孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  習主席が党・政府、指導者・幹部への批判を歓迎する旨の発言 その真意は?

2016-04-20 22:41:18 | 中国

(天安門広場近くの土産物屋で毛沢東元主席の隣に置かれた習近平主席の肖像を貼り付けた皿 【3月11日 WSJ】)

【「百花斉放百家争鳴」再現か?】
権力を集中する習近平主席は、一般市民の圧倒的な支持を受けた汚職撲滅工作と同時に、非政府組織(NGO)、ブロガー、地下に潜んだキリスト教信者、人権弁護士、物議を醸すその他の活動家に対する取り締まりも進めてきました。
中国共産党・習近平政権による言論統制・批判封じは今更の話ですが、昨日、目を疑うような記事が。

****党・指導者批判は「歓迎」=ネット言論統制に変化?―中国主席****
新華社電によると、中国の習近平国家主席は19日、インターネット政策を討議する会議を開催し、「ネット上の善意から出た批判は、共産党・政府の活動を取り上げたものでも、指導者・幹部個人に対するものでも、また穏やかな意見でも耳の痛い忠告でも、われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」と述べた。

習指導部は最近、党内の穏健な異論にも引き締めを一層強化し、内外で批判が高まっている。今回の習主席の発言はこうした批判を意識した可能性がある。ネット言論統制に変化があるか注目されるが、ネット上では改革派知識人らから「信じることはできない」と否定的な見方が出ている。【4月19日 時事】 
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これまで習近平政権の行ってきた言論統制を踏まえると、改革派知識人ならずとも「信じることはできない」ことです。

特に、中国共産党には“前科”があります。
1956年5月2日、毛沢東は最高国務会議で「共産党への批判を歓迎する」として、「百花斉放百家争鳴」を提唱しましたが、この方針に従って共産党を批判した者は、後に厳しく弾圧されることになりました。

****百花斉放百家争鳴*****
百花斉放百家争鳴(ひゃっかせいほうひゃっかそうめい)とは、1956年から1957年に中華人民共和国で行われた政治運動。中国語では百花運動とも呼ばれる。

「中国共産党に対する批判を歓迎する」という主旨の内容であり、これを受けて国民は様々な意見を発表したものの、百花運動の方針は間もなく撤回され、結局共産党を批判した者はその後の反右派闘争で激しく弾圧された。【ウィキペディア】
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毛沢東がどういう意図で「百花斉放百家争鳴」を提唱したのか、最初から批判者をあぶりだすつもりだったのか・・・については様々な見解があるようですが、結果としては批判者が弾圧されることになっています。

習近平主席もどういう意図で「党・指導者への批判を歓迎する」と言い出したのかは全くわかりませんが、うかつにのっかると、方針が撤回された後にひどい目にあう危険があります。

進む個人崇拝 「習氏は核心」「習主席にならえ」】
最近の中国では、大規模な腐敗・粛清運動によって習近平主席への権力集中が進むなかで、習氏への個人崇拝的な動きも出ています。

****習氏は核心」表現相次ぐ=地方指導者から、権力集中反映か―中国****
中国でこのところ、習近平共産党総書記(国家主席)を「党中央の核心」と位置付ける発言が地方の党指導者から相次いでいる。

胡錦濤前総書記は任期中の10年間、集団指導体制を崩さず、「核心」という表現は使われなかったが、習氏は党トップに就任してから権力集中を進めており、「核心」の表現は党内のこうした現実を反映したものとみられる。

中国共産党では、毛沢東、トウ小平、江沢民の歴代最高指導者は第1〜第3世代の「核心」と位置付けられたが、胡氏の場合は「胡錦濤同志を総書記とする党中央」と呼ばれた。

2012年11月に就任した習総書記もこれを踏襲したが、反腐敗闘争や軍の大規模改革で、党・軍での権力基盤を固めつつあり、昨年12月末の党重要会議では「党全体が中央に倣え」と強く指示した。

各地の党委員会機関紙などによると、四川省の王東明党委書記と天津市の黄興国党委書記代理が主宰した1月11日の会議はそれぞれ「習総書記という核心を断固守る」との姿勢を強調。15日に李鴻忠湖北省党委書記が主宰した会議は「習総書記は党中央の指導の核心だ」とさらに踏み込んだ。

14日には首都・北京市の郭金竜党委書記も「いかなる時より強い指導の核心を必要としている」と述べるなど、地方トップが習氏への「忠誠」を競い合っている状況だ。【2月1日 時事】 
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****習主席にならえ」=進む個人崇拝、異論を封鎖―「文革悲劇忘れるな」と懸念・中国****
(3月)5日に開幕した中国全国人民代表大会(全人代=国会に相当)の冒頭、李克強首相は政府活動報告で「政治意識、大局意識、核心意識、一致意識を強める」よう求めた。

「核心意識」とは習近平共産党総書記(国家主席)が「党中央の核心」、「一致意識」とは「習氏にならえ」という意味だ。

習氏への「個人崇拝」が進み、批判的な異論は封じ込められる。今年は、多くの市民が命を失った文化大革命が始まって50年の節目。改革派知識人は「文化大革命の悲劇を忘れてはいけない」と懸念を強めている。(後略)【3月6日 時事】 
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権力集中・個人崇拝・言論統制への批判も
こうした権力を集中し、批判を封じ込めるような習主席の動きに対する強い不満・警戒も存在します。

3月には、「権力を自らに集中しすぎて、混乱を招いている」と習氏を批判し、辞任を求める公開書簡がネット上に流れ話題となりました。

****習氏の辞任求める書簡、波紋呼ぶ 失踪情報相次ぎ拘束も****
中国で習近平(シーチンピン)国家主席の辞任を求める公開書簡がネットに流れた騒動が波紋を呼んでいる。

中国の政治や社会の改革を促す発信を続けてきたジャーナリストの賈葭(チアチア)氏(35)が失踪後に当局に拘束され、この件にからんでいるとの見方が強まる。他にも複数の失踪情報が報じられ、騒ぎは広がりを見せつつある。

書簡は今月(3月)4日、新疆ウイグル自治区政府系のニュースサイト「無界新聞」に掲載された。「忠実な共産党員」の名前で、「権力を自らに集中しすぎて、混乱を招いている」などと習氏を批判し、辞任を求めた。

すぐに削除されたが、中国で政府系のサイトにこうした内容が載ることは異例。ハッキング説や内部の関係者が意図的に掲載した説などがあり、掲載に至った経緯は不明だが、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の開幕直前だったこともあり、内外で波紋を呼んだ。

一部の香港紙は21日、事態を重く見た当局が100人態勢の調査チームをつくり、無界新聞の関係者ら数人の消息がわからなくなっていると報じた。賈氏と同様、公安当局に拘束されている可能性がある。【3月21日 朝日】
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賈葭氏はその後、無関係だったとして釈放されていますが、“英BBCは、書簡を掲載したニュースサイト「無界新聞」の責任者や編集者、IT関係の職員らこれまでに20人が連行されたと報じた。(中略)さらに、25日には米ニューヨーク在住で、書簡についてネット上で論じた民主活動家の北風(本名・温雲超)氏が、広東省に住む両親と弟が22日に当局に連行されたと公表した。”【3月28日 朝日】とも。

また、習近平主席が2月に国営メディアを視察した際、「メディアは共産党の姓を名乗るべきだ(党を代弁すべきだ)」と発言したことへ抗議して、有力紙の編集者が「あなたたち(共産党)の姓は名乗れない」と抗議の辞任をしています。

****メディア統制に抗議し辞職 中国・広東省の新聞編集者*****
進歩的な論調で知られる中国広東省の新聞「南方都市報」のベテラン編集者が、メディア統制を強める共産党に抗議して辞職したことが分かった。香港紙などが伝えた。

辞職したのは、2000年から同紙の記者やコラムニストとして活躍し、文化部で編集者をしていた余少鐳氏。退職理由に「あなたたち(共産党)の姓は名乗れない」とだけ書いた辞職届を29日にネット上に公開。自身のブログに「長い間ひざまずいてきたが、ひざが耐えられなくなった」などと書き込んだ。

書き込みはすでに削除されたが、ネット上で拡散。習近平(シーチンピン)国家主席が2月に国営メディアを視察した際、「メディアは共産党の姓を名乗るべきだ(党を代弁すべきだ)」と発言し、党への忠誠を求めたことへの抗議と受け止められている。

同紙は、習氏の視察の翌日、習氏のこの発言の真下に「魂帰大海(魂が海に帰る)」と一部の地域で見出しをつけた。報道の自由がなくなることを暗に批判したと騒ぎになり、担当編集者が解雇された。(広州=延与光貞)
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辞任ですめばいいのですが。

批判容認発言は、強すぎる指導者に向けられる視線の変化を意識か?】
冒頭の習主席の批判容認発言は、習近平政権へのこうした最近の批判を意識したものとの指摘もあります。

****個人崇拝の動き、不安と反発****
・・・・しかし、指導部内で習氏の力が際立つ現状は、副作用も生む。

3月、文化大革命の時代に毛沢東を賛美するために歌われた「東方紅」の歌詞を変え、習氏をたたえる動画がネットに流出。前後して、習氏と彭麗媛夫人を理想の夫婦像として持ち上げる動画も現れた。

最高指導者を偶像化するこうした現象は、久しく中国になかった動きだ。毛沢東への熱狂的な追従が文革の悲劇を生んだとの反省から、共産党は82年に指導者の個人崇拝を禁じている。

同じ頃、党最高指導部で重きをなす王岐山氏率いる党中央規律検査委の機関紙がコラムを掲げた。
「千人の追従は、1人の忠告にしかず」

指導者への異論が封殺される風潮を戒めたのは明らかだった。

新疆ウイグル自治区政府が運営に関わるニュースサイト「無界新聞」に、行きすぎた権力集中を批判し、習氏の辞任を求める公開書簡が載る事件も発生。ハッキング説や体制内の犯行説が飛び交い真相は不明だが、一連の動きを「個人崇拝の動きに対する社会の不安と反発の現れ」(外交筋)と受け止める人は多い。

強すぎる指導者に向けられる視線の変化を意識してか、習氏は今月19日、インターネット安全・情報化指導小組のメンバーらが集まった会議で、世論をくみ取る手段としてのネットの重要さを指摘し、「善意に基づく批判なら、耳に痛いものでも我々は歓迎し、真剣に検討する」と強調した。

習氏に政策提言した経験もある財界人は話す。
「偏り始めた権力に対する揺り戻しが起きた。力のバランスを探る振り子の中で、党大会までにまだいろいろな動きがあるだろう」【4月20日 朝日】
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【「パナマ文書」問題では依然としてピリピリ
「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」とは言いつつも、最近の状況でも、とてもそのような雰囲気は感じられません。

習主席への個人崇拝とも思える動きが進む中で、習主席親族に名前が「パナマ文書」にあがりましたが、ピリピリした雰囲気です。

****<パナマ文書疑惑>中国共産党・政府が情報統制に躍起 ニュース番組、画面真っ暗に****
中国の習近平国家主席らの親族がタックスヘイブン(租税回避地)にある法人を利用していたとされる問題をめぐり、中国共産党・政府が情報統制に躍起になっている。国内メディアの報道は原則認めず、インターネットも規制。反腐敗運動のさなかだけに、神経をとがらせているようだ。

「論評するつもりはない」。中国外務省の陸昊報道局長は7日の記者会見で、海外メディアの質問にそう繰り返した。中国メディアが報じていないことについては「メディアに直接聞いてください」と答えた。

中国では政財界要人による資産の海外移転が問題化。習指導部は監視を強めてきた。「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が入手した内部文書「パナマ文書」では、習氏に加え、党序列5位の劉雲山・政治局常務委員と同7位の張高麗筆頭副首相らの親族も名前が挙がっており、衝撃は大きい。

中国の検索サイトで「パナマ文書」を調べると、「関係法律と政策に合わないため、表示しない」との一文が出る。ネット上の書き込みも当局が削除しているとみられる。問題を伝えたNHKのニュース番組は7日も数分間中断され、画面が真っ暗になった。

中国メディアではほぼ唯一、党機関紙、人民日報系の環球時報が社説で取り上げている。5日付では「非西側世界の指導者に打撃を与える新しい手段だ」と批判。7日付では、今回の報道に米情報機関の関与を疑うなど警戒心を示した。いずれも、中国の指導者に関する記述は一切ない。【4月8日 西日本】
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情報統制を強める当局に対し、ネット上では“ほめ殺し”的な反応も。

****習氏擁護文章、ネットで拡散=「パナマ文書」遮断の中国****
中国の習近平国家主席(共産党総書記)の親族らがタックスヘイブン(租税回避地)を利用していたと暴露した「パナマ文書」の問題で、中国国内のニュースサイトに「習近平は親族らをきちんとしつけていたのではないか」と擁護する文章が掲載された。

中国当局がパナマ文書に関する報道や情報を遮断する中、習氏擁護の文章をネットで拡散させ、逆に世論を盛り上げる狙いもあるとの見方も出ており、波紋を広げている。

文章は12日夜、上海市共産党委員会・政府系メディアグループの上海報業集団傘下のサイト「界面新聞」に掲載された。数時間後に削除されたが、他の国内サイトにも広まった。

習主席義兄のトウ家貴氏が英領バージン諸島に設立された会社に関与していたことが判明しているが、文章は「義兄の会社と習総書記は無関係だ」と主張。

さらに「習氏は反腐敗の会議で(幹部に)親族をしつけ、権力を使って私利をむさぼるなと指示した」「習氏の2012年の総書記就任前に(義兄の)会社は閉鎖されている」と指摘した。

中国政治に詳しい北京の大学教授は取材に「中国当局がいくら規制しても、中国エリート層の間ではパナマ文書と習氏親族らの問題は知れ渡っている。新たな情報が今後出てくる可能性もあり、党指導部が緊張しているのは確実だ」と解説した。【4月14日 時事】 
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「パナマ文書」には、習主席周辺だけでなく、習氏に対抗する勢力の関係者の名前も上がっていますので、対抗勢力がこれを権力闘争に利用するというのも難しいところがあるのではないでしょうか。
ただ、習主席を含めた政治指導者・党権力者への人々の不満が更に刺激される恐れがあります。

そうした危惧もあって、とても「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」といった雰囲気ではありません。

父・習仲勲元副首相は、異論を唱えても保護する法制の必要性を主張
習主席・共産党指導部が本心から「(批判を)われわれは歓迎し、真剣に研究して吸収しなければならない」と考えるようになったら、中国共産党にとっ画期的なことであり、党の未来も開けると思うのですが、なかなか・・・。

ちなみに、文化大革命で政治迫害を受けた習仲勲元副首相(習主席の父親)は、異論を唱えても保護する法制の必要性を訴えたそうです。

****親が目指した法律****
「『異論保護法』制定に関する提案」。
北京理工大学の胡星斗教授は2月13日、インターネット上でこう題した文章を発表した。

習主席の父親で、文革などの中で毛沢東から政治迫害を受けた習仲勲元副首相は、約8年も独房生活を送った。名誉回復されて全人代常務副委員長になった1980年代、「異論保護法」の制定を検討した。

その事実を詳細に報じた改革志向の中国月刊誌「炎黄春秋」(13年12月号)によると、習仲勲氏は当時、「今後、また毛主席のような強人が出現したらどうするのか」と懸念。「党の歴史から見て異論(の弾圧)によってもたらされた(社会の)災禍はとても大きい」と述べ、異論を唱えても保護する法制の必要性を訴えたという。

胡教授は取材に「文革をピークに非常に多くの人が一言で命を落とした。真実を話すことは許されず、暴力手段で人を黙らせた」と話した上で、「現在の中国の言論環境はひどいが、息子の習主席が父親の感じた使命を実現してほしい」と望んだ。【3月6日 時事】 
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当然に習主席は父親のこうした活動を熟知していると思いますが、どのように考えているのでしょうか?
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ブラジル  下院で弾劾決議承認 ルセフ大統領は“クーデター”として徹底抗戦の姿勢

2016-04-19 21:29:05 | ラテンアメリカ

(17日の下院の投票結果に喜ぶ大統領弾劾支持者(上)と意気消沈する大統領支持派(下)【4月18日 BBC】)

ルセフ氏「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う」】
政治的に追い詰められているブラジル・ルセフ大統領については、4月7日ブログ「ブラジル 加速するルセフ大統領弾劾手続き 右派クーデターとの指摘も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160407でも取り上げたところですが、周知のように、下院で弾劾決議が3分の2以上の賛成で承認され、今後は上院での審議が焦点となっています。

****ブラジル政権、かつてない窮地 下院が大統領弾劾を承認****
政府会計の粉飾に関わったとして批判されているブラジルのルセフ大統領について、同国の連邦下院議会は17日、弾劾(だんがい)すべきだとする決議を全議員の3分の2以上の賛成で承認した。

上院でも賛成意見の可決が有力視されており、ルセフ氏は180日間の職務停止処分に追い込まれる可能性が高い。政権はかつてない窮地に立たされた。

「弾劾はクーデターだ」「大統領は国を危機に陥れた責任がある」。首都ブラジリアの下院では、賛成派と反対派が激しく対立した。全513議席のうち賛成は367で、反対が137。棄権が7人いたほか、欠席も2人いた。怒号が飛び交うなか、法律が定める3分の2以上の可決条件を満たした。

今後、上院の過半数が賛成すれば、ルセフ氏は180日間の職務停止処分となる。地元メディアの調査では、上院は賛成派が過半数に達しており、停職処分に至る可能性が高い。上院の採決は5月初旬の見通し。

上院の通過後は上院に弾劾法廷が設置され、3分の2以上が有罪と判断すればルセフ氏は罷免(ひめん)される。【4月18日 朝日】
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弾劾決議は、ルセフ大統領が再選を目指していた2014年の選挙期間中に、景気後退の影響を隠すために財政赤字を隠し、貧困層への生活保護費や失業保険などを満額給付するため不足分を国営銀行に違法に肩代わりさせたとして、大統領を8年間、公職追放するよう求めています。

ルセフ大統領は、肩代わりは長年の慣習で問題ないと反論しています。

****ルセフ大統領、弾劾決議に憤り 「どの大統領もやった*****
ブラジルの連邦下院議会から弾劾(だんがい)賛成の決議を受けたルセフ大統領は18日、首都ブラジリアで記者会見し、「下院の決議はあまりに不当で憤りを覚える」と語った。

弾劾請求は上院でも可決の見通しだが、「私は負けない。戦い続ける」と述べ、辞任の考えはないと表明。改めて徹底抗戦の構えを明確に示した。

ルセフ氏は政府会計の粉飾に関わったとされ、下院の採決では弾劾に賛成した議員が3分の2を超えた。ルセフ氏は終始落ち着いた様子で会見に臨み、粉飾会計について「これまでの大統領もやってきたことだ」と指摘。「当時は違法な行為とは見なされなかったのに、私にだけは違う扱いがなされている」と反発した。【4月19日 朝日】
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若い頃は左翼ゲリラ活動に身を投じ、拷問も受けたという“革命の闘士”でもあるルセフ大統領は、「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う」と対決姿勢を鮮明にしています。

****ルセフ大統領「私は戦う」と対決姿勢 弾劾決議から一夜あけ会見 NY行きキャンセル***
ブラジル下院で大統領に対する弾劾決議が採択されたことを受け、ルセフ大統領は18日、首都ブラジリアで記者会見し、「私は何も悪いことはしていない」と反対派への対決姿勢を鮮明にした。

今後、審議は上院に移るが、ルセフ氏は、同国の軍事政権時代(1964〜85年)に左翼組織に身を投じた元活動家としての過去を引き合いに出して、「私の人生がいつもそうだったように、私は戦う。上院では自分自身を守るための機会が得られることを確信している」とも語った。

さらに、今後、暫定大統領に昇格する可能性のあるテメル副大統領を改めて非難し、「クーデター」を企てようと裏で手をひいているとも指摘した。

一方、ロイター通信は消息筋の話として、ルセフ大統領は今週、ニューヨークの国連で予定されていた気候変動関連の行事への参加を取りやめたと伝えた。国内にとどまり、弾劾手続きへの対応を取るためとみられる。【4/19日 産経】
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階層間の争い
大統領弾劾は国民を二分する様相も呈していますが、弾劾を支持する反ルセフ勢力は主に白人中間層に、ルセフ大統領を支持する勢力は貧困層に多く、そうした階層間の争いともなっています。

****囚人と泥棒が住む街」と揶揄し、反ルセフ派は弾劾決議に“カーニバル” 二分された国民・・・・首都ブラジリア・ルポ****
ブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤーが設計した首都ブラジリアはいま、「囚人と泥棒が住む街」と、多くの国民の間で揶揄(やゆ)されている。

囚人とは、国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職事件で訴追されたルラ前大統領のことで、泥棒は国会財政に損害を与えたとして弾劾手続きが進むルセフ大統領を指す。
経済不況の中、ブラジルは大衆の政治不信がかつてないほどの高まりを見せている。

17日の下院本会議。ルセフ氏に対する弾劾決議に必要な342人目の議員が「弾劾賛成」を表明した瞬間、首都ブラジリアの議会前に集まった反ルセフ派の人々は大歓声をあげた。

周囲にサンバの音楽が鳴り響き、まるでお祭り騒ぎ。ブラジルの国旗に身を包むなどした人々は踊りながら、弾劾手続きが一歩前に進んだことを大喜びした。

サンパウロから訪れた自営業、レナト・タマイオさん(48)は「ブラジル国民として現在の政治状況はとても恥ずかしい」と漏らした。昨年の経済成長率はマイナス3・7%。タマイオさんは8月のリオデジャネイロ五輪について「国民生活は苦しく、ブラジルは五輪を開催する余裕などない」とも語った。

反ルセフ派は、国家の危機はルラ時代から続く13年間の労働者党(PT)政権の失政が引き起こしたと強く感じている。地元に住むレオナルド・ジオルダーノさん(69)は「彼らは国家の財産に大きな損害を与えた。もうルセフもルラもうんざり。PTを首都から追い出さなくてはならない」と憤った。

一方、ブラジリアの議会前では警察や軍の厳重警戒がしかれ、大統領支持派の人々もデモを行った。レシフェ出身の自営業、イアデ・カリビさん((48)は「ルセフは富裕層と貧困層との格差をなくそうと尽くしてくれた。なぜ弾劾されなければならないのか」と語った。

弾劾をめぐる両派の溝は大きく、ルセフ大統領の問題は、五輪開催を前に国民を分断する事態を引き起こしている。【4月18日 産経】
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弾劾する側には“私腹を肥やした”汚職議員も
今回の大統領弾劾の盛り上がりの背景には、単に“政府会計の粉飾に関わった”ということにとどまらず、長引く不況・上昇する物価という経済状況悪化への責任追及、これまでも何回も取り上げた国営石油会社ペトロブラスを舞台とした巨大汚職に代表される政治への不信感、更には、ルラ前大統領やルセフ大統領の労働者党政権の行ってきた貧困者対策に対する中間層の反発などがあるように見えます。

政府会計の粉飾については、ルセフ大統領の言うように「これまでの大統領もやってきたことだ」としても、責任を免れるものではありません。

また、長年にわたり政界への不正資金ルートとなってきた国営石油会社ペトロブラスを舞台とした巨大汚職についても、事件当時にルセフ大統領は責任者としての立場にあり、これも責任を免れることはできません。

ただ、ルセフ氏自身が私腹を肥やしたというものではなく、政府会計粉飾にしても、汚職にしても、ブラジル政治の構造的な問題であり、ルセフ大統領の責任は、これを改めなかったというものです。

貧困層対策については、タイのタクシン派政権についても同様ですが、立場によって評価が分かれるところです。

一方、ルセフ大統領を糾弾する側の主要議員のなかに、ルセフ氏と同罪、あるいは文字通り私腹を肥やした汚職を問われている者が多く含まれることは、やや奇妙な構図となっています。

*****ルセフ大統領は政敵によるクーデターだと批判****
・・・・大統領が弾劾・罷免されると、テメル副大統領が暫定大統領となるが、テメル氏自身もルセフ氏と同じ国家会計粉飾の疑いで弾劾手続きの渦中にある。またルセフ氏は、テメル氏が「クーデター」の首謀者の一人だと避難している。

大統領はさらに、継承順位第2位のクニャ下院議長も、クーデターを企てる1人だと非難。クニャ氏も、数百万ドル分の収賄容疑で捜査対象となっている。

継承順位3位のカリェイロス上院議長も、国営石油大手ペトロブラスによるとされる巨額贈収賄事件で捜査されている。

テメル副大統領、クニャ下院議長、カリェイロス上院議長はいずれも、最大議席を持つブラジル民主運動党(PMDB)所属。PMDBは連立政権に参加していたが、弾劾手続きを支持するため3月に連立政権を離脱した。3人はいずれも収賄の疑いを否定している。【4月18日 BBC】
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ルセフ氏が罷免されれば規定によって新大統領に昇格するテメル副大統領ですが、誤ってか、あるいは意図的にか、弾劾手続き中に「勝利演説」の録音内容が流出するといったことも。

****ブラジル副大統領「勝利演説」流出 大統領弾劾手続き中****
ルセフ大統領に対する弾劾(だんがい)手続きが議会で進むブラジルで、副大統領による「勝利演説」の録音内容が流出した。副大統領は、ルセフ氏が罷免(ひめん)されれば規定によって新大統領に昇格する立場。

ルセフ氏は「陰謀を企てるリーダーが採決前に大統領就任を宣言している。陰謀をたくらむ人間の仮面が落ちた」と、いら立ちをあらわにしている。

11日の地元報道によると、流出したのは約14分間の音声。テメル副大統領自身の携帯電話から、弾劾に賛成する議員らに一斉送信された。「ブラジルが直面する深刻な問題に、私は立ち向かわなくてはいけない」などと発言し、貧困層向け支援の継続など「公約」も語っていた。

テメル氏は、連立与党を離脱したばかりのブラジル民主運動党(PMDB)所属。録音内容は下院で弾劾賛成が可決された際に読み上げる原稿だったとされ、テメル氏は「誤送信だった」と釈明した。ただ、下院での採決で弾劾賛成派を増やすために意図的に送ったとの見方もある。(後略)【4月13日 朝日】
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厳しい情勢のなかで、巻き返しをはかるルセフ大統領
上院の状況はルセフ大統領にとって厳しく、弾劾成立は不可避との見方が多いようです。
しかし、ルセフ氏側はルラ前大統領を中心に巻き返しをはかっており、“流動的”との見方も。

また、仮に弾劾が成立してテメル政権となっても、混乱は収まりそうにありません。

****ルセフ大統領、五輪目前に政治生命絶たれる危機 弾劾裁判前倒しも「最後まで戦う****
・・・・地元メディアによれば、すでに上院の過半数が弾劾法廷の設置を支持しており、5月中に弾劾裁判が開始される見通しが高まっている。

しかし、五輪開催を間近に控え、政治の混乱を解消するために、日程スケジュールを前倒しすることが調整されている。

弾劾が成立するためには、上院の3分の2以上の54人の議員の支持が必要だが、現時点では10人前後足りない。

ワグネル大統領府大統領室長は下院裁決後、「民主主義に対する脅威だ」として、上院での否決を目指すことを表明。今後、ルセフ派は、政界に影響力を持つルラ前大統領を中心に、中間派の政党を説得するなどして、巻き返すことが考えられる。

1992年に行われた、コロル元大統領の不正蓄財疑惑をめぐる弾劾裁判をめぐっては、コロル氏は裁判の結果をまたず、自ら辞任した。このときの下院採決は、441票の賛成に対して38票の反対と圧倒的な差が開いており、コロル氏は議会に対して、影響力を失っていた背景がある。

しかし、今回のルセフ氏の弾劾決議では賛成367票に対して、反対は137票。ルセフ氏の政党・労働者党(PT)を中心に、他政党や議員が「(反ルセフ派による)クーデターは許さない」と抵抗した。

各都市で行われたデモ集会でも、ルセフ派の人々が集団で参加。ある支持者は「今後、各方面でストライキをかけるなどして、戦いをしかける」と話した。

テメル政権は支持基盤が弱く、今回、弾劾に賛成した政党でも「テメル政権とは組まない」と表明している党もある。弾劾裁判が終わったとしても、政治的な混乱は2018年に予定されている大統領選挙まで続くとの専門家の指摘すら出ている。【4月18日 産経】
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フランス  ブルカ、黒いロングスカート、スカーフ、おまけにゲイの話

2016-04-18 22:49:39 | 欧州情勢

(中国通販サイトAliExpress(アリエクスプレス)のイスラムファッション(http://ja.aliexpress.com/w/wholesale-muslim-clothing-women.html
個人的には、こうしたスカーフ(ヒジャブ)には抵抗感はありません。ただ、顔全体を覆うブルカや目だけを出したニカブとなると、誰だか全くわからず、コミュニケーションも取れません。)

【「ブルカ禁止法」制定後も揉め事が
欧州では国内イスラム教徒の増加、テロの脅威及び文化的摩擦の表面化などを受けて、イスラム教徒との共存が大きな社会問題となっていますが、フランス、ベルギー、オランダ、スペインでは、イスラム教徒女性が着用する、顔をベールで覆い隠すような「ブルカ」を公共の場では禁止する法律が制定されています。

****違反者には罰金2万円****
「ブルカ禁止法」は、2010年にニコラ・サルコジ前大統領の中道右派政権が成立させ、翌11年に施行された法律。社会党の現フランソワ・オランド政権も同法を全面的に支持している。

同法では公共の場で顔を全て隠すベールを着用することを禁じており、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金が科される。

だが違反者の取り締まりや逮捕をめぐってもめる事例が相次いでおり、パリ郊外でも今年、取り締まりがきっかけで暴動が起きている。【2013年11月28日 AFP】
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フランス人の大学院生の女性が「ブルカ禁止法」は信教の自由、表現の自由、集会の自由を侵害するものであるとして、フランス政府を相手取り欧州人権裁判所に訴えていた案件で2013年11月に裁判が始まり、2014年7月、欧州人権裁判所はブルカ禁止法による顔全体を覆い隠すベールの着用禁止は、欧州人権条約が保護する思想・良心・信教の自由を侵害しないとの判断を下したことについては、2014年7月10日ブログ“欧州人権裁判所 フランスの「ブルカ禁止法」を支持”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140710で取り上げました。

訴えた女性は、男性に強制されてブルカを着用しているわけではなく、女性の自発的な選択であり、治安上の理由で必要なときは脱いでも構わないとしていましたが、欧州人権裁の判事らは、ブルカ禁止法は対象となっている衣服の宗教的意味合いにではなく、こうした衣服が顔面を覆い隠すという事実にのみ基づいていると指摘した上で、同法はさまざまな人が共に生きる社会の一体性の保持を理由に正当化され得るとの判決を下しました。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「国家は人々に何を着るべきか指示すべきでなく、個人の選択の自由を認めるべきだ」と批判しています。

“ブルカ禁止法は対象となっている衣服の宗教的意味合いにではなく・・・”との司法判断ですが、フランスの場合は、歴史的経緯から政教分離の原則が強く意識されており、イスラム教のベールだけでなく、ユダヤ教のキッパ(男性用の帽子)、キリスト教の大きな十字架などを学校で着用することも全面的に禁止されています。「ブルカ禁止法」がフランス国内で支持されたのは、こうした世俗主義的な社会通念も背景にあるものと思われます。

個人的には、フランス政府が主張すように、ブルカで顔を覆い隠す行為は治安維持や、何よりも個人間のつながり・コミュニケーションを基礎とする社会にあって、人々の共生を難しくする恐れがあるという点で、ブルカ禁止はやむを得ないものと考えています。(その流れで、日本では最近大きなマスクで顔を覆う女性が増えていますが、あまり好ましいものには思えません。顔を隠す女性は気楽だろうとは思いますが)

ただ、現実問題としては、こうした禁止法が敢えて各国で持ち出される背景には、イスラム教徒全体への反感・嫌悪があるようにも思え、その点は重大な問題であるようにも思えます。

その後も、こうしたブルカやスカーフをめぐる話題は後を絶ちません。

****仏パリ国立オペラ、ベール着用の観客女性を退席させる****
フランスのパリ国立オペラは(2014年10月)19日、劇場の最前列でベールで頭髪を覆って歌劇を観賞していた女性を退席させたことを明らかにした。

仏政府は2011年、公共の場で顔全体を覆い隠すベールなどの着用を禁じた、いわゆる「ブルカ禁止法」を施行している。

パリ国立オペラのジャンフィリップ・ティエレ氏はAFPに対し、歌劇場オペラ・バスティーユでの歌劇「椿姫」の公演でベール着用していた女性を退席させたことを認め、先の報道内容を事実だと認めた。

ティエレ氏の説明によると、問題の女性は10月3日の公演の際に劇場最前列中央の席に座っていた。頭髪をスカーフで、顔の下半分をベールで覆っており、その様子はモニター画面でも確認できたという。

ティエレ氏は、この女性について第2幕に報告を受け、「何人かの出演者から、何かしらの措置が取られない限りは歌いたくないと言われた」という。

仏メトロニュースによれば、この女性と、女性の連れは湾岸諸国からの観光客で、幕あいに劇場スタッフから退席を求められたという。

一方、ティエレ氏は「女性に対し、フランスではベール着用が禁止されていることを説明した上で、ベールを取って顔を見せるか、退席するかを求めた。男性が女性に立つようにうながし、2人は出て行った」と説明。

「退席するよう求めるのはいかなるときでもいいことではない。だが法律についての誤解があった。女性は法を尊重するか、退席するかを選ばなければならなかった」と述べた。

フランスでは2011年に、公共の場で顔全体を覆い隠すベールの着用を禁じ、違反者には最大150ユーロ(約2万円)の罰金を科す法律が施行された。

仏文化省は、劇場や博物館をはじめとする公共施設に対し、ベール着用に関する規則について同省の指示に従うよう通達する法案を起草中だと発表した。【2014年10月20日 AFP】
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日本では先日、某女性タレントが観劇の際に何度も注意されたにもかかわらずキャスケット帽を脱がず、突然客席を後にした・・・という話がありましたが、あれは単なるマナーの問題であり、上記ベール問題とはまったく関係ありません。念のため。

黒いロングスカートは露骨に宗教的?】
先述のように、フランスでは学校においては、ブルカに限らず宗教色を出すことが禁じられています。
黒いロングスカートも問題となっています。

****黒ロングスカートは宗教的?イスラム教女子生徒が出席禁止に、仏****
フランス北東部の学校で、黒いロングスカートを着て登校したイスラム教徒の女子生徒(15)が「宗教性を誇示した服装」だとして授業への出席を2度にわたって禁止され、非難の声が起きている。

この女子生徒は今月、仏北東部シャルルビルメジエールにある学校で、校長から授業への出席を禁止された。女子生徒は体の線を隠したいイスラム教徒の女性が一般的に着用する黒い長いスカートをはいていたが、報道によると、このスカートが校長から「露骨に」宗教的だとみなされたという。

世俗性を厳格に重んじるフランスの法律では、学校内で特定の宗教への信仰が明らかな格好をすることを禁じている。

地元教育当局のパトリス・デュト氏は28日、AFPの取材に「女子生徒は排除されたわけではない。宗教色のない服装に着替えてくるよう言われたが、父親が学校に戻らせなかったようだ」と説明した。この女子生徒は、いつも学校の敷地内に入る前にベールを外していたという。

フランスでは、学校の世俗性を定めた2004年施行の法律により、イスラム教のベールやユダヤ教のキッパ(男性用の帽子)、キリスト教の大きな十字架などを教育施設内で着用することは全面的に禁止されている。ただし「宗教性を控えめに表すもの」は認められる。

女子生徒は仏日刊紙アルデネに対し「ありふれた、とてもシンプルなスカートで、これといって目立つ特徴もない。宗教的な意味なんて全然ない」と語った。

しかし、地元教育当局は声明で、こうしたスカートを着用することが組織的な「挑発」になる可能性もあると指摘。複数の生徒たちによる抗議行動として行われれば、その後に「ベールをかぶるなどのさらに目につく行動」が続きかねないとして、「教育現場における世俗性の枠組みをしっかりと再確認し、確実に行う必要がある」と述べている。【2015年4月30日 AFP】
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黒いロングスカートは「宗教性を控えめに表すもの」の類にも思えますが、学校側は、これを認めると次はベールなどが・・・と警戒しているようです。

イスラム教徒が多いフランスでは、ブランド大手もムスリム女性をターゲットにしたイスラムファッションに乗り出しているようですが、こうした動きを批判した女性閣僚に不適切発言も。

****仏閣僚、ベール着用女性を「奴隷制支持のネグロ」に例え批判****
フランスのローランス・ロシニョル家族担当相が30日、イスラム教のベールを着用する女性たちを「奴隷制を支持していたネグロ(黒人)」に例え、ソーシャルメディア上などで批判を浴びている。

フランスは欧州で最大のイスラム教徒人口を持つ国だが、公共の場所で顔を覆うベールの着用は禁止されている。だが仏高級ブランドグループ、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)傘下の「DKNY」を筆頭に、仏ファッションブランド大手は近年、イスラム教徒のスタイルを意識したファッションを次々と発表。

今年1月には伊ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」が、欧米大手ブランドとしては初めて、イスラム市場に特化したファッションを立ち上げた。

こうした流れについて、ファッション界の大御所、ピエール・ベルジェ氏(85)は30日、「女性の奴隷化」に貢献していると批判。

ロシニョル家族担当相の発言は、それに続く形で、仏ニュース専門テレビBFMTVおよびラジオ・モンテカルロ(RMC)の取材に対して出された。

女性権利問題も担当するロシニョル氏は自身の発言について、奴隷制廃止論を唱えた仏思想家モンテスキューの論文「ネグロの奴隷化について」を引用したものだと釈明。

AFPの取材に対し、「ネグロ」という言葉を用いたのは誤りだったとして謝罪したものの、発言を撤回する意思はないと語った。【3月31日 AFP】
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イランとの関係改善で表面化したCAのスカーフ問題 更には「ゲイ」はどうする?】
イランとの関係改善が進むなかで、フランス航空会社エールフランスが女性客室乗務員に現地でのスカーフ着用を指示したことが問題に。

****スカーフ着用指示に乗務員反発、イラン便再開のエールフランス****
仏航空大手エールフランスが17日のイラン首都テヘランへの再就航を前に、女性客室乗務員に現地でのスカーフ着用を指示したことを受けて、客室乗務員らの間にこれを拒否する動きが広がっている。SNPNC(フランス全国客室乗務員労働組合)幹部が2日、AFPに語った。

同幹部によると、エールフランスの経営陣は、女性客室乗務員に「飛行中はスラックスにゆったりしたジャケット、機内を離れる際には髪を覆うスカーフ」の着用を求める文書を従業員ら送付。この服装規定に従わなかった場合は「罰則」を科す可能性も指摘したという。

会社側はAFPに対し、全ての乗務員は「他の外国人の乗客と同様に飛行先の国々の法律を守る義務がある」との考えを示した上で、「イランの法律は全ての女性に、公の場所で髪を覆うことを義務づけている」と述べた。

組合側は、スカーフ着用を義務ではなく自主的な措置とするよう求めている。【4月3日 AFP】
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この問題では結局、「スカーフ着用に応じられないCAは乗務を外れてもいい」と会社側がおれたようですが、イランでは死刑にもなりかねない同性死者はどうするんだという別の問題も。

****同性愛の客室乗務員がなぜ、同性愛は死刑のイランに飛ばなければならないのか****
エールフランスは先週末、週3回のパリ−テヘラン便の運航を再開した。イランの核開発に対する制裁として停止した2008年以来。1月の制裁解除で実現した。

だが、誰もがイランに行きたいわけではない。エールフランスのゲイの客室搭乗員(CA)はテヘラン便での勤務を拒否している。イランでは、同性愛は死刑にも値する罪。イランに飛ぶことを拒否する権利をゲイに認めよ、という呼びかけには2万6000件以上の署名が集まっている。

「行けば弾圧されるとわかっている国に行かされるなんて考えられない」と、署名を呼び掛けた自称ミスター・ロウレントは言う。

エールフランスでは今月初め、イランに付いたら頭髪をスカーフで覆わなければならない、などの規定に反発した女性CAがテヘラン行きを拒否。会社側はつい先週、乗務を外れてもいいと発表したばかり。

スカーフが搭乗拒否の理由になるなら、死刑になりかねない同性愛者は当然、飛ばなくてもよさそうだが、乗務員組合が出した結論はそうではない。

イランに行きたくないLGBT(性的少数者)の問題は理解するが、性的傾向や肌の色、宗教によってフライトスケジュールを変えることは受け入れられないと、組合幹部は本誌に語った。

ゲイは女性より恵まれている?
「スカーフ問題で経営側と議論したときは、すべてのクルーに等しくイラン行きを拒否する権利を与えるよう要求した」と、組合専務理事のジャン・マルク・カロッシは言う。「性的志向の問題はこれとはまったく別の話だ」

ゲイはカミングアウトするかしないか考える余地がある分、女性より恵まれているとカロッシは言う。
「女性はテヘランに着けばスカーフを強要される。ゲイの人は、黙っていればわからない」

イランと欧米の関係が改善し、経済制裁は緩和されても、イランの人権状況が改善したわけではない。先週末には5人の死刑囚が絞首刑になったし、昨年は麻薬絡みで66人が絞首刑になっている。うち4人は未成年だった。

エールフランスとKLMオランダ航空の親会社であるエールフランス/KLMのLGBT労働組合も、ミスター・ロウレントの嘆願には異議があるという。

セバスチャン・ギドン幹事長によれば、エールフランス/KLMとその子会社は、LGBTの権利などなく「下手をすると死刑にされかねない」多くの国へも行かなければならない。「イランの人権状況は酷いもので衝撃的だが、それでも組合としては性的志向に基づく乗務員リストは作りたくない」

ミスター・ロウレントはらに多くの署名を集め続けるしかないようだ。【4月18日 Newsweek】
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組合側は、ゲイなど性的志向によって差別されない職場を実現するのが本筋であり、性的志向によって労働条件が変わるような事例はつくりたくない・・・という話でしょうか。

「ゲイの人は、黙っていればわからない」とは言っても、死刑になるかも・・・という話になると大変なストレスです。
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EU  イギリス離脱には耐えられても、フランス・ドイツで反EU感情が高まると・・・

2016-04-17 22:43:41 | 欧州情勢

(トルコ・エルドアン大統領風刺詩の作者ヤン・ベーマーマン氏【4月15日 ロイター】 ドイツ国民の多くは「表現の自由」を支持していますが、かなりきわどい内容で、ヘイト・スピーチに近いものもあるとの意見も。)

熊本地震の鎮静化・復旧を願って
私自身は鹿児島県薩摩川内市に住んでいますが、このところ熊本の地震で落ち着きません。益城町に隣接する地域に親戚がいるのですが、大変な状況のようです。

川内の方も、もちろん震源近くほどではないものの、強い地震のときは夜中に飛び起きて全身が固まるぐらいには揺れます。それ以外でも、頻繁にぐらぐら揺れています。

国内で唯一稼働している川内原発は今のところは支障ないようです。

気になるのは、一連の地震のもとになっている活断層のひとつ、日奈久断層帯は比較的鹿児島に近く、先ほどのTVニュースでは「気象庁は日奈久断層帯の南西側で小規模な地震が起き始めていることに注目している。今後大きな地震につながる危険も・・・」なんて、不気味なことを言っていました。比較的県境に近い日奈久断層帯で強い地震が起きると、川内の揺れも今までのレベルではすみません。

川内は、1997年の鹿児島県北西部地震で震度6弱と5強の揺れを経験しました。あんな怖い思いは二度とご免ですが・・・・。
今日まで知りませんでしたが、文部科学省が公表している主要断層の長期評価によると、全国187断層のうち、30年以内の発生確率が最大16%と全国で最も高いのが、日奈久断層帯の八代海区間だとか。困った・・・。

生活にも支障が出ています。山口に出かける用事があったのですが、新幹線・高速バスの運行が止まり、中止しました。こちらに来る予定の知人もいたのですが、それもキャンセルになりました。

物流・生産が止まっている関係で、スーパーでもパンなどの商品がめっきり少なくなったように見えます。
観光業関係者もキャンセルラッシュで大変なようです。

なんだかんだ言いつつも、被災地の方々の苦労・心痛に比べれば取るに足りないことです。一日も早い事態の鎮静化・復旧を願います。

イギリス:EU離脱を問う国民投票に向けて法定キャンペーン期間開始
さて、イギリスのEU離脱をめぐる話題です。国民投票に向けた取り組みが本格化しています。

****残る?去る?悩める英 国民投票、運動期間入り****
英国は欧州連合(EU)から離脱すべきか――。6月23日の国民投票まで10週間となった15日、公費も投じられる法定キャンペーン期間が始まった。

世論は残留と離脱が拮抗(きっこう)しており、予断を許さない。英国民の選択の行方を、他のEU加盟国も注視している。

英国の選挙管理委員会は離脱派、残留派一つずつを公式団体に選んだ。2団体はビラの全戸配布やテレビの放映枠も認められる。

 ■与野党が混在
いずれの派も、与野党が入り交じる。残留派の「ブリテン・ストロンガー・イン・ヨーロッパ(英国は欧州にいてこそより強くなれる)」には保守党のキャメロン首相と最大野党・労働党のコービン党首が並ぶ。

一方、離脱派の「ボート・リーブ(離脱に投票を)」には、英国独立党(UKIP)のファラージ党首と保守党議員でもあるロンドン市長のジョンソン氏やゴブ司法相が名を連ねる。(中略)

世論は二分されている。英タイムズ紙によると12日現在、離脱と残留の支持率はともに39%。17%が態度を決めていないと答えた。

離脱派は、キャンペーンをエリート政治家や国際企業など支配層に対する抗議運動と位置づけ、支持拡大を狙う。「パナマ文書」絡みで強い批判を浴びたキャメロン首相には脅威だ。

英国がEU離脱を選べば影響は各方面に及ぶ。
英国の通貨ポンドは、国民投票の日程が発表された直後の2月下旬、米ドルに対して7年ぶりの安値をつけた。離脱で英経済の成長が鈍化するとの懸念から、投資を先送りする動きも表れている。

欧州拠点をロンドンに置く国際企業が、拠点を移す可能性もある。離脱なら2020年までに金融部門で最大10万の雇用が失われるとの推計もある。

14年の住民投票で独立が否決された北部スコットランドは、EU残留派が多い。英国全体が離脱を選べば、EU残留を求め独立運動が再燃するとみられている。

 ■他国に波及も
EUも、英国の離脱で発言力が弱まることを懸念する。米中、米ロのはざまでEUはまとまって意思を示し、安全保障や環境の分野で存在感を示してきた。米国と関係が深く、EU内でドイツに次ぐ経済規模の英国が抜ければ、影響力低下は免れない。

またEU各国では、債務危機や難民危機を受けて、EUに懐疑的な勢力が台頭している。英国が離脱すれば、懐疑派を勢いづかせ、遠心力が強まりかねない。

ロンドン大経済政治学院のサイモン・ヒックス教授(政治学)は、人々の判断の決め手を「離脱した場合の経済停滞や、残留して移民流入が続く場合のリスクの評価だ」と分析した。【4月16日 朝日】
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「残留支持派」にとっては、状況は好ましくありません。

EU域内の反EU感情を測る目安の一つとしても注目されていた、オランダで6日に行われたEUとウクライナの連合協定の是非を問う国民投票で、反対が賛成を大きく上回りました。

****国民投票でEU懐疑派「勝利」=対ウクライナ協定、反対多数―オランダ****
オランダで6日行われた欧州連合(EU)とウクライナの「連合協定」の是非を問う国民投票は、即日開票され、反対票が多数を占めた。国民投票はEU統合の深化が実質的な争点で、統合に反対するEU懐疑派の主張が受け入れられた形だ。

EU内では、英国が6月にEU離脱の是非を問う国民投票実施を控えており、オランダでの結果が微妙な影響を与える可能性がある。

オランダ放送協会(NOS)によると、反対票が61.1%と賛成票の38.1%を大きく上回った。投票率は32.2%となり、成立に必要な最低基準の30%を超えた。

協定は政治・経済関係の強化に向けてEUとウクライナが署名。オランダ議会はEU28カ国で唯一、正式に批准していなかった。国民投票の結果に法的拘束力はないが、反対票が多数を占めたことで、議会での早期批准の可能性は遠のいた。【4月7日 時事】 
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「残留支持派」にとって一番頭が痛いのは、国民への残留支持の呼びかけで中心に位置するキャメロン首相に「パナマ文書」問題が起きて、批判が高まっていることでしょう。

****<英国>国民投票、15日から運動開始…EU離脱の是非問う****
・・・・キャメロン首相はEU残留を主導しているが、租税回避地(タックスヘイブン)への投資で利益を得ていた問題が明るみに出たことで、国民投票の行方にも影響を及ぼしそうだ。

国民投票の主要な争点は、東欧などから急増するEU内の移民問題などだったが、租税回避地への投資の問題を巡り、国民の間にキャメロン氏に対する不信が芽生え、残留運動に影を落としている。

調査会社「ICM」の世論調査では、問題発覚の前後で、離脱派が残留派を上回り、形勢が逆転した。問題が発覚した後の8〜10日の調査では、離脱派は45%と先月末に比べ2ポイント上昇。一方、残留派は42%と先月末に比べ3ポイント減少した。

残留を主導するキャメロン氏の党内での求心力にも陰りが見える。英BBCの先月の調査によると、与党・保守党内の下院議員330人中130人が離脱派だ。英メディアは「複数の残留派の保守党議員が、この問題で離脱派が勢いづくと懸念している」と伝えた。

EU政策などを調査するシンクタンク「オープン・ヨーロッパ」の政治アナリスト、パウエル・スウェドリキ氏は「残留派はキャメロン氏に対する国民の信頼を支柱にしており、今回の事態は残留派へのダメージになる」と取材に答えた。

一方、当初は態度表明にやや慎重だった経済界からは、離脱による悪影響を懸念する声が出始めている。主要企業で作る英産業連盟(CBI)は3月21日、EUを離脱した場合、2020年までに英国経済全体で国内総生産(GDP)5%分の損失が発生し、95万人の雇用が失われるとする試算を発表。フェアバーン事務局長は「国民の生活水準、雇用、成長への大きな打撃となる」と警告した。

外部から警告する声もある。国際通貨基金(IMF)は12日に発表した世界経済見通しの中で、英国の国民投票について「世界経済の潜在的リスク」と指摘。離脱した場合は「貿易関係を損ない、地域と世界に深刻なダメージを与える」と異例の警告を行った。【4月14日 毎日】
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フランス:大統領を視野に入れ始めたマリーヌ・ルペン氏 不人気なオランド大統領
どういう結果になるかはわかりませんが、仮にEU離脱の結果となった場合、イギリス自身はともかく、EU側は、大きく揺らぐものの致命的なダメージまでには至らないのではないでしょうか。

これまでのEUを支え、牽引してきたのはフランス・ドイツであり、イギリスは常にEUとは距離を保ってきていますので。ときには傍観者・攪乱者として。

それだけに、イギリスが離脱しても持ちこたえるにしても、独仏で反EU感情が支配的になると、EUは実質的に機能を停止します。

フランスでは、反EUを掲げる右翼、マリーヌ・ルペン氏が次期大統領を視野に入れるほどに勢力を拡大しています。一方のオランド大統領は相変わらずの不人気が続いています。

****続投の是非、年末に判断=高失業率で不人気―仏大統領****
フランスのオランド大統領は14日、地元テレビに出演し、2017年の次期大統領選に出馬するかどうかについて「年末に判断する」と述べ、自身に対する国民の評価次第では続投を断念する可能性もあるとの考えを示した。

フランスの失業率は今も10%超の高止まりが続き、大統領が悲願としてきた失業問題の改善は果たせていない。最近の世論調査ではオランド氏の実績を「評価しない」と答えた人が87%を占めるなど、不人気ぶりに拍車が掛かっている。【4月15日 時事】
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かつては、マリーヌ・ルペン氏は第1回投票で勝利することはできても、フランス国民に根強い反右翼感情によって、決選投票に勝利することは無理だろうと見られていましたが、昨今の情勢はあながちそうも言いきれない感が出始めています。

ドイツ:EU推進のエンジン、メルケル首相が窮地に
先ほど“これまでのEUを支え、牽引してきたのはフランス・ドイツであり”と言いましたが、もっと端的に言えば、最近のEUをリードしてきたのはドイツ・メルケル首相です。

ドイツ国内でも確固たる支持を誇っていたメルケル首相ですが、欧州に押し寄せる難民問題で寛容な姿勢をとってきたことで、政治的に厳しい状況に追い込まれています。

メルケル首相が、反移民・反EU感情のドイツ国内で高まりで退陣を余儀なくされる事態ともなれば、EUはエンジンを失い漂流することにもなります。

****ドイツ国民がEUに見切りを付けたら****
財政難の国があれば支援してやり、難民がいれば受け入れてやる。そんなドイツ任せのEUでは、いずれ立ち行かなくなる。

先月行われたドイツの地方選挙で、国民はメルケル首相率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)にはっきりと「ノー」を突き付けた。EUは難民問題を解決できないと考える国民が増え、ドイツに孤立主義や単独行動主義を求める声が高まっている証拠だ。極右勢力も勢いを増している。

由々しき事態だが、驚くほどのことでもない。共通の課題に一致団結して当たるという点で、EUは失敗続きなのだから。

EU諸国とドイツの足並みの乱れは顕著で、多くの国が難民の受け入れを拒んでいる。難民流人の抑制を目指し、EUとトルコは「難民交換」の枠組みに合意した。だが、ドイツ人の大半は、他のEU諸国が難民拒否の姿勢を変えると思っていない。

だからドイツ人は怒っている。キプロスやギリシヤ、アイルランド、ポルトガル、スペインを救済するときも、ドイツは最大の金銭的負担を背負わされてきた。またか、という思いだろう。

しかも今は、イギリスがEUを離脱する可能性が高まっている。
これではドイツ人が、EU離れこそベストな選択と思いたくなるのも無理はない。

もちろん、難民問題をめぐる他国との亀裂を利用している政治家もいるだろう。以前から反対している「欧州銀行同盟」などの推進を阻止する口実にしたいのだ。

だが反EU派の主張は、これまで親EU派だった国民の間にも浸透しつつある。要するにEUは「ドイツの金目当て」なのだろうという思いが、民意になりつつある。(中略)

難民問題は経済政策の優先順位を覆した。インフラ投資や教育投資を大幅に増やすという連立政権の公約は、もはやむなしく響くのみ。税制や家族支援政策などの改革も先送りだ。(中略)

難民がドイツに1人、また1人と到着するたびに、総選挙が予定される来年までの「財政均衡」の実現は遠のいていく。

公共投資はさらに減りそうだ。社会支出の増加や最低賃金の引き上げもある。恩恵を受ける国民もいるだろうが、難民の職探しはますます難しくなるだろう。急を要する改革が滞れば、経済成長の持続も怪しくなる。

EU各国の首脳が難民問題で応分の負担を拒み、共通の解決策に合意しなければ不利を被るのは難民だけではない。EUの未来にもダメージがもたらされる。ドイツの国内改革が遅れ、EU諸国との連携は薄まると考えられるからだ。

このままではいけない。このままでは、ドイツで台頭しつつある偏狭なナショナリズムが欧州全域に広がってしまう。【4月19日号 Newsweek日本版】
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ここにきて、更にメルケル首相の足を引っ張る厄介な問題が。

****独作家がトルコ大統領風刺 メルケル氏、司法手続き容認****
ドイツの男性風刺作家が、トルコのエルドアン大統領を過激な表現で風刺し、難民問題でスクラムを組む両国関係に波紋が広がっている。(中略)

コメディアンで風刺作家のヤン・ベーマーマン氏(35)が3月末、公共テレビの番組で披露した詩の中で、エルドアン氏について人種差別や性的に過激な表現で中傷を繰り返した。

これに対し、トルコ政府は「侮辱的な詩だ」とドイツ政府に抗議。ドイツの検察当局に国家元首を侮辱した容疑で告訴した。

独DPA通信によるとドイツ刑法では、国家元首などへの侮辱があったと外国政府から訴えがあった場合、検察の捜査開始には独政府の許可が必要となる。起訴されて有罪判決を受ければ、3年以下の懲役刑などが科せられるという。

独シュピーゲル誌は、ベーマーマン氏が首相府長官宛てに「風刺の限界を試すことが許される国に住みたいと願う」などとメッセージを送ったと伝えた。

ドイツでは、エルドアン政権が表現の自由などを侵害しているとの声が高まっていた。騒動を受けて、芸術家たちがべーマーマン氏への支持を表明。世論調査では82%が同氏を「訴追すべきでない」と答えた。

メルケル氏は苦しい立場だ。ドイツには中東などから大量の難民が流入しており、難民の流入抑制策でトルコは欧州連合(EU)と合意したばかり。関係悪化は避けたいのが本音だ。

難しい判断を迫られたメルケル氏は、15日の会見で「法治国家において表現や言論の自由に関する問題は、政府ではなく検察や裁判所が判断するべきだ」と述べ、司法に判断をゆだねることに理解を求めた。

一方、シュタインマイヤー外相とマース法相は共同声明で「司法手続きを許可すべきでないと考えていた」とし、政権内で意見対立があったことを示唆した。【4月16日 朝日】
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トルコ・エルドアン大統領の強権姿勢・表現の自由への圧力についてはこれまでも取り上げてきたところではありますが、メルケル首相としてはトルコの協力で難民問題を乗り切りたいところです。

“司法手続きを検察当局にゆだねる方針”とは言いつつも、「危機解決のため、摩擦を避けたという致命的な印象を与えた」(独メディア)というのは否定できません。

欧州的価値観と現実の政治課題の板挟みに苦しむメルケル首相です。エルドアン大統領も随分と頑なな姿勢です。思惑があってのことでしょうか。

こうしたこともあって難民問題への対応に失敗すれば、ドイツ国内での反EU感情は更に高まります。そのときEUは・・・・?
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イタリア  短命内閣・きめられない政治の元凶とも指摘される上院の改革で、改憲を問う国民投票へ

2016-04-16 22:29:14 | 欧州情勢

(イタリア上院 【2015年 10月 15日 ロイター】)

【「上院は下院と一致するなら無用であり、下院に反対するなら有害である」か?】
日本をはじめ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダなど先進国の多くは二院制を採用しているます。

一般的には、二院制(両院制)の意義は「多角的な民意の反映」にあるとされています。

****多様な民意の反映と下院の過誤の修正****
二度の審議を行うことで、下院の決定に過誤があった際に改めることが期待されている。すなわち、司法における三審制と同様、人間が過ちを犯しうることから慎重に手続きを進めることを意図しているものである。

したがって、選挙方法および選挙時期を下院と異なるものにすることが望まれる。例えば参議院の選挙制度は当初衆議院の中選挙区制との差別化を図り、全国区と地方区に分けた選挙制度をとっていた。

「両院制」の意義は「多角的な民意の反映」というのが本来の趣旨である。
これは双方異なった方法で選出されて構成される議院が存在することによって、様々な角度からの意見が反映されていくことでより深い議論が出来るというものである。

加えて、下院のみでは代表され得ない国民の意思を国政に反映させ、国民の意思を問う回数を増やすという意義もあるとされる。

下院に相当する議院は基本的には、社会の多勢を占める中産階級の利害を代表している。
政治が異なる利害の調節を行なう作業である以上、中産階級で代表されるものとは別の視点からの利害を何らかの形で反映するメカニズムが存在しなければならない。

それは少数民族であったり、各地方の利害であったりする。社会が複数の民族から構成される場合や、異なる言語集団から構成される場合は特に重要となる。

現代においては、両院の力が対等であることは少ない。立法に関しては下院に優越がある場合が多く、上院に法案を否決する権利が無い、あるいは制限されていることが多い。

行政に関しては、予算や条約の承認などで、どちらかの院にのみ決定権を与えている国が多い。両院の異なる選出メカニズムをふまえ、その民意を適切に反映させるために役割分担がなされるのである。【ウィキペディア】
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ただ、現実問題としては、「ねじれ」などで上院と下院の意見が異なる場合、議会決定が極端に遅延して「決められない政治」になってしまったり、逆に、上院が下院と全く同じ傾向を持つ場合は、その存在意義が問われたすることにもなります。

****両院制の課題****
フランスの政治家シエイエスは「上院は下院と一致するなら無用であり、下院に反対するなら有害である」と述べている。

ただし、シエイエスらがフランス革命期に作った一院制の議会である国民公会は暴走を起こし、政敵である少数派を次々に死刑にする恐怖政治を引き起こしている。

恐怖政治はテルミドールのクーデターにより終結させられ、一院制の国民公会はわずか3年でなくなり、その後できた共和暦3年憲法では、恐怖政治への反省から、二院制の議会が作られている。

日本の参議院については衆議院と全く同じ意思を示すと「カーボンコピー」と揶揄され、衆議院と正反対の意思を示すと「決められない政治」と言われる難しい存在であるという指摘がある【ウィキペディア】
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上院は短命内閣・政治不安定・きめられない政治の元凶
こうした課題は日本でも常々問題にされて、改革(特に「カーボンコピー」化した参議院の改革)が議論されるところですが、イタリアでも同じような問題があります。

特に、イタリアの場合は上院は下院と全く対等の権利を持ち、首相が決まるには両院の信任が必要で、上院にも政府の不信任を決議する権利があります。

“ (イタリアは)かつては「おはよう、今日の総理は誰?」というジョークが広められたほど、首相の交代が頻繁な国として名高く、今もその傾向はおさまっていないが、1990年1月-2013年4月現在の間での首相は9人(延べ13人)と、日本の15人(延べ16人)に抜かれている。”【ウィキペディア】といった現象の背景に、こうした二院制の問題があるとされています。

このため、以前から上院改革が議論されてきましたが、2013年2月の総選挙では上下両院の選挙制度の違いもあって、下院で過半数を制した中道左派が上院では過半数を得られず、約2か月組閣ができない政治空白を生むことになり、改めて二院制の問題が意識されることにもなりました。

****イタリア、改憲へ機運 新政権、ねじれ克服狙う 二院制見直し・大統領公選制審議へ****
イタリアで憲法改正を見据えた国会の議論が29日に始まる。最大の狙いは「ねじれ国会」が生じやすい今の仕組みを変え、政治態勢を安定させることだ。4月に発足した新政権は、長く対立してきた中道左派と中道右派による大連立で、実現への機運は高まっている。

イタリアでは「安定した政治」が長年の課題だ。

戦後は、平均寿命が1年に満たない「短命内閣」の時期が長く続いた。1990年代からはベルルスコーニ氏率いる中道右派と、旧共産党が軸の中道左派の2大会派が競う構図だが、比較的短い期間での政権交代が続いている。

国会では、ともに比例代表制の上院(定数315)と下院(同630)が、全く対等の権利を持つ。首相が決まるには両院の信任が必要で、上院にも政府の不信任を決議する権利がある。

このため、政党や政党連合は両院で過半数を占めなければ、政権は作れない。国会の論戦は、両院ともに政策論争よりも対立陣営を切り崩すことが優先されがちだ。

上下院選が同時に行われた2月の選挙の後には、中道左派が最大会派となったものの、上院では過半数に達することができず、組閣に失敗。金融危機の再燃が懸念される中、「政治空白」が約2カ月続いた。

下院は全国単位で得票率が1位となった政党・政党連合に定数の54%の議席が配分される。一方、上院では20の州ごとに各州定数の55%がトップの政党・政党連合に配分される。この違いが「ねじれ」を生む要因となった。

こうした状況下、大連立を背景に4月に就任したレッタ首相は、施政方針演説で「現在の二院制は限界だ」「1年半以内に、改憲によって国のしくみを変える」と表明した。

ドイツのように上院を各州の代表者による議会に変える一方、国民が直接選挙で選ぶ下院が内閣信任などで優位を持つ仕組みへの移行を目指す。

同時に、中道右派の実力者ベルルスコーニ元首相が自らの権力強化を狙って主張してきたフランス型の「大統領公選制」についても審議される見通しだ。

 ■国民合意、ハードル高く
イタリア共和国憲法は二院制や両院の対等を定めている。またファシズムの台頭を許した戦前の反省から大統領や首相の権限は限定的だ。一連の制度改正には大幅な改憲が必要になる。

1948年1月に施行された現憲法は、これまで15回改正されてきた。だが欧州連合(EU)で決まった財政規律の導入や、すべての犯罪での死刑の廃止、旧王家の帰国を認めるなど、政治対立が生じない個別の条文改正に限られ、「国のかたち」を大きく変える大幅改憲は実現していない。
改憲には国民の幅広い合意が必要な手続きとなっているためだ。

大幅改憲の動きがなかったわけではない。安定した政権運営には「政治主導」が必要だとして、83年、92年、97年の3回、与野党の上下両院議員による「憲法改正委員会」が設けられた。だが与野党の対立で実現は阻まれた。また2006年には、国民投票まで至ったが否決だった。

今回も、委員会がつくられる見通しだ。大連立政権の下で、これまでよりは議論がスムーズに進む可能性がある。ただ波乱要素は、政治を私物化してきたベルルスコーニ氏が委員会の委員長就任に意欲を示していることだ。左派からは「改憲を私物化しかねない」と、反対の声がすでに上がっている。【2013年5月28日 朝日】
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“お騒がせ政治家”ベルルスコーニ元首相率いる中道右派との大連立政権をスタートさせたレッタ首相でしたが、ベルルスコーニ氏に振り回された感もあって、改革も進みませんでした。

その後、脱税で実刑が確定していたベルルスコーニ元首相の上院議員資格剥奪が上院本会議で中道左派などの賛成多数で決まる見通しとなったことに抗議して、中道右派は連立を離脱。

一方、中道左派与党・民主党の若手のレンツィ書記長が、レッタ首相の頭越しにベルルスコーニ氏と選挙制度改革で話をつけ、連立解消で政権基盤が弱体化したレッタ首相を引きずり下ろす形で2014年2月に政権をもぎとり、イタリア史上最年少の首相に就任しました。

****イタリア:新首相に39歳レンツィ氏 あだ名は「壊し屋****
 ◇剛腕、旧態の政治体制の解体できるか
イタリアのレッタ首相(47)が(2014年2月)14日、辞任したのを受けて、イタリアの新首相に就任するのは中道左派・民主党のマッテオ・レンツィ書記長(39)。

旧態依然としたイタリア政治体制の解体を叫び、あだ名は「壊し屋」。敬愛する政治家は英労働党を「ニューレーバー」に立て直したブレア元英首相と、「変革」を訴えてホワイトハウスの主となったオバマ米大統領だ。

イタリア北部の古都フィレンツェの生まれ。子どもの頃から「リーダーになって勝つこと」に執着、幼なじみは「広場のサッカーでも仕切りたがった」と語る。

国政経験はないが、たぐいまれなカリスマ性と巧みな弁舌で昨年12月、民主党書記長(党首)に就任した。タブーはない。中道右派のベルルスコーニ元首相の懐に飛び込んで選挙制度改革案をまとめ、「民主党で話ができる男が見つかった」と度量を買われた。

目指すのは、国家・行政機構のぜい肉をそぎ落とす政治。日常生活も“普段着”だ。ジーンズに白シャツ姿で自転車にまたがる。レッタ首相に退陣を迫った会談には青色の超小型車で乗り付けた。

欧州債務危機後の景気後退が長引き、若者の就職難が深刻化するイタリアに「希望を与える」と約束する。経済成長や競争力の足を引っ張っている旧弊を「壊す」ことができるか、腕力が問われる。

高校教諭のアニェーゼ夫人との間に2男1女。【2014年02月14日 毎日】
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国民投票で結論を
“レンツィ氏は新政権の「若さ」を武器に、政治改革(2月)、労働市場改革(3月)、行政改革(4月)、税制改革(5月)と矢継ぎ早に構造改革案を提示すると約束している。”【2014年02月22日 毎日】

その「政治改革」の柱が上院の地方代表議院への改組です。
レンツィ首相の「壊し屋」(日本にもそんな方がいらっしゃいますが)とも言われる剛腕もあってか、上院改革がようやく議会承認を得ましたが、国民投票を必要とすることにもなっています。

****イタリア、改憲へ分かれ道 首相、「政治の安定」狙い上院の権限縮小****
イタリアの政権が、第2次大戦後に制定された憲法を大幅に書き換えようとしている。

旗振り役のレンツィ首相(41)は「首相が次々に代わって政治が安定せず、議会でも大事なことが素早く決められない」という問題に対応するためだ、とアピールする。一方、野党は「民主主義の破壊だ」と猛反発している。

最後の関門となる国民投票は今秋にも行われる。

イタリア下院は12日、上院の権限を大幅に縮小する憲法改正案を可決。議会通過が決まった。

現在のイタリア共和国憲法は1947年に公布された。大戦期のファシズムへの反省から、首相の権限は抑制されている。

上下両院は全く同じ権限を持ち、信任や組閣には両院の過半数の賛成が必要だ。両院のどちらかで与党が過半数を割れば、首相は退陣を余儀なくされる。

イタリア政治の特徴である「短命内閣」の原因と指摘されてきた。2013年の総選挙では、下院で第1党の民主党が上院では過半数に至らず、約2カ月にわたって組閣できなかった。

また法案は修正のたびに両院を行ったり来たりする。11年のユーロ危機の際には「決められない政治」として、金融界や外国メディアの批判を浴びた。

今回の改憲案は、「改革断行」を掲げ、2年前に歴代最年少の39歳で就任したレンツィ首相が提案した。上院の定数を現在の315人から100人に削減する。

上院議員は選挙で選ぶのではなく、地方議会の代表者などで構成。内閣信任・不信任の権限も持たなくなる。議決権を下院にほぼ集中して、「一院制」に近づけるというものだ。

イタリアの憲法改正は、まず上下両院でそれぞれ3カ月以上あけて2度ずつ可決することが求められる。

今回は14年4月の改憲案提出後に修正が加えられ、12日で両院合わせて6度目の採決だった。ベルルスコーニ元首相が代表を務める「フォルツァ・イタリア」や市民勢力「五つ星運動」などの野党は採決をボイコット。下院(630議席)で賛成361、反対7だった。ただ議会だけで改憲を決められる3分の2以上の賛成は得られなかった。

この場合、反対派が求める国民投票によって投票者の過半数が反対すれば成立しない。今回は与党も同意していて、国民投票をすることが事実上決まっている。

レンツィ首相は、国民投票で改憲案が否定されれば辞任すると公言している。【4月14日 朝日】
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レンツィ首相がどうやって改革される自党内上院議員の賛同を維持したのかは知りません。
“レンツィ氏は使い古された言い回しを政治表現に仕立てて見せた。七面鳥(今の場合は上院)がクリスマスに賛成した、と言うのだ。つまり上院は自ら不利になる定数削減と権限縮小に同意した。もっともこれは全面的に利他的な行動というわけではない。もしも上院改革が阻止されれば早期選挙実施の可能性が高く、その場合はやはり自分たちの地位を失いかねない。”【2015年 10月 15日 ロイター】

ベルルスコーニ元首相に代わる強力なリーダーがいない中道右派「フォルツァ・イタリア」や、勢力を失ったモンティ元首相が率いた「市民の選択」などの所属議員がレンツィ首相に吸い寄せられたといったこともあったのかも。

冒頭の二院制の意義や課題の話にも戻りますが、レンツィ首相の進める改革案の是非については意見も多々あるところでしょう。

「カーボンコピー」とも揶揄される参議院でも、衆議院多数党の暴走に歯止めをかける機能をはたしているとも言えなくもありませんが、問題が多いことも事実です。

イタリアの改革はひとつの参考になるかと思います。
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サウジアラビア  変わる社会? エジプトとの間で「紅海に橋を建設」で合意 ついでに領土問題も

2016-04-15 23:15:20 | 中東情勢

(不特定多数の男性が集まる集会での選挙運動禁止など、選挙活動が制約されるなかで、スマホを使って女性候補への投票を呼びかけるサウジアラビアの女性たち 【2月26日 NHK】)

変わる?サウジアラビア
イスラム教の戒律が厳しく求められるサウジアラビアは、世界で唯一、女性による車の運転が認められていないなど、女性に権利が著しく制限されている国であることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

ただ、さすがに最近では若干は改善の方向にもあることは、2015年12月14日ブログ「サウジアラビア 初の女性参政権行使 20人ほどが当選 しかし、未だ少ない女性の有権者登録」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151214でも取り上げました。

前回ブログの選挙でもそうですが、スマホの普及といった社会変化も女性の活動の可能性を広げているようです。

****サウジアラビア スマホが広げる 女性の可能性****
イスラム教の厳格な解釈に基づく統治が行われている中東のサウジアラビアでは、さまざまな制約から女性の社会進出が遅れてきましたが、スマートフォンの普及で活動や交流の幅が広がり変化が生じています。

サウジアラビアの女性たちは、公の場で肌や髪を露出させないよう黒い衣装などで全身を覆い、車の運転も禁止されるなど行動の自由が大きく制限されています。

しかし通信サービスの広がりで、スマートフォンを含む携帯電話の所有台数は平均で1人当たり2台近くになり、女性の利用者も増えています。

スマートフォンを手にした女性たちは、ブログやソーシャルメディアを通じてパソコン以上に気軽に多くの人と交流する機会を持つようになっています。

写真投稿サイトに情報を発信し、人気を集めている女性は「ファッションショーを見たり、最新の海外ブランドをチェックしたり、スマートフォンなしの生活は誰も想像できません」と話していました。

スマートフォンが普及するなか、首都リヤドには女性客専用のスマートフォンの修理店がオープンしました。これまで修理店の店員は男性ばかりで、女性たちはスマートフォンに保存されている個人的な写真などを家族以外の男性に見られてはならないと、修理に出すのをためらってきました。

それだけに、従業員6人がいずれも女性のこの店には修理の依頼が相次ぎ、1日に100件を超えることもあるということです。

オーナーのマリヤム・スバイさんは「若い女性が仕事に就くチャンスも作りたかった」と話していて、スマートフォンの普及はサウジアラビアの女性の新しい可能性を広げています。【2月27日 NHK】
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戒律違反の取り締まりの中心にあるのが「宗教警察」ですが、その横暴さであまり評判はよくありません。
当局側も、宗教警察の対応の改善にも乗り出したようです。

****サウジアラビア、宗教警察に「優しく親切に」なるよう命じる****
サウジアラビア政府は、批判が相次いでいた同国の宗教警察から逮捕権を剥奪し、イスラム法に基づく取り締まりを「優しく、親切に」行うよう宗教警察官らに求めた。

国営サウジ通信(SPA)が12日夜に伝えたところによると、この変更はすでに閣議決定済みで、宗教警察官は身柄を拘束する権限を奪われ、違反者を警察官または麻薬取締官に報告しなければならなくなる。

サウジ通信によれば、「ハイア(Haia、別名ムタワ)」と呼ばれる宗教警察は、新たな規則のもとでは「善行を奨励するとともに、優しく親切に助言することで悪行を許さないという職務を遂行」しなければならないとされている。

また、新規則では「ハイアの責任者と構成員のどちらも、誰かを呼び止めたり、逮捕、追跡、尾行したり、身分証の提示を要求したりしないことになる。これらは警察官ないし麻薬取締官の管轄とされる」ことになるという。

サウジアラビアの宗教警察は、男女の隔離や、公的な場所で女性が全身を覆うことなど、イスラム法の厳格な解釈が実行に移されるよう取り締まりを行っている。

だが宗教警察が用いる手法はたびたび議論の的となっており、最近では今年2月、首都リヤド(Riyadh)のショッピングモールの外で若い女性に暴行を加えたとして、複数の宗教警察官が逮捕されたと、地元メディアが報じていた。【4月14日 AFP】
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宗教に馴染みのない部外者の目からすれば、結構なことかと思います。

サウジアラビアとエジプトを隔てる紅海に橋を建設
そんなサウジアラビア関連で最近目を引いたのが、「紅海に橋をかける」ことでエジプトと合意したという記事でした。

****サウジアラビアとエジプト 紅海に橋建設へ****
サウジアラビアのサルマン国王がエジプトを訪問して、両国を隔てる紅海に橋を建設する事業など、巨額の投資プロジェクトで合意し、対イランの包囲網の強化など、みずからの外交政策への協力をエジプトに促す思惑があるとみられています。

サウジアラビアのサルマン国王は、就任後初めてエジプトを訪問していて、8日、シシ大統領と会談しました。
この中でサルマン国王は、サウジアラビアとエジプトを隔てる紅海に橋を建設することで合意したと発表し、「橋の建設は、両国の貿易を例のないレベルにまで引き上げることだろう」と述べました。

また両国は、発電所の建設をはじめ、エネルギー分野や教育分野など17の案件で投資を促進することでも合意しました。

イスラム教スンニ派の盟主を自任するサウジアラビアは、シーア派のイランとの間で対立が深まって、ことし1月に国交を断絶し、周辺各国に働きかけて、対イランの包囲網を強化しようとしています。

しかし、エジプトについて、サウジアラビアは、シシ政権を支持して経済支援を続けてきたにもかかわらず、協力が不十分だという不満があると言われており、橋の建設など巨額の投資を確約することで、みずからの外交政策への協力を促す思惑があるとみられています。【4月9日 NHK】
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紅海に橋を建設・・・・地図で確認すると、いわゆる紅海は狭い所でも150kmはありそうです。
そんな橋なんて、モーゼに頼んでも「いや、それはちょっと・・・」としり込みされるでしょう。

紅海の奥、シナイ半島とサウジアラビアの間のアカバ湾ならなんとかなりそうだが・・・とも思いつつ、いろいろ確認したところ、やはりアカバ湾入り口のルートのようです。

****紅海に全長50kmの橋が架かる。エジプトとサウジアラビアが合意****
・・・・紅海の上を走る全長50kmの橋はエジプトのラス・ナスラニ(リゾート地、シャルム・エル・シェイクの近く)とサウジアラビア北部のラス・ハミドを両端にして建設される予定で、周辺各国の経済活動を活発にする期待が高まります。

シシ大統領は完成した暁にはサルマン国王の名前を橋につけてはどうかと、今からその時が楽しみな様子。

紅海への架橋だけではなく、南シナイに学校や住宅の建設も予定され、発電所も計画されるようです。借款の総額は20億ドルにものぼるという報道もあります。【4月9日 クローズアップ海外ニュース】
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もっとも、どのくらいの橋なら建設できるものかと思って調べると、現在一番長い橋は中国の「丹陽-昆山特大橋」で、全長はなんと約165kmもあるとか。

瀬戸大橋の6つの主要な橋とそれらを結ぶ高架橋の合計が約12kmですから、桁違いです。
もちろん、海上部分は165kmのうち一部だけのようですが。

水上に架かる世界最長の橋としては、やはり中国の「青島膠州湾大橋」があって、全長約42kmのうち、海上部分が約27kmほどあるとか。

安全性などで、なんだかんだ批判の多い中国の大型建設事業ですが、改めてそのスケールの大きさに驚きました。

閑話休題

サウジアラビア側の狙いは上記【NHK】にもあるイラン包囲網へのエジプト取り込みにあると見られていますが、エジプトの方は“観光客やスエズ運河の使用料、外国資本などの減少により国内資本が細り、経済を維持するためにはペルシャ湾岸周辺国の借款に頼らざるを得ない状況に置かれています”【前出 クローズアップ海外ニュース】

そうした状況でカネを出してくれるサウジアラビアを大歓迎ということで、“シシ大統領は完成した暁にはサルマン国王の名前を橋につけてはどうかと・・・・”といった持ち上げぶりですが、今回のシナイ半島の学校・発電所への投資によって、イスラム過激派が跋扈するシナイ半島の安定化を目論んでいるように思えます。

サウジ-エジプト間の領土問題も解決 日本の北方領土は?】
今回の合意には、橋や学校・発電所の建設だけでなく、領土問題の解決も伴っているようです。

****アカバ湾入り口の2島のサウディ帰属****

左の地図は紅海とアカバ湾、エジプトのシナイ半島及びサウディを示していますが、紅海からアカバ湾に入る入り口にある赤い丸で囲まれた2の島はtiran とsanafir ですが、アカバ湾への入り口を抑える位置にあり、戦略的な要所です
(アカバ湾の奥には、イスラエルのエイラーととヨルダンのアカバの2の港町がある)

このため、56年のスエズ戦争の際、および67年の第3次中東戦争の際にはイスラエル軍IDFがtiran を占拠したところです。(もう一つの方はサウディ領海ないとかだったと思うが、確か占領はされていなかったと思う)

この島はサウディとエジプトがそれぞれ領有権を主張してきたようですが、現在はエジプト軍と米を中心とする多国籍軍(エジプトとイスラエルの平和条約締結後シナイ半島に、休戦の維持のために駐屯している)の兵員だけがいるとのことです。

しかるに今回のサウディのサルマン国王の訪問の際に開かれた海上の国境線画定委員会での合意を受け、エジプト政府はこれらの2島がサウディ領であると宣言したとのことです(最終的にはエジプト議会の承認が必要な由)(後略)【4月10日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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野口氏は“皮肉な見方をすれば「サウディの金が島を買った」ということになるのでしょうか?”とも評していますが、それで領土問題が解決して関係が深まるなら、それはそれでいいのではないでしょうか。いつまでも不毛の対立を続けるよりは。

日本の北方領土のように、自分の主張に固執するだけで解決の目途が全くたたないというのは困ります。
今日15日に行われた岸田・ラブロフ外相の会談では“北方領土問題を巡って双方が受け入れ可能な解決策を見いだすため、安倍総理大臣のロシア訪問のあと、できるだけ早期に外務省高官による平和条約締結交渉を行うことで一致しました。”【4月15日 NHK】とのことです。

一方、ロシアのプーチン大統領は14日、“5月の大型連休中に予定されている安倍晋三首相の訪ロを歓迎し、「あらゆる問題を話し合う」と述べた。また、北方領土問題など日本との未解決の懸案について、「いつか妥協点が見つかるだろう」と期待を表明した。テレビ番組の収録後、記者団に話した。”【4月15日 朝日】とのこと。

何か前進があるのでしょうか?ロシア側の『第2次世界大戦の結果を認めなければならない』というガードは堅そうです。

これまでロシアは、多くの領土問題に決着をつけてきています。(クリミア半島では、新たな領土問題を作り出していますが)

ノルウェーとは北極圏に有るバレンツ海と北極海の大陸棚の境界について40年近くに渡り争って来ましたが、 2010年4月27日に均等分割による境界画定で合意。

バルト三国の1つであるラトビアとロシアは、ロシア西部プスコフ州プイタロボ地区の領有について 国境問題となってましたが、EUなど各国の仲介があり、ラトビア側が領有を放棄することで決着を付け 2007年3月27日にロシアと国境画定条約を調印。

同じくバルト三国の1つであるエストニアとロシアは、ロシアのプスコフ州西部ペチョールィ (ペツェリ、ペチョリ)地区の領有について国境問題となってましたが、EUやNATO加盟国の仲介があり、旧ソ連時代の国境線に従って両国国境を画定する事で決着。

中国とは、ソ連時代の1969年3月2日と15日に、アムール川の支流のウスリー川の中州の ダマンスキー島(中国名:珍宝島)を巡って武力紛争も起きましたが、これもアムール川とウスリー川の合流点部分を二等分し、タラバーロフ島と大ウスリー島の西半分を中国側に、 大ウスリー島の東部はロシアの領土とすることで、2008年7月に解決しています。【「ロシアとソビエト連邦(旧ソ連)の領土問題と国境問題の一覧」http://ichiranya.com/society_culture/103-territorial-issue-of-russia.php より】

日本の北方領土だけが遅々として進まない感もありますが、他の領土問題と違って北方領土問題だけが特殊なのでしょうか?
ロシアの対応が、北方領土問題だけ頑ななのでしょうか?

あるいは、日本の対応が頑ななのでしょうか? 国内的にリスクを負う「妥協」よりは、返ってこなくてもいいから、とにかく同じ主張だけしておけばいいとの判断でしょうか?(まあ、それでもロシアとの関係はそこそこですし、これ以上深めるつもりもないし・・・ということであれば、そういう対応もありかも)

通常、利害が対立する領土問題は「妥協」しないことには前進しません。個人的には、適当なところで手を打って、極東開発などに本格的に乗り出すという方向がいいようにも思うのですが。

ただ、昨今は強気なロシアのために「適当なところ」が見つからないのも事実です。原油価格低迷がもう2,3年続いてロシア経済がいよいよ行き詰まれば、また話は違ってくのかも。

話が、サウジアラビアから変な方向にそれてしまいましたので。今日はこれで。
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ナイジェリア  ボコ・ハラム、自爆テロに子供を多用 チボク拉致事件から2年、もどらぬ少女たち

2016-04-14 22:52:16 | アフリカ

(2年前チボクで拉致された娘の生存を示すビデオを見つめる母親 【4月14日 CNN】)

増加する子供を使った自爆テロ
ナイジェリアを中心に西アフリカで活動する「ボコ・ハラム」については、前回取り上げたのが2015年11月19日ブログ“ナイジェリア「ボコ・ハラム」 支配地域は縮小したものの、テロは周辺国にも拡散"(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151119)ですが、現在も前回ブログタイトルのような状況が続いています。

ナイジェリア政府軍の反撃で支配地の多くを失ったボコ・ハラムは、その後も自爆攻撃を繰り返し、多くの市民が巻き添えになって死傷しています。また、その自爆テロの多くは少年・少女によって行われています。

“ボコ・ハラムは一般市民に被害を与えるため、泣いたり、痛みがあるふりをしたり、叫んだりして注意を引き、善意の人たちが集まったところで服の下に隠していた爆弾を爆発させるという手法を取るようになっている。”【20015年12月22日 AFP】というのも卑劣ですが、人々が警戒しない少女、しかも拉致した少女に爆弾を巻き付けて本人も知らないまま自爆テロを行わせるなどは、およそ人間の所業とは思えないものがあります。

****自爆少女たちは爆弾と知らずに吹き飛ばされていた****
・・・レイラ・ゼルーギ国連事務総長特別代表(児童と武力紛争担当)は、子供たちが強制的に自爆攻撃に駆り出されている現状を記者会見で訴えた。

子供たちの多くは「自分の体が吹き飛ぶことになるとは知らずに」、爆弾ベルトを巻かれ、人込みに立たされる。

治安当局によると、ボコ・ハラムの自爆テロは遠隔操作で起爆するケースが多く、「本人の意志による爆発ではないことは明らか」と、ゼルーギは指摘する。(後略)【2015年12月17日 Newsweek】
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上記記事によれば、ボコ・ハラムは7歳の少女に自爆テロをさせたこともあるとか。
残念なことに、最近こうした子供、特に少女を使った自爆テロが増加しています。

****自爆テロの5分の1が子供、少女は性奴隷かテロ実行役に****
ユニセフ(国連児童基金)による最新の報告書によれば、ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムが実行した自爆テロは、実行役の5分の1が子供で、しかも大半が少女だったという。

2015年には44人の子供が、ナイジェリアと近隣のカメルーン、ニジェール、チャドで自爆テロを行ったと報告書は記す。2014年は4件だった。子供の自爆犯の75%が少女だ。

ナイジェリア北東部のチボクにある学校から、276人もの少女がボコ・ハラムに拉致されたのはちょうど2年前。救出作戦は失敗し、そのうち何人かは自爆テロ犯に仕立て上げられたと信じられている。

「はっきりさせたいのは、この子供たちは被害者であって、加害者ではないということだ」とユニセフの西・中央アフリカ地域ディレクター、マニュエル・フォンテーヌは12日に発表した声明で述べている。「子供たちを騙して、おぞましい殺人を強行させているのは、ナイジェリアと近隣国で起こっている暴力の最も恐ろしい一面だ」

先月にもカメルーン北部で、爆発物を身に付けた若い少女が逮捕されている。少女はチボクの学校出身だと供述したが、後にそうでないことが明らかになった。また、1月にはナイジェリアのマイドゥグリにある市場で10歳の少女が自爆テロを実行し、16人以上が亡くなった。

2014年1月から2016年2月の間に、子供の関与する自爆テロは最多のカメルーンで21件、ナイジェリアの17件、チャドの2件だ。2015年にカメルーンでは、自爆テロ事件の半数が子供によるもので、ナイジェリアでは7件に1件が子供の犯行だった。

脱走できてもテロリストとして迫害を受ける
ユニセフによれば、子供を執拗に自爆テロに使うことで、「ボコ・ハラムによる性暴力に耐えて監禁生活を生き抜いても、最悪の結果が待っているという恐怖感を少女たちに与えている」。

その上、たとえボコ・ハラムの監禁から脱走できても、帰り着いた故郷でテロリストかもしれないと疑われ、汚名を着せられて差別されることも少なくない。

「子供による"自爆"攻撃が珍しくなくなったことで、子供たちを安全上の脅威と考えるコミュニティーが出てきた」と、フォンテーヌは言う。「子供を疑えば破滅的な結果が待っている。娘に母親、姉や妹を追放してしまって、コミュニティーの再建などできるだろうか」

6年に及ぶボコ・ハラムの攻撃により、ナイジェリアで死者は2万人、難民・国内避難民は推定230万人にも上る。100万人以上が子供だ。2000近い学校が略奪被害や教師の殺害、国内避難民の収容のために閉鎖されている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、2014年以降、ボコ・ハラムによって拉致された子供は推定2000人に達するという。少年は戦闘員に、少女は性的奴隷にされているとみられるが、今や少女は自爆テロ要員でもあるのだ。【4月13日 Newsweek】
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チボク拉致少女の「生存照明」ビデオ
“ボコ・ハラムによって拉致された子供は推定2000人に達する”というなかでも、多くの人々の記憶に残っているのは、2014年4月、ナイジェリア北東部の村チボクの学校がボコ・ハラムに襲われて200人以上の女子生徒が誘拐され、しかも「全員を奴隷として売り飛ばす」とのメッセージが出された事件です。

ナイジェリアのブハリ大統領は昨年末のインタビューで「ボコ・ハラムに信用できるリーダーがいれば、解放に向けて交渉する用意がある」と述べ、救出に全力を挙げる姿勢をアピールしましたが、事件から2年経過した今も少女たちは解放されていません。

今も安否がわからない少女たちですが、少なくとも15人について「生存証明」とする動画がボコ・ハラムから送られていることが明らかになっています。

****ボコ・ハラム、拉致した女子生徒の「生存証明」動画を送付****
ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが、同国北東部チボクの学校から2年前に集団拉致した276人の女子生徒のうち、15人の「生存証明」とする動画を送付していたことが分かった。米CNNテレビが13日、報じた。

2014年4月14日に拉致された少女らのうち、57人は直後に脱走に成功したが、219人が依然として行方不明になっている。

CNNによれば、ボコ・ハラムが送った動画には、黒いヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭髪を覆うスカーフ)を着用した少女らが自分の名前と、チボクから拉致されたこと、撮影日は2015年12月25日であることを述べる様子が写っている。動画の撮影場所は特定されていない。

動画を見た被害少女の母親3人のうち、2人は自分の娘が写っていることを確認したが、3人目の母親はわが子が写っていなかったために泣き崩れた。

ただ3人はいずれも、動画に写っている少女ら全員の身元を確認。拉致事件が起きた日に自宅にいた同級生1人も、動画に友人が写っていることを確認したという。

今回の動画は、ボコ・ハラムが2014年5月に拉致被害少女らの動画を公開して以来、少なくとも一部の女子生徒が今も生存していることを初めて具体的に示すものとなった。

前回の動画では、約100人の女子生徒らがヒジャブを着用し、イスラム教の聖典コーランの一節を唱える様子が捉えられ、ボコ・ハラムの指導者であるアブバカル・シェカウ容疑者が、少女らはイスラム教に改宗したと宣言していた。

AFPが少女解放に向けた交渉を仲介する人物から入手した情報によると、今年1月、ボコ・ハラムはナイジェリア政府に接触し、「捕虜交換」についての協議を要請していた。

ボコ・ハラムはさらに、黒いヒジャブをかぶった少女らの写真5枚を送付。親たちによって、写真に写っているのがチボクから拉致された少女であることが確認された。

政府はこれを受け、少女らの生存を示すより具体的な証拠を動画で送るよう、ボコ・ハラムに要求していた。【4月14日 AFP】
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政府にも軍にも見捨てられた住民
1日も早い救出を願うばかりですが、現実問題としてはチボク以外でも多くの少女たちが拉致されており、前出記事にあるように“2014年以降、ボコ・ハラムによって拉致された子供は推定2000人に達する”という状況です。

そうしたチボク以外の事件のひとつが2014年11月24日にも起きたものの、チボクの女子生徒拉致事件で面目をつぶされ、手いっぱいだった政府・当局はこの事件情報を無視したとも報じられています。

****ボコ・ハラム、2014年に再び子ども300人拉致 住民証言****
ナイジェリア北東部の辺境部にある町で2014年11月、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が数百人の子どもたちを拉致する事件が起きたものの、事件に関する情報を当局が無視していたことが分かった。地元住民が30日、AFPの取材に明らかにした。住民らは政府の反応を恐れ、声を上げられなかったという。

取材に応じたダマサク町の当局者や首長、長老、住民の証言は全員、2014年11月24日に少年少女300人と女性を含む500人が同町で拉致されたと語った。これは同年4月に北東部チボク地区でボコ・ハラムに集団拉致された女子生徒276人を上回る数だ。

だが、昨年3月、当時のグッドラック・ジョナサン政権はダマサクでの拉致事件の情報を否定。また地元上院議員や情報当局高官も、この情報を疑問視していた。

匿名で取材に応じた地元当局者の男性は、自分の7歳の子どもも拉致されたが、「私たちは、政府の怒りを招くのを恐れ、拉致事件について沈黙を続けた。政府はチボクの女子生徒拉致事件で面目をつぶされ、手いっぱいだった」「親たちは全員、怖くて声を上げられなかった」と語った。

脱走できた地元住民たちがナイジェリア上下両院の議員らに伝えたが、「彼らは黙殺し、私たちを無視した」という。「政府はこのニュースを広めたくなかったのだ」。男性は、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が今月29日に事件に関する報告書を発表したことで、初めて声を上げることを決めたと説明した。

同じく匿名で取材に応じた地元首長は「彼ら(ボコ・ハラム)は私立学校やイスラム神学校から、最年少で5歳の子どもたちを連れ去った」「町にも入ってきて、母親から子どもたちを力ずくで奪った。5~16歳だった私のおい16人も拉致された」と語った。

首長によると、数百人がダマサクとニジェール南東ディファを隔てる川を渡って逃げたが、多数が溺れ死んだ。後に現場に戻り、「200人以上の遺体」を集団墓地に埋めたという。ダマサクの長老もまた、最初の攻撃で200人以上が殺害されたと話している。

複数の目撃者の証言をもとにまとめられたHRWの報告書によると、人質になった人々は当初、小学校で拘束されていた。学校は後に、軍事基地となったとされる。男性らは別の場所で拘束され、路上に散乱した遺体を川に遺棄したり、地面に埋めたりする作業を強要された。数百人の遺体を見たとの証言もある。

3月9日にダマサクを解放したチャドとニジェールの軍隊は、町のはずれの橋の下にある集団墓地で約100人の遺体を発見していた。中には、斬首されたり、撃たれた痕跡のある遺体もあった。【3月31日 AFP】
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もじ上記報道のとおりであれば、事件を無視した政府当局もボコ・ハラムと同罪です。
一応、ブハリ大統領の名誉のために断っておくと、事件は前任者のグッドラック・ジョナサン前大統領の任期中のものです。

ちなみに、チボクの事件のときも、政府軍は事前にボコ・ハラムの襲撃の情報をえていたにもかかわらず行動しなかったとも報じられています。(軍はこれを否定していますが)

****ナイジェリア軍、女子生徒拉致の情報を事前に察知か****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは9日、ナイジェリアの政府軍が、イスラム過激派「ボコ・ハラム」が女子生徒ら200人以上を拉致した学校への襲撃について事前に情報を得ていたにもかかわらず、5時間近くも行動を起こさなかったと発表した。軍は、この情報を否定している。

アムネスティ・インターナショナルによると、4月14日の午後7時以降、軍司令官たちにはボルノ州のチボクへの襲撃が差し迫っているとの情報が複数回伝えられていた。

2人の軍高官は、兵士たちは自分たちより装備の優れた武装集団に立ち向かうことに躊躇(ちゅうちょ)するので、攻撃を食い止めるのに十分な部隊を配備することができなかったと述べたとされる。

結果的に、最大200人のボコ・ハラム戦闘員が、町に駐留している少数の警察官と兵士との戦闘の末、午後11時45分ごろに276人の女子生徒を拉致する事態となった。

アムネスティ・インターナショナルのアフリカ担当者のNetsanet Belay氏は、この事態は「民間人保護の義務に対するナイジェリア政府の目に余る怠慢だ」と述べ、未だに住民は攻撃に対して無防備のままだと付け加えた。【2014年5月10日 AFP】
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政府にも、軍にも見捨てられた・・・・とも言える、なんともやりきれない話ですが、「見捨てた」のはボコ・ハラムを糾弾するだけで、地元住民・関係者のために何もしてやれない国際社会も同じかも。

唯一の学校が破壊されたままになっているチボクの住民は以下のようにも。

****見捨てられたようだ****
4月14日、女子生徒の集団拉致事件から丸2年を迎えれば、ボルノ州南部のこの田舎町に再び注目が集まるだろう。それまでほとんど知られていなかったチボクは今や、ボコ・ハラムとの激しい戦いの代名詞になっている。

拉致された女子生徒の親たちは14日、学校に集まり、子どもたちの無事を祈る計画だ。だが、父親のうち16人、母親のうち2人はそこに来ることはない。ボコ・ハラムの襲撃などで死亡してしまったからだ。

インターネット上では拉致を糾弾し、行動を起こすことを約束する声が世界的に上がったが、チボクの多くの人たちは見捨てられたように感じているという。

「(私たちは)何もしてもらっていない」と語る小学校教諭のヌケキさん。「ボコ・ハラム(現地語で『西洋の教育は罪』を意味する)はまさに、欧米の教育を排除するという自分たちの目標を達成した」とヌケキさんは述べた。
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飢えからの集団投降も
なお、ボコ・ハラムについては、以下のような報道からすると、相当に追い詰められているようにも見えます。

****イスラム過激派ボコ・ハラムから76人が飢えで投降*****
ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムから、飢えたメンバーがナイジェリア政府軍に投降したことがわかった。

先月末、北部ボルノ州の町グウォーザで女性や子どもを含むボコ・ハラムのメンバー76人が政府軍に投降してきた、と今週AP通信が伝えた。メンバーはガリガリに痩せ衰え、食べ物を求めた、と報じている。

投降したメンバーは現在、政府軍の本部があるマイドゥグリで拘束されている。ここはボコ・ハラムが2009年に武装闘争を開始した都市でもある。

ボコ・ハラムは昨年3月にISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)に忠誠を誓ったが、民間の自警団の話によると、他のメンバーも投稿を望んでいるという。(後略)【3月4日 Newsweek】
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欧州難民問題 送還合意はしたものの双方に課題 トルコ・レバノンにおける難民らの厳しい生活

2016-04-13 22:56:54 | 難民・移民

(トルコ国内の公式シリア人難民キャンプ テント生活に比べたらましにも見えますが、実際のところはどうなんでしょうか。【AAR Japan http://www.unhcr.or.jp/html/07Debriefing%20AAR%20Japan.pdf 】)

難民保護申請が殺到するギリシャ EUは「ダブリン規則」変更に乗り出したものの・・・
EUとトルコは密航してきた難民・移民を全員トルコへ送還すること、シリア難民については送還者と同数を同国内の難民キャンプなどから受け入れることで合意し、3月20日午前0時から発効しています。

これによって、問題は多々残るものの難民流入は取りあえず止まったか・・・という話を3月27日ブログ“欧州難民問題 「トルコ-ギリシャ」ルートの流れは取りあえずは止まったものの・・・”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160327)でしたのですが、実際のところは難民たちの流入に歯止めが掛かっておらず、現地では混乱が続いているようです。

今月4日に始まったトルコへの送還作業にも混乱がみられて中断していましたが、8日には再開されています。

****トルコへの移民送還再開=ギリシャから第2陣到着****
欧州への難民・移民流入抑制に向けた欧州連合(EU)とトルコとの合意に基づき、ギリシャからトルコへの移民送還が8日、再開された。送還は2回目。AFP通信によると、パキスタン人ら計124人を乗せた船2隻がギリシャのレスボス島を出発し、トルコ西部イズミル県のディキリに到着した。

1回目の送還は4日に行われたが、ギリシャで送還を免れるための難民保護申請が殺到して混乱が生じたため、2回目の実施が遅れていた。

EUとトルコは、3月20日以降にギリシャに到着した「不法移民」はトルコに送還し、代わりにEUがトルコに滞在するシリア難民を受け入れることで合意した。4日に第1陣として、パキスタン人ら202人を送還。一方、トルコ国内に滞在していたシリア難民78人が再定住のためドイツなどに送られた。【4月8日 時事】 
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上記記事にもあるように、送還を免れるための難民保護申請がギリシャに殺到する事態(難民が最初に到着した国で保護申請することを義務付けた現行の「ダブリン規則」には沿ったものですが)ともなっており、ギリシャへの大きな負担ともなっています。

EUは6日、「ダブリン規則」の仕組みについて、ギリシャに偏る負担を軽減するため抜本的改革に着手すると発表しています。しかし、難民受け入れに消極的な東欧諸国の反発もあって先行きは不透明です。

****<難民問題>EU受け入れ手続き見直し 「玄関国」負担軽減****
中東などから欧州に多数の難民が押し寄せた問題を受け、欧州連合(EU)は、難民の受け入れ手続きの見直しに着手した。難民申請を難民が域内で最初に到着した国に限定する規則を改め、EUの「玄関口」となっているギリシャやイタリアなどに偏った負担を軽減する狙いがある。

EUの行政執行機関である欧州委員会は6日、難民が最初に到着した国で難民審査をするよう義務づけた「ダブリン規則」の二つの見直し案を公表した。
 
一つ目は現行の規則を原則維持しつつ、非常時などに加盟国間で申請を受け付ける責任を分担する修正案。
二つ目は難民が最初に到着した国が審査する仕組みを撤廃し、加盟国で経済規模などに応じて分担する案だ。さらに、将来的に難民申請の受け付けをEUに一元化することも検討課題として挙げた。
 
ィメルマンス欧州委副委員長は同日の記者会見で「現行の制度が持続可能でないことは明らかだ」と述べ、早期に見直す必要性を強調した。だが難民の受け入れには加盟国間で温度差が大きく、受け入れ規模が小さな国などからは反発が予想される。

昨年ギリシャ経由で西欧を目指す難民が多く通過した中東欧では流入に歯止めをかけるために国境管理を強化する国が相次いだ。

EUは昨年9月にギリシャ、イタリア、ハンガリーにたどり着いた難民12万人の受け入れを加盟各国に割り当てることを決めたが、東欧諸国の反発で計画通りに進んでいない。【4月7日 毎日】
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難民送還を受け入れるトルコ側にも厳しい事情も
一方、ギリシャから難民らの送還を受け入れるトルコは、難民に苦慮するEUの足元を見て、EUからの多額の資金拠や、EUへの入国査証(ビザ)免除などの有利な見返りを勝ち取った・・・とも評されていましたが、内情はそう簡単でもなさそうです。

****<トルコ>難民問題対応の試金石 EUとの合意めぐり****
難民問題での欧州連合(EU)との合意をめぐり、トルコが課題に直面している。EUは合意の見返りに、トルコ国民のEUへの入国査証(ビザ)免除を約束したが、トルコ側が、実施目標の6月末までに72項目すべての「基準」を満たすのが条件だ。

また、欧州からのシリア人送還予定地のトルコ南部では、治安悪化を懸念する住民の反発も拡大。合意を「トルコの利益」にどうつなげられるかが問われている。(中略)

ただ、ビザ自由化のためにEUがトルコに求める72の基準は、EUと同レベルでの個人情報保護や、国境管理当局者の汚職対策など、対処が容易ではないものが少なくない。(中略)

EUが「基準に満たない」と一蹴すれば、トルコ政府は「欧州に難民問題をつかまされたうえ、だまされた」との国内批判を招きかねない。

英字紙ヒュリエト・デーリー・ニューズは論評記事(3月29日付電子版)で、ビザ問題は「今回の合意がトルコの利益になるか否かを指し示すリトマス試験紙になる」と報じている。

一方、地元メディアによると、トルコ政府は欧州に不法入国したシリア人の送還予定地として、シリア国境に近いトルコ南部カフラマンマラシュ県に2万7000人を収容可能な施設の建設を計画している。

付近にはイスラム教シーア派と近いアラウィ派の集住地区がある。地元では、欧州から送還されるシリア人の多くがイスラム教スンニ派で、「過激派組織『イスラム国』(IS)共感者を含む可能性もあり、この地域をシリア内戦に巻き込んでいくのでは」との懸念が強まっているという。

トルコでは昨年夏ごろから、ISや少数民族クルド系武装組織によるとみられる自爆攻撃が各地で多発し、治安の悪化に歯止めがかからない。難民対応への不満や不安がさらに高まれば、EUとの合意が「不安定化を加速させた」との批判にもつながりかねない。【4月6日 毎日】
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結局、トルコは新たな難民受け入れ施設建設計画を撤回し、既存キャンプで受け入れることにしました。

****送還シリア難民は既存キャンプへ トルコが方針転換****
・・・・トルコ政府は、送り返されるシリア人を収容するための難民キャンプを新たに建設する計画でしたが、トルコ各地で治安の悪化などを懸念する住民たちが新たなキャンプの建設に反対する抗議デモを行ったため、こうした声に配慮して方針を転換したものとみられます。【4月8日 NHK】
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難民定住化を嫌う当局
トルコのダウトオール首相は4日、「難民は自分の子供や兄弟のように扱わなければならない」と語り、「寛容な受け入れ姿勢」を強調しています。

しかし、トルコの難民キャンプについては、「人間が住める環境ではない」との難民らによる訴えもあります。
だからこそ、難民らは命を落とすことも覚悟のうえで、トルコから欧州を目指すのでしょう。

また、トルコには230万人のシリア難民がいますが、政府が用意できた難民キャンプは27万人分にすぎず、ほとんどの人は街で自力で暮らしています。

難民キャンプで援助を頼りに暮らすにしろ、キャンプ外で自力で生活するにしろ、極めて厳しい生活環境であり、子供の教育など殆ど手が回らない状況にあります。

トルコ同様に100万人以上のシリア難民を受け入れるレバノンからは、難民らの定住を警戒する当局が、敢えて過酷な条件を強要している難民キャンプの実情も報じられています。

****難民に苦痛を強いるレバノンの本音****
冬ともなれば雪が山も平地も覆い尽くすレバノン東部のベカー平原。荒天の日には何だって吹き飛ばされる。仮設の小屋に暮らし、空き家や未完成の建物に身を寄せるシリア難民にとって、冬はとりわけ過酷な季節だ。

「嵐になれば水が染み込んでくるし、テント全体が揺れる。その音を子供たちが怖がる」。ベカー平原の街ザーレにある非公式難民キャンプで暮らすミンワル・ハレド・アブスルタン(43)が嘆く。彼は妻と子供7人を連れシリア中部のハマから避難してきた。「また嵐が来たら屋根が落ちるな。雪が屋根に積もるし、使ってる木材は古い。今でもギシギシ鳴ってる」

レバノンの非公式難民キャンプで暮らすアブスルタンのようなシリア人は20万を超える。大半が木やビニールシート、波形トタンなどを寄せ集めた仮設のシェルターに住む。内戦を逃れた人々が増え始めてから何回かの冬の間、彼らは雨風をしのぐだけの住まいで洪水にも厳寒にも耐えてきた。

もっといいシェルターを建てられたなら、もっといいシェルターがレバノンで活動する国際NGO(非政府組織)から与えられたなら、少しは彼らの苦しみも和らぐだろう。しかし狭いレバノンの難民受け入れ能力には限りがあるし、そもそも国民の多くは新たな難民の定住を望んでいない。

レバノンが直面する難民危機の規模は深刻だ。レバノンの人口は約400万だが、既に100万人以上のシリア難民を受け入れている。難民流入は国の経済を圧迫する。財政に余裕がないから、難民の生存権を認めて受け入れ国に一定の責任を課す51年の国連難民条約にも、レバノンは加盟していない。

レバノン政府は、国連機関が難民の定住キャンプを建設することを認めていない。そのため多くの難民が自力でシェルターを建てたり、仮住まいの場所を見つけたりしている。

こうした急場しのぎのシェルターで過ごす冬は命の危険さえある。昨年1月には東部の都市バアルベク郊外で、3人の子の母親が凍死。同月、やはり東部の難民キャンプで10歳の女の子も死亡している。14年の凍死者には、生後間もない赤ん坊2人が含まれる。1人は国境の町アルサル近くの寒いテントで生まれ、肺炎にかかって3日後に命を落とした。

警戒される住居の資材
「私たちは限定的な援助しか許されていない」と、レバノン社会問題省でシェルターのまとめ役を務めるアフマド・カセンは言う。「私たちができるのは、仮住まい用の建設資材を手渡すことくらいだ。非公式のキャンプでは、コンクリートの建物は許されていない。コンクリートブロックを配る権限は、私たちにはない」

永住可能な住居の建設を認めないというルールは、いかなる難民支援団体にも適用されている。地元の民間団体でも国際NGOでも、国連機関でも同じだ。

シリア内戦以前からレバノンで活動しているデンマーク難民評議会は13年、「ボックス・シェルター」を考案した。基礎にコンクリート、壁には木材を使用したもので、各地で増加中のベニア板やシートの小屋よりも少しは暮らしやすいと思われる簡易シェルターだ。

しかしレバノン政府は、難民に定住への道を開くという理由でその使用を禁じてしまった。

この規則に少しでも違反すると当局が嗅ぎつけてくる。例えば3年半前に家族とシリアのホムスからやって来た女性ファティマ(67)のケースだ。「(嵐の際に)小屋に水が入ってこないよう、外側にコンクリートのブロックを置いた。でも去年の洪水では水がブロックを越えて流れ込んだ」と彼女は言う。

最初に置いたブロックに新たなブロックを積むと、兵士が来て「そんなに石を積んでいいと誰が言った?」と言われ、やむなく彼女はブロックを取り除いた。今は、雨が降ると砂利を詰めた袋を積んで、どうにか水の浸入を防いでいるという。(後略)【4月11日 Newsweek】
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レバノンの場合、かつてのパレスチナ難民が定住し、イスラエルとの武力衝突の基地になってしまったという苦い思いもあるようです。

もちろん、難民のなかには厳しい環境を克服して、新たな生活を切り開いている人々もいます。

****シリア難民が誇りと夢を取り戻した街*****
内戦を逃れたシリア難民が最も多く流入しているのは隣国トルコ。その数は220万人にも上るが、彼らは正規の労働を認められておらず、生活は苦しい。25万〜30万人が難民キャンプで暮らし、危険を冒してヨーロッパを目指す人も少なくない。

一方、厳しい現実の中でたくましく人生を再始動させた人々もいる。100万人近くの難民が暮らし、国外最大の「シリア人都市」となっているイスタンブールで、写真家アレッサンドロ・ガンドルフィはそんな難民たちの姿を捉えた。

ポケットに小銭だけ、という状態で戦火を逃れてきた人々が今ではレストランやホテルを経営したり、観光事業を手掛けたりしている。14年には新規開業の3分の2が、シリア人起業家によるものだったという。その売上高は50億ドル相当とも推定されており、地域経済に大きく貢献している。

「私たちの多くはシリアでうまくいっていた。でもすべてを失ってしまった」と、洋菓子店を経営する31 歳のアドナンは言う。「(多くの難民を受け入れている)ドイツへ渡ろうという話は2度断った。みんなに『難民』と呼ばれるのは嫌だから。ドイツに行くなら自分のお金で堂々と、観光客として行く」

ホムス生まれのアハマド・アブドゥル・アニ(31)は 13年にイスタンブールに来て、観光ビジネスを起業した。「当初の所持金は1000ドル以下。少しずつ仕事を替えて金をため、観光クルーズ船を始めるまでになった。今は40人を雇い、そのほとんどがシリア人だ」

シリア人が経営するページズ・ブックストア・カフェで友人と談笑するリーム・バシル(34)。アレッポ出身の彼女は英語教師だが、旅行代理店でも働いており、デザイナーの仕事をすることもあるという

ダマスカス出身のシャディ・ハデム・アル・ジャメ(28、右)と、シリア生まれのパレスチナ人である妻ガザル・ソウブ(25)。シャディは旅行代理店で働く。「トルコの人々は、私たちが仕事を奪っていると言う。シリア人を追放したいと言いだした政党もある」

ワリード・アルボシ(47)は経営する土木工事会社を失い、シリアから逃れてきた。妻と息子、娘3人がいるが、「シリアに家族の未来はないと思った」と話す。現在はパンやお菓子の製造会社を経営する。「トルコ人の好みに合ったパンを売るのは難しいから、うちの主な顧客はアラブ人だ」(後略)【4月13日 Newsweek】
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ただ、やはり上記のような成功をつかみ取れた人々はごく一部でしょうし、記事にもあるように、難民らがまともな雇用を得ると、それはそれでトルコ人低所得層との競合という別の問題を惹起します。(トルコ政府は難民に労働許可を出していないと思うのですが、そのあたりはどのようにクリアされているのでしょうか)

【「バルカンルート」に足止めされている難民 より危険な「リビアルート」にすがる難民
なんだかんだで難しいEU・トルコの間の難民送還合意ですが、それ以外にも、合意以前にギリシャに到達した人々の未だ多くが封鎖された「バルカンルート」に取り残されている問題、バルカンルートが使えなくなると、難民らはより危険な「リビアからイタリアに渡るルート」に押し寄せることにもなるという問題もあります。

****マケドニア 警察が催涙ガスで難民を追い返す****
多くの難民や移民が足止めされているギリシャとマケドニアの国境で、国境を通過させるよう迫ってきた難民たちをマケドニアの警察が催涙ガスなどを使って追い返し、300人以上が手当てを受けました。

中東などからヨーロッパ北部を目指す難民や移民の移動ルートとなっていた旧ユーゴスラビアのマケドニアが、南のギリシャとの国境を封鎖したため、国境付近では1万人以上が足止めされています。

こうしたなか、10日、およそ500人の難民たちが国境を突破しようと石を投げたり、国境に設置されたフェンスの一部を壊したりしたのに対し、マケドニアの警察が催涙ガスやゴム弾などを使って追い返しました。

国際的なNGO「国境なき医師団」は、難民たち300人以上が手当てを受けたとしています。

ギリシャ政府の報道官は声明を発表し、「催涙ガスなどの使用は危険な行為で、マケドニア政府は、そうした危険性を認識すべきだ」と強く非難しました。【4月11日 NHK】
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****イタリア、シチリア海峡で移民1850人救助 リビアからの船急増****
イタリア沿岸警備隊は11日、リビアを出航した移民船が急増しているシチリア海峡で移民救助活動を8回行い、計1850人を救助した。同沿岸警備隊が明らかにした。

沿岸警備隊の声明によれば、沿岸警備隊の巡視船「ディチョッティ」が計740人を乗せた小型の移民船2隻を停止させ、イタリア海軍の哨戒艦「シガーラ・フルゴーシ」は255人を乗せた2隻のゴムボートを助けたという。

さらに商船が現場に向かって117人を救助したほか、欧州連合(EU)海軍部隊の艦艇がバージ船2隻と小型船1隻で渡航していた移民計738人を救助した。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の3月末時点の統計によれば、今年に入ってからイタリアに到着した移民はおよそ1万7500人に上る。【4月12日 AFP】
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「バルカンルート」の問題は、EU内で高まる不協和音やドイツでも受け入れが困難になってきたことの問題でもあり、「リビア・イタリアルート」の問題は統一政府が樹立できないリビアの混乱が大きく影響しており、ともに難しい問題です。
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G7外相会合  広島で資料館訪問・慰霊碑献花 「謝罪」にナーバスなアメリカ ケリー長官は感銘も

2016-04-12 22:50:03 | アメリカ

(広島の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花したのち写真撮影に臨む松井一實・広島市長、モゲリーニEU外交安全保障上級代表、G7各国外相、湯崎英彦・広島県知事【4月11日 AFP】)

現実世界において微妙な立ち位置にある日本からの「核なき世界」に向けたメッセージ
4月11日、広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合に参加した、原爆投下国であるアメリカのケリー国務長官のほか、核保有国である英仏外相などG7外相らは岸田外相ともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観、原爆死没者慰霊碑に献花しました。

****核のない世界へ「広島宣言」採択 G7外相会合が閉幕****
広島市で開かれていた先進7か国(G7)外相会合は11日午後、「核兵器のない世界」の実現を呼び掛ける「広島宣言」を採択し、閉幕した。北朝鮮の挑発行為が実現に向けて重要な課題だとしている。

G7外相らが市内の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花したのちに取りまとめた広島宣言は、「国際的な安定を促進できるように、全ての人にとってより安全な世界を目指すこと、核兵器のない世界に向けた条件を整えていくことを再確認する」と強調。「この課題はシリアやウクライナ、とりわけ挑発を繰り返す北朝鮮などの治安状況の悪化によって、より複雑となっている」とも述べた。

一方、共同声明では、米国が主導するイラクとシリアでのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いに対する支援を「強化・加速する」ことを確約。「テロリズムは世界の安全保障上の喫緊の脅威であり、国際的な協調と結束した対応が必要だ」と述べ、G7としてテロ対策行動計画を作成する方針を表明した。【4月11日 AFP】
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昨年の国連における核廃絶に向けた取り組みおいて、核禁止決議案に対し「核の傘」入る日本は棄権するとか、指導者らの被爆地訪問なども盛り込んだ日本提案の核兵器廃絶決議に対し米英仏が棄権するなど、核廃絶をめぐる日本の立ち位置がやや不透明になりつつあるなかで、改めて唯一の被爆国として立場から核兵器の悲惨さをアピールする機会となったことは評価すべきと思います。

****核禁止決議案を採択 「核の傘」入る日本は棄権 128カ国が賛成****
国連総会第1委員会(軍縮)は2日、核兵器の使用禁止と廃絶に向けた法的枠組み作りへの努力を呼び掛ける決議案を賛成多数で採択した。日本は被爆国でありながら、米国の「核の傘」の下にあることから、棄権に回った。

採決では128カ国が賛成し、米国、英国、フランス、ロシアを含む29カ国が反対した。中国など18カ国は棄権した。

決議案は、オーストリアなどが提案。いかなる条件下においても核兵器が2度と使われないことが「人類にとって利益だ」と強調し、核保有国に対し、危機を減らすための具合的手段を講じるよう求めている。

日本の佐野利男軍縮大使は棄権の理由について、「(決議は)核兵器の保有国と非保有国が協力し、現実的な核軍縮を進めるべきだという日本の立場とは整合性がとれない」と指摘した。【2015年11月3日 産経】
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****米英仏、一転棄権 日本の核廃絶決議案 国連委採択****
国連総会の第1委員会(軍縮・安全保障)は2日(日本時間3日)、日本が提出した核兵器廃絶決議を156カ国の賛成で採択した。だが、昨年まで共同提案国だった米国、英国に加え、昨年は賛成したフランスも棄権。中国が反対するなど核保有国の賛成は得られなかった。

 ■「非人道」強調に警戒感
日本は被爆70年を機に「核保有国と非核保有国の橋渡し役」(岸田文雄外相)として、核廃絶に向けて国際社会で主導的な役割を果たそうとした。核保有国の棄権や反対は、こうした日本の狙いが行き詰まったことを意味する。

日本の核廃絶決議採択は1994年以来、22年連続。今年は初めて「Hibakushas(被爆者たち)」という表現を使って世界の指導者らに被爆地訪問を促し、核の非人道性を強調した。一方、廃絶時期を示さない穏健な内容で、米国など核保有国の賛同も目指した。

日本外務省が特に衝撃を受けているのは、同盟国・米国の棄権だ。米国は「核なき世界」を提唱するオバマ政権になった2009年以降、毎年、共同提案国に加わっていたためだ。

米国などが棄権に回った背景には、日本の決議案が核の非人道性を強調する内容を含んでいたことがある。
今年5月に核不拡散条約(NPT)再検討会議が決裂した後、一部の非核保有国は核の非人道性の認識をテコに「核兵器禁止条約」の実現に動いている。米国など核保有国には、それに強い警戒感があり、日本の決議案への賛同に消極的になった可能性がある。

一方、中国は原爆被害について「日本が仕掛けた侵略戦争の直接の結果だ」とした。日本の佐野利男軍縮大使は採決後、「(核保有国と非核保有国とに)核軍縮の進め方について立場に大きな隔たりがある」と記者団に語り、目算が外れたことを認めた。

 ■日本の核廃絶決議(骨子
・すべての国が核兵器の全面的廃絶への共同行動をとるとの決意を新たにする
・核保有国に透明性を向上する努力と、核軍縮に関する頻繁で詳細な報告を促す
・指導者らの被爆地訪問など、核の非人道的影響の認識を広げる取り組みを促す【2015年11月4日 朝日】
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【「謝罪」ととられることに神経質なアメリカ
原爆投下国アメリカの現職の国務長官が、被爆地の慰霊の行事に出席するのは、初めてのことになりますが、アメリカ側には今回の慰霊碑献花が「謝罪」ととられるのは国内的に困るということで、微妙な空気もあったようです。

****謝罪なし、日米の思惑 広島初訪問と宣言を優先 G7外相会合****
・・・・(ケリー長官は)慰霊碑への献花に先立って行われた日米外相会談では「今回の訪問は過去についてではなく、現在や未来に対するものだ」と強調。

自らの訪問を日米の「和解」の象徴と位置づけつつ、米政府高官は「ケリー氏の広島訪問は謝罪のためかと言われれば、答えはノーだ」と語り、実際、ケリー氏も献花の際などに頭を下げることはなかった。

米国内では、原爆投下が戦争を終結させ、米国民の命を救ったとの見方が根強い。謝罪には踏み込まず、広島から世界に「核なき世界」の重要性を発信する――。ケリー氏の訪問から、そんな米側の姿勢が浮き彫りになった。

一方の日本側。「核兵器なき世界に向けた国際的機運を再び盛り上げる歴史的な一歩になった」。岸田外相は会見で、外相らによる資料館の見学や献花の実現に胸を張った。

広島市で外相会合が開かれることが決まったのは昨年6月。核保有国の米英仏を含む各国外相と共に平和記念公園を訪問できないか。最初に可能性を探ったのは地元選出の岸田氏で、外務省幹部に調整を指示。

だが、各国との調整で、非核保有国が比較的早期に前向きな姿勢を示したのに対し、「最も神経をとがらせたのが米国だった」と同省幹部は明かす。

献花した慰霊碑には「過ちは繰返しませぬから」とのメッセージが刻まれているが、英訳の際、外務省がその碑文の主語を「『WE=人類』であって、決して特定国を指すものではない」と各国に説明。

資料館訪問では当初、米が国内世論の反発を気にして、熱線で体が焼けただれた人々の写真などとケリー氏が一緒に写りこむことに警戒感を示したが、協議の末、報道機関の館内撮影を制限することで決着した。

米に謝罪を求めるより、原爆投下国と核保有国の閣僚の広島訪問を実現し、被爆の実態を知ってほしい。そんな日本の狙いと、「謝罪」に踏み込みたくない米の思惑が一致。5月末のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で訪日するオバマ米大統領の広島訪問への布石が打たれた。

「すべての人が広島を訪れるべきだ。いつか米大統領も『すべて』の一人になることを願っている」。会見でこう語ったケリー氏は、断定的な表現を避けながらも、笑みを浮かべた。(後略)【4月12日 朝日】
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「過ちは繰返しませぬから」にしても、「謝罪」にしても、日本国内にも異論は(しかも非常に強固な異論が)多々あるところですが、多くの日本人の素直な捉え方としては、広島・長崎の悲劇は戦争に突き進んだ日本も含めて責任を負うべきものであり、今の段階で敢えてアメリカの謝罪云々にこだわるよりは、今後の核軍縮に向けて広島・長崎の悲劇が少しでも役立つならそれはそれで・・・といったところで、今回のG7外相の広島訪問についても大きな違和感はないのでないでしょうか。

オバマ訪問には高いハードルも ただ、ケリー長官は個人的には深い感銘を
今後の話としては、「核なき世界」を掲げるアメリカ・オバマ大統領にも被爆地訪問を・・・ということになりますが、上記のようなアメリカ国内の雰囲気としては難しいものがあります。

今回のケリー国務長官の広島訪問・慰霊碑献花は、アメリカ国内メディアにあっては、基本的には「スルー」だったようです。
とりあげたメディアも、オバマ大統領の訪問についてはナーバスにもなっているようです。

****ケリー広島献花」を受け止められなかったアメリカ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代****
今週11日、G7外相会議で広島を訪れたアメリカのケリー国務長官は、G7外相の一員として広島の原爆死没者慰霊碑に献花しました。また前後して、原爆資料館も見学しています。しかしこのニュース、アメリカの各メディアから基本的にスルーされました。

日米の時差を考えても、アメリカの11日朝のニュースや朝刊には間に合わせようと思えばできたはずです。しかし朝の時点での扱いはほぼゼロでした。その代わり、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどは日中になって電子版で論評を出しました。(中略)

ケリー長官は資料館見学について 「gut-wrenching」 つまりこの場合の訳としては「魂がねじれるような」経験だったと述べています。このコメントについては、私は誠実なものだったと思います。

しかしながら現時点では、アメリカはこの「ケリー献花」という「事実」を受け止めきれていません。メディアが取り上げなかったということ、またケリー長官のコメントを補足する形で、国務省から「今回の献花は第二次大戦全体の犠牲者への追悼である」という「見解」が出たということは、要するにそういうことです。

この点についてニューヨーク・タイムズは、興味深い掘り下げ方をしています。

ジョナサン・ソーブル記者は、ケリー長官の献花を、オバマ大統領の広島献花につなげることが「可能か?」という一点にほぼ絞って分析をしています。そこで日米関係の専門家として、東京財団の渡部恒雄さん(ナベツネさんではありません。民主党の政治家だった渡部恒三さんのご子息です)から「日本人の多くはオバマ大統領が広島に来れば、仮に謝罪の言葉がなくても暖かく迎えるであろう」というコメントを取っています。

一部からは批判も出るかもしれませんが、これは渡部さんのグッド・ジョブだと思います。ですが、ソーブル記者の記事の全体は、オバマ大統領が広島に行くことの是非について、何とも神経質に過ぎる書き方をしていて、とても気になります。

一方でワシントン・ポストのキャロル・モレーロ記者の記事は、G7外相会議の位置づけとして「核拡散防止」というテーマがあったことなど、「ケリー献花」がどのような位置づけで行われたのかを正確に説明する記事で好感が持てました。

興味深かったのは、記事がトランプの「アメリカによる韓国と日本の防衛責任を放棄させる代わりに、両国に核武装を認める」という発言を意識して書かれていたということです。

岸田外相がこのG7外相会議の会見で、このトランプ発言を踏まえての質問に対して「日本は核武装の意思なし」ということを明確にしたことを含めて、トランプの発言がこのG7での「核拡散防止」の努力から見て「ズレまくっている」ことを訴えようとしていました。(後略)
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アメリカとしての立場はともかく、ケリー国務長官は個人的には感銘を受けたようで、オバマ大統領にも訪問を働きかけるとしています。【4月12日 Newsweek】

****オバマ氏、広島訪問を本格検討 ケリー氏「訪れるべき****
広島を初訪問しているケリー国務長官は11日、主要7カ国(G7)外相会合後の会見で「すべての人が広島を訪れるべきだ」と語り、オバマ大統領が広島を訪問することに前向きな姿勢を示した。

オバマ政権は5月のG7首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせたオバマ氏の広島訪問に向け本格的な検討に入っており、ケリー氏訪問後の米国内外の反応を見た上で最終判断する方針だ。

ケリー氏は同日午前11時ごろから約50分間、岸田文雄外相らG7外相とともに、平和記念公園内の広島平和記念資料館(原爆資料館)を参観。原爆死没者慰霊碑に献花した後、自ら提案し、同公園内の原爆ドーム近くにも足を延ばした。その後、自身の公式ツイッターに、「原爆資料館と平和記念公園を訪れた最初の国務長官になって光栄だ」と書き込んだ。

ケリー氏は、資料館の芳名録に「世界のすべての人が記念館の力強さを見て、感じるべきだ」と記載し、ツイッターで写真を公開。

記者会見で、「いつか米大統領もその『すべて』の一人となり、ここに来られることを願っている」と語った。米国に帰国して週内にオバマ氏と会い、「ここで見たこと、そしていつか(オバマ氏が)訪問することがいかに重要かを確実に伝える」とも強調した。

ただ、5月の訪日時に広島を訪問するかは日程調整の問題もあり、「わからない」と述べるにとどめた。【4月12日 朝日】
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なお、核保有国のフランスの外相として各国の外相と共に被爆地・広島を初めて訪問し、原爆資料館などを視察したフランス・エロー外相も、「戦争がもたらす悲惨さを実際に知り、肌で触れて、世界の平和のためにどのような貢献ができるのか改めて考えるよい機会となった」と述べています。単なる外交辞令でないことを願います。

核使用を軽々に扱うような昨今の風潮への歯止めとして
もちろん、現実世界は核兵器があふれ、北朝鮮のように核保有に突き進む国もあります。
日本にしても、アメリカの「核の傘」のもとで安全保障を確保しているのが現実です。

仮に、オバマ大統領が被爆地を訪問したとしても、そうした現実がすぐにどうこうなるものでもありません。

*****進まぬ核軍縮=なお1万5800発が存在****
11日まで広島市で行われた先進7カ国(G7)外相会合は被爆地で初めての開催となる機会を利用し、核軍縮・不拡散に向けた「広島宣言」を発表した。

世界の核軍縮をめぐっては、核拡散防止条約(NPT)上の核保有国である米英仏ロ中の5カ国の核放棄に向けた動きが停滞し、1月には北朝鮮が4回目の核実験を行うなど現状は厳しさを増している。「核なき世界」への道は依然険しい。

世界の核兵器保有国は米英仏中ロにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を含めると9カ国。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2015年1月時点で世界には約1万5800発の核弾頭が存在し、うち90%程度を米ロが保有。中国は14年から10発増えて260発、北朝鮮は6〜8発を保有しているとみられている。

「核なき世界」を唱えるオバマ米政権は10年にロシアとの間で核軍縮条約「新START」に調印。両国は履行を進めているが、ウクライナ情勢をめぐる関係の悪化で、一層の削減に向けた新たな交渉が開始される見通しは立っていない。

1996年に成立した包括的核実験禁止条約(CTBT)は米中やイスラエルなどが未批准のため、発効できていない状態だ。【4月11日 時事】 
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そうした現実はあるにしても、核のボタンを押すということがどういうことを意味しているかを訴える日本からアピールが、「イスラム国」(IS)の掃討作戦について「核兵器が最後の手段だ」と述べ、大統領に就任すれば戦術核兵器の使用も否定するつもりはないと語り、また、「どんな状況であろうと、必要と有れば、たとえ攻撃する場所が欧州であったとしても核を使用する積りだ」と発言、更に、日本・韓国の核保有も容認するような発言を行うアメリカ大統領候補トランプ氏(正直と言えば、正直ですが)に見られるような、核兵器をあまりに軽々に扱うような昨今の風潮へのひとつの歯止めになることは期待されます。 
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タイ  軍政の新憲法案、二大政党がともに反対、国民投票で否決の可能性も タイ民主主義の現状

2016-04-11 23:02:18 | 東南アジア

(新憲法案への反対を表明する反タクシン派・民主党のアピシット党首(中央)【4月10日 neswclip.be】)

総選挙に向けて動き出すタクシン派
タイ軍事政権が民政移管の基礎となる新憲法について最終案を発表したことは、3月31日ブログ「タイ  新憲法最終案発表 1月当初案より更に強まる軍部の影響 タクシン派は国民に拒否を呼びかけ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160331で取り上げました。

その内容は、“(1)議員でない人物が首相になれる(2)上院議員を20の職能分野ごとに間接選挙で選ぶ(3)選挙によらない憲法裁判所などの機関に強い政府監視権限を与える――といった民主化に逆行する制度のほか、選挙に強いタクシン元首相派の封じ込めを狙ったとみられる、単独政党が過半数をとりにくい小選挙区比例代表併用制の導入などが柱だ。”【3月30日 朝日】という、タクシン派封じ込めと軍部の影響力維持を狙ったものとなっています。

タクシン派は当然のように新憲法案を批判、同時に、タイ貢献党の集会で党幹部、支持者らに対し、「総選挙が(予定通りに)来年実施されると確信している」というタクシン元首相のメッセージを大型スクリーンに映し出されるど、来年後半にも予定される総選挙に向けた動きを示しています。(中国と回線を結んだスクリーンとのことですから、タクシン元首相は現在も中国にいるということでしょうか)【4月8日 バンコク週報より】

一方の軍政側は、政権に批判的な者を「態度矯正」施設に拘束し、「再教育」を行うなど警戒を強めています。

****<タイ>タクシン元首相派、動き活発化 総選挙にらみ****
タイ軍事政権下で政治活動を厳しく制限されてきたタクシン元首相派が、徐々に動きを活発化させている。来年後半にも予定される総選挙をにらみ、存在感を誇示する思惑がある。一方、民政移管後も権力温存を狙う軍政側はタクシン派を執拗(しつよう)に警戒しており、締め付けを強化している。

首都バンコクにあるタクシン派政党「タイ貢献党」本部に今月7日、タクシン氏の妹のインラック前首相をはじめとする党幹部や支持者ら約300人が集まった。国外に亡命中のタクシン氏とのテレビ電話がスクリーンに映し出されると、大きな歓声が上がった。

タクシン氏は「政治に関わる者が国民を愛さなければ、民主主義は死んでしまう」と政党政治の弱体化を狙う軍政をけん制した。

タクシン氏は軍政との対立姿勢を強調せず、目立った動きを控えていた。しかし、最近になり海外メディアとのインタビューに応じるなど存在感をアピール。政治活動を禁じられているインラック氏も今年2月、「家庭菜園の披露」を名目に外国メディアを招き、事実上の会見を開いた。

軍政は来年後半にも総選挙による民政移管を予定。だが、その前提となる新憲法案は、国政に軍政の強い影響力を残す内容で、多くの政治家や学者が「非民主的」だと反発している。輸出不振などで国内経済も低迷し軍政に陰りが見えてきた。

タクシン派は、総選挙での巻き返しに向けた機運を高める時期と判断したとみられる。まずは、新憲法案の是非を問う8月の国民投票で支持者に反対を呼びかけ、軍政に揺さぶりをかける方針だ。

対する軍政側の警戒ぶりは異常なほどだ。これまでも批判的な政治家やジャーナリストを「態度矯正」と称し軍施設に拘束してきたが、さらに1週間の「再教育」を施し、締め付けを強化する方針を発表。

先月末には、タクシン氏の旧正月祝いのメッセージを記した赤い小鉢をフェイスブックに投稿しただけで、女性(57)を扇動罪の疑いで逮捕した。【4月9日 毎日】
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選挙に自信を持つタクシン派としては、新憲法に反対云々はともかく、とにかく早いとこ総選挙をやって政権の中枢に返り咲きたい、そうすればどうにでもなる、憲法云々はその後の話だ・・・といったところでしょうか。

反タクシン派も新憲法案反対の姿勢 国民投票で否決の事態も
対する反タクシン派の野党・民主党も、軍部の影響力を温存し、政党政治を弱めることにつながる新憲法案に反対する考えを明らかにしています。

****新憲法案、否決の流れ=反タクシン派も反対表明―タイ****
タイの有力政党、民主党は10日、軍の政治的影響力を温存する内容の新憲法草案に反対する立場を表明した。

既に反対を打ち出しているタクシン元首相派のタイ貢献党と反タクシン派の民主党の二大政党が足並みをそろえたことで、8月7日に実施される見込みの国民投票で草案は否決される流れが強まりそうだ。

民主党は声明で、反対の理由について「プラス面よりマイナス面の方が多い」と指摘。アピシット党首(元首相)は「われわれにとって良い憲法とは、民主主義の原則に基づいて汚職を防止する憲法だ」と強調した。

新憲法草案は、上院議員を軍事政権が任命するほか、軍人の首相就任の可能性にも道を開くなど、軍の政治への関与を保障する仕組み。このため「非民主的」と批判する声が広がっている。【4月10日 時事】 
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ただ、即座に反対表明したタクシン派に比べ、民主党の方は態度表明に10日ほど要しており、複雑な内部事情があるのかも・・・とも思われます。

****民主党、国民投票の追加質問である上院議員による首相選出に反発****
・・・・軍政も民主党も反タクシンではほぼ共通しているものの、政治対立を解消して国民和解を実現する手法に関しては意見が完全には一致していない。

このため民主党は軍政をしばしば批判しているが、現在政治集会が禁じられていることから党の総会が開催できず、今回の表明が民主党の総意かどうかは今のところ不明だ。【4月11日 バンコク週報】
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“現在政治集会が禁じられている”のなら、前出のタクシン派・タイ貢献党の300人集会はどうして認められたのか?という疑問もあります。タイ正月(4月13日)を祝うソンクラン祭にちなんだ前倒し祝賀イベントとして行われたので「政治集会」ではないという扱いでしょうか?

「タクシン派潰し」にやっきとなっているとされる軍政がそうした集会を認めるというのも、よくわからないところです。前回ブログの冒頭写真のように、インラック首相による事実上の海外メディアとの会見も認められています。

それはともかく、タクシン派、反タクシン派双方の政党が新憲法案に反対するということで、新憲法案が国民投票にかけられても否決される可能性が高まっています。

以前から、プラユット暫定首相は国民投票で新憲法草案が否決された場合でも、予定通り来年総選挙を実施する考えを示しています。

****憲法案否決でも来年総選挙=タイ暫定首相が表明****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は26日、今夏に実施される国民投票で新憲法草案が否決された場合でも、予定通り来年総選挙を実施する意向を表明した。

プラユット氏は記者団に、「国民投票で通らなくても、ロードマップに従って選挙を実施する。2017年に行う必要がある」と述べた。ただ、国民投票で否決された場合、新憲法をどう起草するかなど詳細については触れなかった。(後略)【1月26日 時事】
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1月30日ブログ「タイ 新憲法案の「第2次案」発表 タクシン派などの批判は強く、民政移管に向けた先行きは不透明」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160130でも触れたように、新憲法案が否決された場合の総選挙となると、憲法がない状態での民政移管ともなります。

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・・・・だが、憲法がないままの民政移管が可能かは疑問だ。

一部では現行の暫定憲法を適用する案も浮上するが、その場合は「民政移管後も軍政の権限が残る可能性が高い」(憲法起草委メンバー)。

プラユット氏は「私の頭のなかには解決法がある」と語るだけで、具体的な道筋を示していない。【1月29日 毎日】
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政権から与えられるサービスにしか関心がない多くの国民は、新憲法問題に無関心
実際のところ、国民の多くはこうした新憲法問題には無関心ともされており、「非民主的な新憲法草案を多くの有権者が非民主的と読み取れないところに今のタイの病巣がある」との、タイ民主主義の現況を憂う指摘もなされています。

****タイ新憲法草案に潜む危うさ 問われる民主主義 ****
軍政下のタイで憲法起草委員会による新憲法の最終草案が3月29日に発表された。軍人を含む非議員の首相就任が可能となるなど民主化の大幅な「後退」が特徴で、当分の間、軍の直接的間接的な支配が継続する見通しだ。

全権を統率する元陸軍司令官のプラユット暫定首相も「満足している」と述べ、8月にも予定される国民投票に向けて周知活動を進めていく考えだ。

だが、国民の関心は総じて低く場当たり的で、軍政が目指すとしている「国民和解」の実現は困難との見方が広がっている。

 ◆タクシン派封じ込め
最終草案のポイントは大きく3つ。(1)非議員の首相就任を容認(2)上院(250議席)は任命制(3)憲法裁判所の権限強化だ。(中略)

 ◆国民の大半が無関心
こうした政治の舞台での動きとは裏腹に国民の関心はいたって低い。国立ラチャパット大学スアンドゥシット校が緊急に実施した国民意識調査(回答数1158)で草案の内容を「全く理解していない」あるいは「あまり理解していない」と答えた有権者は計55.5%を占め、「よく理解している」「ある程度理解している」の合計44.5%を10ポイント以上も上回った。

国営シンクタンクの国家開発管理研究所が行った世論調査(同1250)でも上院の完全任命制について52.1%が賛成すると回答した。その理由は「政権に対する監視が進んでよい」が多数を占め議会制民主主義を理解しない人が多かった。

富が極度に偏在するタイでは、支配する側とされる側の区分が明確だ。富む者は異様なまでに富に執着し、富まない者は生涯を貧困や無関心の中で生きる。タクシン元首相が国民に受け入れられたのも、こうした現実に一石を投じたからだが、票が「売れる」と分かったためでもある。

国民は時の政権から与えられるサービスに一喜一憂し、為政者はサービス合戦に固執する。これが01年のタクシン政権発足以降のタイの政治だった。

タイの名門タマサート大学で法律学を研究するトゥーイさんもこうした現実を憂慮する一人だ。
「政治家も有権者も自身の利益第一で国の将来を考えようとはしない。タクシン派と反タクシン派の対立も一握りの富裕層の利権争いで政策論争ではない。軍政は国民和解というが、感情論も加わって難しい。非民主的な新憲法草案を多くの有権者が非民主的と読み取れないところに今のタイの病巣がある」と話している。【4月8日 小堀晋一氏 SankeiBiz】
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タクシン派が選挙に強いのも、農民等へのバラマキ政策のためとも言われており、バンコクなど都市中間層がタクシン派に反発するのも、そうした露骨な利益供与に群がる農民等への反発があるとも言われています。

そうした反発は「カネにつられる農民等には選挙で議員を選ぶ資格がない・・・」といった侮蔑にもなり、タクシン派・反タクシン派対立を生む土壌ともなっています。

まあ、確かに“国民は時の政権から与えられるサービスに一喜一憂し、為政者はサービス合戦に固執する”というのはタイ政治の現状でしょう。

ただ、選挙が自分たちの利益を実現すための手段であるというのは、日本を含めて、多かれ少なかれすべての民主主義国にも言えることであり、民主主義の一側面でもあります。

長期的には、民主主義への理解、自己利益だけでなく国政全般への関心を啓もう活動で高めていくということにはなりますが、軍政は新憲法への批判的な言動、軍政の意に沿わない言動を封じ込めようとするだけの対応であり、タイ民主主義の前進につながるものとはなっていません。

****国家安全保障会議、新憲法草案周知キャンペーンの妨害に警鐘****
国家安全保障会議(NSC)のタウィープ事務局長はこのほど、新憲法草案に関する国民投票に影響するような不適切な行為は新憲法草案国民投票法に違反する恐れがあるとして、このような行為を控えるよう呼びかけた。

同法では、不適切な方法で反対票あるいは賛成票を投じさせようとする行為などが禁じられている。そのため、関係当局が監視の目を光らせているが、今のところ違反行為は確認されていないとのことだ。

なお、新憲法草案の内容を国民の理解してもらうためのキャンペーンは選挙管理委員会が展開する。【4月11日 バンコク週報】
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