◇ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年 フランス 102分)
原題/Le Charme discret de la bourgeoisie
監督/ルイス・ブニュエル
出演/フェルナンド・レイ デルフィーヌ・セイリグ ジャン=ピエール・カッセル
◇オスカーがとれるとおもうか?
という記者の質問に、ブニュエルは、
「大丈夫。むこうのいってきた金はちゃんと払った」
騒然とした後、外国語映画賞を受賞して、
「アメリカ人はちゃんと約束を守ってくれる」
と、どこまでも人を煙に巻いた。
けど、映画そのものがまったくそのとおりの難物になってる。
ぼくのまわりにはブルジョワがほとんど存在していない分、実感として把握できかねる。
ま、そもそも、ラテン・アメリカの新興国ミランダ共和国の、在パリ大使館に集うブルジョワっていう、なんだかよくわからない人達の話なんだけど、人間なんてものは、虚飾と虚栄の仮面を剥がしてしまえば、そこには食欲と性欲と殺戮欲が渦巻いてて、不倫しない人間の方がおかしいんだと欲望に正直に行動しながらも、自分が劇中の人間になったり、とかいった悪夢を見たりしてる呑気さを持ちながら、麻薬の密売にも手を染めるような守銭奴で、食事してるとなりで葬式が出される幻覚を観てしまうほど死に恐怖し、まるで舞台に立っているように常に誰かに見られてるっていう虚栄心に包まれ、いきなり革命に巻き込まれて銃殺されたりするような罪の意識に苛まれながらも、実は毎日、呑気に浮気ゲームにあくせくしてるのがブルジョワなんだっていう、まったく人を食ったような皮肉な世界が展開する。
難解が良いとはかぎらないんで、頭の悪いぼくにはこの映画を手放しでは褒められないんだけど、でも、すべてがブニュエルらしさに溢れてるのは、たしかだ。