンマー大統領府に取材したところ、「政府からは後日コメントする」との返答があった。政府はこれまでに国営メディアを通し、村の火災は軍でなく、襲撃犯による仕業との立場を示している。

しかしロバートソン氏は、軍は過去にも焦土作戦の手口を使い、同じように否定してきたと指摘。そのうえで「軍はこの作戦によって、襲撃犯を捜索するというより敵を増やしている」との見方を示した。

ロヒンギャ族に対する暴力をめぐっては、ミャンマー政権を主導するアウンサンスーチー氏の対応が不十分だと批判する声も上がっている。

スーチー氏の任命でこの問題に関する特別諮問委員会のトップを務めるコフィ・アナン前国連事務総長は、先週までに現地を訪問し、軍指導者らに民間人の保護を訴えた。【12月13日 CNN】
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軍が武力で掃討すれば、当然それへの抵抗も起きます。
「従来は差別の問題だったが、今や軍事的な問題になり、新局面に入った」との指摘も。

****紛争寸前の危機=ミャンマー少数派ロヒンギャ問題―難民支援活動家に聞く*****
ミャンマー西部ラカイン州で過去2カ月、少数派ロヒンギャへの軍の迫害が強まっている。東南アジアの難民支援活動家リリアン・ファンさん(38)は「紛争になりかけている」と警告する。人権団体アムネスティ・インターナショナル日本の招きで来日し、危機的状況を訴えた。
 
ファンさんは既に20年近く、東南アジア各地で、ロヒンギャ難民の声を聞き、国連機関やNGOに情報を届け、対策を話し合ってきた。ロヒンギャを取り巻く事情に詳しい。「従来は差別の問題だったが、今や軍事的な問題になり、新局面に入った」と指摘する。
 
発端は10月にバングラデシュ国境沿いで起きた警察施設襲撃で、ロヒンギャを名乗る実態不明の集団「アラカン信仰運動(FMA)」が声明を出し犯行を認めた。

イスラム過激派をまねたような動画をネット上に公開し、ミャンマー当局は過激派組織「イスラム国」(IS)との関係を疑う。軍は激しい掃討作戦を開始した。
 
これに対し、ファンさんは「声明が求めているのは人権だ。過激派の言葉遣いではない」と主張する。「武装勢力」と言っても「パチンコ」で鉄球を撃っていたことは、ミャンマー当局も認める。このまま軍事作戦が進めば本当に過激化が進み、いよいよ「政治的解決は難しくなる」とファンさんは懸念する。【12月3日 時事】
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「パチンコ」で鉄球を撃つ“武装勢力”掃討のため、100人以上を殺害、約600人を逮捕、集落を“放火・焼き討ち”・・・というのでは“民族浄化”の批判は避けられないでしょう。

批判を強める国連 ASEAN内部からも批判が
国連もスー・チー氏に対し、事態鎮静化のための現地訪問などの行動を求めています。

****国連、ロヒンギャ問題でスーチー氏に要請「現地訪問を*****
国連でミャンマーの問題を担当するナンビアール事務総長特別顧問は8日、同国西部ラカイン州でイスラム教徒のロヒンギャ住民への人権侵害報告が相次いでいることをめぐって声明を出し、アウンサンスーチー国家顧問が現地を訪問し、住民に安全を確約するよう求めた。
 
同州北部では10月に武装集団と治安部隊の間で戦闘が起きて以降、治安部隊による住居の焼き打ちやレイプなどの疑惑が寄せられている。

AFP通信によると、国際機関は約2万1千人が国境を越えてバングラデシュに逃れたと推計。国際社会ではミャンマー批判が高まっている。
 
ナンビアール氏が行動を訴えた背景には、ノーベル平和賞受賞者のスーチー氏が、この問題で存在感を示していないことへの不満があるとみられる。

声明は「これまでも彼女が様々な機会に行ってきたように、彼女自身の心の声に耳を傾け、民族や宗教といった違いを超えて、人間の尊厳と人々の調和を前に進めようと国民に直接語りかけてほしい」とも訴えた。【12月9日 朝日】
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また、国連のジェノサイド防止担当特別顧問は、現地での独立調査も求めています。

****ロヒンギャ迫害で独立調査を=ミャンマー政府に国連顧問****
ミャンマー治安部隊によるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する人権侵害疑惑で、国連のディエン特別顧問(ジェノサイド=集団殺害=防止担当)は29日、ミャンマー政府と国軍に対し、疑惑を検証するため現地での独立調査を直ちに認めるよう求める声明を発表した。
 
ミャンマー西部ラカイン州では、10月に武装集団が警察施設を襲撃する事件が起きて以降、国軍など治安部隊が軍事活動を展開。ロヒンギャに対し、法によらない処刑や拷問、性的暴行などを加えたとの疑惑が取り沙汰されている。【11月30日 時事】 
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この問題に関し、イスラム教徒が多数派で、イスラム教を国教とするマレーシアのナジブ首相がミャンマー政府の対応を批判する姿勢を強めています。

****ロヒンギャ迫害で抗議集会=ナジブ首相も参加―マレーシア****
ミャンマー治安部隊によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害に抗議する集会が4日、イスラム教を国教とするマレーシアのクアラルンプールで開かれた。マレー系住民やマレーシアで暮らすロヒンギャら約2万人が集まり、ナジブ首相や閣僚、野党幹部も参加した。
 
首相は「イスラム教徒、また、一国の首相として看過できない」と迫害行為を非難。
首相の集会参加は内政干渉と見なすとミャンマー政府が声明を出したことについて「内政干渉の意図はなく、人道と普遍的価値を守るためだ」と訴えた。【12月4日 時事】 
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ナジブ首相がこの問題で声を上げたのは、“人道と普遍的価値を守るため”というよりは、汚職疑惑でマハティール元首相や野党勢力から糾弾されている政治状況にあって、“イスラム教徒を守れ!”という形で、国民の目を外に向けたいためでしょう。

ナジブ首相は“ジェノサイド”(集団殺害)という言葉も使ったようで、ミャンマー政府は反撥しています。

****マレーシア首相発言に抗議=ロヒンギャ迫害問題―ミャンマー****
ミャンマー外務省は7日、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題をめぐりミャンマー政府を批判したマレーシアのナジブ首相の発言に対し、抗議したと明らかにした。
 
ナジブ首相は4日、クアラルンプールで開かれたロヒンギャ迫害に抗議する集会に参加し、「世界はジェノサイド(集団殺害)が起きているのを座視できない」などと、ミャンマー政府を糾弾した。
 
ミャンマー外務省の声明によると、同省高官は6日、マレーシアの大使を呼び、ナジブ首相の発言は「根拠のない申し立て」に基づくものだと不快感を表明。ロヒンギャに対する「民族浄化」や「ジェノサイド」を全面否定した。 【12月7日 時事】
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ASEAN外相会議で“疑惑”払拭へ
いずれにしても、国連・人権団体だけでなく、ASEAN内からも批判が出る状況に、ミャンマー政府、スー・チー氏はASEAN非公式外相会議を開いて、ミャンマーの立場を説明するようです。

****19日にASEAN外相会議=ロヒンギャ問題を討議―ミャンマー*****
ミャンマー外務省報道官は13日、最大都市ヤンゴンで19日に東南アジア諸国連合(ASEAN)の非公式外相会議が開催されることを確認した。ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題について討議する。
 
外交筋によると、会議開催はミャンマー政府が提案した。治安部隊による民間人殺害や性的暴行などロヒンギャに対する人権侵害疑惑が指摘される中、ミャンマー政府は、ASEAN各国に疑惑を改めて否定し、イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアを中心に広がっているミャンマー政府への批判や懸念を抑えたい意向とみられる。
 
国連によると、ラカイン州から国境を越えて隣国バングラデシュのコックスバザールに逃れたロヒンギャ難民は過去2カ月で推計2万7000人に達している。【12月13日 時事】 
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スー・チー氏が訴えるべき相手はASEANではなく、国軍であり、国民世論であると思われますが、現実政治家としては動けないというのは先述のとおりです。

なお、ミャンマーでは北東部シャン州北部の少数民族問題も悪化しています。
スー・チー氏が狙った少数民族との和解は遠のく形にもなっていますが、こうした状況では国軍の発言権が更に強まることも想像されます。

****戦闘で新たに11人死亡=武装勢力が警察襲撃―ミャンマー北東部****
ャンマー北東部シャン州北部で2日、少数民族武装勢力が警察署を襲撃する事件があり、警官9人を含む11人が死亡した。国営メディアが8日伝えた。
 
中国との国境に近いシャン州北部では、カチン独立軍(KIA)やタアン民族解放軍(TNLA)など少数民族武装勢力の合同部隊が、11月20日に治安部隊の施設などを攻撃し8人が死亡して以来、断続的に衝突が発生。国営メディアによれば、これまでに30人以上の死者が出た。
 
国連によると、11月20日以降の戦闘で約6500人の住民が家を追われ、うち3000人が国境を越えて中国雲南省へ避難した。【12月8日 時事】 
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ミャンマー  国軍のロヒンギャ弾圧を黙認するスー・チー政権の限界

2016-11-29 20:56:57 | ミャンマー

(ジャカルタのミャンマー大使館前で25日、スーチー氏のポスターを掲げて抗議するデモ参加者=AP 【11月28日 朝日】)

家屋の焼き打ちやレイプなど 「民族浄化」との発言も
昨夜ミャンマー観光から戻ってきたばかりですが、旅行中の11月24日ブログ“ミャンマー  中国国境での少数民族との衝突 少数民族とも認知されないロヒンギャ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161124でも少し触れたロヒンギャ問題について国際的な波紋が広がっています。

****民族浄化」とミャンマー非難=ロヒンギャ問題で国連当局者****
英BBC放送は24日、ミャンマー政府がイスラム系少数民族ロヒンギャの「民族浄化」を目指していると国連当局者が非難したと伝えた。
 
この当局者は、ミャンマーの隣国バングラデシュでロヒンギャの難民を支援している国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)コックスバザール事務所のマッキシック所長。BBCによると、ミャンマーの部隊がロヒンギャに「集団的懲罰」を実行し、虐殺や性的暴行、略奪を行っていると批判した。
 
バングラには最近、治安部隊と武装集団の衝突で治安情勢が悪化しているミャンマー西部ラカイン州から、ロヒンギャが国境の川を渡って続々と押し寄せているが、バングラ政府は受け入れを拒んでいる。
 
マッキシック氏は「バングラ政府が国境を開くと言うのは極めて困難だ」と指摘。「そうすることで、ミャンマー政府がイスラム教徒の民族浄化という究極の目標を達成するまで残虐行為を続け、(ロヒンギャを)追い出すのを助長することになるからだ」と語った。【11月25日 時事】 
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事の発端は10月、ロヒンギャとされる武装勢力が軍や警察の施設を襲撃し、兵士ら十数人が死亡した事件ですが、これを機に国軍による大規模な掃討作戦が行われ、ロヒンギャ住民の家屋の焼き打ちやレイプなどの被害も報じられています。

****<ミャンマー軍>少数民族との衝突激化 数万人が避難****
ミャンマー西部ラカイン州で軍と少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団との戦闘が起き、軍が取り締まりを強化している。

これに伴い大量の住居が焼き払われ、レイプ事件も起きたとして国際人権団体は軍などを批判。

一方、北東部シャン州でも少数民族武装勢力との戦闘が続く。両州では数千人が国境を越えるなど数万人が避難し、国連が懸念を深めている。
 
地元メディアによると、ラカイン州では10月8日夜から9日にかけ、バングラデシュとの国境付近の警察施設などが武装集団に襲撃され、警官9人が殺された。武装集団側も7人死亡したが、武器を奪い逃走した。
 
ロイター通信などによると、その後も衝突が続き、軍が取り締まりを強化。ロヒンギャの民家が焼かれたり、女性が強姦(ごうかん)されたりする事件が相次ぎ、少なくとも86人が死亡し、約3万人が家を追われた。バングラ側へ7000人以上が避難したとみられている。
 
政府や軍は住民弾圧を否定しているが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「国軍は被害地域への立ち入りを認めず、何が起きたか政府にさえ報告していないようだ」と批判する。
 
戦闘で現地には人道支援がほとんど届かず、食料不足とみられる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)バングラ事務所の久保真治代表は「避難民の流入は今後1、2カ月続くのではないか。国際社会は支援環境を整えるよう働きかけてほしい」と話す。(後略)【11月27日 毎日】
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スー・チー氏 ‟捏造された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明”】
ロヒンギャ問題の背景には“ラカイン州では人口増加を続けるロヒンギャに仏教徒の住民が危機感を抱き、2012年には双方が衝突して200人以上が死亡。昨年には弾圧を逃れて密航したロヒンギャ数千人が周辺国に漂着した。”【11月27日 産経】ということがありますが、ミャンマーはロヒンギャはバングラデシュからの不法移民であるとして、ミャンマー国民とは認めていません。

仏教徒が多数を占める国民の圧倒的なロヒンギャ嫌悪のため、人権を重視すると見られていたスー・チー氏も身動きがとれない状況です。ロヒンギャに有利な対応を示すと、国民の批判は自分にはねかえってきます。単なる民主化運動の象徴ではなく、今や現実政治家となったスー・チー氏は国民からの批判を招くような行動はとれません。

スー・チー氏がアナン前国連事務総長を委員長に据えたロヒンギャ問題調査の特別諮問委員会も、ロヒンギャに肩入れしているとの住民の抗議行動を招いています。

この状況に、スー・チー国家顧問が実質的に率いる新政権によるイスラム教徒ロヒンギャへの対応をめぐり、国際社会の非難が高まっています。周辺国ではミャンマー政府に対する抗議デモが起き、欧米からは新政権の対処能力を疑う声が漏れ始めています。

国際批判に対しスー・チー氏は、‟捏造された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明”しているとのことです。

****ミャンマー、ロヒンギャ迫害が深刻化 バングラに避難民数千人が越境 スー・チー氏、批判に「捏造」と反発****
ミャンマー西部ラカイン州で、国軍によるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害が深刻化している。「人権弾圧」との国際社会の声に背を向けるミャンマー新政権の実質的トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相への批判も高まりつつある。
 
隣国バングラデシュにはロヒンギャの避難民が多数流入。バングラデシュ外務省は23日、ダッカのミャンマー大使に「数千人が越境し、さらに数千人が国境付近に集結している」として事態収拾を求めた。
 
ラカイン州では10月、ロヒンギャとされる武装勢力が軍や警察の施設を襲撃し、兵士ら十数人が死亡した。ミャンマー政府は、パキスタンなどでテロ組織から軍事訓練を受けた男が数百人の集団を率いて襲撃を実行したとして掃討作戦を実施し、「構成員ら約70人を殺害した」としている。
 
国連は、この混乱でロヒンギャ3万人が家を追われ、ロヒンギャが集中するラカイン州北部への15万人分の医薬や食料支援が40日以上滞っていると批判。

ロイター通信によると、パワー米国連大使は17日、安全保障理事会の非公開会議で「ミャンマー政府にこのまま任せるのは危険だ」とし、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の現地拠点開設を訴えた。
 
スー・チー氏はこの会議の翌日、米国や欧州連合(EU)などの外交団を呼び、捏造(ねつぞう)された情報で「不当」な扱いを受けていると「怒り」を表明した。
 
ロヒンギャは、掃討作戦と称して国軍に家屋を焼き打ちされ、婦女暴行などの被害も受けていると訴えている。

周辺諸国のミャンマー大使館前では25日、イスラム教徒が抗議デモを実施。マレーシア政府は25日、「民族浄化が疑われる事態を、あらゆる手段で是正すべきだ」とミャンマー政府に懸念を表明した。(中略)
 
スー・チー氏は9月、アナン前国連事務総長をロヒンギャ問題調査の特別諮問委員会委員長に据えたが、仏教徒団体などの反発で状況は改善していない。スー・チー氏としてはロヒンギャ問題が「政権発足から8カ月で最大の試練」(ロイター)となりそうだ。【11月27日 産経】
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ミャンマー政府は、冒頭記事にもあるUNHCR地方事務所長による「民族浄化」発言にも強く反発しています。

****<ミャンマー>政府反発 国連当局者の「民族浄化」発言に****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の避難民が隣国バングラデシュに殺到している問題で、国連当局者が英BBC放送の取材に対し、ロヒンギャの「民族浄化」が進んでいると発言し、ミャンマー政府が反発を強めている。
 
発言したのは、バングラ南東部コックスバザールにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の地方事務所長。BBCの報道によると、所長はミャンマー軍が西部ラカイン州でロヒンギャの虐殺や略奪などを続けていると非難。

「バングラ政府は国境を閉鎖しているが、開放は難しいだろう。なぜなら開放すれば、民族浄化を狙うミャンマー政府の虐殺を助長するからだ」と述べた。
 
これに対し、ミャンマー大統領報道官は25日、「国連当局者は正確な事実に基づき発言すべきだ」と反発。26日には駐ジュネーブ国連・国際機関代表部を通じてUNHCRに抗議した。ミャンマー政府によると、UNHCR側は「民族浄化」発言について「公式な立場ではない」と釈明したという。(中略)

だが、メディアなどは現地入りが認められておらず、実態は避難民の話から推測するしかないのが実情だ。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは声明で「隠すものがなければ、支援団体やジャーナリストのアクセスを認めるべきだ」と指摘している。【11月29日 毎日】
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インドネシア、マレーシアなどでもミャンマー政府批判の抗議行動
スー・チー氏は「捏造」だとしていますが、イスラム国のマレーシア、インドネシア、またイスラム教徒も南部に多いタイなどでは、ミャンマー政府の対応への抗議行動が拡大しています。

****ロヒンギャ問題、ミャンマーに批判 スーチー氏にも矛先****
・・・・「ロヒンギャの虐殺者であるアウンサンスーチーに法の裁きを」。国民の約9割がイスラム教徒のインドネシア。首都ジャカルタのミャンマー大使館前で25日、スーチー氏を非難するポスターを掲げた学生ら200人近くが抗議した。
 
イスラム教が国教のマレーシアでも同日、ロヒンギャ難民を含む約500人が首都クアラルンプールのミャンマー大使館前などに集結。抗議デモはこの日、タイのバンコクやバングラデシュのダッカでもあった。(後略)【11月28日 朝日】
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こうした煽りで、スー・チー氏のインドネシア訪問が延期にもなっています。

****スー・チー氏、インドネシア訪問延期=ロヒンギャ問題と関連か―ミャンマー****
ミャンマーの実質的トップ、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相がインドネシア訪問を延期したことが28日、明らかになった。AFP通信などが伝えた。
 
AFP通信によると、インドネシア訪問は11月30日から12月2日のシンガポール訪問後の予定だった。ミャンマー外務省幹部は延期の理由について、治安部隊と武装勢力の衝突が続いている西部ラカイン州と北東部シャン州の問題を挙げたという。
 
インドネシアでは先週、ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害に抗議するデモが発生。また、ミャンマー大使館などの爆破を計画した疑いで過激派組織「イスラム国」(IS)の支持者3人が逮捕される事件も起きている。【11月29日 時事】 
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国内的には掃討作戦の国軍への国民支持が高まる 黙認する文民政権「両者の方針は同じだ」】
国際的にも、周辺国からも批判を受けるミャンマーのロヒンギャ対応ですが、ミャンマー国内にあっては国軍のロヒンギャへの強硬姿勢は支持されています。軍の人気・影響力が高まっているとも指摘されています。。

****悪名高き軍がミャンマーで復活****
<スー・チー率いる文民政権誕生から1年。イスラム系少数民族ロヒンギャをテロリストとして攻撃する軍が好感されている>

あれは1年前だった。ミャンマー(ビルマ)の総選挙でアウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が地滑り的勝利を収めると、最大都市ヤンゴン(ラングーン)の同党本部前に詰め掛けた大勢の支持者が歓喜のダンスを踊り、旗を振った。半世紀続いた過酷な軍事政権が終わり、スー・チーが実質トップに立つ文民政権が誕生した......はずだった。

しかし今、この国を統治しているのが誰なのかはっきりしない。嫌われていた軍の人気が急上昇しているのだ。

なぜか。軍が長年悪役に仕立ててきた「敵」が再び頭をもたげ始めたからだ――現実はさておき、少なくとも人々のイメージの中では。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャとの戦いを通じて、軍は政治的な力を取り戻しつつある。

ロヒンギャは昔から迫害を受けていて、隣国バングラデシュからの「不法移民」と決め付けられてきた(実際は、何世紀にもわたってミャンマー西部に居住してきたのだが)。最近は、テロ組織ISIS(自称イスラム国)などのイスラム過激派と関連付けられることも多い。いずれは、多数派の仏教徒を人口で上回るのではないかと恐れられてもいる。

ミャンマー軍は最近、ロヒンギャの組織的な武装反乱が起きていると主張している。その主な舞台とされるのが、バングラデシュと境界を接する西部のラカイン州だ。

先月、ラカイン州北部マウンドーの警察施設3カ所が、刀とピストルで武装した集団に襲撃された。警察官9人が死亡し、その後の戦闘でさらに兵士5人が死亡した。

軍の「でっち上げ」説も
政府によれば、武装集団はパキスタンでイスラム原理主義勢力タリバンの訓練を受けたロヒンギャのテロリストだという。根拠とされたのは、身柄を押さえた一部の「実行犯」から(おそらく力ずくで)引き出した証言だ(スー・チーは後にこの判断を撤回した。証言者が1人にすぎず、信頼性に欠けるというのが理由だ)。

その後の軍の動きは素早く、複数の証言によれば残虐なものだった。恣意的な逮捕、村の焼き打ち、司法手続きを経ない殺害、レイプが行われたという批判が上がっている。

それ以来、当局は「イスラムの侵略」に対して警告を発し、仏教徒の民兵勢力への武器供与を約束した。

これが12年の悲劇を再現させるのではないかという懸念が高まっている。同年、ラカイン州で仏教徒の暴徒がロヒンギャの地区を襲い、集落に火を付け、大量殺戮を行った。これにより、多くのロヒンギャが避難民と化した。このときの過激な仏教徒の行動は、地元当局がたき付けたと言われている。

先月のマウンドーの事件後、ラカイン州の仏教徒たちは軍への支持を叫んで行進し、ミャンマーの有力ジャーナリストたちはロヒンギャが軍に「非協力的」だと非難した。

兵士たちが丸腰のロヒンギャを撃つのを見たとニューヨーク・タイムズ紙に語った記者は、後にフェイスブック上で証言を撤回した(どのような圧力があったのかは分からないが)。

ラカイン州の州都シットウェ郊外の難民キャンプで暮らすロヒンギャのリーダー、ヌール・イスラムは、「ロヒンギャの反乱」自体が軍のでっち上げだと言う。「政府の狙いは民族浄化だ。(私たちを)痛めつけ、消し去ろうとしている。

軍のでっち上げを裏付ける証拠はない。しかし、非営利の人権監視団体フォーティファイ・ライツの創設者であるマシュー・スミスによれば、「軍がこの状況を利用して、自分たちに好意的な感情を高めようとしていることは間違いない」。

文民政権も軍を黙認?
襲撃事件への対応で軍の人気が高まっているのを尻目に、目立った対応をしていない文民政権はいかにも無能に見える。実質トップのスー・チー(役職は国家顧問兼外相)も、彼女の側近として大統領を務めるティン・チョーもラカイン州を訪れていない。

「ミャンマーには2つの政府が存在している。文民政権と軍事政権だ」と、国際NGO「人権のための医師団」のウィドニー・ブラウンは言う。国防省や内務省、警察、移民・人口問題省といった重要機関は、今も軍が押さえているのが現状だ。

「国境地帯では軍の影響力が強い」と、ブラウンは言う。「そこへもって反乱への不安が高まっているため、ラカイン州北部は文民政権ではなく軍のコントロール下にある」

それでも、マウンドーの事件の前は、文民主導で平和に向けた動きが前進しつつあった。文民政権は軍の強硬な抵抗に遭いながらも、ラカイン州の宗教対立に関する諮問委員会の設置にこぎ着けた。コフィ・アナン前国連事務総長を委員長とする同委員会は、同州で現地調査を実施し、来年後半に諮問を答申することになっている。

その雲行きが怪しくなってきた。「アナンを委員長に起用したのは、人権侵害に光を当てて、何らかの和解の環境を整えようという意図だったが」と、ブラウンは説明する。「委員会が影響力を持つ可能性は、もともと限られていた。あくまでも諮問機関にすぎないし、最近のラカイン州の動向により、委員会が成果を上げるチャンスが失われた恐れがある」

文民政権が軍に対して無力だという可能性以上に気掛かりなのは、文民政権が軍の行動に暗黙の了解を与えている可能性があることだ。スー・チーがロヒンギャについてどう考えているかは誰も分からないが、問題解決に動いていないとして批判されていることは間違いない。

襲撃事件の後に国営メディアは、軍による人権侵害が横行しているという「でっち上げ」の批判を厳しく非難する意見記事を掲載。民間のジャーナリストたちがテロリストと「グルになっている」と糾弾した。国営メディアを管轄する通信・情報技術省は、文民政権の影響下にある政府機関だ。

大統領府のゾー・テイ報道官はフェイスブックで、英字紙ミャンマー・タイムズの記者を名指しで批判した。軍によるレイプ疑惑を報じた女性記者だ。

その後、記者は解雇されたが(軍事政権時代からの高官である同報道官が同社に直接電話を入れたとされる)、スー・チーの指示で職にとどまることになった。

最近、同報道官は内輪の席で、ラカイン州のロヒンギャをめぐる問題について政府と軍は「協力している」と述べた。「両者の方針は同じだ」【11月29日 Newsweek】
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スー・チー氏がロヒンギャ弾圧に積極的に加担している訳でもなく、行き過ぎにはそれなりに対応はしているようですが、ただ政治家としては結果で評価されます。

国民のロヒンギャ嫌悪を逆撫ですることもできず、国軍の弾圧も阻止できない・・・当初からわかっていたことではありますが、スー・チー政権の限界を示しています。
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ミャンマー  ロヒンギャを少数民族としては認めないスー・チー政権 襲撃事件で解決は一層困難に

2016-11-01 21:54:44 | ミャンマー

(ロヒンギャの不満を煽る過激派指導者 【10月19日 NHK「変質する対立・ロヒンギャ問題は今」】)

アメリカも経済制裁解除、スー・チー訪日で日本の支援も期待
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が今日来日する予定となっています。

****スーチー氏 1日に来日 安倍首相と経済支援など協議****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問兼外相が11月1~5日に日本を訪問する。スーチー氏の来日は2013年4月以来で、今年3月末にミャンマーで新政権が発足してからは初めて。

2日に安倍晋三首相と会談する予定だ。スーチー氏にはチョーウィン計画・財務相も同行。ミャンマー側は、日本からの経済支援や投資の拡大に向けた協議を中心にしたい考えとみられる。(中略)

ミャンマーは5000万人超の人口を抱え、高い経済成長も期待され各国から注目を集める。だが、電力などインフラ整備の遅れや、資金などに関する企業情報が開示されないなどの問題も指摘されている。
 
新政権発足から半年が過ぎたが、スーチー氏は最近、首都ネピドーで開催された会議で、経済発展に遅れが出ていることを認める発言もしている。
 
スーチー氏は安倍首相との会談などを通じて、日本側に人材育成への協力など経済面のほか、少数民族地域の安定に向けた支援も呼びかけるとみられる。【10月31日 毎日】
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大きな(あるいは、大き過ぎる)期待を担って新生ミャンマーを率いるスー・チー氏ですが、難しい課題が山積しています。

国民生活の改善、少数民族との和解、国軍との関係、国内少数派イスラム教徒の問題・・・・

今回訪日の主な目的は、日本からの投資・支援によって、経済成長の加速で国民生活を改善し、国民に「変革」の成果を目に見える形で提示できるようにすることでしょう。

そのことは、程度の問題はありますが、一定に実現可能な課題でしょう。
9月中旬にはスー・チー氏が訪米し、オバマ大統領とも会談、アメリカも経済制裁解除で新政権を後押しする形となっています。

****米、ミャンマー制裁をほぼ解除 民主化の進展受け****
米政府は7日、ミャンマーの軍事政権時代に始めた経済制裁をほぼ全面的に解除した。オバマ大統領は9月にミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問が訪米した際、制裁を解除する意向を示していた。
 
米政府はクリントン政権時代の1997年、ミャンマーの軍事政権による人権抑圧に対抗する措置として経済制裁を始めたが、昨年の総選挙でスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が勝利し、新政権が発足して民主化が進んだことから解除に踏み切った。軍や旧軍政に近い個人や企業との商取引の禁止や、宝石類の輸入禁止などが解除される。
 
ただ、米財務省は、ミャンマーの麻薬取引や資金洗浄などへの対応について「進展はしているが、懸念が完全に改善されていない」として、一部の対象者への制裁は継続する。【10月8日 朝日】
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ロヒンギャをめぐる厳しい対立 アナン前国連事務総長の仲介にも激しい反発
一方で、進展があまり見込めないのが、国際社会も注目している西部ラカイン州に多く暮らすイスラム教徒「ロヒンギャ」の問題です。

国民のおよそ9割が仏教徒のミャンマーにあって、 少数派であるイスラム教徒のうち、およそ80万人を占めると見られているのが、ロヒンギャと名乗る人たちです。 彼らは、政府から市民権も与えられていません。

ロヒンギャの人たちは、約200人の犠牲者を出した4年前の衝突のあと、ロヒンギャというだけでキャンプに押し込められ、抑圧された厳しい生活を強いられています。

国内での差別や抑圧から逃れようと、去年(2015年)、数千人が密航して周辺国に漂着。こうした状況が何も改善されていないと、国際的な批判、ロヒンギャの不満が高まっています。

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キャンプに暮らす、ゾー・エインさんです。 毎日の食事にも苦労していると言います。

ゾー・エインさん 「外に働きに行くことも出来ません。 我々は難民になってしまいました。 家も財産もすべて燃やされ、何も残っていません。」

うつうつとした生活の中、願いはロヒンギャとして市民権が認められることです。
ゾー・エインさん 「全員がバングラデシュから来たのではありません。ロヒンギャに(市民権を)認めるべきです。」【10月19日 NHK】
******************

一方、仏教徒側にはロヒンギャに対する激しい憎悪があります。

******************
仏教徒の住民は、ロヒンギャの人たちを「不法移民のバングラデシュ人だ」と主張。“市民権を与えてはならない”と、衝突のたび、憎悪を募らせてきました。

仏教徒の住民  「奴らは人間じゃない。仏教徒の首をはね、家に火をつけて回った。この村だけで10人以上殺されたんだ。」【同上】
******************

人権を重視すると見られていたスー・チー氏も、国内多数派の仏教徒の激しい反発に配慮してか、ロヒンギャ問題には消極的姿勢で沈黙を守り、ロヒンギャの状況改善を求める人々からは失望を買っていました。

そうしたなかで、今年9月にアナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設立し、9月5日にはヤンゴンで初会合が開かれました。

スー・チー氏がいよいよ問題解決に動き出した・・・・とも見られていましたが、アナン氏が現地仏教徒の激しい反発にあっています。

****ミャンマー入りの前国連事務総長、仏教徒らから罵声浴びる****
ミャンマー西部ラカイン州で6日、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ人数万人に避難を強いた宗教紛争の現状を調査に訪れた前国連(UN)事務総長のコフィ・アナン氏に対して、強硬派の仏教徒ら数百人が罵声やブーイングを浴びせた。
 
アナン氏は、ミャンマー新政権を事実上率いるアウン・サン・スー・チー氏に委任され、深刻な分裂および貧困にあえぐ同州の傷を癒やす方法を探るために現地入りした。
 
バングラデシュとの国境に位置するラカイン州では2012年以降、仏教徒のラカイン人とイスラム教徒のロヒンギャ人の間で激しい衝突が相次いでいる。これまでに殺害された100人以上の大半はイスラム教徒。また数万人のロヒンギャ人には国籍を与えられないまま、医療など基本的サービスを欠く荒れ果てた避難民キャンプで生活している。
 
今年3月に国民民主連盟(NLD)による政権が発足して以来、爆弾となりかねないロヒンギャ問題にしっかりと踏み込まず、人権団体から批判を浴びているスー・チー氏は先月、アナン氏を問題解決のための諮問委員会の委員長に起用していた。
 
しかし6日朝、ラカイン州の州都シットウェの空港に降り立ったアナン氏に対し、地元の仏教徒らは敵意をあらわにし、「偏見をもつ外国人がラカイン州のことに介入をするな」などと書かれたプラカードを掲げるとともに、「コフィ率いる委員会はいらない」などとの罵声やブーイングを浴びせた。

AFPの取材に対して仏教徒らは、アナン氏がラカイン州を離れる7日にも抗議をすると述べた。【9月6日 AFP】
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閉塞状態のなかで容易に浸透する過激思想
改善の希望が見えず、キャンプに押し込まれた状態の苦しい生活が続くロヒンギャは、イスラム過激思想が広まる格好の場ともなります。

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ロヒンギャ過激派指導者  「スー・チー氏が率いる政権が出来て数か月がたったが、現状は何も変わらない。あらゆる悪行が、スー・チー氏の率いる『民主的な』政権のもとで行われているのだ。」【10月19日 NHK】
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こうした中で今月9日から12日にかけて、武器を手にしたロヒンギャとみられる群衆が警察や軍部隊を襲撃し、警官・兵士が死亡する事件が続発しました。

****スーチー氏、和平に暗雲 ロヒンギャ武装集団か 衝突続発****
ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊とイスラム教徒ロヒンギャとみられる武装集団との衝突が相次いでいる。北部カチン州でも少数民族武装勢力への政府軍の攻撃が激化。アウンサンスーチー国家顧問が最優先に掲げるロヒンギャ問題の解決や国内和平実現に暗雲が垂れこめ始めた。
 
国営紙などによると、バングラデシュとの国境に近いラカイン州マウンドー近郊の村で11日、拳銃や刃物を持ったロヒンギャとみられる約300人の群衆が軍部隊に襲いかかり、兵士4人が死亡、1人が負傷。10日には、別の村で軍部隊が約20人の武装集団と銃撃戦となり、4人を射殺した。
 
地元記者によると、武装集団と軍との衝突は12日も起きた。同州では仏教徒の少数民族ラカインが多数派だが、マウンドー一帯はラカインと対立するロヒンギャが大半を占めている。
 
9日未明にマウンドーの国境警察の地区本部ら3カ所がロヒンギャとみられる武装集団に襲撃され、警官9人が死亡、銃51丁が奪われた事件がきっかけとなった。

同州では2012年にラカインとロヒンギャの住民同士が衝突し、約200人が死亡した。ロヒンギャを中心に今も約12万人が避難民キャンプで暮らすが、その後は、今回のような事件は起きていなかった。
 
地元メディアなどでは、動機として当局が無届けのモスク(イスラム礼拝所)の調査を始めたことへの反発の可能性などが指摘されている。

12日には銃を持った男たちの前で、1人の男がロヒンギャの言語で「戦いは始まった。我々に加われ」と呼びかける動画がインターネットに流れていることが明らかになった。
 ミ
ャンマーでロヒンギャはバングラデシュからの不法移民とみなされ、大半が国籍を持てないなど差別されてきた。今年発足した新政権を率いるスーチー氏は、コフィ・アナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設置するなど問題解決に動き出していた。
 
だが、今回の衝突は仏教徒が多数を占める国民の反ロヒンギャ感情を高めかねない。スーチー氏は12日に首都ネピドーでの記者会見で「(調査中の)現時点では何も言えない。法に基づき対処していく」と述べるにとどまった。(後略)【10月13日 朝日】
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この一連の襲撃については、襲撃グループの指導者がパキスタンの反政府武装勢力タリバンから軍事訓練を受け、バングラデシュ側で資金などを受け取っていたとミャンマー政府は見ています。【10月19日 NHKより】

一方、かねてより西部ラカイン州では、多数派仏教徒住民との衝突だけでなく、衝突を防止する立場にある治安部隊によるロヒンギャ弾圧が行われていると言われています。

****治安部隊が性的暴行か=ロヒンギャ数十人被害情報―ミャンマー*****
ミャンマーの治安部隊が西部ラカイン州で、イスラム系少数民族ロヒンギャの女性数十人に対し、レイプなど性的暴行を加えた疑惑が浮上している。

ラカイン州では、武装集団が9日、警察施設を襲撃する事件が発生して以来、治安部隊が掃討作戦を展開中。
 
人権団体「アラカン・プロジェクト」のクリス・レワ氏によると、19日にラカイン州の村で約30人の女性がレイプされたほか、別の村でも複数の女性が被害に遭ったとの情報がある。ロイター通信も28日、兵士からレイプされたと訴えるロヒンギャ女性8人の証言を伝えた。
 
これに対し、大統領府高官は取材に「情報源が信頼できない」と反論。高官によると、現地の軍司令官も性的暴行を否定している。【10月28日 時事】 
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【「ラカイン州のイスラム教徒」 見えない政権側の解決に向けた姿勢
9日から12日にかけての襲撃事件に関するスー・チー氏の「(調査中の)現時点では何も言えない。法に基づき対処していく」という関与を避けるような発言、治安部隊によるレイプ事件に関する大統領府高官の「情報源が信頼できない」との否定発言・・・スー・チー氏及びミャンマー政府がロヒンギャの状況改善に動く兆しがないことを窺わせます。

スー・チー国家顧問兼外相の来日を前に産経新聞との応じた、スー・チー氏側近のペ・ミン情報相はロヒンギャ問題について「西部ラカイン州で10月に警察本部などが襲撃されたが、これは民族紛争ではなく、イスラム教徒でロヒンギャを自称する集団による計画的な武装攻撃だ。国軍が制圧しているが、衝突は続くかもしれない」【10月31日 産経】と語っています。

“民族紛争ではない”ということは、ロヒンギャを“少数民族”、ミャンマー国民としては認めないという政権の立場を示しています。ロヒンギャは不法入国者であり、テロリストだとする立場です。

****スー・チー氏 どう対応****
田中
「それに対してスー・チー氏ですが、国際的な協力を仰いで解決に乗り出したとのことですが、スー・チー氏自身の立ち位置がいまひとつ見えてこないように感じます。スー・チー氏はこの問題にどう対処しようとしているのでしょうか?」

「人権を重視するというスー・チー氏の基本的な立場は変わりませんが、スー・チー氏は『ロヒンギャ』という名称を使うことは避け、最近は『ラカイン州のイスラム教徒』と呼んでいます。

少数民族と公式に認めれば、ミャンマーでは特別な地位が与えられることになるためで、ここに大多数を占める仏教徒側への配慮がうかがえます。

ラカイン州を訪れてみると、多数派の仏教徒の生活も非常に厳しいものがあり、それがロヒンギャの人たちへの反発につながっていることに気づきます。

アナン氏の中立な諮問委員会の力を借りて、政治的な解決方法を模索する一方、地道に経済振興に取り組み、不満の火種を取り除いていくしかないと思います。」【10月19日 NHK】
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当分の間は進展が見込めない状況ですが、閉塞状態が続く中でロヒンギャ側の暴発が再発することも十分予測され、それはまた多数派仏教徒側の憎悪を強化し、問題解決を一層困難なものにすることが懸念されます。

スー・チー氏が置かれている現実政治を考えれば、彼女がロヒンギャ問題で新たな姿勢を見せられないこと、早急な解決を期待することは“大きすぎる期待”であることはよくわかります。

ただ、何十万人もの人々の日々の生活、更には生命がかった問題でもあり、改善に向けて動かせるとしたら彼女の指導力しかないのも事実です。
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ミャンマー  スー・チー氏、父の遺志を継ぐ形で「21世紀のパンロン会議」 不信感払拭は?

2016-09-03 21:59:14 | ミャンマー

(ミャンマーの首都ネピドーで8月31日、数十年続く民族紛争の終結へ向けた和平会議「21世紀パンロン」が開催された。ヤマアラシのとげに果物、銀貨にビーズといった民族衣装が出そろって同国の多様性を誇示するとともに、壮麗な衣装で会議を後押しした。【9月3日 AFP】)

【「変革」への突破口とも位置づけられる少数民族問題
アウン・サン・スー・チー国家顧問が主導して「変革」に取り組むミャンマーでは、主要課題のひとつ、少数民族問題の前進を図って和平会議が開催されています。

****スーチー氏、和平実現へ初会議 連邦民主国家へ改憲視野****
ミャンマーの首都ネピドーで31日、内戦状態が続く政府と少数民族武装勢力の和平をめざす「連邦和平会議」が始まった。

アウンサンスーチー国家顧問が実質的に率いる新政権下では初めて。スーチー氏には会議での議論を、軍政下で定められた憲法の改正につなげたい思惑もある。
 
国内和平はテインセイン前政権下で進められ、約20の武装組織のうち8組織との間で昨年10月、全国規模の停戦協定が実現した。スーチー氏は3月末の新政権発足以来、和平の実現を最優先に掲げ、すべての当事者を集めた会議を早期に開く意向を示していた。
 
今回はこれに応じる形でカチン独立機構(KIO)やワ州連合軍(UWSA)など、全国停戦に未署名の武装組織を含む過去最多の17組織が軍や政党の代表らとともに参加。国連の潘基文(パンギムン)事務総長も開会式に初めて出席した。
 
スーチー氏は開会演説で「平和のない地域の人々が期待をもって会議を見守っている」とし、北部を中心に約10万人いる内戦による国内避難民らを念頭に「彼らの苦境を忘れてはならない」と訴えた。
 
今回は5日間の日程で、各組織や軍の代表らが連邦制や少数民族自治のあり方について考えを示すにとどまる見通しだが、政府関係者によると、今後は6カ月程度ごとに開催し、会議で合意があるごとに国会が必要な法改正などをすることになるという。
 
こうした枠組みを定めた背景には、軍に国会の4分の1の議席を割り当てるなど強い権限を与える現憲法の改正をめざすスーチー氏の思惑がある。開会式で少数民族の代表は「現憲法は真の連邦制実現には不十分で、改正すべきだ」と訴えた。スーチー氏は、ともに「改憲」を掲げる少数民族勢力との協議の場を使い、改憲に後ろ向きな軍を説得したい意向とみられる。
 
ただ、実現は容易ではない。軍は武装勢力の全国停戦協定への署名を、会議での実質的な協議入りの前提にする姿勢を崩していないが、軍に不信感を抱く協定未署名の武装組織の多くは態度を明確にしていない。
 
スーチー氏は開会式で「全国停戦が和平だけでなく、連邦民主制実現の初めの一歩だ」と述べ、軍の主張に配慮する姿勢を示している。停戦協定に多くの組織を参加させることができるかが、スーチー氏の当面の課題となりそうだ。【9月1日 朝日】
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ミャンマーには130以上の少数民族がいるとされ、高度な自治権を求めて一部は武装闘争を行い、1948年の独立以来内戦が続いています。上記記事にもあるように、テインセイン前政権は昨年10月、最強硬派だったカレン民族同盟(KNU)など8勢力と停戦協定を結びましたが、約20ある武装勢力の半数以上は合意を見送っています。
今回の和平会議は、「21世紀のパンロン会議」とも称されています。

イギリスの植民地支配からの独立運動を指導した故アウン・サン将軍と少数民族代表が1947年に交わした「パンロン合意」では、連邦国家の枠内で少数民族の自治を保障することになっています。
スー・チー氏は国父・故アウン・サン将軍の娘として、父の遺志を継ぐ形で、「変革」の最初の実績づくりを実現したいところです。

スー・チー氏は早くからこの問題に言及しており、2010年に自宅軟禁を解除された後にも、「第2回パンロン会議」の開催を提案しています。

更にその自宅軟禁解除前の2010年10月には、スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)の幹部と、シャンなどの少数民族の政党が▽スー・チー氏の指導による団結と国民和解▽少数民族の自治権を認めた「パンロン会議」(47年)の第2回会議の早期開催・・・・などで合意するなど、少数民族との連携を軍政に対する対抗軸として位置づけ、取り組んできてもいます。

スー・チー氏としては、“父の遺志を継ぐ”という形で各民族にもアピールしやすい少数民族問題を突破口に、冒頭記事にもあるように、軍部の抵抗が強い改憲問題への道筋もつけようとの思惑もあるようです。

また、“和平は経済発展にも直結する。各武装勢力が支配する国境沿いは天然資源が豊富で海外企業の関心も高い。地元ジャーナリストのセインウィン氏は「和平が実現しなければ開発は進まない」と見る。”【8月31日 毎日】というように、少数民族との和平による安定は、国民が望む経済発展とは不可分の関係にあります。

スー・チー氏が国民の期待に応える「変革」を実現できるか・・・その重要なカギともなる少数民族との和平・融和の問題です。

中国が影響力を有する3組織は不参加
もっとも、道のりは平たんではなさそうです。

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ただ、各少数民族武装勢力は国軍に対する不信を理由に武装解除を拒み続けている。資源などの利権の分配を巡る意見の隔たりも予想される。

スーチー氏が率いる与党「国民民主連盟」(NLD)は多数派ビルマ族主体のため、「結局はビルマ族中心の国造りをするのではないか」(KIA関係者)と疑う声もある。

会議に参加する武装勢力の一つ、全ビルマ学生民主戦線(ABSDF)のタンケー議長は毎日新聞の取材に「会議開催は大きな前進には違いないが、和平実現には数年以上の長い年月がかかるだろう」と語った。【8月31日 毎日】
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スー・チー氏は8月中旬の訪中で習近平国家主席らと会談。これに合わせ、いずれも中国の影響下にあるとされる
コーカン族のミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)の3勢力が会議へ参加を表明していました。

しかし、結局この3組織は会議には参加しなかったようです。

これが、3組織独自の事情によるものなのか、中国の意向が影響したものなのか・・・は、わかりません。
訪中では、習近平国家主席が凍結されてダム建設の再開を求めたのに対し、スー・チー氏は判断を明らかにしませんでした。

****ミャンマーに関係進展求める=スー・チー氏、ダム再開に慎重―習中国主席****
中国の習近平国家主席は19日、北京を訪問しているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と会談した。

中国中央テレビによれば、習主席は「両国の全面的な戦略的協力パートナー関係をさらに進展させ、両国国民により多くの利益をもたらしたい」と強調。中国は経済協力を中心とした関係強化を進め、ミャンマー新政権への影響力拡大を目指す考えだ。
 
中国側はテイン・セイン前政権時代に地元住民の反対で凍結された中国主導のミッソン・ダム建設計画の再開を切望しており、習主席も同計画などを念頭に「協力して現在の大規模プロジェクトを安全に進めていきたい」と訴えた。
 
AFP通信によると、スー・チー氏は習主席との会談前に記者団に対し、同ダムなど水力発電事業を再検討する調査委員会が既に設置されたことを確認。「最良の解答を見つけるのは委員会だ。最善の解決策が何かは今は言えない」と慎重な言い回しで、検討結果を待つ考えを示した。【8月19日 時事】 
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【「私は人権の擁護者ではなく政党指導者だ」 少数民族側の不信感払拭は?】
今後、少数民族との和平・融和を実現できるかは、スー・チー氏と少数民族側の信頼関係に大きく依存していますが、スー・チー氏も、かつての“民主化運動の象徴”ではなく、軍部とのバランスを考慮せざるを得ない現実政治家の立場にあります。

長年にわたる拘束・自宅軟禁という経験を経て、彼女自身がそうした立場を意識して、また、軍部の協力なくして改革は実現できないという認識から、人権問題などには慎重な姿勢も見せています。

****(スーチーの軌跡)現実の先に:4 妥協姿勢、戸惑う人権派****
昨年11月の総選挙でアウンサンスーチー率いる国民民主連盟は圧勝した。だが、新政権の国家顧問に就いたスーチーが今年6月、国連の人権問題担当者に述べた言葉が、ミャンマー社会の「変化」を期待する人々の間で戸惑いを生んだ。
 
「ロヒンギャ、という呼び名は使わないで」
 
国民の9割が仏教徒の同国で、イスラム教徒のロヒンギャは隣国からきた「バングラデシュ人」とみなされて市民扱いされず、迫害されてきた。スーチーは国際社会の要請も受けて打開策を探っているが、ロヒンギャという存在を認めたくない国内の差別感情に配慮した、と受け止められた。
 
「近年のスーチーは人権への意識が弱まり、『輝く星』ではない」。国境を接するタイ北西部メソトから母国を支援する人権活動家キンオーンマーは話す。
 
法の支配や民主主義の必要性を訴え、長年の自宅軟禁にも諦めなかったスーチー。だが、解放後は妥協姿勢も見せる。2013年10月には「私は人権の擁護者ではなく政党指導者だ」と米CNNに答えた。仏教徒の支持を失うと選挙に勝てない事情が、背景にある。
 
法律家アウントゥーは、スーチーが襲われた03年のディペイン事件を国際裁判に訴えようとしたが、穏便に済ませたいスーチーの意向で10年暮れに断念した。

今は軍と対立してきた少数民族を支援するが、スーチーが模索する少数民族との和平実現には悲観的だ。「正義を求めずに自由で平和な社会や、国民和解を実現できるのか。軍と歩み寄った先の方針が見えない」

国際NGO「フリーダムハウス」の報告書(16年版)では、少数派保護や表現の自由などから見る同国の自由度は211カ国・地域で48番目の低さ。スーチーの手腕に厳しい目が注がれている。 =敬称略【9月2日 朝日】
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軍部との関係を保ちながら、また、多数派ビルマ族の世論と対立することなく、「スーチー氏も(多数派)ビルマ族中心の国造りをするのでは」(KIA関係者)という少数民族側の根深い不信感を払しょくできるか・・・非常に難しい取り組みです。
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ミャンマー  反感と必要性のはざまで複雑な中国との関係 17日からスー・チー氏訪中

2016-08-09 23:09:15 | ミャンマー

(ミャンマー中部モンユワ地区で5月6日、中国企業によるレパダウン銅山開発再開に抗議する住民 【5月7日 時事】)

横行する中国への人身売買
スー・チー氏が牽引するミャンマー民主化については、アメリカはこれを支援する関係にありますが、6月28日、アメリカ国務省は人身売買に関する今年の報告書において、ミャンマーを人身売買状況が懸念される国のリスト中最悪となる「ティア3」に格下げしました。

イスラム教徒で少数民族のロヒンギャ族に対する迫害が続いていることへの米国の懸念を伝えるメッセージの意味合いもあるとのことです。

****米、人身売買問題でミャンマーを「最悪」国に格下げ****
米国は、ミャンマーを人身売買状況が懸念される国のリスト中最悪となる「ティア3」に格下げした。民主的に選出された政府と、依然力の強い軍に対し、子供の兵士や強制労働の抑制に一段と尽力するよう求めるためという。

この格付けは、売春や強制労働のための違法な人身売買を含む近代の奴隷状態を回避する目的があり、報告は国務省から30日に発表される。「ティア3」にはほかに、イラン、北朝鮮、シリアなどが含まれている。

今回の格下げは、イスラム教徒で少数民族のロヒンギャ族に対する迫害が継続していることへの米国の懸念を伝えるメッセージの意味合いもあるという。

アウン・サン・スー・チー氏主導の新政権が今年発足して以来、この問題が放置されているとして、同氏に対する国際的批判が高まっている。

「ティア3」の国は、人身売買状況が最低基準を満たしておらず、満たす努力もしていないことから、米国や国際社会の支援に対するアクセスが制限されるなどの制裁を受ける可能性がある。

ミャンマーは、最大期限となる4年間「ティア2」に格付けされており、期限を迎えたことから、格上げが正当化されるか自動的に格下げされるかのどちらかだった。【6月28日 ロイター】
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ロヒンギャの問題、仏教徒が多数を占めるミャンマー国内のロヒンギャへの強い反感があって、民主化運動の象徴でもあったスー・チー氏もこの問題については多くを語らないことなどは、これまでも再三取り上げてきたところです。

また、その良し悪し、あるいは「実態」は別として、国連や国際機関でもない一国家に過ぎないアメリカが、世界各国の人権状況に関する報告書を定期的に発表するということが、民主主義・人権の「守護者」としてのアメリカの世界に対する姿勢を示してもいますが、トランプ氏のような「自国第一主義」ということになれば、こうしたものもそぐわなくなるのでしょう。

アメリカ国務省のミャンマーにおける人身売買への批判は、上記記事にあるロヒンギャ問題にとどまらず、中国との間での人身売買にも及んでいます。

****ミャンマー人身売買の実態、「職ある」とだまされ中国で強制結婚*****
ミャンマーの貧しく若い女性が、働き口があるとそそのかされていった先の中国で会ったこともない男性と結婚させられそうになり、遠く離れた母国へ必死の思いで逃げ帰ろうとする例が後を絶たない。
 
貧困に苦しむミャンマーの最大都市ヤンゴンから約1時間離れた場所に、家のない人々が集まりテントや粗末な竹の屋根を張って暮らす地域がある。チー・ピャー・ソーさん(22)は今年4月、その一帯から姿を消した。(中略)
 
ソーさんともう1人の女性は、中国で家政婦の職があるという誘いに乗った。月給は210ドル(約2万1500円)。ミャンマーでの稼ぎの数倍に上る額だ。
 
仲介業者が無料でソーさんらをミャンマー北東部シャン州にある中国国境沿いの町ムセまで運び、そこから2人は合法的に越境した。しかし中国に入った途端に、約束はたちまちほごにされた。
 
ソーさんの地元の警察官は匿名を条件にAFPの取材に応じ、「2人はある中国人女性の家に連れて行かれた。そこに、複数の中国人男性が彼女らを見にやって来た」と明かした。「2人は、中国人男性と結婚しなければならないと告げられた」という。
 
ミャンマーは近年、その民主改革で国際社会から称賛を浴びてきた。抑圧的な軍政を終結させ、民主化運動の象徴アウン・サン・スー・チー氏が、選挙で選ばれた政府を事実上率いていく道が開かれた。
 
ただ、誕生間もない文民政権に6月30日、外交上の難題が突き付けられた。米国がミャンマーを、世界最悪の人身売買の中心地の一つと名指ししたのだ。
 
米国務省は人身売買に関する年次報告書で、「ミャンマー人女性らは中国に移送されて中国人男性との結婚を強要され、性労働や奴隷並みの家事を押し付けられている」と指摘。さらに、政府関係者らが「時にこの種の人身売買に加担している」と信じるに足る理由さえあると糾弾した。

■人身売買の被害者は数千人規模
公式なまとめによると、2006~2016年の中国への人身売買の被害者は3000人を上回っている。ヤンゴンに拠点を置く人身売買対策班の警察幹部は、「被害者のうち2000人は女性で…400人は18歳未満の未成年者だ」としている。
 
ソーさんら2人には運が味方してくれた。中国で出会った高齢のミャンマー人女性の助けで、見知らぬ男と結婚させられる前に自国へ戻ることに成功した。
 
2人は現在、ヤンゴンにある国営の女性支援施設に保護され、就業訓練を受けている。一度も学校に通ったことがないというソーさんにとって、再び同じ道をたどらないためには就業支援は不可欠だ。【8月9日 AFP】
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同様の“高い給与を餌に中国へ連れて行き、現地に到着すると売春や結婚を強いる”というような人身売買は、ベトナムと中国の間でも横行しています。

ベトナム側発表では“11〜15年の5年間に摘発された誘拐事件は2200件、拘束された容疑者は3300人に上るという。救出された被害者は4500人で、7割が女性。だが、それ以前の5年間と比べると、事件数は11.6%増えている。”【7月31日 Record China】とのことです。

“政府関係者らが「時にこの種の人身売買に加担している」”ということでミャンマーも厳しく批判されるべきですが、まず第一には、ミャンマーやベトナムなどで大規模に不法行為を続ける中国こそが、その責任を問われるべき問題でしょう。

中国との関係見直し
軍事政権時代、経済制裁にあったミャンマーに大きな影響力を行使するようになった中国ですが、すでにテイン・セイン大統領の頃から、中国との関係の見直しは始まっています。

2011年、テイン・セイン大統領が中国出資の巨大ダム「ミッソンダム」の建設を「任期中は開発を認めない」と中断したことは、中国との関係見直しの象徴として注目されましたが、スー・チー政権にあっても、同様の“見直し”が行われているようです。

****シャン州政府が中国のダムにNO! 大型公共事業見直しへ****
2016年7月13日、ミャンマー東部のシャン州で、中国が進めるダム水力発電などの大型プロジェクトの見直しが進んでいる。

シャン州のソー・ニュン・ルイン財務計画大臣が、中国企業との合弁で進めるナウンパ水力発電所を例に挙げて、再検討を行うため事業を凍結すると明らかにした。英字紙ミャンマータイムズなどが報じた。

ナウンパ水力発電所は、シャン州のサルウィン川に計画されているもので、中国の中国水利とミャンマー側との合弁企業が手掛ける。1200メガワットの発電量の90%を中国に送電することになっているとされ、ミャンマー側から不満の声が上がっていた。

同紙によると、ナウンパのほか、7つの水力発電や石炭火力発電所、ホテル開発など前政権で認可された大型事業が差し止められている。今後、情報公開を進めながら収益性などを再検討するという。同大臣は「国民の声は書類よりも重要だ」として、世論を重視する方針を示している。
 
今春に政権の座についたアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる国民民主連盟(NLD)政権は、シャン州など地方政府のトップを独自に任命。地方行政の主導権を握っている。NLD政権は、外国との不当な条件にある契約を見直す方針を示している

ミャンマーでは軍事政権時代、欧米の経済制裁下で影響力を伸ばした中国の援助で公共事業や資源開発を進めた経緯がある。その契約の中にはミャンマー側に不利なものもあるとして、見直しを求める声が上がっていた。

発電所についても、ヤンゴンなど大都市でも停電が頻発する中で、中国などへ送電する割合が多いために不満が出ている。

一方、ミャンマー経済は最大の貿易相手国の中国に大きく依存しており、中国の反発を招く大型事業の見直しをどこまで行うことができるのかが焦点となる。テイン・セイン前大統領もカチン州のミッソンダム計画を凍結し、中国から一定の距離を置く姿勢を取っていた。【7月13日 GLOBAL NEWS ASIA 】
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“発電量の90%を中国に送電する”というのはミッソンダム計画と同じです。
慢性的かつ深刻な電力不足に悩むミャンマーが、どうして不足する電力を中国に送電しないといけないのか・・・当然の疑問です。

経済開発・住民生活向上のためには必要な中国資本
ただ、経済開発によって国民生活の底上げを図りたいスー・チー政権にとって、中国資本はその手段としては無視できません。

ミャンマー中部の「レパダウン銅山」は、中国・万宝鉱産公司が2010年に開発を始めましたたが、環境汚染や土地の強制収用があったとして大規模な抗議デモが起き、警官隊の強制排除で100人超の負傷者が出ました。

この「レパダウン銅山」は操業がストップしていましたが、今年5月から操業が再開されています。

問題が表面化した当時から、野党指導者としてのスー・チー氏が委員長を務める調査委員会が「事業は続けるべきだ」とする報告書を出していたように、スー・チー氏は開発の必要性を重視していました。

トゥレイン・タン・ジン駐日ミャンマー大使は6月7日、東京都内で講演し、3月末に発足した国民民主連盟(NLD)新政権によるインフラ開発は住民の声を尊重し、環境や民間企業の利益にも配慮しながら進むとの見解を示しています。

*****ミャンマー新政権下の開発は住民の声を尊重=駐日大使****
国際機関・日本アセアンセンターが主催した講演会でトゥレイン・タン・ジン大使は政権交代後の開発姿勢に関するNNAの質問に対し、「住民や環境、企業の3つの利害を勘案したインフラ・資源開発を行う」と回答した。

前政権下で開発が中断したカチン州のミッソンダム、ザガイン管区モンユワのレパダウン銅山については「(開発を主導する)中国企業は自らの利益優先の開発を推進していたが、住民が反発。当時野党だったNLDの党首アウン・サン・スー・チー氏が解決に乗り出し、政府と住民、民間企業の3者の利益を模索しながら開発するよう調整した」とコメント。

中国企業が住民との対話を重視するようになり、銅山開発は再開、軌道に乗りつつあると指摘した。(後略)【6月8日 Global Interface Japan】
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レパダウン銅山の操業再開にあったては住民の抗議活動も報じられており、“住民との対話を重視するようになり、銅山開発は再開、軌道に乗りつつある”とのことなのか・・・・よくわかりません。

微妙なかじ取りを要求される中国との関係 中国は外交攻勢
スー・チー政権にとって、中国との距離の取り方は微妙な問題です。
もちろん従来のような過度の中国依存からは脱却する方向ではありますが・・・・。

****スー・チー氏、「非同盟・中立」を強調****
・・・・一方で、ミャンマー国民の対中感情は必ずしもよくない。中国がミャンマーに投資したとしても、その果実は中国が持って行く構図になっているからだ。

例えば中国最大の投資案件である北部ミッソンのダム建設プロジェクトは、生み出した電気の9割を中国に輸出するという内容。住民の不満は大きく、反対運動が頻発。たまらずテイン・セイン政権は11年秋、同計画を凍結した。

この構図はヒスイも同じだ。開発の表向きの主体はミャンマー国軍系企業や、トゥー・トレーディングスなど旧軍政と密接だった政商になる。だが、内実は中国資本との合弁事業が多く、操業は実質的に中国人に担われているとされる。

そうして生産したヒスイは中国へ持ち出される。中国とそれに結びついた勢力だけが利権を握り、果実は一般の住民に落ちるわけではない。「経済への貢献は認めるが、中国人は大嫌い」(宝石商)というのがミャンマー人の標準的な考え方だ。
 
このような国民感情を考慮してか、3月末に発足した新政権をけん引するスー・チー氏の対中外交も、どこかよそよそしいものだ。

4月には諸外国外相で最初に訪問した中国・王毅外相と会談したが、中国政府の求めるミッソンダムの開発再開には応じず、新政権発足後、中国企業による大規模投資は認可されていない。

外相として対外的に情報発信する際も、かつてミャンマーの伝統だった「非同盟・中立」の重要性を繰り返すようになり、外遊もラオス、タイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に限られる。
 
ASEAN諸国の外交は、中国に対するスタンスで大きく2つにグループ分けできる。南シナ海で領土紛争を抱えるフィリピン、ベトナムは「中国けん制」、中国の経済支援に従属するラオス、カンボジアは「親中」が基本軸だ。

南シナ海の大半の領有権を主張する中国の主張に対して、フィリピンが仲裁裁判を申し立てたのを契機に、これまで中立だったインドネシアやシンガポールが「中国けん制」に回るなど、ASEAN内でも中国への態度に変化がみられる。
 
そんな中、伝統的にラオス、カンボジアと並ぶ親中派と見られていたミャンマーは、あいまいな態度を取るようになった。南シナ海問題が大きな議題となった6月14日の中国・ASEAN特別外相会議(雲南省)にスー・チー氏は参加せず、カンボジアなどが仲裁裁判に関して中国支持を打ち出すなか、沈黙を守る。

「軍政時代の“親中”、前テイン・セイン政権の“脱・中国依存”から、さらに中国との距離は広がっている」(外交筋)との見方が一般的だ。(後略)【7月22日 日経】
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ただ、繰り返しになりますが、中国の存在は無視できません。
また、中国はミャンマーに対するかつての特権的影響力を取り戻そうと盛んに外交攻勢をかけています。南シナ海問題などでも、ミャンマーを一定に繋ぎ止めておく必要もあります。

経済成長のためには現実問題として中国の支援が必要なスー・チー政権は、少数民族問題も絡んで複雑な対応を迫られています。

****スーチーも苦慮する複雑な対中関係****
反感強まる中国の影響力
ミャンマーの新政権は中国の王毅外相を最初の賓客として迎え、スーチーは中国の「多額の援助」を歓迎し、王外相は両国の暖かい兄弟関係を称えた。
 
しかし、両国の関係は以前とは異なる。ミャンマーの軍事政権が開国に踏み切ることになった要因の一つは、増大する中国の影響力への強い反感だった。

ミャンマーの人々は、中国からの投資に伴う大勢の中国人労働者や商人の流入に、自国が中国の一省になりさがると危惧し始めていた。将軍たちも、中国の支援がリスク要因になってきたことに気づいたようで、2011年、テイン・セイン大統領は中国出資の巨大ダムの建設を突如中止、銅山開発や中国雲南省とベンガル湾を結ぶ鉄道の建設も取りやめた。この時、既にテイン・セインとスーチーは民主主義への移行を協議していた。
 
今や中国はミャンマーの唯一の庇護者ではなく、西側諸国と競合する立場にある。とは言え、中国は今も最大の投資国であり、ミャンマーに巨大な商業的、戦略的利害を有する。

中でも重要なのが、中東の石油・ガスを中国内陸部に送り込むための中国石油公社所有のパイプラインだ。他にも中国企業が関わる工業地区、港湾、精油所等の建設計画がある。王外相の融和的姿勢は、中国がこうした利害をより上手く運営しようとしていることを示すものだ。
 
これらのプロジェクトには国民の反発が見込まれるが、新政権が目指す経済成長には中国からの投資が不可欠であり、スーチーはこのことを国民に納得させようとしている。

経済問題以上の懸案
中国との関係でさらに厄介なのが少数民族問題だ。国境地帯では長年不穏な動きが続いている。1年前には、北部シャン州コーカン地区で反政府組織と戦闘中、ミャンマー軍が中国領内に入り、中国人を爆撃、殺害する事件があった。ミャンマーの反政府組織はいずれも、中国と血縁、歴史的関係がある。(中略)
 
もっとも、中国側もミャンマーは政治的変化を遂げ、立場が変ったことはわかっている。記者会見で王外相は、中国企業は「ミャンマーの社会的慣習を尊重」し、「地元の生態と環境」は守らねばならないと述べた。

今のミャンマーには他にも求婚者がおり、もはや中国もカネでたやすくミャンマーの好意を買うことはできない。【6月3日 WEDGE】
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インド英字紙インディアン・エクスプレスによると、中国政府は官僚、議員、記者ら100人超をミャンマーから中国に招いたほか、100人を超える学生を中国留学に招いたとのことで、ミャンマーとの新たな関係構築を進めています。

そんなこんなの状況で、スー・チー国家顧問兼外相が17日から4日間の日程で中国を訪問するようです。
スー・チー氏の訪中は野党指導者だった昨年6月以来で、3月末の新政権発足後、ASEAN域外では初となります。

恐らく、中国側は相当な“贈り物”でスー・チー氏を迎えるのではないでしょうか。
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ミャンマー  スー・チー氏、「国家顧問」として新政権を牽引 難しい軍部との関係

2016-04-09 23:02:30 | ミャンマー

(政権移譲式典で軍幹部らと談笑するアウン・サン・スー・チー氏(中央、2016年3月30日撮影)【3月31日 AFP】 ただ、今後は笑ってばかりはいられません。)

スー・チー氏 軍部反対を押し切って「国家顧問」就任
ミャンマー・スー・チー政権の発足については、3月29日ブログ「ミャンマー スー・チー氏4閣僚兼任でスタート 課題への姿勢 国軍との関係 求められる透明性」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160329で取り上げたところです。

その後、スー・チー氏は兼任していた4閣僚ポストのうち、教育相、電力エネルギー相を別の者に委ねる一方で、新設の「国家顧問」ポストに就くことで「大統領の上に立つ」存在として政権運営を実質的に牽引していくとことを明らかにしています。

****<ミャンマー>教育、エネ相移譲 スーチー氏国家顧問就任へ*****
ミャンマーのティンチョー大統領は4日、アウンサンスーチー氏が兼務する4閣僚のうち教育相、電力エネルギー相を別の人物に移譲する人事案を国会に提出した。

スーチー氏は外相、大統領府相の2閣僚のほか、新設の「国家顧問」にも就任する見通し。実質的な「スーチー政権」であることに変わりはないが、閣僚兼務を減らしスーチー氏の負担を少なくする狙いがありそうだ。

教育相、電力エネルギー相に選ばれたのはいずれも高官経験者。人事案は5日にも承認される。スーチー氏の4閣僚兼務には「負担が大きすぎる」との意見があり、政権幹部も「暫定的な措置に過ぎない」と語っていた。

一方、スーチー氏の国家顧問就任を巡っては、軍人議員から「憲法がうたう三権分立の原則を脅かしかねない」などと、反発の声が上がっている。国家顧問についての法案は1日に上院を通過し、4日に下院に提出された。早ければ5日にも成立する見込みだが、ずれ込む可能性もある。

スーチー氏は旧軍政下で制定された憲法で大統領就任を阻まれている。国家顧問は「大統領の上に立つ」と公言するスーチー氏による実質的な政権運営に法的な根拠を与える狙いがある。【4月5日 毎日】
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新設された「国家顧問」は正副大統領や閣僚、各省庁などに助言する権限を有し、“さまざまな政府機関や個人と連携して国の平和と発展などのために助言し、実行に当たることができると規定されていて、スー・チー氏は議会と政府にまたがる強い権限を手にして、事実上、政治の実権を握ることになりました。”【4月6日 NHK】とのこと。

教育相、電力エネルギー相退任については、当初から経過的な人事とも言われていましたが、「国家顧問」に就任するにあたり、スー・チー氏の負担を減らすねらい、及びスー・チー氏への権限集中に対する批判をかわすねらいがあるものと思われます。

ただ、スー・チー氏の「国家顧問」就任については、軍は「三権分立の原則に反する。国の将来にとってよいこととは思えない」などと強く反発しており、今後、新政権にとって最大の制約事項でもある軍との関係が悪化することも懸念されています。

****スーチー氏与党に軍反発 「国家顧問」新設の採決強行 副大統領より「上位」、懸念か****
ミャンマーの与党・国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は6日、強い権限を持つ新設の「国家顧問」に就任した。

名実共に新政権を率いる形が整ったが、国家顧問を新設する法案をめぐるNLDの国会運営は軍の反発を招いた。政権発足直後の軍との険悪ムードに先行きへの懸念も出ている。

法案は5日に国会で可決。6日にティンチョー大統領が署名して成立した。成立と同時にスーチー氏は国家顧問に就任した。

だが、下院では5日、国会議席の4分の1を占める軍人議員らが一斉に起立し、法案の採決に抗議した。NLD所属のウィンミン議長は採決を強行。賛成多数で可決したが、軍人議員団は全員が票を投じなかった。採決後、同議員団のマウンマウン准将は記者団に「民主主義を虐げる行為だ」と非難した。

法案は、新政権発足翌日の3月31日に上院に提出された。正副大統領や閣僚、各省庁などに助言する権限をスーチー氏に与えるもので、外相と大統領府相を兼ねるスーチー氏が実質的に政権を率いることを法的に裏付ける狙いがある。

上院の軍人議員らは今月1日の審議で、「憲法違反の疑いがある」として修正を要求したが、NLD所属の議長は即座に採決に踏み切った。下院での審議は4日に始まったが、両院で過半数を握るNLDは「数の力」で国会を通過させた。

NLD幹部は「スーチー氏を政権内で少なくとも副大統領より上に位置づける意図がある」と説明する。軍事政権下で定められたいまの憲法は、亡夫や息子が英国籍のスーチー氏の大統領就任を阻むが、スーチー氏を国家指導者にするのはNLDの悲願だ。

これには軍が強く反発する。憲法に基づき最高司令官が政権内に送り込んだミンスエ副大統領や国防、内務、国境の3軍人閣僚よりスーチー氏が上位になり、「助言」という形で指図できるようになることを懸念しているとみられる。

多くがスーチー氏を支持する国民の間では賛成の声が強い。だが、軍との関係悪化は今後の政権運営や、スーチー氏が掲げる憲法改正を困難にする可能性がある。改憲には国会の4分の3超の賛成が必要で、4分の1の議席を有する軍の同意が不可欠だからだ。

政治評論家のチョーリンウー氏は「NLDも軍の声に耳を傾ける姿勢は示すべきだ。国会で軍が無視されたと感じることが続くと、政権内でも対立が起きかねない」と話している。【4月7日 朝日】
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新政権の初の外交として、4月5~6日に行われた中国・王毅外相の早々のミャンマー訪問への対応がありました。

ミャンマーに対する中国の狙い、両国の今後の関係等々については、また別の機会に触れるとして、スー・チー氏が大統領ではなく外相であることから、外国要人との対応においてやはり変則的なものが出てくるような感も。

もしスー・チー氏自身が大統領であったなら、対応は外相レベルに任せて多忙な大統領自身は特に会談は行わないようなケースもあるでしょう。そういうケースは今後どうするのでしょうか?副大臣みたいな者に任せるのでしょうか?しかし相手は外相ですから、それでは外交儀礼に反します。

まあ、「大統領の上に立つ」変則的な権力構造ですから、対応も変則的になるのかも。

【「スーチー氏への依存」の危険性
結局は、スー・チー氏ひとりで実務から最終決定まですべてをこなすという形になってきますが、スー・チー氏への権限集中と裏側として「スーチー氏への依存」という現象も問題となります。
スー・チー氏も決して若くありません。

****<ミャンマー>スーチー氏依存を懸念・・・・民主化指導者****
ミャンマーで与党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー党首(70)が主導する実質的な「スーチー政権」が始動した。半世紀以上続いた軍人支配に風穴があき、人々は政権のリーダーとなった民主化のヒロインに「変革」への希望を託す。

だが、スーチー氏と並ぶミャンマー民主化運動指導者、ミンコーナイン氏(53)は最大都市ヤンゴンで毎日新聞の取材に「スーチー氏への依存」を懸念した。

 ◇「ミャンマー政権、有能なチーム必要」
ミンコーナイン氏は1988年に本格化した民主化学生運動で先頭に立った。その後、政治勢力「88年世代平和と開かれた社会」を結成し、今も国民から強い支持を受ける。

「レディー(スーチー氏の愛称)はもう高齢だ。人々が彼女だけに頼ってしまえば、いずれ問題が起きる」。ミンコーナイン氏はこう語り、スーチー氏の父アウンサン将軍を引き合いに出した。(中略)

「スーチー政権」は軍人優位の憲法改正など「真の民主化」に向け国軍との難しい駆け引きに挑む。そこで懸念されるのが、スーチー氏一人のカリスマと能力に頼った党組織の脆弱(ぜいじゃく)さだ。

NLD議員のほとんどが政治経験に乏しく、スーチー氏自身も「玉石混交」と漏らす。今のところスーチー氏が外相などを兼務しているのも人材不足の裏返しだ。

閣僚人事では新計画・財務相に選ばれたチョーウィン氏に学歴詐称騒動も起きた。ミンコーナイン氏は「軍がほかの勢力に対し組織として力をつけるのを邪魔してきたゆえの問題だ」と述べ、スーチー氏には「信頼できる有能なチームが必要だ」と訴えた。

スーチー氏はトップダウンで党組織の引き締めを図るが、一方で次世代を担うリーダー候補は育っていない。

NLDは昨年11月の総選挙で88世代の有力者コーコージー氏(54)らを候補者リストから除外。「スーチー氏が自分以外が党内で力を持つことを嫌ったのでは」(少数野党幹部)との臆測も流れる。

ミンコーナイン氏は「私は関わっていない」とこの問題への言及を避けつつ「ライバルにならないよう努力することはできる。いま最も大切なのは(軍人支配からの)スムーズな移行だ」と語った。【4月5日 毎日】
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政治の変化を印象付ける政治犯釈放 しかし軍部との関係で、今後の人権状況改善を疑問視する向きも
内政面の取り組みとして、汚職対策も実施されています。

****贈り物」規制、ゴルフ会員権禁止=汚職対策でスー・チー氏―ミャンマー****
ミャンマー大統領府は4日、公務員の「贈り物」受領を規制する指針を公表した。指針はアウン・サン・スー・チー大統領府相の署名入りで、利害関係者から現金や金、貴重品を受け取ることや、無償で食事やゴルフ会員権の提供を受けることを禁じている。

ミャンマーはNGOがまとめた2015年版「汚職番付」で清潔度が147位に低迷するなど、汚職対策が大きな課題。指針は「賄賂や汚職は社会や経済、法の支配に影響を及ぼす恐れがあるため、効果的に取り組む必要がある」と指摘している。

指針によると、公務員は2万5000チャット(約2300円)未満相当の贈り物を受け取ることはできるが、一個人・組織から受け取れる贈り物は年間で総額10万チャット(約9200円)相当までとなる。【4月4日 時事】 
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これは今後のミャンマーの健全な発展にとって非常に重要なことですが、軍部関係者が広範な経済活動を支配し、その利益を独占している構造にメスを入れない限り、汚職・腐敗の一掃は実質的には実現できないでしょう。

軍部の巨大な権益にメスを入れられるか・・・今後の最大の注目事項のひとつです。焦って関係悪化を招くと、社会混乱の鎮静化等を名目にした軍の介入を招くことにもなります。

政権が変わったことを印象づける施策としては、政治犯釈放も。

****ミャンマー、学生活動家69人釈放 スー・チー氏方針表明の翌日****
新政権が発足したミャンマーで8日、国家顧問に就任したアウン・サン・スー・チー氏が約束した政治犯釈放の第一弾として、投獄されていた学生69人が釈放された。

ミャンマー中部タラワディの裁判所は、昨年3月に行われた教育政策をめぐるデモで警官隊と衝突し身柄を拘束されていた学生活動家らに対し、訴追手続きを中止し釈放すると宣言。法廷は歓喜に包まれた。今後、さらに数十人が釈放される見通しだ。

ミャンマーでは半世紀に及んだ軍政の抑圧的な体制の下で多くの活動家が拘束され、現在も政治犯として公判を待っている。スー・チー氏や与党・国民民主連盟(NLD)の国会議員らも、かつて軍政下で民主化活動を理由に政治犯として拘束された経験をもつ。

スー・チー氏は7日、新政権の優先課題として、こうした活動家らを釈放する方針を表明していた。【4月9日 AFP】
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“人権団体によると、ミャンマーではテイン・セイン前政権時代に1100人以上の政治犯が恩赦で釈放された。しかし、現在も収監中の政治犯が約100人、裁判待ちの学生活動家らは400人以上いるという。”【4月7日 時事】という状況にあって、スー・チー氏は8日の声明で、残る政治犯の釈放はミャンマーの新年休暇明けの今月下旬以降になるとの見通しを示しています。

ただ、この政治犯釈放、より広く言えば人権尊重については、軍部と関係で、どこまでスー・チー新政権が現実のものとできるか懐疑的な見方もあります。

****ミャンマー新政権も、「人権」は期待薄****
ー定の民主化は進んだが、半世紀ぶりに誕生した文民政権に軍部を抑える権限は極めて限られている

ミャンマー(ビルマ)が民主化に動き始めたばかりの12年11月、ヤンゴン大学のホールは大勢の聴衆で埋め尽くされていた。彼らが待っていたのはバラク・オバマ米大統領。

僧侶のガンビラは最前列で、オバマの歴史的な演説に耳を傾けた。
それはミャンマーにもガンビラにも、大きな意義のある瞬間だった。

ガンビラはその5年前、軍政に反対する「サフラン革命」と呼ばれる全国的な抗議運動を率いていた。当局の取り締まりによって、彼をはじめ多くの反軍政派指導者が収監され、ひどい拷問を受けた。

だから、ガンビラが恩赦により釈放されて問もなくオバマの演説を聴くことを許されたのは、大変な出来事だった。ミャンマーに重大な変化が訪れる予兆に見えた。米外交当局者が好んで言い立てる外交のサクセスストーリーかもしれなかった。(中略)

ガンビラはその夜、オバマと記念撮影をした。そして数週間後、再び身柄を拘束された。(中略)ガンビラの場合は、拘束と釈放を繰り返している。(中略)

ガンビラが刑務所に再び送られたことからも分かるように、ミャンマーでは民主化が始まって以降、人権をめぐる状況は迷走し、ともすれば後退してきた。

一部に実質的な進展が見られた一方で、軍とその配下の機関によるひどい権利の侵害が続いているのだ。

そんな危機がかすむような出来事もあった。アウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の総選挙での勝利と、彼女の側近だったテイン・チョーの大統領就任だ。一連の動きにより、ミヤンマーは民主化に向けてさらに前進しているという見方が出てきた。

期待が高まる一方で、改革の先行きには限界もある。例えば、新政権には軍の権力乱用を阻止する権限がほとんどない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告によれば、新政権は不当に拘束された政治犯の一部に恩赦を与えることはできるかもしれないが、政治犯が釈放されては再逮捕されるという状況に歯止めをかけられない可能性がある。

政治犯の再逮捕を阻止する上で、NLDが直面する大きな関門が憲法の規定だ。前軍事政権が作成し、08年の国民投票(不正操作があった)で承認された憲法は、内務省が管轄している警察などの主要機関について、軍の支配権をはっきりと認めている。

そのためNLD政権は、どの抗議行動を当局が「承認」するかという点に発言権を持っていない。警察が「望ましくない」と見なす抗議行動に携わった者は誰であれ、政府が反対したとしても国家当局に逮捕される可能性がある。

さらに、治安当局が「安全上の脅威」と見なせば、一部の政治犯の釈放が阻止される可能性もある。

アムネスティ・インターナショナルのローラ・ヘイグは、ミヤンマーの内務省とその支配下にある治安当局について「軍が最終的な支配権を握っているという状況は、極めて懸念される」と語った。「政治的な逮捕と収監を終わらせるために、新政権がどこまでやれるのかも不透明だ」

軍に切り札が多過ぎる
NLDは活動家の弾圧に利用されている一部の法律について、変更や修正を試みることはできるだろう。しかし、そうすれば政治的対立を引き起こし、軍の術中にはまる危険がある。国家的な危機が起きた場合、軍は国家安全保障会議を通じて一時的に民主的統治を中断できるという規定があるからだ。

軍がこれほど多くの切り札を持ち、議会が対抗できない構造が続く限り、政治犯の逮捕は今後も続く可能性が高い。法改正を試みたり、軍による権力乱用を阻止しようとするNLDの取り組みは、外部の強い支援がなければ成功しないだろう。

こうした状況を受けて人権団体は、諸外国がミャンマーの人権状況の悪化を認識し、圧力を強めるべきだと主張している。

「国際社会はミャンマーの人権状況を『サクセスストー』と持ち上げるのをやめるべきだ。実際にはここ数年で、弾圧は著しく増えている」と、ヘイグは指摘する。(中略)

新政権の権限が限られていることを考えると、改革が停滞したなら、それは同盟諸国による無視が大きな要因となるだろう。改革が停滞すれば、新たな「ガンビラ世代」が生まれる。彼らも同様に非人道的な扱いを受け、その後は国際社会に無視されることになる。

これはあり得ないシナリオではない。国際社会の自己満足の果てに、民主化促進の取り組みが頓挫した国は数多い。ミャンマーがそのリストに加わる可能性も決して小さくない。

欧米諸国は戦略的な理由から、軍の権力乱用に気付かないふりをするかもしれない。歴史をたどれば、そんな前例はたくさんある。【4月12日号 Newsweek日本版】
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国際社会がミャンマーの人権状況の推移に関心を持ち続けることは重要ですが、それが新政権と軍部との性急な対立を導いたり、あるいは逆に、新政権が軍部との“取り引き”“妥協”を行うことへの批判となって新政権の手足を縛るようなことになっても困ります。難しいところです。
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ミャンマー  「スー・チー大統領」を断念 貧困層の新政権への期待と重圧

2016-03-01 20:57:57 | ミャンマー

(昼間は工場で米の籾殻の袋詰め作業をしながら、夜間小学校に通う14歳少女 貧困の連鎖を断ち切ることが期待される「教育」 【2015年3月19日 シャンティブログ https://sva.or.jp/wp/?p=13198】)

国軍との関係を優先し、無理押しを避ける
ミャンマーのスー・チー氏の大統領資格問題については、2月9日ブログ「ミャンマー 憲法効力は変えることができても、人の心は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160209)で、憲法上の制約を一時的な憲法効力停止措置でかいくぐる方策を国軍と交渉していることなどを取り上げました。

その後の協議で、「スー・チー大統領」を断念することになったようです。

****スーチー大統領」を断念 政権安定へ軍との連携優先****
ミャンマー総選挙で大勝した国民民主連盟(NLD)が、3月末の新政権発足時のアウンサンスーチー党首の大統領就任を見送る方向になった。

軍政の流れをくむ現政権や国軍内で反発が強く、交渉が難航していた。安定した政権運営に不可欠な軍との連携をまず優先した形だ。

軍政下で制定された憲法には「外国籍の家族がいる人物は大統領になれない」との規定がある。スーチー氏は亡夫や息子が英国籍のため、就任できない。

昨年11月の総選挙で国会の過半数を得たNLDは、スーチー氏の大統領就任を模索。国会での大統領選出手続きを3月17日まで先送りした上で、国会の4分の1の議席を有し、国防や内務など3閣僚を送り出せるなど強い政治権限を持つ軍と交渉。軍の同意を得て特別法を制定し、憲法の大統領資格条項を一時凍結しようとした。

当局筋によると、交渉で軍側は全国に14ある州・管区政府のうち四つについて行政トップのポストを要求。NLDが応じれば「スーチー大統領」を容認する可能性を示唆していたという。だが、交渉は妥協に至らなかった模様だ。

NLD関係者によると、同党から選ばれた議長が1日の国会で、17日としてきた大統領選出手続きを「1週間程度前倒しする」と表明する。特別法の審議には「3週間程度は必要」(NLD法律顧問)で時間が足りない。「スーチー大統領」を事実上断念した形だ。

スーチー氏は、大統領に党幹部を据え、自身は外相に就任するとの観測が出ている。ただ彼女自身が「大統領の上位に立つ」と表明しており、実質的にはスーチー氏が政権を率いる形になりそうだ。【3月1日 朝日】
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ただ、完全にあきらめた訳でもなく、“年内にもスー・チー大統領の実現を目指すものとみられる”との報道もあります。

****スー・チー氏の大統領就任、当面は見送りへ****
ミャンマーからの報道によると、同国の与党、国民民主連盟(NLD)は1日、4月にも発足する新政権に合わせて党首のアウン・サン・スー・チー氏を大統領に就任させる方針を断念した。

新大統領候補にはスー・チー氏側近の幹部を擁立して“つなぎ”とし、年内にもスー・チー大統領の実現を目指すものとみられる。(後略)【3月1日 産経】
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まあ、憲法の効力を部分的・一時的に停止して・・・という方策は、法治の立場からすると、あまり筋のいい方法とは思えませんし、無理をして国軍との関係が悪化したり、あるいは国軍側に過度に譲歩を求められたりするのも、スー・チー政権の今後にとっては良い話ではありませんから、無理押しすることもないのでは・・・と思えます。

新政権に期待する貧困層
スー・チー政権の課題は、少数民族や少数派イスラム教徒との国民融和の実現、国政・経済に依然として大きな力を有する国軍との関係への配慮などがありますが、そうした制約条件下で国民の経済状況を改善していくことが求められています。

外資の参入などで急速に活気づいているミャンマー経済ではありますが、依然として多くの国民が貧困に苦しむ状況にあって、成長の恩恵はいきわたっていません。

****スー・チー氏“深刻な貧困問題”どう挑む*****
ミャンマーで去年の総選挙の結果を受けた新しい議会が招集された。過半数を占めることとなったNLD(=国民民主連盟)を率いるアウン・サン・スー・チー氏。3月にも新政権が発足する見通しだが、そこには多くの課題が残されている。

■東南アジアで最も貧困層が多い国
今月1日、アウン・サン・スー・チー氏が議場に到着する姿があった。新議会で過半数を占めるNLDの党首であるスー・チー氏。3月にも発足する見通しの新政権で、事実上のトップとしてミャンマーを率いることになる。しかし、新政権が解決すべき問題は少なくない。最大都市ヤンゴンの貧困層が多く暮らす村では―

「15日間ぐらい仕事がない。収入がなくて食べ物に困っています」

建築現場などで働くトントンウェンさんは、この村で妻と子ども5人の計7人で生活している。仕事が無い日も多く、収入は不安定で、食べるものにも困ることがあるという。国連開発計画によると、ミャンマーは東南アジアで最も貧困層が多く、トントンウェンさんのような家庭も珍しくないという。

■学校は無料でも「バス代」がない
また、子どもたちの教育問題も深刻だ。トントンウェンさんの長女、チョースインさん(13)。彼女は、両親と建築現場などで働いていて、学校に通ったことはない。国勢調査によると、ミャンマーでは約16%の子どもが一度も学校に通ったことがないという。

学校に行きたいかとの質問に「行きたいけど…」と答えるチョースインさん。自分が働く代わりに、妹と弟はなんとか小学校に通うことができている。11歳の妹は「学校は好き」「将来は先生になりたい」と話す。しかし、その学校でも貧困問題が影を落としているという。学校の教師に聞いてみると―

教師「(Q:学校を途中でやめてしまう子どもは?)A:はい、途中でやめてしまう子どももいます」「ノートや鉛筆などが買えない子どももいます」

公立小学校の場合、基本的に学費は無料だが、学校に通わせることは簡単ではない。学校が家から離れているため、毎月バス代を払う必要があるが、このバス代を払うことすらままならない家庭も多いのが実情だ。

貧しい暮らしが続くトントンウェンさん一家。新政権に期待するトントンウェンさんは、スー・チー氏を応援するためにNLDのメンバーにもなっているという。

トントンウェンさん「政権が変われば、私たちの暮らしは変わると信じています」「生活は改善しなくても住む環境は改善すると思います」

■スー・チー氏の最側近に聞く―
こうした貧困や教育問題について、たびたび改善を訴えてきたスー・チー氏。国民から圧倒的な支持を得ているが、これらの問題に対する具体的な解決策はまだ示していない。スー・チー氏に長年寄り添い、彼女の最側近でもあるNLD創設者の1人、ティン・ウー最高顧問。彼が我々の単独取材に応じた。

「スー・チー氏がいくら有能でも、NLDだけで解決するのは難しい。国が一体となって取り組み、NGOや他国の協力も必要です」

長年にわたり続いた軍主導の統治から大きな転換点を迎えるミャンマー。スー・チー氏が国民の声にどう応えるのか、その手腕が問われている。【2月12日 NNN】
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スー・チー氏を圧倒的な力で押し上げたのは、こうした貧困層であり、よりよい暮らしを求める切実な願いです。

ただ、スー・チー氏が政権を担ったからといって、急激に生活が改善するものでもなく、大きな期待はスー・チー氏にとって重圧ともなります。

よりよい生活を求める人々の期待にどのように応えていくか・・・現実政治家としての手腕が問われます。

****ミャンマー】貧困を断ち切る夜間小学校****
今日も朝が来た。
起きてすぐ、村の仲間と一緒にピックアップトラックで精米工場まで移動する。
7時、工場で米の籾殻の袋詰め作業開始。この袋を店と工場を往復するトラックに何度も積める…。これが私の仕事。

少女の名前はネインネインテ、14歳。
仕事をする彼女は無表情で、ただ目の前の肉体労働に従事しています。

彼女は昨年、村で開催されることになった夜間小学校のプログラムに通い始めました。
昼ごはんも食べられずに3時まで働き続けたこの日、授業が始まる少し前に仕事を終えて家へ戻り、
バックを背負って急いで教室へ駆け込みました。

昨日、一昨日は仕事が長引いて授業に参加できなかったので、
休んだ分を取り戻すために一心不乱にノートとテキストに向かいます。
机が足りないので、長いすを机代わりにしながら…。

彼女は妹が生まれた時から、妹の世話のために小学校3年生で中退せざるを得なくなりました。
父親は無職、母親は自分と共に精米工場で仕事をして3年になります。

無職の父親は一体何をしているのだろうか。 噂ではアルコール中毒だという話を聞きました。
彼女が仕事に出かけている間、彼女の家を訪れ、父親に話を聞いてみました。

父、コーナインは38歳。この村で生まれ育ちました。
やはり妻・娘と同じ精米工場で働いていましたが、去年の4月に仕事を辞めざるを得なくなりました。工場でマスクを支給してもらえなかったがために肺の病気を患ってしまったそうです。

彼の両親もまたこの村で生まれ、同じく精米工場で働いていました。
彼は小学校3年生のときに中退し、精米工場で働き始め、以後30年間休みなく働き続けました。

「今の娘さんと、ほとんど同じ状況ですね」と言うと、「そうだ」と悲しそうにうなずきました。
自身の昔を回想し、今の娘の姿を自分に照らし合わせるような、しばしの沈黙がありました。

その後、ぽつりと彼はつぶやきました。
「娘には、夜間小学校を卒業した後、絶対に中学校へ進学してもらいたい。
これ以上、自分と同じ人生を歩ませたくない」

貧困は繰り返します。
狭い村の中で、三世代共に同じ工場で働き続け、後に病気になって仕事を辞めざるを得ず、その時には自分の子どもが同じ工場で働き始めている。この絶望的な連鎖を打破するもの、それは教育です

8時間工場で働き続けた後に駆け込んだ夜間小学校の授業で、
一心不乱にノートの書き取りをしていたネインネインテ。

先生へノートを見せて、丸を付けてもらった瞬間に、この日初めて顔がぱっとほころび、
ただの14歳の少女に戻りました。

この夜間小学校で2年間集中して勉強し修了試験に合格すれば、彼女は小学校卒業資格を得ることができます。【2015年3月19日 シャンティブログ https://sva.or.jp/wp/?p=13198
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ミャンマー  憲法効力は変えることができても、人の心は・・・

2016-02-09 23:16:06 | ミャンマー

(アウン・サン・スー・チー 家族の肖像 【http://imaonline.jp/library/exhibitions/4ffced2d1e2ffa4645000001/】)

スー・チー「大統領」実現に向けて、憲法効力の一時停止措置を検討
ミャンマーのスー・チー政権に向けての動きについては、1月31日ブログ「ミャンマー 政権移譲のソフトランディングを進めるスー・チー氏」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160131でも取り上げたように、軍部を背景にした現政権からの権限移譲が概ね順調に進んでいるように見えましたが、「大統領」を巡って厳しい交渉が行われているようです。

外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない現行憲法規定によって、スー・チー氏にはその資格がなく、総選挙前の記者会見では、憲法で国家元首とされる大統領の「上位に立つ」と発言。選挙後にもシンガポールのテレビ局のインタビューで「私が党のリーダーとしてすべての決定を下す。大統領には何の権限もない」と言い切っています。

そうしたことから、側近を大統領として、自身は「大統領の上の存在」として実権を行使するのでは・・・・と、一般的には見られていましたが、やはりスー・チー氏の「大統領」へのこだわりは強いようです。

軍人が25%を占める現在の議会情勢では正規の憲法改正は困難なため、憲法条項の効力を停止する特別法案で大統領への道を切り開こうとのことです。

****スー・チー大統領」へ法案、NLDが提出へ****
昨年11月のミャンマー総選挙を経て与党となった国民民主連盟(NLD)は、外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない憲法条項の効力を停止する特別法案を、近く国会に提出する方針を固めた。

NLD関係筋が明らかにした。英国籍の息子を持つNLD党首、アウン・サン・スー・チー氏(70)の大統領就任に道を開く狙いだが、国軍が激しく反対するなど曲折も予想される。

憲法の重要事項を改正するには、軍人議員も含めた全ての連邦議会議員の75%超の賛成を得た上に、国民投票で過半数の賛成を得る必要があり、きわめて困難だ。

だが、特別法なら議会の過半数の賛成で成立する。NLDは上下両院で単独過半数を占めている。【2月7日 読売】
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この方法自体は、昨年から「噂」されていたものです。

****<ミャンマー>スーチー氏、軍と攻防へ 「大統領の上」巡り****
・・・・英BBCの元記者、ラリー・ジェーガン氏はバンコク・ポスト紙で「スーチー氏は最終的に大統領ポストを手に入れる可能性がある」と指摘する。

憲法で「スーチー大統領」を阻むのは、息子が英国籍だという「親族の国籍条項」だ。NLD幹部の情報として、国軍がこの条項の「一時停止」を受け入れる可能性があるという。

国軍としては、憲法を超越するスーチー氏の立場を黙認するより、緊急避難的に「スーチー大統領」を容認した方が、憲法へのダメージは少ないとの判断がある、との見方だ。(後略)【2015年12月1日 毎日】
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「そこまでやるかね・・・」と思っていましたが、「やる」つもりのようです。
やはり「大統領」でないと、なにかにつけて「大統領でもないのに・・・」という批判がつきまといます。

また、憲法を超越する存在ではなく、憲法の定める最高指導者として統治にあたりたいということでしょうが、そのために憲法の効力を一時停止するという、いささか矛盾した流れとも言えます。現行憲法に瑕疵がある以上、やむを得ないとの判断でしょう。

ただ、“特別法なら議会の過半数の賛成で成立”とは言っても、今後の政権運営を考えると、大きな権限を有する軍部との合意が必要になります。

許される期限を目いっぱいに使って、国軍の合意を得るべく交渉がなされています。
国軍の方は、認めるとしたら相応の見返りを要求する話にもなります。

****新大統領の選出、3月下旬見通し スーチー氏就任模索 ミャンマー****
ミャンマー総選挙で大勝したアウンサンスーチー党首率いる国民民主連盟(NLD)が過半数を占める国会で8日、新大統領を選ぶ権限を持つ連邦院=上下院の全議員で構成=が招集された。マンウィンカインタン議長=NLD所属、上院議長兼務=は、大統領の選出手続きを3月17日に始めると宣言した。

テインセイン現大統領の任期満了は3月30日。NLDは当初、閣僚の国会承認手続きなどを考慮し、新大統領を2月中に選出する方向で検討していたため、ぎりぎりまで先延ばしにした形だ。

軍政下で制定された憲法が阻むスーチー氏の大統領就任をめぐり、国軍と交渉が続いており、スーチー氏は自身の就任を最後まで目指す意向とみられる。

スーチー氏は亡夫や息子が英国籍で、憲法の「外国籍の家族がいる人物は大統領になれない」との規定に該当する。NLDはこの条項の一時凍結を求め、国会で4分の1の議席を持つ軍と交渉している。

軍は国防、内務など3閣僚を指名する権限も持ち、新政権の安定的な運営のために軍の協力が欠かせないためだ。

関係者によると、交渉では、大統領が選任する地方の州や管区の首席大臣ポストのいくつかを軍が要求。折り合いはまだ付いていないという。

大統領は上院と下院の民選議員団がそれぞれ1人ずつ、両院合同の軍人議員団が1人の候補を選出。連邦院で3候補から大統領を全議員の投票で選び、落選した2人が副大統領になる。

今回、議長は三つの議員団による候補選出手続きを3月17日に始めると説明。新大統領選出はその数日後になる見通しになった。【2月9日 朝日】
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国軍の方も、“国軍は、自らの政治権益を認めた憲法に手を加えることに拒否感を示しており、憲法条項の一時停止を受け入れるには、NLD側に厳しい条件を突きつけてくると予想される。”【2月6日 産経】とのことですが、「スー・チー大統領」に全く応じられない・・・という訳でもないようです。

****ミャンマー情勢】与党、スー・チー氏の大統領就任に向け憲法条項の一部停止模索****
・・・・国軍内部では、軍政時代に自宅軟禁措置などで圧力をかけたスー・チー氏の「復讐(ふくしゅう)」への懸念が根強い。

一方で隣国の中国の軍事的台頭も警戒し、米国からの武器調達解禁を視野に、米国が支援してきたスー・チー氏の大統領就任を「特例で容認する」(外交筋)との見方が出ている。(後略)【2月8日 産経】
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スー・チー氏側は、法案審議において重要な役割を持つ法務諮問委員会の委員長に、軍政時代の実力者で、スー・チー氏とは協力関係にある前下院議長のシュエ・マン氏を起用して、準備を進めています。

****ミャンマー新議会、元軍幹部を法務諮問委員長に指名 シュエ・マン氏、スー・チー氏と連携して解任された前党首 憲法条項の一時停止も視野か****
ミャンマー新議会は5日、法務諮問委員会の委員長に、前下院議長のシュエ・マン氏を選出した。与党となった国民民主連盟(NLD)は、党首のアウン・サン・スー・チー氏の大統領就任に道を開くため、憲法条項の一部停止などを模索している。

元国軍幹部で議会運営に詳しい大物政治家の起用は、今後の大統領選出に影響を与えそうだ。

シュエ・マン氏は昨年、大統領就任に野心を燃やしてスー・チー氏と協力関係を築いたが、これがきっかけで国軍と対立関係となり、軍系の前与党、連邦団結発展党(USDP)党首を解任され、総選挙では落選した。

ロイター通信によると、同委員会の前身は、シュエ・マン氏が2011年に設立。約150本の法案成立に貢献してきたとされている。

現行憲法は外国籍の家族を持つ者の大統領資格を認めていない。スー・チー氏は英国籍の息子を持つため、大統領になるためにはこの条項の扱いが焦点になる。

憲法改正には議会の4分3超の賛同が必要で、25%を占める軍人議員が拒否権を握る。このため、NLDは、この条項を一時停止する法案を、8日から始まる連邦議会で動議することも視野に入れる。国軍が警戒する大物政治家のシュエ・マン氏が、法案の扱いで重要な役割を担うことになりそうだ。(後略)【2月6日 産経】
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息子が国籍を変える可能性は?】
ここまでグダグダと書いてきて、今さらの話ではありますが、実を言うと私は「外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない」とういう現行憲法規定の内容をよく理解していません。

スー・チー氏の場合、亡夫と息子二人が英国籍ですが、“親族”の範囲に亡くなったご主人も入るのでしょうか?
もし、入るのなら、亡くなった方の国籍をどうこうすることはできませんので、即規定にひっかかることになります。

新聞記事の表現で見ると、【朝日】が“亡夫や息子が英国籍で・・・”という表現を使っているのに対し、【読売】【時事】は“英国籍の息子を持つ・・・”といった表現で、亡夫を明記していません。

もし、生存している息子さんだけが問題となるのなら、非常に言いづらい話ではありますが、「息子さんが国籍を変更する手続きに応じてくれたら、こんな話にもならないのに・・・」というのは誰しも思うところではないでしょうか。

もちろん、本人の意思に反して国籍をどうこうするというのは、あってはならない話です。
あってはならない話ではありますが、本人が協力してくれるなら・・・とも考えてしまいます。

ことは一国の憲法の効力を一時停止するかどうかという問題にかかわってきます。もし国軍との協議が不調に終わり、スー・チー政権と国軍の関係に溝ができるとことになれば、ミャンマー国民全体に影響が及びます。極端な場合、その溝が深刻化すれば国民の生命にも影響する混乱の危険性も否定できません。

実際、「大統領として、その身を国民に捧げるつもりなら、息子たちを説き伏せるべきだ」と主張する意見もあるようですが、スー・チー氏は「成人している彼らに対し、説得するつもりはない」と繰り返してきているそうです。

もっとはっきり言えば、スー・チー氏と長男のアレクサンダー氏は不仲だとも言われているそうです。
http://idagsnyheter.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15より】

もとより、人の心は他人には(時には自分でも)よくわからないものですが、スー・チー母子の問題は、スー・チー氏が生きてきた過酷な人生によるところもあるのでは・・・とも思えます。

スー・チー氏が軍政によって自宅軟禁されたことで、夫・息子は彼女と離れてイギリスで暮らすことになります。
夫はスー・チー氏の政治活動をよく理解して彼女を支えていましたが、子供たちにはどのように感じられたことでしょうか?

出国するとミャンマーに戻れなくなってしまうため、ガンを患う夫も看病できず、葬儀にすら出ることができませんでした。

そうしたことが、子供の目にどのように映ったのか・・・・。

安易な決めつけは不謹慎ではありますが、敢えてTVドラマ的な陳腐な言い様をすれば、スー・チー氏は家族よりもミャンマーを選んだと子供の目に映ったとしても不思議ではありません。

国籍について言えば、息子二人はもともとはミャンマー国籍を持っていたようですが、軍事政権に剥奪されてしまい、イギリス国籍となったとも。彼ら自身もミャンマーの政治に翻弄されてきました。

こうした経緯を考えると、息子たちがミャンマーに対して複雑な思いがあり、スー・チー氏が「成人している彼らに対し、説得するつもりはない」としか言えないのもわかるような・・・。他人の勝手な思い込みでしょうが。

一方、先述のように「大統領として、その身を国民に捧げるつもりなら、息子たちを説き伏せるべきだ」との声もないことはないようですが、あまり大きな声にはなっていません。

もし軍部がそういう主張をするのであれば、母子がどうして今のような状況になったのか、すべて軍政時代の通算15年にも及ぶ自宅軟禁によるものではないか・・・という話にもなります。

現在は、スー・チー氏は過去の自宅軟禁について「報復」めいた言動は行っていませんが、上記のような話をしだすと感情的なものを呼び起こしかねないものがあります。

それは、スー・チー氏が国民の圧倒的支持を得ている現状で、国軍にとっても「パンドラの箱を開ける」ような不都合なことになってしまいかねません。

そんなこんなで、息子たちの国籍を云々は大きな声とはなっていないのかも。

すべては私個人の憶測にすぎません。
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ミャンマー  政権移譲のソフトランディングを進めるスー・チー氏

2016-01-31 21:57:45 | ミャンマー

(スー・チー氏も出席しての議会を去る軍政議員のお別れ会。こちらはいち早く、軍部、少数民族を含む国民和解が進んでいるようです。【1月29日 AFP】)

【「挙国一致」態勢を目指す
ミャンマーでが明日2月1日、新議会が招集されますが、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)が与党となり初めて国政を担うこととなります。

良くも悪くもNLDはスー・チー氏がすべての決定権を有する「個人商店」であり、政策・人事についてもスー・チー氏が決定するという態勢です。

****発言権は「スー・チー氏のみ」=人事情報漏れに不快感か―NLD****
昨年11月の総選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)は22日、NLDの政策や政権移行の問題に関して発言できるのは「アウン・サン・スー・チー党首以外いない」と強調する声明を発表した。今春のNLD政権発足を前に人事情報が漏れ始めたことに、スー・チー氏が不快感を示したようだ。

AFP通信は20日、NLDのニャン・ウィン報道官の話として、NLDは2月1日に招集される上下両院の議長と副議長の1人に少数民族の政治家を起用すると報道。しかし、NLDの別の報道担当者は21日、地元メディアに「まだ最終的なものではない」と打ち消したと伝えられていた。

今回の声明は、政権発足を前に党内の引き締めを図る意味合いがあるとみられるが、「情報統制」と反発を呼ぶ可能性もある。【1月22日 時事】
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厳しい「情報統制」は、スー・チー氏が政権移行を円滑に進めようと慎重になっていることのあらわれでもあります。

そうしたなかで、少しずつ人事情報も公表されてきていますが、少数民族や現政権与党・連邦団結発展党(USDP)などにも人材を求め、「挙国一致」態勢を目指しているようです。

****スー・チー氏、新議会の正副議長人事案を公表 軍系や少数民族も起用****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は28日、2月1日に始まる新国会で選出する上下両院の正副議長候補の人事構想を明らかにした。首都ネピドーで当選議員らに公表した。

議長候補はいずれもNLDメンバーで、下院はスー・チー氏側近のウィン・ミン氏、上院はマン・ウィン・カイン・タン氏。

副議長候補には、下院が軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)から、上院は西部ラカイン州の少数民族政党アラカン民族党(ANP)から、それぞれ選ばれる。

ウィン・ミン氏以外の3人は少数民族の出身。主要民族のビルマ族以外と選挙で大敗したUSDPからの登用で、「国民融和」姿勢を打ち出す狙いとみられる。

NLDは昨年の総選挙で、上下両院の過半数の議席を獲得しており、人事案は賛成多数で承認される見通しだ。【1月28日 産経】
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****ミャンマー次期政権「閣僚の半数はスー・チー党以外」 NLD幹部、少数民族・軍系含め挙国一致の意向****
ミャンマーの次期政権を担う国民民主連盟(NLD)の幹部ウィン・テイン氏は30日、一部報道機関の取材に対し、新閣僚の半数程度をNLD以外から起用する方針を明らかにした。

少数民族政党や軍系の現与党、連邦団結発展党(USDP)などから幅広く人材を集め、挙国一致の態勢づくりを目指すとみられる。

アウン・サン・スー・チー氏率いるNLDは昨年11月の総選挙で圧勝。スー・チー氏は憲法の規定により大統領になれず、2月1日に招集される新議会では大統領や閣僚人事に注目が集まる。

ウィン・テイン氏は組閣について「半数程度がNLD党員ではない」と述べ、スー・チー氏の就任がうわさされた外相もNLD以外から起用すると説明した。

また、大統領にスー・チー氏以外の人物を暫定的に充て、憲法を改正してスー・チー大統領の実現を図る考えを示した。【1月30日 共同】
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「挙国一致」態勢は、よく批判されているようにスー・チー氏の「個人商店」NLDで人材が育っていないこともあるのでしょうが、方向としては好ましいことに思われます。

軍部との関係は今のところ概ね良好に推移 ただし、今後は・・・・
懸念されていた政権交代にあたっての軍部との関係についても、下記の報道などを見ると、概ね良好に推移しているように思われます。

****ミャンマー軍政議員、カラオケでお別れ****
「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い上げ、ミャンマーの軍政トップは29日、議員らに別れを告げた。──長らく続いたミャンマー軍政のエリートたちは、歌と踊りで自身たちの退陣をしるした。

議会では、アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)への政権交代を歓迎し、29日午後の閉会後にパーティーが開かれた。少数民族の議員らが踊りを披露し、他の議員たちは歌を歌うなどした。

NLDに議席を奪われ、議会を去ることになった軍政議員たちは、歴史的な政権交代に対し、カラオケを通じて温厚な対応を取った。

「あなたが健康でありますように、強くありますように、一生ずっと喜びにあふれていますように」と、軍政元ナンバー3のシュエ・マン下院議長は歌い上げた。

シュエ・マン氏は、NLDと対立する政権与党の指導者でありながら、議会でスー・チー氏を支援した。シュエ・マン氏は「夢はかなう」との英語の歌詞を歌い続け、新旧議員らに一緒に歌うよう呼びかけた。

元将軍らで構成される連邦団結発展党(USDP)は、昨年11月の総選挙でスー・チー氏が歴史的勝利を収めて以降、潔い対応を見せてきた。

会場の最前列に座ったスー・チー氏は冒頭のあいさつで、自身の政党が政権に就く道を開いたと、議会を去る議員たちをあたたかく祝福するスピーチを行った。【1月30日 AFP】
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今後スー・チー政権のもとで、軍部が有する既得権益に踏み込む施策がとられたときに、「元将軍らの潔い対応」が続くのかは保証がありませんが。

逆に言えば、スー・チー氏の目指す「変革」を実現するためには、いつまでも元将軍らと仲良し状態という訳にもいかないでしょう。軍部には、スー・チー氏を制御できるという余裕がまだあるとも言えます。

軍部の制御を振り切ろうとすれば、いずれギリギリした緊張場面を迎えることも・・・。

****勝者に立ちはだかる国軍の壁****
1988年の民主化運動で政治デビューして以来27年の長い時間を経て、アウンサンスーチーは国民の信託に基づきビルマの指導者として政治を司ることが可能となった。デビュー当時は43歳だった彼女も、いまや70歳である。

しかし、現実には厳しい局面が彼女とNLDを待ち受けている。まず憲法の資格条項による制約があり、アウンサンスーチーは大統領になれない。外国籍の家族がいる者を正副大統領の有資格者から除外することを定めたこの規定は、現憲法を制定した当時の軍事政権が、彼女を未来永劫、大統領にさせないためにつくったものである。このため、アウンサンスーチーは別の人物を大統領に据えコントロールする必要がある。

選挙運動の最後の段階で「私は大統領の上の存在になる」と明言した彼女だが、これは「たとえ大統領に就任できなくても、それは欠陥憲法のせいであり、自分は大統領を外からコントロールする存在となって国民のために闘う」ことを有権者に約束したものである。多くの有権者はこの発言で彼女の強い意思を確認し、NLDへの投票の気持ちを固めたと想像される。

ただ、彼女がだれを大統領に指名するにしても、組閣にあたっては国防、内務、国境担当の3つの大臣ポストは国軍最高司令官によって指名される決まりがあるため、軍と警察と国境管理に関する権限は合法的に軍に握られてしまうことになる。

憲法を改正するにしても、上下両院それぞれの75%+1名以上の議員の賛成がないと発議できないため、各院で25%の指定席を確保している軍人議員の一部がNLD側につかない限り、改憲は不可能となる。

国軍にとって現憲法は自分達が国政に深く関与するための命綱である。1988年から23年間にわたった軍政期において、15年もかけて慎重につくりあげられたこの憲法は、行政と立法の分野において様々な権限を国軍に与えている。その主なものを示すと次のようになる。

(1)上下両院、州・地域議会において、それぞれ25%の議席を軍人が確保する。

(2)憲法改正は上下両院それぞれの議員の75%+1名以上の賛成をもって発議され、そのうえで国民投票を実施し、有権者名簿登載者数の過半数の賛成を経て承認される。

(3)国防相、内務相、国境担当相については、国軍最高司令官が指名する。

(4)正副大統領計3名のうち、必ず1名は国軍関係者が就く。

(5)大統領が国家非常事態宣言を出せば、国軍最高司令官が期限付きで全権を掌握する。

これらに加え、既述したようにアウンサンスーチーを正副大統領に選出させないための「資格条項」もある。国軍はこうした憲法上の権限を基盤に新しく発足するNLD政権を合法的(・・・)に(・)制御できる立場にある。

総選挙でのNLD圧勝は国軍から見て「痛痒い」程度のショックだったのではないかと想像される。彼らは今、憲法上の規定を思う存分活かし、NLD政権を強く牽制することを考えているとみなして間違いない。

したがって、アウンサンスーチーが対話を通じて国軍に憲法改正に向けた説得をおこなおうとしても、それは無視される可能性が高い。

すでに総選挙前にNLDが中心となって憲法改正の発議を両院で一年間かけて試みたが、文言の一部修正を除いて、悉く軍人議員に反対され、与党の賛成も少数しか得られなかった。

今後、国民の圧倒的信託を力にアウンサンスーチーはあらためて国軍に改憲への協力を求めることになるが、その成果が短期間に出るとは考えにくい。

軍に好都合にできているこの憲法を民主的なものに変えることこそ、NLDの選挙公約であり、アウンサンスーチーの当面の最大目標であるが、その壁はこのようにきわめて厚く高い。そのため軍と協調関係を築き、対話を通じて同意をとりつけることが改憲への必要条件となる。

総選挙で圧勝した彼女の最初の仕事は、自らに代わる大統領選びよりも、来年3月の新政権発足までに軍の協力を得て、政権移譲のソフトランディングを図ることにあるといってよい。(後略)【2015年11月26日 根本敬氏 SYNODOS】
******************

「大統領の上の存在」であるスー・チー氏がいる以上、大統領は彼女がコントロールできる者ということになりますが、“大統領候補には、亡くなった義父が元軍人でNLD幹部も務めたことから党内人望も厚く、スー・チー氏を支持して逮捕された経験もある、ティン・チョウ氏の名前などが挙がっている。”【1月31日 時事】とも。

あるいは、“候補としてスー・チー氏の主治医を務めるティン・ミョー・ウィン氏や、NLDの重鎮ティン・ウ氏(上記のティン・チョウ氏と同一人物でしょうか?)らの名前がうわさされている。”【1月31日 共同】とも。

こうした人事等については、国軍総司令官ミン・アウン・フラインの了解を得ているとも見られています。

****スー・チー氏、国軍総司令官と会談=政権移行など協議―ミャンマー****
昨年11月の総選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は25日、首都ネピドーでミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談した。国軍の声明によると、政権移行や少数民族武装勢力との和平プロセスなどについて協議した。

両者が会談するのは昨年12月以来。詳しい協議内容は明らかになっていないが、総選挙の結果に基づく新国会が2月1日に招集され、3月末にもNLD主導の新政権が発足するのを前に、意見交換したとみられる。【1月25日 時事】
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スー・チー政権の当面の課題等については、1月12日ブログ“ミャンマー 「スー・チー政権」に向けて”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160112でも触れたところですので、今回はパスします。
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