孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタンの「最も信用できない選挙」 ロシアでは反戦候補排除か

2024-02-06 21:35:47 | 民主主義・社会問題

(イムラン・カーン元首相=2023年5月18日【2月6日 毎日】)

【パキスタンの「最も信用できない選挙」 この国の真の支配者は軍部】
パキスタンでは今月8日に国民議会選挙が行われます。

国民的人気という点で言えば、最も人気があるのが現在収監中(2023年8月に汚職を巡る罪で禁錮3年の有罪判決)で出馬できないとはいえ、クリケットの元スター選手で、在任中に軍情報機関トップの人事などを巡って軍部と対立し、議会で不信任を決議されて22年4月に失職したカーン元首相です。

そのカーン元首相に対して、選挙直前に文字通り“連日のように”追加的有罪判決が言い渡されています。
同氏の人気をおそれる現政権、そしてその背後にいる軍部の意向を受けて、同氏の信用失墜、同氏が率いる野党の抑止が目的と見られています。

****カーン元首相に禁錮10年 パキスタン、守秘法違反****
パキスタンの特別法廷は30日、首相在任中に外交公電の内容を公表した公職守秘法違反の罪で、カーン元首相に禁錮10年を言い渡した。地元メディアが報じた。パキスタンは2月8日に総選挙を控え、政界復帰を目指すカーン氏にとって打撃となる。

側近のクレシ元外相も30日、同様の公職守秘法違反の罪で禁錮10年となった。2人は2022年3月、米国が政権転覆を企てていると主張し、その説明のために公電に書かれた内容を都合よく解釈して公表したとされる。【1月30日 共同】
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****パキスタン元首相に禁錮14年 カーン氏、政界復帰に打撃****
パキスタンの裁判所は31日、首相在任中に外国首脳らから受け取った高額な寄贈品を売却しながら政府に虚偽申告をした汚職を巡る罪で、カーン元首相に禁錮14年を言い渡した。国会議員などの公職に就くことも10年間禁じた。地元メディアが報じた。

パキスタンの特別法廷は30日、公職守秘法違反の罪でカーン氏に禁錮10年を言い渡した。同国では2月8日に下院選が予定され、今回の判決は政界復帰を目指すカーン氏にはさらなる打撃となった。

裁判所は31日の判決で、カーン氏に罰金7億8700万パキスタンルピー(約4億1500万円)も科した。【1月31日 共同】
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****カーン元首相、今度は「違法結婚」で実刑=禁錮7年、総選挙前に―パキスタン****
パキスタンの裁判所は3日、カーン元首相とブシュラ夫人に対し、イスラム教の教えに反し違法に結婚した罪で、禁錮7年と罰金を科す有罪判決を言い渡した。地元メディアが伝えた。

同国で8日に行われる下院選(総選挙)に向け、政権側は司法機関を通じ執拗(しつよう)にカーン氏の信用失墜を図っているもようだ。最大野党パキスタン正義運動(PTI)設立者の同氏は、国民的スポーツであるクリケットの元スター選手。収監中で総選挙に出馬できないものの、依然として高い人気を誇る。【2月3日 時事】 
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まさに“執拗に”という連日の判決です。

当然ながらカーン元首相個人に対してだけでなく、同氏が率いる野党・「パキスタン正義運動」(PTI)の選挙活動にも大きな圧力がかけられています。

****カーン元首相率いる野党に締め付け パキスタン、8日下院総選挙****
パキスタンで8日、下院(定数336)の総選挙が投開票される。野党「パキスタン正義運動」(PTI)を率いるイムラン・カーン元首相が汚職事件などで有罪判決を受けて出馬が絶望視される中、ナワズ・シャリフ元首相の与党「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML―N)が優勢とみられている。

しかし、クリケットの元スター選手でもあるカーン氏の人気は若者を中心に根強く、野党の反発と混乱が予想される。

カーン氏は2023年8月に汚職を巡る罪で禁錮3年の有罪判決を言い渡された。判決が「政略的だ」と反発して政界復帰を目指してきたが、その後、追い打ちをかけるように公職守秘法違反の罪などでさらに3回の有罪判決を受けた。

選挙管理委員会が公表した下院選の候補者リストに名前はなく、政界に大きな影響力を持つ軍が圧力をかけたとの見方が出ている。

PTIは18年7月の前回選で政権交代を実現した。首相に就任したカーン氏は軍と良好な関係を築いていたが、軍情報機関トップの人事などを巡って対立。議会で不信任を決議されて22年4月に失職し、PTIは下野した。

23年5月にはカーン氏の汚職事件を巡る逮捕を受け、PTIの支持者が軍や政府の施設を襲撃する暴動が起きた。選挙管理委員会は政党の要件を満たしていないとして、PTIが使ってきた政党シンボルを剥奪している。

PTIで首都イスラマバードの選挙区を管轄する男性は毎日新聞の取材に野党への締め付けが激しくなっていると訴える。男性は「軍の一部勢力が、PTIの選挙への参加を妨害している」と強調し、「拘束される恐れがあり、友人の家を転々としながら選挙活動を続けている」と語った。

3度の首相経験があるシャリフ氏も、1999年の2度目の首相在任中に軍クーデターで失職するなど一時は軍と対立した。しかし、現在は良好な関係を保っている。

越境攻撃の応酬に発展したイランとの関係改善や、物価上昇への対策が急務だが、シャリフ氏は今月5日の集会で「私の政権が続いていれば、人々は今日のように不満を抱いていなかっただろう」と訴えた。【2月6日 毎日】
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もともと選挙は、議会が昨年8月に解散されたため憲法規定によって昨年11月の実施が予定されていましたが、新たな国勢調査に基づいて選挙区の区割りを見直すために延期されていました。

議会解散にともなって、現在は選挙管理内閣が組織されていますが、それまでの首相はシャバズ・シャリフ氏。
そのシャバズ・シャリフ前首相の兄が、首相を3期務めた政界の実力者ナワズ・シャリフ元首相。

ナワズ・シャリフ元首相は2017年、汚職罪で有罪判決を受けるとイギリスへ事実上亡命、その後、昨年10月に帰国して4度目の首相の座を狙います。

****「最も信用できない選挙」パキスタン、8日に下院選も政策論争なく 野党弾圧は軍の意向か****
(中略)経済低迷など課題が山積するにもかかわらず、政策論争は欠いた状況だ。

「私の時代の開発や政策が続いていれば、国の経済が今のような状態にはならなかっただろう」。政界復帰を目指すシャリフ氏は選挙期間中の演説でこう繰り返し、支持を呼びかけた。

シャリフ氏は3度首相を務めたが、2017年に資産隠し疑惑を巡り議員資格を剥奪されて辞任。汚職罪で有罪判決を受けると英国へ事実上亡命した。昨年10月に帰国し、今回、4度目の首相の座を狙う。

ただ、選挙は既に「建国以来、最も信用できない選挙」(米紙ニューヨーク・タイムズ)と評される。与党側がカーン氏やPTIへの圧力を強めたためだ。

パキスタンでは22年4月、当時首相のカーン氏が経済危機を巡る失政を理由に下院で不信任案を可決され失職。同氏は昨年以降、汚職罪などで複数回訴追され、3件の罪で実刑判決を受けた。立候補も阻止された。PTIでは出馬が認められない候補が続出し、支持者への襲撃も相次ぐ。PTIはシンボルマークであるクリケットのバットの使用も認められなかった。

弾圧の背景には、政治や司法に強い影響力を持つ軍の意向があるとされる。軍は前回18年選挙でPTIを支援したが、カーン氏が首相就任後、軍人事に介入したことなどを問題視し、関係に亀裂が入った。カーン氏の失職は軍がシナリオを書いたともささやかれた。

代わりに軍が注目したのがシャリフ氏。英国からのの帰国も軍がゴーサインを出したとされ、地元記者は「市民はシャリフ氏を〝軍に選ばれた首相候補〟とみている」と述べた。

一方、パキスタンは新型コロナウイルス禍に加え、22年に国土の3分の1が冠水する洪水に見舞われ、経済状況が深刻だ。昨年7月に国際通貨基金(IMF)は30億ドル(約4500億円)の融資を承認し、債務不履行の危機は脱したが、厳しい状況が続く。シャリフ氏はインフレ対策や雇用創出を訴えているが、具体的な妙手はなさそうだ。

PTI側はカーン氏への刑事訴追を「嫌がらせであり、国民は決して受け入れないだろう」と反発。「国家による抑圧に勇気をもって立ち向かう」と強調している。PML−Nが勝てばPTI支持者の反発は確実で、国内情勢は流動化していく可能性がある。【2月6日 産経】
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シャリフ元首相も軍部と対立して失職の経験がありますが、今回帰国は“軍がゴーサインを出した”ことによるもの。 カーン元首相も就任当時は軍部の支持を得ていましたが、対立すると失職。

シャリフ元首相の与党、パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML−N)が勝とうが、カーン元首相の野党、パキスタン正義運動(PTI)が勝とうが、この国の真の支配者は背後で糸を引く軍部・・・ということです。

【ロシア 反戦派ナデジディン氏排除の動き】
「最も信用できない選挙」ということですが、その類の“信用できない選挙”は残念ながらパキスタンに限らず、世界中の巷に溢れています。

ロシアでは3月に大統領選挙が行われ、プーチン大統領の勝利(通算5選)が確実視されていますが、問題は“勝ち方”。圧勝で世界に国民の支持を誇示する必要があります。

ウクライナでの戦争が長引く中で、政権は戦争批判が広がることに神経質になっています。

****動員兵の帰還求め妻らがデモ、記者一時拘束 ロシア****
ロシア・モスクワで3日、ウクライナ侵攻に動員された兵士の妻らが夫の帰還を求めて行ったデモを取材していた約20人の報道関係者が、警察に一時拘束された。AFP通信の記者も警察署に連行されたが、数時間後には解放された。

動員兵の妻らはここ数週間にわたり、毎週末、大統領府(クレムリン)の壁の前で抗議活動を行っている。当局は反政府的な抗議活動を厳しく取り締まっているが、兵士の妻らはこれまでのところ処罰されていない。妻らを拘束すれば反発が一段と拡大する恐れがあると懸念しているとみられる。

この日はモスクワ中心部の赤の広場の外で、抗議活動を取材していた内外の報道関係者(全員男性)が拘束された。拡散された動画には、報道関係者であることを示す黄色いベストを着た記者らが警察車両に乗せられる様子が捉えられている。

ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでの戦闘に従事する兵士は61万7000人で、うち24万4000人が動員兵だとしている。 【2月4日 AFP】AFPBB News
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なかなか表に出てきにくい戦争批判の受け皿になりそうだ・・・ということで注目されているのが、唯一の「反戦候補」であるナジェージュジン氏。立候補のための署名活動でその支持の広がりが顕著になっています。

当然のように、政権側は神経質にも。反戦候補が一定の得票を得る結果になれば、(選挙に勝ったとしても)プーチン大統領の面目が潰れます。今後の戦争遂行にも影響します。

****ロシア大統領選出馬に向け「反戦候補」が署名提出 「クレムリンは神経質になっている」支持広がりに****
ウクライナ侵攻反対を掲げ、3月のロシア大統領選で出馬を目指す元下院議員が、候補者登録に必要な署名を中央選挙管理委員会に提出しました。(中略)

改革派政党「市民イニシアチブ」から立候補を表明した元下院議員のナジェージュジン氏は31日、10万5000人分の署名を中央選管に提出しました。

ウクライナ侵攻を「プーチン大統領最大の過ち」と批判し、20万人以上の署名を集めたというナジェージュジン氏は、JNNの単独インタビューで自身の支持の広がりについてこう語っています。

元下院議員 ナジェージュジン氏
「クレムリン(大統領府)は神経質になっている。私の支持率は1か月前1%だったが、いまは10%に増えた。(プーチン氏に次いで)2番目だ」

中央選管が今後10日以内にナジェージュジン氏の出馬の可否を判断することになりますが、反戦ムードの高まりを警戒する政権の意向を受け、出馬が認められない可能性も指摘されています。

一方、通算5選が確実視されるプーチン大統領は、他の候補者との討論会には参加しないとしていて、仮にナジェージュジン氏の出馬が認められても侵攻の是非を問う討論などは行われない見通しです。【2月1日 TBS NEWS DIG】
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懸念されていた“出馬が認められない可能性”・・・次第に現実のものになりつつあります。

****ロシア大統領選、反戦派ナデジディン氏排除か 中央選管が署名に「不備」認定*****

(1月31日、モスクワのロシア中央選管で、大統領選出馬のための有権者署名を提出する際に話すナデジディン元下院議員(共同))

3月のロシア大統領選の出馬予定者の中で唯一、ウクライナ侵略に反対の立場を表明している元露下院議員、ボリス・ナデジディン氏(60)の陣営幹部は5日、陣営が露中央選管に提出した有権者10万人分超の署名に関し、15%超を中央選管が「不備」だと認定したと明らかにした。陣営幹部によると、署名の5%以上が不備だと認定された場合、ナデジディン氏は大統領選に出馬できない。

大統領選では通算5選を狙うプーチン大統領の「圧勝」が確実視されているものの、政権側はナデジディン氏が出馬して一定の票を集めた場合、政権への打撃となることを警戒し、ナデジディン氏の排除に動いた可能性がある。

露メディアによると、陣営幹部は「署名は真正に集められた」とし、不備認定が誤りであることを証明する用意があると説明。ナデジディン氏も「中央選管が私を候補者登録しなかった場合、最高裁に不服を申し立てる」と表明した。

ナデジディン氏陣営は1月31日、候補者登録に必要な有権者10万人分を超す署名を中央選管に提出。中央選管は署名を審査し、今月7日にも候補者登録の可否を発表するとしている。【2月5日 産経】
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選挙の形を整えるためにある程度の反プーチン候補も認める、あるいは政権側がお膳立てするものの、一定以上に支持を集めそうな反プーチン候補はいかなる手段を使っても選挙から排除する・・・ほとんど意味のない「最も信用できない選挙」です。

前述のように、世の中にはこの類が溢れています。

もっとも、中国のように日本的な感覚での選挙自体がない国もありますので、それよりはマシと考えるべきなのでしょうか。

ただ、民主主義の守護者たるアメリカの選挙も、どんなに罪を重ねようが、民主主義への冒涜行為があろうが、それらに一向にかまうことなく熱烈な支持を受ける候補が政権に近づきつつある・・・・という現実を見れば、“民主的な選挙”とは一体何なのか、ため息も出てきます。

「もしトラ」の一番怖いところは、トランプ氏自身、あるいは彼の政策自体ではなく、(おかしな人間、うそつき、ペテン師、自己顕示欲の塊・・・そうした人間はどこの世界にも存在します)“民主的選挙”で、そういう彼を国民の過半が選んだという現実です。
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パプアニューギニア  警察ストで暴動 米豪と中国の影響力拡大競争

2024-02-05 22:21:29 | 国際情勢


(1月10日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、商店の略奪が起きる中、商品を持って走る人々【1月11日 時事】)

【太平洋島しょ国で繰り広げられる米中の陣取り合戦】
かつては太平洋島しょ国はアメリカ・オーストラリアの影響力が強い地域でしたが、近年は中国がこの地域への影響力拡大を図っており、中国と米豪の対立が激しくなっていることはこれまでも取り上げてきました。

中国進出の橋頭保的な役割を担っているのがソロモン諸島。下記は11月19日ブログでも引用した記事です。

****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。

首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。

サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。

同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。

豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。

またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。

これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
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【パプア「中国と安全保障協議せず」 中国からの融資受け入れにも慎重に】
そして今、米中のはざまで揺れているのが、これまで米豪の影響力が強かったパプアニューギニアです。
昨年末段階では、中国のアプローチにもかかわらず、安全保障でも経済でも米豪との関係を重視する姿勢を見せていました。

****パプアニューギニア「中国と安全保障協議せず」 豪と協定締結****
パプアニューギニアのマラペ首相は11日、中国とは安全保障について協議していないと述べた。パプアは先週、オーストラリアと安全保障協定を締結。5月には米国との防衛協力協定に署名している。

マラペ氏はシドニーに開催された資源投資に関する会合で、パプアは透明性が高いと発言。今年、自身が閣僚と共に中国を訪問し中国指導部と会談した際「安全保障に関する話はなかった」とし「経済分野に限って話をした。安全保障については伝統的な安全保障パートナーと連携している」と述べた。

オーストラリアとの安全保障協定は警察官の増員や司法の強化など国内の安全保障を重視しており、米国との協定は対外的な安全保障を考慮したものという。

米中の対立が強化する中、パプアは経済活性化に向け海外投資と貿易の促進を目指している。中国は昨年、ソロモン諸島と安全保障協定を締結した。

パプアは中国との自由貿易協定(FTA)を協議中。中国はすでにパプアの輸出品の半分を購入している。

マラペ氏は安全保障の改善は海外投資家にとって重要だとの認識を示した。

パプアは液化天然ガス(LNG)など主に資源・エネルギーを輸出している。【2023年12月11日 ロイター】
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****中国からの融資受け入れに慎重に パプアニューギニア首相****
パプアニューギニアのジェームズ・マラペ首相は11日、AFPの取材に応じ、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の下での資金借り入れについて、外国からの融資に「軽率に」依存することはしないと語り、慎重に対応する姿勢を示した。

パプアニューギニアは2018年、太平洋諸国として早期に一帯一路に参加した。しかし、翌19年のマラペ首相就任後は対米関係を徐々に強化し、今年に入ってからは米国と防衛協力協定を締結している。

エネルギー関連の会合に出席するため豪シドニーを訪問中のマラペ氏は、中国が提供する融資を無条件に受け入れる考えはないと強調。「仮に一帯一路の下でのプロジェクトについて、財務省が定めた要件に合わない場合は公正な検討がなされる」と語った。また、「われわれは軽率ではない。投資は確かな見返りがあるものに対して行う」と述べた。

中国は一帯一路を通じて開発途上国に過度の貸し付けを行い、返済が困難な状態に陥らせる「債務のわな外交」を展開していると批判されている。同じ太平洋の島国トンガは、中国輸出入銀行(中国輸銀)に対し、国内総生産のほぼ3分に1に相当する約1億3000万米ドル(約190億円)の債務を負っている。 【12月11日 AFP】
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なお、中国の「一帯一路」については、従来は米豪のように上から目線で民主主義を「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた感がありますが、最近は資金的に余裕がなくなったのか、太平洋島しょ国に関しても重点投資に切り替えたようだ・・・ということについては、前回11月19日ブログでも取り上げました。

【警官ストに乗じた略奪・放火】
話をパプアニューギニアに戻すと、2003年からコロナ禍前の19年までは経済のプラス成長が続いていましたが、その一方で経済格差が広がり、犯罪も深刻化しています。国連児童基金(ユニセフ)の22年の報告によると、人口約1030万人の40%が貧困ライン以下で暮らし、子どもの41%が貧困に苦しんでいるとのこと。

そうした経済状況も背景にあって、今年1月には給与減額問題で警察がストライキを行い、それに乗じて略奪・放火が起こるという社会混乱がありました。

****略奪・放火で数十人死傷 警察「スト」の隙突く―パプア****
太平洋の島国パプアニューギニアで10日から11日にかけ、商店への略奪や放火が相次いで発生し、死傷者が数十人規模に上った。給与が減額された警察官らが事実上のストライキを起こし、その隙を突く形で犯行が広がった。パプア政府は国軍部隊も投入し、治安回復を急いでいる。

直近の給与が事前の通告なく最大80米ドル(約1万2000円)減額されたことを受け、首都ポートモレスビーで10日午前、多数の警察官が抗議行動を繰り広げ、任務から離れた。

その後、首都や第2の都市ラエでスーパーや家電量販店などが次々と襲撃され、盗みや放火が続発。現地報道によると、11日午後までに少なくとも16人が死亡、数十人が負傷した。【1月11日 時事】
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政府は警察の抗議に対し、「給与計算システムの技術的問題」が原因で、修正するとしています。
暴動は11日夕までに沈静化したようですが、11日報道によれば、オーストラリアに対しては“治安維持や警察活動を支援しているパプア政府からの支援要請は現時点でない。”【1月11日 ロイター】とのことでした。

【中国は再度安全保障と警察の協力をパプアに提案 アメリカ「中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う」】
この暴動を受けて、中国は安全保障と警察の協力を再度提案しています。パプア側も中国との交渉を認めています。

****中国、パプアに安保協力提案=暴動受け親米政権揺さぶる****
中国が太平洋の島国パプアニューギニアに対し、安全保障と警察の協力を提案していることが分かった。パプアのトカチェンコ外相は30日、中国と交渉していると認めた。

パプアのマラペ政権は安保面で米国との協力を進めてきたが、今月起きた暴動で国内基盤が不安定化しており、中国が揺さぶりをかけている形だ。

トカチェンコ氏は30日、声明を出し、「中国は警察分野で訓練や機材提供の支援を申し出ており、われわれは慎重に検討している」と説明した。

中国側の最初の提案は昨年9月。パプアで今年1月、給与を巡る警察官のデモで警備が手薄になったことが暴動を誘発し、中国系企業も被害に遭ったのを受け、働き掛けを強めているもようだ。【1月30日 時事】
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これに対し、アメリカはパプアに対して中国との協定を拒否するよう求めています。

****米、パプアニューギニアに中国との安保協定拒否求める****
バーマ米国務副長官は、パプアニューギニアが中国から安全保障・警察活動で協力するとの申し出を受けたと表明したことを受け、パプアに対して協定を拒否するよう求めた。中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴うと警告した。

バーマ氏は、5日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドとのインタビューで「われわれは、中国が防衛や投資に関与すると高い代償が伴うことを見てきた。それをパプアニューギニアに伝えたい」と述べた。

パプアのトカチェンコ外相は先週、中国から警察に対する訓練や装備、監視技術の提供を打診され、安全保障や警察活動での協力に関する協定を結ぶ可能性を協議しているとロイターに明らかにした。

米国とオーストラリアは過去数10年にわたり太平洋地域を自国の影響が及ぶ圏内と見なし、2022年に中国とソロモン諸島が安全保障協定を結んだことを受け、島しょ諸国と中国による安全保障協定締結を阻止するよう取り組んでいる。

バーマ氏は、南太平洋に続いてオーストラリアを先週訪問し、これは資源が豊富な(太平洋)地域の影響力を巡る競争で、「われわれは積極的に競争していかなければならない」と述べていた。【2月5日 ロイター】
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実際はいろんな話がなされているのでしょうが、上記記事だけ読めば、“中国と安全保障協定を結べば結果と代償を伴う”云々というアメリカの言い様も、随分と一方的というか、恫喝に近いような響きも。

いずれにしても、太平洋島しょ国をめぐる米豪と中国の綱引きはしばらく続きそうです。
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日本の外国人労働者 周辺アジア諸国から労働者がいくらでもやってくる・・・そんな時代は終わりつつある

2024-02-04 22:32:01 | 日本の外国人労働者

(厚生労働省の(1月)26日の発表によると、2023年10月末時点の外国人労働者数は前年比12.4%増の204万8675人と、データをさかのぼれる08年以降で最多となった。過去10年では約3倍に増えている。外国人を雇用する事業所数も6.7%増の31万8775所と最多を更新した。 国際協力機構(JICA)が22年に発表した調査では、政府が掲げる国内総生産(GDP)目標(年平均成長率1.24%)を達成するには、外国人労働者が30年に現状の2倍の約420万人、40年に674万人が必要になるとみられている。【1月26日 Bloomgerg】)

【「経済大国日本には発展途上国の若い労働者がいくらでもやってくる――そんな時代は終わりつつある」】
少子化・人口減少もあって、日本の多くの産業で人出不足が大きな問題となっています。

近年よく言われるように、日本経済の低迷の結果、世界、特にアジアにおける日本の経済的位置は相対的に低下しており、今後日本の人材不足を外国人労働者に頼ろうとしても、優秀な人材は日本に来ない・・・ということにもなりつつあります。

****外国人労働者も日本を離れ韓国へ…“人口減少の逆襲”を受ける日本の現状を韓国メディアが報道****
2023年11月10日、韓国メディア・韓国経済は「日本では『人口減少の逆襲』である人材難が本格化しており、2040年には1100万人もの人手不足に陥る見通しだ」と伝えた。

総務省の労働力調査によると、23年7月現在、日本の就業者人口は6772万人となっている。これまで日本が人口減少にもかかわらず就業者数を増やすことができたのは女性と高齢者を労働市場に引き入れた結果だが、最近はその構造が限界に達し、人手不足が急激に深刻化していると、記事は説明している。

育児を並行する女性労働者は多くがパートタイマーで、高齢者もフルタイムの労働は回避する。団塊の世代が全員75歳以上になる25年には、高齢の労働者はさらに減ることになる。

その一方で、25〜44歳の労働者は13年以降、290万人減っている。(中略)今後、この年代は更に減っていく。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の生産年齢人口(15〜64歳人口)は20年の7509万人から40年には6213万人まで減少する見通しだ。30年まで年平均43万人ずつ、30年以降の10年間は86万人ずつ減少するとしている。

第一生命経済研究所の主任エコノミスト、星野卓也氏は「労働者数の減少で実質GDP(国内総生産)は30年代に0%、40年代にはマイナスに落ち込む」と分析している。

日本の人口は70年に8700万人まで減少する見通しだが、これは外国人人口が毎年16万人ずつ増えたと仮定したもので、日本人だけの場合、48年には人口1億人を割り込むことになるという。70年には日本の人口の9人に1人が外国人になる。外国人労働者なくして、日本社会と経済は立ち行かなくなる。

しかし、外国人労働者の市場さえ人手不足になっていると、記事は指摘している。円安で外国人労働者が日本を去っている。

日本の外国人労働者で最も多くを占めているのはベトナムだが、昨年、ベトナム経済は8%の成長を遂げている。22年のベトナム労働者の平均月収は660万ドン(約4万円)で、1年間で12%上昇している。日本経済研究センターは、32年にはベトナムの給与水準が日本の50%を超えるとの見方を示している。生活費などを考慮すると、ベトナム人が稼ぐために日本に行く理由はなくなる。

そのうえ最近は世界が安価な労働者を確保しようと争っている。
米マンパワーグループが今年、41カ国の雇用主を対象に実施した調査では、「人材難を体感している」との回答が77%で過去最高を記録した。日本企業は78%、中国は81%。日本以上に人材を求め、日本以上の賃金を払うライバル国ということになる。

日本政府傘下の機関が昨年末にインドネシアで宿泊分野の特別技能者採用に向けたテストを実施したが、2000人の枠への応募者は200人に満たなかった。東南アジアの労働者は同じ条件ならより給与のいい韓国や中国を選ぶという。(後略)【2023年11月12日 レコードチャイナ】
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****「日本はタイやベトナムより豊かだ」という幻想スシローも大戸屋も日本で食べるより高い****
すべての産業分野で人手不足が深刻化している。その数は政府推計で34万人。どう補うのか。(中略)
経済大国日本には発展途上国の若い労働者がいくらでもやってくる――そんな時代は終わりつつある。

「東南アジアには産業がなく、生活水準は低い」「日本に出稼ぎに行きたい人はまだたくさんいる」 
これらは本特集で東洋経済取材班が地方の中小企業経営者から聞き取った言葉だ。

現実はどうか。日本にとってあらゆる側面で重要なパートナーであり、今年で友好協力50周年を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)に目を向けてみたい。

10カ国で構成されるASEANの人口は約6.7億人で、豊富な労働力や天然資源を有している国が多いことから1980年代後半以降、自動車産業を中心に多くの日系企業が進出してきた。

(中略)堅調な経済成長を続けるASEANのGDP(国内総生産)は、2030年には日本を追い抜く見込みだ。所得の向上とともに分厚い中間層が形成されることで、旺盛な購買意欲を有する巨大消費市場になっている。

日本を超える旅行消費額
その勢いはマクロ経済のさまざまな指標から読み解くことができるが、ここでは消費市場としての発展について見てみよう。

家電製品を買いそろえたり、自動車を購入して休暇には外食やレジャー活動を楽しんだり、健康や教育への投資を増やしたりすることができるようになるといわれる上位中間層(年間世帯可処分所得が1万5000〜3万5000ドル)の人口は、(ASEAN)主要6カ国において2005年の7210万人から2019年には1億8610万人へと2.58倍に増加した。(中略)

2019年度の調査によると、ベトナムからの観光客の1日当たりの消費額は2.2万円で、ベトナムを訪れる日本人観光客の1日当たりの消費額1.6万円を超えている。タイからの訪日観光客の1日当たり消費額2.2万円も、タイを訪れる日本人観光客の2.0万円を上回る。(中略)

ビッグマックは中国、タイ、ベトナムより安い
タイ国内に193店舗展開しているやよい軒の「味噌かつ煮定食」は916円、同48店舗の大戸屋の「鶏と野菜の黒酢あん定食」は1298円、同51店舗のCoCo壱番屋の「フライドチキンカレー」は855円、同18店舗のスシローの「天然インド鮪6貫盛り」は1465円となっており、いずれも日本と同等価格もしくは割高となっている。

このほかにも東南アジア諸国では日本のチェーン店と同じような価格帯で現地コーヒーチェーンやさまざまなフードチェーンが事業展開しているが、各国の絶対的購買力平価を示すわかりやすい指標としてイギリスの『エコノミスト』誌によるビッグマック指数(BMI)がある。

米ドル換算で、スイスのビッグマックは6.71ドル、アメリカは5.15ドル、中国は3.56ドル、タイと韓国は3.5ドル、ベトナムは2.95ドルとなっており、次にようやく登場する日本は2.83ドルとなっている(いずれも2022年)。日本のビッグマック価格は中国、タイ、ベトナムを下回っているのだ。

急速に経済力を増す東南アジアでは、企業の事業拡大スピードに人材の供給が追いついていない現実もあり、有能な人材をめぐって熾烈な競争が展開されている。(中略)

その点、日本はどうか。
高学歴労働者や起業家、意欲のある留学生にとってどのくらい魅力があるかを国際比較する「人材誘致に関するOECD指標」で、日本は25位に甘んじている。(中略)その理由はいくつか考えられる。

筆者も協力したリクルートワークス研究所の調査によれば、中国、インド、タイにおける管理職への昇進年齢は日本のそれと比べて課長で約8歳、部長で約11歳も若い。

経済産業省の「未来人材ビジョン」(2022年5月)で公表された給与の比較を見てみても、日本企業の部長の平均年収(1700万円)は米国やシンガポール(3000万円)の半分近くで、タイ企業(約2000万円)よりも低い。
最低賃金も同様だ。米ニューヨーク州のフードデリバリーの最低時給は2716円、豪州の最低時給は2228円であり、東京都の1113円の倍となっている。

「アジアの中の日本」
日本経済が30年にわたって停滞している間に、アジア諸国はさまざまな問題を抱えながらも成長してきた。一昔前まで「アジアと日本」といわれたものだが、今では「アジアの中の日本」といわれるほど相対的地位は低下した。

日本はいつまで「出稼ぎに行きたい国」でいられるだろうか。少なくとも「日本に出稼ぎに行きたい人は東南アジアにはまだたくさんいる」という認識は、そろそろ改める必要がある。【2023年11月27日藤岡資正氏明治大学ビジネススクール教授・チュラロンコン大学日本センター所長 東洋経済オンライン】
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外国人労働者を必要としているのは、日本と同様に少子化が深刻な台湾や韓国でも同じです。日本はこうした国と人材獲得競争で競合することになります。

****台湾の介護も外国人頼み、激化が見込まれる人材獲得競争****
日本にとって台湾は、外国人労働者を獲得するうえでの最大のライバルだ。ベトナムやインドネシアといった労働者の供給国、また人材を求める職種においても共通する。とりわけ今後、日本と台湾ともにニーズが増えると見られる職種の一つが「介護」である。

すでに台湾は、日本にも増して多くの外国人介護士を受け入れている。台湾労働部によれば、その数は2022年6月時点で22万人を超え、外国人労働者の3割以上を占めるほどだ。99%以上は女性で、国籍ではインドネシアが約80%と最も多い。残りが12%のフィリピンと8%のベトナムだ。

この3カ国とは日本も「経済連携協定」(EPA)を結び、2000年代後半から介護士を受け入れ続けている。ただし、就労中のEPA介護士は今年1月1日時点で3257人(公益社団法人「国際厚生事業団」調べ)と多くない。外国人介護士の在留資格で最も多いのが「特定技能」の2万1915人(今年6月末時点。出入国在留管理庁調べ)だ。

そこに実習生、介護福祉士養成校への留学から「介護福祉士」となって働いている人などを加えても外国人介護士は約4万6000人と、台湾の2割程度に過ぎない。

台湾と日本の外国人介護士は、就労環境が大きく異なっている。日本での就労先は介護施設だが、台湾の場合は9割以上が個人宅に住み込んで働き、家事全般も任っている。台湾の外国人介護士たちは、なぜ「台灣」を選び、いかなる待遇のもと仕事をしているのか・・・(後略)【2023年10月21日 WEDGE】
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【ネパール・ミャンマーでは「日本語学習ブーム」も】
上記のような「経済大国日本には発展途上国の若い労働者がいくらでもやってくる――そんな時代は終わりつつある」という認識を基本としつつも、現時点で多くの者が日本で働くことを希望している国もまだ存在しています。

****日本語学校が急増! ネパールの若者の間で「日本語」が流行る微妙な事情****
現在、ネパールでは日本語学習が大流行しています。街中では「STUDY IN JAPAN 」という看板があちこちに掲げられ、「はじめまして」と挨拶する若者によく出会うようになりました。

この背景にあるのは「40万人の外国人留学生受け入れ」を掲げた日本の政策。海外に働き先を求めるネパールの若者にとって、この方針は渡りに船といえるのです。(中略)

国内に若者向けの成長産業が少ないとはいえ、多くの人が出稼ぎ先として選んできた中東やマレーシアは、安全面や職場環境面で不安が払しょくできません。そこで、安定した出稼ぎ先や留学先を求めるネパール人が選んだ国の一つが日本。東日本大震災やコロナ禍の影響で日本への留学生が激減していたため、日本政府が呼び込みに力を入れたことが奏功したといえます。(中略)

ある日本語学校の事務員によると、生徒の望みはとにかく手っ取り早く日本に行くことで、学校の評判を上げたい先生も多くの生徒を送り出したいと思っているそうです。そのため、日本語を学び始めて数週間でも日本語学校の面接試験に参加させ、なかにはこっそり答えを教えている先生もいるとか。

結果的に、日本のことをよく知らず日本語の勉強も不十分なままで来日してしまう若者が増加。日本の文化や習慣、人間関係に戸惑ったり、思うように稼げず多額の借金をしたり、精神的に追い詰められたり、悪質な仲介業者や学校に搾取されたりという人たちが増えていくことになります。

ネパールの若者たちが日本に熱い思いを抱いてくれるのは、とてもうれしいことです。それが失望で終わらず、「憧れの国日本」が本当に住みよい場所となるために、政府だけでなく迎える私たちも真剣に考えねばならない時代が来ているようです。【2023年12月19日 GetNavi web】
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****ミャンマー空前の日本語学習熱 就労へ20万人試験、政変で****
ミャンマーで空前の日本語学習ブームが起きている。2023年同国で実施された日本語能力試験(JLPT)の応募者が急増し、年間で初めて20万人を突破した。政情不安が続き、経済も混乱する自国を離れ、日本での就職を望む若者が受験に殺到しているからだ。

現地に詳しい日本の企業関係者は「都市部では日本語の教材を持ち歩くことがおしゃれになっている」と指摘。ミャンマー各地に日本語学校が林立し、カフェなどで日本語を学ぶ若者の姿も目立つという。

従来同国で年2回の試験の応募者合計が最高だったのは、新型コロナウイルス感染拡大前の19年の約6万8千人。その後コロナ禍で応募者数は落ち込んだが、23年は約20万3千人と急拡大し、19年の約3倍に上った。23年に海外で行われた試験の応募者数では、首位中国の約31万人に次ぐ2位に躍進した。

24年2月1日で国軍クーデターから丸3年のミャンマーは、海外からの援助や投資が減った上に武力紛争の激化もあり、経済が低迷。若者の間で自国よりも安全で就労条件が良い日本を目指す機運が高まっている。【1月30日 共同】
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こうした日本人気がまだあるうちに、将来に向けた対策を本格化させる必要があります。

****インドネシアが今後5年で労働者10万人を日本に派遣―中国メディア****
2023年12月15日、観察者網は、インドネシアが今後5年間で10万人の労働者を日本の派遣する計画を立てていると報じた。

記事は、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストの15日付報道として、インドネシア人的資源省のアンワル事務局長が、今後5年間で10万人の労働者を日本に送り込む見通しを示すとともに、インドネシア人の求職者が自分のスキルに合った仕事を日本で見つけられるよう、特別な申請システムを立ち上げることを明らかにしたと伝えた。

その上で、日本はここ数年高齢化による労働力不足を緩和するために外国人労働者を誘致するための多くの政策を打ち出しているとし、日本が経済成長率の予測値を実現するために2040年までに約670万人の外国人労働者を受け入れる必要があるという国際協力機構(JICA)の試算を紹介。

世界第4位の2億7000万人の人口を抱えるインドネシアも「人口ボーナス」から利益を得たい思惑があり、国内の失業率を抑えるために、かねてより中東や香港、韓国に労働者を送り込むことを望んできたとしている。

一方で「日本での雇用機会はそう簡単には得られない」と指摘。日本での就労を希望するインドネシア人労働者は、日本語の熟達と雇用者の要求を満たす職務能力を確保するため、研修機関に3000万〜7000万ルピア(約27万〜64万円)の研修料を前払いする必要があるほか、今年5月までに同省が362機関に海外労務派遣許可を出したのに対し、248機関が不当行為によって許可証を一時取り上げられる処分を受けているなど、派遣システムにも問題があることを紹介した。

さらに、インドネシアの人口の約87%はイスラム教を信仰しており、労働者を受け入れる側の日本が、ハラル食の提供やイスラム施設の充実など十分な生活条件を整えなければならないと指摘する有識者もいると紹介。

ある専門家からは「日本政府が外国人労働者に譲歩する可能性は極めて低いだろう。岸田文雄首相は昨年春から外国人労働者の大規模な受け入れを始めたが、外国人労働者の長期的な受け入れと、社会への融合に関する広範なビジョンを描くことをためらっている」との見解も示されたと伝えている。【2023年12月17日 レコードチャイナ】
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人材移動の環境整備ということでは、悪評が高かったベトナムからの外国人技能実習生派遣に絡んで、実習生の受け入れが成約すれば、1件あたり5〜12万円の成功報酬を得ていたブローカー(送り出し機関はブローカーへの成功報酬を、実習生に負担させていた)が整理されたようです。2022年1月から実習生に負担させるような行為が禁止され、ブローカーの利用が制限されることになったようです。

【現場経営者からは、無気力な自国若者より外国人労働者のほうがいい・・・との声も】
介護などの現場で人材を外国人労働者に頼っているのはイギリスも同じですが、移民に対する厳しい政治環境があるなかで困難を抱えているようです。

****移民が頼りの英介護業界、新規受け入れ削減で人手確保に懸念****
低賃金、人手不足、力仕事──。英国の介護施設が人員確保に手を焼いているのは無理もないだろう。

そして、介護業界の幹部らは人手不足の問題が今後さらに深刻化する可能性があると口をそろえる。移民労働者が英国内の医療・介護関連職に就くビザ(査証)で入国する場合は家族も帯同することができる制度について、スナク英首相が停止する計画を発表したためだ。

移民労働者への依存度が非常に高い介護業界で懸念される影響に対処すべく、英政府は1月、より多くの国民を介護職に誘引する政策を提示した。(中略)【2月4日 ロイター】
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“より多くの国民を介護職に誘引する”というのが難しいのは日本も経験しているところですが、現場ではヤル気のない自国若者より外国人の方がマシ・・・という辛辣な声も。

****韓国で“外国人アルバイト”が増えている意外な理由は若者たちへの不満!?****
韓国では現在、外国人労働者の立ち位置に変化が現れている。若年層の無気力化にともない、「むしろ外国人のほうがいい」という経営者が増えているというのだ。(中略)

また、同社が昨年末に行なったアンケート調査によると、回答者の52.3%が外国人アルバイトを「肯定的」と答えている。

その理由としては、「勤務態度」「求人難のときに簡単に採用できる」「外国人客の対応が可能になる」などの意見が多く上がった。

一方、若年層のアルバイトを引き合いに出し、「すぐに辞めてしまう最近の若者より、はるかに頼りになる」「責任感が強い人が多い」などの意見も出た。(後略)【2月4日 サーチコリア】
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実際のところ、個人的にもコンビニなどで接する外国人労働者を見ていると、上記のような声には同感です。

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フィリピン  国際刑事裁判所、ドゥテルテ時代の超法規的殺害を捜査 ドゥテルテ・マルコスの「泥仕合」

2024-02-03 23:52:33 | 東南アジア

(2022年6月のフィリピン大統領選で当選を決めた時のマルコス大統領(中央)とサラ副大統領(左から2番目、写真・Bloomberg)【1月31日 東洋経済オンライン】)

【エルサルバドル・ブケレ大統領の強権的ギャング対策は成功事例か それとも人権侵害か】
麻薬絡みのギャングが横行し、治安が極めて悪い中南米にあって、中米エルサルバドルも「世界一治安の悪い国」とされてきましたが、最近はブケレ大統領のギャング対策でアメリカ大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さにまで治安が改善したとのことです。

中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されている一方で、その強権的なギャング対策には冤罪・人権無視などの副作用もつきまといます。

****エルサルバドル 現職大統領の再選確実視 ギャング対策を徹底****
中米のエルサルバドルでは今月4日、大統領選挙が行われる予定で、現職のナジブ・ブケレ大統領の再選が確実視されています。

憲法を制限した強権的なギャング対策で国の治安を劇的に改善させたブケレ大統領の再選は、暴力のまん延が深刻な中南米のほかの国々の治安対策にも影響を及ぼす可能性があります。

中米のエルサルバドルでは今月4日に大統領選挙が予定されていて、6人の候補が立候補しています。各社の世論調査によりますと、中道右派の政党、新思想党の創設者で現職のナジブ・ブケレ大統領が8割から9割の支持を得ていて再選が確実視されています。

圧倒的な支持の背景には、ブケレ氏が憲法で保障された権利を一時的に制限するなどして、徹底的にギャングの取締りを行い、国の治安を劇的に改善させたことがあります。

ただ、憲法を制限してまで強権的に治安対策を進めるブケレ氏の政治手法は国際社会や人権団体から批判されています。

ブケレ大統領の強権的な治安対策は暴力のまん延に苦しむ中南米のほかの国々から注目されていて、再選はこうした国々の政策にも影響を及ぼす可能性があります。(中略)

約7万5000人を拘束 「世界一治安の悪い国」からの脱却
最も成果を上げているのが治安対策です。2019年6月に「犯罪地域コントロール計画」を打ち出し、警察と軍の装備を強化してギャングの取締りを進めました。

2022年3月に、取締りに反発したギャング側が1日に62人を殺害すると、議会に要請し、憲法で保障された一部の権利を制限する「例外措置体制」を発動しました。

「例外措置体制」のもとでは逮捕状なしでギャングのメンバーを大量拘束でき、これまでに人口の1%を超えるおよそ7万5000人が拘束されたとされています。

ブケレ大統領は拘束した大量のギャングのメンバーを収容するために4万人を収監できる刑務所を新たに建設し、ギャングのメンバーを厳しい監視下に置きました。

エルサルバドルは長年、「世界一治安の悪い国」とされてきましたが、こうした治安対策で人口10万人あたりの殺人事件の件数はブケレ大統領が就任する前の2018年に世界最悪の51人だったのが、2023年には2.4人にまで減少し、アメリカ大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さにまで治安が改善しました。

ブケレ大統領の治安対策は、人権を侵害しているうえ刑務所では拷問も行われているなどとして国際社会や人権団体から批判の対象となっていますが、治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。

強権的な手法による大量拘束 えん罪訴える人も
ブケレ大統領が強権的な手法でギャングのメンバーの大量拘束を進めるなか、えん罪を訴える人も少なくありません。【2月3日 NHK】
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【フィリピン・ドゥテルテ前大統領の超法規的殺害に対しICCが捜査】
麻薬組織と軍の力の対決はメキシコでもカルデロン政権時代に「麻薬戦争」として遂行されましたが、多大の犠牲者を出した一方で、事態の根本解決には至りませんでした。

成功例として上げられるのはフィリピンのドゥテルテ前大統領の取組。治安は大幅に改善し、任期中の高い国民的支持を得ました。ただし、警察や謎の組織による超法規的殺人なども横行し、その評価は分かれます。

現マルコス政権内にも、ドゥテルテ前大統領の取組を「過ち」とする見方があります。

****比、麻薬戦争で警察が証拠捏造 法相「過ち」と異例の批判****
フィリピンのレムリヤ法相は21日までに、ドゥテルテ前政権が超法規的措置を取った薬物犯罪対策「麻薬戦争」について、摘発のノルマを割り当てられた警察が証拠をでっち上げ、多くの無実の人が逮捕されたと批判した。

麻薬戦争を「過ち」と明言し、国家が背負った過去の重荷を取り除く決意を示した。共同通信と単独会見した。

政界を引退しながらも今も国民の人気を集めるドゥテルテ氏が主導した「麻薬戦争」を、マルコス政権の閣僚が厳しく批判するのは異例。レムリヤ氏は「麻薬戦争が続く中、多数の人が逮捕されて刑務所に詰め込まれたが、その多くは無実で、容疑がでっち上げられていた」と指摘した。【1月21日 共同】
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ドゥテルテ前大統領の超法規的殺害は国際刑事裁判所(ICC)の捜査対象にもなっています。
この「麻薬戦争」では、フィリピン政府によると、死者は6千人を超え、国連人権高等弁務官事務所は20年の報告書で、8663人が死亡したとしています。

ICCはフィリピン人弁護士の告発を受けて2018年2月に予備調査を開始。ドゥテルテ前大統領がこれに反発し、フィリピンは2019年にICCを脱退、ICCに管轄権はないと主張してきました。

一方、ICCは21年9月に正式な捜査を承認しましたが、フィリピン側が「すでに捜査している」などと主張したため、21年末に中断していました。

23年1月、ICCの検事が、マルコス政権が徹底した調査を実施している証拠を示していないと調査の再開を求め、ICCは調査の再開を承認しました。

****国際刑事裁判所、比政府に接触へ 「麻薬戦争」捜査で進展も****
国際刑事裁判所(ICC)の検察部門は22日、フィリピンのドゥテルテ前政権が「麻薬戦争」で超法規的に行った麻薬犯罪容疑者の殺害の捜査で「フィリピンの政府や市民社会など、関係者との対話を図るつもりだ」と表明し、同国政府に接触する方針を明らかにした。共同通信の取材に答えた。

接触が実現すれば、前政権による人道犯罪容疑の捜査が進展する可能性がある。同国のレムリヤ法相は18日に共同通信と会見した際「ICCからの接触を待っている」とし、国内の法手続きに従うなら、捜査をしても構わないとの考えを示した。捜査手続きの合法性を確認する必要があるとし、法務省との調整を促していた。【1月23日 共同】
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レムリヤ法相は「ICCからの接触を待っている」とのことですが、マルコス大統領はICC捜査を支援しないと発言しています。

****比大統領、国際刑事裁の捜査支援せず****
フィリピンのマルコス大統領は23日、ドゥテルテ前政権が「麻薬戦争」で超法規的に行った容疑者殺害を巡り、国際刑事裁判所(ICC)の捜査は支援しないと明言した。【1月23日 共同】
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このあたりの状況はよく知りません。マルコス大統領は前大統領の娘サラ・ドゥテルテ氏を副大統領候補としてコンビを組んで、彼女の人気を利用したこともあって大統領選挙に大勝しています。

そういうマルコス家とドゥテルテ家の「蜜月」「共闘」を前提にすれば、マルコス大統領がドゥテルテ前政権の「麻薬戦争」捜査に協力しないというのは当然のことでしょう。

【泥沼化するマルコス大統領とドゥテルテ前大統領の“喧嘩”】
しかし、実態はマルコス大統領とドゥテルテ前大統領は「喧嘩」状態にあります。

****マルコス家とドゥテルテ家、現・前大統領派の亀裂広がる フィリピン****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領とロドリゴ・ドゥテルテ前大統領のそれぞれを支持する陣営が、憲法改正問題などをめぐり対立を深めている。28日には支持者が大規模な集会を開き、非難合戦を繰り広げた。

2022年の大統領選では、マルコス氏はドゥテルテ氏の長女サラ氏(現副大統領)の支援を取り付けて圧勝。共闘が奏功した形だが、現在は関係に亀裂が入っている。

マルコス氏はこの日、「新しいフィリピン」と呼ばれる開発計画を発表。計画にはガバナンス(統治)の強化も盛り込まれている。

これに対しドゥテルテ氏は、マルコス氏は「麻薬常習者」であり、続投を狙い憲法を改正しようとしていると非難。

一方サラ氏は、首都マニラで行われたマルコス氏支持派の集会に顔を出し、大臣を兼務している教育省としては他の省と足並みをそろえて新開発計画を支持すると語ったものの、短時間とどまっただけで、ドゥテルテ家の支持基盤である南部ダバオ市に飛んだ。【1月29日 AFP】
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前大統領と現大統領の対立は外資参入が規制されている憲法改正問題が原因とされていますが、実際は、外資規制に関する憲法改正を許せば、どさくさに紛れて大統領(現在は再選禁止)や議員の任期延長などが同時に盛り込まれて独裁復活の引き金になるのではないかとの懸念があるようです。サラ氏を次期大統領にして、再び実権を握るというドゥテルテ氏のシナリオも崩れます。

****フィリピンを二分する懸念が高まっている憲法改正問題とは****
~終局的なマルコス氏の狙いは「大統領任期の撤廃」か、マルコス家とドゥテルテ家の亀裂も顕在化~

このところのフィリピンでは憲法改正を巡る議論が喧しさを増す動きがみられる一方、新たな政治的な火種となる懸念が高まる事態となっている。

1987年に施行された現行憲法においては、すべての天然資源を国有とするとともに天然資源の探査・開発・利用事業を受注可能な企業の外資比率を4割以下としているほか、領海や排他的経済水域(EEZ)の海洋資源を同国民のみが利用・享受すると規定されている。

昨年1月に最高裁判所はこの規定を元に2005年に中国とベトナムとの間で合意した南シナ海での共同石油探査に対して「違憲」とする判断を下しており、事実上棚上げされる状態とされている。

また、公共事業(送配電、上下水、石油パイプライン、港湾、車両旅客輸送)についても運営企業は国内資本比率が6割以上とする制約が課されているほか、教育やマスメディア、広告分野については国内資本比率が7割以上で役員がすべて同国国籍を有する必要があると規定するなど、こうした分野への外資参入が事実上困難になっている。

こうしたなか、先月にマルコス大統領が対内直接投資(FDI)の拡充による経済成長の押し上げを図ることを目指して、改憲への意欲を示したことをきっかけに改憲に向けた議論が大きく前進する動きがみられる。

なお、昨年3月に議会下院(代議院)が憲法改正に向けた手続きのひとつである憲法議会の召集に加え、上下両院に同会議の構成や実施細則に関する法律の制定を求める決定を行うも、議会上院(元老院)がこれに応じずこう着状態が続いてきた。

議会上院を巡っては、24人の議員のうち大多数がマルコス政権を支える状況にあるものの、上述のように改憲そのものに慎重な姿勢を示してきたことに加え、外資参入については個別法の改正により可能であり憲法改正の必要性はないとの認識を示すなど明確に反対してきた。

他方、今月には改憲に向けた手続きを容易にする国民発議に向けた署名運動も開始され、改憲の是非を問う国民投票について現在議会上院と下院による個別投票を求めるも、上下院の合同投票によって実施可能とする内容であり、議会上院は形骸化に繋がるほか、なし崩し的に憲法改正が行われる事態に発展することを警戒して反発を強めている。

国民発議については有権者の12%以上の署名を集めることにより国民投票に持ち込むことが可能であるものの、署名集めの背後で買収が疑われる動きがみられることを受けて、議会上院は憲法改正議論そのものに対する反発を強める事態となっている。

結果、マルコス氏の姉で現在は上院議員を務めるアイミー氏も国民発議への反対を表明するなど『泥仕合』の様相を呈する可能性が高まっている。

さらに、マルコス氏は一昨年の大統領選においてドゥテルテ前大統領の娘であるサラ氏と副大統領候補に据える形で『ドゥテルテ人気』も追い風に当選を果たしたものの、一連の憲法改正を巡ってはサラ氏やドゥテルテ氏が反対を表明するなど『蜜月状態』にあったマルコス家とドゥテルテ家を取り巻く状況が一変する事態となっている。

こうしたなか、マルコス大統領は28日に自身の支持者を中心とする政治集会を開催し、「新フィリピン」と称する政治運動の立ち上げを宣言するとともに、改めて外資誘致を目的とする憲法改正を支持する考えを示す一方、政治家(大統領や上下院議員、地方首長など)の任期を巡る規定の改正についても言及したことをきっかけに新たな『波紋』を生む事態となっている。

というのも、一連の憲法改正を巡ってマルコス氏はこれまで対内直接投資の活発化を目指す経済分野に限定すべきとの見解を示してきた。

他方、現行憲法においてはマルコス氏の父であるマルコス元大統領による長期独裁政権を教訓に大統領任期を1期6年に制限する規定が盛り込まれているが、マルコス氏は仮に制限が緩和されても実態として何も変わらないとの認識を示すとともに、その理由に「市長を退任しても妻や子にポストを引き継いだ上で、副市長として実権を握り続けるような慣例」を挙げるなど、ダバオ市長の座を維持してきたドゥテルテ氏やサラ氏への『当て付け』とも取れる発言を行っている。

その一方、ドゥテルテ氏とサラ氏は改憲断念を求める集会を開催するとともに、改憲に反対するアイミー氏もこの集会に参加するなど国論を二分する問題に発展する可能性が高まっている。

マルコス氏が立ち上げた「新フィリピン」運動を巡っては、父のマルコス元大統領が唱えた「新社会」運動と語感が似ていることもあり、マルコス氏が今後は憲法改正による大統領任期の延長を通じて独裁化に突き進むことを警戒する向きもみられる。(後略)【1月29日 西濵 徹 第一生命経済研究所】
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微妙な問題をめぐって議論が行われるのは普通のことですが、問題はその内容。上記記事にあるようにマルコス大統領はドゥテルテ氏やサラ氏への『当て付け』発言。

一方、ドゥテルテ前大統領は、前出【AFP】にあるように“ドゥテルテ氏は、マルコス氏は「麻薬常習者」であり、続投を狙い憲法を改正しようとしていると非難。”

これにマルコス大統領が反論
****ドゥテルテ氏こそ「薬物影響」 マルコス比大統領が前職に反論***
フィリピンのマルコス大統領は29日、改憲で権力を握り続けようとしているとドゥテルテ前大統領から批判された際「麻薬中毒者」と呼ばれたことを巡り、ドゥテルテ氏こそ長年の薬物摂取の影響を受けていると反論した。マニラの空港で記者団の質問に答えた。

マルコス氏はベトナム訪問前の演説後「ドゥテルテ氏は中毒性が高く副作用が深刻な鎮痛剤フェンタニルを非常に長い間服用してきた」とし「彼の医師が問題を放置せず、治療してくれるよう願っている」と語った。

マルコス氏は客席にいた前大統領の娘サラ・ドゥテルテ副大統領と抱擁し、対立回避を図った。【1月29日 共同】
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【マルコス大統領、サラ副大統領の思惑は?】
一連の発言は、議論というより、泥沼の喧嘩状態のようにも見えます。

「麻薬戦争」の責任を追求されかねないドゥテルテ前大統領としては、次期大統領選出馬が憲法規定上認められるのかどうかしりませんが、自身が無理なら、娘のサラ副大統領を次期大統領にと考えているのは容易に想像できますし、実際サラ氏の人気を考えればそれは可能でしょう。

マルコス大統領に再選禁止を改正して長期政権を目指す考えがあるのかどうかはわかりません。(母親であり、独裁者マルコス元大統領夫人のイルメダ氏(94歳)は長期政権、「マルコス王国」復活を望んでいるでしょう)

サラ副大統領の本音も上記記事だけではわかりません。
もともと、サラ氏は父ドゥテルテ前大統領の操り人形になるようなヤワな性格ではなく、父親以上に激しい性格とも言われいます。
更に、(副大統領候補として)大統領選挙出馬時にいろいろ憶測が流れたように、必ずしも父親との関係は良好とは言い難いようなところもあります。

マルコス・ドゥテルテ不和の背景については、以下のようにも。

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サラ氏からすれば、ボンボン氏(マルコス氏)の変節がゆえだ。裏切りと受け止めているのかもしれない。ボンボン氏は選挙中、具体的な政策はほとんど語らず、「ドゥテルテ政権の継承」を連呼した。

サラ氏が譲ったからこそ大統領の座にたどり着いたボンボン氏の立場を考えると、ドゥテルテ陣営に配慮しながら政権運営を進めるとみられていた。

なぜ不協和音が広がったのか
ところがふたを開けると、新政権はさまざまな分野で前政権の政策を覆した。経緯はともあれ、いったん権力を握った側は強い。主導権はボンボン氏に移り、遠慮は消えてゆく。

最も明確な政策変更は、外交・安全保障分野だ。ドゥテルテ政権の嫌米親中路線に対し、現政権は親米路線を徹底させ、中国に対して南シナ海領有権問題で一歩も引かない立場を明確にした。(中略)

政権発足時、副大統領兼務の国防相ポストを希望しているとささやかれていたサラ氏はボンボン氏の意向で教育相に回った。国防相であったなら対中政策は違った展開になっていた可能性がある。(中略)

サラ氏は政権運営でさまざまな不満をためていたとみられるが、自らが参加する政権への表立った批判は避けていた。ところが政府が2023年11月28日、フィリピン共産党(CPP)の統一戦線組織、民族民主戦線(NDF)との間で和平交渉を再開すると決めたことで、怒りが爆発した。

「大統領、これは悪魔の合意だ」との公式声明を出し、その後もCPPとNDFを「裏切り者」「欺く者」「暴力的な敵」と罵倒し、地域社会に大混乱をもたらすと警告した。和平交渉は大統領だった父が2017年11月に打ち切っていた。

ICC対応で堪忍袋の緒が切れた
不協和音が響くなか、国際刑事裁判所(ICC)をめぐるボンボン氏の発言でドゥテルテ陣営の堪忍袋の緒が切れた。(中略)ボンボン氏は2023年11月、ICCへの再加入を「検討する」と発言したのだ。(中略)

(1月23日、ICC捜査に)協力しないと話したものの、捜査員の入国自体に関しては「一般人としてフィリピンを訪れることは可能だ」との見解を示した。(中略)

ICC捜査をドゥテルテ陣営牽制のカードとしているのではないかという疑心暗鬼がドゥテルテ側で強くなっている。(後略)【1月31日 柴田 直治氏 東洋経済オンライン】
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確かに、大統領選挙前の曖昧なマルコス氏のイメージは、就任後、対中国強硬姿勢など随分変わりました。

無視されるドゥテルテ氏・サラ氏側には不満が募り、「父を牢獄に入れたがっている」といった疑心暗鬼にもなっているようです。
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アメリカ  イスラエル人入植者の暴力に対し制裁措置 従来のイスラエル支持一辺倒からの転換とも

2024-02-02 23:08:09 | パレスチナ

(ガザ地区内のイスラエル人入植地建設を支持する極右会合に集まった人々(エルサレム)【2月1日 WSJ】)

【西岸地区で増加する入植活動、入植者による暴力 イスラエル支持の米独も批判】
パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル軍による民間人犠牲者増大等の人道上の問題は連日報じられているところですが、1月6日ブログ「パレスチナ 犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争” 更にヒズボラ参戦はあるのか?」でも触れたように、ヨルダン川西岸地区でもイスラエルのよる入植活動が活発化し、入植者によるパレスチナ人への暴力も目だっています。

****イスラエルの入植活動、ヨルダン川西岸で「過去にない急増」 NGO****
昨年10月7日にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まって以降、同自治区ヨルダン川西岸でイスラエルの入植活動が「過去に例のないペースで急増」している。イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」が4日、報告書で明らかにした。

1967年からイスラエルに占領されている西岸では軍事衝突開始以降、イスラエルの入植地が新たに9か所確認され、暴力も急増している。

西岸では約300万人のパレスチナ人が暮らす一方、49万人のイスラエル人も入植地で暮らしている。こうした入植地は国際法違反と見なされているにもかかわらず、イスラエルは承認している。

ピース・ナウは報告書で、今回の紛争開始以降、新規入植者が「記録的な」数に上っているとした上で、西岸で一部入植者によるパレスチナ人を「排除する」動きが増加していると指摘。

イスラエル軍が全権を持つ西岸の被占領地「C地域」に言及し、「入植者は3か月に及ぶガザ戦争を、C地域での広範囲の実効支配を既成事実にするのに利用している」との見解を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権では、入植推進運動の指導者数人が閣僚を務めている。同政権は、一部の入植計画を進めるのに有利となるよう「軍事的・政治的に寛容な環境」づくりに努めてきたとピース・ナウは指摘している。 【1月6日 AFP】
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ネタニヤフ政権の極右指導者はこの機に乗じて、やりたい放題のようにも見えます。イスラエル軍もこうした動きを後押しするかのように、西岸地区での圧力を強めています。
“イスラエル軍、ヨルダン川西岸で多数拘束 過激派関与の疑い”【1月5日 ロイター】

こうした状況に、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカも批判を強めています。

****米、イスラエル過激派入植者へのビザ発給を制限****
米国のブリンケン国務長官は5日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区での暴力行為に責任があるイスラエル過激派入植者の入国を阻止するための新しい政策を発表した。

ブリンケン氏は声明で、国務省が新たなビザの発給制限を実施すると明らかにした。対象となるのは、暴力行為や、必要不可欠なサービスや基本的な生活必需品への民間人のアクセスの不当な制限などを通じて、西岸地区の和平や治安、安定を弱体化することに関与したと考えられる個人。(後略)【2023年12月6日 CNN】
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また、過去のホロコーストの歴史的経験からイスラエル支持が国是にもなっているドイツも、西岸地区の状況を批難しています。

*****イスラエル人入植者によるヨルダン川西岸での暴力、独外相が非難*****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でイスラエル人の入植者による暴力が増加していることを受け、ドイツのベアボック外相は、ヨルダン川西岸地区でのパレスチナ人に対する暴力を非難した。

ベアボック氏は8日、訪問先のヨルダン川西岸地区で、記者団に対し、「ここに合法的に住んでいる人々が違法に攻撃されている場合、法の支配の実施と執行はイスラエル政府の責任だ」と述べた。

ヨルダン川西岸地区ラマラのパレスチナ保健省によれば、昨年10月7日以降、ヨルダン川西岸地区では、少なくとも340人のパレスチナ人がイスラエル人の入植者や兵士によって殺害された。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は先月、2023年は、記録を開始した05年以降で、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人が最も死亡した年だと明らかにしていた。

イスラエル軍は、1967年にヨルダン軍からヨルダン川西岸地区を奪取して以降、同地区を支配下に置いている。90年代に調印された合意後、イスラエルは支配地域の一部に対する限定的な支配権をパレスチナ自治政府に移譲することで合意した。

イスラエルはヨルダン川西岸地区で、入植地の建設を進めているが、こうした入植地は国際法の下では違法なものとみなされている。

ドイツは、イスラエルの最も緊密な同盟国の一つで、ドイツ政府はイスラエルには自衛権があると繰り返し強調してきた。しかし、ベアボック氏は、パレスチナ自治区ガザ地区での民間人の死者を抑制するようイスラエルに警告する国際社会の指導者の列に加わった。

ガザ地区では、イスラエル軍の攻撃によって昨年10月7日以降、少なくとも2万2835人のパレスチナ人が死亡した。この死者数は、イスラエルとハマスとの紛争が始まる前のガザ地区の人口227万人のうちの約1%に相当する。

ベアボック氏は、イスラエルのカッツ外相やヘルツォグ大統領との会談後、イスラエルはガザ地区での軍事行動で、パレスチナの民間人をもっと保護しなければならないと述べた。【1月10日 CNN】
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【ガザ地区での入植活動再開、ユダヤ人による「新ガザ」建設を主張する極右勢力】
イスラエル・ネタニヤフ政権を支える極右閣僚は、ガザ地区についても再び入植活動を再開し、パレスチナ人を排除して、ユダヤ人による「新ガザ」を建設することを主張しています。

****イスラエル強硬派閣僚、入植者にガザ帰還呼びかけ 米「無謀で扇動的」****
イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相は28日に開かれた集会で、ユダヤ人入植者らにパレスチナ自治区ガザへの帰還を呼びかけた。強硬派として知られるベングビール氏の発言は政府の公式見解と対立するもので、パレスチナ自治政府とイスラム組織ハマスは共に反発している。

ベングビール氏は、ユダヤ人入植者と軍隊がガザ地区に戻ることがハマスによる昨年10月7日の奇襲攻撃を繰り返さないための唯一の方法になるとし、「10月7日のあの出来事を繰り返したくなければ帰還し、この土地を支配する必要がある」と語った。

同集会は入植者の団体が企画し、数百人が参加。十数人の閣僚も参加した。

パレスチナ自治政府は、こうした呼びかけはパレスチナ人の強制移住につながり、地域の安全と安定を脅かすと非難。ハマスは、同集会で「パレスチナ人に対する強制移住と民族浄化の犯罪を実行に移す意図が明らかになった」とした。

イスラエルの戦時内閣に参加しているガンツ前国防相は29日、この集会に連立政権のメンバーが参加したことで、イスラエルの対外的な立場が傷つくと同時に、ガザ地区で拘束されている人質の解放に向けた取り組みが損なわれると懸念を示した。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、ベングビール氏の発言は無謀で扇動的なものとして非難した。【1月30日 ロイター】
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****イスラエル極右が目指す「パレスチナ人なきガザ」****
ガザ再占領を否定するネタニヤフ首相に極右勢力の圧力強まる

ユダヤ教のラビ(宗教指導者)であるエイタン・カーンさん(49)は、パレスチナ自治区のガザ市の将来について思い描いていることがある。緑豊かなハイテク都市に変貌させて、ユダヤ系住民や外国人観光客を呼び込みたいと考えているのだ。名称は「新ガザ」に改め、パレスチナ人は歓迎しないという。

エルサレムで1月28日、「入植地が安全をもたらす」と題する極右の会合が開催された。それに参加したカーンさんは「平和を手に入れる唯一の方法はアラブ人を排除することだ」と語った。「そこはイスラエルの都市になる」

イスラエル政府は戦闘終結後のガザの在り方についてまだ具体的な計画を立てていないが、政府内に強い影響力を持つ極右勢力には「ガザにユダヤ人を再入植させる」という明確な目標がある。それは28日に明確に打ち出された。イスラエル占領下のヨルダン川西岸に住む宗教的な入植者を中心とする数千人が閣僚らと共に、エルサレムの講堂で開かれたこの会合に参加したのだ。

会合の主催者は、イスラエル人の新たな入植予定地を記した地図を発表した。「ガザに永久に戻った」と書かれた看板をガザ地区内で振りかざすイスラエル兵の映像が流れる中、群衆は愛国的な歌に合わせて踊り出した。パレスチナ人に対してガザからの一斉退去勧告が出るだろうと参加者らは述べた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相をはじめとする高官らはガザ地区について、治安部隊を無期限で配置するものの、再占領するつもりはないと繰り返し表明している。

イスラエル人の大半はガザへの再入植に反対している。ヘブライ大学が最近行った世論調査では、ガザ地区の併合と再入植を支持しているとの回答は35%にとどまった。

だが、連立政権を構成する超国家主義勢力は絶大な影響力を持つ。イスラエル人の約70%がネタニヤフ首相を支持していない今、こうした勢力が連立政権を崩壊させ、新たな選挙を迫る可能性がある。

同時に、イスラエルがガザへの再入植を試みれば、米国や穏健なアラブ諸国との関係が悪化する可能性が高い。米国はパレスチナ自治区ガザの領域を縮小することには何度も反対している。そうした事態になれば、ネタニヤフ氏が長年にわたり優先的に取り組んできたサウジアラビアとの関係正常化も頓挫する可能性が高い。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は29日、ガザでの入植地建設に関する会合をイスラエルの閣僚らが支持したことは「無責任かつ無謀で、扇動的でもある」と述べた。

この会合では、イスラエルの極右閣僚であるイタマル・ベングビール国家治安相も踊りに加わり、ネタニヤフ氏にガザ地区の将来について「勇気ある決断」を下すよう訴えた。閣僚11人と議員15人が壇上に上がり、ガザにイスラエル人入植地を再び作ることを支持する宣言に署名した。その中にはネタニヤフ氏率いる与党リクードの党員も多数いた。【2月1日 WSJ】
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こうした極右勢力の協力がなければネタニヤフ政権は崩壊し、選挙になります。選挙になると国民支持を失っているネタニヤフ首相は政権を手放し、現在の状況に対する政治責任を問われることになります。

従って、ネタニヤフ首相としては極右閣僚の言動を抑えることができない、あるいは、かれらの強硬姿勢に引きずられているとの指摘があります。

【バイデン政権 入植者の暴力行為に制裁措置 イスラエル紙「歴史的な動きだ」】
話を西岸地区の入植活動に戻すと、先述のように以前からイスラエルに自制を求めてきたアメリカ・バイデン大統領は、改善しない状況に、スラエルに対する批判を一段階上げたようです。

****米、イスラエル入植者に制裁 占領地・西岸で「地域に脅威」 ネタニヤフ政権に圧力****
バイデン米大統領は1日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でユダヤ人入植者によるパレスチナ住民への暴力が頻発しているのを受け、過激な入植活動を行う個人や団体への制裁を可能にする大統領令を発表した。

国務省は同日、住民殺害などに関与した極右のイスラエル人入植者の男4人を制裁対象に指定した。米政府が同盟国イスラエルの入植活動に制裁を科すのは極めて異例だ。

占領地である西岸への入植は国際法に反しており、米国を含む国際社会が目指すイスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存」の障害とされる。大統領令は、2国家を否定し入植を進めるイスラエルのネタニヤフ政権への警告の意味があり、今後は制裁対象者が拡大する可能性がある。

一方、米ニュースサイト「アクシオス」は1月31日、米国がパレスチナを国家承認する場合を想定し、国務省が政策検討に着手したと伝えた。実際に承認すれば、パレスチナ国家樹立はイスラエルとの協議によるべきだとしてきた従来の立場から大きく転換することになる。

国連人道問題調整室(OCHA)によると、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まった昨年10月7日以降、西岸では入植者によるパレスチナ人への暴力が約500件発生し、子供を含む少なくとも8人が死亡、100人以上が負傷した。イスラエルは治安維持に必要な措置を講じていると主張している。

バイデン氏は大統領令で、過激な入植者の暴力でパレスチナ人が住む場所や財産を奪われていることは、地域の「平和と安全、安定に深刻な脅威」だと非難。制裁対象の4人は、米国内の資産が凍結され、米国人との銀行間送金などが不可能になる。

ハマスとイスラエルの戦闘発生後、バイデン政権は入植や暴力事件の増加への懸念をイスラエルへ伝達。昨年12月には入植者数十人への米査証(ビザ)発給を制限した。その後も事態が改善しないことから制裁発動に踏み切った。【2月2日 産経】
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今回制裁対象となった4人は、建物への放火で死者を出したことの責任が問われています。

“イスラエルのネタニヤフ首相は声明を出し、「住人の大多数は法を順守する国民である」と強調。「多くは徴兵や予備役として、イスラエルを守るために戦っている」などと擁護しました。”【2月2日 TBS NEWS DIG】

バイデン大統領の今回措置は、アメリカ国内のリベラル派や若者の間でパレスチナ側への同情が拡大し、イスラエル批判が強まっていることも影響していると指摘されています。

バイデン大統領の支持基盤であるリベラル派や若者の間でのこうした動きは、ただでさえ大統領選挙で苦戦しているバイデン陣営にとっては大きな痛手となりかねませんので、それへの対応をとったというところでしょうか。

****バイデン氏の演説、10回以上中断 ガザ情勢対応に抗議の叫びで****
米南部バージニア州マナサスで23日に開かれたジョー・バイデン大統領(81)の選挙集会で、パレスチナ自治区ガザ地区での即時停戦を求める抗議者が次々と声を上げ、バイデン氏の演説が約20分間に10回以上中断する場面があった。

ガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続いているが、民間人の死傷者が拡大。民主党支持者の間では、米国によるイスラエル支援や即時停戦反対の姿勢に反発する声が若い世代を中心に広がっている。

抗議者らは1人ずつ立ち上がって「今すぐ停戦を」「ジェノサイド・ジョー」などと連呼。1人が警備担当者に外へ連れ出されると、しばらくして別の抗議者が叫び出す場面が続いた。

バイデン氏は当初は「彼らは身につまされる思いなのだ」と語る余裕を見せていたが、最後は抗議の声に構わずに演説を続けた。会場の外では、パレスチナの支持者ら数十人が抗議デモを行った。【1月24日 毎日】
********************

今回制裁措置について、“イスラエルに寄り添ってきたバイデン政権の今回の厳しい対応をイスラエル紙ハーレツは「歴史的な動きだ」と報じた。”【2月2日 共同】

イスラエルとアメリカ・バイデン政権の間の溝は“ポスト・ハマス”のガザ地区に関する青写真、「2国家共存」の是非等に関しても広がっていますが、そのあたりはまた別機会に。
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ハンガリー  スウェーデンのNATO加盟、EUのウクライナ支援で抵抗 欧米のウクライナ支援停滞

2024-02-01 23:21:50 | 欧州情勢

(1日、ブリュッセルで、欧州連合(EU)臨時首脳会議に先立ち握手するドイツのショルツ首相(左から2番目)とハンガリーのオルバン首相(右)【2月1日 時事】 どんなときでも笑顔を絶やさないのが外交
です)

【スウェーデンのNATO加盟問題 「最後の承認国」となったハンガリー EUが凍結した補助金の支給再開を取引材料に】
ハンガリー・オルバン首相がEU指導部の西欧的・リベラルな民主主義価値観に反発し、独自の“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

その一方で、ハンガリーはEUからの補助金の受益者でもありますが、国内の人権問題などから凍結もされており、ウクライナ支援やスウェーデンのNATO加盟批准はそこらをめぐる駆け引きの材料にもなっているようです。

スウェーデンのNATO加盟については、スウェーデン国内の反トルコ政府クルド人の扱いをめぐって最大の障害となっていたトルコが議会承認したことで、残るハンガリーの動向が注目されています。

****スウェーデンのNATO加盟、残るハンガリーも曲折必至****
トルコ国会が北欧スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する法案を23日に可決したことで、今後はNATO加盟31カ国のうち唯一加盟を承認していないハンガリーの動向が注視される。

ハンガリーのオルバン政権は、スウェーデンが同政権の強権体質を批判したことに不満を示しており、承認までには曲折が予想される。

NATOのストルテンベルグ事務総長は23日、トルコ国会での法案可決を歓迎し、ハンガリーにも「可能な限り早期の加盟承認」を求めた上で「スウェーデンの加盟はNATOを強化し、私たちを安全にする」と強調した。

オルバン氏は23日、交流サイトX(旧ツイッター)への投稿で、スウェーデンの加盟問題に関し話し合うため同国のクリステション首相をハンガリーに招待したことを明らかにした。

オルバン氏はまた、クリステション氏に送った書簡で「集中した対話を通じて両国間の信頼を固め、政治や安全保障の取り決めが強化できる」と強調。スウェーデンのビルストロム外相は「書簡の意図を考察する必要がある」として、首相が訪問に応じるかどうかは明らかにしなかった。

スウェーデンは2022年5月、フィンランドと一緒にNATOへの加盟を申請し、フィンランドが昨年4月に加盟を果たした。

トルコのエルドアン大統領が昨年10月にトルコの加盟を認める議定書に署名し国会に送付したのを受け、ハンガリーもこれに追随するとみられていた。

だが、オルバン氏率いる与党フィデスは同月、議会での採決を拒否。ハンガリー政府は「最後の承認国とはならない」と称しながら、その後も採決を延期し続けてきた。

トルコはスウェーデンに対し、加盟承認の条件として少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)をテロ組織と認め、同国内にいるPKKの構成員を引き渡すことを了承させた。

外交専門家によると、ハンガリーもトルコの交渉戦術にならい、欧州連合(EU)がハンガリーの強権政治を問題視して凍結した補助金の支給再開を加盟承認の取引材料にしてきた。EUは昨年12月に支給を部分再開したが、ハンガリーは全面再開を求めて水面下で交渉を進めるとみられる。【1月24日 産経】
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オルバン首相は1月24日、X(旧ツイッター)で「スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持している」との立場をNATOのストルテンベルグ事務総長に電話で伝えたと明らかにしていますが、首相はハンガリー議会がいつ批准するか、具体的な時期は示していません。

****ハンガリー議長 スウェーデンのNATO加盟承認を「急がない」****
ハンガリーからの報道によると、同国のクベール議長は25日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に関し、ハンガリー議会が承認を急がない考えを明らかにした。(中略)

クベール氏は、オルバン氏が率いる与党、フィデスに所属しており、与党として引き続きNATOを翻弄しようとしている可能性がある。

クベール氏は加盟承認に関し「急ぐ必要はないと考える。実際、(早急に承認する)特別な事情があると思えない」と述べた。

NATO加盟31カ国のうち、スウェーデンの加盟を承認していないのはハンガリーだけとなっている。
スウェーデンのビルストロム外相は25日、ハンガリーに対し「最後の承認国にならないとした約束を忘れないでほしい」と訴えた。また、スウェーデンのクリステション首相はオルバン氏に書簡を送り、来週にベルギーのブリュッセルで会談し、加盟問題に関し話し合うことを提案した。【1月26日 産経】
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【EUのウクライナ支援でもハンガリーが障害に EU内ではハンガリーに対するEU予算支出の長期停止やハンガリーの投票権停止などの報復措置検討も 結局、オルバン首相も同意】
スウェーデンやNATO加盟国のハンガリーに対する“苛立ち”は容易に想像できます。
EUのウクライナ支援に関してもハンガリーが障害となっており、苛立つEU側からはハンガリーに対する強硬な対応を求める声も出ています。

オルバン首相としても、そこらを見据えながら、どこまで利益を引き出せるか・・・という駆け引きのようです。

なお、オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にEU内部での価値観・人権・移民問題をめぐる対立、ロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、(表向きの議論ではあまり言及はされませんが)ハンガリーの歴史的事情、ウクライナに暮らすハンガリー系住民の存在もあることは、2023年4月30日ブログ“ハンガリー・オルバン首相  ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線”でも取り上げました。

****ハンガリー、承認に向け譲歩か EUのウクライナ支援****
ハンガリーは(1月)29日、これまで拒んできた欧州連合(EU)のウクライナに対する500億ユーロ(約8兆円)の支援案の承認に前向きな姿勢を示した。EUは2月1日の緊急首脳会議でこの支援案の合意を目指しており、ほかの加盟国からの圧力が高まるなか、ハンガリーが譲歩に転じた可能性がある。

一方、ハンガリーのシーヤールトー外相は29日、ウクライナ西部ウジホロドを訪れ、同国のクレバ外相と会談した。両国は関係改善に向け首脳会談の開催を目指す方針で一致した。

ハンガリーのオルバン政権はロシアのプーチン政権と近いとされる。ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナを支援するEUの足並みを乱してきた。昨年12月のEU首脳会議では500億ユーロ(4年間)のウクライナ支援を含む予算見直しに反対。議決には全会一致が必要なため棚上げになった。

支援案は2月1日のEU首脳会議で再び協議されるが、オルバン首相の側近は29日、X(ツイッター)で、EUに対し27日に妥協案を提案したことを明かした。そのうえでハンガリーは「ウクライナのためにEU予算を使うことに前向き」だと表明した。

英紙フィナンシャル・タイムズは28日、ハンガリーが首脳会議で承認を拒んだ場合の報復措置について記されたEUの内部文書について報じた。

文書には、ハンガリーに対するEU予算支出を長期的に停止する方針を公表することなどで市場の動揺や通貨の下落を誘い、同国経済に打撃を与える案がまとめられていた。EU高官は「報じられた文書は加盟国間の実際の議論や計画を反映したものではない」としているが、EU内ではロシア寄りの姿勢を崩さないハンガリーへの強硬姿勢を求める声が強まっているとみられる。

EUの欧州議会は18日、昨年12月の首脳会議でウクライナへの支援案を拒んだハンガリーに対し「EUの戦略的利益を侵害する」などと批判する決議を採択。加盟国で構成する欧州理事会に対し、EU条約第7条に定められた加盟国の投票権停止の適用について判断するよう求めている。【1月30日 毎日】
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ハンガリーに対するEU予算支出を長期的に停止する報復措置については、“複数のEU外交官は「多くの加盟国が(報復措置を)支持している」と指摘した。”【1月31日 産経】とも。

投票権停止の適用については、ハンガリーが全会一致を盾に拒否権を行使していることへの対応です。

たった今流れた報道では、結局オルバン首相も同意したようです。

****EU、ウクライナ追加支援合意=4年間で8兆円、ハンガリーも支持―臨時首脳会議****
欧州連合(EU)は1日、ブリュッセルで臨時首脳会議を開き、ウクライナに対する4年間で500億ユーロ(約8兆円)の追加支援に全会一致で合意した。EUのミシェル大統領がX(旧ツイッター)で明らかにした。ロシアに融和的で追加支援に難色を示していたハンガリーも賛成に回った。

ミシェル氏は今回の合意を通じて「EUはウクライナ支援でリーダーシップを発揮し、責任を負っている」と強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領はXで、EUの支援継続で「ウクライナの経済と財政がより安定する」と歓迎した。

首脳会議に先立ち、ミシェル氏とハンガリーのオルバン首相、独仏伊首脳らが協議した。公表された採択文書には今回の支援に関し、毎年討議を行うことや、「必要であれば2年後に見直す」方針も明記された。ハンガリーは1年ごとに判断する「妥協案」をEU側に示しており、これが落としどころになったもようだ。【2月1日 時事】
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【ハンガリーだけではないウクライナ支援停滞 欧米で膨らむ問題】
もっとも、仮にハンガリーの譲歩でEUのウクライナ支援500億ユーロ(約8兆円 4年間)が承認されたとしても、ウクライナへの欧米支援が非常に厳しい状況にあるのは変わりません。

トランプ前大統領がもし復活したらという「もしトラ」が盛んに語れていますが、「もしトラ」のひとつがウクライナ支援停止、ロシア・プーチン大統領の勝利(あくまでも戦術的勝利で、長期的・総合的に見て、今回の侵攻がどんな結果になってもロシアの被った国内経済・国際関係における痛手は致命的なものがありますが)です。

「もしトラ」を待たなくても、すでにその影響が出ています。

****トランプ氏、移民対策法案「不要だ」…ウクライナ支援と一体で成立に暗雲****
米共和党のトランプ前大統領は29日、自身のSNSで、米上院の民主、共和両党間で協議が進められている国境管理強化を巡る立法措置を「不要だ」と批判し、阻止する考えを示した。法案はウクライナ関連予算とパッケージで扱われており、米国のウクライナ支援に影響を与える可能性がある。

法案は、ウクライナ支援を継続させたい与党・民主党が、メキシコ国境から記録的な数の不法移民が流入している事態を受け国境警備の強化を訴える野党・共和党の主張を取り込み、一体的に協議されている。

法案は政府の判断で難民審査を厳格化できることなどを規定する方向で、上院の両党間で合意が間近だと報じられていた。バイデン大統領は26日の声明で早期可決を促していた。

これに対し、トランプ氏は29日、「バイデンは上院法案を、(不法移民の)惨事を共和党の責任にするため利用している。民主党が国境を壊したのだから、彼らが解決すべきだ。立法は必要ない」と書き込んだ。

トランプ氏は、11月の大統領選に向けた目玉政策として、不法移民対策強化のための「国境封鎖」を訴えており、攻撃材料の温存を図りたいとの思惑ものぞく。

法案の成立には上下両院の可決が必要だ。マイク・ジョンソン下院議長(共和党)も、現状の内容に否定的な考えを示している。下院共和党にはトランプ氏支持の議員が多く、トランプ氏の介入で成立に暗雲が漂っている。【1月31日 読売】
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「もしトラ」が実現すれば、盟友オルバン首相の立場は大きく改善し、逆にEUは(日本も同じですが)トランプ対策で苦慮することになります。

EUの武器支援も目標と現実に大きなズレがあります。

****EUのウクライナ向け砲弾供給、約束の半分に=EU外相****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は31日、3月までにウクライナに100万発の砲弾を供給するという自主目標は達成できず、期限までに届けられるのはそのうち半分強にとどまると明らかにした。
ブリュッセルで開催されたEU国防相会議の後に行った講演で述べた。

ボレル氏によると、当初の目標達成は年末となり、3月までに供給できるのは約束の約52%だという。

ただ、欧州における砲弾の生産能力はロシアのウクライナ侵攻開始以来40%増加し、2024年末までに年産140万発に達する見通し。ボレル氏は、「当初は思い通りに行かなくても、いったん物事が動き始めると加速する可能性がある」とし、加盟国に対し発注を加速するよう要請したと述べた。【2月1日 ロイター】
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ただ、繰り返すように「もしトラ」の可能性が高まっている現状では、各国もこの先のことを考ているでしょうから、“いったん物事が動き始めると加速する”のかどうか・・・

武器支援だけでなく、経済面でもウクライナ支援は問題化しています。
昨日ブログでも取り上げたようにフランスなど欧州各国ではウクライナ支援の主旨からの安価なウクライナ農産物の流入で、国内農家などの反発が強まっており、EUとしても対応を迫られています。

****欧州委、ウクライナ産農産物の輸入制限提案 EUの農家保護で*****
欧州連合(EU)の欧州委員会は1月31日、EUの農業政策に対する各国農家の抗議活動の高まりを受け、ウクライナ産農産物の輸入が一定程度以上に増えた場合、EUの農家を保護するため輸入制限措置を導入する案を加盟国に提案したと発表した。

EUはロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため、2022年以降、同国産穀物などの関税を免除している。だが安価なウクライナ産の輸入拡大で打撃を受けたとして、東欧を中心にEU域内の農家が各地で抗議活動を展開。ウクライナ支援への結束の乱れを生んでいる。

欧州委の提案では、関税の免除を25年6月まで延長する一方、鶏肉、卵、砂糖については輸入量が22、23両年の平均を上回った場合に関税をかける緊急輸入制限を発動する。また、穀物など他の産品についてウクライナからの輸入量が急増し、加盟国の農業が打撃を受けた場合、欧州委が対抗策を講じることを認める。

EUによると、ウクライナからの砂糖の輸入量は23年に10倍に増加。卵、鶏肉もそれぞれ2倍、1・5倍に増えた。

ウクライナ産農産物を巡っては、欧州委は23年5月、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国の要望を受け、一時輸入規制を認めたが、同9月に撤廃した。その後もポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国は自国内でウクライナ産穀物の販売を禁止する独自の規制を導入している。

ウクライナとポーランドの国境などでは、農家やトラック運転手が道路を封鎖するなどの抗議活動を続けており、東欧5カ国は1月15日、EUとして関税を導入するよう求める書簡を欧州委に提出していた。

EUの農業政策を巡る不満は欧州全域で拡大している。フランスではウクライナなどからの安価な食料輸入の増加や生産コストの上昇、環境規制などについて農家が抗議活動を続けており、マクロン大統領は1月末、ウクライナ産農産物の輸入についてEUに対応策を求める考えを示した。

今月1日にEU首脳会議が開かれるブリュッセルでは、同日早朝から農家がトラクターで隊列を組み、クラクションを鳴らしながら、抗議活動を展開した。【2月1日 毎日】
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戦争が長期化するなか、ウクライナ・ゼレンスキー大統領を取り巻く状況は厳しさを増しています。

コメント
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