孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

マレーシア  強まるイスラム重視の風潮 “改革者”としての期待に反したアンワル首相

2024-02-19 23:33:24 | 東南アジア

(【2018年10月17日 日経】)

【強まるイスラム重視の流れ】
イスラム教を国教とするマレーシアは多民族・多宗教国家です

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マレー系のマレーシア人はほぼ100%イスラム教徒です。 そのためマレーシアの国教はイスラム教とされていますが、マレーシア全体の人口の約25%を占める中国系は仏教、約7%を占めるインド系はヒンズー教を信仰していることが多く、多民族国家であるマレーシアは信教の自由も認められている国です。【White Bear Family】
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ただ、インドネシアでもそうですが、近年イスラム教重視を求めるマレー系住民の声が強まっています。

そういう状況にあるなかで、最高裁は、マレー系住民が多数を占める北部クランタン州で制定された同性愛などを禁止したイスラム法を違憲無効としました。

****マレーシア最高裁、イスラム法の一部に無効判断 同性愛禁止など*****
マレーシア連邦裁判所(最高裁)は9日、北部クランタン州で制定された一部のイスラム法を違憲とする判断を示した。他州の同様のイスラム法にも影響を与える可能性がある。

マレーシアの法制度はイスラム教徒に適用されるイスラム法と世俗法が並存する二重構造で、イスラム法は州議会が、世俗法はマレーシア議会が制定する。

同性愛や近親相姦、賭博、セクシャルハラスメント、礼拝所の冒涜(ぼうとく)などを犯罪と見なすクランタン州の16の条項について、連邦裁判は「無効」との判断を示した。これらの問題はマレーシア議会の専管事項で、同州には法律を制定する権限はないと指摘した。

連邦裁には約1000人が裁判に抗議するために集まり、厳しい警備が敷かれた。

モハド宗教相は判決後に声明を発表し、イスラム法制度は憲法の下で保護されており、政府はイスラム教徒を対象としたシャリア法廷を強化する措置を取ると表明した。【2月9日 ロイター】
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今回判決はイスラム重視の流れに一石を投じたものではありますが、裏を返せば、本来の権限を超えて市民生活を規制しようとするイスラム重視の流れが強まっている現実を示してもいます。

そして、クランタン州のシャリーア法(イスラム法)拡大に異議を唱え訴訟を起こした女性(イスラム教徒)は、保守的なイスラム教徒からの殺害の脅迫、「痛烈なキャンペーン」を受けており、更に、議論の高まり、イスラム保守派の怒りを利用してイスラム重視の流れに乗ろうとする政治家も存在します。

****クランタン州のシャリーア拡大に異議を唱えたマレーシアのイスラム教徒****
香港の英字新聞「SCMP(South China Morning Post/サウス・チャイナ・モーニング・ポスト/南华早报/南華早報)」のハディ・アズミは2024年02月12日に、クランタン州のシャリーア法拡大に異議を唱えたマレーシアのイスラム教徒は、殺害の脅迫、「痛烈なキャンペーン」を激しく非難していると報告した。

テンク・ヤスミン・ナスターシャとその母親は、クランタン州のシャリア法の拡大をめぐり法的異議を申し立てた後、「イスラム教の神聖性に対する脅威」として告発された。

アナリストらによると、活発な国民議論を巻き起こし、一部の野党政治家が分裂を「煽る」きっかけとなったこの訴訟で、連邦裁判所は彼らに有利な判決を下した。

クランタン州でシャリーア法の拡大に異議を申し立て、成功したマレーシア人のイスラム教徒女性2人が、判決を理解していない「痛烈なキャンペーン」で殺害の脅迫を受け、信仰を疑問視されたことを受けて、月曜日、批判者たちに反撃した。

母親の弁護士ニック・エリン・ズリナ・ニック・アブドゥル・ラシッドとともにクランタン州議会に対して法的異議申し立てを行ったテンク・ヤスミン・ナスターシャは、「X」への投稿で「私たちの国におけるイスラム教の神聖さのために。」と述べた。

2024年02月09日金曜日、連邦裁判所はニック・エリンとヤスミンに有利な判決を下し、イスラム主義者が支配するクランタン州の州議会は確かに連邦管轄権を踏み越え、州のシャリーア法典の18の法規定のうち16条を削除したと述べた。

この判決の根拠は、信仰の問題ではなく、マレーシア連邦政府とその13の州の間の権力分立に関するものであった。

しかし、この事件は全国で活発な公的議論を巻き起こしており、イスラム主義者政治家が注目の宗教問題で選挙で有利になるとの匂いを嗅ぎつける一方で、イスラム教徒多数派を含む反対派は国を巻き込んだ文化戦争から身を引こうとしている。(後略)【2月13日 DigitalCreator note】
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イスラム重視の流れは、映画製作などの表現の自由を制約するものともなっています。

****レーシア映画界、海外受賞に水差す国内検閲強化****
マレーシア映画は2023年、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で受賞し、製作陣にとって輝かしい年となった。しかし、国内では映画検閲が強化され、製作者が殺害予告を受けるなど、せっかくの世界的成功によって広がった希望が消えかねない状況だ。

イスラム教徒が多数を占めるマレーシアでは、宗教的、文化的、道徳的価値観を侵害したり、攻撃的と見なされたりするコンテンツを制限する動きが日常化している。

だが、映画「メンテガ・テルバン(Mentega Terbang)」によって「宗教的感情を傷つけた」として今年1月、映画製作者2人が刑事訴追されたのは異例の出来事だった。

映画人は、こうした動きが創造的な表現を抑圧し、投資を阻み、海外での受賞効果を損なうのではないかと恐れている。

昨年はマレー語の映画「タイガー・ストライプス」がカンヌ国際映画祭の批評家週間グランプリを受賞したほか、米アカデミー賞ではマレーシア出身のミシェル・ヨーさんが主演女優賞を受賞した。

メンテガ・テルバンの製作者として刑事訴追された1人、カイリ・アンワル氏は「今は好機だ。(中略)世界中の人々がマレーシアの映画製作者に注目している。今、その好奇心に答えなければ機を逸し、取り戻すのはかなり難しいだろう」と語った。

メンテガ・テルバンは、10代のイスラム教徒の少女が悲しみと向き合いながら、他のさまざまな宗教の扉をたたいていく姿を描いた映画で、2021年に配信サービス「Viu」で公開された。マレーシアでは、オンラインプラットフォームは映画検閲の対象外となっている。

しかし、Viuは23年2月、この映画の配信を停止した。イスラムの教えに反すると見なされたシーンを巡り、一部のイスラム教団体が怒りの声を上げたからだ。

地元メディアによると、映画検閲委員会を監督する内務省は昨年8月、「公共の利益に反する」として、この映画の上映と宣伝を全面的に禁止した。

この映画製作に携わったカイリ氏などの関係者は当時、殺害予告まで受けたと報じられている。

映画監督のバドルル・ヒシャム・イスマイル氏は「映画製作者は制約のある環境だけでなく、身の安全や法的な問題にも対処しなければならなくなった」と指摘。「恐怖の風潮が生まれるのは間違いない」と懸念を口にした。

マレーシアは22年11月、進歩的で改革派と見られていたアンワル首相率いる連立政権が誕生し、政策改革や表現の自由拡大が期待されていた。だが、実際にはイスラム保守主義が広がっている。

最近の選挙では、超保守的な野党がマレー系イスラム教徒の間で人気を博しており、アンワル首相はイスラム教徒としての信仰を証明する必要に迫られていると、専門家は言う。(後略)【2月11日 ロイター】
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【22年総選挙の真の勝者はイスラム政党PAS】
長年権力闘争によって政治迫害を受け、長期の投獄も経験した“進歩的で改革派と見られていた”アンワル氏が率いる政治勢力は2022年11月の総選挙で最大議席を獲得しましたが、単独過半数には至らず政治混乱もありましたが、結局第三勢力と組む形で“念願の”政権を獲得しました。

****マレーシア次期首相にアンワル元副首相が就任へ****
マレーシア王室は(22年11月)24日、国王がアンワル元副首相を次期首相に任命することに同意したと発表しました。

19日に投開票が行われた連邦議会の下院選挙では、アンワル元副首相が率いる野党の「希望連盟」が最大の82議席を獲得。ムヒディン前首相をトップとする与党「国民同盟」を上回りましたが、首相就任に必要な過半数の信任を集められず、首相が不在の状態が続いていました。

首相の任命権をもつアブドラ国王が仲裁に乗り出して連立内閣を提案していましたが、24日、第三勢力の「国民戦線」が「希望連盟」との連立を決めたことでアンワル氏が過半数を確保し、任命に至りました。

このあと、日本時間の午後6時から行われる宣誓式を経て正式に首相に就任し、組閣に着手することになります。【2022年11月24日 TBS NEWS DIG】
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アンワル首相自身はマレー系ですが、過去のマハティール元首相との権力闘争で与党から追放され、政治的容疑で投獄されるというアウトサイダー的な立場にあります。また自身の迫害の経験を踏まえて既存社会の改革を目指すアンワル氏の率いる政治勢力には華人中心の政党も含まれており、これに忌避感を示すマレー系政治家も多く存在します。

現在のイスラム重視の流れは、22年総選挙ですでに明示されていました。

22年11月総選挙でアンワル氏の政治勢力「希望連盟」(PH)が最大議席を獲得した・・・とは言うものの、単独政党で見ると最大議席を獲得したのはイスラム主義政党の「全マレーシア・イスラム党」(PAS)でした。

****保育園を運営、イスラム法導入を訴える真の「勝者」──マレーシア総選挙****
<総選挙ではいずれの政党連合も過半数を獲得できなかったが、結局、ベテラン野党指導者のアンワルが新首相に。だが注目は、欧米の「常識」に反するマレー系中心のイスラム政党PASだ>

マレーシアの新首相は、多民族的で進歩的な政党連合、希望連盟(PH)を率いるベテラン野党指導者のアンワル・イブラヒム元副首相か、マレー系とイスラム教徒中心の保守的な国民同盟(PN)のリーダーで、首相経験者のムヒディン・ヤシンか──。

11月19日、マレーシアで行われた第15回総選挙では、いずれの政党連合も過半数を獲得できず、政局は行き詰まりに。政権樹立に向けた交渉の結果、24日にアブドゥラ国王の任命を受けて首相に就任したのはアンワルだった。

だが真の「勝者」は、PNの一角である国内最大のイスラム政党、全マレーシア・イスラム党(PAS)だ。
下院222議席のうち、PASの獲得議席は単独政党として最大の49議席。2018年の前回総選挙での18議席から2倍以上増やした。

「万年与党」衰退の裏で
従来、PASの支持は主に、マレー系住民が多いマレー半島部の北部4州に限られていた。
シャリーア(イスラム法)導入を唱え、マレーシア人を「マレー系イスラム教徒」と定義するPASが中央政界で一大勢力に台頭するなか、マレーシア政治の未来に与える影響は未知数だ。

同国では、長らく与党の座にあった統一マレー国民組織(UMNO)を中心とする国民戦線(BN)体制が劇的に崩壊している。2018年総選挙では、BNがPHに敗北。マラヤ連邦として独立した1957年以来、UMNOは初めて下野した。

それでも今回の総選挙前、昨年8月に首相を辞任したムヒディンの後を継いだUMNO出身のイスマイルサブリ首相(当時)ら指導層は強気だった。州議会選挙でBNが圧倒的な勝利を続けていたからだ。

だがふたを開けてみれば、UMNOとBNはもはや勢力図から消えたのも同然だ。BNの獲得議席はわずか30議席で、2018年総選挙(79議席)と比べても大幅に数を減らした。

PASが伸張した主な理由は、UMNOをはじめ、マレー系主要政党にはびこる汚職や内紛と無縁なイメージをつくり上げたことにある。

UMNOは、マレーシアの政府系ファンド1MDBをめぐる不正疑惑から完全には立ち直っていない。
2018年、UMNO党首のナジブ・ラザク首相(当時)は1MDBから巨額を不正に受け取ったと報じられるなか、総選挙で敗北。今年8月に有罪判決が確定し、収監された。

一方、数十件に上る汚職容疑で起訴されていたUMNOの現党首、アフマド・ザヒド・ハミディは9月に無罪判決を受けたばかりだ。

重要なのは、PASが多くの点で、単なる政党を超えた存在になっていることだ。幼稚園・保育施設ネットワークを運営し、草の根レベルで政治的存在感を徐々に築き上げてきた。

欧米での「常識」に反するようだが、同党はマレー半島の地方部で、女性や若者の支持を獲得している。
そのおかげか、選挙権年齢の18歳以上への引き下げや自動的な有権者登録が実現してから初の総選挙となった今回、初めて投票する人が記録的に増えたことで、PASは大きな恩恵を受けた。

特に地方の場合、若年層有権者がより進歩的で多元的な政党に投票するとは限らないと、総選挙の結果は改めて告げている。

民族暴動の悪夢が蘇る
PASの成功が示唆するのは、マレー人ナショナリズムの担い手だったUMNOがおそらく末期的衰退に陥った一方で、UMNO体制を支えたマレー人至上主義自体は衰えていないという事実だ。

実際、PAS支持の拡大は、マレー系住民のアイデンティティーをイスラム教と結び付ける姿勢の広がりを意味している。

その躍進の影響を推し量るのは困難だ。アンワル首相の下で誕生する見込みの大連立政権には、PASが加わるPNも合流するとみられる。議席数を背景に、PASは主要閣僚ポストを要求し、排他的なマレー系中心主義を推し進めるかもしれない。

たとえ政権に参加しなくても、今や同党が中央政界のカギを握る存在であり、マレー系有権者の票をさらに取り込む可能性があるのは明らかだ。

より長期的には、政治的イスラム教の復活が持続するのか、多民族国家というマレーシアの現実がもたらす限界に直面するのか、見極めるのは難しい。

だが少なくとも、独立以降のマレーシアに付きまとう民族間の分断は、深まることになりそうだ。

警戒すべき兆候は既に表れている。総選挙後の数日間、マレーシアでは反中国系運動がオンラインで吹き荒れた。
市民社会組織がつくる団体によれば、TikTok(ティックトック)への投稿を中心にしたバッシングは「資金力豊富で、組織化された」もの。PHの一角である中国系の民主行動党(DAP)への敵意をあおり、PN政権樹立を呼び掛けていたという。

なかでも不吉なのは、1969年5月13日に首都クアラルンプールで起きた民族暴動への言及だ。マレー人と中国系住民が衝突し、死者200人近くを出したこの惨事は民族間の亀裂を深める契機になった。

「5.13事件に触れた投稿は深刻化する社会的緊張に付け込み、恐怖を生み出している」と、市民社会組織側は危惧する。「人種や宗教をめぐって既に分断化した社会を分裂させ、あからさまな暴力を扇動するものもある」【2022年11月28日 Newsweek】
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【政権維持に埋没し“改革者”としての成果を示せていないアンワル首相】
イスラム主義政党を含む勢力との連立という不安定な形でスタートした政治事情のせいか、“進歩的で改革派と見られ”、東南アジア民主主義の成長の観点からも期待されたアンワル氏ですが、これまでのところ政治成果を出すには至らず、政権維持に埋没しているように見えます。

****自己矛盾続けるマレーシア・アンワル首相 〝希望の星〟でも政治改革は達成できないのか****
Economist誌1月6日号のコラム‘Anwar Ibrahim, Malaysia’s prime minister, is wasting his opportunity’は、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相について、長年求め続けてきた首相の座に就いたが、折角の機会を無駄にしている、と批判している。要旨は次の通り。  

アンワル首相は就任して1年余りになるが、彼の権力への道を象徴する2つのテーマは、第一にどのグループの人々を代表するのか、第二に権力を用いて何をするのか、である。  

アンワルは、その経歴のほとんどの期間において、「改革」を唱えてきた。彼は、マレーシアの制度を近代化し、より民主的で政治的干渉を受けにくいものにすると主張してきた。  

カネと政治の卑劣な関係を断ち切ると誓い、公平でより生産的な経済を約束した。多民族国家を目指し、都市部の中国系・インド系の少数民族やリベラルなマレー系から支持されている。  

しかし、アンワルは移り気で、その政策にいまだ本格的に取り組んでいない。その代わり内輪の支持固めで成果を挙げている。今や連立与党は議会のほぼ3分の2の議席を占めている。しかし、連立基盤を更に拡大しようとするアンワルの試みは、政策面での不愉快な妥協に追い込まれている。  

連立政権には統一マレー国民組織(UMNO)も参加している。同党は、2018年に政権から追放されるまで、独立後のこの国の政治を一貫して掌握していた。アンワル自身もこの政権の転覆の一端を担いだ。

しかしUMNOの党首であるザヒド・ハミディは背任、汚職、資金洗浄などの数十件の容疑で起訴されていたが(昨年9月に高等裁判所が唐突に不起訴処分)、アンワル政権の副首相の地位に就いている。  

アンワルの支持者を落胆させているのは、彼がUMNOを支援していることだけではない。裁判所は依然として政治的介入を受け易い環境にあり、余りにも多くの権力が首相官邸に集中している。闇金融に関する法律の制定は進んでいない。  

二極化した社会全体に寛容を行き渡らせるようなことは、ほとんど何もしてこなかった。むしろマレー人の排外主義と宗教性に益々迎合している。   

次の選挙でアンワル率いる「希望の同盟」が単独過半数を確保すれば本格的な改革が始まるのかもしれないが、選挙は 2027年まで予定されていない。アンワルの明らかな改革放棄には代償が伴う。  

マレーシアの選挙民は政治に対する幻滅を次第に強めている。長年改革を約束してきたその推進者は、今ではむしろ改革への邪魔者のように映っている。(後略)【2月9日 WEDGE】
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韓国  進む対日感情好転 持続性は・・・ 内政では医療改革問題、外交ではキューバと国交樹立

2024-02-18 22:33:03 | 東アジア

(“居酒屋「ロバタカミ」はすべて日本語だ。英字はあるがハングルはなく、掲示しているポスターも日本語だ”【2月13日 佐々木和義氏 Newsweek】 ロバタは炉端焼きの意味? ではカミは?)

【対日感情の好転は持続するのか? 克日の時代は過ぎ去ったのか?】
日本と韓国の間には竹島をめぐる争い、徴用工や慰安婦の問題など根深い歴史問題が存在し、事あるたびに反日の嵐が吹き荒れる・・・という構図が続いていますが、一方で、尹大統領の保守政権のもとで日韓関係の改善が図られ、韓国における国民感情にあっても、日本に対する刺々しさが薄れているというのもまた事実です。

ただ、日韓関係改善の動き、対日感情の好転が今後起こり得る政権交代後も継続するのか・・・という点では不安視する見方もあります。

****「ノージャパン」はどこへ......韓国ソウルの街角に日本語看板が急増! その背景は?****
<ソウルで日本語看板を掲げる店が増え、注目を集めている。韓国の屋外広告物法には言語表記の規制があり、この現象は賛否両論を呼んでいる。日本文化への憧れと歴史的背景が複雑に絡み合い、新たな文化的流れを形成している......>

いま、ソウルで日本語看板を掲げる店が話題になっている。日本風の店構えで看板表記も日本語のみという店が登場したのだ。これまでも日本風店構えの日本式居酒屋は存在したが、日本語とハングルを併記していた。最近、ハングル表記は注意してみないと気づかないほど小さい店や表記は日本語のみでハングル表記のない店が現れた。
 
日本語看板の増加、ソウルの新風景
明洞に隣接する乙支路3街は、日本が韓国を統治した時代の日本人居住区で、いまでも日本家屋が残っている。その日本家屋の奥にある中華料理店「自由軒」は、日本式中華料理を謳っている。店名や暖簾から店頭に掲示したアルバイト募集告知に至るまで日本語で、店内も日本の中華料理店に倣っている。メニューはもちろん韓国語だが、メニュー以外のハングル表記は注意してみないとわかりにくい。

自由軒の隣にある居酒屋「ロバタカミ」はすべて日本語だ。英字はあるがハングルはなく、掲示しているポスターも日本語だ。自由軒とロバタカミが店を構える路地には日本語看板が並んでいて、まるで東京か大阪のようだという声や写真をSNSに投稿直後、日本に旅行中かと尋ねられた人もいる。日本語看板は龍山区の龍理団通りや若者の街として知られる大学路でもみられるという。

多様な言語看板、法的枠組みと現実
韓国は屋外広告物法施行令で、看板や広告物など韓国語表記を義務付けている。事情によって外国語とする場合も外来語表記法に則ったハングルを併記しなければならない。

実際には梨泰院や東大門、中国人居住区など、地域によって英語やロシア語、中国語などの看板があり、最近はタイ語やベトナム語も目にするようになった。自治体等に相談する市民もいるが、法令上、面積5平方メートル以上の店舗や建物の4階以上に設置された表示について是正を要求できるとされているだけで、処罰条項がないことから取り締まりなど行われていないのが実状だ。

乙支路3街で19年4月から居酒屋「由佳の家」を経営する岩嵜さんは日本語表記に肯定的だ。岩嵜さんによると、昨今のハイボール人気で日本式居酒屋が増えてきたという。日本式居酒屋が軒を並べ、日本語表記が話題になれば日本料理を求める人が集まってきて地域の活性化にも繋がるだろうと話す。(中略)

文化交流か模倣か、看板論争の核心
日本語看板に関して賛否両論が渦巻いている。日本語に限らず、さまざまな言語表記で個性を出す店が増えて興味深いと前向きにとられる声や「日本っぽい雰囲気だと知ってわざわざ訪ねてくる利用者がいる」という店員もいる。

その一方、日本の統治に言及し、過去を忘れて日本文化をもてはやすかのようだと拒否感を示す声もある。

19年下期から広がった日本製品不買運動と続くコロナ禍の外出規制で多くの日本料理店が苦境に立たされ、閉店した店や商売替えをした日本料理店も少なくない。日本寄り政権の誕生と空前の日本旅行ブーム、ハイボールブームが相まって日本式居酒屋が急増するが、筆者ら日韓ビジネス従事者がノージャパンを忘れることはない。

27年の次期大統領選で反日政権が誕生する可能性はゼロではなく、日本ブームは選挙戦がはじまる26年下期以降、どうなるか予断を許さないと考える。新たに開店した日本式料理店が果たして消費者に受け入れられるのか、さらには何軒が生き残ることができるのか。一過性のブームで終わる可能性は否めない。【2月13日 佐々木和義氏 Newsweek】
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****韓国、旧正月連休の旅行先も日本が圧倒的人気=ネット「日本を超える国はない」「道頓堀はほぼ韓国人」****
2024年2月13日、韓国・アジア経済は「今年、旧正月連休の海外旅行者数が新型コロナの感染拡大後で最多を記録した」「目的地は日本が圧倒的1位だった」と伝えた。(中略)

旅行予約プラットフォーム「Klook」が発表した旧正月連休(9〜12日)の海外旅行現況によると、今年は連休が短いことから短距離旅行の人気が目立ち、最も多く予約された旅行地は断トツで日本だった。次いで香港、ベトナム、タイ、台湾が続いた。

日本旅行需要は旧正月連休後も続くとみられている。日本は再訪率が非常に高く、宿泊プラットフォーム「ヨギオッテ」の調査によると、昨年に2回以上日本を訪れた旅行客のうち75.0%が「今年も日本へ行く」と回答した。

旅行業界関係者は「今年も前半までは円安が続くとみられるため、東京や大阪、北海道などのメジャーな観光地だけでなく、地方都市を訪れる韓国人観光客もさらに増えると考えられる」と予想したという。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「正直、世界中どこへ行っても日本を超える国はない。治安、グルメ、飛行機の時間などあらゆるものを考慮して日本が一番だ」「日本は『また行きたい』と思う。それだけ良い思い出がたくさんあるということ」「大韓民国大阪府大阪市道頓堀になりつつある。ほぼ韓国人しかいない(笑)」「4人家族で済州島に行こうと計画していたけど、大阪旅行の方がはるかに安かったから大阪に行ってきた」「日本は安い、清潔、おいしい。ぼったくられる済州島に行く理由はない」「外国にもぼったくりはある。でも自国民を相手にこんなにも大胆にぼったくりをする国は韓国以外に見たことがない」などの声が寄せられている。【2月13日 レコードチャイナ】
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****韓国の対日好感度が過去最高=中国では実施できず―世論調査****
公益財団法人「新聞通信調査会」は17日、世界5カ国で実施した世論調査の結果を公表した。日本に対し「好感が持てる」と答えた割合は韓国で44%となり、2年連続で過去最高を記録。一方、今回は中国で調査自体ができなかったほか、欧州でも一部の質問が見送られた。

 調査は2023年11〜12月、米国、英国、フランス、韓国、タイで電話やオンライン、面談で実施。それぞれ約1000人から回答を得た。

 対日好感度が最も高かったのはタイで91.1%。次いでフランスが81.5%、米国が80.4%、英国が71.1%だった。韓国では対日関係の改善を背景に、前年調査から4.1ポイント上昇した。(後略)【2月18日 時事】 
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今後については予断を許さない・・・確かにそのとおりですが、ただ、現在の対日関係の改善は単に一時的なものにとどまらず、その背景には両国の実情の変化も存在しているように思えます。

日本の1人当たり名目GDP は2031年に韓国、2033 年に台湾に抜かれると予測されており、経済協力開発機構(OECD)によると、購買力平価による1人あたりGDP(2020年)で韓国は5万3050ドル、日本は4万8810ドル、すでに2018年に日韓は逆転しています。

こうした経済状況、更には文化などもろもろの面での韓国側の成長・進展もあって、日本に対する屈折した感情がほぐれつつある側面もあるように思えます。

以前のブログでも取り上げたように、保守系メディアという条件付きながら、「克日の時代は過ぎ去った」「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」と論ずる韓国メディアも。

****「克日の時代は過ぎ去った」と韓国紙、「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」とも****
日本と韓国の関係をめぐり、朝鮮日報は東京特派員発のコラムを掲載した。この中では「克日(日本に追い付き、追い越せの意)と呼ばれていた時代は過ぎ去った」と強調。「日本の背中だけを見て走っていれば万事オーケーだった時代は終わり、これからは日本と並んで歩く方法を自ら探し出していかなければならない」と訴えた。

コラムはまず11月28日、東京ドームで開かれ、日本のロックグループ「X JAPAN」のリーダー、YOSHIKIが出演した「2023 MAMA AWARDS」を紹介した。

YOSHIKIが演奏する1980年代の名曲「エンドレスレイン(Endless Rain)」のピアノの旋律が流れると、「韓国のアイドルグループTOMORROW X TOGETHERのテヒョンが最初のフレーズを歌った。『わあ』という歓声は一瞬、東京ドーム全体を埋め尽くした。21歳のKポップアイドルが58歳を迎えたJポップの伝説、X JAPANのYOSHIKIと日本の観客の前に立ったのだ」と説明した。

続いて2日後には、日本の知性を代表する東京大学の安田講堂に崔泰源(チェ・テウォン)SKグループ会長が登場。崔会長は英語で「韓国と日本が享受してきた『単一の世界経済圏』時代はほぼ終わりを迎えつつある」とし、「(経済分断の時代に)米国と中国、EU(欧州連合)はそれぞれ25兆ドル(約3600兆円)、18兆ドル、16兆ドル経済圏を持っているが、日本と韓国は1国では小さな市場だ」と述べ、「2050年、世界で最も古い国となる韓日が一緒に7兆ドルの経済圏をつくろう」と提唱した。

これについては「韓国の高度成長期を導いた60〜70代の読者にはなじみのない光景だろう」と言及。「1960年代に経済復興に乗り出した韓国は、『克日』を掲げ、日本の進んだ経済、産業、文化を学ぶ立場にあった。『アジアの四竜』と自ら言い聞かせたが、当時世界2位の経済大国だった日本と比較するにはあまりにも恥ずかしいのが現実だった」と述べた。

そして「韓国の財閥は日本の技術者を週末に工場に連れてきてはノウハウを授かり、夕食をもてなした。テレビ局のプロデューサーは東京に一度赴いては旅館に閉じこもってテレビ番組だけを一晩中研究し、韓国の番組に応用してきた時代だ」と回顧した。

さらに「日本の歌謡曲のコピーとうわさされた韓国の人気曲の盗作論議は得てして事実だった」と指摘。「『技術であれ歌であれ、甚だしくは失敗までもすべてコピーする』という日本の皮肉を聞く羽目になった。サッカーの韓日戦でなんとか日本と対等に渡り合える韓国を感じながら慰められてきた時期だ」とも振り返った。

コラムは「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が今年7回も岸田文雄首相と会見したのも、隣国日本と対等に生き抜く方法を模索していく過程だったのかもしれない」と論評。「東大で出会った大学生は『老衰した日本経済を案じる韓国の崔会長の忠告を肝に銘じたい』と語った。韓国も同じことだ」と結んだ。【12月31日 レコードチャイナ】
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【伊政権の進める“医学部定員増”に医師が猛反発 世論は政府方針に賛成】
その韓国で今議論になっているのが政権が進めようとしている医学部の定員拡大による医師不足解消。医師の側は猛反発し、研修医たちが一斉に退職届を提出する事態にもなっています。

****韓国の“医学部定員増”に医師が猛反発…一斉退職の動きも 政府と対立****
日本でも医師不足は問題となっていますが、同様の悩みを抱えるのがおとなり韓国。解決策として韓国政府は医学部の定員拡大を発表しましたが、これに医師たちが猛反発しています。(中略)

医師たちは何に反対しているのか…
韓国 保健福祉相 「2025年度から医学部の定員を2000人増やし…」
韓国政府が医療改革の一環として進めている医学部の定員拡大に猛反発しているのです。

韓国では2035年には医師が1万5000人不足すると予測されていて、政府は対策を講じる必要があると説明しています。しかし、医師でつくる団体は…(中略)大幅に定員を増やすことで「医学部生の教育の質が低下する」と指摘し、「増員だけが解決策ではない」などと訴えているのです。

実は今の尹錫悦政権だけでなく、4年前の文在寅政権も医学部の定員拡大を試みましたが、この時は医師の団体がストライキを決行し、立ち消えとなりました。

今回はソウルの5大病院などの研修医たちが一斉に退職届を提出し、近く診療を行わないと決断。医療現場の最前線を担う若い医師たちがいなくなれば、影響は避けられません。一方、政府は…

保健福祉部 パク・ミンス第2次官 「診療を拒否した研修医に対しては個別に業務再開命令を発し、違反した場合は相応の法的措置を講じるつもりです」

厳しい姿勢で臨む考えです。ソウル市民に聞いてみると…
市民 「病院に行ってみると、いつも待ち時間が長すぎる。患者の立場では、もっと治療を受けられるんじゃないかと、それで賛成です」 「(医師は)賢い方々なのに、あまりにも自分たちの主張だけに固執するのは、正直、正しいとは言えないと思います」 「政府とうまく話し合い、国民が被害を被らないよう、お互いに妥協しなければなりません」

きょう発表された世論調査では、8割近い人が医学部の定員拡大に賛成しています。
韓国では地域間の格差や診療科ごとの医師の偏りなどの課題も指摘されていて、政府は速やかに医療改革を進めたい考えです。【2月16日 TBS NEWS DIG】
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総合的に考えた場合、やはり医療改革は必要と考えられること、世論も政府方針に理解を示していることから、政権側は強気姿勢です。この争いは政権側に分がありそうで、うまく乗り切れば伊大統領・与党の支持率アップにも繋がるかも。(現在は尹大統領の支持率33%、 与党37%・最大野党31%)

****研修医715人が退職届提出 医学部定員増に反発=韓国****
韓国の曺圭鴻(チョ・ギュホン)保健福祉部長官は18日、政府が発表した大学医学部の入学定員拡大に反発し、全国で専攻医(研修医)715人(16日時点)が退職届を提出したと明らかにした。退職届が受理されたケースはまだないという。

曺氏は、専攻医らが集団退職などの団体行動に乗り出す場合、国民の健康と生命を守るために必要な措置を取ると改めて強調した。政府は医師らの違法な団体行動に対しては法と原則に従って厳正に対応する方針を示している。

保健福祉部は自治体や公共病院などと共に非常診療体制を確立し、医師らの団体行動に備えている。(後略)【2月18日 聯合ニュース)】
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****韓国首相「医師の団体行動」自粛を求める 医協は直後に警告声明****
韓国政府が発表した大学医学部の入学定員増に反発して医師たちが団体行動に乗り出す動きをみせていることを受け、韓悳洙(ハン・ドクス)首相は18日、「実際の行動につながり医療空白が生じれば、その被害はそのまま国民に及ぶ」と、自粛を求める談話を発表した。

また、医師たちの集団行動による医療空白は、国民の生命と健康を「交渉材料」とする、あってはならないことと指摘した。

韓氏は、医師不足の解消に向けた医学部の入学定員増の必要性に言及し、「絶対的な医師数が確保できなければ、医療改革は絶対に成功できない。医学部の入学定員増はこれ以上先送りできない」と強調。特別法を制定して医療事故のセーフティーネットをつくるほか、2028年までに10兆ウォン(約1.1兆円)以上を投じ、診療報酬を引き上げるとした。

大韓医師協会(医協)の非常対策委員会は韓首相の談話発表直後、「政府が医大生や専攻医(研修医)の自由意思に基づいた行動に違憲的なフレームを当てはめて処罰するなら、医療の大災害を招くことになる」と警告する声明を出した。

医協の非常対策委は「首相の談話は医師の自律的な行動を抑圧して処罰する名分づくりに過ぎない」と指摘した上で、「医師を悪魔化し、魔女狩りする政府の姿勢が少しも変わっていない」と遺憾を表明した。(後略)【2月18日 聯合ニュース)】
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【北朝鮮の友好国であるキューバと国交を樹立 北に政治的・心理的な打撃か】
外交面での動きとしては、対立が先鋭化している北朝鮮の友好国である社会主義国キューバと国交を樹立しました。

****キューバとの国交樹立 北朝鮮に「相当な打撃」=韓国大統領室****
韓国大統領室の高官は15日、北朝鮮の友好国であるキューバと外交関係を樹立したことについて、記者団に「過去の東欧圏諸国を含め、北の友好国だった対社会主義圏外交の完成版」と評価した。

韓国とキューバは14日(現地時間)、米ニューヨークで両国の国連代表部が文書を交わし、正式な外交関係を結ぶことで合意した。

同高官は「歴史の流れの中で大勢がどのようなものなのか、そしてその大勢が誰にあるのかを明確に示したもの」と述べた。また、キューバが北朝鮮の「兄弟国」とも呼ばれたことについて、「正しい表現だ。そのため、北としては相当な政治的・心理的な打撃が避けられないとみられる」との認識を示した。【2月15日 聯合ニュース)】
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中南米・カリブ地域で韓国と国交がなかったのはキューバだけでしたので、国際舞台で影響力強化をはかる韓国にとっては、大きな成果となります。

北朝鮮への“打撃”という点では、北朝鮮はロシアなどと関係を深めており、実質的な影響は限られると思われますが、政治的・心理的な打撃はありそう。

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欧州  移民に関する状況 来て欲しくない「本音」、一方で経済的には一定に必要

2024-02-17 23:21:14 | 難民・移民

(1月27日、ドイツ西部デュッセルドルフでAfDへの抗議デモを実施する市民ら(ロイター)【2月15日 産経】)

【ドイツ 移民追放謀議の極右政党への抗議行動続く】
ドイツで移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢力が拡大しており、“第1党となるのは時間の問題”との予測もある現状、一方で、ナチズムへの反省を踏まえて、AfDへの抗議行動も起きていることは、1月23日ブログ“ドイツ  移民排斥の右派(極右)政党AfDの伸長 強まる警戒感 ナチスを連想させる移民追放謀議も”で取り上げました。

AfDへの抗議行動のきっかけとなったのは、AfDのワイデル共同党首の側近らが出席した会議で移民追放の謀議がなされたとの報道でした。

****ドイツの「移民追放計画」に全国デモ 欧州で極右への警戒強まる****
ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部らが移民の大規模な排斥を謀議したとの疑惑が波紋を呼んでいる。

AfDに対する抗議集会が全土で実施され、数十万人が参加。与党からAfDの党活動禁止を求める声も上がった。フランスでも極右政党の意向を反映した移民法に反対するデモが発生。6月の欧州議会選を前に右派の台頭への警戒が強まっている。

「人種差別にNOを」
ドイツ全土で20、21両日に実施された抗議集会にはAfDや極右を批判するプラカードを掲げた市民が集まった。20日には各地で計30万人以上が結集。21日にベルリンで開かれた集会には最大で10万人が参加した。26、27日にもフランクフルトやデュッセルドルフでそれぞれ数千人がデモを行い「国内で過去最大規模の抗議活動」(欧州メディア)と報じられた。

きっかけは独調査報道団体による10日の報道だ。報道によると、昨年11月に東部ポツダムでAfDのワイデル共同党首の側近ら約20人が出席する会合が開かれた。参加した右翼活動家が移民や難民のほか、市民権があっても出身地や肌の色が異なる「同化していない国民」を追放する計画を発表した。最大200万人の追放者を北アフリカに住まわせる案も話し合われた。

AfDは「会合は党が主催したものではない」と釈明したが、報道された計画はユダヤ人をマダガスカル島に移送するナチス・ドイツの計画を連想させるとして批判が噴出。

ショルツ首相は27日、ユダヤ人ら110万人以上が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所がソ連軍による解放から79年を迎えたことを受け「右派のポピュリストが(今も)台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と非難した。人種差別的な計画は独憲法に反しており、ショルツ氏率いる中道左派「社会民主党」の議員がAfDの活動禁止を求めた。

与党などが警戒を強める背景には、AfDの急速な躍進がある。移民排斥を掲げるAfDは2013年に結成後、経済低迷や急増する移民への不満の受け皿として支持を広げた。謀議の報道後も、AfDは世論調査の支持率で連立与党3党を抜き、2位を維持する。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

ワイデル氏は、AfDが政権に就いた場合、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施を目指すと明言。シリア難民流入など欧州を襲った危機の克服でかじ取り役になったドイツが、EUを不安定化させる恐れが生じている。

フランスでも昨年12月、極右「国民連合」の賛成を得て新移民法が成立。外国人労働者の社会保障の条件を厳格化するなど移民への厳しい内容が盛り込まれた。2万人以上の市民が今月21日、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)同法の廃止を求めるデモをパリなどで行った。【1月29日 産経】
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AfDへの抗議行動は現在も継続していますが、移民追放謀議だけでなく、ワイデル共同党首のEU離脱発言も問題になっています。

****ドイツで極右政党「AfD」に対し…5週連続抗議デモ EU離脱=“デグジット”党首が主張****
ドイツでは経済や移民の問題をはらみ、ドイツのEU離脱・デグジットが取りざたされている。その離脱を主張している極右政党に対して抗議する激しいデモが5週連続で起こっている。

■支持拡大する極右政党「AfD」
11日、ドイツのミュンヘンで10万人の市民が参加するデモがあった。その怒りの矛先は?

デモに参加した人「民主主義を捨ててはいけません。『AfD』は民主的ではない」

このデモは、ドイツの極右政党「AfD」に抗議するものだ。デモはドイツ各地で行われ、これで5週間連続となっている。

極右政党「AfD」への抗議デモに参加した人 「AfDは私たちを不安に陥らせています。民主主義の中で右翼主義は認められない。私たちは、二度と過ちが起こらないように、戦わなければいけないんです」

「AfD」は2013年、ギリシャ経済危機のなかでドイツが多額の支援をすることに反発し、「反EU」を掲げて設立された。 2017年に、ドイツ連邦議会選挙で初めて議席を獲得し、国政に進出した。 その後、コロナ禍を経て、物価高や難民の急増で、2023年に支持率を大きく伸ばした。

■AfDの共同党首 ドイツの脱EUを主張
こうしたなか、「AfD」のメンバーが右翼活動家らと秘密の会合を行い、移民・難民の追放計画を議論していたことが報道により明らかになった。 これを受け、ドイツではAfDに対しての大規模デモが起きているのだ。

さらに、AfDの共同代表を務めるアリス・ワイデル氏の発言も、今、物議を醸している。

ワイデル氏 「もしEUの改革が不可能であれば、イギリスがしたように、国民に決断を委ねるべき。ドイツが『デグジット』、EUから出ていくことを…」

イギリスのEU離脱、「ブレグジット」に掛けて「デグジット」と呼ばれる、ドイツのEU離脱の必要性を主張したのだ。今、ドイツで何が起きているのか…。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年2月14日放送分より)【2月15日 テレ朝news】
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イギリスにおいてEU離脱に関して失敗だったという声が増えている現状で、なぜ今「デグジット」なのかは良く知りません。

市民生活は「人」だけでなく「物」も外国産に大きく依存しています。

****外国産排除の店で戸惑う客 独スーパーの動画が話題****
外国産が排除され、自国ドイツ産の商品だけがまばらに置かれたスーパーで途方に暮れる買い物客―。

移民排斥を掲げて支持を拡大する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への抗議行動が広がるドイツで、大手スーパーが多様性の大切さを訴えるために制作した動画が話題を呼んでいる。

「コーヒーもチョコレートもありません」。店員は客に説明する。野菜や乳製品、パンなどはあるが、ほとんどの棚はスカスカだ。「普段食べているものが何もない」と戸惑う女性や、空の棚を前に立ち尽くす男性も。
 
制作したスーパーのエデカは動画で「多様性がなければ、ドイツは貧しくなる」と訴える。【2月17日 共同】
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【ノルウェー第5の都市 難民受け入れをウクライナ人に限定】
ただ、ドイツだけでなく欧州各国にとって移民・難民は大きな問題となっているのは事実。
特に、アフリカ・中東などからの移民・難民に対する強い抵抗感が欧州社会にあるのも現実です。

****難民受け入れをウクライナ人に限定、ノルウェー第5の都市が非難の的に****
ノルウェーの首相と野党党首は14日、第5の都市ドランメンが難民の受け入れをウクライナ人に限定すると決定したのを非難した。

ドランメンは首都オスロの西方40キロに位置する人口12万人の都市。保守党、反移民を掲げる右派ポピュリスト、キリスト教民主党、年金生活者を代表する小政党などで構成される同市議会は13日、中道左派政権による警告を無視して、この決定を可決した。

労働党所属のヨーナス・ガール・ストーレ首相は14日、国営テレビNRKに対し、同市議会の決定は「自治体ができることではない」と批判。「基本的な価値観は、逃亡してきた人々が平等に扱われるようにすることだ」と語った。

ドランメンの市長も所属する野党・保守党党首のエルナ・ソルベルグ前首相もストーレ首相に同調。ノルウェー通信によると、たとええり好みがよくあることだとしても、「どの自治体も特定の国からの難民しか受け入れないと決定することはできない」と述べた。

さらに、中央党のある議員は同市議会が「組織的に人種差別」を行っていると刑事告発した。 【2月15日 AFP】
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「本音」と言えばそうなんでしょうが、そうした「本音」をストレートに表に出していいのか?・・・トランプ現象で「建前」「理念」より「本音」が優先する流れが強まっています。

【フランス 右派の支持取り付けのため修正、「(極右の)死の口づけで可決された」移民法 その後、憲法評議会で修正部分削除】
一方で、労働力の観点からは移民労働を必要としているのもまた現実であり、移民労働確保と移民流入への拒否感という二つの側面のバランスをとることが求められています。

そうした観点からフランス・マクロン政権が成立を図った移民法でしたが(政府は、法案は人材不足の部門で働く移民が居住許可を得やすくする一方、不法移民の追放がより簡単になると説明)、左派からは移民に厳しすぎる、右派からは逆に甘すぎるとの批判で立ち往生、結局、右派の要求を一定にいれる形で修正、極右政党「国民連合(RN)」の法案支持によって成立、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)という状況にも。

右派に配慮して修正された内容は、居住許可要件を厳しくし、児童・住宅手当などへの支給開始時期を数年繰り下げる、出生地主義による国籍付与の見直し、外国人留学生に帰国保証金を求めるなど。

ただし法案成立後、右派・共和党が加えた修正案はほぼ全て憲法評議会で削除されています。

****外国人労働者の受け入れ拡大目指す移民法公布****
(中略)
同法は、上下両院で過半数を持たない少数与党政権が当初の政府案よりも移民への対応を厳格化した右派中道・共和党の修正案を受け入れるかたちで12月19日に成立させたが、12月26日と27日にエマニュエル・マクロン大統領、下院議長、120人を超える上下両院の議員が憲法評議会に違憲審査を求めていた。

その結果、憲法評議会は1月25日、86の条文のうち、移民受け入れのクオータ制の導入や、外国人への社会保障手当(住宅手当、家族手当など)の給付条件の厳格化、出生地主義による国籍付与の見直し、外国人留学生に帰国保証金を求めるなどといった35の条文について、「法の趣旨と関連がない」などとして破棄する決定をした。憲法評議会の決定により、共和党が加えた修正案はほぼ全て削除された。【2月7日 JETRO】
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憲法評議会で否定されることは予想されていたと思いますが、それでも移民に対する厳しい姿勢をみせる政権と右派勢力のパフォーマンスだったのでしょうか?

【スウェーデン 「必要としているのは、高度な知識や技能を有する優秀な人材の移民だ」 就労ビザを取得する要件とされる月収を49万円に】
外国人労働者については、単純労働のための移民はいらないけど、専門知識・技能を持った外国人人材は欲しい・・・という考えも。

****スウェーデン、就労ビザの収入要件引き上げ検討 月49万円に****
スウェーデン政府は15日、就労ビザを取得する際に要件とされる収入額の引き上げを検討していると発表した。
 
マリア・マルメルステーネルガルド移民相は、外国人労働者の要件となる最低収入の引き上げに関する政府調査の完了に合わせて会見を開き、「そもそも必要としているのは、高度な知識や技能を有する優秀な人材の移民だ」「だが、求められる技能も賃金も低い職業の移民が依然として多い」と語った。

スウェーデンは既に昨年11月1日から、シェンゲン協定または欧州連合加盟国以外出身の外国人が就労ビザを取得する要件とされる月収を、従来の1万3000クローナ(約19万円)から2万7360クローナ(約39万円)に引き上げている。

政府調査会は現在、これをさらにスウェーデンの月収の中央値に近い3万4200クローナ(約49万円)に引き上げることを提案している。

反移民を掲げるスウェーデン民主党の協力を得ている保守派・穏健党のウルフ・クリステション首相率いる連立政権は2022年の発足以来、移民の制限を公約に掲げてきた。

最低収入額の引き上げで最も影響を受けるのは飲食業界と清掃業界だが、ステーネルガルド氏は「多くの場合、すでにスウェーデンに住んでいる人々で賄えるはずだ」と述べた。

2023年11月現在、スウェーデンの就労ビザ保有者6万3477人のうち1万4991人が、現在の収入要件である2万7360クローナを満たしていない。

だが政府は、来年6月1日に新たな要件を発効させる法案を、議会で可決できると見込んでいる。 【2月16日 AFP】**************

人種・肌の色・国籍で選別するのは差別主義だが、収入で選別するのはかまわない・・・・?

よくわかりませんが、各国とも“欲しいもの”だけを手にいれたい、“余計なもの”はいらない・・・という「本音」優先です。

外国人と犯罪が結び付けられやすいのはどの国でも同じ。リベラルとされるNY市でも。

****移民収容施設の外出禁止令拡大 犯罪増加で 「的外れ」の指摘も ニューヨーク市****
アメリカ・ニューヨーク市では、移民による犯罪で治安が悪化していることから、収容施設への外出禁止令が拡大されました。これらの移民収容施設では、午後11時から午前6時まで外出禁止になります。

ニューヨークでは8日、15歳の移民の少年がタイムズスクエアで、ブラジル人観光客と警察官に発砲し、けがをさせたほか、先月には移民グループと警察官が殴り合いになるなどの事件が起きていました。

ニューヨーク市民「外出禁止令は組織の立場では理解できるが、犯罪抑制が目的なら完全に的外れだ」

移民らは仕事に就けないことへの不満などから犯罪行為に走るという見方も出ています。【2月13日 テレ朝news】
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本当に治安悪化の原因は外国人なのか・・・冷静な検証が必要です。
もし、そうならなぜ外国人が犯罪に走るのか? そのようにさせている状況に問題はないのか? という視点もひつようでしょう。
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エジプト  イスラエル軍のラファ侵攻による大量の難民発生に備える したたかな外交戦略も

2024-02-16 23:41:57 | 中東情勢
(避難民が暮らすテントの近くで犬の散歩をする子供ら=パレスチナ自治区ガザ地区南部ラファで2024年2月8日、ロイター【2月10日 毎日】)

【「ろくでなし」バイデン大統領苛立つも、ネタニヤフ首相はラファ侵攻の姿勢を変えず】
パレスチナ情勢に関しては、イスラエルがガザ地区最南部の都市ラファへの侵攻をいつ、どのような形で行うのか・・・ということが最大の焦点となっています。

国連によるとラファにはイスラエル軍の攻撃によってガザ地区北部・南部から追われた100万人以上の避難民が集結しており、もはや逃げ場がない状況にもなっています。そのラファに攻撃が本格化すればおびただしい民間人犠牲者が出ることが懸念されています。

ネタニヤフ首相も民間人退避に言及はしていますが、その具体策は示していません。

****ガザ南部・ラファでの地上作戦「民間人退避後に」 ネタニヤフ首相が意向****
イスラエルのネタニヤフ首相は、多くの市民が避難する南部ラファでの地上作戦について、民間人の退避後に行うとの意向を示しました。ただ、退避に向けた具体的な動きは見られません。

ネタニヤフ首相は14日、SNSへの投稿で「我々は完全な勝利まで戦う。そのためには、ラファでの強力な作戦も含まれる」などと述べ、ガザ南部ラファで地上作戦を行うことを改めて強調しました。

一方、作戦を開始するタイミングについては…
ネタニヤフ首相  「民間人が戦闘地域から退避できるようになってから行う」
作戦前に、民間人を避難させる意向を示しました。

ただ、ネタニヤフ氏が軍と治安当局に対して提出を指示したとされる民間人の避難計画について、アメリカメディアは、現時点で策定されていないと報じています。

また、13日にカイロで開かれた、アメリカやイスラエルなど4か国の情報機関高官による一時停戦と人質解放に向けた協議について、進展なく終了したと伝えられるなか、ネタニヤフ氏はハマス側が譲歩すべきだとの考えを強調しました。

ネタニヤフ首相  「ハマスが妄想に近い要求を取り下げる必要がある。そうすれば我々は前進できるだろう」

こうした中、隣国レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」とイスラエルの間で戦闘が激化しています。

ロイター通信によるとイスラエル軍は14日、レバノン南部の複数の村などに空爆を行い、ヒズボラ戦闘員のほか、子どもを含む少なくとも9人が死亡したということです。

これに先立ち、イスラエル北部の軍基地ではレバノンからのロケット攻撃により兵士1人が死亡していて、今回の攻撃はこの報復とみられています。【2月15日 TBS NEWS DIG】
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国連やイスラエルの後ろ盾となってきたアメリカもネタニヤフ首相に思いとどまるように働きかけてはいますが、ネタニヤフ首相はハマス壊滅のためにはラファ侵攻が不可欠との姿勢を変えていません。

****バイデン氏、イスラエル首相にラファ侵攻への懸念再度伝える****
バイデン米大統領は15日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談を行い、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファについて、市民の安全を確保する信頼できる計画なしに軍事行動に踏み切るべきでないとの考えを改めて伝えた。ホワイトハウスが明らかにした。

バイデン氏は11日にもネタニヤフ氏と電話会談を行い、ラファへの地上侵攻に懸念を伝えていた。 

ホワイトハウスによると、両首脳は現在進められている人質解放交渉についても協議した。バイデン氏は、人質の解放を支援するために24時間体制で取り組むと表明した。【2月16日 ロイター】
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バイデン・ネタニヤフ両氏の間でどのようなやり取りがなされているのかは知りませんが、強硬姿勢を変えないネタニヤフ首相にバイデン大統領は苛立ちを見せています。

****「ろくでなし」バイデン大統領、私的な会話の中で“いら立ち”見せる 説得聞き入れないイスラエル首相に対して****
(中略)バイデン氏はこの前日にも、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、繰り返し自制を求めていますが、ネタニヤフ氏は強硬な姿勢を崩していません。 

そのバイデン氏が説得を聞き入れないネタニヤフ氏について、「ろくでなし」などと呼んでいたとアメリカNBCテレビが報じました。私的な会話の中での発言だということですが、強いいら立ちを感じている様子がうかがえます。【2月13日 TBS NEWS DIG】
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「ろくでなし」と呼ぼうが、何と呼ぼうがかまいませんが、アメリカのイスラエルへの自制を求める要請は以前から続いていますが、無視され続けています。

アメリカ国内の若者には親パレスチナ的な風潮、イスラエル批判も広がっており、バイデン大統領にとって大統領選挙へのマイナスの影響も懸念されます。

【ラファ侵攻に対しエジプトはイスラエルとの和平合意停止を警告 アメリカの中東政策の根幹が崩壊する恐れ】
更に、エジプトなど周辺国などの反対を押し切ってイスラエルがラファ侵攻するのをアメリカが抑止できず、大きな混乱が起きた場合、中東地域におけるアメリカの影響力は大きなダメージを受け、アメリカがこれまで行ってきた中東政策は根幹から見直しが必要になります。

具体的に言えば、カギとなるのは難民が押し寄せる隣国エジプト。エジプトはイスラエルとの和平合意停止にも言及していますが、イスラエル・エジプトの和平合意はアメリカの中東政策の根幹をなすものです。

****イスラエル軍の「ラファ地上侵攻」はアメリカの中東政策を破壊する****
<ラファ地上侵攻が行われれば、アラブ諸国で初めてイスラエルを承認したエジプトが、イスラエルとの平和条約を停止すると警告。アメリカが仲介して成った中東政策の土台までもが、バイデン政権の下で失われる?>

イスラム組織ハマスとの戦いを続けるイスラエルは、パレスチナ自治区ガザ最南端のラファへの地上侵攻を計画している。これは、何十年にもわたってアメリカの中東政策を下支えしてきたエジプトとアメリカの関係を悪化させるおそれがあり、ジョー・バイデン米大統領にとって新たな悩みの種となっている。

エジプトは、イスラエルがラファへの地上侵攻を開始すればイスラエルとの平和条約を停止すると警告している。(中略)

エジプトとイスラエルの外交関係の停止は、バイデンにとって打撃になりかねない。バイデンの任期中に中東地域が手に負えない状況に悪化しているという見方を助長する可能性があるためだ。

米シンクタンク「アラブ・アメリカ研究所」の創業者兼所長であるジェームズ・ゾグビーは、アメリカの軍事支援を受ける忠実な同盟国のエジプトが、イスラエルとの歴史的な平和条約の停止を公然と示唆したことは、きわめて異例だと指摘する。 「エジプト政府がよほど大きな圧力にさらされていることを意味している」と彼は本誌に語った。

歴代米大統領が頼りにしてきたエジプト
(中略)ジミー・カーター以降の歴代米大統領は、1979年にアメリカの仲介によってエジプトとイスラエルの間で締結された平和条約を、中東のより幅広い安定を推し進める土台としてきた。

エジプトは、アラブ諸国として初めてイスラエルを承認。これが1994年のイスラエル・ヨルダン間の和平条約に扉を開き、ドナルド・トランプ米前政権下で結ばれたイスラエルと一部アラブ諸国の国交正常化合意(アブラハム合意)につながった。(中略)

一方で、エジプトはガザ地区との境界の警備をさらに強化し、ガザ地区の住民がエジプトに逃れることは認めない姿勢を明確にしている。

ガザの保健省によれば、戦闘開始以降、イスラエル軍によって殺害されたガザの民間人は2万8000人を超えている。ガザ地区の人道危機が悪化するなか、米与党・民主党の進歩派からも、イスラエルへの支援を続けるバイデンへの批判の声が上がっている。

さらにイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が2月9日に、ラファへの進軍に向けて軍に計画提出を指示したとしたことを受けて、バイデンに対して戦闘を終結させるよう求める圧力がますます高まっている。(後略)【2月13日 Newsweek】
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【エジプト難民流入に備えて緩衝地帯と壁を建設】
イスラエル軍のラファ侵攻は、境界を超えて難民が大量にエジプトに押し寄せる事態を惹起しますが、過激派流入による不安定化の懸念もあって、エジプトは難民流入を認めていません。

****エジプト、パレスチナ人のガザ帰還許可 難民受け入れは一貫反対****
(中略)
◇過激派刺激や攻撃を警戒
エジプトが主張するのは、「パレスチナの大義」を守る重要性だ。パレスチナでは、イスラエルが建国された1948年にも約70万人が難民として国外へ逃れ、いまも帰還が実現していない。そのため、難民受け入れはパレスチナの土地と住民を引き離すことになり、パレスチナ国家建設という目標が遠ざかるという懸念がある。

一方、難民受け入れによる治安悪化への警戒感も大きい。ハマスはエジプトが非合法化しているイスラム組織ムスリム同胞団が母体で、難民とともにハマスの戦闘員が流入すれば、国内のイスラム過激派を刺激する可能性があるからだ。

また、シナイ半島に逃れた戦闘員がイスラエルに向けてロケット弾などで攻撃を仕掛ければ、イスラエルとの衝突にさらされる恐れもある。

実際、レバノンでは南部にあるパレスチナ人の難民キャンプからイスラエルに向けてロケット弾が発射され、イスラエル軍の報復を招いたこともある。エジプト国民の間には反イスラエル感情が根強く、仮にイスラエルとの武力衝突に発展すれば、国内が一気に不安定化するのは避けられない。

エジプト日本科学技術大学のサイード・サデク教授(平和学)は「難民受け入れに反対しているのは、イスラエルの安全保障上の問題をエジプトが肩代わりすることになるからだ。難民の中にはイスラエルに対する復讐(ふくしゅう)を考える人も出てくるだろう。そうなれば、エジプト社会は彼らを支持するかどうかで分断され、内戦になるかもしれない」と指摘する。【2023年11月25日 毎日】
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しかし、ネタニヤフ首相の決意が固いことから、エジプトとしても最悪の状況を想定せざるを得ません。

****エジプト、ガザ境界に幅3キロ超の緩衝地帯と壁建設 衛星画像で判明****
エジプトがパレスチナ自治区ガザ地区南部との境界に巨大な緩衝地帯と壁を建設していることが、新たな衛星画像から明らかになった。ガザ地区最南端のラファにはガザ住民の半数超が避難しており、イスラエルが予定している地上攻勢への懸念が高まっている。

衛星画像は米マクサー・テクノロジーズが過去5日間に撮影したもので、ガザとの境界と道路に挟まれたエジプトの土地がブルドーザーで整地されている。

建設中の緩衝地帯はガザ境界の端から地中海まで伸びている。完成した場合、エジプトとラファの境界にある検問所がそっくり含まれることになる。(中略)

シナイ人権財団が公開した動画にも、壁建設の様子が映っている。壁の高さは5メートルに上るという。
シナイ人権財団は活動家や研究者、ジャーナリストらでつくる非政府人権団体。地元の二つの請負業者か同財団に語ったところによると、工事はエジプト軍から委託されたという。(後略)【2月16日 CNN】
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このCNNが報じる「壁」なるものは、単に境界を封鎖するものではなく、下記記事にあるように、そこに難民を収容してそれ以上エジプト領内への収入を許さない壁で囲まれた「緩衝地帯」のようなものと想像されます。

****エジプト、ガザ境界付近に壁の囲い建設 難民殺到に備え****
エジプトはパレスチナ自治区ガザの境界近くのシナイ半島の砂漠に、壁で囲われた20平方キロメートルの囲いを建設している。イスラエル軍によるガザ南部への進攻に伴い難民が大量に発生する事態を懸念しているためという。エジプト当局者と安全保障に詳しいアナリストらが明らかにした。

エジプトはここ数週間、パレスチナ人の流入を防ぐため境界沿いの警備を強化してきた。兵士や装甲車を配備し、フェンスを強化している。新たな囲い地の建設は、ガザ住民が大量に押し寄せた場合の緊急対策の一環となる。

エジプト当局者によれば、新たな難民キャンプは10万人以上を収容できる。周囲はコンクリートの壁が囲む。まだ組み立てられていないテントが大量に運び込まれているという。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、軍はエジプトとの境界沿いにある都市ラファでイスラム組織ハマスと戦う必要があるとの認識を示している。エジプト当局者らは、イスラエルは数週間以内に大規模な作戦を実行するとみている。

ガザからパレスチナ人が大量に脱出した場合、エジプト当局者は新たな難民キャンプで収容する人数を収容能力を大幅に下回る水準に抑えることを想定している。5万から6万人程度が理想的という。【2月16日 WSJ】
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****エジプト、ガザ境界付近に難民施設 ラファ侵攻に備え=関係筋****
エジプトはイスラエルがパレスチナ自治区ガザ最南部ラファに侵攻した際に備え、脱出するパレスチナ難民を収容できる施設を整えた場所をガザとの境界付近に構築している。関係筋4人が明らかにした。

一方、エジプト政府「国家情報サービス」のトップは取材に「これは事実無根だ。パレスチナの兄弟たちもエジプトもこの可能性に対して何の準備もないと言っている」と述べ、関係筋の証言を否定した。

エジプトはこれまで、イスラエルのガザ攻撃によってパレスチナ人がシナイ半島に流入する可能性に繰り返し警鐘を鳴らし、こうした事態は全く受け入れられないと表明している。

関係筋の1人によると、エジプトは停戦に向けた話し合いでそのような事態は避けられると楽観視しているが、一時的な予防措置として境界付近にこうした場所を設けている。

他の3人は、エジプトがパレスチナ人の避難所として使える基本的な施設を備えた場所を用意し始めたと証言。これはコンティンジェンシー(不測の事態に備えた)措置だと強調した。【2月16日 ロイター】
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エジプトにとってはガザ地区からの難民流入は難しい対応を迫られる事態です。(あまりに難民に冷たいと、エジプトのイスラム世界での評価にかかわります。)

それ以外にも、エジプトは今回のパレスチナの混乱で大きな被害を受けています。パレスチナ情勢に呼応する形でイエメンの反政府武装組織フーシ派が行うの商船攻撃の影響で、欧州とアジアを結ぶスエズ運河を通航する船が激減、運河を管理するエジプトのスエズ運河庁によると、1月の通航収入は前年比でほぼ半減しました。

エジプト政府にとって、スエズ運河の通航収入は国内総生産(GDP)の2%余りを占める極めて重要な収入源です。

【エジプト この機に乗じたしたたかな外交戦略も展開】
ただ、エジプトも「被害者」という受け身の姿勢だけでなく、この機を使った外交戦略も展開しています。

****停戦後のガザは誰が治める?エジプトの動きが活発化している深い理由【佐藤優】****
イスラエルとイスラム組織ハマスの停戦の仲介やガザ地区の復興を巡り、エジプトの動きが活発化している。(中略)

休戦案のイニシアチブを取ったのはエジプトだった
ガザ地区で続く戦闘に関して、新たな動きがありました。1月30日のロイターは、「ハマス、3段階の休戦案を検討 エジプトなど4カ国が提案」と題する記事で、こう伝えています。(中略)

4カ国による提案という形ですが、イニシアチブを取ったのはエジプトだと思われます。というのは、1月4日のロシア紙「イズヴェスチア」に、興味深い記事が載っていたからです。(中略)

パレスチナ解放機構を再編して背後から操りたい
エジプトはパレスチナ政党間の分裂を埋めるための国民対話を推進し、テクノクラート(高度な技術的専門知識を持つ官僚による)政府を樹立する計画である。そして、人道問題、ガザ地区の復興、パレスチナの総選挙と大統領選挙の開始に責任を持つことになる。

この記事で興味を引かれたのは、エジプトがパレスチナ自治政府のアッバス議長率いるパレスチナ解放機構(PLO)の代わりとなる政府を樹立しようとしている点です。(中略)

現在のPLOは、米国が後押ししています。それに対してガザ地区に隣接するエジプトは、イスラエルとの戦闘によって弱体化したハマスとイスラム聖戦をPLOに糾合し、自国が統制できる政権をつくりたい。PLOを再編して背後から操ることによって、中東地域におけるエジプトの地位向上も図ろうとしているのでしょう。(後略)【2月16日 佐藤優氏 DIAMONDonline】
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なかなかしたたかな外交戦略が存在するようです。ただ、エジプトの思惑どおりにことが進むかはまた別問題ですが。

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ミャンマー  脱走・投降相次ぐ国軍 徴兵を実施で若者に動揺・反発 “軍政崩壊”の可能性も?

2024-02-15 22:36:50 | ミャンマー

(「国軍記念日」のパレードに参加したミャンマー兵ら=2023年3月 【2月15日 TBS NEWS DIG】)

【クーデターから3年 軍を離脱し投降する兵士急増 市民は“沈黙のストライキ”】
国軍がクーデターによって全権を掌握してから3年が経過したミャンマーでは、昨年10月に攻勢を開始した北部シャン州の少数民族武装勢力と国軍の戦闘は中国仲介で停戦合意したことになっていますが、少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍の戦闘状態という基本構図は続いています。

その戦いの構図において、国軍側の劣勢が伝えられています。

****ミャンマー国軍が劣勢、少数民族武装勢力の攻勢で500か所の拠点陥落か…国土の7割に戦闘広がる****
ミャンマーで国軍がクーデターを強行し、アウン・サン・スー・チー氏の民主派政権を倒してから2月1日で3年になる。軍事政権の打倒を目指す少数民族武装勢力などが昨年10月、国軍に本格的な攻撃を仕掛け、国軍は劣勢に立たされている。国軍の空爆強化で国民の犠牲も拡大し続けており、国軍の強権統治が混乱に拍車をかけている。
兵士半減
 
「国軍は村を一つ一つ訪問し、若い男5人を兵士として差し出すよう命令した。実現できない村は燃やしていた。兵士不足は深刻だ」
元国軍兵士(22)は読売新聞の取材に国軍の実態を証言した。この元兵士自身、民主派デモに参加して国軍に拘束され、無理やり兵士にさせられていた。

昨年11月、「もう人を殺したくない」と武装勢力に投降した。民主派勢力などへの激しい弾圧に嫌気がさし、脱走や投降する国軍兵士が増えているという。

ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会」によると、クーデター以降少なくとも約4500人が国軍に殺害され、約2万6000人が拘束された。汚職防止法違反などの罪で有罪判決を受けたアウン・サン・スー・チー氏の拘束は続いている。民主派兵士に食事を提供したため、村全体が銃撃されたとの証言もある。
 
米国平和研究所は昨年5月、かつて30万〜40万人とされた国軍の兵員数は半分程度にとどまると分析した。

少数民族の攻撃
これまでも自治権拡大を求めて国軍と戦ってきた北東部シャン州の少数民族武装勢力らは、国軍の弱体化を見透かすように昨年10月27日、国軍拠点への本格的な攻撃を開始した。西部や東部など他地域の少数民族武装勢力や、クーデター以来、国軍との戦闘を続けていた民主派勢力の一部も合流した。国軍は今月26日までに500か所以上の拠点を失ったとの報道がある。
 
戦闘地域も広がっている。調査研究機関「ミャンマー戦略政策研究所」は昨年末、クーデター以降に全土の約67%で戦闘が行われたと発表した。
 
国軍の対応は空爆主体になっている。民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」によると、15日時点で国軍による空爆回数は580回を超えた。
 
首都ネピドーと最大都市ヤンゴンを結ぶ幹線道路沿いの村を12日に脱出した女性(30)は「国軍は空爆と銃撃で村を破壊した。父が亡くなり3歳の娘は今も集中治療室にいる」と涙をこらえながら話した。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、避難民は230万人に達している。避難民の増加や道路封鎖に伴う物流網の寸断などで経済も苦境が深まっている。

中国が仲介
東南アジア諸国連合(ASEAN)が国軍の抑止策を打ち出せずにいる中、中国は今月中旬、シャン州北部での一時停戦に関する合意を仲介するなど存在感を示そうとしている。中国はシャン州などと国境を接しており、情勢悪化に伴う経済低迷や自国民の安全を懸念している。
 
国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官は26日の会合で、武装勢力との戦闘を念頭に「行政と治安当局が団結すれば成功する」と述べるなど強気な姿勢を崩していない。
 
京都大の中西嘉宏准教授(ミャンマー政治)は「ミン・アウン・フライン氏は戦闘での勝利以外、現状打破は不可能だと思っている。だが、国軍が劣勢を挽回する要因も見当たらない。都市部は国軍が支配しているため、戦闘は長期化する」と分析している。【1月28日 読売】
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“民主派勢力などへの激しい弾圧に嫌気がさし、脱走や投降する国軍兵士が増えている”“かつて30万〜40万人とされた国軍の兵員数は半分程度にとどまる”・・・・実際の数字はよくわかりませんが、本当に半分程度に兵士が減少しているなら国軍にとっては危機的状況です。

****ミャンマーのクーデターからきょうで3年 軍を離脱し投降する兵士急増****
(中略)こうした中、軍を離脱して投降する兵士が急増しています。

投降兵士(軍歴32年)「軍の国民に対する迫害、望んでいないことの強制など、軍がやってきたことが許せなかった」

地元メディアなどによりますと、クーデター以降、およそ1万6000人の兵士らが投降したということです。
投降兵士(軍歴32年)「軍を離脱し、安全な場所に来たがっている指揮官もいる。しかし、彼らは軍を出るチャンスがない」(後略)【2月1日 日テレnews】
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国軍側も“引き締め”に躍起になっているようで、北東部シャン州の中国国境に近い主要都市ラウカイの地域司令官ら3人に軍法会議で死刑判決が下されたと現地メディアは報じています。

シャン州北部の戦闘では、司令官を含む兵士2千人以上が少数民族武装勢力側に投降し、その後一部がネピドーに移送されたと伝えられていました。

こうした異例の死刑判決に国軍関係者の間にも衝撃が広がっているとも。

国民の多くは軍政に批判的ですが、強権的な軍政のもとでは批判を口にすることはできません。そこで「沈黙のストライキ」

****ミャンマー各地「沈黙のストライキ」で閑散、市民らが日中の外出控える…国軍は開店命令し圧力****
ミャンマーで国軍がクーデターによって全権を掌握してから、1日で3年となった。軍政による民主派勢力の弾圧が続いており、市民生活は困窮している。少数民族武装勢力と国軍の戦闘も続いている。
 
国軍は同日、非常事態宣言を6か月延長した。1月31日に首都ネピドーで開かれた国防治安評議会で、国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官は少数民族武装勢力などの攻撃を受けていることを理由に挙げ、「今は通常の状態ではない」として宣言の延長を決めた。
 
民主派勢力がクーデター後に樹立した「国民統一政府(NUG)」は、「国軍に対し政治的、軍事的圧力をかけ続ける」との声明を発表した。
 
ミャンマーの人権団体によると、クーデター以降に少なくとも約4500人が国軍に殺害され、約2万6000人が拘束された。
 
ミャンマー各地では、市民らが1日午前10時から午後4時にかけて外出を控える「沈黙のストライキ」を行った。
 
国軍は商店主などに開店を命令して圧力をかけたが、最大都市ヤンゴンや中部マンダレーなどの街の一部は人通りが絶え、閑散とした。【2月2日 読売】
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こうした状況は“軍政崩壊の足音”のようにも見えますが、一方で、“都市部は国軍が支配しているため、戦闘は長期化する”【前出 読売】“軍には長い歴史があり、抵抗勢力が短期間で軍を倒すことは難しいでしょう”【下記】との見方も。

****クーデターから3年、ミャンマー軍事政権に崩壊の足音? “逃亡兵”激白「軍は勝てない」****
ミャンマーの軍事クーデターからあすで3年。圧政を続ける軍ですが、実は“逃亡兵”の急増を背景に、追い込まれつつあります。先月、逃亡してきたばかりの兵士がJNNの取材に内情を明かしました。

2021年2月のクーデター以降、軍に対する武装闘争が全土に拡大しているミャンマー。軍と少数民族や民主派勢力との間で激しい戦闘が続いていますが、ある異変が。

敷地に集められた兵士たち。うなだれた様子で座り込む人もいます。現地メディアによると、北東部シャン州ではこの数か月間で6000人を超えるミャンマー兵が抵抗勢力側に投降。

インド軍司令官 「これまでに416人のミャンマー軍兵士が徒歩で国境を渡りました」 インドやタイなど近隣国に逃亡する兵士も急増しているというのです。

JNNは、タイの国境地帯に先月逃げてきたばかりの兵士に話を聞くことができました。北部の州の部隊に所属し、前線で戦っていたという男性。

ミャンマー軍“逃亡兵” 
「私は軍人としての生き方に嫌気が差しました。国民に銃を向けて戦うことを申し訳なく思い、普通の人間に戻りたかったのです」

軍は空爆などで集落を焼き払う無差別攻撃を繰り返し、民間人の死者は少なくとも4400人にのぼります。男性も村を標的にロケット弾を発射するよう命令されたと話しました。

ミャンマー軍“逃亡兵”
「上官からの命令に逆らうことは絶対に許されない。でも、戦闘が終わって一息ついたとき、自分のことがとても情けなくなったんです。本当は撃ちたくなかった」

情勢が変わったのは去年10月。抵抗勢力側が各地で一斉攻撃を開始し、前線基地など500か所以上を占拠しました。徹底抗戦を指示していた指揮官でさえ、相次いで投降しているといいます。

ミャンマー軍“逃亡兵”
「今の軍にはこれまでのように戦う力はなく、兵士たちの間で恐怖心が広がっています。軍に対する国民の敵対心も強くなっているので、軍は勝てないと思います」

軍は追い込まれているのか。専門家は「非常に脆弱な状態だ」と指摘しますが。

ミャンマー戦略・政策研究所 アウン・トゥ・ネイン氏
「国民の支持を得られず兵士は(戦闘長期化で)過度のストレスを抱えている。軍は非常に脆弱な状態です。しかし、軍には長い歴史があり、抵抗勢力が短期間で軍を倒すことは難しいでしょう」

ミャンマー軍トップはきょう、抵抗勢力の制圧を目的に「非常事態宣言」を延長するとみられますが、“政治的な解決”として対話の余地もほのめかしていて、次の出方が注目されます。【1月31日 TBS NEWS DIG】
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【国軍側 徴兵実施で権力維持図る】
少なくとも現段階では国軍側には権力を手放す意思はないようです。

****少数民族攻勢、続く戦闘=国軍は権力固執、深まる人道危機―クーデターから3年・ミャンマー****
ミャンマーで2021年、国軍がクーデターで実権を握ってから2月1日で3年。昨年以降、抵抗する少数民族武装勢力が攻勢を強め、国軍は一部地域の支配を失ったが、権力を手放す姿勢は示さない。民主化指導者アウンサンスーチー氏の拘束も続き、混乱収束の道筋が見えない中、戦禍に苦しむ市民の人道危機が深刻化している。
 
国軍は31日、クーデター時に発令した非常事態宣言を6カ月延長すると発表した。延長は5回目で、国軍トップのミンアウンフライン総司令官が全権を握る状態が続く。
 
昨年10月、北東部シャン州などで三つの少数民族武装勢力が国軍への一斉攻撃を開始。独立系メディアによると、国軍は500以上の拠点を奪われ、多数の兵士が投降した。特に地域司令部からの撤退は「国軍史上最大の敗北」とされる。
 
3勢力と国軍は今年1月、中国の仲介で一時停戦に合意したが、一部の勢力や別の少数民族、民主派との戦闘が各地で続く。国軍は空爆などで応戦し、市民が巻き添えになっている。
 
ミンアウンフライン氏は1月、「総選挙に勝利した政権に役割を引き継ぐ」と強調した。ただ、紛争で選挙の実施は見通せない上、「選挙が行われた場合も民主派は排除される可能性が高い」(外交筋)とされる。
 
民主派は、スーチー氏の拘束が解かれない中で、国軍との対話を拒否している。国軍が21年4月に東南アジア諸国連合(ASEAN)と合意した「暴力の即時停止」など5項目も、大半が履行されていない。
 
ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会によると、クーデター後に国軍によって殺害された市民や民主活動家は今年1月30日時点で4400人以上、拘束者は2万人近くに達する。国連人道問題調整事務所(OCHA)の報告書では、23年末時点で約260万人が避難を強いられている。
 
経済面の影響も深刻で、世界銀行は物価高などで24年のミャンマーの国内総生産(GDP)は19年より約1割減少すると予測した。ミャンマー政治の専門家は「忘れられた紛争国にしてはならない」と国際社会の関与を訴えている。【1月31日 時事】 
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死傷・脱走兵による戦力減少を補うため、国軍側は従来から制度としてはあった徴兵制を実際に行うことを発表して徹底抗戦の構えです。

****ミャンマー国軍が徴兵実施へ 投降続き、戦力確保を目指す****
民主派や少数民族武装勢力との戦闘を続けるミャンマー国軍が、国民に兵役を課す徴兵の実施を10日に国営テレビを通じて発表した。徴兵制は2010年に導入が決定されたが、運用せずに志願制を維持していた。国軍兵の投降が相次ぎ、戦力を強制的に確保する必要性に迫られた。
 
ミャンマー軍事政権は1月にラオスで開かれたASEAN外相会議に約3年ぶりに外務省高官を派遣。人道支援計画を受け入れ、21年2月のクーデター以降続けた孤立主義を修正したばかり。

徴兵の実施決定は、戦闘継続の意思は変更しない姿勢の表れとみられる。兵役は2年で、18〜35歳の男性と18〜27歳の女性が対象。【2月11日 共同】
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13日には退役した軍人を5年間、予備兵として登録する予備役法も施行しました。

【若者の反発・不安・動揺 むしろ体制を揺るがす要因に】
当然ながら徴兵の対象となる若者には反発・不安・動揺が広がっています。

****【ミャンマー】国軍による徴兵制導入、若者が反発****
ミャンマーで、国軍が導入した徴兵制に若者が反発している。国軍に加わることを断固拒否する、抵抗軍に加わる、徴兵を逃れるために出国するなどといった声が上がっている。独立系メディアのミャンマー・ナウなどが13日伝えた。  

クーデター後に辞職した28歳の元教師は、「ニュースを聞いてとても不安になった。追い詰められて逃げ場を失ったと感じている」と話した。  

20代の男性は、海外で就労する妻の元へ行くことを考えていると語った。国軍は、徴兵した市民を荷役労働者や「人間の盾」として使うつもりなのだろうともコメント。市民に殺し合いをさせようとしているのだから本当に恐ろしいとも述べた。  

26歳の学生は、「どうせ死ぬなら、国民防衛隊(PDF)の一員として闘って死んだ方がましだ」とし、民主派の抵抗組織に加わる可能性を示唆した。「ほかに選択肢がないなら、PDFに加わって国軍兵士を皆殺しにしたい」と怒りをあらわにした教師もいた。  

22歳の女性は、「国民同士に戦いを強いる法律の施行に怒りを覚えた」と話した。PDFへの参加を考えているとした上で、「(民主派による)革命を支持し、軍の独裁を終わらせなければならない」と訴えた。(後略)【2月14日 NNA】
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実際、出国を希望する人も多いようです。

****【独自】ミャンマーで出国希望者が殺到 突然の“徴兵制”開始で不安拡大 兵士不足のミャンマー軍は戦力確保急ぐ****
3年前のクーデターでミャンマーの実権を握った軍は、武装抵抗を続ける勢力を抑え込むため徴兵制を導入しました。市民には動揺が広がり、出国を希望する人が急増しています。

(中略)ミャンマーにあるタイ大使館には、徴兵から逃れようと出国を希望しビザを申請する市民が殺到しました。
周辺国への航空券を買い求める人も急増していて、動揺と不安が広がっています。【2月15日 TBS NEWS DIG】
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出国だけでなく、「徴兵されれば死ぬことを意味する。(もし召集されたら)少数民族武装勢力が支配する解放区に逃亡するしかない」(ヤンゴン在住の若者)【2月15日 MYANMAR JAPON ONLINE】といった動きも増えるでしょう。

戦う意思のない兵士をいくら増やしても戦力としては期待できないでしょう。
ましてや、少数民族武装勢力・民主派側に走る者が増加して、敵勢力が増強されるとなったらますます国軍の苦境は深まります。

“都市部は国軍が支配している・・・”“軍には長い歴史があり・・・・”というのが常識的見方でしょうが、国民の憎悪の対象になっている国軍の力が弱まれば、思いのほか“崩壊”という事態の可能性も否定できないようにも見えます。

アフガニスタン政権の崩壊もあっという間でした。 アフガニスタン政権と軍そのもののミャンマー軍政では異なると言えばそうなんでしょうが・・・。
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インドネシア  有権者2億人超の「世界最大の直接選挙」

2024-02-14 01:56:44 | 東南アジア
(大統領候補プラボウォ国防相(72)(太ったほう)と副大統領候補のジョコ大統領の長男ギブラン氏(36)のキャラクター【2月11日 毎日】 「こわもて」プラボウォ氏のイメージも随分変わったものです。しかし、その本質が変わった訳でもないでしょうから・・・・)

【元陸軍高官プラボウォ国防相 イメージ戦略とジョコ政治継承でリード】
今日14日は、有権者2億人超の「世界最大の直接選挙」でもあるインドネシア大統領選挙が行われますが、現職ジョコ大統領の長男ギブラン氏(36)を副大統領候補とし、ジョコ大統領の政治を継承することをアピールしている元陸軍高官プラボウォ国防相(72)の優勢が報じられています。

****インドネシア、現職派が優勢 大統領選、14日投票****
インドネシア大統領選が14日投開票される。出馬した3人のうち、元陸軍高官プラボウォ国防相(72)が、複数の民間世論調査で過半数を占めて首位を維持。現職ジョコ大統領の長男ギブラン氏(36)を副大統領候補とし、若者層を中心に全世代で優勢だ。東南アジアの大国の外交路線がどうなるか、注目が集まる。
 
当選には過半数の票に加え、全38州の半数以上で20%以上を得票する必要がある。条件を満たす候補がいなければ、上位2候補による6月の決選投票にもつれ込む。
 
民間世論調査会社インディケータの1月28日〜2月4日の調査によると、プラボウォ陣営は他陣営を27.7ポイント以上引き離す。西ジャワ州など有権者が多い3州に加え、新首都建設が進むカリマンタン島でも優勢。新首都は全土でインフラを整備したジョコ政権の目玉事業で、プラボウォ氏が継承を掲げる。

外交面でも、経済的利益を重視して米中間でバランスを取ったジョコ氏の路線を継続するとみられる。【2月13日 共同】
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今回の大統領候補には、プラボウォ氏のほかに▽与党連合ナスデム党の候補、アニス前ジャカルタ特別州知事(54)▽ジョコ氏が所属する最大与党・闘争民主党が推すガンジャル前中部ジャワ州知事(55)――が出馬。得票率が5割を超えるペアがいない場合などは、6月26日に上位2組の決選投票となる。
 
地元の調査会社が1月28日〜2月4日、有権者1200人を対象に実施した世論調査によると、投票先を決めていない人を除いた支持率は、プラボウォ氏51・8%、アニス氏24・1%、ガンジャル氏19・6%だった。

それまでの調査では、プラボウォ氏が首位を保ちながらも支持率は3〜4割にとどまり、決選投票の可能性が高いとみられていた。しかし、投票日を目前にして、プラボウォ氏の支持率が5割を超える世論調査は複数あり、逃げ切るとの見方も出ている。【2月11日 毎日】
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人気の高いジョコ大統領の政治を継承することをアピールすることで支持を広げているプラボウォ氏ですが、前回、前々回の選挙ではジョコ大統領の対立候補として激しく争った経緯を考えると、前回選挙後にはジョコ氏と手を組み入閣し、更に今回はジョコ政治継承アピール、ジョコ氏も実質的にプラボウォを支援している・・・というあたりは(ジョコ氏、プラボウォ氏双方の政治姿勢として)やや奇異な感じもあります.

要するに、両者とも政治権力を握るという一点で動いているようにも。

プラボウォ氏は独裁体制を築いたスハルト元大統領期の陸軍幹部で、スハルト氏の元娘婿でもあり、過去に民主化活動家の拉致事件などの人権侵害に関わったとされ、強権的なイメージがあります。

従来選挙では元軍人の「強いリーダー」イメージをアピールしていましたが、今回選挙では交流サイト(SNS)などで親しみやすい「かわいいおじいちゃん」イメージを打ち出し、スハルト独裁政権の記憶がない若い世代の支持を引き寄せているようです。

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プラボウォ氏独走の背景には、若者からの支持獲得がある。政府発表のデータによると、有権者約2億500万人のうち半数以上が1981年以降生まれだ。

各候補は、若者が多く使う中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などネット交流サービス(SNS)を使った選挙運動を強化。中でも、最年長のプラボウォ氏は、ダンスをする姿を投稿したり、本人を元にしたキャラクターを用いたりして、「親しみやすい」などと人気を集めている。 【2月11日 毎日】
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こうした豹変ぶりに「人気取り」「ポピュリズム」との批判もありますが、まあイメージが重視される現代の選挙というのはそういうものでしょう。ただ、政権獲得後に再び強権的な姿勢が表面化しなければいいのですが・・・・。


【期待が大きかった庶民派大統領ジョコ氏 任期中に民主主義後退の批判も】
2014年に発足したジョコ政権を巡っては、経済成長を実現する一方、独立捜査機関「汚職撲滅委員会(KPK)」の活動を事実上制限したこと、強引に首都移転を進めていること、本来は年齢で立候補資格がなかった長男についておそらく司法への影響力を行使して例外を認めさせたことなど、民主主義を後退させたとの批判もあります。

そのあたりは2023年11月8日ブログ「インドネシア  民主主義「後退」 イスラム主義台頭 「庶民派」ジョコ大統領の権力私物化」でも取り上げましたので、今回は省略します。


軍人やエリートではなく庶民派大統領として期待が大きかっただけに、失望も・・・・といったところでしょうか。


【首都ジャカルタはパンク寸前とも】
首都移転については、この種の多くの利害が絡む大事業はみんなの意見を聞いていたのではまったく前に進まない・・・ということも、また現実です。

インドネシア国内の議論については詳しく知りませんので、そのあたりの個人的評価は保留します。
首都ジャカルタが大きな問題を抱えていること自体は事実のようです。

****ゴミ山・水没進むエリアも…ジャカルタは“限界” 「人類史上最大」首都移転 日本企業にも期待*****
インドネシアで「人類史上最大」とも言われる首都移転のプロジェクトが進んでいます。人口過密で都市機能がパンク寸前の首都では、水没が進むエリアもあり、14日に行われる大統領選挙の争点にもなっています。

インドネシアの首都、ジャカルタ郊外にある町。ゴミが15階建てのビルの高さまで積み上がっていました。人口1000万人を超えるジャカルタのゴミが運ばれてくる東南アジア最大級のゴミ捨て場です。
足の踏み場もないくらい散らばるゴミ。生活している人もいます。

収容の限界であふれそうになっていますが、ジャカルタに空きがなく、毎日大量にゴミが届きます。
いま、首都ジャカルタは過密すぎる人口でパンク寸前と言われています。

地区によっては水没の危機も。海面からイスラム教のモスクの一部が見えていました。地盤沈下が原因です。沈下はすでに4年前に始まっていました。それが、あっという間に水の下に…。

地盤沈下の原因も人々の生活です。
住民 「お金がない時は料理にも使っているよ」

勝手に地下水をくみ上げたため地下に空洞ができ、年間10センチのペースで地面が沈んでいます。
そこで始まったのが首都の移転計画です。

ジャカルタから約1200キロ離れたカリマンタン島の森林地帯に新たな首都「ヌサンタラ」を建設するという壮大な計画です。私たちは、特別な許可を得てその建設現場に向かいました。

道を進むと、次第に増える工事用の大型トラック。至る所で土地の造成が進んでいました。森林を切り開き、広大な街を建設する「人類史上最大の首都移転プロジェクト」とも言われる大工事。今年8月から順次移転が始まる予定で、急ピッチで工事が進められています。

そして、VIP専用のキャンプ場もつくられていました。木の良いにおいがするグランピング施設。ジョコ大統領も泊まったということです。しかし、豊かな自然の裏返しか、多くの蚊がいました。

プロジェクトの総工費は約4兆5000億円。インドネシア政府はその8割を民間からの投資でまかなうとして世界から投資を募り、日本にも期待を寄せています。

インドネシア新首都庁 バンバン長官
「日本は技術と知識を持っています。最新の技術で環境にも優しくスマートな未来を描けます」

広大な開発予定地のうち、工事が進められているのはまだほんの一部。工事は夜も続けられます。
首都移転は14日、行われる大統領選の争点の一つ。移転推進派のプラボウォ国防相が、反対派のアニス前ジャカルタ州知事をリードしています。

中国との結びつきを強めインフラ整備をおし進めたジョコ大統領の後を誰が担うのか。国際情勢にも大きな影響を及ぼしそうです。【2月13日 日テレNEWS】
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中国   性的少数者を施設に送り込み暴行 「多様性への不寛容」・人権意識の希薄さ

2024-02-12 20:42:13 | 中国
(上海では2021年まで、LGBTQコミュニティーの誇りをたたえる「プライド」イベントが行われていた。写真は2017年のもの 【2023年6月29日 BBC】)

【LGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待】
中国・習近平政権の「西側の価値観」への警戒、少数者へ不寛容、希薄な人権意識を象徴するような状況が報じられています。


****中国で性的少数者への暴力横行 施設に送り「転向療法」で虐待*****
世界で性の多様性への理解が進む中、中国でLGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行していることが11日、分かった。


被害者らが暴力の実態を証言した。保守的な考えに基づく偏見に加え、性的少数者の権利擁護を「西側の価値観」と警戒する習近平指導部の姿勢が性差別に拍車をかけている。
 
被害者や支援者らによると、転向療法を行う病院や民間施設は、上海市や河北、湖北、四川各省などに100カ所近く点在。入所者の多くが家族に半強制的に連行された10〜20代の若者だという。
 
「おまえなど気持ち悪くて役立たずだ」。性的指向や性自認の「矯正」を行う施設で、指導官が入所者を殴打したり人前で裸にさせたりした。性的虐待の被害もあった。
 
施設では外部との連絡を制限するためスマートフォンやパソコンを没収される。髪は短く切られ、軍隊のような厳しい訓練のほか「男性は働き女性は子を産む」といった伝統的な性別役割の授業を受けさせられる。【2月11日 共同】
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共産党支配の価値観にそぐわないものを「社会の不安定要因になっている」として容赦なく弾圧するということでは、チベットやウイグルに対する弾圧と同根と思われます。

【近年、LGBTへの圧力は強まってはいたが・・・】
中国におけるLGBTを取り巻く環境が厳しさを増していることは昨年6月頃から報じられてはいました。

****
中国でLGBT団体」が“活動停止”に 過去にはイベント中止やSNS閉鎖も…当局が性的マイノリティーの活動取り締まり強化*****

中国のLGBT団体が活動停止に追い込まれたことがわかりました。中国ではここ数年、性的少数者に対する圧力が急速に強まっており、今回の活動停止もその一環だという見方が広がっています。

「北京LGBTセンター」は2008年から北京を中心に活動を続けてきましたが、15日、SNS上で「大変残念なことに、不可抗力により活動を停止することになりました」とするコメントを発表しました。

台湾メディアなどによりますと、中国当局は近年、性的少数者のグループに対する取り締まりを強化しており、2020年には上海でLGBTのイベントが中止に追い込まれたほか、2021年にはLGBT団体のSNSアカウントが閉鎖されるなど年々圧力が強まっていたということです。

中国当局は性的少数者の活動について「社会の不安定要因になっている」として取り締まりを強化しており、今回の活動停止もその一環だという見方が広がっています。 【2023年5月17日 TBS】
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共産党政権下でも対応が緩やかだった時期もあり、LGBTへの厳しい対応は習近平政権の性格を示すものでもあります。

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中国のLGBTコミュニティー、当局が抑圧 プライド月間にも大きなイベントなく*****
    LGBTQ(性的少数者)の誇りをたたえる「プライド」月間の6月、世界中でさまざまなイベントが開かれている。だが、中国では目立った催しがない。同国最大のプライドイベントは、2021年以来中止となっている。
         
このイベントを主催してきた「上海驕傲节(上海プライド)」は、中止の理由を明らかにしていない。「今後予定されているすべての活動をキャンセルし、今後のイベントを予定することも休止する」とだけ発表している。
    
中国で政治的抗議に参加した人は処罰されることが多い。そのため、上海プライドはパレードを行う代わりに、ダンスパーティーやマラソン大会、映画上映会などを主催してきた。

現在では、認知度の低いイベントしか、LGBTコミュニティーには残されていない。たとえば、雑誌モデルのポージングから着想を得た「ヴォーギング」のダンスパーティーなどだ。

活動を中止した主要なLGBTグループは、上海プライドだけではない。他の団体もここ数年で休止を余儀なくされている。世界第2の経済大国で、権利活動が抑圧されている恐れが高まっている。

「手に負えない力」で活動休止
中国のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」では2021年、LGBT関連のトピックを扱う数十件のアカウントが削除されたという。

この年には、LGBTコミュニティーを代表して訴訟を起こしていた団体も活動を休止した。この団体の創設者が当局に拘束され、釈放の条件として団体休止を求められたと報じられている。

そして今年5月、「北京同志中心(北京LGBTセンター)」が、「自分たちの手に負えない力」によって活動を休止すると発表した。

上海プライドの共同創設者である彭雷氏は、「北京LGBTセンターの閉鎖によって、中国に最後に残されていた大規模なLGBT組織が休止することになった」と話した。彭氏は、上海でのプライドイベントを休止した後に中国を離れている。

「上海プライドのリーダーや活動家には大きな圧力がかけられており、イベント運営がどんどん困難になっていた」と彭氏は話した。「12年にわたる運営の後、運営者は休みを取り、英気を養い、状況が改善するまで待つことで合意した」

別のLGBT組織の指導者で、やはり中国を離れたある人物は、BBCの取材に対し、当局からの圧力が社会を変えようとする人たちに犠牲を強いていると話した。

「主催者たちは拘束され、友人や家族も警察から事情聴取を受ける。こうしたことがメンタルヘルス(心の健康)への大きなプレッシャーになる」と、匿名希望のこの活動家は語った。

「パンデミック前は、LGBTグループのための環境は素晴らしかった。大きな声を上げられたし、いくつかの訴訟にも勝利した」「声が大きすぎたのかもしれない」

変化の潮流
中国に特化した市場調査会社「ダシュエ・コンサルティング」によると、2019年には中国で性的少数者を自認する人は7500万人と、総人口の5%を占めていた。

LGBT権利団体は、中国ではまだ承認されていない同性婚など、数々の問題について活動を行っていた。

中国では1997年に同性愛が合法となった。2001年には、中華医学会精神病学分会が同性愛を精神障害から除外した。

中国の最高立法機関「全国人民代表大会」は2019年、国民から最も要請の多い立法の一つが同性婚の合法化だと認めていた。

しかし、民主化運動やインターネット上での反体制派の抑圧と共に、LGBT権利活動の範囲もここ数年で狭まっている。

2021年には、中国の若い男性が「女性的」になりすぎているとする通達を教育省が出し、議論を呼んだ。

この通達では、「生徒の男らしさを育てる」という観点から、引退したスポーツ選手やスポーツ経験者を学校当局が採用し、サッカーなど特定のスポーツを「精力的に発展させる」よう助言している。

中国の放送規制当局もこの年、エンターテイメント番組における「女々しい」美的感覚を禁じるとし、「下品なインフルエンサー」を避けるべきだとの見解を示した。

当局はさらに、より男性的な男性像を推進すると表明。しっかりと化粧をしている男性著名人らを批判した。
このような動きは、性的マイノリティーの人物が注目されるようになってきた中でも起きている。(中略)

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のティモシー・ヒルデブラント准教授は、「社会的、家族的差別のある国々では、こうした問題はさらに深刻化する」と指摘する。

上海プライドの彭氏は、中国を離れた今も、同国のLGBTコミュニティーを支援している。

「過去10年にわたって上海プライドを運営してきたが、今は限られたイベントしかない。私も他のコミュニティー組織を支援したり、そのイベントに参加したりする機会が増えた」

「草の根活動も、個人や企業も、まだそれぞれの領域で声を上げられるし、コミュニティーやアライ(ally=理解・支援者)への働きかけを創造的に行うことができる」と、彭氏は続けた。

「今、権利主張を行うスペースは非常に限られているが、努力を止めるべきではない」【2023年6月29日 BBC】
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上記のように2021年頃から状況が厳しくなっていることは耳にしていましたが、「草の根活動も、個人や企業も、まだそれぞれの領域で声を上げられるし、コミュニティーやアライ(ally=理解・支援者)への働きかけを創造的に行うことができる」という昨年中頃の話と冒頭の「LGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行している」という話は随分と様相が異なるようにも思われます。

一段階取り締まりのギアが上がったのでしょうか。

【LGBT対応にとどまらない、政権の「多様性への不寛容」、人権意識の希薄さという基本性格を示すもの】
問題はLGBTに関するものにとどまりません。LGBTへの不寛容は「多様性への不寛容」、人権意識の希薄さを示すものであり、この国と付き合って行かざるを得ない日本にとっても重要なことです。

これまで頼りにしていたアメリカでは「カネを払わないなら、ロシアに好き勝手させるように煽ってやる」という用心棒というか、みかじめ料を取り立てるヤクザみたいな人物が大統領に復権しそうです。

アメリカがそういう国なら、日本も基本的な方向を考え直して、中国との関係を見直すのも一つの方向性では・・・と言いたいところですが、いくら政治体制が異なるとはいえ、「LGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行している」といった国との付き合いを深めるのもできない相談・・・・「いやな渡世だな・・・」
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春節とぶつかったカンボジア旅行

2024-02-11 01:14:50 | 身辺雑記・その他
(カンボジア・シェムリアップの外国人街「パブ・ストリート」付近 一番多いのはカンボジア国内旅行者でしょうか。 街の雰囲気は西洋人をターゲットにしたもの)

【春節とぶつかったカンボジア旅行】
8日(木曜日)からカンボジア・シェムリアップ(世界有数の観光地アンコールワットを抱える街)を旅行中です。

カンボジアでは上院選挙が始まったとのことですが、間接選挙なので、街中の様子にはまったく影響がありません。

****カンボジア上院選挙戦始まる 首相世襲後初、一族独裁強固に*****
カンボジア上院選の選挙運動期間が10日始まった。フン・マネット氏が首相職を昨年8月に世襲してから最初の国政選挙。政権与党カンボジア人民党で党首を務める父親のフン・セン前首相は上院議長に就任すると宣言しており、一族がさらに独裁的な権力基盤を固めそうだ。投開票は25日。
 カンボジアでは近年、与党側が野党弾圧を強め、上下両院の議席をほぼ独占してきた。上院選は下院議員や地方評議会(議会)議員の投票により議員を選ぶ間接選挙で、人民党の独走は決定的だ。
 上院の任期は6年。議員定数は62で、選挙では国王による任命議員らを除く議員を選出する。【2月10日 共同】
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街の様子に影響があるのは、中国で春節を迎えたこと。

****中国で旧暦の正月「春節」迎える 8日間の連休中、延べ90億人の移動を予測****
中国は10日、旧暦の正月にあたる「春節」を迎えました。8日間の連休中に延べ90億人の移動が予測されています

中国は10日、春節を迎え、17日までの8日間の連休に入ります。帰省や旅行で延べ90億人が移動すると予測されていて、経済が低迷する中、消費拡大への期待が高まっています。

中国メディアによりますと、高速鉄道の利用者は、移動が本格化してからの1週間で延べ1億人を超えました。(後略)【日テレNEWS】
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カンボジア人自体は春節を祝う風習はなく、祝日でもありませんが、中華系住民も少なくないので、市場にはランタンを売るあ店が目だったり、中華系住民が関係する企業・お店は休業したり。
また、カンボジア国内の観光地は中華系住民で賑わっています。

個人的な影響としては、今日(10日)はアンコールワットに行ってきましたが、中華系住民で混雑。あと、予定してお店が春節で休業・・・といったことも。

【中国人観光客のオーバーツーリズムで変化するラオスの古都ルアンプラバン】
中国の旅行スタイルも、不景気の影響もあって国内中心で、海外についても、ひと頃の団体で押しかけて爆買いといったものから、各人の興味・嗜好に合わせたものに変化しているようです。

海外旅行のなかでは、手近な日本は香港に次いで人気だとか。それも北海道・ニセコだったり、岐阜や青森が人気があったりと。

そうしたなか、中国ラオス鉄道開通の影響もあって、ラオスを訪れる中国人も多いようですが、オーバーツーリズムの問題も。

*****中国ラオス鉄道開通で観光ブーム 古都の静寂壊されるとの声も****
ラオスの古都ルアンプラバン。夜明けとともに黄色のけさを着たはだしの僧侶たちが托鉢(たくはつ)に出る。カメラを握り締めた大勢の観光客が、早朝の厳格な雰囲気を打ち破る。
 
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されているルアンプラバンには、昨年1〜9月に80万人近くが訪れた。国営メディアによると、ルアンプラバンは2024年末までに300万人の観光客を誘致する目標を掲げている。
 
政府は観光業に力を入れているが、地元の人たちは静かだった街が団体観光客に占領され、文化が変わってしまうと懸念している。
 
朝の托鉢はかつて、仏教徒の住民と僧侶の間で粛々と行われていた習慣だった。しかし、今では僧侶たちはプラスチック製の椅子に座る数百人の観光客と、携帯電話を目の前に突き出してくるツアーガイドの間を歩かなければならなくなっている。
 
ルアンプラバンでは、朝の托鉢を見学する外国人観光客は以前から大勢いた。しかし、いまでは托鉢は写真撮影会のようになってしまったと住民は嘆く。

何も買わずに写真を撮りまくっている」と、30歳の物売りの女性は不満を漏らした。

だが、もち米が入った喜捨セットを1個5万キープ(約360円)で販売する女性にとって、まったく観光客が来ないのも問題だ。
「観光客が来なければ、売り上げもなくなってしまう」「観光客が来れば来るほど、私たちの生活も変わってしまう。もはやカオスだ」

■一帯一路の鉄道開設
ルアンプラバンは、中国が進める「一帯一路」の下で敷設された高速鉄道の開業で観光客が急増し、外国からの投資も流入している。
 
昨年開業した駅と街を結ぶ公共バスはない。ぼろぼろの舗装道路に白いミニバンが6列に止まっている。駅の表示はすべて中国語で、ターゲットにしている層は明らかだ。
 
中国の重慶から到着した団体旅行客の一人はAFPに対し、「ラオスはこれから発展するだろう。特に習近平国家主席による一帯一路が経済に寄与する」と語った。
 
中国が60億ドル(約8900億円)を投じた高速鉄道は、中国の昆明からラオスの首都ビエンチャンを結ぶ。ラオスが中国から多額の借り入れをして進める数あるプロジェクトの一つだ。
 
両国首脳は、鉄道の開通はラオスに恩恵をもたらすと強調したが、地元の人々は言われていたような利益はほぼもたらされていないと口をそろえる。
 
中国人の団体旅行客は、中国人が所有するホテルに宿泊し、中国人が経営するレストランで食事をし、中国人の所有する車で移動する。
 
タクシー運転手の男性は、自分が若い頃は欧州からの観光客が多かったが、今はアジアからの旅行者が増えたと話す。
 
団体旅行が増えたことも、観光を変化させている。静かに日没を眺めるメコン川のサンセットクルーズは、ポップ音楽が鳴り響き、客がカラオケに興じる騒々しいパーティーに変わった。
 
早朝の通りに目を戻すと、托鉢に参加する中国人、韓国人、日本人であふれていた。欧州の言語を話す人は少なかった。
 
若いラオス人の女性が、僧侶の顔の目の前に携帯電話をかざして写真を取ろうとしていた男性を追い払っていた。「僧侶に近づかないよう、観光客にいつも言わなければならない」と話した。「観光客がたくさん来るのはいいけど、写真をたくさん撮ったり、声高に要求を突き付けてくるのは好きではない」 【2月9日 AFP】
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【カンボジア・シェムリアップ 思ったほど目立たない{中国」の存在】
ラオスと並んでASEANのなかでは親中国路線のカンボジアは・・・と言えば、さほど中国人観光客が押し寄せているという状況ではないようです。

街の看板など見ても、漢字表記のものは意外なほどに目立ちません。(中国人相手のレストランなどは別ですが)

外国人観光客が集まる繁華街でも、確かに言われてみると中華系(国内中華系住民なのか中国からの観光客なのかはわかりませんが)は目につきますが、それ以上に多いのは西洋人で、何にしても街の雰囲気が完全に西洋人をターゲットにしたもの。(東南アジアでよく見る外国人街の雰囲気)

ということで、ここ2.3日のごく限られた個人的印象で言えば、カンボジア・シェムリアップの中国化は思ったほど進んではいない・・・というのが正直な感想です。(完全に中国化した都市もあるようには聞きますが)
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カンボジア人はのんびりしている・・・は間違い ガイド氏怒る

2024-02-09 20:59:58 | 東南アジア

(プリア・カン遺跡)

昨日(8日)からアンコールワット遺跡観光の街、カンボジア・シェムリアップを旅行中です。

今日(9日)、二階建ての石造遺跡が残る「プリア・カン」へガイド氏とともにトゥクトゥクで移動している際の会話。

【政治が変わらないのでカンボジアの暮らしもよくならない】
フン・セン前首相から息子への首相世襲についてカンボジア国民はどう見ているのか尋ねたところ、やはりよく思っていないようですが、国内では批判はできないという予想した回答。

政治が変わらないので、カンボジアは発展しないともこと。

確かに、シェムリアップの街は来るたびに大きくなっています。
初めて訪れた頃は、にぎやかな通りはメインストリートだけで、奥に入ると静かな街でしたが、今は大都会に。(あくまでもイメージの話ですが)

昔は街を歩くとバイクタクシーのおじさんが「ワン・ダラー」と盛んに声をかけてきましたが、そんなバイクタクシーは姿を消し、多くの車が行きかう通りに。

ただ、市街地から50㎞ほどはなれた新空港から街に向かう車から見る景色は「あまり変わっていないな・・・」という感じ。

今も昔も市民の暮らしは大変とのことです。

【カンボジア人はのんびりしている・・・は間違い ガイド氏怒る】
ガイド氏との話のなかでベトナムとの関係が話題になった際に「カンボジアの人はのんびりしているけど、ベトナム人はよく働くから」といった趣旨のことを私が言うと、温厚なガイド氏が怒った様子。

「カンボジアの人は怠けて働かないのではないです。働く場所がないのです。好きでのんびりしているのではありません。だから多くのカンボジア人がタイに出稼ぎに行っており、とてもきつい仕事をしているのです。政治が変わってくれたらそんな苦労も減るのに・・・・」

「のんびりしている」云々の言葉を謝罪し、べトナムとの関係を改めてきくと、ベトナム人への怒りが堰を切ったように・・・・

【あらためて、カンボジアのベトナム嫌悪】
カンボジアにはベトナム人が非常に多く移住しているようですが、多くは非合法。先日政府はベトナム人10万人の居住許可を出したとかで、ガイド氏は「もっとたくさんのベトナム人がいます。ベトナム人が勝手にやってきて住む・・・そんな国はカンボジアだけです。 ベトナム人はいろんな悪いことをやっており、うるさいし、危ないのでそばに住みたくありません・・・・」

日本と韓国のように隣国の国民感情が悪いのは世界の共通現象です。
その一つがカンボジアとベトナムの関係ですが、カンボジア人のベトナム嫌いはこれまでのカンボジア観光でもしばしば目にしました。

例えば、シェムリアップには内戦時代の地雷をテーマにした私設博物館みたいな施設がありますが、展示されている絵は地雷の脅威というより内戦時のベトナム軍の蛮行を批判したもの。そうした絵だけ見ていると、地雷博物館というより抗ベトナム記念館といった雰囲気。

そんな話をしながらトゥクトゥクでプリア・カンに向かうのでした。

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カンボジア  新首相のもとでも悪化する強権支配 親中国路線継続

2024-02-07 22:55:42 | 東南アジア

(【2022年8月25日 日経】)

【「カンボジアの民主主義は死に向かいつつある」】
カンボジアでは、野党勢力を排除したフン・セン首相による独裁・強権支配が進行していましたが、昨年8月には息子のフン・マネット氏へ事実上の世襲がおこなわれました。

首相だけでなく、政権有力者も子供に代替わりするという、政権丸ごとの世襲でもありました。

野党勢力が選挙から排除されるだけでなく、国内においては政権が困難な状況にもなっています。

****
独裁の圧力には屈しない 祖国の民主化求める在日カンボジア人インフルエンサー*****
カンボジアの独裁体制に反対する同国出身者ら約500人が17日、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の特別首脳会議のためフン・マネット首相が来日しているのに合わせ、東京都内で祖国の民主化を求めるデモ活動を行った。

カンボジア人民党政権への抗議動画をSNSに投稿しているワン・レアケナーさん(27)も、参加者の一人。有形無形の圧力を受けているが「独裁に黙っているわけにはいかない」と力を込める。

ワン・レアケナーさんは首都プノンペンから車で1時間ほどというコンポンチャム州の出身。2019年4月に観光ビザで来日し、夫と1歳になる娘の3人で暮らしている。現在は難民認定申請が認められないまま、入管施設への収容を一時的に解かれた「仮放免」の状態にある。日本にとどまる理由は、帰国すれば当局に拘束される恐れがあるからだ。

昨年4月以降、人民党政権の強権姿勢をTikTokやフェイスブックで非難。視聴回数が100万回を超える動画も珍しくない。民主化を求める国内外のカンボジア人にとって影響力が大きなインフルエンサーといえる存在で、人民党政権から「社会を扇動した」などと出頭が命じられているという。

今回のデモも12月8日にSNSで告知したところ、その後、カンボジアの実家では深夜にドアがたたかれ、石を投げられる被害が続いている。ワン・レアケナーさんは人民党政権の関係者による嫌がらせだと考えている。

そもそも来日した理由も、カンボジアでの生活に危険を感じたからだった。夫が民主化デモに関わると、自宅に車が衝突し、建て直した後も投石が繰り返された。

カンボジアではフン・マネット氏の父で40年近く首相を務めたフン・セン氏が事実上の独裁体制を敷き、2017年の地方選で与党・人民党に肉薄した野党・カンボジア救国党の党首を国家反逆容疑で逮捕し、解党。救国党に代わり有力野党となったキャンドルライト党に対しても党幹部を拘束し、今年7月の総選挙では「書類の不備」を理由に政党登録を認めなかった。

実家には母親と、カンボジアに残してきた6歳の息子が暮らしている。ワン・レアケナーさんは「独裁体制に声を上げないのは楽だけど、いつか自分たちが被害者になる」と訴える。その上で、こう本音を漏らした。「人権が尊重され弾圧されないカンボジアになればすぐに帰りたい。息子に会いたい」【2023年12月18日 産経】
****************

先日、有力野党キャンドルライト党のティアウ・バンノル党首が来日し、日本が同国の内戦の和平交渉を主導し民主化を後押しした経緯を挙げて「カンボジアの民主主義は死に向かいつつある。民主主義の生みの親である日本に力を貸してほしい」と訴えています。

****「日本は民主主義の生みの親、力を貸して」政権から迫害受けるカンボジア野党党首が訴え*****
有力野党キャンドルライト党のティアウ・バンノル党首が来日し、東京都内で産経新聞の単独インタビューに応じた。

同国で野党は政治的迫害に直面しており、同党も昨年7月の下院総選挙で参加資格が剝奪された。バンノル氏は日本が同国の内戦の和平交渉を主導し民主化を後押しした経緯を挙げて「カンボジアの民主主義は死に向かいつつある。民主主義の生みの親である日本に力を貸してほしい」と訴える。

──来日の目的は
「日本政府や与野党の関係者にカンボジアの現状を伝えるためだ。カンボジアでは野党の活動が妨害され、野党を支援すれば暴行されるなど迫害を受けている。これでは民主主義国家とはいえない。キャンドルライト党が選挙に参加できるように日本政府に後押しをしてほしい」

《昨年7月の総選挙は与党カンボジア人民党の圧勝に終わった。フン・セン前政権の影響下にある選挙管理委員会は「書類の不備」を理由にキャンドルライト党の政党登録を認めず、同党は選挙に参加できなかった。前々回の2018年の総選挙でも最大野党の救国党が直前に解党させられた》

──日本に頼る理由とは
「(ポル・ポト政権崩壊に伴う内戦状態を終結させた1991年の)パリ和平協定の策定で、日本はリーダーとして大いに活躍してくれた。カンボジアの民主主義の生みの親といっていい。

カンボジアの民主主義は小さな苗から育てて、どんどん大きくなると思っていたら、切られてしまった。カンボジアの民主主義は死に向かっている。日本が当時頑張ってくれた時間や労力を無駄にしたくない」

「日本は投票箱の提供や開票の計測技術など選挙支援に加え、道路や橋などインフラ整備でカンボジアの発展に貢献してくれている。民主主義の根幹である選挙が公平に行われるためにはどうしたらいいか一緒に考えてほしい」

《カンボジアは昨年8月、40年近く首相を務めたフン・セン氏が退任し、後任には長男のフン・マネット氏が就いた。閣僚の多くがフン・セン氏や側近といった人民党の有力者の子供で、世襲による政権の私物化批判がくすぶる》

──フン・マネット政権になり変化はあるか
「フン・セン政権時代よりひどくなっていると感じる。今月2、3日には海外を含めて野党関係者6人が捕まった。以前は逮捕状が提示されて拘束されたが、今は理由も示されずに捕まっている」

──バンノル氏と同じように令和4年12月に来日し、カンボジアの選挙が公平に実施されるように訴えた同党副党首のタッチ・セター氏は帰国後の翌年1月、カンボジア当局に拘束された

「政治的理由による不当な逮捕だ。副党首はカンボジアで人気がある政治家で、総選挙を前に党の影響力をそぐ狙いがあったのだろう」

──バンノル氏も日本での活動を理由にカンボジアで拘束される恐れは
「怖いけどやるしかない」(後略)【2月5日 産経】
**********************

こうした批判を許さない独裁体制は必然的に腐敗します。

****【カンボジア】腐敗認識指数、8ランク後退の158位****
世界の汚職や腐敗を監視する非政府組織(NGO)のトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)が公表した2023年版「腐敗認識指数(CPI)」で、カンボジアの順位は世界180カ国・地域中158位となり、前年から8ランク後退した。

腐敗認識指数は国際機関やシンクタンクのデータを基に腐敗認識度を100点満点で数値化したもので、数値が高くなるほど汚職や腐敗が少ないとされる。  

カンボジアの23年の指数は22。22年の24、21年の23から悪化した。  TIカンボジアのペク・ピセイ事務局長は、説明責任と監視の強化、法律の改正などを通し、汚職の撲滅に向けた改革を加速させるよう政府に要請した。  

1月31日の地元紙クメール・タイムズ(電子版)によると、政府の汚職防止組織(ACU)の広報官はTIの調査結果について、「カンボジアの実情を正確に反映していない」と批判。カンボジアは「腐敗の防止に関する国際連合条約(国連腐敗防止条約=UNCAC)」の批准国として、国連の指針を順守してきたと述べた。   

TIによると、23年のCPIは世界平均が43、アジア太平洋地域の平均が45だった。  
東南アジア9カ国では、ミャンマーが最低の20で前年から3ポイント悪化。ベトナムは41、タイは35、ラオスは28と、いずれも前年から悪化した。  

一方、マレーシアは50、フィリピンは34と、それぞれ改善。インドネシアは前年と同じ34だった。  域内指数の最高はシンガポールの83。同国の世界順位は前年と同じ5位だった。【2月5日】
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【フン・マネット首相も親中国路線継続 懸念するアメリカ】
外交面では、フン・マネット首相はフン・セン首相時代の親中国路線を引き継いでいます。
****中国、カンボジアとの友好確認=習氏が新首相と会談****
中国の習近平国家主席は15日、カンボジアのフン・マネット首相と北京で会談した。習氏は「国際・地域情勢がいかに変化しても、中国はカンボジアの最も信頼できる友人だ」と強調。経済分野に加え、国境を越えた通信犯罪など治安面での協力を呼び掛けた。

習氏は、父親のフン・セン前首相について、両国の友好に「歴史的な貢献をした」と評価。フン・マネット氏が就任後初の個別訪問国として中国を選んだことを歓迎した。

フン・マネット氏は経済支援に謝意を示し、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」への協力深化を表明した。【2023年9月15日 時事】
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カンボジアと中国は経済面だけでなく、安全保障面でも関係を強めてきました。


カンボジア南部のリアム海軍基地は中国の援助で拡張工事が行われ、その見返りに中国が基地を軍事利用する「密約」疑惑も指摘されており、アメリカはこの動きを警戒しています。

****中国艦船のカンボジア基地入港報道、米国が注視****
米国務省の報道官は(12月)6日、中国の戦艦がカンボジアに入港しているとの報告を注視しており、主要海軍基地の一部を独占管理する計画に重大な懸念を抱いていると述べた。

ラジオ・フリー・アジア(RFA)は5日、複数の中国軍艦がカンボジアのリアム海軍基地に入港したと報道。カンボジアのティア・セイハ国防相は3日、同国海軍の「訓練の準備」とフェイスブックに投稿した。また、4日にはカンボジア指導者らと中国の軍制服組トップがプノンペンで会談したという。

米国務省の報道官は「この特定の事象にはコメントしないが、リアム基地の一部を中国が独占管理する計画に重大な懸念を抱いている」と述べた。

RFAは、入港した艦船の数は不明としたが、セイハ国防相の投稿には少なくとも2隻が映っている。【2023年12月7日 ロイター】
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【中国資金による新シェムリアップ空港は遠くて不評】
中国の「一帯一路」資金援助で建設されたのがアンコールワット観光など、観光面の玄関口シェムリアップの新空港です。


****中国支援の新空港、運用開始 カンボジア遺跡群の玄関口に****
カンボジア北西部の世界遺産アンコール遺跡群など観光地への新たな空の玄関口となる空港「シエムレアプ・アンコール国際空港」の運用が(23年10月)16日始まった。

整備費は巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱する中国が拠出し、総額は約11億ドル(約1644億円)。

17日に始まる一帯一路の国際会議の直前に新空港の運用を開始し、両国関係強化の弾みにしたい狙いだ。

カンボジア政府高官は16日の式典で両国の「鉄壁の友好」を強調した。
 
中国はカンボジアで高速道路など主要インフラ整備に相次いで投資しており、カンボジアの中国傾斜は一層鮮明になっている。【2023年10月16日 共同】
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ただ、この新空港は市街地から遠くて不便。評判はよくありません。

****カンボジアの“中国製”新空港が大不評 「遠すぎ」「飲食店が一軒もない」…「習近平」も来ない?****
10月16日にプレオープンしたカンボジアの「シェムリアップ・アンコール国際空港」の評判がよくない。この空港はアンコールワット観光の基点になる都市シェムリアップから東へ約45キロの場所に、中国企業3社が出資し建設した。

総工費は11億ドル(約1,600億円)といわれ、大型機も離発着できる3,600メートルの滑走路を備え、敷地面積は北海道の新千歳空港に匹敵する。2024年には700万人が利用すると見込んでいるというのだが……。

「とにかく遠い。以前の空港(※閉鎖されたシェムリアップ国際空港)は市内まで20分ほどだったけど、新空港はバスで1時間半近くかかる。そのバスも1日4便しかない。バス代は8ドル(約1,200円)だけど、タクシーを使うと35ドル(約5,200円)。

首都のプノンペンに行こうと思ったら、誰だってバスを選びますよ。安い上に、所要時間もあまり変わらないんですから」と、シェムリアップでレストランを経営するMさん(51)はいう。(中略)

Wi−Fiもつながらない
関係者の怒りの矛先は、開港を主導した中国に向かっている。近隣国からのフライトはあるにはあるが、新空港になる前は週に数便あった中国からのフライトが、なぜか週に2便ほどに減っているのだ。(中略)

「新空港を運営するのは中国の会社なんですが、建物は大きいけど設備は貧弱というかなにもない。Wi−Fiもつながらないし、ラウンジもない。レストランも一軒もないんです。利用者は小さな売店で飲み物や軽食を買うしかない。

ホームページもほとんど更新されない。以前の中国だったら、威信をかけてドーンとやるでしょ。なにか変なんです」

中国からのアクションなし
(中略)カンボジア側は、習近平を呼んでお披露目をしたかったようだが、話はまとまらなかったという噂も流れている。だったら自分たちで正式オープン……という筋立てだ。
 
新空港の青写真では、空港近くにエアポートシティという名のチャイナシティ構想もあった。高級ホテルを中心にした中国人向けリゾートだという。空港周辺に工業団地のプランもあったようだ。しかし計画はすべて止まっているのか、中国側からなんのアクションもないという。

閉まったままの観光ホテル
シェムリアップの観光業界は中国への依存度が高く、ツアー客に支えられてきた。コロナ禍が収束し、新空港が開港し、堰を切ったように中国人団体客が姿を見せることを期待していたが、そんな動きはまったく聞こえてこない。中国人団体客を受け入れる大型ホテルは、半分近くがまだ閉まったままだという。

「このままいったら私たちは沈んでしまう。しかし中国は怖いほど静か。なんの情報も入ってこない」と、Lさんは胸のうちを語る。

“空港観光”でにぎわい
実はいま、シェムリアップ・アンコール国際空港は、飛行機に乗らないカンボジア人でかなりにぎわっている。農村地帯に住む人たちが新空港を、無料のテーマパークのような感覚で遊びにくるのだ。

生まれてはじめて乗るエスカレーターでの写真は定番らしい。水洗トイレの使い方を知らない人も多く、トイレは水浸しになっているという。週末は空港観光客の車で渋滞が起きるほど。

しかしその誰もが飛行機には乗らない。15ヵ所もある搭乗ゲート周辺は閑散としているという。【2023年11月6日 下川祐治氏 デイリー新潮】
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実は、これからその新シェムリアップ空港に向かいます。
8日朝には到着予定。

もちろん単なる1週間ほどの観光です。
遠い新空港は個人的にも困りものです。

ということで、しばらくの間、ブログ更新は不定期になります。
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