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☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

男はつらいよ 純情篇

2019年10月16日 13時38分22秒 | 邦画1971~1980年

 ▽男はつらいよ 純情篇(1971年 日本 91分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 ミヤコ蝶々 田中邦衛 榊原るみ

 

 ▽第7作 1971年4月28日

 集団就職の乗り込んだ列車を見送るひと幕で、まあお決まりの「あ、おれもあの列車に乗るんだった」ていう展開でタイトルなんだけど、森川信のタイトルはこの回は「おじちゃん」なのね。

 しかし、みんな、若いな。おいちゃんが「表へ出ろっ」と叫んで、さくらまでもが寅を怒鳴りつけてる。その若さが、帝国ホテルの615号室の湯船を「でけえ金隠しだな」とかいっておしっこしちゃったりするんだね。くわえて「脳が足りねえとはなんだ、その脳の足りねえ息子を産んだのはどこの女だ?」で始まるミヤコ蝶々との親子喧嘩も若さの故なんだろう。

 けど、この頃になってようやく、さくらも大人になってきた観がある。スーツの似合うしとやかなご婦人になったわ。

 でも、そうか。朝日印刷の労働者諸君や榊原るみ演じる知恵遅れの青森出の娘の交番を覗く若者らのカットを見てると、なるほど、都会に翻弄される若者が主題なのか。いかにも当時の主題だなあ。

 いや、そんなことより、榊原るみだ。この頃はまだちょっぴり太ってて田舎娘の野暮ったさが満載だけど、そんなことはどうでもいい。可愛いな~。じつに、可愛い。当時、この可憐な女優さんは、お嫁さんにしたい女優とかいうランキングはなかったものの、それをしたらだんとつでいちばんだったんじゃないかって気がする。

 まあそれはさておき、残酷な回だな。寅がさくらを殴り飛ばして旅に出るのは初めてなんだろうけど、でも「足りねえやつと足りねえやつが結婚するのはだめだ」っていう寅の考えはあかんのじゃないかしら。あ、でも、青森へ向かったとおぼしき寅がなにをしでかすかわからず、その心配が高じてさくらが青森県のとどろきまで出向くという展開は、これまで観たことがない。

 あ~有名な海辺の無人駅か。冒頭とおなじくディスカバー・ジャパンのポスターが貼ってあるし、この時代なんだね。

 田中邦さんも若いな。とんでもない、とんでもないって台詞の連発だけど、好い感じだ。

 まあ、この回はミヤコ蝶々も出てたりする分、寅がらみの余分な連中も見当たらないし、ラスト、バスの中で再会するのもあったりして、ちゃんと寅とさくらの物語になってるのも珍しいかな。でも、これでいい気がする。このシリーズでマドンナとか呼ばれる人たちはいってみればお飾りな感があって、ほんとのヒロインはさくらなんだから。

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男はつらいよ 純情篇

2019年10月15日 13時19分13秒 | 邦画1971~1980年

 △男はつらいよ 純情篇(1971年 日本 89分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 宮本信子 森繁久彌 若尾文子

 

 △第6作 1971年1月15日

 この作品、ぼくがひとりで劇場で観た最初の邦画だとおもうんだけど、忘れられない場面がある。

 でも、それより先に夢の話だ。無い。夢が設定されてない。その代わりに置かれているのが、夜汽車の一光景。ビールが弾ける。お笑いくださいまし、行きずりの若い女に故郷をおもいだすのでございますっていう独白だ。これで、三十九歳と知れる。

 それはそれとして、寅はこの頃、自分のことをさくらに話すとき「あんちゃんな」ていうんだね。へ~っておもった。

 ま、それもおいて、忘れられない場面のことだ。旅館九重。五島列島に渡る子連れの女に「船賃を貸してくれ」といわれ、一緒に泊まる。で、女はワンピースの背中のジッパーを下ろしながら「お金ば借りて、なんもお礼ができんし。子供がおるけん、電気ば消してください」ていうんだけど、寅はこういうのよ。

「あんた、そんな気持ちでおれに金を…。行きずりの旅のその男が、妹の身体をなんとかしてえなんて気持ちを起こしたとしたら、おれはその男をころすよ」

 この場面は、当時中学生だったぼくにとって、かなり衝撃的だった。いやそれより、宮本信子だったんだね。薄くて薄幸そうなメイクだな~。

 ちなみに、タイトルでは「おじさん」だけど、寅の台詞では「おいちゃん」なんだね。なんでだろ?

 で、若尾文子は、ほかのヒロインとはちがって無意識に寅の善意に甘えることもなく、もちろん利用することもなく、寅の好意は嬉しいが諦めてくれという。いうんだが、これを寅がやはりお決まりの勘違いをするところから、もう続きを観るのがつらくなってきた。

 若尾文子の旦那というのは、作家で、新人賞は獲ったものの数年しか保たず、あとは知り合いのところに居候したり、間借りしたりで定住できず、つらい日々が続いていたようで、しかしそれでも、知的な職業の夫を棄てきれない女の哀れさが出てくる。このあたりはいつものとおりなんだけど、なんにしても若尾文子の台詞のとおり「女って弱いのよ」だよね。

 健気さはときに哀れでもあるけど、それが本人の口から洩れるとき、女って弱いのよって台詞になるのかしらね。

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男はつらいよ 望郷篇

2019年10月14日 12時58分47秒 | 邦画1961~1970年

 ◎男はつらいよ 望郷篇(1970年 日本 88分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 井川比佐志 長山藍子

 

 ◎第5作 1970年8月25日

 ようやく、山田洋次の寅さんシリーズの始まった観がある。

 ちぐはぐだった脚本と演出も、バランスが取れてきてる。そんな気がした。

 で、夢から葬式つながりなんだけど、てきやの親分の危篤の報せを受け、おいちゃんの「あの野郎、なにかってえっと葬式ばかり出したがりやがる」って台詞と、おばちゃんの「けど、これで出てってくれればこれほどありがたいことはないよね」っていうくだりから「この家じゃ兄貴はのけものにされてるんじゃねえのかい?」を経て、さくらの説教を受けながらも反省するふりしてお金をふんだくって札幌に飛ぶなんだか気分の悪くなるような展開まで、実に見事な脚本の流れだ。

 あ、ふとおもったんだけど、途中、印刷所で職工を冷やかしてふざけ回り、徹底的に顰蹙を買った裏話があるんだけど、もしかしたら撮ってるじゃないかな?ちょっとくどくて、カットしちゃったかもしれないね。

 それはともかく、小樽のロケがいい。

 坂道の家もさることながら、機関区のくだりは画面も脚本もええね。回想で粒子ざらざらの白黒画面で、線路をとぼとぼ歩く松山省二(子役7才)の後ろから蒸気機関車がやってくるんだけど、ひとつの画面で処理されてる。ワンカットだけだけど、凄いカットだ。今なら危険だとかなんだとかいわれて撮れないよ、これは。

 ていうか、ほんと、うまいな。

 うまさは脚本だけじゃなくて、牧歌的な屋根の小沢駅前にある末次旅館でのぼること津坂匡章ことを叩き出す夕飯時の、汗と煤に汚れたダボシャツがまたリアルだ。

 山田洋次の脚本のリアルさは、言葉がその時代のおとなの普通な言葉なんだよね。寅がさくらのうながしに「じゃあ、着替えさせてもらいます」って応える。させてもらうという言葉は、この時代、なにげなく使われてて、現代みたいに小うるさい印象はないんだな。

 あと、浦安の豆腐屋に厄介になってるとき、不安になったさくらに「地道にね。考えることも」と諭されたあと、長山藍子に「朝早いので、ぼく寝ます」といわれる。ので言葉が使われてるんだよね。さらになにもかも終わった花火大会の夜、たこ社長に「うまくやってるそうじゃないか」といわれたとき「豆腐屋の方?」と聞く。ここでは、~の方言葉が使われてる。

 で、寅が機関士のように額に汗して働きたいとおもったとき、寅が印刷屋に出かけて断られるとき、たぶん裏話で職工たちと揉めたとおもうんだよね。そのときに、前にからかったときの話を受けてたんじゃないかな。そしたら、前にカットされたとおもわれる場面が要るんじゃないかしら?でないと、本来、このくだりは使えなくなっちゃうんじゃないのかしら。

 ともかく、そんなことで、舟の上で昼寝したまんま、さくらが探してもわからずに舟で下っていっちゃうんだね。貴種流離譚だ。しかしこの流れていくカット、真上から俯瞰してるんだよね。撮ったの川じゃないとおもうけど、凄いな。

 それにしても、長山藍子に「ずうっとここにいてくれない?」といわれことから勘違いが始まり、アパートの大家さんちの呼び出し電話に出たさくらの不安が始まるわけだけど、色気づいてアロハを着る寅が機関士に油揚げを、つまり色は白くて水くさい娘をさらわれる、いつもどおりの展開になる。

 なるものの、いつまでも同じ展開もできないし、長山藍子のちょっと卑怯な言質の取り方もあったりして、いやまじに困った展開なんだけど、これがやがて本気で好かれて寅の方から身をひくようになる。まあ、仕方ないね。ほんとならこの回でシリーズが終わるはずだったみたいだから、サービスの展開だったんじゃないのかしら。

 まあ、葬式から始まり、地道に働くというのは実に大変なのだという主題はちゃんとできてたし。

 ラストカットの海辺を行く蒸気機関車も、ちゃんとつながってる。うまいな。

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新・男はつらいよ

2019年10月13日 12時41分15秒 | 邦画1961~1970年

 ▽新・男はつらいよ(1970年 日本 92分)

 監督/小林俊一 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 財津一郎 栗原小巻

 

 ▽第4作 1970年2月27日

 やけに品がないな~とおもい、なんともテレビ的な展開じゃないかともおもって、それでも我慢して観てたんだけど、あまりのみっともなさに徐々に観るのが辛くなってきた。

 そもそも、寅が競馬でぼろ儲けするっていう展開はどうかな?なんだか違うんじゃないか?とおもってたら、なんのことはない、その金でハワイに行こうとしたら旅行会社の社長に盗まれるって展開のための設定だった。でも、別にそれは寅のせいでもなんでもないし、旅行に出たふりをしなくちゃいけないことはまるでない。

 にもかかわらず、財津一郎の泥棒騒ぎもふくむてもうわけのわからない展開だ。

 いくらなんでも、これはないだろ。

 ただまあ、騒ぎが終わってからの不器用な優しさと頑固な辛さのぶつかり合いは、いかにも山田洋次調でようやく寅に戻ったって感じだった。とおもったのも束の間、またもや、あまりにもテレビ的な簑をかぶった展開だ。悲しくなってきたわ。

 てか、この回も「おいちゃん」じゃなくて「おじちゃん」なのね。寅も「寅っ」じゃなくて「寅さん」って呼ばれるのね。まあ、森川信の場合はそれでいいのかもしれないけど。

 しかし、この回もまだ、労働者諸君は『スイカの名産地』を歌い続けてるんだな。いや、まじでいつまでこれだったんだろう。住み込みの工員の窓をふさいだ展開も、笠智衆の呆れ顔も、寅の『春がきた』もすべてが辛いな。

 そりゃまあ、栗原小巻の置かれてる相容れない父親との死に別れという環境との対比もあるんだろうけど、それで、寅の父親の命日を忘れるという展開に持っていくことで小巻の頑なな気持ちがほぐれていくというのはわからないでもないけど、なんというのかな、山田洋次の書いてる部分とそうでない部分とがわかりすぎる気がして、このちぐはぐな脚本と演出は辛すぎるな、やっぱり。

 しかし、この時代はミニスカートなんだね。栗原小巻のミニとか初めて見る気がするけど、それは当時の映画を忘れてるだけなんだろう。それにしても、若いな、みんな。

 あ、この回も、さくらの出番はほとんどないんだね。ふられて旅に戻るのを聞くのもおいちゃんとおばちゃんの役目なんだね。

 ただ、寅が胸の内を告げて出て行こうとしたときかぜの冷たさに悩んだとき、おもわずおいちゃんとおばちゃんの話を聞いてしまう寅と、去ったあとの自転車の後輪の回転する演出だけはよかった。ここのところだけは、脚本の勝利だな。

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男はつらいよ フーテンの寅

2019年10月12日 12時23分43秒 | 邦画1961~1970年

 △男はつらいよ フーテンの寅(1970年 日本 90分)

 監督/森崎東 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 森川信 新珠三千代 香川美子

 

 △第3作 1970年1月15日

 出だしに、悠木千帆こと樹木希林が出てる。それも渥美清とツーショットのやりとりだ。へ~。そういう時代か~。

 つね、梅太郎、竜造、源吉、みんな名前でタイトルに出てるわ。佐藤峨次郎、店員で台詞もあって、なんだかまともだ。ていうか、竜造が「とらさん」と話しかけるのは森川信のときだけなんだろうか。

 え、ワイプ使ってるわ。演技の切れもいいし、なんだか落語みたいだ。やっぱり、森崎東だね。

 けど、ジャケット、土色と黒色の千鳥格子ってのは濃すぎる気もしないではない。それと、寅がひろしとけんかになって「表に出ろ、ほんとになぐるぞ」となり、喧嘩して組伏せられ、涙を流して負け惜しみまでいうんだ、若いね。

 しかし、涙で滲んだ目線のカットから霧にけぶった江戸川の川面に続いて、倍賞千恵子のアップがフレームインだ。いいな、このカットつなぎ。とくにこの作品の倍賞千恵子の初カットだからね。

 てか寅、トレンチコートまで羽織ってるぞ。この時期までは服装も定番だけってわけじゃなかったのね。ま、衣裳はともかく、いつものとおり、寅はインテリに負けてふられるという展開はこのあたりから定番化する。そう、たとえば、ここでいう大学教授だね。

 歯磨きしながらようやく気がついて口をゆすいだ水をごくりと飲んで「それじゃあその馬鹿というのは」と寅がつぶやいたとき、絶妙なタイミングで「そうよ、馬鹿はおまえよ」という左卜全が、つっこみをいれる。うまい。さらに、勘違いして障子の向こうにいる左卜全たちに寅が告白かたがた別れの挨拶をするわけだけど、ふむ、シラノ・ド・ベルジュラックね。

 で、すれちがったあと、立ち小便してる寅には声をかけずそのまんまベンツで走り去る新珠三千代と、歌を歌って去っていく寅。もしかしたら、この別れの場面は寅の別れの中ではいちばん好みかもしれない。

 ラストが年越し蕎麦というのも、最初で最後じゃなかったかな。しかも、寅が白黒テレビの向こうからご挨拶というのも、最初で最後なんじゃないかしら。子供が3人いると嘯くのもね。ま、それはそれとして、お志津~!といったときに、新珠三千代の新居でカラーテレビをかけっぱなしで、でも観てないってのも、わかるね。

 ま、だからといって「おまえのけつはくそだらけ」っていう観光客の合唱で終わるのは、実に品がないな。

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続・男はつらいよ

2019年10月11日 00時09分04秒 | 邦画1951~1960年

 ◇続・男はつらいよ(1969年 日本 93分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 森川信 津坂匡章 佐藤オリエ

 

 ◇第2作 1969年11月15日

 タイトルバックに、森川信は「おじさん」となってる。へ~この頃はおじさんだったのか。

 びっくりしたのは、寅がさくらに5000円やったことだ。5000円といえば、500円の10倍だ。当時としては、破格だよね。

 鴨川の岸辺ですき焼きを食べてるんだけど、即席の床というより丁寧な造りのテラスがある。三条大橋からちょっと上がったところのように見えるんだけど、こんな店あったかな?

 いや、そんなことよりも、この回は、寅がラブホテルに入る。ラブホテルというか連れ込みというか、ともかくそういう施設だ。後年のシリーズからは考えられない話だけど、さらに、そこへ、風見章子演じる女中さんが部屋に入ってきて機器や飲み物の説明するんだけど、こんなこと当時はしたんだろうか?

 しかしそうか、東山の安井天満宮の近くか。あのあたりにミヤコ蝶々演じる寅の淫売あがりの母親の経営する『グランドホテル』があったっていう設定だったのね。しかし、寅は泣くし、わめくし、よく動くし、こけるし、落ちる。こんなに動いたかなっていうくらい躍動する。

 佐藤オリエが素で噴き出し、うつむいて必死に笑いをこらえているのがよくわかる。

 東野英次郎は、頑張って堪えてたけどね。

 あ、ここでも「京都の方」っていうのね。この当時から「~の方」っていう言い方は定着してたのかな?

 ラストカット、河口堰なめの三条大橋の仰角。凄いね。川の中に入って撮ったんだね。

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男はつらいよ

2019年10月10日 23時39分09秒 | 邦画1961~1970年

 ◇男はつらいよ(1969年 日本 91分)

 監督/山田洋次 音楽/山本直純

 出演/渥美清 倍賞千恵子 前田吟 森川信 笠智衆 志村喬 津坂匡章 広川太一郎 光本幸子

 

 ◇第1作 1969年8月27日

 ぼくたちが、たぶん、このシリーズを現役で観ているいちばん若い世代だろう。

 当時、渥美清は代表的なおもしろい人だった。小学生だったぼくは役者や俳優たちと芸人との違いもよくわかっていなかったかもしれないけど、ともかく、めったに観ることのない映画の中で、このシリーズは毎度出かけていく映画のひとつだった。それは中学生になっても変わらず、寅さんのシリーズを欠かすことはなかった。

 中学生のときには脚本も買った。一所懸命に読んだ。山田洋次っていう人はなんてこんなに細かく丁寧な台詞をおもいつくんだろうとかおもった。人の暮らしをじっと見てるのかな~っておもった。

 ちなみに、ぼくは山田作品に0.1秒映ったことがある。倍賞千恵子さんがバスガイドを演じた『喜劇 一発大必勝』のタイトルバックで、倍賞さんがバスの扉を開けて「墓場行でぇす」という台詞をいうんだけど、そのバス停に立っているのがぼくだ。もちろん生まれて初めての体験で、でも、その日の撮影現場の風景はいまだによく憶えてる。

 さて、この映画だ。

 さくらが、ひたすら可愛い。

 優しくて、利口そうで、ぴちぴちしてて。髪を栗色に染めてるのはどうかなとおもうけど、ま、それはさておき、この頃の寅はネクタイにモノトーンの格子、白黒ツートンの革靴。まあ出だしは20年ぶりの帰郷だし、観客には誰だろう?とおもわせないといけないし。

 それもさくらの見合いに付き添うという展開もあるからだけど、そこで『お仕事の方は?』と聞かれ『セールスの方を』と答えるんだ。へ~この頃から『なになにの方』ていうんだね。そこでさらに『さくらというのは珍しいお名前ですね』と訊かれる。

 さくらというのは、ほんとは漢字なんだと。貝ふたつの櫻らしい。知らなかったわ。

 ただ、そのあとがいけない。尸に匕と書いて『あま』匕ふたつで『へ』水で『にょう』とかいうくだりはまだいいとして、寅の不躾な失礼さはこのときが最高潮で、封切り当時、この最低さに笑ったものだけど、やくざの賭場に出入りするわ、庭の桜の木に立ち小便するわ、さくらの頬も張り飛ばすわ、そのめちゃくちゃぶりに次第に観るに耐えなくなってきた。

 だからだろうか、実をいえば、ぼくは10作目を過ぎたあたりから観るのやめた。寅に堪えられなくなったからだ。

 ま、それはさておき、まったく忘れてたけど、写真を撮るときにバターていうのは御前様が始めたんだね。

 で、はは~ん、光本幸子にひっついて柴又に帰ってくるときようやくいつもの寅のスタイルになるわけね。

 あ、ひとつ良いこと聞いた。寅がひろしの気持ちを知り、恋愛指南をする際、こんなふうにいうんだ。目を見ろといってもじっと見るんじゃないよ、色きちがいっておもわれちゃう。という台詞のとき、現在のテレビ放送とかでは「色きち…」と調整してる。ほほお、なるほど。色きちといえばいいのか。

 ていうか、ひろし、3年間も自分の部屋からさくらの部屋を見てたわけ?

 それって覗いてたってこと?

 1969年、まだまだ良い時代だな~。

 ちなみに、ひろしの父親はとっても難しい漢字の名前で、ひょういちろうと読むんだけど、当然、登場人物は誰も読めない。 そりゃそうだろう。ぼくも読めない。ただやっぱり、それがゆるされた時代であったとしても、寅の悪乗りには辟易する。笑ってられないんだよね、なんだか。

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ヴァレリアン 千の惑星の救世主

2019年10月09日 00時21分28秒 | 洋画2017年

 ▽ヴァレリアン 千の惑星の救世主(2017年 フランス 137分)

 原題/Valérian et la Cité des mille planètes

 監督・脚本/リュック・ベッソン 音楽/アレクサンドル・デスプラ

 出演/ハービー・ハンコック ルトガー・ハウアー クライヴ・オーウェン カーラ・デルヴィーニュ

 

 ▽2740年、アルファ宇宙ステーション

 ベッソンの映画は、おもいきり頭を抱えたくなることがある。

 そういうことがかなりの頻度であるから、観るのをためらう。

 案の定、超がつくほどつまらなかった。

 CGは予算に比例してもの凄いんだけど『サタデーナイト・フィーバー』や『キャバレー』をもじったところなんてあまりにも陳腐で無惨なセットだし、ベッソンのコメディ感覚は皆無としかおもえない。まるで、笑えないんだな。ていうか、イーサン・ホークがかわいそうじゃないか。

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小さな独裁者

2019年10月08日 19時50分29秒 | 洋画2018年

 △小さな独裁者(2018年 ドイツ 119分)

 原題/Der Hauptmann

 監督・脚本/ロベルト・シュヴェンケ 音楽/マルティン・トートシャロウ

 出演/マックス・フーバッヒャー フレデリック・ラウ ミラン・ペシェル ワルデマー・コブス

 

 △エムスラントの処刑人

 こと、ナチス・ドイツの空軍兵ヴィリー・ヘロルトの実話らしいんだけど、不愉快な映画だった。

 打ち棄てられた軍用車輛から空軍の将官の制服を盗み出して将校になりすまして逃げようとするのはわかる。それが勘違いされて将校に成りすませるとわかり、これが徐々に昂じてヒットラーの特別命令を受けたヘロルト戦闘団なる詐称集団を組織していくという過程はよくわかるし、興味も持てる。

 でも、それからがいけない。

 好い気分にはとてもなれない。

 収容所に入り込んで指揮権を剥奪されるまでの狂乱は気持ちが悪くなるくらい無軌道で残虐だ。実際にあったことだから描きたくなるのもわかるし、このヘロルトという、のちに逮捕されて裁判にかけられ処刑される運命をたどってゆく元脱走兵については同情の余地もないし、それを糾弾して後世に知らしめようとする姿勢もわかるんだけどね。

 そういえば『影の軍隊』でもそうだったけど、捕虜を走らせておいて背後から撃ち殺すというのはナチスの常套的な処刑方法だったのかしらね。処刑をゲーム化するというのは事実だったから際立った残酷さだな。

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STAR SAND 星砂物語

2019年10月07日 19時23分26秒 | 洋画2017年

 △STAR SAND 星砂物語(2017年 日本、オーストラリア 110分)

 原作・監督・脚本/ロジャー・パルバース 音楽/坂本龍一

 出演/織田梨沙 満島真之介 吉岡里帆 寺島しのぶ 石橋蓮司 緑魔子 渡辺真起子

 

 △脱走兵のファンタジー

 

 というふうに捉えるよりほかになかった。

 だって現実から遊離したような感じしか受けなかったから。いいかえれば、現実味がなかったっていうんだろうか。沖縄戦は甘ったるいものじゃなかった。脱走兵が皆無だったとはおもわないけれど、南洋の島々はことごとくに爆音が轟き、砲撃の匂いまで漂っていただろう。でもこの無人島にはそれがない。

 ファンタジーの世界というより、実は映画が始まってすぐにおもったのは、あ、これは現代の無人島にタイムスリップしてきた脱走してきた日本兵と米兵の物語なのねと。でなければ、これだけのんびりしてないだろうと。

 ただ、なんていうのかな、この映画を撮った人たちはたぶんとっても穏やかな好い人たちなんだろうなっていう印象は受けた。

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タクスゥ 魂の踊り子

2019年10月06日 18時46分44秒 | 邦画2011年

 △タクスゥ 魂の踊り子(2011年 日本 58分)

 監督・撮影・編集/仁田美帆

 

 △バリ島の舞踏

 ニ・クトゥット・チュニックという推定86歳の舞踏家の晩年を取材したドキュメンタリーなんだけど、たしかにこのおばあさんの手の動きは、会話をしていて踊りの話になると、ちょっとその振りをしてくれるんだけど、ぴたりと決まる。長年、踊ってないとこうはいかない。

 舞踏の歴史に名を遺しただけのことはあって、彼女のあとを継いでゆく女の人達はもちろん現代においては第一人者になるんだろうけど、やっぱり、ぴたりと決まらない。

 ただ、編集、もう少し刈り込んだ好いんじゃないかしらね。冒頭から、なんとなくそう感じた。ドキュメンタリーは素材をどれだけ集めて、あらためて脚本を書いて、そこで編集するわけだけれども、このとき、どうしても自分で撮影したものは一秒でも多く残したくなる。それは仕方のないことなんだけどね。

 もうひとつ、視点をもうすこし大きく捉えた方が良いような気もする。バリにとって舞踏とはなんなのか、バリの舞踏はどのように生まれ、受け継がれてきたのか、そのあたりの大枠がもっと語られててもいいのかな。あと、彼女の村についての情報が乏しすぎる気もした。

 こうしたところまで語らないといけないのは、ほんと、難しいけどね。

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熊野から

2019年10月05日 00時48分19秒 | 邦画2014年

 ▽熊野から(2014年 日本 90分)

 監督/田中千世子

 出演/海部剛史 伊勢谷能宣 雨蘭咲木子 伊藤公一

 

 ▽三部作の第一部

 難しいな。

 もうすこし映像にこだわりのあるカメラマンが協力するか、また物語にこだわりのある脚本家が協力すればよかったのにね。どうしても自分だけの世界に入り込んでしまうから、それを客観的に観て、熊野とはなんなのか、なぜこの主人公は熊野に魅せられているのか、大逆事件が単に人間や場所の因果というだけでなく、主人公とどのように関わらざるを得なくなってしまったのかということを一緒に考えなくちゃね。

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ドント・ウォーリー

2019年10月04日 22時39分19秒 | 洋画2018年

 ◇ドント・ウォーリー(2018年 アメリカ 113分)

 原題/Don't Worry, He Won't Get Far on Foot

 監督・脚本/ガス・ヴァン・サント 音楽/ダニー・エルフマン

 出演/ホアキン・フェニックス ジョナ・ヒル ルーニー・マーラ ジャック・ブラック

 

 ◇自分を許せない人生

 ホアキン・フェニックス、見事に太ったわ。大した役作りだよね。

 ま、その根性はまず讃えて、筋立ての作りはさすがだ。

 ドキュメント・タッチで撮られた挿話を順不同のように並べながらも、アル中と交通事故による半身不随から他人を赦し、当事者つまりべろべろに酔っぱらいながら運転していた友人を赦し、そして助手席に乗り込んでいっさい止められなかった自分を最後に赦すという精神的な復活を遂げていく過程がばらばらながら上手に組まれてた。

 ただ、その中で、子供たちと真剣に戯れることができるようになったひとこま風刺画家の半生が見えてくるという最初と最後の括り方はよくわかるけれども、ちょいと単調かな。

 それとルーニー・マーラーがあまり入り込んでこない介護ボランティアのスチュワーデスなんだけど、こういう地味な役をよくやったなとはおもいながらも、彼女がやらなかったら埋もれちゃうな、ともおもった。

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パリ、嘘つきな恋

2019年10月03日 23時32分48秒 | 洋画2018年

 ◇パリ、嘘つきな恋(2018年 フランス 108分)

 原題/Tout le monde debout

 監督・脚本・主演/フランク・デュボスク 音楽/シルバイン・ゴールドベルグ

 出演/アレクサンドラ・ラミー  エルザ・ジルベルスタイン ジェラール・ダルモン

 

 ◇障害者になりすますと際どさ

 エスプリの利いたフランス人でないと撮れないような差別ぎりぎりの崖っぷち映画だとおもって観てたけど、日本では撮れないだろうな。

 危なっかしいっていうか危ういっていうか、とにかく物語の際どさにはらはらしながら観ちゃったけど、とくに、パラリンピックをめざすいろんな人達に、競技の線引きはどうなってるんだとひとつひとつの例をあげて訊いていく件りは、たしかにそうで僕も訊きたいとおもってしまった。映画の中では明確に答えてはくれなかったけどね。

 ただまあ、余裕の笑顔を崩さないようにしているアレクサンドラ・ラミーの妹役キャロライン・アングラードのセクシーなことといったらないが、それはさておき、エルザ・ジルベルスタインの「しなくてもいいのにどうしてもしちゃうんだな的告白」にいたるまでの彼女の献身は、どうやら東西を問わない世の男の願望みたいなものなんだろう、たぶん。

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僕たちのラストステージ

2019年10月02日 23時58分38秒 | 洋画2018年

 ◎僕たちのラストステージ(2018年 アメリカ、イギリス、カナダ 98分)

 原題/Stan & Ollie

 監督/ジョン・S・ベアード 音楽/ロルフ・ケント

 出演/スティーヴ・クーガン ジョン・C・ライリー シャーリー・ヘンダーソン ダニー・ヒューストン

 

 ◎極楽コンビ

 ことローレル&ハーディの晩年を描いたものなんだけど、残念なことに、ぼくはこのコンビを現役で観たことがない。

 というより、かれらの時代のコメディアンたちについて、ぼくはなにも知らない。実際、このふたりが映画になったからといってそれほど興味を掻き立てられたわけでもなかった。でも、映画は上手に作ってあった。

 いや、のっけから、ぶっ飛んだ。最初の10分近い長回しなんだけど、特撮を駆使してないとしたら、たいしたもんだ。

 それと、ハリウッドが実話を映画化するときに実在の人間に似せたキャスティングとメイクを徹底させるけど、この作品もそうだった。ていうか、ローレル&ハーディばかりか、その妻ふたりもよく似せてて、これも実にたいしたものだった。シャーリー・ヘンダーソンとニナ・アリアンダが妻たちを演じてたけど、ほんとうにこうだったんだろうなって感じだったわ。

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