◇男はつらいよ 寅次郎恋歌(1971年 日本 113分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 志村喬 池内淳子
◇第8作 1971年12月29日
ほう、ここから岡本茉莉演ずるところの大空小百合が出てくるのね。
森川信のタイトルもおいちゃんになってるし。で、池内淳子がトメで志村喬がトメ前なんだあ、なるほどね。
さくらが泣いて、やおまんが「そんなに勉強しないと寅さんみたいになっちゃうよ」と孫を叱って「何でそんなにばかにされないといけないの?」と嘆くんだが、この頃の倍賞さんは品があって綺麗だな~。
で、池内淳子は帝釈天の斜め前にある喫茶店ロークを営んでいるんだけど、まあそれはそれとして、観る気を失せさせるほどの寅の素行と頭の悪さがどんどん度を越してくるんだ。観ていて、つらいね。続きを観る気が失せてくる。
けど、寅、かっこいいところもある。池内淳子が騙されたような借金に苦しんでいるのを知ったとき、結局、自分ではなにもしてあげられず、りんどうの花束を持ってきてこういうんだ。
「あのう、なにか、困っていることはございませんか。どうぞ、わたくしにいってください。どうせ、わたくしのことです。大したことはできませんが、指の一本や二本、片腕や片足くらいなら大したことはありません。どうぞ、いってください。どこかに気に入らない奴がいるんじゃありませんか?」
愛の告白やね。
あれ?今回は泣かせるな。
佳境、さくらが寅と代わりたいというところだ。寒い冬の日、さくらはどうしてるかと心配させてやりたいと。寅は泣いて「さくら、すまねえ」といって去る。ここ、泣かせるね。ラストは大空小百合と再会してトラックの荷台に乗って行くんだけど、このパターンはこの回からだったんだね。
両想いになるパターンも、ここからなのかな。
明らかに寅は身を引いたわけだけど、もしかしたら、寅は死に場所を探してたのかもしれないね。池内淳子のためにかたわもんになるか、あるいは死ぬことで愛は成就されるんだけど、池内淳子が借金の精算のめどが立ったことで、もはや、寅の介入できる可能性はゼロになっちゃったから、あとはもう去るしかない。池内淳子の琴線は刺激したかもしれないけど、それは一時的なことだってわかってるからね。
寅が働けばいいんだけど、性分としてそれはできない。まあそれに池内淳子が「いつか旅に出たい」とちょっと物欲しげにいったところで、がきんちょもいるし、うまくいかないのは目に見えてる。つらいところだ。身を引く、悪く言えば逃げるしかない。それが寅の人生なんだな。
他人が「寅さんみたいになっちゃうよ」っていうのは、こういう深いところの運命もいってるんだよね。
それと、池内淳子にいう志村喬のうけうりに自分の旅先の姿を投影して柴又の家族をおもう寅の告白をさせるんだが、これ、すぐあとのさくらの旅先の寅をおもう心根とが対になってるんだよね。ま、あれだね、シリーズ後半なら「りんどうの花」とか「りんどうの詩」とかになるんだろうな。