孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否

2025-02-08 22:29:18 | イラン

(イラン最高指導者ハメネイ師とトランプ大統領【2月6日 VIETNAM.VN】
トランプ大統領はイランへの「最大限の圧力」復活させる一方で、会見で「イランと取引できれば素晴らしい」と述べ、イラン側との交渉にも意欲を示しています。)

【中東情勢を不安定化させる危険がある「追い詰められたイラン」】
おととしのハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、イスラエルとの衝突が軍事的なものになり、支援してきたハマスだけでなく虎の子の親イラン組織ヒズボラも大打撃を受け、支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・イランの地政学上の立場は壊滅的な打撃を受けています。

イランの中東における影響力はかつてないほど弱体化していますが、そのことは更なる中東情勢の不安定化をまねく可能性もあります。

****<トランプ再来、窮地に陥るイラン>イアン・ブレマーのユーラシアグループも指摘するリスク、3つの難題を読み解く*****
(中略)ユーラシアグループは2025年1月6日、2025年の10大リスクを発表した。(中略)中東に関して注目されるのは、リスクNo.6に「追い詰められたイラン」が入っていることだろう(中略)

同レポートには、「年内に制御不能なエスカレーションが起こる可能性は十分」とある。この理由として、ガザ危機やシリア政権崩壊によるイランの抑止力の低下、トランプ再登場による対イラン強硬政策の発動、国内での反体制運動の静かな高まり等が挙げられている。

こうした中、25年1月17日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はモスクワを訪れ、イラン・ロシア包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。

その3日後の20日、アメリカではドナルド・トランプが47代大統領として就任した。同大統領はイランに対し、「最大限の圧力」キャンペーンを再開するのではないかと囁かれている。(中略)

多方面で難題に直面するイラン
近年、イランを取り巻く状況は大きく変化している。長らく、イランは中東において代理勢力(「抵抗の枢軸」)の育成に成功し、戦略的優位を確立したと評されてきた。しかし、ここにきて同国にとっての安全保障環境は悪化傾向にある。

第1に、イランとイスラエルの「影の戦争」が「表の戦争」に移行した点は大きい。(中略)
24年4月にイスラエルによるとされる在シリア・イラン大使館への攻撃が発生し、革命防衛隊員7人(シリア・レバノン方面の司令官含む)が殺害されると、今度はイランがイスラエル本土に対して「真の約束」作戦と題する弾道ミサイル・ドローンを組み合わせた攻撃で報復した。

その後、ハマスのハニヤ政治局長の首都テヘランでの殺害(7月31日)を受けて、同年10月1日にもイランは「真の約束2」作戦を実行、それに対して同26日はイスラエルからの応酬がなされ、防空システムと弾道ミサイルの製造能力に多大な被害(注:イラン側は否定)が生じるなど事態は緊迫することとなった。

第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。(中略)
これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針
それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。(中略)

第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。(中略)イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。(中略)

一方で、24年11月中旬、イラン国連代表部大使が、トランプ政権で政府効率化省を任されたと噂される富豪のイーロン・マスク氏と会談したと伝えられた。真偽は不明だが、仮に事実であるならば、両国は緊迫する中でも対話のチャンネルを維持したいものとみられる。

イランでは、対外政策の意思決定主体は複数の機関によって分掌されており、相互がバランスを取り合う仕組みになっている。

改革路線で有権者の支持を得て当選したペゼシュキアン大統領、そして国際協調路線を取るアラグチ外相は、欧米との対話に前向きな姿勢である。しかし、最高指導者、革命防衛隊、国家安全保障最高評議会(SNSC)は異なる考えを有している可能性があり、実際の対外行動は複数の主体の思惑が絡まりあった末に決められることになる。

イランとしては、交渉相手から最大限の譲歩を引き出すべく、硬軟織り交ぜた戦術を講じるだろう。

抑止力回復に向けたいくつかのアプローチ
それでは、イランは実際にどのようなアプローチで事態に対処するのか、あり得る方向性をいくつか挙げよう。

第1に、欧米との軋轢が深まる中、イランの東方重視政策が継続されると考えられる。イランは21年3月には、イラン・中国25カ年包括的協力協定を締結した。これによって、制裁下でもイラン産原油を中国が購入し続けている。

また、本年1月17日にはロシアと20カ年包括的戦略パートナーシップ条約を締結してもいる。イランとしては、仲間となる国を増やし国際的な孤立を解消するとともに、金融・原油取引制限の中でも外貨獲得ができる抵抗経済の確立を追求している。

第2に、現在までイランは核開発を平和利用のためと説明してきているが、核ドクトリンを変更する可能性が取り沙汰されている。(中略)

第3に、軍事技術を不断に向上させ、それを誇示するかもしれない。(中略)

この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。

特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。

最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。

不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。

イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。(中略)

もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。

欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。【1月25日 WEDGE】
********************

【「最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」 トランプ大統領のイラン政策への牽制か】
上記記事で、イランのアプローチのあり得る方向性の2番目に、核ドクトリンの変更、すなわち核兵器開発があげられていますが、最高指導者ハメネイ師はこれまで同様「軍の核兵器開発を許可しない」という立場をいささか唐突に表明しています。

おそらく、圧力を強めるトランプ政権に対して「交渉」の余地を示すものと思われます。

****イランが『核兵器開発禁止令』発出 対トランプ政権への狙いとは?*****
<イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じた。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルなのか>

ペルシャ語放送のイラン・インターナショナルによれば、イラン軍司法機関のプルハガン長官が1月21日に核開発禁止を発表した。第2次トランプ米政権発足の翌日だ。

「故ホメイニ師は敵に対しても、違法兵器や非通常兵器の使用を認めなかった」と、プルハガンは述べた。「この原則に基づき、最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」

IAEA(国際原子力機関)は昨年12月上旬、イランの核開発と濃縮ウランの備蓄増加への懸念を表明。
イランは既に、ウラン濃縮度を核兵器級に迫る60%に引き上げている。核兵器製造を阻止するため、トランプ米大統領と政権は「最大限の圧力」路線の復活を討議している。

「核を軍事目的で利用する意図は全くない」。イランのペゼシュキアン大統領は先日、駐イラン英大使にそう語った。米政府にその声は届くのか。【1月27日 Newsweek】
**********************

【トランプ大統領 「最大限の圧力」再開 交渉の余地も示唆】
一方、トランプ大統領は2月4日、第1次政権時に実施したイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

覚書は財務省に対して、イランへの経済圧力の強化を指示。財務省と国務省には、イラン産原油の輸出ゼロを目的としたキャンペーンを実施するよう指示しています。

同時に、イランに対し『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とのメッセージを送り、硬軟両様の構えです。

****トランプ氏「取引したい」 対イラン「最大限圧力」も交渉の余地示唆****
トランプ米大統領は4日、核開発を進めるイランに対して「最大限の圧力」をかける政策を復活させる大統領覚書に署名した。

その後の記者会見では「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調したが、一方で「熱心に耳を傾けているイランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも話し、交渉の余地があることを示した。

覚書では、財務長官に対して新たな制裁や既存の制裁の厳格な執行など最大限の経済的圧力をイランにかけるよう命じ、国務長官に財務長官らと調整してイラン産原油の輸出をゼロに追い込むためのキャンペーンを実施するよう指示した。国務長官には、国際機関を含めて、世界中でイランを孤立させる外交キャンペーンを主導するよう求めた。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見で、「私は本日、イランの政権に対する『最大限の圧力』政策を復活させる措置を取った」と強調。「最も強力な制裁を科し、イランの石油輸出をゼロにし、イランの政権が地域全体および世界全体でテロの資金源となる能力を低下させる」と狙いを説明した。

一方、「最大限の圧力」を復活させることについては「私はイランが平和で成功することを望んでおり、やるのが嫌だった」と主張。イラン側に向け「あなたたちが生活を再建し、素晴らしい成果を上げることができるような取引を成立させたい」とも語った。

ただし、「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」とも強調。「彼らが核兵器を持つようになると私が考えれば、彼らにとって非常に不幸なことになるだろう」と警告した。

トランプ氏は第1次政権時の2018年、米英仏独露中の6カ国とイランが15年に結んだイラン核合意からの一方的な離脱を表明。イラン産原油の禁輸などの経済制裁にとどまらず、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害するなどイランに「最大限の圧力」をかけた。【2月5日 毎日】
*****************

前出のイラン側の事前の「核兵器開発禁止令」表明は、トランプ政権の「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」という姿勢に対応するもので、予想されるトランプ政権の圧力を緩和させることを期待し、交渉の余地を残しておきたいというイラン側の思いでしょう。

なお、“イランがトランプ氏の暗殺を企てれば「イランを全滅させる」と述べた。そのための指令をすでに出したと説明した。米司法省は昨年11月、イラン軍組織が命じたトランプ氏の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男を起訴したと発表していた。”【2月5日 産経】とも。

【イラン側反発 最高指導者は対米交渉を拒否】
イラン側は、トランプ大統領の「最大限の圧力」政策に反発していますが、同時に核兵器保有を容認しない方針もを強調しています。

****「最大限の圧力、失敗する」=イラン、トランプ氏に反発****
トランプ米大統領が敵対するイランへの「最大限の圧力」政策を復活させたことに対し、イランのアラグチ外相は5日、「(第1次トランプ政権時に)既に失敗しており、再び失敗するだろう」と主張した。イランのメディアが伝えた。

トランプ氏は4日、イランの核兵器保有を容認しない方針を強調したが、アラグチ氏は「懸案は解決可能だ」と指摘。「イランは核拡散防止条約(NPT)加盟国であり、(核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師の)ファトワ(宗教令)も出ている」と述べ、核兵器開発の意図を改めて否定した。【2月5日 時事】 
****************

ただ、最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉を拒否する姿勢を見せています。事前に投げかけた「核兵器開発禁止令」発出の効果が見られないとの反応でしょうか。

これにより当分は「交渉」が進展する余地は小さいと思われます。

****イラン ハメネイ師 米交渉拒否 トランプ氏を批判****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は7日の演説で、米国との交渉を拒否する方針を表明した。トランプ米大統領は5日、イランとの交渉に前向きな姿勢を示していたが、イラン核開発を巡る現状打開の糸口は当面なくなった。米国の対イラン制裁強化やイラン側の核開発加速などで対立が深まる可能性が高まった。

ハメネイ師は軍将校らを前にした演説で、「米国とは交渉すべきでない。あんな政府との交渉は、賢明でも聡明そうめいでも名誉でもない」と述べた。理由として、米政府が核合意を順守しなかった過去の「経験」を挙げ、トランプ氏を「合意を破り捨てた同じ人物だ」と指摘した。

さらに、ハメネイ師は「米国の脅威には脅威で応じる。攻撃されれば攻撃する」と断言し、軍事衝突の選択肢にも言及した。

これに先立つ6日、米財務省は、イラン軍参謀本部に代わって年間数百万バレルのイラン産原油の中国への輸出を支援したとして、イランや中国などの個人やタンカー会社に制裁を科すと発表した。トランプ氏がイランに「最大限の圧力」をかけるよう4日に指示した後、米政府が制裁を発動するのは初めてだ。

トランプ氏は、イランの外貨獲得手段である原油輸出をゼロにする目標を掲げている。今回の制裁では、取引で重要な役割を果たす中国の金融機関は対象外で、イラン側とのディール(取引)の材料にする可能性があるが、イラン外務省報道官は7日、米政府の決定は「違法」とする非難声明を発表した。

イランは2018年、米英露など6か国と結んだイラン核合意から第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を再開したのに対抗して核開発を加速させた。現在、兵器級に近い濃縮度60%のウランを製造している。

米国が制裁を強化すれば、イランはさらに核開発を進めるとみられ、イランの核武装を憂慮するイスラエルを刺激することになる。イランの核施設への攻撃など軍事的な対立への発展も懸念される。【2月8日 読売】
******************

イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任しました。しかし、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師がアメリカとの交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性があります。

もちろん、今は互いに強気の姿勢を見せあう段階で、今後は状況次第ですが。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シリア  「新生シリア」に... | トップ |   
最新の画像もっと見る

イラン」カテゴリの最新記事