◇男はつらいよ わたしの寅さん(1973年 日本 107分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 津川雅彦 岸惠子
◇第12作 1973年12月26日
夢の中とはいえ悪徳金貸しとはいえ河原に火が立ち上る市民蜂起の皮切りとはいえ、寅が拳銃で撃ち殺しちゃうとはおもわなんだ。
帝釈天の前を横切ってとらやにやってくるさくらから始まるのが恒例になるのは、この回からなのかしら。
でも、そうか、とらやの人達が別府旅行に出て、寅がひとりで留守番ていう展開は初めてだね。ていうか、あれだね、電話に順番に出たり長くなるから切ろうとする光景や、じゃあばいばいおならぶうとかいう決まり文句も含めて、すべては過去なんだね。前にさくらが入れ替わってやりたいというが、それがほんとになるってことなのね。
しかし、太宰久雄演じるタコ社長は哀れで見ちゃいられないというが、離れていてまでも迷惑をかける寅は、自分のわがままにも気づかないほど頭が悪いわけなんだけれども、見ちゃいられないのは観客だよねといいたくなるような演出なんだけど、よくもまあこれだけ不愉快な主人公を設定できたもんだとおもったとき、寅がかいがいしく晩ご飯をつくり、お風呂まで沸かして待っているという図が効いてくる。
うまいな、まったく。このあたりは悔しいくらいに、うまい。観客の気持ちを転がしてるっていうんだろうか。
昔馴染みのマエタケこと前田武彦と寅が堤防横の道をゆくと、その下の岸辺を小学生のガキふたりがやってくる。かつての寅と前田武彦なんだよね。このカットも、秀逸だ。
岸惠子との出会いは喧嘩なんだけど、そういえば、喧嘩からていうのは初の展開かもしれない。
それはともかく、熊とキリギリスね。あ~似てるわね、ふたりとも。でも、カバに似てる。
しかし、なんでかわからないけど、訪ねてくるんだよね。マドンナと呼ばれる女の人たちは、みんな。結果、さくらを悲しませることになるんだけど、ま、それはさておき、津川雅彦の気障っぷりは凄いな。ここまで気障になれた役者は津川さんだけなんじゃないかしら。
岸惠子のエレガントぶりもだけど、この上品な華やかさはどこからくるんだろ。