(かつてあった習近平氏と金正恩氏の足形 大連【8月3日 東京】)
【「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」に隠された中朝指導者の本音】
「唇亡歯寒」・・・・もし唇がないとしたら歯が寒いというたとえで、互いに助け合う関係にある一方がなくなると、他の一方の存在も危うくなることをいう。【イミダス】
朝鮮戦争を共に戦った北朝鮮と中国の関係は「唇歯相依の関係」あるいは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」とアピールされることもありますが、実際のところは、上から目線で北朝鮮に指図することが多い一方で、アメリカなどへの配慮から北朝鮮をないがしろにしがちな中国に対し、金正日にしても金正恩にしても北朝鮮指導者は好ましい感情は持っていないとは言われています。
北朝鮮国内の住民学習会では「日本が100年の敵なら中国は1000年の敵だ」といった表現も使われるほどに北朝鮮当局の中国に対する警戒心は強いとも言われます。
中国からすれば、北朝鮮はいつも勝手なことばかりして中国の足を引っ張る面倒な存在・・ということにも。
【「消えた足形」 北朝鮮労働者の本国送還を中国が要求】
そうした本音はともかく表向きは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」ということで国際社会に対峙するというのが中朝関係です・・・・が、最近不協和音が表に出てくることもしばしば見られます。
最近北朝鮮がロシアに接近していることも影響しているとも。
****「嘘つき」発言に苛立つ習近平…「中朝友好の足形」を埋め、「金正恩」と8カ月間交流なし プーチンと北朝鮮との蜜月も一因か****
習近平中国国家主席と金正恩朝鮮労働党総書記、ロシアのプーチン大統領の三角関係に大きな変化が生じている。プーチン氏が金氏に約1億5千万円ものロシア製最高級車「アウルス」を2台も贈呈するなど両者は蜜月関係であるのに対して、習氏と金氏は今年元旦に新年の祝電交換以来、交流が途絶える一方、習・プーチン間では中国によるウクライナ戦争への消極的な対ロ支持をめぐり、すき間風が吹いている。【相馬勝/ジャーナリスト】
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消えた中朝友好の「銅の足形」 習近平主席と金正恩総書記の不仲説も
習氏と金氏の不仲説がささやかれるようになったのは、ある出来事が表に出たことがきかっけだった。習氏と金氏が2018年5月に中国東北部の大連市で首脳会談を行った際、両首脳が景勝地の浜辺の道路を並んで歩いて歓談したことを記念した2人の「銅の足跡」がアスファルトで埋め戻されて消えていたのだ。
この大連での首脳会談は、金氏が18年3月、最高指導者就任後初めての外遊となった北京訪問からまだ2カ月も経っていないなか行われたもので、短期間での習氏との2回の首脳会談は習氏が金氏との関係を極めて重視していたことを示しており、「銅の足形」も中国側の提案で造られたものだ。
今年7月に韓国メディアが報じたところによると、付近の住民らは「銅の足形」が消されたのは地方政府当局者の指示で、昨年の秋ごろだったと証言しており、造られて5年以上も経過したあと壊れされたのは、昨年秋までに両者の関係に大きな亀裂が生じたことを暗示している。
金正恩氏「中国はうそつき」とポンペオ米国務長官に発言
それは何だったのか。昨年1月に出版されたマイク・ポンペオ前国務長官の回顧録にそのヒントが書かれていた。そのなかで、ポンペオ氏は18年3月に北朝鮮を極秘裏に訪問した際の金氏と会談内容を記している。
ポンペオ氏が「在韓米軍を撤退させれば金委員長が喜ぶと中国がアメリカにいつも話している」と伝えたところ、金氏は笑ってテーブルを叩きながら、「中国人は嘘つきだ」と述べた。
そして、金氏は「在韓米軍は中国の脅威から自分を守るために必要だ」と述べ、「中国が在韓米軍の撤退を望んでいる理由は、朝鮮半島をチベットや新疆のように扱いたいからだ」と語ったという。
この金氏の発言は習氏にとっては衝撃的だったことは容易に想像できる。「中国人は嘘つき」で、中国が朝鮮半島をチベット自治区や新疆ウイグル自治区のように弾圧するという内容の言葉を米国政府高官に訴えるのは尋常ではない。
習氏は金氏の本心を初めて知ったに違いない。だからこそ、5年以上も保存していた両者の友好の印を破壊させたのではないか。
しかも、金・ポンペオ会談は、初の習・金会談と近い時期に行われていることからも、習氏は金氏の偽善性を強く感じたに違いない。
「朝露軍事同盟」復活に警戒感
その後、習氏は今年の元旦には金氏に祝電を交換するが、習氏はバイデン米大統領とも祝電を交換しており、あくまでも儀礼的なものだ。
習・金両氏の首脳会談は19年6月に習氏が平壌を訪問して以来、実現していない。それは世界的な新型コロナウイルスの流行で北朝鮮が国境を閉鎖していたためともいえるが、流行の終息後、金氏は昨年9月にロシア極東部を訪問したほか、今年6月にはプーチン氏が平壌を訪問し、両者は9カ月間で2回も首脳会談を行っているのに比べて、この間、習・金両氏の首脳会談が1回も行われていないのは極めて不自然だ。
とくに、金氏は6月19日、平壌滞在中のプーチン氏と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、いわゆる「軍事同盟」を復活させた。プーチン、金両氏が軍事協力を公然と約し、万一、朝鮮半島で南北間の戦争が起きた場合、ロシアが北朝鮮を助けて軍事介入する可能性が浮上したのだ。
中朝条約の軍事介入条項は死文化したと言われるようになって久しいので、朝露間の新条約により、中朝露3国間の関係は中国に不利な形でバランスが崩れ、これが中国をさらにいら立たせているのは確実だ。
かつて中朝両国は「唇歯相依の関係」あるいは「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」ともいわれてきたが、いまでは「唇歯の関係」は朝露両国関係であり、中朝関係は普通以下の関係になってしまった感がある。
北朝鮮労働者の中国派遣に「待った」
これを裏付けるように、韓国の中央日報は中国が7月上旬、北朝鮮に対して、中国内のすべての北朝鮮労働者の本国送還を要求したと報じた。
これを受けて、北朝鮮は中国で外貨を稼ぐ一部の情報技術労働者をロシアに移動させているともいう。
米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」も、北朝鮮が今年5月ごろから中国国内の北朝鮮大使館などの公館向けに一定年齢以上の労働者らの帰国を急ぐよう指示していたと伝えており、両国間で北朝鮮労働者をめぐる軋轢が生じているのはほぼ間違いないとみられる。
国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が3月に発表した報告書によると、北朝鮮は10万人の労働者を海外に送り出すことで、年間7億5,000万ドル(1ドル=約147.77円)から11億ドルを稼いでおり、出稼ぎは北朝鮮にとって極めて重要な外貨源だ。
そのうちの9割は中国に滞在しており、北朝鮮労働者の帰還強要は、習氏の金氏への揺さぶりの一種で、金氏のプーチンとの関係強化に対する不満表明と見てとれよう。
また、習氏はプーチン氏が決めたウクライナ侵攻に対しても、支持を公言するものの、金氏がロシアへの弾薬などの武器供与を積極的に行うなか、習氏は極めて消極的な姿勢を維持しており、習氏とプーチン氏との関係にも異変が生じているようだ。
中国の「洪水避難民救出」提案を拒否
このようななか、7月下旬に中国遼寧省丹東市と国境を接する北朝鮮平安南道新義州市で記録的な豪雨が発生し、鴨緑江の水位が上昇し、新義州の島々に住んでいた北朝鮮住民を中心に1千人以上が死亡する大災害が発生した。それは、実は金氏の判断ミスによる人災との指摘がなされている。
中国側は7月27日、鴨緑江の水位上昇で、下流の北朝鮮の水力発電ダムの水門を開く必要があることが明らかになったとして、北朝鮮側に洪水避難民の救出を申し出たという。
中国の丹東警察当局者は「(北朝鮮の)島の住民を安全に中国に移動させることができる」と語ったが、金氏は「島民が中国に行けば、その後、韓国に逃げてしまう」と語るとともに、「中国による救出や支援は拒否せよ。私が明日、現地に急行する」と指示。
北朝鮮当局はなすすべもなく、ダムの水門を開き、住民が犠牲になるのを見ているほかはなかったという。
金氏が翌28日朝、現地到着したころには多くの住民が流されて、犠牲者が激増してしまった。その失敗を挽回するため、金氏は被災地を回り、急造のテントや食料などの支援を指示し、自身も避難民の中に入り激励したものの、結果的に金氏の判断の遅れで、多くの犠牲者が出る事態となった。
これを糊塗し、住民の反発を招かないよう、金氏は避難民1万3千人を首都平壌に移送し、支援を続けることにしたのだが、いかにも後知恵だ。
北朝鮮では食糧の不足や思想統制強化で、「金王朝」に対する不満が高まっており、金氏自身も「王朝崩壊」への不安を捨てきれないようだ。
このところの中国との関係悪化やロシアとの関係強化も、結局のところ、金氏の中国への猜疑心のなせる業ともいえ、習氏は今後も金氏に悩まされそうだ。【8月23相馬勝氏 デイリー新潮】
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“習氏は金氏の本心を初めて知ったに違いない”・・・それはないでしょう。冒頭にも書いたように、中朝指導者が互いに相手を嫌っているのは昔からの話ですから。
ただ、そうした「本心」をあろうことかアメリカ高官に語り、しかも、それが回顧録として公にされたことに、習近平氏が「あの若造が・・・誰のおかげで「将軍様」でいられると思っているのか」と立腹したのは想像できるところです。
【その後も不協和音が ただし、北朝鮮をめぐる米中などの対応に影響してくるのかどうかは別問題かも】
「消えた足形」「北朝鮮労働者の本国送還」以外にも不協和音が。
****北朝鮮、無線巡り中国に異例反発 局設置計画「違反」と国連へ通告****
中国が北朝鮮との国境近くにFMラジオ放送などに使う無線局の設置を計画していることに対し、北朝鮮が国内の周波数に深刻な干渉を及ぼす恐れがあるとして反対していることが25日分かった。
北朝鮮は事前調整の要請がないとして、国連専門機関に国際規則違反だと通告した。複数の外交筋が明らかにした。中朝間の意見対立が表面化するのは異例。
中朝は今年、国交樹立75年の節目に当たるが、外交筋の間では関係冷え込みが指摘されており、今回の問題にも影響した可能性がある。中国が安全保障分野を含めてロシアに急接近する北朝鮮を快く思っていないとの見方もある。
国際的な周波数管理を担う国際電気通信連合(ITU、本部ジュネーブ)が6月に関係国に公表した情報などによると、中国は自国内に191の無線局の設置を計画している。
外交筋によると、北朝鮮はこのうち中国遼寧省丹東市など国境近くの17無線局を問題視。事前調整がなく、電波の利用方法などを定めた国際ルール「無線通信規則」に抵触すると7月にITUに指摘した。【8月25日 共同】
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****中朝、公用ビザ運用を厳格化 外交免除、北朝鮮側に不満か****
中国と北朝鮮が外交・公用ビザの相互免除制度の運用を厳格化したことが31日分かった。
これまで30日間の滞在期限の超過を黙認している可能性が指摘されていたが、超過に許可申請が必要とする規定を新設した協定が7月下旬に発効した。中国側が協定に言及する一方、北朝鮮メディアは触れておらず、北朝鮮側に不満があるとの見方が出ている。
中国内の北朝鮮人労働者を巡り、中国は滞在期限を守るよう原則的な対応を取っているとされ、厳しい姿勢が外交・公用ビザの免除制度にも反映された形だ。外交筋は、今回の協定が最近、中朝関係をぎくしゃくさせている要素の一つだと分析している。【8月31日 共同】
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こうした“ぎくしゃく”した中朝関係が、北朝鮮をめぐる米中などの対応に影響してくるのか・・・そこはわかりませんが、目立った変化はないかも。
中国にとって北朝鮮・金王朝の存在は、アメリカの影響力が中国国境に及ばないための緩衝地帯ですから、その維持のためには今後とも表面的には「唇亡歯寒の血と血で固められた同盟関係」がアピールされると思われます。