孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  婚外子が増加傾向にあるなかで、ある芸能人の婚外子が話題に

2024-11-29 23:20:03 | 人口問題

(日本の婚外子割合の推移【内閣府HP 男女共同参画局】 韓国は4.7% フランス61.0%、スウェーデン54.5%、イギリス48.2%、アメリカ40.0%、イタ リア35.4%、ドイツ33.3%)

【世界屈指の超少子化国である韓国で出生率増加の予測】
少子化は日本の抱える最も重要な問題のひとつですが、同じように少子化が進む中国など東アジア地域において日本以上に深刻で、世界的にも突出した状態にあり「国が消滅する」とも言われているのが韓国。

その韓国で出生率が9年ぶりに上昇する見込みだとか。

****出生数70万人割れの危機に直面する日本と対照的…韓国の出生率が9年ぶりに回復か、“明るい予測”続く****
世界屈指の超少子化国家として知られる韓国の出生率が、9年ぶりに回復する見通しが立っている。

11月26日、韓国の国会予算政策処に続き、少子高齢社会委員会でも2024年の合計出生率が昨年より上昇し、0.74に達すると予想されている。もし実現すれば、合計出生率は2015年以来、初めて上昇することになる。

少子高齢社会委員会のこのような予測は、チュ・ヒョンファン副委員長が前日、韓国経済人協会主催の「K-ESGアライアンス第10回会議」で行った講演を通じて伝えられた。

チュ副委員長は講演で、「最近の結婚および出生児数の増加傾向が維持されるなら、今年の合計出生率は昨年の0.72より高い、0.74前後になると予想されている」と述べた。統計庁が将来人口推計を通じて予測した2024年の出生率予測値0.68や、2023年の出生率0.72を上回る数字だ。

韓国の出生率は2015年の1.24以降、継続して下落してきた。
それでも韓国統計庁が10月23日に発表した「2024年8月人口動向」によれば、8月の全国出生数は2万98人で、前年同月比1124人(5.9%)増加した。1516人増加した7月に続き、2カ月連続で前年同月比1000人以上の増加となった。

1〜8月の累計では、2023年15万8609人、2024年15万8011人とわずかに減少しているものの、前年超えが現実的とされている。

先立って、国会予算政策処も10月に発表した報告書で「今年の合計出生率は2015年以来、9年ぶりに反騰が予想される」とし、「最近の出産の遅れの回復などの影響により、今年は前年度(0.72)より0.2増加し、2028年まで緩やかに増加すると見込まれる」と、少子高齢社会委員会と同じ予測を示した。

韓国の出生率が、ついに底を打ったという見方が多い。

一方で日本の出生数は、2016年に100万人を割ると、2019年に90万人割れ、2022年に80万人を割った。2024年上半期(1〜6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9998人にとどまった。単純計算で今年の出生数が70万人を割る可能性があり、歯止めがかからない状況だ。

それでも日本の出生率は1.20(2023年)で、韓国に比べれば高い。超少子化国家である韓国が予測通り、9年ぶりに出世率を上げることができるのか注目したい。【11月26日 サーチコリア】
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【価値観の変化が根底にある以上、従来の出産・子育て支援策出は十分な効果が期待できない】
韓国にしろ、日本にしろ、少子化の背景には「結婚しなくてもかまわない」といった結婚に関する意識、出産に伴う育児に要する費用といった経済的側面がありますが、特に前者の価値観の変化がある以上、従来の出産・子育て支援策出は十分な効果が期待できないとも言えます。

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一般的に出生率の低下は、経済発展と女性の社会進出拡大の結果と認識されている。つまり、先進国は出生率が低く、発展途上国は出生率が高いとされる。

しかし上記のように少子化傾向は、所得水準に関係なく世界的に見られる。貧困国であるネパールやミャンマーでも2.0以下の出生率を記録しているのが代表例だ。

社会・経済システムの再編が必要
世界的に共通する現象の一つは「結婚回避」だ。自分が重要で、自分の人生を生きることが重要であるため、出産や育児に時間と費用をかけたくないのだ。

「結婚-出産-育児」は当然とされてきたが、今や女性にとって「人生を台無しにするリスク」として考えられており、それを避けることが賢明とされている。

周囲に子供を産まず、結婚をしない人が増え、社会的な学習の機会が減少していることも原因とされる。子供が生まれ育つ姿を目にする機会が減るほど、結婚と出産はさらに急速に減少していく。

結局のところ、少子化は多少の時間差こそあれ、世界的に共通する現象であり、これまでに知られる政策的な手段ではそれを阻止できないことが明らかになりつつある。【11月11日 「世界的な“人口減少”の時代へ…「少子化」は韓国だけの問題だろうか」 サーチコリア】
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【出生率に大きく影響する婚外子と外国人】
そうしたなかで、、婚外子・外国人という別の視点からの指摘も。

****出生率を考える視点****
2021年の出生数は過去最少の81万人、合計特殊出生率も6年連続で低下し1.30になった。コロナ禍での出会いの機会の減少や産み控えによる下振れなどもあり、少子化の趨勢が加速されているようだ。 

国が掲げる目標は「希望出生率1.80」の実現。若い世代における結婚や子どもの数に関する希望がかなうとした場合に想定される出生率である。

欧米主要国の合計特殊出生率(2020年)は、フランス1.82、スウェーデン1.66、アメリカ1.64、イギリス1.58、ドイツ1.53、イタリア1.24である。日本よりも上位の国の平均は1.64である。

また、わが国の場合、女性の未婚率が約2割だから、結婚する約8割の女性が平均2人の子どもを産んだとして1.6程度になる。このあたりが現実的な政策目標になるのかもしれない。 

これらの欧米諸国と日本の比較に当たっては、留意すべきことが二つあるように思う。

一つは外国人の割合。 わが国の約2%に対して、上記の欧米諸国では1割前後が外国人であり、外国人が出生率の改善に寄与しているといわれている。

ちなみに、合計特殊出生率が最上位のフランスでは、「出生数が回復期にあった2000年以降に注目しても、両親がフランス人というカップルから生まれた子は一貫して減少しており、フランス人と外国人のカップル、もしくは外国人同士のカップルから生まれた子が出生率を押し上げた」という(藤波匠『子供が消えゆく国』日経BP、2020年、8頁)。

もう一つは出生に占める婚外子の割合。わが国の2.4%(2020年)に対して、欧米主要国の比率は高く、フランス61.0%、スウェーデン54.5%、イギリス48.2%、アメリカ40.0%、イタ リア35.4%、ドイツ33.3%である(イギリス2017年、その他は2019年)。 

わが国は、外国人労働者は受け入れつつも、公式には永住する外国人としての移民は受け入れていない。また、結婚しなければ子どもを産みにくい国でもある。

移民を積極的に受け入れるかどうか、ひとり親と子に優しい国になれるかどうかは、出生数を増やすという人口政策もからみ、大きな論点になるように思う。 

ただし、社会保障政策としての子育て支援と出生数を増やす人口政策とは区別して考える必要があろう。

合計 特殊出生率が4~5であった戦前と違って、子どもは授かるものではなく、作るものになった。しかも女性の人権の重要な一つとして「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)が謳われ、子どもを産むかどうかの選択について、女性が主導権を持つようになった。

また、「少なく産んでよく育てる」ことを望み、教育等にお金をかけるようになっていることからすれば、子育て支援の成果のかなりの部分は、子どもを増やすことより、よく育てることに向かう可能性があることも承知しておくべきだろう。 

出生数の減少が「有事」として声高に叫ばれるなかで、未婚の人や子どもを持たない人が疎外感を抱き、生きづらくなる風潮が生まれることは避けたい。同調圧力の強い国であるだけに懸念されることだ。 【2022年7月 山崎泰彦氏 年金広報】
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【韓国ではある芸能人の婚外子が政治的にも関心事に】
婚外子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことで、法律上は「非嫡出子」と表現されます)が西欧の30~60%に対し、日本は2%程度と非常に少ないことが特徴ですが、その点はお隣韓国も同じ。儒教文化のせいでしょうか。

その韓国ではある芸能人の婚外“極秘出産”の話題が。

****未婚のイケメン俳優が美人モデルを“極秘出産”させていた…韓国で変化が著しい「婚外子」のイメージ****
人気俳優チョン・ウソン(51)が未婚のモデルを出産させた“極秘出産”が話題になっているなかで、韓国で「婚外子」に注目が集まっている。

というのも、韓国では結婚していない男女の間に生まれた婚外子が3年連続で増えているからだ。
参考になるのは、韓国統計庁が8月に発表した「2023年出生統計」だ。それによると、2023年に生まれた婚外子は、1万900人を記録した。1981年の統計以来、過去最多となっている。

韓国における婚外子の出生数は、2013年には9300人だったが、2020年に6900人まで減少した。しかし以降は2021年7700人、2022年9800人と増加に転じ、昨年は1万人を超えた。

婚外子の出生数は出生数全体(23万人)の4.7%で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均婚外子の出生率である41.5%と比較すると低い水準だが、着実に上昇している状況だ。

韓国で婚外子が増加傾向にあるのは、婚姻届を提出しないまま一緒に暮らす「事実婚」が増えたからと考えられている。

また、若者世代で「子供を出産するうえで結婚は必須ではない」という意識が広がっている影響も少なくないだろう。

韓国統計庁の発表した「2024年社会調査」によると、20〜29歳において「結婚しなくても子供を持つことはできる」と答えた割合が42.8%に上った。これは10年前の2014年(30.3%)に比べて、12.5%ポイントも増加した数字だ。

特に「全面的に肯定する」という回答者が10年前の5.7%から今回14.2%と3倍近く増えた。また、「強く否定する」回答も34.9%から22.2%に減少しており、20代において「結婚しなくても子供を持つことはできる」と考える人が増えていることになる。

婚外子を見る視線も変化したと考えられる。例えば、韓国芸能界で活動する日本出身のタレント、藤田小百合は、結婚せずに精子の提供を受けて息子を出産した。彼女は一部から「正しい家族観に悪影響を与える」と指摘されたりもしたが、応援の声のほうが多く、現在も各種バラエティ番組で活躍している。

そのため婚外子が発覚したチョン・ウソンも驚きを与えることはあっても、それ自体では大きな批判を浴びる可能性は少ないだろう。「養育方式を相談中」でありながら、別の恋人がいるなどの疑惑が絡めば話は別だが。【11月26日 サーチコリア】
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チョン・ウソンの婚外の“極秘出産”は政治的にも波紋を呼んでいます。

****結婚せずに“極秘出産”していた韓国俳優とモデル、「婚外子」の議論が芸能界を越え韓国政界でも話題に***
俳優チョン・ウソンの「婚外子出産」が韓国芸能界を越え、政界でも話題となっている。
大統領室が「非婚出産児」に対する制度的支援を強化すると発表したなかで、一部では「婚外子出産」を非難する社会的な雰囲気が誤りであるとの指摘も出ている。

大統領室の高位関係者は11月28日、記者たちとの会見で、非婚出産に対する社会的認識改善の方策に関する質問に対し、「社会的差別や様々な制度ではカバーできない部分がある」とし、「すべての生命が差別なく健やかに、幸せに成長できるよう、どのような支援が可能か今後さらに検討する必要がある部分だ」と述べた。

この関係者はさらに、「ひとり親家庭や様々な事情で生まれた子供一人ひとりを国家が積極的に支援し、保護するという姿勢には一貫した政府哲学がある。こうした哲学を実践するために、もし見落としがあれば補完していく」と語った。

また、「現在、児童手当、親給付、育児休暇などの育児支援政策は子供を基準にしており、ほとんどの支援政策は親の婚姻状況とは無関係に実施されている」と補足した。

「非難の対象になるのか」
国会議員としては、共に民主党のイ・ソヨン議員が「チョン・ウソンの婚外子」議論について見解を明らかにした。

イ議員は11月26日、自身のフェイスブックを通じて「子供を産んだ男女が結婚せず、別々に暮らすことが非難の対象になるのか」と反問し、結婚しなければ「正常な家族」にならないわけではないと主張した。(中略)

イ議員は自身の個人的な経験にも触れた。彼女は「皆さんが生まれた子供のことを心配して、ひと言ずつおっしゃっているようだが、『子供のために親が婚姻関係を維持すべき』という考えは『偏見である可能性がある』と思う」と述べ、「私は幼い頃に両親が離婚し、養育の責任どころか父親の顔も覚えずに育った。愛し合っていない両親が離婚せずに暮らしていたならば、はたして私がより幸せだっただろうか。それは他人が簡単に語れる領域ではない」と付け加えた。

さらに「(中略)私たちの人生はその姿がそれぞれ異なる。平凡で似通った基準があるように見えても、実際にはすべて異なる。そうした『違い』が何気なく尊重される社会がより良い社会なのではないか」と強調した。

ただし、政治界の一部では「婚外子出産」が「道徳と倫理の領域」であるとの意見も出されている。

11月27日(現地時間)、イギリスの公共放送BBCは、与党・国民の力所属のある議員がチョン・ウソンの婚外出産の決定を「我々の社会の道徳と伝統では想像すらできないことだ。どれだけ時代が変わっても、韓国の伝統と大衆の情緒は正しく維持されるべきだ」と批判したと報じた。

BBCは「韓国は高圧的なエンターテインメント産業で悪名高い。韓国の芸能人は大衆から過度に高い社会的基準を要求され、しばしば極度の監視に晒されている」とし、「こうした環境の中でチョン・ウソンの今回の発表は、個人的選択と社会的期待が衝突する韓国社会の現状を示している」と記事を締めくくった。(後略)【11月26日 サーチコリア】
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大統領室は「非婚出産児」(婚外子)に対する制度的支援を強化する方針ですが、保守系与党「国民の力」には“韓国の伝統と大衆の情緒は正しく維持されるべき”との声もあるようです。

【2023年の対前年比で、韓国はOECD内でイギリスに次いで高い移民増加率 外国人の年金受給などで不満も】
外国人・・・・移民について言えば、移民者数の前年からの増加率では、OECD加盟国のなかで韓国はイギリスに次いで高い数字となっています。 それにともなって増加する移民への批判も。

****「分別して受け入れろ」日本は前年比7.3%増、“移民者”数の増加率の高さで韓国が世界2位…不満の声も****
先進国への合法的な移民者数が過去最多となる650万人を記録した。
移民者数の増加率が最も高かったのはイギリスで、韓国が2位となっている。

経済協力開発機構(OECD)が最近発表した報告によると、2023年にOECD加盟38カ国に永住権を得て移住した人は650万人に上り、過去最高を記録。2022年の移民数600万人という従来の最高記録をわずか1年で約10%も上回った。

最も多くの移民を受け入れた国はアメリカで、移民者数は118万9800人に達した。前年(104万8700人)に比べ13.4%増加しており、この数はOECD加盟の欧州諸国全体での移民申請件数を上回っている。

興味深いのは、移民者数の前年からの増加率だ。1位は74万6900人を受け入れたイギリスで、前年(48万8400人)から52.9%もの増加を見せた。移民者が最も急増した国といえる。

そのイギリスに次いで、高い増加率を見せたのが韓国だ。2022年に5万7800人だった韓国への移民者数は、2023年は8万7100人に達し、50.9%増加した。

韓国に次ぐ3位はオーストリア(39.7%)となっており、以下はカナダ(7.8%)、日本(7.3%)、ドイツ(3.5%)、フランス(1.1%)の順だった。

先進国への合法的な移民者数が過去最多となったことについて、OECDの国際移住部門長であるジャン・クリストフ・デュモン氏は「移民増加の傾向には、新型コロナ後の力強い経済回復に伴う労働力不足や、人口構造の変化(生産年齢人口の減少)など、様々な要因が反映されている」と述べた。

問題は、移民者増加に反対する世論が各国で少なくないことだ。実際にアメリカでは、不法移民の取り締まりや、アメリカにいる数百万の不法移民を追放することを公約に掲げたドナルド・トランプ元大統領が次期大統領に当選した。

入国規定を強化する国もある。イギリスやカナダ、オーストラリアは、就労関連の移民を制限する措置を導入しており、特にカナダは年間の永住権発行数を大幅に縮小する政策を発表した。

韓国でも移民者急増について懸念の声が多く聞かれる。オンライン上では「移民をなんでも受け入れるのではなく、よく分別して受け入れてほしい」「きちんと義務を果たさず、フリーライドする移民が増えても…」「韓国に住んでいる人は住みたくないといい、世界からは住みたいとやってくる。不思議だ」「韓国の移民者はほとんどが中国人だろう」「韓国の医療保険と福祉が目当て」といった意見が見られた。

今後も韓国への移民者が増え続けるのか、注目が集まる。【11月18日 サーチコリア】
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外国人(最も多いのは中国人)の年金受給者が多いことへの不満も。
“日本人は5年間で2倍に…韓国で外国人の年金受給者が1万人超え、不満の声も「なぜ血税を。国が滅ぶ」”【10月21日 サーチコリア】

上記記事で、“日本人が2倍に”とありますが、絶対数が210人から426人と、中国人・アメリカ人に比べると文字通り“桁違い”に少ないためでもあります。
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フランス  極右政党RNが倒閣も視野に圧力強化 ルペン氏は裁判結果次第では大統領選挙出馬不可

2024-11-28 23:24:48 | 欧州情勢

(裁判所に到着したマリーヌ・ルペン氏=13日、仏パリ【11月15日 CNN】)

【国民連合(RN) 「政府は監視下にある」と豪語】
フランスでは6月及び7月に行われた総選挙の結果、極左が中心の左派、マクロン大統領与党の中道、ルペン氏率いる極右の三すくみ状態となり、マクロン大統領は左派の切り崩しに失敗、中道右派の共和党と連立してバルニエ首相の少数内閣が発足しました。

左派と極右が内閣不信任案などで協調すれば直ちに内閣は倒れてしまう不安定な政局ですが、ルペン氏率いる極右・国民連合(RN)は直ちには倒閣には動かずしばらくは静観の構えをとりました。

****フランスの極右、倒閣に同調せず=左派は抗議デモ****
フランスの極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は7日、「民主主義の混乱にくみしたくない」と述べ、バルニエ新内閣の発足後直ちに倒閣を目指す構えの左派に同調しない考えを示した。新内閣は中道と中道右派による少数与党となる見込みで、不信任を回避できるかは極右に懸かっている。

民放テレビTF1のインタビューで語った。バルデラ氏は、RNが唱える治安強化や移民抑制などの政策が「尊重されることを望む」とした上で、5日に首相に任命されたバルニエ氏に「マクロン大統領の政治を続ければ、新内閣は頓挫する」と警告した。

7月の総選挙では左派4党連合が下院の最大勢力となったが、政党単位ではRNが初の第1党に躍り出た。バルデラ氏は7日、記者団に「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と訴えた。

バルニエ氏はこれに対し「私は全国民の監視下にある」と指摘。極右が新内閣に及ぼす影響力は限定的だと反論した。

一方、左派を率いる急進政党「不屈のフランス」は7日、政権批判の抗議行動を各地で展開し、支持者や学生運動の活動家らが参加。内務省によればデモ隊は約11万人(主催者発表30万人)に上った。【9月8日 時事】 
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国民連合(RN)党首バルデラ氏の「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」という発言が、フランスの政治情勢を表しています。

実際、10月に左派から出された内閣不信任案には国民連合(RN)は同調しませんでした。

****仏下院、内閣不信任案を否決=左派提出も極右賛成せず****
フランス国民議会(下院、定数577)は8日、先月発足したバルニエ内閣の不信任決議案を否決した。左派4党連合(193議席)が提出したが、第3勢力の極右(141議席)は賛成しなかった。

採決結果は賛成が197で、可決に必要な過半数(289)を大きく下回った。左派はバルニエ内閣が「総選挙の結果を否定する」存在だと主張。一方、極右は「混乱を招きたくない」と同調を拒否した。【10月9日 時事】
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【国民連合(RN) 倒閣も視野に政府への圧力を強める】
ただ、ここにきて予算案に関して国民連合(RN)は政府への圧力を強めています。
政府は国民会議)の採決なしで予算法案を成立させることは憲法規定で可能ですが、その場合内閣不信任案が出されるのは必至です。

****フランス極右政党RN、政府に独自予算案の受け入れ要求****
フランスの極右政党、国民連合(RN)のジョルダン・バルデラ党首は16日、政府が先週提出した2025年予算案に対抗してRNが策定した予算案の受け入れを政府に要求するとともに、拒否されれば発足したばかりのバルニエ首相率いる新内閣を不信任案で退陣に追い込む姿勢をちらつかせた。

政府の25年予算案には、膨張しつつある財政赤字に対処するため、歳出削減や富裕層と大企業に対する増税などによる600億ユーロ(656億8000万ドル)の収支改善策が盛り込まれた。

だが連立与党は国民議会の議席数が半数に満たないため、バルニエ氏は国民会議(下院)の採決なしで予算法案を成立させる憲法の規定を使わなければならなくなる公算が大きい。こうした措置が取られれば、内閣不信任案が提出されそうだ。

RNが16日提出した「対抗予算案」には、外国人に対する一部の社会福祉関連給付金の削減や、自社株買いと富裕層を対象とする増税などが盛り込まれた。RNはこれによりさらに150億ユーロ収支を改善できると主張している。

バルデラ氏はパリ自動車ショーの会場で記者団に「もしバルニエ氏がマクロン大統領の政策に追従し続けるなら、この政府は陥落するだろう」と述べ、RNは「大惨事をもたらすような」マクロン氏の財政政策に終止符を打つよう要求すると付け加えた。【10月17日 ロイター】
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国民連合(RN)が政府への圧力を強めている背景には、指導者マリーヌ・ルペン氏自身の裁判も絡んでいるとも。

****仏極右ルペン氏、政権に退陣要求も 生活費高騰に予算対応なしなら****
フランス極右政党、国民連合(RN)の指導者マリーヌ・ルペン氏は20日、政府予算案にRNの生活費高騰を巡る懸念が反映されない場合、バルニエ首相率いる内閣を不信任投票で退陣に追い込む考えだと警告した。

ルペン氏は、欧州連合(EU)欧州議会から資金を不正受給したとされる疑惑を巡る公判で、フランス検察から5年間の公職追放を求刑されている。同氏は疑惑を否定している。

裁判所が有罪と判断し、求刑通り公職追放を言い渡した場合、2027年の大統領選に出馬できなくなる。このため、現政権の退陣を早期に目指すのではないかと見方が出ている。

ルペン氏は「フランス国民の購買力が再び打撃を受けることは容認できない。このレッドライン(越えてはならない一線)を越えれば不信任投票を実施する」とRTLラジオに語った。

バルニエ氏は、分極化が深まる国民議会(下院)で、憲法の規定を使って採決なしで予算法案を成立させる可能性を示唆している。強行すればRNや左派勢力による不信任投票が必至となる。

ルペン氏はまた、家計や企業家、年金生活者への増税にRNは反対で、これまでのところ、この要求が予算案に反映されていないとした。

急進左派「不服従のフランス(LFI)」による年金改革撤回の提案にRNは賛成票を投じるとも語った。左派勢力は不信任案を提出する方針を明らかにしており、RNが棄権すればバルニエ氏は退陣を回避できる。【11月21日 ロイター】
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マクロン大統領は政権崩壊止む無しの予測を側近に語ったようですが、公式にはこの発言は否定されています。

****フランス大統領府、マクロン氏の「政権崩壊」発言を否定****
フランス紙パリジャンはミシェル・バルニエ政権について、極右の支持を取り付け不信任案が成立する結果、近く崩壊するだろうと、エマニュエル・マクロン大統領が語ったとする記事を掲載した。これを受け大統領府(エリゼ宮)は26日、報道内容を否定、火消しに躍起になっている。

同紙は、マクロン氏が25日、エリゼ宮の庭で側近に「政権は倒れるだろう。彼女(極右・国民連合のマリーヌ・ルペン前党首)はいずれ不信任動議に賛成票を投じ、(政権崩壊は)われわれの想定よりも早くなる」と語ったと報じた。

ルペン氏は同日、来年の予算案をめぐる対立を背景に、バルニエ政権の崩壊につながる可能性のある不信任動議を支持すると話していた。

報道を受け大統領府はX(旧ツイッター)の公式アカウント@Elyseeを使って、記事内容を否定するという極めて異例の動きに出た。

大統領府は「エリゼ宮はそのような発言があったことを否定する。大統領は時事問題の解説者ではない。政府は機能しており、国は安定を必要としている」と投稿した。

それに対し同紙のマリオン・ムルグ政治部長はXで、「記事は複数の情報源によって裏取りされている」とし、内容を支持する姿勢を示した。

今夏の総選挙後、少数与党連合から成る政権の首相に、マクロン氏に任命された中道右派のバルニエ氏が就任して以来続いている政治的緊張は、予算案をめぐりピークに達している。予算案は依然、議会承認されていない。 【11月27日 AFP】
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まあ、マクロン大統領の「本音」は当然のところでしょうが、公式には認める訳にはいきません。
それと、何とか予算案を通そうとしているバルニエ政権にしては、後ろから撃たれたような感もあるでしょう。

****バルニエ仏内閣が崩壊危機、来年予算案巡る議会との折衝難航で****
フランスのバルニエ首相が率いる内閣は2025年予算案の議会承認に向けた折衝で難航しており、前途が危ぶまれている。

複数の政界関係者の話では、極右政党の国民連合(RN)と左派連合のどちらも不信任案で賛成に回った場合、内閣がクリスマス前か、早ければ来週中にも崩壊する可能性がある。

これらの関係者は、バルニエ首相が続投できるとしても、今のところ内閣を支持しているRNから要求されている歳出削減の取り組み圧縮を受け入れた場合に限られると指摘。そうすればフランスの財政基盤をさらに弱め、投資家にとってのフランスの魅力を低下させかねないとの見方を示した。

バルニエ内閣はフランスが半年前のような政治危機に再び陥るのを避けようと、RNや他の政治勢力と精力的な交渉を続けているものの情勢は流動的だ。

バルニエ首相は26日のテレビのインタビューで現在の状況について「極めて憂慮される」と語り、内閣が倒れれば金融市場で非常に深刻で荒れた事態が生じると警告した。

地元紙パリジャンは26日、マクロン大統領が側近に「内閣は崩壊する」と告げたと伝え、大統領府が慌てて否定する場面もあった。

市場ではフランス国債のリスクプレミアムが2012年のユーロ危機以来の大きさになり、銀行株が足を引っ張る形でCAC40指数が下落した。

600億ユーロ(628億5000万ドル)の増税と歳出削減を通じて財政赤字拡大に歯止めをかける措置が盛り込まれた来年予算案は,国民議会(下院)で否決された。現在は元老院(上院)で審議されている。

予算成立期限が12月半ばに迫る中で、バルニエ首相は憲法上の規定を用いて議会の採決を得ずに予算承認手続きを終える意向を示唆。ただ、これを強行すれば不信任案が提出されるのは確実だ。

RNを事実上率いるマリーヌ・ルペン氏と同氏の支持者は、家計や中小企業、年金受給者らの生活を守るためにRNが掲げている要求が通らなければ倒閣に動くとバルニエ氏に圧力をかけている。【11月28日 ロイター】
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まあ、遅かれ早かれ・・・という感も。極右政党・国民連合(RN)は「兵府は自分達の監視下にある」と豪語するような政権が長続きする訳がありません。

【ルペン氏 裁判結果では大統領選挙に出馬できない苦しい事情も】
上記のように倒閣も視野に政府に圧力をかける国民連合(RN)ですが、指導者マリーヌ・ルペン氏も自身の裁判で苦しい状況にあります。

マリーヌ・ルペン氏が公金を不正に受給したとされる疑惑を巡る公判が27日、パリの裁判所で結審しました。判決は来年3月31日に言い渡されますが、ルペン氏は公金不正流用罪で禁錮5年と5年間の公職追放などを求刑されており、判決次第では2027年の大統領選に出馬できない可能性があります。

****フランス極右指導者ルペン氏、5年間政治活動禁止の求刑 大統領選出馬に暗雲****
フランスの検察は、極右「国民連合(RN)」を率いるマリーヌ・ルペン氏に禁錮5年と5年間の政治活動禁止を求めた。判決次第で2027年の大統領選に出馬できなくなる可能性がある。

ルペン氏とRNおよび20人以上のRN党員は、フランスで実質的に同党のために働いていた職員への給与支払いに欧州議会の資金を流用したとされている。ルペン氏らは容疑を否認している。

パリの刑事裁判所での約6週間に及ぶ審理の後、検察は13日、ルペン氏に禁錮5年(執行猶予3年)と5年間の政治活動禁止を求刑すると発表した。

検察はRNに200万ユーロ(約3億3000万円)、ルペン氏に30万ユーロの罰金を科すことも求めている。
検察はさらに、不適格判決の「仮執行」を求めた。つまり判決は即時に執行され、判決に対する上訴を行ったとしても、ルペン氏は執行期間中、新たな選挙に立候補できないことになる。

ルペン氏は審理後、記者団に対し、これは民主主義への攻撃であり、検察が同氏を政治の場から締め出そうとする試みだと主張。検察はフランス人から投票したい人に投票する権利を奪おうとしていると訴えた。

ルペン氏はすでに大統領選に3回出馬しており、毎回得票率を伸ばしてきた。12年には3位で得票率は17.9%だったが、17年と22年はマクロン大統領に敗れたものの得票率はそれぞれ33.9%と41.5%だった。【11月15日 CNN】
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次回大統領選挙にはマクロン大統領は出馬できませんので、こんどこそ極右に対する壁を突き破って大統領に、そのために国民連合(RN)ぼ極右体質を薄めて一般国民にも支持される政党に変革してきた・・・・というルペン氏ですが、苦しい状況です。

何より「仮執行」により“判決は即時に執行され、判決に対する上訴を行ったとしても、ルペン氏は執行期間中、新たな選挙に立候補できない”というのがルペン氏にとっては痛い。

アメリカではこういう「仮執行」はないのか? あれば、有罪判決の出ていた「口止め料」訴訟(結局、量刑言い渡しが無期延期になり実質的にトランプ氏の勝利)でトランプ氏の立候補も阻止できたのでは?

まあ、トランプ氏は国民の現状不満の代弁者であり、そういう手段で国民の不満を封じ込めるのは悪手でしょう。

フランスでも司法によって政治家が封殺されるのをよしとしない政敵からも司法批判が。

****極右ルペン氏、政敵が擁護 大統領選出馬危機で―仏****
フランスの極右・国民連合(RN)が欧州連合(EU)から巨額の公金を横領したとされる事件の公判で、検察がRNを実質的に率いるルペン前党首(56)の被選挙権停止を求刑した。

判決次第では、2027年の次期大統領選に立候補できない可能性がある。出馬をうかがうライバルには好都合な事態のはずだが、聞こえてくるのは司法批判や、ルペン氏を擁護する声だ。

「出馬できなくなれば非常にショックだ」。マクロン大統領を支える中道政党「再生」所属のダルマナン前内相(42)は13日、SNSでルペン氏をかばう異例の投稿を行い、波紋を呼んだ。

ルペン氏は12年、17年、22年と過去3回連続で大統領選に出馬。全て敗北したが、マクロン氏と一騎打ちを演じた22年の決選投票では得票率が40%を超えた。RNは今年の総選挙で政権批判の受け皿となり、下院第1党に躍進。波に乗るルペン氏は次期大統領選で最有力候補の一人に数えられる。

一方のダルマナン氏は、今年のパリ五輪を万全の警備で成功に導き、名を上げた。大統領選への意欲は公然の秘密だ。SNSでは、政治家は選挙によって裁かれるべきだと主張。「エリートと大多数の市民の溝を深めてはいけない」とも記し、司法に世論との乖離(かいり)を警告した。

検察は13日の公判で、判決確定を待たず被選挙権を停止できるよう、仮執行の宣告を求めた。ルペン氏はこれが「政治的な死刑」の求刑に等しいと猛反発。死刑を仮執行すると取り返しがつかないと訴えた。EU側の弁護士すら、推定無罪の原則との兼ね合いから「一般論としては仮執行に反対だ」と述べた。

急進左派「不屈のフランス」を束ね、こちらも大統領選出馬を見据えるメランション氏(73)は、政治家に対する司直の裁きに世界中で「不信がある」と指摘。仮執行で被選挙権が停止されれば「政治危機は悪化し、社会に何の得もない」と強調し、犬猿の仲のルペン氏に塩を送った。【11月16日 時事】
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まあ、本音はわかりませんけどね。もし大統領選挙に出られれば、今度こそ極右ルペン大統領誕生の可能性も高く、フランスにとどまらずEU・欧州政治に極めて大きな変革をもたらします。
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中東欧で拡大する親ロシア・権威主義 ハンガリー、スロバキアに続いてルーマニアでも大統領選挙に異変

2024-11-27 23:17:58 | 欧州情勢

(ルーマニア大統領選挙で、SNSを駆使した選挙運動で一躍首位に躍り出た親ロシア・極右政治家カリン・ジョルジェスク氏)

【「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 「自国第一」でロシアの侵略を容認】
中東欧にあって親ロシア的で、移民受け入れに消極的で、西欧的民主主義のリベラル的価値観を否定した強権的政治、更に親トランプ・・・・と言えば、これまでも何度も取り上げたきたハンガリー・オルバン首相の名前があがります。

オルバン首相に限らず、「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつあり、アメリカのトランプ氏復権と共振しつつ、今後更に大きなうねりとなることが予想されます。

****「反移民」「反エリート」で共振するトランプ氏と欧州右派 国際秩序に打撃のリスク 「トランプ2.0」の衝撃③****
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領(78)が勝利を確定的にした6日、トランプ氏といち早く電話で言葉を交わした外国首脳の一人にハンガリーの強権指導者、オルバン首相(61)がいる。トランプ氏との親密さを誇示するように、X(旧ツイッター)に「私たちには未来に向けた大きな計画がある!」と投稿した。

2人が盟友関係にあることはよく知られる。トランプ氏は選挙演説で何度もオルバン氏を「強い指導者」「素晴らしい男」と絶賛した。オルバン氏も公然とトランプ氏を支持し、7月には米南部フロリダ州にあるトランプ氏の私邸に足を運んだ。

欧州連合(EU)内で批判され、異端視されることの多かったオルバン氏が、トランプ氏との近さゆえに存在感を増していく可能性がある。

オルバン氏が首相に返り咲いた2010年以降のハンガリーでは、報道の自由や司法の独立性、LGBT(性的少数者)の権利などへの制限が進んだ。自由民主主義の規範から逸脱していると批判を浴びるが、オルバン氏はむしろ、自分こそが来たるべき「非リベラル民主主義」時代の先駆けだと胸を張る。

盟友のオルバン氏、欧州難民危機が追い風に
オルバン氏が権力を盤石にする契機の一つとなったのは、中東・アフリカの難民らが欧州に押し寄せた15年の難民危機だった。「反移民・難民」の旗幟(きし)を鮮明にし、人道的対応を求めるEUのエリート官僚らへの攻撃を強めた。

そうした「反移民」「反エリート」の主張は最近の欧州で大きな潮流になりつつある。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)といった右派勢力の台頭が典型だ。今年6月にEU各国で行われた欧州議会選では、フランスでRNが首位、ドイツでAfDが2位につけた。

トランプ氏も同じ系譜にある。初当選した16年大統領選では、不法移民流入を阻止する「国境の壁」建設や、反エスタブリッシュメント(既得権益層)を掲げた。これらの主張は、20年大統領選での落選を経てさらに先鋭化している。

今回の大統領選では、1100万人超とも2千万人超ともいわれる不法移民に「最大級の強制送還作戦」を行うと訴えた。民主党などのリベラル勢力を「内なる敵」と呼び、「州兵や米軍を使って排除する」とも語った。反エスタブリッシュメントの主張はしばしば、リベラル勢力から成る「ディープステート(闇の政府)」が米国を牛耳っているという陰謀論の色彩まで帯びる。

欧州の新興右派勢力には福祉政策の拡大を掲げているものが多く、トランプ氏もそうだ。
共和党の支持基盤である保守派では従来、連邦政府の支出や権限を縮小し、企業の自由競争を促す「小さな政府」論が支配的だった。

しかしトランプ氏は大統領選で、社会保障年金やメディケア(高齢者向け医療保険)の維持だけでなく、体外受精の費用を保険会社が負担するよう「義務付ける」と豪語するなど、民主党左派とみまがう主張を展開した。

こうしたこともあって、仏RNや独AfD、オルバン氏やトランプ氏らはポピュリズム(大衆迎合主義)勢力に分類されることが多い。

「自国第一」に由来する侵略国ロシアへの甘さ
その政策と人気に盲点はないか。最も懸念されるのは、この勢力に共通する「自国第一」の姿勢が、ウクライナを侵略するロシアへの甘い態度につながっていることである。

オルバン氏はプーチン露大統領と親しく、EUと北大西洋条約機構(NATO)内で最も親露的な立場をとる。ウクライナは「勝てない」と公言し、欧州各国は対ウクライナ支援を縮小して停戦圧力をかけるべきだとしてきた。

その主張は、ウクライナでの早期停戦を実現するとし、ロシアとのディール(取引)を志向するトランプ氏とも通じる。

仮にロシアに領土を割譲するような形でウクライナ侵略戦争が終われば、「一方的な領土変更は認めない」という第二次大戦後の国際秩序は根幹から揺らぐ。

また、世界で「自国第一」の傾向が強まり、米国主導の集団安全保障体制が弱体化することは、プーチン氏が強く願ってきたことにほかならない。

米右派の最大イベント「保守政治行動会議(CPAC)」では近年、オルバン氏ら欧州の右派政治家が大歓声で迎えられ、連帯を確かめ合うのが恒例の光景となっている。トランプ氏の当選確実が伝えられたとき、旧ソ連構成国のキルギスを訪問中だったオルバン氏はわがことのように喜び、「ウオッカで祝杯をあげた」という。

「反移民」「反エリート」が米欧で共振する現象は、世界に何をもたらすのだろうか。【11月10日 産経】
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【ルーマニア大統領選挙でSNSを駆使する親ロシア極右候補が首位に】
中東欧でまた一つ、ルーマニアにおいて親ロシアでウクライナ支援を否定する、西欧的リベラリズムと異なる極右政治家が大統領選挙で躍進しました。
同時に、日本の兵庫県知事選挙同様に、SNSを駆使して泡沫候補から一躍首位に躍り出た選挙手法も注目されます。

****ルーマニア大統領選、「SNS戦略」成功でプーチン賛美の「極右」が予想外の首位...若年層の不満を代弁****
<ルーマニア大統領選第1回投票で、「ウクライナ戦争の背後で『帝国主義』軍産複合体が暗躍」と訴えるジョルジェスク候補が首位に>
ルーマニア大統領選の第1回投票が11月24日行われ、親露派で反北大西洋条約機構(NATO)の極右ナショナリスト候補カリン・ジョルジェスク氏が212万票(得票率22.9%)を超える予想外の大躍進を見せ、首位で12月8日の決選投票にコマを進めた。

ジョルジェスク氏はウラジーミル・プーチン露大統領を称え、ウクライナ戦争の背後で「帝国主義」軍産複合体が暗躍していると唱える。事前の世論調査では社会民主党(PSD)代表のマルチェル・チョラク首相が圧倒的にリードしており、ジョルジェスク氏は完全なダークホースだった。(中略)

ホロコーストに加担した第二次大戦指導者を称賛
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)に加担して銃殺刑になったルーマニアの第二次大戦指導者イオン・アントネスクや、欧州で最も暴力的な極右の反ユダヤ主義民族運動「鉄衛団」の創設者コルネリウ・コドレアヌを国民的英雄と呼ぶ極右ナショナリストだ。

政治スタンスは親露。ルーマニアのNATO加盟に反対する。NATOが加盟国を守る能力に懐疑的な一方、ルーマニアは外交的・戦略的判断を下す準備ができておらず 「ロシアの知恵 」に従うべきだと主張する。しかし実際にロシアを支持するかどうかについては名言を避けている。

「私は不当な扱いを受けた人々のために投票した」
ルーマニアはフランス率いるNATO多国籍戦闘部隊と米軍のミサイル防衛施設を受け入れており、ジョルジェスク氏は「外交の恥」と批判。

ジョルジェスク氏の躍進は主流政党に対する広範な不満を反映しており、自らを社会や経済から取り残された人々の代弁者と位置づける。

投票後、フェイスブックに「私は不当な扱いを受けた人々、屈辱を受けた人々、この世で自分は重要でないと感じている人々のために投票した! 投票は国家への祈りだ」と投稿した。

より多くの有権者にリーチするため動画共有サイトTikTokなどSNSを効果的に活用した。

新聞・テレビを上回るSNSや動画サイトの破壊力
幅広い視聴者、特に若い有権者の共感を呼ぶ短くて魅力的な動画を共有することで、ジョルジェスク氏は反体制的で民族主義的なメッセージを効果的に広めた。伝統的なメディアを回避し、主要政党を見放した有権者と直接つながり、知名度と支持を大幅に高めることに成功した。

NHKによると、日本でも自身のパワハラ疑惑などを巡る出直し兵庫県知事選で再選した斎藤元彦知事のユーチューブ公式チャンネルの総再生回数は約119万回。街頭演説を短くまとめた動画は少なくとも計2000万回再生された。SNSや動画サイトの破壊力は新聞・テレビを上回る。

米大統領選で返り咲いたドナルド・トランプ次期大統領を例に挙げるまでもなく、SNSや動画サイトの活用はポピュリスト政治家の常套手段。ジョルジェスク氏は若者に人気のTikTokで25万人のフォロワーを持ち、投稿したクリップのいくつかは300万回以上再生された。

ロシアの干渉を示す証拠は見つかっていない。ジョルジェスク氏が決選投票でも勝利すれば首相指名権、連立協議権、外交・安全保障政策に関する最終決定権を持つ役職に就くことになる。極右の暗雲がさらに広がり、NATOや欧州連合(EU)の結束が大きな音を立ててきしみ始めた。【11月26日 木村正人氏 Newsweek】
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ルーマニアでは首相が行政を指揮する一方、大統領は国防と外交の権限を持ちます。

第1回投票結果は、“ジョルジェスク氏が得票率約23%で首位に立った。野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」党首でウクライナ支援継続を訴えるラスコニ氏が19%で続き、決選投票へ駒を進めた。中道左派、社会民主党の現職首相チョラク氏は3位で敗退した。ウクライナ支援や物価高対策などが争点となった。”【11月27日 毎日】

ジョルジェスク氏の支持率は“10月の世論調査では支持率1%未満と低迷し、11月に入って急速に支持を広げたが、それでも5%台だった。予想外の躍進といえる。”【同上】とのことで、その爆発的躍進に瞠目させられます。あるいは、世論調査と実際結果の乖離もまた。

「TikTok(ティックトック)」では乗馬をしたり、黒帯を締めて武道の稽古に励んだりする動画などを投稿し、26日現在で35万人のフォロワーを有するとも。

決選投票は12月8日に行われます。
また、12月1日には議会選も予定されています。“追い風を意識して、出身の超国家主義政党などが事後的にジョルジェスク氏への支持を表明した。「旋風」の成り行き次第では、ウクライナに対する欧州の多国間支援の枠組みが揺らぎかねない。”【同上】

【スロバキア・フィツォ首相 ハンガリー・オルバン首相と似た親ロシア・強権支配 大統領選挙も制する】
実は中東欧ではもう一つ、親ロシア・反ウクライナの強権支配的国家があります。それはスロバキア。
フィツォ首相がハンガリー・オルバン首相類似の強権政治を進めています。更に、大統領も支持勢力でおさえています。

****スロバキアの「ハンガリー化」に懸念 親ロシア姿勢、強権統治に批判****
東欧スロバキアのフィツォ政権に対し、強権統治を敷くハンガリーのオルバン政権と同様、欧州連合(EU)の結束を脅かしかねないとして懸念が広がっている。

25日で就任5カ月となるフィツォ首相は、ロシアによるウクライナ占領を認める形での停戦を主張。国内で進める司法改革も「法の支配」を弱めると批判を浴びている。(中略)

昨年10月に首相に返り咲いたフィツォ氏は、ウクライナへの武器供与停止を決定。今年1月にはロシア軍撤退は「非現実的だ」と述べ、ウクライナに領土奪還を断念するよう促した。ただ、スロバキアの民間企業による武器供給を容認するなど、西側諸国との過度な対立は避けている。

スロバキアで今月(3月)23日実施の大統領選は、フィツォ氏を支えるペレグリニ元首相と、野党の支持を受けるコルチョク元ス外相による事実上の一騎打ちで、フィツォ政権への評価が争点。いずれの候補も当選に必要な過半数に届かず、ペレグリニ、コルチョク両氏が来月6日の決選投票に進出する公算が大きい。

退任するチャプトバ大統領は、汚職罪の罰則軽減を含むフィツォ政権の司法改革にブレーキをかけてきた。ペレグリニ氏が後継に就任すれば、フィツォ氏に一段と権力が集中し「法の支配を巡って、EUとの衝突につながる」(ロンドン大キングスカレッジの研究者)と懸念する声もある。

同様に親ロシア姿勢が目立つハンガリーのオルバン政権に対して、EUは性的少数者の権利やメディアの独立性が侵害されていると憂慮。裁判官人事や汚職捜査への政治的介入を防ぐ対策が不十分で「法の支配」が損なわれているとして、資金供給の一部を凍結している。欧米メディアは「次はスロバキアかもしれない」と伝えている。【3月23日 時事】
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スロバキアでは政治・行政の主導権は首相にあるものの、大統領にも法案への拒否権など一定の権限があります。

4月6日に行われた大統領選挙決選投票で、フィツォ首相に近い左派HLAS(声)党首で国会議長のペレグリニ氏が当選し、フィツォ首相による親ロシアでウクライナ支援に消極的な政治、ハンガリー・オルバン政権的な強権政治が加速する可能性があります。

なお、5月15日にはフィツォ首相が狙撃され負傷する事件も。

【左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯】
中東欧においては、ハンガリー・オルバン首相、スロバキア・フィツォ首相に続いて、前述のルーマニアの大統領選挙での極右ジョルジェスク氏の躍進・・・と親ロシア勢力の拡大が目立ちます。

****中東欧が「プーチン支持」に傾くのはなぜか?...世界秩序を揺るがす空想の「ソ連圏への郷愁」と「国民の不安」****
<ドイツ東部からスロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ロシアと戦火を交えたジョージアまで──なぜ、「ロシア寄り」の極右や極左が躍進しているのか>

ロシアがウクライナで都市部への空爆を続け、東部ドンバス地方の前線で進軍するなか、9月1日にドイツの東部2州で州議会選挙が行われ、極右と極左の政党が躍進した。
とりわけ憂慮されるのは、両党がウクライナ支援に反対し、ロシア寄りの立場を取っていることだ。

極右「ドイツのための選択肢(AfD)」も左派の新党「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」も、ロシアを挑発したとして西側諸国に責任を転嫁し、ロシアとの全面的な軍事衝突を恐れる国民感情に付け込んでいる。

こうした見解や極右・極左政党の躍進はドイツ東部に限った話ではない。1989年までソ連の支配下にあった他の中東欧諸国でも同様の機運が高まり、特に顕著なのがEUとNATOの加盟国であるスロバキアとハンガリーだ。

アゼルバイジャンやジョージアなどの旧ソ連構成国でも、状況は同じ。不安と鬱憤と郷愁が入り交じった独特の国民感情を背景とするこの流れはソ連圏の復活を意味するものではないが、少なくとも中東欧の一部でイデオロギー的な結束が強まっていることを示唆する。(中略)

「空想のソ連圏」への郷愁
残酷な侵略戦争が2年半以上も続く状況で、侵略者のロシアがいま再び共感を呼ぶのはウクライナにも同盟国にとっても由々しき事態だ。

ドイツ東部、スロバキア、ハンガリー、アゼルバイジャン、ジョージアにおける権威主義の高まりはウクライナ侵攻が発端ではないが、ウクライナ侵攻の結果としてエスカレートしたのは間違いない。

これを推し進める指導者は国民感情に付け込み、世論を慎重に誘導する。そうした感情の1つは、ロシアとの戦争に引きずり込まれるのではないかという根強い不安だ。コロナ禍の影響やウクライナ侵攻が引き金となった物価高への対応をしくじった政府への恨みもある。

またソ連時代の保守的で強い指導者たちが強要した「秩序」とその後のリベラルな「混乱」を比べ、空想のソ連圏に郷愁を覚える人もいる。

一方、昨年チェコではNATO出身のペトル・パベルが大統領に就任し、ポーランド総選挙では反EU政権が敗北。旧ソ連圏で起きている民主主義の退行に歯止めをかけ、逆転させられる可能性を示した。

同様に、ロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構から今年6月にアルメニアが脱退を明言したことは、地政学的同盟関係が不動でないことを教えてくれる。

こうした変化は全て世界において安全保障の秩序が揺らいでいることを示唆する。ウクライナでの戦争がいつどのような形で終わるかが、新秩序の在り方を決めるだろう。

しかしながら左右両方のポピュリスト政党が同時に台頭し、独裁政権がロシアとイデオロギーで連帯する現状は強い警告を発している。この戦争に勝者がいるかどうかは分からない。だが誰が勝利するにせよ、自由主義的な秩序の再構築は決して保証されていないのだ。【9月10日 Newsweek】
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親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民・・・・従来の西欧的リベラリズムへの反発が中東欧、欧州で、更にはブラジル前政権やアルゼンチンなど世界で拡大しています。

西欧的リベラリズムへの反発が押し込まれていた箱の蓋をトランプ第1次政権が開け、第2次政権が箱から溢れ出たものの動きを加速させるように思われます。

「エリート」が主張するリベラリズムで顧みられれなかった人々の不満が西欧的リベラリズムへの反発となって噴き出しているようにも。

そういう点では一概にネガティブにとらえるべきではないのかもしれませんが、親ロシア、反ウクライナ、強権的権威主義、反移民といったその方向性には危ういものを感じます。
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ガザ地区の飢餓状況を悪化させる支援物資略奪 それを黙認、あるいは保護するイスラエル軍

2024-11-26 23:13:59 | パレスチナ
(イスラエルは、再び解放された西エレズ検問所から運び込まれる分を含め、ガザに入る支援物資の量が大幅に増えたとしている【11月13日 BBC】)

【人道支援活動が妨げられ飢餓状態に】
イスラエルによる激しい攻撃にさらされているパレスチナ・ガザ地区では“ガザ地区の死者数だけとってみても、ガザ保健当局の発表では約4万4000人となっているが、イギリス・ガーディアン紙の推計によると死者は既に約33万5000人に上るとされる。”【11月24日 TBSNEWSDIG】という多くの犠牲者が出ており、今も増加しつつあります。

そうした空爆などによる直接の攻撃に加えて、生きている厳しい状況に置かれ、飢餓に苦しんでいます。
背景には、人道支援活動が阻害されている現状があります。

****ガザ、飢餓のリスク続く 「最悪のシナリオ」懸念=国連IPC分析****
国連の「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」は17日、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザでは地区全体が依然として飢餓の危機にさらされ、緊急レベルにあるとの分析結果を公表した。

イスラエル軍の激しい軍事作戦が懸念を強め、人道支援活動が妨げられていることが要因にある。

ガザ地区約230万人の住民の184万人が深刻な食料不安に直面し、そのうち13万3000人が最も深刻な「壊滅的」レベルにあるとした。

6月の報告からは減少したものの、今後数カ月の間に倍増するとみられている。5月以降、ガザ地区への食料の流入が増えたが、9月に人道支援が再び縮小し始めたと指摘した。

IPCは「ガザ地区全体で飢餓のリスクが続いている。最近の敵対行為の高まりを踏まえると、最悪のシナリオが現実となるのではないかという懸念が高まっている」と記した。

IPCによると、イスラエルがこのほど出したガザ地区からの退去命令で人道支援活動が中断され、度重なる避難によって食料や水、医薬品へのアクセスや対応が悪化している。24年9月─25年8月に小児の急性栄養失調が6万件発生すると推定されている。【10月18日 ロイター】
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イスラエルを支援するアメリカも、イスラエルに対し事態の改善を求めてはいますが改善されていません。
しかし、それをもって、アメリカがイスラエルへの武器支援を止めるとか、そういった行動はとられておらず、工連安保理でも依然としてただ1国、イスラエルを支援し続けています。

****イスラエル、ガザへの支援物資増の米要求を満たさず 国連現地機関が指摘****
パレスチナ・ガザ地区で活動する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は12日、アメリカがイスラエルに求めたガザへの支援物資の搬入の増加を、期限までにイスラエルが実行しなかったと説明した。アメリカは要求が満たされなければ、イスラエルへの軍事支援を減らすとしていた。

アメリカはアントニー・ブリンケン国務長官の10月13日付の書簡で、イスラエルに対して11月12日までに、毎日最低350台のトラックがガザに入るのを許可するよう求めていた。

これに関し、ガザ中部に拠点を置くUNRWAのルイーズ・ウォータリッジ上級緊急調整官は12日、イスラエルが期限までに十分なことをしたのかと問われると、単刀直入に「ノー」と答えた。

そして、「ここでは支援が足りない。物資が足りない」、「地域によっては、大勢が飢えている。みんなとてもお腹を空かせている。小麦粉の袋をめぐって争いが起きている。ともかく物資が足りない」とBBCに話した。

国連によると、ガザに運び込まれる支援物資の量は現在、ここ1年で最低レベルに減っている。国連が支援した調査の報告書はこのほど、ガザ北部に過去1カ月、物資がほとんど搬入されておらず、飢餓の恐れが迫っていると警告している。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は、過去1カ月間にガザに入ったトラックの台数を、1日平均40台強としている。

イスラエルは大幅増と主張
これに対しイスラエルは、ガザに運び込まれる支援物資の量を大幅に増やしたと主張している。
また、OCHAによるトラック台数のデータは不正確だとして、物資が搬入されても十分に配布されていないと国連機関を非難している。

イスラエルはさらに、同国とガザの境界のガザ側には、支援物資の荷物が何百ケースも滞留し、支援機関による引き取りを待っている状態だと主張。

支援物資を運ぶトラックの一部は、武装した人々に略奪されているとしている。

しかし、国連はこれを否定。ガザにおける支援物資の安全で円滑な運搬は、ガザを占領しているイスラエルが責任をもつべきだとしている。また、イスラエルの軍事行動によって状況が危険すぎるなら、支援物資の配布はできないとしている。

イスラエルは1年以上にわたり、アメリカが設定する「一線」のほとんどを越えてきた。(中略)

アメリカは、イスラム組織ハマスと戦うイスラエルを支援するため、武器を供与している。ガザでの死や破壊の多くは、そうしたアメリカ製の武器によって引き起こされてきた。

BBCのガザ特派員を2009~2013年に務めたジョン・ドニソン記者は、ジョー・バイデン米大統領の任期が残り少なくなり、パレスチナ人4万3000人以上の命が失われた現在の状況で、米政府がイスラエルへの武器の供給を打ち切ることはないだろうとみている。【11月13日 BBC】
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“(11月20日)国連の安全保障理事会で、ガザ地区での戦闘をめぐり、無条件での即時停戦と人質全員の解放を求める決議案を、日本を含む非常任理事国10か国が提出しましたが、アメリカによる拒否権で否決されました。”【11月21日 NHK】

特に北部での状況が懸念されています。

****ガザ一帯で攻撃続く 国連「北部に40日支援届かず」 米特使がイスラエル入り****
イスラエル軍は21日、パレスチナ自治区ガザ北部のベイトラヒヤ地区など人口密集地を爆撃し、ロイター通信はイスラム原理主義組織ハマスの系列メディアの情報として57人が死亡したと伝えた。20日には住民の避難先になっているガザ中部の学校や、「人道エリア」に指定された南部の一角も攻撃されたもようだ。

国連によると、イスラエル軍は10月6日にガザ北部の一部を包囲して攻撃を強化して以来、申請した支援案件の大半を承認していない。40日以上にわたりベイトラヒヤなどの住民6万5千人以上に支援が届かない状況が続いている。(後略)【11月21日 産経】
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【国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動禁止で更に悪化が】
こうした状況を更に悪化させる事態も。
イスラエルは、ガザ地区における支援活動を担っている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動をハマスとの関連を理由に禁止することに。

****イスラエル、UNRWAとの協定破棄を国連に通告 活動禁止法案巡り****
イスラエルのカッツ外相は4日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を認める協定の破棄を正式に国連に通告したと明らかにした。

UNRWAはイスラエル軍の戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ地区で避難民に人道支援を提供しているが、イスラエル政府の協力がなければ支援が続けられなくなるとみられ、人道危機に拍車がかかるのは必至だ。
 
イスラエルはガザ地区のイスラム組織ハマスの戦闘員がUNRWAに雇用され、昨年10月のハマスの越境攻撃にも参加していたと主張してきた。

イスラエル議会は10月28日、UNRWAの活動を禁ずる法案を可決。3カ月後に発効する予定で、完全に履行されれば、UNRWAは「いかなる活動」もできなくなる。【11月5日 毎日】
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【イスラエル極右 ガザ地区の住民200万人を飢えさせるのは「公正で道徳的な行為かもしれない」】
もともと、イスラエルの極右勢力はガザ住民を飢えさせることを「道徳的」とも主張しています。

****イスラエル閣僚、ガザ200万人を飢えさせるのは「道徳的」 ただし「世界の誰も許さず」****
イスラエルのスモトリッチ財務相はこのほど、イスラエル人の人質が帰還するまでパレスチナ自治区ガザ地区の住民200万人を飢えさせるのは「公正で道徳的な行為かもしれない」が、「世界の誰も我々にそれを許さないだろう」との認識を示した。

極右閣僚のスモトリッチ氏は5日、イスラエル中部の町の会合で行った演説で、イスラエルがガザ地区内の支援物資の配給をコントロールすべきだと言及。地区内の配給ルートはハマスによって支配されていると主張した。

さらに「今日の世界の現実では戦争遂行は不可能。市民200万人を飢えと渇きに追い込むことは世界の誰も許さないだろう。ただ、彼らが人質を解放するまでは、それが公正で道徳的な行為なのかもしれない」と述べ、ハマスではなくイスラエルが支援の配給をコントロールしていれば戦争は既に終わり、人質も帰還しているはずだと付け加えた。【8月7日 CNN】
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イスラエル人の根底にこういう認識がありますので、ガザ地区の窮状への対応も“それなり”のものになり、ときに窮状を悪化させることを厭わないことも。

【支援物資を略奪するギャングを黙認する、あるいは保護するイスラエル軍】
人道支援を阻害し、ガザ地区の状況を悪化させている要因の一つが支援物資を狙い、これを略奪するギャングの存在です。

****ガザで食料援助トラック強奪被害、100台近く 国連機関が明らかに****
パレスチナ人向けの食料を積んだ100台近いトラックが、16日にパレスチナ自治区ガザに入った後に強奪被害に遭っていたことが分かった。国連機関が18日、ロイターに明らかにした。戦争開始から1年1カ月経過したガザでは飢餓が悪化しており、最悪の援助物資被害の一つとなった。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)と国連世界食糧計画(WFP)から提供された食料を輸送していた車列は、ケレムシャローム検問所から不慣れなルートで急遽出発するようイスラエルから指示されたという。

UNRWAのシニア・エマージェンシー・オフィサー、ルイーズ・ウォータリッジ氏によると、トラック109台のうち98台が襲撃され、何人かの輸送員が負傷した。

同氏は「援助物資をガザ南部・中部に運ぶことの難しさを浮き彫りにした。早急な介入がなければ、深刻な食料不足はさらに悪化し、生きるため人道援助に頼っている200万人以上の命がより危険にさらされることになる」と述べた。

イスラム組織ハマスのTVチャンネル「アルアクサ」はガザのハマス内務省筋の話として、援助トラック略奪に関与した20人以上のギャングメンバーが、ハマス治安部隊が部族委員会と連携して実施した作戦で殺害されたと伝えた。

また、このような略奪行為に手を貸した者が捕まった場合は「鉄拳」で処分するとしている。

WFPの広報官は略奪を確認し、ガザの多くのルートは現在、治安上の問題で通行不可能になっていると明らかにした。【11月19日 ロイター】
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こうした支援物資を略奪するギャングはハマスではなく別の勢力で、イスラエル軍はこうした略奪行為を黙認しているとの指摘もあります。

****戦争犯罪で逮捕状が出たICCのネタニヤフの誤算、「トランプ復権」でおののくイラン、混迷の中東情勢の行方は?****
イスラエル軍の無差別攻撃が激化するガザで、武装集団が国連などの人道支援トラックへの襲撃を繰り返し、食料や水を強奪する事件が相次いでいる。

同軍が犯行を黙認しているもようで、パレスチナ住民は深刻な飢餓に直面している。しかし、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪で逮捕状を出されたイスラエルのネタニヤフ首相にガザの治安悪化を止める考えは全くない。

国連援助の半分奪われる
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、ガザで11月16日、食料を運んでいたトラック109台が武装集団の襲撃を受け、98台が強奪された。この事件をはじめ、10月初めにはトラック100台が襲われ、80台が奪われた。この際、運転手4人が射殺されるなど犯行の凶悪ぶりがエスカレートしている。
 
犯行の多くはガザへの支援物資の搬入口であるケレムシャローム検問所から約3キロ付近で行われ、武装集団が道路を封鎖して待ち伏せしている場合がほとんどだ。

国連によると、夏以降に強奪された物資は2550万ドル、日本円にして約40億円にも上っており、「世界国連食糧計画」が南部から搬入した食料支援の半分が盗まれたという。
 
ガザの政情はイスラエル軍の攻撃激化で、治安を維持してきたハマスの警察力が弱体化、2月ごろから急速に悪化した。

支援トラックへの襲撃は当初、飢えに苦しむ住民らの犯行が多かったが、次第に組織的な犯罪集団によるものに変わった。特にイスラエル軍が南部ラファの検問所を閉鎖し、搬入口をケレムシャロームのみに限定したころから武装集団の強奪が横行するようになった。
 
武装集団の狙いは支援物資の缶詰などに隠されてエジプトから密輸されるタバコだった。タバコはガザの住民にとっては現金にも匹敵するような貴重品。現在は20本入り一箱で1000ドル(15万円)近くにまでは跳ね上がっているという。

当初ギャング団はタバコ以外の食料などについては、そのまま放置していたが、トラックごと強奪し、闇市場で売却を始めた。

イスラエル軍は黙認
米ワシントン・ポストによると、ギャング団の黒幕はガザ南部やエジプトのシナイ半島に根を張るベドウィンの「タラビン部族」のヤセル・アブシャバブ一家。約100人の配下がいる。アブシャバブは襲撃を認めたものの、食料強奪は否定している。ハマスには長年抑えられてきた関係だ。

襲撃が行われたのはイスラエル軍の支配地域だが、問題は同軍が強奪を目撃しながら事実上黙認していることだろう。

トラック輸送の安全を確保するよう求めた国連からの要請も無視したとされる。イスラエルはハマスに食料などが渡ることを恐れて支援物資のガザ搬入を渋ってきた経緯がある。

国連はイスラエル軍が武装集団の活動を“保護”していると疑っている。武装集団がハマスの復活を阻む勢力になることを期待する思惑があるようだ。

物資強奪の横行はガザの食料不足にとって最大の障害になっているが、人道支援関係者は「ガザはもはや無法地帯。特に北部の飢餓は深刻だ」と指摘している。ガザではイスラエル軍の攻撃で住民の犠牲は4万4000人を超えた。(後略)【11月26日 WEDGE】 
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支援物資の半分がギャングによって略奪され、こうした略奪をイスラエル軍は黙認している、あるいは保護している・・・民間人犠牲を厭わない爆撃にくわえて、ネタニヤフ首相への国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状を正当化するものでしょう。
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パキスタン  カーン元首相釈放を求める抗議デモに、警察・軍「首都イスラマバードを封鎖せよ」

2024-11-25 23:21:33 | 南アジア(インド)

(パキスタンの首都イスラマバードでは11月24日、収監中のイムラン・カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察が街を封鎖した。写真はバイクで準備する警官ら【11月25日 ロイター】  すごい警備ですね・・・この守備隊と不満を募らせるデモ隊が直接ぶつかったら相当な混乱になりそう)

【首都イスラマバード カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察・軍が街を封鎖した】
****パキスタン首都封鎖、カーン元首相の釈放求める抗議デモに備え****
パキスタンの首都イスラマバードでは24日、収監中のイムラン・カーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモに備え、警察が街を封鎖した。

カーン氏の政党、パキスタン正義運動(PTI)を中心とする支持者らが市内の国会周辺に集まると予想されるため、イスラマバードに通じる高速道路の大半が封鎖された。

市内の主要道路も政府によって輸送用コンテナで封鎖され、重装備した警察と軍関係者が配置された。携帯電話の通信サービスは停止されている。

イスラマバード警察は声明で、いかなる集会も法律で禁止されていると警告した。インターネット監視団体ネットブロックスによると、ワッツアップ使用が制限されているという。

抗議行動を率いるアリ・アミン・ガンダプール氏はデモ参加者に対し、市内の議会や政府機関、大使館などが集まるレッドゾーンと呼ばれる地域に集結するよう呼びかけた。

PTIは、カーン氏を含む指導者らの釈放と、不正な選挙を行ったとして現政権の退陣を求めている。
カーン氏は2022年の政権追放後、汚職や暴力扇動など多くの罪に問われ、昨年8月に収監された。【11月25日 ロイター】
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上記ニュースの意味合いを理解するためには、少なくともここ1年ほどのパキスタン政治の動きを追う必要があります。

なお、“汚職や暴力扇動など多くの罪に問われ”ということで、一体どの罪状で収監されているのかよくわからないところもあります。

【軍の支持を失ったカーン元首相 失職・逮捕】
元クリケット有名選手であり、軍部の後ろ盾を得て首相の座を獲得したカーン氏の失職に至る経緯は以下のようにも。

****カーン元首相****
首相就任後は、外貨準備の枯渇や物価の高騰など経済を低迷させたとして批判が高まり、2022年4月には野党が下院議会に内閣不信任決議案を提出。

与党の一部もこれに同調する動きを見せたため可決される可能性が高まっていたが、カーン寄りの下院議長が採決直前で却下。

カーンは解散総選挙に打って出る方針を表明し、2022年4月3日に議会は解散されたが、野党は最高裁判所に提訴。4月7日、最高裁は議会解散を違憲と判断し、4月10日に内閣不信任決議案の採決が行われ、賛成多数で可決されたため、カーンは即時失職した。

なお、首相を解任されたことについてカーンはアフガニスタンやロシア、中国に対する外交政策上の姿勢を理由に、野党がアメリカと結託して自分を排除したと主張を続けている。【ウィキペディア】
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機密漏洩や汚職など、いろんな罪に問われていますが、かなり強引な感じも。
例えば機密漏洩に関しては、以下のようにも。

****国家機密漏えいの疑惑とは****
訴追の原因となったいわゆる「暗号事件」では、カーン氏が首相在任中、米ワシントンのパキスタン大使から送られた外交機密文書を漏えいしたとされる。

これは、元首相が2022年3月にあった集会のステージ上で、自らに対する外国の陰謀を示すものだとして、文書を振りかざしたのを受けたもの。元首相は国名は挙げなかったが、その後、アメリカを強く批判した。

検察側は、カーン元首相の行為は機密文書の漏えいと外交関係の毀損(きそん)に当たると主張していた。【6月4日 BBC】
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一連の政治・司法の動きの背後には軍部の意向があると推測されます。

パキスタンでは最も強い権限を持つのは軍部であり、首相も軍部の意向で決まることが多いようです。カーン元首相は当初は軍部と良好な関係で政権を獲得しましたが、その後軍部の支持を失い、一連の失職・起訴に至っているとも見られます。

****パキスタンのカーン元首相、汚職罪で禁錮14年 前日にも禁錮10年判決****
パキスタンのイムラン・カーン元首相と妻ブシュラ・ビビ氏が31日、汚職の罪で禁錮14年の有罪判決を受けた。カーン氏は前日、国家機密を漏えいさせた罪に問われた裁判で、禁錮10年の有罪判決を受けていた。

カーン氏は2022年に反対派によって首相の座を追われた。今回の裁判の前にも汚職の罪で禁錮3年の有罪判決を受けており、現在服役中。

カーン氏は、自身に対する訴追はすべて政治的動機に基づくものだとしている。
秘密保持に関する法律に基づく今回の有罪判決は、カーン氏が立候補を禁じられている総選挙を2月8日に控えたタイミングで出された。

カーン氏は言い渡された複数の禁錮刑に同時に服すると考えられている。カーンは昨年8月に拘束されて以来、主にアディアラ刑務所で収監されている。(中略)

カーン氏が率いる政党パキスタン正義運動(PTI)の広報担当は31日、この日の判決により、カーン氏は公職に就く資格を10年間失うことになると説明。「私たちの国の司法制度が解体されつつあるなか、また新たに悲しい日がその歴史に刻まれた」とした。

クリケットの国際的選手だったカーン氏は判決後、自身のX(旧ツイッター)のアカウントに声明を投稿。「平和を保ちながら、2月8日にあなたの一票であらゆる不正に仕返しをする」よう呼びかけた。
さらに、「私たちは棒で追い立てられるようなヒツジではないと示そう」と続けた。(中略)

訴追の原因となったいわゆる暗号事件では、カーン氏が首相在任中、米ワシントンのパキスタン大使から送られた外交機密文書を漏えいしたとされる。(中略)

今回の特別法廷は数カ月間続いたが、国際メディアは法廷に入ることを認められなかった。(中略)
カーン氏の別の側近によると、裁判では弁護団が弁護したり、証人を反対尋問したりすることはできなかったという。(中略)

パキスタンでは2月8日に総選挙が予定されている。この選挙をめぐっては、PTIが公正な選挙運動の機会を与えられていないとしている。

当局はPTIを弾圧してはいないとしているが、同党の指導者の多くは収監されているか亡命している。同党の候補者は無所属で立候補しなければならず、多くが逃亡している。

カーン氏が最初に拘束された昨年5月、警察はPTIの支持者数千人を、場合によっては暴力を使って検挙した。
同党はまた、クリケットのバットのシンボルマークも剥奪された。パキスタンは識字率が低く、有権者が投票先を選ぶうえで、このマークは欠かせないものだった。

今も高い人気を誇るカーン氏とその政党を除外して実施される総選挙については、その信頼性を疑う向きも多い。

勝利が有力視されているのが、昨秋亡命から帰国したナワズ・シャリフ元首相だ。シャリフ氏は、その長いキャリアの大半において強力な軍部の悩みの種となり、カーン氏が勝利した2018年の選挙の前に汚職の罪で収監された。

現在、その立場は逆転している。シャリフ氏の裁判は立ち消えとなり、多くの国民の目には、同市が有力者らに支持されていると映っている。一方で、かつて軍部と良好な関係だとみられていたカーン氏は人気を失っている。【1月31日 BBC】
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【2月の総選挙 カーン氏のPTIは党としては参加できなかったものの、無所属立候補で最大勢力に】
選挙に関するメディアの見立ては往々にして間違うものですが、上記BBCの“勝利が有力視されているのが、昨秋亡命から帰国したナワズ・シャリフ元首相だ”“カーン氏は人気を失っている”という見立ても大きく狂いました。

2月に行われた総選挙では、カーン氏率いるPTIは政党としては参加出来ませんので、党員が無所属として立候補した結果、最大勢力を獲得する結果となりました。ただ、過半数には至らず、PTI系無所属と与党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)、更に爆殺された故ベナジル・ブット元首相の息子ビラワル氏が率いるパキスタン人民党(PPP)の三者の三つ巴の形になりました。

****与野党「勝利」で混乱拡大=双方とも新政権樹立を主張―パキスタン****
パキスタンで8日行われた国民議会(下院、定数336)選挙で、与野党がいずれも「勝利」を宣言し、混乱が広がっている。双方がそれぞれ新政権樹立を主張する構えで、誰が首相となり国のかじ取りを担うのかは見通せない。

「30議席差がついているにもかかわらず勝利演説したナワズ・シャリフは卑しい人間だ。国民は受け入れないだろう」。最大野党パキスタン正義運動(PTI)が9日公開した動画の中で、同党設立者カーン元首相は与党トップをそう批判した。カーン氏は汚職の罪で収監中。声は人工知能(AI)を活用して合成したという。

選管は11日午後(日本時間同)、小選挙区の最終集計結果を公表。獲得議席数は、PTI系が候補の大半を占める無所属が101、与党イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)が75、故ベナジル・ブット元首相の息子ビラワル氏が率いるパキスタン人民党(PPP)が54などとなった。選管は、投票用紙の盗難といった問題があった一部の投票所で再投票を命じた。

実質的にPTIが最大勢力となったものの、公式の政党として第1党になったのはPML―Nだったことが混乱の要因だ。

PTIは今回、党内の手続き上の問題を理由に選管から政党としての参加を認められなかった。PTIは同国で絶大な力を握る軍と対立。選管の決定には、軍や軍と比較的近い与党からの圧力があったとみられている。(後略)【2月11日 時事】
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最終集計では、カーン元首相が支持する無所属候補者が264議席中93議席を獲得して首位、シャリフ元首相の与党「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML─N)は75議席で2位でした。

【連立交渉の結果、PTIは政権を得られず】
いろんな連立交渉が行われましたが、結局イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)と総選挙で3位につけたパキスタン人民党(PPP)が連立政権を継続することに。首相にはナワズ・シャリフ元首相の弟シャバズ氏が。

****パキスタン与党、連立継続で正式合意 最大勢力の野党政権阻止、支持者反発も****
(2月)8日に国民議会(下院)総選挙が行われたパキスタンで20日、イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)とパキスタン人民党(PPP)が連立政権を継続すると正式発表した。

選挙では国民の人気が高いカーン元首相が創設した野党のパキスタン正義運動(PTI)が弾圧されながらも最大勢力に躍進したが、多数派工作で政権樹立を阻止された。PTI支持者の反発が拡大しそうだ。(中略)

カーン氏は首相在任中、政治に強い影響力を持つ軍と対立し、今回の選挙前には複数回にわたり刑事訴追され、出馬を阻止された。PTIも政権側の弾圧で政党活動を制限された結果、多くの議員が無所属で立候補した。

一連のPTI側への圧力や今回の連立合意には、PTI政権誕生を阻止したい軍の意向が働いているとされる。

PTIは21日、連立合意を巡り、X(旧ツイッター)への投稿で「有権者はカーン氏がリーダーになることを望んだ。このままではパキスタンは闇に包まれる」と反発した。【2月21日 産経】
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首相にナワズ・シャリフ元首相ではなく弟シャバズ氏が立てれたのは、ナワズ氏率いる「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML─N)の選挙で伸び悩んだことの責任と、軍部と対立を繰り返してきた兄ナワズ氏に対し、弟シャバズ氏の方が軍部と関係が良いことによるもの。

いすれにせよ、総選挙で最大勢力を獲得したカーン氏のパキスタン正義運動(PTI)は政権参加を阻止されることになり、支持者の不満は募ることに。

【無罪判決が出ても、別件で逮捕され、収監が続く】
7月には、再婚禁止期間に違反して現在の妻と結婚した罪に問われ、一審で有罪判決を受けたカーン元首相と妻に対する二審で、裁判所は逆転無罪判決を言い渡しました。カーン氏には6月にも別事件で逆転無罪判決が出ており、この判決によりカーン氏が釈放されるのかどうかが注目されました・・・・が、結局、別件で逮捕されて拘束が続くことに。

****パキスタンのカーン元首相を逮捕 逆転無罪直後、拘束続く****
パキスタンの汚職捜査機関は13日、カーン元首相を逮捕した。

逮捕直前、イスラム法が定めた再婚禁止期間に違反して現在の妻と結婚した罪に問われた事件の二審判決で逆転無罪となり、釈放の可能性が出ていたが、拘束が続くこととなった。地元メディアが報じた。

カーン氏はパキスタンの国民的スポーツ、クリケットの元スター選手で、野党パキスタン正義運動(PTI)を設立し、支持は厚い。支持者は新たな逮捕に反発しており、デモなどに訴えれば政情に影響が出る可能性もある。

詳しい逮捕容疑は不明だが、地元メディアによるとカーン氏が公職に就いていた際の寄贈品に関する捜査とみられる。【7月14日 共同】
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以上のように、そもそもカーン氏が拘束されているのも支持者からすれば政治的な言いがかりであるのに加え、軍の圧力で総選挙に党としては参加出来ず、無所属立候補で最大勢力になったにもかかわらず政権を得られず、裁判で無罪になってもすぐに別件で逮捕される・・・・ということで支持者の怒り・不満が募っている状況での冒頭のカーン元首相の釈放を求める大規模な抗議デモです。

相当に荒れそうだということで、警察、更には軍が首都イスラマバードを封鎖するという厳戒態勢となっています。
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ロシア  消耗戦のウクライナ戦線の兵員もバブル状態の経済も兵員・人手不足

2024-11-24 23:10:50 | ロシア

(露中部カザンで、契約締結時は「最大210万ルーブル」と書かれた募集の貼り紙がある地下鉄の入り口(10月25日)【11月24日 読売】)

【「肉ひき器」戦略で兵士不足 あの手この手の志願兵確保対策】
ロシアはウクライナの戦線で犠牲者の増加を厭わない戦術をとっていると以前から言われています。

****「肉ひき器」戦略****
私たちが話を聞いたロシア兵によると、ロシアのいわゆる「肉ひき器」戦略は減速することなく続いているという。
この表現は、ウクライナ軍を消耗させ、ロシアの砲兵にウクライナ軍の位置が露呈するように、ロシア政府が容赦なく兵士を前方に送り込むというやり方を表すために使われている。

オンライン上で共有されているドローン(無人機)映像には、ロシア部隊が装備や大砲や軍用車両の支援がほとんどあるいは全くない状態で、ウクライナ軍の陣地を攻撃している様子が映っている。【9月20日 BBC】
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こうした戦術の結果、当然に犠牲者は増加します。

****ロシア軍兵士の死者7万8000人以上に” 英BBCなどが独自調査****
ロシアがおととし始めたウクライナへの軍事侵攻で、これまでに確認されたロシア軍兵士の死者の数は7万8000人以上に上るとイギリスのBBCなどが伝えました。(中略)

15日に報じられた最新の調査結果によりますと、これまでに確認できた死者数は7万8329人に上っているほか、ことし9月から今月にかけて死者の数が去年の同じ時期と比べておよそ1.5倍に増えているとしています。

死者が増加しているのは、ロシア軍がウクライナ東部のドネツク州で兵士の犠牲をいとわない攻撃を続けていることなどが背景にあると見られます。(後略)【11月17日 NHK】
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またBBC調査では、戦死者の約20%が志願兵(開戦後にロシア軍に加わった民間人)だったことも指摘されています。

志願兵はほとんど訓練もされないまま、粗末な装備で前線に送られ「肉ひき器」戦略を担っています。

こうした兵士の消耗を補うべくロシア当局は、ウクライナ侵攻に加わる兵士らが抱える借金を1千万ルーブル(約1480万円)を限度に返済免除とするという「借金帳消し」などを含むあの手この手で志願兵確保に躍起となっています。

****プーチン政権、志願兵確保に躍起…一時金の追加メニュー・債務免除・帰還時の優遇措置****
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略に従軍する志願兵の確保に躍起になっている。

契約の際に支給される一時金など金銭面の補償や、帰還後の待遇など、優遇策は枚挙にいとまがない。前線での犠牲者が増える中、受刑者の活用や北朝鮮からの兵士派遣でも需要を満たせず、国民に不人気な動員には踏み切れない苦しい現状が透けて見える。
 
10月下旬、ロシア中部カザン。郊外の地下鉄駅そばの露軍事務所には、契約書類を書くため窓口に列を作る男性たちの姿があった。

「勝利の軍団に参加を」
街中のビラにはスローガンの横に、契約時の一時金「最大210万ルーブル」(約310万円)の数字が躍る。

ウクライナ侵略での前線地域なら月収として「最大21万ルーブル」(約31万円)。国民の平均月収約7万ルーブル(約10万円)の3倍にあたる。

軍事務所のホームページによれば、「攻撃作戦への参加で8000ルーブル」「ヘリ撃墜で20万ルーブル」「戦車破壊で50万ルーブル」など追加の一時金のメニューもある。

申請を済ませた30歳代の男性は「愛国心から応募した」としつつ、一時金にも満足げだ。「これだけあれば、残す家族も生活に困らないはず」。契約が完了すれば、前線に1年送られる。

プーチン大統領は今月23日、少なくとも1年間、ウクライナ侵略に従軍する兵士として契約すれば、最大1000万ルーブル(約1480万円)の債務を免除する法律に署名した。受刑者が契約で恩赦や犯罪歴の抹消などを認められる法律に続き、なりふり構わない措置だ。

今年7月には、契約時に連邦政府から支給する一時金をこれまでの約2倍に増額し、地方当局にも加算を促した。モスクワでは、連邦政府とモスクワ市などの合計で、一時金は520万ルーブル(約770万円)まで跳ね上がっている。

帰還した元兵士には、就職や大学進学の優遇措置、家賃補助などの支援もある。プーチン氏は2月の年次教書演説で前線の兵士ら「愛国者」こそ次代を担うリーダーだと訴え、優遇の必要があると公言している。

元兵士を行政幹部や議員に登用する動きも相次ぐ。(中略)9月の統一地方選でも元兵士が与党から各地の議会選に出馬し、多数の議員が誕生した。

徹底した優遇策で志願兵を募るのは人的資源の確保に苦しむ証拠だ。英BBCと露独立系メディア「メディアゾナ」によれば、確認されただけで露軍兵士の死者数は今月中旬時点で7万8000人超だ。

政権は22年9月の部分動員で世論の反発を招き、支持率を下げた。

一時金などの支払いでにわかに大金を手にした兵士や家族の羽振りが良くなり、国内消費を押し上げているとの指摘があるほどだ。

ただ、金銭目的だけで軍と契約する人ばかりというわけでもなさそうだ。カザンの軍事務所を訪れた別の30歳代男性は二度目の従軍だが、前回の従軍から帰還後、平和な日常では「居場所がなかった」と打ち明けた。「従軍希望者には、お金目的や、スリルを味わいたい人もいる。ただ、自分のように社会からはみ出した人間もいるんだ」【11月24日 読売】
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【西側想定を裏切るロシア経済の活況 バブル状態 制約は人手不足】
ロシア軍の侵攻に伴って制裁を課した西側では、当初、ロシア経済は制裁の効果で悪化し、国民の生活は苦しくなり、不満が増加する・・・と予想されていましたが、上記記事にあるような兵士への大盤振る舞い、軍需産業への政府資金投入等もあって、ロシア経済は「バブル」とも言えるような活況を呈しているようです。ただ、経済面でも制約となっているのが人手不足。

*****国際社会から経済制裁を受けているはずのロシアでなぜ…
ウクライナ侵攻後のロシアで「予想外のバブル」が起きていた*****
なぜロシアにバブルが起きているのか? フィナンシャル・タイムズ(英国)

政府支出の急増と人手不足が引き金となって実質賃金が高騰し、ロシア国民はお金を湯水のように使っている。そこには景気過熱のリスクがあると英紙は指摘する。

予想に反したバブル到来
2022年、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始すると、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク在住のアントンは、自身が経営するレストランが最悪の事態に見舞われるのではないかと危惧した。外国人旅行客は姿を消し、西側諸国の制裁によるロシア経済崩壊を見越して金利は急上昇。地元住民も外食どころではなくなった、とアントンは話す。

しかし、これは取り越し苦労だった。ここ2年で状況は完全に回復し、お金に余裕ができたロシア人は消費に意欲的だ。

対ウクライナ戦争が長期化するにつれ、戦時下にある防衛産業が好況で給与が上昇すると、民間企業も同様に給与を上げないと、深刻な人材不足のさなかに労働者を呼び込めなくなった。こうしてロシアは思いがけず、個人消費ブームを迎えた。

「実質賃金は急上昇しています」と話すのは、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲだ。「ウクライナへの全面侵攻前は収入がスズメの涙ほどだった人も、不意に大金を手にするようになっています」。ロシア連邦統計局によると、実質賃金は14%近く上昇し、財・サービスの消費はおよそ25%の伸びを見せている。

ロシアのマクロ経済分析・短期予測センター(CAMAC)によると、2024年は実質賃金がさらに3.5%、実質可処分所得も3%の上昇が見込まれている。

失業率については、2022年には7%から8%に達すると予測されていたが、2024年4月時点で2.6%と、ソビエト連邦崩壊以降で最低となった。爆発的な賃金上昇は、社会や経済のあちらこちらで実感でき、各種ブルーカラー労働者の生活は一変した。

政治学者エカテリーナ・クルバンガリーヴァはいくつか例を挙げている。たとえば、織工の月収は2021年12月時点で250ドルから350ドルだったが、いまや月1400ドルだ。長距離トラック運転手の平均収入は、前年比で38%増えた。

加えて、西側諸国の制裁とロシア政府による資本統制の影響で、富裕層の資金が国内にとどまっているため、ラグジュアリー分野が好調だ。歴史的文化都市として知られるモスクワとサンクトペテルブルクはいま、にわか景気に湧く現代の新興都市という様相を呈している。

「世界最高」のモスクワとなった理由
モスクワ在住の夫婦は、自宅がある高級マンションの前を通る高級車の台数を数えている。隣人は、ペットのライオンが写っている写真を自慢げに見せてくるそうだ。(中略)

ロシアのある企業トップは本紙に対し、「(ウクライナ侵攻が始まった)2022年2月以降にロシアを出国した知り合いはほぼすべて、帰国した人も旅行中の人も、モスクワは世界最高だと絶賛しています」と述べた。

多くのロシア人が、家計は上向いていると感じている。家計について「良い」と回答したロシア人は13%を超え、ロシア連邦統計局によれば、1999年の統計開始以来、最高となった。また、「悪い」あるいは「非常に悪い」と回答した割合は史上最低で、それぞれ約14%と1%だった。

そこで気になるのが、この狂騒はいつまで続くのか。そして、どのような結末が待っているのか、ということだ。

エコノミストは、この好況を主に支えているのは政府支出だと指摘する。直接の支出先は防衛産業だが、農業やインフラ、不動産市場など他セクター支援を通じても間接的に資金が投じられている。(中略)

「数字だけ見れば、ロシアのマクロ経済政策はバランスを完全に欠いています」。フィンランド銀行新興経済研究所のイッカ・コルホネン所長はそう話す。

「この一大消費ブームがほかの経済セクターに波及していることを物語っています」とコルホネン所長は述べ、物価が上昇していると指摘する。「これまでのところ、インフレ率を抑制できておらず、政府と中央銀行にとっては悩みのタネとなっています」

差し当たっては、ロシアの消費者が新たに手にした富によって、国内の経済と社会そのものが新しい方向へと発展しつつある。

政治学者クルバンガリーヴァによれば、所得がもっとも大きく変化した層は、軍関係者とブルーカラー、およびグレーカラーの労働者だ。宅配業者の現在の収入は月20万ルーブル(約31万円)で、国内の一流科学者で構成されるロシア科学アカデミーの会員と肩を並べている。

「ロシア国民の収入はアップしています」。カーネギー国際平和財団ロシアユーラシア・センター研究員のアレクサンドラ・プロコペンコはそう話す。「そこでロシア人はどうしているのかというと、お金を湯水のように使い、国内需要を生み出しています」(中略)

バブルが起きたカラクリ
ウクライナ戦争勃発時、ロシアで個人消費ブームが起きるなどとは、予想すらされていなかった。ドイツ国際安全保障研究所(SWP)のクルーゲは、「2年前はまったく異なる状況を描いていました。基本的には、輸出が立ち行かなくなり、失業者があふれ、ロシアの景気は悪化すると見込んでいたのです」と話す。ところが、いまは「まったく異なるシナリオ」が進行中だ。

ウクライナ侵攻の直後、ロシア中央銀行はいわゆる「金融要塞」を築くべく、政策金利をすぐさま9.5%から20%に引き上げ、資本規制を導入。しかし、ロシアの輸出は予想以上に持ちこたえ、制裁対象となっている財の大半を第3国から並行輸入して確保することに成功した。

フィンランド銀行新興経済研究所のコルホネンによれば、ロシアは2022年秋までに大幅な軍事調達の手はずを整えたという。「以降、それを原動力に経済を動かしてきました」

ウクライナ侵攻前年の2021年に比べ、政府支出は20%増加し、ロシア経済における政府支出の割合は推定で50%から70%に達している。6月の報道によれば、ロシア中央銀行は政府支出がGDP成長の主な原動力であることを認めたようだ。

戦争関連の支出(機械製造や前線兵士用衣類の生産、燃料生産、ウクライナ戦争で戦う兵士ならびに死亡した兵士への支払いなど)は大幅に増加し、ウクライナ侵攻前はおよそ23%だったが、現在は40%近い。(中略)

バブル後の懸念
中央銀行が記録的水準まで金利を引き上げても、消費ブームを抑制できなかった。それはつまり、いまでは経済が政府支出に大きく左右されている証しだと、ほかのエコノミストは指摘する。(中略)

前述した元政府高官も同様に、中央銀行による従来型の金融措置はもはや、以前のような効果を発揮しないと考えている。「中央銀行は金融の要塞を構築しました。経済ははるかに粘り強いのですが、中央銀行が手を打っても反応していません」

こうした状況は変わりつつあるのかもしれない。証券会社のフィナムはすでに、消費活動の減速を予測しているとベレンカヤは言う。賃金上昇の鈍化が予測され、金融引き締めが続いているためだ。

「実質賃金がこのまま上昇を続けるとは思いません」と、フィンランドのコルホネンは言う。「2024年は、生産の伸び率が低下しはじめるでしょう。何しろ、人材が足りていません」

サンクトペテルブルクでレストランを経営するアントンは、人手不足をひしひしと感じている。「驚くほど人手が足りないのです」とアントンは吐露する。「シェフもウェイターもバーテンダーもいません。みんな出国してしまってどうしようもないのです。サービス業界では多くの人が去っていきました」

労働者不足は深刻化している。ロシア第1副首相デニス・マントゥロフによると、防衛部門では、ここ1年半で民間職から50万人を引き抜いたにもかかわらず、専門性の高い人材が約16万人不足しているという。ロシア労働社会保障省の予測では、2030年までに240万人の労働者が不足する。

ロシアはゆくゆく、イランと同じ道をたどる可能性がある。つまり「資金が国内に滞った結果、不動産価格が異常に高騰し、株価が過剰に上昇し、生活の質が低下する」ことになるかもしれないと、ロシアの企業トップは話す。

ロシア経済の問題は、大きな不確定要素として戦争を抱えていることだと、ロシアユーラシア・センター研究員プロコペンコは言う。「経済全体が、前線の状況によって大きく左右されるようになっているのです」【COURRIER Japon】
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【長期的にも労働力不足 「国家の発展のためには移民が必要」(大統領府報道官)】
ロシアは人口減少を止めるべく“「子ども持たない主義」宣伝禁止”なども行っていますが、目下の人手不足をとりあえず埋める手段となると「移民」でしょう。ロシアでは従来から中央アジアからの移民労働に頼ってきています。

****ロシア、労働力不足補う「移民必要」****
ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は22日公開のインタビューで、国内の労働人口が減少しているため、国家の発展のためには移民が必要との考えを示した。

ペスコフ氏は国営ロシア通信に対し、「移民が必要だ」「わが国の人口動態は逼迫(ひっぱく)している。われわれは世界最大の国に住んでいるが、人口はそれほど多くない」と述べた。

ロシア議会は今週、「子なしプロパガンダ」を禁止する法案を可決。個人や団体が他者に対し、子どもを持たないのを奨励することを事実上禁止した。

ソ連時代から続き、ウクライナ紛争以降、さらに悪化している人口危機の解消が狙い。

ペスコフ氏は「ダイナミックな発展を遂げ、すべての開発プロジェクトを実行するには労働力が必要だ」として、ロシア当局は移民を歓迎していると強調した。

だが、ロシアでは反移民感情が根強く、経済の主要部門を担う中央アジアの旧ソ連構成国出身の出稼ぎ労働者が主な標的とされている。

大統領府は7月、人口減少が「国の将来にとって大惨事」であることを認めた。
ウラジーミル・プーチン政権は大家族を対象に多額の給付金や住宅ローン補助金を給付するなどの対策を取っているが、人口は旧ソ連時代以降、回復していない。

最近の人口問題には、低出生率、新型コロナウイルスによる超過死亡に加え、数十万人の男性がウクライナ侵攻への動員を逃れて出国したことが挙げられる。

報道機関RBCが引用したロシア連邦統計局の推計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率は2023年は1.41で、人口を維持するのに必要な2.0を大幅に下回った。

統計局によれば、今年1〜9月の出生数は、前年同期比3.4%減の92万200人だった。ロシアメディアは、1990年代以降で最低だと報じている。 【11月23日 AFP】
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フィリピン  国内ではドゥテルテ家と、国外では中国との対立激化

2024-11-23 23:51:38 | 東南アジア
(フィリピンのマルコス大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領=マニラで2022年6月、ロイター【11月23日 毎日】  蜜月時代の写真です。 サラ氏がおとなしくマルコス氏に従うとは思っていませんでしたが・・・)

【次期大統領とドゥテルテ前大統領の麻薬問題に絡む超法規的殺人及びICC逮捕状をめぐるドゥテルテ家とマルコス大統領の争い】
フィリピンでは国の内と外で争い・対立がヒートアップしています。

国内の方は、いささか週刊誌ネタ的ですが、ドゥテルテ前大統領とその娘サラ副大統領のドゥテルテ家と名門マルコス家のマルコス大統領の争い、国外では以前からの中国との領有権をめぐる争いです。

では「殺し屋を雇った」云々の週刊誌ネタの方から

ドゥテルテ家とマルコス大統領の間にはふたつの争いの種があります。ひとつは次期大統領をめぐる確執。

“マルコス氏が今年初め、公職の任期を制限している憲法の規定の見直しに言及したことから、ドゥテルテ一家が「大統領任期の延長を模索している」と猛反発。両家の間に亀裂が生じ、サラ氏は6月には兼務していた教育相などの辞任を表明した。下院は現在、サラ氏の公金不正使用疑惑に関する公聴会を開いている。”【11月23日 時事】

ドゥテルテ家としてはマルコス大統領誕生にサラ氏が協力してやったのだから、次はサラ氏に・・・という思惑(合意?)がありますが、マルコス大統領側にそれを無視するような動きがあるとの不満があるようです。

これだけであれば「水面下」の争いになりますが、争いを表沙汰にしているのがもう一つの火種、ドゥテルテ前大統領の任期中の麻薬問題取締りに関する超法規的な殺人、それに対する国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状の扱い。

ドゥテルテ前大統領は2016年の就任後、麻薬犯罪の撲滅を掲げ、強硬な取り締まりを主導。警官による容疑者の殺害を事実上容認しました。フィリピン政府によると死者は6千人超、国連人権高等弁務官事務所は20年の報告書で8663人が死亡したとしています。人権団体調査では2万人を超えるとも。なかには無関係の者を殺害とか、麻薬を名目にした警官による殺人とか・・・いろんなケースも。また、警官でもない謎の集団が麻薬関係者と思われる者を殺害してまわったとも。

ICCの検察局は2018年、フィリピン人弁護士の告発を受けて予備調査を開始。21年9月に正式な捜査を承認しましたが、フィリピン側が「すでに捜査している」などと主張したため、21年末に中断していました。

しかし、ICCの検事が、2022年6月に発足したマルコス政権が徹底した調査を実施している証拠を示していないとし、調査の再開を求めました。それを受け、ICCは調査の再開を承認。2023年1月26日の声明で、フィリピンが十分な捜査を行っていないと指摘しました。

ドゥテルテ・マルコス両者の間には大統領選挙で協力するにあたり、前大統領の麻薬取締り問題の責任を問わない・・・といった合意の類があったようにも見受けらますが、ここにきてマルコス大統領がICCに協力する姿勢を見せていることに、ドゥテルテ側が反発を強めています。マルコス大統領の対応は、前述の次期大統領をめぐる争いも絡んのことでしょう。

****フィリピン、ドゥテルテ前大統領に逮捕状なら国際刑事裁に協力へ****
フィリピン政府は13日、ドゥテルテ前大統領が進めた違法薬物の取り締まりで数千人が死亡した問題について、ドゥテルテ氏が国際刑事裁判所(ICC)への自首を望むのであれば阻止しないと表明、同氏に逮捕状が出れば従わざるを得ないと述べた。

ドゥテルテ氏は同日、議会の公聴会でICCを恐れてはいないと発言。ICCに対し人道の罪を巡る捜査を「急ぐ」よう求めた。

マルコス大統領の事務所は数時間後に声明を発表し、国際刑事警察機構(インターポール)から要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討すると表明。

ベルサミン官房長官は「政府は国際逮捕手配書が出れば、応じる必要のある要請だと感じるだろう。その場合、国内の法執行機関は全面的な協力しなければならない」と述べた。

フィリピン政府がICCに協力する意向を示唆したのは初めて。

ドゥテルテ氏はICCが違法薬物の取り締まりを巡る予備調査を開始したことを受けて、2019年3月にフィリピンのICC脱退を決めた。【11月13日 ロイター】
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ドゥテルテ前大統領は公聴会で「(ダバオ市長時代に自らが)少なくとも6人を殺害した」と挑発的な発言も

****ドゥテルテ前大統領 違法薬物取り締まりで「少なくとも6人殺害した」ICCを挑発…“麻薬戦争”めぐる捜査にフィリピン政府は協力姿勢を表明****
フィリピンで「麻薬戦争」と呼ばれる強硬な取り締まりを行ったドゥテルテ前大統領が、自らも容疑者などを殺害したことがあると明らかにしました。フィリピン政府は、国際刑事裁判所の捜査に協力する姿勢を見せていて、逮捕の可能性も浮上しています。

「麻薬犯罪の撲滅」を掲げていたドゥテルテ前大統領は、容疑者の殺害もいとわない強硬な取り締まりを行い、人権団体によりますと、死者は2万人を超えるとされています。

現地メディアによりますと、ドゥテルテ氏は13日、2回目となるフィリピン議会の公聴会に出席し、自身も大統領就任前に「少なくとも6人を殺害した」と明らかにしました。

そのうえで、ドゥテルテ氏を人道に対する罪で捜査しているICC=国際刑事裁判所に対し、「ここに来てあすにでも捜査をはじめてほしい。私は怖くない」と述べ、挑発しました。

こうした発言を受け、フィリピンのベルサミン官房長官は、ドゥテルテ氏の逮捕が要請された場合、司法当局には協力する義務があると表明。現在のマルコス政権がICCに協力する姿勢を見せたのは初めてで、今後の捜査の行方が注目されます。【11月14日 TBS NEWS DIG】
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就任前の南部ダバオ市長時代には、ギャングで組織する「殺人部隊」を麻薬対策に当たらせていたとも証言しています。

「やれるものならやってみろ。逮捕? 上等じゃないか。どうぞ逮捕してくれ」とったようにも聞こえます。
ドゥテルテ前大統領の強気の背景には、国民的支持があります。麻薬問題に関しても、前大統領の強硬な取締りのおかげで治安が回復したとの評価があります。

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(ICCがドゥテルテ氏の逮捕を要請した場合、身柄拘束に協力する意向を表明した)マルコス氏の発言の背景には、ドゥテルテ家との対立がある。

ドゥテルテ氏の長女であるサラ副大統領は、28年の次期大統領選挙への出馬をにらみ、現政権を支えるべき立場でありながら政権批判を繰り返している。

ドゥテルテ氏も、25年5月の中間選挙(上下両院選、地方選)にあわせ、ダバオ市長選出馬を表明しており、当選すればサラ氏を勢いづけることになる。

根強い支持
ただし、ドゥテルテ氏への支持は国民の間でいまだに根強い。マルコス政権がドゥテルテ氏の包囲網をさらに狭める姿勢をとれば、「逆に同情票という形でドゥテルテ家を利する」(フィリピン政治専門家)との見方があり、ドゥテルテ氏もこうした効果を狙って一連の証言をしている可能性も指摘されている。

政権は選挙を前に、ICCや世論の動向を見ながら、慎重に対応を検討するとみられる。【11月16日 読売】
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両家の対立はヒートアップ、(こわもてで知られる父親の前大統領以上に強気とも評される)サラ副大統領からは「殺し屋(ヒットマン)」云々の発言も。

****フィリピン副大統領、対立するマルコス大統領夫妻に「殺し屋雇った」****
フィリピンのマルコス大統領夫妻らに対し、ドゥテルテ前大統領の長女サラ副大統領が「殺し屋を雇った」と発言し物議を醸している。大統領府は23日、これを「脅迫」とし、早急な措置を取ると発表した。

サラ氏は、機密費の不正使用を指摘され、下院などによる調査が続く。地元メディアによると、サラ氏は23日未明、疑惑に関する記者会見の中で、自身の命が狙われているとし、「もし私が殺されたら(殺し屋が)大統領らを殺す。ジョークではない。すでに指示を出した」と述べた。

これに対し大統領府は声明で「大統領の生命に関するいかなる脅迫も深刻に受け止められる。今回は、公の場で明確に行われており、なおさらだ」とし、大統領の身辺警護を強化する方針を示した。

マルコス氏とサラ氏は、2022年の正副大統領選で共闘してそれぞれ当選したが、その後、関係が悪化。ドゥテルテ氏が大統領在任中に進めた超法規的な麻薬撲滅作戦についても、上院などの調査が続いており、マルコス氏とドゥテルテ家の対立が高まっている。【11月23日 毎日】
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“サラ氏は会見で「マルコス氏の妻といとこの下院議長も対象だ。これは冗談ではない」と言明。「ヒットマンには最後までやり抜けと命じた」と語気を強めた。

サラ氏はこれまで、マルコス氏について「首を切り落としたいぐらい無能だ」と指摘。「私たち家族に対する攻撃をやめなければ、マルコス氏の父、マルコス元大統領の墓を掘り起こして遺骨を南シナ海に捨てる」などと述べていた。【11月23日 時事】”

まあ、サラ副大統領も“もし私が殺されたら”という条件付きの殺害指令ではありますが・・・

全体のイメージとしては、こわもて揃いのドゥテルテ側は、当初は名門マルコス家の世間知らずの御曹司などいかようにも操れるという思いがあったのでは・・・しかし、実際にはマルコス大統領は独自に動き回るようになって、ドゥテルテ側では怒りを募らせている・・・というようにも見えます。あくまでも個人的な感想です。

【フィリピンは南シナ海での自国の権利を明確化する法律 中国は領海の基線を設定】
マルコス大統領が政策面で“独自色”を出しているのが、ドゥテルテ時代の宥和的な対応から変わった対中国強硬姿勢です。

フィリピンと中国の南シナ海での領有権をめぐるこれまでの争いは周知のところですので省きます。

****比、南シナ海での権利明確化…法律施行へ 中国側は反発****
フィリピンのマルコス大統領は8日、南シナ海での自国の権利を明確化する法律に署名しました。近く施行される見通しで、中国側は反発しています。

南シナ海ではフィリピンと中国が互いに領有権を主張し両国の船が衝突を繰り返しています。

地元メディアなどによりますとフィリピンのマルコス大統領は8日、国際法に基づいた南シナ海での主権や権益を明確化した法律に署名しました。

新たな法律では漁業権や船の航行などについて、フィリピンの権限を明確化していて、海域内で権利侵害があった場合、罰則を科す場合もあるということです。この法律は近く施行される見通しです。

一方で、中国側は今年6月、中国が主張する領海内に違法に侵入した外国人を最長で60日間拘束できるとする法令を施行しています。

フィリピンの新たな法律を巡って、中国側は8日、厳粛な申し入れを行うためとして中国のフィリピン大使を呼び出したということで、フィリピンと中国の間でさらに緊張が高まる恐れがあります。【11月8日 日テレNEWS】
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今回署名された法律は、南シナ海での自国の権利が及ぶ範囲を明確化する海域法などです。

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新たな海域法では、領海や排他的経済水域(EEZ)を定めた国連海洋法条約などを基に、南シナ海でのフィリピンの海域と権限を改めて規定した。

中国は南シナ海のほぼ全域に自らの主権や権益が及ぶと主張しているが、これを否定した2016年のオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決も根拠とした。

外国に対して、国際法に基づく権利と義務に配慮するとしつつ、比海域内で権利侵害があった場合には刑法を適用するとした。60万ドル以上100万ドル以下の罰金を科す場合もあるとしている。官報に掲載後、15日後に施行される。【11月8日 毎日】
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これに対し中国は・・・

****中国「黄岩島」に領海基線 南シナ海、実効支配強化****
中国政府は10日、フィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)を巡り、領海の基線を定めたと発表した。国営通信新華社が伝えた。

同礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、中国は領有権を主張している。基線制定は自国領との主張を改めて強調し、実効支配を一段と強める狙いとみられる。
 
基線は領海やEEZの範囲を測定する際の基準となるもので、干潮時の海岸線を基本とする。フィリピンは8日、南シナ海の権益を守るため、国際法に基づき領海やEEZを定める海域法を成立させており、中国は基線制定で対抗する考えだ。【11月10日 共同】
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こうした中国の対応に、当然ながらフィリピン側は反発を強めています。

****フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」、南シナ海巡る圧力に反発****
フィリピンのテオドロ国防相は12日、キャンベラでマールズ豪国防相と会談した後、南シナ海での主権的権利を譲るよう迫る中国からこれまで以上に圧力を受けていると述べた。フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」とも語り、こうした圧力に反発した。

両国防相の会談は2023年8月以来5度目。南シナ海での中国の活動に懸念を表明している豪比は安全保障上の関係を強化している。

テオドロ氏は、中国の主張と行動は国際法に反しており、オーストラリアのようなパートナーとの安保協力は中国の侵略を抑止する重要な手段だと述べた。

「彼ら(中国)は国際法の下で行動していると主張するが、彼らのやっていることが国際法の基本的な考えに反していることは誰もが知っている」と指摘。「その最大の証拠は誰も彼らの行動や活動を実際に支持していないことだ」と語った。(後略)【11月12日 ロイター】
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フィリピン外務省は13日、中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領海基線を発表したことを巡り、中国大使を呼び「中国の基線はフィリピンの主権を侵害し、国際法に違反している」と抗議しています。

こうした状況で、両国の争いの中心に位置する問題でもある仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにしたましたが・・・・

****フィリピンが南シナ海座礁艦船に物資補給、中国は「許可」と主張****
中国は15日、南シナ海にある係争中の仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにした。

フィリピン沿岸警備隊は声明で、シエラマドレ号の人員を交代させ、同艦に物資を送ったと説明した。

中国は南シナ海のほぼ全域の領有権を主張しており、シエラマドレ号は「違法に」座礁したと見なしている。海警局は同艦への物資輸送について「許可を得て」行われたと説明した。

フィリピン沿岸警備隊はこの主張に反応を示していない【11月15日 ロイター】
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この件での中国側報道では・・・

****中国海警局報道官、比「座礁」軍艦への物資補給で談話****
中国海警局の劉徳軍(りゅう・とくぐん)報道官は15日、フィリピンが南沙群島の仁愛礁に座礁させた軍艦に補給物資を送ったことについて談話を発表した。

劉氏は次のように述べた。フィリピンは14日、中国の許可を得て民間船を派遣し、仁愛礁に不法に「座礁」させた軍艦に生活物資を搬送した。中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した。

フィリピンが約束を誠実に守り、中国と共に歩み寄り、海上情勢を共同でしっかりと管理することを希望する。中国海警は引き続き法に基づいて仁愛礁を含む南沙群島およびその周辺海域で権益擁護・法執行活動を行う。【11月15日 新華社】
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“中国の許可を得て民間船を派遣し、・・・・中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した”
完全に中国側の支配権をフィリピン側が認めたような表現です。

真相はわかりません・・・が、これまで再三衝突が起きているシエラマドレ号への物資補給ですから、フィリピン側から中国への何らかのコンタクトがあっても不思議ではありません。あくまでも想像です。真相はわかりません。

【フィリピン  アメリカ・日本と協調して中国に対抗する戦略 米の政権交代で?】
フィリピンはアメリカ、更には日本とも協調して中国に対抗する構えです。

****米比、軍事情報協定に署名 日本とも交渉、連携強化を目指す***
オースティン米国防長官とフィリピンのテオドロ国防相は18日、マニラで、トランプ米次期政権の発足を前に軍事機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に署名した。

テオドロ氏は今年5月、共同通信に対し、米国との締結後、日本ともGSOMIA交渉に入る方針を示しており、日米比で一層の連携強化を目指す。

南シナ海で威圧を強める中国に対抗し、国際法に基づく海洋秩序を唱える米比は、GSOMIAの年内締結を目指して交渉を続けてきた。

オースティン氏は、相互防衛条約を結ぶフィリピンとの連帯は「揺るぎない」とし、「同盟関係を超えた家族だ」と指摘した。

テオドロ氏は、インド太平洋地域の平和維持には米国が必要だとのマルコス政権の立場を強調。「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」と述べ、米政権交代後の協力維持への期待感を示した。

中国外務省の林剣副報道局長は、米比がGSOMIAに署名したことに「いかなる軍事協定も第三国の利益を損ねてはならない」と述べてけん制した。【11月18日 共同】
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「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」・・・そうでしょうか? トランプ氏にそういう価値観はないように思えますが。
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イスラエル  国内外に多くの問題を抱えるネタニヤフ首相 来年になれば援軍トランプ氏が復権

2024-11-22 23:49:47 | 中東情勢

(【11月17日 ABEMA news】)

【ネタニヤフ首相 今年限りのバイデン大統領を辛辣に批判】
イスラエルを支持するアメリカ・・・という構図は今も変わっていません。

****ガザ即時停戦決議案、米の拒否権で否決 停戦めぐり米の拒否権行使は5回目****
パレスチナ自治区ガザ地区で人道危機が深刻化する中、国連の安全保障理事会は20日、即時停戦を求める決議案を採決しましたが、アメリカが、またしても拒否権を行使し、否決されました。

イスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘が続くガザ地区をめぐり、日本を含む非常任理事国10か国が共同提案した安保理決議案は、すべての当事者に即時かつ永続的な停戦を求めています。また、無条件での人質の解放や人道支援の確保を呼びかけています。

採決では、理事国15か国のうち日本を含む14か国が賛成しましたが、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカが拒否権を行使し、否決されました。投票後、アメリカは、「人質の解放を伴わない無条件の停戦は支持できない」と反対の理由を説明しました。

米・ウッド国連代理大使「この決議案はハマスに対して『交渉のテーブルに戻る必要はない』という危険なメッセージを送ることになる」

去年10月以降、ガザ地区での停戦などを求める決議案にアメリカが拒否権を行使するのは、今回で5回目です。【11月21日 日テレNEWS】
********************

ただ、アメリカ国内にはアラブ系市民や若者の反イスラエルの動きが先の大統領選挙でも注目されましたし、戦闘を終息させたいバイデン大統領と戦闘を継続したいイスラエル・ネタニヤフ首相の間には溝もあります。

来年の政権交代を控え、もはや「死に体」となったバイデン大統領に遠慮する必要がなくなったネタニヤフ首相は辛辣な発言も。

****イスラエルのネタニヤフ首相、米バイデン大統領の判断を的外れと批判 ガザ地区の戦闘について****
イスラエルのネタニヤフ首相は18日、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘について、アメリカのバイデン大統領の判断は的外れだったと批判しました。

イスラエルメディアによりますと、ネタニヤフ首相は18日の演説で、ガザ地区での戦闘を巡り、分岐点におけるバイデン大統領の判断を繰り返し批判しました。

ネタニヤフ首相は、ガザ市やハンユニス、とりわけエジプトとの境界があるラファへの地上部隊の投入に、アメリカが反対したと発言。

イランがイスラエルに大規模攻撃を行った際にも「報復する必要はないと言われたが、我々は行った」とし、助言は的外れだったと主張しています。

一方、トランプ氏が大統領に就任した後、イランの核開発計画に対抗するイスラエルの軍事力をアメリカとともに見直すだろうとも語っています。

ネタニヤフ首相は、先月のイランへの攻撃により、核開発計画に関する一部施設に打撃を与えたことも明らかにしました【11月19日 日テレNEWS】
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ネタニヤフ首相が期待していたトランプ氏が復権することで、アメリカとイスラエルの間の溝は完全に埋まり、両国は一体となって行動することになります。

イスラエル側は、完璧にイスラエル支持のトランプ氏復権に花を添える「贈り物」を用意しているとも報じられました。

****イスラエル、レバノンでの停戦案準備か トランプ次期大統領へ““贈り物”****
アメリカの有力紙「ワシントン・ポスト」は13日、イスラエルが、アメリカのトランプ次期大統領への「贈り物」となるよう、レバノンでの停戦案を準備していると報じました。

レバノンの首都ベイルート近郊などでは13日、イスラエルから複数のミサイルが着弾し、6人が死亡、15人がケガをしました。

イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラとの間で戦闘が続く中、ワシントン・ポストは13日、イスラエル当局者の話として、レバノンでの戦闘終結に向けて、イスラエルが停戦案を準備していると報じました。

アメリカ大統領選でイスラエル寄りの姿勢を示すトランプ氏が勝利しましたが、就任する来年1月に向けて、レバノンでの停戦合意という「外交成果」を用意することで、イスラエル高官は「トランプ氏に対する『贈り物』となる」との認識を示したということです。【11月14日 日テレNEWS】
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レバノン・ヒズボラに関しては、現在アメリカ提案の停戦案をヒズボラ側が同意し、あとはイスラエルがこれに同意するのかどうか・・・イスラエル有利に事を運んでくれるトランプ氏就任を待つのかどうか・・・国内事情から戦闘をなるべく長く継続したネタニヤフ首相が停戦に語彙するのかどうか・・・という段階にありますが、そのあたりはまた別機会に。

【国内には、保身のための司法改革、人質解放の遅れへの強い批判が】
イスラエルの国内事情に目を向けると、対ハマス・対ヒズボラで強気姿勢を貫くネタニヤフ首相ですが、国内では強い批判もあります。

ハマスとの戦闘が始まる以前から、ネタニヤフ首相は収賄や詐欺、背任などの罪に問われて起訴されており、自分の裁判が有利に運ぶように司法制度を変更しようとしているとして、強い批判にさらされていました。

ハマスとの戦闘が終わると、裁判が再開され、政治的にも上記司法改革への批判、ハマス襲撃を許したことへの批判が強まり、総選挙で権力の座を失うということになるので、なるべく戦闘が長く続くように停戦を拒否してきた・・・また、停戦・人質解放より「ハマス壊滅」を掲げての戦闘継続を優先させている・・・・との批判があります。

*****イスラエル・ネタニヤフ首相自宅に照明弾 反政府活動家3人逮捕 首相不在でけが人なし****
イスラエルで16日夜、ネタニヤフ首相の自宅の庭に照明弾2発が着弾し、反政府活動家3人が逮捕されました。当時、ネタニヤフ首相や家族は自宅におらず、負傷者は出ていません。

イスラエルの警察の発表によりますと、16日午後7時半ごろ、イスラエル中部カイザリアにあるネタニヤフ首相の自宅の庭に照明弾2発が着弾しました。 当時、ネタニヤフ首相や家族は自宅におらず、けが人はいないということです。

地元メディアによりますと、この事案に関与したとして反政府活動家3人が逮捕され、うち1人は軍予備役の上級将校だということです。

今回の事件は先月19日のレバノン武装組織ヒズボラの無人機(ドローン)攻撃以来およそ1カ月ぶり。 

イスラエル政界からは「暴力的で無政府的な行為」(レビン法相)、「レッドラインを越えた扇動」(ベングビール国家治安相)という批判が出てきた。

現在イスラエルではネタニヤフ首相が主導する戦争と司法府権限縮小の動きに反発する反政府デモが続いている。7月の反政府デモにはテルアビブなど主要都市から約50万人(主催側推算)が集まった。 

16日には政府の徴集命令に抗議する超正統派ユダヤ教派「ハレディー」の数百人が高速道路を占拠するデモも発生した。ハレディーは1948年の建国以降、ホロコースト(ナチのユダヤ人虐殺)で抹殺されるところだった文化と学問を守るという名分で兵役が免除されてきた。 

しかし15日、イスラエルのカッツ国防相はハレディー約7000人の入営命令を承認した。ハレディーに対する兵役免除が不当だという裁判所の判決に基づくものだ。

今回の徴集命令は今月初めにガラント前国防相が解任される前日に決定された。ガラント前国防相は超正統派政党の連立政権脱退の動きに兵役免除のための追加立法を推進してきたネタニヤフ首相と異なる意見を出し、更迭された。 

一方、イスラエル現地ではネタニヤフ首相側が反政府デモに対する反発世論を形成するために軍事機密文書を流出させたという疑惑が提起された。

ハアレツなど現地メディアによると、首相室のフェルドスタイン報道官と3人の高官が不法に予備役から受けた「ハマスの指導者シンワル氏が人質解放と停戦会談合意を拒否した」という内容の機密文書を独メディアのビルトに流布した。その後、フェルドスタイン氏は自国メディアに報道を要請したという。 

メディアはフェルドスタイン氏が文書を確保した時点は6月だったが、報道は反戦ムードが高まった8月末ごろ出てきたと伝えた。これに対し「ハマスとの人質交換と停戦会談推進を要求するデモ隊に対する反発世論を形成するためのもの」(ハアレツ)、「ハマスに対する強硬路線を正当化するために選択的に情報を流した」(タイムズ・オブ・イスラエル)などの指摘が出ている。(後略)【11月19日 中央日報】
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【首相周辺からの機密文書漏洩 戦闘継続のための世論操作が目的】
上記記事の後段に書かれている機密文書漏洩問題は、首相周辺の者がハマス側から押収した機密文書を、人質交渉より戦闘継続を優先させる政権に有利になるように一部改ざんし、有利なる時期にメディアに漏洩したというもの。

****イスラエル軍の機密文書流出で首相報道官ら逮捕 政権に打撃か****
 パレスチナ自治区ガザ地区での停戦と人質解放を巡る交渉を妨げる機密文書が海外メディアに流出し、波紋を呼んでいる。

イスラエルのネタニヤフ首相周辺が意図的に情報を漏らした疑いがあり、首相報道官ら5人が逮捕された。ネタニヤフ氏の愛称「ビビ」にちなみ「ビビリークス」問題として、イスラエル政界を揺るがすスキャンダルとなっている。

問題となっているのは、イスラエル軍がガザ地区で押収したイスラム組織ハマスの関連文書。文書の一部は、戦闘継続を求めるネタニヤフ氏の意見に都合の良い形で改ざんされていた疑いがあり、英国とドイツの2紙に漏えいした。
 
流出したのは8月末にハマスに拘束されていた6人の人質が殺害されたことが明らかになり、人質解放を求めるデモが広がった直後のタイミングだった。

英紙「ジューイッシュ・クロニクル」は9月5日、ハマスがガザとエジプトの境界地帯を通じ、人質をイランやイエメンに移送させる計画があると報じた。しかし、同紙は文書が改ざんされた可能性があり、誤報だったとして記事を削除。記事を書いたフリー記者との契約を打ち切った。

独紙「ビルト」も翌日、別の機密文書に基づき、ハマスが停戦交渉に関心がないなどと報道。ビルト紙はイスラエル軍が文書を本物だと認めたとしているが、ネタニヤフ氏の主張を補強する内容だった。

ネタニヤフ政権は8月29日、ハマスによる武器の密輸を防ぐため、ガザとエジプトの境界地帯で軍の駐留を継続させると閣議決定した。これに対しハマスが反発し、交渉は停滞。その直後に人質6人が殺害され、イスラエル全土では「人質が見殺しにされた」などとして、大規模なデモが連日行われた。

文書流出を受けて、イスラエル軍は調査に着手。裁判所は11月1日、流出に関与した疑いで首相報道官らを逮捕したことを明らかにした。

ネタニヤフ氏は報道官について「安全保障の会議には参加していない」と主張。しかし、イスラエル紙ハーレツは、昨年10月のハマスとの戦闘開始以降、報道官が軍事基地などの訪問に同行し、機密情報に触れる会議にも参加していたと報じている。

首相の政敵で元国防相のガンツ氏は、機密文書が「(ネタニヤフ氏の)政治的な生き残り工作」のために利用されたなら、国家に対する犯罪だと指摘。最大野党党首のラピド前首相も、ネタニヤフ氏が漏えいを把握していたとすれば「最も深刻な安全保障を脅かす共犯者だ」と非難した。

ガザではいまだ100人以上の人質が拘束されている。イスラエル国内では人質解放の優先を求める声が強いが、ネタニヤフ氏はハマスの壊滅を優先し、戦闘を続けている。一方で、ネタニヤフ氏は汚職疑惑で起訴されており、裁判を遅らせるために、戦闘を長引かせているとの見方がある。【11月17日 毎日】
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裁判所は情報漏洩の目的について、人質解放交渉に対する世論に影響を与えようとしたとの見方を示しています。

情報漏洩の直前の9月1日には、イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザ地区で人質6人が死亡したと発表していましたが、死亡した人質のうち4人は人質解放交渉の第1弾で解放されることになっていました。

こうした状況で、人質解放のための停戦を求める声が強まる時期に、戦闘を続けるネタニヤフ首相に有利なるような形で機密文書をメディアに漏洩した・・・ということです。

【ICC ネタニヤフ首相らの逮捕状 「飢餓を戦争手段にした」】
上記のように、保身のための司法改革、人質解放より戦闘継続を優先させていることへの批判、更には首相周辺からの機密文書漏洩と国内的に問題を抱えるネタニヤフ首相ですが、国際的にも国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相の逮捕状を出すという問題も。

***ICC、イスラエル首相らに逮捕状 人道に対する罪の疑い「飢餓を戦争手段にした」****
国際刑事裁判所(ICC)は21日、パレスチナ自治区ガザに対するイスラエルの攻撃をめぐり、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に対し、人道に対する罪と戦争犯罪の容疑で逮捕状を出したと発表した。

ICCの発表によると、パレスチナ自治区ガザへの人道支援活動を制限し、食料や水、医療品供給を阻んだことで、2人容疑者は「飢餓を戦闘の手段にした」と信じるに足る根拠があるとしている。イスラエル側は容疑に対して異議を申し立てていたが、ICCは退けた。

ICCには日本を含めて124カ国・地域が加盟しており、自国に容疑者が来た際には逮捕の義務を負う。

また、ICCは21日、イスラエルと交戦するパレスチナのイスラム原理主義組織ハマス軍事部門のデイフ指導者に対しても逮捕状を出した。デイフ容疑者については死亡情報が流れたが、ICCとして確認に至らなかったとしている。

3容疑者に対しては、ICCのカーン主任検察官が今年5月に逮捕状を請求していた。この時、ハマスのハニヤ最高指導者とガザ地区トップだったシンワール指導者に対しても逮捕状が請求された。この2人はその後、イスラエルに相次いで殺害された。【11月21日 産経】
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ネタニヤフ首相は「反ユダヤ主義の決定だ」と反発する声明を発表しています。

****ネタニヤフ首相「この決定の妥当性を認めない」ICCから戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発行されたことをうけ反論****
イスラエルのネタニヤフ首相は、ICC=国際刑事裁判所から戦争犯罪などの疑いで逮捕状を発行されたことをうけ、「この決定の妥当性を認めない」などと反論しました。

イスラエル ネタニヤフ首相
「イスラエルはこの決定の正当性を認めない。我々は国民と国家を守るためにやるべきことはすべて続ける」

ネタニヤフ首相は21日、ビデオ声明を出し、「イスラエルがガザで行っている戦争ほど正義のある戦争はない」などと主張したうえで、ICCによる「決定の妥当性は認めない」として、今後もガザでの戦闘を継続する姿勢を示しました。

ネタニヤフ氏はイスラエル軍の戦闘について、「民間人の犠牲を避けるために全力を尽くしている」と主張しましたが、ガザでは去年10月の戦闘開始以降、4万4000人を超える人が死亡し、このうちの多くは女性や子どもを含む市民だとみられています。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ・バイデン大統領も「言語道断」と逮捕状発行を批判しています。

****ネタニヤフ氏らへの逮捕状発付は「言語道断」 バイデン米大統領****
米国のジョー・バイデン大統領は21日、国際刑事裁判所がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ガラント前国防相らに逮捕状を出したことを、「言語道断」だと批判した。

バイデン氏は声明で、「ISSがイスラエルの指導者らに逮捕状を出したことは言語道断だ」「もう一度はっきりさせておきたい。ICCが何をほのめかそうが、イスラエルと(イスラム組織)ハマスは決して同等ではない。われわれは常にイスラエルと共にその安全保障の脅威に立ち向かう」と述べた。 【11月22日 AFP】
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「イスラエルがガザで行っている戦争ほど正義のある戦争はない」「民間人の犠牲を避けるために全力を尽くしている」・・・・そうでしょうか?

もちろん実際に逮捕されることはありませんが、多くの国に訪問できないということで、外交活動には支障がでます。

国内外に多くの問題を抱えるネタニヤフ首相ですが、年末をもちこたえたら来年1月にはトランプ大統領という強力な援軍があらわれ、状況は一変します。
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インド  深刻な環境汚染 アダニ・グループ会長の問題は政権へ飛火の可能性も 中国とは関係改善へ

2024-11-21 23:50:59 | 南アジア(インド)

(【11月16日 NHK】)

【深刻な環境汚染 成長を妨げる問題のひとつにも】
このところインドの環境汚染に関するニュースが連日報じられています。

****インドの聖なる川に「白い泡」が大量発生… 正体は有毒物質、汚水や洗剤が主因****
インドの首都ニューデリーを流れるヒンズー教の聖なる川、ヤムナ川の表面に白い泡が大量に発生し、川一面を覆っている。正体は有毒物質。川に流された汚水や洗剤が主な原因で、環境汚染の深刻さを物語っている。地元メディアが23日までに報じた。

地元誌インディア・トゥデーによると、工場から出た汚染物質がヤムナ川上流に流れ込み、洗剤などを含む排水とともに放水路を通過する際にかき混ぜられて泡が発生する。白い泡は積雪のようで、衛星画像でも捉えられたという。

インドでは川が「母」や「女神」として崇拝され、研究者は「川が泣いているようだ」と話している。
ヤムナ川はヒマラヤ山脈に端を発し、聖なる川として知られるガンジス川の支流の一つ。(共同)【10月23日 産経】
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しかし、有害な泡も一部の熱心な信者の信仰を妨げることはできないようで・・・

****白い泡が大量発生...インド「下水汚染された川」に次々入る女性たちの目的とは?****

ヒンドゥー教の太陽神スーリヤに健康と繁栄を祈る伝統行事チャートプジャ祭で、インドの首都ニューデリー中心部を流れるヤムナ川に入る女性。

産業廃棄物や農薬、下水による高レベルの汚染で、川面には大量の泡が浮かぶ。
地元裁判所は健康と安全上の懸念から川での祝祭を禁じたが、それでも数千人が汚染水の中で祈りをささげた。【11月18日 Newsweek】
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川の汚染以上に多くの人々に影響するのが大気汚染。
“インドの首都ニュー・デリーは「世界で最も汚染された首都」と言われ、特にこの時期は車の排気ガスや収穫後の野焼き、さらにディワリの花火で町は煙に包まれます。”【11月7日 テレ朝news】

ディワリというのは10月末から11月初めに行われるヒンドゥー教の祭りで、別名「光のフェスティバル」とも呼ばれ、大量の爆竹や花火が使用されます。

****大気汚染のインド首都で工事禁止 学校はオンライン授業****
深刻な大気汚染への対策として、インド政府は18日から首都ニューデリーへの中大型トラックの進入や公共事業の建設工事を禁止した。学校はオンライン授業に切り替えるほか、中央政府職員には在宅勤務が導入される可能性もある。大気汚染が社会生活や経済に影響を及ぼし始めた。

大気汚染対策を担う政府機関が17日に公表し、地元メディアによると、状況が改善するまで続ける。ニューデリーや近郊では、農地の野焼きが本格化する10月ごろから空気の質が極端に悪化し「世界最悪級」とも言われる。

政府機関によると、生活必需品を運ぶほか、液化天然ガスや電気で走行するトラック以外はニューデリーへの乗り入れを認めない。ニューデリーを含むデリー首都圏では高速道路や高架、送電線などの公共事業の建設を中断させた。

首都圏政府のアティシ首相は17日、一部の学年を除き初等教育などの対面授業を中止すると発表。指示があるまでオンライン授業に切り替える【11月18日 共同】
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****泥縄式インドの大気汚染対策 汚染値はWHO基準の50倍超*****
(中略)濃く有毒なスモッグが首都を包み込み、大気の質がますます危険な状態になる中で、約3300万人のニューデリー市民は毎朝目を覚ます。  

肺の奥深くまで入り込む可能性のある大気中の微小粒子状物質を測定する国の主要な環境機関によれば、この数値はさらに深刻なカテゴリーへと上昇しているという。  

市内のいくつかの地域では、WHOが推奨する安全基準値の50倍以上だった。 予報によると、大気の質の悪さは週明けまで続くという。  

毎年農業地域で作物残渣が焼却されるため、インド北部の大気汚染は特に冬に上昇する。燃焼と同時に気温が下がるため、煙が空気中に閉じ込められ、その煙が都市部に吹き込まれ、自動車の排気ガスが汚染にさらに拍車をかける。  

産業界からの排出物や、発電のための石炭燃焼も汚染に関係しており、ここ数週間は着実に上昇している。(中略)

首都を取り巻く大気の悪化は、住民の怒りをい、多くの市民が頭痛や咳を訴え、街を"黙示録的"とか"ガス室"と表現する人もいる。  毎年100万人以上のインド人が公害関連疾患で死亡していると推定されている。  

当局は過去にもスモッグを抑えるために、スプリンクラーやスモッグ防止銃を配備したこともある。  既に地域が汚染されてしまってから、その影響を緩和しようとするのではなく、汚染そのものを大幅に削減する長期的な解決策が必要ではないか。 【11月19日 AP】
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日本もかつては川の大気も有害物質で汚染され公害に苦しんだ過去があります。水俣病、新潟水俣病(第二水俣病)、四日市ぜんそく、イタイイタイ病といった、いわゆる四大公害病も。光化学スモッグが社会問題になった時期も。

環境問題・公害は経済が成長していく過程で多くの国が経験していくものではあるのでしょうが、インドの場合その程度が甚だしいようにも。

6年ほど前のインド旅行だったでしょうか、南インドのある田舎の町で食べ物を買ったところ、レジ袋ではなく紙で包んで紐でしばってくれました。「レジ袋はコスト的に高い殻なのか・・・」と思ったら、後で知ったところではレジ袋が環境対策として条例で禁止になっているようでした。

「カオスの国インドも随分と先進的な取組をするようになったものだ・・・」と思ったのですが、一方で町の空き地などはプラゴミなどで地表が見えないぐらい。

レジ袋禁止もいいけど、先ずは勝手にそこらへんに捨てない・・・という最低限の意識の問題から取り組まないといけないと感じた次第。

ただ、今思うと、捨てない云々は、単に意識の問題ではなく、ゴミ回収の仕組みがどの程度整っているかにもよるでしょう。

いずれにしても、環境汚染は今後の経済成長を目論むインド・モディ首相にとっての障害のひとつになっています。

****インドはなぜ「次の中国」になれないのか 停電、水害、環境汚染…モディ首相の求心力も低下****
「次の中国」に必要なGDP成長率
米モルガン・スタンレーは9月17日に発表したリポートで、主要な世界株価指数(MSCI・ACワールドIMI指数)のインド株のウエート(2.35%)が初めて中国株(2.24%)を上回ったと発表した。

インドの経済成長率の高さを理由に、同国の株式市場では海外からの力強い資金の流入が続いている。中国経済が強力な刺激策の欠如や根強いデフレ圧力で失速する中、投資家の間で「インドが世界経済の新たな成長の原動力となる」との確信が高まっていることが示された形だ。

インドの第2四半期の実質国内総生産(GDP)の成長率は前年比6.7%増だった。前四半期の7.8%増から伸び率は鈍化したものの、人口増加などを背景に主要国を上回る成長を維持している。

国際通貨基金(IMF)によれば、世界の経済成長への寄与度はインドが16%、中国が34%だ。「インドは『次の中国』になる」との期待が生まれているが、そのためには2桁近い成長を長期にわたって続ける必要があると言われている。

高学歴者ほど就業環境が厳しく
「飛ぶ鳥を落とす」勢いの感があるインド経済だが、課題も山積している。

喫緊の課題は雇用創出力の低さを改善することだ。2022年度(22年4月〜23年3月)の失業率は、モディ政権発足前(2013年度)の4.9%から5.4%に上昇した。15〜29歳の若年層の失業率は16%を超え、高学歴者ほど就業環境が厳しくなっている。

米シティグループの分析結果によれば、現在の成長率(年率7%)ではインドの年間の雇用創出は800〜900万人にとどまるが、国内労働市場に新規参入する若年層を吸収するには年間1200万人の雇用創出が必要となるという。

インドの雇用創出力が低い主な要因は以下の2つだ。
(1)製造業のGDPに占める比率が17%と発展途上国の中で下位に属していること
(2)非農業部門の雇用に占める中小企業の割合も約4割と世界平均から見てかなり低いこと(中略)

停電、浸水、水不足、環境汚染
インフラの脆弱性も頭の痛い問題だ。

電力インフラ全体が未整備なインドではいまだに突然の停電が起きる。安定した電力の確保には原子力発電の拡大が不可欠だが、インドの総発電量に占める原子力の比率は2%未満だ。インド政府は民間の協力を得て導入の拡大を図ろうとしている(9月14日付日本経済新聞)ものの、前途遼遠と言わざるを得ない。

豪雨災害も増加の一途だ。雨季(モンスーン)中の9月14日、文化遺産のタージマハルでは庭園の一部が大雨で浸水した。7月末には南部ケララ州の著名な観光地でも集中豪雨による土砂崩れが発生している。

一方、深刻な水不足も発生しており、経済活動に悪影響を及ぼし始めている。

有数のビジネス都市バンガロールでは、3月に水不足で企業活動全般に支障をきたす事態が発生した。米格付け企業のムーディーズ・インベストメント・サービスは6月、水不足がインドの格付けに悪影響を及ぼす可能性があるという警告を発している。

水質汚染も目を覆うばかりの状況だ。モディ氏は議員に選出された際に「ガンジス川の浄化」を公約に掲げたが、一向に改善されていない。

都市廃棄物の問題も日に日に悪化している。英リーズ大学の研究チームは9月5日、環境中に廃棄されたプラスチックごみはインドが世界最大で930万トン(2020年時点)との分析結果を発表した。

またインド当局の推計によれば、毎日排出されている17万トンのゴミのうち適正に処分されているのは3分の2に過ぎず、残りは不法投棄されている。

中国との関係と連立政権…モディ氏の求心力は
国内の懸案事項に加え、中国との関係改善も焦眉の急だ。

インドの長期的な発展にはグローバルな供給網と一体になる必要があるが、その際、中国経済との連携強化は避けて通れない。だが、2020年5月にヒマラヤ山脈の国境沿いで衝突して以来、両国の関係は緊張状態が続いている。

これが災いして、電気自動車(EV)や半導体、人工知能(AI)などの分野での資本・技術・人材の交流は滞っているものの、インド政府はここに来て緊張緩和に動き出した。

ジャイシャンカル外相は9月10日、「中国からの投資に門戸を閉ざしていない」と発言した。また産業界の働きかけを受け、政府は中国人へのビザ発給を緩和し始めている(9月11日付ロイター)。

だが、この動きが続く保証はないと言わざるを得ない。

モディ氏は6月に3期目の政権樹立に成功したが、初めて体験する連立政権の運営に戸惑っている。連立する政党の反対で重要政策の撤回を余儀なくされるなど、求心力の低下も懸念事項だ。(中略)

「内憂外患」を抱えるインドが「第2の中国」になるのは、現段階では非常に難しいのではないだろうか。【9月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【アダニ・グループ会長、贈賄や巨額詐欺に関与した疑惑 モディ首相へ飛火も】
水や大気だけでなく、政治の世界も汚職・不正で汚染されています。

****印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に火の粉も****
富豪として知られるインド財閥アダニ・グループのゴータム・アダニ会長が20日、贈賄や巨額詐欺に関与した疑いで米検察当局に起訴された。アダニ・グループにとっては昨年の会計不正疑惑に続く、新たな危機となる。会長と同郷のモディ首相に火の粉が飛ぶ恐れもある。

アダニ会長、会長の甥でアダニ・グリーン・エナジー幹部のサガル・アダニ氏、アダニ・グリーン・エナジーのビニート・ジャエイン元最高経営責任者(CEO)は証券詐欺、証券詐欺の共謀、電信詐欺の共謀で起訴された。

21日のインド市場では、アダニ・グループの株・債券が急落。疑惑の渦中にあるアダニ・グリーン・エナジーは6億ドルの社債売却を取りやめた。

アダニ・グループは声明で、「(疑惑は)根拠がなく否定する」と表明し、あらゆる可能な法的手段を取る方針を示した。

アダニ・グループを巡っては昨年、空売り家のヒンデンブルグ・リサーチが、会計粉飾やタックスヘイブン(租税回避地)を利用した脱税などを指摘するリポートを発表。グループの株・債券が急落した。今もインド証券取引委員会(SEBI)の調査が続いている。

モディ首相は、アダニ会長と同じ西部のグジャラート州出身。野党からはかねて、アダニを「ひいき」しているとの批判が出ていた。野党・国民会議派は21日、アダニ・グループによる不正疑いを議会が調査するよう改めて求めた。【11月21日 ロイター】
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“「アダニが急成長した背景にはモディ首相との密接な関係があった」との指摘がかねてなされていた。両氏は同じ西部グジャラート州の出身で、アダニは同州を基盤に事業を拡大してきたからだ。”【2023年2月13日 藤和彦氏 デイリー新潮】

昨年2月に報じられていた案件がまだ解決しない状況で新たな問題・・・・アダニ会長の問題は“親密な関係”のモディ首相に飛び火します。

【中国との関係を改善せざるを得ないインド 「対立ではなく協調に焦点を当てるべきだ」(シン国防相)】
【9月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】でも指摘されている中国との関係については、インドとしては中国との関係を改善しないと経済的に回らなくなるという事情があります。

****インドが「中国重視」に方向転換せざるを得ない事情 「タージマハル」がスモッグで消える…深刻な公害や食品価格の高騰で高まる国民の不満****
(中略)
「消費」は流行遅れになった?
視界が不良なのは空気や水だけではない。景気の先行きもあやしくなっている。
インドの10月の消費者物価指数(CPI)は前年比6.21%上昇し、1年2カ月ぶりの高い伸びとなった。約半分のウエートを占める食品が前年比10.87%上昇し、11月もこの傾向が続くと見込まれている。

食品価格が賃金の伸びを上回るスピードで上昇を続けているため、インドの中間層の購買力は大きな痛手を被っている。(中略)その旺盛な消費に世界は注目してきたが、食品価格の高騰が災いとなり急減速している。

消費不振がインド経済全体に打撃
消費の不振は企業収益にも暗い影を投げかけている。
インドの主要企業の第3四半期決算は4年半ぶりの低水準に陥った。専門家は、消費動向を始め広範な分野で景気減速が見られると警戒している(11月11日付ロイター)。(中略)このように、食品価格の高騰はインド経済全体に打撃を与えつつある。

インド中央銀行は今年の実質経済成長率を前年比7.2%と予測しているが、民間では成長率予想を下方修正する動きが強まっている。

成長の鈍化はモディ首相にとって頭の痛い問題だ。今年の選挙で苦戦したのは中間層の不満が主な要因だった。成長が鈍化すれば、国内の雇用難はますます深刻化し、政権への批判が高まるばかりだろう。

西側諸国から中国へと軸足を移行
注目すべきは、海外投資家の間で「インドが西側諸国から中国へと軸足を移行している兆しがある」との指摘が出ていることだ(10月31日付日本経済新聞)。

モディ氏は10月23日、訪問先のロシア西部カザンで5年ぶりに中国の習近平国家主席と会談し、対立の原因となっていた国境紛争地の安全管理について協議を加速することで合意した。25日には、領有権を巡り対立するインド北部ラダック地方の一部から印中両軍が撤収を開始し、30日にその完了が報じられている。

今回の緊張緩和はインドが主導したと言われている。
2020年5月の国境紛争後、インド政府は中国企業を締め出してきた。だが、9月からは態度を一変させ、中国企業に対して投資の呼びかけを活発化させている。

中国に代わって「世界の工場」を目指すインドが、深刻なアキレス腱を抱えているからだ。国内企業の競争力が低いため、中国企業の助けを借りないとインド国内のサプライチェーンが整備されない。

インドには日米豪印の協力枠組み「クアッド(QUAD)」に対する失望もあるようだ。専門家は、「中国封じ込め」という当初の目的が希薄化し、具体的な成果が出ていないと批判的だ(10月5日付日本経済新聞)。(後略)【11月21日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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****中国・インド国防相が会談「対立ではなく協調を」国境の係争地めぐり相互の協力で一致****
(中略)中国の董軍国防相とインドのシン国防相は20日、ASEAN拡大国防相会議が開かれているラオスで個別に会談しました。

両国は国境の係争地で軍事衝突を繰り返してきましたが、5年ぶりとなる公式な首脳会談が行われた先月以降、緊張緩和と関係修復に向けた意思疎通を加速させています。インド政府によりますと、両国防相は会談で、互いの信頼を再構築するために協力していくことで合意しました。

また、シン国防相は「インドと中国が友好的な関係を築くことは、世界の平和につながるだろう」と述べたうえで、「対立ではなく協調に焦点を当てるべきだ」と強調したということです。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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ウガンダ  「反LGBT法」などムセベニ大統領の超長期支配 難民対策では高い評価も

2024-11-20 23:32:40 | アフリカ

(ウガンダの難民【国連NHCR協会】)

【先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価される】
南スーダンやコンゴに隣接するアフリカ中部の内陸国ウガンダ・・・・周囲に紛争国があるため難民の流入が多く、受け入れている難民は10月末現在、172万人でアフリカ最多となっています。

出身国別では、北隣の南スーダン96万人▽西隣のコンゴ民主共和国55万人▽スーダン6万人――などと紛争が激化する周辺国から集まっています。

後述のようにウガンダに関する情報と言えばLGBTに対する厳しい政策や38年に及ぶムセベニ大統領の超長期支配みたいなもので、そうしたイメージからは非常に意外な感がありますが、難民に関しては移動の自由や就労の権利を認めるほか、居住・耕作用の土地を提供するなど先進的な政策ををとっているそうです。ただ、資金や要員の不足が課題となっているとも。【11月20日 毎日より】

****なぜ難民たちが集まる? 「アフリカの真珠」ウガンダはどんな国****
戦争、迫害、災害、貧困といった窮状にひんして、故郷を追われる人々は世界中で絶えません。アフリカ最大の難民受け入れ国でありながら、ウクライナや中東の紛争のはざまで光の当たらない国があります。ウガンダです。一体どのような国で、なぜ難民たちが集まってくるのでしょうか。

 Q ウガンダってどんな国なの?
 A アフリカ東部の内陸に位置し、面積は本州とほぼ同じ約24・1万平方キロ、人口は約5000万人です。赤道直下ですが、平均海抜は約1200メートルと高く、年間の全国平均気温は24度と快適です。英国のチャーチル元首相は植民地省高官時代にウガンダを訪問した際、豊かな自然を評して「アフリカの真珠」と呼びました。

 Q どんな歴史を持っているの?
 A 19世紀末に英国の保護領となり、1962年に独立しました。その後、クーデターが繰り返され、政情不安が続きました。ゲリラ闘争を率い86年に当時の政権を倒して大統領に就いたムセベニ氏が38年にわたり実権を握り続けています。

 Q アフリカ最大の難民受け入れ国らしいけど、どれぐらいの人が集まっているの?
 A 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末時点で172万人に上ります。出身国別では、最多が北隣の南スーダンで96万人。次いで、西隣のコンゴ民主共和国55万人▽スーダン6万人――などとなっています。

 南スーダンでは2013年以降、政府軍と反体制勢力が内戦状態に陥り、数十万人が死亡したとされています。南スーダンからの大規模な難民の流入が受け入れ急増の背景にあります。

また、コンゴ民主共和国では産出される鉱物資源を巡り武装勢力による紛争が激化し、食糧不足や感染症など人道危機が深刻化しています。

 Q 難民はどんな生活を送っているの?
 A 大半は、政府が国内に設けた難民居住区と呼ばれる地域で暮らします。公式の認定数としては国内に13カ所あります。居住区は、難民が現地の人たち(ホストコミュニティー)と同じエリアで共生するのが特徴で、政府からは居住と耕作のための土地が提供されます。

原則的に自由な出入りが認められていない難民キャンプとは違い、移動の自由や就労の権利が認められています。居住区に設置された学校や医療施設を利用することもできます。先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価されています。

 Q 課題はないの?
 A 国際社会からの人道支援が減っていることが大きなネックになっています。難民政策を担当するウガンダ政府当局者によると、18年には海外から国連を通じて4億6000万ドルの人道支援が集まっていましたが、直近では1億8000万ドルにまで減少しています。

国際社会が関心を寄せるウクライナや中東での紛争の陰に隠れていることが背景にあるようです。また、大量の難民に比べて、受け入れ側の態勢が追いつかず、十分な支援が行き届きづらくなっていると指摘されています。

 Q 私たちにも何かできることはないかな。
 A ウガンダ首相府難民局のパトリック・オケロ局長は取材に「日本政府と指導者の継続的な支援と、難民に適切に対応するための多くの投資に対して敬意を表したい」と感謝を述べました。その上で「ウガンダのように多くの難民を受け入れている国々への支援を優先してほしい」と訴えています。
回答・郡悠介(社会部大阪グループ)【11月20日 毎日】
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“先進的な難民政策は国際社会から「ウガンダモデル」として評価されています”・・・始めて知りました。

多くの国で、移動や就労を認めない閉鎖的な難民キャンプとなっているのは、それなりの理由があってことです。

難民の出入りを自由にすれば、出身国に対する抵抗運動を行う勢力が国内で活動し、ひいては自国の政府に対する抵抗運動などとも連動しかねないといった、治安や政治問題があります。

また就労を認めると、地域住民の「仕事を難民に奪われる」「難民と就労を競争するため、賃金が低く抑えられる」といった不満を惹起しトラブルを起こすことも。

「ウガンダモデル」がそのあたりの問題をどのようにクリアしているのか知りたいところですが、今のところ情報がありません。

【「反LGBT法」で欧米と対立】
冒頭にも書いたようにウガンダと言えば、38年に及ぶムセベニ大統領の超長期支配です。
強権的支配というのはウガンダだけの話でもなく、むしろ欧米以外では一般的な政治形態かも。アフリカ国々はどこもそうした傾向があります。

そうした中でも近年注目されたのが「反LGBT法」

****ウガンダ、性的少数者の制限法 「重度の同性愛」最高で死刑も****
アフリカ東部ウガンダで、LGBTQ(性的少数者)の行動を大幅に制限する法律が成立した。大統領報道官の29日の発表をロイター通信が伝えた。

エイズウイルス(HIV)感染者の同性と関係を結ぶなどの「重度の同性愛」に対しては最高で死刑を科すなど厳しい内容。

議会が3月に可決した法案にあった、個人がLGBTQと自認すること自体を犯罪とする文言はなくなったが、多くは法案の内容がそのまま残った。同性愛の「促進」行為は禁錮20年と規定。LGBTQの支援団体の活動が取り締まりを受ける恐れがある。

ムセベニ大統領が29日までに法案に署名した。【2023年5月29日 共同】
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法律は実際に運用されています。23年8月には“同性と繰り返し性的関係を結ぶような「重度の同性愛」に当たる行為をしたとして、検察当局が20歳の男性を訴追した”【2023年8月29日 共同】といったニュースも

こうした「反LGBT法」に関して、LGBTの権利を擁護する欧米から強い批判があります。一方ウガンダも「欧米諸国がアフリカに同性愛を受け入れるよう強要している」と激しく反発しています。

****欧米、アフリカに同性愛受け入れ「強要」 ウガンダ****
米国が厳格な反同性愛法を理由にウガンダの政府当局者へのビザ発給を停止したのを受け、ウガンダ政府は6日、欧米諸国がアフリカに同性愛を受け入れるよう強要していると非難した。

米政府は4日、反同性愛法がウガンダの「民主化プロセスを損ない」、LGBTQ(性的少数者)コミュニティーを含む国民の人権を侵害しているとして、ウガンダの政府当局者へのビザ発給を停止した。

ウガンダのヘンリー・オリエム・オケロ外務副大臣は6日、「米国と欧州の一部の国々がアフリカ、特にウガンダに対して援助や融資と引き換えに、同性愛を受け入れるよう強要する間違った試みを行っている」とAFPに語った。

米国はウガンダで新たな同性愛法が成立した直後の6月、同国の政府高官に対するビザ発給制限の第1弾を開始。先月には、ウガンダについて、2024年1月からアフリカ成長機会法に基づく優遇措置の対象から除外すると発表した。

だが、オリエム氏は「議会と大統領の指示に従うまでで、援助がなくともわが国の開発計画は変わらない」とし、ウガンダは外国から援助を受けることなく独立したと主張。「渡航や貿易関係について条件を課すことなく、わが国の開発課題を尊重してくれる国際パートナーや国は他にもある」と述べた。

ウガンダで5月に成立した反同性愛法では、「加重同性愛」の刑罰として死刑が定められている。また、合意の上での同性愛行為にも終身刑が科される可能性がある。

米国のジョー・バイデン大統領や欧州連合、国連のアントニオ・グテレス事務総長は、同法を非難。廃止されない限り、外国からウガンダへの援助や投資が引き揚げられる可能性があると警告している。

だが保守色の濃いウガンダで同法は幅広い支持を得ており、議員らは欧米的な不道徳に対する防波堤として必要な措置だと主張している。 【2023年12月7日 AFP】
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欧米主導の世界銀行も“(2023年8月)8日、多くの国や国連から非難されているウガンダの「反LGBTQ(性的少数者)法」が世銀の価値観に反するとして、ウガンダ政府への新規融資を停止すると発表した。”【2023年8月9日 ロイター】とのこと。

LGBTの権利擁護が、“世銀の価値観”と言えるほど普遍的なものかどうかは疑問ですが。

私の世代がウガンダに関してネガティブあるいは暗いイメージを持ちがちなのは、ムセベニ大統領以前の時代のことではありますが、強烈なカリスマ性と、「人食い大統領」と呼ばれた凶暴さを併せもっていたウガンダの独裁者アミン元大統領(法学博士の肩書も持つ。身長193cmの巨漢で、東アフリカのボクシングヘビー級チャンピオンになったこともある)の影響もあるのかも。

“「虐殺した政敵の肉を食べた」などの噂を立てられた結果、「人食い大統領」というニックネームもつけられたが、実際のアミンは菜食主義者で、肉は鶏肉しか口にしたことがなかったといわれている”【ウィキペディア】

【ウガンダで暮らすスーダン難民】
話をウガンダで暮らす難民に戻すと、前述のように紛争が続くスーダンからの難民も多くいます。
その一人がネイマットさん(31)

****「強く生きられる気がする」難民172万人 受け入れ国ウガンダで今****
(戦争、迫害、災害、貧困などを理由に故郷を追われる人々は世界中で絶えない。アフリカ最大の難民受け入れ国でありながら、ウクライナや中東の紛争のはざまで光の当たらないウガンダから、難民のいまを報告する。

スーダン「忘れられた紛争」
赤茶けた大地が見渡す限り広がり、居住用の小さなテントが点在する。アフリカ東部の内陸国・ウガンダには、紛争などで周辺の国々を追われた人たちが大量に流入している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末時点で172万人。アフリカ最大、世界有数の難民受け入れ国として知られる。

10月下旬、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区で、スーダンから逃れてきたネイマットさん(31)が沈痛な表情を浮かべた。「あの出来事を思い出すだけでひどく胸が痛む」

ウガンダの北にあるスーダンでは2023年4月、政府軍と、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による内戦が勃発。一般国民を巻き込み、UNHCRによると、人口約4600万人中、約1100万人が家を追われた。紛争地のデータ収集を行う米NPO「ACLED」は2万7000人以上が犠牲になったとしている。しかし、ウクライナや中東での戦争に埋もれ、「忘れられた紛争」と呼ばれる。

突然の襲撃 面前で夫殺され
平穏な一家の日常は突然の襲撃で断ち切られた。アフリカ北東部スーダンでは2023年4月に始まった軍事衝突が何ら罪のない一般国民に悲劇をもたらしている。

「親戚と連絡さえ取れず、誰も頼ることができない」。祖国スーダンを逃れ、ウガンダに身を寄せるネイマットさん(31)は嘆く。

10年ごろ、幼なじみでいとこのアダムさんと結婚。誠実で優しく、信心深い性格を愛し、けんかをしたこともなかった。2男2女に恵まれ、夫が営む食料品の小売店は経営が上向き、首都ハルツーム近郊で充実した日々を送っていた。

スーダンでは23年4月15日、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が反乱を起こした。RSFは00年代に地方の反政府勢力を攻撃するために作られた民兵組織に由来する。要員や装備を強化して政府軍に準じる役割を任されていたが、近年、政府軍への編入を巡って権力争いが激化していた。

戦闘開始から間もなく、家族での夕食後に突然外から男性の怒声と大勢の足音が聞こえてきた。「アダム、これがお前の最後の日だ」。銃を携えた覆面姿の男たち約20人が敷地の塀を乗り越え押し入ってきた。

アダムさんは両脚を銃で撃ち抜かれ、ネイマットさんは銃で腹部などを激しく殴られた。「なぜそんなことをするんだ」。アダムさんはそう叫んだ瞬間、家族の面前でナイフで首を切られ、大量に出血して絶命した。「彼らには慈悲がなく、神さえ恐れない。人間ではない」と怒りを込める。

「家にある全財産を渡せ」。脅されたネイマットさんは家にある金銭や販売用の商品、身につけていた結婚祝いのネックレスなどをかき集めて渡した。「これで何とか解放される」

しかし、蛮行は終わらず、鎖で手脚を縛られて全裸で寝室に監禁された。飲食物は与えられず、10人を超える男たちに連日暴行を受けた。数日後、意識を失い、気付いた時には病院のベッドの上だった。「ショックで全身の感覚が失われ、声すら出ず、自分が自分でないようだった」と嘆く。

ネイマットさんが後に長男ファリスさん(12)から聞いた話によると、自宅は約20日間占拠された後、男たちが気絶したネイマットさんと、監禁されていた子どもたち、そしてアダムさんの遺体を車で遠く離れた路上に運び、放置したという。ネイマットさんは残虐な手口から男たちがRSF以外にないと考えている。

次男フォウジさん(10)は父親が面前で殺されたショックで家の裏口から飛び出し、今も行方が分からない。ネイマットさんは「あの子のことを考えない日はなく、胸が張り裂けそう。でも今の私にはどうすることもできない」と涙を浮かべる。

絶望の淵で描く夢
安全のため2〜12歳の子ども3人を連れて隣国・南スーダンに逃れた。避難生活を送る中で、「ウガンダなら難民でも安心して暮らせる」といううわさが耳に入った。貨物バスの隙間(すきま)に少額の代金で乗せてもらうなどして、24年7月、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区にたどり着いた。

居住区は難民がウガンダの人たち(ホストコミュニティー)と同じ地域で共生できるよう政府が国内各地に設置しており、居住・耕作用の土地が提供される。キリヤンドンゴは地元民約73万人と難民約13万人が暮らす。

「やっと人生をやり直せる」。しかし、翌8月、子どもたちと就寝中、何者かに住まいのテントを切り裂かれた。身の危険を感じて今は隣人のテントの一角で寝泊まりをさせてもらっているが、肩身は狭い。

スーダンの自宅での襲撃の際、銃で殴打された後遺症か、腹部は大きく膨れ上がっている。少し重い物を持つと激痛が走り、水をくんで運ぶこともできない。居住区の医療施設には検査機器がなく、設備の整った私設病院に行こうにも交通費や治療費が払えない。

そんな絶望の淵にあっても、一つの夢がある。少しずつお金をためて食料品の売店を開くことだ。生計を立てる以外に大切な理由があるという。「食料品店は夫がスーダンで営んでいた。夫の思いを継ぐことで、残された子どもたちと、夫を思い出しながら強く生きていける気がするから」【11月20日 毎日】
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【進まない国際社会の停戦に向けての取組】
スーダンでの準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」と政府軍の戦闘は今も続いています。国際社会の停戦に向けての取組もままならないようです。

****ロシアが拒否権行使、スーダン内戦の停戦決議案を否決 国連安保理*****
国連安全保障理事会で18日、スーダン内戦における民間人の保護と敵対行為の停止を呼びかける決議案の採決があり、ロシアの拒否権行使で否決された。ロシアは内戦当事者双方と関係を持つ。全15理事国のうち米中を含む14カ国は決議案に賛成していた。

北アフリカのスーダンでは、2023年春から国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の内戦が続く。国連によると、人口の3割近くにあたる1400万人超が国内外に避難した。全土で人道危機が深刻化し、性暴力などの被害も数多く報告されている。

RSFは、露政府傘下の民間軍事会社ワグネルの支援を受けてきたとされる。露政府は同時に、紅海での軍事拠点確保などを目的として、武器支援を通じてスーダン国軍への影響力も強めている。

今回の決議案は、双方に敵対行為の停止や人道支援の実施へ向けた対話を呼びかける内容で、英国とシエラレオネが提案した。

否決を受けて、議長を務めたラミー英外相は「グローバルサウス(新興・途上国)のパートナーであるかのように振る舞うプーチン(露大統領)は恥を知れ」と非難し、「どれだけのスーダン人が殺され、女性がレイプされ、子どもが飢えなければならないのか」と言葉を強めた。

ロシアのポリャンスキー国連次席大使は会合で「個々の理事国の意見を安保理の決定を通じて押しつけるべきではない」と拒否権行使を正当化した。ロイター通信によると、スーダン外務省はロシアの対応を歓迎する声明を発表した。【11月19日 毎日】
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“スーダン外務省はロシアの対応を歓迎する声明を発表した”・・・このあたりの事情は良く知りません。国際社会による停戦の押しつけには反対するということでしょうか。
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