アート作品と歴史的な建築物とのコラボレーションが実現したのが、長浜「慶雲館」で開催された早川鉄平さんの「切り絵の世界✖慶雲館」でした。
早川さんは、これまでにも寺院の障子画を描かれたり、大自然の中でのインスタレーションでの展示を実現されてこられた方で、自分の世界観を見事に表現されている方だと思います。
フリーカメラマンだった早川鉄平さんは、撮影アシスタントとして撮影に訪れた冬の米原に感銘を受け、募集されていた米原市の「地域おこし協力隊」に応募して、奥伊吹に移住されたといいます。
自然や動物や伊吹山のまつわる伝説をテーマにされることが多く、自然に恵まれた奥伊吹での生活の中で出逢う自然や動物の生き生きとして生きる姿が、作品に映し出されているのが伝わります。
何かのインタビューで早川さんの奥さんが移住される前に“奥伊吹では「信号機まで車で15分かかる」と聞かされた。”という記事がありました。
実際にその通りの地域で信号機よりも道祖神の方が多く、冬の雪道は雪深い地域ということもあって、慣れていないとかなり怖い。
早川さんが移住されたという集落に、別の目的で訪れたことがありますが、自然が多いのはもちろんのこと土地の伝統や文化が特徴的な集落だったことを記憶しています。
また、道を聞いた地元の方には丁寧に道を教えて頂いた上に、車では入れないからうちの家に車を停めておくといい、と親切な対応をして頂いたことが記憶にあり、いい印象を感じた集落でした。
会場となっている「慶雲館」は、1887年(明治20年)に明治天皇の行幸のために建てられた迎賓館で、毎年「長浜盆梅展」が開催されることで有名な建築物です。
前庭・玄関前庭・池泉回遊式の本庭と前後を庭に挟まれ、大灯籠や手水や石塔など配置された石は全てが大きい。
表門から入った瞬間から展示は始まり、前庭にはオブジェの動物たちがすっかりと融け込んでいます。
前庭にある木の横で立ち上がっているのはツキノワグマ。
中門の前を横切るのはホンドキツネでしょうか。道を進むのが楽しみになりますね。
慶雲館の本館に入ると、盆梅展の時とは室内の雰囲気が随分と違うのに驚きます。
盆梅展では室内の老木を鑑賞しますが、今回は本庭を望む縁側の長押(なげし)の横木にずらりと切り絵作品の原画が並んでいます。
熊を中心にして、亀・ペリカンのような鳥・虎・尾びれのあるのは鯨?
伊吹山の風景というよりも南国的な印象を受ける作品です。
同じく摺りガラスに挟まれているのは「牛」と「虎」。
体の部分に鳥や猿や鹿の姿が見えますね。
空を飛んでいるのはカモの姿。
マガモ?カルガモ?繊細で綺麗な作品ばかりで、どの切り絵にも魅入ってしまいます。
エンブレムのようなデザインの雄鹿の切り絵の後方には、本庭をうろつく動物たちの姿も見えます。
お盆の期間3日間だけ、夜間入館が行われますが、夜の本庭はどんなライトアップとなるのでしょう。
大広間の最奥の「床の間」には、床の間に納まりきらないビッグイサイズの熊がこちらを見つめています。
新館にはさらに巨大な象の切り絵もあり、繊細な作品と大きな作品の対比も面白い。
近代日本庭園の先駆者とされる7代目小川治兵衛の作庭による池泉回遊式庭園の本庭は回遊可能なので、酷暑の中だが歩いてみる。
本庭を歩くと、あちこちに動物たちの姿が見えてきて、伝統的な日本庭園と切り絵の動物たちのオブジェとの違和感にワクワクとした気分になる。
猿に関してはリアリティがあって、山の麓の集落などでは、こんな姿を見かけることが多い。
湖北に住む動物たちの主な連中には、ほぼ出会っていることもあって、初めて出会った時の感動を思い出しながら庭園を歩きます。
慶雲館には明治の雰囲気が色濃い本館と、長浜盆梅展などでも使われる新館があり、照明の調整の出来る新館では、光に映し出された幻想的な切り絵の世界が広がります。
日本庭園に置かれた切り絵の動物たちのオブジェ・明治の迎賓館の客間に吊り下げられた切り絵・ライトアップされた「行燈」の美しい光景。
いろいろな世界観が一同に会して見られる工夫が凝らしてあります。
屏風の虎は、客間に吊られていた原画を大きくしたものでしょうか。
原画で見るのと、ライトアップされたものを見るのでは印象が随分と変わります。
ツキノワグマの行燈も、出逢うと怖い熊ながら、愛嬌が感じられる表情が愛らしい。
ところで、慶雲館の正門を出て道を挟んで建つのは「旧長浜駅舎」のレトロな洋館の旧長浜駅舎。
旧長浜駅舎は、北陸線の始発駅として1882年に福井県敦賀駅までの区間が開通され、1883年には長浜~関ケ原間が開通したとされます。
当時の運賃はかなり高かった(一升瓶の日本酒5本分に相当)にも関わらず、陸蒸気に乗りたい人などが大勢訪れ、駅前は旅人宿やカフェ・料理屋など活気にあふれていたようです。
1889年の東海道線の開通によって米原駅が建設されてからは、米原駅が東・南・北を結ぶキーステーションとなり、長浜駅は北陸線のローカル駅となりました。
北陸線の直流化によって新快速電車が乗り入れを開始し、長浜駅が琵琶湖線に加えられたのは1991年のこと。
衰退していっていた長浜が、その頃から観光地化していき、町に活気が戻ってきたという言い方も出来ます。
駅舎に入ると目に飛び込んでくるのが親子の蝋人形。
三等車の乗客らしい親子と、ビロード張りの長椅子に座る一等車の乗客とは随分と身なりが違います。
尻っぱしょりに脚絆姿の親子は、敦賀から来た、あるいは敦賀へ行く行商人でしょうか。
スーツに紳士帽の家族は、上流家庭の方でしょうね。
「旧長浜駅舎」が「長浜鉄道スクエア」へと呼び名が変わったのは、2000年に「長浜鉄道文化館」が開館し、2003年に「北陸線電化記念館」が開館した時に、3施設の総称となってからだそうです。
令和2年6月には、長浜市・敦賀市・南越前町と連携した「海を越えた鉄道 ~世界へつながる 鉄路のキセキ~」が日本遺産に認定されています。
「長浜鉄道スクエア」では日本遺産の認定を記念してミニタオルとポニーのクリアファイルの配布があり、入館料が割引だったのも嬉しい。
また、「長浜鉄道文化館」では早世された鉄道写真家・清水薫さんの追悼写真展「滋賀・琵琶湖を巡る鉄道風景」が開催されていました。
キャプションには“○○駅~○○駅”といった具合に場所が書かれてありましたが、そんな場所があるのか?と思うほど自然物や人工物をうまく取り入れた絶妙な鉄道写真ばかりでした。
清水薫さんは、大学卒業後に大手電機メーカーの技術者をされていたものの、鉄道写真への思いが立ち切れず、31歳の時に退職して鉄道カメラマンとしてのキャリアをスタートされたようです。
生計が立てられなかった時期もあったようですが、2001年以降は高い評価とともに仕事が増えていったといいます。
鉄道写真ってあるレベルの人が撮ったら同じになりそうなのですが、そうはならず撮る人の個性や想いが強く出るように思います。
場所・季節・光・人などの全ての条件が揃った一瞬の時を切り取られる鉄道カメラマンの方々は凄い人達だと改めて思い知らされました。
「長浜鉄道文化館」でD51を眺めていた時、踏み切りの警報が鳴りだしたのに気付く。
せっかくなのであたふたと展望台に登って、特急しらさぎを撮ってみましたが、情けなくもしょぼい写真にしかなりませんでした。
まぁ素人なんでこんなもんだわと思うしかありませんね。
追記:8月11日の朝日新聞に早川鉄平さんの切り絵展のことが紹介されており、年明けの「長浜盆梅展」でのコラボレーションがすでに決まっているとのこと。
今回はプレイベントということで、盆梅展がどんなコラボになるのか全く予想ができませんが、興味深い企画展になりそうです。
早川さんは、これまでにも寺院の障子画を描かれたり、大自然の中でのインスタレーションでの展示を実現されてこられた方で、自分の世界観を見事に表現されている方だと思います。
フリーカメラマンだった早川鉄平さんは、撮影アシスタントとして撮影に訪れた冬の米原に感銘を受け、募集されていた米原市の「地域おこし協力隊」に応募して、奥伊吹に移住されたといいます。
自然や動物や伊吹山のまつわる伝説をテーマにされることが多く、自然に恵まれた奥伊吹での生活の中で出逢う自然や動物の生き生きとして生きる姿が、作品に映し出されているのが伝わります。
何かのインタビューで早川さんの奥さんが移住される前に“奥伊吹では「信号機まで車で15分かかる」と聞かされた。”という記事がありました。
実際にその通りの地域で信号機よりも道祖神の方が多く、冬の雪道は雪深い地域ということもあって、慣れていないとかなり怖い。
早川さんが移住されたという集落に、別の目的で訪れたことがありますが、自然が多いのはもちろんのこと土地の伝統や文化が特徴的な集落だったことを記憶しています。
また、道を聞いた地元の方には丁寧に道を教えて頂いた上に、車では入れないからうちの家に車を停めておくといい、と親切な対応をして頂いたことが記憶にあり、いい印象を感じた集落でした。
会場となっている「慶雲館」は、1887年(明治20年)に明治天皇の行幸のために建てられた迎賓館で、毎年「長浜盆梅展」が開催されることで有名な建築物です。
前庭・玄関前庭・池泉回遊式の本庭と前後を庭に挟まれ、大灯籠や手水や石塔など配置された石は全てが大きい。
表門から入った瞬間から展示は始まり、前庭にはオブジェの動物たちがすっかりと融け込んでいます。
前庭にある木の横で立ち上がっているのはツキノワグマ。
中門の前を横切るのはホンドキツネでしょうか。道を進むのが楽しみになりますね。
慶雲館の本館に入ると、盆梅展の時とは室内の雰囲気が随分と違うのに驚きます。
盆梅展では室内の老木を鑑賞しますが、今回は本庭を望む縁側の長押(なげし)の横木にずらりと切り絵作品の原画が並んでいます。
熊を中心にして、亀・ペリカンのような鳥・虎・尾びれのあるのは鯨?
伊吹山の風景というよりも南国的な印象を受ける作品です。
同じく摺りガラスに挟まれているのは「牛」と「虎」。
体の部分に鳥や猿や鹿の姿が見えますね。
空を飛んでいるのはカモの姿。
マガモ?カルガモ?繊細で綺麗な作品ばかりで、どの切り絵にも魅入ってしまいます。
エンブレムのようなデザインの雄鹿の切り絵の後方には、本庭をうろつく動物たちの姿も見えます。
お盆の期間3日間だけ、夜間入館が行われますが、夜の本庭はどんなライトアップとなるのでしょう。
大広間の最奥の「床の間」には、床の間に納まりきらないビッグイサイズの熊がこちらを見つめています。
新館にはさらに巨大な象の切り絵もあり、繊細な作品と大きな作品の対比も面白い。
近代日本庭園の先駆者とされる7代目小川治兵衛の作庭による池泉回遊式庭園の本庭は回遊可能なので、酷暑の中だが歩いてみる。
本庭を歩くと、あちこちに動物たちの姿が見えてきて、伝統的な日本庭園と切り絵の動物たちのオブジェとの違和感にワクワクとした気分になる。
猿に関してはリアリティがあって、山の麓の集落などでは、こんな姿を見かけることが多い。
湖北に住む動物たちの主な連中には、ほぼ出会っていることもあって、初めて出会った時の感動を思い出しながら庭園を歩きます。
慶雲館には明治の雰囲気が色濃い本館と、長浜盆梅展などでも使われる新館があり、照明の調整の出来る新館では、光に映し出された幻想的な切り絵の世界が広がります。
日本庭園に置かれた切り絵の動物たちのオブジェ・明治の迎賓館の客間に吊り下げられた切り絵・ライトアップされた「行燈」の美しい光景。
いろいろな世界観が一同に会して見られる工夫が凝らしてあります。
屏風の虎は、客間に吊られていた原画を大きくしたものでしょうか。
原画で見るのと、ライトアップされたものを見るのでは印象が随分と変わります。
ツキノワグマの行燈も、出逢うと怖い熊ながら、愛嬌が感じられる表情が愛らしい。
ところで、慶雲館の正門を出て道を挟んで建つのは「旧長浜駅舎」のレトロな洋館の旧長浜駅舎。
旧長浜駅舎は、北陸線の始発駅として1882年に福井県敦賀駅までの区間が開通され、1883年には長浜~関ケ原間が開通したとされます。
当時の運賃はかなり高かった(一升瓶の日本酒5本分に相当)にも関わらず、陸蒸気に乗りたい人などが大勢訪れ、駅前は旅人宿やカフェ・料理屋など活気にあふれていたようです。
1889年の東海道線の開通によって米原駅が建設されてからは、米原駅が東・南・北を結ぶキーステーションとなり、長浜駅は北陸線のローカル駅となりました。
北陸線の直流化によって新快速電車が乗り入れを開始し、長浜駅が琵琶湖線に加えられたのは1991年のこと。
衰退していっていた長浜が、その頃から観光地化していき、町に活気が戻ってきたという言い方も出来ます。
駅舎に入ると目に飛び込んでくるのが親子の蝋人形。
三等車の乗客らしい親子と、ビロード張りの長椅子に座る一等車の乗客とは随分と身なりが違います。
尻っぱしょりに脚絆姿の親子は、敦賀から来た、あるいは敦賀へ行く行商人でしょうか。
スーツに紳士帽の家族は、上流家庭の方でしょうね。
「旧長浜駅舎」が「長浜鉄道スクエア」へと呼び名が変わったのは、2000年に「長浜鉄道文化館」が開館し、2003年に「北陸線電化記念館」が開館した時に、3施設の総称となってからだそうです。
令和2年6月には、長浜市・敦賀市・南越前町と連携した「海を越えた鉄道 ~世界へつながる 鉄路のキセキ~」が日本遺産に認定されています。
「長浜鉄道スクエア」では日本遺産の認定を記念してミニタオルとポニーのクリアファイルの配布があり、入館料が割引だったのも嬉しい。
また、「長浜鉄道文化館」では早世された鉄道写真家・清水薫さんの追悼写真展「滋賀・琵琶湖を巡る鉄道風景」が開催されていました。
キャプションには“○○駅~○○駅”といった具合に場所が書かれてありましたが、そんな場所があるのか?と思うほど自然物や人工物をうまく取り入れた絶妙な鉄道写真ばかりでした。
清水薫さんは、大学卒業後に大手電機メーカーの技術者をされていたものの、鉄道写真への思いが立ち切れず、31歳の時に退職して鉄道カメラマンとしてのキャリアをスタートされたようです。
生計が立てられなかった時期もあったようですが、2001年以降は高い評価とともに仕事が増えていったといいます。
鉄道写真ってあるレベルの人が撮ったら同じになりそうなのですが、そうはならず撮る人の個性や想いが強く出るように思います。
場所・季節・光・人などの全ての条件が揃った一瞬の時を切り取られる鉄道カメラマンの方々は凄い人達だと改めて思い知らされました。
「長浜鉄道文化館」でD51を眺めていた時、踏み切りの警報が鳴りだしたのに気付く。
せっかくなのであたふたと展望台に登って、特急しらさぎを撮ってみましたが、情けなくもしょぼい写真にしかなりませんでした。
まぁ素人なんでこんなもんだわと思うしかありませんね。
追記:8月11日の朝日新聞に早川鉄平さんの切り絵展のことが紹介されており、年明けの「長浜盆梅展」でのコラボレーションがすでに決まっているとのこと。
今回はプレイベントということで、盆梅展がどんなコラボになるのか全く予想ができませんが、興味深い企画展になりそうです。