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マンガミュージアムへ訪れるのは2014年に開催された『青池保子 華麗なる原画の世界~「エロイカ」から「ファルコ」まで~』以来となりますが、今回の展示会も“よくぞ山岸凉子をやってくれた!”と開催決定からずっと楽しみにしていた展示会でした。
山岸凉子さんの作品はバレリーナ物の「アラベスク」と「舞姫 テレプシコーラ」以外はほぼ購入して愛読していた大ファンなんですが、何といっても「日出処天子」は衝撃の作品でした。
当時連載されていた「月間LaLa」の発売日には本屋へ駆けつけて購入して何度も読み返していた記憶があります。いつもいいところで話が終わってしまうのですが、LaLaは月刊誌でしたから発売日を待つ1ヶ月の日々の何と長かったことか。
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タイトルに「変容」と付いている通り、展示会は山岸凉子の年代ごとのメタモルフォーゼ(変容)がひと目で分かるように14のコーナーで構成されていました。
ミュージアムの入口の等身大の厩戸皇子が置かれてあり、気の早い当方の心はその時点すでに飛鳥時代へ飛んでいってしまいます。
『1.マンガ家デビューと初期作品』
『2.大ヒット作「アラベスク」の誕生』
『3.「アラベスク第2部」の連載』
初期の作品は当時よくあった少女漫画の画風(目がやたらと大きい丸顔)でしたが、少し進むと山岸色の強い絵柄のものが伺われるようになっていました。
絵柄はファンの望むような絵と自分の書きたい絵柄との折衷の絵だったようなことが書かれてあり、描く絵に対する葛藤があったことも伺われます。
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『4.短編・口絵名作選 1973-1979』
『5.「花とゆめ」「LaLa」:の創刊』
『6.「ASUKA」での仕事 円熟期』
1976年頃からの作品からが当方の読んだ作品になりますが、この頃から“人魚やメデゥサ”などの西洋の神話の世界を題材にしたものや、純日本的な題材を使った作品が主流になってきます。
共通するものの一つとして“後天的に精神の偏りを持った人(例えば親の異常な溺愛による精神的な偏り、思い込みが偏執的に強すぎることによる精神的な偏り”を持った人物が主人公として創造的な絵の構成と精密な心理描写の中で描かれ、独特の山岸ワールドの作風に魅了されます。
特にASUKA連載の作品(「わたしの人形はよい人形」など)は“日本の神話・民俗信仰に加えて「霊的な題材」”が増えてきて、夜に読むとゾッとしていまい一人でトイレに行けなくなるほど怖い!
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ポストカード
『7.代表作「日出処天子」誕生』
超一流と呼ばれる作家は時に神がかり的な作品を書かれることがありますが、天才・山岸凉子にしてこの「日出処天子」はまさに神がかり的な作品といえるのではないでしょうか。
題名のごとく厩戸皇子(聖徳太子)と蘇我一族(馬子・蝦夷・入鹿)を中心とした大河ドラマの設定ですが、超能力・同性愛・近親相姦・実母への憎悪などのおどろおどろした描写と並行して、各人の愛情物語が描かれているにも関わらず平穏に愛を成就できた人は誰も出ては来ないのです。
仏教伝来の時代に崇仏派であった蘇我氏との血縁関係のあった厩戸皇子ですから、仏が出てくるシーンも何度かありますが、登場する仏は何も語らず、そもそも厩戸皇子が仏を信じているのかどうかも怪しい。
しかし、仏を連想させるかのような厩戸皇子の姿はあまりに神々しくも美しく孤独です。
蝦夷への叶うことのない愛と嫉妬心に身を焦がしながら、最後は愛されることのなかった実母によく似た目をした幼妻と暮らすことになります。
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ポストカード
『8.モノクロームの美しさ』
『9.短編名作選 1981-1998』
『10.様々な題材を描いて』
山岸漫画に登場する人物(主役級)は細身で繊細なイメージが強かったのですが、この時期以降の山岸作品には「ヤマトタケル」のような力強い人物が主役となったり、ツタンカーメン・巫女、障害を持ちながらも不思議な力を持つ人の話が出てきます。
古代エジプト・日本的で民族的な話などにメタモルフォーゼ(変容)しながらも山岸作品の根底にある物語には一貫性があると思います。
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ポストカード
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ポストカード
『11.エッセイマンガ&ふろく』
『12.女性を描く』
『13.テレプシコーラ-舞姫-』
少女漫画家の方って自画のイラストを書くと、ホントは美形の方なのにコミカルな自画を描かれる方が多いですね。
大島弓子さんも自画を“モジャ・オバサン”みたいに描かれますが、山岸凉子さんも自画は“ロンパリのズッコケおばさん”のように描かれます。厩戸皇子を描く人と同じ手によって描かれているのですから面白いものですね。
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『14.2000年代の作品』
山岸さんは現在、モーニング誌上で「レベレーション-啓示-」というジャンヌダルクを主人公とした漫画を連載されています。
コミックとしてはまだ2巻までしか出ていませんので話はこれからといった感がありますが、主人公のジャンヌダルクが厩戸皇子を連想させるような顔(目)をしており、イングランドとの戦争の中で超常現象を起こしていく話になるようですので楽しみな作品です。
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京都国際マンガミュージアムは今年度から荒俣宏さんが館長となられたそうです。
荒俣宏さんも10代の頃からのファンでしたので、マンガミュージアムにも一層の愛着が湧きます。
「帝都大戦」で一般的に認知される以前の著作は、専門的な内容の本が多く、当方の頭では理解困難で読了することが苦行に思えるような本でした。
その頃は“これは読んでおかないといけない”などという妙な意識を持っていて、必死になって読んでいた記憶があります。
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最後に我が家の球体関節人形で厩戸皇子(顔はカスタム)です。
妻が当方の熱い要望に答えて作ってくれた球体関節人形の「日出処天子」厩戸皇子バージョンで、“ボークスSDの13少年“にカスタムのヘッドを組み合わせて衣装を作製しています。
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でもこの厩戸皇子は永遠の未完成品です。