△男はつらいよ 純情篇(1971年 日本 89分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 宮本信子 森繁久彌 若尾文子
△第6作 1971年1月15日
この作品、ぼくがひとりで劇場で観た最初の邦画だとおもうんだけど、忘れられない場面がある。
でも、それより先に夢の話だ。無い。夢が設定されてない。その代わりに置かれているのが、夜汽車の一光景。ビールが弾ける。お笑いくださいまし、行きずりの若い女に故郷をおもいだすのでございますっていう独白だ。これで、三十九歳と知れる。
それはそれとして、寅はこの頃、自分のことをさくらに話すとき「あんちゃんな」ていうんだね。へ~っておもった。
ま、それもおいて、忘れられない場面のことだ。旅館九重。五島列島に渡る子連れの女に「船賃を貸してくれ」といわれ、一緒に泊まる。で、女はワンピースの背中のジッパーを下ろしながら「お金ば借りて、なんもお礼ができんし。子供がおるけん、電気ば消してください」ていうんだけど、寅はこういうのよ。
「あんた、そんな気持ちでおれに金を…。行きずりの旅のその男が、妹の身体をなんとかしてえなんて気持ちを起こしたとしたら、おれはその男をころすよ」
この場面は、当時中学生だったぼくにとって、かなり衝撃的だった。いやそれより、宮本信子だったんだね。薄くて薄幸そうなメイクだな~。
ちなみに、タイトルでは「おじさん」だけど、寅の台詞では「おいちゃん」なんだね。なんでだろ?
で、若尾文子は、ほかのヒロインとはちがって無意識に寅の善意に甘えることもなく、もちろん利用することもなく、寅の好意は嬉しいが諦めてくれという。いうんだが、これを寅がやはりお決まりの勘違いをするところから、もう続きを観るのがつらくなってきた。
若尾文子の旦那というのは、作家で、新人賞は獲ったものの数年しか保たず、あとは知り合いのところに居候したり、間借りしたりで定住できず、つらい日々が続いていたようで、しかしそれでも、知的な職業の夫を棄てきれない女の哀れさが出てくる。このあたりはいつものとおりなんだけど、なんにしても若尾文子の台詞のとおり「女って弱いのよ」だよね。
健気さはときに哀れでもあるけど、それが本人の口から洩れるとき、女って弱いのよって台詞になるのかしらね。