孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  政権内部からの女性教育擁護発言 ICCの逮捕状 置き去りにされる米軍協力者

2025-01-24 22:44:50 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタン・カブールの市場で、自転車を押して歩く風船売りの人たち(2025年1月8日撮影)【1月18日 AFP】 とても美しい光景ですが、アフガニスタン社会の現実は厳しいものが)

【女性の姿を見るとわいせつ行為につながる恐れがある・・・中庭など見える窓を禁止】
アフガニスタンにおける女性の教育や就労、行動などにおける権利制限については再三取り上げています。
昨年8月には、女性が公共の場で大声を出すことを禁止し、全身や顔を布で覆うことを義務づけた新たな法律が制定されました。
昨年12月には、例外的に許可していた看護師や助産師を育成するための女子教育が禁止されたことも判明。

ただ、タリバンとしては女性は家庭の中にいればいい、女性というのはそういうものだといった発想が前提にあって、女性の権利を侵害しているという意識は希薄で、むしろ自分たちは女性を守ってやってる・・・という考えなのかも。

昨年末の12月28日、タリバン暫定政権は、民家を建設する際に、隣家の台所など女性が過ごすことが多い場所に面した窓の設置を禁止する布告を出しましたが、その理由は「女性が台所や中庭で働いている姿や、井戸で水くみをしている姿を見ると、わいせつ行為につながる恐れがあるため」とか。

****タリバン、中庭など見える窓を禁止 女性の姿見えないように****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の最高指導者は、女性が使用するエリアを見下ろす住宅の窓を禁止し、既存のそうした窓はふさぐよう命じた。

女性の姿を見るとわいせつ行為につながる恐れがあるからだという。タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官が12月28日夜、明らかにした。

ムジャヒド報道官がX(旧ツイッター)に投稿した法令によれば、新たに建てる住宅に「中庭や台所、隣家の井戸など女性が普段使用する場所」が見える窓を設けることは禁止される。
「女性が台所や中庭で働いている姿や、井戸で水くみをしている姿を見ると、わいせつ行為につながる恐れがあるため」だとされる。

自治体の当局や関連部署は、建設現場を監視し、近隣の家々をのぞき見できないことを確認する必要がある。
法令によれば、そのような窓が存在する場合、「近所に迷惑をかけないように」壁を建てるなどして視界をさえぎることが奨励される。

タリバン暫定政権は2021年8月に復権して以降、女性を公共の場から徐々に締め出しており、国連からは「ジェンダー・アパルトヘイト」だと非難されている。

タリバン当局は女性について、初等教育以降の教育を禁止し、雇用を制限し、公園などの公共の場所への立ち入りも禁止している。

タリバン暫定政権はイスラム法を極めて厳格に解釈しており、最近の法律では女性が公共の場で歌を歌ったり詩を朗読したりすることさえ禁止。家の外では女性が声や体を「ベールで覆う」ことを奨励している。

同国の地方ラジオ局やテレビ局の一部は、女性の声での放送も停止している。
タリバン暫定政権は、イスラム法がアフガンの男女の権利を「保証」していると主張している。 【1月1日 AFP】********************

余計なお世話だ・・・と言うか、のぞき見して迷惑をかけるとか、わいせつ行為に及ぶような男性を厳しく罰するべき問題のように思えます。

【女性教育擁護の外務副大臣発言】
そうした女性の権利侵害が深刻なアフガニスタン社会にあって、外務副大臣が、中学生以上の女子教育禁止を批判し「道を開くよう指導者たちに求める」と発言したことが報じられています。

****女子教育禁止に異例の批判 タリバン副大臣が再開要求****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のスタネクザイ外務副大臣は18日、暫定政権による中学生以上の女子教育禁止を批判し「道を開くよう指導者たちに求める」と明言した。地元メディアが19日報じた。

東部ホスト州のマドラサ(イスラム神学校)卒業式での発言。政権幹部が公然と政策を批判するのは異例で、政権内の不一致が浮き彫りとなった。

タリバンは2021年の復権後、教育に加え、女性の服装や就労も制限。国際社会は人権抑圧を問題視して政権を承認していない。最高指導者アクンザダ師ら強硬派は独自のイスラム法解釈による統治徹底を図っている。今回の発言が政策変更につながるかどうかは予断を許さない。

スタネクザイ氏は女子教育禁止についてイスラム法に沿っていないとして政権の主張を否定。正当化できず「弁解の余地はない」と表明した。

女性は強制的に結婚させられ、学ぶことも許されていないとの見解を示し、女性に対し「不正をしている」とも述べた。【1月20日 共同】
************************

いよいよ政権内部からも改善の声が出始めたのか・・・と期待もしたのですが、スタネクザイ氏は以前も同様の発言をしている人物で、新たにこういう声が出てきた・・・というものでもないようです。

****タリバンの人物:アフガニスタンに女性のための教育を禁止する理由はない****
(中略)
スタニクザイは、アフガニスタンからの外国軍の完全撤退につながった交渉でタリバンチームの長であったことが知られています。

スタニクザイがアフガニスタンの女性が教育を受ける権利について声を上げたのはこれが初めてではない。
彼は、学校が女性のために閉鎖されてから1年後の2022年9月と、最終的に女性が大学で勉強することを禁止される数ヶ月前に、同様の声明を出しました。【1月20日 VOI】
*******************

全面的に女性教育が禁止されている現状におけるマドラサ(イスラム神学校)卒業式という公的な場での発言ということで、これまでとは発言の重みが違う、あるいは、一個人の考えにとどまらず、政権内部に彼のような意見を支持する勢力が存在する・・・といったあたりを期待はしますが。

以前からタリバン内部にも女性教育を認めるべきという声はあるものの、最高指導者アクンザダ師が女性教育については否定しているということですから、あまり楽観はできません。

【最高指導者に対しICC検察官が逮捕状を請求 逆効果かも】
その最高指導者アクンザダ師に対し、女性抑圧を理由に国際刑事裁判所(ICC)検察官が逮捕状を請求しています。

****最高指導者の逮捕状請求 ICC、タリバン女性抑圧****
オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は23日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性抑圧に関与しているとして人道に対する罪の疑いで、タリバンの最高指導者アクンザダ師ら2人の逮捕状を請求したと明らかにした。

カーン氏は声明で、アフガンの少女や女性、LGBTQ(性的少数者)がタリバンによる「非情な迫害に直面している」と指摘。アクンザダ師ら2人は「刑事責任を負うべきであると考えるに足る根拠がある」と強調した。【1月23日 共同】
**********************

十分すぎる根拠はありますが、こういう逮捕状が事態改善に資するかと言えば疑問も。
アフガニスタンから一歩も国外に出ない最高指導者アクンザダ師がどこかで逮捕される可能性はゼロですし、同師をはじめとする政権強硬派を一層頑なにさせる懸念もあります。

ICCはプーチン大統領やネタニヤフ首相の逮のモンゴル訪問時には、モンゴル政府は執行しませんでした。
ましてや最高指導者アクンザダ師はそもそも国外に出ません。

もし、政権内部に女性教育をめぐり意見の対立があるのなら、逮捕状への反発から、むしろ女性教育支持派の足を引っ張る危険も。国際的には欧米への反発から中ロへの接近を更に加速させるのかも。

【テロの対象となる中国人】
昨年12月29日ブログ“アフガニスタン 人権弾圧が続く中でタリバンに接近するロシア・中国 パキスタンとは武力衝突も”でも取り上げたように、タリバン暫定政権と中国が接近していますが、一方で中国人が反タリバン勢力のテロ対象にもなっています。

****アフガニスタンで中国人が殺害される 反タリバン武装勢力が犯行声明****
アフガニスタンを支配するイスラム主義組織タリバン暫定政権の警察当局は22日、北部タハル州で21日夜に中国人1人が殺害されたと発表した。タリバン側は実行グループを名指ししなかったが、反タリバンの武装勢力が犯行声明を出した。

警察当局によると、亡くなった中国人は、治安当局に目的地を告げずに移動中に何者かに襲われた。同行していた通訳にけがはなかったという。

タリバンと敵対する「国家動員戦線」(NMF)と名乗る武装勢力が、「中国人のスパイ」を殺害したとする声明を出した。NMFは声明の中で、中国人が「タリバンの情報機関を訓練していた」と主張している。

中国紙グローバル・タイムズ(電子版)によると、中国外務省の報道官は、事件について明言を避けた上で「アフガンの中国大使館が中国市民の権利と利益を守るために最善を尽くし、状況をフォローアップしているはずだ」と話した。

アフガンでは2022年12月にも首都カブールで中国人客が多いホテルが武装勢力に襲撃された。このときは、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。【1月22日 毎日】
*******************

【トランプ大統領の施策により行き場を失う米軍協力のアフガニスタン難民】
タリバン暫定政権とアメリカとはそれなりのコンタクトがあるようです。

****米とタリバン暫定政権、拘束者交換****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は21日、米国との間で拘束者の交換に合意したと発表した。AP通信によると、米国人2人とアフガン人1人が解放された。【1月21日 共同】
******************

1月21日というと、トランプ大統領就任後です。

トランプ大統領は、かねてより、アフガニスタンからの米軍撤退について「出て行くのは良いことだが、バイデンほどひどい撤退の仕方をした者はいない。米国史上最大の恥だ」とバイデン大統領の対応を批判していました。

その“ひどい撤退の仕方”で、アフガニスタン国内には多くの米軍協力者が置き去りにされていますが、彼らはトランプ米大統領の難民受入一時停止措置で行き場をなくしています。

****「死の危険」、アフガン難民窮地 トランプ氏難民受け入れ一時停止で****
トランプ米大統領が難民の受け入れを一時停止すると発表し、アフガニスタン難民の支援団体から批判の声が上がっている。アフガン駐留米軍が2021年8月に撤収した後も、通訳などのアフガン人協力者の一部は置き去りにされたままで、支援団体は受け入れの継続を求めている。

イスラム主義組織タリバンの復権前に米国や同盟国に協力したアフガン人の多くは、タリバンの報復を恐れて国外退避を希望している。しかし、厳格な移民対策を進めるトランプ氏は、米国の難民受け入れプログラム(USRAP)について「国益を損なう」として27日から一時停止する大統領令に署名した。

AP通信によると、隣国パキスタンで米国行きが認められるのを待つアフガン人は推計1万5000人に上る。また、既に入国が認められていた人々の渡航も中止されたという。

アフガン人協力者を支援する米国のボランティア団体代表のショーン・バンディバー氏は20日、「例外なく難民の入国を停止すれば、米軍に協力し、いまもアフガンで大きな危険にさらされている何千人もの人々を見捨てることになる」とする声明を発表した。

支援団体「アフガンUSRAP難民」も、タリバンはアフガン人協力者を「裏切り者」とみなしているとし、「アフガンに戻れば逮捕や拷問、死の危険にさらされる」とトランプ氏らに再考を求めた。

タリバン暫定政権は21年8月の復権直後の記者会見で「報復はしない」と明言したが、首都カブールの国際空港には国外に退避しようとするアフガン人らが殺到した。【1月23日 毎日】
********************

米軍協力者を置き去りにすることは「恥」の上塗りになると思いますが。

【ドイツで起きたアフガニスタン出身者の幼稚園児襲撃事件 総選挙にも影響】
アフガニスタン難民は欧州にも大勢が逃れていますが、欧州では移民・難民に対する世論が厳しさを強め、極右的な排斥を求める声が強まっています。

そうした流れを更に加速させると思われる事件が、メルケル時代に難民に寛容な政策をとったドイツで。

****ドイツで園児らが刃物で襲われる、2人死亡 アフガン出身の男性拘束****
ドイツ南部バイエルン州アシャッフェンブルクで22日、男が公園にいた幼稚園児らを刃物で襲い、男児(2)と通行人の男性(41)が死亡し、女児(2)を含む3人が負傷した。同州内相が明らかにした。

警察は現場近くで容疑者のアフガニスタン出身の男(28)を拘束した。精神疾患の治療歴があり、動機は明らかになっていない。

ドイツで2月23日に実施される総選挙では、移民・難民政策が主な争点となっている。

内相によると男は2022年にドイツに入国。難民申請していたが、自ら出国を希望したため、手続きを停止した。これまでにも暴力行為があり、当局は把握していた。

ショルツ首相は「信じ難いテロ行為だ」と非難。男の暴力行為を巡り「なぜ男がドイツにまだ滞在していたのか、当局は早急に明らかにしなければならない」と訴えた。

東部マクデブルクでも昨年12月、クリスマスマーケットに車が突っ込み6人が死亡、200人以上が負傷する事件があり、サウジアラビア出身の男が逮捕された。【1月23日 毎日】
**********************

12月のクリスマスマーケットの事件の記憶が鮮明な時期に再び・・・ということで、総選挙に影響を与えるのは必至でしょう。総選挙では世論調査で支持率2位につける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がどこまで伸長するか注目されていますが、今回事件は移民・難民排斥を掲げる同党の追い風になるでしょう。

ショルツ首相の社会民主党(SPD)をはじめ、その他の政党も移民・難民への厳しい対応を強めるでしょう。

容疑者のアフガニスタン難民は精神疾患の治療歴があり、2回精神科に入れられたものの、すぐに退院しているようで、このあたりの経緯も問題視されています。

紛争の母国で辛い経験をした難民の多くがトラウマ・PTSDを抱えていると言われており、難民受け入れにあたってそうした心のケアをどう行うかも議論されるところです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アメリカ  トランプ大統領... | トップ |   
最新の画像もっと見る

アフガン・パキスタン」カテゴリの最新記事