東京人でも気づかない場所がある。
京浜急行各駅停車に乗ると品川駅を出て最初の停車駅が北品川駅だ。将来リニア新幹線が発着する品川駅からでも歩いてゆける近さだ。そこは高層ビル群に囲まれた谷間にあたる一体が旧東海道品川宿である。お寺と多くの錯綜する路地と古い商店街、そして船宿と盛大なお祭りがある街だ。
それだけ揃えば魅力的な場所だけど、忘れ去られたところがよい。だから私も本を作る時に取材で、この街に足繁く通ったのである。それから10年はたっただろうか、再びこの街を訪れた。しかしこの街を案内してくれた教え子の家はなく、路地の箱職人も見当たらず、うなぎ屋は新業態の居酒屋になり、新しいワンルームマンションが目立つようになった。もちろん商店街も綺麗に整備されているから、私が訪れた時とは随分と様相が変わっている。
それ自体都心に近く魅力的な場所だ。若い人達が住み始めたから商店街も刷新されたわけだ。その陰で履物のお婆さんや馴染みの風景が消えていった。それが日々更新し続ける東京の宿命なのだろう。
これらの画像の多くは1997年6月にミノルタCLE+ライツエルマリート28mmで撮影していた。フィルムはすべてトライ-X400。
品川宿の路地。ここの路地は錯綜して沢山ある。人一人が通れるぐらいの狭隘な路地もあるし、井戸のポンプが設置された路地も複数ある。今は飲めないが洗濯には使われており路地が干し場となっている。だからまさに井戸端会議が存在している。井戸という生活必需品が地域のコミュニティを繋いでいる。それに都心のすぐ側あって、この江戸っ子気質の路地界隈は大変落ち着く。きっと住みやすいところなのだろう。
別の見方をすれば、住み心地の良い住まいというのは、コミュニティがあって人々のつながりがあるところだということを再認識させてくれた。
品川宿商店街。京急の北品川から青物横丁まで1km以上ある長い商店街が続いている。その沿線がとても魅力的な空間だ。いまは随分と変わってしまっただろう。そしてこの街には、江戸っ子気質の人間が多く、品川神社と荏原神社のお祭りがある。大神輿は商店街を練り回り、東京湾でみそぎをする。そう昔はこの商店街のすぐ脇までが東京湾だったのである。
木造長屋群。商店街から少し外れるが古い建築様式の木造長屋群がある。なによりもこの植栽に囲われた路地が素晴らしい。後日訪れたら長屋群は1/2になってしまった。いずれなくなるだろうし、だれからも残せという声はあがらない。静かに消えてゆく古い木造長屋群である。
船宿のある街。東京湾遊覧の屋形船は、この街から出航する。だから商店街を直角方向に下ると東京湾に続く水路がある。昔東京湾がこの街の際まであったという名残である。