中国政府が2008年に開始した「千人計画」は、海外の優秀な研究者、技術者を誘致することを目的にしている。
米国では「千人計画」に関連する中国へのスパイ容疑での摘発が相次いでおり、知的財産窃取のための計画として世界的に問題視されているのだ。
週刊新潮の10月22日号で、中国の「千人計画」に携わる日本の研究者が明らかにされた。
マイクロナノロボットや生物模倣ロボットシステムの権威で、日本学術会議の会員だった名城大学の福田敏男教授は質問状に無回答だった。
口を噤む研究者も少なくないなか、取材に応じてくれたのは、東京大学名誉教授で物理学が専門の土井正男氏(72)。
「現在は北京航空航天大学の教授として、専門のソフトマター物理学を教えています。9年前に北京の理論物理学の研究所に呼ばれて連続講義をした際、知り合った中国の先生から『千人計画』に誘われまして」
土井氏が論文リストを送ったところ、中国政府から招聘を受けることになった。
「東大は辞めても名誉教授という肩書しかくれませんでしたが、北京の大学は東大時代と同じポストで、待遇も少し多いくらい用意してくれました。学生相手に講義をしなくてもよいし、日本の公的な科学研究費(科研費)にあたる『競争的資金』も受け取りました。いただきました。そういう意味で中国は楽園ですね。面倒なことをやらずに学問に没頭できて本当に幸せです」と喜びを隠さないのだ。
土井氏が籍を置く大学は、日本でいうところの防衛大学。軍事研究も盛んと聞けば、自らの研究が悪用される懸念はなかったのか。