「若冲展」(プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その1)

相国寺承天閣美術館(京都市上京区今出川通烏丸東入
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」(先行プレビュー)」
5/13-6/3



「若冲展」の先行プレビューに参加してきました。会場はもちろん、烏丸今出川の相国寺承天閣美術館です。参加者は15組、計24名でした。(応募は50件程度だったそうです。)

 
相国寺より烏丸通方向をのぞむ。右はご機嫌のジョー・プライス氏

相国寺へは烏丸線今出川駅1番出口が最短です。北へ向った一つ目の信号を右折すると、すぐさま大通りの喧噪は消え、緑に包まれた相国寺の境内へと入ることが出来ます。駅から5分程度です。


相国寺境内。右奥が美術館への入口です。

伊藤若冲(1716-1800)と相国寺のゆかりは極めて深いものがあります。彼は家業の青物問屋を一度継ぎながらも、40歳の頃に隠居し、絵を描きながらここ相国寺の大典禅師の教えを受けました。(若冲という名自体も禅師より授けられたものです。)そしてその後、「釈迦三尊像」を飾り、相国寺へ寄進するために、いわゆる「動植綵絵」の制作に取りかかります。完成までに費やした時間は約10年でした。

「動植綵絵」とお寺との関係はやや複雑です。寺の大部分が焼失してしまったという「天明の大火」もくぐり抜けた「動植綵絵」は、若冲の年忌法要の時にだけほぼ継続的に掲げられていたそうですが、明治期の廃仏毀釈の荒波にのまれると、寺は明治22年、皇室へ「動植綵絵」を献上します。もちろんその際の下賜金(一万円)にて寺の規模を損なうことなく維持することが出来ましたが、結果的に、残された「釈迦三尊像」と「動植綵絵」は切り離されてしまいました。それが今回、とうとう明治以来初めて、一時的ではありながらも「再会」して展示されるわけなのです。前置きが長くなってしまいましたが、ようは「動植綵絵」と「釈迦三尊像」は本来一つになって見るべき作品であり、それが今、ようやくほぼ本来的な意味合いにそって鑑賞出来る機会が訪れたと言えるのだと思います。



今回の展覧会にかける相国寺の力のいれようは並大抵ではありません。昭和59年に完成した展示室が、そもそもこの33幅を飾るために設計されていたと言えば、その熱心な思いが汲み取れるというものです。実際、33幅は、展示室の空間を全く無駄なく使って見事に展示されています。昨年、三の丸尚蔵館にて「動植綵絵」を6幅ずつ見た方も多いとは思いますが、「三尊像」を中心に左右へ整然と並ぶ姿は殆ど別の趣をたたえていました。尚蔵館の展示では、現代的な感覚すら思わせる綵絵の細部などに見入ることが多かったのですが、今回は煌めく綵絵全体の息遣いにのまれ、まさに言葉を失うような「感動」を覚えることになるのです。かつての展示ではあまり印象に残らなかった「群魚図(蛸)」が、全体を構成するための欠かせない一つになった時、非常に重い意味をもって輝いてきます。これは驚くべき「体験」です。

展示室は一階と二階にわかれています。順路はまず、金閣寺の障壁画や墨絵などが並ぶ二階の第一会場より進み、そして一階(第二会場)へと降りて「釈迦三尊像+動植綵絵全33幅」とのご対面という流れでした。入場者は一日5千人を見込んでいるそうです。(ちなみに初日は、4~5千人程度だったと聞きました。)会場自体はそう広くなく、並ぶための誘導路も設置されています。実際にこれからどの程度混雑して、また「動植綵絵」をどのような環境で拝見出来るかは率直なところ分かりませんが、仮設ながらも充実したグッズショップ等、会場の雰囲気はかなり盛り上がっているように感じました。


相国寺にある若冲のお墓へも手を合わせることが出来ました。

第一、第二会場の様子については、学芸員村田隆志氏のお話も交えて、また明日以降にアップしたいと思います。

*関連エントリ
「若冲展」(先行プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その3・『第2会場、動植綵絵。』)
「若冲展」(先行プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その2・『第1会場、鹿苑寺障壁画など。』)
「若冲展」オープン!(相国寺承天閣美術館)

*展覧会基本情報混雑情報
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」
会期:5/13 - 6/3(無休)
場所:相国寺承天閣美術館京都市上京区今出川通烏丸東入上る相国寺門前町701
開館時間:10:00 - 17:00
入場料:一般1500円、大学生/高校生/65歳以上1200円、中学生/小学生1000円
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「若冲展」オープン!(相国寺承天閣美術館)

「動植綵絵」全30幅を含めた、若冲の作品約80点の集う「若冲展」が、先日の日曜日より相国寺承天閣美術館(京都市上京区)にてはじまりました。



「若冲展」13日から公開ー京都・相国寺承天閣美術館(NIKKEI NET)

若冲とのゆかりの深い相国寺に、かの「動植綵絵」が120年ぶりに里帰りした歴史的な展覧会です。作品保護の観点から会期は決して長いとは言えませんが、「動植綵絵」と「釈迦三尊像」(3幅)との出会いを含め、重文の「鹿苑寺大書院障壁画全50面」の展示など、ともかく内容は見所満載です。混雑情報も公式HPに逐次掲載されているので、そちらもご覧になりながら出向かれることをおすすめします。

ところでこの「若冲展」ですが、会期に先立っての「プレビュー」に参加する機会を得ることが出来ました。もっとも、プレビュー自体には応募していなかったので、「柏をたのしむ@水上デザインオフィス」のmizdesignさんの有難いお誘いを受けて、同伴者として参加した次第です。ということで、早速、次のエントリよりそのプレビューの様子をアップしていきたいと思います。


(写真の撮影と掲載については許可をいただいています。)

*関連エントリ
「若冲展」(プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その3・『第2会場、動植綵絵。』)
「若冲展」(プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その2・『第1会場、鹿苑寺障壁画など。』)
「若冲展」(プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その1)

*展覧会基本情報
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」
会期:5/13 - 6/3(無休)
場所:相国寺承天閣美術館(京都市上京区今出川通烏丸東入上る相国寺門前町701
開館時間:10:00 - 17:00
入場料:一般1500円、大学生/高校生/65歳以上1200円、中学生/小学生1000円
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「琳派 四季のきょうえん(その2)」 畠山記念館

畠山記念館港区白金台2-20-12
「琳派 四季のきょうえん」
4/3-6/10



ほぼ一ヶ月ぶりの再訪です。抱一の「十二ヶ月花鳥図」を目当てに行ってきました。畠山記念館の琳派展です。



「十二ヶ月花鳥図」でまず目に飛び込んできたのは、水辺に映えるのびやかな燕子花の美しい、5月の「菖蒲に鷭(バン)」でした。色も深い、重みのある花に比べ、茎の部分は、かなり即興的なタッチにて消え行くように描かれています。また、花の茂みの下からひょいと顔を出したような水鳥も可愛気です。それにうっすらとした陰影を描く緑色の水辺は、その広がりや奥行を巧みに表現していました。この簡素で無駄のない空間も抱一らしい、良い意味で力の抜けた「技」の一つかと思います。



隣に並ぶ6月の「百合・葵に雀」は、朱色の大輪をつけた立葵と、肉厚の白百合の組み合わせが鮮やかな作品です。下向きの白百合には「夏秋草図屏風」のそれも連想させますが、この花びらに見る内側へ巻いた形の描写は、抱一よりもむしろ其一との関連が指摘されています。可愛らしい雀は計三羽登場していました。右上のものは、今ちょうど飛んできたばかりでしょうか。立葵の元の二羽のうち左の雀は、まるで肩を震わすかのように踏ん張って立っています。何やら一生懸命な様子です。

さて、この調子で7、8月と感想を続けていきたいところですが、残念です。今回の琳派展に出ていた「十二ヶ月花鳥図」は、この2幅だけに過ぎませんでした。時候に合わせた5、6月の部分の展示でありながらも、公式HPの展示作品紹介欄に「『十二ヶ月花鳥図』 十二幅 酒井抱一筆 (4/17~5/6)」とあれば、ついつい12幅全てが見られるものだと期待してしまいます。関係者の方によれば、スペース上の都合と他の展示の兼ね合いからして、12幅を出品するのはそもそも無理とのことでしたが、せめてそれを一言、前もって告知していただければと思いました。(2幅しかないと分かっていても行きますので…。)何はともあれ、他の部分はまたの機会におあずけです。



気を取り直して、今回の展示で一番感銘した作品を挙げたいと思います。それが、この宗達の「蓮池水禽図」です。墨の濃淡とお得意のたらし込みだけで、実に情緒豊かな光景を生み出しています。霧に包まれたかのような大振りの蓮に対するのは、頭の上のフサフサした毛まで精緻に描かれた水鳥でした。それが、水を足で気持ちよさそうにかきながら、スイスイと泳いでいるのです。ちなみに宗達の「蓮池水禽図」といえば、京博所蔵の同名の国宝も名高い作品です。余白と動物や植物が渾然一体となって、緩やかに結ばれる様子に深い趣きを感じます。見事です。

その他、琳派を王道を見るような宗達の「金銀泥四季草花下絵 古今集和歌巻」も充実していました。端正に並ぶ金地の竹と、縦横無尽に空間を跨がる銀地の梅のコントラストが絶品です。展示ではその一部が出るのみでしたが、夏以降の躑躅なども拝見出来ればとも思いました。

会期末に出品される渡辺始興の「四季花木図屏風」(5/29-6/10)や、抱一の「風神雷神図」(屏風ではありません。5/8-6/10)も気になります。出来ればもう一度行きたいです。

展覧会は6月10日まで開催されています。(5/3)

*関連エントリ
「琳派 四季のきょうえん(その1)」 畠山記念館
畠山記念館で6年ぶりの琳派展
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5月の予定と4月の記録 2007

GWもとっくに過ぎてしまいましたが、LFJに夢中(?)で更新するのを忘れていました。毎月恒例の「予定と振り返り」です。

5月の予定

展覧会
「澁澤龍彦 - 幻想美術館 - 」 埼玉県立近代美術館 (4/7 - 5/20)
「生誕100年 靉光展」 東京国立近代美術館 ( - 5/27)
「藤原道長展」 京都国立博物館 ( - 5/27)
「山種コレクション名品選 前期展示」 山種美術館 ( - 6/3)
「開館記念展1 日本を祝う」 サントリー美術館 ( - 6/3)
「モディリアーニと妻ジャンヌの物語展」 Bunkamura ザ・ミュージアム ( - 6/3)
「福田平八郎展」 京都国立近代美術館 ( - 6/3)
「若冲展」 相国寺承天閣美術館 (5/13 - 6/3)
「琳派 - 四季のきょうえん - 」 畠山記念館( - 6/10)
「ペルジーノ展」 損保ジャパン東郷青児美術館 ( - 7/1)
「大回顧展 モネ」 国立新美術館 ( - 7/2)

コンサート
「ラ・フォル・ジュルネ『熱狂の日音楽祭』2007」
 ルノー・カプソン他 ドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲第3番」 5/2
 アラン・プラネス ヤナーチェク「草陰の小道を通って」他 5/3
 イザイ弦楽四重奏団 フォーレ「弦楽四重奏曲」他 5/3
 カペラ・アムステルダム/ロイス指揮 ストラヴィンスキー「結婚」他 5/5
 ラーンキ、クルコン他 バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」 5/5
 シンフォニア・ヴァルソヴィア/コルボ指揮 フォーレ「レクイエム」 5/5 
「コンポージアム2007 アルディッティ弦楽四重奏団」 西村朗「弦楽四重奏のためのヘテロフォニー」他 5/21


4月の記録(リンク先は私の感想です。)

展覧会
「琳派 四季のきょうえん(その1)」 畠山記念館 (6日)
「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」(その1・受胎告知/その2・平成館) 東京国立博物館 (6日)
「志野と織部 - 風流なるうつわ」 出光美術館 (7日)
「アートフェア東京2007」 東京国際フォーラム (11日)
「動物絵画の100年」(その1/その2) 府中市美術館 (15日)
「イタリア・ルネサンスの版画」 国立西洋美術館 (22日)
日本美術が笑う/笑い展」 森美術館 (29日)
「パリへ - 洋画家たち百年の夢」 東京藝術大学大学美術館 (30日)

ギャラリー
「田村正樹展」 アートスペース羅針盤 (7日)
「タムラサトル POINT OF CONTACT」 TSCA KASHIWA (21日)
「椿会展 2007」 資生堂ギャラリー (21日)
「25×4=□」 東京画廊 (21日)
「山本麻矢展『櫻』」 和田画廊 (21日)
「ブライアン・アルフレッド - Global Warning - 」 SCAI (21日)
「Landschaft - 阿部未奈子/大平龍一/成田義靖 - 」 ヴァイスフェルト (25日)

コンサート
「読売日本交響楽団 第459回定期演奏会」 ブルックナー:交響曲第4番」他/スクロヴァチェフスキ (17日)

今月いっぱいでほぼ会期を終える展覧会が目白押しです。行きそびれている埼玉県美の澁澤展や、近美の靉光はなるべく早く見たいと思います。また、文化村のモディリアーニは元々予定していませんでしたが、何でもそのタイトルとは裏腹の壮絶な展覧会とのことです。俄然、興味がわいてきたので、これは行きます。

コンサートでは既に終えてしまったLFJの他に、アルディッティの公演を聴く予定です。何年か前のクセナキスに感動した記憶があるので、西村の新作にも大いに期待したいと思います。

京都の若冲展はかなり迷っていたのですが、有難くも嬉しいお誘いがあり、以前拙ブログでもご紹介したイベントに参加することとなりました。折角の機会なので、京都国立近代美術館の福田展(竹橋の近美での『瓦』がとても印象的です。)なども拝見出来ればと思います。

それでは遅くなりましたが、今月もどうぞ宜しくお願いします。
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「パリへ - 洋画家たちの百年の夢 - 」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館台東区上野公園12-8
「パリへ - 洋画家たちの百年の夢 - 」
4/19-6/10



ゴールデンウィーク中の鑑賞でしたが、館内には余裕がありました。パリと関係する芸大の卒業生や教員を通して、主に日本の洋画史を概観する展覧会です。お馴染みの黒田清輝や藤島武二をはじめ、岡本太郎や野見山暁治まで登場していました。

展覧会の構成
1、黒田清輝のパリ留学時代 - ラファエル・コランとの出会い
2、美術学校西洋画家と白馬会の設立、1900年のパリ万博参加とその影響
3、両大戦間のパリ - 藤田嗣治と佐伯祐三の周辺
4、戦後の留学生と現在パリで活躍する人々



黒田清輝にはそれほど魅力を感じませんが、彼を指導したラファエル・コランの作品には惹かれるものがあります。特に、白く透き通る肌を生々しく露にする「田園恋愛詩」(1882)は印象的です。その精緻に描かれた二人の男女はもとより、野花も芽吹く川辺の光景や、ピンク色を帯びた空を力強く駆ける大木も良く描けています。この木ははなみずきでしょうか。その遠近感は、どこか浮世絵的でもありました。(キャプションでは琳派との関係について触れていました。)



山本芳翠の「浦島図」は強烈です。非常に生々しく描かれた亀にのり、玉手箱を手にして海を渡る浦島太郎の様子が表現されています。玉手箱をはじめ、女性たちのつける装飾の質感が極めて立体的です。遥か彼方、海の向こうに朧げに映っているのは、やはり竜宮城でしょうか。また、画面のほぼ中央で光る玉にも目が向きました。ちなみに山本は、黒田に画家になることを勧めた人物でもあるそうです。

洋画、日本画、それに磁器の絵付けなど、浅井忠の多彩な才能も計10点ほどの作品で見ることが出来ます。中でも、6代清水六兵衛とのコンビによる「向付」(1902-07)が心に残りました。花鳥画の伝統を思わせる流麗な絵柄が、六兵衛のモダンな器と良くマッチしています。

 

藤島武二に良い作品がいくつも出ていました。朝鮮アザミを半ば毒々しい色遣いで表現した「アルチショ」(1917)と、流れるようなタッチにて朝焼けの海を描いた「港の朝陽」は魅力的です。ちなみにこの二点は、双方とも竹橋の近代美術館の所蔵作品でした。「港の朝陽」は馴染みがありましたが、アザミは初めて見たかもしれません。展示頻度が少ないのでしょうか。

3番目のセクションでは、大戦前に渡仏して活躍した藤田や佐伯らが登場します。ここでは最近、やや惹かれている里見勝蔵に見入ることが出来ました。堂々たる女性がフォービズムを思わせる構図感にて描かれています。ヴラマンク好きの私にとって、彼と関係の深い里見にはどこか親近感も覚えます。

さて、すこぶる評判も悪い最後の現代アートのコーナーですが、これはおそらくその展示方法に相当な難があったのかと思います。藤田らを見終えた後、すぐにモリエヒデオの『冷蔵庫インスタレーション』を見せられても、その感性と表現方法の違いに戸惑ってしまうだけです。また、「洋画」というこの展覧会の軸からかけ離れた作品もいくつかあり、何故、ここで急にアートの多様性を提示しているのかも良く分かりませんでした。それに、力のある野見山の絵画も埋没してしまっています。コンテンポラリーに対する企画者側の姿勢に強い疑念を抱くところです。ハッキリ申し上げると、展示のセンスが悪過ぎます。

この展覧会のチケットで、同時開催中の「芸大コレクション展」も見ることが可能です。中国・後漢時代の銅筒から、長谷川潔のメゾチントまでが並んでいました。

6月10日までの開催です。(4/30)
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コルボ 「フォーレ:レクイエム」 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号448

フォーレ レクイエム

ソプラノ アナ・キンタンシュ
バリトン ピーター・ハーヴィー
合唱 ローザンヌ声楽アンサンブル
演奏 シンフォニア・ヴァルソヴィア
指揮 ミシェル・コルボ

2007/5/5 22:15 東京国際フォーラムホールC(カフカ)



全くの澱みのない、清純極まりない響きがホールを包み込みました。オーケストラ、ソリスト、合唱、そして指揮の全てが一体となって、音楽を越えた何かを探し求めます。フォーレの「レクイエム」です。

コルボの指揮には一点の迷いもありません。泰然とした様子で、ほとんど緩急を付けることなく、静謐なレクイエムの調べをホールいっぱいに瑞々しく響かせています。昨年の「モツレク」では、驚くほど激しい音楽を聴かせたコルボでしたが、今回は曲の趣にも合わせたのか、その表現のベクトルは完全に正反対な方向を示していました。まさしく身動きすらとれないほど、息をのむような美しいハーモニーが次々と展開されていきます。失礼ながら、LFJでこれほど高いレベルの公演が聴けるとは思いませんでした。

透明感溢れるアナ・キンタンシュの美声と、内省的で語りかけるようなハーヴィーの歌唱もまた優れています。そして、お馴染みのローザンヌ声楽アンサンブルの合唱も絶品です。持ち前の軽やかで力みのない歌声が、この曲に独特な浮遊感を見事に表現していました。彼らの合唱の力が、この無機質な国際フォーラムを、さながら教会のような宗教的な場へと変えていたのではないでしょうか。音楽が一種の儀式となり、イエスへの帰依のない私でも、一種の宗教的カタルシスを味わうような感覚さえ受けます。演奏の内容や、その学究的な部分に一切の注意を払わなくても良い、言い換えれば、ただひたすらに響きへ浸ることだけで満足出来る内容です。

「モツレク」ではやや粗さも感じたシンフォニア・ヴァルソヴィアも、今年は一体何が起きたのかとさえ思うほど合奏力を高めていました。天使の舞うようなオルガンの旋律が、オーケストラの清らかな響きと溶け合っています。まさに渾然一体です。



オーケストラや合唱団が退場した後も拍手は鳴り止みません。率直に申し上げると、CDでのコルボにはそう感銘したことがなかったのですが、この実演だけは全く別です。音楽を聴いて久々に体が震えました。音楽祭のハイライトにも相応しい「名演」だったと思います。
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デジュー・ラーンキ他 「バルトーク:ミクロコスモスより」他 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号427

バルトーク 「ミクロコスモス」より 2台のピアノのための7つの小品
バルトーク 2台のピアノと打楽器のためのソナタ

ピアノ デジュー・ラーンキ、エディト・クルコン
パーカッション ゾルターン・ラーツ、アウレール・ホロ

2007/5/5 20:45 東京国際フォーラムホールB7(マラルメ)



コンサート通いをするようになってから何年もたちますが、同じ日に同じ曲を二度聴いたのは初めてです。(しっかりと中身も確認せずに、慌ててチケットを購入してしまったせいですが…。)この公演の1時間ほど前にムジーク・ファブリークで楽しんだバルトークの「2台のピアノ~」を、今度はラーンキ夫妻のピアノで聴いてきました。オール・バルトーク・プログラムです。

元々、練習曲集であるという「ミクロコスモス」は、その中の一部(5巻と6巻)を、バルトーク自身が夫人と共演するために2台のピアノ用に編曲したものなのだそうです。それを、今度はラーンキ夫妻が、まさに息の合ったコンビで華麗に弾きこなしていきます。ラーンキのピアノは、ピアニシモの繊細な美しさはもちろんのこと、ダイナミズムに満ちたフォルテの表現も変幻自在です。バルトークに特有な語法もそのまま提示しながら、さらに若干の叙情性も匂わせた、静謐な「小宇宙」を表現していました。

「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」は、当然ながらムジーク・ファブリークの演奏の趣きとは全く異なっています。ファブリークが曲からロマンティズムな部分を排した、それこそ純粋な音の広がりと羅列だけを表現していたとすれば、ラーンキのそれはもっと感傷的な美を押し出していた演奏と言えるかもしれません。キラキラ瞬くようなピアニシモは気品に溢れ、端正なパーカッションも終始ラーンキのサポートに徹していました。打楽器とピアノの激しいぶつかり合いと言うよりも、むしろ一つの調和したカルテットの醍醐味を楽しむような感覚です。スリリングな妙味はやや消えていましたが、こちらの方が音楽の美感を見るには優れていたと思いました。

ラーンキは是非ソロでも聴いてみたいと思います。期待通りの充実したピアニズムを楽しむことが出来ました。
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カペラ・アムステルダム 「ストラヴィンスキー:バレエ音楽『結婚』」他 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号446

バルトーク 2代のピアノと打楽器のためのソナタ
ストラヴィンスキー バレエ音楽「結婚」

ソプラノ キャロライン・サンプソン
アルト スーザン・パリー
テノール フセヴォロド・グリヴノフ
バス デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン
ピアノ マルクス・ベルハイム、フリーデリーケ・ハウク、ユルゲン・クルーゼ、ベンヤミン・コプラー
合唱 カペラ・アムステルダム
演奏 ムジーク・ファブリーク
指揮 ダニエル・ロイス

2007/5/5 18:30 東京国際フォーラムホールC(カフカ)



現代音楽を活動の拠点としているムジーク・ファブリークと、「オランダで最も人気のある合唱団」(パンフレットより。)というカペラ・アムステルダムが、ストラヴィンスキーの珍曲(?)、「結婚」を手がけます。指揮は、第1回熱狂の日での「ミサ・ソレムニス」の名演の記憶も新しいロイスでした。

1曲目のムージク・ファブリークによるソナタは、それこそ音の面白さだけで楽しませてくれるような、さながらノリの良い「現代音楽」的バルトークです。2台のピアノのリズムはかなり激しく、奏者は時に鍵盤を強く叩いて、まるで音を割るかのようにガンガンと鳴らしています。もはやピアノが打楽器です。そして、そのピアノと上手く呼応していたのは、二人の奏者が何と8つの打楽器を操るパーカッションでした。ばちなどを終始持ち替えながら、何とも忙しそうに打楽器を打ち鳴らしていきます。切れ味鋭いピアノと打楽器が、それこそ手品を繰り広げるようにして音のダンスを楽しませてくれました。

カペラ・アムステルダムと4人のソリストを迎えての「結婚」は秀演です。的確なロイスの指揮の元、特に女声陣に優れた合唱団が曲の示す情景を鮮やかに描き出しています。ソリストでは特に、演技にも優れたバスのジョンソンと、低音ののびが美しいアルトのバリー、または可愛気な花嫁像を作り出していたソプラノのサンプソンが印象に残りました。また迫力十分な4台のピアノや、表現力に巧みな木琴も優れています。

「結婚」は、ロシアの伝統的な「どんちゃん騒ぎ」風の婚礼の様子を音楽で表現した作品です。途中にはカップルの友人が、何と二人のためのベットまでを温めておこうとする描写までが生々しく登場します。音楽は意外にも古典的なものでしたが、土着的な明快なリズムと、華々しい合唱やピアノのフレーズが印象に残りました。

字幕があればより楽しめたのかとも思います。簡単な対訳は配布されていましたが、演奏中に追うのは困難です。劇音楽的な妙味をより分かりやすく味わえたらとも感じました。
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熱狂の夜 2007

連休最後の土曜日ということで、その人出は一番多かったかもしれません。私は夕方より夜まで楽しんできました。国際フォーラムでの「熱狂の日音楽祭」です。


「モルダウ」での無料コンサートです。ちょうど、高関&桐朋学園大学オーケストラによる「春の祭典」が華やかに演奏されていました。高関らしい楷書体の『ハルサイ』です。(学生オケがこれまた秀逸!)


夜10時をまわってもこの人出です。


インフォメーションよりチケットブースをのぞむ。


5/6の残席情報です。(5/5 22時現在)ホールCの全ての公演と、ホールAの3公演が残っています。(コルボのレクイエムが残っています!)


ローザンヌ声楽アンサンブルの美声に心から酔いました。終演は夜11時。あたりはすっかり静まり返っています。

会場にて思いがけない方ともお会いすることが出来ました。ビールを片手に、知人と気軽に盛り上がれるのもこのイベントのよいところです。

*関連リンク
ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭2007
公式レポート(当日券情報あり。)
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イザイ弦楽四重奏団 「バルトーク:弦楽四重奏曲第6番」他 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号232

フォーレ 弦楽四重奏曲 作品121
バルトーク 弦楽四重奏曲第6番

演奏 イザイ弦楽四重奏団

2007/5/3 11:30 東京国際フォーラムホールB5(ガルシア・ロルカ)



フォーレとバルトークの組み合わせです。第1回「熱狂の日」より定評のあるイザイ弦楽四重奏団を聴いてきました。

フォーレは印象に薄かったので、ここではバルトークだけに触れたいと思います。息の合ったコンビというのは、まさにイザイにこそ相応しい言葉ではないでしょうか。仄かな湿り気さえ感じさせるソフトな弦楽器の調べが、かのバルトークでさえ優し気な表情をたたえた音楽へと変化していくのです。エッジは各パートの絶妙な間合いにより終始なだらかになぞられ、ピチカートや無調風のフレーズも流麗に奏でられていました。もちろんそれでいながら、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのパートはハッキリと分離して立体的に聴こえてきます。集中力は途切れません。



冒頭に登場するヴィオラのメスト(悲しみ)主題が、音楽の進む毎に物憂い気味に、また重々しく曲を支配していきます。心を掻き乱すようなチェロの慟哭の調べと、ヴィブラートに巧みなヴァイオリンの掛け合いがまた絶品でした。過度に機能的でもなく、またシャープにもなり過ぎない、ある種の古き良き香りも漂わすカルテットです。

会場のホールB5は、昨年までに比べてスペース、座席数ともにほぼ倍増しています。自由席で楽しむにはやや広過ぎるのではないでしょうか。ここも指定席制にするべきではないかと感じました。
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アラン・プラネス 「ヤナーチェク:草陰の小径を通って 第1集」他 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号231

ヤナーチェク ピアノ・ソナタ「1905年10月1日 街頭にて」
       草陰の小径を通って 第1集

ピアノ アラン・プラネス

2007/5/3 9:45 東京国際フォーラムホールB5(ガルシア・ロルカ)



名匠プラネスによるオール・ヤナーチェク・プログラムです。目の冴えるように力強く、また明晰なピアニズムが印象に残りました。

ヤナーチェクのピアノ曲を生演奏で楽しむのは初めてでしたが、プラネスはまるでコンテンポラリーの難曲に対峙していような面持ちで一気呵成に弾き抜きます。迫力のある打鍵が音楽に大きな起伏を与え、また純度の高い和音が全体をしっかりと支えていました。その情緒性よりも、むしろ音楽の構造を丁寧に明示するかのような、半ば理路整然としたヤナーチェクです。そんな彼のアプローチは、チェコでデモ隊の労働者が射殺されたことを題材にしたという、1曲目のソナタに相応しかったと思います。

まさしく音楽の小径を彷徨うかような「草陰の小径」では、その進んでは返す音楽の流れを今ひとつ示しきれていなかったかもしれません。ここはもっと情緒に浸るような、それこそ肩の力の抜けた音楽を楽しみたいところでした。少々、力みも感じられます。



プラネスはかつてブーレーズともコンビを組み、いわゆる「前衛」を弾いていた経歴もあるのだそうです。ただ、私としてはそれよりもむしろバッハなどを聴いてみたいと思いました。そのクリアで立体的な響きが、厳格でかつ明快なバロックを生み出してくれそうです。
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カプソン兄弟+ブラレイ 「ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第3番」 LFJ2007

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2007
公演番号123

ドヴォルザーク ピアノ三重奏曲第3番

ヴァイオリン ルノー・カプソン
チェロ    ゴーティエ・カプソン
ピアノ    フランク・ブラレイ

2007/5/2 17:15 東京国際フォーラムホールB7(マラルメ)



LFJのコンサートについても簡単な感想を残しておきたいと思います。まずは初日、夕方より楽しんだ、カプソン兄弟とブラレイによるドヴォルザークのピアノ三重奏曲です。時に三者の個性も激しくぶつかり合う、スリリングな演奏に仕上がっていました。

雄弁に語るルノーのヴァイオリンと、内省的にリズムを刻むゴーティエのチェロが絡み合ったかと思うと、そこへまるで両者の仲を裂くかようなブラレイのピアノが力強く覆い被さっていきます。元々、この曲はドヴォルザークの他の三重奏曲に比べ、表現に荒々しい内容が目立つとのことですが、殆ど荒削りとさえ思うようなブラレイのピアノがその趣きをさらに激情的なものへと仕上げていました。ただ、繊細な心情の吐露や、堅牢な構成感を思わせる厚みのある響きの表現にまでは至っていません。自己主張の強い三者が、それこそアンサンブルの壁を打ち破るかのように半ば「喧嘩」しているのです。もちろん息もぴったりな場面も聴かれましたが、どちらかと言えば丁々発止的な演奏だったかと思います。それでも、アンコールのクライスラーは終始、愉悦感に満ちた内容でした。



音響に難のあるホールB7も昨年以来です。ただ、今回はその音にも慣れてしまっていたのかもしれません。ダイレクトな響きを素直に楽しむことが出来ました。
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「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日音楽祭)2007」が開幕

昨日より本公演も始まりました。東京国際フォーラムで開催中の「ラ・フォル・ジュルネ2007」です。



東京でクラシック音楽の祭典開幕、来場者約8万人(Yomiuri on-line)
ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭2007
公式レポート(当日券情報あり。)

再開発ブームにわく丸の内の喧噪をそのまま取り込んだのでしょうか。半券の提示が必要な地下の展示ブースについては余裕がありましたが、フリースペースの地上広場はともかく人で埋め尽くされていました。お馴染みの「ネオ屋台村」をはじめ、実際にアーティストの方々が生演奏を繰り広げる「ミュージック・キオスク」などはどこも大盛況です。ゆっくり腰をかけるスペースすらありません。


有楽町駅側より会場をのぞみます。


人の波が絶えません。


ホール案内表示もすっかりLFJモードです。

 
「ミュージック・キオスク」。今年からはじまりました。ライブ(もちろん無料。)で楽しめます。


中央が物販スペース、奥が当日券売り場です。ここは比較的スムーズでした。


地下展示ホール「モルダウ」です。演奏家(プロ・アマを問わず。)によるコンサートなどが開催されています。


「公式アフターガイド」の「ぶらあぼ」もお忘れなく。入口でも配っています。もちろん無料です!

先日にカプソン兄弟によるドヴォルザーク「ピアノ三重奏曲」を、また今日はプラネスのヤナーチェクやイザイのバルトークの「第6番」を聴いてきました。次は5日に繰り出そうと思います。ロイス&カペラ・アムステルダムの「結婚」と、ラーンキやクルコンのバルトーク、さらには深夜のコルボの「レクイエム」などを楽しむ予定です。

最後に当日券についてですが、Aホール以外はほぼ「完売」の状況に近くなってきています。ただ、少なくとも今日の昼間の段階では、Cはもちろんのこと、B5やB7にも残席のある公演がいくつか見られました。昨年よりは若干、余裕があると思います。



お土産にはLFJの人気グッズ(?!)、作曲家の文字絵シール(10億人が楽しめる手描き文字絵)をいただきました。地下1階、物販コーナー「ハーモニー市場」にて販売中です。おすすめです!
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「笑い展」 森美術館

森美術館港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
「笑い展 - 現代アートにみる『おかしみ』の事情」
1/27-5/6



「日本美術が笑う」より続きます。同時開催中の「笑い展」です。この手の展覧会での「玉石混淆」はむしろ当然ではないでしょうか。肩の力を抜いて楽しんできました。

冒頭の苦手なフルクサスを早々に退散して先へ進むと、日常の光景の中に笑いを見出したウィル・ローガンの数点の写真が待ち構えています。ややありがちな印象も否めませんが、二羽の白鳥が水の中に首を突っ込んでいる「スワン・スルー」などは、「笑い」よりも「美しい」と思う情景が捉えられていました。また映像の「通り抜け」も印象的です。子どもたちの素直な反応を覗き込むような趣味の悪さも感じながらも、終始、その表情を見入ってしまうような作品でした。

韓国のお札に描かれた世界遺産の建物に、アーティスト自身が入りこんだアニメーション、「ブーユーバダ(浮遊/富裕)」も印象に残ります。作家本人を見つけ出すのは比較的用意ですが、見ていると、不思議にも一緒に入りたくなってしまいました。ただこれはもう一歩、オチの部分が欲しいところです。

資生堂の個展も印象深いロビン・ロードを、この展覧会で見るとは思いもよりません。その独特なストリートミュージシャン風のパフォーマンスが、軽快なリズムにのって次々と繰り出されていきます。ちなみに会期当初、ここ六本木ヒルズにて彼のパフォーマンスが実際にあったのだそうです。(*1)また、今村哲の絵画が展示されているのもやや意外な感覚を受けました。マチエールにも優れたお馴染みの童話風絵画が、いくつか出品されています。

鳥光桃代の「Horizons」は、世界で働くビジネスマンの争いを、殆どチープとさえ思うような巨大ジオラマで表現した作品です。ほふく前進をしたスーツ姿の男たち(女性もいらっしゃったかもしれません。)が、さながら陣取り合戦をするかのように徒党を組んでいます。ちなみにそのビジネスマンは、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの三地域に分かれているのだそうです。てっきり東アジアの抗争かと思い違いをしてしまいました。

最後の田中功起の「そうして森美術館にたくさんのたらいが落ちる」は、やはりそのシーンを実際に確かめたい作品です。200個ものたらいが轟音をたてて崩れ落ちる様子は、くだらなさ満点でありつつ、ただひたすらに痛快でした。

笑いの裏側に潜むシリアスな現実を読み取ることも必要かもしれませんが、総じて「日本美術が笑う」よりも、ストレートに「笑い」が押し出されていた展覧会だったと思います。

ところで森美術館ですが、今、エレベーターが整備工事中のため、使用台数が相当に制限されています。そのため、エレベーター前のフロアには長蛇の列です。私が出向いた際も、下りエレベーターの待ち時間は約30分ほどでした。ここは全然笑えません。

展望台は混雑していますが、例によって展覧会には余裕があります。5月6日までの開催です。(4/29)

*1 「ロビン・ロード:ドローイング・パフォーマンス」(弐代目・青い日記帳) パフォーマンスを実際にご覧になったTakさんのレポートです。必見!

*関連リンク
JDNリポート「笑い展」(展覧会の様子が写真入りにて紹介されています。)
六本木ヒルズ、オーチス製エレベーター8基が安全基準外(NIKKEI NET)
六本木ヒルズ森タワー・展望階行きエレベーター制限運転について(森ビル)

*関連エントリ
「日本美術が笑う」 森美術館
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「日本美術が笑う」 森美術館

森美術館港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
「日本美術が笑う - 縄文から20世紀初頭まで 若冲、白隠、円空、劉生 - 」
1/27-5/6



すっかり行きそびれていました。もう間もなく会期を終える「日本美術が笑う展」です。早速、印象深かった作品を挙げていきたいと思います。

まずはキャプションに「美しくヘタ」と書かれていた、長谷川巴龍の「洛中洛外図屏風」が別格です。これはもはや「美しく」以前に、単にもの凄くヘタな屏風に過ぎないかと思いますが、そのあまりにも見事な「ヘタぶり」が痛快なまでに面白いという奇異な作品でした。全体の構図感はともかくも、個々の屋敷や木々、それに人々の光景までが、皆、全て歪みきって描かれています。ある屋敷などは地割れでも起きたのでしょうか。殆ど地面にめり込むかのように、斜めになって表現されていました。また石造りの灯籠なども、何やらおでんのこんにゃく串のようです。後半の「笑い展」を含め、思わず噴き出してしまうような笑いを得たのは、唯一これだけと言って良いほどインパクトの強い作品でした。



数点出ていた「寒山拾得図」の主題の中では、やはり狩野山雪の作品が印象に残ります。不気味な笑みをたたえる姿が力強く表現されていますが、タッチは意外にも即興的です。薄い墨がのびやかに塗られていました。また、肩に手をかけた指先よりのびる魔物のような爪も面白く感じます。

英一蝶の「舞楽図屏風」は、その裏絵の「唐獅子図」が魅力的です。太い墨線にて描かれた勇壮な獅子が、屏風の空間を駆けるように力強く描かれています。また、所々に配された白い顔料が効果的でした。モノトーンの中にて美しいコントラストを見せています。

若冲では「鼠婚礼図」に惹かれました。お玉やさじをもった鼠たちが、何やら忙しなく動き回る様子が描かれています。盆栽を持ち、またちゃんちゃんこを着た鼠は何とも愛くるしいものです。それにしても、このすばしっこい鼠の動きを表現した若冲の颯爽なタッチは実に見事だと思います。また、中央に配された大きな余白も妙味を感じました。画中の物語がふくらんでいきます。



蘆雪では「牛図」が優れていました。体を大きく迫出して、その重量感や存在感を伝える構図は、まさに蘆雪の真骨頂と言っても良いのではないでしょうか。そして、この恰幅の良い体に似つかないような青い二つの瞳も印象的です。まるで宝石のような透明感もある目を潤わせて、何やら優しい面持ちで佇んでいます。元々牛の目はとても可愛いものですが、それを巧みに表現しているのかもしれません。少なくともこの作品に関して言えば、若冲の「白象図」よりも数段魅力的です。



その他、埴輪から円空や木喰の仏像なども展示されています。率直に申し上げると、この展覧会を「笑い」で括るのはかなり不可解でしたが、まずは若冲や蘆雪などの見応えのある作品にも出会えただけでも満足できました。

「笑い展」の感想へ続きます。(4/29)

*関連エントリ
「笑い展」 森美術館
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