☆男はつらいよ 寅次郎相合い傘(1975年 日本 97分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 船越英二 浅丘ルリ子
☆第15作 1975年8月2日
リリーの第2弾だけど、シリーズ中、出色の出来なんじゃないかしら。
海賊タイガーとチェリー。上條恒彦も米倉斉加年も、登場する。豪華な夢だな。
THE ENDから覚めた劇場はいかにも当時の地方の小屋で、そういえばこんな木の背もたれだったなあ。タイトルバックに荒川の土手を自転車で走るさくらとはおもわなんだ。帝釈天で、笠智衆も俄次郎も出てる。夢ばかりかタイトルバックまで豪華だな。
そうか、いきなりリリーが訪ねてくるところから始まったんだっけ。寅に会いに来たんだね。好きなんだね。こんなに正直な展開だったんだあ。
寅が「ほんとはてめえ棄てられたんだろ」とリリーにいい、これを受けて「あんたまでそんなことを。あんただけはそんなふうに考えないとおもってたんだけどね」というときの浅丘さんの表情は好いね。そのあと、夕暮れの函館の桟橋にひとり残って海をみつめる寅のかたわらで焼き玉エンジンが掛かる演出もまた上手い。
笠智衆がリリーと聞いて「アメリカ人か?」と訊くくだりから、八百屋の主婦どもの「かたぎじゃないね」ていう展開、さらには「寅がリリーのヒモだ」ていう反応まで、ほんと、うまいな。
とおもってたら、リリーの歌ってる場末のキャバレーまで送ってきた寅の「リリーにあんなところで歌わせちゃいけないよ。おれはなんだかかわいそうでしまいにゃ涙が出てきたよ」というまではよかったんだが、そのあと、いつものように寅の独演会だ。これはいかんな。もういいかげんにしてもらいたいって気分になっちゃう。
ただ、寅が船越英二からもらったメロンを食べられてしまったことに癇癪を起こして、いつもどおり周りがしゅんとなったとき、朝丘ルリ子が一喝するのだが、これが他の回にはなくて、とっても好いんだな。すかっとする。
と同時に、寅とリリーの似たもの同士の哀感というか腐れ縁の予感は他の回にないね。
あるとすれば『夕焼け小焼け』かなあ。
実際、寅にふられたとおもいこんだプライドから「ばいばい」とだけ言い残して去っていくっていう構図は、ほかの回にはないわけで、たとえば、八千草薫の『寅次郎夢枕』が似たようなものだけれども、あのときは寅の人生について、とらやの連中もまだまだ楽観的だったし、さくら自身も切羽詰まったようなところはなかった。
それだけ、みんな、歳をとってきたってことなんだろうね。