孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ問題  注目される“沈黙”スー・チー氏の19日演説 バングラデシュ・アメリカ・日本は?

2017-09-17 22:53:27 | ミャンマー

(ミャンマーからナフ川を船で渡り、バングラデシュのテクナフに到着したロヒンギャ難民ら(2017年9月14日撮影)。【9月15日 AFP】通常料金の200倍もの渡し賃を要求するバングラデシュ船頭もいるとか。悲しい現実です。)

批判の集中砲火を浴びる沈黙のスー・チー氏 19日演説で何を語るのか?】
ミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャが、武装勢力の治安当局襲撃を理由に“民族浄化”とも言える弾圧をうけ、多くのロヒンギャ住民が隣国バングラデシュに難民として逃れている状況については、9月6日ブログ“ロヒンギャ問題  難民増加、高まるスー・チー氏への批判 沈黙のスー・チー氏「フェイクニュース」”でも取り上げました。

事態は改善せず、悪化するばかりです。

****ロヒンギャ難民40万人超に=8月の衝突後、バングラへ****
国際移住機関(IOM)などによると、ミャンマーで治安部隊とイスラム系少数民族ロヒンギャの武装組織の衝突が始まった8月25日以降、隣国バングラデシュに脱出したロヒンギャ難民が16日までに約40万9000人に達した。国連などがミャンマー政府に事態改善を要求しているが、難民流出は収まらない。

バングラデシュには8月24日以前にも約40万人のロヒンギャ難民が避難している。バングラデシュ政府や国連が支援に当たっているが、新たに大量の難民が一気に流入したため、追いついていない。

ミャンマーを脱出後もキャンプに入りきれず、道端で生活する難民も少なくない。【9月17日 時事】 
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武装勢力の掃討作戦と言いながら、民家に放火するなど、実態としてはロヒンギャをミャンマーから追放しようとしていると推測される国軍等の“民族浄化”的な行動、それに対し有効な手立てを打てず沈黙を守る“民主化運動の象徴”だったスー・チー国家顧問への批判が国際的に高まっていることは、多くのメディアが報じています。

前回ブログ以降の関連記事表題を並べると、以下のとおり“袋叩き”状態です。

バングラデシュ外相、ミャンマーで「大量虐殺」との見方【9月11日 AFP】
ロヒンギャの村で火災相次ぎ治安悪化 ミャンマー【9月11日 NHK】
ダライ・ラマ、スー・チー氏に「平和的解決」求める ロヒンギャ危機で【9月11日 AFP】
国連弁務官「民族浄化の典型例」=ミャンマーのロヒンギャ迫害―難民31万人超に【9月11日 時事】
ロヒンギャ迫害で「違法な殺人」 国連の人権部門トップ【9月12日 朝日】
ロヒンギャ迫害を非難=「人権侵害に危機感」―米【9月12日 時事】
スー・チー氏、国連総会欠席=ロヒンギャ問題で批判―ミャンマー【9月12日 時事】
ロヒンギャ問題 国連人権理事会で非難の応酬【9月13日 NHK】
国連事務総長と安保理、ミャンマーにロヒンギャへの暴力停止要求【9月14日 ロイター】
ロヒンギャを「民族浄化」 国連、ミャンマーへ批判噴出【9月15日 朝日】
スーチー氏批判、各国で 「平和賞没収」署名40万人 ロヒンギャ問題【9月15日 朝日】
「ミャンマー治安部隊が放火」 人権団体が焼けた村の衛星写真公開【9月15日 AFP】

ミャンマー政府は、取り締まりの対象は武装勢力で、民間人には危害を加えておらず、民族浄化は行われていないと主張しています。ロヒンギャの村々に対する焼き討ちも「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の仕業で、軍によるものではないとも。

しかしながら、伝えられる情報はミャンマー国軍等の非人道的対応を示唆するものが多いようです。
現実に何十万人ものロヒンギャ住民が逃げ惑っている事態をどのように収束させるのか・・・という差し迫った対応もあります。

軍政下で民主化を訴え続けたノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏への国際的期待が大きかっただけに、今回問題で沈黙する彼女への失望と批判も高まっています。国連総会欠席についても“逃げている”との批判も。

****ミヤンマー民主化の象徴スー・チー氏 ロヒンギャ迫害で窮地、「人権問題」がブーメランに****
民主的な新生国家ミャンマーの象徴として、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は、積極的な外遊を展開してきた。国際社会からの支持は、軍事政権時代から権限を保持する国軍に対抗するためにも不可欠だった。

だがロヒンギャの保護に失敗し、かつて擁護者だった欧米諸国からも批判を浴びる事態に。「人権問題」がブーメランとなって、ノーベル平和賞受賞者に襲いかかっている。

今月の国連総会の欠席理由について、スー・チー氏の報道官は、ロヒンギャ問題を含めた国内問題に専念するためとした。だが、ロヒンギャ迫害で批判の矢面に立ちたくないため、との見方は根強い。
 
スー・チー氏は軍政時代に作られた憲法規定で大統領に就任できず「大統領を上回る存在になる」と宣言。昨年の国連総会では、初の一般討論演説で民族和解を訴えた。米国は「民主化の進展」を理由に、約19年間続けた対ミャンマー経済制裁を全面解除して後押しした。
 
だが、スー・チー氏は、不法移民だとして「民族」とも認めないロヒンギャには、国内世論と歩調を合わせ冷たい対応を続けてきた。武装組織を「テロリスト」とし、掃討作戦を継続する姿勢も堅持している。
 
スー・チー氏は、先月初旬の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議も欠席した。(中略)
 
スー・チー氏は7日、「だれもが法の下で守られるようにしたい」と、ロヒンギャ問題でメディアに初めて口を開いたが、解決の難しさも訴え国際社会に不満も並べる。19日に演説し、同問題での立場を説明する予定だ。【9月14日 産経】
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もちろん、スー・チー氏が極めて困難な立場にあることは周知のところです。
“大統領を上回る存在”と言いつつも、軍・警察に対する権限が彼女にはありません。

それだけなら民主化運動のときのように、強い住民支持を背景に国軍の“力”に挑む・・・ということも可能ですが、ロヒンギャ問題に関しては、仏教僧侶強硬派の扇動などもあって、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャ保護の姿勢を見せれば国民支持を失うことにもなりかねません。

こうした苦境にあって、更に国際的な支援も失えば・・・

****国際世論の後ろ盾失えば―― 「軍を利する」見方も****
スーチー氏は7日、ヤンゴン市内で記者からの質問に、「(政権交代後)18カ月で全て解決するのは難しい」と漏らした。
 
スーチー氏は事実上の政権トップの国家顧問だが、警察や軍を動かす権限はない。ロヒンギャを迫害していると批判されている警察や軍を統括する内務相、国防相は国軍最高司令官が指名すると憲法で定められているからだ。
 
今月、バンコク市内で会見した「ビルマ人権ネットワーク」のチョーウィン代表は「国際社会は、スーチー氏よりもミンアウンフライン最高司令官に圧力をかけるべきだ」と主張した。
 
さらに、スーチー氏が最優先課題に掲げる少数民族武装勢力との和平問題では、軍の協力が欠かせず、軍との対決路線がとりにくいという事情もある。
 
ただ、海外からのスーチー氏への批判の高まりは、軍を利すると見られている。民主化運動の象徴であるスーチー氏を米欧などは長年支え、軍政時代に科した経済制裁の緩和や解除を決める際、スーチー氏の意向を聞いてきた。
 
だが、スーチー氏が力の源泉の一つとしてきた米欧の信頼が損なわれれば、今後の民主化の行方にも影響を与えかねない。バンコクを拠点にする「ロヒンギャ平和ネットワーク」のハジー・イズマイル氏は、「軍は、スーチー氏への外国からの支持低下が、実権を取り戻す良い機会だと考えているはずだ」と主張する。(後略)9月15日 朝日】
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スー・チー氏の困難な状況はわかりますが、国家指導者として“私にできることは何もない”と言わんばかりの対応では、やはりその責任は免れません。

沈黙していては、“動きたいけど動けない”のか、あるいは彼女自身ロヒンギャ問題については“動く意思がない”のか・・・・それすら明確ではありません。

上記【産経】【朝日】ともに指摘しているように、19日に行われるとされている「国民和解と平和」についての演説で彼女が何を語るのか・・・・非常に注目されます。

海外イスラム系組織からの強硬な批判も
スー・チー氏が手をこまねく間にも、海外のイスラム系組織からはミャンマー政府に対する戦闘的な批判も生じています。

****アルカイダがミャンマーに聖戦を宣言----ロヒンギャ迫害の報復****
ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャの武装勢力に対し大規模な報復攻撃を行い、混乱が広がるなか、9.11米同時多発テロで悪名を馳せた国際テロ組織アルカイダが、不穏な動きをみせている。

イスラム教徒のロヒンギャを迫害したミャンマー政府は当然の報いを受けることになると、警告を発した。ロヒンギャ危機を口実に攻撃を仕掛け、勢力範囲を拡大しようというのだ。

「ムスリムの同胞に対する残虐な処遇を......懲罰なしに看過するわけにはいかない。ミャンマー政府はムスリム同胞が味わった苦痛を味わうことになるだろう」――テロ組織のネット上での活動を監視する米SITE研究所によると、アルカイダは支持者にこう呼び掛けた。

テロ組織ISIS(自称イスラム国)がイラクとシリアで劣勢に追い込まれている今は、アルカイダにとっては勢力挽回のチャンス。新兵獲得も兼ねてロヒンギャ武装勢力への「軍事支援」を呼び掛けたとみられる。(後略)【9月14日 Newsweek】
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****バングラのイスラム団体、ロヒンギャ問題でミャンマーへの軍事行動呼び掛け****
バングラデシュの首都ダッカで15日、隣国ミャンマーがイスラム系少数民族ロヒンギャを「大量虐殺」しているとして、イスラム団体のメンバーや支持者らが金曜礼拝の後に大規模な抗議集会を行い、バングラデシュ政府にミャンマーへの軍事行動を呼び掛けた。
 
警察によると、集会はダッカ中心部にある国内最大のモスク前で行われ、強硬派「ヒファジャット・イスラム」など5つのイスラム団体のメンバーや支持者ら少なくとも1万5000人が集まった。

また警察はAFPに対し、集会の参加者たちは、ミャンマー西部ラカイン州での同国治安部隊によるロヒンギャ迫害に抗議するとともに、ロヒンギャの保護に向けた国際社会の対応などを非難していたと語った。
 
集会で演説した、ヒファジャットのダッカ支部のトップであるイスラム神学校の教員は参加者らに対し、「ミャンマー政府は大量虐殺を実行しており、ラカイン州では家屋が焼き打ちされている。われわれはバングラデュ国民に、ロヒンギャの人々のために立ち上がるよう求める」と語った。

またベンガル語の代表的なニュースポータルサイト「バングラ・トリビューン」によると、この教員は、「バングラデシュ政府には、軍事行動による問題解決を求める。今こそしかるべき時期だ」と訴えかけたという。
 
ヒファジャットの広報担当者はAFPに対し、「外交的な解決策が見つからない場合、ロヒンギャがラカインで暮らせる形になるよう、(バングラデシュ)政府に軍事力を行使するよう求めている」と説明した。
 
イスラム教徒が国民の大多数を占めるバングラデシュでは、同様の抗議行動が国内各地で行われている。【9月17日 AFP】
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どこにも永住の地を見いだせないロヒンギャ
ミャンマー政府への批判はともかく、「バングラデシュ政府には、軍事行動による問題解決を求める」とのことですが、そのバングラデシュ政府の対応がロヒンギャ難民に寄り添うものではないという問題があり、批判の矛先は自国バングラデシュ政府にも向けるべきでしょう。

****ロヒンギャ難民をヘドロ状の無人島へ移送、バングラで計画進む****
ミャンマーで暴力を受けたイスラム系少数民族ロヒンギャが多数流入しているバングラデシュで、同国政府がロヒンギャ難民を離島へと移住させる計画を進めている。だがこの島では洪水が毎年発生しており、一旦は移住計画が棚上げされていた。
 
(中略)バングラデシュは、流入してくる多数のロヒンギャ難民の収容という深刻化する問題を抱え、ロヒンギャをこの島に移送する計画を支援するよう国際社会に訴えている。
 
国連がミャンマーとの国境付近に位置するコックスバザール県内で運営するキャンプでは、すでに30万人近くのロヒンギャ難民が暮らしていたが、先月25日以降、さらに30万人超の難民がバングラデシュに逃れてきた。
 
多数の難民流入という事態に直面したバングラデシュ当局は、さらなる難民キャンプの設営が可能な島の選定を急ぎ、設営先の一つとして、ロヒンギャの指導者の一部や国連機関が難色を示すにもかかわらず、最近テンガルチャールから改称されたブハシャンチャ―ル島を選んだ。
 
だが当局は2015年にも、2006年に海面から現れたばかりのテンガルチャール島にロヒンギャ難民を移住させるという計画を発表。

しかし洪水が頻発し、ヘドロ状の土地であることから居住は不可能という報告を受け、計画は昨年棚上げされた形となっていた。
 
それにもかかわらず、ミャンマーのラカイン州から多数の難民が押し寄せていることを受け、バングラデシュ政府は数十万人規模のロヒンギャを収容できる施設の建設を目指し、島での作業を加速化させている。【9月12日 AFP】
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写真で見る限り、人が住むような状態にあるとも思えませんが、敢えてバングラデシュ政府に立場に立って言えば、洪水常襲国バングラデシュでは、自国民も住む場所に困っており、空いている場所と言えば上記のような“ヘドロの島”しかない・・・ということでしょうか。

バングラデシュ政府は、ロヒンギャの流入・移動を制限して、上記のような“居住地・キャンプ”に押し込める考えのようです。爆発的な難民流入で自国民生活が脅かされているとの認識が背景にあります。

****バングラデシュ、ロヒンギャの移動を制限 流入40万人超える****
バングラデシュは16日、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャの国境地帯からの移動を禁止した。バングラデシュ南東部の国境地帯に逃れてきたロヒンギャは40万人を超え、過密状態となっている。
 
南東部コックスバザール県の状況は悪化の一途をたどっており、ミャンマーのラカイン州から逃れてきたロヒンギャの大半は絶望的な状況で生活している。
 
ミャンマー国境から数百キロ離れた3つの町でロヒンギャ数十人が当局に発見されたことを受け、ロヒンギャが数千人規模で新たに移動してくることによって貧困国バングラデシュの中央部が圧倒されてしまうのではないかという不安が募っている。
 
警察は政府が指定した国境地帯の難民キャンプおよび国境地帯からロヒンギャが移動することを禁じる命令を出したと発表した。
 
警察の報道官は声明で、「彼ら(ロヒンギャ)は祖国に帰国するまで指定された難民キャンプに留まらなければならない」と述べ、ロヒンギャには友人や知人の家で避難生活を送らないように、国民にはロヒンギャに家を貸さないように、バスやトラックの運転手にはロヒンギャを乗せないように要請したと明らかにした。
 
警察は主要な乗り継ぎ地点に検問所を設置し、ロヒンギャの国境地帯以外の場所への移動を阻止している。
 
国連(UN)は16日、過去1か月間にバングラデシュ入りしたロヒンギャの数は、この24時間で1万8000人増え、40万9000人に達したと発表した。【9月17日 AFP】
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前出のバングラデシュ・イスラム系団体は、こうした自国政府の対応について、どのように考えるのかをまず明らかにすべきでしょう。

ロヒンギャを厄介者扱いしているのは、ミャンマーやバングラデシュだけではありません。

****ミャンマーで迫害のロヒンギャ、インドなどでも厳しい状況に直面****
ミャンマーで憎悪にさらされ安全な場所を探し続けるイスラム系少数民族ロヒンギャの人たちを、インドでも歓迎されないという現実が待ち受ける。
 
軍の弾圧を逃れて、ミャンマーから隣国バングラデシュの難民キャンプに到着したロヒンギャがこの3週間で40万人を超えるなか、インド政府は最高裁に、過去10年間にインドに入ってきたロヒンギャ最大4万人を国外追放するよう求める申し立てを18日にも行うと発表した。
 
現地メディアによると、ロヒンギャはテロリストを支援する可能性があり安全保障上の脅威だと、インド政府は主張している。
 
インドや隣国ネパールのロヒンギャたちの窮状は、ロヒンギャが永住できる地を探すにあたって国際社会が直面する困難を浮き彫りにするものだ。(後略)【9月17日 AFP】
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沈黙するアメリカ・日本
ロヒンギャ支援の事例としては、イスラム教徒を多く抱えるインドネシア政府は、ロヒンギャ向けの支援物資の輸送を始め、ジョコ大統領は今後も支援を続ける姿勢を強調しています。【9月13日 NHKより】

従来、ミャンマーの人権問題では主導的役割を担ってきたアメリカは、国務省が人道危機に深い懸念を表明したものの、殆ど実質的対応はしていません。多弁なトランプ大統領もこの件では沈黙。関心がないのか?

ミャンマー政府を過度に刺激せず、ミャンマーの脆い民主化を進展させたい・・・との思惑があっての米国務省の対応とも考えられますが、人権団体などからは、「今の国務省は、トランプ政権が本来の役割を怠っている間に、人権擁護のふりだけを装おうとしているように見える」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ)との批判も。【9月12日 Newsweek「ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権」より】

かつては最大のODA拠出国であり、現在も多額の拠出を行っている日本政府が、ロヒンギャ問題で何か発言しているのか・・・知りません。聞こえないような小声で何か言っているのでしょうか?

国連の調査団の設置に関しては、中国やインドは決議に加わらず、日本政府も、ミャンマー政府が自ら行う調査にまかせるべきだという理由から調査団の設置を支持しない立場をとりました。

日本では中国の対外支援について、当事国の人権・民主化の問題を無視した自国本位のものだといった批判がありますが、日本の対応も基本的には中国と“五十歩百歩”“目くそ鼻くそ”のようです。
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ロヒンギャ問題  難民増加、高まるスー・チー氏への批判 沈黙のスー・チー氏「フェイクニュース」

2017-09-06 22:28:27 | ミャンマー

(バングラデシュへ避難したロヒンギャ族の人々。9月3日撮影【9月6日 ロイター】)

バングラデシュへの難民12万人超
1週間前の8月30日ブログ「ロヒンギャ問題  懸念された最悪のシナリオ“暴力の連鎖”が現実のものに 逃げ惑う住民」で取り上げたばかりのミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。

事態は更に悪化し、今回のロヒンギャ武装集団と治安機関との衝突を受けた国軍の掃討作戦で隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャはすでに12万人を超えたと報じられています。

また、この事態の収拾・鎮静化に向けたスー・チー国家顧問兼外相の積極的な動き・発言がないことへ、国際的な批判も高まっています。

****ロヒンギャ問題に沈黙のスー・チー氏 難民12万人超・・・高まる国際圧力 軍や仏教徒に圧力か****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装集団と治安機関との衝突を受け、隣国バングラデシュに逃れるロヒンギャ難民が12万人を超えた。

イスラム圏など国際社会からは解決を求める圧力が高まるが、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は沈黙を保ったままだ。
 
同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシアのルトノ外相は4日、ミャンマーの首都ネピドーでスー・チー氏らと会談。ロヒンギャへの武力行使自粛や、海外からの支援物資が円滑に提供されるよう要請した、との声明を発表した。
 
インドネシアではロヒンギャ迫害への抗議デモが続き、在ジャカルタのミャンマー大使館には3日、火炎瓶が投げつけられた。ルトノ氏は、ロヒンギャ問題をバングラデシュとも協議する意向だ。
 
衝突は、ラカイン州北部マウンドー周辺で8月25日未明、武装した数百人が警察施設や国軍基地を襲撃したことで拡大。ミャンマー政府は、地元の武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)の「テロ行為」とし、掃討作戦を正当化している。
 
ただ、国軍が武装集団を370人以上殺害しても事態は沈静化せず、治安要員や市民らを含め死者数は400人を超えた。

ロイター通信によると、今回の衝突でバングラデシュに逃れたロヒンギャは12万3600人となり、昨年10月以降、ロヒンギャの難民は計約21万人に上る。
 
また一部のロヒンギャはインドにも流入している。モディ首相は5日にミャンマー入りし、対応を協議。
 
「大量虐殺」(トルコのエルドアン大統領)、「評判をおとしめる」(英国のジョンソン外相)との批判が上がる。だが、国政運営に協力が不可欠な国軍や、人口の約9割を占める仏教徒への配慮からか、スー・チー氏はイスラム教徒を擁護する発言は控えている。
 
ミャンマー人権問題の国連特別報告者、李亮喜(イ・ヤンヒ)氏は「(スー・チー氏は問題解決に)踏み込むべきときだ」と訴える。【9月5日 産経】
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国境で足止めされる難民 渡河の際の事故も
ロヒンギャが逃げ込んでいる隣国バングラデシュも、ロヒンギャを積極的に保護している訳ではなく、基本的には国内に入れない対応をとっており、国境で足止めされる難民も増加しています。

そうしたバングラデシュ側の警備をかいくぐる形で国境の川を渡る際の、ボート転覆などの事故も報じられています。

****バングラデシュに逃れるロヒンギャ族、川岸に20人以上の遺体****
少なくとも過去5年で最悪の状態となったミャンマー北西部の武力衝突から、数万人の少数民族ロヒンギャ族が避難するなか、バングラデシュ国境警備隊は過去2日間で川岸に打ち上げられた子どもを含む20人以上の遺体を回収したと明らかにした。

国連では、ヘイリー米国連大使が、ロヒンギャ族の武装勢力による最近の攻撃を非難したうえで、ミャンマーの治安部隊に対して、国際的な人道法を順守する責任があるとし、罪のない市民への攻撃を回避するよう求めた。

国連筋3人によると、25日以降、イスラム教徒である約2万7400人のロヒンギャ族が、ミャンマーからバングラデシュに逃れている。

ミャンマーのラカイン州で、ロヒンギャ族の武装勢力が警察や軍基地を襲撃し、衝突により少なくとも117人が犠牲となっている。

バングラデシュにいる国連筋の話では、約2万人のロヒンギャ族が2国間の緩衝地帯で立ち往生しているという。その数は3万人に増えるとも予想されている。

バングラデシュ国境警備隊の司令官によると、ロヒンギャ族の乗ったボートが転覆した後、ナフ川のバングラデシュ側の川岸でロヒンギャ族の子ども11人と女性9人の遺体を31日発見した。【9月1日 ロイター】
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****ロヒンギャ難民乗せたボートが複数沈没、子ども5人死亡****
ミャンマーとバングラデシュを隔てるナフ川の河口で6日早朝、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの難民を乗せたボート数隻が沈没し、少なくとも子ども5人が死亡した。バングラデシュ国境警備隊がAFPに明らかにした。
 
当局よると、ミャンマー北西部ラカイン州とバングラデシュを隔てるナフ川河口で大勢のロヒンギャ難民を乗せた3~4隻のボートが沈み、死傷者はさらに増える恐れがあるという。
 
国境警備隊の隊員はAFPに、「これまでに男女の子ども5人の遺体が複数か所で見つかった」と語った。
 
ラカイン州では武装勢力と治安部隊が衝突を続けており、主にロヒンギャをはじめとする避難民が大量にバングラデシュ国境に殺到している。衝突が発生した先月25日以降、避難民の多くが小型の釣り用ボートでナフ川を渡ろうと試み、すでに大勢の人が水死している。
 
国境を越えてバングラデシュに流入した避難民の数は12万5000人を超えている。【9月6日 AFP】
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住宅放火、難民再入国を阻止する地雷設置?】
このような大量難民が発生している背景には、ミャンマー国軍の武装勢力との戦闘にとどまらない、“混乱に乗じて”ロヒンギャ追い出しを狙っているとも思える行動があります。

****ロヒンギャ2万人、無人島で孤立 川岸に子どもらの遺体****
・・・・国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは29日、衛星画像の解析から、ロヒンギャが多数派のマウンドー一帯の少なくとも10カ所で、家々が広範囲に焼かれたと発表した。「治安部隊が火を放った」との住民の証言があるという。(後略)【9月1日 朝日】
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更に、ミャンマー側は、バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民が再びミャンマーに戻ってこないように、国境線に地雷を設置しているとの情報も報じられています。

****ミャンマー、国境に地雷設置=バングラデシュ政府関係筋****
ミャンマーが、バングラデシュへ避難したイスラム教徒少数民族ロヒンギャが戻ってくるのを防ぐため、3日にわたり国境地帯で地雷の設置作業を行っているもようだ。バングラデシュの政府関係者2人が明らかにした。

同国は、国境近くでの地雷設置に対し、6日正式に抗議する意向だという。

ミャンマーでは8月25日、ロヒンギャ族の武装勢力が警察や軍の拠点を襲撃したことをきっかけに、軍による取り締まりが開始。少なくとも400人が死亡し、ロヒンギャ族の12万5000人が同国の西隣にあるバングラデシュへ脱出し、重大な人権問題になっている。

バングラデシュの関係筋は「ミャンマーは国境にある有刺鉄線が張り巡らされた柵に沿って地雷を設置している」と話した。主に写真証拠や通報者から情報をつかんだという。

関係筋は「わが国の軍部は、3―4つの集団が柵の近くで作業をし、何かを地面に埋めているのを目撃している」とし、「それらが地雷であることを、通報者と確認した」と述べた。その集団が制服を着ていたかどうかは明らかにしなかったが、ロヒンギャ族の武装勢力でないことは明白だと話した。

バングラデシュの国境警備員マンズルール・ハサン・カーン氏はこれより先に、ロイターに対し、5日にミャンマー側で2回の爆発音が聞こえたと証言。少年1人が国境付近で左足を失い、治療のためバングラデシュ側に運び込まれたという。このほかにも別の少年が軽傷を負ったといい、同氏は地雷の爆発である可能性があると述べた。

あるロヒンギャ族の難民は4日に、難民らが避難に使う国境の無人地帯の道の近くに、直径約10センチメートルの金属の円盤が一部ぬかるみに埋まっているところを撮影した。この難民は、似た円盤がほかにも2つ埋まっていたと話した。

ロイターは、埋められていたものが地雷かどうか、ミャンマー軍と関係があるかどうかを確認できていない。ミャンマー軍からのコメントは得られていない。【9月6日 ロイター】
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この地雷設置の話が本当なら、今回のミャンマー国軍の行動がまさに“民族浄化”を狙った“ロヒンギャ追い出し作戦”であった言えます。

スー・チー氏の行動を求める国際世論の拡大】
こうした事態に、ASEAN内のイスラム教徒を多く抱えるインドネシアやマレーシア国内では、ミャンマーに対する世論の批判が大きくなっており、政府レベルの発言・要求も。

“インドネシアのルトノ外相は4日、ミャンマーの首都ネピドーでアウン・サン・スー・チー国家顧問と会談しました。このなかでルトノ外相は武力行使の自粛とロヒンギャの人たちにインドネシアをはじめ外国などからの支援物資が円滑に届けられるよう協力することなどを求めたということです。
一方、ミャンマー政府はスー・チー国家顧問がどのように答えたのかは明らかにしていません。”【9月5日 NHK】

“マレーシアのアニファ・アマン外相はAFPに対し「率直に言って、アウン・サン・スー・チー氏には満足していない」と発言。”【9月5日 AFP】

激高しやすいトルコ・エルドアン大統領からは“ジェノサイド(大虐殺)”との言葉も出ています。

****スー・チー氏に懸念表明=ロヒンギャ問題で電話会談―トルコ大統領****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害について、トルコのエルドアン大統領は5日、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と電話会談し「ロヒンギャに対する人権侵害に、特にイスラム諸国は深い懸念を有している」と伝えた。トルコのメディアが大統領府筋の話として報じた。(中略)
 
エルドアン氏はスー・チー氏に対し、深刻な人道危機を警告、市民の被害に細心の注意を払うべきだと伝えた。

電話会談に先立つ4日、エルドアン氏は「ミャンマーでのジェノサイド(大虐殺)に人々は沈黙している」と批判し、ニューヨークでの国連総会でこの問題を取り上げる考えを表明、強い関心を示していた。【9月5日 時事】
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“(トルコの)イブラヒム・カルン大統領報道官は声明で、会談後「最初分の援助物資1000トンを送る許可が出た」と述べた。ミャンマーとバングラデシュの国境地帯の両方の側にいる世帯に配布する考えという。”【9月6日 AFP】

物資の支援ということでは、地中海でアフリカらの移民・難民救助にあたっていた人道支援NGOが、地中海での活動が困難になっていることもあって、ロヒンギャ支援に対象を変更する動きもあります。【9月5日 AFP「地中海で移民救助のマルタNGO、次はロヒンギャ救援へ」より】

また、スー・チー氏同様にノーベル平和賞を受賞したマララさんも、ロヒンギャの窮状打開を求める声明をツイートしています。

****ロヒンギャ問題、各国がミャンマー批判 マララさんも声明****
・・・ここ最近の騒乱は昨年10月、ロヒンギャの小規模な武装集団が複数の国境検問所を奇襲したことに端を発しており、ラカイン州で発生した衝突としては近年最悪の事態に発展。国連(UN)は、ミャンマー軍が報復として民族浄化に及んだ可能性があるとの認識を示している。
 
ミャンマーの軍事政権に政治囚として長年軟禁されてきたスー・チー氏に対しては、ロヒンギャに対する処遇を明確に非難することや、軍を処罰することに及び腰だとの批判が徐々に高まっている。スー・チー氏は25日の衝突発生以降、公の場で一度も発言していない。
 
イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に頭部を銃撃されたものの一命を取り留めたマララさんはツイッター(Twitter)上に声明を出し、「報道を目にするたびに、ミャンマーのロヒンギャのイスラム教徒の窮状に胸が痛む」とつづった。
 
さらに、「私は過去数年間、この痛ましく恥ずべき処遇を繰り返し批判してきた。私は同じノーベル賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏が同様にしてくれることを、いまだ待ち続けている」と述べた。(後略)【9月5日 AFP】
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グテーレス国連事務総長、ロヒンギャへの国籍付与を求める
また、国連のグテーレス事務総長は、ロヒンギャ問題の根幹にある、ロヒンギャにミャンマー国籍が付与されていないことへの改善を求めています。

****国連事務総長、ミャンマーのイスラム教徒に国籍を与えるよう求める****
国連のグテーレス事務総長が、ミャンマーのロヒンギャ族のイスラム教徒にミャンマー国籍を与えるよう求めました。

ミャンマー政府は、100万人を超えるロヒンギャ族のイスラム教徒を不法移民だとして、彼らの市民権を認めていません。(中略)

ロイター通信によりますと、グテーレス事務総長は5日火曜、ニューヨークの国連本部で、ミャンマー・ラカイン州のイスラム教徒が普通に生活できるよう、彼らに国籍を与えるか、法的な地位を与えることが急務だと強調しました。

また、ミャンマー政府はイスラム教徒が普通の生活を送れるよう用意すべきだとして、ミャンマーの少数派が教育や自由市場に参加できるようにしなければならないと述べました。

さらに、ミャンマーのイスラム教徒は民族浄化の危険性に直面していると警告を発し、ミャンマー政府の関係者に対して、地域を不安定にする暴力を停止するよう求めました。

グテーレス事務総長は、国連安保理に書簡を送っており、その中で、ミャンマーのイスラム教徒に関する懸念を表明し、この国の暴力を停止するための措置を提案しているとしています。

また、バングラデシュに避難した一部のイスラム教徒は、命を失っており、これは大変遺憾なことだとしました。【9月6日 Pars Today】
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グテーレス事務総長は2005年から10年間、国連難民高等弁務官の地位にありましたので、難民問題に対する関心・熱意は人並み以上のものがあると思われます。

スー・チー氏「大量の偽情報が危機の実態をゆがめている」】
こうした国際的な批判が高まる中で、スー・チー国家顧問がようやくロヒンギャ問題について発言していますが、残念ながら“「大量の偽情報」が危機の実態をゆがめている”との、きわめて後ろ向きのものでした。

****スー・チー氏、「大量の偽情報」が実態を歪曲 ロヒンギャ危機で****
ミャンマーの事実上の指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問は6日、イスラム系少数民族ロヒンギャの難民ら12万5000人が隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされていることをめぐり、「大量の偽情報」が危機の実態をゆがめていると非難した。
 
先月25日にミャンマーの治安部隊とロヒンギャの武装集団の衝突が発生して以来、スー・チー氏がコメントするのは初めて。スー・チー氏の執務室がフェイスブックに投稿したところによると、同氏は、偽ニュースが利用され、さまざまなコミュニティー間に多くの問題を引き起こし、テロリストらの関与を助長しているとみている。
 
スー・チー氏はこれに先立ち、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と電話で会談。ミャンマー政府軍によるロヒンギャ弾圧をめぐっては世界的に非難の声が上がっているが、同大統領はその急先鋒(せんぽう)に立っている。
 
ノーベル平和賞受賞者のスー・チー氏は、ロヒンギャの処遇について声を上げることや、ミャンマー政府軍を厳しく非難することを拒んできたため批判が強まっている。
 
同氏が長年にわたり人権団体から圧力を受けているにもかかわらず、こうしたかたくなな姿勢を貫く背景について、専門家らは、いまだに権力を持つ軍の機嫌をとり、ミャンマーで急速に拡大する仏教徒の愛国心をなだめる思惑があると分析している。【9月6日 AFP】
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“スー・チー氏は、ロヒンギャの遺体とされる写真をトルコの副首相がツイッターに投稿したことに言及し、ミャンマー以外の場所で撮影された「フェイクニュース」だったと指摘。「テロリスト」の利益を推進する目的で流された偽情報の「巨大な氷山の一角」だと強調した。”【9月6日 時事】

確かに多くの情報のなかには“フェイクニュース”が混じっていることもありますが、それを理由に問題とされていることの本質から目をそらすのは“民主化運動の象徴”“ノーベル平和賞受賞者”のスー・チー氏らしからぬことです。

国軍との関係、仏教徒ナショナリズムの台頭はわかりますが、それを乗り越える行動が彼女には期待されています。
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ロヒンギャ問題  懸念された最悪のシナリオ“暴力の連鎖”が現実のものに 逃げ惑う住民

2017-08-30 22:26:39 | ミャンマー

(バングラデシュへの入国を試みるロヒンギャ族の子供たち。バングラデシュで29日撮影【8月30日 ロイター】)

アナン諮問委員会報告書 ロヒンギャに課されている規制の撤廃を求める“助言”】
ミャンマー政府が不法入国者とみなし、国民としては認めていないイスラム系少数民族ロヒンギャに対して、2016年10月の武装集団による国境検問所などへの襲撃を契機として掃討作戦に乗り出したミャンマー治安当局が“民族浄化”のような弾圧行為を行っているのでは・・・と、国連・人権団体等が懸念している問題については、これまでも何度も取り上げてきたように、民主化運動の象徴でもあったスー・チー氏も国軍・ロヒンギャを嫌悪する世論には抗しきれず消極的な対応に終始しています。

****ロヒンギャ****
ミャンマー西部ラカイン州に住むベンガル系イスラム教徒で、北端部を中心に推定約100万人が暮らす。ミャンマー政府との対立を深め、国連などは「世界で最も迫害されてきた民族」と位置付けている。

対立のルーツは英国統治時代の19世紀。仏教徒ラカイン族の土地にベンガル地方から大量の移民が流入したが、植民地支配を行った英国は自らに不満が向かないよう、優遇した少数派のベンガル系を通じて多数派を支配する分割統治を行い、両者を反目させた。【8月28日 毎日】
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ラカイン地方にロヒンギャと呼ばれる人々が流入した時期・経緯は上記のイギリス統治時代だけでなく、さかのぼれば、15世紀前半から18世紀後半にこの地にあったミャウー朝アラカン王国時代は仏教徒アラカンとムスリム・ロヒンギャはさしたる問題もなく共存していたと言われています。【ウィキペディアより】

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チッタゴンから移住したイスラーム教徒がロヒンギャであるとの学説があるが、英領インドから英領ビルマへ移住したムスリムには下記のように4種の移民が存在しており、実際には他のグループと複雑に混じり合っているため弁別は困難である。

チッタゴンからの移住者で、特に英領植民地になって以後に流入した人々。
ミャウー朝時代(1430-1784年)の従者の末裔。
「カマン(英語版)(Kammaan)」と呼ばれた傭兵の末裔。
1784年のビルマ併合後、強制移住させられた人々。【ウィキペディア】
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このように、ロヒンギャは長い歴史の結果としてラカイン州地域に居住するようになった人々で、昨日・今日の不法入国者ではありません。

島国である日本ではあまり民族の流入は多くありませんが、世界的に見れば、多くの民族が長い歴史の過程で、すむ場所を変えて流入・流出を繰り返しているのが現実であり、それを“不法入国者”だと言ってしまえば、世界中“不法入国者”だらけになってしまいます。

“消極的”とも批判されるスー・チー氏が唯一取り組んできたのが、アナン元国連事務総長を中心とした諮問委員会による調査ですが、ようやくその報告書が発表されました。

****ロヒンギャ問題踏み込まず ミャンマー政府諮問委報告書****
ミャンマー西部ラカイン州の少数派イスラム教徒ロヒンギャの問題で、コフィ・アナン元国連事務総長を中心とした政府の諮問委員会が24日、1年の調査を終え、最終報告書を発表した。

報告が相次ぐ警察などによるロヒンギャへの人権侵害について政府側の責任には踏み込まず、「地域の発展を進めるべきだ」といった「助言」に終始した。
 
委員会は昨年9月、アウンサンスーチー国家顧問の要請で組織された。報告書では、同地域での社会経済的発展の必要性▽イスラム教徒の国籍認定手続きの迅速化▽治安維持の強化などを助言した。
 
最大都市ヤンゴンで会見したアナン氏は、「今回の助言を政府が実行することこそが、問題の解決につながる」と述べた。政府がロヒンギャ問題で国連人権理事会の調査団を拒否していることについては、「調査団と我々は目的が違う」として評価を避けた。
 
委員会が調査中の昨年10月、ロヒンギャとみられる武装集団が警察施設などを襲い、その後、国連などが、ロヒンギャへの人権侵害を相次いで報告した。国際社会から責任を追及されたスーチー氏らは「我々独自の調査結果を待つべきだ」としてたびたび委員会の調査に言及していた。【8月25日 朝日】
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“ロヒンギャへの人権侵害について政府側の責任には踏み込まず”というのは、政府の諮問委員会という性格上、報告書という成果を現実のものにするうえでの限界と思えます。

仮に政府責任に言及すれば、国軍を中心とした激しい反発を呼び、報告書自体が批判の対象ともなるでしょう。

報告書の詳しい内容は知りませんが、“最終報告はミャンマー政府に対し、移動の自由の確保のほか、国際基準に即した国籍法の見直しなどを勧告している。ロヒンギャは移動が厳しく制限され、大多数が無国籍状態にあるとされる。”【8月24日 時事】と、一定にロヒンギャに課されている規制の撤廃を求める内容とはなっているようです。

第三者的に言えば、上述のような評価になりますが、治安当局の激しい暴力にさらされ、命を奪われ、住む場所も奪われてきたロヒンギャ当事者の視点からすれば、“形を取り繕った”だけの“無意味・偽善的”な報告書にも思えるのかも・・・。

報告書発表直後に襲撃事件 暴力の連鎖が現実のものに
“最大都市ヤンゴンで記者会見したアナン氏はラカイン州について「高い緊張が続いており、現状を維持することはできない」と指摘。「一刻の猶予もない。ラカイン州の情勢はますます危うくなりつつある」と訴えた。”【8月24日 時事】とのことですが、アナン氏がまとめた報告書がきっかけとなったように(実際のところがどうなのかは知りませんが)、アナン氏の懸念は現実のものとなりました。

報告書が発表されたのが24日ですが、その直後、“国家顧問府が発表した声明によると、25日未明に20か所以上の駐在所が推定150人の戦闘員らの襲撃を受けた。これに対し、兵士らが反撃を加えたという。”【8月25日 AFP】との戦闘状態に陥っています。

****<ミャンマー>ロヒンギャと戦闘激化 双方の死者100人超****
ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団と国軍との戦闘が再び激化している。

ミャンマー政府によると、25日未明に武装集団による襲撃が始まってから既に双方の死者は合わせて100人を超えた。政府に対し強硬姿勢を強める武装勢力側に対し、国軍も鎮圧を徹底する構えで、緊張がさらに高まっている。
 
ミャンマー政府は、25日未明にラカイン州マウンドーの警察署などが一斉に攻撃されたとしている。ロイター通信は27日、政府側がこれまでに4000人の非イスラム教徒を救出したとする一方、数千人のロヒンギャが国境を越えてバングラデシュ側に避難したと報じた。
 
アウンサンスーチー国家顧問兼外相は25日夜、声明を発表。「テロリストによる残忍な攻撃を強く非難」し「平和と調和を構築する努力を損なおうとする計画的な企てだ」と指弾した。
 
ミャンマー政府は、地元の「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)による襲撃だとしている。アラカンは「ラカイン」の別称。

リーダーのロヒンギャの男は、パキスタン生まれでサウジアラビア育ちとされ、8月には映像を通じ「歴代政権による非人間的な圧迫から人々を解放する」などと活動目的を語ったという。
 
イスラム過激思想を唱えているかは不明。過激派組織「イスラム国」(IS)との連携を示す言動はないが、武器や資金はバングラデシュなど海外から入手しているとの見方も出ている。
 
ラカイン州では昨年10月にも警察施設などが武装集団に襲われ、軍が掃討作戦を展開した。この過程でロヒンギャに対する軍などの迫害疑惑が持ち上がり、国際的に問題となった。

対立の背景には、ミャンマー政府がロヒンギャを隣国バングラデシュからの不法移民とみなし、国籍を与えていないことなどがあり、ロヒンギャは、多数派の仏教徒から迫害を受けていると訴えている。
 
ロヒンギャ問題を巡っては、コフィ・アナン元国連事務総長を委員長とする政府の諮問委員会がこれまで状況を調査。戦闘は、同委が報告書を発表した24日夕の後に始まった。

報告書は、ロヒンギャの市民権を剥奪している「国籍法」を再検討することや、ロヒンギャの移動の自由を認めることなど人権面での改善をミャンマー政府に勧告している。【8月28日 毎日】
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「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)なる組織が政府の諮問委員会報告書をどのように評価したかは知る由もありませんが、先述のように政府責任に踏み込まない報告書を“拒否した”ともとれるようなタイミングです。

“血は血で洗うしかない”といった報復を正当化するものではありませんし、現実問題としては、このような暴力は当局の更なる弾圧を正当化するだけの結果になり、多くの住民が苦しむことになるのは明白ですが、一方で、弾圧がテロ・暴力を誘発するのは必然であり、そこまで彼らを追い込んだ側の責任も問われるべきでしょう。

これまで国際的には批判の矢面に立たされていたミャンマー国軍は、ここぞとばかりに鎮圧に向けた行動をアピールしています。

****ロヒンギャ襲撃「国の危機に関わる」 ミャンマー軍幹部****
ミャンマー西部ラカイン州でイスラム教徒ロヒンギャとみられる武装集団が警察施設などを襲撃した事件で、ミャンマー軍幹部が29日、首都ネピドーで記者会見を開き、「今回の事件はこれまでになく深刻だ。適切に対処しなければ国の危機に関わる」と述べた。地元メディアなどによると、同州では治安部隊の掃討作戦が続き、犠牲者が増え続けているという。
 
軍幹部は会見で「ラカイン州はミャンマーにとって『フェンス』の役割があった。外国で訓練されたテロリストが流入すれば国全体が危険にさらされる」と説明した。

また同日、最大都市ヤンゴンでは国家安全保障顧問が駐ミャンマー大使ら向けに今回の事件を説明。「隣国と連携してテロリストを根絶したい」と述べた。
 
治安部隊の掃討作戦は29日も続けられており、地元メディアによると、武装集団を含む100人以上のロヒンギャが死亡した。隣国バングラデシュへの避難民も3千人を超え、増え続けている。【8月30日 朝日】
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多くのロヒンギャ住民がバングラデシュ国境で孤立
「隣国と連携してテロリストを根絶したい」・・・・バングラデシュからは共同軍事作戦の提案がすでになされています。ロヒンギャは単にミャンマーから排除されているだけでなく、バングラデシュからもこれまで厄介者扱いされてきました。

****ロヒンギャ武装集団への共同軍事作戦 バングラがミャンマーに提案****
ミャンマー北西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団が襲撃を繰り広げたことをめぐり、バングラデシュ当局はミャンマー側に共同軍事作戦を提案したことが分かった。
 
バングラデシュと国境を接するミャンマーのラカイン州では、25日にロヒンギャの武装集団が治安部隊に対して組織的な奇襲を仕掛け、それ以降戦闘が激化している。
 
また治安部隊の反撃により、武装勢力のメンバー約80人を含む100人超が死亡するとともに、多数のロヒンギャが国境を越えて隣国バングラデシュに避難する事態となっている。
 
そうした中、バングラデシュの外務省幹部は、首都ダッカ(Dhaka)でミャンマーの代理公使と会談し、両国の国境付近でロヒンギャの武装集団に対する共同軍事作戦を提案。匿名を条件に取材に応じたバングラデシュ外務省の当局者の1人は、「ミャンマーが望めば、両国の治安部隊は国境地帯で、武装集団や国家組織ではない当事者たち、もしくはアラカン軍に対する共同作戦を行うことができる」と述べた。
 
その一方、国連によると過去3日間で、ミャンマーからバングラデシュに3000人以上のロヒンギャが逃れた一方、大多数は国境で足止めをくらっているという。
 
またバングラデシュ国境警備隊の幹部はAFPの取材に対し、「国境には6000人ほどのミャンマー人(ロヒンギャ)が集まっており、バングラデシュに入国しようとしている」と述べた。また匿名を条件に取材に応じたある隊員は「われわれはロヒンギャのバングラデシュへの入国を認めないよう命じられている」と語っている。【8月29日 AFP】
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「われわれはロヒンギャのバングラデシュへの入国を認めないよう命じられている」とのことですが、すでに多数のロヒンギャがバングラデシュ側に入っているようでもあります。国境の状況がどのようになっているのかはよくわかりません。

****ミャンマー脱出のロヒンギャ族、1週間で最大1.8万人=国連機関****
国際移住機関(IOM)は30日、少なくとも過去5年で最悪の状況となっているミャンマー北西部の暴力から逃れるため、ここ1週間に国境を越えてバングラデシュに入ったロヒンギャ族が1万8000人前後に上っていると明らかにした。

ミャンマーのラカイン州北部では25日に発生した治安部隊に対する組織的な攻撃とそれに伴う衝突で、住民の一斉脱出が始まった。一方、政府はラカイン州の仏教徒数千人を避難させている。

IOMは、国境の無人地帯(ノーマンズランド)で孤立している人の数を推定するのは困難としているが「ものすごい数に上る」と付け加えた。【8月30日 ロイター】
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ロヒンギャの住民がバングラデシュに逃げるというのは、ミャンマー国軍にとっては厄介払いできて好都合なことでしょう。ただ、バングラデシュ側が入国を認めないという話になると、行き場を失った住民の安否が懸念されます。

今必要なのは祈りではなく・・・
いずれにしても、“暴力の連鎖”という懸念されていた最悪のシナリオが現実のものとなっています。
事態を懸念していたローマ法王も11月末にミャンマーとバングラデシュを訪問するようですが、事態はそれまで待ってくれません。

行き場を失って逃げ惑うロヒンギャ住民に必要なのは、彼らの安全を保障してくれる具体的な国際的調停ですが、北朝鮮問題など多くの問題を抱えた国際社会に多くは期待できないのも現実です。

****法王、ミャンマー・バングラ訪問へ ロヒンギャ迫害懸念****
ローマからの報道によると、カトリック教会のローマ法王庁(バチカン)は27日、フランシスコ法王が11月27日から12月2日まで、ミャンマーとバングラデシュ両国を歴訪すると発表した。

法王はミャンマーの少数派イスラム教徒のロヒンギャへの迫害を批判しており、問題の解決を訴える狙いと見られる。
 
フランシスコ法王は今年2月、「独自の文化とイスラム教徒としての信仰を理由に拷問され、殺害されている」とロヒンギャ迫害を強く批判した。法王は27日、日曜恒例の「正午の祈り」で「ロヒンギャの兄弟姉妹たちの悲しいニュースが届いている。彼らにすべての権利が与えられますように」と最近の事態に強い懸念を表明した。
 
バチカンとミャンマーは、5月のアウンサンスーチー国家顧問のバチカン訪問の際、正式な外交関係を樹立した。ローマ法王がミャンマーを訪問するのは初めて。法王庁は、訪問はミャンマー、バングラデシュ両国の招待によるとしている。【8月28日 朝日】
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ミャンマー  テロと弾圧の悪循環に陥るロヒンギャ問題 スーチー氏の経済運営に不安も 変容する社会の歪

2017-08-16 22:00:26 | ミャンマー

(ヤンゴン郊外の老人ホーム【8月13日 AFP】)

ミャンマー政府の消極的対応
スーチー政権ミャンマーにおいて、西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャへの対応があまり改善していないという話は、7月6日ブログ「ミャンマー ロヒンギャ虐殺を否定する国軍 “政治家”スー・チー氏の対応は?」でも取り上げました。

ロヒンギャはミャンマーを構成する民族として認められておらず、バングラデシュからの「不法移民」として、長年、移動の自由などが制限されています。

更に、昨年10月の警察襲撃事件以来、国軍など治安当局による“民族浄化”とも言えるような迫害(放火、暴行、殺害など)がなされているとの国際的批判があります。

****人権問題対応「変わっていない」 スーチー政権を批判****
イスラム教徒少数派ロヒンギャなどミャンマーの人権問題の調査で同国を訪れていた国連特別報告者の李亮喜(イヤンヒ)氏が21日、最大都市のヤンゴンで会見を開き、調査地域が厳しく制限されたことや、政府側からの圧力があったとして「受け入れられない」と批判した。
 
10日からの調査を終え会見に臨んだ李氏は、アウンサンスーチー国家顧問率いる現政権の人権問題への対応が「これまでの(軍事)政権と変わっていない」と厳しく指摘した。
 
記者3人が拘束された北東部シャン州で一般の観光客が訪れる場所にさえ入れなかったことや、ロヒンギャのいる地域で地元の人と接触を図った際、政府側が監視していたと指摘。「(人権問題に取り組む)保護団体やジャーナリストが監視されていた状況は(政権が代わった)今も続いている」とした。
 
李氏は、ミャンマーが国連の調査対象から外れるのを望んでいることについて、「まずは調査が必要ない国にならなければ」とした。
 
ミャンマー政府は、李氏の調査とは別の国連人権理事会による調査団の受け入れを拒否している。李氏はこのことを「非常に残念」とし、政府側と会談した際に「受け入れを強く進言した」と話した。【7月22日 朝日】
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****ロヒンギャ迫害「証拠ない」 ミャンマー政府が報告****
ミャンマー西部で少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害が相次いで報告されている問題で、政府の調査委員会は6日、「国際機関が発表しているような人権侵害を裏付ける証拠はない」とする報告書の要約を発表した。

報告書はすでにティンチョー大統領に提出されたが、公開するかは大統領が判断するという。
 
委員会は最大都市ヤンゴンで記者会見を開き、政府軍が「民族浄化」を行っているとした国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報告書について、「誇張やでっちあげ」と批判。OHCHRの調査に「夫が殺された」と証言した村人が示した遺骨が偽物だったとする事例も紹介した。【8月7日 朝日】
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調査委員長を務めたミン・スエ副大統領は軍部出身ですから、こういう報告書にもなるのでしょうが、スーチー氏としても、こうした状況を追認するしかないようです。

迫害はテロ・過激思想の温床にも
迫害から逃れようとすると、今度は人身売買の対象にされたり・・・と苦難が続きます。

****少数民族ロヒンギャ 密航、人身売買・・・迫害の民****
東南アジアでは、迫害から逃れたり経済的理由から密出国した難民らが、仲介業者にだまされ人身売買の被害に遭うケースが続いている。ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの事例は、実態をあぶり出した。
 
ロヒンギャは、1970年代後半以降、ミャンマー軍事政権に迫害され、政府は自国民族と認めていない。西部ラカイン州では2012年、仏教徒とロヒンギャが衝突し200人以上が死亡し、ロヒンギャを中心に10万人以上が避難民キャンプで暮らす。
 
周辺国への密航も続き、15年5月には数千人を超えるロヒンギャを乗せた船が、マレーシアやインドネシアの沖合で漂流し、世界的な注目を浴びた。
 
タイ南部のジャングルでは15年5月、ロヒンギャの人身売買拠点とみられるキャンプ跡が70カ所以上見つかった。漁船に奴隷として売ったり、追加の密航料を家族に身代金要求していたとみられる。暴行や病死が横行し、周囲には数十人ごと埋めた「集団墓地」も見つかった。
 
タイの刑事裁判所は7月19日、ロヒンギャの人身売買の罪に問われた62人に有罪判決を言い渡した。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は今年2月、ミャンマーの治安当局がロヒンギャの殺害やレイプに組織的に加担したと非難する報告書を発表した。【8月9日 産経】
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ミャンマーにおいては“バングラデシュからの不法移民”として扱われていますが、そのバングラデシュに逃げても厄介者扱いは変わりません。

バングラデシュ人と以前からいるロヒンギャ、新たに流入したロヒンギャの3者の間に緊張関係が生まれているとの指摘も。

こうした逆境は、当然のように武力・テロで抵抗しようとする“過激思想”の温床となります。

****南東部、難民流入 迫害ロヒンギャ、住民とあつれき イスラム原理主義拡大か****
バングラデシュ南東部コックスバザールで、隣国ミャンマーから越境してきた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」と地元住民とのあつれきが深まりつつある。

ロヒンギャ難民はミャンマー軍などの迫害が強まった昨年10月以降7万人以上が流入し、35万人に膨れあがった。多くが不法滞在で、治安が悪化しており、バングラ政府は対策を迫られている。

雨でぬかるんだ土地に青いビニールシートの住居が密集していた。コックスバザールから車で約1時間にあるバルカリ。住民によると、ここで暮らす約3500世帯は全員、昨年10月以降に流入したロヒンギャだ。
 
「できるなら、いつかミャンマーに戻り、軍と戦いたい」。トタンで作ったマドラサ(イスラム教神学校)で学ぶハビブル・ラフマンさん(16)は低い声でつぶやいた。

4月ごろ、ミャンマー北西部ラカイン州の村が軍とみられる集団に襲撃を受け、自宅を放火された。親族3人が銃撃で死亡し、自身も暴行を受けた。家族10人で村を抜け出し、国境の川を渡ってバルカリにたどり着いた。「父も仕事が見つからない。援助物資だけが頼りだ」

コックスバザールでは、難民登録を受けた約3万3000人は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民キャンプで暮らすが、残る約32万人は不法滞在のまま、キャンプ周辺に集落を形成している。

仕事は日雇いの農作業や建設作業がほとんどで、多くは援助物資で食いつなぐ。日当100タカ(約140円)の日雇い労働で家族5人を支えるウマル・ファルークさん(15)は「援助がないときは、食事できない日もある。学校にも行けない」と話す。
 
一方、地元のバングラ人は、ロヒンギャ難民が暮らす地域は強盗や人身売買などの犯罪の温床と化しているため、治安悪化への不安を募らせている。
 「
ロヒンギャは危険だ」。地元ジャーナリストのムハンマド・ハニフ・アザド氏(40)はこう言い切る。サウジアラビアなどの支援でマドラサが次々にできており、「イスラム原理主義が広まっている」と指摘する。国際機関関係者も「マドラサの若者たちが将来、過激化する恐れがある」と語った。

ロヒンギャに詳しいチッタゴン大学のラフマン・ナシルディン教授は「バングラで過激派に入るロヒンギャは今のところは多くはない」と否定するものの、地元住民の間には「治安悪化はロヒンギャのせいだ」(バングラ人大学生)との批判も少なくないという。
 
ミャンマーではサウジやパキスタンとつながりを持つロヒンギャの武装組織が活動しており、政府との「聖戦」を呼びかけている。

昨年10月にはミャンマーの警察施設襲撃事件に関与したとされ、軍がロヒンギャに対する取り締まりを強化し、住民の大量避難につながった。こうした過激派組織がバングラの避難民を勧誘する可能性もある。
 
こうした中、バングラ政府はロヒンギャをベンガル湾の島に移住させる計画を検討中だ。だが、生活インフラが整っておらず、洪水被害も多発する島のため「非人道的」との指摘も出ている。

ナシルディン教授は「バングラ人と以前からいるロヒンギャ、新たに流入したロヒンギャの3者の間に緊張関係がある。ミャンマー政府に働きかけ、帰還をうながすべきだ」と述べた。【7月25日 毎日】
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ロヒンギャの一部が過激化することで、ミャンマー国軍側は更に対応を厳しくする・・・という悪循環にもなります。

****ラカイン州に数百人の部隊増派=ロヒンギャ問題、衝突懸念も-ミャンマー****
イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題で不穏な情勢が続くミャンマー西部ラカイン州をめぐり、政府と国軍は数百人規模の国軍部隊を現地に増派するなど、治安対策の強化に乗り出した。ただ、反政府武装集団との衝突など情勢の一層の悪化を懸念する声も上がっている。
 
政府は11日発表した声明で、ラカイン州で「過激派がテロ活動を活発化させている」と指摘。9日までに59人が殺害され33人が行方不明となり、その多くは政府に協力しているとみられた村長らだという。政府は「国軍と協力し、活発化するテロ活動を鎮圧する」と表明した。
 
声明は増派部隊の規模には触れていないが、地元メディアなどによると、数百人に上るとされる。
 
部隊増強に対し、ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜氏(韓国出身)は11日声明を発表し、「大きな懸念」を表明。「政府はラカイン州の治安情勢に対処する上で、治安部隊があらゆる状況で自制し人権を尊重するよう保証しなければならない」と警告した。【8月12日 時事】
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テロと弾圧の応酬、増える難民、過酷な難民生活、難民を食い物にする密航業者・・・明るい展望が見えないロヒンギャ問題です。

【「目下の問題は経済が指導者らの優先事項ではないことだ」】
ミャンマー経済に関しては、アメリカが経済制裁を解除したことを受けて好景気の到来を期待する声が強かったのですが、このところはむしろ減速傾向にあり、スーチー氏の経済舵取りへの不安も投資家・経営者にはあるようです。

****置き去りにされたミャンマー経済、スー・チー政権に不安****
ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏は2016年にミャンマーの事実上の最高指導者となって以来、数十年に及ぶ内戦を終結させることに専念してきた。この目標達成に精力を注ぐ余り、新たな問題が生まれている。

急ピッチで開放が進むミャンマー経済をうまくかじ取りできないのではないか、との疑念が投資家の間で広がりつつある。
 
長年孤立してきたミャンマーの景気減速は、スー・チー氏の経済運営が早くも壁にぶち当たったことを浮き彫りにしている。

軍による支配が続いたミャンマーでスー・チー氏率いる文民政権が誕生し、米国が数十年ぶりに経済制裁を解除したことを受け、好景気の到来を期待する声は多かった。
 
ヤンゴンに本社を置く複合企業UMGのアリワルガ最高経営責任者(CEO)は「ミャンマーは、やり方さえ間違わなければ大きな可能性を秘めている」とした上で、「目下の問題は経済が指導者らの優先事項ではないことだ」と述べた。
 
ミャンマーでは前年度の経済成長率が2011年以来の低水準に落ち込んだ。それを受け、国家運営に不慣れな現政権の戦略を疑問視する投資家が増えつつある。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、海外からの直接投資(FDI)は2016年に前年比22%減の22億ドルとなったが、それでも2011〜14年平均の2倍超の水準だ。
 
景気減速は意図的に引き起こされた面もある。新たな指導者らは、法令順守問題を調べるため首都ヤンゴンでの猛烈な建設ラッシュに歯止めを掛けた。さらに、経済の多様性を高める狙いで、鉱業(石油など)以外の分野に投資を分散させた。
 
政権移行期には経済の先行きが見通しづらくなることがよくあるが、何十年も世界から孤立し経済発展が遅れを必死に取り戻そうとしているミャンマーの場合、不安要素はそれだけでは済まないと投資家らは言う。例えば、スー・チー氏の政権運営手法や民間企業との協議で見せるよそよそしい態度を投資家や政治アナリストは不安視する。(中略)

スー・チー氏率いる与党「国民民主連盟(NLD)」の幹部で、ミャンマー投資委員会のメンバーでもあるエイ・ルウィン氏は、改革の遅れは官僚機構の脆弱(ぜいじゃく)性が一因だとし、スー・チー氏でもさまざまな問題にいっぺんに対応できるわけではないと述べた。
 
一方、中核機関である国防省、内務省、国境省の3省は引き続き軍の管理下にある。(中略)

スー・チー氏に近い関係者は、同氏は経済を優先する方針に傾き始めており、近くそうした変化が現れるだろうとしている。(中略)

経済政策がようやく変わり始めた兆しもある。政府は最近、明瞭な投資規制を発表したほか、外国企業に現地企業との合弁を義務づけている業種を90から22に削減した。さらに、外国人に移動制限などの規制を課す法案の可決を阻止した。

また、内閣改造でエネルギー相を入れ替えたほか、過去の功績が高く評価されている元中銀幹部を副財務相に据えた。(中略)

国際通貨基金(IMF)はミャンマーの経済成長率について、昨年は6.3%にとどまったが、今年は7.5%程度まで回復すると予想している。(後略)【8月7日 WSJ】
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変容する社会で「うば捨て」のような歪も
“昨年は6.3%にとどまったが”ということで、減速とは言っても、基本的には拡大基調にあることは間違いありません。成長する経済につれて社会も大きく変化します。

****世界的な動物カフェブーム、ミャンマーにも****
世界的なペットカフェの波がミャンマーにもやって来た。急速に変わりゆくミャンマーの最大都市のヤンゴンに動物カフェが2軒オープンしたのだ。ミャンマーは今、モンスーンの季節だが2軒のカフェが動物愛好家たちに屋内で過ごす楽しみを提供している。(後略)【7月29日 AFP】
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こうしたニュースを見ると、人々の暮らしにも余裕ができたのか・・・とも思えますが、それほど楽観ばかりもしていられないようです。

ミャンマーは“若い国”のイメージがあって、高齢化社会とは無縁のように思えますが、必ずしもそうではないようです。高齢化は、解消しない貧困や未整備な医療・介護制度とあいまって大きな歪を生みます。

****ミャンマーの貧困と高齢化問題、「うば捨て」も****
脳卒中で半身がまひし、ほとんど話すこともできないティン・フラインさん(75)は、実の子どもたちによって道端に捨てられた。
 
そのまま道端に横たわっていたティン・フラインさんは、気の毒に思った知らぬ人に、最大都市ヤンゴンの郊外にある老人ホーム「トワイライト・ビラ」に連れて行ってもらったことで救われた。
 
ティン・フラインさんの身に起きた「うば捨て」のような出来事は、急速に進む高齢化への対応に苦慮している貧困国ミャンマーにおいて、まれな例ではなくなってきている。同国では高齢化の問題が、既に無力化している医療福祉制度に重くのしかかっている。
 
トワイライト・ビラのキン・マー・マー氏によると、入居者の多くはティン・フラインさんのように、家族に見捨てられた後、当惑し病気を患った状態でやって来るという。(中略)

■死に場所
軍事政権による数十年にわたる悪政、厳しい制裁、民族紛争などによって、ミャンマーは世界の最貧国の一つとなった。そんなミャンマーは今、人口動態上の危機に直面している。
 
国連(UN)によると、現在、ミャンマーの人口の約9%は65歳以上だが、2050年までにこの数字は25%に急増し、15歳未満の割合を上回る見通しだという。
 
国連人口基金(UNFPA)のミャンマー担当者ジャネット・ジャクソン氏は「経済の現状により、多くの人々が高齢になっても生きるために肉体労働を続けることを余儀なくされている」「このことは高齢者のための適切な社会福祉と政策の必要性を明確に示している」と語った。
 
軍事政権の50年にわたる投資不足により高齢化対策は既にぼろぼろの状態で、ミャンマーの医療福祉制度はこうした現状に対処するのに苦慮している。
 
約半世紀ぶりとなった文民政権は昨年の発足以来、新しい老人ホームを1つしか設立していないばかりか、この施設は90歳以上限定で、1か月あたりわずか1万チャット(約800円)の援助金しか得ていない。
 
伝統的に大抵の高齢者たちは家族によって面倒をみられるが、貧困の圧力、高いインフレ率、急速な都市化などにより身内を見捨てる人々の数は増加している。
 
僧侶が運営しているヤンゴンの別の老人ホームに3年前から暮らしてるフラ・フラ・シュイ(Hla Hla Shwe)さん(85)は「私たちには他に行く所がない。死を待つためにここに来た」と話し、「ここでは孤独感が薄らぐし、寄付のおかげで食べ物も貰える」と付け加えた。(後略)【8月13日 AFP】
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ミャンマー  ロヒンギャ虐殺を否定する国軍 “政治家”スー・チー氏の対応は?

2017-07-06 22:45:41 | ミャンマー

(ロヒンギャの人々に国籍を与えるミャンマー政府の取り組みに抗議する人々 【4月6日 BBC】 “政治家”スー・チー氏が直面する現実です)

国連報告を「でっち上げ」とする国軍 「スー・チーさんが政権に入っても実態は軍政だ」】
国軍などの治安当局、多数派仏教徒住民による“民族浄化”も懸念されているミャンマー西部ラカイン州でのイスラム教徒少数派のロヒンギャの問題は、スー・チー国家顧問の指導力への国際社会・人権団体からの期待にもかかわらず改善していないようです。

****ロヒンギャ1人死亡 ミャンマーで仏教徒が襲撃****
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェーで4日、少数派のイスラム教徒ロヒンギャの7人が100人ほどの仏教徒の集団に襲われ、1人が死亡、6人が重傷を負った。
 
ラカイン州では2012年にロヒンギャと州内多数派民族の仏教徒ラカインとの衝突が起きて以降、多くのロヒンギャが避難民キャンプに暮らす。

警察関係者らによると、7人はキャンプに住んでおり、買い物のため事件の起きた地域に入った。警官が警護のため車で付き添ってきたが、7人が車を降りて買い物にいった際に集団に襲われたという。【7月6日 朝日】
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国連などのロヒンギャ弾圧の指摘に対し、ミャンマー国軍は“でっち上げ”と完全否定しています。

****ロヒンギャ人権侵害を否定=「でっち上げ」とミャンマー国軍****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する人権侵害疑惑で、国軍は「でっち上げだ」などとして治安部隊の関与を否定する声明を発表した。国営メディアが23日、伝えた。
 
人権侵害疑惑をめぐっては、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が2月に公表した報告書で、国軍など治安部隊による昨年10月以降の軍事活動でロヒンギャ数百人が死亡した公算が大きいと指摘。「人道に対する罪」に当たる可能性が「極めて高い」と訴えていた。
 
これに対し、国軍は声明で、国軍による現地調査の結果、「OHCHRの報告書に含まれている18件の疑惑のうち12件は不正確で、残る6件はうそと捏造(ねつぞう)された申し立てに基づく誤りであり、でっち上げだと判明した」と主張した。【5月23日 時事】 
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こうした状況にあって、民主化運動指導者としてノーベル平和賞も受賞したスー・チー国家顧問が指導力を発揮して事態改善にあたってくれることを期待する声は多々ありますが、国軍・多数派仏教徒の世論に抗して動くことは政治家スー・チー氏としては難しいようで、この問題に関する関与はあまりなされていません。

関与したがらないのは、スー・チー氏だけでなく、日本政府・日本社会も同じです。

****スー・チーさん、声を上げて=日本のロヒンギャ支援者-今も実態は軍政・ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの支援活動を続ける日本ロヒンギャ支援ネットワーク(埼玉県)のゾーミントゥ事務局長(44)が「世界に向かってミャンマー軍が何をやっているか語ってほしい」とアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相に呼び掛けている。

ミャンマーでは昨年3月、約半世紀ぶりに文民政権が復活し1年以上が過ぎたが、現状について「スー・チーさんが政権に入っても実態は軍政だ。スー・チーさんの言うことなんて軍は誰も聞かない」と評価は厳しい。人権団体アムネスティ日本の東京事務所で11日に語った。

ミャンマー軍は昨年10月以来、ラカイン州で「イスラム過激派掃討」を名目に軍事作戦を展開中。ゾーミントゥさんは「軍が行く所では必ず女性が襲われる。村に放火し、子供を殺し、捕まえて刑務所で拷問し、また殺している」と訴える。激しいロヒンギャ弾圧は「ロヒンギャを差別すればラカイン州の多数派の仏教徒は軍を支持する。典型的な分断統治だ」と考えている。
 
1996年、タン・シュエ軍政期最大級の反軍政学生デモに参加したゾーミントゥさんは追われる身となった。98年に日本へ脱出。2002年にロヒンギャとして初めて日本で難民認定された。
 
日本からもスー・チー氏を応援し続けてきた。文民政権復活に期待は大きかったが、ロヒンギャ問題で沈黙を守る今の姿に「自宅軟禁下でも発言を続けていたのに、なぜ今、言わないのか。外相を続けられなくなるからか」と問い掛けている。
 
厳しい差別政策でロヒンギャは結婚するにも軍に許可を求めなければならない。しかし、許可は簡単には出ない。「お金を払えばすぐ許可は出る」とゾーミントゥさん。許可を得ずに結婚すれば逮捕されるため「お金を払えない人はバングラデシュに逃げて結婚するしかない」と難民が生まれる背景の一端を語った。
 
ゾーミントゥさんは「難民認定されて初めて結婚できたし、子供もできた」。現在は会社経営者になり「たくさんの日本人に助けられた」と感謝しつつ、日本で昨年、1万人以上が難民申請しながら28人しか認められなかった現状に表情を曇らせる。

難民の受け入れ拡大やミャンマー政府への影響力行使に向けて「日本は民主主義の国。どうか国民の権利を行使して声を上げてほしい」と日本人に訴えている。【6月13日 時事】
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難民の受け入れ拡大が望まれる日本
日本は国連から、紛争国などから周辺国に逃れた難民を第三国に定住させる「第三国定住」の拡大を要請されています。

****難民受け入れ拡大、日本政府に要請 国連難民高等弁務官****
来日しているグランディ国連難民高等弁務官は29日、都内の日本記者クラブで会見を開いた。滞在中に日本政府に対し、紛争国などから周辺国に逃れた難民を第三国に定住させる「第三国定住」制度のもと、難民の受け入れ拡大を要望したと明らかにした。
 
第三国定住は、シリアやイラクなど各地での紛争激化によって多数の難民が発生し、受け入れ先の問題が深刻化する中で、期待が高まっている仕組みだ。日本は2010年度からミャンマー難民へのプログラムを進めており、今年度までに計123人を受け入れた。
 
グランディ氏は2日間にわたって金田勝年法相ら政府関係者と協議し、受け入れる難民の国籍の多様化と規模の拡大を求めた。会見で「前向きな反応を頂いた」とした上で、「日本はこのようなプログラムに慣れておらず、大勢を受け入れる前に一般社会の理解と準備が必要になるだろう」と指摘。中長期的な協議が必要との見方を示した。
 
また、多数の難民を生み、ミャンマーの治安部隊による迫害も指摘されるイスラム教徒ロヒンギャの問題に対し「ミャンマー政府に人権を尊重するよう求めている」と説明。戦闘が激化するシリア・アレッポについては「医療も食料もない状態で市民が東アレッポに閉じ込められている」と危機感をあらわにした。【2016年11月29日 朝日】
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欧州が中東・アフリカからの難民・移民の問題で揺れているのは周知のところですが、それでも一部の国を除いて対応の努力はしています。

アジアにおける最大の難民問題でもあるロヒンギャについて、いつまでも「日本はこのようなプログラムに慣れておらず・・・」と門戸を閉ざし続けるのは、アジアにおける指導的立場を求める日本としては残念なことです。

異質なものの流入を排除して、同質なものだけの間で“安全・安心な社会”を誇っても、それは枠組みから排除された者の犠牲の上に成り立った“安心・安全”にすぎません。

受入れのための“一般社会の理解と準備”がどのようになされているのでしょうか?無策・無関心は日本政府だけの問題ではなく、日本社会の問題です。

受入れは様々な問題を惹起し、多大な努力・コスト・忍耐も必要となりますが、問われているのは国家・民族の“品格”の問題です。個人的には、日本が“自分たちさえよければ・・・”といった程度の国であってほしくないと考えています。

【「マザー・テレサでもないものの、政治家だ」 “民族浄化”国連調査を否定するスー・チー氏
話をミャンマーに戻すと、ミャンマー国軍が否定しているロヒンギャ弾圧に関する国連の調査要求に対し、スー・チー国家顧問は“入国ビザを出さないよう指示した”とも報じられています。

****ロヒンギャ問題調査団にビザ出すな」 スーチー氏指示****
ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒ロヒンギャへの人権侵害が報告されている問題で、アウンサンスーチー国家顧問が、国連人権理事会が派遣を予定している調査団に入国ビザを出さないよう指示したことが明らかになった。各国のミャンマー大使館に通知しているという。
 
6月30日の国会で、外務副大臣がロヒンギャ問題に答弁した中で「アウンサンスーチー氏は、我々は国連の調査団に協力しないと言っている。各国の大使館に調査団員にはビザを出さないよう命じる」と発言。外務省関係者によると、スーチー氏から同省に指示があり、大使館に一斉に知らせたという。
 
昨年10月にロヒンギャの過激派とみられる武装集団が警察施設などを襲撃してから、ロヒンギャに対する人権侵害が国連などによって報告されている。ミャンマー政府も独自の調査をしているが、国連はこれが「不十分」として、調査団の派遣を決めていた。
 
ミャンマー側は「これは国内問題だ」などと反発。スーチー氏は訪欧の際、調査団受け入れに「同意しない」などと発言していた。【7月1日 朝日】
*************************

スー・チー国家顧問は以前BBCのインタビューに対し、「民族浄化」という表現を否定し、自身について「マザー・テレサではなく政治家だ」とも語っています。

****ミャンマーは民族浄化をしていない スーチー氏独占インタビュー****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は、同国西部ラカイン州でイスラム教徒の少数派ロヒンギャに対する人権侵害が相次いでいることについて、民族浄化ではないとの認識を示した。BBCとのインタビューで述べた。

スーチー氏は、民族浄化という言葉は「表現が強すぎる」と指摘し、国外に一時避難したロヒンギャの人々が住んでいた場所に戻ろうとするなら喜んで受け入れると語った。

インタビューで同氏は、「民族浄化が行われているとは思わない。今起きていることを言い表すのに民族浄化は表現が強すぎる」と述べた。

さらに同氏は、「多くの敵対行為があると思う。当局と協力しているとみられたイスラム教徒がイスラム教徒に殺されてもいる。あなたが言うような民族浄化ではなく、人々が分断されていて、我々はその溝を狭めようとしている」と語った。

ミャンマーはロヒンギャの人々を隣国バングラデシュからの不法移民だと考えており、国籍が与えられていない。公的な場での差別は頻繁に起きている。

2012年に起きた戦闘を逃れた多くのロヒンギャの人々が難民キャンプでの生活を余儀なくされている。
昨年10月に起きた国境警備隊への組織的攻撃で警官9人が殺害されたことを受け、軍はラカイン州で軍事作戦を開始。約7万人がバングラデシュに逃れた。

国連は先月、ミャンマーでの人権侵害の疑いについて調査すると発表した。軍がロヒンギャを無差別に攻撃し、強姦や殺人、拷問を行っているとして、非難の声が上がっている。ミャンマー政府は人権侵害を否定している。

スーチー氏がロヒンギャをめぐる問題について沈黙していると受け止められたことで、ミャンマーの軍事政権に長年抵抗してきた同氏の人権運動の象徴としての評判が傷ついたと多くの人々は考えている。

ロヒンギャ問題をめぐり、スーチー氏に対する国際的な圧力は高まっている。
しかし、今年初の単独インタビューとなった今回、スーチー氏は自らについて、マーガレット・サッチャー(故人・英首相)でもマザー・テレサでもないものの、政治家だと語り、ロヒンギャ問題については以前から質問に答えてきたと指摘した。

「ラカインで前回問題が起きた2013年にも同じ質問を受けている。彼ら(記者たち)が質問して私が答えても、人々は私が何も言わなかったと言う。単純に人々が求めているような発言をしなかったからだ。人々が求めていたのは、私がどちらかの共同社会を強く非難することだった」

スーチー氏は昨年10月の攻撃がなぜ起きたのか全く分からないとしながらも、ミャンマー和平の取り組みを阻害しようとする動きだった可能性を指摘した。同氏はさらに、ミャンマー軍がしたいようにふるまえるわけではないと語った。

しかし、スーチー氏は政府が依然として国軍に対する統帥権を取り戻そうとしていると認めた。現行の憲法では、国軍は政権から独立している。

スーチー氏は「彼ら(国軍)に強姦や略奪、拷問することは許されていない」とした上で、「彼らは出動して戦うことはできる。憲法にそう書かれている。軍事的なことは軍にまかされている」と述べた。

インタビューで同氏は昨年3月末に政権についてからの成果も強調した。
道路や橋の建設、電線の敷設への投資が、政権が最優先課題に挙げる雇用創出に役立ったほか、医療サービスも改善した。自由選挙も実施されるようになった。

政権がこのほかに取り組んでいる優先課題には、内戦状態がほぼ途切れることなく続いているミャンマーの和平実現がある。

また、軍事政権時代には国籍の取得を拒まれてきたロヒンギャの人々に市民権を与えようとしている。
近隣国に逃れたロヒンギャの人々についてスーチー氏は、「戻ってくるならば、彼らは危害を加えられない。決めるのは彼らだ。一部の人々は帰ってきた。私たちは歓迎しているし、これからも歓迎する」と述べた。【4月6日 BBC】
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“民族浄化”を認めれば、国軍と決定的に対立することになりますので、スー・チー氏としてはそれはできないでしょう。
スー・チー氏に国軍を指導する権限がない・・・というのは事実であり、彼女ができることには限界があるというのも事実ですが、政治家としての調整能力に対する疑問も・・・

****スー・チー改革 道険し ミャンマー、米欧の期待と落差 ****
民主化運動の旗手、アウン・サン・スー・チー国家顧問によるミャンマーの変革が難しい局面を迎えている。国内の安定に不可欠な少数民族武装勢力との和平が道半ばで、治安を一手に担う国軍への配慮を強める。

少数民族への影響力を持つ中国にも接近し、昨年3月の政権発足時に米欧など先進国が抱いた理想主義的な指導者像から遠ざかっている。

6月中旬、国軍は北部の中国国境地帯に勢力を持つカチン独立軍(KIA)に攻撃を仕掛けた。付近の鉱山労働者や住民が退避を迫られ、現地メディアによると数百人が教会や寺院に避難した。
 
ミャンマーでは5月下旬に政府と国軍、武装勢力の間で民族間の和平を話し合う「21世紀のパンロン会議」が開かれたばかりだ。KIAは特別枠で参加した7つの武装勢力の一つ。スー・チー氏との会談にも加わり、停戦への期待が高まったが、戦闘が再発した。
 
ある専門家は「武装勢力との信頼関係を築く泥臭い交渉ができる人材が少ない」と政権の力不足を指摘する。パンロン会議は停戦協定に署名済みの8勢力と「各民族を対等に扱う」などの原則で合意。対話の枠組みを構築して一定の成果を示した一方、「少数民族側が将来的に連邦を離脱できるかどうか」といった論点では対立も残した。
 
スー・チー氏は肩書こそは国家顧問だが、実質的なトップとして政権を取り仕切る。長期間の自宅軟禁を経て、民主化運動の中心として国民と国際社会の期待を背負う。
 
一方、憲法の規定で国軍は軍事や警察を掌握する。少数民族との紛争が続くなかで、スー・チー氏は治安を担う国軍への配慮も目立ってきた。
 
西部ラカイン州北部で昨年秋に起きた警察署の襲撃事件後、国軍による掃討作戦で、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害行為があったとされる。スー・チー氏は国連人権理事会が3月に決議した独立調査団の受け入れを拒んだ。
 
スー・チー氏は「国連の調査は住民間の分断をさらに広げるだけだ」と主張。コフィ・アナン元国連事務総長がトップを務める独自の諮問委員会に対策の立案を委ね、欧米の国際人権団体は失望感を強めている。
 
外交では中国への接近にカジをきった。2011年の民政移管後、国軍出身のテイン・セイン大統領(当時)はそれまでの中国一辺倒の外交を修正。中国企業による巨大水力発電所の建設計画を凍結した。スー・チー氏のトップ就任で中国との関係はさらに後退するという見方もあったが、実際には逆の方向に進む。
 
インフラ開発を柱とした中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」。スー・チー氏は5月中旬、同構想の会議に自ら出席し、賛意を示した。経済発展を支えるインフラ開発で、中国の資金力の魅力は大きい。
 
インド洋に面したラカイン州チャオピューから中国内陸部の昆明までは、中国企業が投資して天然ガスと原油のパイプラインが引かれた。ガスの輸送に続き、4月には原油の送出も始まった。
 
国内の武装勢力との和平でも中国を頼る。停戦協定未署名の7勢力によるパンロン会議への出席が実現したことに対し、政府の代表者は「中国の調整に感謝したい」と報道陣に述べた。
 
ミャンマーが民政移管を果たし、対中一辺倒の外交を修正したことを米欧など先進国は歓迎。経済制裁を解除し、企業がミャンマーへの投資に動いた。国軍への配慮や中国への接近は、民政移管後の追い風を弱めかねない危うさもはらむ。
 
4月の英BBCのインタビュー。「西側が抱いてきた(インドの修道女)マザー・テレサのようなイメージは誤解か」との質問に、スー・チー氏は「私は政治家だ」と即答した。現実の政治課題に直面するスー・チー氏にとって、民主化運動家としての期待は重荷にもなっている。【6月26日 日経】
********************

期待の大きさと現実のギャップは当初から懸念されていたことですし、現実政治家としての資質への疑問も以前から指摘されていました。

国際圧力をうまく利用して国軍から譲歩を引き出す・・・ような政治的調整が求められます。“軍事政権時代には国籍の取得を拒まれてきたロヒンギャの人々に市民権を与えようとしている”とのことですから、そうした改善を少しでも実現して、軍政との違いを見せてほしいところです。
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ミャンマーの少数民族和平交渉を仲介する中国の思惑

2017-05-17 23:21:18 | ミャンマー

(【5月23日号 Newsweek日本語版】)

【“板挟み状態”のスー・チー氏
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が、ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題で、国軍による“民族浄化”と評されるような強権的な弾圧行為に対する欧米な・人権団体などからの批判と、スー・チー氏が影響力を持たない国軍及びロヒンギャを嫌悪し国軍の弾圧を支持する国民感情の間で、板挟み状態にあることはこれまでもしばしば取り上げてきました。

スー・チー国家顧問は、ミャンマー北部の水力発電用巨大ダムの建設再開問題でも、建設に反対する国民世論と、建設再開を求める中国の間で“板挟み状態”にあります。

この問題では、中国が影響力を持つ少数民族武装勢力との和平の実現が“人質”に取られた状態にもありますので、スー・チー氏としても中国を重視せざるを得ないのでは・・・とも見られています。

****和平へ中国重視 「一帯一路」スーチー氏出席へ****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問が14日から中国・北京で開かれるシルクロード経済圏構想(一帯一路)の首脳会議に出席する。

政権交代後2度目の訪中で、先月はティンチョー大統領が訪中し、習近平(シーチンピン)国家主席と会談した。スーチー氏の中国重視の姿勢が顕著になっている。
 
軍事政権を長年支えた中国にスーチー氏は複雑な感情を持つとされるが、スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権発足後、中国は外交攻勢をかける。昨年4月、王毅(ワンイー)外相がミャンマーを訪れ、スーチー氏と会談。8月にはスーチー氏を中国に招き、習主席が協力関係を確認した。
 
中国がスーチー氏との関係強化を図るのは、2011年に軍政からの民政移管で就任したテインセイン前大統領の時代にミャンマーの「中国離れ」が進んだためだ。

その象徴とされるのが、テインセイン氏が任期中の事業凍結を決めたミッソンダム建設計画だ。中国企業が軍事政権と合意し、09年に着工。イラワジ川上流に総工費36億ドル(約3960億円)で水力発電ダムをつくり、電力の9割を中国へ輸出する計画だった。
 
テインセイン氏が事業を凍結した背景にあったのが、1万人超の住民の移住や環境破壊を理由に起きた反対運動だった。スーチー氏も野党時代は事業を批判していた。
 
中国側は「一帯一路」にもつながる事業の再開をミャンマー側に迫っており、今回のスーチー氏の訪中でも働きかけるとみられている。一方、スーチー氏は国家顧問就任後、ダム事業の是非について明言せず、計画は中ぶらりんのままになっている。
 
スーチー氏が中国に配慮するのは、少数民族武装勢力との和平の実現に中国の協力が欠かせないためだ。スーチー氏は全武装組織との停戦協定署名を目指しているが、難航。特に中国国境地帯を拠点にする勢力との交渉が進んでいないが、こうした勢力に中国は一定の影響力があるとされる。
 
現地でダム建設の反対運動をする市民団体のスティーブン・ノウアウン代表(43)は、「スーチー氏は中止を決断できないだろう。いつ計画が再開するか、住民は恐れている」と話す。【5月13日 朝日】
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契約破棄となれば、中国から8億ドルの賠償を求められかねないとも。

また、中国接近については、“国内のイスラム教徒少数民族ロヒンギャ弾圧で、現政権には欧米から批判が上がっている。かつて支援を受けた欧米諸国とは距離が生じ、中国との関係強化に傾いているとされる。”【5月14日 産経】とも。

現実の制約の中で苦しむ者にとっては、上から目線の批判は疎ましくも思われる・・・といったところでしょうか。

このような情勢のなかで、スー・チー氏と習近平主席、李克強首相との会談が行われています。

****スーチー氏「一帯一路、平和と繁栄に貢献」 習氏と会談****
中国が主導する「シルクロード経済圏構想」(一帯一路)の国際会議に参加したミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は16日、北京で習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、今後の協力を確認した。

少数民族との和平に中国の力を借りたいミャンマーと、安全保障上、重要な地域を取り込みたい中国の思惑が一致した形だ。
 
会談で、スーチー氏は「一帯一路の呼びかけはこの地域と世界に平和と繁栄をもたらす。中国の支持と支援に感謝する」と述べた。習氏も「インフラや経済協力などで、実務的な協力関係を深めたい。引き続きミャンマー国内の和平に必要な支援をしていく」と協力を約束した。
 
ミャンマーにとって中国は最大の貿易相手国で、その経済力も魅力的だ。中国も、ミャンマーとの経済的交流を進めてシルクロード経済圏構想を進め、安全保障上の優位も確保したい考えだ。
 
両氏の会談は、スーチー氏が訪中した昨年8月以来。【5月16日 朝日】
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****<一帯一路>李首相、アウンサンスーチーミャンマー国家顧問と会談****
李克強首相は16日北京で、「一帯一路」国際協力サミットに出席するため訪中したミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問と会談しました。
 
李首相は、「ミャンマーと発展戦略をリンクさせ、ハイレベル交流を緊密化し、互恵協力を推し進め、人的往来と文化交流を強め、両国国民により大きな福祉をもたらしていく」とした上で、経済特区や石油・ガソリンパイプライン、港湾など重要なプロジェクトにおける協力を穏やかに推進するよう期待する一方、水力発電用ダム「ミッソンダム」問題の適切な解決を求めました。
 
李首相はまた、ミャンマー北部の停戦を一日も早く実現し、中国との国境地域の安全と安定を着実に確保するようミャンマー政府に促しました。
 
これに対して、アウンサンスーチー国家顧問は、中国との協力の見通しを楽観視し、中国と経済貿易や人的・文化面における交流をさらに強めていきたいと述べました。【5月17日 CRI(中国国際放送局)】
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李克強首相との会談で、「ミッソンダム」建設再開についてスー・チー氏がどのように発言したかは報じられていません。“両国関係の懸案を中国側から持ち出していることから何らかの妥協案が提示された可能性がある”【5月16日 毎日】とも。

少数民族武装勢力とミャンマー政府の和平交渉を仲介する中国
ミャンマー側が中国国境の少数民族対応で中国の協力を必要としているというのは先述のとおおりですが、李克強首相が“国境地域の安全と安定を着実に確保するようミャンマー政府に促しました”というように、中国側も少数民族とミャンマー政府の和平を望んでいます。(そのあたりの事情は、後出【Newsweek】)

そうした中国側事情もあって、習近平主席が「引き続きミャンマー国内の和平に必要な支援をしていく」と発言したように、中国は少数民族武装勢力とミャンマー政府の和平交渉を仲介する姿勢を見せています。

中国の和平仲介の背景には、国境付近での経済的利益と難民の中国流入があると指摘されています。
更に、「一帯一路」構想において、ミャンマーはインドと中国という2大経済圏を結ぶ陸路を確保する重要な位置にあります。

****中国が進める「属国」の和平****
民主化により自立した隣国で続く少数民族との内戦 経済的利益を狙い中国は仲介役に回り始めた

3月、ミャンマー(ビルマ)政府が少数民族武装勢力との和平交渉再開に向けた話し合いに乗り出した。
ミャンマー北部では、カチンなどの少数民族と政府軍との間に内戦が続いている。今回の話し合いは、ミャンマーの内戦地帯と国境を接する中国の仲介で実現した。
 
約100万の人口を持つカチンは、ミャンマー北部のカチン州を中心とする地域に先祖代々暮らしている。62年のーデターにより、多数派のビルマ民族主導の軍事政権が誕生して以降、カチンは独立を求めて政府軍と戦い続けてきた。この戦いは、「世界で最も長く続いている内戦」とも呼ばれる。
 
カチンの武装ゲリラであるカチン独立軍(KIA)は約1万人の戦闘員を擁し、ミャンマーと中国の国境地帯の多を支配している。KIAと政府軍の戦いは熾烈を極めてきた。政府車は司法手続きを経ない殺害、レイプ、拷問などの人権践蹟にも手を染めている。
 
内戦で住む場所を失った人は、この6年間で10万人以上。中国にも大量の難民が流人している。中国政府が和平を呼び掛ける理由の1つはここにある。
 
中国がずっと和平に熱心だったわけではない。軍事政権がミャンマーを統治していた50年間、中国はこの隣国を属国扱いしてきた。人権問題などで国際的に孤立していたミャンマーには、ほかに頼れる国がないと分かっていたからだ。

最近数十年は、カチン州から大量の木材、金、ヒスイなどの天然資源を獲得してきた。その多くは密貿易だ。
 
しかし、中国の思いどおりには運はなくなった。イラワジ川(エーヤワディー川)のミッソン水力発電ダム建設計画は、その明らかな例だ。
 
中国は、約35億ドルを投じて世界有数の水力発電ダムを造ることを計画。主に雲南省の都市に電力を供給することが目的だった(ミャンマー側に供給される電力は10%程度)。

この計画は両国政府が共同で推進してきた。ミャンマー政府は、地元住民のニーズより、中国の要求(と中国マネーの獲得)を優先させていたのだ。 

異変が起きたのは、11年9月のことだった。民政移管後のミャンマー政府がミッソン水力発電ダムの建設凍結を決定し、建設作業は途中で止まっている。
 
しかも、ミャンマーの民主化はさらに前進し、15年11月の総選挙では民主活動家のアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝。政権交代が実現した。

英米や国連を排除したい
中国がミャンマーを属国扱いできる時代は終わった。新政権は、ほかの大国の力を利用して中国の影響力を弱めようとし始めている。
 
中国はミッソン水力発電ダムの建設を再開したい意向だが、KIAと政府軍の戦いがそれを邪魔している。 

情勢の不安定化により、中国とミヤンマーの国境がしばしば閉鎖されている結果、木材やヒスイの密貿易による中国側のビジネス上の利害も脅かされている。

環境NGoのグローバル・ウィットネスの調べによれば、11年のヒスイの密貿易の規模は310億ドルに達した可能性がある。これは、ミヤンマーの正規経済のGDPの半分近くに匹敵する金額だ。密貿易されるヒスイの大半は、カチン州東部の鉱山で採掘されている。
 
中国が被っているダメージは、それだけではない。多くのカチンの難民が国境を越えて、中国の都市に流れ込んでいる。
 
強圧的なやり方を続けられなくなった中国は、これまでとは違う行動を取り始めた。カチンにダムの利点を理解させるための広報キャンペーンを開始し、カチンのりリダーたちを中国に招いて水力発電ダムを見学させたり、地元の学校や市民団体に寄付したりもしている。
 
突然、和平の仲介に力を入れるようにもなった。ただし、中国の行動原理そのものは変わっていないようだ。
 
「中国は内戦の激化を望んではいないが、欧米主導の和平によって自国の国境近くに国際監視団やNGOが入ってくることもまた避けたがっている」と、ミャンマーの高名な歴史学者タンミンウーは言う。「停戦合意とセットで新しい経済計画を導入して、ミャンマーと中国奥地の経済的な結び付きをさらに強化したいと考えている」
 
KIAの政治組織であるカチン独立組織(KIO)のダウカ報道官は、13年の和平交渉についてこう振り返る。「中国はかなり強硬に、交渉への参加を求めてきた……英米や国連を介入させないようにと、クギを刺された。全て自国の監督下で和平を進めようとしていた」
 
これに対し、中国の影響力を警戒するカチンは和平交渉に欧米諸国も加えるべきだと主張しており、思うように進展していない。(中略)
 
中国は、欧米からたびたび求められる「責任ある大国」の役割を履行していると主張する。昨年12月にも中国国内で4つの武装勢力とミャンマー政府高官を引き合わせたが、協議は早々に決裂した。さらに、KIAとの和平交渉の資金として300万ドルを提供したが、今のところKIAは停戦に応じていない。
 
国境付近の有力な武装勢力に対し、中国が圧力を強めていることは確かなようだ。3月に中国が仲介した話し合いで、ミャンマー政府、KIA、有力な武装組織であるワ州連合軍(UWSA)は、新たな和平交渉を目指す意向を表明した。
 
約3万人の戦闘員を擁するUWSAは、中国との国境沿いでベルギーほどの広さの地域を支配。中国の強い影響下にあり、人民解放軍から武器を供与されているとみられている。
 
ただし、米ステイムソン・センターの孫韻上級研究員は、中国は隣国の「内戦に引きずり込まれることを恐れている」と指摘する。
 
「(中国は)国境地域の平和と自由な貿易を望んでおり、ミャンマーに影響力を振るい続け、欧米諸国を遠ざけたいと思っているが、自分たちは和平協定に署名したくない。和平を維持できる保証はないし、ミヤンマーとの経済関係を損ないかねないからだ」

シルクロード構想の要
中国は、小さな隣国との貿易よりはるかに大きな青写真を描いている。中国政府が掲げる海と陸のシルクロード経済圏構想「一帯一路」は、ヒマラヤ山脈を越えるルートとして、カチン州を通る旧レド公路を想定している。第二次大戦中に英米が中国に軍需物資を供給するために建設されたレド公路は、中国南部とインドを結ぶ最短ルートでもある。
 
つまり、ミャンマーの和平は中国にとって、ミャンマー市場へのアクセス以上に、インドと中国という2大経済圏を結ぶ陸路を確保する重要な機会なのだ。
 
一方、KIAは中国の介入に反発しているが、白分たちの利益を考えれば停戦が最善だと理解する可能性も十分にある。(後略)【5月23日号 Newsweek日本語版】
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タイトルの「属国」云々は、やや中国に対する悪意が強すぎるようにも思えます。

英米や国連を介入させず、全て自国の監督下で和平を進めようとする中国の姿勢に問題は多々ありますが、そうした中国の影響力で武力紛争が停止するのであれば、それはそれで大いに評価できるところです。

同様に、中国の影響力拡大から日本を含めて懐疑的な見方も多い「一帯一路」構想ですが、構想推進のためにミャンマー、パキスタン、アフガニスタン、中央アジアの不安定な状況を平和の方向に向けて中国が調整するというなら、それはそれで。

“パックス・アメリカーナ”にしても、アメリカの利害を前提にしたものでしょうから、「中国による平和」も、それと基本的には変わりません。

中国の場合、内政不干渉を名目にして強権支配体制の国家とも関係を結ぶ・・・ということもありますが、まあ、アメリカにしても自国の都合で“民主主義”を輸出しようとしたり、強権支配国家と同盟関係になったりと・・・そのあたりはいろいろありますので、一概に中国だけを責めるのは不公平かも。
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ミャンマー  ロヒンギャ排斥を扇動する怪僧を“1年間の説法禁止”に 事態改善への一歩か?

2017-03-21 22:38:38 | ミャンマー

(ウィラトゥ師(バツ印が付けられた写真の僧侶)に抗議するムスリム(インドネシア・ジャカルタ:2015年5月27日)【3月19日 Yahoo!ニュース】)

戸籍や人権を認められていない100万人のロヒンギャ
これまでもしばしば取り上げてきたミャンマー西部ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャの問題。

ミャンマー政府は、ロヒンギャを嫌悪する圧倒的な世論もあって、ロヒンギャを自国の少数民族とは認めておらず、隣国バングラデシュからの不法入国者として扱っています。

不法入国者ですからミャンマー国民でないというのはもちろん、正規の「外国人」としても扱われておらず、無国籍状態に置かれ、その権利は認められていません。

****人口にカウントされない****
イスラム教を信仰するロヒンギャは戸籍も特殊。前政権時代に発行された暫定身分証(ホワイトカード)は、2015年5月に無効とされ、代わりに身分証明書(NVC)の発行が定められた。

だが2016年1月時点で、返還された暫定身分証39万7497枚に対し、発行されたNVCは6202枚にとどまるという。NVCを発行すれば自ら「外国人」として認めることになるからだ。

2014年、ミャンマーで31年ぶりに実施された国勢調査は、ロヒンギャをカウントできず、推定値を算出した。
このとき、多くのイスラム教徒がロヒンギャと自称していたが、ミャンマー政府が独自に決めた「ベンガル人」という呼称を使わないロヒンギャは、人口のカウント対象にされなかった。

アナン元国連事務総長を委員長とする政府の諮問委員会は16日、ロヒンギャ問題に関する中間報告書を提出。キャンプで生活する避難民およそ12万人を元の村へ帰すか安全な場所に移転させる戦略が必要だと報告した。

委員会のメンバー、ガッサン・サラメによれば、ラカイン州のロヒンギャのうち市民権を持つのはわずか2000人。いまだ100万人のロヒンギャが戸籍や人権を認められていない。【3月21日 Newsweek】
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国軍・警察による厳しい弾圧 国連も“民族浄化”を警告
また、ロヒンギャに対しては昨年10月以来、武装勢力掃討作戦として国軍・警察による厳しい弾圧が行われており、多くが殺害・暴行・放火などの犠牲となっています。

それに関連して、多くが拘束されていますが、そのなかには子供も含まれています。

****ミャンマー、ロヒンギャ423人を拘束 うち13人は子供=警察文書****
ミャンマー西部ラカイン州で10月9日以降、武装勢力に協力したとしてイスラム教徒少数民族ロヒンギャ423人が拘束され、うち13人は10歳程度の子どもであることがわかった。ロイターが3月7日付の警察文書を入手した。

ラカイン州では、10月に武装集団が国境検問所3カ所を襲撃する事件が発生して以来、治安機関が掃討作戦を展開している。

警察によると、子どもたちは成人の容疑者とは違う場所で拘束されている。武装勢力に協力していたと告白した子どももいるという。

政府の報道官は、掃討作戦で子供たちが身柄を拘束されたことは認めたが、当局は法律を順守していると主張。現在拘束されていると報告を受けている子どもは5人だけだと述べた。

文書によると、拘束された423人はすべては男性の名前。平均年齢は34歳で、最年少は10歳、最年長は75歳。1人にはバツ印が付けられ「死亡」と書かれていた。【3月17日 ロイター】
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“人権団体はこの作戦でロヒンギャ族住居は放火され、男性は虐殺、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているとの報告を公表。バングラデシュに避難したロヒンギャ族は2万人以上に達している。”【2月6日 大塚智彦氏 Japan In-depth】(バングラデシュへの越境者は約6万5千人とする報告もあります)というような熾烈な弾圧状況からすると、“423人が拘束”というのはむしろ非常に少ないようにも思われます。

拘束するのも面倒で、暴力で国外へ追い立てている・・・ということでしょうか。

国連・人権団体などは、ミャンマー政府・国軍がロヒンギャを国外に追放する“民族浄化”を進めていると批判しています。

****ロヒンギャ全住民追放の恐れ=国連報告者が警告―ミャンマー****
ミャンマーの人権問題を担当するリー国連特別報告者は13日、人権理事会で演説し、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する当局の迫害疑惑を踏まえ、「政府はロヒンギャの住民をすべて国から追い出そうとしているのかもしれない」と警告を発した。
 
特別報告者はロヒンギャが多く住む西部ラカイン州における人権侵害を徹底究明する必要があると述べ、独立した調査委員会を速やかに設立するよう要請。「被害者だけでなく、全国民に真実を知る権利がある」と訴えた。【3月14日 時事】 
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アナン氏を長とする諮問委員会「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」】
アウン・サン・スー・チー国家顧問はアナン元国連事務総長を委員長とする諮問委員会を設置して調査を行っていますが、諮問委員会はロヒンギャを擁護するものだとして国民から強い反対の声も上がっています。

****ロヒンギャ迫害「公平な調査を」=諮問委が中間報告―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、ミャンマー政府が設置した諮問委員会(委員長・アナン元国連事務総長)は16日、中間報告を発表した。

治安部隊によるロヒンギャへの人権侵害疑惑に関してミャンマー政府に対し、「独立かつ公平な調査に基づき、深刻な人権侵害を犯した者の責任を問うべきだ」と訴えている。
 
アナン氏は声明で「われわれは、こうした犯罪を行った者は責任を負わなければならないと確信している」と強調した。
 
中間報告はまた、ミャンマー当局に対し、国軍など治安部隊が昨年10月以来ラカイン州北部で実施している軍事作戦の影響で制限されてきた人道支援活動や、メディアの立ち入りを認めるよう勧告。無国籍状態にあるロヒンギャの国籍問題の早期解決に向けた明確な戦略の策定も求めている。
 
諮問委は昨年9月にアウン・サン・スー・チー国家顧問が設置したもので、最終報告書を年内に取りまとめる予定。【3月16日 時事】 
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沈黙するスー・チー氏 ようやく事態改善の一歩か?】
民主化運動の旗手としてノーベル平和賞も受賞した“ファイティング・ピーコック(戦う孔雀)”と称されたスー・チー氏ですが、ロヒンギャを嫌悪する世論、権限が及ばない国軍との関係などもあって、上記諮問委員会設置以外は目立った取り組みはなく、ロヒンギャに関する発言もほとんどありません。

スー・チー氏の消極的対応には、周辺イスラム諸国や人権団体からも批判や失望の声も上がっています。

そうした状況にあって、ようやく事態改善に向けた動きともとれる対応が報じられています。

何度も繰り返しているように、国民世論は圧倒的に“異質な”ロヒンギャを嫌悪していますが、一部の過激な仏教僧がこうした反ロヒンギャ・反イスラム世論を扇動してきました。

今回、その中心人物でもあり、“ミャンマーのビンラディン”とも称される仏教僧について、“1年間の説法禁止”の措置がとられたとのことです。

****ロヒンギャ排斥の僧侶に説法禁止令、過激派抑止に本腰か****
<「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」と呼ばれる過激派僧侶の説法が禁止されたことで、民族浄化に歯止めはかかるのか>

ミャンマーの仏教僧侶管理組織「マハナ」が、ロヒンギャ排斥を叫ぶ僧侶、アシン・ウィラトゥ師の説法を禁止した。

亡命ミャンマー人向け情報誌イラワジ電子版が伝えたところによると、1年間の期間限定だが、これまで反ロヒンギャ運動を看過してきた政府が、過激派と言えども国教の指導的立場である僧侶に処分を下したことは驚きと共に受け止められている。

宗教・文化省は、ウィラトゥ師の説法について「宗教的、人種的、政治的な紛争を扇動していることが判明した」とコメントしている。

ウィラトゥ師は2013年にタイムズ誌の表紙を飾った人物。強硬派仏教徒組織「マバタ」を率いて、他宗教を攻撃する姿勢から「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」として知られ、西部ラカイン州に住むイスラム教徒少数民族ロヒンギャの排斥を主張してきた。

国民民主連盟(NLD)政権は、イスラム教徒に対する人権状況に対する国際的な評価を回復する上でも、マバタへの対応を迫られていたが、これまでは黙認していた。

地元メディアによれば、過去に反ロヒンギャの活動を咎められ、マバタの僧侶が警察に尋問されたり捕らえられたことはなかったという。

事実上政権を率いる、アウン・サン・スーチー国家顧問兼外相は人権派というイメージだが、テイン・セイン前政権が進めたロヒンギャへの圧政を容認しているという批判もある。

ただ、昨年12月から激化したロヒンギャの弾圧に、他のイスラム国家をはじめとする国際社会からの非難が強まり、政府はさすがにこの状況を無視できなくなったようだ。

マバタは昨年7月に、ヤンゴン管区政府から解散を促されていた。地元紙ミャンマー・タイムズによれば、ウィラトゥ師は、「承認された合法組織」だと主張し、徹底抗戦の意思を示したが、これに対しマハナは、「一度たりとも合法組織と認めたことはない」という声明を発表。マハナのメンバーにマバタの活動に参加することを禁じる通知を出すとしていた。

マバタの活動は目立たなくなっていたが、今年1月、イスラム教徒の式典を妨害し、メンバー12人が逮捕されている。【3月21日 Newsweek】
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今回措置については“ウィラトゥ師に説法の禁止を命じたサンガ・マハ・ナヤカは、そのメンバーが宗教省によって任命される、政府の監督下にある組織です。つまり、今回の決定は、ロヒンギャ問題をめぐって国際的な批判にさらされてきたミャンマーの政府と宗教界の主流派が、非主流派のヘイトスピーチを規制するものです。これによって、ウィラトゥ師の説法は、いわば「異端」と位置付けられたといえます。”【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】とも。

“軍事政権時代、軍による少数民族の抑圧はあったものの、政府は民間レベルでの民族・宗派間の争いを厳しく取り締まっていました。実際、ウィラトゥ師は2001年から反イスラーム的な抗議活動を先導し始めましたが、2003年には軍事政権によって25年の懲役刑に処された経緯があります。
しかし、軍事政権が体制転換を決定した2010年、多くの政治犯が釈放されました。そして、そのなかにはウィラトゥ師も含まれていたのです。”【同上】ということで、ウィラトゥ師らの過激な活動は“民主化”が産み落とした鬼っ子とも言えます。

強硬派仏教徒組織「マバタ」の活動自体が目立たなくなっている現状もあって実現した措置でしょうか。
世論や国軍との関係で、現実政治家としては身動きがとれないスー・チー国家顧問ですが、内心ではロヒンギャが置かれている現状をよしとはしていないと思います。

遅きに失した一歩であり、危機的状況全体から見れば小さな一歩ではありますが、これを機にスー・チー政権がロヒンギャの権利保護の方向で動き出すことを期待します。

【「異端」認定で過激化の危険も
ウィラトゥ師とウサマ・ビンラディン、あるいはトランプ現象や欧州極右勢力との類似・相違については、以下のようにも。

*****ビン・ラディンか、トランプか****
・・・・「味方」以外を全て「敵」とみなし、異教徒への暴力を唱道し、「人権保護」を求めるグローバルな勢力に敵意を隠さない点で、ウィラトゥ師にはビン・ラディンとの共通性を見出せます。さらに、ネット空間を通じて過激な思想を流布する点でも、かつてのビン・ラディンと同様といえます。(中略)

「自分たちの土地」から異教徒を排除しようとする主張は、イスラーム過激派にも共通します。

ただし、ウィラトゥ師の場合、国境をまたいだムスリムとしての一体性を強調したビン・ラディンと異なり、仏教徒の結束より国家の存続を優先させています。つまり、ビン・ラディンが国家を超える宗教によって「世界の浄化」を発信していたとするなら、ウィラトゥ師は宗教と国家を結びつけて「国家の純化」を求めているといえます。

その意味で、ウィラトゥ師には移民排斥を叫ぶヨーロッパ極右や、ムスリムの入国制限を主張するトランプ大統領とも類似性を見出せます。

実際、ウィラトゥ師は「トランプ氏は自分に似ている」と認めたうえで、「世界は我々を非難しているが、我々はただ我々の国を守ろうとしているだけだ」とも述べています。いわば、ウィラトゥ師は、宗教過激派であると同時に、ポピュリストでもあるといえるでしょう。【3月19日 六辻彰二氏 Yahoo!ニュース】
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なお、六辻彰二氏は以下のような活動の過激化やテロ誘発の危険性も指摘しています。

*****説法禁止のゆくえ*****
・・・・ビン・ラディンや極右勢力のパターンは、社会の「正統派」から「異端」と位置付けられたことが、それまで以上に過激な言動に向かう契機になったことを示しています。

つまり、ミャンマー政府や仏教主流派が抑制に舵を切ったことで、ウィラトゥ師や969運動が、これまでよりロヒンギャやエスタブリッシュメントへの敵意を強めたとしても、不思議ではありません。

その場合、ミャンマーは対テロ戦争の大きな戦線になる可能性すらあります。先述のように、ロヒンギャ問題はイスラーム世界でも関心を集めており、ミャンマーはイスラーム過激派の標的になりつつあります。

例えば、TTP(パキスタン・タリバン運動)は、ロヒンギャ問題をめぐり、ミャンマーへの報復を宣言しています。この観点からみても、説法の禁止を契機にウィラトゥ師の活動が逆に活発化すれば、ミャンマーはこれまで以上の混乱に直面することになるとみられるのです。【同上】
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ミャンマー  “人道に対する罪”ロヒンギャ問題に有効な手をうてない“ファイティング・ピーコック”

2017-02-07 23:39:17 | ミャンマー

(息子を腕に「村は焼かれ、夫は他の村人と一緒に喉を切られて殺された」と証言する、ミャンマーから逃れてきたロヒンギャの20代女性=バングラデシュ南部テクナフの難民キャンプで、AP【2月6日 毎日】)

覚醒剤密輸にかかわる僧侶もいるが・・・
敬虔な仏教国として知られるミャンマーですが、“ミャンマーでは仏教徒の男性であれば、二十歳になる前に必ず一度僧侶になります。本人の意思ではなく、親が自分の子供を早めにお釈迦様と僧侶の修行や教えに理解してもらいたいという目的で得度式を行って僧侶になり、僧院で生活するようになります。僧侶でいる間は、僧院で生活しながら、お釈迦様の教えと修行などをしなければなりませんので、最低限自分の世話を自分で出来る五・六歳が求められています。僧侶としての期間は一番短くても3日と3ヵ月または本人によって一生僧侶としての修行を続ける場合もあります。”【http://myanmars.jp/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E5%BE%97%E5%BA%A6%E5%BC%8F%EF%BC%88%E5%83%A7%E4%BE%B6%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%87%BA%E5%AE%B6%E3%81%AE%E5%84%80%E5%BC%8F%EF%BC%89-380.html】ということで、男性は誰でも一生のうち二回出家しなさいと言われているとも。多分、成人後に自分の意志でもう1回出家するということでしょう。

女性でも、同様な形で一時的に比丘になれるようです。

そうした世俗と宗教の垣根が低いともいえる社会ですから、僧侶の中にもいろんな人間が混在しているようです。

****ミャンマー僧院から覚醒剤370万錠 僧侶3人逮捕****
ミャンマー西部ラカイン州の仏教僧院などで覚醒剤の一種であるメタンフェタミンの錠剤約400万錠が押収され、僧侶3人が逮捕されたと7日、国営紙などが報じた。同国では国境地帯や近隣国で生産された錠剤が違法に流通し、社会問題になっているが、僧が検挙されるのは異例だ。
 
警察などによると、5日夕、バングラデシュ国境に近い同州マウンドーの検問所で、2人の僧が乗った車から錠剤約40万錠が見つかった。その後、2人が所属する近郊の僧院を捜索したところ、約370万錠を発見した。警察は2人と僧院の別の僧を逮捕。末端価格は約8億円に上るという。
 
マウンドーはイスラム教徒ロヒンギャが住民の多数を占め、昨年10月以降、治安部隊による人権侵害報告が相次ぐ地域。一方で薬物の大量押収も続いており、周辺国などへの密輸の「中継地」と見られている。【2月7日 朝日】
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こうした破戒僧も困りますが、ミャンマー国内にも少数派として生活するイスラム教徒への憎悪を煽る“仏教ナショナリズム”的な僧侶が存在することは、社会的にみてもっと厄介なことです。

国連人権高等弁務官事務所 ロヒンギャ弾圧は「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書
上記事件が起きた西部ラカイン州には、ミャンマー国民として認められていないイスラム教徒ロヒンギャが多く暮らしており、一部僧侶の扇動もあって国民世論の圧倒的なロヒンギャ嫌悪、そうした世論に同調した治安部隊のロヒンギャ弾圧が国際的にも大きな問題となっていることは、これまでも再三とりあげてきたとおりです。

国連、人権団体だけでなく、イスラム教徒を多く抱えるマレーシアなど周辺国からも批判が高まる一方で、民主化が期待されたスー・チー政権は国民世論と国軍の壁に有効な対策を講じることができずにいることも。
(1月16日ブログ“ミャンマー 結果を出せないスー・チー政権 言論の自由にも影 “笑顔が消えた”スー・チー氏”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170116など)

国連人権高等弁務官事務所は2月3日、国軍によるロヒンギャ武装集団掃討作戦が「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書を発表しています。

****<「ロヒンギャ」問題>「人道に対する罪」指摘 国連報告書****
ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」に対する迫害が懸念されている問題で、国連人権高等弁務官事務所は3日、軍の「一掃作戦」で多数の人が死亡するなどしており、こうした行為が「人道に対する罪」に当たる可能性が高いとする報告書を発表した。ゼイド高等弁務官は、ミャンマー政府を非難し人権侵害の停止を求める声明を出した。
 
報告書は、今年1月にミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ204人の聞き取り調査を基に作成された。
 
204人のうち134人が殺害現場を目撃し、96人は実際に家族が殺害されたと回答。多くの人は、軍による放火や手投げ弾により、家族や友人を失ったと話したという。
 
また、子供2人を含む女性26人がレイプされたと答えた。25歳の女性は、治安部隊員に夫を殺害されて家に押し入られ、集団でレイプされた。泣き声を上げた生後8カ月の長男までナイフで殺され「死のうと思ったが果たせなかった」と証言したという。
 
ゼイド高等弁務官は「ミャンマー政府は否定し続けるのではなく、自国民に対する人権侵害をすぐにやめなければならない」と訴えた。(後略)【2月6日 毎日】
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国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は「性的暴力は無作為ではなく、ロヒンギャに対して組織的に」行われていると指摘しています。

****ミャンマー治安機関の責任追及を、少数民族を性的暴行=人権団体****
米国に本拠を置く国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は6日、西部ラカイン州で軍や警察などの治安機関がイスラム系少数民族ロヒンギャの女性や少女に対する性的暴行に組織的に関与していると非難し、治安機関の司令官らを罰するようミャンマー政府に求めた。

HRWは、ミャンマー軍による弾圧を受けて隣国バングラデシュに逃れた約6万9000人のロヒンギャにインタビューし、女性に対するレイプや集団性的暴行などについて報告書にまとめた。

報告書によると、「性的暴力は無作為ではなく、ロヒンギャに対して組織的に」行われているとみられるという。

この件に関するミャンマー政府のコメントは得られていない。

ラカイン州には、推定110万人のロヒンギャが暮らしている。昨年10月にロヒンギャとみられる武装集団が警察施設を襲撃して以来、治安部隊が掃討作戦を進める同地域には記者や人権団体の立ち入りは禁止されている。

政府はこれまで、治安機関による性的暴行や暴力、殺害、市民の拘束など大半を否定。村の焼き討ちなどは、ロヒンギャの武装集団に対する合法的な掃討作戦と主張している。【2月6日 ロイター】
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イスラム教徒でもある与党法律顧問射殺事件の背後には・・・
こうしたロヒンギャに対する“民族浄化”ともいえる弾圧が指摘されるなかでも、かつては“ファイティング・ピーコック”とも称されたスー・チー氏の明確な言葉は聞こえてきません。

ASEAN内部からの批判もあって昨年12月19日にヤンゴンで開催されたASEANの非公式外相会議では、スー・チー国家顧問兼外相は問題解決に向けて「時間と裁量の余地」を与えてほしいと各国外相に訴えただけでした。

そうしたなか、1月29日には、ミャンマー最大都市ヤンゴンの空港の国際線ターミナルの外で、インドネシアへの視察から帰国した与党・国民民主連盟(NLD)の法律顧問、コーニー氏が銃で撃たれて死亡する事件が起きています。

コーニー氏はNLD党首のスー・チー氏の信頼が厚い弁護士で、イスラム教徒です。昨年3月末の新政権発足時にスーチー氏を国家顧問に就任させる法案立案にも携わっていました。【1月29日 朝日より】

この事件について、スー・チー氏の改革に反対する勢力の存在も指摘されています。

****少数民族問題でスー・チー氏窮地に****
■空港で起きた惨劇
(中略)
地元紙は犯行の動機についてコーニー氏が ①イスラム教徒だから ②現在進行中の憲法改正を停止させる狙い ③①と②の両方の目的による「政治社会的背景のある暗殺事件」との治安当局の見方を伝えている。

ミャンマーでは「国会議席の25%が軍人」「内務、国防など3大臣ポストは軍人」「軍人の過去の犯罪は赦免」などが盛り込まれている軍政時代の憲法を改正し、民主政権に相応しい憲法に改正する動きが進行中で、コーニー氏はスー・チー顧問の右腕として改正運動の中心にいた。

さらにコーニー氏は急進的な仏教組織の圧力で成立した「仏教徒と非仏教徒の結婚を規制する法律」に反対する運動もイスラム教徒の立場ではなく、弁護士の立場から力を入れていた。

こうした背景から逮捕された暗殺実行犯の出身、チー・リン容疑者(53)は憲法改正に反発する軍関係者かあるいは少数民族であるイスラム教徒を排撃しようとする仏教関係者の使嗾(しそう)に基づいた犯行との見方が強まっている。

■イスラム教少数民族ロヒンギャ問題
今回のコーニー氏の暗殺はスー・チー顧問を苦しい立場に追い込んでいる。

というのもミャンマー西部ラカイン州に集中する少数派のイスラム教徒ロヒンギャ族の人権問題を巡ってミャンマー政府は国際社会、とりわけ加盟国でもある東南アジア諸国連合(ASEAN)から厳しい批判を浴びているからだ。

ラカイン州で昨年10月9日、バングラデシュとの国境に近い地域の警察施設など3か所が武装集団に襲撃され、警察官9人が死亡する事件が発生した。武装集団は正体不明だが、国軍はロヒンギャ族組織の犯行と一方的に決めつけてロヒンギャ族集落の掃討作戦を開始。

人権団体はこの作戦でロヒンギャ族住居は放火され、男性は虐殺、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているとの報告を公表。バングラデシュに避難したロヒンギャ族は2万人以上に達している。

人権団体は「現状は国軍によるロヒンギャ族への民族浄化状態」と国際社会に訴えている。

コフィ・アナン元国連事務総長がロヒンギャ問題の特使としてミャンマー入りしたが、仏教徒の妨害などで実態調査が進まず、「民主化運動の指導者としてノーベル平和賞を受賞したスー・チーさん」への少数民族や国際社会の失望が広がっているのだ。

昨年12月末には南アフリカのツツ司教やパキスタン人のマララ・ユスフサイさんなどノーベル平和賞受賞者11人を含む、人権活動家ら23人が国連に対し、ロヒンギャ族問題への対策を怠っているとしてスー・チーさんを批判する書簡を国連に送り、同問題を国連安保理で協議するよう求める事態も起きた。

加えてイスラム教徒が多数を占めるASEANのマレーシアやインドネシアからも「同胞イスラム教徒の人権侵害への憂慮」が示され、ASEAN会議などでミャンマーが「国内問題である」「人権には配慮している」など苦しい説明に追われる事態が続いている。

■どこへ向かう「戦う孔雀」
こうした内憂外患状態のスー・チー顧問をコーニー氏の今回の暗殺はさらに厳しい局面に追い込んだことは間違いなく、ASEAN外交筋は「コーニー氏ではなく、スー・チー顧問に反発する勢力が背後で暗躍した可能性がある」と指摘する。

スー・チー顧問がロヒンギャ問題をはじめとする少数民族問題で効果的な指導力を発揮できないのは、国軍と仏教勢力という2大支持基盤からの反発が、ようやく実現した民主政権の屋台骨を揺るがしかねないから、という極めて政治的な背景があるからだとされている。

「軍政を相手に戦う姿勢から、NLDの象徴でもあるファイティング・ピーコック(戦う孔雀)と称されたあのスー・チーさんはどこへ行ってしまったのか」という内外からの落胆の声、同じノーベル平和賞受賞者からの批判、ASEAN内部からの厳しい視線、そういったものをスー・チー顧問は「内心忸怩たる思い」で受け止めていることだろう。

国軍や仏教徒の支持をつなぎとめることで政権維持を続けるのか、それとも少数民族や貧困層など民主化の恩恵をいまだに受けていないミャンマーの人々に手を差し伸べる政策に覚悟を決めて踏み切るのか。

ミャンマーのファイティング・ピーコックはどこへ行こうとしているのか、国際社会、ミャンマーの人々は固唾を飲んで見守っている。【2月6日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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バングラデシュでの厄介者扱いのロヒンギャ
なお、ロヒンギャが厳しい状況に置かれているのはミャンマーだけではありません。
ミャンマー政府は、ロヒンギャはバングラデシュからの不法入国者だとしていますが、一方でバングラデシュ政府もロヒンギャを厄介者として排除しようとしています。

****バングラデシュ政府、ロヒンギャ難民の島への移動を計画 『BBC****
バングラデシュ政府は、ミャンマーから逃げてきた少数民族ロヒンギャの難民数千人を、ベンガル湾内の島に移動させることを計画している。

政令は、難民たちをミャンマーに帰す前にテンガール・チャール島に移動させるとしているが、人権擁護団体は強制収容と変わりがないと強く非難している。

テンガール・チャール島は約10年前に、メグナ川の堆積土で形成され、高潮の際には数十センチの水に囲まれてしまう。道路や堤防などは築かれておらず、島を記載する地図はあまりない。

約30キロ西には60万人が住むハティア島があり、現在の難民キャンプからの移動には9時間かかる。

ある地元政府関係者はAFP通信に対し、テンガール・チャール島について、「島に行けるのは冬のみで、海賊たちの隠れ家になっている」と語った。島を洪水から守るため植樹が行われているが、完了するまでには少なくとも10年がかかるという。

同関係者は、「モンスーンの季節には完全に水浸しになってしまう」と話し、「あそこに住まわせるというのは、ひどいアイデアだ」と指摘した。

ミャンマーでは、ロヒンギャの人々は国境を接するバングラデシュからの不法移民として扱われており、国籍の取得ができずにいる。

バングラデシュでも歓迎する人は少なく、迫害され貧困に苦しむロヒンギャの人々は、祖国がない状態だ。

ミャンマー西部のラカイン州でロヒンギャ住民と当局との衝突が起きた昨年10月以来、約6万5000人がバングラデシュ国内に越境して来たと推計されている。

衝突が起きる前にもすでに、登録済みの住民を含め約23万2000人のロヒンギャ難民がバングラデシュ国内で居住しており、その多くは貧弱な設備しかない難民キャンプで生活している。

バングラデシュ政府は今回、ロヒンギャ難民の登録や移住を目的とした委員会を設置。シェイク・ハシナ首相が後押しする取り組みの背景には、観光振興政策があると指摘されている。

約3万2000人の難民が住むコックス・バザールには、世界で最長とされるビーチがあり、政府は難民キャンプが観光客を遠のかせるのではないかと恐れているという。【1月31日 iRONNA】
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ロヒンギャ以外にも山積する少数民族問題
ミャンマーが抱える少数民族問題(ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国民たる少数民族としては認めていませんが)はロヒンギャだけではありません。数から言えば、ロヒンギャ問題はそのほんの一部に過ぎません。

****帰還望まぬミャンマー難民 民主化の果実なお遠く****
ミャンマー国境に近いタイ北西部にある9カ所のキャンプには、ミャンマーの旧軍事政権の弾圧などから逃れた計約10万000人の難民が暮らしていた。アウン・サン・スー・チー氏が政権を率い、「アジア最後のフロンティア」として経済成長に期待が集まるミャンマーの、もう一つの顔を取材した。
 
タイ北西部の町メソトから車で約1時間半。最大規模のミャンマー難民キャンプ・メラの集落が山麓に広がる。竹や葉を組んだ粗末な家に、7530家族、約3万9000人が生活する。小、中、高校もあり、自治機能を持つ。
 
だが、各ゲートはタイ国軍が警備を固め、外部との往来は原則禁止。特別に許可を得た元難民を介して取材した。内部には商店街もあるが、仕事はほぼない。コメや炭は支給されるが、足りない食材や生活物資を購入するため、すでに海外に移住した親族の送金に頼るケースが多いという。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2015年までの10年間で、10万人以上のミャンマー難民が海外に移住。米国の約8万人と、オーストラリアの約1万人がそのほとんどを占める。(後略)
 
キャンプ内のグランドでは学生がサッカーの試合に興じ、病院では国際組織が衛生対策を実施していた。
 
一方、エイズウイルス(HIV)感染予防の啓発施設で働く難民女性(47)によると、タイ政府のコンドーム供給が昨年8月で止まったという。自身も夫から感染したが「薬の提供も途絶えた」と訴えた。
 
キャンプ内の調停事務所によると、毎年約300件あるトラブルの200件以上は飲酒がらみだ。禁止されている酒をひそかに調達し、問題を起こす。窃盗や暴行もある。
 
担当者は「キャンプという『鳥かご』から出られず仕事もない。海外移住を希望して難民認定を何年も待つばかりで、自暴自棄になりやすい」と話した。
 
難民の大部分は、山を越えたミャンマー側で暮らしていた少数民族カレンだ。カレン民族同盟(KNU)と政府軍との紛争が激化して、多くの住民がタイへ流入。キャンプ・メラも1984年に開設された。
 
KNUは2012年、政府軍と停戦合意し、旧軍政の弾圧を受けてきたスー・チー氏が昨年3月末に政権を奪取した。難民帰還が本格化するとみられたが、キャンプの早期閉鎖を目指すタイ政府は約70人の公式帰還しか実現できていない。
 
「難民は土地を追われ、家族を殺され逃げてきた。戻っても仕事や家はなく、政府軍の弾圧が止まる保証もない」。ある長老は、スー・チー政権後も難民流入が続く理由をこう説明した。【2月7日 産経】
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話をミャンマー、スー・チー政権に戻すと、問題が山積し、厳しい現実のなかにはあります。

これまでも再三繰り返してきたように、現実政治家としては世論・国軍の存在を考慮せざるを得ないというスー・チー氏の立場はわかります。

わかりますが、この事態を打開できるのは彼女だけであるのも事実です。
先ずは国際的に注目されているロヒンギャ問題で、アナン元国連事務総長とも協調して、なんらかの行動を示してほしいものです。
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ミャンマー  結果を出せないスー・チー政権 言論の自由にも影 “笑顔が消えた”スー・チー氏

2017-01-16 21:25:56 | ミャンマー

(ミャンマーの村で展開された警察による掃討作戦で、地面に座らされたロヒンギャ人の村人を蹴る警官(写真後方左)。写真左に写った警察官のゾー・ミョー・タイ氏が撮影し、ユーチューブに投稿された映像の一場面から(2016年11月5日撮影)【1月4日 AFP】 それでも、政府の調査委員会は「虐殺や迫害はなかった」との中間報告)

政府の調査委員会「(ロヒンギャ)虐殺や迫害はなかった」】
民主化が期待されているミャンマーのスー・チー政権ですが、昨年末12月31日ブログ「ミャンマー・ロヒンギャ問題 “ノーベル平和賞受賞者”スー・チー氏へ強まる批判・圧力」でも取り上げたように、“民族浄化”の批判も国連等から出ているロヒンギャ問題に関し、有効な打開策を打ち出せずにいます。

****ロヒンギャへ「迫害ない」 ミャンマー政府調査、批判も****
仏教徒が大半のミャンマーでイスラム教徒ロヒンギャへの人権侵害が報告されている問題で、政府の調査委員会が「虐殺や迫害はなかった」とする中間報告書を出し、人権団体から批判が出ている。ロヒンギャへの暴行容疑で警官が拘束されたばかりで、委員会の中立性に疑問の声も上がる。
 
同国西部ラカイン州では昨年10月に武装集団が警察を襲撃。治安部隊が掃討作戦を進める中で州北部に数多く暮らすロヒンギャ住民に対し性的暴行や殺人、住居への放火などを行ったとの証言が報じられている。
 
政府はこうした疑惑を否定してきたが、3日付で公表された調査委の中間報告書は、ロヒンギャの人口やモスク(イスラム礼拝所)の増加が「虐殺や宗教的迫害がない証拠」と言及。性的暴行については「十分な証拠がない」とし、放火や不当逮捕、拷問については「調査を続ける」とした。

昨年末に武装警官がロヒンギャ住民を暴行する様子を写した動画がネットに流出。当局は2日に警官4人を拘束したが、報告書はこれには触れなかった。
 
中間報告書について、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソン氏は「モスクがあるから宗教的迫害がないという驚くべき結論は、方法論的に不備がある」と指摘。「性的暴行以外の人権侵害は調査中としており、何も明らかにしていない」と批判する。
 
昨年12月にティンチョー大統領によって設置された調査委のトップが、元軍幹部のミンスエ副大統領であることを問題視する声もある。調査委は1月末までに最終報告書をまとめる。
 
一方、国連は6日、ミャンマーの人権状況に関する国連特別報告者の李亮喜(イヤンヒ)氏が今月中旬に同国を訪れ、ロヒンギャ問題についても調査すると発表した。【1月7日 朝日】
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国軍の強硬措置を支持する仏教徒・国民世論の圧倒的なロヒンギャ嫌悪、元軍幹部のミンスエ副大統領をトップに据えた政府の調査委員会ということで、国軍の意向に対しスー・チー国家顧問も異を唱えることができないのか、それとも、スー・チー氏自身に問題意識がないのか(そういう訳ではないでしょうが・・・)。

12月19日のASEAN非公式外相会議で、スー・チー氏は問題解決に向けて「時間と裁量の余地」を与えてほしいと各国外相に訴えていますが・・・。

悪化する少数民族との衝突 「政権は軍の攻撃を端で見ているだけ。軍への影響力もほとんどない」】
ミャンマー北部の少数民族問題も悪化しています。

****ミャンマー北部、軍と武装勢力の戦闘で数千人が避****
軍と少数民族の武装勢力による衝突が激しさを増すミャンマー北部で、戦闘から逃れるために数千人が避難した。現地の活動家らが11日、明らかにした。
 
ミャンマー北部ではここ数か月で軍と少数民族の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」などの間の衝突が激しさを増し、昨年3月から同国の政権を率いる国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏が主張する和平実現への道筋に打撃を与えている。昨年11月に新たな戦闘が発生して以降、すでに数十人が死亡、数千人が避難を余儀なくされたという。

カチンネットワーク開発基金の関係者によると、国境近くの町ライザ(Laiza)で10日、ミャンマー軍は空爆を行い、戦闘は悪化していく一方だという
 
また地元の活動家によると、およそ3600人が戦闘から逃れるために2か所の国内避難民キャンプを脱出したという。【1月11日 AFP】
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衝突が起きているのは中国との国境も近いエリアですが、中国に向かった避難民が中国から追い返されるという事態にも。

****ミャンマー北部で戦闘激化、避難民4千人行き場失う****
ミャンマー北部カチン州で、政府軍が少数民族武装組織のカチン独立機構(KIO)への攻勢を強め、約4千人の避難民が行き場を失っている。国境の川を越えて中国側に逃れようとしたところ、中国当局に押し返されたといい、国境近くの道端などにとどまらざるを得ない状況だ。
 
避難民を支援する地元NGOのグループが13日にヤンゴンで各国外交団に説明したところでは、政府軍が戦闘機による爆撃も加えて国境地帯のKIO軍事拠点を10日に制圧すると、付近の避難民キャンプに暮らす約4千人が11日未明、中国側に逃れ始めた。だが、中国当局は同日中にミャンマー側に追い返した。
 
13日朝には、政府軍が放ったとみられる砲弾5発が近くの中国側に落ちた。現場の気温は5度程度まで下がり、身の安全に加えて健康状態も懸念される状況だという。
 
事実上の政権トップであるアウンサンスーチー国家顧問は国内和平を掲げているが、停戦に応じていないKIOなどへの政府軍の攻撃は昨年以降、むしろ激化している。

NGOグループのグンシャアウン氏は「政権は軍の攻撃を端で見ているだけ。軍への影響力もほとんどない」と批判した。【1月13日朝日】
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「政権は軍の攻撃を端で見ているだけ。軍への影響力もほとんどない」・・・厳しい評価ですが、結果を出せていませんので、批判もやむを得ないところです。

スー・チー氏としては、父アウンサン将軍の遺志を継ぐ形で少数民族との国民和解を実現し、政権の成果としたいところですが、事態は逆行しているようにも。

脅かされる言論の自由 鈍い政権側対応
上記のようなロヒンギャ問題や少数民族問題に関しては、スー・チー国家顧問としても国軍との関係で、現実問題としては手が出せないというところもありますので、斟酌すべき余地はあるかも(現実政治家としては、結果で評価せざるを得ませんが)。

ただ、少なくとも「スー・チー政権に代って、自由にものが言えるようになった」という変化は実現してほしいのですが、そこも怪しいようです。

****ミャンマー、言論の自由に影 スーチー氏与党批判で逮捕****
民主化勢力が政権を握ったミャンマーで、言論の自由が脅かされる懸念が出ている。アウンサンスーチー国家顧問率いる与党の政治家や軍首脳をネットで批判しただけで、逮捕されるケースが相次ぐ。国内外から出ている批判に対して、政権側の動きは鈍い。
 
ヤンゴン郊外のタクシー運転手の男性(37)が昨年11月、電気通信法違反(名誉毀損(きそん))の疑いで逮捕された。フェイスブックの投稿が、与党・国民民主連盟(NLD)の地元下院議員らの名誉を傷つけたとの容疑だった。
 
警察に告発したのは、NLD地区組織幹部のチョーミョースエ氏(44)。男性の「私たちの議員は能力がなく、誠実さにも欠ける」との投稿が名誉毀損だとする。議員らに告げず、自分の判断で告発したという。
 
男性の妻(29)によると、男性はフェイスブックに政治や社会問題に関する批判をよく書き込んでいた。「民主化したので何を書いても大丈夫」と話していた。男性は保釈が認められず、勾留されたままだ。
 
告発には、NLD内部からも「投稿は単なる批判。司法手続きは中止されるべきだ」(別の地区組織幹部のアウンミン氏)との声が上がる。だが、チョーミョースエ氏は「目上の人に敬意を払わず、根拠もなく自由に批判できるのはおかしい」と訴える。
 
適用された電気通信法は、旧軍政の流れをくんだテインセイン前政権下で2013年に制定された。ネットを使った恐喝や名誉毀損、脅迫などは懲役3年以下に処するとの条項がある。
 
この条項は言論弾圧の道具と批判されてきた。名誉毀損の定義が曖昧(あいまい)で被害者以外が告発でき、保釈が認められにくい点が問題とされる。刑法にも名誉毀損罪があるが、量刑は禁錮2年で、保釈も可能だ。
 
電気通信法改正を訴える組織を立ち上げた詩人でNLD党員のサウンカさん(23)によると、NLDが政権交代を決めた15年の総選挙の運動期間中に前大統領や国軍最高司令官を揶揄(やゆ)した活動家らが、この条項で逮捕された。サウンカさんも逮捕された一人で、懲役6カ月の判決を受けた。
 
逮捕は昨年3月末に発足したNLD政権下でも続き、前政権下の2倍超となる少なくとも16人。最高司令官を「恥知らず」と書いたNLD党員のほか、スーチー氏を「侮辱」したものも4件あるが、訴えたのは「被害者」の本人以外。サウンカさんは「スーチー氏や議員を告発で守り、英雄になろうとの風潮がある」と話す。

■民主化前の法、改正後回し
同法を使った告発は市民同士のネットでの言い争いにまで広がり、事件数は捜査中も含め40件を数える。国際人権団体や国内からの批判を受け、条文改正への動きも出始めた。関係者によると、国会有識者らによる諮問委員会で先月、改正が議論された。

だが、政権側の優先順位は低い。NLD幹部のニャンウィン氏は「改正すべきだと思うが、国内和平といった、より重要な問題も山積みだ」と話す。スーチー氏も昨年11月の来日時の会見で「自由には責任が伴わねばならない。ソーシャルメディアは必ずしも責任が明確でない」と述べた。
 
政権側が後ろ向きともとれる事件も起きている。NLD幹部でヤンゴン管区首席大臣のピョーミンテイン氏が昨年11月、自身を批判した地元紙大手の「イレブン・メディア」の社長と編集長を、この条項を使って管区政府として告訴。2人は逮捕され、1月6日まで約2カ月間勾留された。
 
社長はピョーミンテイン氏が高級腕時計を賄賂としてもらったと推察できる論説を執筆し、ネットに載った。ピョーミンテイン氏は記者会見を開いて事実を否定し、法的手段に訴えた。
 
同法に詳しい弁護士のロバート・サンアウン氏は保釈も容易な刑法の名誉毀損罪でなく、量刑がより重い電気通信法を使ったことを批判。「この件でNLDも法改正がしばらく難しくなるだろう」と心配する。【1月16日 朝日】
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政権・議員批判が保釈が認められにくい電気通信法違反で拘束されるというのでは、軍事政権時代と大差ありません。

ロヒンギャ問題で周辺国から向けられる批判、激化する少数民族との衝突・・・といった事態で、国内の言論問題どころではないということかも知れませんが、スー・チー氏が指導力を発揮できる分野だけに残念な現状です。

https://www.youtube.com/watch?v=EJ_PZ62XAHQのYou Tube動画で佐藤優氏が、スー・チー氏から笑顔が消えたということを話題にしています。

自宅軟禁状態にあったときも、支持者に笑顔を見せていたスー・チー氏ですが、今はもっと厳しい状況に置かれているということでしょうか。


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ミャンマー・ロヒンギャ問題 “ノーベル平和賞受賞者”スー・チー氏へ強まる批判・圧力

2016-12-31 22:05:44 | ミャンマー

(バングラデシュ東部テクナフで、ミャンマーからナフ川を渡ってバングラデシュ側に逃れようとしたイスラム系少数民族ロヒンギャの人たちを監視するバングラデシュの治安部隊員(2016年12月25日撮影)【12月30日 AFP】 ミャンマーからは虐殺・放火・レイプで追われ、逃れたバングラデシュでは銃で監視・・・行き場がないロヒンギャです)

ASEAN非公式外相会議でスー・チー氏「時間と裁量の余地を与えてほしい」】
ミャンマー西部のラカイン州で続くロヒンギャの問題については、12月13日ブログ“ミャンマー  ロヒンギャ問題で国軍の“民族浄化”も スー・チー氏はASEAN外相会議開催” http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161213など、今年も何回か取り上げてきましたが、未だ改善の兆しは見えません。

イスラム教徒でもあるロヒンギャはミャンマー政府から国民として認められておらず、彼らを嫌悪する多数派仏教徒の圧倒的世論を背景とする国軍の暴力的対応は、ロヒンギャを国外に追い出すための“民族浄化”ではないかとの批判が国際的に高まっています。

****虐殺、暴行、放火と深刻な人権侵害****
隣国バングラデシュと国境を接するミャンマー西部ラカイン州で10月9日、国境に近い地域の警察施設など3か所が武装集団に襲撃され、警察官9人が死亡する事件が発生した。

武装集団の正体は不明だが、国軍は同州に多く居住するロヒンギャの反政府組織による犯行と一方的に断定、ロヒンギャの人々が暮らす集落への攻撃を開始したのだ。

タイに本拠を置く人権団体などによると、ロヒンギャ族が生活する住居は略奪の後放火され、男性は虐殺され、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているという。

越境してバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は2万人以上に達している。

人権団体は「現在の状況は治安維持を超えた軍事作戦レベルであり、このままではロヒンギャ族が絶滅しかねない民族浄化が続いている」と国際社会に「ロヒンギャ問題への介入」を強く訴えている。【12月26日 Newsweek】
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ミャンマー民主化が期待されたスー・チー国家顧問ですが、国民世論の反発を恐れてか、この問題には口を閉ざしており、事態改善を求める国連・人権団体などからの批判が強まっています。

国連や人権団体だけでなく、イスラム国家のマレーシア・ナジブ首相も「事態を静観、放置しているスー・チーは一体何のためにノーベル平和賞を受賞したのか」とスー・チー氏を強く批判するなど(ナジブ首相の狙いは、自信への汚職疑惑への国民批判をそらすことにあると思われますが・・・)、ASEAN内においても圧力が高まり、12月19日、スー・チー氏はミャンマー・ヤンゴンでASEAN非公式外相会議を開催し、事態鎮静化を図っています。

****ロヒンギャ問題「解決に時間を」 ASEAN会議でスーチー氏****
仏教徒が大半を占めるミャンマーでイスラム教徒ロヒンギャに対する人権侵害への懸念が高まっている問題をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)の非公式外相会議が19日、ヤンゴンで開かれた。

アウンサンスーチー国家顧問兼外相は問題解決に向けて「時間と裁量の余地」を与えてほしいと各国外相に訴えた。(中略)
 
ミャンマー政府は人権侵害を否定する一方、国際機関による人道援助やメディアの現地への立ち入りを制限している。

国際社会から懸念の声が上がり、ASEAN内でもイスラム教徒が多いマレーシアやインドネシアを中心にミャンマー批判が高まっている。
 
今回の会議はミャンマー政府が主催した。出席者によると、スーチー氏が現状を説明し、各国に理解を求めたという。ただマレーシア外務省によると、同国のアニファ外相はこの問題が「地域全体の懸念材料になっている」と訴えた。
 
マレーシアが特に強い懸念を抱く背景には、ロヒンギャの人々が難民として同国に脱出している事実がある。昨年には、数千人が同国をめざし、海上を船で漂流している事態が表面化した。迫害が続けば、さらに大量の難民が生まれるおそれがある。

また、イスラム過激派の動きが活発になるとの懸念も出ている。アニファ氏は会議で、現在の状況を過激派組織「イスラム国」(IS)が利用しかねないと警告。ASEANとして人道支援の調整などを行うべきだと提案した。
 
出席者によると、スーチー氏は人道支援の受け入れや加盟国への定期的な報告を約束。

ミャンマー政府は問題解決に向けてアナン前国連事務総長をトップとする諮問委員会を設置しており、各国はこの諮問委員会が来年2月ごろまでに提出する中間報告書の内容を見た上で対応を再検討することで一致した。【12月20日 朝日】
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「野にあって反軍政の立場の時は何事も恐れず果敢に理想に邁進したスー・チーだが、権力者の立場になるとあちらを立て、こちらに配慮、とまさに政治家に変質してしまった」(ミャンマーウォッチャー)【12月26日 Newsweek】とも批判されるスー・チー氏ですが、世論や国軍との関係を配慮せざるを得ない現実政治家としてはやむを得ないところはあります。

しかし、彼女が動かない限り事態が改善しないのも事実です。

ASEAN内部からも強まる圧力に対し、「ロヒンギャ問題は純粋な国内問題である」】
マレーシア・ナジブ首相に加え、やはりイスラム教徒が多数を占めるインドネシアのジョコ大統領も仲介に動いているようです。

****ロヒンギャ問題でスー・チー苦境 ASEAN内部からも強まる圧力****
インドネシア主導で仲介工作
ナジブ首相に次いでインドネシアのジョコ・ウィドド大統領がロヒンギャ問題で積極的に動いている。

12月6日、レトノ・マルスディ外相をミャンマーに派遣してスー・チーとロヒンギャ問題で直接協議をさせた。会談でインドネシア側は「ロヒンギャ問題は人権問題であり、イスラム教徒でもある彼らをインドネシア政府は支援する方針である」と伝えた。

ジョコ大統領はミャンマーがインドネシアと同様の多民族国家であり、多様性を許容することが重要であるとの姿勢を強調することで問題解決の糸口を見出そうとしている。

ジョコ大統領は同月8日にはバリ島でロヒンギャ問題特使を務めるコフィ・アナン前国連事務総長とも会談し、インドネシアの立場を説明、協力する方針を伝えた。

インドネシア国内ではイスラム教団体がロヒンギャへの人権侵害に抗議してジャカルタ市内のミャンマー大使館前でデモや集会を行うなど世論もミャンマーに厳しくなっており、ジョコ政権の仲介を後押ししている。

内政不干渉の原則とのせめぎあい
一方でミャンマー国内には「ロヒンギャ問題は純粋な国内問題である」として内政不干渉が原則のASEANによる内政干渉、口出し、批判に対する反発が強まっている。

ナジブ首相がスー・チーを直接批判したマレーシアに対して、ミャンマー政府はミャンマー人出稼ぎ労働者の派遣停止を即座に発表している。

これに対しインドネシアやマレーシアは「ロヒンギャの人々が難民として国境を越えて流出している現実」を指摘して「これはもはや国内問題ではなく国際問題である」として重ねてミャンマー政府に「圧力」をかけ続けている。

「ノーベル平和賞」が枕詞あるいは代名詞だったスー・チーにとっては少数民族や国際社会、ASEAN加盟国に広がりつつある「失望感」をどう取り返すか、大きな岐路に立たされている。【12月26日 Newsweek】
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多くが難民化しバングラデシュへ、更にインドへ
「時間と裁量の余地」を与えてほしいとのスー・チー氏ですが、ロヒンギャの弾圧からの避難は今も続いています。その多くは隣国バングラデシュへ向かっていますが、バングラデシュ政府はロヒンギャの大量流入は阻止する姿勢です。

ミャンマー政府が「バングラデシュからやってきたベンガル人不法侵入者だ」とロヒンギャを自国民と認めず抑圧するのに対し、そのバングラデシュも、現在問題改善に声を上げているマレーシアやインドネシア・タイなど周辺国も、どこもロヒンギャを受け入れず、“行き場がない”状態にあるところにロヒンギャの問題はがあります。

****ミャンマーからロヒンギャ5万人流入、バングラデシュ「深い懸念****
バングラデシュ外務省は29日、10月以降にイスラム系少数民族ロヒンギャ5万人がミャンマー軍の迫害を逃れてバングラデシュに流入したと明らかにした。
 
バングラデシュ政府は、ミャンマー西部ラカイン州で武装集団と軍との衝突が発生した10月初頭以来、ロヒンギャの大量流入を防ぐべくミャンマー国境での巡回を強化している。
 
バングラデシュ外務省は29日の声明で、ミャンマー大使を呼んで無国籍状態にあるロヒンギャ数万人の流入が継続していることへの「深い懸念」を表明し、「2016年10月9日以降にバングラデシュに逃れてきたミャンマー市民は約5万人に上る」と伝えたことを明らかにした。
 
さらに、ロヒンギャ30万人を含めてほとんどがバングラデシュ国内に不法滞在しているミャンマー人を早期に本国へ送還させるよう求めたという。【12月30日 AFP】
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こうした事態に、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんら23人はが国連安全保障理事会に公開書簡を送り、人道支援や現地調査の実現を働きかけるよう求めています。

マララさんらが提出した公開書簡は「ミャンマーで民族浄化に等しい悲劇が広がっている」と指摘。平和賞受賞者でもあるミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が問題解決に向けて指導力を発揮しておらず、「不満を感じている」と表明しています。【12月31日 毎日より】

ミャンマーとバングラデシュなど周辺国との間で“押し付け合い”状態のロヒンギャですが、対応が厳しいバングラデシュから、比較的暮らしやすいインドへ密入国する事例が多くみられるとも報じられています。

****<ロヒンギャ>インドへ密入国、続々 警察の拘束恐れ****
ミャンマーで迫害を受けた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」はインドにも相次いで入国している。

ミャンマーの隣国バングラデシュでは十分な支援が受けられなかったり、警察に拘束されたりする恐れがあるためだ。

インドとバングラの国境には密入国業者のネットワークも存在しており、インドへのロヒンギャ難民は今後も増える可能性がある。
 
ミャンマー西部ラカイン州マウンドー近郊に住んでいたヌール・アラムさん(40)は11月、国軍とみられる集団に村が放火され、自宅を追われた。

妻子らを含めた計11人で2日間歩き通し、闇夜に紛れてバングラとの国境の川を小舟で渡った。バングラ南東部で10日間ほど日雇いで働いたが、「いつ警察に見つかるか分からず、不安だった」と振り返る。
 
インド行きを決めたのは、数年前にニューデリーに逃れていた弟に勧められたからだ。紹介された密入国業者の指示で2晩かけて4台のバスを乗り継ぎ、インドとの国境に着いた。夜を待ち、業者に教わった道を進むとインド側で別の業者が出迎えてくれたという。

アラムさんは12月下旬にニューデリーで難民申請を済ませ、滞在許可を得た。今は同郷のロヒンギャの小屋に身を寄せる。「早く仕事を見つけて生活を安定させたい」と語る。
 
取材に応じたインド側の密入国業者によると、国境を抜けるだけなら1人当たりの「手数料」は数千円程度。夜中にフェンスの穴などの抜け道を通るケースが多い。

「最近は毎日2〜3人の密入国者を手引きしているが、中にはロヒンギャもいる」という。インド側では隠れ家に1泊させ、食事やインド製の服を与えたり、手持ちの現金をインド通貨に両替させたりする。目的地まで業者が同行することもある。バングラ側の同業者と連絡を取り、受け入れ態勢を整えるという。
 
インドには少なくとも1万4000人のロヒンギャがいるとされ、各地に居住区が形成されている。インドで同郷人を支援するロヒンギャ難民のアブドラさん(25)は「インドはバングラと比べ同情的で働きやすい。資金さえあればインドに来たいと願うロヒンギャは多い」と話す。【12月31日 毎日】
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ただ、こうした密入国者が増加すれば、インド当局もやがて厳しい措置に転じるのでは・・・とも思われます。

【「歴史上、ミャンマー国民として位置付けられたことは一度としてない」との「歴史書」刊行方針
早急に、きちんとした対応をミャンマー政府が責任を持ってつくる必要がありますが、あまり期待できないような情報もあります。

****ロヒンギャ族」を政府が公式に否定 スーチー氏への失望広がる****
ミャンマー政府は「少数民族ロヒンギャ族はミャンマーの正式な国民ではない」との立場を改めて明確にするための「歴史書」の発行に踏み切る方針を示した。

この政府の発表を受けて、アウンサンスーチー国家顧問兼外相への失望感が人権団体などの問で急速に広がっている。
  
ロヒンギャ族を取り巻く現状について国際社会から威しい指摘が出ていることに対しミャンマー政府は、近く開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議で説明する。その後にミャンマー史の公式書籍を出版すると説明している。
  
書籍の中では「そもそもロヒンギャという名称は正しくなく、ベンガル人であり、彼らは隣国バングラデシュからの不法移民に過ぎない」「歴史上、ミャンマー国民として位置付けられたことは一度としてない」との主張を強調して理解を求めようとしている。
 
こうした動きの背景に国内多数派である仏教徒の反発を危惧するスーチー氏の思惑があるのは確実とみられている。

既に「ミャンマー国民の指導者でなく、単なる仏教徒の指導者に過ぎない」「ノーベル平和賞受賞者とは思えない」(人権団体)と、批判の矛先がスーチー氏に向かう事態となっている。【1月号「選択」】
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この「歴史書」発行の方針は、ASEAN非公式外相会議後も変わっていないのでしょうか?
これでは、事態改善の道は閉ざされてしまいます。

【ウィキペディア】によれば、この地に移住したムスリムには下記のように4種の移民が存在しており、実際には他のグループと複雑に混じり合っているため弁別は困難であるとされています。
・(バングラデシュ)チッタゴンからの移住者で、特に英領植民地になって以後に流入した人々。
・ミャウー朝時代(1430-1784年)の従者の末裔。
・「カマン(Kammaan)」と呼ばれた傭兵の末裔。
・1784年のコンバウン朝ビルマ王国による併合後、強制移住させられた人々。

バングラデシュからの移住者にしても19世紀イギリス植民地時代にさかのぼる話ですし、それ以前のミャウー朝アラカン王国に至っては15世紀にさかのぼります。

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先述のミャウー朝アラカン王国は15世紀前半から18世紀後半まで、現在のラカイン州にあたる地域で栄えていた。

この時代、多数を占める仏教徒が少数のムスリムと共存していた。折しもムスリム商人全盛の時代であり、仏教徒の王もイスラーム教に対して融和的であった。

王の臣下には従者や傭兵となったムスリムも含まれ、仏教徒とムスリムの間に宗教的対立は見られなかった。【ウィキペディア】
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また、日本も現在の民族対立とは無関係ではないようです。

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第二次世界大戦中、日本軍が英軍を放逐しビルマを占領すると、日本軍はラカイン人仏教徒の一部に対する武装化を行い、仏教徒の一部がラカイン奪還を目指す英軍との戦いに参加することになった。

これに対して英軍もベンガルに避難したムスリムの一部を武装化するとラカインに侵入させ、日本軍との戦闘に利用しようとした。

しかし、現実の戦闘はムスリムと仏教徒が血で血を洗う宗教戦争の状態となり、ラカインにおける両教徒の対立は取り返しのつかない地点にまで至る。【ウィキペディア】
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どこの地域・国でも歴史を遡れば人々の移動の歴史であり、その結果として現在があります。
現在の国家体制の思惑から、長く現地に暮らす一部住民を排除するような考えは、狭量な民族主義・不寛容と言わざるをえません。

スー・チー氏に関しては、中国が進めるダム建設の再開をめぐり、反対する住民と、少数民族武装勢力への影響力を盾に再開を迫る中国の“板挟み”状態にあるとの話もあります。

現実政治家としては、対立する利害の調整が求められます。

来年は、“ノーベル平和賞も受賞した現実政治家”スー・チー氏の指導のもとで事態が改善の方向に向かうことを強く希望します。
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