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朝は雨がシトシトと降っていましたので人の出は少ないだろうと思っていたにも関わらず、駐車場は満車に近い状態で境内入り口の土産物屋付近にも人の数は多い。
やはり早く紅葉を楽しみたいと思っている人は多いのでしょうね。
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楓はまだ青々した葉のものが多いとはいえ、一部の楓は真っ赤に色づいています。
葉が真っ赤に染まる楓は、橙や黄色の楓に比べると色付きの時期が早いのかもしれません。
まず「名勝 永源寺楓林」と彫られた石標を横目にして石段を登っていきます。
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永源寺は臨済宗永源寺派の本山で、1361年に近江国守護・佐々木氏頼が寂室元光禅師(正燈国師)を開山として開いたのに始まるとされます。
開山後は二千人余りの修行僧が集まり、五十六坊もの末庵を有したとされますが、明応(1492年)永禄(1563年)の戦乱によって寺運は衰退していったようです。
江戸中期になって東福門院(徳川和子)や彦根藩(井伊家)の帰依を受けて再興され、現在は山間の山村にある静かな修行道場といった感じの寺院となっています。
臨済宗の本山の一つとして寺名は有名ですが、一般的には紅葉の名所として親しまれている寺院かと思います。
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最初に羅漢坂の石段を登ることとなり、途中には十六羅漢の石像が並んでいます。
羅漢は仏道修行者ですから、厳しい表情をしていることが多いのですが、ここの羅漢は気持ちよさそうに笑っているのが印象的です。
我々もこんな風に笑って過ごしたいものですね。
寺院は縦長な伽藍配置で愛知川に沿うように配置され、紅葉している楓の下に愛知川が流れているのが見えます。
鈴鹿山系から流れてくるこの川の上流には永源寺ダムがありますが、ダムがあるにも関わらず非常に水量豊かな河川のようです。
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愛知川から鴨の声が聞こえてきたので見てみると、どうやらマガモのようです。
すると横から何とも怪しいやつが1羽泳いできましたよ。
裸眼では見えないのでコンデジのズームで見てみると、あっオシドリや!
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愛知川にオシドリが飛来するのは知ってはいましたが、こんなところで出会うとは...。
寺院参拝ですからデジイチも望遠レンズも持ってきていないため、コンデジの証拠写真ですがこれは嬉しい。
周辺を見ていると岩の上にもオシドリが5羽(♂4♀1)。
少し離れたところにも数羽のオシドリの姿がありましたが、これだけの数のオシドリが揃っているのを見るのは数年ぶりです。
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横からもう1羽泳いできたやつを撮り、キリがないのでこれで終了。
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さて寺院へはまず総門で参拝志納料を納めて入山します。
永源寺へ参拝するのは2回目になりますが、前回は早く着き過ぎてここで開門時間を待っていたことが思い起こされます。
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重要文化財の三門は彦根・井伊藩の援助を受け、7年の歳月をかけて1802年に完工した建築物とされます。
楼上に釈迦牟尼佛・文殊菩薩・普賢菩薩並びに十六羅漢が奉安されており、秋の特別拝観(11/10~)では三門楼上の特別見学が開催されるようです。
まだこの辺りは紅葉が進んでいませんね。
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本堂は1361年に創建されたものの、兵火や火災により焼失していたものを、1765年に井伊家の援助により再建されたとされます。
この本堂の外観では茅葺き屋根の立派さが目を引き、重厚ながらもよく整備されている茅葺き屋根です。
本堂では今年発見された井伊直滋(彦根藩二代藩主 井伊直孝の長男)の甲冑が公開されていました。
この直滋という人、徳川将軍・家光に取り立てられ井伊家の世継ぎとされている人物でしたが、直孝との不仲によって晩年は湖東三山の百済寺で生涯を閉じたと伝わります。
寺院の入り口近くには彦根藩四代藩主 井伊直興公の墓所もありますので、井伊家とは縁の深い寺院だったのでしょう。
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法堂では「竹燈籠 癒しの灯り」というイベントが行われており、須弥壇に並ぶ三尊の前に竹燈籠が飾られていました。
堂内で三尊を照らすように燈籠の灯火がぼんやりと光っているさまは、とても幻想的でうっとりとしながらも穏やかな気持ちとなれます。
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さて紅葉の方は一部見頃になってきているものがありましたので写真を撮ってみました。
ようやく雨は上がってきたものの、紅葉撮影にはいかにも光量不足ですね。
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三門の辺りはまだ青々としていた楓は、寺院の境内の一番奥の辺りまでくると紅葉の度合いが増してきます。
後方の山には赤い楓の他にも、橙や黄色の紅葉が見られるためグラディエーションらしい雰囲気は楽しめます。
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ところで、紅葉の季節の永源寺では各種の期間イベントが開催されていますので、昼時だったこともあって立ち寄ってみます。
紅葉の期間だけ開店されている「音無瀬(おとなせ)」という麺処では、修行僧(雲水)の方が店の切り盛りや調理をされていました。
今、何人くらい修行されているのかと聞いてみたところ、10人ほどということでしたが、将来和尚を務める末寺の息子さんたちなのかもしれません。
かけ蕎麦を注文して、ふと横を見ると美味しそうなものがあります。
さっそく「ふろふき大根」を注文して、食べてみると冷えた体がじんわりと温まっていくのが心地よい。
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お腹が膨れたあとは甘いものということで、こちらも特別公開の「含空院庭園」に面した「標月亭お抹茶席」へと入ります。
歴代住職の住居である「含空院(がんくういん)」の前庭を客殿から眺めながら、ゆったりとした時間を過ごします。
面白いのはお茶菓子にコンニャクが付いてきたことでしょうか。
永源寺周辺は「永源寺こんにゃく」が名産になっていますが、普段食べているこんにゃくとは随分と食感が違います。
すべすべ・ツルツルというよりも、ザラザラとした舌触りで手造り感があり、煮込むとよく味が染み込みそうです。
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この日は紅葉狩りがメインでしたので、いつもとは少し違った感覚での寺院参拝でしたが、心休まる参拝になりました。
帰り道に金剛輪寺の近くにある「愛荘町立歴史文化博物館」で開催されている「至高の刺繍絵画展」に立ち寄りました。
長さ2~3m・幅1.5~2mの大きな刺繍絵画は、明治になって精密で写実的な意匠へと変わり、海外への輸出品として発展していったようです。
図案の面白いものもありましたが、これだけのものを精巧に縫って造る技術の高さには驚くほかありません。
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