孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  トランプ大統領の「最大限の圧力」再開に対し、最高指導者は米との交渉を拒否

2025-02-08 22:29:18 | イラン

(イラン最高指導者ハメネイ師とトランプ大統領【2月6日 VIETNAM.VN】
トランプ大統領はイランへの「最大限の圧力」復活させる一方で、会見で「イランと取引できれば素晴らしい」と述べ、イラン側との交渉にも意欲を示しています。)

【中東情勢を不安定化させる危険がある「追い詰められたイラン」】
おととしのハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、イスラエルとの衝突が軍事的なものになり、支援してきたハマスだけでなく虎の子の親イラン組織ヒズボラも大打撃を受け、支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・イランの地政学上の立場は壊滅的な打撃を受けています。

イランの中東における影響力はかつてないほど弱体化していますが、そのことは更なる中東情勢の不安定化をまねく可能性もあります。

****<トランプ再来、窮地に陥るイラン>イアン・ブレマーのユーラシアグループも指摘するリスク、3つの難題を読み解く*****
(中略)ユーラシアグループは2025年1月6日、2025年の10大リスクを発表した。(中略)中東に関して注目されるのは、リスクNo.6に「追い詰められたイラン」が入っていることだろう(中略)

同レポートには、「年内に制御不能なエスカレーションが起こる可能性は十分」とある。この理由として、ガザ危機やシリア政権崩壊によるイランの抑止力の低下、トランプ再登場による対イラン強硬政策の発動、国内での反体制運動の静かな高まり等が挙げられている。

こうした中、25年1月17日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領はモスクワを訪れ、イラン・ロシア包括的戦略パートナーシップ条約を締結した。

その3日後の20日、アメリカではドナルド・トランプが47代大統領として就任した。同大統領はイランに対し、「最大限の圧力」キャンペーンを再開するのではないかと囁かれている。(中略)

多方面で難題に直面するイラン
近年、イランを取り巻く状況は大きく変化している。長らく、イランは中東において代理勢力(「抵抗の枢軸」)の育成に成功し、戦略的優位を確立したと評されてきた。しかし、ここにきて同国にとっての安全保障環境は悪化傾向にある。

第1に、イランとイスラエルの「影の戦争」が「表の戦争」に移行した点は大きい。(中略)
24年4月にイスラエルによるとされる在シリア・イラン大使館への攻撃が発生し、革命防衛隊員7人(シリア・レバノン方面の司令官含む)が殺害されると、今度はイランがイスラエル本土に対して「真の約束」作戦と題する弾道ミサイル・ドローンを組み合わせた攻撃で報復した。

その後、ハマスのハニヤ政治局長の首都テヘランでの殺害(7月31日)を受けて、同年10月1日にもイランは「真の約束2」作戦を実行、それに対して同26日はイスラエルからの応酬がなされ、防空システムと弾道ミサイルの製造能力に多大な被害(注:イラン側は否定)が生じるなど事態は緊迫することとなった。

第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。(中略)
これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針
それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。(中略)

第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。(中略)イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。(中略)

一方で、24年11月中旬、イラン国連代表部大使が、トランプ政権で政府効率化省を任されたと噂される富豪のイーロン・マスク氏と会談したと伝えられた。真偽は不明だが、仮に事実であるならば、両国は緊迫する中でも対話のチャンネルを維持したいものとみられる。

イランでは、対外政策の意思決定主体は複数の機関によって分掌されており、相互がバランスを取り合う仕組みになっている。

改革路線で有権者の支持を得て当選したペゼシュキアン大統領、そして国際協調路線を取るアラグチ外相は、欧米との対話に前向きな姿勢である。しかし、最高指導者、革命防衛隊、国家安全保障最高評議会(SNSC)は異なる考えを有している可能性があり、実際の対外行動は複数の主体の思惑が絡まりあった末に決められることになる。

イランとしては、交渉相手から最大限の譲歩を引き出すべく、硬軟織り交ぜた戦術を講じるだろう。

抑止力回復に向けたいくつかのアプローチ
それでは、イランは実際にどのようなアプローチで事態に対処するのか、あり得る方向性をいくつか挙げよう。

第1に、欧米との軋轢が深まる中、イランの東方重視政策が継続されると考えられる。イランは21年3月には、イラン・中国25カ年包括的協力協定を締結した。これによって、制裁下でもイラン産原油を中国が購入し続けている。

また、本年1月17日にはロシアと20カ年包括的戦略パートナーシップ条約を締結してもいる。イランとしては、仲間となる国を増やし国際的な孤立を解消するとともに、金融・原油取引制限の中でも外貨獲得ができる抵抗経済の確立を追求している。

第2に、現在までイランは核開発を平和利用のためと説明してきているが、核ドクトリンを変更する可能性が取り沙汰されている。(中略)

第3に、軍事技術を不断に向上させ、それを誇示するかもしれない。(中略)

この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。

特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。

最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。

不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。

イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。(中略)

もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。

欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。【1月25日 WEDGE】
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【「最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」 トランプ大統領のイラン政策への牽制か】
上記記事で、イランのアプローチのあり得る方向性の2番目に、核ドクトリンの変更、すなわち核兵器開発があげられていますが、最高指導者ハメネイ師はこれまで同様「軍の核兵器開発を許可しない」という立場をいささか唐突に表明しています。

おそらく、圧力を強めるトランプ政権に対して「交渉」の余地を示すものと思われます。

****イランが『核兵器開発禁止令』発出 対トランプ政権への狙いとは?*****
<イランの最高指導者ハメネイ師が突然、核兵器開発を禁じた。制裁緩和に向けた交渉開始を求めるシグナルなのか>

ペルシャ語放送のイラン・インターナショナルによれば、イラン軍司法機関のプルハガン長官が1月21日に核開発禁止を発表した。第2次トランプ米政権発足の翌日だ。

「故ホメイニ師は敵に対しても、違法兵器や非通常兵器の使用を認めなかった」と、プルハガンは述べた。「この原則に基づき、最高指導者は軍の核兵器開発を許可しない」

IAEA(国際原子力機関)は昨年12月上旬、イランの核開発と濃縮ウランの備蓄増加への懸念を表明。
イランは既に、ウラン濃縮度を核兵器級に迫る60%に引き上げている。核兵器製造を阻止するため、トランプ米大統領と政権は「最大限の圧力」路線の復活を討議している。

「核を軍事目的で利用する意図は全くない」。イランのペゼシュキアン大統領は先日、駐イラン英大使にそう語った。米政府にその声は届くのか。【1月27日 Newsweek】
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【トランプ大統領 「最大限の圧力」再開 交渉の余地も示唆】
一方、トランプ大統領は2月4日、第1次政権時に実施したイランに対する「最大限の圧力」政策を復活させる大統領覚書に署名しました。

覚書は財務省に対して、イランへの経済圧力の強化を指示。財務省と国務省には、イラン産原油の輸出ゼロを目的としたキャンペーンを実施するよう指示しています。

同時に、イランに対し『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』とのメッセージを送り、硬軟両様の構えです。

****トランプ氏「取引したい」 対イラン「最大限圧力」も交渉の余地示唆****
トランプ米大統領は4日、核開発を進めるイランに対して「最大限の圧力」をかける政策を復活させる大統領覚書に署名した。

その後の記者会見では「可能な限り攻撃的な制裁を実施する」と強調したが、一方で「熱心に耳を傾けているイランにこう言いたい。『ぜひ素晴らしいディール(取引)をしたい』」とも話し、交渉の余地があることを示した。

覚書では、財務長官に対して新たな制裁や既存の制裁の厳格な執行など最大限の経済的圧力をイランにかけるよう命じ、国務長官に財務長官らと調整してイラン産原油の輸出をゼロに追い込むためのキャンペーンを実施するよう指示した。国務長官には、国際機関を含めて、世界中でイランを孤立させる外交キャンペーンを主導するよう求めた。

トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見で、「私は本日、イランの政権に対する『最大限の圧力』政策を復活させる措置を取った」と強調。「最も強力な制裁を科し、イランの石油輸出をゼロにし、イランの政権が地域全体および世界全体でテロの資金源となる能力を低下させる」と狙いを説明した。

一方、「最大限の圧力」を復活させることについては「私はイランが平和で成功することを望んでおり、やるのが嫌だった」と主張。イラン側に向け「あなたたちが生活を再建し、素晴らしい成果を上げることができるような取引を成立させたい」とも語った。

ただし、「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」とも強調。「彼らが核兵器を持つようになると私が考えれば、彼らにとって非常に不幸なことになるだろう」と警告した。

トランプ氏は第1次政権時の2018年、米英仏独露中の6カ国とイランが15年に結んだイラン核合意からの一方的な離脱を表明。イラン産原油の禁輸などの経済制裁にとどまらず、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害するなどイランに「最大限の圧力」をかけた。【2月5日 毎日】
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前出のイラン側の事前の「核兵器開発禁止令」表明は、トランプ政権の「イランに核兵器を持たせるわけにはいかない」という姿勢に対応するもので、予想されるトランプ政権の圧力を緩和させることを期待し、交渉の余地を残しておきたいというイラン側の思いでしょう。

なお、“イランがトランプ氏の暗殺を企てれば「イランを全滅させる」と述べた。そのための指令をすでに出したと説明した。米司法省は昨年11月、イラン軍組織が命じたトランプ氏の暗殺計画に関与したとして、イラン人の男を起訴したと発表していた。”【2月5日 産経】とも。

【イラン側反発 最高指導者は対米交渉を拒否】
イラン側は、トランプ大統領の「最大限の圧力」政策に反発していますが、同時に核兵器保有を容認しない方針もを強調しています。

****「最大限の圧力、失敗する」=イラン、トランプ氏に反発****
トランプ米大統領が敵対するイランへの「最大限の圧力」政策を復活させたことに対し、イランのアラグチ外相は5日、「(第1次トランプ政権時に)既に失敗しており、再び失敗するだろう」と主張した。イランのメディアが伝えた。

トランプ氏は4日、イランの核兵器保有を容認しない方針を強調したが、アラグチ氏は「懸案は解決可能だ」と指摘。「イランは核拡散防止条約(NPT)加盟国であり、(核兵器の製造や保有を禁じる最高指導者ハメネイ師の)ファトワ(宗教令)も出ている」と述べ、核兵器開発の意図を改めて否定した。【2月5日 時事】 
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ただ、最高指導者ハメネイ師はアメリカとの交渉を拒否する姿勢を見せています。事前に投げかけた「核兵器開発禁止令」発出の効果が見られないとの反応でしょうか。

これにより当分は「交渉」が進展する余地は小さいと思われます。

****イラン ハメネイ師 米交渉拒否 トランプ氏を批判****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は7日の演説で、米国との交渉を拒否する方針を表明した。トランプ米大統領は5日、イランとの交渉に前向きな姿勢を示していたが、イラン核開発を巡る現状打開の糸口は当面なくなった。米国の対イラン制裁強化やイラン側の核開発加速などで対立が深まる可能性が高まった。

ハメネイ師は軍将校らを前にした演説で、「米国とは交渉すべきでない。あんな政府との交渉は、賢明でも聡明そうめいでも名誉でもない」と述べた。理由として、米政府が核合意を順守しなかった過去の「経験」を挙げ、トランプ氏を「合意を破り捨てた同じ人物だ」と指摘した。

さらに、ハメネイ師は「米国の脅威には脅威で応じる。攻撃されれば攻撃する」と断言し、軍事衝突の選択肢にも言及した。

これに先立つ6日、米財務省は、イラン軍参謀本部に代わって年間数百万バレルのイラン産原油の中国への輸出を支援したとして、イランや中国などの個人やタンカー会社に制裁を科すと発表した。トランプ氏がイランに「最大限の圧力」をかけるよう4日に指示した後、米政府が制裁を発動するのは初めてだ。

トランプ氏は、イランの外貨獲得手段である原油輸出をゼロにする目標を掲げている。今回の制裁では、取引で重要な役割を果たす中国の金融機関は対象外で、イラン側とのディール(取引)の材料にする可能性があるが、イラン外務省報道官は7日、米政府の決定は「違法」とする非難声明を発表した。

イランは2018年、米英露など6か国と結んだイラン核合意から第1次トランプ政権が一方的に離脱し、制裁を再開したのに対抗して核開発を加速させた。現在、兵器級に近い濃縮度60%のウランを製造している。

米国が制裁を強化すれば、イランはさらに核開発を進めるとみられ、イランの核武装を憂慮するイスラエルを刺激することになる。イランの核施設への攻撃など軍事的な対立への発展も懸念される。【2月8日 読売】
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イランでは昨年7月、欧米との対話を通じて制裁解除を目指すペゼシュキアン大統領が就任しました。しかし、軍事や外交の最終決定権を持つハメネイ師がアメリカとの交渉を否定する姿勢を示したことで、対話路線の追求は難しくなる可能性があります。

もちろん、今は互いに強気の姿勢を見せあう段階で、今後は状況次第ですが。
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シリア  「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ

2025-02-07 23:44:03 | 中東情勢

(【2月5日 ABEMA news】2月4日 トルコを訪問したシャラア暫定大統領を歓迎したトルコ・エルドアン大統領)

【HTSの指導者が暫定大統領に 選挙は「推定で4、5年先だろう」】
トランプ大統領に振り回されて忘れてしまいがちですが、シリアではアサド政権崩壊を受けて「新生シリア」建設が模索されています。

****シリア旧反体制派指導者、暫定政権トップに就任 現議会は解散へ****
シリア暫定政府を主導する旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」は29日、HTSの指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任することを発表した。これに伴い、新たな立法評議会の設立権限が与えられる。

HTSの作戦司令部報道官によると、シリア憲法は停止されるほか、現議会も解散となる。【1月30日 ロイター】
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何の権限があってHTSとシャラア氏が?という疑問もありますが、アサド政権打倒に中心的役割を果たしたということで、アサド政権に代わるべき統治システムが他に存在しないシリアにあっては現実的な流れでしょう。

シャラア氏は正式な大統領選挙について、「推定で4、5年先だろう」とも。

****シリア大統領選実施は4─5年先の見通し=暫定大統領****
シリアのアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は3日放送のシリアテレビのインタビューで、大統領選の実施時期の見通しを初めて明らかにし「推定で4、5年先だろう」と述べた。

シャラア氏は旧アサド独裁政権を駆逐した反政府イスラム勢力を率い、1月30日に暫定大統領に就任したばかり。

インタビューでシャラア氏は「大規模な選挙管理体制の再構築が必要で、そのために時間が必要だ」と指摘。有権者データを更新するため国内人口のデータをまとめる必要があると述べた。

さらにシャラア氏は、大統領選までの移行期間は大統領自身も含め国際規範を適用する方針も示した。ただ、選挙が4、5年先と見通した際にどの国際規範を検討したかは明らかにしなかった。【2月4日 ロイター】
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4─5年先・・・随分先の話にも思えますが、拙速な対応が混乱を惹起する危険性もあって、判断に迷うところです。

【懸念される独裁政権崩壊後の混乱】
そもそも独裁者アサド氏を追い出して民主化が進むのかどうか?・・・については、悲観的な見方が根強くあります。

****<独裁者を倒せば民主化へ進むのか?>シリアのアサド政権崩壊を素直に喜べない現状****
1月7日付けワシントン・ポスト紙は、20年以上同紙の特派員だったキース・リッチバーグ(プリンストン大学教授)の論説‘A dictator’s fall brings jubilation – that quickly turns sour’を掲載している。

同教授は、ハイチ、フィリピン、インドネシア等の例を取り上げて、往々にして独裁体制が倒れた後に民主化は進まず、暴力、無政府状態が横行し、結局、民衆は再び独裁政治を望むという現実を指摘して、アサド政権が倒れた後のシリアが民主化して安定するかについて悲観的な見方を示している。要旨は次の通り。

独裁者が失脚すると喜びに溢れる民衆が通りを埋め、独裁者の銅像は倒される。そして、政治犯は解放され、集団墓地が暴かれるが、この喜びが失望に変わるのに時間はかからない。体制が崩壊して治安が空白状態になると暴力が横行し、暫くすると人々は、独裁者の時代を懐かしむ。

私(リッチバーグ)は、1986年のハイチで独裁者ジャン・クロード・デュヴァリエの失脚を取材したが、シリアで人々が通りでアサド大統領の失脚を喜んでいる様子を見て、その時のハイチを思い出した。

独裁者アサド大統領は失脚したが、果たしてシリアの人々は、全ての勢力を含んだ新たな政治・社会体制を構築するチャンスを得たのであろうか。それともハイチや他の国々の様に新たな独裁者が現れるまで暴力と混乱が続くのであろうか。私は、ハイチでの経験からシリアの将来について悲観的にならざるを得ない。

ハイチでは、独裁者を倒した歓喜が暴力の横行に取って代わられるのに時間はかからなかった。群衆はデュヴァリエ派を追い回し、建物は略奪され、火が放たれた。

ハイチは、典型的な「破綻国家」となり、何十年間もクーデターを繰り返し、暗殺が横行し、米軍の軍事介入まで起きた。今日でもハイチでは、ギャングに苦しめられ、暴力が横行している。

このような事態は、他の国々でも起きている。86年、フィリピンで独裁者マルコス大統領が追放されて民主的な選挙が復活したが、同時に政治的混乱、腐敗、経済的不振が続き、フィリピン国民は強い指導者の復活を望んでドゥテルテが民主的に大統領に選ばれた。しかし、彼の強引な麻薬対策で2万人が死んだ。

2022年には追放されたマルコス大統領の息子が、父親の安定した統治へのノスタルジアを訴えて大統領に就任した。インドネシアでは98年にスハルト大統領の独裁体制が打倒されたが、国民の間で暴力が横行し、分離独立主義が脅威となり、インドネシアは、再び民主的ではない独裁者の支配に傾きつつある。

ソ連の崩壊後、アフリカではソマリア、エチオピア、チャド、そしてザイールの独裁者達が追放されて民主主義が広まると思われた。しかし、独裁者の失脚により暴力、無政府状態、専制政治がより酷くなっただけだった。

ソマリア、エチオピア、チャド、コンゴ民主共和国(元ザイール)は、国際的に最も脆弱な国家と見なされている。果たしてシリアは、このような運命を免れる事ができるのだろうか。
*   *   *

シリアの現状
アサド体制崩壊後のシリアは、シリアの主要部を掌握したHTS(シャーム解放機構)を中心としたイスラム原理主義勢力と北部と南部に拠点を有するクルド人勢力との衝突が不可避ではないかと懸念される。

これは、イスラム原理主義勢力のスポンサーはトルコだが、トルコは、シリアのクルド人勢力をトルコから分離独立しようとしているPKK(クルド労働者党)と同一視して過去に何回も越境攻撃を行っているからで、当然、トルコがこの千載一遇の機会を逃す訳がなく、既に、シリア国内の親トルコ勢力が北部のクルド人勢力との戦闘を続けており、「シリアの全ての勢力を含んだ民主的な体制」の構築は困難となっている。

既にシャラアHTS指導者は、トルコ外相に会った際、クルド人勢力に武装解除を求めたと伝えられている。

なお、仮にシリアの主要部でイスラム原理主義勢力が中心となった新体制が成立しても、彼らは、「穏健なイスラム原理主義勢力」を目指すと言っているが、女性や非イスラム教徒の扱い等で西側と温度差が生じると思われる。

例えば、イスラム帝国の時代にはイスラム教の優位を認めれば非イスラム教徒は、ジズヤ(人頭税)を払って信仰の自由は保証されたが、このような制度の復活を西側は受け入れられないであろう。

現在起草中のシリアの新憲法では、「イスラム教を国教とし、他の宗教の信仰は尊重される」と書かれているが、この様な事態を懸念させる。【1月31日 WEDGE】
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一般論としては独裁政権打倒後に混乱が広まるのはよくある話で、上記記事でリッチバーグ氏があげているハイチの他、イエメンなども典型例でしょう。

ただ、(問題はあるものの、まがりなりにも民主主義が実践されている)フィリピンやインドネシアをその同列で扱うのは、アジアの一員としては疑問も。

【全武装組織の解散を発表 クルド人勢力の対応は不透明】
それはともかく、シリアがどういう未来に進むのか? 先ずは国内武装組織の問題があります。

****シリア過激派指導者が暫定大統領 全武装組織の解散を発表****
シリア暫定政府の軍報道官は29日、暫定政府を主導する過激派「シリア解放機構(HTS)」のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者が暫定大統領に就任したと発表した。HTSを含む全武装組織を解散し、国家機関に統合すると表明した。国営通信が伝えた。

HTSを中心とした統治が強まるとみられるが、シリア各地は複数の組織が入り乱れており、融和が進むかどうかは不透明だ。北部ではクルド人勢力主体の民兵組織と、HTSとは別の旧反体制派組織との衝突が続いている。各組織が解散を受け入れているのかどうかも不明だ。

報道官はアサド政権時代の2012年に改正された憲法の破棄を強調した。【1月30日 共同】
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前出【WEDGE】でも指摘されているクルド人勢力との関係は不透明です。
他にも、過激派組織「イスラム国」(IS)残党も存在します。

****シリア北部で自動車爆弾が爆発、20人死亡 周辺で同様の事件相次ぐ****
シリア北部マンビジュで3日、自動車爆弾が爆発し、女性14人を含む少なくとも20人が死亡した。ロイター通信などが報じた。犯行声明は出ていないが、シリア大統領府はテロ事件だとして「実行者を罰さないではおかない」と表明した。

報道によると、昨年12月にアサド政権が崩壊して以降、テロ事件としては最悪規模。被害者の多くは農業従事者だったという。周辺では同様の事件が相次いでおり、1日にも自動車爆弾による爆発で死傷者が出ていた。

マンビジュはシリア内戦で過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下に置かれたが、米国が支援するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が2016年に制圧した。

アサド政権崩壊後は、クルド人勢力と敵対するトルコが支援している別の旧反体制派組織「シリア国民軍」がSDFと衝突し、マンビジュを支配下に置いていた。【2月4日 毎日】
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【ロシアはウクライナで手一杯 トランプ大統領は関心なし 米ロの空白で影響力拡大を目論むトルコ】
混乱期に外国が干渉して混乱が拡大・・・というのはよくあるパターンですが、幸か不幸か、今はかつてシリア政権で大きな影響力を持ったロシアはウクライナで手一杯で、シリアにある軍事基地を何とか維持するのに汲々としている状況、アメリカ・トランプ大統領もシリアには関心がありません。

****「シリアなんて放っておけ」なトランプ 利権確保へ苦慮するロシア、暫定大統領をモスクワに“招待”も「トランプ頼み」は否めない*****
ロシアはシリア新政権との関係強化に躍起になっている。シリアにはロシアの対中東、対地中海戦略上、死活的に重要な2つの軍事基地があり、これを失うことの損失を十分認識しているからだ。

だが、ロシア軍の爆撃で市民や戦闘員多数を殺害された新政権側はロシアに亡命したアサド前大統領の引き渡しを要求、プーチン政権が対応に苦慮している。(中略)

ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。

2つの軍事基地はなぜ重要なのか
1月末、ボグダノフ外務次官やラフレンティエフ・シリア担当大統領特使らロシア代表団がダマスカスを訪問、アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領ら新政権の指導者らと会談した。昨年12月のアサド政権崩壊以来、ロシア高官がシリア入りするのは初めてのことだ。

(中略)ロシアはアサド政権崩壊で、2つの軍事基地の守備隊を除き、シリア駐留軍の大部分を本国に撤収させた。
 軍事基地の1つはソ連時代から保有する西部の地中海沿岸タルトスの海軍基地。もう1つは軍事介入後に新設した北西部フメイミムの空軍基地だ。

両基地とも2066年まで駐留できる合意となっているが、新政権の間でこの合意の有効性は不透明になった。両基地はシリアだけではなく、中東や地中海沿岸の欧州諸国、アフリカをも視野にいれたロシアの橋頭保だ。

とりわけ中東では、米国のプレゼンスが弱体化するのを尻目にロシアの威信が高まり、両基地はロシアにとって世界戦略上、なんとしても維持しなければならない存在になった。だからこそ今回、大型代表団を送り込んでシャラア氏らを説得しようとしたわけだ。(中略)

ただ、暫定政府側にも弱みがある。それはシリアが保有する兵器のほとんどがロシア製だということだ。シリアから全面撤退したイランに頼るわけにもいかず、武器や弾薬の補給はロシアに依存するしかない。(中略)

「シリアなんて放っておけ」なトランプ
(中略)トランプ大統領は「シリアなど放っておけ。われわれの戦争ではない」などと不介入の方針を鮮明にしており、米・シリア関係が好転するかどうかは不明だ。

米国は現在「IS復活阻止とイランの動きを監視する」という名目で2000人の部隊をシリア東部などに駐留させているが、トランプ氏が全面撤退を命じる可能性もある。

第一次政権でもトランプ氏はシリアからの全軍撤収を主張したが、国防総省の反対で約900人を残留させざるを得なかった。しかし今回、同氏は二度と最高司令官の命令に反抗させないとの考えといわれ、駐留軍の残留も含めシリア新政権との関係の行方が焦点だ。

ロシア側は米軍の完全撤退はシリアにおけるロシアの影響力を高める上ではプラスとみなし、トランプ氏の撤退決断が軍事基地存続に有利に働くと考えているようだ。「トランプ頼み」という側面も強い。【2月4日 WEDGE】
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ロシア・アメリカの影響力が低下するのを絶好の好機と考えるのはトルコでしょう。
かねてよりトルコはシリア北部のクルド人勢力を敵視し、軍事進攻も行っています。

クルド人勢力はアメリカと共同でIS掃討にあたってきましたが、トルコはアメリカに代わってIS掃討作戦を引き継ぐ構えで、結果的にクルド人勢力の存在感を低下させる狙いがあると見られています。

****トルコ、シリアでイスラム国の掃討作戦実施へ ロイターなど報道****
トルコのフィダン外相は5日、シリアの暫定政権と連携し、シリア国内で過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を実施する方針を明らかにした。ロイター通信などが報じた。

トルコには、敵視するクルド系武装組織の影響力をそぐ意図がある模様だ。作戦には、近隣のイラクとヨルダンも協力する。

ISは、2011年からのシリア内戦の中で勢力を拡大し、一時はシリアとイラクの広域を支配した。内戦を巡り、昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊した一方、IS残党は存在し続けている。

これまで、シリア北部では、トルコと敵対するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が米軍の支援でIS掃討作戦を行ってきた。これをトルコが担うことで、SDFの存在感低下を狙っているとみられる。

SDFはシリア北部の一部地域を支配しており、アサド政権崩壊後はトルコの影響下にある武装組織との衝突が激化している。

報道によると、トルコなどの4カ国は外交や防衛、諜報(ちょうほう)の分野で緊密に協力することで原則的な合意に達した。

シリア暫定政権のシャラア大統領は4日、トルコの首都アンカラでエルドアン大統領と会談し、ISやSDFへの対応などを協議。エルドアン氏は記者会見で、これらの組織との戦闘を支援する用意があると表明した。

一方、米NBCニュースは5日、関係者の話として、米国防総省がシリアに駐留する米軍の撤退計画を準備していると報じた。米軍はシリア南部タンフに駐留し、IS掃討作戦を続けている。報道によると、トランプ米大統領は1月下旬、「我々はシリアに関与しない」などと語っていた。

トランプ氏は政権1期目の18年に、シリアからの米軍撤収を決定したが、マティス国防長官(当時)が抗議して辞任。トランプ氏はその後、規模を縮小して残すことに同意した経緯がある。【2月5日 毎日】
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“2011年に勃発したシリア内戦で、トルコは反体制派側を支援してきた。国境の管理を通じて、反体制派が陣取ったシリア北西部イドリブ県への人道支援や貿易の調整も実施。さらに、トルコ軍が17年からイドリブ県内に駐留し、この地を拠点とするHTSなどを政府軍の攻撃から守った。”【12月26日 毎日】と、HTSとトルコは緊密な関係にあり、“HTSのスポンサーが隣国トルコであるのは明らか”【1月16日 WEDGE】とも。

トルコの圧力が強まるなかで、クルド人勢力が暫定政府が求める武装解除に応じるかどうか・・・

【宗教的複雑な国内事情 社会不安を煽る偽情報】
更に、シリア国内はスンニ派、シーア派、アラウィ派、クルド人、キリスト教徒、ドールズ教徒が存在し、中東の縮図と言える複雑さがあります。

アサド政権の支持基盤のアラウィ派、政権に協力したキリスト教徒には報復を恐れる不安があります。その不安と対立を煽る偽情報も拡散しやすい状況です。

****アサド政権崩壊のシリア、社会不安あおる偽情報が拡散...WhatsAppと中国の影響も****
昨年12月にアサド政権が崩壊したシリアでは、親アサド派や自称「反アサド派」が宗派間の対立をあおり、新生シリアの体制を不安定化させようとデジタル空間で偽情報をまき散らしており、政権移行にとって障害になるとの懸念が広がっている。

専門家によると、ロシア、中国、イラン、イスラエルなどを含めた国内外の勢力が偽情報の拡散や「ナラティブ(物語)の兵器化」に関与していると見られる。(中略)

HTSは2016年にアルカイダとの関係を断ち、政権掌握後は宗教的少数派の保護を打ち出している。しかし宗派間の緊張は依然として強く、アサド氏を支持していたイランやロシアのほか、中国やイスラエルといった外国勢がオンラインで恐怖をあおっていると見られる。(中略)

例えば広く拡散した動画の一つに北部アレッポのアラウィ派施設が炎上している様子を写したものがあり、動画公開された時期はアサド政権崩壊後で最も社会不安が高まっていた時期に一致していた。動画を視聴した多くの人々がアラウィ派は脅威にさらされていると受け止め、中部ホムス市ではアラウィ派やシーア派の少数派住民が主導したとされる抗議活動が発生し、アラウィ派の住民が多い沿岸地域でも同様の動きが起きた。

しかし内務省によると、この動画はHTSが首都ダマスカスを制圧する前に撮影されており、このタイミングで拡散されたのは宗派間の対立をたきつけるのが狙いだという。(後略)【2月6日 Newsweek】
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不安要素をあげればきりがない「新生シリア」ですが、シャラア暫定大統領は2日、初外遊でサウジアラビアを訪れ、事実上の最高権力者ムハンマド皇太子と会談、“サウジからの財政支援や国際社会による制裁の解除への協力なども要請した可能性が高い。”【2月3日 時事】とも。

また、エコノミスト誌とのインタビューで、アメリカとの早期の関係回復を目指していると述べ、地域安定のためシリアへの制裁を解除することをトランプ大統領に求めています。
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南アフリカの土地収用新法を白人差別と批判するトランプ大統領 “負の歴史の清算”を求める南ア黒人層

2025-02-06 23:34:38 | アフリカ

(南アフリカ・フリーステイト州のトウモロコシ畑【2018年8月24日 Newsweek】 このような広大な農園のほとんどは未だ白人所有であり、資産の格差は結果的に所得の格差を存続させています)

【トランプ大統領 南アの土地収用に関する新法を白人への人種差別と批難 背後にはマスク氏の存在も】
アメリカ・トランプ大統領は、国際的な面だけでも、不法移民強制送還をめぐってコロンビアなどと、関税問題ではカナダ・メキシコ・中国と、昨日取り上げたパレスチナ・ガザ地区をめぐって中東諸国と、更にはグリーランドをめぐってデンマークと、パナマ運河をめぐってパナマと、NATO負担をめぐって欧州と対立し、ディール(取引)を展開しています。

もちろん、選挙期間中に「24時間で終わらせる」と豪語していたウクライナ・ロシアの問題もあります。イランをめぐる問題、地球温暖化のパリ協議・疾病対策のWHO・国際人道支援といった国際的協調からの離脱もあります。

当然ながら、国内では「革命」とも言えるような大幅・急激な政策転換も行っています。

どんな問題を取り上げても、「トランプ大統領の対応は?」ということが絡んできます。

傍目にはあまりに抱える問題が多すぎるようにも見えますが(ひとつひとつ丁寧に検討する時間はないでしょう。直観勝負でしょうか)、それでも不足しているのか、話題になることは多くありませんが南アフリカとも揉めています。

****トランプ氏、南アへの資金援助を全面的に停止へ 投稿経緯は不明****
トランプ米大統領は2日、「南アフリカが土地を没収し、特定の階層の人々を非常にひどく扱っている」と根拠なく主張し、南アフリカへの資金援助を調査完了まで全て停止すると表明した。

交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」に「米国はこれを容認せず、行動を起こす」と投稿した。

投稿に至った経緯は不明。在ワシントンの南アフリカ大使館からは業務時間外のためコメントを得られていない。

米国政府の統計によると、2023年に米国は南アフリカに対する約4億4000万ドルの援助を義務化した。

南アフリカは現在20カ国・地域(G20)の議長国。米国が議長国を引き継ぐことになっている。

南アフリカのラマポーザ大統領は先月、トランプ政権下での米国との関係について心配していないとの見解を示した。トランプ氏とは昨年11月の大統領選勝利後に祝意とともに、同政権と協力していくことを楽しみにしていると伝えたことを明らかにした。

トランプ氏は第1次政権時代、南アフリカで白人農民の大規模な殺害や土地の暴力的買収が行われているとして調査すると表明。南ア政府は当時、トランプ氏が誤解していると指摘していた。トランプ政権が調査を実施したかどうかは不明だ。

トランプ氏の盟友で実業家のイーロン・マスク氏は南アフリカ生まれ。マスク氏は23年にXで、南アフリカの極左政党が古い反アパルトヘイトの歌「ボーア人を殺せ」を歌っている動画に反応し、「彼らは南アフリカで白人の大量虐殺を公然と推進している」とした上で、ラマポーザ氏に対し「なぜ何も言わないのか?」と訴えた。【2月3日 ロイター】
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“経緯は不明”とありますが、トランプ大統領は、公益のために国家が土地を収用しやすくする南アフリカの新法を批判し、同国の白人を念頭に「特定の階級の人がひどい扱いを受けている」とも指摘しています。

そうした批判の背景には南ア出身のマスク氏の存在があります。

****トランプ氏、南アフリカ批判 マスク氏影響か****
トランプ米大統領は2日、公益のために国家が土地を収用しやすくする南アフリカの新法を批判した。同国の白人を念頭に「特定の階級の人がひどい扱いを受けている」とし、南アへの資金援助停止に言及した。

南ア生まれの実業家イーロン・マスク氏が同国で白人が差別されていると主張しており、トランプ氏の批判に影響を与えた可能性がある。南アの新法は先月、ラマポーザ大統領が署名した。

トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)で「南アは土地を没収している。ひどい状況だ。大規模な人権侵害が起きている」と根拠を示さず糾弾。調査が終わるまで「南アへの資金援助全て打ち切る」と表明した。

ラマポーザ氏は3日の声明で、誤解を解くために米側と協議したい考えを示した。

南アではアパルトヘイト(人種隔離)で白人が取得した土地の再分配が課題になっている。白人から土地を奪うのが新法の狙いだとの見方があり、マスク氏も同調している。【2月4日 共同】
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南アフリカは「いかなる人々の土地も没収していない」と反論し、トランプ政権との協議を求めています。

****「土地没収してない」南ア大統領が反論 トランプ大統領の資金援助停止表明受け****
アメリカのトランプ大統領が南アフリカへの資金援助を全面的に停止する意向を示したことを受け、ラマポーザ大統領が反論し、「トランプ政権と協議の場を持ちたい」と声明を出しました。

トランプ大統領は2日、「南アフリカは特定の階級の人々の土地を没収し非常にひどく扱っている」と主張し、調査が終わるまで資金援助をすべて停止すると表明しました。

これに対してラマポーザ大統領は3日、「南アフリカ政府はいかなる人々の土地も没収していない」と反論しました。

また、「トランプ政権と協議することを楽しみにしている」としたうえで、「この問題に関して共通の理解を得られると確信している」と述べています。

ロイター通信によりますと、トランプ大統領は前回の大統領在任期間中にも南アフリカで多くの白人の農民が殺害されたり、土地が暴力的に買収されているとして調査すると表明していました。

その後のバイデン政権では、2023年に南アフリカに対して約4億4000万ドルの援助を義務化しています。【2月3日 テレ朝news】
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【“人種差別”か“負の歴史の清算”か? 黒人層の苛立ちで“黒いトランプ”の台頭】
問題の根っこは、アパルトヘイトを廃止した南アフリカにおいて、未だに多くの土地を白人が所有しているという現実、それに対する黒人層の苛立ちがあります。

また、南アとしてはアメリカの批判はある程度“想定内”で、アメリカの援助が以前ほどの重要性を持たなくなっている現実もあるようです。

****アメリカが南アフリカ向け援助停止を警告――その理由になった“人種差別”とは何か****
米トランプ政権は「黒人による白人への差別」を理由に、南アフリカ向け支援の停止を警告した。
南アフリカでは1月、補償なしに土地を収用できる法律が成立し、その対象には白人所有地も含まれるとみられている。

ただし、アメリカの強い拒絶反応は南アフリカにとって想定の範囲内で、あえて土地収用法を成立させたと考えられる。

「土地を没収しようとしている」
米トランプ大統領は2月2日、南アフリカ(南ア)向けの開発協力を無期限に停止すると発表した。
その理由は「土地を没収して、特定の人々をとても劣悪に扱っている」からとされた。  ここでいう特定の人々とは南ア白人を指す。

南アでは1月末、「正当で公益に資する場合」、政府は補償なしに私有地を公的管理のもとにおける土地収用法が成立した。

これが白人所有地の収用と黒人への再分配を念頭においたものであることは、もはや国際的な常識に近い。

だからこそトランプのアドバイザー、イーロン・マスクは「なぜ露骨に人種差別的な法律を成立させた?」と批判しているのだ。マスクは南ア出身だ。

国務省によると、アメリカの南ア向け援助額は約3億1800万ドル(2024年)だった。

人種差別か、歴史的清算か
批判に対して、南アのシリル・ラマポーザ大統領は「我が国は民主国家だ。法的手続きに沿ったもので、没収ではない」と反論した。

土地収用法の対象には、以下のような場合も含まれる。
・投機目的で所有されている土地
・賃借人によって実質的に管理されている土地
・放棄された土地
・所有権が不明な都市の建築物

これだけならそれほど大きな問題もないようにみえるが、実際には先述のように白人所有地も例外ではない、とみられている。

それをマスクは“人種差別”と呼ぶわけだが、一方で南アにはこれを“負の歴史の清算”と評価する人も多い。
というのは南アでは人口の9%に過ぎない白人が耕作可能地の72%を所有しているからだ。
これは18世紀以降、白人が黒人を武力で追い払って“私有地”を広げた結果だ。
 
それもあって、現在でも人口の約8割を占める黒人の平均年収は白人の約5%に過ぎない。

土地収用をめぐる対立軸
だからこそ南アでは所得格差の是正が白人所有地の収用と結びつけて語られやすい。

その裏返しでアフリカを植民地支配したヨーロッパや、あるいはやはり先住民族を武力で追い払って白人が広大な土地を“私有地”にした歴史のあるアメリカで、土地収用への拒絶反応が強いこともまた不思議ではない。

とはいえ白人所有地の収用が内外で摩擦や対立が激しくするのは避けられない。
実際、南アの隣国ジンバブエでは2000年、やはり白人所有地を補償なしに収用できる法律が成立した結果、白人の海外脱出を加速させ、かえって深刻な経済危機をもたらした。

そのため南アにも土地収用に反対する人は少なくない。
それにもかかわらず土地収用法が成立した背景にはポピュリズムとヘイトの高まりがある。

人口多数派の黒人の間には人種間格差が改善しないことへの不満が根強く、生活苦の広がりにともない、それまでタブーに近かった白人所有地の収用が2010年代末頃から公然と政治の場で語られるようになっているのだ。

“黒いトランプ”の台頭
その先頭に立つ極左政党“経済的自由のための戦士(EFF)”は、黒人の都市貧困層を主な支持基盤にしている。

EFFのジュリウス・マレマ党首は、白人など「アフリカ的でない者」や周辺アフリカ各国からの不法移民の国外退去を叫ぶ一方、「白人の特権を終わらせる」と主張して白人所有地の収容と黒人への再分配を主導してきた。
その排他的でポピュリスト的な言動は“黒いトランプ”とも呼べる。

これに対して、1994年から政権与党の座を占めてきたアフリカ民族会議(ANC)は白人所有地の収用に消極的だった。

しかし、経済停滞を背景に昨年の議会選挙でANCはかつてない大敗を喫し、単独過半数の議席数を失った。求心力の低下したANCやラマポーザ大統領は、急進的な世論に迎合する格好で、白人所有地の収用に傾いていったのである。

そこにはEFF支持者の取り込みによる求心力回復といった目的もあるとみられるが、EFFは土地収用法を「不十分」と批判している。

ともかく、こうした背景のもとで成立した土地収用法により、南アは約3億ドルの援助がアメリカからこなくなる公算が高まっているのだ。 ただし、アメリカの強硬な反応は南ア政府も織り込み済みだったと思われる。

南アには想定の範囲内?
第二次政権発足直後、トランプはイスラエル向け軍事援助などを除き、すべての国際協力を見直し、凍結すると宣言した。しかし、それ以前から「アメリカ第一」を掲げるトランプが途上国支援に熱心でないことは周知のことだった。

そのなかで南アが標的になりやすいことも、事前にある程度予測されていた。
アメリカでは保守系を中心に、この数年で「南ア支援を削減すべき」という論調が高まっていたからだ。南アが米軍と軍事演習などを行う一方、ウクライナ侵攻やガザ侵攻でアメリカの方針に協力しなかったことがその最大の要因だった。

つまり、南ア政府は「どの道アメリカが支援を減らすなら、逆に今さら遠慮しなくてもいい」と判断しやすかったといえる。

さらにそこに中国の支援があれば、トランプの威嚇に限界があっても不思議ではない。 中国政府は昨年、アフリカ向けに500億ドルの資金協力を約束し、これをラマポーザは「素晴らしい恩恵」と称賛した。

“援助停止”の限界
そのうえ南アを含むアフリカ大陸は、世界全体で見れば貧困国がいまだに多いものの、援助の重要度はかつてより低下している。

かつて援助はアフリカに流入する資金の大半を占めていた。 しかし、近年では海外に移住したアフリカ系移民による送金や海外企業による直接投資の占める割合が増えていて、2021年に限ると送金が935億ドル、海外直接投資が830億ドルで、これに対して援助は728億ドルだった。

とはいえ南ア政府もアメリカとの決定的な対立は避けたいだろう。 また、ジンバブエのように経済破綻に突き進む懸念も拭えない。

だから白人所有地を含む土地の収用を可能にする法律ができても、南ア政府が実際にそれを発動するかは未知数だ。

その一方で、アメリカの強い拒絶反応が目に見えていたのに南アがあえて土地収用法を成立させたとすれば、“援助停止”という脅し文句だけで揺さぶるのが、これまでより難しくなっていることを象徴する。

その意味で、アメリカと南アの対立の今後の展開は、アフリカ全体にも影響を及ぼす可能性が大きいといえるだろう。【2月5日 六辻障二氏 YAHOO!ニュース】
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【南ア開催のG20外相会議をアメリカ欠席】
南アとトランプ政権の対立は南アで今月開催されるG20外相会議にも波及。
ルビオ米国務長官は5日、「南アは非常に悪いことをしている。私有財産を没収している」と非難し、20カ国・地域(G20)外相会合を欠席するとX(旧ツイッター)で明らかにしています。

****米国務長官 南アでのG20会合に欠席表明 トランプ氏・マスク氏の南ア批判など受け****
アメリカのルビオ国務長官が今月、南アフリカで開かれるG20(主要20カ国)の外相会合を欠席すると表明しました。

G20の外相会合は20日から21日の日程で議長国である南アフリカのヨハネスブルクで開催されますが、ルビオ国務長官は5日、南アフリカが「非常に悪いことをしている」として、会合を欠席するとSNSで表明しました。

その理由として、南アフリカが掲げる今年のG20のテーマがトランプ政権が批判するDEIと呼ばれる多様性や公平性の理念や気候変動対策と同じであることや南アフリカで私有財産の没収が行われているからだとしています。

ルビオ長官は「アメリカの国益を推進するため、税金を無駄にしたり、反米主義を助長したりすることはしない」と強調しました。(中略)

G20の会合を欠席するというルビオ長官の判断は、こうした(トランプ大統領やマスク氏の南アへの)批判を受けたものとみられます。【2月6日 テレ朝news】
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“米国務長官がG20外相会合を欠席するのは異例。「米国第一」の外交政策を推し進めるトランプ政権が多国間協力の枠組みを軽視し、国際社会に内向き志向をあらわにした形で各国に波紋を広げそうだ。”【2月6日 時事】 

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トランプ大統領  ガザ住民の完全移住、アメリカによるガザ再開発を公の場で表明 トランプ流の取引?

2025-02-05 23:39:39 | パレスチナ

(会談する米国のトランプ大統領(右)とイスラエルのネタニヤフ首相=米ホワイトハウスで2025年2月4日、AP【2月5日 毎日】 自身の“壮大な提案”をまくしたてるトランプ大統領の傍らで、笑いをかみ殺したようなネタニヤフ首相・・・そんな印象も)

【ガザを「中東のリビエラ」に】
トランプ大統領のパレスチナ・ガザ地区から住民を全員ヨルダン・エジプトなどに移住させ、ガザは再開発するという発想は、1月26日ブログ“トランプ大統領  ガザ住民をヨルダン・エジプトに「一掃」する「ガザ再建案」”でも取り上げました。

その時点では、トランプ大統領が大統領専用機「エアフォースワン」の機内で記者団へ語った話ということで、「どこまで本気かね・・・」という感もありましたが、再び、今度はイスラエル・ネタニヤフ首相との会談後、首相が同席する場での発言ということで、アメリカの正式な提案という形になってきています。

もちろん、後述のように、トランプ流ディールの一環という側面もあるでしょうが。

いずれにしても、公の場に持ち出したことで、トランプ提案をめぐってイスラエルや中東諸国なども反応を示し、提案が現実のものとして動き始めています。

ガザをアメリカが「所有」し、米軍派遣の可能性も視野に入れて再開発を行うとも。

****トランプ氏、アメリカの「ガザ所有」を主張 住民の「再定住」も提案****
「世界中の人に住んでもらう」アメリカのトランプ大統領がパレスチナ自治区ガザの住民「全員」を移住させたうえで、アメリカがガザを所有すると主張しました。

4日、イスラエルのネタニヤフ首相と会談したトランプ大統領。その後の会見で飛び出した発言が…

トランプ大統領
「我々がガザを所有する。破壊された建物を取り除いて、限りない雇用と住居を生み出す経済開発を行う。『中東のリビエラ』これはとても素晴らしい場所になる」

パレスチナ自治区ガザをフランス・イタリアのリゾートになぞらえ、イスラエル軍によって破壊されたガザをアメリカが経済的に発展させる計画を提案しました。記者から「アメリカ軍の兵士を送るか」と問われると…

トランプ大統領
「(Q.ガザの治安確保のために米軍部隊を派遣しますか?)もし必要ならそうする。我々がガザを引き継いで開発する」 と、派遣の可能性を否定しませんでした。

ガザには、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの停戦合意を受けて避難先から自分たちの土地に戻る多くの住民がいます。トランプ大統領は会談で、ガザ住民は全員ガザを去り、周辺国など別の場所に「再定住」すべきだとし、こう主張しました。

トランプ大統領
「人々はガザに戻るべきではない。パレスチナ人がガザに戻りたがるのは、代わりに住む場所がないからだ。代わりの場所があればガザに戻りたいと思わないし、安全で美しいその場所に住みたがるだろう」

一連の発言は、パレスチナ国家樹立による「2国家共存」という、これまでのアメリカの中東政策をひっくり返しかねないもので、パレスチナ人の強制移住は「民族浄化」との批判もあがっています。

イスラエル ネタニヤフ首相
「あなたは歴代大統領のなかでイスラエルの最高の友人だ」

ネタニヤフ首相はトランプ大統領をこう持ち上げましたが、中東で影響力を持つサウジアラビアの外務省は、トランプ氏の会見後「パレスチナ人をその土地から追い出そうとする試みなど、パレスチナ人の正当な権利に対する、いかなる侵害も完全に拒否する」との声明を出しています。【2月5日 TBS NEWS DIG】
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確かにガザの復興は困難を極める問題です。
“先月発表された国連の被害評価報告書によると、イスラエルの爆撃による5000万トン超のがれきの撤去には21年かかり、費用は最大12億ドルに上る可能性があるとみられる。”【2月5日 ロイター】

効率性の観点で言えば、トランプ大統領の構想には一理あります。しかしながら・・・

“トランプ氏はガザについて「何十年にもわたって死と破壊の象徴だった」と語り、住民全員が域外への再定住を希望していると一方的に主張した。「彼らは地獄のような暮らしをしてきた。ガザは人が住む場所ではない。彼らが戻りたい唯一の理由は他に選択肢がないからだ」と指摘した。”【2月5日 読売】

“180万人のガザ市民は立ち去らなければならない。そして、その費用は裕福な周辺国家が負担する。”【2月5日 FNNプライムオンライン】とも

「中東のリビエラ」・・・・前回(1月26日ブログ)でも指摘したように、地上げを行って再開発・・・という不動産業者の発想です。

ガザに済むかどうかは第一義的にはガザ住民が決める話で、“ガザは人が住む場所ではない。 彼らが戻りたい唯一の理由は他に選択肢がないからだ”という決めつけには閉口します。

【米国が主導してきた第二次大戦後の世界秩序を自らの手で突き崩すトランプ大統領】
これまでのパレスチナ国家建設による「二国家共存」「二国家解決」という(イスラエルを除き)国際的に認知された枠組みを根底から覆す破壊的構想ですが、当然ながら、占領地からの住民の強制移住は国際法違反です。

ヨルダン・エジプトなど周辺国はガザ住民移住を拒否していますが、飾住民・周辺国を力でねじ伏せて強行するなら、それはロシアのウクライナ侵攻などと同様に、日本政府が否定する「力による現状変更」です。

***トランプ氏「ガザ所有」案の衝撃 和平プロセス崩壊させる破壊力、国際規範軽視際立つ****
トランプ米大統領は4日、パレスチナ自治区ガザの戦後処理を巡り、米国がガザを「所有」するとの構想を明らかにした。第2次政権発足時に表明した「領土拡大」に沿った内容だ。

一方で同構想は、米国をはじめとする国際社会が目指してきたイスラエルとパレスチナ国家による「2国家共存」に向けた和平プロセスを土台から崩すものだといえ、米国の中東外交を根本から作り替える破壊力を持つ。

トランプ氏の構想の前提となっているのは、ガザから「すべてのパレスチナ人」をエジプトやヨルダンなどの第三国へ強制移住させるとの案だ。実質的にガザを無人にし、米国が開発事業に責任を負うとする。

トランプ氏は4日の記者会見で、地中海北岸の欧州の高級保養地になぞらえ、ガザは「中東のリビエラ」になると豪語した。

同時にトランプ氏は、ガザ住民にとってはガザの域外に出ることが「幸せだ」としつつ、将来的な帰還には否定的な姿勢をみせた。

1993年のオスロ合意を起点とする中東和平プロセスは、パレスチナがヨルダン川西岸とガザを領土とする独立国家を樹立し、イスラエルとの共存を図るとの発想に基づいて積み上げられてきたものだ。歴代の米政権はこれを主導し、プロセス前進を目指してきた。

「2国家共存」支持明言せず
しかし、トランプ氏は会見で「何度も失敗してきたことを繰り返すのか」とし、「2国家共存」への支持を明言しなかった。

同氏は第1次政権の2020年にも、国際法に違反する西岸や東エルサレムのユダヤ人入植地の多くに、イスラエルの主権を認めるなどとする独自の「中東和平案」を公表している。今回浮上した米国による「ガザ所有」構想は、従来のイスラエル寄りの立場に、商業的利益を重視する自身の「米国第一」主義を加味したものだ。

トランプ氏は第2次政権で、デンマーク自治領グリーンランドやパナマ運河、カナダへの領土的野心を公言し、軍事力行使も排除しないとしてきた。ガザに対しても米軍派遣を否定はしていない。

透けてみえるのは、武力などによって当事者を無視した領土変更は認めないとする国際規範の軽視だ。トランプ氏は、米国が主導してきた第二次大戦後の世界秩序を自らの手で突き崩している。【2月5日 産経】
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【狂喜するイスラエル 反発するハマス・アラブ諸国 自分の力に酔うトランプ大統領】
前回ブログでも触れたように、今回トランプ構想と似たような、ガザの住民をエジプトのシナイ半島に強制的に移住させるという発想もあったイスラエルは、今回提案を大歓迎しています。

****「歴史的な朝」イスラエル閣僚、トランプ氏の「ガザ所有」発言を歓迎****
トランプ米大統領がパレスチナ自治区ガザ地区を「米国が所有」すると発言したことを受け、イスラエル国内では歓迎の声が上がっている。米軍が駐留してガザを支配すれば、イスラム組織ハマスによる越境攻撃やロケット弾攻撃などの脅威が取り除かれると考えているためだ。ただ、ハマスやアラブ諸国の反発は必至で、奇抜な案の実現は未知数だ。

「歴史的な朝だ」「共に世界を素晴らしくしよう」――。イスラエルメディアによると、ネタニヤフ政権の閣僚からは、トランプ氏の発言に喜びの声が相次いだ。ネタニヤフ首相の政敵のガンツ元国防相も声明で「トランプ氏は独創的かつ興味深い考えを披露した」と前向きな見方を示した。

ハマスによるガザの実効支配が始まった2007年以降、イスラエルは5回にわたって大規模な戦闘を繰り返してきた。いずれもハマスによるロケット弾攻撃などを抑止する狙いがあったが、これまで「テロ攻撃」を根絶できてはいない。

仮に同盟国の米国がガザを事実上占領すれば、イスラエルの安全保障環境は劇的に向上することになる。ネタニヤフ氏はトランプ氏との共同記者会見で、「トランプ氏は違う未来を見ている」と述べ、「注意を払う価値のあるアイデアだ」と称賛した。【2月5日 毎日】
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当然ながらハマスはもちろん、アラブ諸国は反発しています。

****「火に油注ぐ」と強く非難 トランプ大統領「ガザ所有」構想で周辺国反発****
アメリカのトランプ大統領が戦闘で荒廃したパレスチナガザ地区を所有し、経済開発をする意向を示したことを受け、イスラム組織「ハマス」や周辺国から反発が相次いでいます。

ハマスは声明で、トランプ大統領の構想は「地域の安定に役立たず火に油を注ぐだけだ」と非難しました。そのうえで「これらの無責任な発言を撤回するよう求める」としています。

1月19日から始まったガザ地区の停戦は第2段階への移行に向けて協議が始まっていますが、交渉に影響が出る恐れもあります。

イスラエルとパレスチナの「2国家解決」を支持するサウジアラビアの外務省も声明を出しました。

東エルサレムを首都とするパレスチナの独立国家樹立の立場は変わらないとして、「パレスチナ人の正当な権利に対するいかなる侵害も明確に拒否する」と強調しています。

ガザ地区の隣国でトランプ大統領がパレスチナ人の移住受け入れを要請したエジプトでは5日、外相がパレスチナ自治政府の首相と会談しました。

両者はパレスチナ人がガザを離れることなく、早期復興計画を進めることの重要性を確認したということです。【2月5日 テレ朝news】
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しかし、南米諸国に不法移民送還を受入れさせ、カナダ・メキシコに譲歩を迫ったように、トランプ大統領はアメリカの“力”を持ってすれば中東諸国に同意させるのはたやすいと考えているのでしょう。

イスラエルとの関係正常化を促したい中東の地域大国サウジアラビアが「アラブの大義」を掲げて強硬姿勢を崩していないのは、トランプ氏にとってはやや厄介でしょうが。サウジアラビアとしても「アラブの盟主」を自任するためには、ここで折れる訳にはいかないところ。ただ、ヨルダン・エジプトが賛成に転じれば、話も違ってくるかも。

【ガザ住民にとっては「第2のナクバ」 ガザに希望を持てない若者には朗報かも】
肝心のガザ住民は・・・・意見を代表する政治システムが今は存在しないので、その声を集約することはできませんが、多くのガザ住民にとっては「第2のナクバ」でしょう。(ナクバ・・・イスラエル建国時に、75万人のパレスチナ人をその土地から追い出した、パレスチナ人にとっての大惨事・大破局)

ただ、ガザに希望が持てない若者は外に移住するかも・・・という見方も。

****ガザ住民、不安と反発 第2のナクバ(大惨事)が始まる****
トランプ米大統領が4日、米国がパレスチナ自治区ガザを所有し、住民を域外に移住させるべきだと提案したことに、ガザ住民からは不安と反発の声が上がった。

1948年のイスラエル建国で約70万人のパレスチナ人が難民となった「ナクバ(大惨事)」に重ねた住民は「第2のナクバが今始まる」と嘆いた。

「パレスチナ国家樹立の可能性をなくそうとしている」。南部ハンユニスで避難生活を送るマスリーさん(54)が電話取材に応じた。

マスリーさんは「(ガザに)戻ることができないのならガザを離れない」と話す。一方で「若者にとってガザの状況は壊滅的だ。仕事はないし、多くは完全に希望を失っている」と認め、ガザから出ることを多数が受け入れるかもしれないと語った。

ハンユニスに避難するバシーティーさん(19)は、トランプ氏やイスラエルのネタニヤフ首相が「ガザ住民を自分たちの土地に住む権利を持つ人間だとみていない。殺害するか強制退去させるべき犯罪者だと考えている」と批判した。【2月5日 共同】
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【トランプ流ディールの落としどころは?】
「これは途方もなく素晴らしい考えで、最高レベルの指導者たちから称賛されている。」(トランプ大統領)【2月5日 FNNプライムオンライン】・・・トランプ大統領は自身の提案に酔っているようにも見受けられますが、問題は今後どこまで事を進める考えなのか?というあたり。

トランプ流の「ディール(取引)」では、先ずしょっぱな強烈な提案を行い、そこから相手の譲歩を引き出すというのが常套手段。今回も、国際法違反にも問われる200万人のガザ住民強制移住がすんなりと進むとは思っていないでしょう・・・多分。

では、どのあたりを「落としどころ」に考えているのか?(それとも、本当に自分に酔っているだけで何も考えていないのか)

少なくとも、この話を進めるとハマスは強く反発し、ガザ停戦合意の第2段階(イスラエルの完全撤退とハマスの人質全員解放)は難しくなります。

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トランプ氏は会見で、停戦に関し、「どうなるか分からないが、継続されることを望む」と述べた。

ただ、ネタニヤフ氏はこれまで「戦闘再開」の可能性に言及してきた。戦闘再開を主張する閣内の極右勢力の更なる離脱を防ぐ目的があるとの指摘がある。

米ニュースサイト「アクシオス」は、ネタニヤフ氏がトランプ氏に対して、「第2段階」の実施を強制しないよう説得する意向だと報じていた。【2月5日 毎日】
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今回のトランプ提案は、停戦合意の第2段階に進まず、戦闘再開したいネタニヤフ首相へのトランプ大統領の援護射撃でしょうか?

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パレスチナ・ガザ地区 イスラエルのUNRWA活動禁止法でガザ支援は著しく困難に

2025-02-04 23:33:05 | パレスチナ

(UNRWAが届けた食糧を運ぶパレスチナの人々(1月29日、ガザ地区)【2月3日 Newsweek】)

【ガザ停戦は続いているものの先は見通せない状況】
アメリカの圧倒的力を背景に関税という棍棒を振り回すトランプ大統領がもたらす世界への影響、アメリカ国内で急速に進むトランプ革命、そこで絶大な影響力を発揮して連邦政府解体を進める大富豪マスク氏・・・そうしたことに世界の注目は集まっていますが、パレスチナではイスラエルとハマスの停戦合意が何とか持続しているものの、先はまったく見通せない状況です。

****ハマスが人質3人を解放…イスラエルは183人を釈放し、ラファ検問所も開放****
イスラム主義組織ハマスは1日、イスラエルとの停戦合意に基づき、人質の男性3人を解放した。ロイター通信によると、イスラエルはパレスチナ人収監者ら183人を釈放した。

停戦合意に基づく身柄交換は今回で4回目。ハマスはパレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスでイスラエルとフランスの二重国籍の1人を含む2人、北部ガザ市でイスラエルと米国の二重国籍の1人を、赤十字国際委員会を通じてイスラエル側に引き渡した。

1月30日の3回目の人質の解放は、大勢の戦闘員や観衆が人質を取り囲み、騒然とするなかで引き渡しが実施され、これにイスラエルが反発した。今回は、安全確保の求めを受けて仲介国が調整に入り、戦闘員や観衆が人質と距離を置く中で引き渡された。

エジプトとの境界にあるガザ南部のラファ検問所は1日、域外での治療を受けるガザのパレスチナ人負傷者らのため開放された。負傷者らのエジプトへの通行は、昨年5月にイスラエル軍が検問所を制圧して以来だ。

1月19日に始まった42日間(6週間)の停戦第1段階はおおむね合意が履行されており、数日内に第2段階以降の実施に向けた協議が始まる見込みだ。【2月1日 読売】
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恒久停戦の実現を念頭に置いた第2段階の措置には、ハマスが拘束中の人質全員の解放やイスラエル軍のガザ完全撤退が含まれます。これは第1段階(6週間の停戦 一部の人質交換)より遥かに困難。

現在訪米中のイスラエルのネタニヤフ首相は4日、トランプ大統領と会談するとされていますので、そこでイスラエル側のシナリオ、トランプ大統領の計画が議論されるのでしょう。

ただ、ネタニヤフ首相とトランプ大統領主導で進むと、1月26日ブログ“トランプ大統領  ガザ住民をヨルダン・エジプトに「一掃」する「ガザ再建案」”で取り上げたパレスチナ住民のガザからの追放みたいな、国際常識的には受け入れがたい話に突き進む危険も。

****ガザ復興に「15年」=米特使、居住不可能と強調****
中東問題を担当するウィトコフ米特使は30日、パレスチナ自治区ガザの現状について「居住不可能だ」と述べ、復興に10〜15年を要するとの見方を示した。米ネットメディア「アクシオス」が同氏とのインタビュー内容を伝えた。

ウィトコフ氏は29日、ガザを訪問し、イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦状況を視察していた。
 ウィトコフ氏は、イスラエルの攻撃により「ガザにはほとんど何も残っていない」と強調。「不発弾が多くあり、とても危険だ」と指摘した。

その上で、損傷を受けた建物やがれきの撤去に5年、ハマスの地下トンネルが張り巡らされたガザの地盤調査に数年、建物の再建に数年かかるとの見解を明らかにした。【1月31日 時事】
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一方、ヨルダン川西岸ではイスラエル軍の攻撃が続いており、不安定な状況です。

****イスラエル軍がヨルダン川西岸で軍事作戦…50人以上を殺害、100人以上を拘束****
イスラエル軍は2日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の北部ジェニンや周辺で軍事作戦を行ったと発表した。発表によると、これまでに50人以上の武装勢力を殺害し、100人以上を拘束した。作戦は今後少なくとも数週間続くと見込んでいる。
 
軍は2日、ジェニン難民キャンプで建物23棟を爆破した。建物は「テロリストの施設」だと主張した。作戦で数十個の武器を押収し、数百の爆発物を破壊したと説明している。
 
パレスチナ通信によると、ジェニン難民キャンプや周辺では住民約1万5000人が避難を強いられた。水道管が破壊され、病院では水不足が深刻化している。
 
パレスチナ自治区ガザで停戦が1月19日に始まった後、イスラエル軍は同21日から西岸のジェニンやトゥルカレムなどで「対テロ対策」を名目に作戦を続けている。【2月3日 読売】
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【“今”の生活に困窮するガザ住民】
そうした“先”の話はまったく目途がたっていませんが、ガザ住民は“今”をどう生きるかで精一杯でしょう。
トランプ大統領に「パレスチナ人を混乱や革命、暴力のない地域に住まわせたい」と言われようが、「居住不能」と言われようが、今まで暮らしてきた土地で命と生活をつないでいくしかありません。

しかし、救援はあまりにも少なく、遅い。

****「一体どこへ戻れば?」「新しいテントに?」ガザ地区の避難民、廃墟と化した故郷へ****
パレスチナ自治区ガザ地区にある海岸沿いの道路。1月29日、これまで避難していたパレスチナ人の帰還が始まった。戦争で荒廃した自宅へ向かうパレスチナ人は、3日連続で数千人に上るという。

数カ月にわたるイスラエルによる集中的な砲撃や銃撃戦によって、ガザ北部は廃墟と化した。帰る人の表情も冴えない。「私たちの苦しみは大変なものです。誰にも想像がつかない」(パレスチナ人、以下同)

砲撃を受けてガザを脱出した後、彼女は家族と一緒に安全を追い求め、北から南まであちこちを移動し続けたという。

「停戦の日に、自分の家が破壊されたことを知りました。私は一体どこへ戻ればいいのでしょう? テントからテントに……さらに新しいテントにですか?」(『ABEMAヒルズ』より)【1月31日 ABEMA Times】
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【イスラエルのUNRWA活動禁止法でガザ支援は著しく困難に】
そうしたガザ住民支援の中核を担うのが国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA アンルワ)ですが、ハマスと通じているとしてイスラエルが国内での活動を禁止したことで、ガザ地区での支援活動が極めて困難になっています。

****イスラエル、UNRWA禁止法施行へ 国連に48時間以内の退去要求****
イスラエルのダノン国連大使は28日、イスラエルは48時間以内に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)との協力や接触を断つと発表した。ニューヨークの国連本部で記者団に語った。

30日に施行を控えるイスラエル国内でのUNRWAの活動を禁じる新法をふまえた措置。パレスチナ自治区ガザ地区やヨルダン川西岸でUNRWAの活動は大幅に制限され、国連は他の専門機関の活動拡大など対応を迫られる。

ダノン氏は「政治的な決定ではなく、単に必要な決定だ」と語り、「(イスラム組織)ハマスやその他のテロ組織が、UNRWAに広く浸透している問題に目を背けてきたことが原因だ」と従来からの主張を繰り返した。

ガザにおける人道支援については「UNRWAの汚職とは無縁である他の国連機関と協力する用意がある」と述べ、UNRWAにはイスラエルで運営する施設から30日までに退去するよう求めた。

UNRWAのラザリーニ事務局長は28日の国連安全保障理事会に出席し、イスラエル新法の完全実施は「ガザ地区に悲惨な結果をもたらす」と指摘。「人道支援を大幅に拡大しなければならない時期に、国連の能力を低下させることは、既に壊滅的な状況にあるパレスチナの人々の生活をさらに悪化させる」と警告した。【1月29日 毎日】
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グテレス国連事務総長がイスラエルに撤回を要請していますが、もちろんイスラエルには聞く耳はありません。

イスラエルのUNRWA活動禁止法は、イスラエル国内での活動を禁じたものですが、実質的にはガザ・ヨルダン川西岸での活動を著しく阻害します。ガザへの支援物資の搬入にはイスラエル側との調整が必要で、新しい法律はUNRWAとイスラエル当局の接触を禁じています。UNRWAが物資を届けることは、これまでよりはるかに困難になります。

****UNRWA活動禁止法、イスラエルで施行…ガザやヨルダン川西岸で物資配布や医療に影響必至****
イスラエルで30日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁止する新法が施行された。イスラエルは支援に向けた代替案を示しておらず、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸で人道物資の配布や医療に影響が出るのは必至だ。

UNRWAによると、30日朝もガザや西岸、東エルサレムでの診療所や学校は通常通り運営を始めた。ただ、東エルサレムではイスラエル当局の妨害を懸念し、出勤しない職員もいた。西岸の職員は「どんな制約が出るのか」と気をもんだ。

東エルサレムのUNRWA本部に勤務する日本人2人を含む国際職員の約30人は、イスラエルが滞在ビザを29日までしか認めなかったため国外へ退去した。

本部前には30日、新法の施行を祝う極右の支持者数十人が集まり、看板に落書きした。その一人、シャイ・グリック氏(38)は「UNRWAはテロを支援してきた。この土地はイスラエルに戻すべきだ」と主張した。

イスラエル国会が昨年10月に可決した法律は、2023年のイスラム主義組織ハマスによるイスラエル奇襲で職員9人の関与が判明したUNRWAに対し、イスラエルでの活動を禁止する内容だ。

ガザや西岸での物資搬入に際し調整が不可欠となるイスラエル当局との接触も禁じる。住民への支援は困難になるとみられる。イスラエル外務省の報道官は30日、取材に「UNRWAはハマスと同様の組織であり、イスラエルは接触を持たない」と述べた。

UNRWAによると、ガザでの食料や医薬品などの支援物資は当面、備蓄で賄う予定。その後は他の関係機関を通じて物資を搬入し、活動の継続を模索する。

現在、ガザでは職員約1万3000人が働き、診療所で約1500人が治療にあたる。職員の雇用は維持する方針だ。清田せいた明宏保健局長は取材に「UNRWAに代わる組織はない。活動継続の道を探りたい」と強調した。

UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は28日の国連安全保障理事会で「法の施行は、パレスチナ人の生活状況をさらに悪化させるだけだ」と訴えた。

◆UNRWA=1948年のイスラエル建国とその後の戦争などで故郷を追われたパレスチナ難民への支援のために49年に設立された。ガザやヨルダン川西岸のほか、ヨルダン、レバノン、シリアで約590万人に教育や医療の支援を行っている。ガザと西岸で運営する難民キャンプは27か所、学校は384校、診療所は65か所に上る。【1月30日 読売】
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パレスチナ難民への支援という事業の性格上、職員になかにハマスと心情を同じくする者が入り込むことは十分に想像できますが、「UNRWAはハマスと同様の組織」として禁止するというのもバランスを欠いているように思えます。

****UNRWA活動是非で応酬=イスラエルとパレスチナの駐日大使****
現在停戦下にあるパレスチナ自治区ガザで人道支援を行う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)による今後の活動継続の是非を巡り、イスラエルとパレスチナの駐日大使が31日、東京都内で相次いで記者会見し、主張の応酬を繰り広げた。

2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲にUNRWA職員が参加したというのがイスラエル政府の見解。

コーヘン駐日大使は「UNRWAは信頼を裏切った」と述べ、「他の国際機関で代替可能だ」と訴えた。日本政府に対しては「ハマスが支配しないガザ」の実現に向けた関与を呼び掛けた。

これに対し、駐日パレスチナ常駐総代表部のシアム大使は「UNRWAは難民の生命線だ」と語り、日本に財政支援継続を要望。「問題の核心は、イスラエルが継続する軍事占領だ」と主張し、同国による長年にわたるパレスチナ人抑圧がハマスによる奇襲の背景にあるという認識を示した。

(中略)また、トランプ米大統領が荒廃したガザの住民をヨルダンやエジプトに移住させる提案を行ったことに関し、シアム氏は「パレスチナ人はゲームの駒ではない」と批判。コーヘン氏は「米側が答える質問だ」と明言を避けた。【1月31日 時事】 
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今のところはUNRWAの活動は続いているようですが・・・・

****UNRWA、ガザ支援活動継続 イスラエルの活動禁止法施行後も*****
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の広報担当者は31日、ジュネーブで記者会見し、イスラエルによるUNRWAの国内活動を禁止する新法が施行された30日以降も「われわれは引き続き活動を継続している。(パレスチナ自治区)ガザでの国際人道支援の要となっている」と述べた。

新法は2024年10月に可決され、今月30日からはUNRWAはイスラエル当局との接触が禁止され、活動に制限を受けることになった。UNRWAの広報担当者は「われわれは引き続きスタッフをガザに派遣し、必需物資を積んだトラックを運び込んでいる。物資の搬入と配布の継続が認められなければ、脆弱な停戦が危険にさらされる」と強調した。

ヨルダン川西岸地区と東エルサレムのパレスチナ人スタッフが投石や検問所での妨害など困難に直面していると言及。「UNRWAにまつわる誤情報が流布されており、敵対的な環境に直面している。厳しい状況に置かれており、スタッフは保護されていない」とも指摘した。

英国、フランス、ドイツは31日、新法の施行への懸念を改めて表明した。複数の人道支援組織は、物資やスタッフはイスラエルを経由するため、荒廃したガザ地区への新法の影響は大きいと指摘している。

イスラエル占領下の東エルサレムに暮らすパレスチナ難民も、UNRWAから教育、医療などのサービスを受けている。

イスラエルのサール外相は、ガザ地区への人道支援に尽力していると主張。支援は他の国際機関や非政府組織(NGO)を通じて行われるべきだと述べた。イスラエルは、UNRWAスタッフが2023年10月のイスラム組織ハマスによる奇襲攻撃に関与したとしている。【2月1日 ロイター】
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****「UNRWA(アンルワ)」とは何か?...イスラエルによる追放で新たな危機が始まる****
<パレスチナ人にとって重要な命綱となっている国際組織をイスラエルが活動禁止にしたが、代替組織はあるのか?>

イスラエル国内で国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁止する法律が1月30日に施行された。
イスラエルとイスラム組織ハマスの脆弱な停戦合意が1月19日に発効したばかりの今、既に不安定な状況をさらに不安定にする恐れがある。

■UNRWAとは?
パレスチナ自治区ガザ、ヨルダン川西岸のイスラエル占領地域、東エルサレム、レバノン、ヨルダン、シリアに暮らす数百万人のパレスチナ人に食糧、教育、医療、住居などあらゆる支援を提供している。

1948年の第1次中東戦争により故郷を追われたパレスチナ難民を支援するために、49年に設立された。

ガザでは現在約1万3000人が働いている。フィリップ・ラザリーニ事務局長によると、2023年10月のイスラエルとハマスの戦闘開始以降にガザの食糧支援の約3分の2を、停戦以降も食糧支援の約60%を担っており、パレスチナ人にとって重要な命綱と見なされている。

■なぜ活動禁止に?
国連と長年、対立してきたイスラエルは、UNRWAにハマスの関係者が数多く潜入していると非難。昨年10月に今回の法律を可決した。

イスラエルはハマスが主導した23年10月の襲撃にもUNRWAの職員12人が加担したと主張。国連の調査で9人が関わった可能性があるとされ解雇された。

■今後はどうなる?
イスラエルはUNRWAに対し、占領下の東エルサレムにある全ての施設を明け渡し活動を停止するように命じた。ビザの取得や延長が困難になり、一部の外国人職員は退去を余儀なくされている。

ただし、具体的にどのような措置が取られるかについては不透明な部分が多い。
「東エルサレムを含む占領下のヨルダン川西岸地区では私たちの診療所は開いている。ガザでの人道的活動は継続中だ」と、UNRWAは1月29日にX(旧ツイッター)に投稿した。「私たちはとどまって支援を続けると約束する」

同日にイスラエルの最高裁は、活動禁止に異議を唱えたパレスチナの人権団体の申し立てを却下。「イスラエル国家の主権地域でのみUNRWAの活動を禁止する」もので、ガザやヨルダン川西岸地区では禁止していないと指摘した。

ただし、ガザへの支援物資の搬入にはイスラエル側との調整が必要で、新しい法律はUNRWAとイスラエル当局の接触を禁じている。UNRWAが物資を届けることは、これまでよりはるかに困難になりそうだ。

イスラエル外務省の報道官は、「国連機関、国際NGO、諸外国など、UNRWAの代わりとなる複数の組織が既にガザで人道支援活動を進めるために活動している」と述べている。

これに対し、その任務の範囲と、UNRWAが命を救う人道支援を日々提供し、ガザのパレスチナ人への医療と教育の主な提供者であることを考えれば、「国連のシステム内を含め、他の機関や組織がUNRWAの代替として機能できるというのは完全に間違っている」と、有力シンクタンク、国際危機グループの上級アナリスト、ダニエル・フォルティは言う。
「その空白を迅速かつ持続的に埋める組織があるとは、到底考えられない」【2月3日 Newsweek】
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“トランプ大統領は、国連人権理事会へのアメリカの関与を断ち切り、パレスチナ難民のための国連機関、UNRWAへの資金提供禁止を延長する計画だと、匿名のホワイトハウス高官がアメリカ・マスコミに語った。
(中略)
米国はUNRWAの最大の寄付国であり、年間3億ドルから4億ドルを提供していたが、2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの致命的な攻撃に12人のUNRWA職員が参加したとイスラエルが根拠のない非難をした後、バイデンは2024年1月に資金提供を一時停止した。”【2月4日 アルジャジーラ】
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ドイツ  物議を醸す移民規制をめぐる支持率トップ最大野党と極右の連携 総選挙への影響は?連立も?

2025-02-03 23:07:59 | 欧州情勢

(ドイツ下院で発言するキリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首(手前)を見るショルツ首相=29日、ベルリン(ロイター=共同)【1月30日 東京】)

【最大保守野党、「不法移民は追放」動議提出 「極右」連携で可決するも「タブー破り」の批判も】
再三取り上げてきたようにこれまで多くの移民・難民を受け入れてきた欧州では、近年移民・難民に対する反感も強まっています。

特に、2月23日に総選挙を控えたドイツでは、移民が絡んだ事件も多発していることもあり、社会の右傾化の流れに乗って移民排斥を主張する極右政党AfDが支持率で2位につける形にもなっており、移民・難民問題が総選挙の大きな争点になっています。

****ドイツで相次ぐ移民による犯罪****
ドイツはメルケル政権時代の2015年、シリア内戦で難民が欧州に押し寄せた際、「寛容な受け入れ」を主導。移民問題では常に、EUの連携を訴えてきた。だが、移民による犯罪が相次ぎ、世論は変わりつつある。

昨年8月には、西部ゾーリンゲンでシリア人の難民申請者が3人を刺殺。12月には東部マグデブルクのクリスマス市にサウジアラビア人の男が車で突っ込み、6人を死なせた。【1月31日 産経】

ドイツでは22日、南部アシャッフェンブルクの公園でアフガニスタン出身の男性が幼児らを刃物で襲い、2人が死亡する事件が発生した。【1月31日 毎日】
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当然のように各党は移民・難民への反感を強める世論にアピールしようとします。現在支持率でトップを行く保守系最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)はすべての不法移民を「国境で追い返せ」と求める動議を提出し可決されました。

しかし、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)と連携したことへの「タブー破りだ」(ショルツ首相)といった批判も高まっています。

****ドイツ「不法移民は追放」動議可決 最大保守野党、「極右」連携 メルケル氏が異例の批判****
ドイツ連邦議会は1月28日、すべての不法移民を「国境で追い返せ」と求める動議を採択した。2月の総選挙を前に、保守系最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が提出。

政界で極右扱いされる「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持を得て可決させた。「タブー破り」の右派連携に左派は反発し、CDUのメルケル元首相も異例の批判声明を出した。

CDUのメレツ党首は動議提出にあたり、「外国人、特に難民申請者の犯罪は深刻な問題だ。欧州連合(EU)は機能不全の状態にある」と発言。EUルールより、ドイツの安全確保を優先すべきだと訴えた。

EUは国際条約に沿って、「難民申請しようとする移民を追い返してはならない」という原則をとる。だが、動議は国内の治安にかかわる場合、例外が認められると正当化している。

ドイツでは22日、南部アシャッフェンブルクで難民資格を得られなかったアフガニスタン人の男が、刃物で2人を刺殺する事件が起きたばかり。

メルツ党首は中道左派、社会民主党(SPD)のショルツ首相の移民政策を「生ぬるい」と批判しており、強硬な動議で違いを示そうとした。CDU・CSUは現在、支持率30%で首位に立ち、メルツ氏は次期首相の最有力候補とみなされている。

AfDは移民排斥を訴え、SPD、CDUなど主要政党は連携を拒否してきた。今回の動議に拘束力はないが、連邦議会の決議でAfDが多数派に加わったのは初めて。「包囲網」崩壊への危機感が広がる。

ショルツ首相は、動議提出を「許しがたい行為」と批判。CDU内でも賛否は分かれ、メルケル元首相は声明で、AfDを多数派に引き込むのは「よくない」と明記した。

AfDは「ドイツにとって歴史的な日」と動議成立を歓迎した。

公共放送ARDによると、ベルリンのCDU本部前では30日、約6千人が抗議デモを行った。一方、世論調査では、動議に記されたように、不法移民の入国阻止を支持する意見が6割にのぼっている。(中略)

2月の総選挙では、CDU・CSUは単独で連邦議会の過半数議席を得られず、SPDか緑の党との連立政権を目指すと予想されている。今回の動議採択で保革の溝は深まり、連立交渉の行方に不安を残した。AfDの支持率は現在20%。SPDや緑の党を押さえ、2位となっている。【1月31日 産経】
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****ドイツ、移民政策厳格化の決議案可決 最大野党の方針転換が物議****
2月下旬に前倒しの総選挙を控えるドイツの連邦議会で29日、移民・難民政策の厳格化を政府に求める決議案が賛成多数で可決された。

(中略)法的拘束力はなく、政府方針への影響はないとみられるが、AfDとの協力を否定してきたCDU・CSUの方針転換が物議を醸している。

(中略)今回、CDU・CSUが提案した決議には、国境の持続的な管理▽入国許可証を持っていない人物の入国拒否▽国外退去の対象者の拘束――などが含まれる。

移民・難民対策の強化を公約に掲げるCDUのメルツ党首は24日、「誰が賛成するかにかかわらず(決議案を)出す」と述べ、AfDとの協力も辞さない姿勢を示していた。

ドイツでは、ナチス政権を生んだ反省から排外主義勢力への警戒感が強い。主要政党はAfDとの連立や政策協力を否定し、CDU・CSUも例外ではなかった。与党の中道左派・社会民主党などはメルツ氏の発言を強く批判し、採決でも反対した。

そもそも、欧州連合(EU)加盟国のドイツが国境管理を恒常化することは、EU域内の自由な移動を可能にする「シェンゲン協定」に反する。このため、今回の決議は実現可能性が低いとも指摘されている。

最近、CDU・CSUは世論調査での支持率が政党間で最も高く、現時点では、2月23日の前倒し総選挙後に第1党となる公算が大きい。メルツ氏は公約の実現に向けた強い姿勢をアピールした形だが、AfDに拒否感を持つ支持者からは不評を買うおそれもある。【1月31日 毎日】
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****メルケル前独首相、極右政党と協力した所属政党党首を批判****
ドイツ最大野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が29日、連邦議会(下院)で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持を得て移民対策厳格化の決議案を通したことについて、ドイツのメルケル前首相は30日、「間違っている」と述べて自身が所属するCDUのメルツ党首を批判した。

決議案は連邦政府に移民対策の厳格化を求めるもの。主要政党がAfDの助けを借りることは長くタブーとされており、ドイツでは抗議の声が広がっている。

メルケル氏が内政に干渉するのは異例。AfDではなく主要政党と組んで議会過半数を目指すと昨年11月に誓ったメルツ氏が、その約束を破ったと指摘した。

メルツ氏は、だれが支持しようが決議案は必要なものだったと述べ、自身がAfDに対する「ファイアーウォール」を破ったとの批判を一蹴した。メルツ氏は2月23日の総選挙を経て首相に就任することが最有力視されている。【1月31日 ロイター】
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【野党提出の移民対策厳格化の決議案 党内造反もあって否決】
移民対策厳格化の決議案が可決された流れを受けて、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は移民の流入を規制するための法改正案を提出。

再び極右政党・AfDと同調することで可決されると予想されていましたが、極右勢力との連携に反対する造反者が野党内にも出て、法案は否決されました。

****ドイツ議会で「移民流入を規制する法改正案」否決 最大野党が提出も野党の一部が極右との同調に反対か****
ドイツの議会で野党が提出した移民を規制する法改正案の採決が行われ、否決されました。極右政党との同調に反対した野党の一部が投票しませんでした。

ドイツの連邦議会で先月31日、最大野党の保守「キリスト教民主・社会同盟」が提出した移民流入を規制する法改正案の採決が行われ、反対多数で否決されました。野党側は議席数では勝るものの、極右政党・AfDと同調することに反対した野党の一部が投票しませんでした。

連邦議会では2日前に、法的拘束力はないものの移民政策の厳格化を政府に求める決議案が可決されていて、今回も可決されるとみられていました。

今月23日に総選挙が控える中、移民政策をめぐり混迷を極めています。【2月1日 TBS NEWS DIG】
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CDUのメルツ党首が移民規制に拘るのは、放置すれば保守層をより強硬なAfDにとられてしまう・・・という思いもあって、法案提出で保守層の取り込みを図る狙いでしょう。

こうした議会の動きに対し、AfDと協力し、移民規制の法改正案可決を狙った「タブー破り」に対する抗議デモも行われています。

****ドイツ野党と「極右」協力に抗議 ベルリン、16万人以上がデモ****
3週間後に総選挙を控えるドイツの首都ベルリンで2日、政権復帰を目指す最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が「極右」と称される右派、ドイツのための選択肢(AfD)と協力し、移民規制の法改正案可決を狙った「タブー破り」に対する抗議デモがあった。16万人以上が集まり「歴史を繰り返すな」と訴えた。

ドイツでは戦後、ナチス・ドイツの過去から極右勢力との協力がタブーとされてきた。

直近の支持率ではCDU・CSUが約30%で首位を走り、移民排斥を掲げるAfDは約20%で2位。CDUのメルツ党首は次期首相の最有力候補とされるが、デモ参加者らは「恥を知れ」「ファシストの協力者はいらない」などのプラカードを掲げ、反発を示した。

CDU・CSUは1月29日、移民政策の厳格化を求める決議をAfDの支持を得て連邦議会(下院)で可決させ、移民規制の法改正案の可決も目指したが、31日否決された。【2月3日 共同】
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主催団体は全土で約70万人が抗議行動に参加したと発表しています。

しかし、CDU・CSUは強気の姿勢を崩していません。

****「極右と協力」に抗議デモ=保守野党、強気崩さず―独****
(中略)一方、CDUは強気の姿勢を崩していない。有力議員のシュパーン氏は2日、時事通信の取材に、不法移民対策の強化を図る党方針について「正しい」と強調。「反対の声はあるが、党にとって問題ではない」と述べた。【2月3日 時事】
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【ショルツ首相 最大野党と極右の連立を警告】
「タブー破り」で極右AfDと連携した最大野党CDU・CSUの移民規制強化の取組が、総選挙で吉と出るのか凶と出るのか・・・選挙後の連立工作において、再びAfDとの関係が問題となると思われます。

社民党ショルツ首相は“総選挙の後、CDUが他党と「形式的な」連立協議を行い、最終的にはAfDに頼る可能性もあり得るとの考えを示した。”

****ドイツ極右AfDが次期政権入りする恐れ ショルツ首相が警告****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は1月31日、連邦議会(下院)で最大野党「キリスト教民主同盟(CDU)」が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と連携したことを受け、AfDが年内にも次期政権に参加する可能性があると警鐘を鳴らした。

CDUは1月29日、連邦議会でAfDの票の助けを借りて、政府に移民政策の厳格化を求める決議案を可決。他党からは、極右政党とのいかなる協力も禁じるという長年のタブーを破る行為だと非難された。

ショルツ氏は週刊紙ツァイト・オンライン版に対し、こうした策略を受けて、中道右派CDUの党首で、次期首相の最有力候補と目されているフリードリヒ・メルツ党首は「信用できないとの批判にさらされている」と語った。

メルツ氏がこれまで、極右には関わらないと明言してきたことを指摘し、AfDと連立を組むことはないという同氏の誓約にも疑問符が付くと主張。

さらに、オーストリアの政局を引き合いに出した。同国では昨秋の総選挙で極右・自由党(FPOe)が初めて第1党となり、今や保守・国民党(OeVP)と連立政権を組む寸前となっている

ショルツ氏は「OeVPでさえ『FPOe主導の政権は生まれない。FPOeとは連立しない』と主張していた」「(だが)今やFPOeとの連立政権が実現し、FPOe所属の首相さえ誕生するかもしれない」と警告。

ドイツで2月23日の総選挙の後、CDUが他党と「形式的な」連立協議を行い、最終的にはAfDに頼る可能性もあり得るとの考えを示した。

ドイツの選挙では連立協議が長引くのが通例だが、ショルツ氏はCDUとAfDの連立について「例えば10月にも実現する可能性がある」と述べた。

世論調査の政党支持率では、メルツ氏のCDUと姉妹政党の「キリスト教社会同盟(CSU)」による統一会派「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」が約30%で首位。AfDはわずかに数字を伸ばし、約21%で2位につけている。ショルツ首相の中道左派政党「社会民主党(SPD)」は約16%と低迷している。【2月1日 AFP】
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ショルツ首相としては、極右への国民の拒否感をバネにして劣勢を挽回したいところでしょう。

極右ルペン氏をめぐってフランスでも同じような問題がありますが、国民の極右への拒否感は以前ほど強くはなくなっている・・・という現実もあります。
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ベネズエラ  アメリカ人6人解放、米からの不法移民の強制送還にも同意 トランプ流「取引」?

2025-02-02 23:26:37 | ラテンアメリカ

(ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(左)は大統領官邸ミラフローレス宮殿で、トランプ氏の特使、リチャード・グレネル氏と会談した(31日、カラカス)【2月1日 BBC】)

【3期目に就任したマドゥロ大統領 トランプ政権は石油購入停止などの圧力】
トランプ米大統領は1日、不法移民と合成麻薬(フェンタニル)流入の対抗措置としてメキシコとカナダ、中国に対し関税を課す大統領令に署名し、4日に発効します。

これに対し、カナダ・メキシコは報復関税を課すとしており、中国はWTOへの提訴する(報復関税についてはその可能性を示唆)としています。

アメリカとカナダ・メキシコ・中国の間では表世界だけでなく水面下でも激しい「取引(ディール)」に向けたやり取りが行われていると推測されますが、それに先だって南米の反米左派マドゥロ政権との間で動きが見られます。

国民生活を破綻させた失政と強権支配を続けるマドゥロ大統領は不正が極めて強く疑われる大統領選挙で勝利したとして、国内野党勢力、欧米・南米諸国の批判を押し切る形で3期目の就任式を行っています。

****ベネズエラ マドゥロ大統領が3期目の就任式 野党は反発****
南米ベネズエラでマドゥロ大統領の3期目の就任式が行われました。野党は去年7月に行われた大統領選挙をめぐって、不正を強く訴えています。

ベネズエラで10日、現職のマドゥロ大統領の3期目となる就任式が行われました。

去年7月に行われた大統領選挙をめぐっては投票結果の詳細を開示しないまま、マドゥロ氏は一方的に勝利を宣言。
野党側は不正選挙だと強く反発し、9日にもデモが行われなど国内で混乱が続いています。

就任式でマドゥロ大統領は、「就任を妨害されなかったことは民主主義の偉大な勝利だ」と、3期目へ強い自信をのぞかせました。

マドゥロ氏の就任について欧米諸国や他の南米諸国は強く反発しています。【1月11日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ・トランプ大統領も反米左派のマドゥロ大統領とは激しく対立する関係にあり、できればマドゥロ大統領を引きずり下ろしたいところ。1期目では、野党指導グアイド氏を担いで政権交代を試みましたが失敗しています。

****トランプ氏、野党指導者に危害加えないようベネズエラ政府に警告****
トランプ次期米大統領は、ベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏に危害を加えないよう同国の現政権に求めた。マチャド氏は9日に一時拘束された。同国では、昨年7月に行われた大統領選で現職が当選したとする結果は不正だと抗議するデモが続いている。

トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で、マチャド氏と大統領選に野党統一候補として出馬したエドムンド・ゴンサレス氏を称賛。

野党側が集計した記録によると、ゴンサレス氏は現職のマドゥロ大統領を上回る票を獲得したという。トランプ氏がベネズエラ大統領選について公に発言するのは初めて。

トランプ氏は、「ベネズエラの民主活動家マチャド氏とゴンサレス次期大統領は、数十万人の人々が現政権に対し抗議デモを行う中、ベネズエラ国民の声と意思を平和的に表明している」と投稿。

「米国の偉大なベネズエラ系米国人コミュニティーは、自由なベネズエラを圧倒的に支持しており、私を強く支持してくれた。これら自由の戦士たちは危害を加えられるべきではなく、安全に生存し続けなければならない!」とした。

マチャド氏は9日、首都カラカスで抗議デモに参加。同氏は、マドゥロ大統領が7月に勝利宣言を行った後、姿を隠していたが、この日4カ月余りぶりに公の場に姿を現した。野党側によると、治安部隊がマチャド氏を拘束したが、約2時間後に釈放したという。

トランプ氏のベネズエラに対する方針やマドゥロ政権に対し強硬路線を取るかどうかについては、臆測を呼んでいる。トランプ氏は、不法移民の大量送還を公約しているが、米国に不法滞在するベネズエラ人を送還するにはマドゥロ氏の同意が必要となる可能性がある。

トランプ氏は自身の投稿で、ゴンサレス氏を「次期大統領」と明確に表記。この表現はバイデン政権が11月に使い始めたばかりの呼称だ。マドゥロ氏は10日に3期目の大統領就任式を迎えるが、トランプ氏はゴンサレス氏を真の大統領と呼ぶかどうかを決めなければならない。

トランプ政権1期目に、同氏はマドゥロ氏ではなく当時の野党指導者だったフアン・グアイド氏をベネズエラの指導者と認めていたが、この戦略は失敗に終わった。再び同じ戦略を取れば、マドゥロ氏の反感をさらに買う恐れがある。【1月10日 Bloomberg】
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上記警告に続いて、トランプ大統領はベネズエラからの石油購入を停止する可能性が高いと表明し、マドゥロ政権への圧力を強めます。

****トランプ大統領、ベネズエラからの石油購入停止へ****
トランプ米大統領は20日、ベネズエラからの石油購入を停止する可能性が高いと述べた。

大統領執務室で記者団に「20年前は偉大な国だったが、今はめちゃくちゃだ。彼らの石油を買う必要はない。われわれの石油が十分にある」と述べた。

トランプ大統領の特使であるリチャード・グレネル氏は、ベネズエラの複数の高官と話したと明らかにし、21日の早い時間から会談を始める予定だと述べた。

トランプ氏は米大統領選挙戦中、ベネズエラのマドゥロ大統領を「独裁者」と呼び、第一次政権では、ベネズエラと同国石油産業に厳しい制裁を科した。バイデン前政権は、一部制裁をいったん緩和したが、マドゥロ氏が民主的選挙という約束を反故にしたとして制裁を復活させた。

ベネズエラの対米石油輸出は昨年、64%増の日量22万2000バレル。米国は中国(35万1000バレル)に次ぐ2位の輸出先だった。ベネズエラの石油産業は19年以降、米国の制裁下にあるが、シェブロンが合弁相手からの未払い配当を回収するため22年以降、ベネズエラ産石油の対米輸出を認められている。【1月21日 ロイター】
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一方、アメリカ国内の不法移民強制送還を実施しているトランプ大統領はベネズエラ出身移民の滞在資格にも厳しい対応を取る方針です。

****トランプ氏 ベネズエラ出身移民の滞在資格延長 認めない方針(油井’s VIEW)****
政情不安の国などから逃れてきた人たちを保護するための滞在資格について、トランプ政権は、南米ベネズエラ出身の人たちの資格延長を認めないとする方針を発表しました。

ベネズエラ出身の人たちの滞在資格の延長を認めないとする方針。これもトランプ新政権が前のバイデン政権の方針を覆したものです。

アメリカでは、政情不安の国などから逃れてきた人達を対象に、一時的に合法的な滞在資格を与えるTPSという制度があります。

前のバイデン政権で、TPSの対象国は拡大してこちらの17か国に。これらの国から来た人たちは、たとえ法的な手続きをしないで入国しても、申請すれば強制送還が猶予され、就労許可も与えられるという制度です。

前のバイデン政権は、このうち、滞在期限を迎えるベネズエラ出身の人達について1年半の延長を政権交代直前に認めたのですが、トランプ新政権は、今回、その延長を破棄すると発表したのです。

トランプ新政権は、今後、このTPSの見直しを進めるものと見られていて、TPSで滞在している人の間では、いつ「合法」から「不法」へとみなされるかわからないとして懸念が広がっているのです。

選挙公約に不法移民対策を掲げたトランプ氏ですが、1月29日、取り締まりを強化する新たな法案に署名しました。

この法律は、ベネズエラ出身の不法移民の男に殺害された女性の名前からレイケン・ライリー法と呼ばれているのです。

レイケンさんは、22歳。ジョージア州の看護学生でしたが、去年(2024年)2月、ジョギング中にベネズエラ出身の男に殺害されたのです。男は不法移民で、その後逮捕され、終身刑を言い渡されています。

この事件は、大統領選挙期間中だったこともあり大きな注目を集め、共和党側は動画を作成・公表。事件はバイデン政権の移民政策が原因だと批判する主張を展開しました。

不法移民の取り締まりを強化する今回の法律。署名式には、殺害されたレイケンさんの母親も出席しました。
「約束を果たしてくれたトランプ大統領に感謝します。  彼は国境を守り、レイケンを決して忘れないと言いましたが、その通りでした。  彼は約束を守る人です。彼は国民のために闘ってくれると信じています」

世論調査を見ると、アメリカ国民の大半が、犯罪歴のある不法移民の強制送還を支持しています。

AP通信の今月(1月)の調査では、暴力犯罪で有罪判決を受けた不法移民の強制送還には82 %が賛成。

一方、暴力犯罪で有罪判決を受けていない不法移民の強制送還には賛成37%、反対44%となっていて、反対が上回っているのです。

トランプ政権は、まずは、犯罪歴のある不法移民を中心に取り締まる方針ですが、アメリカ経済の多くが移民の労働力に依存する中で、どこまで取り締まりの対象を広げるのかが焦点となっています。【1月31日 NHK】
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“犯罪歴のある不法移民を中心に”と言いつつも、現在でもかなり大雑把・不正確に不法移民拘束が行われていますが、今後暴力犯罪で有罪判決を受けていない不法移民の拘束が増えてくると、そうした者の生活を根底からひっくり返し、家族離散の事態も招くことをどう考えるのか、本国に送還されると母国政権やギャングなどから命のを脅かされる危険がある者をかまわず送還するのか・・・などが大きな問題となってきます。

【アメリカ人6人解放させ、不法移民の強制送還にも同意させ、トランプ「取引」大成功? マドゥロ政権が得た見返りは?】
そうした根本的な問題はさておいても、当面の不法移民強制送還についても、トランプ大統領としては、ベネズエラ不法移民を送還するについてマドゥロ大統領の協力を必要としています。

基本的にマドゥロ政権を嫌っている、石油購入で圧力もかけている、しかし、不法移民強制送還についてはマドゥロ政権の協力も必要・・・という状況での「取引」の一環でしょうか、両者が話し合い、マドゥロ政権が拘束していたアメリカ人6人を解放、不法移民強制送還についてもマドゥロ政権は受け入れるようです。

****ヴェネズエラで拘束のアメリカ人6人解放、トランプ大統領の特使がマドゥロ大統領と会談後****
南米ヴェネズエラ政府は1月31日、拘束していたアメリカ人6人を解放した。これに先立ちニコラス・マドゥロ大統領は同日、ドナルド・トランプ米大統領の特使と首都カラカスの大統領官邸で会談した。

トランプ氏とリチャード・グレネル特使がソーシャルメディアで、6人の解放を発表した。
グレネル特使は、解放された6人と対面した様子の動画や6人と機内で撮影した写真をソーシャルメディアに投稿し、6人がトランプ大統領に電話で感謝したと説明した。

これに先立ちホワイトハウスはヴェネズエラ政府に、「アメリカ人の人質」の解放と、アメリカ政府が強制送還するヴェネズエラ人犯罪者を受け入れるよう要求。応じなければ報復すると圧力をかけていた。(中略)

グレネル特使はソーシャルメディア「X」に、「離陸した。アメリカ市民6人と帰国している最中だ」、「(6人はトランプ氏と)話したばかりで、ひっきりなしに感謝していた」と書いた。
トランプ氏は、グレネル特使が「ヴェネズエラから人質6人」を連れ戻しているのだと投稿した。

ヴェネズエラの国営メディアは、特使との協議は礼儀正しいものだったと伝えた。
ヴェネズエラ政府は今年1月、アメリカ国籍者を含む「雇い兵」集団を拘束したと発表していた。

マドゥロ大統領は1月10日、3期目に就任。昨年7月の大統領選で3選を果たしたと選管が発表したものの、野党は不正集計だと反発し、アメリカを含む国際社会の大多数はマドゥロ氏の再選を認めていない。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット大統領報道官は31日、グレネル特使の訪問は、マドゥロ氏をヴェネズエラの正当な指導者とアメリカ政府が認めたということではないと説明していた。【2月1日 BBC】
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****米から移民送還受け入れへ=ベネズエラ「同意」とトランプ氏****
トランプ米大統領は1日、国内で拘束した不法移民の強制送還に関し、南米ベネズエラが受け入れに同意したと発表した。ベネズエラ側が移送手段も提供するとしているが、具体的な開始時期や方法は不明だ。

グレネル米大統領特使(特別任務担当)は1月31日、ベネズエラの首都カラカスでマドゥロ大統領と会談。その後、同国で拘束されていた米国人6人を連れて帰国した。会談で不法移民の受け入れを巡っても話し合った可能性がある。

トランプ氏は1日、SNS上で「われわれは記録的な人数の不法移民を送還しており、全ての国が受け入れに同意した」と強調した。

国境管理や移民対策を重視するトランプ氏は大統領就任後、不法移民の取り締まりを強め、拘束した移民を出身国に強制送還している。政情や治安が不安定なベネズエラからは60万人を超える移民が米国に流入しているとされる。【2月2日 時事】 
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トランプ大統領としては、マドゥロ政権へ圧力をかけながら、アメリカ人6人解放させ、不法移民の強制送還にも同意させた・・・「大成功」といったところでしょう。これから国内に対し盛大にアピールすると思われます

ただ、“グレネル特使の訪問は、マドゥロ氏をヴェネズエラの正当な指導者とアメリカ政府が認めたということではない”とは言うものの、実際のところはどうでしょうか。

自分にとって利があるなら、相手が人権無視の独裁者だろうが何だろうが、そういった理念・価値観は問題にしないのがトランプ大統領の「取引」・外交姿勢の特徴です。

マドゥロ政権がアメリカにお土産を差し出す見返りに、今後の実質的政権承認に近いようなものをアメリカ側から得たとしたら、圧政に苦しみ、大統領選挙を盗まれたベネズエラ国民を見捨てたことにも。あくまでも想像ですが。

「取引」の詳細がわからないのも「取引」の特徴です。
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ミャンマー  軍事クーデターから4年 中国と接近する軍政は総選挙強行の構え 国民には無力感も

2025-02-01 22:53:18 | ミャンマー
(25日、ヤンゴンで開かれた新春祝賀イベントで踊りを披露する人たち。
****ミャンマー指導者、中国の支援に謝意****
ミャンマーの指導者ミンアウンフライン氏は25日、中国は近代化を実現させ、「一帯一路」共同建設構想を通じてミャンマーを含む世界各国にも幸福をもたらしたと述べ、ミャンマーの平和と安定、発展に対する確固たる支援に感謝を表明した。【1月28日 新華社】
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新春祝賀イベントではミンアウンフライン司令官と、駐ミャンマー中国大使が連れだって視察する様子も。軍政と中国の接近ぶりがうかがえます)

【人道状況のさらなる悪化】
国軍と少数民族武装勢力及び民主派勢力との戦闘が続くミャンマーでは、軍によるクーデターから4年が経過しました。

****ミャンマー クーデターから4年 人道状況のさらなる悪化 懸念****
ミャンマーで軍がクーデターを起こしてから2月1日で4年となります。

実権を握る軍と民主派勢力などとの戦闘が長期化するなか、国内避難民の数はことし450万人以上に達すると予測されていて、人道状況のさらなる悪化が懸念されています。

ミャンマーでは、アウン・サン・スー・チー氏率いるNLD=国民民主連盟が圧勝した2020年の総選挙で不正があったとして、軍がクーデターを起こしてから1日で4年となります。

クーデター以降、実権を握る軍と、民主派勢力や連携する少数民族の武装勢力との間では、国境地帯を中心に依然、激しい戦闘が続いていて、現地の人権団体によりますと、軍の攻撃や弾圧による犠牲者は、31日までに6000人以上に上っています。

一方、戦闘が長期化するなか、多くの人が住み慣れたふるさとを追われ避難生活を余儀なくされていて、国連は、ことし国内避難民の数が去年よりもおよそ3割増えて450万人以上に達するという予測を明らかにしています。

現地では、食料や医薬品の不足も深刻化していて、国際NGOなどによる支援活動も行われていますが、戦闘の影響で避難民キャンプなどには支援が十分に行き渡らず、人道状況のさらなる悪化が懸念されています。【2月1日 NHK】
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戦況は国軍が少数民族武装勢力の押されており、劣勢の地上戦をカバーするために空爆を強め、住民に犠牲者が増えています。

“バングラデシュとの国境付近にあるラカイン州アンでは昨年12月、少数民族ラカイン族の武装勢力アラカン軍(AA)が国軍司令部を陥落させた。ミャンマーの司令部陥落は2例目。英BBCによると、国軍は空爆で抵抗したものの、現地司令官らが拘束され、州都シットウェ以外の州内はAAに掌握されそうだ。”【1月30日 産経】

内戦のために国民生活も逼迫しています。

****発電量激減で停電が常態化****
21年2月1日のクーデターでは、与党、国民民主連盟(NLD)の指導者アウンサンスーチー氏らが拘束された。NLDの議員らは民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」を発足させ、NUGは武装勢力と連携して軍政への抵抗運動を続けている。

欧米諸国などはクーデターを非難し、スーチー氏ら民主派の解放を訴えると共にミャンマーへの制裁を強めている。日本も国際機関などを経由した人道支援を除き新規の政府開発援助(ODA)を停止した。

ただ、民主政治への回復の兆しはなく、ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は、隣国の中国とインドの関与で事態打開の糸口を探っている。

中国は軍政と関係を緊密化させており、総選挙の実施を支援するとしている。しかし、NUGは軍政主導の総選挙を断固として拒否。NLDは解党に追い込まれ、排除されている。

内戦の国民生活への影響は大きい。国営紙の今月17日の報道によると、主要送電線14本が破壊されるなどし、発電量が激減。電力供給量は、最大都市ヤンゴンで48%、首都ネピドーで35%となった。各地では停電が常態化している。【1月30日 産経】
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【中国仲介の一部停戦合意の発表はあったものの実効性は不明】
上記記事にもあるように中国は軍政との関係を深めており、一方でかねてより少数民族武装勢力の一部とも強いつながりがあります。

その中国の仲介で少数民族武装勢力の一つと停戦が合意されたと中国は発表していますが、(以前も似たような話はあったものの、戦闘は継続したというように)その実効性は不明です。
中国にとってミャンマーは一帯一路や事業展開にとって重要な地域で、国内安定を望んでいると言われています。

****“ミャンマー軍と武装勢力の1つが停戦合意” 中国外務省****
中国外務省は、ミャンマーで実権を握る軍と、対立する少数民族の武装勢力の1つが、中国の仲介で停戦合意に達したと発表しました。ただ、ミャンマー軍とほかの武装勢力との間の戦闘は激しさを増していて、情勢の安定につながるかは不透明です。

中国外務省の報道官は20日の記者会見で、4年前のクーデター以降、実権を握るミャンマー軍が、中国の仲介で少数民族のコーカン族の武装勢力と停戦合意に達したと発表しました。

この武装勢力は2023年10月以降、ほかの複数の武装勢力とともに軍への攻勢を強めていて、ミャンマーに原油などのパイプラインを敷く中国は、エネルギー輸送の重要ルートの1つと位置づけ、停戦の仲介を続けてきました。

2024年1月には、コーカン族の勢力を含む3つの武装勢力がミャンマー軍と停戦合意に達したと中国外務省が発表しましたが、その後戦闘は再開されました。

2月1日でクーデターから4年となりますが、1月もミャンマー軍が西部で空爆を行い、市民およそ40人が死亡したと報じられるなど戦闘による犠牲者が後をたたず、ASEAN=東南アジア諸国連合は近く特使を派遣し、暴力の即時停止を求めることにしています。

ミャンマー軍と少数民族の武装勢力などとの間で戦闘が激化するなか、今回の停戦合意が情勢の安定につながるかは不透明です。【1月20日 NHK】
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コーカン族は中国から移住した漢族で、中国雲南省に隣接する地域に暮らしています。そうした事情もあって中国と密接な関係があります。

【総選挙を強行する方針の軍政 非常事態宣言の7度目の延長 国民には無力感も】
軍政は政権の正統性をアピールするため総選挙を年内に行うと主張しています。。

****ミャンマー総選挙実施見通せず 内戦激化、国軍は中国接近模索 クーデターから2月で4年****
(中略)
国民の海外脱出で人口減
一方、軍政は昨年12月末、10月に行った国勢調査の暫定結果を発表した。9月30日時点の人口は5131万6756人で、10年前の国勢調査結果より約20万人減少した。結果は有権者名簿の資料となる。

人口の減少は、内戦状態による混乱で国民の外国への脱出が続いていることを示す。しかも、一部の調査結果は「重大な治安上の課題」を理由に推計となった。約1910万人分は、外国民間プロバイダーから高解像度の衛星画像を入手して分析し、実際はさらに少ないとの指摘もある。

軍政トップのミンアウンフライン総司令官は、今月4日の独立記念日に、総選挙を実施する方針を改めて強調した。年内の投票の可能性が報道されているが、最近は来年にずれ込むとの見方も伝えられており、時期は不明のままだ。
【1月30日 産経】
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1月31日に期限切れとなった非常事態宣言は7度目の延長となっています。

****ミャンマー軍事政権、非常事態宣言を延長 「総選挙の準備」****
ミャンマー軍事政権は非常事態宣言をさらに6カ月間延長した。国営メディアが31日報じた。

ノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー氏率いる民主政府を国軍が転覆させたクーデターから2月1日で4年が経過する。

軍事政権は年内の総選挙を計画しているが、反対派は国軍が権力を維持するための見せかけの選挙だと非難している。

国営メディアのMRTVは通信アプリ「テレグラム」で「総選挙を成功させるために、まだ対応すべき課題が残っている。特に自由で公正な選挙のためには、安定と平和が必要だ」とし、非常事態宣言の延長を発表した。

選挙の日程は未定。国内は内戦状態にあり、経済は疲弊。多くの政党が選挙への参加を禁止されたり、参加を拒否したりしているが、軍事政権は総選挙を行う方針だ。

反対派は国民の意思に反して行われる選挙だとして、投票の妨害を計画。海外諸国に選挙結果を認めないよう呼びかけている。【1月31日 ロイター】
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まともに選挙を行えばたアウンサンスーチー氏率いる政党が圧勝するのは確実ですが、その政党を排除して行う総選挙ですから、軍政のためのみせかけの選挙です。

ただ、長引く軍政のもとで、国民の抗う力も弱っているのが現実です。

****ミャンマー政変4年、市民無力感 抗議の投稿ほぼ確認されず****
ミャンマー国軍による2021年のクーデターから、1日で4年が経過した。

民主派団体は昨年、軍事政権に抗議の意思を示すために外出や社会活動を停止する「沈黙のスト」を呼びかけたが、今年はネット上で関連投稿がほとんど確認されなかった。団体メンバーは「市民は無力感を募らせており、安全にも配慮した」と説明した。

クーデターではアウンサンスーチー氏の民主政府が転覆。内戦状態が続き、混乱は長期化している。ヤンゴンに住む女性は「長時間の停電や徴兵の恐怖で、抗議どころではない。抵抗の意思を示すより、どうやったら国から出られるかを必死で考えている」と語った。ネット規制も強化されている。【2月1日 共同】
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【兵員補充に躍起になる国軍 少年兵も】
一方、国軍の方も、国民の国外脱出、軍からの兵士の脱走・投降などで、兵員を確保するのに躍起になっています。

****ミャンマー軍事クーデターからきょうで4年「未成年でも関係なく徴兵」 “深刻な人権侵害”懸念****
ミャンマーの軍事クーデターからきょうで4年。内戦が続くなか、軍事政権は未成年の子どもたちまで徴兵していて、深刻な人権侵害が懸念されています。(中略)

JNNは先月、北東部シャン州での戦闘中に撮影されたある映像を入手しました。民主派側の捕虜になったのは、14歳の少年。

「(Q.武器を扱うことができるか)はい、使えます」

少年は、軍事政権の傘下組織の一員として、武器を持って戦っていたといいます。

長らく軍事政権による支配が続いたミャンマーでは多くの子どもたちが少年兵となり、国際人権団体は2002年、ミャンマーを「世界で最も少年兵が多い国」と指摘しました。

2011年の民政移管後は、少年兵らは段階的に解放されてきたものの、4年前の軍事クーデターで、状況は再び深刻化しています。

私たちは、16歳でミャンマー軍に入隊し、クーデターの翌年に脱走した元少年兵の男性に話を聞きました。

ミャンマー軍の元少年兵 ハイン・ソー・ウーさん(22)
「クーデター後は、入隊希望者が減り、軍は未成年でも関係なく徴兵していました」

男性は高校生のころ、駅で無賃乗車を理由に当局から拘束され、「逮捕されるか軍に入るかを選べ」と脅されました。軍の訓練施設には、14歳の少年兵など、多くの子どもたちがいたと証言します

ミャンマー軍の元少年兵 ハイン・ソー・ウーさん(22)
「軍に徴兵されたせいで、私は教育を受けられず、自由をすべて失いました」

クーデター以降、内戦の長期化と抵抗勢力の攻勢により、ミャンマー軍は3万人以上の兵士を失ったとされています。

兵力を補うため、去年から徴兵制を導入し、18歳以上の男女を対象としましたが、国を出る若者が後を絶たず、本来、対象ではないはずの子どもたちが次々に徴兵されているとみられます。

ミャンマー軍の元兵士
「子供の生年月日を偽り、身分証明書などを偽造して登録している。たばこの吸い方を教えたり、酒を飲ませたりして、より大人らしく見えるようにもしている」

ミャンマー情勢に関する世界の関心が薄れるなか、軍事政権下で繰り返されている“子どもたちの人権侵害”も国際社会が目を向けなければならない深刻な問題です。【2月1日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ  トランプ大統領の仲介は? プーチン大統領との思惑のズレも

2025-01-31 23:24:02 | 欧州情勢

(【1月29日 NHK】 ロシア軍侵攻開始から3年弱 東部でロシア軍の支配を許しているとは言え、大国ロシア相手にウクライナはよく持ちこたえている・・・・という印象も。一方のロシアはこの間、北欧のNATO加盟、アルメニアなど同盟国の離反、シリア・アサド政権崩壊等々、世界戦略的に失ったものが大きいです。)

【トランプ大統領 「24時間で」云々からやや慎重姿勢に】
トランプ大統領就任で世界が注目している問題の一つが中国やカナダ・メキシコ、更には日本を含めたその他の国々へに対する関税の扱い・貿易戦争の行方。

これについては、トランプ大統領は不法移民や薬物の流入を理由として、明日2月1日からカナダ、メキシコからの輸入品に25%の関税を課すとしており、その成り行きが注目されています。

もう一つ、トランプ大統領就任で大きな動きがあるのでは・・・と思われていたのがウクライナ問題。大統領選挙中は「私なら24時間で停戦させる」と豪語していましたので。

もし、本当に早期決着させるというなら、ウクライナへの武器供与停止を圧力にして、ロシア側が望む内容を丸呑みさせるつもりでは・・・との懸念も。

ただ、就任前からトランプ氏にはやや慎重姿勢も見え始め、就任後の今現在も大きな動きは表には出てきていません。

そうした状況で、トランプ大統領側からプーチン大統領への交渉に向けた圧力も出ています。

****トランプ氏、ウクライナ早期停戦へ仲介外交始動 交渉拒否すれば追加制裁とロシアに圧力****
トランプ米大統領は就任2日目の21日、ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン大統領が停戦に向けた交渉を拒否した場合、ロシアに追加制裁を科す可能性が高いと述べた。ロイター通信が伝えた。

プーチン氏との早期会談を目指す一方で、中国の習近平国家主席にも停戦へ協力を求めたという。侵略開始から丸3年となる2月を前に、圧力をちらつかせながら関係国に早期停戦を迫るトランプ仲介外交が始動した。

トランプ氏は「もうすぐプーチン氏と話す」とホワイトハウスで記者団に語った。追加制裁の詳細には言及しなかったが、トランプ氏に財務長官に指名されたベセント氏は、ロシアの石油産業を標的にしたものになる可能性を示している。

トランプ氏は同国に影響力をもつ中国に対しても、「(停戦への)取り組みが不十分だ」と習氏に直接圧力をかけたという。17日に習氏と電話会談している。

トランプ氏はまた、ウクライナに対する米国の武器支援の問題についても検討中だと指摘。武器支援を巡っては欧州連合(EU)がもっと努力すべきだと欧州にも注文を付けた。

当初、トランプ氏は昨年の米大統領選で、ウクライナ戦争について「私なら24時間で停戦させる」と豪語していた。これに対し、即時停戦はロシアによるウクライナの一部占領を固定化させるとの懸念が専門家から上がる中、今月7日になって「6カ月ほしい」と目標を修正。20日の就任演説でもウクライナについて言及しなかった。

ウクライナ戦争の長期化に伴うサプライチェーン(供給網)の混乱は、米国民が不満を募らせる物価高の一因で、来年に上下両院の中間選挙を控えるトランプ氏の懸念材料となっている。【1月22日 産経】
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【リークされた「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるもの】
トランプ大統領がどういう案を考えているのか・・・・“ウクライナにロシア側が望む内容を丸呑みさせる”のに等しいような「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」もリークされています。

****トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当ならロシアがほぼすべてを手に入れる****
<「停戦」だ「平和」だと言っても、トランプ2.0の世界では、やはり侵略者だけがトクをするのか>

ドナルド・トランプ米大統領がロシアとウクライナの戦争を100日で終結させるために検討中、とされる計画がリークされた。

1月26日、ウクライナの『Strana』紙が、数カ月で戦争を終結させるとする計画の詳細を発表し、ウクライナの「政治・外交界」で議論されてきたと書いた。

戦争終結に向けたトランプ大統領の100日計画とされるものをリークすれば、和平交渉の成功を危うくする可能性がある。ゼレンスキーかロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、交渉前から合意案の一部を拒否する可能性があるからだ。

トランプ大統領の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」には、1月下旬〜2月上旬にプーチン大統領と電話会談を行い、2月か3月にプーチンとゼレンスキー両者と会談し、4月20日の復活祭までに停戦を宣言することが盛り込まれている。

その時点でウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退し、国連の国際平和会議(IPC)が戦争終結のための両国の仲介作業を開始する。

合意された戦争終結の条件に関する宣言は5月9日までに発表し、その後、ウクライナ政府には戒厳令の延長や動員を行わないよう要請する。

合意案はウクライナのNATO加盟を禁じ、中立を宣言すること、2030年までにウクライナがEUの一員となること、EUが戦後の復興を支援することなどが盛り込まれている。

ウクライナは自国の軍隊の規模を維持し、アメリカから軍事支援を受け続けることができる。さらに「ロシアによる占領地を奪還しようとする軍事的・外交的試みを放棄」し、「占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認」する。

西側の対ロ制裁の一部解除についても言及され、終戦協定の遵守状況によっては3年以内に解除される可能性もある。ロシアの石油・ガスのEUへの輸出制限は解除される代わりに特別関税を課し、その収入はウクライナの復興に充てられる。

ゼレンスキーの事務所は、この和平案が合法的なものであることを否定している。ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマク室長はテレグラムで、メディアが報じた100日間の和平計画は「現実には存在しない」と書いた。また、このような報道はロシア人によって流布されたものであることが多いと付け加えた。【1月28日 Newsweek】
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占領地に対するロシア連邦の主権を公式に承認、ウクライナ軍はロシア領のクルスクから撤退、ウクライナのNATO加盟を禁じる・・・・ほぼロシアの望むところでしょう。

こうした内容の「ウクライナ戦争を終結させるための100日計画」なるものが本当に存在するのか、トランプ大統領がこうした内容での停戦を考えているのか・・・そこらはわかりませんが、これであればロシア側が交渉を拒むこともないように思えます。

あとは、ゼレンスキー大統領にどうやってこれをのませるか・・・だけ。

【長期的解決を図りたいプーチン大統領 とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領 思惑のズレも】
一方で、プーチン大統領はトランプ大統領との早期会談を望んでいるものの、問題の長期的解決を図りたいプーチン大統領と、とりあえずの停戦にしか関心がないトランプ大統領の間には認識・対応に差があるとの指摘も。

プーチン大統領にとってはシリア・アサド政権崩壊も大きく影響しているとも。

****トランプ氏との会談を切望するプーチン大統領のジレンマ すれ違う着地点と盟友の失脚****
(中略)盟友アサド氏の失脚はプーチン氏の心境を揺さぶり、激変する中東情勢は、ウクライナ侵攻をめぐるプーチン大統領とアメリカ・トランプ新政権との交渉にも影響を与えている。
  
トランプ氏は大統領就任直後にもプーチン氏との電話会談を行うと見られていたが、まだ実現していない。プーチン大統領は繰り返しラブコールを送るが、2人の間で目指す「停戦」のあり方は、決定的に食い違ったままだ。(ANN取材団)

■トランプ氏の停戦プランは「とりあえず止めるだけ」
「チャンスは一度きりだと思ってほしい。失敗は、より深刻なエスカレーションを招くことになる」
トランプ氏のアメリカ大統領就任を控えた1月初旬、ウクライナ問題についての協議にあたっていた ある米ロ外交筋はそうトランプ・チームに伝えた。

トランプ氏は、プーチン大統領を交渉のテーブルに着かせるため、ロシアに対してこれまでの西側諸国のスタンスから大幅に譲歩する姿勢を見せる。現在占領しているウクライナ東部の大部分の実効支配を認め、プーチン氏が神経をとがらせるウクライナのNATO=北大西洋条約機への加盟についても一定期間保留するなど、ロシアにとって悪くない条件を並べる。

ただ、ゼレンスキー大統領によれば、当初からプーチン氏が求めているのは、東部4州全域とウクライナのNATO非加盟の約束、ウクライナ軍の極端な削減、そしてゼレンスキー大統領の辞任などだから、トランプ氏の提案でさえもプーチン氏が納得できるものではない。

「細かい条件を詰めていくような煩雑な交渉にトランプ氏は、興味はない。互いの攻撃を止めたら、あとはロシアとウクライナや関係国で好きに話をまとめてくれという態度だ」
大統領就任前からトランプ・チームと接触を続けるクレムリンに近い関係者は、トランプ氏の姿勢をこう指摘する。

プーチン大統領を何としても交渉テーブルに着かせるためトランプ氏は、今度は経済制裁を強め、中国やインドなどロシアの下支えとなっている第三国からも停戦圧力をかける。まさしくアメとムチだ。

前述の関係者は続ける。
「トランプ氏は、『解決』を目指してはいない。とにかく互いの攻撃が止まれさえすればいいという考え方だ」
交渉の間、短期間でも戦闘が止まりさえすれば良いと考えているというのだ。

■プーチン大統領は対話を急ぐも目指すは「長期的解決」
プーチン大統領は盛んにトランプ氏に対話を呼びかける。
トランプ氏の就任式を数時間後に控えた1月20日には国家安全保障会議を開き、冒頭でわざわざトランプ氏を持ち上げた。

「新しいアメリカの大統領とそのチームは、前任者(バイデン氏)によって中断されたロシアと直接的な接触を回復したいという」
「この姿勢を歓迎し、次期大統領の就任を祝福します。私たちは、ウクライナの紛争に関してもアメリカの新政権との対話に前向きだ」

トランプ氏とウクライナを巡り協議したいと前のめりの発言をする一方で、プーチン大統領はトランプ氏が想定している「短期的な停戦」については、強い拒否感を示す。

「最も重要なのは根本的な危機の原因を排除することだ。何度も話してきたが、それが最も重要だ。私はもう一度強調したい。目標は、短期間の停戦や、その後の紛争継続を目的とした軍備再編のための一時的停戦ではなく、長期的な解決であるべきだ」
「我々はロシアとロシア国民の利益のために戦い続ける。それが『特別軍事作戦』の目的だ」

■トランプ氏の“方針転換”―アサド政権崩壊で「ロシアは弱っている」
当初、トランプ氏は大統領就任したらウクライナへの支援を止め、ロシアの主張を全面的に認め、制裁も解除するのではないか、トランプ氏の「停戦」とは事実上ロシアの勝利を意味するという楽観的な(ウクライナにとっては極めて悲観的な)見方さえ一部であった。

しかし、そうではないことが明確になりだしたのは昨年末あたりからだ。

去年12月7日、ロシアのプーチン大統領が後ろ盾となってきたシリアのアサド政権の崩壊を目の当たりにしたトランプ氏は翌日、「ロシアは弱っている」とSNSに投稿した。ウクライナへの侵攻で「ロシアの兵士60万人近くが死傷した」とも指摘していて、弱ったプーチン氏にもう一押しすれば「短期的な停戦」を受け入れざるを得ない絶好のチャンスだと直感したのだろう。

アサド政権の崩壊にはクレムリンに近い関係者も焦りを見せる。
「トルコは、シリアの『トルコ化』を進めている。それだけではない。周辺国への影響力もますます強めていて、ロシアは中東から押し出されている」
シリアにあるロシア軍基地の行方も懸念される。「フメイミム空軍基地」と「タルトゥース海軍基地」はロシアにとってアフリカへの重要な拠点だ。

(中略)ロシアとしては仮にウクライナ東部を占領できても、同時に中東とアフリカへの影響力を失えば、総合的にはマイナスだ。

経済面でも今年に入ってすぐに「ガスプロム」や「ズベルバンク」といったロシアで最大規模のエネルギー会社や銀行が大量解雇を始めている。

クレムリンに近い関係者によれば、今後の経済情勢を憂うエリート層の多くはウクライナについては早期の交渉を望んでいるという。プーチン大統領も条件次第では、少しでも早く停戦に持ち込みたいのが本音だろう。

■国家はもろい…若きプーチン氏のトラウマ
では、追い込まれているにもかかわらず、なぜプーチン氏は頑なに「短期的な停戦」拒否するのか。
最大の理由は、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領だ。

欧米の情報によれば、ロシア軍は、大量の北朝鮮兵士を投入しているが、ウクライナが高台を制圧しているため、容易には奪還できないとみられている。

この状況で交渉テーブルに着き、前線を凍結することは、プーチン氏にとってリスクが大きい。第二次世界大戦以来80年間ではじめてロシア領を外国に軍事占拠されるという事態を固定化しかねない。土地を追われた住民たちも、「ロシアは私たちのために何をしているのか?」と連日声を上げ、不満は限界に達しつつある。

また、プーチン氏はある「トラウマ」を抱えている。
KGBのスパイだった1989年に赴任先の東ドイツで「ベルリンの壁」の崩壊を目の当たりにし、「東ドイツがなくなることなど想像もしていなかった」と当時を振り返っている。(中略)

プーチン氏にとって「国家」はかじ取りを誤ればすぐに崩壊してしまうもろい存在だ。アサド政権の崩壊は、このトラウマを再び呼び起こしたようだ。(中略)

改めてシリアの現状を目の当たりにしたプーチン氏が「中途半端な停戦は命取りになる」と考えたとしてもおかしくない。だからこそ「根本的な危機の原因を排除すること」が重要だと繰り返し、「短期的な停戦」に拒否反応を示す。(後略)【1月31日 テレ朝news】
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上記記事の指摘があたっているなら、ウクライナ軍によるロシア西部クルスク州の一部占領は効果があったということにもなります。

ウクライナ軍のロシア領への侵攻当初、この作戦は非常に不評でした。「いったいいつまでウクライナが持ちこたえられるというのか?」「戦力分散でウクライナ国内の東部戦線が更に悪化するのでは?」と。私個人もそうした印象。

実際、後者の東部戦線は現在極めてウクライナ軍に不利になっています。
ロシア西部クルスク州の方は、自らの命を顧みない北朝鮮兵士の投入もありましたが、ロシア軍の奪還作戦で支配地を狭めながらもなんとか持ちこたえています。

このまま持ちこたえることができれば、ロシアとの今後の交渉で重要なカードにもなりえます。

プーチン大統領の「トラウマ」・・・そういう心の内、頭の中まではわかりません。シリア・アサド政権崩壊がロシアにとって手痛いものであるのは間違いないですが、「トラウマ」云々はどうでしょうか?

【本気でノーベル平和賞望む? そのためにはウクライナ停戦は必須】
ところで、オバマ元大統領への対抗意識もあって、トランプ大統領は本気でノーベル平和賞を欲しがっているようです。

パレスチナ・ガザ地区がとりあえずの停戦に至った今、次はウクライナ停戦。
実績を作るためには短期のとりあえずの停戦でも何でもかまわない・・・あとはロシア・ウクライナで話し合ってもらえば・・・といったところでしょうか。

****ノーベル平和賞を意識? トランプ大統領の「平和」への本気度は?****
23日、ダボス会議にオンラインで参加し、「ガザ地区の停戦は、我々なしには実現しなかった」と“自らの重要な役割”を強調したトランプ大統領。 

CNNによると、来月4日にホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相との会談が予定されているという。  これまで一貫してアメリカファーストを掲げてきたトランプ大統領だが、2期目を迎え、平和への意欲を見せ始めている。 

「非常に重要なことの一つはプーチン大統領とすぐに会って、(ウクライナとの)戦争を終わらせたいということ。それは経済やその他の観点からではなく、何百万人もの命が無駄になっているという観点からだ」(トランプ大統領) 

アメリカとロシアの間では核軍縮条約「新START」が結ばれていたが、2023年、ウクライナへの侵攻が長期化するなかでロシア側が履行停止を表明。2026年に失効を迎える中、トランプ大統領は「非核化が可能か見極めたい。十分可能だと思う」と意欲を見せている。  

一方、ロシアのプーチン大統領は24日、国営メディアのインタビューで、トランプ大統領とは「仕事上の事だけではなく信頼関係も築いてきた」と述べ、ウクライナ問題や経済問題などあらゆることを話したいと語っている。ノーベル平和賞を意識した動きではないかという声もある中、トランプ大統領の真剣さに注目が集まっている。  

アメリカ現代政治外交が専門の前嶋和弘教授はガザ地区の停戦について「『ガザ地区の停戦は“我々なし”には実現しなかった』というセリフは間違ってはいない。というのも、バイデン前大統領がお膳立てをして、その後、トランプ大統領の就任に合わせてネタニヤフ首相が停戦という“プレゼント”をしたからだ。とはいえ恒久的な停戦はなかなか難しいだろう」と説明。  

ロシアの思惑については「ロシアとしてはトランプ大統領とうまく話し合って、自分たちに有利なように進めたいのだろう。ゼレンスキー大統領のことは頭にないのでは」と分析した。  

核兵器削減については「中国がポイントになる」と指摘した。 「核兵器はアメリカ・ロシアが多いが、制限条約に入っていない中国が特に中型核兵器を増やしている。そのため、停止中の新STARTを戻し、さらに中距離核兵器の制限条約にも加入させる。これはぜひやってほしい」  

民主党政権では実現しなかったがトランプ大統領ならばできるのか? 「力技でやってほしい。ウクライナ侵攻でロシアとアメリカの関係は悪くなっているため難しいが、ウクライナがうまく動いていけば可能性はある。実はダボス会議ではウクライナと核の話がリンクしたのだ」  

トランプ大統領がノーベル平和賞を受賞する可能性については「ノーベル委員会はトランプ大統領のような人は大嫌いだが、核問題はどんどん進めてもらいたい。世界が平和になるのはすごく良いことなので、ノーベル平和賞でも何賞でもあげていい」と述べた。 【1月31日 ABEMA Times】
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アメリカ  「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべきトランプ改革がスタート

2025-01-30 23:24:00 | アメリカ

(トランプ新政権の対外支援一時停止方針発表後に閉鎖され、避難民の受け入れをストップしたタイにあるミャンマー難民キャンプの診療所【1月29日 TBS NEWS DIG】)

【200万人超の連邦職員に対し、異例の好条件で「早期退職」を呼び掛け】
トランプ大統領による「反リベラル革命」あるいは「連邦政府解体」とも言うべき改革がスタートしています。

一番驚いたのは、一部を除く200万人超の連邦職員に対し「早期退職」を呼び掛けたこと。

****連邦職員に「早期退職」呼び掛け=米政権、200万人に大なたか―報道****
米メディアは28日、トランプ政権が200万人超の連邦職員に対し、「早期退職」を呼び掛けたと報じた。2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給するという。

トランプ大統領は連邦機関を「ディープステート(闇の政府)」と敵視しており、自身に従わない公務員の追放を本格化させる。

報道によると、人事管理局が一斉送信したメールには、今後連邦機関が縮小され、職員の扱いが常勤雇用から「随意雇用」に移される可能性に触れられていた。さらに職員には「忠実さ」を測る新たな行動基準を課し、違反があれば解雇を含む懲戒処分の対象になると警告。「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」を選ばせるような内容となっている。

軍や郵政公社、移民対策、国家安全保障に携わる者は対象外。正確な数は不明だが、ホワイトハウスは全職員の5〜10%が募集に応じると見込む。

ニューヨーク・タイムズ紙は、実際に政府が約束した給与を支払う能力があるのかは不透明な上、政治的圧力からキャリア公務員を守る法律に違反する恐れもあると指摘。

最大労組「米政府職員連盟」は声明で、「公務員の追放は多大な影響と混乱をもたらす」と批判し、組合員に安易に応じないよう呼び掛けた。

トランプ氏は既に、非政治任用職の解雇を容易にする職務分類を設ける大統領令に署名。意に沿わない職員を一掃する準備を進めている。

先週には連邦政府の「多様性、公平性、包摂性(DEI)」事業廃止を命じ、担当部署を事実上閉鎖。連邦職員の在宅勤務を認めない大統領令も出し、子育て世帯などが仕事を続けられなくなる可能性が指摘される。いずれの措置も連邦機関縮小や反対派排除に向けた「大なた」の一環とみられている。【1月29日 時事】 
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200万人の5~10%でも10~20万人という膨大な人員整理になります。
“AP通信は「アメリカ政府を猛スピードで縮小させる前例のない措置だ」としたうえで、連邦政府が300万人以上を雇用していることから「ほんの一部が応じたとしても経済に衝撃が走り、社会全体に混乱を引き起こす可能性がある」と伝えています。”【1月29日 NHK】

日本では公務員の職務は政治的圧力・干渉などに脅かされないように強固に守られていますが、さすがアメリカは違う・・・。

「ディープステート(闇の政府)」にかかわるような、あるいはリベラルな思想にかぶれているような者を排除して、新たに大統領に忠実な者で連邦政府を再建しようというもののようです。

“こうした方針は、歳出削減に取り組む「政府効率化省(DOGE=ドージ)」トップで実業家のイーロン・マスク氏が提唱していた経緯があり、今回の方針に影響を与えた可能性もある。マスク氏は今回の方針に関して、Xに「分岐点だ」と投稿した。”【1月29日 毎日】と、影の大統領マスク氏の影響もしてきされています。

政府職員の大幅削減と連邦政府の解体はトランプ支持者の間ではかねてより計画されていたもののようですが、注目されているのは今回措置が“2月6日までに辞意を示せば、9月末までの給与を支給する”という破格の好条件だったこと。

この条件なら応じる者も少なくないかも・・・と思われますが、民主党側は「履行される保障のない偽りの好条件にだまされてはいけない」と反発しています。

****異例の好条件で連邦政府職員に早期退職を迫るトランプの真意****
<政府職員の大幅削減と連邦政府の解体は、熱烈なトランプ支持者たちが大統領選前から温めてきた大陰謀論。トランプは自分は関与していないと嘯いていたが、大統領就任と同時に計画を実行に移し始めた>

トランプ政権は連邦政府職員に異例の好条件を提示して早期退職に応じるよう呼びかけたが、提示された条件は「空約束」にすぎないと、民主党議員は警告している。

米労働統計局のデータによれば、連邦政府の職員(軍の人員を除く)は3万人前後(原文のまま。 英文元記事を確認したところ“300万人”の誤記と思われます)。

連邦政府のスリム化は、ドナルド・トランプ大統領が就任後に真っ先に取り組むと誓ってきた政策課題の1つだ。トランプが新設し、イーロン・マスクを共同トップに据えた政府効率化省(DOGE)は、政府支出の無駄をなくすため、大幅な人員削減に踏み切ろうとしている。

トランプはDOGEに、行政管理予算局(OMB)及び連邦人事管理局(OPM)と協力して、4月20日までに「効率性の改善と人員削減を通じて、連邦政府の規模を縮小する」計画をまとめるよう命じた。

これに先立ち、就任初日の1月20日に連邦政府職員の新規雇用を凍結する方針を打ち出し、連邦レベルの全ての政府機関にリモートワークの禁止を指示した。

新政権発足早々の相次ぐ改変に動揺が広がるなか、OPMは1月28日、連邦政府の職員全員に宛てて「分岐点」と題したメールを送信。職場の環境・文化が大きく変わろうとしている今、どうするかはあなた方の決断しだいだと伝え、早期退職に応じるなら「尊厳のある公正な門出」が保証されると約束した。

早期退職者には「これまでの日々の仕事量にかかわらず、また職場への出勤を一切求められることなく、2025年9月30日まで給与と手当の全額が支給される」という。この条件で退職に応じるなら、OPMのメールにただresign(辞職する)と返信するだけでいい。

「大統領にはこうした条件を出す権限はない」── 28日に連邦上院議場でそう喝破したのは、ティム・ケーン上院議員(バージニア州選出・民主党)だ。「(議会が承認した)予算には、働かない人員に支給する給与という項目はないからだ」

「偽りの好条件にだまされてはいけない」と、ケーンは連邦職員に警告した。「あなた方は先週トランプにさんざん脅されたから、今すぐ辞職して優遇措置を受けたくなるだろう。だが言っておくが、この約束が守られる保証は一切ない」

OPMのメールはタイトルも内容も、イーロン・マスクが2020年10月にツイッター(現X)を買収した際にツイッターの従業員に送ったメール(「長時間の過酷な労働に耐えるか、辞職するか」を問うもの)に酷似しているとの指摘も聞かれる。

優遇措置に釣られて、早期退職に応じないよう、ケーン以外の民主党議員も次々に連邦職員に警告を発し始めた。
ジャスミン・クロケット下院議員(テキサス州選出・民主党)は28日にXに次のように投稿した。「トランプは連邦政府職員に偽りの早期優遇退職を持ちかけた。彼らがそれを受け入れたとたん、約束を握りつぶし、彼らが職場を去るが早いか、自分に忠実な無資格の未経験者を後釜に据えるだろう」

ジェリー・コノリー下院議員(バージニア州選出・民主党)も28日、「ドナルド・トランプは、自身と『プロジェクト2025』を策定した(右派の)仲間たちが思いつく限りの策略を駆使して、公務員の職を政治的乗っ取り屋で埋めようとしている」と、Xに投稿した。「これは茶番だ。このオファーにだまされるな。トランプはこれまで自分のために働いた全ての人間にそうしてきたように、あなたをゴミのように捨てるだろう」【1月30日 Newsweek】
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「政権に忠誠を誓うか、辞めるか」・・・・トップの指示に異論をはさめない中国・ロシアの政治体制に近いものにも近づくような感じがあります。

政権に批判的なマスメディアへの締め付けも強まると思いますし・・・アメリカはどこへ行くのか?

【連邦政府の補助金・融資などの一時停止で混乱、裁判所は差し止め、2日で撤回】
連邦政府の人員削減、入れ替えに加え、その業務内容がトランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結することも発表。

標的とされたのは、多様性、公平性、包括性(DEI)などに関連する前政権のリベラル色の強いもののようです。

****米、連邦政府の補助金・融資など支援プログラムを一時停止*****
トランプ米政権が行政管理予算局(OMB)の補助金や融資などの財政支援プログラムを一時停止したことが、ロイターが入手したメモで分かった。

メモはトランプ大統領が先週の就任以降に署名している、多様性、公平性、包括性(DEI)に関連するプログラムの廃止を求める大統領令などに言及している。

OMBのマシュー・J・バース局長代行は「当面の間、適用される法律で許される範囲で、連邦政府機関は全ての財政支援の義務や支払いに関連する活動のほか、対外援助や非政府組織、DEI、ジェンダー意識の高まり、グリーン・ニューディールへの財政支援など大統領令の影響を受ける可能性のあるその他の関連機関の活動を一時的に停止しなければならない」とメモで述べた。

停止措置は28日午後5時(日本時間29日午前7時)に発効する。議会民主党の有力議員はメモの報道を受け、OMBに決定を撤回するよう求める書簡を送った。

メモによると、政府機関は一時停止の対象となるプログラム、プロジェクト、活動に関する詳細情報を2月10日までに提出する必要がある。【1月28日 ロイター】
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こういう重要な施策が“メモ”(いわゆる日本語の“メモ”とはまた違うのでしょうが)で処理されるというのも日本的には驚きです。

しかし、こういう措置で生活の最低限の保障も脅かされると混乱が拡大。異議申し立てに基づき連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令をだしています。

****トランプ政権「全ての財政支援」停止で連邦政府混乱…公的保険サイト一時ダウン、治療薬配布も停止****
米国のトランプ政権が連邦政府による補助金や融資を28日から一時凍結すると発表し、混乱が広がっている。社会保障給付や医療援助などが止まるとの批判を受けて例外を設けるなど対応に追われた。前政権の施策を覆そうとする強引な政権運営に綻びが出てきた。

きっかけは、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)が27日に出した指示だった。トランプ政権の方針に合致しているかどうかを精査するため、28日夕方以降、州政府や民間活動団体(NGO)への拠出、対外援助など「全ての財政支援」を一時停止するよう連邦機関に命じた。

約7000万人が加入する低所得層向け公的医療保険「メディケイド」は連邦政府と州政府の資金で運営されており、凍結対象に含まれているのではないかとの見方が広がった。

各州が担う事務は混乱し、全米の事務的な運用サイトが一時ダウンする騒ぎとなった。米国際開発庁(USAID)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)やマラリアの治療薬の途上国向け配布を停止した。

OMBによると、連邦政府の補助金や助成金、融資は計3兆ドル(466兆円)以上に上り、一部は低所得者向け食料支援や医療助成、学校支援などの財源にもなっている。民間団体が「数十万人の助成金受給者に壊滅的な影響を与える」として異議を申し立てたところ、連邦裁判所は28日、2月3日まで拠出金凍結を差し止める命令を出した。

キャロライン・レビット大統領報道官は28日の記者会見で凍結措置は多様性を重視したバイデン前政権の施策が対象で、メディケイドや中小企業支援などを含まないと軌道修正。OMBや国務省は除外対象を記した文書を追加配布した。

野党・民主党は政権追及の好材料とみて勢いづいている。上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務は「無法、破壊的、残酷な決定だ」と政権を批判した。ニューヨーク州など民主党が強い州では、凍結措置を無効にする訴訟も検討されている。【1月29日 読売】
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結局、トランプ政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回するに至っています。

****トランプ政権、連邦政府補助金の支出凍結を撤回 裁判所も差し止め****
トランプ米政権は29日、連邦政府による補助金や公的融資の支出を凍結する方針を撤回した。社会福祉や教育分野で公的支援が止まるとの懸念が拡大。政権は「年金や社会福祉分野に影響はない」と釈明していたが、わずか2日で撤回に追い込まれた。

ただ、連邦政府の政策を抜本的に見直す姿勢は変えておらず、将来的にバイデン前政権が決めた気候変動対策の補助金などが覆される可能性は残っている。

ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)は27日に補助金などの全面凍結を決定し、28日から施行する予定だった。しかし、「連邦議会が成立させた予算を凍結することは、前例のない広範囲にわたる違法行為だ」(民主党のマレー連邦上院議員)といった批判が噴出。連邦政府から支援を受けている非営利団体(NPO)の訴えを受けて、連邦地裁が28日に支出凍結の一時差し止めを命じていた。

ホワイトハウスのレビット報道官は29日の声明で「裁判所の判断や不誠実な報道によって、連邦政府の政策に関して混乱が生じた。こうした混乱を収束させるため、(支出凍結の)方針を撤回した」と説明。

一方で「支出の全面的見直しは、全ての省庁で実行される。今後、連邦政府のひどい無駄遣いを終わらせる施策を出していく」と述べた。

連邦上院歳出委員会で民主党トップを務めるマレー氏はXへの投稿で「抗議の声を上げた全ての国民にとって重要な勝利だ。トランプ政権は無能で、法律を軽視しており、深刻な混乱と損害を生じさせている」と政権を批判した。【1月30日 毎日】
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【対外援助の大幅削減に向けた動きで世界の現場で影響】
トランプ大統領は自身の「アメリカ第一」主義との整合性を評価するために対外開発援助を90日間停止する大統領令にも署名しており、その影響は世界に広がっています。

****米政府の対外援助削減、世界中の人道支援が危機に****
トランプ米大統領の対外援助の大幅削減に向けた動きにより、タイの難民キャンプの野戦病院、紛争地帯での地雷除去、エイズウイルス(HIV)などの病気に苦しむ数百万人を治療するための医薬品などが削減の危機に直面している。

トランプ氏は先週、自身の「米国第一」主義との整合性を評価するために米国国際開発庁(USAID)を通じた対外開発援助を90日間停止する大統領令に署名した。

人道支援団体や国連機関によると、もし資金拠出の凍結が恒久的になれば、食料や避難所、医療の提供能力が大幅に制約される恐れがある。

米国は世界の人道援助に対する最大の貢献国となっている。2024年には139億ドルを供給したと推計されており、これは国連がフォローしている援助全体の42%を占める。

ミャンマーからの難民約10万人が避難しているタイのキャンプの診療所は、米国が国際救済委員会(IRC)への資金提供を凍結後に停止を命じられた。

また、ロイターが確認したメモによると、米国の対外援助の削減は数百万人が依存している世界中のHIVやマラリア、結核の救命薬の供給にも影響を及ぼす。

USAIDから請け負っている業者やパートナーは28日、直ちに任務を止めるように命じたメモを受け取り始めた。

「これは壊滅的だ」とUSAID長官補を今月退任したアトゥール・ガワンデ氏は訴える。「寄付された医薬品によって2000万人のHIV感染者が生存している。それが今日で止まってしまうのだ」。さらに、米国の対外援助削減は23カ国の計650万人のHIV感染孤児と脆弱な子どものために活動している団体に打撃を与えると指摘した。

世界食糧計画(WFP)のアフガニスタン担当ディレクター、シャオウェイ・リー氏はロイターに対し、WFPがアフガニスタンへの援助に必要となる資金の既に約半分しか受け取っておらず、600万人超が「パンとお茶だけで」生き延びていることを考えると先行きを懸念していると語った。

国連によると、米国は2024年にWFPに対して47億ドルを拠出しており、全体の54%を占める。

<地雷対策と教育にも打撃>
地雷禁止国際キャンペーンによると、米国は2023年に総額3億1000万ドルを拠出した最大の地雷対策支援国となっており、世界全体の支援額の39%を占めた。除去されていない地雷が最も多くの人命を奪っている国にはシリアやミャンマー、ウクライナ、アフガニスタンなどがある。

米国務省は今月26日、米政府は納税者のドルの管理者としての役割に基づき、米国の国益に焦点を合わせる必要があるとして「トランプ氏は、米国はもはや米国民に見返りのないお金をやみくもにばらまくつもりはないと明言した。勤勉な納税者のために対外援助を見直し、再編するのは正しいことであるだけでなく、道徳的な要請でもある」とコメントした。

ウクライナの教育システムの改善のために教員を養成している非政府組織(NGO)、ティーチ・フォー・ウクライナのオクサナ・マティアシュ理事長は、ウクライナのNGO分野で混乱が起きていると明らかにした。

マティアシュ氏はリンクトインに「凍結されたのは資金だけではない。全ての助成金の背後には、想像を絶するような状況で働く実際の人々がいるのだ」と書き込んだ。【1月29日 ロイター】
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ミャンマー難民を治療していたタイの難民キャンプ診療所では、“入院患者はキャンプ内の住居に帰され、職員らは医療機器を持って出て行ったということです。”【1月29日 TBS NEWS DIG】

アメリカ国務省が人道支援を目的とした資金提供などの対外援助を一時的に停止すると発表したのが26日。
前出のホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)がすべての連邦機関に宛てた文書で、補助金や融資の執行を凍結するよう指示したのが、27日夕方。

両者の関係、行政管理予算局(OMB)の凍結指示の撤回に対外援助の一時的停止も含まれるのか、あるいは別物なのか・・・そのあたりはよくわかりません。

いずれにしても、「アメリカ第一主義の外交政策に一致するかどうかを検証するため」という話なら、一律に全部停止する必要もなく、運用しながら不要と判断するものは順次縮小・停止する措置を取れば済むようにも思うのですが。
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