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ぺヌティエ「シューベルト:ピアノソナタ第21番」 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号135

シューベルト ピアノ・ソナタ第21番 D960

ピアノ ジャン=クロード・ぺヌティエ

2008/5/2 20:15 東京国際フォーラムB5(テレーゼ・グロープ)



同じ日に同じ曲を聴くことが出来るのも、またLFJならではの楽しみ方の一つです。コロベイニコフに続き、今度は名匠ぺヌティエでソナタ21番を聴いてきました。

適切でないかもしれませんが、コロベイニコフの21番が例えばカンディンスキーのコンポジションだとすれば、ぺヌティエのそれは例えば等伯の松林図屏風のような山水水墨画の世界です。死の僅か2ヶ月前に描かれたというこの曲が、幽玄な詩情をたたえた、まさに白鳥の歌として切々と奏でられていきます。前へ進むことなく、それこそ無限に続く波のように寄せては繰り返す第1楽章からして彼岸の境地にありましたが、例えば第4楽章などのフォルテの響きなどは、どこか痛々しくあるほどズシリと心に突き刺さってきました。また『間』がコロベイニコフではその次の瞬間の音を意識させるものであるのに対し、ぺヌティエのそれは前の時間を引き摺る永遠の余韻と表せるかもしれません。水墨画を見るには、絵ではなくその場に立ち入ることが必要になることもありますが、彼の演奏も、音符を超越したシューベルトの一種の心象風景の中を彷徨っていたのではないでしょうか。私の演奏の好みとしては技巧的にも確かなコロベイニコフにありますが、演奏後、体が打ちのめされたような感覚を受けたのは明らかにぺヌティエの方でした。

演奏中、時間がとまる感覚を感じたのは久しぶりでした。シューベルトの音楽の影、そして底部にある哀しみに触れたコンサートだったと思います。
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樫本大進 他「シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番」 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号124

シューベルト ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 D929

ヴァイオリン 樫本大進
チェロ タチアナ・ヴァシリエヴァ
ピアノ ミシェル・ダルベルト

2008/5/2 19:00 東京国際フォーラムホールB7(ショーバー)



樫本大進のヴァイオリンを生で聴くのは今回が初めてです。ヴァシリエヴァ、そしてダルベルトを迎えてのピアノ三重奏曲第2番を聴いてきました。

序盤は三者ともややぎこちなさがあるというのか、どこか噛み合ない、手探り感があるのは否めませんでしたが、徐々にヒートアップして、結果的に丁々発止の熱演となるのは流石の一言につきます。チェロのヴァシリエヴァは全体的に影が薄く思えましたが、弦の動きを良く見据えたダルベルトのピアノはもちろん、特に体を大きく揺らして全身で音楽を表現する樫本のヴァイオリンは、聴衆の心の全てを集めてしまうような卓越した求心力が感じられました。また決して美音のみとは言えないものの、その表現する音域の幅は大変に広く、すすり泣くようなピアニッシモから怒涛の如く繰り出されるフォルテまで、極めて主観的に、半ば曲の構造すら揺さぶるかのような激しさには、それこそ手に汗を握るような緊張感を感じさせます。一線を越えるとまさに彼の独擅場です。曲の殻自体も打ち破ってしまいました。

次回は是非ソロで聴いてみたいです。
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佐藤卓史「シューベルト:楽興の時」他 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号163

シューベルト 楽興の時 D780
シューベルト 3つのピアノ曲 D946

ピアノ 佐藤卓史

2008/5/2 16:45 東京国際フォーラムG409(カロリーネ・エステルハージ)



演奏者の息遣いがダイレクトに指へ乗り移ったかのような、濃密で情報量の多いシューベルトでした。シューベルト国際コンクールで優勝した経歴も持つ、佐藤卓史のコンサートです。

まずはどっしりとした、一音一音に重みを感じるピアノが印象に残りますが、個々の楽章に多様な表情をとるこのプログラムを楷書体でまとめあげた、言わば安定感にも魅力を感じました。また一見、着飾らないでシューベルトの美しさを素直に引き出したかと思うと、その反面でのロマン派的な官能、言い換えればドロドロとした、あたかも曲に潜んでいたセクシャルな部分を音にまとわりつけて露にしたような表現にも驚かされるものがあります。冴え渡る厚みのある響きと、怒るような激しさとエロス、そして舞い戻っての基調にある自然体な落ち着き(それこそ楷書体風です。)が、まるで万華鏡をクルクル回すかのように次々と展開されていくわけです。シューベルトの歌心はもちろん、ベートーヴェン的な構築感と、ショパンの熱情性を同時に楽しんでいるような不思議な気分にもさせられました。

基盤となる、その安定したピアニズムに裏打ちされた意外な表現に、音楽の多面性を体感することが出来ます。シューベルト以外の解釈にも是非接してみたいところです。
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コロベイニコフ「シューベルト:ピアノソナタ第21番」 LFJ2008

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008
公演番号152

シューベルト ピアノ・ソナタ第21番 D960

ピアノ アンドレイ・コロベイニコフ

2008/5/2 15:15 東京国際フォーラムホールD7(ヒュンテンブレンナー)



1986年生まれの若きピアニストが、シューベルト晩年の超大作をリズミカルに弾き切りました。アンドレイ・コロベイニコフのソナタ21番です。

半ばエンドレスに続く「神秘的」(公演冊子より。)な第1楽章から、歌い過ぎることのないコロベイニコフ独自の解釈が冴えていたのではないでしょうか。基本はピュアな弱音の表現に印象深い、この音楽を支配する一種の諦念的な静寂さを意識させるものでしたが、時に物語を切るかのようにして『間』を生み出す様子が、美しいメロディーに隠れた情熱や苦しみを抉り出してくれます。歌心に満ちたこの楽章が、あたかも明暗の対比の烈しいバロック音楽のように聴こえるとは思いませんでした。

軽快なスケルツォは、まるで高速道路を疾走する自動車のようなスピード感です。表向きの叙情性と、音楽自体の持つどこか自由で先進的な構造が同時に提示され、スリリングな緊張感をたたえながら、決して冗長になることない音楽が紡がれていきます。前半楽章、特に1楽章との対比も鮮やかです。

ムードに流されないシューベルトはむしろ新鮮でした。6日の同プログラムも期待出来ると思います。
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熱狂のシューベルト 2008

早速、本公演初日より繰り出してきました。すっかり定着したゴールデンウィークの都心の風物詩、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日音楽祭)2008」です。

午後のコンサートを予定していたので着いたのは14時頃でしたが、さすがに平日ということだけあって人出はそれほどではありませんでした。とは言え、お馴染みのミュージックキオスク、またネオ屋台村前のテラスは、既に満席に近い盛況ぶりです。好天にも恵まれそうな連休後半は大変な人だかりとなりそうです。


有楽町駅側よりフォーラム内。あいにく雨がぱらぱらと降ってきましたが、人波が絶えることはありません。


ネオ屋台村。この日はまだ比較的余裕がありましたが、休日は大行列必至です。


ちょうどミュージックキオスクではピアノの演奏(海老彰子&海老裕子デュオ)が行われていました。このような無料イベントまたLFJの楽しみの一つです。(4日のケフェレックはおすすめです。14:40より。)


地下広場、チケットブース前にて。全日、A、Cホール以外は殆ど残っていません。(詳細は上記公式HPへ。)


グラーベン広場。今日はウィーン少年合唱団の公演があったそうですが、あいにくその時間帯はコンサートと重なってしまいました。協賛企業他、販促ブースは心なしか去年よりやや少ないような気がします。


終演後、D7ホールにて。コロベイニコフのスリリングなソナタ21番でした。

この日はコロベイニコフのソナタ21番にはじまり、ペヌティエの同曲に終りました。シューベルトにはあまり詳しくないので気のきいた感想など書けませんが、またいつものように別エントリにて個々のコンサートについて触れたいと思います。
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5月の予定と4月の記録 2008

今年のゴールデンウィークも熱狂三昧です。毎月恒例の私的スケジュール帳、「予定を振り返り」をあげてみました。

5月の予定

展覧会
「中右コレクション 四大浮世絵師展」 大丸ミュージアム東京( - 5/12)
「マティスとボナール - 地中海の光の中へ」 川村記念美術館( - 5/25)
「柿右衛門と鍋島 - 肥前磁器の精華」 出光美術館( - 6/1)
「原美術館コレクション展」 原美術館( - 6/1)
「大正から昭和へ」 山種美術館( - 6/8)
「中右コレクション 幕末浮世絵展」 三鷹市美術ギャラリー( - 6/8)
「モディリアーニ展」 国立新美術館( - 6/9)
「冒険王・横尾忠則」 世田谷美術館( - 6/15)
「蜀山人 大田南畝」 太田記念美術館( - 6/26)
「数寄の玉手箱 - 三井家の茶箱と茶籠」 三井記念美術館( - 6/29)
「F1疾走するデザイン」 東京オペラシティアートギャラリー( - 6/29)
「森山大道展」 東京都写真美術館(5/13 - 6/29)
「芸術都市パリの100年展」 東京都美術館( - 7/6)
「岡鹿之助展」 ブリヂストン美術館( - 7/6)

コンサート
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日音楽祭)2008」
 2日:152、163、124、135
 5日:443、454、425
 6日:535、546(各公演番号)
NHK交響楽団 第1619回定期公演Aプロ」 ルトスワフスキ「オーケストラのための協奏曲」他 (11日)
コンポージアム2008 スティーヴ・ライヒの音楽」 ライヒ「18人の音楽家のための音楽」他 (21日)


4月の記録

展覧会
「東山魁夷展」 東京国立近代美術館
「絵師がいっぱい - お江戸の御用絵師と民間画工」 板橋区立美術館
「モーリス・ド・ヴラマンク展」 損保ジャパン東郷青児美術館
「ガレとジャポニスム」 サントリー美術館
「宮島達男|Art in You」 水戸芸術館現代美術ギャラリー
佐伯祐三展/常設コレクション」 笠間日動美術館
「華やかな日本刀 備前一文字」 大倉集古館
「コレクション展 近現代日本陶芸の巨匠たち」 茨城県陶芸美術館
「所蔵作品選 175/3000」 茨城県立近代美術館
「ルノワール+ルノワール展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
「シュルレアリスムと写真 - 痙攣する美 - 」 東京都写真美術館
「近代日本画と洋画にみる対照の美」(前期) 泉屋博古館分館
「アートフェア東京2008」 東京国際フォーラム 展示ホール1
「101TOKYO Contemporary Art Fair 2008」 旧練成中学校

ギャラリー
「鴻池朋子 隠れマウンテン&ザ・ロッジ」 ミヅマアートギャラリー
「奥原しんこ - 眠る人 - 」 SCAI
「北城貴子 - holy green - 」 INAXギャラリー2
「福永大介展 - Local Emotion - 」 小山登美夫ギャラリー
「富士登山/南条嘉毅」 YUKARI ART CONTEMPORARY
「山本修路 - 松景其之貳 - 」 ラディウム
「谷口浩 写真展 - ただ、それがある - 」 FOIL GALLERY
「藤田桃子 - トネリコ・ユッグドラシル - 」 高橋コレクション 白金

いつも追われる形になりますが、先月初旬に購入した「ぐるっとパス」があと一ヶ月で切れてしまいます。三井、出光、山種、三鷹、初台、ブリヂストン(収蔵品展をメインで。)などのフリーの展示は、会期の長短に関わらず、今月中に見ていくつもりです。また先月挙げた埼玉県美の版画展は、okiさんの情報によれば今冬に八王子市夢美術館へ巡回(12/5-1/27)します。一度、村内との八王子アート巡りをやってみたかったので、そちらに延期することにしました。

先月では、宮島をはじめとする茨城関連の展示の他、大好きなヴラマンクの回顧展、また企画のセンスが光ったルノワール、さらには最先端の尖った現代アートに触れることの出来た101アートフェアなどが強く印象に残りました。また現在開催中のミズマ鴻池展も、随所の小さな仕掛けも嬉しい好企画です。感想が追いついていませんが、近いうちに書いていきたいです。

前々から行くつもりだった川村が、あれよあれよという間に会期末を迎えてしまいました。花粉もそろそろ消えた頃なので、ぶらりと佐倉へ森林浴といきたいところです。

原美の常設展はノーチェックでしたが、新収蔵品及び、現在増築中のミュージアムアークから応挙の屏風が紹介される(らしい)とのことで、久々に少しのぞいてきたいと思います。

ところで来年秋に広尾に移転が決定している山種美術館ですが、先日、その詳細が公式HPに発表されました。展示スペースは地下1階フロア、現在の約2倍(750平方メートル)に拡張されるそうです。また肝心の入場料は不明ですが、オープニングは速水御舟展を予定しているとの記載がありました。千鳥が淵で近美とのハシゴの可能な現所在地も捨て難いものがありますが、まずはオープンを心待ちにしたいです。

それでは今月も宜しくお願いします。
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「宮島達男|Art in You」 水戸芸術館現代美術ギャラリー

水戸芸術館現代美術ギャラリー水戸市五軒町1-6-8
「宮島達男|Art in You」
2/16-5/11



今回茨城へ行ったのも全てはこの展覧会のためでした。首都圏では約8年ぶりになるという、宮島達男の「大型個展」(ちらしより。)です。



もう間もなく会期を終えるので今更ではありますが、あえて初めに触れておきたいのは、今個展におけるLED作品は全部で3つしかないということです。もちろん宮島のインスタレーションは、例えばMOT常設でも異彩を放つ作品同様、一点でも空間を変える力を持っていますが、「8年ぶりの大型個展」と聞けばどうしても数の面でも期待を抱いてしまいます。ちなみにLEDの他にあるのは、宮島がワークショップ等で手がけた参加型の作品やドローイングなどでした。よって、実際に私がそうでしたが、カウンターによる光のシャワーを浴びたいなどと期待して出かけると、どこか拍子抜けする感は拭えません。率直に申し上げて、量の面では不満が残りました。



とは言え、今展覧会のためにつくられた超大作「HOTO」は、一見の価値のある見事な作品です。縦5メートル50センチ、周回は2メートルほどあるという、宮島によれば仏塔をイメージした全面ガラス張りの巨大オブジェが、埋め込まれた大小様々の3827個にも及ぶLEDを瞬かせて静かに起立しています。そもそもこの作品は、水戸芸の最大の展示スペースに合わせて造られていますが、塔というよりもまるで須弥山石を見るかのような重厚感と、暗室を照らすLEDの眩いばかりの煌めきは、これまでの宮島のミニマル的な作品には見出しにくい、例えば祭祀のために使われるシンボルのようなオブジェとしての存在感が際立っていました。また上部の蛍光灯は万物を見渡す後光のように強く光り、反面でのカウンターは個々の命を照らす炎のように小さく点滅しています。そうした意味でも、確かに「人間の命の大きさと輝き」(キャプションより。)という、どこか宗教的なイメージを連想させる作品です。

また、「HOTO」ともう一点のLED作品、「C.T.C.S.with You」でも使われた素材の『鏡』も、この展覧会で見る特徴の一つかもしれません。当然ながら両者とも作品へ自分自身がうつり込みますが、作品を見ている自分を意識しながら、それ相互の関係を揺さぶるような感覚は、かつての旧作、例えば今出品作の「Death of Time」などではあまり見られない要素のように思えます。「Death of Time」では、LEDの灯火もそれを見やる自分も全てが闇に溶け合って一つになるのに対し、「HOTO」では逆に闇を遮るものとしてのLEDや自分の存在を強く確認することになるわけです。闇という全体に包まれていく一種の連帯感と、またうつり込むことで作品の中へ入るそれとが、全く正反対の表現にて実現している、と言えるような気もしました。



LEDの他には、宮島のライフワークでもあり、またこの展示のコンセプトの一つでもある『平和』を意識した作品が目立っています。入口正面の壁面に直接描かれたドローイング、「peace in You」の意味するところは不明ですが、広島や沖縄の平和記念公園などを舞台にしたワークショップに由来する写真「Counter Skin」などは、そのメッセージ性が前面に押し出ている作品と捉えて間違いありません。しかしながら冒頭の旧作「Death of Time」自体も、そもそもはヒロシマに捧げられた経緯を持つ作品です。とすると、今展覧会は、あくまでも元来より訴えていた宮島の思想が、より形となって顕在化したということなのかもしれません。

「宮島達男 Art in You/エスクアイア マガジン ジャパン」

ミニマルな美感を放つデジタルカウンターの宮島しか知らない私にとっては、今回の展示の強いメッセージ性はある意味でとても新鮮に感じられました。それに共鳴するかはさて置くとしても、最近は殊にパブリックアート的な仕事の目立つ宮島の、創作の根源的な意味を改めて提示した展覧会だったのではないでしょうか。

5月11日までの開催です。(「HOTO」写真は、宮島達男展公式ブログより転載。)

*関連エントリ
笠間、水戸、アートミニ紀行 2008/4
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