『郷土研究』76-6 No.10 P.8
「うき世漫談」十 市橋鐸
(一)妙な商売 イ 乞食の衣装貸し
「右や左のダンナ様」と あわれみを乞うている路傍の
乞食の衣装が、借り物と気づいてた方は少ないだろう。
あわれさを ひきたたせる為に 幼い子供を連れているのも
あった。あの子供は借りものだよと教わったことがあるが、
あのほろ汚い服装までが、商売人からの借りものとは
知らなかった。
貸衣装屋には、乞食の他に、托鉢坊主、西国巡礼、虚無僧
などのものもあった。上物は一日8銭、下等の物は4銭位い。
この値段は大正の初め頃の相場で、当事の小遣いが5厘くらい
だった時代である。
乞食も自前で出ると、「浮浪罪」といってお巡りさんに捕えられ、
拘留されるが、「衣装屋から借りたもの」 と言えば、何の
咎めもなかった。
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これに似た話が 『三曲』 にもあった。
四国巡礼に行くと、乞食、巡礼、虚無僧の貸し衣装屋があった。
虚無僧の装束は一番高いが、虚無僧の格好で行くと、喜捨して
いただく 額も多い。乞食には5厘、巡礼には1銭、虚無僧には
5銭。 しかし、喜捨する方も心得ていて、虚無僧が来ると
「一曲お願いします」と催促する。ちゃんと尺八が吹ければ
本物。尺八が吹けない 偽虚無僧は、逃げていった、と。