◇お吟さま(1978年 日本 154分)
監督/熊井啓 音楽/伊福部昭
出演/志村喬 三船敏郎 中野良子 中村吉右衛門 中村敦夫 岡田英次 遥くらら
◇今東光『お吟さま』より
天正18年2月28日、利休切腹。
ちょっとばかし意外なことに、熊井啓の時代劇はこの作品が初めてらしい。
いったい熊井さんが茶の湯が好きだったのかどうか知らないけど『千利休 本覚坊遺文』も熊井演出だってことをおもうとかなり入れ込んだ主題だったのかもしれないね。
どちらにも出ているのは三船敏郎で、本作では秀吉を、後者では利休を演じてるのが、とっても興味深い。
興味深いといえば、この映画は、三船・志村の日本映画史上最高コンビの最後の作品だ。それも『祇園祭』と『黒部の太陽』以来、10年ぶりの共演になる。邦画界もなんとまあ大きな損失をしでかしたてたんだろうね。
誰も、ふたりを共演させようとはおもわなかったのかな。寂しい話だ。
まあ、それは仕方ないとして、演出は抑え過ぎなくらい抑えてる。理由はわからないんだけど、その中で、三船さんはひとり気を吐いてる。もっとも、熊井啓の作品に出てくる三船さんは非常に良い演技をする。
小芝居が絶妙に早く、いたずらに武張っているだけじゃない。昔、三船敏郎を大根役者だっていうお門違いな批評はよくあったけど、それは三船さんを演出できない監督の作品に出た場合の話で、熊井啓の作品で下手だなとおもったことは一度もない。
くわえて、志村喬の利休は見事だ。見事っていうより、本人が生き返ってんじゃないかってくらい、よく似てる。中野良子はお得意の髪の毛掻き揚げ演技はできなかったけど、泣けそうで泣けない頬肉目尻小刻み演技はここでもしっかりなされてる。まあ、良子さんのフアンはそれを観たいんだからいいんだ。
役者さんの話はともかく、ふしぎなのはこの映画の企画をした大和新社株式会社。これ一作だけを作るために設立されたんじゃないかってくらい、後にも先にも映画史には登場しない。京都で活躍した松本常保や大志万恭子の各氏が、のちの製作委員会みたいなものを立ち上げたんだろうか。
素人のぼくには、なんにもわからないけど、とっても興味深い。