孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  中国製EVへ最大37.6%の追加関税 その合理性は?

2024-07-23 23:41:31 | 欧州情勢

(【7月4日 ロイター】中国のEV大手、比亜迪(BYD)のEV運搬船「BYDエクスプローラーNo.1」は全長200メートルで5千台超のEVを欧州に輸送するとか。欧州の「泰平の眠り」をさます「白船」とも)

【中国から輸入されるEVに最大37.6%の追加関税】
EUは輸入が急増しているとされる低価格の中国製電気自動車(EV)についてら調査を行い、「中国政府から不当な補助金を受け、域内の生産者の脅威になっている」と結論し、最大37.6%の追加関税を適用すると発表しました。

補助金の程度によってメーカーごとに税率が異なります。

実際に関税が徴収されるのが今年の11月以降のため「暫定的」とされていますが、輸入会社は関税額をリザーブ(保全)することを求められています。

また、大統領選挙で対中国強硬策を競う形になっているアメリカでバイデン政権が今年5月14日に発表した関税率(100%=現状の4倍)に比べると、はるかに低い率にとどまっています。(アメリカでは中国製EVはほとんど出回っていません)

****EU 中国製電気自動車に追加関税 5日から暫定的に適用****
EU=ヨーロッパ連合の執行機関EU委員会は、中国から輸入される電気自動車に対し、5日から暫定的に最大37.6%の追加関税を適用すると発表しました。

EU委員会は、ヨーロッパで輸入が急増する低価格の中国製電気自動車について、去年10月から調査を行い、その結果、「中国政府から不当な補助金を受け、域内の生産者の脅威になっている」と結論づけました。

このため、EU委員会は中国から輸入される電気自動車に対して、5日から現行の10%に暫定的に最大37.6%の追加関税を上乗せすると発表しました。

ただし、追加関税の徴収はすぐには始まらず、EU加盟国による投票などを経て、4か月以内に最終決定を行うとしています。

一方、中国商務省の報道官は4日の会見で、追加関税に「強く反対する」と改めて表明。そのうえで、「双方が誠意を示して協議をし、事実に基づいて互いに受け入れ可能な解決策をできるだけ早く見出すことを希望する」としました。

中国政府はEU産豚肉について反ダンピング調査を開始するなど、対抗措置をとる動きをみせています。【7月4日 TBS NEWS DIG】
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【中国市場のウェイトが高いドイツ産業界は報復を懸念して反対】
実際のところは、安価な中国製EV輸入が急増してEU市場を席巻している・・・・という現状でもないようです。

“昨年EUは中国製EVの「急増」にいら立ち、補助金の実態調査を開始した。だが実際には日本や韓国からの輸入が増え、輸入台数における中国のシェアは22年よりも減った。”【7月23日 Newsweek】

“EU域内での中国製EVの数はまだ少ない。欧州委員会によると、2023年にEU域内で販売されたEVの内、中国製EVの比率は7.9%にすぎなかった。”【7月23日 新潮社フォーサイト】

今後の中国製EV輸入増加を警戒しての措置のようですが、この措置については、EU内部で必ずしも意見が一致している訳ではありません。

****EUの中国製EV関税、投票で各国の意見分かれる=関係筋****
中国製電気自動車(EV)に対する関税の是非を巡る欧州連合(EU)の投票で各国政府の意見が分かれたことが、複数の関係者の話で16日に分かった。

EUの欧州委員会は不当な補助金に対抗するため、中国製EVの輸入に最大37.6%の暫定関税を設定。加盟国の意見を調査する投票を行った。

関係者によると、12カ国が関税に賛成、4カ国が反対、11カ国が棄権した。

今回の投票に拘束力はないが、欧州委は結果を踏まえて最終的な決定を下す見通しだ。(中略)

政府関係者によると、フランス、イタリア、スペインは賛成票を投じ、ドイツ、フィンランド、スウェーデンは棄権した。

欧州委はさらに3カ月間調査を継続する。【7月17日 ロイター】
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中国市場に深く依存するドイツの自動車業界は、関税上乗せを強く反対していることは、以前のブログでも取り上げたことがあります。

*****中国製EV追加関税でEUが示した「本気度」とドイツ自動車業界の「不安」****
欧州委員会は中国製EVへの追加関税の暫定的適用を発表することで、中国を交渉のテーブルに引き出すという最初の「勝利」を手にした。だが中国に深く依存するドイツの自動車業界は、関税上乗せを強く批判。業界の頭上に貿易紛争の暗雲が垂れ込める。
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(中略)
「中国からのEV輸入量が42%減る」との予測
キール世界経済研究所(IfW)とオーストリア経済研究所(WIFO)は、「シミュレーションの結果、追加関税が欧州の消費者に与える悪影響は軽微と予想される」という見方を同日発表した。

両研究所は、「EU(欧州連合)の追加関税が正式に適用された場合、中国からのEV輸入量は現在に比べて42%減る。だが中国車の減少分は、EU域内の自動車メーカーの販売数の増加や中国以外の国からの輸入量の増加によって相殺される。このためEU域内のEV価格は、0.3〜0.9%しか上昇しない」と予測している。IfWによると、2023年に中国からEU域内に輸入されたEVの台数は約50万台だった。(中略)

欧州の論壇では、「EVをめぐる一連の動きは、EUの作戦通りに進んでいる」という見方が強い。今年6月12日に欧州委員会が「調査の結果、中国のEVメーカーが天然資源の採掘から製造、輸送に至るまで、政府による不当な補助金を受けていることがわかった。このため中国製EVは、欧州製EVに比べて平均20%安い」と指摘し、追加関税をかける方針を明らかにした。

もっとも、EU域内での中国製EVの数はまだ少ない。欧州委員会によると、2023年にEU域内で販売されたEVの内、中国製EVの比率は7.9%にすぎなかった。(中略)しかし欧州委員会は、EUでの中国製EVの比率が2025年には15%に増加すると警戒している。

EUの「宣戦布告」から10日後の6月22日に、ドイツ連邦経済気候保護省(BMWK)のロベルト・ハーベック大臣が訪問先の北京で、「我々は中国を罰しようとしているのではない。制裁関税は『究極的な対抗手段』であり、しばしば最悪の選択だ。今後EUと中国が関税引き上げ競争に陥った場合には、双方が敗者になる。今重要なことは、欧州委員会と中国政府が話し合いによって事態を解決することだ」と述べた。

中国側は欧州委員会の発表に対し、EUが予想したほど強く反発せず、ハーベック大臣に対して欧州委員会との交渉に応じると伝えた。ハーベック大臣の比較的穏健なメッセージが、中国側の姿勢を軟化させたのかもしれない。

中国を交渉に引き出したEUの「勝利」
中国政府が「交渉に応じる」というシグナルを送ったことは、EUにとって最初の「勝利」だ。中国政府はこれまで、EVをめぐり交渉のテーブルに着くことを拒否し続けてきたからだ。

また米国がEUに先駆けて関税適用を発表していたことも、EUにとっては有利に作用した。EUの追加関税率(最高37.6%)は、米国のバイデン政権が今年5月14日に発表した関税率(100%=現状の4倍)よりもはるかに低い。

EUが米国のように極端に高い追加関税率を打ち出さなかったことは、「中国との正面衝突を避け、話し合いによって事態を打開しよう」というEUのメッセージと見られる。

ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は7月4日、「欧州委員会は、自動車というEU産業界にとって重要な分野を守る姿勢を打ち出した。EUが暫定的関税の適用によって、公平な競争を歪める中国の態度を拒否したことは、正しい。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の毅然とした態度は、ドイツのオラフ・ショルツ首相の優柔不断さとは対照的だ。EUが、これまでEVに関する交渉を拒んできた中国政府を、協議のテーブルへ引っ張り出したことは成功だ。その意味でEVをめぐる動きは、EUの作戦通りに進んでいる」と論評した。

貿易戦争を懸念するドイツの自動車メーカー
だがドイツの自動車業界のムードは、暗い。この国の自動車業界は、中国に大きく依存しているからだ。フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツが2023年に世界で売った車のほぼ3台に1台が中国で売られている。

ドイツの自動車メーカーは、EUと中国の間の対立が貿易戦争にエスカレートし、自社の中国ビジネスに悪影響が及ぶことを強く恐れている。自動車業界の重鎮たちは、異口同音にEUの決定を批判した。(中略)

日本経団連に相当するドイツ産業連盟(BDI)も「EUの決定は、我が国の製造業界にとっても重大な影響を及ぼすだろう。我々はこの発表が、世界的な貿易紛争にエスカレートすることを望まない」と述べ、欧州委員会・中国政府に慎重な対応を求めた。

ドイツ商工会議所(DIHK)は、「EUの決定は、中国で活動しているドイツの自動車メーカーにも影響を与える。欧州委員会は、米中間の貿易紛争に巻き込まれることを避けるべきだ」という声明を発表し、ドイツ経済界への悪影響に強い懸念を表した。

ハンガリーにEV工場を建設して、追加関税を骨抜きに?
ドイツの経済学者の間にも、EUの追加関税の「副作用」を懸念する声がある。ベルリンのドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッチャー所長は、「中国のEVメーカーが、政府からの多額の補助金によって、競争上有利な立場に立っていることは疑いようがない。したがってEUの追加関税は、中国が競争条件を歪めていることに対する、欧州の回答である」と述べEUの決定に賛意を表した。

EUとドイツは、中国を単なるパートナーではなく、「システム上のライバル(systemic rival)」と見なしている。EUとドイツは、議会制民主主義を持たず、言論の自由などを保障せず、国家が大きく介入する中国の「疑似資本主義体制」を、欧州の経済体制とは大きく異なるシステムと位置付けている。

だがフラッチャー氏は同時に、「関税適用が、欧州に跳ね返ってくる危険がある。つまりEUが関税を適用しても中国企業が欧州のEV市場でマーケットシェアを拡大し、同時にEU加盟国に対して報復関税を導入する可能性がある」と警告する。

実際、中国企業はすでに手を打っている。BYDは2023年12月、「ルーマニアとセルビアの国境に近い、ハンガリーのセゲドに、EV組み立て工場を建設する」と発表した。

つまりBYDはEUの追加関税を回避するために、EU域内に生産拠点を作り始めているのだ。他の中国企業もBYDに追随した場合、EUの追加関税の「打撃力」は大幅に弱まる。

EU加盟国の中で最も中国寄りのオルバン・ヴィクトル首相は、ハンガリーをEVやEV用電池の重要な生産立地にすることを目指している。BYDのこの橋頭堡は、EUの追加関税を骨抜きにする可能性を秘めている。

BYDは、現在ドイツなどEU加盟国での販売網を構築しつつある。知名度を高めるための工作も強化している。(中略)BYDは、ドイツのEV市場でのシェアを将来10%に引き上げる方針を明らかにしている。イタリア政府も、BYDのEV組み立て工場を誘致しようと努力している。

交渉の行方は予断を許さない。欧州委員会は、正式に追加関税を発動するのか? 中国政府は、ドイツ企業に対し報復の矢を放つのか? 米・欧・中三つ巴のEV貿易戦争が始まるのか? 
ドイツの自動車メーカーのCEOたち、そしてこの国の自動車業界で働く全ての人々にとって、不安な日々が続く。【7月23日 新潮社フォーサイト】
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【気候変動対策というEV推進の本来の主旨に反するとの批判も】
貿易戦争の懸念以外にも、本来EUがEVを推進してきたのは気候変動対策からであり、その本来の目的にとって-マイナスになる、経済理論的にも合理性を欠くとの批判もあります。

****EUの「中国EVへの関税」が気候変動にもEU市民にも「大ダメージ」な理由****
<EVシフトを推進し、気候変動との戦いを長年率いてきたEUが7月5日、安価な中国製EVに追加関税をかけ始めた。自動車産業の雇用と利益を重視する姿勢は「自分の首を絞める」可能性も──>

誰に聞いても気候変動は急速に進んでいる。だが、気候変動との戦いにおいて長年リーダーの立場を取ってきたEUは目先の損得にとらわれ、健全な経済論理が見えなくなっているようだ。

EUは常に気候変動と戦う意思を示してきたが、一部の分野では自分の首を絞めている。例えば二酸化炭素(CO2)を排出するエンジン車の新車販売を2035年に禁じるとした措置。これは電気自動車(EV)の市場シェアを急拡大させて、CO2排出量を減らそうという大胆な一手だった。

しかしEVは従来のエンジン車よりも格段に価格が高く、禁止措置は物議を醸した。

EVが高価である必要はない。ヨーロッパで出回っているEVの半額で買える製品を中国は生産している。だがEUは安価な中国製を歓迎するどころか、およそ17〜38%の追加関税を7月5日に発動。

グリーン・トランジション(資源循環型経済や社会への移行)が「EUの産業を損なう不正な輸入に基づいてはならない」と欧州委員会は発表したが、追加関税からは気候変動対策より自動車産業の雇用と利益を重視する姿勢がうかがえる。

EUだけではない。5月、バイデン米大統領は中国製EVに100%の関税を課すと発表し、実質的に中国のEVを米市場から締め出した。トルコやブラジルなど自動車産業が盛んな国々も、中国製EVにはかなりの関税を課している。

EUのEV産業は大きな貿易黒字になっており、中国車の輸入が脅威になるとは思えない。何より気候変動は人類の存亡に関わる脅威であり、全ての国家がEVを含むグリーン産業を支援し、グリーン技術の開発競争に発展することが望ましい。

グリーン技術に対する政府の補助金を受けて開発された製品の輸入を各国が阻むなら、支援のメリット──迅速な技術開発や価格の低下──は大方消えてしまう。

新しい産業は国際競争にさらされる前にある程度の規模に成長するまで守らなければならないというのが、関税保護の大義名分だ。だが1世紀以上の歴史を持つ自動車産業に、この言い分は当てはまらない。

また特定の国が対象の関税は貿易転換を引き起こす。対象国の製品が競争力を失うと、第三国からの輸入が増える。関税で対象国の製品価格が上がれば、第三国は競争力を保ったまま価格を引き上げられる。

高い関税のかかった中国製EVにEUの消費者が高い金を払う場合、関税はEUの金庫に入る。EU製EVに高い金を払う場合、それはEUの自動車メーカーの利益となる。だが消費者が第三国のEVを買うようになれば、金は外に流れる。このように補助金相殺関税は経済的ダメージを伴う。(中略)

昨年EUは中国製EVの「急増」にいら立ち、補助金の実態調査を開始した。だが実際には日本や韓国からの輸入が増え、輸入台数における中国のシェアは22年よりも減った。

あいにくWTOには補助金相殺関税を禁じる規則がない。環境に配慮したグリーン製品を、補助金相殺関税の対象から除外する権限もない。

この手の貿易摩擦は今に始まった話ではない。EUはアメリカのボーイングに対する補助金に、アメリカはEUのエアバスに対する補助金に何十年も苦情を申し立てた末、航空機産業を補助する互いの権利を尊重することに同意した。

気候変動と本気で戦うと主張するのはEUも中国も同じ。ならばEVについて、両者は同様の合意を目指すべきだ。【7月23日 Newsweek】
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中国側は欧米の関税措置を「典型的な保護主義」と批判しています。

中国製EVの価格競争力は補助金によるものではなく「新たな技術革新や市場競争によるものだ」(外務省)と主張。
過剰生産との批判にも「世界のインフレ圧力を緩和し、気候変動への対応でも積極的な貢献をしている」(李強首相)などと欧米による関税措置に反論しています。

技術革新や市場競争による結果・・・欧米は認めたくないでしょうが、そうした側面があるのは事実でしょう。

アメリカに対しては、自国が輸出で優位な製品は「自由貿易」を主張しているのに、他国が優勢な製品では「過剰生産」を持ち出すとも。中国の言い分にも合理的なものがあります。

気候変動といったグローバルな問題よりは、結局自国産業保護が優先・・・というのが現実であり、そうした自国第一的な発想が一段と強まっています。

“自国”とは言いつつ、特定産業の企業・労働者だけでなく、経済全体、広く消費者まで含めた“自国利益”を考えた場合、保護的な措置は自国利益を損なうことが多いように思えます。
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