(ミャンマーからナフ川を船で渡り、バングラデシュのテクナフに到着したロヒンギャ難民ら(2017年9月14日撮影)。【9月15日 AFP】通常料金の200倍もの渡し賃を要求するバングラデシュ船頭もいるとか。悲しい現実です。)
【批判の集中砲火を浴びる沈黙のスー・チー氏 19日演説で何を語るのか?】
ミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャが、武装勢力の治安当局襲撃を理由に“民族浄化”とも言える弾圧をうけ、多くのロヒンギャ住民が隣国バングラデシュに難民として逃れている状況については、9月6日ブログ“ロヒンギャ問題 難民増加、高まるスー・チー氏への批判 沈黙のスー・チー氏「フェイクニュース」”でも取り上げました。
事態は改善せず、悪化するばかりです。
****ロヒンギャ難民40万人超に=8月の衝突後、バングラへ****
国際移住機関(IOM)などによると、ミャンマーで治安部隊とイスラム系少数民族ロヒンギャの武装組織の衝突が始まった8月25日以降、隣国バングラデシュに脱出したロヒンギャ難民が16日までに約40万9000人に達した。国連などがミャンマー政府に事態改善を要求しているが、難民流出は収まらない。
バングラデシュには8月24日以前にも約40万人のロヒンギャ難民が避難している。バングラデシュ政府や国連が支援に当たっているが、新たに大量の難民が一気に流入したため、追いついていない。
ミャンマーを脱出後もキャンプに入りきれず、道端で生活する難民も少なくない。【9月17日 時事】
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武装勢力の掃討作戦と言いながら、民家に放火するなど、実態としてはロヒンギャをミャンマーから追放しようとしていると推測される国軍等の“民族浄化”的な行動、それに対し有効な手立てを打てず沈黙を守る“民主化運動の象徴”だったスー・チー国家顧問への批判が国際的に高まっていることは、多くのメディアが報じています。
前回ブログ以降の関連記事表題を並べると、以下のとおり“袋叩き”状態です。
バングラデシュ外相、ミャンマーで「大量虐殺」との見方【9月11日 AFP】
ロヒンギャの村で火災相次ぎ治安悪化 ミャンマー【9月11日 NHK】
ダライ・ラマ、スー・チー氏に「平和的解決」求める ロヒンギャ危機で【9月11日 AFP】
国連弁務官「民族浄化の典型例」=ミャンマーのロヒンギャ迫害―難民31万人超に【9月11日 時事】
ロヒンギャ迫害で「違法な殺人」 国連の人権部門トップ【9月12日 朝日】
ロヒンギャ迫害を非難=「人権侵害に危機感」―米【9月12日 時事】
スー・チー氏、国連総会欠席=ロヒンギャ問題で批判―ミャンマー【9月12日 時事】
ロヒンギャ問題 国連人権理事会で非難の応酬【9月13日 NHK】
国連事務総長と安保理、ミャンマーにロヒンギャへの暴力停止要求【9月14日 ロイター】
ロヒンギャを「民族浄化」 国連、ミャンマーへ批判噴出【9月15日 朝日】
スーチー氏批判、各国で 「平和賞没収」署名40万人 ロヒンギャ問題【9月15日 朝日】
「ミャンマー治安部隊が放火」 人権団体が焼けた村の衛星写真公開【9月15日 AFP】
ミャンマー政府は、取り締まりの対象は武装勢力で、民間人には危害を加えておらず、民族浄化は行われていないと主張しています。ロヒンギャの村々に対する焼き討ちも「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の仕業で、軍によるものではないとも。
しかしながら、伝えられる情報はミャンマー国軍等の非人道的対応を示唆するものが多いようです。
現実に何十万人ものロヒンギャ住民が逃げ惑っている事態をどのように収束させるのか・・・という差し迫った対応もあります。
軍政下で民主化を訴え続けたノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏への国際的期待が大きかっただけに、今回問題で沈黙する彼女への失望と批判も高まっています。国連総会欠席についても“逃げている”との批判も。
****ミヤンマー民主化の象徴スー・チー氏 ロヒンギャ迫害で窮地、「人権問題」がブーメランに****
民主的な新生国家ミャンマーの象徴として、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は、積極的な外遊を展開してきた。国際社会からの支持は、軍事政権時代から権限を保持する国軍に対抗するためにも不可欠だった。
だがロヒンギャの保護に失敗し、かつて擁護者だった欧米諸国からも批判を浴びる事態に。「人権問題」がブーメランとなって、ノーベル平和賞受賞者に襲いかかっている。
今月の国連総会の欠席理由について、スー・チー氏の報道官は、ロヒンギャ問題を含めた国内問題に専念するためとした。だが、ロヒンギャ迫害で批判の矢面に立ちたくないため、との見方は根強い。
スー・チー氏は軍政時代に作られた憲法規定で大統領に就任できず「大統領を上回る存在になる」と宣言。昨年の国連総会では、初の一般討論演説で民族和解を訴えた。米国は「民主化の進展」を理由に、約19年間続けた対ミャンマー経済制裁を全面解除して後押しした。
だが、スー・チー氏は、不法移民だとして「民族」とも認めないロヒンギャには、国内世論と歩調を合わせ冷たい対応を続けてきた。武装組織を「テロリスト」とし、掃討作戦を継続する姿勢も堅持している。
スー・チー氏は、先月初旬の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議も欠席した。(中略)
スー・チー氏は7日、「だれもが法の下で守られるようにしたい」と、ロヒンギャ問題でメディアに初めて口を開いたが、解決の難しさも訴え国際社会に不満も並べる。19日に演説し、同問題での立場を説明する予定だ。【9月14日 産経】
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もちろん、スー・チー氏が極めて困難な立場にあることは周知のところです。
“大統領を上回る存在”と言いつつも、軍・警察に対する権限が彼女にはありません。
それだけなら民主化運動のときのように、強い住民支持を背景に国軍の“力”に挑む・・・ということも可能ですが、ロヒンギャ問題に関しては、仏教僧侶強硬派の扇動などもあって、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャ保護の姿勢を見せれば国民支持を失うことにもなりかねません。
こうした苦境にあって、更に国際的な支援も失えば・・・
****国際世論の後ろ盾失えば―― 「軍を利する」見方も****
スーチー氏は7日、ヤンゴン市内で記者からの質問に、「(政権交代後)18カ月で全て解決するのは難しい」と漏らした。
スーチー氏は事実上の政権トップの国家顧問だが、警察や軍を動かす権限はない。ロヒンギャを迫害していると批判されている警察や軍を統括する内務相、国防相は国軍最高司令官が指名すると憲法で定められているからだ。
今月、バンコク市内で会見した「ビルマ人権ネットワーク」のチョーウィン代表は「国際社会は、スーチー氏よりもミンアウンフライン最高司令官に圧力をかけるべきだ」と主張した。
さらに、スーチー氏が最優先課題に掲げる少数民族武装勢力との和平問題では、軍の協力が欠かせず、軍との対決路線がとりにくいという事情もある。
ただ、海外からのスーチー氏への批判の高まりは、軍を利すると見られている。民主化運動の象徴であるスーチー氏を米欧などは長年支え、軍政時代に科した経済制裁の緩和や解除を決める際、スーチー氏の意向を聞いてきた。
だが、スーチー氏が力の源泉の一つとしてきた米欧の信頼が損なわれれば、今後の民主化の行方にも影響を与えかねない。バンコクを拠点にする「ロヒンギャ平和ネットワーク」のハジー・イズマイル氏は、「軍は、スーチー氏への外国からの支持低下が、実権を取り戻す良い機会だと考えているはずだ」と主張する。(後略)9月15日 朝日】
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スー・チー氏の困難な状況はわかりますが、国家指導者として“私にできることは何もない”と言わんばかりの対応では、やはりその責任は免れません。
沈黙していては、“動きたいけど動けない”のか、あるいは彼女自身ロヒンギャ問題については“動く意思がない”のか・・・・それすら明確ではありません。
上記【産経】【朝日】ともに指摘しているように、19日に行われるとされている「国民和解と平和」についての演説で彼女が何を語るのか・・・・非常に注目されます。
【海外イスラム系組織からの強硬な批判も】
スー・チー氏が手をこまねく間にも、海外のイスラム系組織からはミャンマー政府に対する戦闘的な批判も生じています。
****アルカイダがミャンマーに聖戦を宣言----ロヒンギャ迫害の報復****
ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャの武装勢力に対し大規模な報復攻撃を行い、混乱が広がるなか、9.11米同時多発テロで悪名を馳せた国際テロ組織アルカイダが、不穏な動きをみせている。
イスラム教徒のロヒンギャを迫害したミャンマー政府は当然の報いを受けることになると、警告を発した。ロヒンギャ危機を口実に攻撃を仕掛け、勢力範囲を拡大しようというのだ。
「ムスリムの同胞に対する残虐な処遇を......懲罰なしに看過するわけにはいかない。ミャンマー政府はムスリム同胞が味わった苦痛を味わうことになるだろう」――テロ組織のネット上での活動を監視する米SITE研究所によると、アルカイダは支持者にこう呼び掛けた。
テロ組織ISIS(自称イスラム国)がイラクとシリアで劣勢に追い込まれている今は、アルカイダにとっては勢力挽回のチャンス。新兵獲得も兼ねてロヒンギャ武装勢力への「軍事支援」を呼び掛けたとみられる。(後略)【9月14日 Newsweek】
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****バングラのイスラム団体、ロヒンギャ問題でミャンマーへの軍事行動呼び掛け****
バングラデシュの首都ダッカで15日、隣国ミャンマーがイスラム系少数民族ロヒンギャを「大量虐殺」しているとして、イスラム団体のメンバーや支持者らが金曜礼拝の後に大規模な抗議集会を行い、バングラデシュ政府にミャンマーへの軍事行動を呼び掛けた。
警察によると、集会はダッカ中心部にある国内最大のモスク前で行われ、強硬派「ヒファジャット・イスラム」など5つのイスラム団体のメンバーや支持者ら少なくとも1万5000人が集まった。
また警察はAFPに対し、集会の参加者たちは、ミャンマー西部ラカイン州での同国治安部隊によるロヒンギャ迫害に抗議するとともに、ロヒンギャの保護に向けた国際社会の対応などを非難していたと語った。
集会で演説した、ヒファジャットのダッカ支部のトップであるイスラム神学校の教員は参加者らに対し、「ミャンマー政府は大量虐殺を実行しており、ラカイン州では家屋が焼き打ちされている。われわれはバングラデュ国民に、ロヒンギャの人々のために立ち上がるよう求める」と語った。
またベンガル語の代表的なニュースポータルサイト「バングラ・トリビューン」によると、この教員は、「バングラデシュ政府には、軍事行動による問題解決を求める。今こそしかるべき時期だ」と訴えかけたという。
ヒファジャットの広報担当者はAFPに対し、「外交的な解決策が見つからない場合、ロヒンギャがラカインで暮らせる形になるよう、(バングラデシュ)政府に軍事力を行使するよう求めている」と説明した。
イスラム教徒が国民の大多数を占めるバングラデシュでは、同様の抗議行動が国内各地で行われている。【9月17日 AFP】
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【どこにも永住の地を見いだせないロヒンギャ】
ミャンマー政府への批判はともかく、「バングラデシュ政府には、軍事行動による問題解決を求める」とのことですが、そのバングラデシュ政府の対応がロヒンギャ難民に寄り添うものではないという問題があり、批判の矛先は自国バングラデシュ政府にも向けるべきでしょう。
****ロヒンギャ難民をヘドロ状の無人島へ移送、バングラで計画進む****
ミャンマーで暴力を受けたイスラム系少数民族ロヒンギャが多数流入しているバングラデシュで、同国政府がロヒンギャ難民を離島へと移住させる計画を進めている。だがこの島では洪水が毎年発生しており、一旦は移住計画が棚上げされていた。
(中略)バングラデシュは、流入してくる多数のロヒンギャ難民の収容という深刻化する問題を抱え、ロヒンギャをこの島に移送する計画を支援するよう国際社会に訴えている。
国連がミャンマーとの国境付近に位置するコックスバザール県内で運営するキャンプでは、すでに30万人近くのロヒンギャ難民が暮らしていたが、先月25日以降、さらに30万人超の難民がバングラデシュに逃れてきた。
多数の難民流入という事態に直面したバングラデシュ当局は、さらなる難民キャンプの設営が可能な島の選定を急ぎ、設営先の一つとして、ロヒンギャの指導者の一部や国連機関が難色を示すにもかかわらず、最近テンガルチャールから改称されたブハシャンチャ―ル島を選んだ。
だが当局は2015年にも、2006年に海面から現れたばかりのテンガルチャール島にロヒンギャ難民を移住させるという計画を発表。
しかし洪水が頻発し、ヘドロ状の土地であることから居住は不可能という報告を受け、計画は昨年棚上げされた形となっていた。
それにもかかわらず、ミャンマーのラカイン州から多数の難民が押し寄せていることを受け、バングラデシュ政府は数十万人規模のロヒンギャを収容できる施設の建設を目指し、島での作業を加速化させている。【9月12日 AFP】
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写真で見る限り、人が住むような状態にあるとも思えませんが、敢えてバングラデシュ政府に立場に立って言えば、洪水常襲国バングラデシュでは、自国民も住む場所に困っており、空いている場所と言えば上記のような“ヘドロの島”しかない・・・ということでしょうか。
バングラデシュ政府は、ロヒンギャの流入・移動を制限して、上記のような“居住地・キャンプ”に押し込める考えのようです。爆発的な難民流入で自国民生活が脅かされているとの認識が背景にあります。
****バングラデシュ、ロヒンギャの移動を制限 流入40万人超える****
バングラデシュは16日、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャの国境地帯からの移動を禁止した。バングラデシュ南東部の国境地帯に逃れてきたロヒンギャは40万人を超え、過密状態となっている。
南東部コックスバザール県の状況は悪化の一途をたどっており、ミャンマーのラカイン州から逃れてきたロヒンギャの大半は絶望的な状況で生活している。
ミャンマー国境から数百キロ離れた3つの町でロヒンギャ数十人が当局に発見されたことを受け、ロヒンギャが数千人規模で新たに移動してくることによって貧困国バングラデシュの中央部が圧倒されてしまうのではないかという不安が募っている。
警察は政府が指定した国境地帯の難民キャンプおよび国境地帯からロヒンギャが移動することを禁じる命令を出したと発表した。
警察の報道官は声明で、「彼ら(ロヒンギャ)は祖国に帰国するまで指定された難民キャンプに留まらなければならない」と述べ、ロヒンギャには友人や知人の家で避難生活を送らないように、国民にはロヒンギャに家を貸さないように、バスやトラックの運転手にはロヒンギャを乗せないように要請したと明らかにした。
警察は主要な乗り継ぎ地点に検問所を設置し、ロヒンギャの国境地帯以外の場所への移動を阻止している。
国連(UN)は16日、過去1か月間にバングラデシュ入りしたロヒンギャの数は、この24時間で1万8000人増え、40万9000人に達したと発表した。【9月17日 AFP】
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前出のバングラデシュ・イスラム系団体は、こうした自国政府の対応について、どのように考えるのかをまず明らかにすべきでしょう。
ロヒンギャを厄介者扱いしているのは、ミャンマーやバングラデシュだけではありません。
****ミャンマーで迫害のロヒンギャ、インドなどでも厳しい状況に直面****
ミャンマーで憎悪にさらされ安全な場所を探し続けるイスラム系少数民族ロヒンギャの人たちを、インドでも歓迎されないという現実が待ち受ける。
軍の弾圧を逃れて、ミャンマーから隣国バングラデシュの難民キャンプに到着したロヒンギャがこの3週間で40万人を超えるなか、インド政府は最高裁に、過去10年間にインドに入ってきたロヒンギャ最大4万人を国外追放するよう求める申し立てを18日にも行うと発表した。
現地メディアによると、ロヒンギャはテロリストを支援する可能性があり安全保障上の脅威だと、インド政府は主張している。
インドや隣国ネパールのロヒンギャたちの窮状は、ロヒンギャが永住できる地を探すにあたって国際社会が直面する困難を浮き彫りにするものだ。(後略)【9月17日 AFP】
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【沈黙するアメリカ・日本】
ロヒンギャ支援の事例としては、イスラム教徒を多く抱えるインドネシア政府は、ロヒンギャ向けの支援物資の輸送を始め、ジョコ大統領は今後も支援を続ける姿勢を強調しています。【9月13日 NHKより】
従来、ミャンマーの人権問題では主導的役割を担ってきたアメリカは、国務省が人道危機に深い懸念を表明したものの、殆ど実質的対応はしていません。多弁なトランプ大統領もこの件では沈黙。関心がないのか?
ミャンマー政府を過度に刺激せず、ミャンマーの脆い民主化を進展させたい・・・との思惑があっての米国務省の対応とも考えられますが、人権団体などからは、「今の国務省は、トランプ政権が本来の役割を怠っている間に、人権擁護のふりだけを装おうとしているように見える」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ)との批判も。【9月12日 Newsweek「ミャンマー軍のロヒンギャ弾圧に何もしない米トランプ政権」より】
かつては最大のODA拠出国であり、現在も多額の拠出を行っている日本政府が、ロヒンギャ問題で何か発言しているのか・・・知りません。聞こえないような小声で何か言っているのでしょうか?
国連の調査団の設置に関しては、中国やインドは決議に加わらず、日本政府も、ミャンマー政府が自ら行う調査にまかせるべきだという理由から調査団の設置を支持しない立場をとりました。
日本では中国の対外支援について、当事国の人権・民主化の問題を無視した自国本位のものだといった批判がありますが、日本の対応も基本的には中国と“五十歩百歩”“目くそ鼻くそ”のようです。