◇男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年 日本 98分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 田中絹代 八千草薫
◇第10作 1972年12月29日
前回、森川信の急死で、急遽、おいちゃんが松村達雄になったんだけど、もうその違和感は抜けてる。
また、数回前、併映されるのもハナ肇の為五郎シリーズからドリフに変わったりして、この時代はなんだか変化があったんだね。
で、そのハナ肇への餞のように、夢の中で「マカオの寅」が登場する。ちょうど『喜劇 一発大必勝』の「ボルネオの寅吉」のようだけど、まあその寅が登場して書生の博と女給のさくらを救う。たぶん、この回から夢のパターンが出来てきたってことなんだろう。
日出塩駅を通過するSLの迫力はたいしたもんだけど、ほんと、このシリーズにSLは多いね。
帝釈天の境内で遊んでるガキんちょの母親が呼びにきて「遊んでばかりいるとね、寅さんみたいになっちまうんだよ!」といわれたり、寅の縁談を探すと町中がそっぽをむいたしまうっていう町では厄介者あつかいだ。いやこの頃の寅は、源公が帝釈天の門扉に「トラのバカ」と落書きするようにどうしようもない低能のろくでなしなんだよね。いつからまともになったんだろう。
ところでこの回で、源公が「バカ」と書いた寅の泣いた似顔絵を鐘に貼って憎々しげに撞くんだけど、むかし、これがよく受けたんだよね。劇場はなぜか笑いの渦だった。
それと、寅が出ていくときのすったもんだだけど、この回がいちばんいいかもしれない。寅の縁談話がこじれるんだけど、「おれが一番つらいおもいしてんだぞ、そうおもわねえか」と怒鳴る寅に、さくらは泣きながら「そうおもうわよ」とうなずき「だけどね、ほんっとにつらいのはおにいちゃんよりおいちゃんたちかもしれないのよ」と顔をおおったとき、寅は気がつくんだな。
「そうよな。さくら、いちばんつれえのは…」
といってさくらをふりかえるんだ。この瞬間、ヒロインはさくらなんだなってのがわかるね。マドンナは、やっぱり、ゲストなんだよね。
で、このあと信州の引きの絵になってビバルディが掛かる。染み入るような曲調から転調して物語も転じ、登場するのが田中絹代。うまいな。タイトルがトメになってるだけあるな。
そこで語られるのが、ハナ肇の為五郎ならぬ為三郎ていう旅者の死にざまだ。寅の将来だね。このままじゃこうなるという暗示だね。
墓参りまでバロックだ。うまいな。
しかしせっかくのいい雰囲気が、奈良井の宿で寅をかたった登と再会してからもビバルディだ。これはちょっとな。
ちなみに、足を洗えと置き手紙して朝いなくなる寅の姿を追って登が駅を見下ろしたとき、やっぱりSLが駅を通過する。ここでもSLか~って話だ。