孤帆の遠影碧空に尽き

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ロシア産ガスのウクライナ経由供給が停止 電力不足のモルドバ ウクライへの反発強めるスロバキア

2025-01-02 21:57:50 | 欧州情勢

(スロバキアのフィツォ首相(写真左)とロシアのプーチン大統領。12月22日、モスクワで代表撮影【12月30日 ロイター】)

【全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいものの、中東欧諸国へ影響】
昨年12月13日ブログ“モルドバ 大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる”でも取り上げた、ロシアからのウクライナ経由の欧州への天然ガス供給が今年1月1日から、ロシア・ウクライナ間の契約が更新されないことによりストップしました。

****ウクライナ、自国経由するロシア産天然ガスの欧州輸送を停止 契約失効****
ロシア産の天然ガスをウクライナ経由で欧州にパイプライン輸送する契約が1日、失効した。これより前にウクライナは国家安全保障の観点からロシアとの契約を更新しない姿勢を示していた。

ベルギーのシンクタンク、ブリューゲルによると、ウクライナ経由は欧州連合(EU)の天然ガス輸入全体の約5%を占め、主にオーストリア、ハンガリー、スロバキアに供給されていた。今後ロシア産を欧州に送るパイプラインはトルコ経由のみとなる。

米調査会社ユーラシア・グループのエネルギー担当責任者によると、契約の失効でガス価格の上昇が予想されるという。

ただ、欧州は備えを進めてきており、加えて今冬の寒さがこれまでのところ厳しくないこともあり、以前ロシアが供給を削減した時のような値上がりにはならないと見ている。

ロイター通信が報じたところによると、ウクライナ経由で天然ガスを輸出していたロシア国営ガスプロムは昨年、欧州への輸出減が響き、69億ドル(約1兆800億円)の赤字を計上した。ウクライナは今回の契約失効で年約8億ドルの収入を、ガスプロムは50億ドル近くの売上を失うという。

オーストリアのエネルギー相は1日、契約の失効に入念に備えてきたことを明らかにし、エネルギー企業がロシア以外の国からの供給を模索してきたとも述べた。

だがスロバキアのフィツォ首相はウクライナ経由の輸入停止はロシアではなくEUに「極めて大きな」影響を及ぼすと述べたとロイターは報じた。

EUの行政執行機関である欧州委員会(EC)によると、欧州のロシア産天然ガスへの依存度は下がっており、パイプラインでの輸入は2021年に全体の40%超だったのが23年には約8%になった。【1月2日 CNN】
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以前よりウクライナは、ロシアの収入源を減らす必要があるとして、今年1月以降、自国を通過させるロシアとの契約を延長しない方針を示してきました。

ロシアからの欧州へのガス供給パイプラインで稼働しているのは、今回措置によりトルコ経由のみになります。
“ロシア産ガスを輸送するパイプラインで稼働しているのは、黒海を横断してトルコに至るトルコ・ストリームのみとなる。ベラルーシを経由するヤマル・ヨーロッパ・ストリームは停止しており、バルト海を経てドイツに至るノルド・ストリームは22年に破壊された。”【1月1日 ロイター】

上記記事にもあるように、欧州のロシア産天然ガスへの依存度はすでに下がっていること、ロシア以外からの調達に切り替える準備も行われてきたことなどで、今回措置が全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいとみられていますが、ハンガリー、スロバキア、モルドバなど中東欧諸国ではガス供給の縮小や、価格上昇の影響が予想されています。

【「沿ドニエストル」地域ではガス供給停止 今後、モルドバの電力不足が懸念される】
最も影響が大きいとされているのがモルドバ。
モルドバでは、親ロシア系住民の分離独立派が支配する「沿ドニエストル」地域の住宅で1月1日から暖房が止まり、お茶も湧かせない事態になっています。

モルドバ政府の支配地域は、ガスに関しては主にルーマニアからガス供給を受けて現時点では問題ないとみられていますが、問題は電力。「沿ドニエストル」地域では、ロシアから送られた安価なガスを利用して発電、その電力がモルドバに送られるというエネルギー事情にあるため、今後はモルドバにおける電力不足が懸念されています。

ロシアからのガス供給は代替ルートでの供給も可能ですが、ロシア側はモルドバのガス料金支払いが滞り、7億9千万ドル(約1250億円)の債務があると主張し、ルート変更前の支払いを求めています。

****ロシア、来年初からモルドバ向けガス供給停止 深刻な電力不足懸念****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムは28日、モルドバに対するガス供給を来年1月1日から停止すると発表した。未払い債務の存在を理由に挙げており、モルドバは深刻な電力不足に陥ることになる。

ガスプロムは、モルドバへのガス供給契約破棄も含めたいかなる手段を行使する権利を留保すると強気の姿勢だ。

ロシアはモルドバに年間約20億立方メートルのガスを供給。ウクライナを経由し、モルドバから事実上分離独立した「沿ドニエストル共和国」の火力発電所を通じて電力としてモルドバに送られてきた。

ウクライナ経由のガス供給はモルドバとロシアの通過契約が年末で期限を迎え、スロバキアやオーストリア、ハンガリー、イタリアなども影響を受けるが、モルドバの打撃が最も大きい。

モルドバで親欧米の立場を取るレチャン首相は、ロシアがエネルギーを政治的武器として利用していると非難。一方ロシア側はモルドバには7億0900万ドルの債務があると主張し、ガスプロムは代替ルートで供給する前にこの債務を支払うよう求めている。

ガス供給が止まれば、モルドバと沿ドニエストル共和国では大規模な停電が発生する恐れが出ている。【12月30日 ロイター】
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親欧米政権のモルドバ側は、ロシア側が主張する約7億900万ドル(約1100億円)の債務は存在しないと主張しています。これまでロシア、モルドバ、親ロシア「沿ドニエストル」の間の微妙な政治事情で曖昧に処理されてきたのでしょう。

【スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領のロシアをめぐる対立、改めて表面化】
一方、対ロシア姿勢の違いから政治問題化しているのがスロバキア。
かねてよりスロバキアのフィツォ首相は、左派民族主義の立場から、ハンガリーのオルバン首相同様にロシア、更には中国と接近し、反EU・ウクライナ的な姿勢をとってきました。

****スロバキア首相、ロシアのテレビに出演 ウクライナ巡りEU批判****
中欧スロバキアのフィツォ首相は30日、ロシア国営テレビ「ロシア1」に出演し、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」に当たる来年5月9日にモスクワを訪問したいと語り、ウクライナ戦争への欧州連合(EU)のアプローチを批判した。これを受け、国内の野党から批判の声が上がった。

スロバキアのメディアによると、EU加盟国の首脳がロシアのテレビに出演するのは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めて。

フィツォ氏率いる左派の民族主義政権は1年前の発足直後にウクライナへの軍事物資の供給を停止し、武器の供給が紛争を長引かせていると主張してきた。

フィツォ氏はロシア大統領府支持派のテレビ解説者オルガ・スカベエワ氏とのインタビューで、来年の戦勝記念日に訪問したいと述べた。

また、ウクライナの和平計画はもはや実行不可能だとし、ロシア語に翻訳されたコメントで、「これはもう和平策ではなく、突然、勝利計画と呼ばれるようになった」などと指摘した。

最大野党のシメツカ党首は「国内でフィツォ氏のつぎはぎ行政は崩壊しつつある。医療は首相にとって議題ではないが、首相はロシアのプーチン大統領に奉仕する時間は見つけるだろう」と批判した。【2024年10月31日 ロイター】
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“中国、スロバキアとの緊密関係確認 EUと貿易対立下で”【2024年11月2日 ロイター】

こうした政治姿勢の違いから、今回のロシア産ガス供給停止問題でも、スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領の対立が表面化しています。

****スロバキア、ガス輸送巡り対抗措置警告 ウクライナ反発****
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、スロバキアのフィツォ首相がロシアの命令でウクライナに対し「第二のエネルギー戦線」を開いていると批判した。

スロバキアなど欧州数カ国はウクライナ経由でロシア産天然ガスの供給を受けているが、ウクライナはロシアの侵攻前に結んだ既存の輸送契約が今年末に期限切れとなった後は輸送を停止する見通しだ。

ロシアのプーチン大統領とモスクワで今月会談したフィツォ氏は(12月)27日、ウクライナが来年1月1日からガス輸送を停止した場合、スロバキアはウクライナに対し、予備電力の供給停止など対抗措置を検討すると述べた。

ゼレンスキー氏はこれについて「プーチンはスロバキア国民の利益を犠牲にしてウクライナに対し第二のエネルギー戦線を開くようフィツォ氏に命じたようだ」とXに書き込んだ。

ウクライナは電力網がロシアの攻撃の標的となる中、周辺国からの電力輸入を余儀なくされている。

ゼレンスキー氏はスロバキアが現在、ウクライナ電力輸入の19%を占めていると指摘。その上で、欧州連合(EU)と協力して供給強化に取り組んでいるとし、「スロバキアは欧州単一エネルギー市場の一部であり、フィツォ氏は欧州共通のルールを尊重しなければならない」と強調した。【12月30日 ロイター】
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、ロシア軍侵攻後もロシア産ガス依存姿勢を変えないスロバキアに問題があるという話にもなります。

****ゼレンスキー大統領、スロバキア首相のロシア産ガス依存姿勢を非難****
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、スロバキアのフィツォ首相がロシア産ガスへの依存を減らすことに消極的だと非難し、欧州にとって大きな安全保障の問題だと指摘した。

フィツォ氏は22日、ロシアのプーチン大統領と会談した。スロバキアはウクライナを経由して輸送される欧州向けロシア産ガスに依存しており、年末に期限が切れる輸送契約の延長を拒否したとしてゼレンスキー氏を批判する一方で、供給継続に向けた取り組みを強化している。

ゼレンスキー氏は、ウクライナがスロバキアの損失を補うための補償や代替のガス供給ルートを提供すると提案したにもかかわらず、フィツォ氏はそれを望まなかったと指摘した。

フィツォ氏がロシアとの関係を重視していると批判し、これがスロバキアと欧州全体の安全保障に関わる問題であると述べた。【12月24日 ロイター】
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“スロバキアは、代替輸送ルートを利用すればコストが大幅に増え、同国の輸送事業にも打撃となり、5億ユーロの損失を被ることになるとしている。”【12月30日 ロイター】

上記のような需要国にも大きな影響がでますが、供給国ロシアとしても、天然ガスという石油と並ぶ主要財源へのダメージが、欧米による制裁下でさらに加速することになります。
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