6月12日

　今日は友人M君の命日。1年前の今日、彼は息を引き取った。それから1年、長いようで短く、短いようで長かった。

　M君宅に行き、焼香をした。3年半前、突然脳幹出血を起こし、体を動かすことができなくなった。嚥下性肺炎が頻発したため、食道と気管支を分離、彼はことばを発することができなくなった。おしゃべりの彼は、みずからことばを発することができなくなった。

　この事実を知ってから、ずっと彼を見舞い元気づけた。しかし、徐々に体が弱っていき、蓄えていたエネルギーをすべて使い尽くして、昨年の今日、旅立っていった。

　元気であった彼が、突然からだが動かなくなった。人間の生は、一寸先も見えない。未来は闇の中だ。その闇の中を、その先があると信じて、人間は生きていく。今生きているこの瞬間だけが、光の中にある。しかしその一瞬は、永久に消え去っていく。

　彼の骨は、墓にある。はか。「はか」は、狭い場所という意味だそうだ。死んだ後、狭い場所に埋葬される。しかし、今ボクが生きているこの瞬間のボクが存在する場も、とても狭いところだ。

　一瞬一瞬の時空を生きて、生きて、そしていつか消えていく。「はかない」とは、今生きている狭い場がなくなる、ということでもある。

　すべての生きとし生けるものは、その必然を受容しなければならない。
　

賭博

　帚木蓬生という作家がいる。もと報道機関にいて、現在は精神科医であると同時に作家である。帚木の作品はヒューマニズムにあふれ、ボクは『三たびの海峡』はじめ、ほとんどを読んでいる。

　さてその帚木氏が、今月号の『世界』に「カジノ合法化は何をもたらすか」という論文を書いている。政治家には賭博が好きな人が多いようだ。「国際観光産業振興議員連盟」というカジノを合法化しようという国会議員の組織があって、200人以上が参加しているそうだ。

　精神科医の帚木氏は、ギャンブル依存症の治療や調査の経験から、このカジノ合法化に鋭く警報をならしている。

　日本には、合法的な賭博がある。競輪、競艇、競馬、オートレース、宝くじ、スポーツ振興くじ、以上6種である。これらの年商は、順に8000億円、1兆円、3兆4000億円、1000億円、1兆円、500億円という高額になっている。これらは戦後、スポーツ振興くじを除き「戦後復興」の資金集めという理由から合法化されたものだが、今なお存続し、それぞれ中央省庁の利権とつながっている。競馬は農水省、競艇は国交省、競輪とオートレースは経産省、宝くじは総務省、スポーツ振興くじは文科省である。

　そして賭博ではあるが、賭博ではないとされている私営のパチンコ・スロットがある。ギャンブル依存症をつくりだす最大の賭博がこのパチンコである。なんと年商20兆円だそうだ。トヨタ自動車の年商と肩を並べるそうだ。アメリカのラスベガスを含めた賭博の売り上げは6兆円、マカオは4兆円だそうだ。

　その数字をみると、日本はすでに「ギャンブル大国」といってよい。

　以前も書いたが、我が家の近くにあるパチンコ店の駐車場は夜でも昼でもいつもたくさんの車や自転車、オートバイが並んでいる。日本人の多くは余暇をパチンコで過ごしてるのだろうと思う。他にやることがないのだ。「暇があったらパチンコへ」、これはボクの中学の同級生がよくいうことだ。

　帚木氏は、ギャンブル依存症は400万人と記している。その周辺にはそこまでいかなくとも、それに近い人が何百万人といるのだろう。そのパチンコには、警察庁がくっついている。

　帚木氏は、ギャンブル依存症が多いのに、カジノが合法化されたらどうなるかという。ギャンブル大国が、さらにギャンブルを拡大させようとしているのだ。

　なぜ日本ではかくもギャンブルがはびこるのか。それは五つの不作為があると、帚木氏は記す。まず行政、公営ギャンブルを自らの利権としている、警察はパチンコ業界と癒着している、新聞とテレビは、たとえばパチンコ業界から多額の宣伝費をせしめている。そして精神医学者、これほどギャンブル依存症がいるのに問題としない、そして法律家。自己破産の原因として、ギャンブルの割合が多い、このことを知っているのに何も動かない。

　日本の不作為が、ギャンブル大国をつくっている、支えている。

　このまま問題化しないで、自己責任だと、放っておいていいのか。

　帚木氏は、この問題をぜひ考えて対処しないと、「いくら形の良い国という器をつくっても、底にヒビがはいる」と指摘する。

　韓国はパチンコを禁止したと聞いたことがある。本当かどうかは知らないが、日本もパチンコをなくせば、大人たちはもっと賢くなるのだろうと思う。