◇男はつらいよ(1969年 日本 91分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 森川信 笠智衆 志村喬 津坂匡章 広川太一郎 光本幸子
◇第1作 1969年8月27日
ぼくたちが、たぶん、このシリーズを現役で観ているいちばん若い世代だろう。
当時、渥美清は代表的なおもしろい人だった。小学生だったぼくは役者や俳優たちと芸人との違いもよくわかっていなかったかもしれないけど、ともかく、めったに観ることのない映画の中で、このシリーズは毎度出かけていく映画のひとつだった。それは中学生になっても変わらず、寅さんのシリーズを欠かすことはなかった。
中学生のときには脚本も買った。一所懸命に読んだ。山田洋次っていう人はなんてこんなに細かく丁寧な台詞をおもいつくんだろうとかおもった。人の暮らしをじっと見てるのかな~っておもった。
ちなみに、ぼくは山田作品に0.1秒映ったことがある。倍賞千恵子さんがバスガイドを演じた『喜劇 一発大必勝』のタイトルバックで、倍賞さんがバスの扉を開けて「墓場行でぇす」という台詞をいうんだけど、そのバス停に立っているのがぼくだ。もちろん生まれて初めての体験で、でも、その日の撮影現場の風景はいまだによく憶えてる。
さて、この映画だ。
さくらが、ひたすら可愛い。
優しくて、利口そうで、ぴちぴちしてて。髪を栗色に染めてるのはどうかなとおもうけど、ま、それはさておき、この頃の寅はネクタイにモノトーンの格子、白黒ツートンの革靴。まあ出だしは20年ぶりの帰郷だし、観客には誰だろう?とおもわせないといけないし。
それもさくらの見合いに付き添うという展開もあるからだけど、そこで『お仕事の方は?』と聞かれ『セールスの方を』と答えるんだ。へ~この頃から『なになにの方』ていうんだね。そこでさらに『さくらというのは珍しいお名前ですね』と訊かれる。
さくらというのは、ほんとは漢字なんだと。貝ふたつの櫻らしい。知らなかったわ。
ただ、そのあとがいけない。尸に匕と書いて『あま』匕ふたつで『へ』水で『にょう』とかいうくだりはまだいいとして、寅の不躾な失礼さはこのときが最高潮で、封切り当時、この最低さに笑ったものだけど、やくざの賭場に出入りするわ、庭の桜の木に立ち小便するわ、さくらの頬も張り飛ばすわ、そのめちゃくちゃぶりに次第に観るに耐えなくなってきた。
だからだろうか、実をいえば、ぼくは10作目を過ぎたあたりから観るのやめた。寅に堪えられなくなったからだ。
ま、それはさておき、まったく忘れてたけど、写真を撮るときにバターていうのは御前様が始めたんだね。
で、はは~ん、光本幸子にひっついて柴又に帰ってくるときようやくいつもの寅のスタイルになるわけね。
あ、ひとつ良いこと聞いた。寅がひろしの気持ちを知り、恋愛指南をする際、こんなふうにいうんだ。目を見ろといってもじっと見るんじゃないよ、色きちがいっておもわれちゃう。という台詞のとき、現在のテレビ放送とかでは「色きち…」と調整してる。ほほお、なるほど。色きちといえばいいのか。
ていうか、ひろし、3年間も自分の部屋からさくらの部屋を見てたわけ?
それって覗いてたってこと?
1969年、まだまだ良い時代だな~。
ちなみに、ひろしの父親はとっても難しい漢字の名前で、ひょういちろうと読むんだけど、当然、登場人物は誰も読めない。 そりゃそうだろう。ぼくも読めない。ただやっぱり、それがゆるされた時代であったとしても、寅の悪乗りには辟易する。笑ってられないんだよね、なんだか。